特許第5958892号(P5958892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特許5958892凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠
<>
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000002
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000003
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000004
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000005
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000006
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000007
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000008
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000009
  • 特許5958892-凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958892
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】凍結中子の製造方法及びそれに用いられる中子造型用型枠
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20160719BHJP
   B22C 9/04 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B22C9/02 101B
   B22C9/04 M
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-11413(P2012-11413)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-146783(P2013-146783A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年9月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(72)【発明者】
【氏名】多田 周二
(72)【発明者】
【氏名】尾村 直紀
(72)【発明者】
【氏名】村上 雄一朗
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−335894(JP,A)
【文献】 特開昭58−074243(JP,A)
【文献】 特開昭57−149045(JP,A)
【文献】 特開昭61−095740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷気を通気可能な中子造型用型枠に水分を含む原料砂を充填し、中空部が被鋳造材と接しない面である中空形状の充填物を得る工程(1)と、
その側板に穴を有する外枠に、前記穴と前記充填物の前記中空部が連通するように前記中子造型用型枠を挿入する工程(2)と、
前記充填物を冷却する工程(3)と、を有し、
前記中空部から中子の表面へ向かって冷気が通気される工程によって凍結を行い、凍結させた前記水分を結合材として強度を確保する凍結中子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)が、充填した前記原料砂の砂粒間に冷気を通過させることにより、前記水分を凍結する工程である請求項1に記載の凍結中子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(3)が、前記充填物を凍結するための冷気を、前記外枠の前記側板に存在する前記穴から導入することによって、前記冷気を前記充填物の前記中空部に導入し、前記充填物の内部を通って、前記中子造型用型枠に当設する表面から排出させる工程である請求項1に記載の凍結中子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の凍結中子の製造方法に用いられる、ポリエチレン粉末の焼結体からなる通気性を有する中子造型用型枠
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造品を製造する際に鋳型として使用される凍結中子の製造方法及びそれに用いる材料に関する。更に詳しくは、良好な鋳肌を有する鋳造品の製造を可能とする凍結中子の製造方法及びそれに用いる材料に関する。
【背景技術】
【0002】
凍結鋳型による鋳造は、その作業工程で発生する振動、騒音、粉塵、臭気等の産業公害を大幅に低減することができるという優れた特長を有し、未来型の鋳造システムとして大きな注目を集めている。鋳型を効率よく凍結する方法として、差圧を利用することにより、冷気を砂粒間に通気する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2937749号明細書
【特許文献2】特許第3425527号明細書
【0004】
上述の方法を採用することにより、凍結鋳型の生産時間を短縮することが可能である。しかしながら、上述の方法で凍結した鋳型は、冷気の上流にあたる面と下流にあたる面とでは状態が異なり、冷気の上流側では水分が減少して砂粒間の結合力が低下することがある。また、冷気の上流側にあたる表面は、必ずしも良好な状態が得られるとは限らない。
【0005】
母型のように、鋳型の片面にしか溶湯が触れない場合は、溶湯と接触する鋳型の表面を冷気の下流側になるように凍結して鋳型を製造できるので、それほど問題とはならない。しかし、中子のように、全体が溶湯でくるまれる場合には、溶湯と冷気の上流側に当たる表面の接触が必ず発生するので、良好な表面を有する鋳造品を製造することができない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、差圧を利用した鋳型の凍結方法に関して、溶湯と接触する全ての表面が良好な状態を確保できる凍結中子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは良好な鋳肌を実現する凍結中子の製造方法について鋭意検討した結果、中子を中空形状とし、中子の中心部から表面へ向かって冷気を通気するよう通気方法を工夫することによって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下に示す凍結中子の製造方法及びそれに用いる材料が提供される。
【0009】
[1]冷気を通気可能な中子造型用型枠に水分を含む原料砂を充填し、中空部が被鋳造材と接しない面である中空形状の充填物を得る工程(1)と、その側板に穴を有する外枠に、前記穴と前記充填物の前記中空部が連通するように前記中子造型用型枠を挿入する工程(2)と、前記充填物を冷却する工程(3)と、を有し、前記中空部から中子の表面へ向かって冷気が通気される工程によって凍結を行い、凍結させた前記水分を結合材として強度を確保する凍結中子の製造方法。
【0010】
[2]前記工程(3)が、充填した前記原料砂の砂粒間に冷気を通過させることにより、前記水分を凍結する工程である前記[1]に記載の凍結中子の製造方法。
【0011】
[3]前記工程(3)が、前記充填物を凍結するための冷気を、前記外枠の前記側板に存在する前記穴から導入することによって、前記冷気を前記充填物の前記中空部に導入し、前記充填物の内部を通って、前記中子造型用型枠に当設する表面から排出させる工程である前記[1]に記載の凍結中子の製造方法。
【0013】
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の凍結中子の製造方法に用いられる、ポリエチレン粉末の焼結体からなる通気性を有する中子造型用型枠
【発明の効果】
【0014】
本発明の凍結中子の製造方法は、差圧を利用した鋳型の凍結方法において、溶湯と接触する全ての表面が良好な状態である凍結中子を製造することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明の材料は、差圧を利用した鋳型である凍結中子の製造方法において、中子造型用型枠として好適に用いることができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の凍結中子の製造方法に係る中子造型用型枠の一例を示す模式図である。
図2】本発明の凍結中子の製造方法において、中空部形成用成形体を配置した中子造型用型枠に原料砂を充填した状態の一例を示す模式図である。
図3】本発明の凍結中子の製造方法において、外枠に中子造型用型枠を挿入した状態の一例を示す模式図である。
図4A】本発明の凍結中子の製造方法において、製造した凍結中子の一例を示す模式図である。
図4B】本発明の凍結中子の製造方法において、製造した凍結中子を長手方向に切断し、冷気の上流側と下流側を示す模式図である。
図5】本発明の凍結中子の製造方法で製造した凍結中子により、製造した鋳造品の鋳肌状態を示す模式図である。
図6】本発明の凍結中子の製造方法で製造した凍結中子により、製造した鋳造品を示す模式図である。
図7】本発明の材料の一例の外観を示す模式図である。
図8】本発明の材料を用いて、中子造型用型枠を構成した状態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に含まれることが理解されるべきである。
【0018】
1.凍結中子の製造方法:
本発明の凍結中子の製造方法は、冷気を通気可能な中子造型用型枠に水分を含む原料砂を充填し、中空形状の充填物を得る工程(1)と、その側板に穴を有する外枠に、穴と充填物の中空部が連通するように中子造型用型枠を挿入する工程(2)と、充填物を冷却する工程(3)と、を有し、凍結させた水分を結合材として強度を確保する方法である。
【0019】
1)充填物が中空形状であり、2)外枠の穴と充填物の中空部が連通するように中子造型用型枠を外枠に挿入しているので、充填物の中心部から表面へ向かって径方向に冷気を通気することができる。そのため、差圧を利用した鋳型の凍結方法において、溶湯と接触する全ての表面が良好な状態である凍結中子を製造することができる。
【0020】
1−1.工程(1):
工程(1)は、冷気を通気可能な中子造型用型枠に水分を含む原料砂を充填し、中空形状の充填物を得る工程である。中空形状の充填物を得る方法は特に制限される物ではない。例えば、図2に示すように、中空部形成用成形体(丸棒4)を配置した中子造型用型枠に水分を含む原料砂5を充填した後、中空部形成用成形体を抜き取ることで、中空形状の充填物を得ることができる。また、中子造型用型枠に水分を含む原料砂を充填した後、中空部に該当する部分の原料砂をくりぬくことで、中空形状の充填物を得ることができる。これらの中でも、中空部が均一に形成できることから、中空部形成用成形体を配置した中子造型用型枠に水分を含む原料砂を充填した後、中空部形成用成形体を抜き取ることで、中空形状の充填物を得ることが好ましい。
【0021】
原料砂は、特に限定されるものではない。例えば、従来の鋳物用砂として使用されるケイ砂を使用することができる。ケイ砂の粒径は、通常、70〜300μmであり、150〜250μmであることが好ましい。なお、ケイ砂の粒径はフィルターで振るい分けした際に規定される値であり、通常、市販品等に物性値として記載されている。原料砂に含まれる水分は、重量割合で、通常3〜10%程度であり、4〜10%程度であることが好ましい。水分の重量割合が10%超であると、鋳造品を製造する際に、凍結中子から水蒸気が吹き出す危険性が高まる場合がある。一方、水分の重量割合が3%未満であると、凍結中子の強度が十分ではない場合がある。
【0022】
中空部形成用成形体は、充填物に中空部を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、材質でいうと、木製やプラスチック等を採用することができる。また、中空形状も特に限定されるものではなく、円柱状、角柱状、球状等、冷気を導入することができる限り、任意の形状であってもよい。
【0023】
中子造型用型枠は、冷気を通気可能な構成である限り特に限定されるものではない。例えば、図1に示すように、2枚ずつの中子造型用型枠板A、B(1、2)でその側面を形成し、各板にベントホール3を設けた中子造型用型枠8を用いることができる。また、図7に示すような、ポリエチレン粉末を焼結することによって得られる通気性を有する板11で、中子造型用型枠を構成することもできる。通気性を有する板11で焼結ポリエチレン製中子造型用型枠12を構成する場合、板そのものが通気性を有するので、図8に示すように、各板に別途ベントホールを形成する必要がない。
【0024】
1−2.工程(2):
工程(2)は、その側板に穴を有する外枠に、穴と充填物の中空部が連通するように中子造型用型枠を挿入する工程である。図3に示すように、穴と充填物の中空部が連通するように中子造型用型枠8を外枠6に挿入することで、充填物の被鋳造材と接しない中空部側を冷気が通気する上流側とすることが可能となり、目的とする、溶湯と接触する全ての表面が良好な状態である凍結中子を製造することができる。
【0025】
外枠6は、中子造型用型枠8を内部空間に配置でき、外枠内を減圧した際に中子造型用型枠の表面全体から冷気が排出することができる程度の空間を有すればよい。具体的には、内部空間については、中子造型用型枠と同じ長さを有することが好ましい。また、中子製造用型枠を取り出しやすいよう、少なくとも一部、中子造型用型枠よりも幅が広い箇所を設けることが好ましい。更に、中子造型用型枠が挿入できるように、十分な深さを有することが好ましい。このような構成で外枠に中子造型用型枠を挿入すると、冷気を通気可能な側面は外枠と接触することがないので、中子造型用型枠の表面全体から均一に冷気を排出し充填物の被鋳造材と接する表面を冷気が通気する下流側とすることができる。
【0026】
また、外枠は穴以外から冷気が導入されないよう、通気性がないものが好ましい。但し、外枠の内部を減圧できるよう、少なくとも一面から冷気を吸引できる構成とすることが好ましい。このような構成は特に限定されるものではなく、例えば、切れ込みを形成する等の構成を採用することができる。
【0027】
1−3.工程(3):
工程(3)は、充填物を冷却する工程である。冷却は、充填物を構成する原料砂に含まれる水分を凍結させ、結合材として強度を確保することができるように行う必要がある。なお、充填した原料砂の砂粒間に冷気を通過させることにより、水分を凍結することが好ましい。
【0028】
工程(3)は、充填物を凍結するための冷気を、被鋳造材と接する全ての面に対して下流側となるよう通気する工程であることが好ましい。より具体的には、外枠の側板に存在する穴から冷気を導入して、充填物の中空部に冷気を導入し、充填物の内部を通って、中子造型用型枠に当設する表面から冷気が排出される工程であることが好ましい。
【0029】
なお、導入した冷気は、充填物を通気した後、中子造型用型枠を通気し、外枠内部から外部に排出されることが好ましい。このように、外枠から外部に排出されることで、冷気の循環効率を上げることができ、効率的に充填物を冷却することができる。
【0030】
冷気の温度は、原料砂に含まれる水分を凍結することができる温度であればよい。より具体的には、−20℃以下であることが好ましく、−30℃以下であることが更に好ましい。なお、冷却後の取り扱いやエネルギー効率の観点から、温度の下限値はだいたい−40℃である。
【0031】
2.材料:
材料は、「1.凍結中子の製造方法」に記載の、中子造型用型枠に用いられるものであり、ポリエチレン粉末を焼結することによって得られる通気性を有するものである。ポリエチレン粉末は、焼結後の通気性を確保できる限り、特に限定されるものではなく、その粒径が120〜180μm程度の市販品のポリエチレン粉末を使用することができる。
【0032】
作製方法も特に限定されるものではない。例えば、所望とする形状に合致するアルミニウム合金製の型にポリエチレン粉末を充填し、加熱することで作製することができる。なお、加熱条件は使用するポリエチレン粉末の性状(粒径等)によって適宣設定する必要がある。これは、高温であるほど、また長時間加熱するほど、焼結が進行し、通気性が低下するからである。但し、焼結が不十分であれば強度が確保できないという問題があることから、例えば、中心粒径が120〜180μm程度のポリエチレン粉末を使用する場合、140〜150℃で、2〜3時間加熱することで作製することができる。
【0033】
なお、本発明の材料は、「1.凍結中子の製造方法」に記載の中子造型用型枠に用いることに加えて、母型を製造する際に使用する凍結鋳型を作製するための型枠等にも好適に利用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
中心砂粒径が150〜250μmの6号けい砂に、水分量が重量割合で4〜10%となるよう水を添加し、混練機で3分程度撹拌することにより、凍結中子造型用の原料砂を調製した。この原料砂5を図1に示すような中子造型用型枠8に充填した。ここで、中子造型用型枠8は、内部空間が30×30×106mmとなるよう、2枚ずつの中子造型用型枠板A、B(1、2)を組み合わせて作製した。なお、それぞれの中子造型用型枠板A、B(1、2)には直径20mm、スリット幅0.28mmのプラスチック製ベントホール3(開口率12%)を3個ずつ埋め込み、3.55%の開口率を付与して通気性を確保した。
【0036】
続いて、図2に示すよう、通気性を確保した中子造型用型枠8の中心に、中空部形成用成形体である直径16mmの丸棒4を立て、その隙間に調製した原料砂5を手で押し固めながら充填した。充填量は、およそ100gであった。
【0037】
砂を充填した後、丸棒を抜き、中子造型用型枠ごと外枠に挿入した。外枠6は、図3に示すように、内寸が幅80×長さ96×高さ80mmの空間を有し、長さ方向に両側に5mmずつの切り込みを設け、中子造型用型枠8を挿入した時に両端が内壁に密着し、外枠6の中央に位置するよう調整した。中子造型用型枠8が密着する外枠6の側板には、冷気が充填物の中心部へ導入されるように、その中心が中子造型用型枠8の中心軸と一致するよう直径30mmの穴を開けておいた。中子造型用型枠8を挿入した後、外枠6に外枠蓋7をして冷凍庫内に入れ、冷気吸引用テーブルに静置した。この時、外枠6の底部は開放しておき、ここから減圧吸引すると、外枠6の側板に開けた穴から冷気が入り、充填物の中心部から表面へ向かって冷気が流れた。
【0038】
充填物の凍結は、温度を−30℃以下に保持した冷凍庫内で、減圧法により充填物内へ20分間冷気を導入することにより行った。凍結作業完了後、冷凍庫から取り出し、抜型を行って鋳型である凍結中子9の表面状態を観察した。作製した凍結中子及びこれを二つに切断し、外側(冷気の下流側22)と内側(冷気の上流側21)とで表面状態を比較した。これを図4A及び図4Bに示す。この図面から、本発明の凍結中子の製造方法によって、表面が冷気の下流側22となるように作製した凍結中子9は、良好な表面状態を呈していることが確認できた。
【0039】
(鋳造試験)
実施例1で製造した凍結中子9により鋳造試験を行った。凍結鋳型に凍結中子9をセットし、溶解したピューター合金を注湯して得られた鋳造品10の模式図を図5に示す。このとき、本来は溶湯が入り込まない中子の内側へも湯が回るようにし、実施例1で製造した凍結中子における冷気の上流側31と下流側32との鋳肌状態の比較を行った。この結果から、凍結中子9を用いて鋳造した鋳造品10の鋳肌は、冷気の上流側31と下流側32とでは状態が大きく異なり、凍結中子9の溶解したピューター合金と接する面を冷気の下流側32の面とすることにより、良好な表面状態を確保できることが明らかである。また、凍結中子9の内側へ湯を回さずに鋳造した鋳造品20の模式図を図6に示す。中空形状を有する凍結中子9であっても、鋳造時に型崩れは発生せず、所望の鋳物形状が得られることを確認できた。
【0040】
(実施例2)
中心粒径が120〜180μmのポリエチレン粉末をアルミニウム合金製の型に充填し、145〜150℃の温度で1〜2時間保持することにより、図7に示すような焼結ポリエチレン板11を焼結した。従来のベントホールを設けた板の代わりに、この焼結ポリエチレン板11を母型作製用の鋳型造型枠の底板に適用し、減圧吸引による鋳型の凍結試験を行った。その結果、該焼結ポリエチレン板は十分な通気性を有し、ベントホール加工を行わなくとも減圧吸引による鋳型へ冷気を導入できることが可能であることを確認できた。そこで、図8に示すように、該焼結ポリエチレン板11により、図1と同形状の焼結ポリエチレン製中子造型用型枠12を作製し、実施例1と同様の方法で充填物の凍結を行ったところ、凍結中子を良好に製造できた。
【0041】
本発明の凍結中子の製造方法により製造した凍結中子は、鋳造品の鋳肌を好適な状態とする上で優れた効果を発揮する。通常、鋳造品の鋳肌は鋳型の表面が転写されたものとなる。したがって、砂型鋳造品に対し所望の鋳肌を実現するためには、鋳造時に溶湯と接する砂粒がさらわれないよう堅固な面を形成することが重要となる。減圧吸引による凍結法では、通気の下流側となる型枠面に対して砂が密に詰まった状態となり、凍結した水分によって強固に結合されるため、鋳造時の砂の流動が抑制される。即ち、溶湯と接する全ての面を通気の下流側とすることで、良好な鋳肌が得られるものと考えられる。
【0042】
本発明の凍結中子の製造方法により製造した凍結中子は、鋳肌状態を向上させるという利点のみならず、その崩壊性の良さから型ばらし作業の効率改善にも寄与するものである。これまで、砂型鋳造で課題とされてきた作業環境を改善しながら良好な鋳造品を実現し、生産効率のアップにも直結する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、産業技術の根底を支える鋳造分野に対し、きわめて大きな効果をもたらすものである。
【符号の説明】
【0044】
1:中子造型用型枠板A、2:中子造型用型枠板B、3:ベントホール、4:丸棒、5:原料砂、6:外枠、7:外枠蓋、8:中子造型用型枠、9:凍結中子、10,20:鋳造品、11:焼結ポリエチレン板、12:焼結ポリエチレン製中子造型用型枠、21,31:上流側、22,32:下流側
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8