(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5960981
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】血管内皮機能評価装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20160719BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
A61B5/02 A
A61B5/02 634E
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-276925(P2011-276925)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-126487(P2013-126487A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年9月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度地域イノベーション創出研究開発事業(粘弾性インデックスに基づく血管ストレスモニタリングシステム) 産業技術力強化法第19条の規定を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074147
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 崇
(72)【発明者】
【氏名】辻 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】吉栖 正生
(72)【発明者】
【氏名】東 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】河本 昌志
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】鵜川 貞二
(72)【発明者】
【氏名】高柳 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】森本 陽香
(72)【発明者】
【氏名】久保 諒祐
【審査官】
伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−056200(JP,A)
【文献】
特開2011−189080(JP,A)
【文献】
特開2006−263354(JP,A)
【文献】
特開2009−273870(JP,A)
【文献】
特開2008−029690(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/134233(WO,A1)
【文献】
特開2011−182968(JP,A)
【文献】
特開2008−161644(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0107710(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 − 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の身体の所定部位に巻き付けられるカフと、
前記カフの加圧、減圧を制御するカフ圧制御部と、
前記カフに接続される圧力センサの出力からカフ圧を検出するカフ圧検出部と、
上記圧力センサの出力から脈波を検出する脈波検出部と、
前記検出された脈波を解析する解析部とを具備し、
前記カフ圧制御部は前記カフより、前記被検者の身体の所定部位へ持続的な加圧刺激を所定時間行い、
前記解析部は、前記加圧刺激前と加圧刺激中と加圧刺激後のいずれか二区間において検出される脈波により得られる、脈波の振幅を除く血管粘弾性指標を用いた比較により血管内皮機能を評価する血管内皮機能評価装置であって、
前記脈波の振幅を除く血管粘弾性指標とは、脈波の速度、脈波の面積(脈波のゼロクロスラインによって脈波を上下に切断したときの、ゼロクロス点から次のゼロクロス点までのラインと脈波波形によって囲まれる面積)、脈波の加速度、脈波のピーク時間のいずれかであリ、
前記解析部が、前記脈波の振幅を除く血管粘弾性指標を統計処理し比較するものであり、
前記統計処理には、前記脈波の振幅を除く前記粘弾性指標の最大値を求める処理を含む
ことを特徴とする血管内皮機能評価装置。
【請求項2】
前記カフ圧制御部の加圧刺激は、ほぼ一定の圧力で所定時間の加圧である
ことを特徴とする請求項1に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項3】
前記カフ圧制御部が、前記加圧刺激の前後の少なくともいずれかで、カフにおけるカフ圧を大気圧から被検者の平均血圧以上の圧力まで加圧させた後、最低血圧以下の圧力まで減圧する処理を少なくとも一回以上行う、
ことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項4】
解析部は、
加圧過程において所定圧となったときに所定時間留まっている定圧過程において得られる脈波の振幅を除く粘弾性指標と、加圧刺激前後において得られる脈波の振幅を除く粘弾性指標とを、比較して血管内皮機能を評価することを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項5】
前記統計処理は、前記カフ圧の加圧過程あるいは減圧過程の脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値を求める処理である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項6】
前記統計処理は、前記カフ圧の定圧過程の脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値を求める処理である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項7】
前記統計処理が、前記カフ圧変化時の得られた脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値近傍の平均値を求める処理である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項8】
前記統計処理が、前記カフ圧が定圧時に得られた脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値近傍の平均値を求める処理である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項9】
前記解析部は、得られた脈波から血圧値を算出し、
前記脈波を比較した結果とともに前記血圧値を表示する表示部を備える
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項10】
カフは、被検者の身体の第一の部位に巻き付けられる第一のカフと、被検者の身体の第二の部位に巻き付けられる第二のカフとにより構成され、
カフ圧制御部は、第一のカフと第二のカフの何れか一つに加圧、減圧を制御するものであり、
カフ圧検出部は、第一のカフと第二のカフの残りの一つ接続される圧力センサの出力からカフ圧を検出するものである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の血管内皮機能評価装置。
【請求項11】
前記第一のカフと第二のカフとは被験者の身体の同一かつ同側の四肢に配置される
ことを特徴とする請求項10に記載の血管内皮機能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波エコー等を用いずに、超音波エコーを用いた計測に近い評価を可能とする血管内皮機能評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、動脈硬化は血管内皮機能を第一段階として発症するとの研究があり、動脈硬化を予防する観点から血管内皮機能に関する評価の手法や装置が開発されている。
【0003】
信頼できる血管内皮機能に関する評価の手法としては、FMD(Flow-Mediated Dilation Measurement System )測定システムと称される装置が知られている。この装置においては、次のようにして測定が行われる。被検者の腕に血圧測定用のカフと同様のものを装着し、5分間程度の一定時間において最高血圧以上の圧力で駆血した後に解除する。この駆血から解除後の3分程度において、カフの上流あるいは下流の血管径を超音波エコーにより計測し、血管径の経時的変化比率に基づき血管内皮機能を評価するものである。
【0004】
正常な血管の場合には、駆血直後の血流による血管内壁のずり応力により、血管内皮細胞から血管拡張物質であるNO産生が促進する。その結果、血管径が拡大する。一方、血管内皮機能障害があると、血管拡大の程度が減少する。従って、駆血前後の血管径変化を計測することにより、血管内皮機能を評価することができる。
【0005】
しかしながら、このFMD測定システムによる評価手法では、超音波エコーによる血管径の計測に習熟が必要であり、取り扱いが難しい。また、大掛かりな装置が必要であり、簡便性に欠けるという問題がある。
【0006】
上記に対し、簡便な構成によるものとして、カフ圧を利用する手法が知られており、カフ圧を最高血圧よりも高い所定のカフ圧に維持した後、急速減圧し、最低血圧よりも高く平均血圧よりも低い所定のカフ圧に維持し、このカフ圧に維持しているとき、最初に表れる第1脈波のカフ圧ピーク値と、その後の最高カフ圧ピーク値との比を算出し、血管内皮機能の評価を行う手法が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
また、簡便な方法で、精度の良い血管内皮機能の指標を測定可能とするものとして、測定対象の血管の圧脈波および容積脈波を測定し、各脈波の単位時間あたりの変化量の比を求め、安静時の1心拍区間における変化量の比の最大値の3乗根を基準とし、駆血解除後における値との比を血管拡張度として算出する手法も知られている(特許文献2)。
【0008】
また、血管径の変化を反映する脈波のピーク以降の後半部分の特徴を表す後半脈波情報の経時的変化から血管内皮細胞の機能が正常であるか判断する手法も知られている(特許文献3)。
【0009】
更に、指先に末梢動脈の拍動流量の変化を測定する指プローブを装着し、同じ指先にカフを装着して一定期間の駆血を行い、駆血の前後等において上記指プローブによって末梢動脈の緊張の変化について監視を行うものが知られている(特許文献4)。
【0010】
しかし、FMD法は超音波エコーを用いた測定となり、血管径の測定に習熟を要する。一方本願発明は、前記加圧刺激前後の血管容積の変化を測定するものであり、信頼できる従来技術であるFMD法と等価な情報を簡便に得られ、さらに現在広く行われている血圧測定と同様の手技および構成で測定可能であり、習熟を要しない。
【0011】
特許文献1に係る発明は、加圧刺激と脈波計測のための加圧期間が連続している。脈波計測のための加圧は動脈平均血圧より低い圧とはいえ、静脈血流は遮断されるため、被検者に対する負荷が大きい。一方本願発明は、加圧刺激と脈波計測の間にはカフ加圧の休止期間がある。連続血流遮断時間は最小限にとどめ、被検者に対する負担を軽減できる。
【0012】
また特許文献2では、加圧刺激のためのカフに加えて、容積脈波と圧脈波を計測するセンサを設ける必要がある。これに伴い、操作が複雑になる。一方本願発明は、カフの装着以外のセンサが不要であり、操作面等において優位といえる。
【0013】
また特許文献3では、圧脈波に含まれる末梢血管からの反射波成分を計測している。反射波成分の計測や振幅増加指数AIの算出は、複雑な波形認識処理や計算処理が必要となり、解析部が高度な処理能力を具備する必要がある。一方本願発明は、単に脈波波形が計測できればよく、解析部に高度な処理能力が不要である。
【0014】
さらに、血管コンプライアンスは血圧により変化する。すなわち、血圧が高い場合は、血管壁が円周方向に伸ばされ硬くなった状態となり、コンプライアンスは低くなる。逆に血圧が低い場合には、血管壁にかかる力が小さいため、血管壁の円周方向への伸びは小さく、コンプライアンスは高くなる。特許文献1、2、3ともに、計測している血管情報に対して、血管内圧すなわち血圧の影響受けることが避けられないという問題がある。
【0015】
また、特許文献4の手法は、指プローブによって末梢動脈の緊張の変化について監視を行うものであるが、脈波の振幅を比較する場合、不要な影響が含まれる可能性が高い。特に、末梢動脈の緊張は交感神経の制御によってもなされることから、必ずしも血管内皮機能を正確に検出できないという問題がある。
【0016】
ここで、最大脈波振幅を示すカフ圧は平均血圧であることは良く知られている。血圧の高低に関わらず、カフにより平均血圧と等しい圧力で血管を圧迫すると、血管内外の圧力が拮抗し、血管壁の円周方向への力が最小となる。本発明で測定する最大脈波振幅は、常に血管壁の円周方向の力が最小の状態で測定していることになり、計測結果に対する血圧の高低の影響が低減される。この状態における血管径変化は、血管壁そのものの特性を表しているといえる。
【0017】
上記のような背景に鑑み、本願発明者らはカフを腕など身体の一部に巻き付け、当該カフにより所定時間駆血を行い、駆血の前後等において同じ位置において上記カフを用いた脈波検出を行い、検出された脈波を解析して血管内皮機能を評価する装置等を提案した(特許文献5、6参照)。
【0018】
上記装置によれば、カフによって適切に血管内皮機能を評価することができることが立証された。その後、発明者らは鋭意研究を重ね、この特許文献5、6に示した発明はカフ圧を変化させたときの最大脈波振幅を計測することにより、血圧による影響を低減することが可能であるが、血管粘弾性特性の一つをについて計測しているに過ぎないのではないかとの結論を得た。従って、血管壁粘性の変化が生じると、脈波振幅の変化に加え、血管壁の応答特性に変化が現れるが、上記提案にかかる特許文献5、6に開示の手法ではそれを十分に捉えきれない可能性があり、最大脈波振幅以外の血管粘弾性指標の比較が有効であろうと思料するに到った。
【0019】
即ち、良く知られた動脈壁の構造をVoigtの粘弾性モデルとした場合において、応力fと歪みxについては、
f=ex+r(dx/dt)・・・(1)
が成り立つ。
ここに、eは弾性定数、rは粘性定数である。
【0020】
上記(1)式における歪みxは、特許文献5、6に示した手法においては、血管径変化に相当し、最大脈波振幅の比を求める特許文献5、6に示した手法は、血管粘弾性指標の全てを表す(1)式の内、主に右辺の微分項を除く部分の指標に関する手法と考えられるのである。従って、血管粘弾性指標の全てを表す(1)式に関連する指標の内、最大脈波振幅以外の指標を用いた血管内皮機能評価装置の開発が求められる。
【0021】
ここで、従来のFMDは心電図のQRSに同期して血管径の直流成分(上記(1)式における歪みx)を測定するのであり、原理的に脈動成分を見ないため、血管壁の粘性に影響されることはない。しかし、本願発明にかかる血管粘弾性指標を用いた血管内皮機能に関する評価手法は、上記(1)式より明らかなように、血管壁の粘性(上記(1)式におけるr(dx/dt))の影響を受ける。したがって、超音波エコーを用いた計測に近い評価を可能とする血管内皮機能評価装置の開発するにあたり、粘性の影響を極力軽減させる必要がある。
【0022】
図9は、従来のFMDによる加圧刺激前後における血管拡張時の弾性と粘性の変化を実測したものである。この
図9によれば、弾性は加圧刺激前よりも加圧刺激後において減少し、粘性は加圧刺激前よりも加圧刺激後において増加することが分かる。
【0023】
弾性のみが減少する場合と粘性が同時に増大する場合について、実測した際の脈波の振幅波形の一例を
図10に示す。
図10によれば、弾性のみが減少するときには脈波の振幅のみが拡大し、脈波の振幅を測定することで血管内皮機能を捉え得ると予測される。これに対し、
図10の下図に示すように粘性が同時に増大するときには、振幅変化に時間遅れが生じることが分かる。この結果、粘性が同時に増大するときには、振幅変化の測定では十分な判定が行えない可能性が示唆された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2007−209492号公報
【特許文献2】特開2006−181261号公報
【特許文献3】特許3632014号明細書
【特許文献4】特許4049671号明細書
【特許文献5】特開2009−273870号公報
【特許文献6】特開2011−56200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は上記のような血管内皮機能評価の現状に鑑みてなされたもので、その目的は、血管粘性に変化が生じたときにも、高精度な血管内皮機能評価を可能とする血管内皮機能評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明に係る血管内皮機能評価装置は、被検者の身体の所定部位に巻き付けられるカフと、前記カフの加圧、減圧を制御するカフ圧制御部と、前記カフに接続される圧力センサの出力からカフ圧を検出するカフ圧検出部と、上記圧力センサの出力から脈波を検出する脈波検出部と、前記検出された脈波を解析する解析部とを具備し、前記カフ圧制御部は前記カフより、前記被検者の身体の所定部位へ持続的な加圧刺激を所定時間行い、前記解析部は、前記加圧刺激前と加圧刺激中と加圧刺激後のいずれか二区間において検出される脈波により得られる、脈波の振幅を除く血管粘弾性指標を用いた比較により血管内皮機能を評価する血管内皮機能評価装置であって、前記脈波の振幅を除く血管粘弾性指標とは、脈波の速度、脈波の面積(脈波のゼロクロスラインによって脈波を上下に切断したときの、ゼロクロス点から次のゼロクロス点までのラインと脈波波形によって囲まれる面積)、脈波の加速度、脈波のピーク時間のいずれか
であリ、前記解析部が、前記脈波の振幅を除く血管粘弾性指標を統計処理し比較するものであり、前記統計処理には、前記脈波の振幅を除く前記粘弾性指標の最大値を求める処理を含むことを特徴とする。
【0028】
前本発明に係る血管内皮機能評価装置において、記カフ圧制御部の加圧刺激は、ほぼ一定の圧力で所定時間の加圧であることを特徴とする。
【0029】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、前記カフ圧制御部が、前記加圧刺激の前後の少なくともいずれかで、カフにおけるカフ圧を大気圧から被検者の平均血圧以上の圧力まで加圧させた後、最低血圧以下の圧力まで減圧する処理を少なくとも一回以上行う、
ことを特徴とする。
【0030】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、解析部は、加圧過程において所定圧となったときに所定時間留まっている定圧過程において得られる脈波の振幅を除く粘弾性指標と、加圧刺激前後において得られる脈波の振幅を除く粘弾性指標とを、比較して血管内皮機能を評価することを特徴とする。
【0032】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、前記統計処理は、前記カフ圧の加圧過程あるいは減圧過程の脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値を求める処理であることを特徴とする。
【0033】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、前記統計処理は、前記カフ圧の定圧過程の脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値を求める処理であることを特徴とする。
【0034】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、前記統計処理が、前記カフ圧変化時の得られた脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値近傍の平均値を求める処理であることを特徴とする。
【0035】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、前記統計処理が、前記カフ圧が定圧時に得られた脈波の振幅を除く粘弾性指標の最大値近傍の平均値を求める処理であることを特徴とする。
【0036】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、前記解析部は、得られた脈波から血圧値を算出し、前記脈波を比較した結果とともに前記血圧値を表示する表示部を備える
ことを特徴とする。
【0037】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、カフは、被検者の身体の第一の部位に巻き付けられる第一のカフと、被検者の身体の第二の部位に巻き付けられる第二のカフとにより構成され、カフ圧制御部は、第一のカフと第二のカフの何れか一つに加圧、減圧を制御するものであり、カフ圧検出部は、第一のカフと第二のカフの残りの一つ接続される圧力センサの出力からカフ圧を検出するものであることを特徴とする。
【0038】
本発明に係る血管内皮機能評価装置において、前記第一のカフと第二のカフとは被験者の身体の同一かつ同側の四肢に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、被検者の身体の一部へ持続的な加圧刺激を所定時間行い、解析部において、上記加圧刺激前後の脈波の血管粘弾性指標比較により血管内皮機能を評価するので、構成および測定手法が簡便であり、加圧刺激前後の脈波は血管粘弾性特性の情報を含むので、その比較により高精度な血管内皮機能評価が可能となる。
【0040】
図11は、シミュレーション波形により粘性や弾性値の変化が脈波の振幅と面積にあたる影響を時間経過とともに示すものである。
図11より明らかなとおり、FMDは時間経過による粘性の変化は受けない。一方、本発明に係る脈波の振幅を除く粘弾性指標である脈波の最大面積を測定する手法(Maximum Area Method)は、時間経過による粘性の影響を受けるもののFMDに近接した測定結果となり、脈波の最大振幅を測定する手法(Maximum Pulsation Method)よりFMDとの乖離が改善する結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施例の構成図。
【
図2】本発明に係る血管内皮機能評価装置のカフを身体に装着した状態を示す説明図。
【
図3】本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施例により行われる脈波測定と駆血期間の第一の例を示す図。
【
図4】本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施例によりカフ圧の減圧過程において行われる脈波測定動作を説明するためのフローチャート。
【
図5】本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施例によりカフ圧の加圧過程において行われる脈波測定動作を説明するためのフローチャート。
【
図6】本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施例に用いることができる血管粘弾性指標の例を示す図。
【
図7】本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施例に用いることができる血管粘弾性指標の例に関する、ROC解析結果を示す図。
【
図8】本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施例に対する判別精度検証に用いた検証手法であるROC解析を説明するための図。
【
図9】従来のFMDによる加圧刺激前後における血管拡張時の弾性と粘性の変化を実測した図。
【
図10】
図9の実測した際の脈波の振幅波形の一例を示した図。
【
図11】シミュレーションにより得られた加圧刺激後の時間経過と粘性の変化によりもたらされる影響を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本願発明者らは、駆血直後の血流による血管内壁のずり応力により、血管内皮細胞から血管拡張物質であるNO産生が促進した結果、血管径が拡大するとともに、血管粘性も増加することを見出した。
【0043】
血圧変化と血管容積脈波の関係は、下記の式で表すことが出来る。即ち、ボイルの法則により、カフ内圧をP、カフ内容積をVとして、
P×V=k(一定)
血管容積がΔV増加し、カフ内圧がΔP上昇したとすると、
(P+ΔP)×(V+ΔV)=k
ΔP×ΔVは十分微小であるから、
ΔV=ΔP×(V/P)
PとVが一定である場合、圧脈波ΔPは、血管容積変化ΔVに比例することが分かる。従って、圧脈波を用いて血管径の変化を計測可能であり、(1)式の血管粘弾性指標を得て評価可能であることを示している。
【0044】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る血管内皮機能評価装置の実施形態を説明する。各図において同一の構成要素には同一の符号を付し重複する説明を省略する。
図1に、本発明の実施形態に係る血管内皮機能評価装置の構成図を示す。この装置は、第一のカフ11、第一のポンプ12、第一の弁13、第一の圧力センサ14、制御部20、解析・処理部30および表示部40を備える。また、制御部20には、第二のポンプ52、第二の弁53が接続され、解析・処理部30には、第二の圧力センサ54が接続されている。更に、第二のポンプ52、第二の弁53及び第二の圧力センサ54には、第二のカフ51が接続されている。第一のカフ11は、被検者の身体の腕や足などの第一の部位に巻き付けられるもので、巻き付けられた部位に駆血のための圧力を加えるために用いられるものである。第二のカフ51は、被検者の身体の腕や足などの第二の部位に巻き付けられるもので、巻き付けられた部位の脈波検出のための圧力を加えるために用いられるものである。測定の際には例えば
図2に示されるように、第一のカフ11を腕における腕部に巻き付け、第二のカフ51を第一のカフ11より上流側(より心臓に近い側)に巻き付けるのが望ましい。上記第一のカフ11と第二のカフ51とは被験者の身体の同一かつ同側の四肢に配置されるようにすることができる。
【0045】
第一のポンプ12は、制御部20による制御によって第一のカフ11内に空気を送り込むものである。また、第一の弁13は、制御部20による制御によって第一のカフ11内の空気に関し、非排出・排出の切り換えを行うものである。また、第二のポンプ52は、制御部20による制御によって第二のカフ51内に空気を送り込むものである。また、第二の弁53は、制御部20による制御によって第二のカフ51内の空気に関し、非排出・排出の切り換えを行うものである。制御部20は、第一のカフ11及び第二のカフ51の加圧、減圧を制御するカフ圧制御部を構成する。
【0046】
第一の圧力センサ14は、第一のカフ11に接続され、第一のカフ11内の圧力対応信号を出力し、第二の圧力センサ54は、第二のカフ51に接続され、第二のカフ51内の圧力対応信号を出力する。解析部・処理部30は、例えばコンピュータにより構成され、この装置を統括制御するものであり、カフ圧検出部31、脈波検出部32、解析部33を備えている。なお、本実施例では、第一のカフ11と第二のカフ51を制御する制御部20、解析及び処理をする解析部・処理部30は便宜上共通としているが、カフ毎に別個に設けられてもよい。
【0047】
カフ圧検出部31は、第一の圧力センサ14及び第二の圧力センサ54の出力から第一のカフ11と第二のカフ51におけるそれぞれのカフ圧を検出するものある。脈波検出部32は、第二の圧力センサ54の出力から脈波を検出するものである。解析部33は、検出された脈波を解析するものであり、加圧刺激前と加圧刺激中と加圧刺激後のいずれか二区間において検出される脈波により得られる、脈波の振幅を除く血管粘弾性指標を用いた比較により血圧内皮機能を評価する。
【0048】
制御部20は、被検者の身体の一部へ持続的な加圧刺激を所定時間行うものであり、カフ圧を例えば
図3(a)に示すように変化させる。即ち、加圧(駆血)期間Tにおいて第一のカフ11を用いて血管内皮刺激を実行すると共に、この加圧期間Tの前後に第二のカフ51を用いて測定期間Tp、Taにおいて脈波振幅測定を実行する。加圧期間Tとしては、例えば5分程度を採ることができ、測定期間Tp、Taは通常の血圧測定のための時間とすることができる。また、加圧期間Tにおいては第一の圧力センサ14の出力をモニタして、最高血圧に所定圧力(例えば、50mmHg)を加えた圧力により駆血を行う。
【0049】
この血管内皮機能評価装置によって行われる処理は、
図4のフローチャートに示すようである。既に述べた通り、例えば
図2に示されるように、第一のカフ11を被検者の身体の一部である腕部に巻き付けられ、第二のカフ51を被検者の身体の一部である第一のカフ11より上流側の腕に巻き付けられ、測定スタートとなる。制御部20の制御により第二の弁53が閉じられた状態で第二のポンプ52から空気が第二のカフ51に送られてカフ圧が上昇される(S11)。
【0050】
所定のカフ圧となったときに第二のポンプ52からの送気が止められると共に第二の弁53が開放され、カフ圧が低下させられ、毎拍の脈波振幅が脈波検出部32により検出される(S12)。
【0051】
更に、カフ圧検出部31では、第二の圧力センサ54の出力からカフ圧検出が行われ、解析部33は、カフ圧および脈波により血管粘弾性指標を求める(S13)。血管粘弾性指標は、測定期間Tpにおいて得られた脈波について統計処理して求める。ここでは、測定期間Tpにおける脈波は
図3(b)のように得られるものであるから、血管粘弾性指標として脈波の面積を求める。測定期間Tpにおいて、カフ圧が平均血圧と等しくなったときに、最大の脈波振幅を示すので、例えば
図6(a)に示す最大脈波振幅の近傍の脈波について拡大した
図6(b)に示す脈波の幾つかの波形において、最大面積(積分値)を求める。この場合、平均血圧が事前に分かっているときは、最大脈波を得るために平均血圧以上の加圧は不要となり、被検者の負担は軽減される。
上記において、脈波の面積は、図6(b)に示すように、脈波のゼロクロスラインによって脈波を上下に切断したときの、ゼロクロス点から次のゼロクロス点までのラインと脈波波形によって囲まれる面積である。
【0052】
次に、血管内皮刺激のため、制御部20の制御により第一の弁13が閉じられた状態で第一のポンプ12から空気が第一のカフ11に送られてカフ圧が上昇され、最高血圧に所定圧力(例えば、50mmHg)を加えた圧力により駆血を行う加圧期間Tを実現する(S14)。5分後に第一の弁13を開放して、カフ圧の解除を行い最低血圧以下の圧力までカフ圧を低下させる(S15)。その後に第二の弁53が閉じた状態とされ、第二のポンプ52から空気が第二のカフ51に送られてカフ圧が上昇され(S16)、更に前述と同様に第二のカフ51のカフ圧が低下させられ、毎拍の脈波振幅が脈波検出部32により検出される(S17)。
【0053】
更に、解析部33は、ステップS13と同様にして、カフ圧および脈波振幅により血管粘弾性指標として脈波の面積を求める(S18)。先に求めた面積と後に求めた面積とを比較して血管内皮機能を評価する(S19)。ここで比較は、先に求めた面積を後に求めた面積により除算した結果を得ることにより行う。
【0054】
上記のように第一のカフ11によって駆血を行い、第二のカフ51により異なる部位において脈波の測定を行ったが、本願発明者らによる既出願(特願2008−322586号)に示すように、駆血を行うカフにより同一部位において脈波の測定を行ってもよい。
【0055】
上記の実施例ではカフ圧の減圧過程に脈波の測定を行うものであるが、
図5のフローチャートに示すように、カフ圧の加圧過程に測定を行うようにすることもできる。即ち、制御部20の制御により第二の弁53が閉じられた状態で第二のポンプ52から空気が第二のカフ51に送られてカフ圧が上昇され、このカフ圧上昇の過程において、毎拍の脈波振幅が脈波検出部32により検出される(S21)。
【0056】
更に、カフ圧検出部31では、第二の圧力センサ54の出力からカフ圧検出が行われ、解析部33は、カフ圧および脈波により血管粘弾性指標を求める(S22)。血管粘弾性指標としての脈波の面積は、昇圧期間において得られた脈波の面積について統計処理して求める。
【0057】
上記の適宜に設定された昇圧期間の後に、第二の弁53を開いて第二のカフ51のカフ圧を下降させ(S23)、
図4のフローチャートに示した実施例と同様のステップS14、S15に示す第一のカフ11による駆血及びその解除等の処理を行った後に、第二のカフ51のカフ圧が上昇され、この第二のカフ51におけるカフ圧上昇の過程において、毎拍の脈波振幅が脈波検出部32により検出される(S24)。このステップS24の処理はステップS21、S22に等しいものである。この処理の後に、第二のカフ51におけるカフ圧を下降させ(S25)、
図4のフローチャートに示した実施形態と同様のステップS19、S20の処理を行う。
【0058】
ここで、上述のとおり
図4および
図5では第二のカフのカフ圧を下降(S12、S17)もしくは上昇時(S21、S24)に毎拍の脈波振幅を決定したが、第二のカフのカフ圧を一定(定圧)とした状態で、毎拍の脈波振幅を決定してもよい。なお、定圧とは例えば20mmHg程度である。また、駆血を行う加圧期間Tにおいて脈波を検出して、これに基づき血管粘弾性指標を求め、測定期間Tpまたは、測定期間Taにおいて脈波を検出して、これに基づき血管粘弾性指標を求め、これら二区間において求めた血管粘弾性指標を比較しても良い。
【0059】
さらに、第二のカフ圧を一定(定圧)とした状態で、毎拍の脈波振幅を決定するにあたり、第一のカフと第二のカフが同一のカフ、すなわち、単一のカフであってもよい。この場合に、
図1の構成において第二のカフ51、第二のポンプ52、第二の弁53及び第二のセンサ54を取り去り、第一のカフ11に第二のカフ51の機能を持たせ、第一のポンプ12に第二のポンプ52の機能を持たせ、第一の弁13に第二の弁53の機能を持たせ、第一のセンサ14に第二のセンサ54の機能を持たせる構成とする。
【0060】
血管内皮機能評価装置は、上記のようにして得られた血管粘弾性指標を比較した結果と共に表示部40へ表示する。ここで、血圧値は第二のカフ51による測定期間Tp、Taの内、予め設定されたいずれかの期間の値を表示する。また、血管内皮機能評価装置は、血管粘弾性指標の値を時系列にプロットしたグラフを作成して表示部40へ表示することもでき、更に、先計測血管粘弾性指標と後計測血管粘弾性指標の比を時系列にプロットしたグラフを作成して表示部40へ表示することもできる。更に、得られた血管粘弾性指標データの履歴情報を残し、これを一覧表にしてトレンドを表示部40へ表示することもできる。また、得られた血管粘弾性指標データからグラフを作成しトレンドを表示部40へ表示することもできる。
【0061】
上記の実施形態では、血管粘弾性指標として脈波の面積を求めたが、脈波の速度を血管粘弾性指標とすることができる。例えば
図6(a)に示す最大脈波振幅の近傍の脈波について時間で微分を行うことにより、
図6(c)に示す脈波の速度が得られる。この速度について統計処理を行う。統計処理としては最大速度を求める手法を採用することができる。
【0062】
また、血管粘弾性指標として、脈波の加速度を血管粘弾性指標とすることができる。例えば
図6(a)に示す最大脈波振幅の近傍の脈波について時間で二階微分を行うことにより、
図6(d)に示す脈波の加速度が得られる。この加速度について統計処理を行う。統計処理としては最大加速度を求める手法を採用することができる。
【0063】
また、血管粘弾性指標として、ピーク時間を血管粘弾性指標とすることができる。例えば
図6(a)に示す最大脈波振幅の近傍の脈波を拡大して表示した波形が
図6(b)であるとして、
図6(b)に示すように、一波形のゼロクロス点から当該一波形のピーク点までの時間をピーク時間として、これを血管粘弾性指標とすることができる。このピーク時間について統計処理を行う。統計処理としては最大ピーク時間を求める手法や、所定数の波形のピーク時間の平均を求める処理を採用することができる。また、
図6(b)に示す波形の高さを用いても良い。この波形の高さは、波形のゼロクロス点からピーク値までの高さを意味する。
【0064】
上記のように、加圧刺激前と加圧刺激中と加圧刺激後のいずれか二区間において検出される脈波により得られる血管粘弾性指標を用いた比較により血管内皮機能を評価する本発明の手法について、判別精度検証を行った。検証手法はROC解析を用いた。これは、
図8(a)に示すように無模様により示す健常群分布と、梨地模様により示す疾患分布とについて、判別基準(しきい値)を定めた場合、図に示す真陽性率と疑陽性率が得られる。ここに、真陽性率は、正しく疾患と判別された患者群の割合であり、疑陽性率は、誤って疾患と判別された患者群の割合である。横軸に疑陽性率をとり、縦軸に真陽性率をとり、判別基準を変動させて、真陽性率と疑陽性率とを得てプロットして、
図8(b)に示すROC曲線を得る。このROC曲線において、立ち上がりが早い曲線が得られるほど良好な手法であると検証できる。
【0065】
上記のROC曲線における曲線上下の面積比であるROC値を、血管粘弾性指標の具体例について並べると、
図7のようである。この
図7によれば、本発明の実施形態において用いた面積(積分値)が極めて優れた評価手法であることが分かる。この
図7では、参考のため、既に出願されている血管粘弾性指標としての最大振幅が約0.8であり、高い値であるが、最大速度、最大加速度、波形の高さ、ピーク時間についても、0.6以上であり、十分に使用できる手法であると検証できた。
【0066】
以上においては、血管内皮刺激のための加圧期間Tの前後に第二のカフ51を用いた脈波測定の測定期間Tp、Taを実現し、脈波測定の測定期間Tp、Taにおいて、それぞれ1回ずつの測定を行ったが、これを複数回としても良い。この場合に、前後における測定回数を異ならせても良い。
【符号の説明】
【0067】
11 第一のカフ
12 第一のポンプ
13 第一の弁
14 第一の圧力センサ
20 制御部
30 解析・処理部
31 カフ圧検出部
32 脈波検出部
33 解析部
40 表示部
51 第二のカフ
52 第二のポンプ
53 第二の弁
54 第二の圧力センサ