(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959149
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】キャリア付き極薄銅箔、並びに銅貼積層板またはプリント配線基板
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20160719BHJP
B32B 7/02 20060101ALI20160719BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20160719BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20160719BHJP
C25D 1/20 20060101ALI20160719BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
C25D7/06 A
B32B7/02 101
B32B15/01 J
B32B15/08 J
C25D1/20
H05K1/09 A
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2010-527833(P2010-527833)
(86)(22)【出願日】2009年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2009065511
(87)【国際公開番号】WO2010027052
(87)【国際公開日】20100311
【審査請求日】2011年8月1日
【審判番号】不服2014-12494(P2014-12494/J1)
【審判請求日】2014年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2008-227958(P2008-227958)
(32)【優先日】2008年9月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094053
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 隆久
(72)【発明者】
【氏名】宇野 岳夫
(72)【発明者】
【氏名】川上 昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕二
【合議体】
【審判長】
鈴木 正紀
【審判官】
池渕 立
【審判官】
河本 充雄
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2002/24444(WO,A1)
【文献】
特開2004−169181(JP,A)
【文献】
特開2005−502496(JP,A)
【文献】
特開2007−186781(JP,A)
【文献】
特開2007−186782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D7/06
B32B15/01
B32B15/08
C25D1/20
H05K3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記剥離層は、剥離性を保持する金属Aと、前記極薄銅箔のめっきを容易にする金属Bからなり、前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際の前記極薄銅箔側の剥離層の剥離表面における金属Aの元素比xと金属Bの元素比yとが下記の比率であり、
10≦{y/(x+y)}×100≦80(%)
前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際の前記キャリア箔側および前記極薄銅箔側の剥離表面に残留した剥離層の厚さを、それぞれd1およびd2とすると、下記の関係であり、
0.5≦d1/d2≦12
前記剥離層は、前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、前記極薄銅箔側に設ける第二
剥離層とからなり、
前記キャリア箔と前記第一剥離層との間の第一界面と、前記極薄銅箔と前記第二剥離層との間の第二界面と、前記第一剥離層と前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第三界面は前記第一剥離層の表面に酸化処理を施した酸化物層であり、
前記第一、第二および第三の界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項2】
キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記剥離層は剥離性を保持する金属Aと、前記極薄銅箔のめっきを容易にする金属Bからなり、前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際の前記極薄銅箔側の剥離表面における金属Aの元素比xと金属Bの元素比yとが下記式の比率であり、
10≦{y/(x+y)}×100≦80(%)
前記剥離層は前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、前記極薄銅箔側に設ける第二剥離層とからなり、
前記キャリア箔と前記第一剥離層との間の第一界面と、前記極薄銅箔と第二剥離層との間の第二界面と、前記第一剥離層と前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第一界面、前記第二界面および前記第三界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア付き極薄銅箔。
【請求項3】
キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際のキャリア箔側および極薄銅箔側の剥離表面に残留した剥離層の厚さを、それぞれd1およびd2とすると下記式で規定され、
0.5≦d1/d2≦12
前記剥離層は前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、前記極薄銅箔側に設ける第二剥離層とからなり、
前記キャリア箔と前記第一剥離層との間の第一界面と、前記極薄銅箔と第二剥離層との間の第二界面と、前記第一剥離層と前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第一界面、前記第二界面および前記第三界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア付き極薄銅箔。
【請求項4】
キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記剥離層は前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、前記極薄銅箔側に設ける第二剥離層とからなり、
前記キャリア箔と前記第一剥離層との間の第一界面と、前記極薄銅箔と第二剥離層との間の第二界面と、前記第一剥離層と前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第三界面が、前記第一剥離層の表面に酸化処理を施した酸化物層であり、
前記第一界面、前記第二界面および前記第三界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア付き極薄銅箔。
【請求項5】
前記剥離層を構成する金属Aは、Mo,Ta,V,Mn,W,Crの群から選択された少なくとも1つの金属であり、
前記金属Bは、Fe,Co,Niの群から選択された少なくとも1つの金属である、
請求項1または2に記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項6】
前記剥離層の金属付着量の合計が0.05mg/dm2〜50mg/dm2である、
請求項1〜5のいずれかに記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項7】
300℃の加熱処理後における前記キャリア箔と前記極薄銅箔との剥離強度が、0.005〜0.1kN/mの範囲内である、
請求項1〜6のいずれかに記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項8】
前記キャリア箔と前記剥離層及び/又は前記剥離層と前記極薄銅箔との間に拡散防止層が設けられている、
請求項1〜7のいずれかに記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項9】
前記拡散防止層がFe、Ni、Co、Crまたはこれらの元素を含む合金で形成されている、
請求項8に記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項10】
前記キャリア箔がCu、またはCu合金である、
請求項1〜9のいずれかに記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のキャリア付き極薄銅箔を樹脂基材に積層してなる銅張積層板。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のキャリア付き極薄銅箔を樹脂基材に積層してなる銅プリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャリア付き極薄銅箔、並びに該キャリア付き極薄銅箔を用いたプリント配線基板に関するもので、特に300℃以上の高温での使用に適したキャリア付き極薄銅箔、該極薄銅箔を用いた配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、プリント配線板、多層プリント配線板、チップオンフィルム用配線板等の基礎となるプリント配線基板に用いる銅箔は、樹脂基板等に熱圧着する側の表面を粗化面とし、この粗化面で該基板に対するアンカー効果を発揮させ、該基板と銅箔との接合強度を高めてプリント配線基板としての信頼性を確保している。
【0003】
近年、配線板は各種電子部品の高度集積化に対応して、配線パターンに微細な線幅や線間ピッチの要求が高まってきており、例えば、半導体パッケージに使用されるプリント配線板の場合は、線幅や線間ピッチがそれぞれ30μm前後という高密度極微細配線を有するプリント配線板の提供が要求されている。
このようなファインパターンプリント配線板用の銅箔として、厚い銅箔を用いると、エッチングによる配線回路形成時のエッチング時間が長くなり、その結果、形成される配線パターンの側壁の垂直性が崩れ、形成する配線パターンの配線線幅が狭い場合には断線に結びつくこともある。従って、ファインパターン用途に使われる銅箔としては、厚さ9μm以下の銅箔が要望され、現在では、厚さが5μm以下の銅箔も多く使用されている。
【0004】
しかし、このような9μm以下の薄い銅箔(以下、極薄銅箔 と云うことがある)は機械的強度が弱く、プリント配線基板の製造時に皺や折れ目が発生しやすく、銅箔切れを起こすこともあるため、ファインパターン用途に使われる極薄銅箔としては、キャリアとしての金属箔(以下、キャリア箔という)の片面に剥離層を介して極薄銅箔層を直接電着させたキャリア付き極薄銅箔が使用されている。上述した、現在使用されている5μm以下の厚さの銅箔はこのキャリア付き極薄銅箔として提供されている。
キャリア付き極薄銅箔は、キャリア箔の片面に、剥離層と電気銅めっきによる極薄銅箔がこの順序で形成されたものであり、該電気銅めっきからなる極薄銅箔の最外層表面が粗化面に仕上げられている。そして、該粗化面を樹脂基材に重ね合わせたのち全体を熱圧着し、ついでキャリア箔を剥離除去することにより銅張積層板を形成し、銅張積層板の表面の極薄銅箔に所定の配線パターンを形成するという態様で使用されている。
極薄銅箔を樹脂基材に熱圧着した後にキャリア箔を引き剥がす際に、極薄銅箔の厚さが5μmよりも薄いものになると極薄銅箔の変形が問題となるため、キャリア箔と極薄銅箔とを引き剥がす際の剥離強度(以下、キャリアピールと云うことがある)を低くかつ安定させることが必要とされている。
【0005】
キャリア箔は、極薄銅箔を樹脂基材と接合するまで、極薄銅箔の形状を安定して維持するための補強材として機能する。剥離層は、極薄銅箔をキャリア箔から分離する際に剥離をよくするための層であり、キャリア箔と一体的に除去されることにより、キャリア箔をきれいに、かつ容易に剥離できるようになっている。
樹脂基材に極薄銅箔が接合された銅張積層板には、スルーホールの穿設及びスルーホールめっきが順次行われ、次いで、該銅張積層板の表面にある極薄銅箔にエッチング処理を施して所望の線幅と所望の線間ピッチを備えた配線パターンを形成し、最後に、ソルダレジストの形成やその他の仕上げ処理が行われる。
【0006】
キャリア箔上に形成する剥離層は、従来はベンゾトリアゾール等の有機系や金属酸化物等の無機系、または金属元素単体や合金等の金属系などが使用されてきたが、ポリイミドなどの高耐熱樹脂を樹脂基材とする配線基板においては、銅箔と樹脂とのプレス処理や樹脂の硬化処理における加熱温度が高温となり、この加熱処理による剥離強度の上昇により剥離困難となる有機系の剥離層では対応できず、主に金属系の剥離層が用いられている。
【0007】
金属系の剥離層を形成する金属としては、これまでにCr(特許文献1)やNi(特許文献1および2)、Ti(特許文献3)などが提案されている。
これらの提案では、剥離層を構成する金属の一部を酸化物の状態としており、剥離層における金属と酸化物の含有量の比率や、金属表面に形成した酸化物皮膜の厚さによりキャリアピールを調節することを特徴としている。しかしながら、酸化物含有量の比率や酸化物皮膜の厚さの差によりキャリアピールにバラツキが生じやすく、キャリアピールが安定しにくい問題やフクレが発生する問題があった。
さらに、酸化物の表面においては電気銅めっきによる析出が起こりにくく、剥離層上へ均一にめっきを施すことが難しいことから、極薄銅箔の厚さのバラツキやピンホール発生などの問題が生じることもあった。
【0008】
これに対して、複数の金属とその酸化物とを用いた剥離層において、剥離層の内部で酸素濃度を連続的に変化させて明確な界面を形成しないことにより、界面における熱膨張係数等の差異により発生するフクレを防止する提案がなされている(特許文献4)が、剥離が起こりやすい界面が一定しないため、キャリアピールが高くなり安定しにくいという課題は解決できていなかった。
【0009】
図3は従来のキャリア付き銅箔のキャリアピールを模式的に示したもので、1は極薄銅箔、2はキャリア箔、8は剥離層、9は膨れが発生した場所、点線は剥離強度の弱い部分をそれぞれ示している。
図3Aは極薄銅箔と剥離層との間に密着性が弱い部分が存在したために膨れが発生した状態を示し、
図3Bはキャリアピールにばらつきがあり、一部ではがれ難い箇所が存在し、キャリアピールが高くなっている状態を示し、
図3Cはキャリアピールにばらつきがあり、キャリアピールが安定しない状態を示している。
【0010】
これらの問題を解決するものとして、本出願人はフクレの発生を抑え、キャリアピールに影響せず、製造品質が安定し、高温下の環境に置かれてもキャリア箔と電解銅箔とを容易に剥がすことができるキャリア付き極薄銅箔を開発した(特許文献5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−301087号公報
【特許文献2】特開2002−368365号公報
【特許文献3】特開2003− 11267号公報
【特許文献4】特開2008−130867号公報
【特許文献5】特開2007−186781号公報
【特許文献6】特開2007−186782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記したキャリア付き極薄銅箔ではキャリア箔と銅箔とを剥離するときに、剥離が生じる界面が一定とならずに、幅方向や長手方向におけるキャリアピールが安定しにくいという点において、十分に改善が図れたとは言えないものであった。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑み、フクレの発生を抑え、剥離強度が安定したキャリア付き極薄銅箔の提供を目的とし、特に、高温下の環境に置かれてもキャリア箔と極薄銅箔とを容易に剥がすことができるキャリア付き極薄銅箔を提供することを目的とする。
また本発明は、前記キャリア付き極薄銅箔を使用したファインパターン用途のプリント配線板、多層プリント配線板、チップオンフィルム用配線板等の基材となる銅貼積層基板あるいはプリント配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記剥離層は、剥離性を保持する金属Aと、前記極薄銅箔のめっきを容易にする金属Bからなり、前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際の前記極薄銅箔側の剥離層の剥離表面における金属Aの元素比xと金属Bの元素比yとが下記の比率であり、
10≦{y/(x+y)}×100≦80(%)
前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際の前記キャリア箔側および前記極薄銅箔側の剥離表面に残留した剥離層の厚さを、それぞれd1およびd2とすると、下記の関係であり、
0.5≦d1/d2≦12
前記剥離層は
、前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、
前記極薄銅箔側に設ける第二
剥離層とからなり、
前記キャリア箔と
前記第一剥離層との間の第一界面と、
前記極薄銅箔と
前記第二剥離層との間の第二界面と、
前記第一剥離層と
前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第三界面は前記第一剥離層の表面に酸化処理を施した酸化物層であり、
前記
第一、第二および第三の界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア付き極薄銅箔が提供される。
【0015】
また本発明によれば、キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記剥離層は剥離性を保持する金属Aと、極薄銅箔のめっきを容易にする金属Bからなり、前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際の極薄銅箔側の剥離表面における金属Aの元素比xと金属Bの元素比yとが下記式の比率であり、
10≦{y/(x+y)}×100≦80(%)
前記剥離層は前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、前記極薄銅箔側に設ける第二剥離層とからなり、
前記キャリア箔と前記第一剥離層との間の第一界面と、前記極薄銅箔と第二剥離層との間の第二界面と、前記第一剥離層と前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第一界面、前記第二界面および前記第三界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア付き極薄銅箔が提供される。
【0016】
また本発明によれば、キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記キャリア箔と前記極薄銅箔とを剥離した際のキャリア箔側および極薄銅箔側の剥離表面に残留した剥離層の厚さを、それぞれd1およびd2とすると下記式で規定され、
0.5≦d1/d2≦12
前記剥離層は前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、前記極薄銅箔側に設ける第二剥離層とからなり、
前記キャリア箔と前記第一剥離層との間の第一界面と、前記極薄銅箔と第二剥離層との間の第二界面と、前記第一剥離層と前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第一界面、前記第二界面および前記第三界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア付き極薄銅箔が提供される。
【0017】
また本発明によれば、キャリア箔、剥離層、極薄銅箔からなるキャリア付き極薄銅箔であって、
前記剥離層は前記キャリア箔側に設ける第一剥離層と、前記極薄銅箔側に設ける第二剥離層とからなり、
前記キャリア箔と前記第一剥離層との間の第一界面と、前記極薄銅箔と第二剥離層との間の第二界面と、前記第一剥離層と前記第二剥離層との間の第三界面とが存在し、
前記第三界面が、前記第一剥離層の表面に酸化処理を施した酸化物層であり、
前記第一界面、前記第二界面および前記第三界面における剥離強度は
第一界面>第三界面
第二界面>第三界面
である、キャリア付き極薄銅箔が提供される。
【0018】
前記剥離層を構成する金属AはMo,Ta,V,Mn,W,Crの群から、金属BはFe,Co,Niの群からそれぞれ選択することが好ましい。
【0019】
前記剥離層の金属付着量の合計は、0.05mg/dm
2〜50mg/dm
2であることが好ましい。
【0020】
本発明のプリント配線基板は、前記キャリア付き極薄銅箔の、極薄銅箔を樹脂基板に積層してなる、特に高密度極微細配線用途に優れた銅貼積層基板あるいはプリント配線基板である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、キャリアピールが安定しておりフクレが発生しにくく、高温下の環境に置かれてもキャリア箔と極薄銅箔とを容易に剥がすことができるキャリア付き極薄銅箔を提供することができる。
【0022】
また本発明は、前記キャリア付き極薄銅箔を使用したファインパターン用途のプリント配線板、多層プリント配線板、チップオンフィルム用配線板等の基材となる銅貼積層基板あるいはプリント配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態を模式図的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示すキャリア付き極薄銅箔のキャリア箔と極薄銅箔とを分離した状態を模式的に示す説明図である。
【
図3】従来のキャリア付き銅箔のキャリア箔と銅箔との分離状態を模式的に示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態における極薄銅箔側の剥離界面の元素分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
キャリア付き極薄銅箔用の金属キャリア箔としては一般に、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、チタン合金箔、銅箔、銅合金箔等が使用可能であるが、極薄銅箔または極薄銅合金箔(以下これらを区別する必要がないときは総称して極薄銅箔という)に使用するキャリア箔としては、その取扱いの簡便さの点から、電解銅箔、電解銅合金箔、圧延銅箔または圧延銅合金箔が好ましい。また、その厚みは7μm〜200μmの厚さの箔を使用することが好ましい。
【0025】
キャリア箔として、厚さが7μm以下の薄い銅箔を採用すると、このキャリア箔の機械的強度が弱いためにプリント配線基板等の製造時に皺や折れ目が発生しやすく、箔切れを起こす危険性がある。またキャリア箔の厚さが200μm以上になると単位コイル当たりの重量(コイル単重)が増すことで生産性に大きく影響するとともに設備上もより大きな張力を要求され、設備が大がかりとなって好ましくない。従って、キャリア箔の厚さとしては7μm〜200μmのものが好適である。
【0026】
キャリア箔としては、少なくとも片面の表面粗さがRz:0.01μm〜5.0μmの金属箔を使用することが好ましく、特にチップオンフィルム用配線板における視認性などが要求される場合はRz:0.01μm〜2.0μmであることが好ましい。そのため、チップオンフィルム配線基板用等視認性が要求される場合に表面粗さの範囲がRz:2μm〜5.0μmのキャリア箔を使用するときは、粗い表面に予め機械的研磨または電解研磨を施し、表面粗さをRz:0.01μm〜2μmの範囲に平滑化して使用するとよい。なお、表面粗さRz:5μm以上のキャリア箔についても予め機械的研磨・電気化学的溶解を施し、平滑化して使用することも可能である。
【0027】
本発明において、剥離層は、金属及び、非金属または金属の酸化物又は合金の混合物で構成する。特に本発明の剥離層は、剥離性を保持する金属Aと、極薄銅箔のめっきを容易にする金属Bとで構成する。
前記剥離層を構成する金属AとしてはMo,Ta,V,Mn,W,Crの群から選択する。また、金属BはFe,Co,Niの群から選択する。
【0028】
前記剥離層は
図1に模式的に示すように、キャリア箔2側に設ける第一剥離層3と極薄銅箔1側に設ける第二剥離層4とからなっている。また、キャリア箔2と第一剥離層3との間に第一界面5、極薄銅箔1と第二剥離層4との間に第二界面7、および第一剥離層3と第二剥離層4との間に第三界面6がそれぞれ存在している。
【0029】
本発明において、前記剥離性を保持する金属Aと、極薄銅箔のめっきを容易にする金属Bとは、
図2に模式的に示すように、キャリア箔2と極薄銅箔1とを剥離した際の極薄銅箔1側の剥離表面40における金属Aの元素比をxとし、金属Bの元素比をyとすると、
10≦{y/(x+y)}×100≦80(%)
の比率とすることが好ましい。
【0030】
上記比率が10%未満であると、キャリアピールが低くなり過ぎてフクレが発生しやすくなるとともに剥離層上にめっきが析出しにくくなる恐れがあり、また、上記比率が80%より大きくなると、キャリアピールが高くなり過ぎて極薄銅箔を剥離できなくなる問題が生じる。この比率は、特に20〜60%であることが好ましい。なお、金属Aあるいは金属Bの同種属の金属が2種類以上含まれている場合には、同種族の金属の元素比を足し合わせたものをその元素比とする。
【0031】
また
図2に示すように、キャリア箔2と極薄銅箔1とを第三界面6で剥離することで極めて容易に分離することができる。キャリア箔2と極薄銅箔1とを分離した際、キャリア箔2側に残存した剥離層9および極薄銅箔1側の剥離表面に残留した剥離層10の厚さを、それぞれd1およびd2とすると、
0.5≦d1/d2≦12
の比率であることが好ましい。
【0032】
上記比率が12より大きい場合、極薄銅箔と剥離層との密着性が低くなり過ぎてフクレが発生しやすくなり、また、上記比率が0.5未満となると極薄銅箔の表面に残存する剥離層が厚くなるため、極薄銅箔を付着させて形成した銅張積層板に回路形成を施す際にエッチング性が劣るという問題が生じる。この比率は、特に2〜10であることが好ましい。
【0033】
上記各剥離層は後述するように電解めっきで形成することができる。各剥離層の金属組成を変化させるには、意識的に電解浴組成を変えなくともめっき条件を変える、例えば電流密度を変化させる、ことで各剥離層の金属組成を変えることができる。また、電解浴の組成を変えることにより各剥離層の金属組成を変えられることは勿論である。
【0034】
本発明において、第一剥離層と第二剥離層との間に存在する第三界面における剥離強度は、第一界面および第二界面のいずれと比べても剥離強度を低くしている。このように第三界面の剥離強度を低くし、第一界面及び第二界面の剥離強度を高くするのは、極薄銅箔とキャリア箔とを第三界面で剥離させ、第一界面及び第二界面ではフクレの発生を防止し、かつ、キャリアピール時に安定した剥離をもたらすためである。
第一剥離層と第二剥離層との間に第三界面を形成する方法としては、例えば、剥離層の形成を2回に分けて行う方法が好ましく、または、めっき槽を2槽とすることやインターバルをおいてめっきすること、電解めっきにおける電流密度を変化させる等の手法を用いることも好ましい方法である。
【0035】
また、第一剥離層の形成後に、第一剥離層の表面に酸化処理を施して酸化物層を形成し、しかる後に酸化物層の上に第二剥離層を形成することにより、第一剥離層と第二剥離層との間の第三界面における密着性を低下させ、キャリアピール時により安定した剥離強度をもたらすことが可能となるため、本発明の効果をより高めることができる。
第一剥離層の表面に酸化物層を形成する方法としては、例えば、過酸化水素等の酸化性の薬品を含む処理液への浸漬やアノード電解処理、電解めっきにおける電流密度を高める等の手法を用いることができる。
【0036】
本発明において、付着させる剥離層の付着量は、
0.05mg/dm
2〜50mg/dm
2
であることが好ましい。
付着量が0.05mg/dm
2以下では、剥離層としての十分な機能を果たさないことから不適であり、また、50mg/dm
2以上であっても剥がすことは可能であるが、剥離層を形成する金属種は、めっきし難い金属であり厚くすると平滑性が失われ剥離力にバラツキがみられ、安定性がなくなり、フクレの原因にもなりかねないため、好ましくは50mg/dm
2以下であることが好ましい。更に、極薄銅箔の表面の平滑性も考慮すると上限を20mg/dm
2以下とすることが好ましい。
【0037】
極薄銅箔の形成は、硫酸銅浴、ピロリン酸銅浴、スルファミン酸銅浴、シアン化銅浴などを使用し、剥離層上に電解めっきで形成する。
なお、極薄銅箔の形成に際しては、剥離層を構成する元素によっては、めっき液中のディップ時間・電流値、めっき仕上げのめっき液切り・水洗、金属めっき直後のめっき液pHなどが剥離層の残存状態を決定するため、めっき浴種については剥離層を構成する元素との関係で選択する必要がある。
【0038】
また、剥離層上への極薄銅箔の形成は、その剥離層の剥離性ゆえに、均一なめっきを行うことが非常に難しく、極薄銅箔にピンホールの数が多く存在する、またはフクレが発生しやすい結果となることがある。このようなめっき条件の時には、先ずストライク銅めっきを行うことにより、金属Aの酸化物を還元しつつ密着性の良好で緻密な下地めっきが形成され、その上に通常の銅めっきを施すことで剥離層上に均一なめっきを施すことができ、極薄銅箔に生じるピンホールの数を激減させ、フクレの発生を防止することができる。
【0039】
前記ストライクめっきで付着させる銅めっき厚は0.01μm〜0.5μmが好ましく浴種によってその条件はいろいろであるが、電流密度としては、0.1A/dm
2〜20A/dm
2、めっき時間としては0.1秒以上が好ましい。電流密度が0.1A/dm
2以下では、剥離層上にめっきを均一にのせることが難しく、また20A/dm
2以上ではめっき液の金属濃度を薄めているストライクめっきでは、焼けめっきが発生し、均一な銅めっき層が得られず、好ましくない。めっき時間については、0.1秒以下では、十分なめっき層を得るためには短か過ぎて好ましくない。
ストライクめっきにより剥離層上に形成する銅めっき厚は、剥離層の剥離性を損なわない厚さとすることが必要であり、0.01〜0.5μmとすることが好ましい。このストライクめっき層を形成した後、所望の厚さに銅めっきを行い、極薄銅箔とする。
【0040】
また、第二剥離層を形成した上に極薄銅箔を形成する際に、第二剥離層の表面をエッチングにより薄く溶解除去し、しかる後に銅めっきを施すこともピンホールやフクレの防止に効果がある。
第二剥離層のエッチング処理を行わない場合には、極薄銅箔を形成するためのめっき液中に、第二剥離層を設けたキャリア箔が浸漬された際に、第二剥離層の表面に存在する酸化物が溶解除去されて、第二剥離層と極薄銅箔との間の第二界面において空隙が生じやすくなり、極薄銅箔のめっき析出の阻害や第二界面における密着性低下のおそれがある。このような場合、ピンホールやフクレが発生しやすくなる。
一方、エッチング処理を施した場合には、第二剥離層の表面に存在する金属Aおよび金属Bの酸化物が溶解除去されるため、エッチング後の表面においては正常なめっき析出となり、第二界面における密着性も良好となる。この結果、ピンホールやフクレが防止される。
【0041】
本発明においては、剥離層の剥離性に対する耐熱性を安定させるために、第一剥離層とキャリア箔の間、あるいは第二剥離層と極薄銅箔の間に拡散防止層を設けると効果的である。拡散防止層はNiまたはCo、またはその合金で形成することが好ましい。なお、CrまたはCr合金での形成も効果がある。
【0042】
なお、極薄銅箔表面における絶縁基板とのより強度の密着性を得るためには極薄銅箔表面に粗化処理を行い、表面の粗度をRz:0.2〜3.0(μm)にするとよい。粗化処理は、粗さが0.2(μm)以下では、密着性にあまり影響を与えないため粗化を行っても意味がなく、粗さが3(μm)あれば、充分な密着性を得られることからそれ以上の粗化は必要としないためである。
最後に、粗化処理した表面上に防錆及び耐熱性に効果があるNi、Zn、Cr等の金属を付着させる。またピール強度を向上させるためシランを塗布することも効果的である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0044】
各実施例のめっき条件は表1に示すとおりである。
【0045】
【表1】
【0046】
<実施例1〜8>
キャリア箔→Mo−Coめっき(第一剥離層)→Mo−Coめっき(第二剥離層)→銅ストライクめっき→銅めっき(極薄銅箔)によるキャリア付き極薄銅箔の製造。
片面がRz:0.8μmの銅箔(厚さ:31μm)をキャリア箔とし、該キャリア箔上に表1に記した<Mo−Coめっき条件>にて第一のめっき槽中においてMo−Coめっきにより第一剥離層を形成した。第一のめっき槽から第二のめっき槽中へと移送した後に、第二のめっき槽中においてMo−Coめっきにより第二剥離層を形成した。第一のめっき槽から第二のめっき槽へと移送されるまでの間に、第一剥離層の表面には第三界面が形成される。この第一剥離層あるいは第二剥離層の形成時間を適宜調整することにより、実施例1〜8の剥離層を形成した。
次いで、この第二剥離層上に前記<銅めっき条件1>で0.2μm厚さに銅ストライクめっきを施し、その上に前記<銅めっき条件3>により銅めっきを行い、3μm厚さの極薄銅箔を形成してキャリア付き極薄銅箔とした。
なお、各種評価に供する試料については、極薄銅箔側の表面にNi:0.5mg/dm
2、Zn:0.05mg/dm
2、Cr:0.3mg/dm
2を付着させ、その後でシランカップリング処理する表面処理を施した。
【0047】
<実施例9>
第一のめっき槽から第二のめっき槽へ移送される間に、下記の酸化性処理液への浸漬を行った他は、実施例1〜8と同様に処理してキャリア付き極薄銅箔を得た。
硫酸 :10〜30g/dm
3
過酸化水素水 :30〜60g/dm
3
浴温 :10〜30℃
【0048】
<実施例10>
キャリア箔上に表1に記した<Niめっき条件>にてNiめっきによる拡散防止層を施した他は、実施例1〜8と同様に処理してキャリア付き極薄銅箔を得た。
【0049】
<実施例11、12>
第一剥離層および第二剥離層の形成を、それぞれ表1に記した<Mo−Niめっき条件><W−Niめっき条件>にてMo−NiめっきおよびW−Niめっきを施した他は、実施例1〜8と同様に処理してキャリア付き極薄銅箔を得た。
【0050】
<実施例13>
極薄銅箔の形成を前記<銅めっき条件2>による銅めっきとした他は、実施例1〜8と同様に処理してキャリア付き極薄銅箔を得た。
【0051】
<従来例1>
キャリア箔の上にMo−Coめっきにより第一剥離層を形成した後に、第二剥離層を形成せずに銅ストライクめっきを施した他は、実施例1〜8と同様に処理してキャリア付き極薄銅箔を得た。
【0052】
<比較例1〜5>
第一のめっき槽から第二のめっき槽へと移送されるまでの、第一剥離層あるいは第二剥離層の形成時間を、実施例1〜8に比して過度に長く、あるいは短くした他は、実施例1〜8と同様に処理してキャリア付き極薄銅箔を得た。
【0053】
<評価>
上記実施例及び比較例で作製したキャリア付き極薄銅箔のキャリアピールの評価用サンプルを下記のように作成し評価した。
(1)キャリアピールの測定及びフクレ確認用サンプル
キャリア付き極薄銅箔(実施例、従来例、比較例)を、縦250mm、横250mmに切断したのち、温度350℃、10分間加熱しフクレ確認用のサンプルを作成した。
また、上記加熱処理したサンプルの極薄銅箔側に、両面テープで樹脂基板を貼り付け、キャリア箔付きのポリイミドキャリアピール測定用片面銅張積層板とした。
なお、耐熱性の評価用として加熱温度を300℃、400℃としたサンプルも作成した。
【0054】
(2)ピンホール確認サンプル
キャリア付き極薄銅箔(実施例、従来例、比較例)を、縦250mm、横250mmに切断し、透明テープを極薄銅箔側に貼り付け、極薄銅箔をキャリア箔から剥離してピンホール確認用のサンプルとした。
【0055】
<極薄銅箔の特性評価>
(1)キャリアピールの測定方法とフクレの確認
(a)フクレの確認
キャリア箔上の極薄銅箔が膨れているかどうかを目視で観察し、フクレの数を数えた。その結果を表4に示す。
(b)キャリアピールの測定
上記により作製したキャリアピール測定用試料を、JISC6511に規定する方法に準拠して、測定試料幅10mmでキャリア箔から極薄銅箔を引き剥がし、キャリアピール(ピール強度)をn数3で測定した。評価結果を表4に示す。
【0056】
(c)ピンホール確認
上記ピンホール確認用サンプルに下から光をあて、光が見える数を数えピンホール数とした。測定結果を表4に示す。
(d)耐熱性の評価
上記キャリアピール測定用試料の作製において、加熱条件を300℃、350℃、400℃で10分間とした試料を、JISC6511に規定する方法に準拠して、測定試料幅10mmでキャリア箔から極薄銅箔を引き剥がし、キャリアピール(ピール強度)をn数3で測定した。評価結果を表5に示す。
【0057】
<キャリア箔と極薄銅箔とを剥離した際の、剥離表面の分析>
キャリア箔と極薄銅箔とを剥離し、キャリア箔側および極薄銅箔側のそれぞれの剥離表面において、AES分析装置を用いて、表面から内部へと深さ方向の分析を行った。
その結果の一例として、極薄銅箔側の深さ方向分析結果を
図4に示す。
極薄銅箔側の分析結果において、表面における金属Aの元素比および金属Bの元素比率を、それぞれxおよびy(%)とし、その測定結果を表2に示す。
また、キャリア箔側および極薄銅箔側の分析において、表面から内部にかけて金属Aの元素比率の最大値を求め、その値の1/2の比率となる深さまでの厚さを剥離層の残留厚さとし、それぞれd1およびd2とし、その測定結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
表4から明らかなように、剥離層が1層で構成された従来例1はキャリアピールが低いものの、フクレやピンホールの発生が多く好ましくない。
比較例のキャリア付き極薄銅箔のうち、剥離層が2層で構成された場合でも、キャリア箔2と極薄銅箔1とを剥離した際の極薄銅箔1側の剥離表面における金属Aの元素比xと金属Bの元素比yとの比率{y/(x+y)}が極端に小さい場合(比較例1、2)やキャリア箔側の剥離層および極薄銅箔側の剥離層の表面に残留したそれぞれの剥離層の厚さd1およびd2の比率(d1/d2)が極端に大きい場合(比較例4、5)においては、第二界面における剥離強度が過度に低いために、界面における剥離強度が「第二界面<第三界面」となってしまうことにより、フクレやピンホールが発生して好ましくない。
また、比率{y/(x+y)}が極端に大きすぎる場合(比較例3)においては、フクレやピンホール発生はないものの、第三界面における剥離強度が過度に高いために、界面における剥離強度が「第二界面<第三界面」となり、キャリアピールが高くなりすぎて本発明の適用基準から外れたものとなる恐れがある。
【0063】
これに対し、実施例1〜13のキャリア付き極薄銅箔はキャリアピールが低く、フクレやピンホールも少ない。また、拡散防止層の有無(実施例10と実施例1)とで比較すると、表5に示すように拡散防止層がある方がキャリアピールは低く維持されており、拡散防止層があることにより、耐熱性が向上している。
【0064】
次に銅貼積層基板を作成した。
前記実施例で作製したキャリア付き極薄銅箔の極薄銅箔側の表面に、一般的な処理方法にて順次ニッケル、亜鉛、クロムを付着させた表面処理箔を作製した。この表面処理箔に、ポリアミック酸ワニスを塗布し、発泡が起こらないように段階的に乾燥した後、窒素雰囲気下において330℃で30分間の加熱を行ってイミド化することにより、25μm厚のポリイミド系フレキシブル銅張積層板を作成した。
このポリイミド系フレキシブル銅張積層板よりキャリア箔を剥離除去した後、極薄銅箔にドライフィルムレジストを用いてパターン加工を施して、プリント配線基板を作製した。
この配線基板では、配線部の高いピール強度を維持しつつ、配線ピッチL/S=20/20のファインパターンを形成することができ、配線の直線性も良好であった。また、絶縁信頼性にも問題は見られなかった。
【0065】
本発明は上述したように、キャリアピールに影響を与えずに剥離層界面におけるフクレの発生を抑え、高温下の環境に置かれてもキャリア箔と極薄銅箔とを容易に剥がすことができるキャリア付き極薄銅箔を提供することができる。
また本発明は、前記キャリア付き極薄銅箔を使用し、製造品質が安定した銅貼積層板、プリント配線基板をファインパターン用途のプリント配線板、多層プリント配線板、チップオンフィルム用配線板等の基材として提供することができる、優れた効果を有するものである。
【符号の説明】
【0066】
1 極薄銅箔
2 キャリア箔
3 第一剥離層
4 第二剥離層
5 第一界面
6 第三界面
7 第二界面