【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に記載するが、本発明は以下の記述によって限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
・示差走査熱量測定(DSC)
装置:パーキンエルマー社製、Diamond DSC
【0035】
また、略記号は以下の意味を表す。
PPA:フェニルホスホン酸[日産化学工業(株)製]
PHBH:ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート))[(株)カネカ製、重量平均分子量230,000、ヒドロキシブチレート単位/ヒドロキシヘキサノエート単位=89/11(モル比)]
P3/4HB:ポリ((3−ヒドロキシブチレート)−co−(4−ヒドロキシブチレート))[Tianjin GreenBio Materials社製 Sogreen(商標)−00A、3−ヒドロキシブチレート単位/4−ヒドロキシブチレート単位=96/4(モル比)]
PPA−Zn:フェニルホスホン酸亜鉛[日産化学工業(株)製、エコプロモート(登録商標)]
【0036】
[合成例1]フェニルホスホン酸マグネシウム(PPA−Mg)の合成
撹拌機を備えた反応容器に、塩化マグネシウム六水和物[和光純薬工業(株)製]10.2g(50mmol)及び水100gを仕込み、撹拌して均一な溶液とした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこの溶液へ、PPA7.8g(50mmol)及び水酸化ナトリウム4.2g(105mmol)を水68gに溶解させた溶液を加え、さらに1時間撹拌した。生成した固体を減圧濾過により濾取し、水洗した。得られた湿品を200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸マグネシウムを白色粉末として得た。
【0037】
[合成例2]フェニルホスホン酸カルシウム(PPA−Ca)(1)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、塩化カルシウム二水和物[和光純薬工業(株)製]7.4g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸カルシウム(1)を白色粉末として得た。
得られた粉末のSEM(走査型電子顕微鏡)[日本電子(株)製、JSM−7400F]像を確認したところ、その粒子形状は短冊状であり、無作為に抽出した50個の粒子のおよそ最大の短径(ただし短冊状粒子の大きさを〈長さ(長径)×幅(短径)×厚さ〉で表し、これらの数値は〈長径≧短径≧厚さ〉の条件を満たすものとする。)の平均はおよそ1μmであった。
【0038】
[合成例3]フェニルホスホン酸マンガン(PPA−Mn)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、塩化マンガン四水和物[和光純薬工業(株)製]9.9g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸マンガンを薄桃色粉末として得た。
なお、得られたフェニルホスホン酸マンガンは、乾燥直後は無水物であったが、空気雰囲気下、室温(およそ25℃)では一水和物となった。
【0039】
[合成例4]フェニルホスホン酸コバルト(PPA−Co)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、塩化コバルト六水和物[和光純薬工業(株)製]11.9g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸コバルトを紫色粉末として得た。
【0040】
[合成例5]フェニルホスホン酸銀(PPA−Ag)の合成
塩化マグネシウム六水和物に替えて、硝酸銀[和光純薬工業(株)製]8.5g(50mmol)を使用した以外は、合成例1と同様に操作し、目的とするフェニルホスホン酸銀を白色粉末として得た。
【0041】
[合成例6]フェニルホスホン酸カルシウム(PPA−Ca)(2)の合成
撹拌機を備えた反応容器に、炭酸カルシウム[三共精粉(株)製、エスカロン(商標)#2300]10.0g(100mmol)及び水90gを仕込み、撹拌して均一なスラリーとした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこのスラリーへ、PPA15.8g(100mmol)を水72gに溶解させた溶液を加え、さらに3時間攪拌した。生成した固体を減圧濾過により濾取し、水洗した。得られた湿品を200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸カルシウム(2)を白色粉末として得た。
得られた粉末のSEM像を確認したところ、その粒子形状は短冊状であり、無作為に抽出した50個の粒子のおよそ最大の短径の平均はおよそ1μmであった。
【0042】
[合成例7]フェニルホスホン酸カルシウム(PPA−Ca)(3)の合成
合成例2と同様の方法で得られた湿品を、さらにアセトンで洗浄し湿品中の水分を除去した。この湿品を50℃で1時間減圧乾燥した後に、200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸カルシウム(3)を白色粉末として得た。
得られた粉末のSEM像を確認したところ、その粒子形状は短冊状であり、無作為に抽出した50個の粒子のおよそ最大の短径の平均はおよそ0.3μmであった。
【0043】
[合成例8]フェニルホスホン酸カルシウムを含む炭酸カルシウム(PPA−Ca/炭酸カルシウム)の合成
撹拌機を備えた反応容器に、炭酸カルシウム[三共精粉(株)製、エスカロン(商標)#2300]10.0g(100mmol)及び水90gを仕込み、撹拌して均一なスラリーとした。次に、室温(およそ25℃)で撹拌しているこのスラリーへ、PPA1.6g(10mmol)を水7gに溶解させた溶液を加え、さらに1時間攪拌した。反応混合物をを減圧濾過により濾取し、水洗した。得られた湿品を200℃で6時間乾燥することで、目的とするフェニルホスホン酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを白色粉末として得た。なお、PPA及び炭酸カルシウムの仕込み比から計算したところ、得られた粉末中のフェニルホスホン酸カルシウムの含有量は18質量%であった。
【0044】
[実施例1]PPA−Mgを含むPHBH樹脂フィルム
PHBH100質量部をクロロホルム1,900質量部に溶解させた溶液に、結晶核剤として合成例1で得られたPPA−Mg1質量部を加え、室温(およそ25℃)で3時間撹拌し、均一な分散液を得た。該分散液を、ガラスシャーレ上にキャストし、50℃のホットプレートで溶媒を揮発させた。得られたPHBH樹脂フィルムから約5mgを切り出し、DSCを用いて結晶化挙動を評価した。評価は、100℃/分で200℃まで昇温、5分間保持、100℃/分で60℃まで急冷後、60℃に達してからPHBHの結晶化に由来する発熱がピークに達するまでの時間を、半結晶化時間(t
1/2)として測定した。t
1/2の値が小さいほど同一条件での結晶化速度が速く、結晶核剤として優れた効果を有することを表す。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]PPA−Ca(1)を含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例2で得られたPPA−Ca(1)を使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0046】
[実施例3]PPA−Mnを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例3で得られたPPA−Mnを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0047】
[実施例4]PPA−Coを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例4で得られたPPA−Coを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0048】
[実施例5]PPA−Agを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えて合成例5で得られたPPA−Agを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0049】
[比較例1]PPA−Znを含むPHBH樹脂フィルム
PPA−Mgに替えてPPA−Znを使用した以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0050】
[比較例2]結晶核剤を含まないPHBH樹脂フィルム
結晶核剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果より、結晶核剤として特定のフェニルホスホン酸化合物金属塩を用いたもの(実施例1〜5)は、その他のフェニルホスホン酸化合物金属塩を用いたもの(比較例1)や、結晶核剤を加えないもの(比較例2)と比較して小さいt
1/2を示し、結晶化促進効果を有することが確認された。
【0053】
[実施例6]PPA−Ca(2)を含むPHBH樹脂組成物
PHBH100質量部に、結晶核剤として合成例6で得られたPPA−Ca(2)1質量部を加え、混練・押出試験機[(株)東洋精機製作所製、ラボプラストミルマイクロKF−6V]を用いて140℃で5分間溶融混練することで、PHBH樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同様にDSCを用いて結晶化挙動を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
[実施例7]PPA−Ca(3)を含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤として合成例7で得られたPPA−Ca(3)を使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0055】
[実施例8]PPA−Ca/炭酸カルシウムを含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤として合成例8で得られたPPA−Ca/炭酸カルシウムを使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0056】
[比較例3]PPAと炭酸カルシウムを含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤としてPPA0.71質量部及び炭酸カルシウム[三共精粉(株)製、エスカロン(商標)#2300]0.45質量部(PPAと炭酸カルシウムが完全に反応すると1質量部のPPA−Caが生成)を別個に添加して使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0057】
[比較例4]PPAとステアリン酸亜鉛を含むPHBH樹脂組成物
結晶核剤としてPPA0.71質量部及びステアリン酸亜鉛[和光純薬工業(株)製]2.85質量部(PPAとステアリン酸亜鉛が完全に反応すると1質量部のPPA−Znが生成)を別個に添加して使用した以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0058】
[比較例5]結晶核剤を含まないPHBH樹脂組成物
結晶核剤を使用しなかった以外は、実施例6と同様に操作、評価した。結果を表2に併せて示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果より、結晶核剤としてフェニルホスホン酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを用いたもの(実施例8)は、実質フェニルホスホン酸カルシウムが0.18質量部しか含まれていないにも拘らず、フェニルホスホン酸カルシウムを1質量部を用いたもの(実施例6,7)と同様に、結晶核剤を加えないもの(比較例5)と比較して極めて小さいt
1/2を示し、結晶化促進効果を有することが確認された。
また、結晶核剤としてPPAと炭酸カルシウムとを別個に添加して用いたもの(比較例3)、PPAとステアリン酸亜鉛とを別個に添加して用いたもの(比較例4)は、充分な結晶化促進効果を示さなかった。
【0061】
[実施例9]PPA−Ca(1)を含むP3/4HB樹脂組成物
P3/4HB100質量部に、結晶核剤として合成例2で得られたPPA−Ca(1)1質量部を加え、混練・押出試験機[(株)東洋精機製作所製、ラボプラストミルマイクロKF−6V]を用いて170℃で5分間溶融混練することで、P3/4HB樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同様にDSCを用いて結晶化挙動を評価した。結果を表3に示す。
【0062】
[比較例6]結晶核剤を含まないP3/4HB樹脂組成物
結晶核剤を使用しなかった以外は、実施例9と同様に操作、評価した。結果を表3に併せて示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3の結果より、P3/4HB樹脂に対しても、結晶核剤としてフェニルホスホン酸カルシウムを用いたもの(実施例9)は、結晶核剤を加えないもの(比較例6)と比較して極めて小さいt
1/2を示し、結晶化促進効果を有することが確認された。
【0065】
以上のように、P3HA樹脂に結晶核剤として特定のフェニルホスホン酸化合物金属塩を添加することにより、P3HA樹脂の結晶化速度を高め、耐熱性、成形加工性に優れたP3HA樹脂組成物を提供することが可能となった。