特許第5958816号(P5958816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958816
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】真偽判別用印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20160719BHJP
   B42D 25/378 20140101ALI20160719BHJP
【FI】
   B41M3/14
   B42D15/10 378
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-193836(P2012-193836)
(22)【出願日】2012年9月4日
(65)【公開番号】特開2014-46659(P2014-46659A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【審査官】 藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−037234(JP,A)
【文献】 特開2000−326620(JP,A)
【文献】 特開2011−143669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/00 − 25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性と浸透性とを有する基材の少なくとも一部の表裏同じ位置に印刷領域を有し、前記基材の一方の面における前記印刷領域は、前記基材と異なる色の第一のインキにより構成された第一の画像を備え、
前記第一のインキは、有色の色材と透かしインキを混合した有色浸透インキから成り、
前記第一の画像は、第一の有意情報を示す情報部を備え、前記情報部の最大反射濃度と前記基材の反射濃度との差が0.1以下であり、
前記基材の一方の面から反射光で観察した場合には、前記第一の有意情報が視認でき、前記基材の一方の面から透過光で観察した場合には、前記第一の有意情報が消失することを特徴とする真偽判別用印刷物。
【請求項2】
光透過性と浸透性とを有する基材の少なくとも一部の表裏同じ位置に印刷領域を有し、前記基材の一方の面における前記印刷領域は、前記基材と異なる色の第一のインキにより構成された第一の画像を備え、
前記第一のインキは、有色の色材と透かしインキを混合した有色浸透インキから成り、
前記第一の画像は、第一の有意情報を示す情報部と前記情報部以外に前記第一のインキにより構成された前記情報部と濃淡が異なる周辺部を備え、前記第一の画像の最大反射濃度と最小反射濃度との差が0.2以下であり、
前記基材の一方の面から反射光で観察した場合には、前記第一の有意情報が視認でき、前記基材の一方の面から透過光で観察した場合には、前記第一の有意情報が消失することを特徴とする真偽判別用印刷物。
【請求項3】
前記基材の他方の面における前記印刷領域に光遮断性を有した第二のインキにより構成された第二の有意情報を示す第二の画像を備え、
前記第二のインキは、光遮断性の高い金属顔料を含み、
前記基材の前記一方の面から反射光で観察した場合には、前記第一の有意情報が視認でき、前記基材の前記一方の面から透過光で観察した場合には、前記第一の有意情報が消失し、前記光遮断性を有した前記第二のインキが光を遮断することで前記第二の有意情報を視認できることを特徴とする請求項1又は2記載の真偽判別用印刷物。
【請求項4】
前記有色浸透インキの中の前記有色の色材は、透過性顔料及び/又は微粒子顔料であり、前記有色浸透インキ中の配合割合が10%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の真偽判別用印刷物。
【請求項5】
前記第二の画像は、20%以上の網点面積率から成ることを特徴とする請求項3記載の真偽判別用印刷物。
【請求項6】
前記第二の画像は、透明又は前記基材と等色であることを特徴とする請求項3又は5記載の真偽判別用印刷物。
【請求項7】
前記他方の面における印刷領域に、前記第二の画像をカモフラージュするために、前記第二のインキと等色で、かつ、前記第一のインキと同じ又は異なる有色浸透インキである第三のインキで前記第二の画像の濃淡を反転させた画像が毛抜き合わせで形成されていることを特徴とする請求項3又は5記載の真偽判別用印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、反射光下で観察した場合と、透過光下で観察した場合とで、画像が変化する真偽判別用印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンター、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのため、前述したような複製や偽造を防止するため、プリンターやコピー機では再現不可能な様々な偽造防止技術が必要とされている。
【0003】
この偽造防止技術の一つとして、用紙の粗密や薄厚によって模様を形成して透過光下で視認させる、いわゆる透かしが存在する。この透かしは、一定量以上の光さえ存在すれば、あらゆる環境下で真偽判別が可能な技術であり、また、知名度も抜群に高いことから、古くから存在する古典的な技術であるにも関わらず、今なお世界中の銀行券で用いられている。
【0004】
しかし、この技術は、用紙の製造段階で形成する必要があることから用紙メーカでなければ製造不可能であり、加えて用紙メーカが製造した場合でも製造コストが高くなるという問題があることから、これを擬似的に再現する方法として、印刷工程で特殊な浸透型インキ(例えば、特許文献1参照)を用いて、この透かしに相当する透過画像を形成する偽造防止技術が存在する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−290571号公報
【特許文献2】特開平6−228900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術のような浸透型インキを単純に用いて、特許文献2に記載のような透かし画像を形成する偽造防止技術に関しては、すでに浸透型インキ自体が多くのメーカから市販されており、一般人であっても容易に入手可能であることから、偽造者にとっても製造が容易であるという問題があった。
【0007】
加えて、特許文献2に記載の技術のように、浸透型インキを用いて透過光下で容易に目視できる程度のコントラストを有する透過画像を形成するためには、浸透型インキを大量に基材に転移させる必要があり、一般的で最も生産性の高い商業印刷方法であるオフセット印刷では、インキ転移量が不十分であって、本来の透かしのような視認性の高い透過画像を得るには、特別な工夫と高度な印刷技能が必須であった。
【0008】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、浸透型インキに有色の色材を混合して作製した着色浸透インキを使用して形成する印刷画像であって、反射光下では第一の画像の有意情報が視認できるが、透過光下では第一の画像の有意情報が不可視となることを特徴とする真偽判別用印刷物に関わる。また、基材の一方の面に有色浸透インキで第一の画像を、基材のもう一方の面に光透過性の低いインキを用いて第二の画像を印刷して形成する画像であって、反射光下では有色浸透インキで形成した第一の画像の有意情報が観察され、透過光下では第一の画像が消失して光透過性の低いインキを用いて印刷した第二の画像の第二の有意情報が観察できることを特徴とする真偽判別用印刷物に関わる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における真偽判別用印刷物は、光透過性と浸透性とを有する基材の少なくとも一部の表裏同じ位置に印刷領域を有し、基材の一方の面における印刷領域は、基材と異なる色の第一のインキにより構成された第一の画像を備え、
第一のインキは、有色の色材と浸透成分を含んだ有色浸透インキから成り、
第一の画像は、少なくとも第一の有意情報を示す情報部を備え、情報部の最大反射濃度と基材の反射濃度との差が0.1以下であり、
基材の一方の面から反射光で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、基材の一方の面から透過光で観察した場合には、第一の有意情報が消失することを特徴とする。
【0010】
本発明における真偽判別用印刷物は、光透過性と浸透性とを有する基材の少なくとも一部の表裏同じ位置に印刷領域を有し、基材の一方の面における印刷領域は、基材と異なる色の第一のインキにより構成された第一の画像を備え、
第一のインキは、有色の色材と浸透成分を含んだ有色浸透インキから成り、
第一の画像は、第一の有意情報を示す情報部と情報部以外に第一のインキにより構成された情報部と濃淡が異なる周辺部を備え、第一の画像の最大反射濃度と最小反射濃度との差が0.2以下であり、
基材の一方の面から反射光で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、基材の一方の面から透過光で観察した場合には、第一の有意情報が消失することを特徴とする。
【0011】
本発明における真偽判別用印刷物は、基材の他方の面における印刷領域に光遮断性を有した第二のインキにより構成された第二の有意情報を示す第二の画像を備え、
基材の一方の面から反射光で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、基材の一方の面から透過光で観察した場合には、第一の有意情報が消失し、光遮断性を有した第二のインキが光を遮断することで第二の有意情報を視認できることを特徴とする。
【0012】
本発明における真偽判別用印刷物の有色浸透インキの中の有色の色材は、着色顔料及び/又は着色染料であり、有色浸透インキ中の配合割合が10%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明における真偽判別用印刷物の第二のインキは、光遮断性の高い金属顔料を含んでいることを特徴とする。
【0014】
本発明における真偽判別用印刷物の第二の画像は、20%以上の網点面積率から成ることを特徴とする。
【0015】
本発明における真偽判別用印刷物の第二の画像は、透明又は基材と等色であることを特徴とする。
【0016】
本発明における真偽判別用印刷物は、他方の面における印刷領域に、第二の画像をカモフラージュするために、第二のインキと等色で、かつ、第一のインキと同じ又は異なる有色浸透インキである第三のインキで第二の画像の濃淡を反転させた画像が毛抜き合わせで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真偽判別用印刷物においては、印刷物を反射光下で観察した場合に第一の有意情報が視認でき、透過光下で観察した場合に第一の有意情報が不可視になることを確認することで真偽判別が可能であり、特殊な光源やフィルタを必要とせず、特別な道具を用いる必要がない。
【0018】
本発明の真偽判別用印刷物は、市販されている浸透型インキを単に印刷するだけでは形成不能であり、これを形成するにあたっては、浸透成分と色材を適正な配合割合で混ぜ合わせ、反射光下では視認可能な色彩を有して観察されるが、透過光下では不可視となるか、もしくは視認し難い極めて淡い色彩へと変化する光学特性を有する有色浸透インキを作製する必要があることから、単純に市販されているインキを用いて偽造することは不可能である。
【0019】
本発明の真偽判別用印刷物は、従来の透かし印刷の技術のように浸透型インキで形成した透過画像を直接視認させることをもって真偽判別を行うものではなく、浸透成分を含んだ有色浸透インキによって特定の画像を透過光下で消失させることをもって真偽判別を行うものである。このため、有色浸透インキで印刷した印刷部の透過率は、従来の技術のように非印刷部の透過率を大きく超える必要がなく、非印刷部と同じ程度の透過率に達すれば十分な効果を発揮する。よって、従来の透かし技術のように、潜像画像の視認性を高めるために、大量に浸透型インキを転移させる必要がなく、少ないインキ転移量でも十分な効果を得ることができる。
【0020】
本発明の真偽判別用印刷物の一形態においては、反射光下で第一の有意情報が視認でき、透過光下では第一の有意情報と相関のない有意情報である、第二の有意情報が視認でき、いわゆる画像のチェンジ効果を生じさせることができる。この形態は観察者に与えるインパクトが大きく、かつ模倣することもより困難であることから、より真偽判別性に優れ、偽造防止効果に優れる。
【0021】
また、本発明の真偽判別用印刷物のチェンジ効果を生じさせる一形態においては、2つのインキを等色にする必要がなく、第一の画像と第二の画像の位置関係も任意に設定した印刷領域中に配置さえすればよい。よって、2つのインキの色合わせや、印刷中のシビアな位置合わせや色管理等は必要なく、製造者は安定した効果を発揮する真偽判別用印刷物を比較的容易に生産することができる。
【0022】
以上の手法で形成した真偽判別用印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷で製造可能であることからコストパフォーマンスに優れ、また最新のデジタル機器を用いたとしても効果の再現は不可能であることから、偽造防止効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の真偽判別用印刷物を示す。
図2】本発明の真偽判別用印刷物の第一の画像の一例を示す。
図3】本発明の真偽判別用印刷物の効果を示す。
図4】本発明の真偽判別用印刷物の効果を示す。
図5】本発明の真偽判別用印刷物の効果を示す。
図6】本発明の真偽判別用印刷物を示す。
図7】本発明の真偽判別用印刷物における第一の画像と第二の画像を示す。
図8】本発明の真偽判別用印刷物の形成方法を示す。
図9】本発明の真偽判別用印刷物における第二の画像の実際の印刷画像を示す。
図10】本発明の真偽判別用印刷物の効果を示す。
図11】本発明の真偽判別用印刷物において第二の画像のカモフラージュする一構成を示す。
図12】本発明の真偽判別用印刷物において第二の画像のカモフラージュする一構成を示す。
図13】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物を示す。
図14】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物の効果を示す。
図15】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物を示す。
図16】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物の第一の画像と第二の画像を示す。
図17】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物の効果を示す。
図18】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物を示す。
図19】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物の第一の画像と第二の画像を示す。
図20】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物の効果を示す。
図21】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物を示す。
図22】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物の第一の画像と第二の画像を示す。
図23】本発明の一実施例における真偽判別用印刷物の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
(実施の形態1)
【0025】
本実施の形態1で説明する真偽判別用印刷物(1)は、拡散反射光下では第一の有意情報が視認できるが、透過光下では第一の有意情報が不可視となる効果を有する。図1に、本発明における真偽判別用印刷物(1)を示す。真偽判別用印刷物(1)は、浸透性を有する基材(2)の一方の面に基材と異なる色彩を有して、第一の有意情報を表した第一の画像(3)が形成されて成る。第一の画像(3)の大きさに特に制約はない。本実施の形態の説明において、第一の画像(3)が表す第一の有意情報はアルファベットの「A」の文字を指す。
【0026】
本発明における真偽判別用印刷物(1)を構成する基材(2)は、上質紙やコート紙のように、浸透型インキを印刷した場合に、インキが基材(2)の内部に浸透する浸透性を有するとともに、基材(2)自体も光を透過する特性を持つ光透過性を有する必要がある。不透明なプラスティックや金属では、本発明の透過光下で第一の有意情報が不可視になる効果は得られない。
【0027】
図2を用いて第一の画像(3)の構成について説明する。第一の画像(3)は、有色浸透インキで形成する必要がある。有色浸透インキとは、印刷画像が透過光下で透けて見える(非印刷部よりも明るく観察される)効果を有する浸透成分を含む浸透型インキに、色材をわずかに混合することで形成したインキであり、淡い色を有した浸透型インキを指す。
【0028】
以下に有色浸透インキについて具体的に説明する。有色浸透インキは、基材に印刷した場合に、反射光下では、はっきりと視認できる色彩を有した画像を形成できる一方、透過光下ではその画像は不可視か、ほとんど視認し難い程度の淡い色彩に変化する特徴を有する。簡潔に表現すると「透かすと画像が消える」効果を有したインキである。なお、本明細書中で言う、「淡い色」とは、拡散反射光下で明度の高い色彩であること指し、具体的には有色浸透インキを網点面積率100%のベタで印刷した場合には、拡散反射光下でL*で70を超える値を有することとする。
【0029】
従来の技術では、前述した浸透型インキは、「透かすと画像が現れる」効果、いわゆる透かしを形成するインキとして認識され、直接、非印刷部よりも明るく透けて見える透過画像を形成することが一般的であった。ただし、十分な視認性を有した透かしの効果を得るには、浸透型インキを大量に転移させる必要があり、印刷方式によっては、十分な透かしの効果を得られないという問題があった。
【0030】
本発明の真偽判別用印刷物を形成するために用いる有色浸透インキは、浸透成分と色材とを含んで構成され、浸透成分が基材内部の光の散乱を抑制することで生じる透過率の上昇と、色材が光を吸収することで生じる透過率の低下とがつりあうことで、透過光下の観察において色彩が極めて淡く変化する特徴を有し、これまでの浸透型インキにはなかった「透かすと画像が消える」効果を生じさせる。
【0031】
このため、浸透成分の「透かすと画像が現れる」効果が低くとも、色材の混合量を浸透成分の性能に応じた量に調整することで、印刷方式による制限によって多くのインキを転移させられない場合でも新たに「透かすと画像が消える」効果を生じさせることができる。
【0032】
なお、有色浸透インキ中の浸透成分は、従来の浸透型インキの浸透成分と同じでよく、市販されている浸透型インキと色材を混合して作製してもよい。
【0033】
有色浸透インキの浸透成分の性能が高い(印刷領域の透過率を上昇させる効果が高い)ほど、色材の混合量を増やすことができるために、有色浸透インキの色濃度を濃くすることができることから、拡散反射光下の観察において、より視認性の高い画像を形成することができる。
【0034】
逆に、有色浸透インキの浸透成分の性能が低い(印刷領域の透過率を上昇させる効果が低い)場合には、色材の混合量を減らして、有色浸透インキの色濃度を淡く抑える必要があり、この場合には拡散反射光下の画像の視認性は低くなる。
【0035】
ただし、いずれの場合であっても、浸透成分が透かしインキとして一般に販売されているインキに相当する程度の性能を備えていれば、一定量の色材を混合して「透かすと画像が消える」効果を有する有色浸透インキとすることは可能であり、この有色浸透インキを用いて印刷した画像は、拡散反射光下で容易に視認できる。
【0036】
有色浸透インキに混合する色材は、着色顔料や着色染料として販売されている印刷色材を用いれば良い。印刷物として市場に流通させることを目的とすると、長期にわたる堅牢性が得られやすい着色顔料を用いることが望ましい。
【0037】
また、本発明で使用する有色浸透インキは淡い色彩である必要があり、淡い色彩のインキを高い再現性で安定して製造するためには、透過性顔料や微粒子顔料と呼ばれる顔料を選択することが望ましい。
【0038】
これらの顔料は、一般の顔料と比較して透過性が高く、かつ、着色力が低いことから、有色浸透インキに使用する色材としては最も適している。このような透過性顔料や微粒子顔料としては、コバルト系顔料やシアニン系顔料が存在し、色数も豊富であって、印刷用色材として一般に販売されている。
【0039】
前述したような印刷用色材を使用して有色浸透インキを作製する場合、印刷色材のインキ中の混合量は、重量部で10%以下に留めることが望ましい。なお、「透かすと画像が消える」効果は、有色浸透インキの性能だけに依存するのではなく、形成する画像の反射濃度にも大きく影響を受ける。
【0040】
例えば、網点面積率100%の、いわゆるベタで濃い画像を形成した場合と、ハーフトーンからハイライトの低い網点面積率で淡い画像を形成した場合には、同じ有色浸透インキを用いたとしても「透かすと画像が消える」効果は後者の画像のほうが高くなる(ただし、拡散反射光下での視認性は前者の画像のほうが高い)。
【0041】
このことから、有色浸透インキに混合する色材の量は、色材自体の着色力や浸透成分の性能、形成する画像の濃淡等に応じて適性量をその都度見極める必要があるが、色材を10%以上配合した有色浸透インキでは、如何なる方法を用いたとしても、「透かすと画像が消える」効果を高いレベルで獲得することが困難となるため避けるべきである。なお、「透かすと画像が消える」効果を得るためには、有色浸透インキで形成する第一の画像(3)に適正な反射濃度の制限を設ける必要があるが、これについては後記する。
【0042】
本発明における浸透成分とは、印刷時に用紙内部へと浸透して印刷領域の透過率を上昇させる働きを成す成分のことを指し、具体的には、セルロースの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油等を指す。これらの成分は、印刷した場合に用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成す。
【0043】
また、本発明における浸透型インキとは、前述した浸透成分を含み、一般に透かしインキとして販売されているインキを指す。このようなインキとしては、T&K TOKA製ベストワン透かしインキ、帝国インキ製ユニマーク、東洋インキ製SMXすかしインキ、合同インキ製E2ニス等が存在する。また、一般にOPニスとして販売されているグロスニス等の低粘度のインキを用いた場合でも、一定の浸透効果が見込めるため、透明な低粘度インキを用いても有色浸透インキを作製することができる。
【0044】
有色浸透インキの印刷方式は、オフセット印刷で十分な効果を発揮するが、製造者のシーズに応じてフレキソ印刷やグラビア印刷、凹版印刷やスクリーン印刷等で形成しても良い。
【0045】
加えて、有色浸透インキおよび光透過性の低いインキそれぞれに、脱刷や印刷不良等の発生の有無を見極めることを目的として又は真偽判別性の向上を目的として、蛍光顔料や蛍光染料、燐光顔料等の発光顔料や発光染料、赤外線吸収材料や赤外反射材料等の機能性材料を添加しても何ら問題ない。以上が、本発明に必須の有色浸透インキの説明である。
【0046】
続いて、第一の画像(3)を構成する上で必要となる濃淡の制限、すなわち反射濃度の制限について説明する。有色浸透インキを用いて形成する第一の画像(3)は、適正な反射濃度の範囲内で構成する必要がある。反射濃度に制限を設けない構成、例えば、第一の画像(3)中の最大反射濃度と最小反射濃度の差異が0.5を超えるような極めて大きな濃淡差を有する構成とした場合には、いかに優れた有色浸透インキを用いたとしても、第一の画像(3)内の濃淡差が大きくなり過ぎることから、透かした場合に画像が消える効果を得ることができない。反射光下で見えていた第一の有意情報が透過光下で消える効果を得るためには、第一の画像(3)の反射濃度に適正な制限を設ける必要がある。
【0047】
第一の画像(3)の反射濃度の制限は、第一の画像(3)の構成によって大きく2つのタイプに分別される。まず、一つのタイプとなるのは、図2(a)や図2(b)に示す例のように、第一の有意情報を示す情報部(3a、3a´)に加え、それを取り囲む濃淡の異なる周辺部 (3b、3b´)を設けた第一の画像(3)の構成の場合である。なお、この例における周辺部(3b、3b´)とは、図2(a)の例のように情報部(3a、3a´)を完全に取り囲む構成である必要はなく、図2(b)の例のように情報部(3a、3a´)の輪郭の一部と一定の区間で接する構成をとれば良い。具体的には、周辺部(3b、3b´)が情報部(3a、3a´)に接することで、第一の画像(3、3´)の輪郭から読み取れる情報を変化させて、第一の画像(3、3´)の輪郭だけを観察した場合に、第一の有意情報が読み取れない構成となっていれば良い。これは、透過光下で第一の画像(3、3´)を観察した場合に、情報部と周辺部との濃淡のコントラストをなくし、第一の有意情報を不可視とするために必要とされる構成である。
【0048】
前述の構成の場合、周辺部(3b、3b´)は、情報部(3a、3a´)を構成している有色浸透インキで形成される。このように第一の画像(3、3´)が、情報部(3a、3a´)と周辺部(3b、3b´)を有し、情報部(3a、3a´)と周辺部(3b、3b´)の濃淡の違いによって情報部(3a、3a´)の第一の有意情報を可視化した構成の場合には、第一の画像(3、3´)中の最大反射濃度と最小反射濃度の差異を0.2以下に留める制限を設ける必要がある。この制限を適用すると、図2(a)に示した第一の画像(3)のような第一の有意情報が単純な二値画像であって、情報部(3a)は相対的に濃く、周辺部(3b)は相対的に淡い構成の場合、仮に情報部(3a)の反射濃度が0.3であった場合には、周辺部(3b)の反射濃度は0.1以上とする必要がある。また、例えば、図2(b)に示した第一の画像(3)のように、第一の有意情報が人物の顔であって、情報部(3a)と周辺部(3b)の濃淡が複雑に入り組んでいる構成の場合、画像全体の中で最も濃度の高い部分(画像としては服の部分)の反射濃度を0.6とした場合、画像全体で最も濃度の低い部分(画像としては顔の鼻の部分)の反射濃度を0.4以上とする必要がある。
【0049】
第一の画像(3)の反射濃度の制限のもう一つタイプに分別されるのが、図2(c)に示す例のように、第一の有意情報が情報部(3a´´)のみから成り、それを取り囲む周辺部 (3b´´)は、基材(2)である場合である。すなわち、周辺部(3b´´)が有色浸透インキによって構成されない場合である。このような構成の場合には、第一の画像(3´´)の情報部(3a´´)中の最大の反射濃度と、周辺部(3b´´)の反射濃度の差を、前述のタイプの半分にあたる0.1以下にする必要がある。
【0050】
第一の画像(3、3´)の反射濃度の制限が、第一の画像(3、3´、3´´)の構成によって大きく2つのタイプに分別される理由について説明する。図2(a)や図2(b)のように、第一の画像(3、3´)が情報部(3a、3a´)と周辺部(3b、3b´)から成る場合、第一の有意情報を表す情報部(3a、3a´)は、濃淡は異なるが、色相は同じで、かつ、同じ有色浸透インキで形成された周辺部(3b、3b´)に接している。透過時に第一の有意情報を不可視とするためには、第一の有意情報を表す情報部(3a、3a´)の色彩と周辺部 (3b、3b´)の色彩が透過時に同じ色彩となる必要があるが、情報部(3a、3a´)と周辺部(3b、3b´)が有色浸透インキから成る第一の画像(3、3´)は、情報部(3a、3a´)と周辺部(3b、3b´)は色相が同じであるため、その濃淡さえ収束させられれば、2つの部分の透過時の色彩は同じとなる。このような構成の場合、有色浸透インキの効果によって画像全体の濃度が淡く変化するために、反射濃度の差異を比較的大きく設計していても透過光下では第一の有意情報を消失させることができる。
【0051】
一方、第一の画像(3´´)が情報部(3a´´)のみから成る場合、情報部(3a´´)に接する周辺部(3b´´)は有色浸透インキから成らないため、情報部(3a´´)と周辺部(3b´´)の色相は異なり、かつ、濃度が淡く変化するのは情報部(3a´´)だけとなる。よって、透過光で観察した場合に第一の有意情報が不可視となるためには、第一の画像(3´´)の内部の濃度が淡く変化するだけでは不十分であり、色相の違いが認識できないほど極めて淡く変化して、第一の画像自体がほとんど不可視に近い状態となる必要がある。そのような効果を得るためには、第一の画像(3´´)をあらかじめ淡い反射濃度に制限して設計しておく必要がある。以上が、第一の画像(3)の構成によって、反射濃度の制限に違いが生じる理由である。
【0052】
以上のように、第一の画像(3)が、情報部(3a、3a´)と周辺部(3b、3b´)から成る場合は、第一の画像(3)中の最大反射濃度と最小反射濃度の差異を0.2以下とし、情報部(3a´´)のみから成る場合は、第一の画像(3)中の最大反射濃度と基材の反射濃度との差異を0.1以下とする必要がある。なお、本明細書でいう反射濃度とは、印刷の分野で一般に用いられている入射光に対する反射光の比率を指し、反射濃度計を用いて計測する反射濃度のCYMK色成分のうちの最も値の高い色成分の反射濃度を指すこととする。反射濃度計はグレタグマクベス社やX−rite社等が印刷物の反射濃度を管理するために販売している測定装置であり、印刷の分野においては一般的な装置である。
【0053】
以上のように、第一の画像(3)は、一定の階調表現域の範囲内であれば、ユーザーの希望する構成に応じて様々な形態を取り得る。
【0054】
図3に、以上の構成で形成した本発明の真偽判別用印刷物(1)の効果について示す。真偽判別用印刷物(1)に対する光源(4)と観察者の視点(5a)が、図3(a)に示すような位置関係、所謂、拡散反射光下での観察において、観察者(5a)には、第一の画像(3)が表す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が視認できる。
【0055】
また、真偽判別用印刷物(1)に対する光源(4)と観察者の視点(5b)が、図3(b)に示すような位置関係、所謂、透過光下での観察において、観察者(5b)には、第一の画像(3)の中の第一の有意情報は不可視となる。
【0056】
続いて、図4に、図2(b)で示した真偽判別用印刷物(1´)の効果について説明する。真偽判別用印刷物(1´)を図4(a)に示す拡散反射光下で観察した場合、観察者(5a´)には、第一の画像(3´)が表す第一の有意情報である人の顔が視認できる。
【0057】
また、真偽判別用印刷物(1´)に対する光源(4´)と観察者の視点(5b´)が、図4(b)に示す透過光下で観察した場合、観察者(5b´)には、第一の画像(3´´)の中の第一の有意情報は不可視となる。
【0058】
最後に、図5に、図2(c)で示した真偽判別用印刷物(1´´)の効果について説明する。真偽判別用印刷物(1´´)を図5(a)に示す拡散反射光下で観察した場合、観察者(5a´´)には、第一の画像(3´´)が表す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が視認できる。
【0059】
また、真偽判別用印刷物(1´´)に対する光源(4´´)と観察者の視点(5b´´)が、図5(b)に示す透過光下で観察した場合、観察者(5b´´)には、第一の画像(3´´)の中の第一の有意情報は不可視となる。
【0060】
以上のように、拡散反射光下で視認できていた第一の有意情報が、透過光下での観察において不可視となる原理について説明する。まず、拡散反射光下の観察において、第一の画像(3)は、情報部(3a)と周辺部(3b)とが濃淡差を有するか、あるいは基材(2)と色彩が異なるため、観察者には第一の画像(3)内の濃淡差か、基材(2)との色彩の違いによって第一の有意情報を視認できる。
【0061】
一方、透過光下の観察において、有色浸透インキで形成された第一の画像(3、3´)は、その色彩が淡く変化するために、画像全体の濃淡差が目視上圧縮される。そのため、第一の画像(3、3´)の中で一定の濃淡を有していた第一の有意情報を表す情報部(3a、3a´)はその周辺部(3b、3b´)と区別できなくなり、不可視となる。図2に示した周辺部(3b´´)が有色浸透インキで構成されない、第一の画像(3´´)の例では、その他の例よりも第一の画像(3´´)の濃度を淡く設計する必要があるが、基材(2´´)との反射濃度の差を0.1以下に留める限り、第一の画像(3´´)の濃淡が相対的に淡いために、透過光下では色相自体も把握できなくなり、基材(2´´)と第一の画像(3´´)の違いが認識できなくなり、第一の画像(3´´)自体が消失したように視認できる効果を得ることができる。
【0062】
以上の原理によって、拡散反射光下の観察において視認できていた第一の有意情報が、透過光下の観察において目視上不可視となる。なお、本発明における「拡散反射光下での観察」とは、観察者の視点(5a)が、正反射光がほとんど存在しない領域中にあって真偽判別用印刷物(1)を観察している状況を示しており、本発明における「透過光下での観察」とは、観察者の視点(5b)が、透過光下の領域中にあって真偽判別用印刷物(1)を観察している状況を示している。
【0063】
続いて、本発明の別の一形態について説明する。以下に説明する形態では、拡散反射光下の観察において視認できていた第一の有意情報が、透過光下の観察において目視上不可視となるだけでなく、透過光下の観察において、第一の有意情報とは異なる第二の有意情報が出現して視認できる、いわゆる画像のチェンジ効果を備えることを特徴とする。
【0064】
(実施の形態2)
図6に、本発明における真偽判別用印刷物(1´´´)を示す。真偽判別用印刷物(1´´´)は、基材(2´´´)中に印刷領域(6´´´)を備える。本発明の印刷領域(6´´´)とは基材(2´´´)の片側表面だけに存在するのではなく、当該領域の基材(2´´´)中及び正対した位置の基材(2´´´)の両面に存在することとする。印刷領域(6´´´)の範囲には特に制約はなく、その中に第一の画像(3´´´)と基材(2´´´)及び第二の画像(7´´´)が含まれていれば良い。説明の便宜上、図6の真偽判別用印刷物(1´´´)の中には、「A」及び「B」の文字が視認できるが、実際には基材(2´´´)の一方の面から拡散反射光下で観察した場合には「B」の文字は不可視である。真偽判別用印刷物(1´´´)は、基材(2´´´)の一方の面の印刷領域(6´´´)に第一の画像(3´´´)が形成され、基材(2´´´)の他方の面の印刷領域(6´´´)に第二の画像(7´´´)が形成されて成る。第一の画像(3´´´)と第二の画像(7´´´)は同じ面に形成してはならない。なお、これ以後、明細書において、第一の画像(3´´´)が形成された面を一方の面とし、第二の画像(7´´´)が形成された面を他方の面とする。
【0065】
図7(a)に第一の画像(3´´´)を示す。第一の画像(3´´´)の構成は、実施の形態1で説明したのと同じ構成をとる必要がある。すなわち、第一の画像(3´´´)は、基材と異なる色彩であって、第一の有意情報を表して成り、有色浸透インキで形成する必要があり、適正な濃淡の範囲内で形成する必要がある。また、本実施の形態における第一の有意情報とはアルファベットの「A」の文字である。
【0066】
図7(b)に第二の画像(7´´´)を示す。第二の画像(7´´´)は、第二の有意情報を表して成る。本実施の形態における第二の有意情報とはアルファベットの「B」の文字である。第二の画像(7´´´)は、光透過性の低いインキで形成する必要がある。色彩は特に問わないが、他方の面から反射光で観察した場合、第二の画像(7´´´)が不可視である特性をユーザーが要求するのであれば、透明か、基材(2)と等色な色彩のインキで形成する必要がある。それ以外の色彩で第二の画像(7´´´)を形成したい場合の構成については後記する。
【0067】
基材(2´´´)と等色な色彩とは、観察者が色彩を有する二つの観察対象を特に注意をせずに一瞥した場合に、二つの観察対象が異なった色彩ではなく、同じ色彩であると感じる状態のこととする。例えば、色差ΔEが5以下の値とする。また、本明細書において、「光透過性が低い」とは、透過光下で観察した場合に光を透過する割合が低く、非印刷部と比較して相対的に暗く見える特徴を指す。具体的には、400nmから700nmの可視光の透過率が、何も印刷が施されていない基材(2´´´)が露出した部位よりも10%以上低いこととする。
【0068】
このような光透過性を低くためには、第二の画像(7´´´)を構成するインキに光遮断性の高い金属顔料を添加することが最も容易である。光透過性が低い光遮断性の高い金属顔料としては、透明あるいは白色の顔料を配合すればよい。このような顔料としては、例えばチタンやアルミ等の金属顔料、シリカの機能性顔料が適している。
【0069】
図8に、本発明の真偽判別用印刷物(1´´´)の形成方法を示す。基材(2´´´)の印刷領域(6´´´)に対して、第一の画像(3´´´)を印刷領域(6´´´)の一方の面に形成し、印刷領域(6´´´)の他方の面に第二の画像(7´´´)を形成することで本発明の真偽判別用印刷物(1´´´)を得ることができる。
【0070】
なお、他方の面に第二の画像(7´´´)を形成する場合、実際の印刷する画像は、図9に示すように第二の画像(7´´´)をミラー反転させた第二の画像(7M´´´)とする必要がある。これは、一方の面から透過光で印刷領域(6´´´)を観察する場合、他方の面に形成された画像は必ずミラー反転された状態で観察されるためである。
【0071】
図10に、以上の構成で形成した本発明の真偽判別用印刷物(1´´´)の効果について示す。真偽判別用印刷物(1´´´)に対する光源(4´´´)と観察者の視点(5a´´´)が、図10(a)に示すような拡散反射光下での観察において、一方の面側から観察した場合、観察者(5a´´´)には、第一の画像(3´´´)が表す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が視認できる。
【0072】
また、真偽判別用印刷物(1´´´)に対する光源(4´´´)と観察者の視点(5b´´´)が、図10(b)に示すような透過光下での観察において、一方の面側から観察した場合、観察者(5b´´´)には、第二の画像(7´´´)が表す第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字が視認できる。
【0073】
以上のように、拡散反射光下での観察と透過光下での観察において、視認できる画像が異なる原理について説明する。まず、拡散反射光下の観察において、印刷領域(6´´´)中の第一の画像(3´´´)と第二の画像(7´´´)のうち、第二の画像(7´´´)は他方の面に形成されて成るために、一方の面からは不可視である。よって、印刷領域(6´´´)の中の第一の画像(3´´´)のみが視認でき、第一の有意情報が視認できる。
【0074】
一方、透過光下の観察において、有色浸透インキで形成された第一の画像(3´´´)は、その色彩が淡く変化するために不可視となり、一方の光透過性が低いインキで形成された第二の画像(7´´´)は、基材(2´´´)よりも暗く視認できる。よって、透過光下の観察において第二の有意情報のみが可視化される。 以上の原理によって、拡散反射光下の観察と、透過光下の観察において、印刷領域(6´´´)中に視認できる画像が、第一の有意情報から第二の有意情報へと変化する。
【0075】
本発明の真偽判別用印刷物(1´´´)を構成する第一の画像(3´´´)の構成は、前述で説明した構成と同一である。一方の第二の画像(7´´´)は、少なくとも20%以上の面積率で形成することが望ましい。これは、20%未満の面積率で形成した場合には透過光下で出現する第二の有意情報の視認性が低くなってしまうためである。
【0076】
また、拡散反射光下で他方の面側から印刷領域(6´´´)を観察した場合に第二の画像(7´´´)を観察者に見せてもよいとユーザーが考えるか、見せないほうが良いとユーザーが考えるかによって、取るべき構成が変化する。仮に、拡散反射光下で他方の面側から印刷領域(6´´´)を観察した場合に第二の画像(7´´´)を観察者に見せないほうが良いと考える場合、第二の画像(7´´´)は透明なインキを用いて形成するか、あるいは基材(2´´´)と等色な色彩のインキで形成して不可視とすることが望ましい。
【0077】
また、仮に、拡散反射光下で他方の面側から印刷領域(6´´´)を観察した場合に第二の画像(7´´´)が観察者に見られないほうが良いと考え、かつ、透過光下の観察において第二の画像(7´´´)の視認性をより高めたり、あるいは単純な色の濃淡で見せたりするのではなく、豊かな色彩を付与したいと考える場合、図11図12に示すような構成を用いることができる。
【0078】
図11に示す構成について説明する。図11に示す構成は、第二の画像(7´´´´)と対を成す、カモフラージュ画像(8´´´´)を形成した例である。カモフラージュ画像(8´´´´)は、第二の画像(7´´´´)の濃淡を反転させた特定の大きさの画像であって、有色浸透インキで形成する必要がある。なお、第二の画像(7´´´´)と等しい色彩を有していれば、前述の有色浸透インキと同じでも違う有色浸透インキでもよい。
【0079】
他方の面において第二の画像(7´´´´)とカモフラージュ画像(8´´´´)とが毛抜き合わせで嵌め合わさることで形成される嵌め合せ画像(9´´´´)は、他方の面から観察した場合に第二の画像(7´´´´)が不可視となった、濃淡の無い画像とすることができる。
【0080】
図11のように、印刷領域(6´´´´)にあたるエリアの大きさのカモフラージュ画像(8´´´´)を形成してもよいし、図12のように、基材(2´´´´´)の他方の面全面にわたってカモフラージュ画像(8´´´´´)を設けても良い。当然のことながら、印刷に用いる実際の版面上の画像は、カモフラージュ画像(8´´´´)もミラー反転された構成としておく必要がある。
【0081】
このような、第二の画像(7´´´´)をカモフラージュする構成を用いることで、第二の画像を隠蔽しつつ、第二の画像(7´´´´)を基材と異なる色彩とすることが可能と成る。例えば、基材と等しい色彩や透明な構成では透過光下の第二の画像(7´´´´)の視認性が低い場合、第二の画像(7´´´´)を灰色の光透過性の低いインキで形成し、カモフラージュ画像(8´´´´)を灰色の有色浸透インキで形成すればよい。このような場合、反射光下の観察においては、一方の面から見ても、他方の面から見ても第二の画像(7´´´´)は不可視であるが、透過光下の観察においては、透過率の違いによってカモフラージュ画像(8´´´´)のみが極端に淡くなる一方で、第二の画像(7´´´´)のみ色彩が変化せず、第二の画像(7´´´´)に着色した灰色の色彩が反映されることで、より視認性の高い画像として視認できる。
【0082】
また、例えば、透過光下の第二の画像(7´´´´)に赤色の色彩を付与したい場合、第二の画像(7´´´´)を赤色の光透過性の低いインキで形成し、カモフラージュ画像(8´´´´)を赤色の有色浸透インキで形成すればよい。このような場合、反射光下の観察においては、一方の面から見ても、他方の面から見ても第二の画像(7´´´´)は不可視であるが、透過光下の観察においては、透過率の違いによってカモフラージュ画像(8´´´´)のみが極端に淡くなる一方で、第二の画像(7´´´´)のみ色彩が変化せず、結果として第二の画像(7´´´´)が赤色に彩られた色彩表現の豊かな画像とすることができる。
【0083】
以下、前述の発明を実施するための最良の形態にしたがって、具体的に作製した真偽判別用印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。実施例1については図13から図14までを用いて説明し、実施例2については図15から図17を用いて説明し、実施例3については図18から図20を用いて説明し、実施例4については図21から図23を用いて説明する。
(実施例1)
【0084】
本実施例1は、真偽判別用印刷物(1−1)を、基材(2−1)上に第一の画像(3−1)だけを用いて形成した例である。
【0085】
図13に、本発明における真偽判別用印刷物(1−1)を示す。真偽判別用印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、淡い青色の色彩を有する第一の画像(3−1)が形成されて成る。基材(2−1)には、一般的な白色の上質紙(しらおい 日本製紙製)を使用した。
【0086】
第一の画像(3−1)は、淡い青色の色彩を有し、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表した情報部(3a−1)と、その周辺部(3b−1)からなる。本実施例において、第一の画像(3−1)の最大反射濃度と最小反射濃度の差異を0.1とした。具体的には、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表した情報部(3a−1)を網点面積率100%で構成し反射濃度0.2とし、その周辺部(3b−1)を網点面積率50%で構成し反射濃度0.1とした。
【0087】
以上の構成を成す第一の画像(3−1)を、表1に示す淡い青色の有色浸透インキで、ウェットオフセット印刷で基材(2−1)上に形成し、本発明の真偽判別用印刷物(1−1)を得た
【0088】
【表1】
【0089】
図14に、本発明の真偽判別用印刷物(1−1)の効果を示す。図14(a)に示すように、拡散反射光下の観察において、第一の画像(3−1)が表す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が淡い青色で視認でき、図14(b)に示すように、透過光下の観察において、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が不可視となった。以上のように、拡散反射光下で観察された第一の有意情報が、透過光下の観察において不可視となる効果を得ることができた。
(実施例2)
【0090】
本実施例2は、基材(2−2)の印刷領域(6−2)に第一の画像(3−2)と第二の画像(7−2)を形成して真偽判別用印刷物(1−2)を作製した例であって、真偽判別用印刷物(1−2)が画像の高度なチェンジ効果を備えた例である。
【0091】
図15に、本発明における真偽判別用印刷物(1−2)を示す。真偽判別用印刷物(1−2)は、基材(2−2)に印刷領域(6−2)を備え、印刷領域(6−2)の一方の面に、淡い青色の色彩を有する第一の画像(3−2)を有し、印刷領域(6−2)の他方の面に、第二の画像(7−2)を有する。基材(2−2)には、実施例1と同様に一般的な白色上質紙(しらおい 日本製紙製)を使用した。
【0092】
図16(a)に示す第一の画像(3−2)は、淡い青色の色彩を有し、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表した情報部(3a−2)と、その周辺部(3b−2)からなる。本実施例における第一の画像(3−2)の構成は、実施例1と全く同じであって、最大反射濃度と最小反射濃度の差異を0.1とした。具体的には、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表した情報部(3a−2)を網点面積率100%で構成し反射濃度0.2とし、その周辺部(3b−2)を網点面積率50%で構成し反射濃度0.1とした。以上の構成を成す第一の画像(3−2)を、表1に示した淡い青色の有色浸透インキで、ウェットオフセット印刷で印刷領域(6−2)の一方の面上に印刷した。
【0093】
続いて、図16(b)に示す第二の画像(7−2)は、網点面積率100%のベタで、基材と等しい色彩を成す白色で形成した。印刷する画像自体は第二の画像(7−2)をミラー反転させた画像とし、印刷インキとして、チタンを多く含有する白インキ(ベストワン GIGA 白 M−SOYA T&K TOKA製)を用いて、ウェットオフセット印刷で印刷領域(6−2)の他方の面上に印刷し、本発明の真偽判別用印刷物(1−2)を得た。
【0094】
図17に、本発明の真偽判別用印刷物(1−2)の効果を示す。図17(a)に示すように、拡散反射光下の観察において、第一の画像(3−2)が表す第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が淡い青色で視認でき、図17(b)に示すように、透過光下の観察において、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字が不可視となり、第二の画像(5−2)が表す第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字が暗い灰色で視認できた。以上のように、拡散反射光下の観察と、透過光下の観察において、それぞれ異なる画像にチェンジする効果を得ることができた。
(実施例3)
【0095】
本実施例3は、基材(2−3)の印刷領域(6−3)に第一の画像(3−3)と第二の画像(7−3)を形成して真偽判別用印刷物(1−3)を作製した例であって、第一の画像(3−3)及び第二の画像(7−3)のいずれもが豊かな階調を有する多階調画像であり、真偽判別用印刷物(1−3)が画像の高度なチェンジ効果を備えた例である。
【0096】
図18に、本発明における真偽判別用印刷物(1−3)を示す。真偽判別用印刷物(1−3)は、基材(2−3)に印刷領域(6−3)を備え、印刷領域(6−3)の一方の面に、淡い青色の色彩を有する第一の画像(3−3)を有し、印刷領域(6−3)の他方の面に、第二の画像(7−3)を有する。基材(2−3)には、これまでの実施例と同様に一般的な白色上質紙(しらおい 日本製紙製)を使用した。
【0097】
図19(a)に示す第一の画像(3−3)は、淡い青色の色彩を有し、第一の有意情報である人の顔を表した情報部(3a−3)と、その周辺部(3b−3)からなる。本実施例における第一の画像(3−3)の最大反射濃度と最小反射濃度の差異は0.15とした。具体的には、第一の画像(3−3)中の最大網点面積率を100%で反射濃度を0.25とし、最小網点面積率を50%で反射濃度0.1とした。以上の構成を成す第一の画像(3−3)を、表1に示した淡い青色の有色浸透インキで、ウェットオフセット印刷で印刷領域(6−3)の一方の面上に印刷した。
【0098】
続いて、図19(b)に示す第二の画像(7−3)は、第二の有意情報を鳳凰の画像とし、階調表現域100%で構成した。すなわち最大網点面積率は100%であり、最小の網点面積率は0%とし、基材と等しい色彩を成す白色で形成した。印刷する画像自体は第二の画像(7−3)をミラー反転させた画像とし、印刷インキとして、実施例2と同様にチタンを多く含有する白インキ(ベストワン GIGA 白 M−SOYA T&K TOKA製)を用いて、ウェットオフセット印刷で印刷領域(6−3)の他方の面上に印刷し、本発明の真偽判別用印刷物(1−3)を得た。
【0099】
図20に、本発明の真偽判別用印刷物(1−3)の効果を示す。図20(a)に示すように、拡散反射光下の観察において、第一の画像(3−3)が表す第一の有意情報である人の顔が淡い青色で視認でき、図20(b)に示すように、透過光下の観察において、第一の有意情報である人の顔が不可視となり、第二の画像(5−2)が表す第二の有意情報である鳳凰の画像が暗い灰色で視認できた。以上のように、拡散反射光下の観察と、透過光下の観察において、それぞれ異なる画像にチェンジする効果を得ることができた。
(実施例4)
【0100】
本実施例4は、基材(2−4)の印刷領域(6−4)に第一の画像(3−4)と第二の画像(7−4)を形成して真偽判別用印刷物(1−4)を作製した例であって、第一の画像(3−4)及び第二の画像(7−4)のいずれもが豊かな階調を有する多階調画像であり、かつ第二の画像(7−4)が透過光下で茶色の色彩を有することを特徴とする、真偽判別用印刷物(1−4)が画像の高度なチェンジ効果を備えた例である。
【0101】
図21に、本発明における真偽判別用印刷物(1−4)を示す。真偽判別用印刷物(1−4)は、基材(2−4)に印刷領域(6−4)を備え、印刷領域(6−4)の一方の面に、淡い青色の色彩を有する第一の画像(3−4)を有し、印刷領域(6−4)の他方の面に、淡い茶色の色彩の第二の画像(7−4)と、同じく淡い茶色の色彩のカモフラージュ画像(8−4)を有する。基材(2−4)には、これまでの実施例と同様に一般的な白色上質紙(しらおい 日本製紙製)を使用した。
【0102】
図22(a)に示す第一の画像(3−4)は、淡い青色の色彩を有し、第一の有意情報である人の顔を表した情報部(3a−4)と、その周辺部(3b−4)からなる。本実施例では、実施例2と同じく、第一の画像(3−4)の最大反射濃度と最小反射濃度の差異は0.15とした。具体的には、第一の画像(3−4)中の最大網点面積率を100%とし反射濃度を0.25とし、最小網点面積率を50%として反射濃度を0.1とした。以上の構成を成す第一の画像(3−4)を、表1に示した淡い青色の有色浸透インキで、ウェットオフセット印刷で印刷領域(6−4)の一方の面上に印刷した。
【0103】
続いて、図22(b)に示す第二の画像(7−4)は、第二の有意情報を鳳凰の画像とし、階調表現域100%で構成した。すなわち最大網点面積率は100%であり、最小の網点面積率は0%とし、淡い茶色で形成した。印刷する画像自体は第二の画像(7−4)をミラー反転させた画像とし、印刷インキとして、実施例3と同様にチタンを多く含有する白インキ(ベストワン GIGA 白 M−SOYA T&K TOKA製)に微量の茶色の着色顔料を極微量混合して、ウェットオフセット印刷で印刷領域(6−4)の他方の面上に印刷した。また、図22(c)に示すカモフラージュ画像(8−4)を表1に示す茶色の有色浸透インキを用いて、第二の画像(7−4)と完全に位置が重なり合うように毛抜き合わせで印刷し、本発明の真偽判別用印刷物(1−4)を得た。なお、実際に印刷する画像自体はカモフラージュの画像(8−4)をミラー反転させた画像とした。
【0104】
【表2】
【0105】
図23に、本発明の真偽判別用印刷物(1−4)の効果を示す。図23(a)に示すように、拡散反射光下の観察において、第一の画像(3−4)が表す第一の有意情報である人の顔が淡い青色で視認でき、図23(b)に示すように、透過光下の観察において、第一の有意情報である人の顔が不可視となり、第二の画像(7−4)が表す第二の有意情報である鳳凰の画像が茶色で視認できた。加えて、拡散反射光下の観察において他方の面から印刷領域(6−4)を観察した場合、印刷領域(6−4)は淡い茶色で塗りつぶされた嵌め合わせ画像(9−4)が視認でき、第二の画像(7−4)は不可視であった。以上のように、拡散反射光下の観察と、透過光下の観察において、それぞれ異なる画像にチェンジする効果を得ることができた。
【符号の説明】
【0106】
1、1´、1´´、1´´´、1−1、1−2、1−3、1−4 真偽判別用印刷物
2、2´´´、2−1、2−2、2−3、2−4 基材
3、3´、3´´、3´´´、3−1、3−2、3−3、3−4 第一の画像
3a、3a´、3a´´、3a−1、3a−2、3a−3、3a−4 情報部
3b、3b´、3b´´、3b−1、3b−2、3b−3、3b−4 周辺部
4、4´、4´´、4´´´、4−1、4−2、4−3、4−4 光源
5a、5a´、5a´´、5a´´´、5a−1、5a−2、5a−3、5a−4、5b、5b´、5b´´、5b´´´、5b−1、5b−2、5b−3、5b−4、5c−4
観察者の視点
6´´´、6−2、6−3、6−4 印刷領域
7´´´、7−3、7−4 第二の画像
7M´´´ ミラー反転した第二の画像
8´´´´、8´´´´´、8−4 カモフラージュ画像
9´´´´、9´´´´´、9−4 嵌め合わせ画像
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