【文献】
立間徹,外,エネルギー貯蔵型光触媒とその応用,表面科学,2003年 1月10日,Vol.24, No.1,p.13-18,DOI:10.1380/jsssj.24.13
【文献】
BAMWENDA, G. R. et al,The visible light induced photocatalytic activity of tungsten trioxide powders,Applied Catalysis A: General,2001年 2月23日,Vol.210, No.1-2,p.181-191,DOI:10.1016/S0926-860X(00)00796-1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化タングステン微粒子と、遷移金属元素、Zn、およびAlから選ばれる少なくとも1種の金属元素を0.001質量%以上50質量%以下の範囲で含む酸化タングステン複合材微粒子とから選ばれる少なくとも1種の微粒子を備える抗菌性材料を具備し、暗所で用いられる抗菌性部材であって、
前記微粒子のBET比表面積が11m2/g以上300m2/g以下であり、
前記微粒子はX線回折法で測定したとき、2θが22.5°以上25°以下の範囲に第1ピーク、第2ピーク、および第3ピークを有すると共に、2θが22.8〜23.4°の範囲に存在するピークA、2θが23.4〜23.8°の範囲に存在するピークB、2θが24.0〜24.25°の範囲に存在するピークC、2θが24.25〜24.5°の範囲に存在するピークDにおいて、前記ピークDに対する前記ピークAの強度比(A/D)および前記ピークDに対する前記ピークBの強度比(B/D)がそれぞれ0.7〜2.0の範囲であり、かつ前記ピークDに対するピークCの強度比(C/D)が0.5〜2.5の範囲であり、
前記微粒子は、JIS−Z−2801(2000)の抗菌加工製品−抗菌性試験方法に準じた方法で、0.02mg/cm2以上40mg/cm2以下の範囲で前記微粒子を付着させた試験片に、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、および腸管出血性大腸菌から選ばれる少なくとも1種の菌を接種し、24時間保存した後の生菌数を評価する抗菌性評価試験を行ったとき、
R=log(B1/C1)
(式中、B1は無加工試験片を24時間保存した後の生菌数の平均値(個)、C1は前記微粒子を塗布した前記試験片を24時間保存した後の生菌数の平均値(個)である)
で表される抗菌活性値Rが0.3以上であり、
かつ、前記微粒子は、前記抗菌性評価試験を暗所で行ったとき、
RD=log(BD/CD)
(式中、BDは無加工試験片を暗所で24時間保存した後の生菌数の平均値(個)、CDは前記微粒子を塗布した前記試験片を暗所で24時間保存した後の生菌数の平均値(個)である)
で表される抗菌活性値RDが0.3以上であり、暗所で抗菌性能を示すことを特徴とする抗菌性部材。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の実施形態による抗菌性材料は、酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子(以下、酸化タングステン系微粒子と記す)を具備する。酸化タングステン系微粒子は、試験片に当該微粒子を0.02〜40mg/cm
2の範囲で付着させて抗菌性の評価試験を行ったとき、抗菌活性値Rが0.1以上の特性を有するものである。さらに、酸化タングステン系微粒子は抗菌性の評価試験を暗所で行ったとき、抗菌活性値R
Dが0.1以上の特性を有することが好ましい。
【0013】
抗菌性能を評価する試験(抗菌性評価試験)は、JIS−Z−2801(2000)の抗菌加工製品−抗菌性試験方法に準じた方法で実施するものとする。抗菌活性値Rは、評価対象となる酸化タングステン系微粒子を0.02〜40mg/cm
2の範囲で付着させた試験片に、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、および腸管出血性大腸菌から選ばれる少なくとも1種の菌を接種し、24時間保存した後の生菌数の平均値(個)C
1と、無加工試験片に同様な菌を接種し、24時間保存した後の生菌数の平均値(個)B
1とを測定し、これら生菌数の平均値C
1、B
1から以下の式(1)に基づいて求められる。
R=log(B
1/C
1) …(1)
【0014】
抗菌活性値R
Dは評価用試料を暗所で保存する以外は抗菌活性値Rと同様にして評価して求められる。抗菌活性値R
Dは、酸化タングステン系微粒子を0.02〜40mg/cm
2の範囲で付着させた試験片に、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、および腸管出血性大腸菌から選ばれる少なくとも1種の菌を接種し、暗所で24時間保存した後の生菌数の平均値(個)C
Dと、無加工試験片に同様な菌を接種し、暗所で24時間保存した後の生菌数の平均値(個)B
Dとを測定し、これら生菌数の平均値C
D、B
Dから以下の式(2)に基づいて求められる。
R
D=log(B
D/C
D) …(2)
【0015】
酸化タングステン系微粒子の抗菌性を評価するにあたって、まず微粒子(微粉末)を水等の分散媒と混合し、超音波分散機、湿式ジェットミル、ビーズミル等により分散処理を行って分散液を作製する。得られた分散液をガラス板等の試験片に、滴下、スピンコート、ディップ、スプレー等の一般的な方法で塗布して試料を作製する。このような試料に菌を接種して抗菌性を評価する。酸化タングステン系微粒子が光触媒性能を有する場合、試験片の表面に塗布した状態で光触媒性能を発揮させるために、分散処理で粉末に歪を与えすぎないような条件を設定することが好ましい。
【0016】
酸化タングステン系微粒子を具備する抗菌性材料は、酸化タングステン系微粒子のみに限らず、微粒子を基材に塗布した材料、微粒子を基材や繊維に練り込んだ材料、基材の成形工程で微粒子を含有する表面層を形成した材料等、既知の方法で作製された材料を含むものである。このような材料の抗菌性能を評価する場合には、当該材料から切り出した試験片を用いて評価試験を実施する。微粒子を基材に塗布する方法としては、微粒子の抗菌性評価試験と同様に、粉末と分散媒と必要に応じて分散剤との混合物に分散処理を行って作製した分散液を用いる方法が挙げられる。膜の均一性が要求される場合には、塗布法としてスピンコート、ディップ、スプレー等の方法を適用することが好ましい。
【0017】
この実施形態で用いられる酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子は分散性が非常に高いため、抗菌性能を発揮する膜を形成することができる。これまでの粒径が大きな酸化タングステン粒子の場合には、基材上に膜を形成することができないため、抗菌性を評価することができない。さらに、粒径が大きな酸化タングステン粒子を用いて、抗菌性能を示す膜は得られていない。
【0018】
この実施形態の抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子は、抗菌活性値Rが0.1以上の特性、さらには抗菌活性値R
Dが0.1以上の特性を有している。すなわち、酸化タングステン系微粒子は試験片に対する当該微粒子の付着量を0.02〜40mg/cm
2の範囲とした場合において、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、および腸管出血性大腸菌から選ばれる少なくとも1種の菌に対して良好な抗菌性能を示すものである。酸化タングステン系微粒子の抗菌性能は特別な光を照射することなく発揮され、さらに暗所においても発揮されるものである。
【0019】
このように、抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子は、特別な光の照射を必要とすることなく、抗菌性能を発揮するものである。従って、そのような酸化タングステン系微粒子を具備する抗菌性材料を、屋内の天井、壁、床、家具、家電製品等、照度が低い室内環境で用いられる製品に適用した場合においても、実用的な抗菌性能を得ることができる。さらに、酸化タングステン系微粒子は暗所においても抗菌性能を発揮することから、棚や引出しに保管されることが多い文房具や台所用品等に適用した場合においても実用的な抗菌性能を得ることができる。
【0020】
抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子は、抗菌活性値Rが0.3以上、さらに1以上であることが好ましい。抗菌活性値Rは2以上であることがより好ましい。このような条件を満足する酸化タングステン系微粒子を用いることで、より高い抗菌性能を有する材料を実現することができる。暗所で評価される抗菌活性値R
Dについても0.3以上、さらに1以上であることが好ましい。抗菌活性値R
Dは2以上であることがより好ましい。このような酸化タングステン系微粒子を用いた材料は、使用される環境の照度に影響を受けることなく、高い抗菌性能を発揮させることができる。
【0021】
上述したような抗菌性を有する材料は、酸化タングステン系微粒子の粒径(比表面積)や結晶構造等を制御することにより得ることができる。抗菌性材料に用いる微粒子は、酸化タングステンの微粒子に限られるものではなく、酸化タングステン複合材の微粒子であってもよい。酸化タングステン複合材とは、主成分としての酸化タングステンに、遷移金属元素や他の金属元素を含有させたものである。遷移金属元素とは原子番号21〜29、39〜47、57〜79、89〜109の元素である。酸化タングステン複合材はTi、Zr、Mn、Fe、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、AlおよびCeから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましい。Cu、AgおよびZnから選ばれる少なくとも1種の金属元素は有効であり、少量で抗菌性能を向上させることができる。
【0022】
酸化タングステン複合材における遷移金属元素等の金属元素の含有量は0.001〜50質量%の範囲とすることが好ましい。金属元素の含有量が50質量%を超えると、抗菌性材料としての特性が低下するおそれがある。金属元素の含有量は10質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2質量%以下である。金属元素の含有量の下限値は特に限定されるものではないが、その含有量は0.001質量%以上、さらに0.01質量%以上とすることが好ましい。Cu、AgおよびZnから選ばれる少なくとも1種の金属元素の含有量は、酸化タングステン微粒子が有する効果と金属元素の添加効果とを考慮して0.001〜1質量%の範囲とすることが好ましい。
【0023】
抗菌性材料に用いられる酸化タングステン複合材において、金属元素は各種の形態で存在させることができる。酸化タングステン複合材は、金属元素の単体、金属元素を含む化合物(酸化物を含む化合物)、酸化タングステンとの複合化合物等の形態として、金属元素を含有することができる。酸化タングステン複合材に含有される金属元素は、それ自体が他の元素と化合物を形成していてもよい。金属元素の典型的な形態としては酸化物が挙げられる。金属元素は単体、化合物、複合化合物等の形態で、例えば酸化タングステン粉末と混合される。金属元素は酸化タングステンに担持されていてもよい。
【0024】
酸化タングステン複合材の具体例としては、酸化銅粉末を0.01〜5質量%の範囲で含有する混合粉末が挙げられる。酸化銅粉末以外の金属酸化物粉末(酸化チタン粉末、酸化鉄粉末等)についても、酸化タングステン複合材中に0.01質量%以上5質量%以下の範囲で含有させることが好ましい。酸化タングステン複合材は酸化物以外のタングステン化合物、例えば炭化タングステンを含有していてもよい。炭化タングステンはその粉末として0.01質量%以上5質量%以下の範囲で酸化タングステン粉末と混合される。
【0025】
酸化タングステンと金属元素(具体的にはTi、Zr、Mn、Fe、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、AlおよびCeから選ばれる少なくとも1種の元素の単体、化合物、複合化合物)との複合方法は特に限定されるものではなく、粉末同士を混合する混合法、含浸法、担持法等の種々の複合法を適用することが可能である。代表的な複合法を以下に記載する。酸化タングステンに銅を複合させる方法としては、酸化タングステン粉末と酸化銅粉末とを混合する方法が挙げられる。硝酸銅や硫酸銅の水溶液やエタノール溶液に酸化タングステン粉末を加えて混合した後、70〜80℃の温度で乾燥させてから500〜550℃の温度で焼成する方法も有効である。
【0026】
また、塩化銅水溶液や硫酸銅水溶液に酸化タングステン粉末を分散させ、この分散液を乾燥させる方法(含浸法)を適用することも可能である。含浸法は銅の複合方法に限らず、塩化鉄水溶液を用いた鉄の複合方法、塩化銀水溶液を用いた銀の複合方法、塩化白金酸水溶液を用いた白金の複合方法、塩化パラジウム水溶液を用いたパラジウムの複合方法等にも応用することができる。さらに、酸化チタンゾルやアルミナゾル等の酸化物ゾルを用いて、酸化タングステンと金属元素(酸化物)とを複合させてもよい。これら以外にも各種の複合方法の適用が可能である。
【0027】
抗菌性材料に用いる酸化タングステン系微粒子は、平均一次粒子径として1〜200nmの範囲の平均粒子径(D50)を有することが好ましい。また、酸化タングステン系微粒子は4.1〜820m
2/gの範囲のBET比表面積を有することが好ましい。平均粒子径はSEMやTEM等の写真の画像解析から、n=50個以上の粒子の体積基準の積算径における平均粒子径(D50)に基づいて求めるものとする。平均粒子径(D50)は比表面積から換算した平均粒子径と一致していてもよい。
【0028】
抗菌性微粒子の性能は、比表面積が大きく、粒径が小さい方が高くなる。酸化タングステン系微粒子の平均一次粒子径が200nmを超える場合やBET比表面積が4.1m
2/g未満の場合には、均一で安定な膜の形成が困難となり、十分な抗菌性能が得られないおそれがある。一方、酸化タングステン系微粒子の平均一次粒子径が1nm未満の場合やBET比表面積が820m
2/gを超える場合には、粒子が小さくなりすぎて取扱い性(粉末としての取扱い性)が劣るため、抗菌性材料(微粒子)の実用性が低下する。酸化タングステン系微粒子のBET比表面積は8.2〜410m
2/gの範囲であることがより好ましく、平均一次粒子径は2〜100nmの範囲であることがより好ましい。
【0029】
酸化タングステン系微粒子の平均一次粒子径は2.7〜75nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは5.5〜51nmの範囲である。BET比表面積は11〜300m
2/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは16〜150m
2/gの範囲である。酸化タングステン系微粒子を抗菌性塗料に用いたり、基材に練り込んで使用する場合、粒子径が小さすぎると粒子の分散性が低下する。このような点を改善する上で、平均一次粒子径が5.5nm以上の酸化タングステン系微粒子を用いることが好ましい。
【0030】
酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を構成する酸化タングステンは、三酸化タングステンの単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種の結晶構造、あるいは前記単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種に斜方晶が混入した結晶構造を有することが好ましい。このような結晶構造を有する酸化タングステンを用いた酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子は、優れた抗菌性能を安定して発揮させることができる。三酸化タングステンの各結晶相の存在比率を同定することは困難であるものの、X線回折法で測定した際に下記の(1)および(2)の条件を満足する場合に、上記した結晶構造を有するものと推定することができる。
【0031】
(1)X線回折チャートにおいて、2θが22.5〜25°の範囲に第1ピーク(全ピークのうち強度が最大の回折ピーク)、第2ピーク(強度が2番目に大きい回折ピーク)、および第3ピーク(強度が3番目に大きい回折ピーク)を有する。
【0032】
(2)X線回折チャートにおいて、2θが22.8〜23.4°の範囲に存在するピークをA、2θが23.4〜23.8°の範囲に存在するピークをB、2θが24.0〜24.25°の範囲に存在するピークをC、2θが24.25〜24.5°の範囲に存在するピークをDとしたとき、ピークDに対するピークAの強度比(A/D)およびピークDに対するピークBの強度比(B/D)がそれぞれ0.5〜2.0の範囲であり、かつピークDに対するピークCの強度比(C/D)が0.04〜2.5の範囲である。
【0033】
X線回折の測定および解析について説明する。X線回折測定はCuターゲット、Niフィルタを使用して行い、解析が処理条件の違いの影響を受けないように、平滑化処理とバックグラウンド除去のみを行い、Kα2除去を行わずにピーク強度の測定を行うものとする。ここで、X線回折チャートのそれぞれの2θ範囲内でのピーク強度の読み取り方は、山が明確な場合にはその範囲内での山の高い位置をピークとし、その高さを読み取るものとする。山が明確でないが肩がある場合には、肩の部分をその範囲内のピークとし、肩の部分の高さを読み取るものとする。山や肩がない勾配の場合には、その範囲の中間での高さを読み取って、その範囲内のピーク強度と見なすものとする。
【0034】
酸化タングステン系微粒子の結晶性が低い場合、あるいは酸化タングステン系微粒子の粒子径が非常に小さい場合には、X線回折チャートにおける2θが22.5〜25°の範囲内のピークが1つまたは2つのブロードなピークとなることもある。このようなX線回折結果を示す酸化タングステン系微粒子を除外するものではない。そのような酸化タングステン系微粒子であっても、抗菌性能を得ることができる。
【0035】
上述したような粒子径(比表面積)や結晶構造を有する酸化タングステン系微粒子を用いることによって、特別な光の照射を必要とすることなく、抗菌性能を示す材料を実現することができる。このような抗菌性材料を屋内の天井、壁、床、家具、家電製品等、照度が低い室内環境で用いられる製品に適用することによって、照度が低い環境下においても実用的な抗菌性能を得ることができる。さらに、この実施形態の抗菌材料は暗所においても抗菌性能を発揮することから、棚や引出しに保管されることが多い文房具や台所用品等に適用した場合においても、実用的な抗菌性能を得ることができる。
【0036】
さらに、抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子は、上述した試験片に可視光を照射した状態で抗菌性の評価試験を行ったとき、抗菌活性値R
Lが1.0以上であることが好ましい。可視光の照射下での抗菌性評価試験は、JIS−R−1702(2006)のファインセラミックス−光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果に準じた方法で実施するものとする。試験片は上述した抗菌性評価試験と同様に、酸化タングステン系微粒子を0.02〜40mg/cm
2の範囲で付着させて調製する。細菌としては、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、および腸管出血性大腸菌から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0037】
試験片には、白色蛍光灯と紫外線カットフィルタを使用し、波長が380nm以上で照度が6000lxの可視光を照射する。このような可視光を試験片に照射した状態で抗菌性評価試験を実施する。可視光の照射下での抗菌性評価試験において、微粒子を塗布した試験片を可視光下で24時間保存した後の生菌数の平均値(個)C
Lと、無加工試験片を可視光の照射下で24時間保存した後の生菌数の平均値(個)B
Lとを測定する。抗菌活性値R
Lは生菌数の平均値C
L、B
Lから以下の式(3)に基づいて求められる。
R
L=log(B
L/C
L) …(3)
【0038】
ここで、一般に可視光とは波長が380nm〜830nmの領域の光を指すものである。可視光領域における性能を評価するために、この実施形態の評価では波長が380nm以上のみの可視光を用いるものとする。具体的には、光源としてJIS−Z−9112で規定されている白色蛍光灯を使用し、波長が380nm未満の光をカットする紫外線カットフィルタを用いて、波長が380nm以上のみの可視光を照射して評価を行うことが好ましい。白色蛍光灯としては、例えば東芝ライテック社製FL20SS・W/18もしくはそれと同等品が用いられる。紫外線カットフィルタとしては、例えば日東樹脂工業社製クラレックスN−169(商品名)もしくはそれと同等品が用いられる。
【0039】
酸化タングステンは光触媒作用を有することが知られている。この実施形態の抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子は、上述した粒径(比表面積)や結晶構造を満足させ、さらには酸化タングステンや酸化タングステン複合材の結晶性を高めることによって、光の照射がない場合でも抗菌性能を示すばかりでなく、可視光領域の光を照射した状態でより良好な抗菌性能を発現するものである。例えば、前述したX線回折チャートにおけるピーク強度比において、ピークDに対するピークAの強度比(A/D)およびピークDに対するピークBの強度比(B/D)がそれぞれ0.7〜2.0の範囲であり、かつピークDに対するピークCの強度比(C/D)が0.5〜2.5の範囲であるときに光触媒活性が高くなり、より一層良好な抗菌性能を発揮させることができる。
【0040】
酸化チタン系光触媒の場合、窒素や硫黄をドープして可視光の吸収性能を高めることによって、可視光応答性を向上させることができる。さらに、熱処理温度を制御して結晶性を向上させたり、あるいは金属を担持させることによって、電子や正孔の再結合を防いで光触媒活性を高めることができる。しかしながら、著しく高い照度の下では高い性能を発揮する酸化チタンも、照度の低下に伴って性能が低下し、日常的な150〜500lx程度の低い照度では実用的な光触媒性能を示すものは得られていない。
【0041】
抗菌性材料を構成する酸化タングステン系微粒子の抗菌活性値R
Lは3以上であることが好ましく、さらに好ましくは4以上である。抗菌性が高い材料の場合、6000lxの照度の可視光(波長:380nm以上)を照射した状態で6時間保存した後の評価試験でも良好な抗菌活性値R
L6hを示す。酸化タングステン系微粒子は抗菌活性値R
L6hが2以上であることが好ましい。さらに、酸化タングステン系微粒子は1000lxの照度の可視光(波長:380nm以上)を照射した状態で24時間保存した後の評価試験に基づく抗菌活性値R
L1000が2以上であることが好ましい。
【0042】
上述したような条件を満足する酸化タングステン系微粒子を用いることによって、通常の屋内環境において、より高い抗菌性能を有する材料を得ることが可能となる。ここで、抗菌性材料に照射する可視光としては、上記した白色蛍光灯の光のみならず、太陽光、白色LED、電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ等の一般照明、青色発光ダイオード、青色レーザ等を光源とする光であってもよい。さらに、抗菌性材料に照度の高い可視光を照射することで、より高い抗菌性能を発揮させることが可能となる。
【0043】
この実施形態の抗菌性材料が光の照射の有無に関係なく抗菌性能を発揮するのは、酸化タングステン微粒子の比表面積を大きくすることで、菌との接触面積が増加するためと考えられるが、暗所で発現する抗菌作用のメカニズムは必ずしも明らかではない。さらに、可視光の照射下で抗菌性能が増加するのは、酸化タングステン微粒子の比表面積を大きくすることで菌との接触面積が増加し、これにより活性サイトを増加させることができることに加えて、結晶性の向上により電子や正孔の再結合の確率が低下するためである。
【0044】
酸化タングステンのバンドギャップは2.5〜2.8eVであり、酸化チタンより小さいために可視光を吸収する。従って、優れた可視光応答性が実現できる。さらに、酸化タングステンの代表的な結晶構造はReO
3構造であることから、表面最外層に酸素を持つ反応活性が高い結晶面が露出しやすい。このため、水を吸着することにより高い親水性を発揮する。あるいは、吸着した水を酸化することでOHラジカルを生成し、それにより分子や化合物を酸化することができるため、酸化チタンのアナターゼやルチル結晶より優れた光触媒性能を発揮させることが可能となる。加えて、この実施形態による酸化タングステン系微粒子はpH1〜7の水溶液中でのゼータ電位がマイナスであるために分散性に優れ、これにより基材等に薄くむらなく塗布することができる。
【0045】
なお、抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子(粉末)は、不純物として金属元素を含有していてもよい。不純物元素としての金属元素の含有量は2質量%以下であることが好ましい。不純物金属元素としては、タングステン鉱石中に一般的に含まれる元素や原料として使用するタングステン化合物等を製造する際に混入する汚染元素等があり、例えばFe、Mo、Mn、Cu、Ti、Al、Ca、Ni、Cr、Mg等が挙げられる。これらの元素を複合材の構成元素として用いる場合には、この限りではない。
【0046】
本発明の実施形態による抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子(粉末)は以下に示す方法で作製することが好ましいが、これに限定されるものではない。酸化タングステン微粒子は昇華工程を適用して作製することが好ましい。また、昇華工程に熱処理工程を組合せることも有効である。このような方法で作製した三酸化タングステン系微粒子によれば、上述した平均一次粒子径やBET比表面積、結晶構造を安定して実現することができる。さらに、平均一次粒子径がBET比表面積から換算した値に近似し、粒径ばらつきが小さい微粒子(微粉末)を安定して提供することができる。
【0047】
まず、昇華工程について述べる。昇華工程は、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、酸素雰囲気中で昇華させることによって、三酸化タングステン微粒子を得る工程である。昇華とは固相から気相、あるいは気相から固相への状態変化が、液相を経ずに起こる現象である。原料としての金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、昇華させながら酸化させることによって、微粒子状態の酸化タングステン粉末を得ることができる。
【0048】
昇華工程の原料(タングステン原料)には、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液のいずれを使用してもよい。原料として使用するタングステン化合物としては、例えば三酸化タングステン(WO
3)、二酸化タングステン(WO
2)、低級酸化物等の酸化タングステン、炭化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸等が挙げられる。
【0049】
上述したようなタングステン原料の昇華工程を酸素雰囲気中で行うことで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を瞬時に固相から気相とし、さらに気相となった金属タングステン蒸気を酸化することによって、酸化タングステン微粒子が得られる。溶液を使用した場合でも、タングステン酸化物あるいは化合物を経て気相となる。このように、気相での酸化反応を利用することによって、酸化タングステン微粒子を得ることができる。さらに、酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御することができる。
【0050】
昇華工程の原料としては、酸素雰囲気中で昇華して得られる酸化タングステン微粒子に不純物が含まれにくいことから、金属タングステン粉末、酸化タングステン粉末、炭化タングステン粉末、およびタングステン酸アンモニウム粉末から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。金属タングステン粉末や酸化タングステン粉末は、昇華工程で形成される副生成物(酸化タングステン以外の物質)として有害なものが含まれないことから、特に昇華工程の原料として好ましい。
【0051】
原料に用いるタングステン化合物としては、その構成元素としてタングステン(W)と酸素(O)を含む化合物が好ましい。構成成分としてWおよびOを含んでいると、昇華工程で後述する誘導結合型プラズマ処理等を適用した際に瞬時に昇華されやすくなる。このようなタングステン化合物としては、WO
3、W
20O
58、W
18O
49、WO
2等が挙げられる。また、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウムの溶液あるいは塩等も有効である。
【0052】
酸化タングステン複合材微粒子を作製する際には、タングステン原料に加えて遷移金属元素やその他の元素を、金属、酸化物を含む化合物、複合化合物等の形態で混ぜてもよい。酸化タングステンを他の元素と同時に処理することによって、酸化タングステンと他の元素との複合酸化物等の複合化合物微粒子を得ることができる。酸化タングステン複合材微粒子は、酸化タングステン微粒子を他の金属元素の単体粒子や化合物粒子と混合、担持させることによっても得ることができる。酸化タングステンと他の金属元素との複合方法は特に限定されるものではなく、各種公知の方法を適用することが可能である。
【0053】
タングステン原料としての金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は0.1〜100μmの範囲の平均粒子径を有することが好ましい。タングステン原料の平均粒子径は0.3μm〜10μmの範囲がより好ましくは、さらに好ましくは0.3μm〜3μmの範囲、望ましくは0.3μm〜1.5μmの範囲である。上記範囲内の平均粒子径を有する金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を用いると、昇華が生じやすい。
【0054】
タングステン原料の平均粒子径が0.1μm未満の場合には原料粉が微細すぎるため、原料粉の事前調整が必要になったり、取扱い性が低下することに加えて、高価になるために工業的に好ましくない。タングステン原料の平均粒子径が100μmを超えると均一な昇華反応が起きにくくなる。平均粒子径が大きくても大きなエネルギー量で処理すれば均一な昇華反応を生じさせることができるが、工業的には好ましくない。
【0055】
昇華工程でタングステン原料を酸素雰囲気中で昇華させる方法としては、誘導結合型プラズマ処理、アーク放電処理、レーザ処理、電子線処理、およびガスバーナー処理から選ばれる少なくとも1種の処理が挙げられる。これらのうち、レーザ処理や電子線処理ではレーザまたは電子線を照射して昇華工程を行う。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、一度に大量の原料を処理するためには時間がかかるものの、原料粉の粒径や供給量の安定性を厳しく制御する必要がないという長所がある。
【0056】
誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理は、プラズマやアーク放電の発生領域の調整が必要であるものの、一度に大量の原料粉を酸素雰囲気中で酸化反応させることができる。また、一度に処理できる原料の量を制御することができる。ガスバーナー処理は動力費が比較的安いものの、原料粉や原料溶液を多量に処理することが難しい。このため、ガスバーナー処理は生産性の点で劣るものである。なお、ガスバーナー処理は昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではない。プロパンガスバーナーやアセチレンガスバーナー等が用いられる。
【0057】
昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用する場合、通常アルゴンガスや酸素ガスを用いてプラズマを発生させ、このプラズマ中に金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を供給する方法が用いられる。プラズマ中にタングステン原料を供給する方法としては、例えば金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を所定の液状分散媒中に分散させた分散液を吹き込む方法等が挙げられる。
【0058】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をプラズマ中に吹き込む場合に用いられるキャリアガスとしては、例えば空気、酸素、酸素を含有した不活性ガス等が挙げられる。これらのうち、空気は低コストであるために好ましく用いられる。キャリアガスの他に酸素を含む反応ガスを流入する場合や、タングステン化合物粉末が三酸化タングステンの場合等、反応場中に酸素が十分に含まれているときには、キャリアガスとしてアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。反応ガスには酸素や酸素を含む不活性ガス等を用いることが好ましい。酸素を含む不活性ガスを用いる場合、酸化反応に必要な酸素量を十分に供給することが可能なように、酸素量を設定することが好ましい。
【0059】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法を適用すると共に、ガス流量や反応容器内の圧力等を調整することによって、三酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種(単斜晶、三斜晶、または単斜晶と三斜晶との混晶)、あるいはそれに斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン微粒子が得られやすい。三酸化タングステン微粒子の結晶構造は、単斜晶と三斜晶との混晶、あるいは単斜晶と三斜晶と斜方晶の混晶であることがより好ましい。
【0060】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末の分散液の作製に用いられる分散媒としては、分子中に酸素原子を有する液状分散媒が挙げられる。分散液を用いると原料粉の取扱いが容易になる。分子中に酸素原子を有する液状分散媒としては、例えば水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種を20容量%以上含むものが用いられる。液状分散媒として用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。水やアルコールはプラズマの熱で容易に揮発しやすいため、原料粉の昇華反応や酸化反応を妨害することはなく、分子中に酸素を含有していることから酸化反応を促進しやすい。
【0061】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散媒に分散させて分散液を作製する場合、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は分散液中に10〜95質量%の範囲で含ませることが好ましく、さらに好ましくは40〜80質量%の範囲である。このような範囲で分散液中の分散させることで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液中に均一に分散させることができる。均一に分散していると原料粉の昇華反応が均一に生じやすい。分散液中の含有量が10質量%未満では原料粉の量が少なすぎて効率よく製造ができない。95質量%を超えると分散液が少なく、原料粉の粘性が増大することで、容器にこびりつき易くなるために取扱い性が低下する。
【0062】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液にしてプラズマ中に吹き込む方法を適用することによって、三酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種、またはそれに斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン微粒子が得られやすい。さらに、タングステン化合物溶液を原料として用いることによっても、昇華反応を均一に行うことができ、さらに三酸化タングステン微粒子の結晶構造の制御性が向上する。上記したような分散液を用いる方法は、アーク放電処理にも適用することが可能である。
【0063】
レーザや電子線を照射して昇華工程を実施する場合は、金属タングステンやタングステン化合物をペレット状にしたものを原料として使用することが好ましい。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末を用いると供給が困難になるが、ペレット状にした金属タングステンやタングステン化合物を用いることで効率よく昇華させることができる。レーザは金属タングステンやタングステン化合物を昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではないが、CO
2レーザが高エネルギーであるために好ましい。
【0064】
レーザや電子線をペレットに照射する際に、レーザ光や電子線の照射源またはペレットの少なくとも一方を移動させると、ある程度の大きさを有するペレットの全面を有効に昇華することができる。これによって、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種に斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン粉末が得られやくなる。上記したようなペレットは誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理にも適用可能である。
【0065】
この実施形態の抗菌性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子は、上述したような昇華工程のみによっても得ることができるが、昇華工程で作製した酸化タングステン系微粒子に熱処理工程を実施することも有効である。熱処理工程は、昇華工程で得られた三酸化タングステン系微粒子を、酸化雰囲気中にて所定の温度と時間で熱処理するものである。昇華工程の条件制御等で三酸化タングステン微粒子を十分に形成することができない場合でも、熱処理を施すことで酸化タングステン微粒子中の三酸化タングステン微粒子の割合を99%以上、実質的には100%にすることができる。さらに、熱処理工程で三酸化タングステン微粒子の結晶構造を所定の構造に調整することができる。
【0066】
熱処理工程で用いられる酸化雰囲気としては、例えば空気や酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスとは酸素を含有した不活性ガスを意味する。熱処理温度は200〜1000℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは400〜700℃である。熱処理時間は10分〜5時間とすることが好ましく、さらに好ましくは30分〜2時間である。熱処理工程の温度および時間を上記範囲内にすることによって、三酸化タングステン以外の酸化タングステンから三酸化タングステンを形成しやすい。また、欠陥が少ない結晶性の良い粉末を得るためには、熱処理時の昇温や降温を緩やかに実施することが好ましい。熱処理時の急激な加熱や急冷は結晶性の低下を招くことになる。
【0067】
熱処理温度が200℃未満の場合には、昇華工程で三酸化タングステンにならなかった粉末を三酸化タングステンにするための酸化効果を十分に得ることができないおそれがある。熱処理温度が1000℃を超えると酸化タングステン微粒子が急激に粒成長するため、得られる酸化タングステン微粉末の比表面積が低下しやすい。さらに、上記したような温度と時間で熱処理工程を行うことによって、三酸化タングステン微粉末の結晶構造や結晶性を調整することが可能となる。
【0068】
この実施形態の抗菌性材料は、各種の抗菌性部材や抗菌製品に適用することができる。抗菌性材料は上述したような製造方法で作製した酸化タングステン系微粒子を基材の表面に付着させたり、あるいは基材中に練り込むことによって使用される。酸化タングステン系微粒子を基材表面に付着させる方法としては、例えば酸化タングステン系微粒子を水やアルコール等の分散媒中に分散させた分散液や塗料を基材の表面に塗布する方法が挙げられる。このような方法を適用することによって、酸化タングステン系微粒子を含有する被膜や塗膜等の膜(抗菌性膜)を有する抗菌性部材を得ることができる。
【0069】
抗菌性膜は抗菌性材料(酸化タングステン系微粒子)を0.1〜90質量%の範囲で含有することが好ましい。抗菌性材料の含有量が0.1質量%未満であると、抗菌性能を十分に得ることができないおそれがある。抗菌性材料の含有量が90質量%を超える場合には、膜としての特性が低下するおそれがある。抗菌性膜の膜厚は2〜1000nmの範囲であること好ましい。膜厚が2nm未満であると抗菌性材料の量が不足し、抗菌性能を十分に得ることができないおそれがある。抗菌性膜の膜厚が1000nmを超える場合、抗菌性能は得られるものの、膜としての強度が低下しやすい。抗菌性膜の膜厚は2〜400nmの範囲であることがより好ましい。
【0070】
抗菌性膜は酸化タングステン系微粒子を用いた抗菌性材料以外に、無機バインダ等を含有していてもよい。無機バインダとしてはSi、Ti、Al、WおよびZrから選ばれる少なくとも1種の元素のアモルファス酸化物が挙げられる。アモルファス酸化物からなる無機バインダは、例えば酸化タングステン系微粒子を用いた塗料中にコロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等として添加することにより用いられる。無機バインダの含有量は5〜95質量%の範囲とすることが好ましい。抗菌性膜の無機バインダの含有量が95質量%を超えると、所望の抗菌性能を得ることができないおそれがある。無機バインダの含有量が5質量%未満の場合には十分な結合力が得られない。
【0071】
この実施形態の抗菌性部材は、上述した抗菌性材料や抗菌性膜を具備するものである。抗菌部材の具体例としては、基材に抗菌性材料を付着もしくは含浸させた部材、基材に抗菌性材料を含有する分散液や塗料を基材に塗布した部材等が挙げられる。抗菌性材料は酸化タングステン系粒子を活性炭やゼオライト等の吸着性能を有する材料と混合、担持、含浸等の処理を行って使用してもよい。抗菌性膜や抗菌性部材は照度が1000lx以下の可視光の照射下で用いることができ、さらには暗所でも用いることが可能である。抗菌性材料、抗菌性膜および抗菌性部材は、黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、腸管出血性大腸菌(O157)から選ばれる少なくとも1種の菌に対する抗菌を目的として使用されるものである。
【0072】
抗菌性材料、抗菌性膜、抗菌性部材を用いた製品としては、エアコン、空気清浄機、扇風機、冷蔵庫、電子レンジ、食器洗浄乾燥機、炊飯器、ポット、鍋蓋、IHヒータ、洗濯機、掃除機、照明器具(ランプ、器具本体、シェード等)、衛生用品、便器、洗面台、鏡、浴室(壁、天井、床等)、建材(室内壁、天井材、床、外壁等)、インテリア用品(カーテン、絨毯、テーブル、椅子、ソファ、棚、ベッド、寝具等)、ガラス、サッシ、手すり、ドア、ノブ、衣服、家電製品等に使用されるフィルタ、文房具、台所用品、自動車の室内空間で用いられる部材等、抗菌性が要求される製品が挙げられる。基材としてはガラス、セラミックス、プラスチック、アクリル等の樹脂、紙、繊維、金属、木材等が挙げられる。樹脂や繊維では塗布、付着、練り込みによる適用が可能である。
【0073】
この実施形態の抗菌性材料、抗菌性膜、抗菌性部材は、光の照射に関係なく、実用的な抗菌性能を発揮するものであるため、光が当たりにくい場所や低照度の場所、特に居住空間や自動車の室内空間で使用された場合でも、抗菌性能を得ることができる。自動車の室内空間においては、光の少ない夜間であっても抗菌性能を発揮させることができる。従来から使用されている抗菌性金属イオンを利用した抗菌剤のように、変質による性能の低下がなく、実用的な抗菌性能を安定的に発揮させることが可能である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。なお、以下の実施例では粉末の製造方法として、タングステン酸アニモニウム塩を用いる方法、あるいは昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用した方法を使用しているが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
タングステン酸アニモニウム塩を大気中にて900℃で2時間加熱した後、ボールミルで粉砕することによって、酸化タングステン微粒子を作製した。得られた酸化タングステン微粒子の平均一次粒子径(D50)とBET比表面積を測定した。平均一次粒子径はTEM写真の画像解析によって測定した。TEM観察には日立社製H−7100FAを使用し、拡大写真を画像解析にかけて粒子50個以上を抽出し、体積基準の積算径を求めてD50を算出した。BET比表面積の測定は、マウンテック社製比表面積測定装置Macsorb1201を用いて行った。前処理は窒素中にて200℃×20分の条件で実施した。平均粒子径(D50)BET比表面積との測定結果を表1に示す。
【0076】
また、酸化タングステン粉末のX線回折を実施した。X線回折はリガク社製X線回折装置RINT−2000を用いて、Cuターゲット、Niフィルタ、グラファイト(002)モノクロメータを使用して行った。測定条件は、管球電圧:40kV、管球電流:40mA、発散スリット:1/2°、散乱スリット:自動、受光スリット:0.15mm、2θ測定範囲:20〜70°、走査速度:0.5°/min、サンプリング幅:0.004°である。ピーク強度の測定にあたり、Kα2除去は行わずに、平滑化とバックグラウンド除去の処理のみを行った。平滑化はSavizky−Golay(最小二乗法)を用い、フィルタポイント11とした。バックグラウンド除去は、測定範囲内で直線フィット、閾値σ3.0として行った。X線回折結果に基づく酸化タングステン微粒子の結晶構造の同定結果を表1に示す。
【0077】
次に、得られた酸化タングステン微粒子の抗菌性能を測定した。まず、酸化タングステン微粒子を水と混合した後に、超音波分散処理を行って分散液を作製した。分散液を5×5cmのガラス板に広げ、200℃で30分間乾燥させることによって、0.05gの酸化タングステン微粒子を塗布した試料を作製した。酸化タングステン微粒子の付着量は2mg/cm
2である。試験片の抗菌性能をJIS−Z−2801(2000)の抗菌加工製品−抗菌性試験方法に準じた方法で評価して抗菌活性値Rを求めた。抗菌活性値Rは3回の評価試験の平均値として求めた。評価方法は以下の通りである。
【0078】
抗菌性能の供試菌としては黄色ブドウ球菌を用いた。評価対象の試験片および無加工の試験片(ガラス板)の表面にそれぞれ5×10
5個の菌を接種し、各表面にフィルムを被せた後、35±1℃、相対湿度90%の条件下で24時間保持した。保存後にフィルに付着した菌を洗い出し、その液を使用して48時間培養して菌数を測定した。酸化タングステン微粒子を付着させた試験片の24時間保存後の生菌数(3回の平均値(個))C
1と無加工試験片の24時間保存後の生菌数(3回の平均値(個))B
1から抗菌活性値Rを求めた。さらに、24時間の保持を暗所で行う以外は上記と同様に抗菌性能を評価して抗菌活性値R
Dを求めた。抗菌活性値Rおよび抗菌活性値R
Dを表2に示す。
【0079】
さらに、JIS−R−1702(2006)のファインセラミックス−光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果に準じた方法で、白色蛍光灯と紫外線カットフィルタを使用し、波長が380nm以上で照度が6000lxの可視光を照射しながら24時間保持する以外は、上記した方法と同様に抗菌性能を評価して、試験片の抗菌活性値R
Lを求めた。抗菌活性値R
Lを表2に示す。光源には白色蛍光灯(東芝ライテック社製、FL20SS・W/18)を使用し、紫外線カットフィルタ(日東樹脂工業社製、クラレックスN−169)を用いて380nm未満の波長の光をカットした。
【0080】
実施例1による酸化タングステン微粒子は粒径がやや大きいため、通常の試験環境下や暗所保存による試験環境下で抗菌性を示したものの、その値は比較的小さいものであった。さらに、可視光の照射下で保存した場合の抗菌活性値R
Lは0.6であり、光触媒としての抗菌性は低いものであった。これらの結果は酸化タングステン微粒子の粒径がやや大きいため、菌との接触面積が小さくなったためと考えられる。
【0081】
(実施例2)
原料粉末として平均粒子径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとして酸素を80L/minの流量で流した。この際、反応容器内の圧力は25kPaと減圧側に調整した。このように原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を経て、酸化タングステン微粒子を作製した。得られた酸化タングステン微粒子の平均粒子径(D50)、比表面積、結晶構造を実施例1と同様にして測定、評価した。その結果を表1に示す。
【0082】
実施例1と同様にしてガラス板上に酸化タングステン微粒子を塗布して試験片を作製し、通常環境下、暗所、可視光照射下で抗菌性能を評価した。抗菌活性値R、R
D、R
Lを表2に示す。さらに、照度が6000lxの可視光を照射しながら6時間保存したときの抗菌活性値R
L6h、それとの比較として暗所で6時間保存したときの抗菌活性値R
D6h、照度が1000lxの可視光を照射しながら24時間保存したときの抗菌活性値R
L1000を測定、評価した。これらの結果を併せて表2に示す。実施例2の酸化タングステン微粒子は暗所でも抗菌性を有し、可視光照射下では2以上の抗菌活性値を示した。
【0083】
(実施例3〜5)
反応ガスとしてアルゴンを40L/min、空気を40L/minの流量で流し、反応容器内の圧力を40kPaに調整する以外は、実施例2と同様にして昇華工程を実施して酸化タングステン微粒子を作製した。さらに、酸化タングステン微粒子に大気中にて500〜900℃×1〜2hの条件で熱処理を施した。このようにして得た酸化タングステン微粒子(実施例3〜5)の平均粒子径(D50)、比表面積、結晶構造を表1に示す。
【0084】
得られた酸化タングステン微粒子について、実施例2と同様にして抗菌活性値R、R
D、R
L、R
D6h、R
L6h、R
L1000を測定、評価した。これらの結果を表2に示す。実施例3〜5の酸化タングステン微粒子は、いずれも通常環境下や暗所保存(24時間)で2以上の抗菌活性値を示し、さらに可視光照射下では3以上の抗菌活性値を示すことを確認した。特に、実施例3、4は可視光照射時間が短い場合や低照度の環境下でも4.5以上と高い抗菌活性値を示した。これは粒子径が小さく、菌との接触面積が大きくなるためであると考えられる。実施例3〜5が実施例2より粒径が大きいにもかかわらず高い抗菌性能を示したのは、酸化タングステン微粒子の結晶性が向上し、欠陥等が少ないために、光触媒性能が向上したためであると考えられる。
【0085】
ここで、菌数は初期の値が約5×10
5個であり、評価後の最小菌数は10未満である。菌数が10未満の場合は10として抗菌活性値の算出を行うため、抗菌活性値の最大値は4.7となる。より高い抗菌性能を評価するためには、保存時間(可視光の照射下での保存を含む)を短縮したときの抗菌活性値や低照度下で保存したときの抗菌活性値と比較することが有効である。光触媒効果による抗菌性能は、例えば照度が6000lxの可視光を照射しながら6時間保存したときの菌数と、暗所で6時間保存したときの菌数とを比較することにより評価することが可能である。
【0086】
(実施例6)
プラズマに投入する原料として、FeやMo等の不純物量が多い酸化タングステン粉末を用いる以外は、実施例3と同様の昇華工程と熱処理工程を実施し、Feを300ppm含有する酸化タングステン複合材微粒子を作製した。得られた酸化タングステン複合材微粒子について、平均粒子径(D50)、比表面積、結晶構造を測定、評価した。その結果を表1に示す。さらに、実施例1と同様にしてガラス板上に酸化タングステン複合材微粒子を塗布して試験片を作製し、通常環境下、暗所、可視光照射下で抗菌性能を評価した。抗菌活性値R、R
D、R
L、R
D6h、R
L6h、R
L1000を表2に示す。実施例6の酸化タングステン複合材微粒子は、実施例3の酸化タングステン微粒子と同様に、通常環境下、暗所、可視光照射下を問わず、高い抗菌性能を示すことが確認された。
【0087】
(実施例7)
実施例3で得られた酸化タングステン粉末に酸化銅(CuO)粉末を1質量%混合した。このようにして得た酸化タングステン複合材粉末について、平均粒子径(D50)、比表面積、結晶構造を測定、評価した。その結果を表1に示す。さらに、実施例1と同様にしてガラス板上に酸化タングステン複合材微粒子を塗布して試験片を作製し、通常環境下、暗所、可視光照射下で抗菌性能を評価した。抗菌活性値R、R
D、R
L、R
D6h、R
L6h、R
L1000を表2に示す。実施例7の酸化タングステン複合材微粒子は、実施例3の酸化タングステン微粒子と同様に、通常環境下、暗所、可視光照射下を問わず、高い抗菌性能を示すことが確認された。
【0088】
(実施例8〜13)
実施例8においては、プラズマに投入する原料として、酸化タングステン粉末に酸化ジルコニウム粉末を混合して使用する以外は実施例3と同様にして昇華工程と熱処理工程とを実施することによって、ジルコニウム(Zr)を0.1質量%含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0089】
実施例9においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末を塩化白金酸水溶液に分散させ、可視光照射とメタノール投入を行い、光析出法による担持を行った。遠心分離を実施し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行った後、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、白金(Pt)を0.1質量%含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0090】
実施例10においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末を塩化パラジウム水溶液に分散させた。この分散液を遠心分離し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行った後、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、パラジウム(Pd)を0.5質量%含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0091】
実施例11においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末に酸化チタン粉末を10質量%の割合で混合することによって、酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0092】
実施例12においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末を塩化セリウム水溶液に分散させた。この分散液を遠心分離し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行った後、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、セリウム(Ce)を0.1質量%含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0093】
実施例13においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末を塩化マンガン水溶液に分散させた。この分散液を遠心分離し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行った後、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、マンガン(Mn)を0.1質量%含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0094】
実施例8〜13の酸化タングステン複合材粉末について、平均粒子径(D50)、比表面積、結晶構造を測定、評価した。その結果を表1に示す。さらに、実施例1と同様にしてガラス板上に酸化タングステン複合材微粒子を塗布して試験片を作製し、通常環境下、暗所、可視光照射下で抗菌性能を評価した。抗菌活性値R、R
D、R
L、R
D6h、R
L6h、R
L1000を表2に示す。実施例8〜13の酸化タングステン複合材微粒子は、いずれも実施例3の酸化タングステン微粒子と同様に、通常環境下、暗所、可視光照射下を問わず、高い抗菌性能を示すことが確認された。
【0095】
(比較例1)
試薬等として市販されている酸化タングステン粉末(レアメタリック社製)を用いて、実施例1と同様の測定、評価を行った。粉末特性を表1に示す。さらに、実施例1と同様にしてガラス板上に酸化タングステン粉末を塗布したが、粒径が著しく大きいために膜を形成することができず、抗菌性能を評価することはできなかった。
【0096】
(比較例2)
可視光応答型光触媒としての窒素ドープ型酸化チタン粉末の抗菌性能を実施例1と同様にして評価した。粉末特性を表1に、また抗菌性能を表2に示す。窒素ドープ型酸化チタン粉末は、照度が6000lxの可視光を照射しながら24時間保存した場合の抗菌活性値R
Lは2以上の値を示したものの、通常環境下、暗所、低照度下での抗菌活性値は低く、十分な抗菌性能を得ることはできないことが確認された。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
(実施例14〜20)
酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を含有する膜の抗菌性能を評価するために、実施例1〜実施例7による微粒子(粉末)を用いて膜を形成した。各粉末を用いて水系分散液を調整し、これらをセラミックス板に塗布して膜を形成した。このような微粒子膜を具備する部材から5×5cmの試験片を切り出して、粉末と同様にして抗菌性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0100】
(比較例3)
窒素ドープ型酸化チタン粉末を用いて水系分散液を調整し、これをセラミックス板に塗布することによって、酸化チタン粒子の膜を具備する部材を作製した。このような部材から5×5cmの試験片を切り出して抗菌性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0101】
(実施例21〜23)
実施例21においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末を5質量%、硝酸銀をAg換算で0.0005質量%の割合で添加して水系分散液を作製し、光還元処理を行った後にセラミックス板に塗布して膜を形成した。このような膜を具備する部材から5×5cmの試験片を切り出して抗菌性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0102】
実施例22においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末5質量%をアモルファスZrO
20.5質量%と混合し、さらに水中で分散させて水系塗料を調整した。この水系塗料をセラミックス板に塗布して膜を形成した。このような膜を具備する部材から5×5cmの試験片を切り出して抗菌性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0103】
実施例23においては、実施例3で得られた酸化タングステン粉末5質量%をコロイダルシリカ0.5質量%と混合し、さらに水中で分散させて水系塗料を調整した。この水系塗料をセラミックス板に塗布して膜を形成した。このような膜を具備する部材から5×5cmの試験片を切り出して抗菌性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0104】
(比較例4)
Ag系抗菌剤をセラミックス板に塗布した。このような部材から5×5cmの試験片を切り出して抗菌性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0105】
(比較例5)
コロイダルシリカをセラミックス板に塗布した。このような部材から5×5cmの試験片を切り出して抗菌性能を評価した。その結果を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3から明らかなように、実施例14〜23の部材(抗菌性膜を具備する部材)は、いずれも微粒子と同様に高い抗菌性能を示すことが確認された。比較例4はAgの抗菌効果に基づいて高い抗菌性能を示したが、Ag系抗菌剤は高価であることに加えて、金属アレルギーを発生する可能性がある、性能の持続期間が短い等の難点を有している。コロイダルシリカのみを塗布した比較例5は抗菌性能を示さないことから、実施例23の部材による抗菌性能は酸化タングステン微粒子に基づくものであることが分かる。
【0108】
(実施例24)
抗菌性能の持続性を評価するために、実施例23の部材の抗菌性を成膜直後と通常環境下で6ヶ月保存した後に評価した。抗菌活性値Rはそれぞれ4.2、4.3であり、6ヵ月後においても高い抗菌性能が維持されることが確認された。
【0109】
(比較例6)
比較例4の部材の抗菌性を、Ag系抗菌剤の処理直後と通常環境下で6ヶ月保存した後に評価した。試料作製直後の抗菌活性値Rは4.7であったが、6ヵ月後には抗菌活性値Rが1.7まで低下した。Ag系抗菌剤は初期には高い抗菌性を示すものの、時間の経過と共に抗菌性が低下することが確認された。
【0110】
(実施例25)
実施例3で得られた酸化タングステン粉末0.5mgを5×5cmのガラス板に塗布して試料を作製する以外は、実施例3と同様にして抗菌性能を評価した。酸化タングステン微粒子の付着量は0.02mg/cm
2である。その結果、通常環境下、暗所、光照射下のいずれにおいて実施例3と同等の高い抗菌性を示すことが確認された。これは酸化タングステン粉末の粒径が小さく、均一な塗布層を形成することが可能であることから、少量の粉末でも高い抗菌性が得られたものと考えられる。
【0111】
以上のように、酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を用いた抗菌性材料、さらに抗菌性材料を具備する膜や部材は、光の照射に関係なく、実用的な抗菌性能を長期間に渡って発揮することができる。さらに、低照度の可視光照射下でも高い抗菌性を示すものである。これらの材料、膜、部材について、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌を用いて抗菌性の評価を行ったところ、同様に高い抗菌性能を示すことが確認された。抗カビ性能も有することが確認された。
【0112】
ゼオライト、活性炭、多孔質セラミックス等に酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を含有させ、これらをフィルタや建材に用いたところ、菌やカビの発生を低減することができることが確認された。従って、そのような抗菌性材料を適用することで、実用的な抗菌性能を長期間発揮する膜や部材を提供することが可能となる。
【0113】
さらに、酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を用いて塗料を作製し、浴室のガラスに塗布したところ、カビの発生が低減することが確認された。ちなみに、この塗料を塗布したガラスの親水性を評価したところ、接触角が1°以下であり、超親水性を発現することが確認された。このため、ガラスが汚れにくくなった。実施例の抗菌性材料はアセトアルデヒド等の有機ガスの分解性能に優れ、また抗菌性材料の膜は透過率が高く、視覚的に色ムラ等の問題が生じにくい。そのため、自動車の室内空間で使用される部材、工場、商店、学校、公共施設、病院、福祉施設、宿泊施設、住宅等で使用される建材、内装材、家電等に対しても好適に用いることができる。