【実施例】
【0059】
図1は本発明に係る液状栄養食品の製造方法のうちの一例を示すブロック図である。
【0060】
図1に示すように、流動食・医療食などの液状栄養食品の製造工程では、原材料の検査・計量を行う(S11)。原材料としては、流動食・医療食の用途によって異なるものがあるが、一般に糖質、脂質、蛋白質のほか、ビタミン類、ミネラル類、繊維質などの総合的な栄養素が含まれる。
【0061】
検査・計量を経た原材料は、調合工程での調合タンクである多機能タンクに投入されて混合される。この多機能タンクには、約55℃の温水が所定量で入れられている。
【0062】
多機能タンクを本実施例においては、ターボミキサー(Scanima社製:Turbo Mixer)とした。このターボミキサーでは、タンクの直径が約580〜2500mm、タンクの高さが約400〜2300mmであるのに対して、直径が約200〜400mm、回転数が約1000〜2600rpmのローター及び、スリット径が4mmのステータをタンク内に備えている。このターボミキサーの攪拌は強力であることから、タンク内で原材料を所定の均一な状態に混合・分散できる。
【0063】
そのため、油脂類を原材料と同時に投入することができ、従来の製造工程で行われていた油脂類の比例注入(インライン混合、従来の液状栄養食品の製造方法のブロック工程を示す
図2のS103の工程)が不要となり、予備乳化機の設備を省略できることとなる(
図2に示すS104)。
【0064】
このとき、タンク内の減圧状態を−60kPa(絶対圧:38kPa)〜−80kPa(絶対圧:18kPa)として使用しており、粉体原料などが効率的にタンク内へ吸引されて溶解される。タンク内では減圧状態の圧力が低く、真空度が高いほど、粉体原料などが効率的にタンク内へ吸引されて溶解される。このことは、調合時間の短縮と共に、脱臭や脱泡の効果を上げることとなる。ただし、発泡性の高い(泡の立ちやすい)製品では、タンク内の液量が多く(液面が高く)、ヘッドスペースが小さいと、泡がタンクから溢れて、製品の損失が多くなる。例えば、小容量のタンクなどでは大容量のタンクに比べて、ヘッドスペースを大きくしにくいため、小容量のタンクなどでは大容量のタンクよりも真空度を高く設定しにくい。このように、タンク内の真空度の設定には注意が必要である。
【0065】
図3のグラフは、ターボミキサー(SRB50)による調合工程における調合時間(攪拌保持時間)と調合された粒子の粒子径と均質化圧力との関係を示すものである。なお、ここでいう調合時間には、調合タンクへ粉体原料などを投入するための時間などは含まれないものとする。
【0066】
図3に示すように、ターボミキサーで15分間、調合(攪拌)すると、粒子径(平均脂肪球径)は0.7μm程度になる。ここでの粒子径(平均脂肪球径)は、SALD−2000J(島津製作所)による測定値(体積平均値)である。
【0067】
ここで、
図2に示す従来の製造工程を比較参照すると、油脂の比例注入の直後(
図2、S103)に予備乳化機を使用しているほか(
図2、S104)、殺菌前と殺菌後の2回にわたり均質機(ホモゲナイザー)を使用して高圧処理している。このとき、予備乳化機で処理した原材料の粒子径は1.5μm程度、第1均質工程(殺菌前の均質工程)で処理した後の粒子径は0.6μm程度であった。
【0068】
したがって、本実施例でのターボミキサーにより15分間、調合することで、予備乳化機が不要となることが判明する。さらに、従来の製造工程における第1均質工程(殺菌前の均質工程)で処理した後の粒子径が0.6μm程度であるのに対し、本実施例でのターボミキサーで15分間、調合した後の粒子径が0.7μm程度であることから、従来の製造工程における第1均質工程(殺菌前の均質工程)を省略してもよいこととなる。なお、上記ターボミキサーは一例にすぎず、他に同等な多機能タンク(Romaco Fryma Koruma社:Dinex、APV社:Flex Mix など)を使用することができる。
【0069】
次に、ターボミキサーでの混合による調合工程を経た液状栄養食品の原材料は、上記したように、従来の製造工程における油脂類の比例注入と予備乳化機の使用を省略されて、殺菌工程(145℃、5秒間)に移行される(S14)。この殺菌工程は、従来の製造工程と同様である。
【0070】
殺菌工程を経た後には、均質機(ホモゲナイザー)を使用した高圧での均質処理が行われる(S15)。
【0071】
均質機(ホモゲナイザー)としては、大型で隙間の小さい均質ディスク(Niro Soavi社:Nano Valve)や、多数で隙間の小さい多段バルブ(APV社:Micro Gap)が例示できる。
【0072】
すなわち、ナノバルブやマイクロギャップを有する乳化機を使用することで、均質化圧力を従来の製造工程よりも大幅に低減できることとなる。
【0073】
なお、上記ナノバルブやマイクロギャップは一例にすぎず、他に同等なディスクやバルブで、隙間を所定の数値に設定して使用することができる。
【0074】
具体的には、
図4の均質化圧力と粒子径の関係を示したグラフ図を参照し、従来の均質工程で第2の均質化圧力を40MPaで処理した際の液状栄養食品の脂肪球径(粒子径:0.4μm程度)と同等にするために、本実施例の均質工程での均質化圧力を求めることとした。この結果、本実施例での均質化圧力は、23MPa程度にすればよいことが判明する。
【0075】
よって、均質化処理(S15)によって0.4μm程度の粒子径となった液状栄養食品は、冷却工程を経て(S16)、さらに、充填工程、出荷と続くこととなる(S17)。
【0076】
上記したように本発明に係る液状栄養食品の製造法における本実施例の製造工程では、従来の液状栄養食品の製造工程よりも工程数および製造機器の使用数を減少させることができた。
【0077】
すなわち、流動食などの液状栄養組成物の製造では、乳化破壊を防止することが必須であり、予備乳化や均質化による脂肪球の微粒化や乳化の安定化は非常に重要である。よって、従来の製造工程では、脂肪球の微粒化や乳化の安定化を良好にするために、下記する3つの操作(処理)が必須であった。
【0078】
(1)油脂類のインラインの比例注入と、予備乳化機(インラインミキサー)による混合・分散(予備乳化処理):蛋白質に対し、油脂類を過剰に添加しないことが必要である。
【0079】
(2)第1(殺菌前)の均質機(ホモゲナイザー)による均質化(微粒化処理):殺菌(加熱処理)後の乳化状態を良好にするために前処理として必要である。
【0080】
(3)第2(殺菌後)の均質機(ホモゲナイザー)による均質化(乳化処理):保存中のクリームの浮上や沈殿を防ぐために高圧の処理が必要である。
【0081】
この従来の製造工程を用いて、比較的高濃度で高粘度の液状栄養製品(例えば、明治乳業社製のメイバランス1.5HPZ、粘度:20〜35cP)を製造する場合には、平均脂肪球径は、予備乳化処理(インラインミキサー、前記の(1)の工程)後で約15μm、微粒化処理(第1の均質機、前記の(2)の工程)後で約0.6μm(均質化圧力:15〜30MPa)、乳化処理(第2の均質機、前記の(3)の工程)後で約0.4μm(均質化圧力:40〜50MPa)となる。
【0082】
一方、多機能タンク(スカニマ社:SRB50、ターボミキサー)を用いて、メイバランス1.5ZCS(粘度:10〜20cP)を調合した際に、調合の終了(完了)からの経過時間と粒子径の関係を
図3に示した。このターボミキサーでは、タンクの直径が約580mm、タンクの高さが約400mm、ローター直径が200mm、ローター回転数が2000rpm、スリット径が4mm、仕込量が40Lであり、パイロットプラントの規模(機種:SRB50)である。タンク内の減圧状態は−60kPa(絶対圧:38kPa)である。
【0083】
図3より、粉体原料などの投入の終了から15分後に、平均粒子径が約0.77μmとなることを確認できる。つまり、多機能タンク(ターボミキサー)の下部に設置されたローターとステータを循環しながら、タンクで調合液を15分間、保持すれば、調合操作だけで、平均脂肪球径を0.7μm程度に微粒化できることが明らかになった。
【0084】
この調合液(平均脂肪球径:0.7μm程度)について、さらに脂肪球を微粒化するために、均質機(ニロソアビ社:NS−3024H、シャープエッジ、処理流量:250L/h)を用いて、40〜50MPaで乳化処理した。その結果では、平均粒子径が0.4μm程度となり、上記した従来の製造方法(
図2)の場合と同等となった。
【0085】
従来の製造方法(
図2)では、タンクでの調合(粉体原料などの撹拌・混合)操作のほかに、(1)油脂のインラインでの比例注入とインラインミキサー(予備乳化処理)、(2)第1(殺菌前)の均質機(ホモゲナイザー)による均質化(微粒化処理)、(3)第2(殺菌後)の均質機(ホモゲナイザー)による均質化(乳化処理)の合計で3段階の微粒化操作(3台の乳化装置)が必要であった。
【0086】
これに対して、多機能タンクを使用した本発明の製造方法を用いて、比較的高濃度で高粘度の製品(例えば、明治乳業株式会社のメイバランス1.5HPZ、粘度:20〜35cP)を製造する場合には、多機能タンクでの調合操作のほかに、第2(殺菌後)の均質機(ホモゲナイザー)に該当する微粒化処理の1段階(1台の乳化装置)で十分であり、従来と品質が同等となった。
【0087】
つまり、インラインミキサー(予備乳化処理)と、第1(殺菌前)の均質機(ホモゲナイザー)の合計で2段階の微粒化操作(2台の乳化装置)を省略できることが明らかとなった。
【0088】
次に、
図4の均質化圧力と粒子径の関係について詳述する。
【0089】
実製造の規模で使用する流路径(隙間)の狭い均質バルブ(僅少な隙間で構成された均質ディスク又は多段バルブ)では、その隙間が30〜60μm(均質化圧力:40〜60MPa、処理流量:6000L/h)であり、この流路径の狭い均質バルブを設けた均質機を流動食へ適用する。
【0090】
なお、実製造の規模で使用する従来(通常)の均質バルブでは、その隙間が90〜100μm(均質化圧力:40〜60MPa、処理流量:6000L/h)である。つまり、流路径の狭い均質バルブは、従来の均質バルブに比べて、流路径(隙間)が約1/2(2分の1)である。
【0091】
このような狭い隙間に流体(液体)を通過させると、通常よりも圧力が高くなることが予想(想像)される。しかし、ナノバルブ(流路径の狭い均質バルブ)では、バルブ本体(バルブのハウジング内)の流路径を広くし(バルブの直径を大きくし)、作用(接液)部分の流路径を極力狭くしつつ、流路長を短くすることで、通常よりも圧力を低くして、流体へ効率的に力(剪断応力)を加えている。
【0092】
一方、マイクロギャップ(流路径の狭い均質バルブ)では、バルブ本体(バルブのハウジング内)の流路を並列で複数(例えば、5つ)に分岐させている。これら分岐の流路へ流体を分割し、各分岐での流量を減らすことで、作用(接液)部分の流路径を極力狭くしつつ、通常よりも圧力を低くして流体へ効率的に力(剪断応力)を加えている。
【0093】
つまり、ナノバルブとマイクロギャップの何れの場合でも、いかに圧力を低くして狭い隙間に流体を通過させるかの工夫が重要となっている。この工夫のために、ナノバルブとマイクロギャップでは、従来(通常)の均質機(イズミフードマシナリ社、三和機械社など)よりも、作用(接液)部分の流量(線速度)が遅くなっている。
【0094】
通常のバルブを設けた従来の均質機(ホモゲナイザー)と、流路径の狭い均質バルブを設けた均質機を用いて、流動食「メイバランス1.5ZCS(粘度:10〜20cP)(明治乳業社製)」を実機の処理能力(6000L/h)で均質化した。
【0095】
前処理として、第1均質機(三和機械社:H100)を用いて、流動食を均質化(均質化圧力:25MPa、処理流量:6000L/h)し、その後に、直接加熱装置(岩井機械社:SN50)を用いて、流動食を殺菌(145℃、5秒)してから冷却(85℃程度)した。
【0096】
通常のバルブ(イズミフードマシナリ社:HV−5EH、フラット型の均質バルブ)と、流路径の狭い均質バルブ(ニロソアビ社:ナノバルブ)の2種類を用いて、前記のように処理した流動食を均質処理し、微粒化の効果を比較した。
【0097】
図4で、通常のバルブ(フラット型)を用いて、均質化圧力を40MPaで均質化すると、粒子径は0.43μmとなる。これに対して、流路径の狭い均質バルブ(ナノバルブ)を用いて、粒子径を0.43μmとするには、均質化圧力を23MPa程度で均質化すれば良いこととなる。つまり、狭間隙バルブでは通常のバルブに比べて、均質化圧力を約35%も低減できたこととなる。
【0098】
ここで、均質化圧力と均質機のバルブ(均質バルブ)にかかる剪断応力との関係を、
図5(a)に示す簡略化モデルにより表現する。剪断応力を厳密に計算することは困難なため、
図5(a)に示した簡略化モデルを用いて、剪断応力を推定した。
図5(a)は、均質工程における剪断応力の厳密モデルと簡略化モデルの概念説明図で、
図5(b)は、剪断応力と粒子径との関係を示したグラフである。
【0099】
剪断応力が同等ならば粒子径も同等になると仮定したが、この仮定の根拠は前述した
図5(b)に示す実験結果(実測値)より得られる。ここでは、流量の50L/hを400L/hにする、8倍のスケールアップについて実験した。流量の異なる均質機同士で、剪断応力と粒子径に相関関係があると推定された。なお、剪断応力の推定は、前記した理論に基づいて計算した数値である。
【0100】
本理論の計算結果によると、従来の均質工程で第2均質機の脂肪球径(粒子径)を0.4μm程度とするためには、均質バルブの「剪断応力」を20×10
4N/m
2程度にする必要がある。そして、本実施例での均質工程での均質機による均質処理後の粒子径を0.4μm程度とするには、均質化圧力を26MPa程度にすれば良いことになる。
【0101】
実測値の23MPaと計算値の26MPaには若干の誤差があるが、調合タンクにターボミキサーを適用してから、均質機にナノバルブやマイクロギャップを適用することで、均質機の均質圧力を低減できることが理論的にも証明できた。
【0102】
このように、本実施例における液状栄養食品の製造方法によれば、原材料の調合工程に多機能タンクとしてターボミキサーを使用したので、従来の調合タンクに比べて、強力な攪拌が可能となり、油脂類を原材料と同時に混入できることとなった。そして、従来の油脂類の比例注入(インライン混合)と、これに伴う予備乳化機の使用の双方が不要となった。
【0103】
そのため、高濃度や高粘度の液状栄養食品(流動食など)を短時間で効率的に製造することも可能となった。従来装置である循環式の粉体溶解装置又は1パス(1スルー)式の粉体溶解装置による調合(原料溶解)操作と比較すると、本実施例による多機能タンク(例えば、ターボミキサーなど)による調合操作では、調合時間の短縮と、調合操作に関わる配置人員の低減が可能となる。この点を、より具体的に以下で詳述する。
【0104】
従来の循環式の粉体溶解装置(比較例1)では、溶解操作の開始時に、溶解液への粉体の投入量が少なく、溶解液の濃度が低いため、溶解液の粘度も低く、粉体の溶解速度は大きい。
【0105】
しかし、溶解操作の進行に伴い、溶解液への粉体の投入量が多くなり、溶解液の濃度が高くなると、溶解液の粘度も高くなり、粉体の溶解速度が小さくなる。
【0106】
このとき、溶解液の粘度が高くなると、循環流量も全体的に低下して、粉体の溶解速度が極端に小さくなる。
【0107】
また、循環式では循環用の配管など(ライン)が多いため、1日に数種類(バッチ)の製品を製造する場合には、このラインで細菌増殖の危険性(リスク)が高くなる。
【0108】
この循環式の粉体溶解装置を用いて、比較的高濃度で高粘度の製品(例えば、明治乳業社のメイバランス1.5HPZ、粘度:20〜35cP)の10kLを製造する場合には、調合操作が全て終了するのに、約100分間を必要とする。また、これら比較的高濃度で高粘度の製品を製造する場合には、その配置人員として4人/8時間を必要とする。
【0109】
一方、従来の1パス(1スルー)式の粉体溶解装置(比較例2)では、粉体の分散能力の特に優れた溶解機(フンケン社:フロージェットミル)を用いることで、従来の循環式の粉体溶解装置の問題点の一部を解決している。つまり、1パス式では粉体の溶解速度の低下を解消して、より短時間で高濃度に粉体を溶解できる。
【0110】
ただし、この1パス式の調合操作では、所定の溶解水量を送液する時間で、ミネラル類を除く全ての粉体原料を投入しなければならない。
【0111】
また、この1パス式の調合操作では、粉体原料を全て投入した後に、配管など(ライン)を(水で濯ぐ)水押しする必要があり、粉体原料の溶解用の清水量を制限し、水押し用に清水を残しておく必要がある。このため、粉体溶解機では実際の製品よりも、かなり高濃度で蛋白質類を溶解する必要があり、溶解不良の危険性(リスク)が高くなる。
【0112】
油脂類の添加では、さらに調合操作での条件が厳しく、蛋白質類を溶解している間に、油脂類を全て添加(注入)し、安定的に乳化しなければならない。
【0113】
このとき、蛋白質類の濃度と比例して、かなり高濃度で油脂類を投入しなければならないこととなる。高濃度の蛋白質の溶解液に、高い混合比率で高粘度の油脂類を投入して、安定的な乳化状態を得ることは困難である。
【0114】
また、この1パスの粉体溶解機は、定置洗浄(CIP)できないため、手動で洗浄(手洗い)しなければならず、洗浄に手間と時間が必要となる。
【0115】
そして、高濃度の溶解液に高粘度の油脂類を定量的に投入しなければならない観点から、送液用のポンプにモーノポンプを使用しなければならない。モーノポンプでは、製造用の配管(ライン)とは別に、洗浄用の配管(ライン)をバイパスとして必要であり、ローターやステータの管理を考慮すると、あまり使い勝手の良いポンプとは言えない。
【0116】
この1パス式の粉体溶解装置を用いて、比較的高濃度で高粘度の製品(例えば、明治乳業社のメイバランス1.5HPZ、粘度:20〜35cP)の10kLを製造する場合には、調合操作が全て終了するのに、約80分間を必要とする。また、これら比較的高濃度で高粘度の製品を製造する場合には、その配置人員として4人/8時間を必要とする。
【0117】
本実施例における液状栄養食品の調合操作は、多機能タンク(例えば、ターボミキサー)を使用するものであり、この多機能タンクは、タンクの下部にローターとステータが設置されており、この部分(ローターとステータ)を溶解液(処理液)が通過することで、撹拌、混合、乳化、分散が促進される。この調合操作の具体例を下記する。
【0118】
タンクに清水(溶解水)を入れ、所定の液面(レベル)になった段階で、粉体原料(粉類)を投入する。デキストリン類や油脂類が液体状の場合には、タンクに清水を入れる操作と同時に、デキストリン類や油脂類を投入できる。
【0119】
また、蛋白質類を溶解する操作と同時に、ミネラル類を添加できる。このとき、粉体原料の投入が終了するのと同時に、調合操作の大部分が終了する。溶解液(処理液)の組成や物性を安定化したり、溶解液(処理液)を十分に脱気したりするために、任意の時間で保持することも可能である。
【0120】
多機能タンクでの調合操作では、タンクの内部を全て減圧し、その減圧効果により、タンクの内部と溶解液へ粉体を吸い込ませることが可能となる。
【0121】
よって、循環式の調合操作では、溶解液(処理)の粘度の上昇に伴い、粉体が溶解液の内部へ浸透(侵入)や分散しにくくなるため、粉体の溶解速度の低下が課題(問題)点であったが、この多機能タンクでの調合操作では、溶解液の粘度の上昇に伴い、粉体の溶解速度が低下することはない。
【0122】
さらに、多機能タンクでの調合操作(本実施例)では、上記した従来の循環式装置(比較例1)と異なり、調合工程や送液工程などの製造工程全体で循環用の配管など(ライン)がないので、長時間の連続的な製造でも細菌増殖の危険性(リスク)が低くなる。
【0123】
また、多機能タンクでの調合操作(本実施例)では、上記した従来の1パス式装置(比較例2)と異なり、配管など(ライン)の水押し用の清水量が少なくなるため、粉体原料の溶解用の清水量を多くできる。
【0124】
つまり、高濃度で蛋白質類を溶解する必要がなく、溶解不良の危険性(リスク)が低くなる。そして、油脂類の添加では、時間的な制限がなくなり、安定的な乳化状態を得やすくなる。
【0125】
多機能タンクは洗浄しやすい構造であり、定置洗浄(CIP)できる。このため、細菌増殖の危険性が低くなることに加えて、上記した従来の1パス式の粉体溶解機のような手洗いが全く不要となり、日常の洗浄作業の負担が軽減される。
【0126】
この本実施例で使用する多機能タンクを用いて、比較的高濃度で高粘度の製品(例えば、明治乳業社のメイバランス1.5HPZ、粘度:20〜35cP)の10kLを製造する場合には、粉体溶解(調合)操作が全て終了するのに、約30〜40(約35)分間を必要とする。
【0127】
また、この多機能タンクでは、デキストリン類(糖質類)用のコンテナや蛋白質類用の粉ミキサー(粉サイロ)を併用できることから、これら比較的高濃度で高粘度の製品を製造する場合には、その配置人員として2人/8時間を必要とする。
【0128】
つまり、調合操作に多機能タンクを用いることで、各種の付帯設備も併せて効率化できるため、調合時間を上記した従来の循環式装置に比べて約1/3(3分の1)、上記した従来の1パス式装置と比べて約1/2(2分の1)に低減でき、調合操作に関わる配置人員を上記した従来の循環式装置及び1パス式装置と比べて約1/2(2分の1)に低減できることとなる。
【0129】
さらに、多機能タンクは強力な攪拌により、タンク内面への付着物や沈降物を除去できるので、壁面や底面の伝熱性を良好な状態に維持することができる。
【0130】
さらに、減圧状態で、加温・冷却・攪拌の操作を一括して実行する攪拌力の強いターボミキサーの使用によって、気泡を殆ど含まない調合液を提供でるので、溶解、乳化の効果が向上する。
【0131】
また、調合工程での溶解も高効率で行えるので、調合作業が省力化できる。そして、調合液に脱酸素効果をもたらすことができ、加熱や酵素の作用などに伴う、栄養成分(例えば、ビタミンC、ビタミンB1、葉酸、ビタミンDなど)の破壊や減少を抑制できるので、本実施例での製造方法により製造される液状栄養食品の品質の向上も図ることができる。
【0132】
本実施例における多機能タンク(例えば、ターボミキサー)による短時間内の調合操作で、加熱や酵素の作用などに伴う栄養成分、有用成分の破壊や減少の抑制ができることは、流動食の調合操作において、所定温度、所定時間で保持を行った際に、調合液のビタミンCの含有量を経時的に測定した実験からも確認されている。
【0133】
この実験は、流動食「メイバランス1.5HPZ(粘度:20〜35cP)」(明治乳業社製)の調合液を、スリーワンモーター(回転数:200rpm)で撹拌しながら50℃で保持し、ビタミンCの含有量を経時的に確認したものである。
【0134】
この調合液へビタミンC(V.C.)を48mg/100mlとなるように添加し、0〜4時間後で経時的に試料(調合液)を採取し、ビタミンCの濃度を測定した。なお、「メイバランス1.5HPZ」の規格値でビタミンCは24mg/100mlであり、今回の実験条件である48mg/100mlは目増量で200%となる。
【0135】
この実験結果によると、当初(経過時間0時間)は36.4mg/100mlであったビタミンC(V.C.)の含有量が、1時間経過後に31.0mg/100ml、2時間経過後に24.8mg/100ml、3時間経過後に18.2mg/100ml、そして4時間経過後には14.8mg/100mlとなることが確認されている。この実験により、調合液(流動食)を所定温度、所定時間で保持すると、ビタミンCは劣化することが判明した。
【0136】
つまり、調合時間を短縮することは、有用成分の破壊や劣化を抑制する上で有効な手段であることが分かった。
【0137】
また、液状栄養食品の粘度は、15〜100cPであることが好ましい。本発明が提案する前記液状栄養食品の製造方法は、高濃度で高粘度の流動食を製造するのに適しており、特に15cP以上で本発明の効果が発揮される。一方、流動食としてチューブ流動性が求められるので、粘度が100cP以上となると、経管栄養補給の際にチューブ(細管)内を流れにくくなるからである。
【0138】
ターボミキサーによる強力な攪拌は、従来の調合タンクよりも原材料の粒子径を小さくできるので、その後に続く均質工程における均質機に、大型で隙間の小さい均質ディスク(Niro Soavi社:ナノバルブ)や多段バルブ(APV社:マイクロギャップ)、すなわち、ナノバルブやマイクロギャップを有する乳化機を使用することで、均質化圧力を従来の製造工程よりも大幅に低減することが可能となる。
【0139】
また、上記したように、本実施例では、調合工程において多機能タンクとしてのターボミキサーを使用するため、他に粉体溶解機やポンプを使用せずに、調合工程を一括して行えるので、この多機能タンクとしてのターボミキサーのタンクを洗浄、管理するだけで、高温菌の増殖の危険(リスク)を減少できる。
【0140】
従来の調合設備では、タンク内だけでなく、粉体溶解機やポンプのメカシール部分へ、調合液(調合乳、ミックス)が残存する。この調合液の残りが原因となり、製造を繰り返すに従い(バッチの回数が増える程)、細菌の汚染の可能性が高くなる。ところが、本発明の調合設備では、粉体溶解機やポンプを用いることなく、タンクだけで全ての調合操作を完了できる。そのため、タンクだけを十分に洗浄できれば、高温菌の増殖の危険が少なくなるという利点がある。
【0141】
実際に、多機能タンクとしてのターボミキサー(スカニマ社:SRB50、仕込量:40L)を使用して、メイバランスCの濃縮液(1.5倍)を連続的に調合し、細菌の増殖(増菌)の傾向(状況)を、洗浄(リンス)の前後で経時的に確認した。
図6(a)と(b)は、調合工程での高温菌数の一覧図である。この結果によると、調合の9時間後に増菌の傾向が認められた。
【0142】
このとき、ホースを用いて手動で、タンクを温水で濯いだが、その後にも増菌の傾向が認められた(検討1)。一方、シャワーボールを用いて自動で約5分間、タンクを温水で十分に濯ぐことで、増菌を抑制できることが判明した(検討2)。
【0143】
検討1では、ターボミキサーを用いて長時間で連続的に調合した。このときの中温菌、中温芽胞菌、高温菌、高温芽胞菌の増殖を確認した。この検討1の結果を
図6(a)の一覧図に示す。この一覧図に示したとおり、ホースを用いて温水で濯いでも、細菌の増殖を抑制できなかった。
【0144】
検討2では、検討1の結果を踏まえて、洗浄方法を改良した。このときの中温菌、中温芽胞菌、高温菌、高温芽胞菌の増殖を確認した。この検討2の結果を
図6(b)の一覧図に示す。この一覧図に示したとおり、シャワーボールを用いて5分間、タンクを温水で濯げば、細菌の増殖を抑制できた。このことは、9時間保持後の高温菌数と、シャワーボールを用いて洗浄した後である12時間保持後の高温細菌数を比較することから容易に認識できる。
【0145】
次に、他の実施例として、上記実施例で説明した液状栄養食品である流動食メイバランス1.5ZCS(粘度:10〜20cP)、メイバランス1.5HPZ(粘度:20〜35cP)よりも高濃度で高粘度の製品である、明治乳業社のメイバランス2.0(粘度:30〜70cP)について、その製造工程について説明する。
【0146】
多機能タンク(スカニマ社:SRB50とSPM3000、ターボミキサー)を用いて、メイバランス2.0を1.3倍の濃縮液で調合した。
図7(a)は、調合時間(攪拌保持時間)と脂肪球径(粒子径)の関係を示すものである。
【0147】
メイバランス2.0(2.0kcal/ml)は、上記したようにメイバランス1.5ZCS(1.5cal/ml)よりも高濃度で高粘度の製品である。このとき、さらに高濃度で高粘度の製品について、多機能タンクの撹拌効果(作用)を確認するために、調合操作での清水(溶解水)量を減らし、メイバランス2.0を1.3倍の濃縮液で調合することとした。つまり、多機能タンクの混合性能を評価するために、模擬液としてメイバランス2.0の1.3倍の濃縮液(約55℃)を用いた。なお、この模擬液には、ミネラル類やビタミン類を添加せず、糖質類、蛋白質類、油脂類などのみを添加して調製した。ちなみに、流動食などの液状栄養組成物では、メイバランス1.0(1.0kcal/ml)などが標準的な濃度であり、汎用性の高い製品である。
【0148】
実験条件は、
図7(b)の通りであり、仕込量を40L(機種:SRB50)と3000L(機種:SPM3000)、回転数を2000rpm(機種:SRB50)と1200rpm(機種:SPM3000)、ローター径を200mm(機種:SRB50)と300mm(機種:SPM3000)、スリット径を4mm(機種:SRB50とSPM3000)であり、パイロットプラント(機種:SRB50)と実機(機種:SPM3000)の規模とした。
【0149】
このとき、タンク内の減圧状態をSRB50では、−60kPa(絶対圧:38kPa)、SPM3000では、−80kPa(絶対圧:18kPa)として使用した。SRB50ではSPM3000に比べて、ヘッドスペースが小さいため、SRB50ではSPM3000よりも真空度を高く設定しにくかった。
【0150】
パイロットプラントの規模のタンク(機種:SRB50)で調合液を10分間、保持すれば、調合操作だけで平均脂肪球径を0.8μm程度まで微粒化できることが明らかになった。また、実機の規模のタンク(機種:SPM3000)で調合液を5分間、保持すれば、調合操作だけで平均脂肪球径を0.9μm程度まで微粒化できることが明らかになった。
【0151】
つまり、パイロットプラントと実機の何れの場合でも、調合(原料溶解)の終了後に、ローターとステータを循環しながら、タンクで調合液を5〜10分間、保持すれば、調合操作だけで平均脂肪球径を0.9μm程度まで微粒化できることが明らかになった。
【0152】
この調合液(平均脂肪球径:0.9μm程度)について、さらに脂肪球を微粒化するために、均質機(ニロソアビ社:NS−3024H)を用いて、40〜50MPaで乳化処理した。その結果では、平均粒子径が0.4μm程度となり、従来の製造方法の場合と同等となった。
【0153】
多機能タンクによる製造方法を用いて、高濃度で高粘度の製品(例えば、明治乳業社のメイバランス2.0)を製造する場合には、多機能タンクでの調合操作のほかに、第2(殺菌後)の均質機(ホモゲナイザー)に該当する微粒化処理の1段階(1台の乳化装置)で従来と品質が同等となり、十分であった。つまり、インラインミキサー(予備乳化処理)と、第1(殺菌前)の均質機(ホモゲナイザー)の合計で2段階の微粒化操作(2台の乳化装置)を省略できることが明らかとなった。