特許第5959017号(P5959017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959017
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】気泡除去方法および気泡除去装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   B01D19/00 Z
   B01D19/00 B
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-527965(P2013-527965)
(86)(22)【出願日】2012年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2012069344
(87)【国際公開番号】WO2013021849
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-175640(P2011-175640)
(32)【優先日】2011年8月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 修一
(72)【発明者】
【氏名】森 秀樹
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/018972(WO,A1)
【文献】 特表昭58−500601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剪断が生じると粘度が低下する液体から気泡を除去する気泡除去方法であって、
可動部を有して容積が変化できる容器を用い、
前記液体を前記容器の内部に入れるとともに、前記容器の容積を増加および減少させて前記容器の内部を減圧および加圧することにより、前記液体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を移動させて除去する気泡除去方法において、
前記容器の複数箇所から前記容器の内部を減圧および加圧することを特徴とする気泡除去方法。
【請求項2】
前記容器として、液体入口および複数の液体出口を有し且つ容積が変化できる容器を用いると共に、前記容器の内部と外部との間での前記液体の流通に抵抗を与える手段を用い、
前記液体が前記容器の内部を前記抵抗に抗して通過するようにするとともに、前記容器の容積を増加および減少させて前記容器の内部を減圧および加圧することにより、前記液体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を特定の液体出口に移動させて、気泡を除去する気泡除去方法において、
前記容器の複数箇所から前記容器の内部を減圧および加圧することを特徴とする請求項1に記載の気泡除去方法。
【請求項3】
前記容器の複数箇所から前記容器の容積を増加および減少させるタイミングを互いに異ならせることを特徴とする請求項1または2に記載の気泡除去方法。
【請求項4】
可動部を有して容積が変化できる構造を有する容器を用い、前記容器内に非ニュートン流体が流れるようにし、前記容器内の容積を振動により変化させて前記容器内の減圧と加圧とを行い、これにより前記非ニュートン流体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を移動させて除去する気泡除去方法であって、
前記容器の複数箇所から前記容器内の減圧と加圧とを行うことを特徴とする気泡除去方法。
【請求項5】
前記容器として、1つまたは複数の入口ならびに2つ以上の出口を備えた容積が変化できる構造を有する容器を用い、前記容器内に非ニュートン流体が流れるようにし、前記容器内の容積を振動により変化させて前記容器内の減圧と加圧とを行い、これにより前記非ニュートン流体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を特定の出口に移動させて、気泡を連続的に除去する気泡除去方法であって、
前記入口部および前記出口部のそれぞれに備えた流れの抵抗を保つための手段により前記容器内部の圧力変化を保持しつつ、前記容器の複数箇所から前記容器内の減圧と加圧とを行うことを特徴とする請求項4に記載の気泡除去方法。
【請求項6】
前記複数箇所からの振動の位相をずらすまたは周波数を異ならせることにより前記容器の内部の液体に往復流れを生じさせることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の気泡除去方法。
【請求項7】
剪断が生じると粘度が低下する液体を容れるための、可動部を有して容積が変化できる容器と、
前記容器に対して作動して前記容器の容積を増加および減少させる容積変化手段と、を備え、
前記容積変化手段は、前記容器の複数箇所において前記容器の容積を増加および減少させる作動を行うことで、前記液体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、前記気泡を移動させて除去することを特徴とする気泡除去装置。
【請求項8】
前記容器は、液体入口および複数の液体出口を有し且つ容積が変化できる容器であり、
当該気泡除去装置は、前記容積変化手段が前記容器の容積を増加および減少させると前記容器の内部が減圧および加圧されるように、前記容器の内部と外部との間での前記液体の流通に抵抗を与える手段を備えたことを特徴とする請求項7に記載の気泡除去装置。
【請求項9】
前記容積変化手段は、前記容器の複数箇所において前記容器の容積を増加および減少させるタイミングを互いに異ならせることを特徴とする請求項7または8に記載の気泡除去装置。
【請求項10】
前記容積変化手段は、振動によって前記容器の容積を増加および減少させるものであって、前記複数箇所からの振動の位相をずらすまたは周波数を異ならせることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1つに記載の気泡除去装置。
【請求項11】
可動部を有して容積が変化できる構造を有する容器と、
前記容器内の粘性流体の容積を振動により変化させて前記容器内の減圧と加圧とを行うための複数の振動発生器と、を備え、
前記容器内に流れる粘性の容積を振動により変化させて前記容器内の減圧と加圧を行い、これにより前記粘性流体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を移動させて除去する気泡除去装置であって、
前記複数の振動発生器は、前記容器の複数箇所に設けられ、それぞれの振動発生器による振動の位相をずらすまたは周波数を異ならせることにより前記容器の内部の液体に往復流れを生じさせることを特徴とする気泡除去装置。
【請求項12】
前記容器は、1つまたは複数の入口ならびに2つ以上の出口を備えた容積が変化できる構造を有する容器であって、
当該気泡除去装置は、前記容器の内部の圧力変化を保持するために、前記入口部および前記出口部のそれぞれに設けられた、流れの抵抗を保つための手段を備え、
当該気泡除去装置は、前記容器内に流れる粘性の容積を振動により変化させて前記容器内の減圧と加圧を行い、これにより前記粘性流体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を特定の出口に移動させて、気泡を連続的に除去することを特徴とする請求項11に記載の気泡除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に含まれる気泡を除去する方法、および液体に含まれる気泡を除去する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高粘性流体の気泡の除去は、その粘性のため、容易ではなく、さまざまな脱泡方法が用いられてきた(特許文献1〜6、非特許文献1、2参照)。
【0003】
このような従来の技術に対し、液体に含まれる気泡を効率良く除去するため、本出願人は、特許文献7に記載の「気泡除去方法および気泡除去装置」を出願した。このものは、1つまたは複数の入口ならびに2つ以上の出口を備えた容積が変化できる構造を有する容器を用い、容器内に非ニュートン流体が流れるようにし、容器内の非ニュートン流体の容積を振動により変化させて容器内の減圧と加圧とを行い、これにより非ニュートン流体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を特定の出口に移動させて、気泡を連続的に除去する気泡除去方法であって、入口部および出口部のそれぞれに備えた流れの抵抗を保つための手段により容器内部の圧力変化を保持しつつ、容器内の減圧と加圧とを行うことを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−144104号公報
【特許文献2】特開平7−100423号公報
【特許文献3】特開平8−187404号公報
【特許文献4】特開平8−131711号公報
【特許文献5】特開2007−54680号公報
【特許文献6】実開平5−51405号公報
【特許文献7】国際公開第2011/018972号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】2005年、泡のエンジニアリング、石井 淑夫ら編、テクノシステム
【非特許文献2】岩田修一、内田信悟、石田和人、森秀樹共著、化学工学論文集、第33巻、第4号、2007年、294〜299ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献5、7に記載の「気泡除去方法および気泡除去装置」によれば、液体に含まれる気泡を除去できるが、その気泡の除去をさらに効率良く行う必要がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液体に含まれる気泡をさらに効率良く除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、剪断が生じると粘度が低下する液体を容器の内部に入れるとともに、容器の容積を増加および減少させて容器の内部を減圧・加圧することにより、液体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を移動させて除去する気泡除去方法において、前記容器の複数箇所から容器の内部を減圧および加圧することを特徴とする。
【0009】
これによると、容器の内部を通過する液体に含まれる気泡の体積を増加・減少させることにより気泡の自然上昇速度を増加させることができるので、気泡を効率良く除去することができる。
【0010】
本発明の上記した特徴は、以下のようにして具体的に行うことができる。すなわち、容器の複数箇所から容器内の液体の容積を振動により変化させて容器内の減圧と加圧とを行い、複数箇所からの振動の位相をずらずまたは周波数を異ならせる。
【0011】
なお、本発明における「剪断が生じると粘度が低下する液体」とは、剪断速度の全範囲において溶液の粘度が剪断によって下がる液体のみを意味するものではなく、剪断速度の一部の範囲において溶液の粘度が剪断によって下がる液体をも含む意味のものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態における連続脱泡装置の全体構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態における溶液のレオロジー特性を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態における一定圧力条件における気泡の軌跡を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態における同位相における圧力振動条件における気泡の軌跡を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態における気液分岐部における気泡の移動位置を定義する図である。
図6】本発明の第1実施形態における圧力振動の位相の違いが流路分岐部における気泡移動への影響を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態における圧力振動の周波数の違いが流路分岐部における気泡移動への影響を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
(第1実施形態)
この第1実施形態では、気泡を装置内部で発生させ、本発明を用いない場合での気泡の移動軌跡と、本発明を用いた場合の気泡の移動軌跡を比較し、本発明の効果を説明する。
【0015】
図1に示すように、装置は、容器1と、振動発生器2a、2bと、高圧マイクロフィーダー3と、ビーカーを載せた電子天秤4,5とからなる装置を用い、容器1中の気泡を一方の出口に移動させることにより気泡を分離する。具体的には、容器1には、1つの液の入口(液体入口)と2か所の液の出口(液体出口)A,Bがあり、可視化用のサイトグラス6により気泡の軌跡を確認することができる。
【0016】
出口Aは、容器1の上方側部位に位置する上方側出口であり、出口Bは、出口Aよりも下方側に位置する下方側出口である。高圧マイクロフィーダー3は、容器1の入口に液体を送る。容器1の入口に送られた液体は、容器1の内部を出口A、Bに向かって流れる。
【0017】
2つの振動発生器2a、2bは、それぞれ容器1の下端部を構成する2つの膜状の可動部11a、11bに接続されており、容器1に圧力振動(内圧振動)を与える。本例では、容器1の一部である可動部11a、11bはそれぞれゴム等の弾性体で構成されており、振動発生器2a、2bは容器1の可動部11a、11bを弾性変形させるようになっている。これにより、容器1の容積を増加・減少させることができる。
【0018】
可動部11a、11bの配置およびそれに関連する構成について、以下更に説明する。可動部11a、11bは、容器1の下部において互いに異なる箇所に配置されている。具体的には、図1に示されているように、容器1内部には、入口から出口Aおよび出口Bに液体を送るための主流路1cと、当該主流路1cと連通しながら当該主流路1cから分岐して下に延びる2つの追加部1a、1bとが設けられている。そして、主流路1c中の液体の入口から出口A、Bへの流れ(図1中左から右への流れ)において、追加部1aが追加部1bよりも上流側から分岐している。これら追加部1a、1bも、主流路1cと同様、液体で満たされる。
【0019】
追加部1a、1bが主流路1cから分岐して延びる方向が下方向なのは、この追加部1a、1bに満たされる液体に気泡が入り込む可能性を低減するためである。
【0020】
また、この追加部1a、1bの下端部に、それぞれ可動部11a、11bが配置されている。これにより、振動発生器2a、2bは、容器1の互いに異なる2つの箇所から容器1内の液体に圧力振動を印加することで容器1の容積を増加および減少させることができる。そして、振動発生器2aが印加した圧力振動は、主流路1c中の液体の流れにおいて、振動発生器2bが印加した圧力振動よりも上流側から主流路1cに伝わる。
【0021】
なお、本例では、主流路1cの外縁の断面形状は1辺7mmの正方形となっているが、本発明はこのようなものに限られるわけではない。また、主流路1cと追加部1aの分岐位置から主流路1cと追加部1bの分岐位置までの、主流路1cに沿った間隔は、110mmとなっているが、本発明はこのようなものに限られるわけではない。
【0022】
また、容器1に接続された配管部にバルブ(絞り弁)7,8,9を設置し、それらの弁開度を調節する(弁開度を非常に小さく絞る)ことにより、容器1の圧力振動(内圧振動)を保持することと、出口側の流量比を設定する。
【0023】
バルブ7,8,9の弁開度を非常に小さく絞っているので、バルブ7,8,9の流路抵抗は非常に大きくなる。これにより、振動発生器2が容器1の容積を増加・減少させると、容器1の内部が減圧・加圧されることとなる。高圧マイクロフィーダー3は、バルブ7,8,9の流路抵抗に抗して液体を圧送する。
【0024】
すなわち、バルブ7,8,9は、容器1の内部と外部との間での液体の流通に抵抗を与える手段をなし、高圧マイクロフィーダー3は、液体がバルブ7,8,9の抵抗に抗して容器1の内部を通過するように液体を圧送する手段をなす。
【0025】
2つの振動発生器2a、2bは、それぞれ位相を調整することができる。同位相で作動させると、容器1の下部に取付けられた2つの膜状の可動部を同位相で容器1に圧力振動(内圧振動)を与える。位相をずらして作動させると、容器1には圧力振動(内圧振動)を与えるとともに圧力振動の与え方の違いから容器内部に膜状の可動部の間に流れが生じる。
【0026】
本例では、高圧マイクロフィーダー3の圧送圧力を0.4〜5気圧程度にしているが、これ以下またはこれ以上の圧送圧力にしてもよい。好ましい圧送圧力は、気泡の大きさや振動発生器2の能力と関係がある。すなわち、大きな気泡は容易に収縮するので、高圧マイクロフィーダー3の圧送圧力が低くても大きな気泡の脱泡効果を得ることができる。また、振動発生器2a、2bの能力が高ければ、高圧マイクロフィーダー3の圧送圧力が高くても気泡を膨張・収縮することができるので脱泡効果を得ることができる。
【0027】
なお、高圧フィーダー脱泡用の気泡の導入については、所定の時間だけ定電圧発生装置10を通電し、容器1内部に取付けられた電極より気泡を発生させる方法を用いた。
【0028】
なお、サイトグラスと、定電圧発生装置と、電極については、気泡の分離効果を検証するために用いたものであり、本発明の方法ならびに装置には必ずしも必要ではない。
【0029】
本実施形態で説明に用いた試料(高粘性流体)は、0.900wt%ポリアクリル酸ナトリウム水溶液であり、粘度曲線を図2に示す。図2からわかるように、本試料(0.900wt%ポリアクリル酸ナトリウム水溶液)は、剪断速度が非常に小さい場合には、253Pa・sの粘度を示すと共に、剪断速度(Shear rate)の増加に伴い粘度(Shear viscosity)が低下する性質(Shear thinning性)を有している。
【0030】
ここで、連続脱泡における好ましい態様の一つにおいては、溶液の粘度が剪断によって下がることである。換言すれば、溶液としては、剪断が生じると粘度が低下する液体が好適である。
【0031】
なお、溶液としては、剪断速度の全範囲において溶液の粘度が剪断によって下がる液体に限定されず、剪断速度の一部の範囲において溶液の粘度が剪断によって下がる液体であればよい。すなわち、気泡近傍に発生する剪断速度の範囲内において、溶液の粘度が剪断によって下がるようになっていればよい。したがって、溶液としては、非ニュートン流体やビンガム塑性流体等が好適である。
【0032】
しかし、粘度が剪断に依存しないニュートン流体でも本実施形態による脱泡効果は期待できる。粘性流体としては、塗料、コーティング剤、ポリマー、ペースト、スラリーなど、このような粘性流体の要件を満たしていればよい。
【0033】
振動を与える周波数は、本実施形態では、300Hzを用いたが、好ましくは4000Hz以下の低周波であればよい。例えば150Hzでもよい。すなわち、剪断により気泡近傍の流体粘性が下がれば良いのであり、これには振動の周波数、圧力変動幅、位相のすべてが関係する。
【0034】
300Hzの圧力振動を与える場合と与えない場合について、気泡の移動特性を比較した。図1の紙面裏側より,ストロボライトを周波数301Hzで照射し、その様子は、紙面表側にセットした高解像度デジタルビデオカメラにより撮影した。2台の電子天秤を用い、出口の流量をそれぞれ測定した。
【0035】
はじめに、圧力振動を与えていない圧力一定条件において、気泡が出口Bに流れていくように、下流側(出口A、B側)のバルブ8,9の弁開度をそれぞれ調節した。上流側(入口側)のバルブ7も差圧を付ける様に絞った。本例では、バルブ7,8,9の全開時の開度を100%としたとき、入口側のバルブ7の開度を4%、出口A側のバルブ8の開度を0.4%、出口B側のバルブ9の開度を3.6%に絞った。
【0036】
この時の供給流量は6ml/minであり、流量比は出口A:出口B=1:9であった。図3は、一定圧力下での容器内部における気泡の軌跡である。気泡径は1.65mmである。粘度が高く自然上昇速度は極めて小さく、気泡はほぼ水平に出口Aに向かって移動する。出口Bに流れる液体の流量が多いため、最終的には出口Bに移動した。
【0037】
図4は、圧力一定条件と流量を同じに設定し、2つの振動発生器を同周波数かつ同位相で作動させ、圧力振動を与えた時の気泡の軌跡である。図中の細破線は、前述の図3における気泡の軌跡である。圧力振動を与えることにより、圧力一定条件の軌跡と異なり、容器の上側に気泡が少しずつ移動した。その後、出口Aに向って気泡は移動した。出口Bから流出する液は連続脱泡装置の処理液(製品)を想定しており、本発明により気泡除去が可能であることを示した。
【0038】
続いて、ファンクションジェネレータを用い、2つの振動発生器の周波数を同じにして位相をδだけずらして作動させ、圧力振動を与えた。気泡除去性能を評価する指標として、図5に示すように気液分離部における気泡の位置hを流路高さHで正規化した無次元気泡高さh/Hを用いた。流量は圧力一定条件と同じである。ここで、位相δが90°とは、振動発生器2aの位相が振動発生器2bよりも90°進んだ状態で作動することを意味する。また、気泡が排出されるまでδの値は固定されている。
【0039】
図6は、各位相における気液分離部における無次元気泡高さを示す図である。本実施形態で用いた振動周波数は300Hzである。位相0°(同位相)と位相180°(逆位相)を比較すると、同位相の方が気液分離部における気泡高さは大きく、脱泡効率が向上していることがわかる。これは、同位相では、容器弾性体に同じタイミングで容器体積を増加・減少することができ、容器内部への圧力振動が大きい。これにより気泡が膨張・収縮によって生じる近傍の強い膨張・収縮流れが溶液粘度を低下させた。一方、逆位相では、往復流れは生じるものの容器体積の増加・減少効果は小さい。
【0040】
さらに、位相δが90°の時には、同位相の時よりも効果が高かった。これは、小さな位相差を与えた状況では、十分な容器体積の増加・減少を確保することが可能であり、容器内部への圧力振動が大きい。さらに、気泡の往復移動に伴う気泡近傍の流れが効果的に加わり、脱泡効果を向上させたことが考えられる。
【0041】
上記した現象は以下のメカニズムにより生じるものと考えられる。
【0042】
2つの振動発生器が同じ位相で作動する場合、図1の振動発生器2aと振動発生器2bは容器の一部である弾性体をそれぞれ同時に加圧と減圧が行われる。たとえば、振動発生器2aと振動発生器2bの間に存在する気泡は2つの振動発生器から均等に加圧と減圧が行われるため、気泡の中心位置は、高圧マイクロフィーダーによる流れによる移動を除くと、ほとんど変化しない。そのため、気泡を囲む液体の流れは膨張と収縮による単純な流れが主体である。
【0043】
次に、2つの振動発生器の位相が異なる場合、図1の振動発生器2aと振動発生器2bは、容器の一部である弾性体を異なるタイミングで加圧と減圧が行われる。たとえば、振動発生器2aの位相よりも振動発生器2bの位相がわずかに進む場合、振動発生器2aが減圧過程から加圧過程に変わるタイミングでは、振動発生器2bはすでに加圧が行われている。その瞬間では、振動発生器2bから振動発生器2aへの流れが存在する。次に、振動発生器2aが加圧から減圧に変化するタイミングでは、振動発生器2bはすでに減圧過程に進んでいる。その瞬間では、振動発生器2aから振動発生器2bへの流れが存在する。そのため、振動発生器の一周期の過程の間に、気泡の中心位置は、振動発生器2bから振動発生器2aへの液体の流れが発生するタイミングと、振動発生器2aから振動発生器2bへの液体の流れが発生するタイミングが存在する。
【0044】
2つの振動発生器の位相差がわずかである場合、容器1の気泡を囲む液体の流れは、同位相の時の膨張と収縮による流れに加えて、往復の液体の流れが存在するため、気泡の近傍ではより複雑な流れを呈することが推察される。このことは、複雑な流れが生じることは、剪断速度を増加することを意味しており、図2の剪断粘度特性より気泡を囲む液体の粘度が下がるため、気泡上昇が促進される。
【0045】
本実施形態では、容器1に配管部が接続されているので容器1が密閉されていない。このような非密閉の容器1においては、バルブ7,8,9が設置されていない場合、もしくはバルブ7,8,9が設置されていてもバルブ7,8,9の弁開度が大きくされている場合には、振動発生器2a、2bによって容器1の容積を増加・減少させると、その分、容器1の内部と外部との間で液体が出入りしてしまうので、容器1の内部を減圧・加圧することができない。
【0046】
この点、本実施形態では、バルブ7,8,9の弁開度を非常に小さく絞って流通抵抗を非常に大きくしているので、容器1の容積を増加・減少させた場合に、それに伴う容器1の内部と外部との間での液体の出入りを抑制できる。具体的には、容器1の容積を増加させた場合に容器1内に液が流入するのを抑制でき、容器1の容積を減少させた場合に容器から液が流出するのを抑制できる。このため、非密閉の容器1の内部を減圧・加圧することができる。
【0047】
その結果、容器が密閉されている上記特許文献5と同様に粘性流体に含まれる気泡の体積を増加・減少させることができる。気泡の体積が増加・減少することと往復流れの存在により、気泡周囲に剪断流れが発生する。この剪断によって粘性流体の見かけ粘度が低下するので、気泡の自然上昇に対する粘性抵抗が減少して、気泡の自然上昇速度が増加する。
【0048】
一方、高圧マイクロフィーダー3は、バルブ7,8,9の流路抵抗に抗して液体を圧送するので、液体が容器1の内部を入口から出口A,Bへとほぼ一定の流量で通過することができる。このため、出口Aに向って気泡を移動させることができるので、出口Bからは気泡が除去された粘性流体が流出することとなる。
【0049】
すなわち、本実施形態によると、容器1の容積を増減させても液の流量がほぼ一定に保たれる(容器1内の液の量がほぼ一定に保たれる)ので、容器1の容積を増減させると容器の内圧が増加・減少する。
【0050】
このため、液体が非密閉の容器1の内部を通過するようにすることと、容器1の容積を増加・減少させて容器の内部を減圧・加圧することとを両立して、連続的に気泡を除去することができる。したがって、上記特許文献5のような密閉容器を用いたバッチ式の気泡除去方法に比べて気泡を効率良く除去することができる。
【0051】
(第2実施形態)
この第2の実施形態では、図1に示す連続気泡分離装置を用い、圧力振動発生器の周波数をわずかに変化させた。
【0052】
第1実施形態と同様に気泡を容器に発生させた。この時の供給流量は6ml/minであり、流量比は出口A:出口B=1:10であった。気泡径は1.8mmである。振動発生器2aには300Hzの圧力振動を、振動発生器2bには300+βHzの圧力振動をそれぞれ与えた。図7に示すように、β=0の時は、第1実施形態のδ=0の場合と同じである。βが小さな値では、気液分離部における無次元高さh/Hの増加が見られ、さらにβが大きくなると無次元高さh/Hは減少した。周波数の差がβHzでは、1秒間にβ回の頻度で振動発生器が同じ位相が得られる。完全な逆位相になる瞬間も含まれるが、少し異なる位相差となる状態がより多く存在するため、適切なβを用いれば、無次元高さh/Hが上昇する。したがって、わずかに異なる周波数を振動発生器に与えることにより、気泡を効率良く除去することができる。
【0053】
この第2実施形態において、振動発生器2aと振動発生器2bの動作周波数がわずかに異なる場合、位相差が周期的に変化する。周波数の差が1Hzである場合、1秒間に360°の位相が変化する。第1実施形態のように位相差を与える場合には、その位相差により気泡上昇速度の促進効果大きい場合と小さい場合があるが、周波数の異なる場合には、それらの平均的な効果が得られることが期待される。
【0054】
上記第1〜第2実施形態によれば、以下に記載の種々の特徴を有する。
【0055】
上記第1〜第2実施形態は、剪断が生じると粘度が低下する液体から気泡を除去する気泡除去方法であって、
液体入口および複数の液体出口を有し且つ容積が変化できる容器と、容器の内部と外部との間での液体の流通に抵抗を与える手段とを用い、
液体が容器の内部を抵抗に抗して通過するようにするとともに、複数の場所から容器の容積を増加・減少させ、容器の内部を減圧・加圧させるとともに往復流れを生じさせることを特徴とする。
【0056】
これによると、容器の内部を通過する液体に含まれる気泡の体積を増加・減少させながら往復流れを生じさせることにより気泡の自然上昇速度を増加させることができるので、気泡を効率良く除去することができる。
【0057】
上記第1〜第2実施形態は、1つまたは複数の入口ならびに2つ以上の出口を備えた容積が変化できる構造を有する容器を用い、容器内に非ニュートン流体が流れるようにし、容器内の非ニュートン流体の容積を複数の場所から振動により変化させて容器内の減圧と加圧と往復流れを生じさせ、これにより非ニュートン流体に含まれる気泡の体積を増加、減少させるとともに気泡中心位置が往復移動させることにより、気泡を特定の出口に移動させて、気泡を連続的に除去する気泡除去方法であって、
入口部および出口部のそれぞれに備えた流れの抵抗を保つための手段により容器内部の圧力変化と往復流れを保持しつつ、容器内の減圧と加圧と往復流れを行うことを特徴とする。
【0058】
上記第1〜第2実施形態は、容器の複数箇所から容器内の液体の容積を振動により変化させて容器内の減圧と加圧とを行い、複数箇所からの振動の位相をずらずまたは周波数を異ならせることにより容器の内部の液体に往復流れを生じさせることを特徴とする。
【0059】
上記第1〜第2実施形態は、容器の内部の流路の構造に気泡を含む流れと気泡を含まない流れに分岐する手段を備えて、気泡を連続的に除去する。
【0060】
上記第1〜第2実施形態は、液体入口および複数の液体出口を有し且つ容積が変化できる容器と、
容器に対して作動して容器の容積を増加・減少させる容積変化手段と、
容積変化手段が容器の容積を増加・減少させると容器の内部が減圧・加圧されるように、容器の内部と外部との間での液体の流通に抵抗を与える手段と、を備え、
容積変化手段は、容器の複数箇所において容器の容積を増加・減少させる作動を行うもので、それぞれの作動タイミングを異ならせることにより容器の内部の液体に往復流れを生じさせることを特徴とする。
【0061】
容積変化手段は、位相または周波数の異なる低周波振動によって容器の容積を増加・減少させるものであるのが好ましい。
【0062】
上記容積が変化できる構造は、容器の一部が弾性体になっていることによって構成され、容積変化手段は、弾性体を弾性変形させるものである。
【0063】
上記第1〜第2実施形態は、液体が抵抗に抗して容器の内部を通過するように液体を圧送する手段を備える。
【0064】
上記第1〜第2実施形態は、複数の液体出口として、容器の上方側部位に位置する上方側出口と、上方側出口よりも下方側に位置する下方側出口とを有し、容器の内部を減圧・加圧させることにより、上方側出口に気泡を移動させる。
【0065】
上記第1〜第2実施形態は、1つまたは複数の入口ならびに2つ以上の出口を備えた容積が変化できる構造を有する容器と、
容器内の粘性流体の容積を振動により変化させて容器内の減圧と加圧とを行うための振動発生器と、
容器の内部の圧力変化を保持するために、入口部および出口部のそれぞれに設けられた、流れの抵抗を保つための手段と、を備え、
容器内に流れる粘性の容積を振動により変化させて容器内の減圧と加圧を行い、これにより粘性流体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を特定の出口に移動させて、気泡を連続的に除去する気泡除去装置であって、
振動発生器は、容器の複数箇所に設けられ、それぞれの振動発生器による振動の位相をずらずまたは周波数を異ならせることにより容器の内部の液体に往復流れを生じさせることを特徴とする。
【0066】
上記第1〜第2実施形態は、容器の内部の流路の構造に気泡を含む流れと気泡を含まない流れに分岐する構造を備える。
【0067】
また、上記実施形態の容器1は、膜状の可動部11a、11bを有し、この膜状の可動部11a、11bの振動によって容器1内の容積が可変となっていた。しかし、容積が変化できる容器は、必ずしもこのようなものに限らない。例えば、上記膜状の可動部11a、11bに代えて、追加部1a、1bのそれぞれに液密に嵌って上下動可能なピストンを有する容器を、採用することもできる。
【0068】
また、上記各実施形態では、振動発生器2a,2bのそれぞれが、位相または周波数をずらした連続的かつ周期的な圧力振動を容器内の液体に印加するようになっている。しかし、必ずしもこのようになっていなくてもよい。例えば、振動発生器2a,2bに代えてランダムにパルス振動を発生する2つのパルス発生器を用いて、可動部11a、11bからそれぞれ異なるタイミングで容器1内のパルス的な加圧および減圧を行うようになっていても、上記実施形態と同様の効果を得ることができると考えられる。
【0069】
つまり、本発明は、複数の容積変化手段(例えば、上記振動発生器2a、2b、パルス発生器等)を用いて、容器1の複数箇所から容器1の内部を減圧および加圧すると共に、当該容器1の複数箇所から容器1の容積を増加および減少させるタイミングを互いに異ならせるようになっていれば充分である。
【0070】
さらに、容積変化手段は、容器1の異なる位置から同一タイミングで(例えば、同一周波数かつ同一位相の連続振動で)容器1の内部を減圧および加圧するだけでも、単一の位置から容器1の内部を減圧および加圧する場合に比べて高い脱泡効果を得ることができる。
【0071】
なぜなら、振動源の性能等による限界から、1箇所から減圧および加圧するときの出力(体積変化量、加圧力等)には限界があるので、複数箇所から減圧および加圧すれば、全体としてはその限界を超えた出力で液体を減圧および加圧することができるからである。
【0072】
また、複数の振動源を、入口から出口までの液体の流れの上流および下流に配置することで、入口から出口までの液体を送る流路(上記実施形態では主流路1c)を長くしても、容器内の各所に振動を効率良く(すなわち、減衰を抑えて)伝えることができる。したがって、入口から出口までの液体を送る流路を長くして、その流路の上流と下流に振動源を配置することで、気泡が圧力振動を充分受けつつ移動できる経路長を伸ばすことができ、ひいては、気泡の上昇量を大きくすることができる。
【0073】
また、液体内に気泡が複数個存在した場合を想定すると、1つの振動源から印加された圧力振動は、その振動源に最も近い気泡の体積変化によって消費されてしまい、他の気泡まで充分届かなくなってしまう。つまり、1つの振動源から印加された圧力振動は、その振動源に最も近い気泡によって遮蔽されてしまう。これに対し、複数の振動源を用いて位置の異なる複数箇所(上流と下流であってもよいし、そうでなくてもよい)から容器1内の液体に圧力振動を印加した場合は、液体内に気泡が複数個存在していても、それら複数個の気泡のそれぞれに充分な圧力振動を印加できる可能性が高くなる。
【0074】
また、位置の異なる複数箇所(上流と下流であってもよいし、そうでなくてもよい)から容器1内の液体に同周波数かつ同位相の圧力振動を印加した場合、振動源の異なる圧力振動が液体内で干渉し合うことになる。したがって、液体中の複数の位置において、異なるタイミングで圧力振動が印加されたのと同等の効果が局所的に実現すると考えられる。
【0075】
また、上記実施形態では、液体を入れる容器として、液体入口および複数の液体出口を有する容器を用いるとともに、当該容器の内部と外部との間での液体の流通に抵抗を与える手段(バルブ7,8,9)とを用い、液体が当該容器の内部を抵抗に抗して通過するようにするとともに、容器の容積を増加および減少させて容器の内部を減圧および加圧することにより、液体に含まれる気泡の体積を増加、減少させ、気泡を特定の液体出口に移動させて、気泡を除去するようになっている。
【0076】
しかし、必ずしもこのような容器を用いる必要はなく、例えば、特許文献5に記載のような、液体が流通するようになっていないシリンジ(単なる密封容器)に対し、薄膜が複数箇所に設けられるような変更を施したものを容器として用いてもよい。すなわち、このシリンジに液体を充填し、液体を当該シリンジ内に止めたままで(つまり、当該液体が当該シリンジ内を通過するようにするのではなく)、複数箇所の薄膜から容器の内部を減圧および加圧するようになっていてもよい。このような方法でも、従来に比べて気泡が上方に移動し、液体中から気泡を除去できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7