特許第5958713号(P5958713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5958713ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958713
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20160719BHJP
   C08K 5/5317 20060101ALI20160719BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20160719BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08K5/5317
   !C08L101/16
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-536437(P2013-536437)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2012075122
(87)【国際公開番号】WO2013047766
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2011-217233(P2011-217233)
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 剛史
(72)【発明者】
【氏名】小高 一利
(72)【発明者】
【氏名】林 寿人
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雅昭
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−143978(JP,A)
【文献】 特開2010−142985(JP,A)
【文献】 特開2011−117109(JP,A)
【文献】 特開2011−038219(JP,A)
【文献】 特開2010−166900(JP,A)
【文献】 特開2009−179773(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/044471(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/04
101/16
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂と、式[1]で表されるフェニルホスホン酸化合物の金属塩とを含有するポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物であって、
前記金属塩がマグネシウム塩、カルシウム塩マンガン塩コバルト塩及び塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属塩であり、
前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂100質量部に対し、前記フェニルホスホン酸化合物の金属塩0.01〜10質量部を含有する、
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、又は炭素原子数2〜11のアルコキシカルボニル基を表す。)
【請求項2】
前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂が、3−ヒドロキシブチレートのホモポリマー、又は、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシノナノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシドデカノエート、3−ヒドロキシドデセノエート、3−ヒドロキシテトラデカノエート、3−ヒドロキシヘキサドデカノエート、3−ヒドロキシオクタドデカノエート及び4−ヒドロキシブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと3−ヒドロキシブチレートとのコポリマーである、請求項1に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂が、3−ヒドロキシブチレートのホモポリマー、又は、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロ
キシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート及び4−ヒドロキシブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと3−ヒドロキシブチレートとのコポリマーである、請求項2に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂が、3−ヒドロキシヘキサノエート及び4−ヒドロキシブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと3−ヒドロキシブチレートとのコポリマーである、請求項3に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物に関し、より詳細には、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂とフェニルホスホン酸化合物の金属塩とを含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境保護の見地から、自然環境中で生分解可能な脂肪族ポリエステルに関する研究が精力的に行われている。その中でも、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)(以下P3HAともいう)樹脂は微生物が生産するポリマーとして知られており、優れた生分解性を有することからも注目を集めている。また近年では、単に生分解性を有するだけではなく、大気中の二酸化炭素を減らす炭素固定材料として、長期に渡って利用されることも望まれている。しかし、P3HAは結晶化速度が遅いため成形加工時に溶融状態からの固化が遅く、生産性が低下してしまうことが指摘されている。
【0003】
このような問題を解決する方法としては、例えば結晶核剤を添加する方法が知られている。結晶核剤とは、結晶性高分子の一次結晶核となり結晶成長を促進し、その結果、結晶サイズを微細化すると共に、結晶化速度を高める働きをする。
P3HAの結晶核剤としては、タルク、窒化ホウ素、炭酸カルシウムなどの無機粒子(特許文献1)、特定式で示される糖アルコール化合物(特許文献2)、特定式で表されるアミノ酸(特許文献3)、特定式で示されるアミド化合物(特許文献4)、有機ホスホン酸もしくは有機ホスフィン酸又はそれらのエステル、金属塩あるいはそれら誘導体(特許文献5)などが開示されている。また特定の式で表されるフェニルホスホン酸亜鉛塩が有効であることも知られている(非特許文献1)。
これらの方法は、結晶化速度を速くし結晶化度を高めることが可能であるが、近年、より高い成形加工性や耐熱性を実現するために、さらに有効な結晶核剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−96849号公報
【特許文献2】国際公開2008/099586号パンフレット
【特許文献3】国際公開2009/113288号パンフレット
【特許文献4】特開2010−47732号公報
【特許文献5】特開平3−24151号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromol. Mater. Eng., 296, p103(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、P3HA樹脂成形物を高い生産性で製造し幅広い用途で利用するために、成形加工性や耐熱性を改善するのに有効な結晶核剤の開発が望まれている。
従って本発明の目的は、P3HA樹脂の結晶化を促進するのに好適な結晶核剤を添加したP3HA樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するべく鋭意検討を進めた結果、フェニルホスホン酸化合物のある種の金属塩が、P3HA樹脂の結晶化速度を飛躍的に高めることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、第1観点として、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂と、式[1]で表されるフェニルホスホン酸化合物の金属塩とを含有するポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物であって、前記金属塩が、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、銀塩、アルミニウム塩及びスズ塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属塩である、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物に関する。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、又は炭素原子数2〜11のアルコキシカルボニル基を表す。)
第2観点として、前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂が、3−ヒドロキシブチレートのホモポリマー、又は、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシノナノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシドデカノエート、3−ヒドロキシドデセノエート、3−ヒドロキシテトラデカノエート、3−ヒドロキシヘキサドデカノエート、3−ヒドロキシオクタドデカノエート及び4−ヒドロキシブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと3−ヒドロキシブチレートとのコポリマーである、第1観点に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物に関する。
第3観点として、前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂が、3−ヒドロキシブチレートのホモポリマー、又は、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート及び4−ヒドロキシブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーと3−ヒドロキシブチレートとのコポリマーである、第2観点に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物に関する。
第4観点として、前記金属塩が、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銀塩、アルミニウム塩及びスズ塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属塩である、第1観点乃至第3観点の何れか一項に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物に関する。
第5観点として、前記金属塩が、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、コバルト塩及び銀塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属塩である、第4観点に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物に関する。
第6観点として、前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂100質量部に対し、前記フェニルホスホン酸化合物の金属塩0.01〜10質量部を含有する、第1観点乃至第5観点の何れか一項に記載のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物は、特定のフェニルホスホン酸化合物金属塩を結晶核剤として用いることにより、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂の結晶化促進効果が向上されたものとなり、ひいては、耐熱性、成形加工性に優れたポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂>
本発明で用いられるP3HA樹脂は、P3HAのホモポリマー又はコポリマーを含む。また、P3HAのホモポリマー又はコポリマーを主体とした、他樹脂とのブレンドポリマーであっても良い。他樹脂とは、後述するP3HA樹脂以外の生分解性樹脂、汎用の合成樹脂、汎用の合成エンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。P3HA樹脂がコポリマーの場合、コポリマーの配列様式はランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーの何れであってもよい。
【0011】
これらP3HAのホモポリマー及びコポリマーを構成するモノマーとしては、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシノナノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシドデカノエート、3−ヒドロキシドデセノエート、3−ヒドロキシテトラデカノエート、3−ヒドロキシヘキサドデカノエート、3−ヒドロキシオクタドデカノエート等の3−ヒドロキシアルカノエートモノマーが挙げられる。
また、P3HAのコポリマーを構成するモノマーとしては、上記に加えて、4−ヒドロキシブチレート等の4−ヒドロキシアルカノエートモノマー、及びその他のヒドロキシアルカノエートモノマー等が挙げられる。
これらの中でも、3−ヒドロキシブチレートのホモポリマー(ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、PHBともいう)、及び3−ヒドロキシブチレートとその他の3−ヒドロキシアルカノエートモノマーとのコポリマー、或いは3−ヒドロキシブチレートと4−ヒドロキシアルカノエートモノマーとのコポリマーが好ましい。
【0012】
3−ヒドロキシブチレートとその他の3−ヒドロキシアルカノエートモノマー又は4−ヒドロキシアルカノエートモノマーとのコポリマーの中でも、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシプロピオネートとのコポリマー(ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシプロピオネート)))、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバレレートとのコポリマー(ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシバレレート))、PHBVともいう)、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシヘキサノエートとのコポリマー(ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート))、PHBHともいう)、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシヘプタノエートとのコポリマー(ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘプタノエート)))、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシオクタノエートとのコポリマー(ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシオクタノエート)))、3−ヒドロキシブチレートと4−ヒドロキシブチレートとのコポリマー(ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(4−ヒドロキシブチレート))、P3/4HBともいう)が好ましく、特にPHBV、PHBH及びP3/4HBが好ましい。
3−ヒドロキシブチレートとその他の3−ヒドロキシアルカノエートモノマー又は4−ヒドロキシアルカノエートモノマーとのコポリマーにおける3−ヒドロキシブチレートの組成比は樹脂としての柔軟性や強度等のバランスの観点から適宜選択され、例えば(3−ヒドロキシブチレート)/(その他の3−ヒドロキシアルカノエートモノマー又は4−ヒドロキシアルカノエートモノマー)のモル比率で99/1〜70/30(モル/モル)、好ましくは98/2〜75/25(モル/モル)、97/3〜80/20(モル/モル)、95/5〜82/18(モル/モル)、92/8〜85/15(モル/モル)、90/10〜85/15(モル/モル)である。
【0013】
P3HA樹脂としては特に限定されるものではないが、P3HAの数平均分子量は一般に10,000から500,000程度である。また重量平均分子量は一般に50,000〜3,000,000程度である。ここでの数平均分子量及び重量平均分子量はクロロホルム溶離液を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。またP3HA樹脂を熱、光、放射線などを利用して架橋剤で架橋させたものも使用できる。
【0014】
なお、P3HA樹脂を生産する微生物としては、P3HA類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、PHB生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)などの天然微生物が知られており、これらの微生物ではPHBが菌体内に蓄積される。
【0015】
また、3−ヒドロキシブチレートとその他の3−ヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、PHBV及びPHBH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)などが知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいP3HA樹脂に合わせて、各種P3HA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0016】
またP3HA樹脂以外の生分解性樹脂の例としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、変性でんぷん、酢酸セルロース、キチン、キトサン、リグニンなどが挙げられる。
【0017】
汎用の合成樹脂の例としては、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレンコポリマー、ポリブチレン(PB)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)又はポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン(PS)、高衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)又はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などのポリスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0018】
汎用の合成エンジニアリングプラスチックの例としては、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0019】
<フェニルホスホン酸化合物金属塩>
本発明において使用するフェニルホスホン酸化合物の金属塩に用いるフェニルホスホン酸化合物は、下記一般式[1]で表される化合物である。
【化2】
【0020】
上記式[1]で表されるフェニルホスホン酸化合物において、式中のR及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基又は炭素原子数2〜11のアルコキシカルボニル基を表す。なお、ここで炭素原子数2〜11のアルコキシカルボニル基とは、アルコキシ基の炭素原子数が1〜10であるアルコキシカルボニル基を指す。
【0021】
及びRにおける前記炭素原子数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
また前記炭素原子数2〜11のアルコキシカルボニル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0022】
上記式[1]で表されるフェニルホスホン酸化合物の具体例としては、フェニルホスホン酸、4−メチルフェニルホスホン酸、4−エチルフェニルホスホン酸、4−n−プロピルフェニルホスホン酸、4−イソプロピルフェニルホスホン酸、4−n−ブチルフェニルホスホン酸、4−イソブチルフェニルホスホン酸、4−tert−ブチルフェニルホスホン酸、3,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、3,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸、2,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、2,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等が挙げられる。
これら化合物は市販品をそのまま好適に使用できる。
【0023】
前記フェニルホスホン酸化合物の金属塩を形成する金属としては、1価、2価及び3価の金属を使用することができる。また2種以上の金属を混合して使用することもできる。
上記金属塩を形成する金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、アルミニウム、スズなどが挙げられる。これら金属より形成される金属塩の中でも、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銀塩、アルミニウム塩、スズ塩が好ましく、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、コバルト塩、銀塩がより好ましい。
【0024】
前記フェニルホスホン酸化合物金属塩の製造方法は特に制限されないが、一般には、フェニルホスホン酸化合物と、前記金属の塩化物、硫酸塩又は硝酸塩と、水酸化ナトリウム等のアルカリとを水中で混合して反応させることにより、フェニルホスホン酸化合物金属塩を析出させ、濾過、乾燥することで結晶性粉末として得ることができる。また、フェニルホスホン酸化合物と、前記金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は有機酸塩とを、水中又は有機溶媒中で混合反応させ、その後溶媒を濾過又は留去、乾燥することにより得ることもできる。
得られる粉末の形態は、通常は粒状結晶、板状結晶、短冊状(ストリップ状)結晶、棒状結晶、針状結晶等となり、さらにこれらの結晶が積層した形態になることもある。
これらの化合物(結晶性粉末)は市販されている場合には、市販品を使用することができる。
【0025】
上記フェニルホスホン酸化合物金属塩の形成に際し、フェニルホスホン酸化合物と金属のモル比は特に制限されないが、一般にはフェニルホスホン酸化合物/金属のモル比として、1/100〜2/1又は1/2〜2/1の範囲で使用すると好ましい。フェニルホスホン酸化合物金属塩中には、反応時に余剰となった金属源原料(金属の塩化物、酸化物、水酸化物、鉱酸塩、有機酸塩等)を含んでいても構わないが、塩を形成していないフリーのフェニルホスホン酸化合物を含まないことが好ましい。
【0026】
前記フェニルホスホン酸化合物金属塩の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。ここで、平均粒子径(μm)は、本発明においては該粒子のおよそ最大の短径(短軸)の長さの平均を意味するものとする。なお該粒子の大きさそのものは、長さ(長径)、幅(短径)及び厚さより記述され、これら数値は〈長径≧短径≧厚さ〉の条件を満たすものとする。平均粒子径が小さいほど、結晶化速度は速くなる傾向があり好ましい。
【0027】
フェニルホスホン酸化合物金属塩の平均粒子径を10μm以下にするために、上記の方法で得られた結晶性粉末を、必要に応じて、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサー等の剪断力を有する混合機や、ボールミル、ピンディスクミル、パルベライザー、イノマイザー、カウンタージェットミル等の乾式粉砕機で微粉末にすることができる。また、水、水と混合可能な有機溶媒、及びこれらの混合溶液を用いた、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー、アトライター等湿式粉砕機でも微粉末にすることができる。
【0028】
<樹脂組成物>
本発明のポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物におけるフェニルホスホン酸化合物金属塩の添加量は、P3HA樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.02〜5質量部、さらに好ましくは0.03〜2質量部である。添加量を0.01質量部以上とすることにより、十分な結晶化速度を得ることができる。また、10質量部を超えても、結晶化速度がさらに速くなるわけではないため、10質量部以下で使用することが経済的に有利となる。
【0029】
本発明において、P3HA樹脂にフェニルホスホン酸化合物金属塩を配合する方法は特に制限されることなく、公知の方法によって行うことができる。
例えばP3HA樹脂と各成分をそれぞれ各種ミキサーで混合し、単軸又は二軸押出機等を用いて混練すればよい。混練は通常10〜200℃程度の温度で行われる。また、各成分を高濃度で含有するマスターバッチを作製し、これをP3HA樹脂に添加する方法も可能である。また、P3HA樹脂の重合段階で、フェニルホスホン酸化合物金属塩を添加することもできる。
【0030】
本発明のP3HA樹脂組成物は、公知の無機充填剤を使用することもできる。無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。これらの無機充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状、粉末の何れでもよい。これらの無機充填剤は、P3HA樹脂100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
【0031】
本発明のP3HA樹脂組成物は、公知の難燃剤を使用することもできる。難燃剤としては、例えば、臭素系や塩素系等のハロゲン系難燃剤;三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリコーン系化合物等の無機系難燃剤;赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系難燃剤;メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレートリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩、アルキルホスホン酸メラミン、フェニルホスホン酸メラミン、硫酸メラミン、メタンスルホン酸メラム等のメラミン系難燃剤;PTFE等のフッ素樹脂などが挙げられる。これらの難燃剤は、P3HA樹脂100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
【0032】
また上記成分以外にも、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、発泡剤、香料、抗菌抗カビ剤、シラン系、チタン系、アルミニウム系等の各種カップリング剤、その他の各種充填剤、その他の結晶核剤等、一般的な合成樹脂の製造時に、通常使用される各種添加剤も併用することができる。
【0033】
本発明のP3HA樹脂組成物を成形する場合、一般の射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の慣用の成形法を適用することによって、各種成形品を容易に製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に記載するが、本発明は以下の記述によって限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
・示差走査熱量測定(DSC)
装置:パーキンエルマー社製、Diamond DSC
【0035】
また、略記号は以下の意味を表す。
PPA:フェニルホスホン酸[日産化学工業(株)製]
PHBH:ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート))[(株)カネカ製、重量平均分子量230,000、ヒドロキシブチレート単位/ヒドロキシヘキサノエート単位=89/11(モル比)]
P3/4HB:ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(4−ヒドロキシブチレート))[Tianjin GreenBio Materials社製 Sogreen(商標)−00A、3−ヒドロキシブチレート単位/4−ヒドロキシブチレート単位=96/4(モル比)]
PPA−Zn:フェニルホスホン酸亜鉛[日産化学工業(株)製、エコプロモート(登録商標)]
【0036】
[合成例1]フェニルホスホン酸マグネシウム(PPA−Mg)の合成
撹拌機を備えた反応容器に、塩化マグネシウム六水和物[和光純薬工業(株)製]10.2g(50mmol)及び水100gを仕込み、撹拌して均一な溶液とした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこの溶液へ、PPA7.8g(50mmol)及び水酸化ナトリウム4.2g(105mmol)を水68gに溶解させた溶液を加え、さらに1時間撹拌した。生成した固体を減圧濾過により濾取し、水洗した。得られた湿品を200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸マグネシウムを白色粉末として得た。
【0037】
[合成例2]フェニルホスホン酸カルシウム(PPA−Ca)(1)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、塩化カルシウム二水和物[和光純薬工業(株)製]7.4g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸カルシウム(1)を白色粉末として得た。
得られた粉末のSEM(走査型電子顕微鏡)[日本電子(株)製、JSM−7400F]像を確認したところ、その粒子形状は短冊状であり、無作為に抽出した50個の粒子のおよそ最大の短径(ただし短冊状粒子の大きさを〈長さ(長径)×幅(短径)×厚さ〉で表し、これらの数値は〈長径≧短径≧厚さ〉の条件を満たすものとする。)の平均はおよそ1μmであった。
【0038】
[合成例3]フェニルホスホン酸マンガン(PPA−Mn)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、塩化マンガン四水和物[和光純薬工業(株)製]9.9g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸マンガンを薄桃色粉末として得た。
なお、得られたフェニルホスホン酸マンガンは、乾燥直後は無水物であったが、空気雰囲気下、室温(およそ25℃)では一水和物となった。
【0039】
[合成例4]フェニルホスホン酸コバルト(PPA−Co)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、塩化コバルト六水和物[和光純薬工業(株)製]11.9g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸コバルトを紫色粉末として得た。
【0040】
[合成例5]フェニルホスホン酸銀(PPA−Ag)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、硝酸銀[和光純薬工業(株)製]8.5g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸銀を白色粉末として得た。
【0041】
[合成例6]フェニルホスホン酸カルシウム(PPA−Ca)(2)の合成
撹拌機を備えた反応容器に、炭酸カルシウム[三共精粉(株)製、エスカロン(商標)#2300]10.0g(100mmol)及び水90gを仕込み、撹拌して均一なスラリーとした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこのスラリーへ、PPA15.8g(100mmol)を水72gに溶解させた溶液を加え、さらに3時間攪拌した。生成した固体を減圧濾過により濾取し、水洗した。得られた湿品を200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸カルシウム(2)を白色粉末として得た。
得られた粉末のSEM像を確認したところ、その粒子形状は短冊状であり、無作為に抽出した50個の粒子のおよそ最大の短径の平均はおよそ1μmであった。
【0042】
[合成例7]フェニルホスホン酸カルシウム(PPA−Ca)(3)の合成
合成例2と同様の方法で得られた湿品を、さらにアセトンで洗浄し湿品中の水分を除去した。この湿品を50℃で1時間減圧乾燥した後に、200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸カルシウム(3)を白色粉末として得た。
得られた粉末のSEM像を確認したところ、その粒子形状は短冊状であり、無作為に抽出した50個の粒子のおよそ最大の短径の平均はおよそ0.3μmであった。
【0043】
[合成例8]フェニルホスホン酸カルシウムを含む炭酸カルシウム(PPA−Ca/炭酸カルシウム)の合成
撹拌機を備えた反応容器に、炭酸カルシウム[三共精粉(株)製、エスカロン(商標)#2300]10.0g(100mmol)及び水90gを仕込み、撹拌して均一なスラリーとした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこのスラリーへ、PPA1.6g(10mmol)を水7gに溶解させた溶液を加え、さらに1時間攪拌した。反応混合物をを減圧濾過により濾取し、水洗した。得られた湿品を200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを白色粉末として得た。なお、PPA及び炭酸カルシウムの仕込み比から計算したところ、得られた粉末中のフェニルホスホン酸カルシウムの含有量は18質量%であった。
【0044】
[実施例1]PPA−Mgを含むPHBH樹脂フィルム
PHBH100質量部をクロロホルム1,900質量部に溶解させた溶液に、結晶核剤として合成例1で得られたPPA−Mg1質量部を加え、室温(およそ25℃)で3時間撹拌し、均一な分散液を得た。該分散液を、ガラスシャーレ上にキャストし、50℃のホットプレートで溶媒を揮発させた。得られたPHBH樹脂フィルムから約5mgを切り出し、DSCを用いて結晶化挙動を評価した。評価は、100℃/分で200℃まで昇温、5分間保持、100℃/分で60℃まで急冷後、60℃に達してからPHBHの結晶化に由来する発熱がピークに達するまでの時間を、半結晶化時間(t1/2)として測定した。t1/2の値が小さいほど同一条件での結晶化速度が速く、結晶核剤として優れた効果を有することを表す。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]PPA−Ca(1)を含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例2で得られたPPA−Ca(1)を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0046】
[実施例3]PPA−Mnを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例3で得られたPPA−Mnを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0047】
[実施例4]PPA−Coを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例4で得られたPPA−Coを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0048】
[実施例5]PPA−Agを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例5で得られたPPA−Agを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0049】
[比較例1]PPA−Znを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えてPPA−Znを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0050】
[比較例2]結晶核剤を含まないPHBH樹脂フィルム
結晶核剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果より、結晶核剤として特定のフェニルホスホン酸化合物金属塩を用いたもの(実施例1〜5)は、その他のフェニルホスホン酸化合物金属塩を用いたもの(比較例1)や、結晶核剤を加えないもの(比較例2)と比較して小さいt1/2を示し、結晶化促進効果を有することが確認された。
【0053】
[実施例6]PPA−Ca(2)を含むPHBH樹脂組成物
PHBH100質量部に、結晶核剤として合成例6で得られたPPA−Ca(2)1質量部を加え、混練・押出試験機[(株)東洋精機製作所製、ラボプラストミルマイクロKF−6V]を用いて140℃で5分間溶融混練することで、PHBH樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同様にDSCを用いて結晶化挙動を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
[実施例7]PPA−Ca(3)を含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤として合成例7で得られたPPA−Ca(3)を使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0055】
[実施例8]PPA−Ca/炭酸カルシウムを含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤として合成例8で得られたPPA−Ca/炭酸カルシウムを使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0056】
[比較例3]PPAと炭酸カルシウムを含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤としてPPA0.71質量部及び炭酸カルシウム[三共精粉(株)製、エスカロン(商標)#2300]0.45質量部(PPAと炭酸カルシウムが完全に反応すると1質量部のPPA−Caが生成)を別個に添加して使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0057】
[比較例4]PPAとステアリン酸亜鉛を含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤としてPPA0.71質量部及びステアリン酸亜鉛[和光純薬工業(株)製]2.85質量部(PPAとステアリン酸亜鉛が完全に反応すると1質量部のPPA−Znが生成)を別個に添加して使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0058】
[比較例5]結晶核剤を含まないPHBH樹脂組成物
結晶核剤を使用しなかった以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果より、結晶核剤としてフェニルホスホン酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを用いたもの(実施例8)は、実質フェニルホスホン酸カルシウムが0.18質量部しか含まれていないにも拘らず、フェニルホスホン酸カルシウムを1質量部を用いたもの(実施例6,7)と同様に、結晶核剤を加えないもの(比較例5)と比較して極めて小さいt1/2を示し、結晶化促進効果を有することが確認された。
また、結晶核剤としてPPAと炭酸カルシウムとを別個に添加して用いたもの(比較例3)、PPAとステアリン酸亜鉛とを別個に添加して用いたもの(比較例4)は、充分な結晶化促進効果を示さなかった。
【0061】
[実施例9]PPA−Ca(1)を含むP3/4HB樹脂組成物
P3/4HB100質量部に、結晶核剤として合成例2で得られたPPA−Ca(1)1質量部を加え、混練・押出試験機[(株)東洋精機製作所製、ラボプラストミルマイクロKF−6V]を用いて170℃で5分間溶融混練することで、P3/4HB樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同様にDSCを用いて結晶化挙動を評価した。結果を表3に示す。
【0062】
[比較例6]結晶核剤を含まないP3/4HB樹脂組成物
結晶核剤を使用しなかった以外は、実施例9と同様に操作、評価した。結果を表3に併せて示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3の結果より、P3/4HB樹脂に対しても、結晶核剤としてフェニルホスホン酸カルシウムを用いたもの(実施例9)は、結晶核剤を加えないもの(比較例6)と比較して極めて小さいt1/2を示し、結晶化促進効果を有することが確認された。
【0065】
以上のように、P3HA樹脂に結晶核剤として特定のフェニルホスホン酸化合物金属塩を添加することにより、P3HA樹脂の結晶化速度を高め、耐熱性、成形加工性に優れたP3HA樹脂組成物を提供することが可能となった。