(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第4級アンモニウム水酸化物(但し、テトラメチルアンモニウム水酸化物を除く。)を含み、25〜70℃において、シリコン基板の{111}面のエッチング速度とシリコン基板の{100}面のエッチング速度との比であるエッチング選択比が0.25〜0.80である、非対称テトラアルキル第四級ホスホニウム塩を含まないシリコン異方性エッチング液を用いて、シリコン基板をエッチング加工するシリコン異方性エッチング方法であって、
前記シリコン基板の{100}面上に<110>方向に沿った辺を有する開口を備えるエッチングマスクを設ける工程と、
前記エッチングマスクを設けたシリコン基板を前記シリコン異方性エッチング液に浸漬することにより、前記<110>方向に平行な辺を有し、かつ前記{100}面に対して50〜60°の角度を成す傾斜面を前記シリコン基板の深さ方向に向かって形成する工程と、
を含むシリコン異方性エッチング方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係るシリコン異方性エッチング方法を実施する際に使用するエッチングマスク1について説明する。本発明の実施形態に係るシリコン異方性エッチング方法は、シリコンを腐食溶解する性質を持つ液体の薬品(シリコン異方性エッチング液)を使ったウェット(湿式)エッチング方法の1つであって、微細なセンサ等に用いられるダイヤフラムを形成したり、シリコン基板の厚みと同程度の掘り込みを形成したりする際に使用される。そして、エッチングマスク1は、当該エッチング方法により除去したいシリコン基板の部分だけを薬品に晒し、シリコン基板の他の部分を薬品から覆い隠すために形成される。具体的に、エッチングマスク1は、シリコン基板の主表面全体に膜状に堆積され、かつエッチングにより除去したいシリコン基板の部分に開口1aを有する。
図1は、シリコン基板の主表面側から見た平面図であるため、開口1aからシリコン基板2が現れ、シリコン基板2の他の部分はエッチングマスク1で覆い隠されている。また、シリコン基板2の外形とエッチングマスク1の外形は等しい。
【0014】
なお、本発明の実施形態において、シリコン基板2は、[011]方向を示すオリエンテーションフラット1b(切り欠き)が形成された円盤状のシリコンウェハからなり、
図1に示すエッチングマスク1が堆積されたシリコン基板2の主表面は(100)面である。もちろん、シリコン基板2には、ウェハ以外の形態のものも含まれ、例えば、SOI基板等の、絶縁体等の上に形成された単結晶シリコンからなる厚膜が含まれる。
【0015】
図1に示す開口1aの形状は、<110>方向、即ち、[011]方向、[01−1]方向、[0−1−1]方向、[0−11]方向に平行な主要な4つ辺を有する方形状であり、主要な各辺の結晶方向に対する平行精度は、前後1°以内である。もちろん、エッチングマスク1に形成される開口の大きさや形状は、形成したいダイヤフラムや彫り込みの大きさや形状に応じて任意に定まるものであり、
図1に示す形状に限定されるものではない。
【0016】
エッチングマスク1の材質としては、シリコン異方性エッチング液に対して耐エッチング性を有しているものであればよく、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(Si
3N
4)を使用することができる。
【0017】
次に、本発明の実施形態に係るシリコン異方性エッチング方法において使用するシリコン異方性エッチング液について説明する。シリコン異方性エッチング液は、第4級アンモニウム水酸化物(但し、テトラメチルアンモニウム水酸化物を除く。)を含み、25〜70℃において、シリコン基板の{111}面のエッチング速度とシリコン基板の{100}面のエッチング速度との比であるエッチング選択比が0.25〜0.80であるシリコン異方性エッチング液である。
【0018】
上記シリコン異方性エッチング液において、上記エッチング選択比は、通常、0.25〜0.80、好ましくは0.30〜0.70である。上記エッチング選択比が0.25〜0.80であることにより、テトラメチルアンモニウム水酸化物(TMAH)を含むシリコン異方性エッチング液の場合に比べ、{111}面のエッチング速度と{100}面のエッチング速度とが互いに近い値となる。その影響により、シリコン基板の主表面に対して50〜60°の角度を成し、平坦性良好な傾斜面が容易に形成されるものと推測される。また、このような傾斜面4つと{100}面からなる平坦な底面とを有する凹部が容易に形成されるものと推測される。
以下、シリコン異方性エッチング液に含有される各成分について詳細に説明する。
【0019】
[(A)第4級アンモニウム水酸化物(但し、テトラメチルアンモニウム水酸化物を除く。)]
第4級アンモニウム水酸化物(但し、テトラメチルアンモニウム水酸化物を除く。)((A)成分)としては、上記のエッチング選択比を与えるものであれば、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム水酸化物が挙げられる。
【0020】
【化1】
(式中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に炭素数1〜16の1価炭化水素基を示す。但し、R
1〜R
4に含まれる炭素数の合計は6以上である。)
【0021】
上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム水酸化物は、R
1〜R
4に含まれる炭素数の合計が6以上であるため、テトラメチルアンモニウム水酸化物(TMAH)と比較して、嵩高い炭化水素基を有しており、塩基性が低下している。塩基性の低下が、アルカリ水溶液によるシリコンの溶解にどのような影響を及ぼすか検討する。アルカリ水溶液によるシリコンの溶解は以下の化学反応式に従って進行する。
Si+2OH
−+2H
2O → Si(OH)
4+H
2+2e
−
→[SiO
2(OH)
2]
2−+2H
2
この式から分かるように、アルカリ水溶液の塩基性が弱まれば、ケイ素と反応する水酸化物イオンが減少するため、シリコン基板のエッチング速度は低下する。このとき、{100}表面は、{111}表面よりもエッチング速度低下の幅が大きい。シリコン基板の主表面に対して50〜60°の角度を成し、平坦性良好な傾斜面が容易に形成されるのは、{111}表面よりも{100}表面でエッチング速度低下の幅が大きいことが影響しているものと考えられる。また、このような傾斜面4つと{100}面からなる平坦な底面とを有する凹部が容易に形成されるのも、同様の影響によるものと考えられる。
【0022】
R
1〜R
4の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0023】
R
1〜R
4に含まれる炭素数の合計は6以上であるが、好ましくは8〜20、より好ましくは12〜16である。
【0024】
(A)成分の具体例としては、テトラエチルアンモニウム水酸化物(TEAH)、テトラプロピルアンモニウム水酸化物(TPAH)、テトラブチルアンモニウム水酸化物(TBAH)、ジエチルジメチルアンモニウム水酸化物、メチルトリエチルアンモニウム水酸化物、ベンジルトリメチルアンモニウム水酸化物、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水酸化物が挙げられ、中でも、TEAH、TPAH、TBAHが好ましく、TBAHが好ましい。(A)成分は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
シリコン異方性エッチング液中の(A)成分の濃度は、0.001〜0.6Nの範囲であることが好ましい。より好ましくは0.002〜0.5Nの範囲であり、0.003〜0.4Nの範囲が最も好ましい。(A)成分の濃度が0.001〜0.6Nの範囲であることにより、上記エッチング選択比が0.25〜0.80の範囲になりやすくなり、シリコン基板の主表面に対して50〜60°の角度を成し、平坦性が良好な傾斜面を形成することが容易となる。
【0026】
[(B)水]
シリコン異方性エッチング液に使用される溶剤成分としては、通常、水((B)成分)が用いられる。金属塩等の不純物がシリコン異方性エッチング液に含まれることにより、作製される半導体製品の歩留まりが低下することを防止するとの観点からは、(B)成分は、イオン交換水や蒸留水のように高度に精製された精製水であることが好ましい。
【0027】
[その他の成分]
本発明で用いるシリコン異方性エッチング液には、その他の成分が添加されてもよい。その他の成分としては、例えば、溶解補助成分((C)成分)が挙げられる。(C)成分は、(C1)水溶性有機溶剤及び(C2)界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分である。言い換えると、(C)成分は、(C1)水溶性有機溶剤及び(C2)界面活性剤からなる群より選択される1以上の成分である。(C2)成分がシリコン異方性エッチング液に添加されることにより、(A)成分、特に、TBAHの溶解性が大きくなり、シリコン異方性エッチング液中における(A)成分の析出温度を下げることができる。(A)成分の析出温度が下がることにより、シリコン異方性エッチング液中の(A)成分の析出が抑制され、シリコン異方性エッチング液の安定性が向上する。特に、シリコン異方性エッチング液が濃縮状態の場合(TBAH等の(A)成分の濃度が高い場合)には、低温環境において(A)成分、特にTBAHが析出し易い状態となるので、(C)成分の添加によって(A)成分の析出温度が低くなることは好ましい。以下、(C)成分として添加される各成分について説明する。
【0028】
・(C1)水溶性有機溶剤
シリコン異方性エッチング液に(C)成分として水溶性有機溶剤((C1)成分)が添加されることにより、シリコン異方性エッチング液における(A)成分の溶解性を高くすることができ、シリコン異方性エッチング液における(A)成分の析出を抑制することができる。このような効果は、特に、シリコン異方性エッチング液が濃縮状態である場合に顕著となる。
【0029】
(C1)成分としては、シリコン基板やエッチングマスクに与えるダメージの少ないものであれば特に限定されず、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、1,7−ヘプタンジオール、オクチレングリコール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール等のアルコール類;ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−n−ペンチルエーテル、ジ−sec−ブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ−sec−ペンチルエーテル、ジ−tert−アミルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;等が例示される。これらの中でも、エッチング時のシリコン基板やエッチングマスクへのダメージを抑制しつつ、上記第4級アンモニウム水酸化物、特に、TBAHの溶解性を十分に向上させるという観点からは、エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール類、グリセリン等の3価アルコール類、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール等の1価アルコール類等のアルコール類が好ましく例示され、中でも、2価アルコール類、3価アルコール類がより好ましく例示される。上記(C1)成分は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
シリコン異方性エッチング液中における(C1)成分の含有量は、1〜10質量%であることが好ましい。(C1)成分の含有量が1質量%以上であることにより、シリコン異方性エッチング液における(A)成分の析出が効果的に抑制される。この効果は、シリコン異方性エッチング液が濃縮状態であるときに顕著である。また、(C1)成分の含有量が10質量%以下であることにより、(C1)成分によるシリコン基板やエッチングマスクへのダメージ等といった影響を低減させることができる。シリコン異方性エッチング液中における(C1)成分の含有量は、3〜10質量%であることがより好ましく、3〜7質量%であることがさらに好ましい。なお、上述のとおり、ここでいう(C1)成分の含有量とは、実際に現像処理に使用されるシリコン異方性エッチング液における濃度を指すものであり、濃縮状態のシリコン異方性エッチング液における濃度を指すものではない。
【0031】
・(C2)界面活性剤
シリコン異方性エッチング液に(C)成分として界面活性剤((C2)成分)が添加されることにより、シリコン異方性エッチング液における(A)成分の溶解性を高くすることができ、シリコン異方性エッチング液における(A)成分の析出を抑制することができる。このような効果は、特に、シリコン異方性エッチング液が濃縮状態である場合に顕著となる。また、シリコン異方性エッチング液に(C2)成分が添加されると、シリコン異方性エッチング液の濡れ性が向上し、エッチング残り等が抑制される効果が得られる。
【0032】
(C2)成分としては、特に限定されるものではなく、従来公知の界面活性剤を用いることができる。具体的には、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及び両性界面活性剤を用いることができる。
【0033】
アニオン系界面活性剤としては特に限定されるものではなく、アニオン性基を有する従来公知の界面活性剤を用いることができる。そのようなアニオン系界面活性剤としては、例えば、アニオン性基として、カルボン酸基、スルホン酸基、又はリン酸基を有する界面活性剤を挙げることができる。
【0034】
具体的には、炭素数8〜20のアルキル基を有する高級脂肪酸、高級アルキル硫酸エステル、高級アルキルスルホン酸、高級アルキルアリールスルホン酸、スルホン酸基を有するその他の界面活性剤、若しくは高級アルコールリン酸エステル、又はそれらの塩等を挙げることができる。ここで、上記アニオン系界面活性剤の有するアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよく、分枝鎖中にフェニレン基又は酸素原子等が介在してもよいし、アルキル基が有する水素原子の一部が水酸基やカルボキシル基で置換されてもよい。
【0035】
上記の高級脂肪酸の具体例としては、ドデカン酸、テトラデカン酸、ステアリン酸等を挙げることができ、高級アルキル硫酸エステルの具体例としては、デシル硫酸エステル、ドデシル硫酸エステル等を挙げることができる。また、上記高級アルキルスルホン酸の例としては、デカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、テトラデカンスルホン酸、ペンタデカンスルホン酸、ステアリン酸スルホン酸等を挙げることができる。
【0036】
また、高級アルキルアリールスルホン酸の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、デシルナフタレンスルホン酸等を挙げることができる。
【0037】
さらに、スルホン酸基を有するその他の界面活性剤としては、例えば、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ジオクチルスルホサクシネート等のジアルキルスルホサクシネート等を挙げることができる。
【0038】
高級アルコールリン酸エステルの例としては、例えば、パルミチルリン酸エステル、ヒマシ油アルキルリン酸エステル、ヤシ油アルキルリン酸エステル等を挙げることができる。
【0039】
以上のアニオン性界面活性剤の中でも、スルホン酸基を有する界面活性剤を用いることが好ましく、具体的には、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、オレフィンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ジアルキルスルホサクシネート等が挙げられる。これらの中でも、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ジアルキルスルホサクシネートを用いることが好ましい。アルキルスルホン酸のアルキル基の平均炭素数は9〜21であることが好ましく、12〜18であることがより好ましい。また、アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基の平均炭素数は、6〜18であることが好ましく、9〜15であることがより好ましい。アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアルキル基の平均炭素数は、6〜18であることが好ましく、9〜15であることがより好ましい。さらに、ジアルキルスルホサクシネートのアルキル基の平均炭素数は、4〜12が好ましく、6〜10がより好ましい。
【0040】
以上のアニオン性界面活性剤の中でも、平均炭素数15のアルキル基を有するアルキルスルホン酸、及び平均炭素数12のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0041】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレン系ノニオン界面活性剤等が例示される。ノニオン系界面活性剤としては水溶性を有するものが望ましい。HLB7〜17の範囲が良い。HLBが小さく水溶性が足りない場合は他の界面活性剤と混ぜるなどして水溶性を持たせてもよい。
【0042】
なお、シリコン異方性エッチング液には、(C2)成分として、各種界面活性剤を1種又は2種以上添加することができる。
【0043】
シリコン異方性エッチング液中における(C2)成分の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましい。(C2)成分の含有量が0.01質量%以上であることにより、シリコン異方性エッチング液における(A)成分の析出が効果的に抑制される。この効果は、シリコン異方性エッチング液が濃縮状態であるときに顕著である。また、(C2)成分の含有量が10質量%以下であることにより、(C2)成分によるシリコン基板やエッチングマスクへのダメージ等といった影響を低減させることができる。シリコン異方性エッチング液中における(C2)成分の含有量は、0.02〜1質量%であることがより好ましく、0.03〜0.5質量%であることが最も好ましい。なお、上述のとおり、ここでいう(C2)成分の含有量とは、実際に現像処理に使用されるシリコン異方性エッチング液における濃度を指すものであり、濃縮状態のシリコン異方性エッチング液における濃度を指すものではない。
【0044】
シリコン異方性エッチング液は、例えば、(A)成分の第4級アンモニウム水酸化物と、(B)成分の水と、必要に応じて、(C)成分の溶解補助成分等のその他の成分とをスターラ等で攪拌混合することで調製することができる。
【0045】
次に、
図2及び
図3を参照して、
図1に示したエッチングマスク1及び上記のシリコン異方性エッチング液を用いた、本発明の実施形態に係るシリコン異方性エッチング方法の具体的な手順について説明する。
【0046】
(1)まず、
図3のステップST1において、シリコン基板2の主表面上に、
図1に示したエッチングマスク1を形成する。具体的には、まずステップST11において、
図2(a)に示すように、シリコン基板2の主表面P1上に膜厚1μm以下のSiO
2膜からなるエッチングマスク1を形成する。具体的には、化学的気相成長(CVD)法又は熱酸化法等を用いて、エッチングマスク1を主表面P1上に一様に形成する。
【0047】
(2)ステップST12に進み、
図2(b)に示すように、スピン塗布法及びベーキングによりエッチングマスク1の上にレジスト膜3を一様に形成する。ステップST13に進み、レジスト膜3に対して露光処理、現像処理及びポストベーキング等を順次施すことにより、
図2(c)に示すように、
図1の開口1aに対応する位置のレジスト膜3を選択的に除去して、レジスト膜3に開口3aを形成する。
【0048】
(3)ステップST14に進み、例えば反応性イオンエッチング(RIE)法等のドライエッチング法を用いて、開口3aから表出したエッチングマスク1を選択的に除去して、
図2(d)に示すように、エッチングマスク1に開口1aを形成する。このようにして、レジストパターン(開口3a)をエッチングマスク1へ転写した後、ステップST15に進み、レジスト膜3を総て除去する。これにより、
図2(e)に示すように、開口1aからシリコン基板2が表出し、その他の部分はエッチングマスク1で覆い隠された、
図1に示した状態のシリコン基板2が形成される。
【0049】
(4)次に、ステップST2に進み、エッチングマスク1を設けたシリコン基板2の結晶異方性エッチングを行う。具体的には、まず、希釈したフッ酸水溶液で、開口1aから露出したシリコン基板2の主表面P1に形成された自然酸化膜を除去し、高純度のイオン交換水でリンスする。
【0050】
(5)その後、ステップST21において、シリコン基板2を、25〜70℃に設定した上記のシリコン異方性エッチング液の液面に対して垂直になるように所定時間浸漬してエッチングする。そして、シリコン基板2を引き上げた後に、高純度イオン交換水を用いて十分に流水リンス処理を施すことによってシリコン異方性エッチング液を洗い流し、乾燥させる。なお、シリコン基板2を浸漬している間、シリコン異方性エッチング液の容器底部で回転子を回してシリコン異方性エッチング液をたえず攪拌する。
【0051】
(6)次に、ステップST3に進み、例えばフッ酸水溶液中にシリコン基板2を浸漬することにより、
図2(g)に示すように、エッチングマスク1全体をシリコン基板2の主表面P1から除去する。
【0052】
次に、
図2及び
図3に示したシリコン異方性エッチング方法によってシリコン基板2の主表面P1に形成された凹部について説明する。
図4及び
図2(g)に示すように、
図1の開口1aが備える4つの辺と同様にして、<110>方向に平行な辺を有し、かつシリコン基板2の主表面P1に対して50〜60°の角度を成す傾斜面P2が、シリコン基板2の深さ方向に向かって形成されている。具体的に、シリコン基板2の主表面P1に形成された凹部は、[011]方向、[01−1]方向、[0−1−1]方向、[0−11]方向に平行な辺をそれぞれ有し、かつ主表面P1に対して50〜60°の角度を成す4つの傾斜面P2と、主表面P1と同じ(100)面からなる底面P3とを有する。上記凹部において、傾斜面P2は平坦性に優れ、また、底面P3も平坦である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
<実施例1〜22、比較例1〜7>
(1)エッチング選択比の測定
表1に記載の濃度を有する第4級アンモニウム水酸化物水溶液を調製し、シリコン異方性エッチング液として用いた。表1における第4級アンモニウム水酸化物の詳細は下記のとおりである。なお、実施例19のシリコン異方性エッチング液は、第4級アンモニウム水酸化物及び水以外に5質量%のプロピレングリコールを含む。
TMAH:テトラメチルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:4)
TEAH:テトラエチルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:8)
TPAH:テトラプロピルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:12)
TBAH:テトラブチルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:16)
DEDMAH:ジエチルジメチルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:6)
MTEAH:メチルトリエチルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:7)
BTMAH:ベンジルトリメチルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:10)
HDTMAH:ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水酸化物(炭素数の合計:19)
【0055】
調製したシリコン異方性エッチング液を用いて、
図1に示すシリコン基板2のエッチング処理を行った。エッチング処理の具体的な手順は、
図2及び3並びにこれらの図の説明に記載されているところに従った。なお、
図3のステップST2における自然酸化膜の除去は、エッチングマスク1を設けたシリコン基板2を室温にて0.485質量%のフッ酸水溶液に40秒間浸漬することで行った。エッチング時の温度は、表1に記載のとおりに設定した。エッチング時間は、{111}面のエッチング量が全ての実施例及び比較例で同一となるように設定した。具体的なエッチング量は57nmである。この値は、比較例4において、40℃で0.26NのTMAH水溶液を用いて10分間エッチングを行った場合の{111}面のエッチング量に相当する。
【0056】
エッチング処理後、
図4に示すとおりに形成された凹部を有するシリコン基板を
図4のA−A線に沿って切断し、上記凹部の近傍における断面のSEM写真を撮った。このSEM写真を用いて{111}面及び{100}面のエッチング量(nm)を測定し、その測定値とエッチング時間の値とから各々の面のエッチング速度を算出した。また、{111}面のエッチング速度を{100}面のエッチング速度で割って、エッチング選択比を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
*5質量%のプロピレングリコールを含む以外は、実施例17のシリコン異方性エッチング液と同一の組成
【0058】
表1から分かるように、TMAH水溶液をシリコン異方性エッチング液として用いた場合には、{100}面のエッチング速度が{111}面のエッチング速度に比べてはるかに速く、エッチング選択比は0.25よりも小さかった。
一方、TEAH、TPAH、TBAH等の、TMAHよりも嵩高い炭化水素基を有する第4級アンモニウム水酸化物の水溶液をシリコン異方性エッチング液として用いた場合には、TMAH水溶液をシリコン異方性エッチング液として用いた場合に比べ、{111}面のエッチング速度と{100}面のエッチング速度とが互いに近い値となった。エッチング選択比は、第4級アンモニウム水酸化物の濃度が0.001〜0.6Nの範囲内では、0.25〜0.80となった。
【0059】
(2)傾斜面P2の平坦性及び傾斜角度の評価
実施例11、13、及び17〜19並びに比較例4、6、及び7について、上記SEM写真を用いて、傾斜面P2の平坦性を目視で観察するとともに、傾斜面P2の傾斜角度、即ち、傾斜面P2と底面P3とが成す角を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
*底面P3が湾曲していたため、傾斜面P2の傾斜角度を測定することができなかった。
【0061】
表2から分かるように、エッチング選択比が0.25〜0.80である実施例11、13、及び17〜19のシリコン異方性エッチング液を用いた場合、傾斜面P2の平坦性は良好であり、傾斜面P2の傾斜角度は50〜60°の範囲内となった。
一方、エッチング選択比が0.25よりも小さい比較例4のシリコン異方性エッチング液を用いた場合、傾斜面P2の平坦性が悪く、底面P3が湾曲したものとなってしまった。また、エッチング選択比が0.80よりも大きい比較例6及び7のシリコン異方性エッチング液を用いた場合には、傾斜面P2の平坦性は良好であったものの、傾斜面P2の傾斜角度は50〜60°の範囲外となってしまった。