【実施例】
【0044】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の具体例について説明する。ただし、これらの実施例は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。
【0045】
[参考例1]Bacillus subtilisに対するグルコース及びアラニンのATP増加効果
芽胞状態の菌懸濁液のB.subtilis を栄研化学社から購入し、注射用水中で3日間、37℃で振盪培養して、ATP発光計測用の菌懸濁液とした。
【0046】
M.extorquensの菌懸濁液は、次の手順に従い作製された。M.extorquensをSCD液体培地(日水製薬社)5 mL中で72時間、25℃で振盪培養した。培養液(培地)をチューブへ分注し、10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。上澄み液を除き、代わりに水を加えて菌を懸濁し、再び10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。この工程を3回繰り返して、培地成分を除いた菌懸濁液を作製した。続いて注射用水中で3日間、37℃で振盪培養して、ATP発光計測用の菌懸濁液とした。
【0047】
菌のコロニー数を計測するため、必要であれば各菌試料を水で希釈した後、菌懸濁液をR2A寒天培地へ塗布して25℃で培養し、培養開始96時間後から168時間後までコロニー数を計測した。
【0048】
ATP発光計測用の試薬として、ルシフェールHSセット(キッコーマンバイオケミファ社)を用いた。なおルシフェールHSセットには、ATP消去酵素、ATP抽出試薬及び発光試薬が添付されている。
【0049】
B.subtilisとM.extorquensに対するグルコース及びアラニンのATP増減効果は次の手順に従い評価された。B.subtilisとM.extorquensの菌懸濁液50μLへグルコース(和光純薬)10μLとアラニン(和光純薬)10μL、ATP分解酵素10μLを加えた。最終的にリン酸緩衝液(pH 7.4)(インビトロジェン社)を加えて全量を100μLへ調整した。グルコースとアラニン、及びATP分解酵素の最終濃度をそれぞれ100 mMと50 mM、及び10 (v/v)%とし、各混合液を37℃で30分間加熱した。なお比較例1として、試薬セットの説明書記載のプロトコルとしてグルコースとアラニンの添加を除いた。
【0050】
加熱後の混合液100μLに対してATP抽出液100μLを加え、ATP抽出後のサンプル50μLを発光試薬50μLへ添加し、生じた発光を計測した。
結果を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、比較例1の方法の場合、注射用水という貧栄養下で芽胞を形成したB.subtilisのATP内包量は0.004 amol/CFUと低い値であり、この方法では1 CFUの検出は極めて困難であった。
【0053】
そこで、芽胞の発芽を促進することが知られていたグルコース及びアラニンを既報(J Bacteriol Vol.81, p.204, 1961年)に従って、それぞれ100 mM グルコース、50 mM アラニンを添加したところ(比較例2)、B.subtilisのATP内包量は30000%と飛躍的に増加し、1CFUの検出が可能なレベルに達した。一方、製薬用水の管理として日本薬局方に規定されている培地性能試験に使用されるMethylobacterium extorquensを同じプロトコールで測定した場合、M.extorquensのATP内包量は従来法(比較例1)の3割まで低下した。
【0054】
したがって、この条件下では、M.extorquensを高感度に計測することはできず、またB.subtilisとM.extorquensを1つのATP発光計測法で同時かつ高感度に計測することは困難であった。
【0055】
M.extorquensはメタノール資化性菌であることから、後述する実施例では、メタノールのATP増加効果を検討することとした。
【0056】
[参考例2]メタノールのATP発光反応への影響
後述する実施例においてメタノールのATP増加効果を検討するにあたり、まずメタノールのATP発光反応への影響を確認した。
【0057】
ATP溶液 1 mL(2 x 10
5 amol ATP/mL、キッコーマンバイオケミファ社ルシフェールATP標準試薬セット)と100%メタノール(和光純薬社)10μL〜5 mLを混合し、さらに水(インビトロジェン社)加えて、メタノールの最終濃度が0.1〜50 (v/v)%のATP/メタノール溶液 10 mLを作製した(ATP濃度:2 x 10
4 amol ATP/mL)。続いて、ATP/メタノール溶液 50μLと発光試薬 50μL(キッコーマンバイオケミファ社ルシフェールHSセット付属)を混合して発光反応を生じさせ、光電子増倍管を用いてフォトンカウンティングにより発光量を計測した。
【0058】
一方、比較のため、メタノールを含まないATP溶液 1 mL(2 x 10
4 amol ATP/mL)を作製した。続いてATP溶液 50μLと発光試薬 50μLを混合して発光反応を生じさせ、発光量を計測した。
【0059】
メタノール濃度に対するATP・ルシフェラーゼ・ルシフェリン反応の発光量を表2に示す。表2では、0.1〜50 (v/v)%メタノールを含むATP溶液(サンプルNo.2〜5)と、メタノールを含まないATP溶液(サンプルNo.1)と、発光試薬との混合による発光量の比較を示している。
【0060】
【表2】
【0061】
0.1 (v/v)%メタノールを含むATP溶液(サンプルNo.2)と1 (v/v)%メタノールを含むATP溶液(サンプルNo.3)、メタノールを含まないATP溶液(サンプルNo.1)の発光量は、それぞれ12703 CPS(Count per second)と10200 CPS、11534 CPSで発光比は88〜110%を示した。一方、10 (v/v)%メタノールを含むATP溶液(サンプルNo.4)では発光比は29%まで減少し、50 (v/v)%メタノールを含むATP溶液(サンプルNo.5)では発光はほぼ示さなかった。
この結果、ATP発光反応・計測工程に混入するメタノールの濃度は1 (v/v)%以下が望ましいと考えられた。
【0062】
[実施例1]
本実施例では、ATP分解酵素の活性保持が可能なメタノール濃度を検討した。
ATP分解酵素を含むATP消去液(キッコーマンバイオケミファ社ルシフェールHSセット付属ATP消去試薬)10μLと濃度調整済みのメタノール80μLを混合した。そこへATP溶液2 x 10
6 amol/10μLを加えて37℃で30分間静置した。なおメタノールの最終濃度は0.1〜80 (v/v)%へ調整した。
【0063】
上記混合液を発光試薬へ添加して残存ATP量を計測するため、ATP発光反応へ影響しないメタノール濃度0.1 (v/v)%以下まで水で混合液を希釈した(参考例2、表2)。続いてこの希釈液50μL(1 x 10
3 amol ATP/50μL)を発光試薬50μLへ添加して発光量を計測した。なおATP分解酵素を加えていないATP溶液1 x 10
3 amol/50μLを作製し、このATP溶液に対する発光量も計測した。ATP分解酵素が加わっていないATP溶液の発光量は、ATP分解酵素の活性が無くなった後にATPを加えた時のATP溶液の発光量とほぼ同じとみなせるため、この発光量を残存ATP分解酵素活性0%と定義した。
【0064】
図2に、ATP分解酵素の残存活性とメタノール濃度を示す。0〜50 (v/v)%メタノールの存在下でのATP分解酵素とATP溶液の混合液からATP発光反応は計測されなかった。これはATP分解酵素が0〜50 (v/v)%メタノールの濃度幅で活性を保持し、加えられたATPを分解したことを示す。一方、メタノール濃度が50 (v/v)%を超えるとATP分解酵素の活性は減少し始め、メタノール濃度が80 (v/v)%で酵素活性が20%まで減少した。
【0065】
この結果、メタノール濃度 50 (v/v)%以下であれば、ATP分解酵素を失活させず、生細胞外のATPの分解が可能であることが明らかとなった。
【0066】
[実施例2]
本実施例では、メタノールが本来殺菌効果を有することから評価菌に対するメタノール濃度の影響を検討した。
【0067】
菌懸濁液10μLと濃度調整済みのメタノール90μLを混合し100μLの菌/メタノール懸濁液を作製した。メタノールの最終濃度は0〜80 (v/v)%とし、菌としてBacillus subtilis(細菌、芽胞、ATCC 6633)、Staphylococcus aureus(細菌、好気性、ATCC 6538)、Candida albicans(真菌、酵母、ATCC 10231)を使用した。菌懸濁液とメタノールを混合して1分間静置した後、細菌の場合はR2A培地(日水製薬)へ塗り広げ25℃で7日間培養した。真菌の場合はPDA培地(日水製薬)へ塗り広げ25℃で5日間培養した。培養後、各メタノール濃度に対するコロニー数を計測した。0%メタノールのコロニー数を生存度100%として、各濃度のメタノールに対する菌の生存度を調べた。
【0068】
図3に、各メタノール濃度に対する菌の生存度を示す。B.subtilisは80 (v/v)%メタノールへ曝されても生存率100%を示した。一方、S.aureusとC.albicansは30 (v/v)%以下のメタノールで生存率90%以上を示した。
【0069】
この結果、30 (v/v)%以下のメタノールでは、B.subtilisとS.aureus、C.albicansの3種類の菌が共に細胞内で生命活動に必要な恒常性が保たれていることを示す。
【0070】
[実施例3]
本実施例では、M.extorquensに対するメタノールのATP増加効果を検討した。
M.extorquensの菌懸濁液は、次の手順に従い作製された。M.extorquensをSCD液体培地(日水製薬社)5 mL中で72時間、25℃で振盪培養した。培養液(培地)をチューブへ分注し、10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。上澄み液を除き、代わりに水を加えて菌を懸濁し、再び10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。この工程を3回繰り返して、培地成分を除いた菌懸濁液を作製した。続いて注射用水中で3日間、37℃で振盪培養して、ATP発光計測用の菌懸濁液とした。
【0071】
菌のコロニー数を計測するため、必要であれば各菌試料を水で希釈した後、菌懸濁液をR2A寒天培地へ塗布して25℃で培養し、培養開始96時間後から168時間後までコロニー数を計測した。
【0072】
以下、作製した菌懸濁液を用いた第1形態を示す。第1形態は各種試薬の混合のみによる発光計測である。
【0073】
M.extorquensの菌懸濁液50μLへグルコース(和光純薬社)とアラニン(和光純薬社)、ATP分解酵素、10%メタノール、リン酸緩衝液(pH 7.4)(インビトロジェン社)をそれぞれ10μL加えて全量を100μLの混合液を調整し、グルコースやアラニン、メタノールを加えない場合はリン酸緩衝液で全量を100μLへ調整した(表3、サンプルNo.1〜5)。混合液を37℃で30分間加熱した後、生細胞外ATP除去・生細胞内ATP増加工程において、混合液100μLへATP抽出液100μLを添加した(表3、サンプルNo.1〜4)。一方、メタノールのATP抽出効率を比較するため、ATP抽出工程において、混合液100μLへ1%メタノールを含むATP抽出液100μLを混合した(表3、サンプルNo.5)。ATP抽出後のサンプル50μLを発光試薬50μLへ添加し、生じた発光を計測した。
【0074】
以下、作製した菌懸濁液を用いた第2形態を示す。第2形態と第1形態の違いは、第2形態ではろ過を採用している点であり、集菌とメタノール除去の目的でろ過を使用している。
【0075】
M.extorquensの菌懸濁液50μLをウルトラフリーMC(ミリポア社、孔径0.45μm、ポリビニリデンフロライド製メンブレンフィルター)で遠心ろ過(1分間2000 rpm)し、フィルター上へ菌を集めた。フィルター上へグルコースとアラニン、ATP分解酵素、10%メタノールをそれぞれ10μL、リン酸緩衝液(pH 7.4)70μLを加えて、全量100μLの混合液を調製した。グルコースとアラニンの最終濃度を0.1 mMとし、ATP分解酵素とメタノールの最終濃度をそれぞれ10%と1%とした(表3、サンプルNo. 6)。フィルター上の混合液を37℃で30分間加熱した。加熱後、メタノールを含む混合液を除くため、混合液全てをウルトラフリーMCで遠心ろ過(1分間2000 rpm)し、ろ液である混合液を破棄した。続いて水200μLをフィルター上へ加えて、ろ過してフィルターを洗浄した。なお洗浄は5回繰り返した。洗浄後、フィルター上へATP抽出液100μLを加えて、5分間静置後、遠心ろ過(2000 rpm、1分間)してろ液を回収した。各ATP抽出後のサンプル50μLを発光試薬50μLへ添加し、生じた発光を計測した。
表3に、細胞内ATP発光計測法におけるM.extorquensの1 CFU当りのATP内包量(amol/CFU)を示す。
【0076】
【表3】
【0077】
サンプルNo.1とサンプルNo.2は実施例1と同じ結果である。サンプルNo.2の結果から、M.extorquensに対してアラニンとグルコースによる阻害が認められたので、阻害を低減するためアラニンとグルコースの濃度を低下させることにした。0.1 mM アラニンと0.1 mM グルコースにしたサンプルNo.3の場合、M.extorquensのATP量は0.9 amol/CFUへ増加し、阻害を回避するとともに従来法(参考例1の比較例1)よりも約3割ATP量を増加させる濃度を見出した。
【0078】
さらに、メタノールによるATP増加効果を検討するために、最終濃度1 (v/v)%になるようにメタノールを加えたところ、サンプルNo.4に示すとおり、ATP量は1.2 amol/CFUへ増加し、従来法(参考例1の比較例1)よりも約7割ATP量を増加させることができた。
【0079】
このメタノールの添加効果が細胞中のATP量を増加させた効果なのか、それとも特許文献4(特許第3811616号)に示されているATP抽出に対するメタノールの効果なのかを確認するために、サンプルNo.5に示すように「生細胞外ATP除去・生細胞内ATP増加」工程ではなく「ATP抽出」工程に1 (v/v)%メタノールを添加した場合の効果を検証した。その結果、サンプルNo.5のATP量は0.8 amol/CFUとサンプルNo.3と同レベルであり、1 (v/v)%メタノールはATP抽出に対しては効果がないことが確認された。
【0080】
さらに、サンプルNo.6の条件のように、「生細胞外ATP除去・生細胞内ATP増加」工程に1%メタノールを添加し、その後、ろ過洗浄により「ATP抽出」工程へのメタノールやグルコース、アラニンの持込をなくした場合においても、ATP量は1.2 amol/CFUを維持したことから、「生細胞外ATP除去・生細胞内ATP増加」工程での1 (v/v)%メタノール添加は、生細胞内でのATP内包量の増加に効果があることを明らかにした。
【0081】
[実施例4]
本実施例では、M.extorquensのグルコース及びアラニン量に対するATP量の関係を調べた。
M.extorquensの菌懸濁液は、次の手順に従い作製された。M.extorquensをSCD液体培地(日水製薬社)5 mL中で72時間、25℃で振盪培養した。培養液(培地)をチューブへ分注し、10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。上澄み液を除き、代わりに水を加えて菌を懸濁し、再び10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。この工程を3回繰り返して、培地成分を除いた菌懸濁液を作製した。続いて注射用水中で3日間、37℃で振盪培養して、ATP発光計測用の菌懸濁液とした。
【0082】
菌のコロニー数を計測するため、必要であれば各菌試料を水で希釈した後、菌懸濁液をR2A寒天培地へ塗布して25℃で培養し、培養開始96時間後から168時間後までコロニー数を計測した。
【0083】
M.extorquensの菌懸濁液50μLへ、グルコースとアラニン、ATP分解酵素、また必要に応じて10 (v/v)%メタノールをそれぞれ10μLを加えた。最終的にリン酸緩衝液(pH 7.4)(インビトロジェン社)を加えて全量を100μLへ調整した。グルコースとアラニンの最終濃度を0.1〜100 mMとし、ATP分解酵素とメタノールの最終濃度をそれぞれ10 (v/v)%と1 (v/v)%とし、各混合液を37℃で30分間加熱した。加熱後の混合液100μLへATP抽出液100μLを加え、ATP抽出後のサンプル50μLを発光試薬50μLへ添加し、生じた発光を計測した。
【0084】
図4Aは、1 (v/v)%メタノールと100 mMグルコースの存在下、アラニンの濃度を0.1〜50 mMまで変化させた際の1 CFU当りのM.extorquensのATP内包量(amol/CFU)である。ATP内包量はアラニンの濃度が10 mM以下から増大し、1 mM以下では0.9 amol/CFUを示した。
【0085】
図4Bは、1 (v/v)%メタノールと50 mMアラニンの存在下、グルコースの濃度を0.1〜100 mMまで変化させた際の1 CFU当りのATP内包量(amol/CFU)である。ATP内包量は、グルコース濃度を変化させても約0.5 amol/CFUで推移した。
【0086】
図4Cは、メタノール存在下又は非存在下でグルコースとアラニンの濃度を同時に0.1 mM、5 mM、50 mMへと変化させた際の1 CFU当りのATP内包量を示す。ATP内包量はメタノール非存在下で各濃度が5 mM以下から急に増加し、0.1 mMで0.9 amol/CFUを示した。この結果は、0.1 mMアラニンと100 mMグルコース、1%メタノールの組合せの結果と同じである(
図4A)。しかしながら0.1 mM アラニンと0.1 mMグルコースへ、1%メタノールを加えると、ATP内包量は1.2 amol/CFUまで増大した。これはアラニンとグルコースを共に5 mM未満にし、さらにメタノールを加えることでATP量が増大することを示す。
【0087】
特許文献3(特開2006-174751号公報)には、グルコースとアラニンに有芽胞細菌の発芽促進に効果があることが示されているが、ATP増加効果に関しては何ら示されておらず、さらに
図4の結果のようにグルコースとアラニンそれぞれ又は組み合わせにより、ATP増加効果に対して至適な濃度領域があることは本発明者が見出したことである。
【0088】
[実験例5]
本実施例では、メタノール濃度に対するATP内包量の増減の効果を調べた。
M.extorquensの菌懸濁液は、次の手順に従い作製された。M.extorquensをSCD液体培地(日水製薬社)5 mL中で72時間、25℃で振盪培養した。培養液(培地)をチューブへ分注し、10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。上澄み液を除き、代わりに水を加えて菌を懸濁し、再び10分間、10000 rpmで遠心して菌をチューブの底へ集めた。この工程を3回繰り返して、培地成分を除いた菌懸濁液を作製した。続いて注射用水中で3日間、37℃で振盪培養して、ATP発光計測用の菌懸濁液とした。
【0089】
菌のコロニー数を計測するため、必要であれば各菌試料を水で希釈した後、菌懸濁液をR2A寒天培地へ塗布して25℃で培養し、培養開始96時間後から168時間後までコロニー数を計測した。
【0090】
M.extorquensの菌懸濁液50μLへ、グルコースとアラニン、ATP分解酵素、メタノールをそれぞれ10μL加えた。最終的にリン酸緩衝液(pH 7.4)(インビトロジェン社)を加えて全量を100μLへ調整した。グルコースとアラニンの最終濃度を0.1 mMとし、ATP分解酵素の最終濃度を10 (v/v)%とし、メタノールの最終濃度を0〜80%とした。各混合液を37℃で30分間加熱した。加熱後、メタノールを含む混合液を除くため、混合液全てをウルトラフリーMCで遠心ろ過(1分間2000 rpm)し、ろ液である混合液を破棄した。続いて水200μLをフィルター上へ加えて、ろ過してフィルターを洗浄した。なお洗浄は5回繰り返した。洗浄後、フィルター上へATP抽出液100μLを加えて、5分間静置後、遠心ろ過(2000 rpm、1分間)してろ液を回収した。各ATP抽出後のサンプル50μLを発光試薬50μLへ添加し、生じた発光を計測した。
【0091】
図5Aは、0〜10%メタノール濃度に対するM.extorquensのATP内包量を示す。M.extorquensのATP内包量はメタノール濃度0.5%で最大値(1.5 amol/CFU)を示し、メタノール濃度0%では60%減少(0.7 amol/CFU)した。メタノール濃度0.1〜20%では最大値に対して70%以上のATP内包量(1.1 amol/CFU)を示した(
図5A及びB)。一方、メタノール濃度30%以上ではATP内包量は90%減少(0.15 amol/CFU)した(
図5B)。
【0092】
[実施例6]
日本薬局方によると「製薬用水の管理」や「無菌検査」に使用する培地が適切であるかを確認するための培地試験に使用する菌体として、以下の延べ9種類の菌種が規定されている:好気性芽胞細菌(グラム陽性)Bacillus subtilis(ATCC 6633)、好気性細菌(グラム陰性)Pseudomonas aeruginosa(NBRC 13275)、好気性細菌(グラム陰性)Pseudomonas fluorescence(NBRC 15842)、好気性細菌(グラム陰性)Methylobacterium extorquens(NBRC 15911)、好気性細菌(グラム陰性)Escherichia coli(ATCC 11775)、好気性細菌(グラム陽性)Staphylococcus aureus(ATCC 6538)、嫌気性芽胞細菌(グラム陽性)Clostridium sporogenes(ATCC 11437)、真菌(酵母)Candida albicans(ATCC 10231)、真菌(カビ・胞子)Aspergillus niger(ATCC 16404)。なお、「ATCC」とは、American Type Culture Collectionのカタログ番号を表し、「NBRC」とはNITE Biological Resource Centerの受託番号を表している。
本実施例では、上記の日本薬局方記載指標菌9種の細胞内ATP計測を行った。
【0093】
非芽胞形成菌(P.aeruginosa、P.fluorescence、M.extorquens、S.aureus、E.coli、C.albicans)の菌懸濁液を次の手順に従い作製した。各菌をSCD液体培地5 mLに加えて48時間振盪培養した。培養温度は日本薬局方を基準としてS.aureus、E.coliでは37℃、P.fluorescence、P.aeruginosa、M.extorquens、C.albicansでは25℃とした。培養後の培養液をチューブへ分注し、10000 rpmで10分間遠心してチューブの底へ菌を集めた。すべての菌について、各成分を含む上澄み液を除き、代わりに水を加えて懸濁して、10000 rpmで10分間遠心してチューブの底へ再び菌を集めた。この工程を3回繰り返して、各成分を除き水と置き換えた。続いて注射用水中で3日間、37℃で振盪培養して、ATP発光計測用の菌懸濁液とした。
【0094】
各菌のコロニー数を計測するため、必要であれば各菌試料を水で希釈した後、M.extorquensの懸濁液をR2A寒天培地へ塗布して25℃で培養し、培養開始96時間後から168時間後までコロニー数を計測した。B.subtilis、P.aeruginosa、P.fluorescence、E.coli、S.aureus、C.sporogenesの細菌懸濁液を標準寒天培地へ塗布して25℃で培養し、培養開始96時間後から168時間後までコロニー数を計測した。C.albicans、A.nigerの真菌懸濁液をPDA培地へ塗布し、各培地上の菌を20℃で培養し、培養開始120時間後のコロニー数を計測した。
【0095】
各菌懸濁液50μLへ、グルコースとアラニン、ATP分解酵素、10%メタノールをそれぞれ必要に応じてそれぞれ10μLずつ加え、リン酸緩衝液(pH 7.4)を加えて全量100μLの混合液を調製した。グルコースとアラニンの最終濃度を0.1 mMとし、ATP分解酵素とメタノールの最終濃度をそれぞれ10%と1%とした。各混合液を37℃で30分間加熱した。加熱後の混合液100μLに対してATP抽出液100μLを加えた。各ATP抽出後のサンプル50μLを発光試薬50μLと混合し、生じた発光を計測した。
【0096】
ATP発光計測法における、上述の公定菌9菌種に対するメタノール、グルコース及びアラニンのATP増加効果を表4に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
B.subtilisについて参考例1に示したように、比較例1では1 CFUの検出が困難であったため、ATP増加効果をもたらす100 mMグルコースと50 mMアラニン条件下での各菌種におけるATP内包量を検討した(比較例2)。B.subtilisに対しては劇的な効果が認められ、P.fluorescens、P.aeruginosa、C.sporogenesについても同等から1.5倍程度のATP増加効果が認められたものの、その他の菌体に対しては阻害が認められた。
【0099】
そこで、グルコースとアラニンの濃度をそれぞれ0.1 mMに低減した結果(実施例6-1)、比較的ATP内包量の低いM.extorquens、S.aureus、P.fluorescens、P.aeruginosa、C.sporogenesに対してATP増加効果が認められ、B.subtilisのATP内包量は維持された。また、ATP高含有のA.niger、C.albicansについては、グルコースとアラニンの阻害からの回復は認められなかったものの、1 CFUを検出するには問題ないレベルのATP量であった。
【0100】
さらに、最終濃度1 (v/v)%になるようにメタノールを加えたところ(実施例6-2)、M.extorquensのATP内包量は従来法比1.7倍、S.aureus、P.fluorescens、P.aeruginosaは3倍弱、C.sporogenesは4倍弱、E.coli及びB.subtilisは同レベルであった。一方A.niger、C.albicansはそれぞれ3割強と8割強となったが、ATPの絶対量が多く、1 CFUに検出には問題ないレベルのATP内包量であることが明らかとなった。この様にメタノール資化菌のM.extorquensのみならず、多くの菌種に対してメタノールがATP増加効果を有するという驚くべき効果を見出した。
【0101】
またこれらの結果から、上述の9種類の菌体は、本測定法に従って検出可能であることが証明されたので、これらの菌種は、精度管理のための陽性コントロールとして使用可能であることが確認された。したがってこれら9種類の菌群から選択される少なくとも1種類の菌を陽性コントロールとして使用することが可能である。
【0102】
従来法で細胞数(特に生細胞数)を計測するには、複数の培地と培養温度、培養時間を必要とし、同時計測は困難であるか知られていなかった。本発明は、細菌や真菌(酵母・カビ)、芽胞や胞子、非芽胞、好気性や嫌気性、グラム陰性やグラム陽性など複数種の菌について、極めてATP内包量が少ない細胞についても、同時かつ高感度に検出することを可能とするものである。
【0103】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除又は置換を行うことが可能である。