特許第5959114号(P5959114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 明治薬科大学の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧 ▶ 公益財団法人東京都医学総合研究所の特許一覧

特許5959114リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途
<>
  • 特許5959114-リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途 図000014
  • 特許5959114-リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途 図000015
  • 特許5959114-リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途 図000016
  • 特許5959114-リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途 図000017
  • 特許5959114-リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959114
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20160719BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20160719BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20160719BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160719BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20160719BHJP
   C12N 9/38 20060101ALN20160719BHJP
   C12N 9/40 20060101ALN20160719BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20160719BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160719BHJP
【FI】
   A61K37/02ZNA
   A61K37/54
   A61P3/00
   A61P43/00 111
   !C07K14/47
   !C12N9/38
   !C12N9/40
   !C12N9/16 Z
   !C12N15/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-514954(P2013-514954)
(86)(22)【出願日】2011年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2011077290
(87)【国際公開番号】WO2012157136
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2014年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-112875(P2011-112875)
(32)【優先日】2011年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集(平成23年3月5日)社団法人日本農芸化学会発行第152ページ(2A37p20)に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 BMB2010(第33回日本分子生物学会・第83回日本生化学会合同大会)オンライン要旨閲覧システム(平成22年11月19日)にて発表(3P−0032)<http://www.aeplan.co.jp/bmb2010/index.html>
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度〜平成23年度、独立行政法人医薬基盤研究所、保険医療分野における基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】505082350
【氏名又は名称】学校法人 明治薬科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 均
(72)【発明者】
【氏名】兎川 忠靖
(72)【発明者】
【氏名】月村 考宏
(72)【発明者】
【氏名】千葉 靖典
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 徹
(72)【発明者】
【氏名】川島 育夫
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−523648(JP,A)
【文献】 RYOICHI KASE., et al.,Only sphingolipid activator protein B (SAP-B or saposin B) stimulates the degradation of globotriaosylceramide by recombinant human lysosomal arufa-galactosidase in a detergent-free liposomal system,FEBS Lett.,1996年,vol.393, no.1,p.74-76
【文献】 SANDHOFF K., et al.,Processing of sphingolipid activator proteins and the topology of lysosomal digestion,Acta Biochim. Pol.,1998年,vol.45, no.2,p.373-384
【文献】 J. Biol. Chem. (2009) vol.284, no.14, p.9372-9381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/47
C12N 9/00−9/99
A61K 38/00
A61K 38/46
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質と、酵素補充療法用のリソソーム酵素とを含むことを特徴とする、リソソーム病治療用医薬組成物。
【請求項2】
リン酸化糖鎖がマンノース-6-リン酸である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組換えヒトサポシンBタンパク質の分子内に存在する全糖鎖中の前記リン酸化糖鎖の含有割合が、25%以上である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
リソソーム酵素が、α-ガラクトシダーゼ、アリルサルファターゼA及びβ-ガラクトシダーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
リソソーム病が、ファブリー病、シアリドーシス、異染性白質ジストロフィー、サポシンB欠損症及びGM1ガングリオシドーシスからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
リソソーム酵素がα-ガラクトシダーゼであり、リソソーム病がファブリー病である、請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化糖鎖(例えばマンノース−6−リン酸)を含む組換えヒトサポシンBタンパク質、及びその用途に関する。詳しくは、当該組換えタンパク質を含むリソソーム酵素活性化剤やリソソーム病治療用医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内小器官のひとつであるリソソーム(ライソゾーム)には、数多くの酸性加水分解酵素が存在し、細胞内外からリソソームに取り込まれたタンパク質、脂質、糖、あるいはそれらが複合した物質の分解を担っている。これらのリソソーム酵素や酵素の活性化および安定化に関与する因子、あるいはそれらをリソソームへ輸送する機構に関与する因子の遺伝的欠陥により、リソソーム内で酵素反応が進行せず、細胞内に基質が蓄積して起こる一連の疾患群は「リソソーム病」と呼ばれている(Leroy J.G.and DeMars R.I.,Mutant Enzymatic and Cytological Phenotype in Cultured Human Fibroblasts,Science,157,804−806(1967))。リソソーム病に関しては、ヒトでは40種類程度知られており、小児科や内科領域で重要な疾患群のひとつとなっている。これらの疾患に対する根本的治療法の開発については、骨髄移植や遺伝子治療等が試みられてきた。その中で、現在最も有効な治療法として、酵素補充療法が行われている。
酵素補充療法とは、リソソーム病の患者に対して欠損した酵素を体外から投与する方法であり、大量に蓄積していた基質を分解し、病態を改善することができる。補充用酵素は、胎盤から精製する方法、繊維芽細胞、メラノーマ細胞等の培養細胞を利用した生産法、昆虫細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の培養細胞を用いた組換え法、トランスジェニックウサギの乳から得る方法、酵母で生産する方法などが報告されているが、現在上市されているリソソーム病治療薬のほとんどは、CHO細胞かヒト皮膚由来繊維芽細胞を宿主として、組換え体として生産されたものである。
リソソーム病の一種であるファブリー病(Fabry Disease;遺伝性α−ガラクトシダーゼA欠損症)は、α−ガラクトシダーゼ(α−ガラクトシダーゼA)の活性が低下し、生体内基質であるグロボトリオシルセラミド(Gb3、CTH(セラミドトリヘキソシド))が体内に蓄積するX染色体の遺伝病である(Kenneth J.Dean et al.,Fabry Disease,”Practical Enzymology of the Sphingolipidoses”,U.S.A.,Aln R.Liss,Inc.,1997,p.173−216)。典型的な経過をとる「古典型」ファブリー病患者は、少年期から青年期に、四肢疼痛、被角血管腫や低汗症が出現し、年齢が進むと腎障害や心および脳血管障害を起こす。近年、比較的軽症で、壮年期以後に心筋障害を主微とする「亜型」ファブリー病の存在が知られるようになり、これらの患者が「心筋症」を擬診される患者群の中に隠れていることが報告され、注目されている。
ところで、ファブリー病や異染性白質ジストロフィー、GM2ガングリオシドーシスなどのリソソーム病では、スフィンゴ脂質(主にスフィンゴ糖脂質)を分解する酵素が欠損している。これらの酵素が糖脂質に作用する場合、非酵素の糖タンパク質が必要であり、これらは、スフィンゴ脂質活性化タンパク質と呼ばれる。スフィンゴ脂質活性化タンパク質としては、一連の活性化タンパク質サポシンの前駆体であるプロサポシンと、GM2活性化タンパク質がある。前者はプロサポシンが限定分解を受け、サポシンA,B,C,Dの活性化タンパク質が生成される。ヒトでは10番目の染色体上に存在しており、58kDaのプロサポシンとして翻訳される。それぞれのサポシンのアミノ酸配列は高い相同性を持っているにもかかわらず、基質特異性が異なり、特異的な糖脂質を認識し、その分解を促進することが分かっている(Kolter,T.and Sandhoff,K.,Lysosomal degradation of membrane lipids.FEBS Lett,2010.584(9):p.1700−1712.)。サポシンAはガラクトシルセラミド−β−ガラクトシダーゼによるガラクトシルセラミドの分解に、サポシンBはアリルスルファターゼAによるスルファチドの分解、α−ガラクトシダーゼによるグロボトリアオシルセラミド、ジガラクトシルセラミドの分解、またガングリオシドGM1をGM2活性化タンパク質と一緒に分解を行う(Wilkening,G.,et al.,Degradation of membrane−bound ganglioside GM1.Stimnulation by bis(monoacylglycero)phosphate and the activator proteins SAP−B and GM2−AP.J Biol Chem,2000.275(46):p.35814−35819.)。サポシンCはグルコシルセラミド−β−グルコシダーゼによるグルコシルセラミドの分解を、サポシンDはin vitroで酸性セラミダーゼによるセラミドの分解を行う。プロサポシンの欠損症は極めてまれであるが、プロサポシンをコードする遺伝子に変異がある場合、上記の酵素反応が起こらなくなるため、重篤な症状を示す。
サポシンBは結晶構造が報告されており(Ahn,V.E.,et al.,Crystal structure of saposin B reveals a dimeric shell for lipid binding.Proc Natl Acad Sci USA,2003.100(1):p.38−43.)、また最近の研究ではCD1dとNKT cellとの認識を助けるといった報告もある(Yuan,W.,et al.,Saposin B is the dominant saposin that facilitates lipid binding to human CD1d molecules.Proc Natl Acad Sci USA,2007.104(13):p.5551−5556.)。前述の通り、サポシンBはプロサポシンから生成するため、サポシンBのみの欠損は極めてまれであるが、変異によりエクソンスキップが起こり、サポシンBのみを欠損した患者も存在し、リソソーム病の1つである異染性白質ジストロフィー様の病像を呈することが知られている(Sun,Y.,et al.,Neurological deficits and glycosphingolipid accumulation in saposin B deficient mice.Hum Mol Genet,2008.17(15):p.2345−2356.)。
ファブリー病などでは既に酵素補充療法が行われているが、リン酸が付加した糖鎖を有するリソソーム酵素の含有量が低いためリソソームへの取り込み効率が悪いことや生産性が低く、培養コストが高いなどの理由で、1)大量投与が必要で、2)抗原性も懸念され、3)治療コストがかかるなどの問題点がある。これらを解決すべく、これまでに、遺伝的改変を行った酵母を利用しα−ガラクトシダーゼの糖鎖にマンノース−6−リン酸を増加させる方法が報告されている(特開2002−369692号公報)。また副作用を軽減する観点から、一次構造及び高次構造が類似した酵素の活性中心に変異を導入し、基質特異性を変化させることで新たな補充療法用酵素を開発した例もある(国際公開第2008/143354号)。
【発明の概要】
【0003】
このような状況下において、リソソーム病に対する酵素補充療法による治療効果を、より一層高める手段や方法の開発が望まれていた。
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質、リソソーム酵素活性化剤、及びリソソーム病治療用医薬組成物等を提供するものである。
(1)リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質。
当該組換えタンパク質において、リン酸化糖鎖としては、例えばマンノース−6−リン酸が挙げられる。
(2)上記(1)に記載の組換えタンパク質を含むことを特徴とする、リソソーム酵素活性化剤。
当該活性剤において、リソソーム酵素としては、例えば酵素補充療法用のものが挙げられ、具体的にはα−ガラクトシダーゼ、アリルサルファターゼA、シアリダーゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ及びβ−ガラクトシダーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、特にα−ガラクトシダーゼが好ましい。
(3)リソソーム酵素及び/又は当該酵素をコードする遺伝子と、上記(1)に記載の組換えタンパク質及び/又は当該タンパク質をコードする遺伝子とを含むことを特徴とする、リソソーム病治療用医薬組成物。
上記(3)の組成物としては、特に、リソソーム酵素と上記(1)に記載の組換えタンパク質とを含むリソソーム病治療用医薬組成物が好ましく挙げられる。
上記(3)の組成物において、リソソーム酵素としては、例えば酵素補充療法用のものが挙げられ、具体的にはα−ガラクトシダーゼ、アリルサルファターゼA及びβ−ガラクトシダーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また、リソソーム病としては、例えばファブリー病、シアリドーシス、異染性白質ジストロフィー、サポシンB欠損症及びGM1ガングリオシドーシスからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なかでも、リソソーム酵素がα−ガラクトシダーゼであり、リソソーム病がファブリー病であることが好ましい。
(4)上記(1)に記載の組換えタンパク質を含む、及び/又は、上記(1)に記載の組換えタンパク質をコードする遺伝子を含むことを特徴とする、リソソーム病治療用医薬組成物。
上記(4)の組成物において、リソソーム病としてはサポシンB欠損症が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、TRY131株の培養上清を用いたウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
図2は、TRY144株の培養上清を用いたウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
図3は、TRY144株から精製したサポシンBに対するレクチンブロット解析の結果を示す図である。具体的には、左側のレーンではマンノシダーゼ未処理のサポシンBを、右側のレーンではマンノシダーゼ処理後のサポシンBをそれぞれ泳動し、レクチンブロット解析を行った結果を示す図である。
図4は、in vitroにおけるα−ガラクトシダーゼのグロボトリオシルセラミド(Gb3)分解活性を誘導するサポシンBの効果を示す図である。具体的には、薄層クロマトグラフィーによるGb3の解析結果(37□、24時間後のGb3及び分解生成物の検出結果)を示す図であり、図中の各レーンはそれぞれ以下のとおりである。
レーンStds:セラミドモノヘキソシド(CMH)、セラミドジヘキソシド(CDH)、Gb3及びグロボテトラオシルセラミド(Gb4)の標準品
レーン1:Gb3標準品
レーン2:Gb3のみ(酵素(α−ガラクトシダーゼ)なし)
レーン3:Gb3+タウロデオキシコレート(TDC)
レーン4:Gb3+サポシンB
レーン5:Gb3+酵素
レーン6:Gb3+酵素+TDC
レーン7:Gb3+酵素+サポシンB
図5は、マウスへのサポシンBと酵素(α−ガラクトシダーゼ)との同時投与による腎臓に蓄積するグロボトリオシルセラミド(Gb3)の分解効果を示す図である。具体的には、腎臓Gb3の薄層クロマトグラフィーによる解析結果を示す図であり、図中の各レーンはそれぞれ以下のとおりである。
レーンStds:CMH、CDH、Gb3及びGb4の標準品
レーン1:Gb3標準品
レーン2:未処理の野生型マウスの腎臓
レーン3:未処理のファブリー病モデルマウスの腎臓
レーン4:酵素単独投与後のファブリー病モデルマウスの腎臓
レーン5:酵素及びサポシンB同時投与後のファブリー病モデルマウスの腎臓
レーン6:サポシンB単独投与後のファブリー病モデルマウスの腎臓
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明にかかる組換えヒトサポシンBタンパク質及びその用途について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2011−112875号明細書(2011年5月19日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用した特許文献、非特許文献その他の刊行物は、参照として本明細書に組み込まれるものとする。
1.本発明の概要
本発明者は、前述した酵素補充療法における従来の問題点及び課題を解決する方法として、スフィンゴ脂質活性化タンパク質であるサポシンBを、補充療法用リソソーム酵素と併せて投与することに着目した。その場合、サポシンBを大量発現することが必要となる。サポシンBの大量発現系については、既に大腸菌やメタノール酵母での報告例があるが、これらはいずれも構造解析に用いるタンパク質の発現を目的とするものであり、酵素補充療法における酵素との併用投与のためのタンパク質発現を目的としたものではなかった。そのため、発現させたタンパク質について、実際に細胞に取り込ませるための検討はされておらず、また細胞内への取り込み効率も低いため、酵素との併用投与による酵素補充療法に適したものではなかった。
そこで本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、リン酸化糖鎖(具体的にはマンノース−6−リン酸)を含有するサポシンBを得ることに成功し、このサポシンBとリソソーム酵素(α−ガラクトシダーゼ等)とを併用投与すること等で、より一層効率よく、細胞内に蓄積したグロボトリオシルセラミド(Gb3)を分解することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
2.リン酸化糖鎖含有組換えヒトサポシンBタンパク質
本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質は、前述のとおり、リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質である。
ここで、リン酸化糖鎖としては、具体的にはマンノース−6−リン酸が挙げられる。また、当該組換えヒトサポシンBタンパク質は、その分子内に有する全糖鎖中におけるリン酸化糖鎖の含有割合(糖鎖数としての含有割合)は、特に限定はされないが、5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上である。
本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質は、スフィンゴ脂質活性化タンパク質としての性質も保持しており、リソソーム酵素の活性化能に優れたものである。よって、当該組換えタンパク質はリソソーム酵素の活性化剤としても有用なものである。すなわち、本発明においては、当該組換えタンパク質を含むリソソーム酵素活性化剤も提供される。
ここで、上記活性化の対象となるリソソーム酵素としては、特に限定はされないが、例えば、α−ガラクトシダーゼ、アリルサルファターゼA、シアリダーゼ(酸性シアリダーゼ等)、酸性スフィンゴミエリナーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ等が好ましく挙げられ、なかでも特に、α−ガラクトシダーゼが好ましい。
また、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質は、前述のとおり、リン酸化糖鎖を含有するタンパク質であり、それ自身細胞内への取り込み効率に優れたものであるため、例えば、酵素補充療法用のリソソーム酵素とともに当該療法に用いる、又は組換えヒトサポシンBを単独で用いることにより、リソソーム病の障害組織を構成する細胞において当該酵素の基質に対する分解活性を増強することもできる。ここで、上記酵素補充療法の対象となるリソソーム酵素としては、特に限定はされないが、例えば、α−ガラクトシダーゼ、アリルサルファターゼA、及びβ−ガラクトシダーゼ等が好ましく挙げられ、なかでも特に、α−ガラクトシダーゼが好ましい。また、上記組換えヒトサポシンBの使用対象となるリソソーム病としては、特に限定はされないが、例えば、ファブリー病、シアリドーシス、異染性白質ジストロフィー、サポシンB欠損症及びGM1ガングリオシドーシス等が好ましく挙げられ、なかでも特に、ファブリー病が好ましい。特に、組換えヒトサポシンBを単独で用いる場合は、サポシンB欠損症を対象とすることが好ましい。
本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質としては、前述したようにリン酸化糖鎖を含有するものであれば特に限定はされず、例えば、当該タンパク質のアミノ酸配列のうち1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつリソソーム酵素を活性化する活性を有するタンパク質も包含されるものとする。なお、野生型ヒトサポシンBは、野生型ヒトプロサポシンの限定分解により生成されるものであるが、当該ヒトサポシンBのアミノ酸配列(配列番号6)は、ヒトプロサポシンのアミノ酸配列(配列番号4)のうちの第195番目〜第276番目のアミノ酸からなるものである。上記ヒトプロサポシンのアミノ酸配列(配列番号4)及び当該配列をコードする塩基配列(配列番号3)の情報は、例えば米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)により提供されるGenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)において、それぞれ「Accession number:NP_001035930」及び「Accession number:NM_001042465」として公表されている。また、上記ヒトサポシンBのアミノ酸配列(配列番号6)は、GenBankデータベースにおいて、「Accession number:1415173533900_0」として公表されており、当該アミノ酸をコードする塩基配列(配列番号5)は、前記配列番号3に示される塩基配列のうちの第687番目〜第932番目の塩基からなるものである。
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1個〜10個程度、好ましくは1個〜5個程度のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であることが好ましい。ただし、野生型ヒトサポシンBタンパク質のアミノ酸配列のうち、好ましくは、N型糖鎖結合部位であるアミノ酸残基は極力変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。そのようなアミノ酸残基としては、上記配列番号6に示されるアミノ酸配列中の第21番目のアミノ酸残基(アスパラギン(Asn:N))(すなわち、配列番号4に示されるアミノ酸配列中の第215番目のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸残基)が挙げられる。
本発明においては、リソソーム酵素を活性化する活性は、例えば、後述する実施例4の記載の方法に基づいて検出又は測定することができる。
本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子としては、前述した配列番号5に示される塩基配列を含むDNAに限定はされず、当該塩基配列を含むDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、リソソーム酵素を活性化する活性を有するタンパク質をコードするDNAも包含される。
このようなDNAは、配列番号5に示される塩基配列を含むDNA若しくはそれと相補的な塩基配列からなるDNA、又はこれらを断片化したものをプローブとして用い、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、及びサザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法を実施し、cDNAライブラリーやゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーは、公知の方法で作製されたものを利用してもよいし、市販のcDNAライブラリーやゲノムライブラリーを利用してもよく、限定はされない。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等を適宜参照することができる。
ハイブリダイゼーション法を実施における「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄時の条件であって、バッファーの塩濃度が15〜330mM、温度が25〜65℃、好ましくは塩濃度が15〜150mM、温度が45〜55℃の条件を意味する。具体的には、例えば80mMで50℃等の条件を挙げることができる。さらに、このような塩濃度や温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件も考慮し、条件を適宜設定することができる。
ハイブリダイズするDNAとしては、配列番号5に示される塩基配列に対して少なくとも40%以上の相同性を有する塩基配列であることが好ましく、より好ましくは60%以上、70%以上、80%以上、90%以上であり、特に好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上であり、最も好ましくは99%以上である。
さらに、上記DNAは、前述したN型糖鎖結合部位であるアミノ酸残基のコドンを示す塩基も、配列番号5に示される塩基配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。
また上記DNAとしては、例えば、配列番号5に示される塩基配列と比較して、塩基配列については完全に同一ではないが、翻訳された後のアミノ酸配列については完全に同一となるような塩基配列からなるDNA(すなわちサイレント変異が施されたDNA)が、特に好ましい。
本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子としては、翻訳後の個々のアミノ酸に対応するコドンは、特に限定はされないので、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に用いられているコドン(好ましくは使用頻度の高いコドン)を示すDNAを含むものであってもよいし、また、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に用いられているコドン(好ましくは使用頻度の高いコドン)を示すDNAを含むものであってもよい。
本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質を発現させるためには、まず、上述した本発明の遺伝子を発現ベクターに組込んで組換えベクターを構築することが必要である。この際、発現ベクターに組込む遺伝子には、必要に応じて、予め、上流に転写プロモーター、SD配列(宿主が原核細胞の場合)及びKozak配列(宿主が真核細胞の場合)を連結しておいてもよいし、下流にターミネーターを連結しておいてもよく、その他、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー等を連結しておくこともできる。なお、上記転写プロモーター等の遺伝子発現に必要な各要素は、初めから当該遺伝子に含まれていてもよいし、もともと発現ベクターに含まれている場合はそれを利用してもよく、各要素の使用態様は特に限定されない。
発現ベクターに当該遺伝子を組込む方法としては、例えば、制限酵素を用いる方法や、トポイソメラーゼを用いる方法など、公知の遺伝子組換え技術を利用した各種方法が採用できる。また、発現ベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、レトロウイルスベクター、人工染色体DNAなど、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を保持し得るものであれば、限定はされず、使用する宿主細胞に適したベクターを適宜選択して使用することができる。
次いで、構築した上記組換えベクターを宿主に導入して形質転換体を得、これを培養することにより、本発明のタンパク質を発現させることができる。なお、本発明で言う「形質転換体」とは宿主に外来遺伝子が導入されたものを意味し、例えば、宿主にプラスミドDNA等を導入すること(形質転換)で外来遺伝子が導入されたもの、並びに、宿主に各種ウイルス及びファージを感染させること(形質導入)で外来遺伝子が導入されたものが含まれる。
宿主としては、上記組換えベクターが導入された後、本発明のタンパク質を発現し得るものであれば、限定はされず、適宜選択することができるが、例えば、ヒトやマウス等の各種動物細胞、各種植物細胞、細菌、酵母、植物細胞等の公知の宿主が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合は、例えば、ヒト繊維芽細胞、CHO細胞、サル細胞COS−7、Vero、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられ、CHO細胞やヒト繊維芽細胞がより好ましい。また、Sf9細胞、Sf21細胞等の昆虫細胞を用いることもできる。
細菌を宿主とする場合、例えば、大腸菌、枯草菌等が用いられる。
酵母を宿主とする場合は、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が用いられる。
植物細胞を宿主とする場合は、例えば、タバコBY−2細胞等が用いられる。
形質転換体を得る方法は、限定はされず、宿主と発現ベクターとの種類の組み合わせを考慮し、適宜選択することができるが、例えば、電気穿孔法、リポフェクション法、ヒートショック法、PEG法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、並びに、DNAウイルスやRNAウイルス等の各種ウイルスを感染させる方法などが好ましく挙げられる。
得られる形質転換体においては、組換えベクターに含まれる遺伝子のコドン型は、実際に用いた宿主のコドン型と一致していてもよいし、異なっていてもよく、限定はされない。
一般的に、目的タンパク質の製造は、前述した形質転換体を培養する工程と、得られる培養物から目的のタンパク質を採取する工程とを含む方法により実施することができる。
具体的には、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質の製造方法としては、例えば、各種酵母、好ましくはメタノール資化性酵母の形質転換体を用いて当該タンパク質を発現させる方法等が挙げられる。メタノール資化性酵母としては、例えば、オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、カンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)等が好ましく用いられる。具体的な製法の手順としては、例えば、まず、アルコールオキシダーゼ(AOX)プロモーターを有する発現ベクターや構成的に発現する解糖系のプロモーターを有する発現ベクターを選択して、当該プロモーターの下流にヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子を導入した組換え発現ベクターを構築する。構築した当該ベクターを電気穿孔法(エレクトロポレーション法)や酢酸リチウム法等の各種遺伝子導入方法を前記酵母細胞内に導入し、形質転換酵母を得る。次いで、当該形質転換酵母が、リン酸化糖鎖を有するサポシンBを発現するものとなるよう、リン酸化糖鎖転移酵素制御遺伝子、好ましくはマンノース−6−リン酸転移酵素制御遺伝子(詳しくは、そのホモログ遺伝子)が組み込まれた発現ベクターを、前述の遺伝子導入方法等により当該形質転換酵母に導入し、再度形質転換を行った形質転換酵母を得る。その後、例えば、サポシンB発現用プロモーターとしてAOXプロモーターを有するベクターを用いた場合であれば、得られた形質転換酵母をメタノールを含む培地で誘導培養することにより、得られた培養物から、リン酸化糖鎖を有するヒトサポシンBタンパク質を採取することができる。
ここで、「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。上記形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。目的のタンパク質は、上記培養物中に蓄積される。
上記培養に用いる培地としては、宿主が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、公知の各種天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。
培養中は、形質転換体に含まれる組換えベクターの脱落及び目的タンパク質をコードする遺伝子の脱落を防ぐために、選択圧をかけた状態で培養してもよい。すなわち、選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である場合には、相当する薬剤を培地に添加することができ、選択マーカーが栄養要求性相補遺伝子である場合には、相当する栄養因子を培地から除くことができる。例えば、G418耐性遺伝子を含むベクターで形質導入したヒト線維芽細胞を培養する場合、培養中、必要に応じてG418(G418硫酸塩)を添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体等を培養する場合は、必要に応じて、好適なインデューサー(例えば、IPTG等)を培地に添加してもよい。
形質転換体の培養条件は、目的タンパク質の生産性及び宿主の生育が妨げられない条件であれば特に限定はされず、通常、10℃〜40℃、好ましくは20℃〜37℃で5〜100時間行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養などが挙げられる。
培養後、目的タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより目的タンパク質を採取することができる。菌体又は細胞の破砕方法としては、フレンチプレス又はホモジナイザーによる高圧処理、超音波処理、ガラスビーズ等による磨砕処理、リゾチーム、セルラーゼ又はペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等を利用することができる。破砕後、必要に応じて菌体又は細胞の破砕残渣(細胞抽出液不溶性画分を含む)を除くことができる。残渣を除去する方法としては、例えば、遠心分離やろ過などが挙げられ、必要に応じて、凝集剤やろ過助剤等を使用して残渣除去効率を上げることもできる。残渣を除去した後に得られた上清は、細胞抽出液可溶性画分であり、粗精製したタンパク質溶液とすることができる。
また、目的のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合は、菌体や細胞そのものを遠心分離、膜分離等で回収して、未破砕のまま使用することも可能である。
一方、目的のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離やろ過等により菌体又は細胞を除去する。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により、培養物中から目的タンパク質を採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等)を用いて単離精製することもできる。
形質転換体等を培養して得られたタンパク質の生産収率は、例えば、培養液あたり、菌体湿重量又は乾燥重量あたり、粗酵素液タンパク質あたりなどの単位で、SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)等により確認することができる。
また、目的タンパク質の製造は、上述したような形質転換体を用いたタンパク質合成系のほか、生細胞を全く使用しない無細胞タンパク質合成系を用いて行うこともできる。
無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管等の人工容器内で目的タンパク質を合成する系である。また、使用し得る無細胞タンパク質合成系としては、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。
この場合、使用する細胞抽出液の由来は、前述の宿主細胞であることが好ましい。細胞抽出液としては、例えば真核細胞由来又は原核細胞由来の抽出液、より具体的には、CHO細胞、ウサギ網状赤血球、マウスL−細胞、HeLa細胞、小麦胚芽、出芽酵母、大腸菌などの抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は、濃縮又は希釈して用いてもよいし、そのままでもよく、限定はされない。
細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿等によって得ることができる。
このような無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG−MateTM(東洋紡)、RTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等が挙げられる。
無細胞タンパク質合成によって産生された目的のタンパク質は、前述したようにクロマトグラフィー等の手段を適宜選択して、精製することができる。
3.リソソーム病治療用医薬組成物
前述のとおり、本発明のリン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質は、それ自体標的臓器(障害臓器)を構成する細胞への取り込み効率に優れ、α−ガラクトシダーゼ等のリソソーム酵素を効果的に活性化できるものであるため、ファブリー病等のリソソーム病治療剤の有効成分として用いることができる。すなわち本発明は、リソソーム酵素と、前述したリン酸化糖鎖含有組換えヒトサポシンBタンパク質とを含むリソソーム病治療用の医薬組成物を提供するものである。当該医薬組成物は、具体的には、リソソーム病に対する酵素補充療法用の医薬組成物であることが好ましい。なお、リソソーム病及びリソソーム酵素の具体例については、前述の説明が同様に適用できる。他方、本発明の他の態様として、本発明のリン酸化糖鎖含有組換えヒトサポシンBタンパク質は、それ自体単独で、リソソーム病治療剤、特にサポシンB欠損症治療剤の有効成分として用いることもできる。すなわち本発明は、前述したリン酸化糖鎖含有組換えヒトサポシンBタンパク質を含むリソソーム病(特にサポシンB欠損症)治療用の医薬組成物を提供するものでもある。
当該医薬組成物において有効成分となる、リソソーム酵素及び組換えヒトサポシンBタンパク質は、必要に応じて各種塩や水和物等の状態で用いられてもよいし、また、治療剤としての保存安定性(特に活性維持)を考慮し適当な化学的修飾がなされた状態で用いられてもよく、限定はされない。
当該医薬組成物において、リソソーム酵素と組換えヒトサポシンBタンパク質とは、実際に使用される際に両者を併用投与できるのであれば、当該組成物の形態は特に限定されない。よって、実際の使用まで、リソソーム酵素と組換えヒトサポシンBタンパク質とは別々に保管等されていてもよい。なお、本発明において、リソソーム酵素と組換えヒトサポシンBタンパク質との併用投与の態様としては、予め両者を混合した状態で投与すること(同時投与)、両者を交互に投与すること、及び、いずれか一方の投与後に他方を投与することの、いずれの態様も含むものとする。
当該医薬組成物は、上記リソソーム酵素等の有効成分以外にも他の成分を含むことができる。他の成分としては、当該医薬組成物の用法(使用形態)に応じて必要とされる製薬上の各種成分(薬学的に許容し得る各種担体等)が挙げられる。他の成分は、上記有効成分により発揮される効果が損なわれない範囲で適宜含有することができる。
当該医薬組成物において、リソソーム酵素等の有効成分の配合割合や、他の成分の種類及び配合割合は、公知の補充用酵素薬(特に、ファブリー病治療用の補充用酵素薬)の調製法に準じて又は当該調製法を考慮して、適宜設定することができる。
当該医薬組成物の投与について、その用法は限定はされないが、通常、点滴静注などの非経口用法が採用される。非経口用法等の各種用法に用い得る製剤は、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
当該医薬組成物の剤形としては、通常、静脈内注射剤(点滴を含む)が採用され、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態等で提供され得る。
当該医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分の配合割合や種類等を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類、病状のほか、投与経路、投与回数、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。例えば、投与回数は、2〜4週間に1回程度とすることができ、またその投与量(/1回)は、例えば、前記有効成分としてのリソソーム酵素を患者の体重に対して0.1〜10mg/kg程度投与できる量とすることができ、0.1〜5mg/kg程度、さらに0.2〜1mg/kg程度とすることもできる。
本発明においては、当該医薬組成物の有効成分として、リソソーム酵素のほかに本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質を併用している。よって、リソソーム病患者の障害臓器を構成する細胞において、当該酵素の基質に対する分解活性が増強されるため、リソソーム酵素自体の使用量が従来に比べて少量であっても、従来と同様又はそれ以上の酵素補充効果(治療効果)を得ることができ、患者への体力的、精神的及び経済的な負担を大いに低減することができる。
また本発明においては、上述した本発明のリン酸化糖鎖含有組換えヒトサポシンBタンパク質を含む医薬組成物のほかに、当該組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子を含むファブリー病等のリソソーム病治療用の医薬組成物、すなわちリソソーム病の遺伝子治療剤も提供され得る。具体的な態様としては、例えば、リソソーム酵素をコードする遺伝子と上記組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子とを含むリソソーム病治療用の医薬組成物や、上記組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子を含む(単独使用)リソソーム病(特にサポシン欠損症)治療用の医薬組成物などが好ましく挙げられる。なお、リソソーム酵素をコードする遺伝子は、GenBank等の公知のデータベースに公表される各種リソソーム酵素の遺伝子配列に基づき、公知の遺伝子組み換え技術やDNA合成技術等により調製することができる。また、上記組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子は、前述した配列番号5に示される塩基配列に基づいて、公知の遺伝子組み換え技術やDNA合成技術等により調製することができる。
上記医薬組成物を遺伝子治療剤として用いる場合は、注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクター等が挙げられる。これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。なお、市販の遺伝子導入キット(例えば、製品名:アデノエクスプレス、クローンテック社製)を用いることもできる。
また、当該医薬組成物を遺伝子治療剤に用いる場合、当該組成物をリポソーム等のリン脂質小胞体に導入し、この小胞体を投与することも可能である。その場合、目的の遺伝子を保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内又は動脈内等に投与する。ファブリー病等のリソソーム病の障害臓器の組織に局所投与することもできる。例えば、成人に当該医薬組成物を投与する場合は、患者の体重に対し、一日あたり0.1μg/kg〜1000mg/kg程度で投与することができ、1μg/kg〜100mg/kg程度で投与することもできる。
なお、本発明においては、上述した2種の医薬組成物、すなわち組換えヒトサポシンBタンパク質を用いる医薬組成物と、遺伝子治療剤としての医薬組成物との2種の医薬組成物を併用した医薬組成物を提供することもできる。さらに、上述した2種の医薬組成物のそれぞれの有効成分を適宜組み合わせて併用したファブリー病治療用の医薬組成物を提供することもできる。このような併用する態様の医薬組成物としては、例えば、以下の(i)〜(vii)等の医薬組成物が挙げられる。
(i) リソソーム酵素と、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子とを含むファブリー病治療用の医薬組成物;
(ii) リソソーム酵素をコードする遺伝子と、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質とを含むファブリー病治療用の医薬組成物;
(iii) リソソーム酵素と、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質及び当該タンパク質をコードする遺伝子とを含むファブリー病治療用の医薬組成物;
(iv) リソソーム酵素をコードする遺伝子と、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質及び当該タンパク質をコードする遺伝子とを含むファブリー病治療用の医薬組成物;
(v) リソソーム酵素及び当該酵素をコードする遺伝子と、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質とを含むファブリー病治療用の医薬組成物;
(vi) リソソーム酵素及び当該酵素をコードする遺伝子と、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子とを含むファブリー病治療用の医薬組成物;並びに
(vii) リソソーム酵素及び当該酵素をコードする遺伝子と、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質及び当該タンパク質をコードする遺伝子とを含むファブリー病治療用の医薬組成物。
4.リソソーム病の治療方法
本発明は、上記医薬組成物をファブリー病患者等のリソソーム病患者に投与すること、具体的には、上記医薬組成物の有効成分であるリソソーム酵素と本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質とを当該患者に併用投与する、あるいは本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質を当該患者に単独投与することを特徴とする、リソソーム病の治療方法を含むものである。また、上記医薬組成物が前述した遺伝子治療剤である場合、本発明は、具体的には、リソソーム酵素をコードする遺伝子と本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子とを当該患者に併用投与する、あるいは本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質をコードする遺伝子を当該患者に単独投与することを特徴とする、リソソーム病の治療方法を含むものである。
さらに本発明においては、上記2種の医薬組成物、すなわち遺伝子治療剤としての医薬組成物と、組換えヒトサポシンBタンパク質を用いる医薬組成物との2種の医薬組成物を併用するリソソーム病の治療方法や、上記2種の医薬組成物のそれぞれの有効成分を適宜組み合わせて併用するリソソーム病の治療方法を提供することもできる。このような併用の態様としては、前記3.項で述べた(i)〜(vii)等の態様を適宜参照できる。
また本発明は、リソソーム病を治療するための前記医薬組成物の使用、並びに、リソソーム病の治療のための薬剤を製造するための前記医薬組成物の使用も含むものである。当該使用において、用いる医薬組成物は、前記3.項で述べた医薬組成物の態様を全て含むものとする。
当該治療方法及び当該使用等において、本発明の医薬組成物の好ましい投与方法及び投与量等については、前記3.項に記載の通りである。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0006】
ヒトサポシンB生産株(Ogataea minutaΔoch1 Δura3 ade1::ADE−AOXp−SAPB His6)の作製
ヒトサポシンBの遺伝子配列(配列番号5)は、その前駆体であるヒトプロサポシンの遺伝子配列(配列番号3;GenBank Accession number:NM_001042465)のうちの第687番目〜第932番目の塩基からなるものである。この塩基配列情報に基づいて、ヒトサポシンBの遺伝子配列をオガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta;メタノール資化性酵母)での発現に適したコドンに改変し全合成を行った。
全合成を行ったヒトサポシンB遺伝子配列を鋳型とし、その3’領域に結合する下記プライマーAと、5’領域に結合する下記プライマーBを用いて、PCRを行った。
プライマーA:
プライマーB:
当該PCRにより得られた増幅DNA断片を制限酵素Xba IとBamH Iを用いて切断し、ADE1マーカーを持つプラスミドpOMEA1−His6のXba IとBamH Iサイトに組み込んだ。これによりN末端にSaccharomyces cerevisiaeの分泌シグナル配列α−factor preproを有し、C末端にヒスチジンを6残基有する、ヒトサポシンB発現プラスミドを構築した。
当該プラスミドをNot I部位で切断することにより直鎖化し、TK5−3株をエレクトロポレーション法を用いて形質転換した。形質転換後、YPD培地(2%ポリペプトン、1%酵母抽出液、2%グルコース)のプレートにまいて、30℃で3日間培養し、形質転換体を得た。形質転換体よりゲノムDNAを調製し、PCR法によりヒトサポシンB遺伝子が染色体に組込まれていることを確認し、
TRY131株とした。
次に、ヒトサポシンBの発現を確認するため以下の操作を行った。TRY131株を5mlのYPD培地で30℃で2日間培養後、遠心分離により細胞を回収しBMMY培地(1%メタノール/Day、1.34%イーストナイトロゲンベース、1%酵母抽出液、2%ポリペプトン、0.1mg/mlウラシル、0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH6.0))に培地交換し、20℃で3日間培養を行った。培養終了後、遠心分離により培養上清を得た。培養上清をSDSサンプルバッファーにて変性後、常法にてウエスタンブロット解析を行った。ウエスタンブロット解析は一次抗体としてマウス抗tetra−His抗体(QIAGEN社)を、二次抗体として抗マウスIgG抗体アルカリフォスファターゼ複合体(Cell Signaling technology社)を用いた。検出はECL Plus Western Blotting Detection Reagents(GE Healthcare社)を使用し、LAS−1000(GE Healthcare社)機器によりCDDカメラを用いて行った。
その結果、コントロール株であるTK5−3株ではシグナルが見られないのに対し、TRY131株の培養上清には、分子量約9kDaと14kDaの位置にシグナルが確認された(図1)。
【実施例2】
【0007】
リン酸化糖鎖を有するヒトサポシンB生産株(Ogataea minutaΔoch1 Δura3 ade1::ADE−AOXp−SAPB His6 G418::AOXp−OmMNN4−1)の作製
リン酸化糖鎖を有するヒトサポシンB生産株を作製するために、Saccharomyces cerevisiaeのマンノース−6−リン酸転移酵素制御遺伝子(ScMNN4)のOgataea minutaホモログ(OmMNN4−1)の遺伝子が組み込まれたpOMEG1−OmMNN4ベクター(Akeboshi,H,Glycobiology.,Vol.19,p1002−1009(2009)を参照)を利用した。具体的には、当該プラスミドベクターをNot I部位で切断し直鎖化したものを用いて、エレクトロポレーション法によりTRY131株を形質転換した。形質転換後、G418抗生物質(200μg/ml)を含むYPD培地のプレートにまいて、30℃で3日間培養し、形質転換体を得た。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、PCR法によりOmMNN4−1遺伝子が染色体上のAOXp下に組み込まれていることを確認して、当該形質転換体をTRY144株とした。
次に、上記TRY144株を5mlのYPD培地で30℃で2日間培養後、遠心分離により細胞を回収し、BMMY培地に培地交換して20℃で3日間培養を行った。培養終了後、遠心分離により培養上清を得た。培養上清をSDSサンプルバッファーにて変性後、実施例1と同様にウエスタンブロット解析を行った。
その結果、親株であるTRY131株と同様に、TRY144株の培養上清にも、分子量約9kDaと14kDaの位置にシグナルが確認された(図2)。
【実施例3】
【0008】
ヒトサポシンB遺伝子を導入した株の培養上清からのヒトサポシンBの精製、及び精製酵素の糖鎖構造解析
ヒトサポシンBタンパク質を大量調製するために、培養のスケールアップを行った。まず、実施例2で得られたTRY144株を、10mlのYPD培地で30℃、2日間前々培養を行い、次に30℃で2日間200mlのYPD培地で前培養を行った。4Lのrich BMGY培地(1%酵母エキス、6%ポリペプトン、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1.34%Yeast Nitrogen Base、4%グリセロール)を用い、25℃で培養を行った。Glycerolの消費の終点は酸素溶存濃度(DO)値を指標とし、DO値の上昇とともにメタノールの添加を開始した。同時に酸素発生装置を用いて、酸素ガスを培地にブローし、DO値が5.0ppmを維持するようにした。また培養温度をメタノール添加15時間前より20℃に下げ、メタノールは連続的に添加した(約1.5%/day)。72時間後、培養上清を回収した。
培養上清をpH7.4に調整した後、遠心分離によって沈殿物を除去した。さらに0.4μm及び0.22μmのフィルターにて不溶性物質の除去を行った。この培養上清をHisPrep FF 16/10(GE Healthcare社)に供し、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4),300mM NaCl,20mMイミダゾールにて洗浄後、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4),300mM NaCl,500mMイミダゾールにて溶出した。溶出画分をSDSサンプルバッファーにて変性後、実施例1と同様にウエスタンブロット解析を行いシグナルの強い画分を回収し粗精製タンパク質溶液とした。
回収画分を25mM MESバッファー(pH6.0)にてバッファー置換し、HiPrepQ FF 16/10に供し洗浄後、25mM MESバッファー(pH6.0)及び1M NaClにてグラジエント溶出を行った。溶出画分をSDSサンプルバッファーにて変性後、実施例1と同様にウエスタンブロット解析を行いシグナルの強い画分を回収した。この回収画分を糖鎖構造解析用の精製評品とした。
得られたヒトサポシンBに対し、酵素処理を施しアスパラギン結合型糖鎖を切り出した。MilliQにバッファー置換し、凍結乾燥を行ったサンプルに対し10μlのN−グリコシダーゼF用緩衝液(0.5%SDS,0.75%2−メルカプトエタノールを含む0.5M Tris−HCl緩衝液(pH8.6))に溶解し、5分間煮沸処理をした。室温まで戻した後、10μlの5.0%Nonidet P−40、26μlのHO、4μlのN−glycosidase F(Roche社)を加え、37℃、16時間処理した。酵素処理後、100%エタノールを加え、−20℃で20分間静置した後、遠心分離により上清を回収し乾燥を行い、糖鎖調製品とした。
得られた糖鎖を蛍光標識(ピリジルアミノ化;以下「PA化」という)するため、以下の操作を行った。糖鎖調製品を濃縮乾固後、40μlのカップリング試薬(40mgの2−アミノピリジンを13.4μlの酢酸に溶解した)を加えて密封し、90℃、60分処理した。室温まで戻した後、40μlの還元試薬(8mgのボラン・ジメチルアミン複合体40μlの酢酸に溶解した)を加えて密封し、80℃、60分処理した。反応後、120μlのMilliQを加えた。200μlのフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1(v/v/v)の混液で7回抽出を行った後、200μlのクロロホルム:イソアミルアルコール=24:1(v/v)の混液で1回抽出し、未反応の2−アミノピリジンを除去した。糖鎖画分について0.22μmのフィルターで濾過し、PA化オリゴ糖調製品とした。
リン酸化糖鎖の解析はHPLCを用いて行った(Akeboshi,H,Glycobiology.,Vol.19,p1002−1009(2009)を参照)。Shodex Asahipak NH2P−50 4E(昭和電工社)カラムを用い分取し、画分ごとに乾燥させた後にMilliQに溶解しTSK−gel Amide−80(東ソー社)により分析を行った。
その結果を表1に示す。TRY131株では、高マンノース型からなる中性糖鎖が73.1%、リン酸化糖鎖からなる酸性糖鎖が26.8%であった。他方、TRY144株では酸性糖鎖の割合が95.9%であり、全糖鎖に対するリン酸化糖鎖(マンノース−6−リン酸)の割合が非常に高いことが示された。
【表1】
ヒトサポシンBに付加した糖鎖のマンノース−6−リン酸を露出させるため、粗精製タンパク質溶液を10mM HEPES(pH7.0)、1mM CaClにバッファー交換を行いSO−5由来のマンノシダーゼ(Chiba,Y,Glycobiology.,Vol.12,p821−828(2002)を参照)を用いてマンノシダーゼ処理を行った。
マンノシダーゼ処理後の溶液をpH7.4に調整後HisPrep HP(GE Healthcare社)に供し、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4),300mM NaCl,20mMイミダゾールにて洗浄後、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4),300mM NaCl,500mMイミダゾールにて溶出した。溶出画分をSDSサンプルバッファーにて変性後、実施例1と同様にウエスタンブロット解析を行いシグナルの強い画分を回収した。
回収画分を20mM Tris−HCl(pH7.4),500mM NaCl,1mM MnCl,1mM CaClにバッファー交換しHiTrap Con A 4B(GE Healthcare社)に供し、20mM Tris−HCl(pH7.4),500mM NaCl,1mM MnCl,1mM CaClにて洗浄後、20mM Tris−HCl(pH7.4),500mM NaCl,500mM Glucoseにて溶出した。溶出画分をSDSサンプルバッファーにて変性後、実施例1と同様にウエスタンブロット解析を行いシグナルの強い画分を回収した。回収画分をPBSバッファーに置換しヒトサポシンB精製評品とした。また糖鎖のマンノース−6−リン酸の露出を確認するため、カチオン非要求性マンノース−6−リン酸レセプターのドメイン9を用いたレクチンブロット解析を行った(Akeboshi,H,Appl Environ Microbiol.,Vol.73,p4805−4812(2007)を参照)。サポシンBをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、PVDF膜に転写し、スキムミルクでブロッキングした。次にカチオン非要求性マンノース−6−リン酸レセプターのドメイン9の組換えタンパク質をレクチンとして、レクチンブロットを行った。PBSで洗浄後、検出用抗体として、一次抗体としてマウス抗tetra−His抗体(QIAGEN社)を、二次抗体として抗マウスIgG抗体アルカリフォスファターゼ複合体(Cell Signaling technology社)を用いて解析を行った。その結果を図3に示す。マンノシダーゼ未処理のサポシンBではシグナルが確認されなかったものの、マンノシダーゼ処理後のサポシンBではシグナルが観察されたことから、マンノース−6−リン酸レセプターに認識されるリン酸化糖鎖がサポシンBに付加していることが確認された。
【実施例4】
【0009】
in vitroにおけるサポシンBのα−ガラクトシダーゼの活性化測定
基質として10μgのグロボトリオシルセラミド(Gb3)を1.5mlのエッペンドルフチューブに分取し、乾固した。当該チューブに20μlの50mMクエン酸−リン酸バッファー(pH4.6)を加え、更に、後で添加する試薬の容量を差引いた量のMilliQを加え、最終容量を100μlとした。ボルテックスミキサーにて十分撹拌後、20秒間超音波処理を行い、ミセルを形成させた。陽性コントロールには、可溶化剤として10μlの50mMタウロデオキシコレートを、検体には、5μlのサポシンB(260μg/ml)(上記酵母(TRY144)株で生産したサポシンB(実施例3参照))をそれぞれ加え、撹拌した。次いで、2μlの酵素(α−ガラクトシダーゼ)溶液(活性:500nm/h/ml)を加え、撹拌した。37℃のインキューベーター中、指定した時間(図4では24時間)まで酵素反応を行った。20μlのメタノールを加え反応を停止し、反応溶液を窒素気流下、乾固した。
前記チューブに50μlの0.3Mの酢酸アンモニウムバッファー(pH7.0)に溶解し、脱塩のためPBSで平衡化したSep−Pak Vac 1cc(50mg)tC18 Cartridge(Waters)に乗せた。カラムをMilliQで洗浄した後、メタノールで溶出した。このメタノール溶出画分を窒素気流下乾固した。最終残渣に、クロロホルム:メタノール:水=60:30:4.5(v/v/v)の混液を50μl加えて溶解し、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析のサンプルとした。
Gb3を含む糖脂質の解析はTLCを用いて行った。TLCプレートに上記サンプル10μl(Gb3,2mg相当)を乗せた。TLCは、クロロホルム:メタノール:0.22%CaCl水溶液=65:25:4(v/v/v)の混液を展開溶媒として展開し、展開後、オルシノール硫酸試薬により発色し、汎用解析ソフトMulti Gauge−Ver3.X−付のルミノ・イメージアナライザーLAS−4000(富士フイルム社)にて解析した。
その結果を図4に示した。24時間後、酵素(α−ガラクトシダーゼ)単独(レーン5)では、基質Gb3の分解は認められなかった(勿論、α−ガラクトシダーゼ活性を持たないタウロデオキシコレート(レーン3)やサポシンB単独(レーン4)でも、Gb3の分解は認められなかった)。陽性対照として用いた、タウロデオキシコレートと酵素との併用(レーン6)、及びサポシンBと酵素との併用(レーン7)では、基質Gb3の減少と、Gb3の分解産物であるCDH(セラミドジヘキソシド)の出現が認められた。この基質分解は、反応系に加えられる酵素やサポシンBの量、及び反応時間に比例して上昇した。この結果から、本実施例で用いたサポシンBは、in vitroで、α−ガラクトシダーゼの活性化を誘導することが判明した。
【実施例5】
【0010】
サポシンBとα−ガラクトシダーゼとの同時投与による、ファブリー病モデルマウスの腎臓に蓄積するGb3の効果的分解
in vitroでα−ガラクトシダーゼの活性発現を認めた酵母産生サポシンB(すなわち実施例3において精製したサポシンB)を用い、ファブリー病の標的臓器である腎臓の蓄積基質Gb3の分解効果を、ファブリー病モデルマウスを用いて検討した。実験群は、未処理の野生型マウス群(陰性対照)、ファブリー病マウス群(陽性対照)、α−ガラクトシダーゼ(製品名:Replagal(登録商標)、Shire HGT;以下、本実施例において同様)0.2mg/kg投与群、サポシンB 0.25mg/kg投与群、並びに、α−ガラクトシダーゼ0.2mg/kg及びサポシンB 0.25mg/kg同時投与群をそれぞれ設定し、一日一回隔日で5回尾静脈より投与した。最終投与から24時間後、マウスから腎臓を摘出し、Gb3の解析を行った。
腎臓Gb3の解析は、まず、摘出した腎臓を秤量し、4培量のPBSでホモジネートを作製し、ネジ付ガラス製試験管に移し、撹拌しながら2.7倍量のメタノール滴下し、数時間撹拌した。次に、1.35倍量のクロロホルムを滴下し、一晩撹拌した。遠心して上清を集め、遠心残渣にMilliQ 0.5mlを加えて撹拌し、クロロホルム:メタノール=1:2(v/v)の混液2.0mlを滴下し、数時間撹拌後、遠心して上清を集めた。この操作を2回繰返し、集めた上清を合わせて、窒素気流下で乾固した。最終残渣にクロロホルム:メタノール:水=60:30:4.5(v/v/v)の混液を加え、最終濃度、臓器湿重量0.5mg当たり1μlのTLCサンプルとした。Gb3の解析は、実施例4に記載の方法と同様に行った。
その結果を図5に示した。野生型マウスの未処理群(レーン2)の腎臓に比べ、ファブリー病マウスの未処理群(レーン3)の腎臓は、高いGb3含量を認めた。α−ガラクトシダーゼ投与群(レーン4)の腎臓では、Gb3の減少を認めた。しかしながら、ファブリー病マウスへのサポシンBの単独投与群(レーン6)の腎臓では、ほとんどGb3の減少を認めなかった。更に、α−ガラクトシダーゼとサポシンBとの同時投与群(レーン5)の腎臓は、酵素単独投与群(レーン4)の腎臓と比較し、明らかなGb3の減少を認めた。これらの結果から、α−ガラクトシダーゼとサポシンBとの同時投与は、α−ガラクトシダーゼ単独投与に比べGb3の分解効果を促進することが認められた。これは、酵素補充療法におけるリソソーム酵素の総投与量の軽減や、投与間隔の延長が期待できる結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明によれば、リソソーム病に対する酵素補充療法による治療効果をより一層高める手段として、スフィンゴ脂質活性化タンパク質であるヒトサポシンBを改良した、リン酸化糖鎖を含有する組換えヒトサポシンBタンパク質を提供することができる。
本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質は、酵素補充療法用リソソーム酵素を効果的に活性化することができ、しかも酵素補充療法においてリソソーム酵素と併用して患者に投与することにより、従来のリソソーム酵素の改良のみでは成し得なかったスフィンゴ脂質の分解効果が得られるものである。よって、本発明の組換えヒトサポシンBタンパク質は、上記効果を有するリソソーム酵素活性化剤、及びリソソーム病治療用医薬組成物等を提供することができる点で、極めて有用なものである。
【配列表フリーテキスト】
【0012】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
[配列表]
図1
図2
図3
図4
図5