特許第5959573号(P5959573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5959573-水中モータ用電線及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959573
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】水中モータ用電線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/282 20060101AFI20160719BHJP
   H01B 7/28 20060101ALI20160719BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20160719BHJP
   H01B 13/14 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   H01B7/28 E
   H01B7/28 B
   H01B7/00 303
   H01B13/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-111805(P2014-111805)
(22)【出願日】2014年5月30日
(62)【分割の表示】特願2010-52841(P2010-52841)の分割
【原出願日】2010年3月10日
(65)【公開番号】特開2014-194949(P2014-194949A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2014年5月30日
【審判番号】不服2015-18438(P2015-18438/J1)
【審判請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2009-152118(P2009-152118)
(32)【優先日】2009年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安田 周平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 孝則
(72)【発明者】
【氏名】古市 久雄
(72)【発明者】
【氏名】井戸沼 正倫
【合議体】
【審判長】 高瀬 勤
【審判官】 和田 志郎
【審判官】 山田 正文
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−186415(JP,A)
【文献】 特開2001−14946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/17 - 7/282
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅導体上に、
エナメル層または半導電性層により構成した導体遮蔽層と、
前記導体遮蔽層の上に、ポリエチレンに不飽和シラン化合物及び有機化過酸化物を加えてグラフト重合したシラングラフトポリマを主体とする樹脂組成物またはポリエチレンとビニルシランの共重合樹脂組成物により構成した絶縁層と、
前記絶縁層の上に、アミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドにより構成した保護層と、を有することを特徴とする水中モータ用電線。
【請求項2】
前記水中モータ用電線は、γ線照射環境下での水トリー試験において、γ線を0.125kGy/hの線量率で照射しつつ、90℃の温水に浸漬し、上記銅導体と温水との間に50Hz、3kVの交流電圧を500日間印加した後、上記絶縁層の断面における長さ200μm以上の水トリーの発生個数が1.0×10個/cm以下である水トリー特性を有することを特徴とする請求項1に記載の水中モータ用電線。
【請求項3】
銅導体上に、エナメル層または半導電性層により構成した導体遮蔽層を設け、
前記導体遮蔽層の外周上に、絶縁層及び保護層とを順次設け、
前記絶縁層を水と接触させて水架橋又はシラン架橋する水中モータ用電線の製造方法において、
前記絶縁層は、ポリエチレンに不飽和シラン化合物及び有機化過酸化物を加えてグラフト重合したシラングラフトポリマを主体とする樹脂組成物またはポリエチレンとビニルシランの共重合樹脂組成物により構成し、
前記保護層は、アミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドにより構成したものであり、
前記絶縁層及び保護層とを順次設ける工程は、前記絶縁層と前記保護層を、同時押し出しまたはタンデム押し出しにより設けたことを特徴とする水中モータ用電線の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温水中で且つγ線が照射される過酷な環境下で使用して好適な水中モータ用電線及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、沸騰水型原子力発電プラントのインターナルポンプに使用される水中モータにおいては、モータを構成する巻線として、モータの使用環境から、高温水中で且つγ線が照射される苛酷な環境に耐えられる絶縁特性を備えた水中モータ用電線が要求されている。
【0003】
従来知られている水中モータ用電線としては、特許文献1、2に記載されているように、エナメルを塗布・焼付けた導体上に、ポリエチレン絶縁層、ナイロンシースを順次押し出しにより被覆して設けた水中モータ用電線が知られている。
【0004】
また、特許文献3に記載されているように、軟銅線導体上に、エナメル層、結晶性ポリプロピレンとEPゴム(エチレン−プロピレン系共重合ゴム)からなる絶縁層、ポリ塩化ビニルシースを順次設けた水中モータ用電線が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−256312号公報
【特許文献2】特開昭62−256313号公報
【特許文献3】実開昭56−96517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の水中モータ用電線によれば、ナイロンシースのナイロン(ナイロン6やナイロン66など)が高温水中で加水分解して、電線の絶縁特性が低下するという問題がある。すなわち、ナイロンシースのナイロンが高温水中で加水分解して、ナイロンシースが割れると、このナイロンシースの割れた部分から絶縁層とナイロンシースとの界面に水が浸入し絶縁層に水が透過し易くなるので、絶縁層に水トリーが発生し、これにより電線の絶縁特性が低下するという問題がある。
【0007】
因みに、特許文献1では、前記問題に関連して、ナイロンシースの上に耐水性のEPゴムを被せた状態でナイロンシースを架橋・冷却(冷却水を使用)することにより、架橋時のナイロンの加水分解を防止しているが、これはあくまでも架橋時のことでありナイロンの加水分解の本質的な解決策とはならないと共に、EPゴムを別工程で剥ぎ取らなければならないという問題がある。
【0008】
また因みに、特許文献2では、前記問題に対して、ナイロンシースに代えてエチレン−テトラフロロエチレン共重合体(ETFT)等のように融点が200℃以上の熱可塑性樹脂製のシースを設けることにより、ナイロンの加水分解を防止しているが、ETFT等の熱可塑性樹脂は押し出し性に難点を有することから、前記シースを押し出しにより被覆して設けることが技術的に難しいという問題がある。特に、前記シースを絶縁層との同時押し出しまたはタンデム押し出しにより被覆して設けることは技術的に極めて難しく、これに対し通常採用されている別工程での押し出しでは、絶縁層の上に保護層を押し出しにより被覆して設ける際に両者の界面に異物や空隙が混入し易く、この異物や空隙が起点となって、絶縁層に水トリーが発生し、これにより電線の絶縁特性が低下するという問題がある。
【0009】
また、特許文献3に記載の水中モータ用電線によれば、シースにポリ塩化ビニルを使用することから、特許文献1、2のようなナイロンの加水分解による問題はないが、γ線の被爆によりポリ塩化ビニルが分解して、塩化水素が発生するという問題がある。すなわち、ポリ塩化ビニルが分解して、塩化水素が発生すると、この塩化水素が周囲の水によって水素イオンと塩素イオンとに解離され、周囲の水に導電性をもたらす(周囲の水が導電性を持つことになる)結果、絶縁層に水トリーが発生、進展し易くなり、これにより電線の絶縁特性が低下するという問題がある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記に鑑み、高温水中で且つγ線が照射される苛酷な環境下で使用した場合において、絶縁層に水トリーが発生することを抑制し、これにより電線の絶縁特性の低下を長期に亘り抑制することができる水中モータ用電線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、銅導体上に、エナメル層または半導電性層により構成した導体遮蔽層と、前記導体遮蔽層の上に、ポリエチレンに不飽和シラン化合物及び有機化過酸化物を加えてグラフト重合したシラングラフトポリマを主体とする樹脂組成物またはポリエチレンとビニルシランの共重合樹脂組成物により構成した絶縁層と、前記絶縁層の上に、アミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドにより構成した保護層と、を有することを特徴とする水中モータ用電線を提供する。
【0012】
ここで、上記ポリエチレンとしては、イオン重合法で重合されたポリエチレン、ラジカル重合法で重合されたポリエチレン、またはイオン重合ポリエチレンとラジカル重合ポリエチレンとを混合したポリエチレンを主体とする高分子材料などを用いることができる。また、これらのポリエチレンの他、エチレンエチルアクリレート共重合体やエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメタクリレート共重合体等のエチレン共重合体、プロピレンとエチレンの共重合体、ポリオレフィンに無水マレイン酸やエポキシ等を含む官能基をグラフトしたものを一種又は二種以上を含んだものを用いることができる。
【0013】
また、上記不飽和シラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランのようなビニル基を有する有機シランを用いることができ、前記シラン化合物をポリオレフィンにグラフトするための有機化酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、α,α´−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンなどを単独或いは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0014】
また、上記において、アミド基濃度とは、主鎖分子の原子100個に対するアミド基の比率をいう。
【0015】
また、上記において、アミド基濃度12.0[基/100atom]以下とした理由は、アミド基濃度が12.0[基/100atom]よりも大きいと、脂肪族ポリアミドの吸水性が高くなり高温水中で加水分解しやすくなるからである。市販のアミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドとしては、例えばナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0016】
この水中モータ用電線によれば、上記構成の採用により、まず、前記保護層をアミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドにより構成することにより、ポリ塩化ビニルを使用することなく前記ポリアミドを効果的に低吸水性化することができ、これによりナイロンの加水分解を本質的に抑制することができると共に、次に、前記絶縁層をポリエチレンに不飽和シラン化合物及び有機化過酸化物を加えてグラフト重合したシラングラフトポリマを主体とする樹脂組成物またはポリエチレンとビニルシランの共重合樹脂組成物により構成することにより、前記絶縁層の架橋にあたり高温高圧の水蒸気を使用することなく水(水分)と接触させることにより容易に架橋(水架橋又はシラン架橋)することができ、これにより架橋時のナイロンの加水分解を抑制することができるために、これらの総合効果により高温水中で且つγ線が照射される苛酷な環境下で使用した場合において、絶縁層に水トリーが発生することを抑制し、これにより電線の絶縁特性の低下を長期に亘り抑制することができる。
【0017】
なお、前記絶縁層に対する前記架橋は、前記絶縁層の耐熱性を向上させるために通常必要であり、本発明においては、前記絶縁層をポリエチレンに不飽和シラン化合物及び有機化過酸化物を加えてグラフト重合したシラングラフトポリマを主体とする樹脂組成物またはポリエチレンとビニルシランの共重合樹脂組成物により構成することにより、押し出し後に前記絶縁層をシロキサン触媒の下で水と接触させることにより容易に架橋(水架橋又はシラン架橋)することができる。この架橋方法によれば、過酸化物(化合物)を配合し高温高圧の水蒸気を使用して架橋する方法と比較して、既に述べた通り架橋時のナイロンの加水分解の問題を改善することができると共に、また、放射線照射により架橋する方法と比較して、ナイロンが放射線により酸化劣化する(保護層としての機能が失われる)という問題がなくなり、したがってまた、これらいずれの架橋方法と比較して、保護層の外観が良好となり、本発明の目的との関係で有利に架橋を行うことができる。
【0018】
また、本発明においては、前記保護層をアミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドにより構成することにより、ポリアミド樹脂が元々吸水しやすい性質を有することから、前記保護層を通して前記水(水分)が前記絶縁層まで浸透するため、前記絶縁層の上に前記保護層を押し出しにより被覆した後で、前記架橋(水架橋又はシラン架橋)を容易に行うことができる。これは後述する同時押し出しまたはタンデム押
し出しを行う上で非常に有利なことである。
【0019】
ここで、前記架橋に用いられる前記シロキサン触媒(シロキサン縮合触媒)としては、ジブチル錫ジラウレートやジオクチル錫ジラウレート、アジピン酸亜鉛、アジピン酸カルシウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛などを用いることができる。
【0020】
請求項2の発明は、前記水中モータ用電線は、γ線照射環境下での水トリー試験において、γ線を0.125kGy/hの線量率で照射しつつ、90℃の温水に浸漬し、上記銅導体と温水との間に50Hz、3kVの交流電圧を500日間印加した後、上記絶縁層の断面における長さ200μm以上の水トリーの発生個数が1.0×10個/cm以下である水トリー特性を有することを特徴とする請求項1に記載の水中モータ用電線を提供する。
【0021】
請求項3の発明は、銅導体上に、エナメル層または半導電性層により構成した導体遮蔽層を設け、前記導体遮蔽層の外周上に、絶縁層及び保護層とを順次設け、前記絶縁層を水と接触させて水架橋又はシラン架橋する水中モータ用電線の製造方法において、前記絶縁層は、ポリエチレンに不飽和シラン化合物及び有機化過酸化物を加えてグラフト重合したシラングラフトポリマを主体とする樹脂組成物またはポリエチレンとビニルシランの共重合樹脂組成物により構成し、前記保護層は、アミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドにより構成したものであり、前記絶縁層及び保護層とを順次設ける工程は、前記絶縁層と前記保護層を、同時押し出しまたはタンデム押し出しにより設けたことを特徴とする水中モータ用電線の製造方法を提供する。
【0022】
この水中モータ用電線の製造方法によれば、上記効果に加えて、上記構成を採用により、押し出し構造上、前記絶縁層と前記保護層との界面に異物や空隙が混入しにくくなるので、異物や空隙が起点となって絶縁層に水トリーが発生することを効果的に抑制し、これにより電線の絶縁特性の低下を長期に亘り確実に抑制することができる。特に、同時押し出しでは、更に前記界面の密着性を高めることができるので、界面剥離・空隙発生により絶縁層に水トリーが発生することを抑制し、前記効果を更に高めることができる。
【0023】
なお、同時押し出しとは、専用の押し出しダイスを用いて前記絶縁層と前記保護層を同時に押し出し成形する方法をいい、タンデム押し出しとは、前記絶縁層を押し出した後、直ちに前記絶縁層の上に前記保護層を押し出し成形する方法をいう。いずれの押し出し方法においても、それらを夫々別工程で押し出す場合と比較して、前記絶縁層と前記保護層との界面に異物や空隙が混入することを防ぐことができる。
【0024】
ここで、上記エナメル層としては、エポキシエナメルやポリイミド系エナメル、ポリアミドイミド系エナメル、ポリエステルイミド系エナメルなどのエナメル層を用いることができ、また、上記半導電性層としては、例えばポリエチレンやエチレン共重合体などの樹脂にカーボンブラックなどの導電性付与剤を配合した半導電性層を用いることができる。
【0025】
この水中モータ用電線によれば、上記効果に加えて、上記構成の採用により、前記導体遮蔽層における銅イオンの析出・拡散防止効果を安定して確保することができる。これにより巻線としての水中モータ用電線の絶縁の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の水中モータ用電線及びその製造方法によれば、高温水中で且つγ線が照射される苛酷な環境下で使用した場合において、絶縁層に水トリーが発生することを抑制し、これにより電線の絶縁特性の低下を長期に亘り抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施の形態に係る水中モータ用電線の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の好適な実施の形態を図1に基づいて説明すると、1は導体、2は銅イオンの析出・拡散を防止する導体遮蔽層、3は絶縁層、4は保護層、5は水中モータ用電線である。
【実施例】
【0029】
以下、図1を参照して、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0030】
図1のように、導体1として外径約4.5mmの銅線の外周上に、エポキシ樹脂を主体とする塗料を繰り返し塗付・焼付けた、いわゆるエナメル層により構成した厚さ約0.06mmの導体遮蔽層2を設けた。次いで、この導体遮蔽層2の外周上に、夫々表1に示される配合組成の絶縁層3及び保護層4を順次設けて、夫々実施例及び比較例の水中モータ用電線5を作製した。
【0031】
ここで、表1中、実施例1〜3及び比較例1〜5は、絶縁層3及び保護層4を同時押し出しにより被覆して設けた。この場合、絶縁層3の厚さは1.5mm、保護層4の厚さは0.2mmとした。
【0032】
また、同表中、実施例4、5は、絶縁層3を押し出しにより被覆して設けた後、直ちに絶縁層3の上に保護層4をタンデム押し出しにより被覆して設けた。この場合も、絶縁層3の厚さは1.5mm、保護層4の厚さは0.2mmとした。
【0033】
また、実施例6は、導体遮蔽層2として、前記したエポキシ樹脂を主体とするエナメル層により構成した導体遮蔽層の代わりに、エチレンエチルアクリレート共重合体100重量部に対し導電性付与剤としてカーボンブラックを65重量部配合した組成物からなる半導電性層により構成した導体遮蔽層を設けた。
【0034】
また、実施例1〜6及び比較例1〜3は、絶縁層3の架橋方法として、絶縁層3及び保護層4を押し出しにより被覆して設けた後、絶縁層3及び保護層4を70℃の飽和水蒸気に12時間晒して、絶縁層3を架橋した。なお、この架橋は、いずれもシロキサン触媒の下で水(飽和水蒸気)と接触させることにより行った。
【0035】
また、比較例4は、絶縁層3の架橋方法として、絶縁層3及び保護層4を押し出しにより被覆して設けた後、絶縁層3及び保護層4を高圧水蒸気に晒して、絶縁層3を加熱架橋した。
【0036】
また、比較例5は、絶縁層3の架橋方法として、絶縁層3及び保護層4を押し出しにより被覆して設けた後、絶縁層3及び保護層4に電離性放射線を照射して、絶縁層3を加熱架橋した。
【0037】
また、比較例6は、導体1として外径約4.5mmの銅線の外周上に、エポキシ樹脂を主体とする塗料を繰り返し塗付・焼付けた、いわゆるエナメル層により構成した厚さ約0.06mmの導体遮蔽層2を設けた後、この導体遮蔽層2の外周上に、表1に示される配合組成の絶縁層3を押し出しにより被覆して、厚さ1.5mの絶縁層3を設け、この絶縁層3を70℃の飽和水蒸気に12時間晒して架橋した後、更に厚さ0.2mmの保護層4を別工程で押し出しにより被覆して設けた。
【0038】
【表1】
【0039】
表1は、上記実施例1〜6及び比較例1〜6の実施内容を纏めたものである。このうち、下段の評価は、夫々作製した水中モータ用電線5の特性試験結果を纏めたものである。
【0040】
ここで、(絶縁層及び保護層の)押出被覆後の界面状態の評価は、夫々作製した水中モータ用電線5の界面を目視により観察し、電線長さ1000m当たり確認された異物・剥離の数が、10個より少ないものを「良」(○)とし、10個以上のものを「不良」(×)と判定した。
【0041】
また、(絶縁層を)架橋後の保護層の外観の評価は、夫々作製した水中モータ用電線5の外観を目視により観察し、異常が見られなかったものを「良」(○)とし、割れ、変色等の異常が見られたものを「不良」(×)と判定した。
【0042】
また、重要な水トリー特性の評価は、まず、夫々作製した水中モータ用電線5を巻線形成時の最小曲げ半径(r=約15mm)で2.5回巻回した試験用サンプルを各々10個作製した。
【0043】
このうち、通常の水トリー特性の評価は、各々作製した試験用サンプル10個のうち5個を用いて行った。すなわち、試験用サンプル5個を90℃の温水に浸漬し、導体1と温水との間に50Hz、3kVの交流電圧を500日間印加した後、絶縁層3の断面を薄くスライスしてメチレンブルー水溶液で煮沸染色し、光学顕微鏡を用いて水トリーの長さを計測、その長さが200μm以上の水トリーの発生個数を計数した。ここで、その発生個数が1.0×103(個/cm3)以上であれば「不良」(×)とし、1.0×102(個/cm3)より多く1.0×103(個/cm3)より少なければ「良」(△)とし、1.0×101(個/cm3)以下であれば「優良(○)」と判定した。
【0044】
また、γ線照射環境下での水トリー特性の評価は、残りの試験用サンプル5個を用いて行った。すなわち、試験用サンプル5個を水入りの銅製容器に入れ、この銅製容器をγ線照射室内で90℃に保たれた恒温槽内に配置し、γ線を0.125kGy/hの線量率で照射しつつ、銅製容器と試験用サンプルの導体との間に50Hz、3kVの交流電圧を500日間印加した後、上記同様の方法により水トリーの長さを計測、水トリーの発生個数を計数し、判定した。
【0045】
上記表より、保護層4をアミド基濃度12.0[基/100atom]以下の脂肪族ポリアミドにより構成した実施例1〜6は、そのアミド基濃度が12.0[基/100atom]より多い比較例1、2と比較して、高温水中での水トリー特性が良く、また、保護層4をポリ塩化ビニル樹脂により構成した比較例3と比較して、γ線照射環境下での水トリー特性が良いことが分かる。
【0046】
また、絶縁層3をポリエチレンに不飽和シラン化合物及び有機化過酸化物を加えてグラフト重合したシラングラフトポリマを主体とする樹脂組成物、あるいはポリエチレンとビニルシランの共重合樹脂組成物により構成し、そして、絶縁層3をシロキサン触媒の下で水(飽和水蒸気)と接触させることにより架橋した実施例1〜6は、他の架橋方法で架橋した比較例4、5と比較して、保護層の外観に割れや変色が見られず良好な外観を有することが分かる。
【0047】
また、絶縁層3と保護層4を同時あるいはタンデムに押し出しにより被覆して設けた実施例1〜6と比較例1〜5は、いずれも、絶縁層3と保護層4を別工程で押し出しにより被覆して設けた比較例6と比較して、押出被覆後の両者の界面に異物や剥離が少なく界面の状態が良好であることが分かる。
【0048】
本発明は、以上の実施の形態の限定されることなく、その発明の範囲において種々の改変が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1 導体
2 導体遮蔽層
3 絶縁層
4 保護層
5 水中モータ用電線


図1