特許第5960282号(P5960282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5960282Cu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960282
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】Cu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20160719BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20160719BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20160719BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20160719BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20160719BHJP
   H01L 31/0445 20140101ALI20160719BHJP
   H01L 31/0256 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C9/00
   C22C1/02 503B
   B22D11/00 F
   B22D11/124 L
   H01L31/04 530
   H01L31/04 320
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-546922(P2014-546922)
(86)(22)【出願日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2013079062
(87)【国際公開番号】WO2014077110
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2014年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-249151(P2012-249151)
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】田村 友哉
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−017481(JP,A)
【文献】 特開昭61−133352(JP,A)
【文献】 特開2010−265544(JP,A)
【文献】 特開2005−330591(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/031381(WO,A1)
【文献】 特開2000−073163(JP,A)
【文献】 特開2008−138232(JP,A)
【文献】 特開平05−311424(JP,A)
【文献】 特開平07−300667(JP,A)
【文献】 特開2012−193423(JP,A)
【文献】 特開昭62−101354(JP,A)
【文献】 特開平06−134552(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/001974(WO,A1)
【文献】 特開2010−116580(JP,A)
【文献】 特開2010−280944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
B22D 11/00
B22D 11/124
C22C 1/02
C22C 9/00
H01L 31/0256
H01L 31/0445
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット原料をグラファイト製坩堝内で溶解し、この溶湯を、水冷プローブを備えた鋳型に注湯して、連続的にCu−Ga合金からなる鋳造体を引き抜き、これをさらに機械加工してCu−Ga合金ターゲットを製造する方法であって、前記鋳造体の融点から300℃に至るまでの凝固速度を200〜1000℃/minに制御することを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
鋳造体の引抜き速度を30mm/min〜150mm/minとして製造することを特徴とする請求項1記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜太陽電池層の光吸収層であるCu−In−Ga−Se(以下、CIGSと記載する。)四元系合金薄膜を形成する時に使用されるCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜系太陽電池として高効率であるCIGS系太陽電池の量産が進展してきており、その光吸収層製造方法としては、蒸着法とセレン化法が知られている。蒸着法で製造された太陽電池は高変換効率の利点はあるが、低成膜速度、高コスト、低生産性の欠点があり、セレン化法の方が産業的大量生産には適している。
【0003】
セレン化法の概要プロセスは以下の通りである。まず、ソーダライムガラス基板上にモリブデン電極層を形成し、その上にCu−Ga層とIn層をスパッタ成膜後、水素化セレンガス中の高温処理により、CIGS層を形成する。このセレン化法によるCIGS層形成プロセス中のCu−Ga層のスパッタ成膜時にCu−Gaターゲットが使用される。
【0004】
CIGS系太陽電池の変換効率には、各種の製造条件や構成材料の特性等が影響を与えるが、CIGS膜の特性も大きな影響を与える。
Cu−Gaターゲットの製造方法としては、溶解法と粉末法がある。一般的には、溶解法で製造されたCu−Gaターゲットは、不純物汚染が比較的少ないとされているが、欠点も多い。例えば、冷却速度を大きくできないので組成偏析が大きく、スパッタ法によって作製される膜の組成が、次第に変化してきてしまう。
【0005】
また、溶湯冷却時の最終段階で引け巣が発生し易く、引け巣周辺部分は特性も悪く、所定形状への加工の都合等から使用できないため歩留まりが悪い。
溶解法によるCu−Gaターゲットに関する先行文献(特許文献1)には、組成偏析が観察されなかった旨の記載はあるが、分析結果等は一切示されていない。また、実施例ではGa濃度30重量%の結果しかなく、これ以下のGa低濃度領域での組織や偏析などの特性に関する記述は全くない。
【0006】
一方、粉末法で作製されたターゲットは、一般的には焼結密度が低く、不純物濃度が高い等の問題があった。Cu−Gaターゲットに関する特許文献2では、焼結体ターゲットが記載されているが、これはターゲットを切削する際に割れや欠損が発生し易いという脆性に関する従来技術の説明があり、これを解決しようとして、二種類の粉末を製造し、これを混合して焼結したとしている。そして、二種類の粉末の一方はGa含有量を高くした粉末で、他方はGa含有量を少なくした粉末であり、粒界相で包囲した二相共存組織にするというものである。
【0007】
この工程は、二種類の粉末を製造するものであるから、工程が複雑であり、また金属粉末は酸素濃度が高くなり焼結体の相対密度向上は期待できない。
密度が低く、酸素濃度の高いターゲットは、当然ながら異常放電やパーティクル発生があり、スパッタ膜表面にパーティクル等の異形物があると、その後のCIGS膜特性にも悪影響を与え、最終的にはCIGS太陽電池の変換効率の大きな低下を招く虞が多分にある。
【0008】
粉末法によって作製されるCu−Gaスパッタリングターゲットの大きな問題は、工程が複雑で、作製した焼結体の品質が必ずしも良好ではなく、生産コストが増大するという大きな不利がある点である。この点から溶解・鋳造法が望まれるのであるが、上記の通り、製造に問題あり、ターゲット自体の品質も向上できなかった。
【0009】
従来技術としては、例えば特許文献3がある。この場合は、高純度銅と微量のチタン0.04〜0.15重量%又は亜鉛0.014〜0.15wt%を添加した銅合金を連続鋳造により、これをターゲットに加工する技術が記載されている。
このような合金は添加元素の量が微量であるため、添加元素量の多い合金の製造に適用できるものではない。
【0010】
特許文献4には、同様に高純度銅をロッド状に鋳造欠陥が無いように連続鋳造し、これを圧延してスパッタリングターゲットに加工する技術が開示されている。これは、純金属での取り扱いであり、添加元素量の多い合金の製造に適用できるものではない。
【0011】
特許文献5には、アルミニウムにAg、Auなどの24個の元素から選択した材料を0.1〜3.0重量%を添加して連続鋳造し、単結晶化したスパッタリングターゲットを製造することが記載されている。これも同様に、合金は添加元素の量が微量であるため、添加元素量の多い合金の製造に適用できるものではない。
【0012】
上記特許文献3〜5については、連続鋳造法を用いて製造する例を示しているがいずれも純金属または、微量元素添加合金の材料に添加されたもので、添加元素量が多く金属間化合物の偏析が生じ易いCu−Ga合金ターゲットの製造に存在する問題を解決できる開示ではないと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−73163号公報
【特許文献2】特開2008−138232号公報
【特許文献3】特開平5−311424号公報
【特許文献4】特開2005−330591号公報
【特許文献5】特開平7−300667号公報
【特許文献6】特開2012−17481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
Gaを22%以上含むCu−Ga合金では金属間化合物の偏析が生じ易く、通常の溶解法では偏析を細かく均一に分散させる事が難しい。一方、鋳造組織のスパッタリングターゲットは、焼結体ターゲットに比べて酸素等のガス成分を減少できるというメリットがある。この鋳造組織を持つスパッタリングターゲットを一定の冷却速度の凝固条件で連続的に固化させることにより、酸素を低減させ、かつ偏析相を分散させた良質な鋳造組織のターゲットを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題の解決のため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、成分組成を調整し、かつ連続鋳造法により、酸素を低減させ、かつ母相となる金属間化合物のζ相中にγ相を微細かつ均一に分散させた良質な鋳造組織のCuGa合金スパッタリングターゲットが得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
上記の知見から、本発明は、次の発明を提供する。
1)Gaが22at%以上29at%以下、残部がCu及び不可避的不純物からなる溶解・鋳造したCu−Ga合金スパッタリングターゲットであって、CuとGaの金属間化合物層であるζ相とγ相との混相からなる共析組織(但し、ラメラー組織が存在する組織は除く)を有し、前記γ相の径をDμm、Ga濃度をCat%とした場合において、D≦7×C−150の関係式を満たすことを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
2)酸素含有量が100wtppm以下であることを特徴とする上記1)記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
3)不純物であるFe、Ni、Ag及びPの含有量がそれぞれ10wtppm以下であることを特徴とする上記1)又は2)記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【0017】
また、本発明は、次の発明を提供する。
4)ターゲット原料をグラファイト製坩堝内で溶解し、この溶湯を、水冷プローブを備えた鋳型に注湯して連続的にCu−Ga合金からなる鋳造体を製造し、これをさらに機械加工してCu−Ga合金ターゲットを製造する方法であって、前記鋳造体の融点から300°Cに至るまでの凝固速度を200〜1000°C/minに制御することを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【0018】
5)引抜き速度を30mm/min〜150mm/minとして製造することを特徴とする上記4)記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
6)横型又は縦型の連続鋳造法を用いて製造することを特徴とする上記4)又は5)のいずれか一に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【0019】
7)前記鋳造体の融点から300°Cに至るまでの凝固速度を200〜1000°C/minに制御することにより、鋳造時に形成されるγ相とζ相の量及び濃度を調製することを特徴とする上記4)〜6)のいずれか一に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、焼結体ターゲットに比べて酸素等のガス成分を減少できるという大きな利点があり、この鋳造組織を持つスパッタリングターゲットを一定の冷却速度の凝固条件で連続的に固化させることにより、酸素を低減させ、かつ母相となる金属間化合物のζ相中にγ相を微細かつ均一に分散させた良質な鋳造組織のターゲットを得ることができるという効果を有する。
このように酸素が少なく、偏析が分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることが可能であり、かつCu−Ga合金ターゲットの製造コストを大きく低減できる効果を有する。
このようなスパッタ膜から光吸収層及びCIGS系太陽電池を製造することができるので、CIGS太陽電池の変換効率の低下が抑制されるとともに、低コストのCIGS系太陽電池を作製することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例3のターゲット研磨面を、希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図2】実施例5のターゲット研磨面を、希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図3】比較例2のターゲット研磨面を、希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図4】比較例3のターゲット研磨面を、希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図5】比較例5のターゲット研磨面を、希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図6】比較例6のターゲット研磨面を、希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
図7】実施例4(左上図)と実施例6(左下図)及び比較例3(右上図)と比較例6(右下図)のターゲット研磨面をFE−EPMAの面分析結果を示す図である。
図8】実施例3(図)及び実施例6(図)のターゲット表面をX線回折法で解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Gaが22at%以上29at%以下、残部がCu及び不可避的不純物からなる溶解・鋳造したCu−Ga合金スパッタリングターゲットである。
一般に、焼結品は相対密度を95%以上にすることが目標である。相対密度が低いと、スパッタ中の内部空孔の表出時に空孔周辺を起点とするスプラッシュや異常放電による膜へのパーティクル発生や表面凹凸化の進展が早期に進行して、表面突起(ノジュール)を起点とする異常放電等が起き易くなるからである。鋳造品は、ほぼ相対密度100%を達成することができ、この結果、スパッタリングの差異のパーティクルの発生を抑制できる効果を有する。これは鋳造品の大きな利点の一つと言える。
【0023】
Gaの含有量は、CIGS系太陽電池を製造する際に必要とされるCu−Ga合金スパッタ膜形成の要請から必要とされるものであるが、本発明Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Gaが22at%以上29at%以下、残部がCu及び不可避的不純物からなる溶解・鋳造したCu−Ga合金スパッタリングターゲットである。
Gaが22%未満であると、α相またはα相とζ相とからなる、デンドライト組織が形成し、また、Gaが29%を越えると、γ相単相からなる組織が形成され、所望する組織が得られない。したがって、Ga含有量は、22at%以上29at%以下とする。
【0024】
そして、本発明の溶解・鋳造したCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、CuとGaの金属間化合物層であるζ相とγ相との混相からなる共析組織を有する。但し、前記共析組織において、ラメラー組織(層状組織)が存在する組織は除かれる。ラメラー組織とは、後述する比較例2(図3)に示されるような、2つの相(γ相とζ相)が交互に数ミクロン間隔で、薄い板状または楕円状に存在する組織のことをいう。このような組織が部分的に存在すると、周辺組織との状態の違いにより異常放電等のスパッタリングの際、不具合を生じるため好ましくない。本発明においては、γ相(図3の凹んでみえる部分)の短辺をa、長辺をbとしたとき、a/b≦0.3以下を満たすものを特にラメラー組織と定義する。
また、γ相は、母相となる金属間化合物のζ相中に微細かつ均一に分散しており、そのγ相の大きさは、γ相の径をD(μm)、Ga濃度をC(at%)としたとき、D≦7×C−150の式を満たすことを特徴とする。
該γ相は、XRD回折法でζ相とγ相とから構成されていることを確認した後、Ga濃度はζ相よりもγ相の方が高いことから、FE−EPMAのGa濃度が高い部分(濃い色の部分)をγ相と認定できる。そして、γ相の径はSEM写真(倍率:1000倍)からランダムにγ相を複数(30個程度)抽出し、その径(直径)の平均から算出できる。また、γ相は、球状のほか楕円形の形態で存在するものがあるが、その場合は、短辺と長辺の平均値をγ相の径(直径)とすることができる。
【0025】
溶解・鋳造したCu−Ga合金には、その冷却速度などの凝固条件によって得られる組織が異なる。例えば、特許文献6には、母相であるβ相とγ相との混相からなる共析組織が記載されている。しかし、このβ相は、約600℃以上の高温領域で安定な相であって、高速急冷で鋳造しない限り室温で存在しないため、本願発明のような凝固条件では、β相が析出することはない。
【0026】
このように、微細かつ均一に分散したγ相は、膜の形成に極めて有効である。γ相は、冷却速度により影響を受け、冷却速度が速いと、微細なγ相急速に成長する。このγ相は、偏析相ということできるが、前記γ相を微細かつ均一に分散するために、一定の冷却速度の凝固条件で連続的に固化させる。これは、本願発明の大きな特徴の一つである。スパッタリングターゲットの全体的な組織を観察すると、大きな偏析がなく、均一な組織であることが分かる。
【0027】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、ターゲット原料をグラファイト製坩堝内で溶解し、この溶湯を、水冷プローブを備えた鋳型に注湯して連続的にCu−Ga合金からなる鋳造体を製造し、これをさらに機械加工してCu−Ga合金ターゲットを製造するのであるが、前記鋳造体の融点から300°Cに至るまでの凝固速度を200〜1000°C/minに制御するのが良い。これによって、上記のターゲットを製造することができる。
上記鋳造体は鋳型によって板状のもの製造することができるが、中子を備えた鋳型を使用することによって、円筒状の鋳造体を製造することも可能である。なお、本発明は、製造される鋳造体の形状に限定されるものではない。
【0028】
さらに、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造の効率かつ有効な手段として、引抜き速度を30mm/min〜150mm/minとするのが望ましい。また、このような連続の鋳造方法は、連続鋳造法を用いて製造すること有効である。
このようにして、前記鋳造体の融点から300°Cに至るまでの凝固速度を200〜1000°C/minに制御することにより、鋳造時に形成されるζ相とγ相との混相の量及び濃度を、容易に調製することが可能となる。
【0029】
本願発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、酸素含有量を100wtppm以下、より好ましくは50wtppm以下とすることが可能であるが、これはCu−Ga合金溶湯の脱ガスと鋳造段階における大気混入防止策(例えば、鋳型、耐火材とのシール材の選択及びこのシール部分におけるアルゴンガス又は窒素ガスの導入)を採ることにより達成できる。
これは、上記と同様に、CIGS系太陽電池の特性を向上させるための、好ましい要件である。また、これにより、スパッタリング時のパーティクルの発生を抑制することが可能であり、スパッタ膜中の酸素を低減でき、また内部酸化による酸化物又は亜酸化物の形成を抑制できる効果を有する。
【0030】
本願発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、不純物であるFe、Ni、Ag及びPの含有量をそれぞれ10wtppm以下とすることができる。これらの不純物元素(特に、Fe及びNi)はCIGS系太陽電池の特性を悪化させるため10wtppm以下まで低減できることは極めて有効である。これらの不純物元素は、原料に含まれていたり、各製造工程で混入したりするものであるが、連続鋳造法よって、これら不純物の含有量を低く抑えることができる(ゾーンメルト法)。Agは、特に原料Cuに起因して数十wtppmオーダーで混入する元素であるが、前記連続鋳造法によって、10wtppm以下とすることができる。
【0031】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造に際しては、鋳型から引き出された鋳造体を、機械加工及び表面研磨してターゲットに仕上げることができる。機械加工や表面研磨は公知の技術を使用することができ、その条件に特に制限はない。
【0032】
Cu−Ga系合金膜からなる光吸収層及びCIGS系太陽電池の作製において、組成のずれは、光吸収層及びCIGS系太陽電池の特性を大きく変化させるが、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いて成膜した場合には、このような組成ずれは全く観察されない。これは焼結品に比べ、鋳造品の大きな利点の一つである。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、明細書全体から把握できる発明及び実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0034】
(実施例1)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が22at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0035】
原料が溶解した後、溶湯温度を990℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を30mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、200°C/minの冷却速度となった。
【0036】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡で観察した。その結果、CuにGaが固溶したζ相中にGa濃度が高いγ相(偏析相、異相)が微細かつ均一に分散しており、そのγ相のサイズは3μmであり、D7×C−150の関係式を満たしていた。酸素濃度は10wtppm未満であった。また、不純物含有量は、P:1.5wtppm、Fe:2.4wtppm、Ni:1.1wtpm、Ag:7wtppmであった。このように酸素量、不純物含有量が少なく、γ相(偏析相)が均一に分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができた。
また、X線回折法で観察した結果、ζ相とγ相のピークしか観察されなかったことから、この鋳造組織はこの2相のみからなることを確認した。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例2)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が22at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0039】
原料が溶解した後、溶湯温度を990℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を90mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、600°C/minの冷却速度となった。
【0040】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡で観察した。その結果、CuにGaが固溶したζ相中にGa濃度が高いγ相(偏析相、異相)が微細かつ均一に分散しており、そのγ相のサイズは2μmであり、D7×C−150の関係式を満たしていた。酸素濃度は10wtppmであった。また、不純物含有量は、P:1.3wtppm、Fe:2.1wtppm、Ni:0.9wtpm、Ag:5.8wtppmであった。
このように酸素量、不純物含有量が少なく、γ相(偏析相)が均一に分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができた。
また、X線回折法で観察した結果、ζ相とγ相のピークしか観察されなかったことから、この鋳造組織はこの2相のみからなることを確認した。
【0041】
(実施例3)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が25at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0042】
原料が溶解した後、溶湯温度を990℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を30mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、200°C/minの冷却速度となった。
【0043】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡写真を図1に示す。この結果、CuにGaが固溶したζ相中にGa濃度が高いγ相(偏析相、異相)が微細かつ均一に分散しており、そのγ相のサイズは11μmであり、D7×C−150の関係式を満たしていた。酸素濃度は20wtppmであった。また、不純物含有量は、P:1.4wtppm、Fe:1.5wtppm、Ni:0.7wtpm、Ag:4.3wtppmであった。
このように酸素量、不純物含有量が少なく、γ相(偏析相)が均一に分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができた。
また、X線回折法で観察した結果、図8(左図)に示すように、ζ相とγ相のピークしか観察されなかったことから、この鋳造組織はこの2相のみからなることを確認した。
【0044】
(実施例4)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が25at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0045】
原料が溶解した後、溶湯温度を990℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を90mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、600°C/minの冷却速度となった。
【0046】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面を観察した。FE−EPMAの面分析結果を図7(左上図)に示す。その結果、CuにGaが固溶したζ相中にGa濃度が高いγ相(偏析相、異相)が微細かつ均一に分散しており、そのγ相のサイズは8μmであり、D7×C−150の関係式を満たしていた。酸素濃度は10wtppmであった。また、不純物含有量は、P:0.8wtppm、Fe:3.2wtppm、Ni:1.4wtpm、Ag:6.7wtppmであった。
このように酸素量、不純物含有量が少なく、γ相(偏析相)が均一に分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができた。
【0047】
(実施例5)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が29at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0048】
原料が溶解した後、溶湯温度を970℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を30mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、200°C/minの冷却速度となった。
【0049】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡写真を図2に示す。その結果、CuにGaが固溶したζ相中にGa濃度が高いγ相(偏析相、異相)が微細かつ均一に分散しており、そのγ相のサイズは46μmであり、D7×C−150の関係式を満たしていた。酸素濃度は10wtppmであった。また、不純物含有量は、P:0.6wtppm、Fe:4.7wtppm、Ni:1.5wtpm、Ag:7.4wtppmであった。
このように酸素量、不純物含有量が少なく、γ相(偏析相)が均一に分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができた。
【0050】
(実施例6)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が29at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0051】
原料が溶解した後、溶湯温度を970℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を90mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、600°C/minの冷却速度となった。
【0052】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面を観察した。FE−EPMAの面分析結果を図7(左下図)に示す。その結果、CuにGaが固溶したζ相中にGa濃度が高いγ相(偏析相、異相)が微細かつ均一に分散しており、そのγ相のサイズは43μmであり、D7×C−150の関係式を満たしていた。酸素濃度は20wtppmであった。また、不純物含有量は、P:0.9wtppm、Fe:3.3wtppm、Ni:1.1wtpm、Ag:5.4wtppmであった。
このように酸素量、不純物含有量が少なく、γ相(偏析相)が均一に分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができた。
また、X線回折法で観察した結果、図8(右図)に示すように、ζ相とγ相のピークしか観察されなかったことから、この鋳造組織はこの2相のみからなることを確認した。
【0053】
(比較例1)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が25at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料5kgをφ200のカーボン製坩堝に入れ、坩堝内をArガス雰囲気にし、1100℃で2時間加熱し溶解した。また、このとき、昇温速度を10℃/minとした。次に、1100℃〜200℃まで冷却速度を約10℃/minとして、坩堝内で自然冷却して溶解した金属を凝固させた。
【0054】
得られた鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面を観察した。その結果、ζ相中に析出したγ相(偏析相、異相)のサイズは8μmとなり、D7×C−150の関係式を満たさなかった。なお、酸素濃度は20wtppm超であり、不純物含有量は、P:6wtppm、Fe:10wtppm、Ni:2.2wtpm、Ag:10wtppmであった。
このように大きなγ相(偏析相)が存在するCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすると、パーティクルの発生が増加してしまい、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができなかった。
【0055】
(比較例2)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が25at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0056】
原料が溶解した後、溶湯温度を990℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を20mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、130°C/minの冷却速度となった。
【0057】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡写真を図3に示す。その結果、図5に示されるように、2つの相(γ相とζ相)が、交互に数ミクロン間隔に薄い板状あるいは楕円状に存在するラメラー組織(層状組織)が現れ、γ相は均一かつ微細に分散していなかった。なお、酸素濃度は20wtppmであり、不純物含有量は、P:1.4wtppm、Fe:2.2wtppm、Ni:1wtpm、Ag:5.9wtppmであった。
このようなラメラー組織が部分的に存在する鋳造組織のCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすると、パーティクルの発生が増加してしまい、良好なCu−Ga系合金膜を得ることができなかった。
【0058】
(比較例3)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が25at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料5kgをφ200のカーボン製坩堝に入れ、坩堝内をArガス雰囲気にし、1100℃で2時間加熱し溶解した。また、このとき、昇温速度を10℃/minとした。次に、1100℃〜200℃まで冷却速度を約10℃/minとして、坩堝内で自然冷却して溶解した金属を凝固させた。
【0059】
得られた鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡写真を図4に、FE−EPMAの面分析結果を図7(右上図)に示す。この結果、ζ相中に析出したγ相(偏析相、異相)のサイズは43μmとなり、D7×C−150の関係式を満たさなかった。また、酸素濃度は40wtppmと高くなった。なお、不純物含有量は、P:4wtppm、Fe:8.2wtppm、Ni:1.3wtpm、Ag:9wtppmであった。
このように大きなγ相(偏析相)が存在するCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすると、パーティクルの発生が増加してしまい、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができなかった。
【0060】
(比較例4)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が29at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱して溶解した。
この溶解品を水アトマイズによって、粒径90μm未満のCu−Ga合金粉末を作製した。このようにして作製したCu−Ga合金粉末を、600℃で2時間、面圧250kgf/cmでホットプレス焼結した。
【0061】
この焼結片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面を顕微鏡で観察した。この結果、γ相のサイズは10μmと微細であったが、酸素含有量が320wtppmと高くなった。また、不純物含有量は、P:15wtppm、Fe:30wtppm、Ni:3.8wtpm、Ag:13wtppmと高くなった。
このように酸素含有量、不純物含有量が高いCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすると、パーティクルの発生が増加してしまい、良好なCu−Ga系合金膜を得ることができなかった。
【0062】
(比較例5)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が29at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料20kgをカーボン製坩堝に入れ、坩堝内を窒素ガス雰囲気にし、1250°Cまで加熱した。この高温の加熱は、ダミーバーとCu−Ga合金溶湯を溶着させるためである。
坩堝の加熱には、抵抗加熱装置(グラファイトエレメント)を使用した。溶解坩堝の形状は、140mmφ×400mmφであり、鋳型の材質はグラファイト製で、鋳造塊の形状は、65mmw×12mmtの板とし、連続鋳造した。
【0063】
原料が溶解した後、溶湯温度を970℃(融点より約100℃高い温度)になるまで下げ、溶湯温度と鋳型温度が安定した時点で、引抜きを開始する。鋳型の前端には、ダミーバーが挿入されているので、このダミーバーを引出すことにより、凝固した鋳造片が引出される。
引抜きパターンは、0.5秒駆動、2.5秒停止の繰り返しで行い、周波数を変化させ、引抜き速度を20mm/minとした。引抜き速度(mm/min)と冷却速度(°C/min)は比例関係にあり、引抜き速度(mm/min)を上げると冷却速度も上昇する。この結果、130°C/minの冷却速度となった。
【0064】
この鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡写真を図5に示す。この結果、ζ相中に析出したγ相のサイズが67μmとD7×C−150の関係式を満たず、またγ相のサイズは不均一であった。なお、酸素濃度は20wtppmであり、不純物含有量は、P:0.6wtppm、Fe:4.5wtppm、Ni:1.3wtpm、Ag:7.2wtppmであった。
このような不均一なγ相が存在するCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすると、パーティクルの発生が増加してしまい、良好なCu−Ga系合金膜を得ることができなかった。
【0065】
(比較例6)
銅(Cu:純度4N)と、Ga濃度が29at%の組成比となるように調整したGa(純度:4N)とからなる原料5kgをφ200のカーボン製坩堝に入れ、坩堝内をArガス雰囲気にし、1100℃で2時間加熱し溶解した。また、このとき、昇温速度を10℃/minとした。次に、1100℃〜200℃まで冷却速度を約10℃/minとして、坩堝内で自然冷却して溶解した金属を凝固させた。
【0066】
得られた鋳造片をターゲット形状に機械加工し、さらに研磨し、該研磨面を、水で2倍希釈した硝酸溶液でエッチングした表面の顕微鏡写真を図6に、FE−EPMAの面分析結果を図8(右下図)に示す。この結果、ζ相中に析出したγ相(偏析相、異相)のサイズは100μm超となり、D7×C−150の関係式を満たさなかった。また、酸素濃度は70wtppmと高くなった。なお、不純物含有量は、P:7wtppm、Fe:9.5wtppm、Ni:2.1wtpm、Ag:8wtppmであった。
このように極めて粗大なγ相(偏析相)が存在するCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすると、パーティクルの発生が増加してしまい、均質なCu−Ga系合金膜を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、焼結体ターゲットに比べて酸素等のガス成分を減少できるという大きな利点があり、この鋳造組織を持つスパッタリングターゲットを一定の冷却速度の凝固条件で連続的に固化させることにより、酸素を低減させ、かつ母相となる金属間化合物のζ相中にγ相を微細かつ均一に分散させた良質な鋳造組織のターゲットを得ることができるという効果を有する。
このように酸素が少なく、偏析が分散した鋳造組織を持つCu−Ga合金ターゲットを用いてスパッタリングすることにより、パーティクルの発生が少なく、均質なCu−Ga系合金膜を得ることが可能であり、かつCu−Ga合金ターゲットの製造コストを大きく低減できる効果を有する。
このようなスパッタ膜から光吸収層及びCIGS系太陽電池を製造することができるので、CIGS太陽電池の変換効率低下抑制のための太陽電池に有用である。
図1
図2
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