【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔製造例1〕
脂環構造含有重合体として、ゼオネックス(登録商標)790R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物;以下、単に「790R」という)を用いて、射出形成法により、直径35mmのシャーレ状の培養容器を得、次いで、エチレンオキサイド滅菌処理を行った。以下、この培養容器を「790R製容器」という。
【0038】
〔製造例2〕
製造例1において、790Rに代えて、ゼオノア(登録商標)1430R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物;以下、単に「1430R」という)を使用したことを除き、製造例1と同様にして培養容器を得た。以下、この培養容器を「1430R製容器」という。
【0039】
〔製造例3〕
製造例1において、790Rに代えて、ゼオノア(登録商標)1060R(日本ゼオン社製、ノルボルネン系開環重合体水素化物;以下、単に「1060R」という)を使用したことを除き、製造例1と同様にして培養容器を得た。以下、この培養容器を「1060R製容器」という。
【0040】
〔製造例4〕
接着型細胞の接着が容易になるように、以下のように、プラズマ照射を行い、表面の親水化処理を施した培養容器を作製した。
まず、790Rを用いて、射出形成法により、直径35mmのシャーレ状の培養容器を得た後、プラズマ照射を行い、容器表面に親水化処理を施した。次いで、このものにエチレンオキサイド滅菌処理を行った。以下、この培養容器を「表面親水化790R製容器」という。
【0041】
〔製造例5〕
製造例4において、790Rに代えて、1430Rを使用したことを除き、製造例4と同様にして培養容器を得た。以下、この培養容器を「表面親水化1430R製容器」という。
【0042】
〔実施例1〕
培地2mlを入れた790R製容器に、CHO細胞を細胞密度1.25×10
4cells/cm
2で播種し、温度37℃、CO
2濃度5%に設定したCO
2インキュベータに入れ、5日間培養を行った後、後述する方法によりERKのリン酸化の分析を行った。
【0043】
〔実施例2〕
実施例1において、790R製容器に代えて、1430R製容器を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0044】
〔実施例3〕
実施例1において、790R製容器に代えて、表面親水化790R製容器を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0045】
〔実施例4〕
実施例1において、790R製容器に代えて、表面親水化1430R製容器を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0046】
〔比較例1〕
実施例1において、790R製容器に代えて、市販の親水化処理済みポリスチレン製ディッシュ〔ファルコン(登録商標)ディッシュ(ベクトンデッキンソン社製、型番353001)〕(以下、「ポリスチレン製容器」と称する)を使用したことを除き、実施例1と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0047】
(ERKのリン酸化の分析)
790R製容器から回収した細胞試料に、タンパク質変性作用のあるSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む電気泳動用緩衝液を添加して、100℃で5分間加温処理して、細胞試料を溶解させた。これを4℃で5分間静置し、続いて、遠心処理を行い、不溶物を沈殿除去して、電気泳動用試料を調製した。
同様に、1430R製容器、表面親水化790R製容器、表面親水化1430R製容器、及びポリスチレン製容器で培養した細胞を用いて、それぞれ電気泳動用試料を調製した。
電気泳動用試料は、いずれも2つずつ用意した。
得られた各電気泳動用試料を、プレキャストゲル(ナカライテスク社製)の泳動サンプルコームにアプライして電圧印加し、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。
【0048】
次いで、電気泳動操作したアクリルアミドゲルを取り出して、ウェスタンブロティング用転写装置(日本エイドー社製)を用いて、アクリルアミドゲル中に泳動展開したタンパク質をニトロセルロース膜(CST社製)に転写した。
転写後のニトロセルロース膜に対して、最終濃度0.05%のTween(登録商標)20を含有するTrisリン酸緩衝液(以下、「緩衝液TBS−T」という)にスキムミルクを含有させたブロッキング溶液に浸し、室温で1時間振とうすることで、ニトロセルロース膜面のブロッキング処理を行った。続いて、緩衝液TBS−Tに5分間浸漬してニトロセルロース膜を洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。
5%BSAを含む緩衝液TBS−Tに、1次抗体として、リン酸化の有無にかかわらずERK1及びERK2を特異的に検出する抗体である抗ERK抗体(CST社製)を添加した溶液を調製し、この溶液に、ニトロセルロース膜を16時間浸漬した。
同様に、5%BSAを含む緩衝液TBS−Tに、1次抗体として、リン酸化ERK1及びリン酸化ERK2を特異的に検出する抗体である抗リン酸化ERK抗体(CST社製)を添加した溶液を調製し、この溶液に、ニトロセルロース膜を16時間浸漬した。
【0049】
抗ERK抗体溶液に浸漬したニトロセルロース膜、及び抗リン酸化ERK抗体溶液に浸漬したニトロセルロース膜を、それぞれ緩衝液TBS−Tに5分間浸漬して洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。続いて、ニトロセルロース膜面上の1次抗体を検出するための2次抗体を含む5%BSAを含む緩衝液TBS−Tに、抗ERK抗体溶液に浸漬し洗浄したニトロセルロース膜、及び抗リン酸化ERK抗体溶液に浸漬し洗浄したニトロセルロース膜を浸漬して、室温で1時間振とう処理した。
振とう処理後、緩衝液TBS−Tに5分間浸漬して洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。
上記の膜を検出呈色試薬1−Step−Ultra TMB Blotting Solution(Pierce社製)に浸漬し、膜上で呈色反応を行わせることにより、ERK又はリン酸化ERKの免疫反応シグナルを検出した。
【0050】
免疫反応シグナルを呈色処理したニトロセルロース膜をデジタルカメラ(リコー社製)で撮影し、得られた画像を対象としてImageJを用いて、免疫反応のシグナル強度を数値化した。
ERKのリン酸化効果を比較するために、抗リン酸化ERK抗体の反応シグナル値を、抗ERK抗体の反応シグナル値(全ERK)で除して得られた値を、各容器について求めたうえで、比較対照のポリスチレン製容器での数値を基準(すなわち1)とした場合の、790R製容器、表面親水化790R製容器、1430R製容器、表面親水化1430R製容器での、それぞれの数値を求めた。
【0051】
図1に示すように、790R製容器及び1430R製容器で培養したCHO細胞内のERK−1のリン酸化活性化は、ポリスチレン製容器で培養したCHO細胞の4倍以上であり、細胞が脂環構造含有重合体と接触することによって、ERK−1のリン酸化が亢進することが示された。
790R製表面を親水化した表面親水化790R製容器と1430R製容器を親水化した表面親水化1430R製容器を用いた培養においても、ポリスチレン製容器を用いた培養に対して2倍のリン酸化亢進が見られた。
【0052】
ERK−2のリン酸化についても、
図2に示すように、790R製容器を用いたときは、ポリスチレン製容器を用いたときに対して4倍程度のリン酸化亢進が確認され、1430R製容器を用いたときは、5倍程度のリン酸化亢進が確認された。
また、表面親水化790R製容器、及び表面親水化1430R製容器を用いたときにおいても、ポリスチレン製容器を用いたときに対して2倍のERK−2のリン酸化亢進が見られた。
【0053】
〔実施例5〕
実施例1において、CHO細胞の代わりにVERO細胞を用いたことを除き、実施例1と同様にして790R製容器を用いて培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0054】
〔実施例6〕
実施例5において、790R製容器に代えて1430R製容器を用いたことを除き、実施例5と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0055】
〔比較例2〕
実施例5において、790R製容器に代えてポリスチレン製容器を用いたことを除き、実施例5と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0056】
図3に示されているように、790R製容器で培養したVERO細胞では、ポリスチレン製容器を用いたときに対して、約2倍のERK−1のリン酸化が亢進し、1430R製容器を用いたときは、約2倍以上のERK−1のリン酸化が亢進していることが確認された。
図4に示されているように、ERK−2のリン酸化に関しては、790R製容器又は1430R製容器を用いたときは、いずれも、ポリスチレン製容器を用いたときに対して1.5倍程度の亢進が見られた。
このように、CHO細胞と同様に、VERO細胞も脂環構造含有重合体と接触することによるERKのリン酸化の亢進効果が示された。
【0057】
〔実施例7〕
実施例1と同様の条件で細胞を培養した後、後述する方法によりAKTのリン酸化の分析を行った。
【0058】
〔実施例8〕
実施例7において、790R製容器に代えて1060R製容器を用いたことを除き、実施例7と同様にして培養を行い、AKTのリン酸化の分析を行った。
【0059】
〔比較例3〕
実施例7において、790R製容器に代えてポリスチレン製容器を用いたことを除き、実施例7と同様にして培養を行い、AKTのリン酸化の分析を行った。
【0060】
(AKTのリン酸化の分析)
先に示したERKのリン酸化の分析方法において、抗ERK抗体の代わりに、抗AKT抗体を、また、抗リン酸化ERK抗体の代わりに、抗リン酸化AKT抗体を用いたこと以外は、ERKのリン酸化の分析方法と同様の方法により、細胞内のAKTのリン酸化を分析した。
図5に示されているように、CHO細胞におけるAKTのリン酸化に関しては、790R製容器又は1060R製容器を用いたときは、いずれも、ポリスチレン製容器を用いたときに対して1.5倍程度の亢進が見られた。
【0061】
〔製造例6〕
内径20mm、厚み1mm、長さ18mmのパイレックス(登録商標)製ガラス筒の底面に、1430R製フィルムを加熱接着させ、このものにγ線滅菌処理を施し、培養カップを得た。このカップを「1430R製カップ」という。
〔製造例7〕
製造例6において、1430Rフィルムにあらかじめプラズマ処理を施したこと以外は、製造例6と同様にして表面親水化したカップを得た。このカップを、「表面親水化1430R製カップ」という。
【0062】
〔実施例9〕
1430R製カップに、培地〔Ham培地(ナカライ社製)に終濃度10%の牛胎児血清(Fetal Bovine Serum(FBS))を加えたもの〕を添加して、CHO細胞を細胞密度1.25×10
4cells/cm
2で播種し、温度37℃、CO
2濃度5%に設定したCO
2インキュベータに入れ、3週間培養した(繰り返し試料数N=3)。
3週間の培養後に、トリプシン処理により細胞を回収し、トリパンブルー(DSファーマ社製)を添加して死細胞を染色して、Thoma型血球計算板(エルマ社製、届出番号13B1X90004000005)を用いて、生細胞数を計数した。
【0063】
〔比較例4〕
実施例9において、培養容器として、ポリスチレン製の12ウェルプレートの各ウェル内に、内径20mm、厚み1mm、長さ18mmのパイレックス(登録商標)製ガラス筒(1430R製カップと同じサイズのガラス筒)を入れたもの(「ポリスチレン製プレート」という)を使用したことを除き、実施例9と同様にして培養し、生細胞数を計数した。
図6に示すように、ポリスチレン製プレートに比較して、1430R製カップは、約1.7倍の生細胞を維持する効果を有することが分かる。
【0064】
〔実施例10〕
実施例9において、CHO細胞に代えてVERO細胞を使用したことと、培地としてMEM培地(ナカライ社製)に終濃度10%の牛血清(Calf Serum(CS))を加えたものを用いたことを除き、実施例9と同様にして1430R製カップを用いて培養し、生細胞数を計数した。
【0065】
〔比較例5〕
実施例10において、1430R製カップに代えてポリスチレン製プレートを用いたことを除き、実施例10と同様にして培養し、生細胞数を計数した。
図7に示すように、CHO細胞と同様にVERO細胞に対しても、ポリスチレン製プレートに比較して、1430R製カップは、約1.7倍の生細胞を維持する効果を有することが分かる。
【0066】
〔実施例11〕
実施例9と同様にして1430R製カップを用いてCHO細胞を3週間培養した後、LDH測定キット(タカラバイオ社製)を用いて培養液中の乳酸デヒロドゲナーゼの酵素活性(LDH活性)を測定することにより、細胞内からの漏洩を調べた。
【0067】
〔実施例12〕
実施例11において、1430R製カップに代えて、表面親水化1430R製カップを用いたこと以外は、実施例11と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
【0068】
〔比較例6〕
実施例11において、1430R製カップに代えて、ポリスチレン製プレートを用いたこと以外は、実施例11と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
【0069】
ポリスチレン製プレートで3週間培養したときの培養液中のLDH活性を1とした場合の、1430R製カップ、及び表面親水化1430R製カップで、それぞれ3週間培養したときの培養液中のLDH活性を算出した。
図8に示すように、表面親水化1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも40%程度漏洩物が少なく、1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも60%程度漏洩物が少なかった。
【0070】
〔実施例13〕
実施例10と同様にして1430R製カップを用いてVERO細胞を3週間培養した後、LDH測定キット(タカラバイオ社製)を用いて、培養液中のLDHの酵素活性を測定することにより、細胞内からの漏洩を調べた。
〔実施例14〕
実施例13において、1430R製カップに代えて、表面親水化1430R製カップを用いたこと以外は、実施例13と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
【0071】
〔比較例7〕
実施例13において、1430R製カップに代えて、ポリスチレン製プレートを用いたこと以外は、実施例13と同様にして細胞を培養し、LDH活性を測定した。
【0072】
ポリスチレン製プレートで3週間培養したときの培養液中のLDH活性を1とした場合の、1430R製カップ、及び表面親水化1430R製カップで、それぞれ3週間培養したときの培養液中のLDH活性を算出した。
図9に示すように、VERO細胞においては、表面親水化1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも20%程度漏洩物が少なく、1430R製カップを用いたときは、ポリスチレン製プレートを用いたときよりも50%程度漏洩物が少なかった。
上記のように、細胞の種類によらず、脂環構造含有重合体成形体の細胞内容物の漏洩の抑制効果が確認された。
【0073】
〔実施例15〕
実施例2において、培養期間を2週間としたこと以外は、実施例2と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0074】
〔実施例16〕
製造例2において、EOG滅菌処理に代えて、γ線滅菌処理を施したこと以外は、製造例2と同様にして培養容器を得た。
この培養容器を用いたこと以外は、実施例15と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0075】
〔実施例17〕
製造例2において、EOG滅菌処理に代えて、蒸気滅菌処理を施したこと以外は、製造例2と同様にして培養容器を得た。
この培養容器を用いたこと以外は、実施例15と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0076】
〔比較例8〕
実施例15において、ベクトンデッキンソン製のFALCON容器(γ線滅菌済み)を用いたこと以外は、実施例15と同様にして培養を行い、ERKのリン酸化の分析を行った。
【0077】
ERKのリン酸化の分析は上記と同様にして行った。
比較対照のFALCON容器を用いたときのp44 ERK、及びp42 ERKの値を100とした相対値として、EOG滅菌処理容器、γ線滅菌処理容器、及び蒸気滅菌処理容器を用いたときの値をそれぞれ求め、p44の活性化の比較を
図10に、p42の活性化の比較を
図11に示した。
p44 ERKの活性化は、FALCON容器に比較して、1430製容器の方が高い。また、滅菌方法を比較すると、EOG滅菌処理が最も活性が高い結果であることが分かる(
図10)。
p42 ERKの活性化においても、FALCON容器に比較して、1430製容器の方が高い。また、滅菌方法を比較すると、EOG滅菌処理が最も活性が高い結果であることが分かる(
図11)。