(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記の式(I)および(II)を満足するポリビニルアルコール系重合体フィルムを、染色、一軸延伸、固定処理および乾燥処理することを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
Δn(MD)Ave−0.1×10-3≦Δn(TD)Ave≦Δn(MD)Ave+0.25×10-3 (I)
Δn(TD)Ave≦2.5×10-3 (II)
[上記式中、Δn(MD)Aveは、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの機械流れ方向の複屈折率Δn(MD)を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、Δn(TD)Aveは、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの幅方向の複屈折率Δn(TD)を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、ここで、前記機械流れ方向の複屈折率Δn(MD)は下記の式[i]から求められる値であり、前記幅方向の複屈折率Δn(TD)は下記の式[ii]から求められる値である。
Δn(MD)=nMD−nz [i]
Δn(TD)=nTD−nz [ii]
(式中、nMDはフィルムの機械流れ方向(長さ方向)の屈折率、nTDはフィルムの幅方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を示す。)]
下記の式(I)および(II)を満足し、更に下記の式(III)を満足するポリビニルアルコール系重合体フィルムを、染色、一軸延伸、固定処理および乾燥処理することを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
Δn(MD)Ave−0.1×10-3≦Δn(TD)Ave≦Δn(MD)Ave+0.25×10-3 (I)
Δn(TD)Ave≦2.5×10-3 (II)
1.3×10-3≦Δn(MD)Ave≦2.0×10-3 (III)
[上記式中、Δn(MD)Aveは、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの機械流れ方向の複屈折率Δn(MD)を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、Δn(TD)Aveは、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの幅方向の複屈折率Δn(TD)を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、ここで、前記機械流れ方向の複屈折率Δn(MD)は下記の式[i]から求められる値であり、前記幅方向の複屈折率Δn(TD)は下記の式[ii]から求められる値である。
Δn(MD)=nMD−nz [i]
Δn(TD)=nTD−nz [ii]
(式中、nMDはフィルムの機械流れ方向(長さ方向)の屈折率、nTDはフィルムの幅方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を示す。)]
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明について詳細に説明する。
一般に、ポリビニルアルコール系重合体などの透明なポリマーを用いて製造した透明なフィルムでは、ポリマー鎖がずり応力による塑性変形や歪みなどによって流れ方向(機械流れ方向:長さ方向)に配向してポリマーを構成する原子団の分極方向がマクロ的に揃い、それによってポリマー特有の複屈折が生ずる(非特許文献1)。
ポリビニルアルコール系重合体フィルムにおける機械流れ方向の複屈折率[Δn(MD)]は下記の式[i]から求められ、また幅方向の複屈折率[Δn(TD)]は下記の式[ii]から求められる。
Δn(MD)=nMD−nz [i]
Δn(TD)=nTD−nz [ii]
[式中、nMDはフィルムの機械流れ方向(長さ方向)の屈折率、nTDはフィルムの幅方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を示す。]
非特許文献1に記載されているように、ポリビニルアルコール系重合体などの透明なポリマーを使用して製造したフィルムでは、フィルムを形成しているポリマー鎖が機械流れ方向(長さ方向)に配向しやすく、上記した特許文献1〜6に記載されているポリビニルアルコール系重合体フィルムを含めて、ポリビニルアルコール系重合体フィルムでは、一般に「機械流れ方向の複屈折率[Δn(MD)]」>「幅方向の複屈折率[Δn(TD)]」という関係、すなわち、機械流れ方向の複屈折率[Δn(MD)]の方が幅方向の複屈折率[Δn(TD)]よりも大きくなりやすい。
【0022】
それに対して、本発明
で用いるポリビニルアルコール系重合体フィルムは、下記の式(I)および(II)を満足するという点で、従来のポリビニルアルコール系重合体フィルムとは異なっている。
Δn(MD)
Ave−0.1×10
-3≦Δn(TD)
Ave≦Δn(MD)
Ave+0.25×10
-3 (I)
Δn(TD)
Ave≦2.5×10
-3 (II)
[上記式中、Δn(MD)
Aveは、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの機械流れ方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示し、Δn(TD)
Aveは、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの幅方向の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値を示す。]
【0023】
すなわち、上記の式(I)にみるように、本発明
で用いるポリビニルアルコール系重合体フィルム(以下「ポリビニルアルコール」を「PVA」ということがある)では、PVA系重合体フィルムの機械流れ方向(PVA系重合体フィルムを連続製膜する際のライン方向)[以下「長さ方向(MD)」ということがある]の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値である「Δn(MD)
Ave」が、PVA系重合体フィルムの幅方向(長さ方向と直角の方向)[以下「幅方向(TD)」ということがある]の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値である「Δn(TD)
Ave」と同等もしくはある程度小さいか、または、「Δn(TD)
Ave」を超えるとしてもその量が僅かになっている。
更に、本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、当該式(I)と共に、上記の式(II)を満足しているという点にも特徴を有している。
【0024】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、上記の式(I)および(II)を満足することによって、フィルムの厚みが従来よりも薄い場合にも、高い限界延伸倍率を有し、それによって、偏光フィルムなどの延伸フィルムの製造時に高倍率で一軸延伸してもフィルムの破断が生じにくくなり、フィルムの破断に伴う延伸作業の中断を招くことなく、偏光性能などの光学性能に優れる、薄膜化した延伸フィルムを、高い歩留まりで生産性よく製造することができる。
上記の式(I)から外れると、PVA系重合体フィルムの限界延伸倍率が低くなり、高倍率で一軸延伸したときにフィルムの破断が生じ易くなり、特にフィルムの厚みが薄いときに破断が生じ易い。
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、下記の式(I’)を満足することが好ましく、下記の式(I’’)を満足することがより好ましく、下記の式(I’’’)を満足することが更に好ましい。
Δn(MD)
Ave−0.05×10
-3≦Δn(TD)
Ave≦Δn(MD)
Ave+0.23×10
-3 (I’)
Δn(MD)
Ave≦Δn(TD)
Ave≦Δn(MD)
Ave+0.2×10
-3 (I’’)
Δn(MD)
Ave+0.05×10
-3≦Δn(TD)
Ave≦Δn(MD)
Ave+0.18×10
-3 (I’’’)
【0025】
また、前記した式(II)の範囲から外れて、PVA系重合体フィルムのΔn(TD)
Aveが2.5×10
-3を超えると、PVA系重合体フィルムの限界延伸倍率が低くなって、PVA系重合体フィルムを長さ方向(MD)に高倍率で延伸しにくくなり、光学性能に優れる延伸フィルムが得られにくくなる。
Δn(TD)
Aveを過度に小さくするためにはPVA系重合体フィルムの製造時に幅方向の乾燥収縮を許容する必要が生じてPVA系重合体フィルムの有効幅収率が低下する傾向があることから、本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、Δn(TD)
Aveが1.5×10
-3〜2.2×10
-3の範囲にあることが好ましく、1.6×10
-3〜2.0×10
-3の範囲にあることがより好ましい。
【0026】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、上記の式(I)および(II)に加えて、下記の式(III)を更に満足することが好ましい。
1.3×10
-3≦Δn(MD)
Ave≦2.0×10
-3 (III)
PVA系重合体フィルムのΔn(MD)
Aveが2.0×10
-3以下であることにより、PVA系重合体フィルムの限界延伸倍率が一層高くなり、PVA系重合体フィルムを長さ方向(MD)に高倍率で延伸しやすくなり、光学性能に優れる延伸フィルムがより容易に得られる。一方、PVA系重合体フィルムのΔn(MD)
Aveを1.3×10
-3未満にするためには、乾燥ロールの周速比を大きく低下させる必要があるため製膜時に乾燥ロール間でPVA系重合体膜にたるみが生じ易くなる傾向がある。
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、Δn(MD)
Aveが1.4×10
-3〜1.95×10
-3の範囲にあることがより好ましく、1.5×10
-3〜1.9×10
-3の範囲にあることが更に好ましい。
【0027】
なお、PVA系重合体フィルムでは、フィルムの幅方向(TD)でΔn(MD)
Aveおよび/またはΔn(TD)
Aveの値に変動があることが多く、特に幅方向の両端部ではΔn(MD)
Aveが高くなり易いが、少なくともPVA系重合体フィルムの幅方向(TD)の中央部で式(I)および(II)を、好ましくは式(I)〜(III)を満たしていればよく、PVA系重合体フィルムの幅方向(TD)の中心部を中心とする幅方向(TD)の8割以上の部分の全域で式(I)および(II)を、好ましくは式(I)〜(III)を満たすことが好ましい。式(I)および(II)を満たさないPVA系重合体フィルムの幅方向(TD)の両端部は、PVA系重合体フィルムを長さ方向(MD)に延伸する前に切断して除去(耳取り)することができる。
【0028】
PVA系重合体フィルムの「Δn(MD)
Ave」[PVA系重合体フィルムの長さ方向(MD)の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値]および「Δn(TD)
Ave」[PVA系重合体フィルムの幅方向(TD)の複屈折率を当該フィルムの厚み方向に平均化した値]は、以下の方法で測定することができる。
【0029】
《1》Δn(MD)
Aveの測定法:
(ここでは、PVA系重合体フィルムの幅方向(TD)の中央部におけるΔn(MD)
Aveの測定法を例示する。)
(i) PVA系重合体フィルムの長さ方向(MD)の任意の位置で、
図1の(a)に示すように、フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=2mm×10mmの大きさの細片を切り出し、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それを更に木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付ける。
(ii) 次に、前記で採取した細片を、
図1の(b)に示すように(PETフィルムおよび木枠は図示せず)、細片の長さ方向(MD)と平行に10μm間隔でスライスし、
図1の(c)に示す観察用のスライス片(MD×TD=2mm×10μm)を10個作製する。このスライス片の中から、スライス面が平滑で且つスライス厚み斑のないスライス片5個を選び、それぞれをスライドガラス上に載せてマイクロスコープ(キーエンス社製)でスライス厚みを測定する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。
(iii) 次いで、スライス面が観察できるように、スライス片を
図1の(d)のように倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとシリコーンオイル(屈折率1.04)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA−micro」(株式会社フォトニックラティス製)を用いてスライス片5個のレタデーションを測定する。
(iv) 各スライス片のレタデーション分布を「PA−micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初のフィルムの表面に垂直な線αを引き、その線分α上でライン解析を行ってフィルムの厚み方向のレタデーション分布データを取得する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。また、スライス片上で線分αの通る位置が変わることによる誤差を抑えるため、線幅を300画素としてレタデーションの平均値を採用する。
(v) 上記で得られたフィルムの厚み方向のレタデーション分布の値をマイクロスコープで測定した厚みで除してフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(MD)分布を求め、当該フィルムの厚み方向の複屈折率Δn(MD)分布の平均値を採る。スライス片5個について求めたそれぞれのフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(MD)分布の平均値を更に平均して、「Δn(MD)
Ave」とする。
【0030】
《2》Δn(TD)
Aveの測定法:
(ここでは、PVA系重合体フィルムの幅方向(TD)の中央部におけるΔn(TD)
Aveの測定法を例示する。)
(i) PVA系重合体フィルムの長さ方向(MD)の任意の位置で、
図2の(a)に示すように、フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=10mm×2mmの大きさの細片を切り出し、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それを更に木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付ける。
(ii) 次に、前記で採取した細片を、
図2の(b)に示すように(PETフィルムおよび木枠は図示せず)、細片の幅方向(TD)と平行に10μm間隔でスライスし、
図2の(c)に示す観察用のスライス片(MD×TD=10μm×2mm)を10個作製する。このスライス片の中から、スライス面が平滑で且つスライス厚み斑のないスライス片5個を選び、それぞれをスライドガラス上に載せてマイクロスコープ(キーエンス社製)でスライス厚みを測定する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。
(iii) 次いで、スライス面が観察できるように、スライス片を
図2の(d)のように倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとシリコーンオイル(屈折率1.04)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA−micro」(株式会社フォトニックラティス製)を用いてスライス片5個のレタデーションを測定する。
(iv) 各スライス片のレタデーション分布を「PA−micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初のフィルムの表面に垂直な線βを引き、その線分β上でライン解析を行ってフィルムの厚み方向のレタデーション分布データを取得する。なお、観察は接眼10倍、対物20倍(トータル200倍)の視野で行う。また、スライス片上で線分βの通る位置が変わることによる誤差を抑えるため、線幅を300画素としてレタデーションの平均値を採用する。
(v) 上記で得られたフィルムの厚み方向のレタデーション分布の値をマイクロスコープで測定した厚みで除してフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(TD)分布を求め、当該フィルムの厚み方向の複屈折率Δn(TD)分布の平均値を採る。スライス片5個について求めたそれぞれのフィルムの厚み方向の複屈折率Δn(TD)分布の平均値を更に平均して、「Δn(TD)
Ave」とする。
【0031】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムの厚みは、5〜150μmの範囲にすることができるが、偏光フィルム用の原反として用いる場合などにおいては、30〜65μmにすることが好ましい。本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは高い限界延伸倍率を有しているため、フィルム厚を、従来偏光フィルム用原反として用いられることの多かった厚みが75μm程度のPVA系重合体フィルムよりも薄い、前記30〜65μmにした場合に、フィルムの破断を生ずることなく高倍率で延伸することができ、それによって従来品と同等以上の偏光性能などの光学特性を有する延伸フィルムを高い歩留りで、円滑に生産性よく製造することができ、しかも厚みが30〜65μmのPVA系重合体フィルムを高倍率で延伸することによって、延伸後のフィルムの厚みを従来よりも一層薄くすることができるとともに、偏光フィルムを製造する際の乾燥時間を短くすることができ、偏光フィルムの製造速度を向上させることができる。
PVA系重合体フィルムの厚みが厚すぎると、偏光フィルムを製造する際に乾燥が速やかに行われにくくなり、一方、PVA系重合体フィルムの厚みが薄すぎると、偏光フィルムを製造するための一軸延伸時にフィルムの破断が生じ易くなる。
【0032】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムの幅は特に制限されないが、近年、液晶テレビやモニターが大画面化しているので、それらに有効に用い得るようにするために幅は2m以上であることが好ましく、3m以上であることがより好ましく、4m以上であることが更に好ましい。また、現実的な生産機で偏光板を製造する場合に、フィルムの幅が大き過ぎると均一な一軸延伸が困難になることがあるので、PVA系重合体フィルムの幅は8m以下であることが好ましい。
【0033】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、その質量膨潤度が180〜250%であることが好ましく、185〜240%であることがより好ましく、190〜230%であることが更に好ましい。PVA系重合体フィルムの質量膨潤度が低すぎると、延伸しにくくなり、光学性能に優れる延伸フィルムを製造することが困難になる傾向があり、一方、質量膨潤度が高すぎると、延伸時の工程通過性が悪化したり、高耐久性の偏光フィルムが得られなくなることがある。
ここでいう質量膨潤度とは、PVA系重合体フィルムを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、前記浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除して得られる値の百分率を意味し、具体的には以下の実施例に記載する方法により測定することができる。
【0034】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムを形成するPVA系重合体としては、例えば、ビニルエステルを重合して得られるポリビニルエステルをけん化して得られるPVA、PVAの主鎖にコモノマーをグラフト共重合させた変性PVA系重合体、ビニルエステルとコモノマーを共重合させた変性ポリビニルエステルをけん化することにより製造した変性PVA系重合体、未変性PVAまたは変性PVA系重合体の水酸基の一部をホルマリン、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類で架橋したいわゆるポリビニルアセタール樹脂などを挙げることができる。
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムを形成するPVA系重合体が変性PVA系重合体である場合は、PVA系重合体における変性量は15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0035】
PVA系重合体の製造に用いられる前記のビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、ラウリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどを挙げることができる。これらのビニルエステルは、単独でまたは組み合わせて使用することができる。これらのビニルエステルのうち、酢酸ビニルが生産性の観点から好ましい。
【0036】
また、前記したコモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどの炭素数2〜30のオレフィン類(α−オレフィンなど);アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類(例えば、アクリル酸の炭素数1〜18アルキルエステル);メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類(例えば、メタクリル酸の炭素数1〜18アルキルエステル);アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールアクリルアミドまたはその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸、その塩またはそのエステルなどの誘導体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;不飽和スルホン酸またはその誘導体などを挙げることができる。これらの中でもα−オレフィンが好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0037】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムを形成するPVA系重合体の平均重合度は、得られる偏光フィルムの偏光性能および耐久性などの点から、1000以上が好ましく、1500以上がより好ましく、2000以上が更に好ましい。一方、PVA系重合体の平均重合度の上限は、均質なPVA系重合体フィルムの製造の容易性、延伸性などの点から8000以下が好ましく、特に6000以下が好ましい。
ここで、本明細書におけるPVA系重合体の「平均重合度」とは、JIS K6726−1994に準じて測定される平均重合度をいい、PVA系重合体を再けん化し、精製した後に30℃の水中で測定した極限粘度から求められる。
【0038】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムを形成するPVA系重合体のけん化度は、得られる偏光フィルムの偏光性能および耐久性などの点から、95.0モル%以上が好ましく、98.0モル%以上がより好ましく、99.0モル%以上が更に好ましく、99.3モル%以上が最も好ましい。
ここで、本明細書におけるPVA系重合体の「けん化度」とは、けん化によりビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVA系重合体のけん化度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0039】
本発明
で用いるPVA系重合体フィルムの製法は特に限定されず、上記した式(I)および(II)を満たすPVA系重合体フィルムを製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよいが、本発明
で用いるPVA系重合体フィルムは、
(a) 回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備える製膜装置を使用し、当該製膜装置の第1乾燥ロール上にPVA系重合体を含む製膜原液を膜状に吐出して部分乾燥した後にそれに続く乾燥ロールで更に乾燥して製膜し;その際に、
(b) 第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する、PVA系重合体膜の揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロールの周速(S
T)の比(S
T/S
1)を0.990〜1.050にし;
(c) PVA系重合体膜の揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロールの周速(S
T)に対する、最終乾燥ロールの周速(S
L)の比(S
L/S
T)を0.960〜0.980にし;
(d) 第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する、最終乾燥ロールの周速(S
L)の比(S
L/S
1)を0.970〜1.010にする;
ことから
なる製造方法によって、高い生産性で円滑に連続して製造することができる。
【0040】
上記した本発明
で用いるPVA系重合体フィルムの製造方法について以下により具体的に説明する。
PVA系重合体を含む製膜原液は、PVA系重合体を液体媒体と混合して溶液にしたり、液体媒体などを含むPVA系重合体ペレットなどを溶融して溶融液にしたりすることによって調製することができる。
PVA系重合体の液体媒体への溶解、液体媒体などを含むPVA系重合体ペレットの溶融は、撹拌式混合装置、溶融押出機などを使用して行うことができる。
その際に用いる液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらの液体媒体は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも水、ジメチルスルホキシド、または両者の混合物が好ましく用いられ、特に水がより好ましく用いられる。
【0041】
PVA系重合体の液体媒体への溶解や溶融の促進、フィルム製造時の工程通過性の向上、得られるPVA系重合体フィルムの延伸性向上などの点から、製膜原液に可塑剤を添加することが好ましい。
可塑剤としては多価アルコールが好ましく用いられ、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、これらの可塑剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも延伸性の向上効果に優れる点から、グリセリン、ジグリセリンおよびエチレングリコールのうちの1種または2種以上が好ましく使用される。
【0042】
可塑剤の添加量は、PVA系重合体100質量部に対して0〜30質量部が好ましく、3〜25質量部がより好ましく、5〜20質量部が特に好ましい。可塑剤の添加量がPVA系重合体100質量部に対して30質量部を超えると、得られるPVA系重合体フィルムが柔らかくなりすぎて取り扱い性が低下する場合がある。
【0043】
PVA系重合体フィルムを製造する際の乾燥ロールからの剥離性の向上、得られるPVA系重合体フィルムの取り扱い性などの点から、製膜原液に界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の種類としては特に限定はないが、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく用いられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型、オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。
また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型のノニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
界面活性剤の添加量は、PVA系重合体100質量部に対して0.01〜1質量部が好ましく、0.02〜0.5質量部がより好ましく、0.05〜0.3質量部が特に好ましい。0.01質量部より少ないと、製膜性、剥離性の向上効果が現れにくくなることがあり、一方、1質量部より多いと、界面活性剤がフィルム表面に溶出してブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0045】
製膜原液は、本発明
で用いるPVA系重合体フィルムの特性を阻害しない範囲で、各種添加剤、例えば、安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、相溶化剤、ブロッキング防止剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、分散剤、流動化剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
PVA系重合体フィルムの製造に用いる製膜原液の揮発分率は、60〜75質量%が好ましく、65〜70質量%がより好ましい。製膜原液の揮発分率が60質量%より小さいと、製膜原液の粘度が高くなって濾過や脱泡が困難となる他、製膜自体が困難となる場合がある。一方、製膜原液の揮発分率が75質量%より大きいと、粘度が低くなり過ぎてPVA系重合体フィルムの厚みの均一性が損なわれる場合がある。
ここで、本明細書でいう「製膜原液の揮発分率」とは、下記の式[iii]により求めた揮発分率をいう。
製膜原液の揮発分率(質量%)={(Wa−Wb)/Wa}×100 [iii]
[式中、Waは製膜原液の質量(g)、WbはWa(g)の製膜原液を105℃の電熱乾燥機中で16時間乾燥した後の質量(g)を示す。]
【0047】
PVA系重合体フィルムの製造に用いる、回転軸が互いに平行な複数の乾燥ロールを備える製膜装置では、乾燥ロールの数は3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、5〜30個であることが更に好ましい。
複数の乾燥ロールは、例えば、ニッケル、クロム、銅、鉄、ステンレススチールなどの金属から形成されていることが好ましく、特にロール表面が腐食しにくく、しかも鏡面光沢を有する金属材料から形成されていることがより好ましい。また、乾燥ロールの耐久性を高めるために、ニッケル層、クロム層、ニッケル/クロム合金層などを単層または2層以上組み合わせてメッキした乾燥ロールを用いることがより好ましい。
複数の乾燥ロールにおける各乾燥ロールのロール表面温度は65℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましい。また、各乾燥ロールのロール表面温度は、最終工程またはそれに近い工程で熱処理ロールとして用いることのできる乾燥ロールのロール表面温度については100℃以上、より好ましくは100〜120℃であることが好ましいが、それ以外の乾燥ロールのロール表面温度は100℃以下であることが好ましい。
【0048】
本発明で使用する製膜装置は、必要に応じて、複数の乾燥ロールに続いて、熱風炉式の熱風乾燥装置、熱処理装置、調湿装置などを有していてもよい。
【0049】
製膜装置の第1乾燥ロール上にPVA系重合体を含む製膜原液を膜状に吐出するに当っては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどの既知の膜状吐出装置(膜状流延装置)を使用して、PVA系重合体を含む製膜原液を第1乾燥ロール上に膜状に吐出(流延)する。
第1乾燥ロール上に膜状に吐出したPVA系重合体を含む液は、第1乾燥ロール上で乾燥して、PVA系重合体膜の揮発分率が好ましくは17〜30質量%、より好ましくは17〜29質量%、更に好ましくは18〜28質量%になった時点で第1乾燥ロールから剥離する。
第1乾燥ロールから剥離する際のPVA系重合体膜の揮発分率が17質量%未満であると、Δn(TD)
Aveに対するΔn(MD)
Aveの値が大きくなって式(I)を満たさなくなる傾向があり、一方、第1乾燥ロールから剥離する際のPVA系重合体膜の揮発分率が30質量%を超えると、第1乾燥ロールからの剥離が困難になって場合によっては破断したり、ムラが発生しやすくなったりする傾向がある。
【0050】
ここで、本明細書における「PVA系重合体膜またはPVA系重合体フィルムの揮発分率」とは、下記の式[iv]により求めた揮発分率をいう。
A(質量%)={(Wc−Wd)/Wc}×100 [iv]
[式中、Aは、PVA系重合体膜またはPVA系重合体フィルムの揮発分率(質量%)、WcはPVA系重合体膜またはPVA系重合体フィルムから採取したサンプルの質量(g)、Wdは前記サンプルWc(g)を温度50℃、圧力0.1kPa以下の真空乾燥機中に入れて4時間乾燥した時の質量(g)を示す。]
【0051】
PVA系重合体、グリセリンなどの多価アルコール(可塑剤)、界面活性剤および水を用いて調製した製膜原液から形成されるPVA系重合体膜またはPVA系重合体フィルムでは、前記した「温度50℃、圧力0.1kPa以下で4時間」という条件下で乾燥したときには主として水のみが揮発し、水以外の他の成分の殆どは揮発せずにPVA系重合体膜またはPVA系重合体フィルム中に残留するので、PVA系重合体膜またはPVA系重合体フィルムの揮発分率は、PVA系重合体膜またはPVA系重合体フィルム中に含まれている水分量(水分率)を測定することにより求めることができる。
【0052】
第1乾燥ロールでの乾燥に当っては、均一乾燥性、乾燥速度などの点から、第1乾燥ロールのロール表面温度は80〜120℃であることが好ましく、85〜105℃であることがより好ましく、93〜99℃であることが更に好ましい。第1乾燥ロールの表面温度が120℃を超えるとフィルムが発泡し易くなり、一方、80℃未満では第1乾燥ロール上での乾燥が不十分となり、剥離不良の原因となり易い。
第1乾燥ロールの周速(S
1)は、均一乾燥性、乾燥速度およびPVA系重合体フィルムの生産性などの点から、8〜25m/分であることが好ましく、11〜23m/分であることがより好ましく、14〜22m/分であることが更に好ましい。第1乾燥ロールの周速(S
1)が8m/分未満であると生産性が低下するとともに、複屈折が大きくなり易く好ましくない。一方、第1乾燥ロールの周速(S
1)が25m/分を超えると第1乾燥ロール上での乾燥が不十分となり易く好ましくない。
【0053】
膜状に吐出したPVA系重合体を含む製膜原液の第1乾燥ロール上での部分乾燥は、第1乾燥ロールからの熱のみによって行ってもよいが、第1乾燥ロールで加熱すると同時に第1乾燥ロールに接触していない膜面(以下「第1乾燥ロール非接触面」ということがある)に熱風を吹き付けて、PVA系重合体膜の両面から熱を与えて乾燥を行うことが、均一乾燥性、乾燥速度などの点から好ましい。
第1乾燥ロール上にあるPVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面に熱風を吹き付けるに当っては、第1乾燥ロール非接触面の全領域に対して風速1〜10m/秒の熱風を吹き付けることが好ましく、風速2〜8m/秒の熱風を吹き付けることがより好ましく、風速3〜8m/秒の熱風を吹き付けることが更に好ましい。
第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の風速が小さ過ぎると、本発明で目的としている限界延伸倍率の高いPVA系重合体フィルムが得られにくくなるとともに、第1乾燥ロール上での乾燥時に水蒸気などの結露が発生し、その水滴がPVA系重合体膜に滴下して最終的に得られるPVA系重合体フィルムにおける欠陥が生じ易くなる。一方、第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の風速が大き過ぎると、本発明で目的としている限界延伸倍率の高いPVA系重合体フィルムが得られにくくなるとともに、最終的に得られるPVA系重合体フィルムに厚み斑が発生し、それに伴って染色斑の発生などのトラブルが発生し易くなる。
【0054】
PVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の温度は、乾燥効率、乾燥の均一性などの点から、50〜150℃であることが好ましく、70〜120℃であることがより好ましく、80〜95℃であることが更に好ましい。またPVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の露点温度は10〜15℃であることが好ましい。PVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の温度が低すぎると、乾燥効率、均一乾燥性などが低下し易く、一方、高すぎると発泡が生じ易くなる。
【0055】
PVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面に熱風を吹き付けるための方式は特に制限されず、風速が均一で且つ温度が均一な熱風をPVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面、好ましくはその全体に均一に吹き付け得る方式のいずれもが採用でき、そのうちでもノズル方式、整流板方式またはそれらの組み合わせなどが好ましく採用される。PVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面への熱風の吹き付け方向は、第1乾燥ロール非接触面に対向する方向であっても、PVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面の円周形状にほぼ沿った方向(第1乾燥ロールのロール表面の円周にほぼ沿った方向)であっても、またはそれ以外の方向であってもよい。
【0056】
また、第1乾燥ロール上でのPVA系重合体膜の乾燥時に、乾燥によってPVA系重合体膜から発生した揮発分と吹き付けた後の熱風を排気することが好ましい。排気の方法は特に制限されないが、PVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面に吹き付ける熱風の風速斑および温度斑が生じない排気方法を採用することが好ましい。
【0057】
第1乾燥ロール上で好ましくは揮発分率17〜30質量%にまで乾燥したPVA系重合体膜を第1乾燥ロールから剥離し、今度は、PVA系重合体膜の第1乾燥ロール非接触面を第2乾燥ロールに対向させて第2乾燥ロールで乾燥するのが好ましい。
第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する第2乾燥ロールの周速(S
2)の比(S
2/S
1)は、1.005〜1.090であることが好ましく、1.010〜1.080であることがより好ましい。比(S
2/S
1)が1.005未満であると、第1乾燥ロールからのPVA系重合体膜の剥離点が不均一となり易く、幅方向の複屈折率斑が大きくなり、光学用フィルム原反として使用することができなくなることがある。また、比(S
2/S
1)が1.090を超えると高い限界延伸倍率を
有するPVA系重合体フィルムが得られにくくなる。
【0058】
第2乾燥ロールでの乾燥に当っては、均一乾燥性、乾燥速度などの点から、第2乾燥ロールのロール表面温度は65〜100℃であることが好ましく、65〜98℃であることがより好ましく、75〜96℃であることが更に好ましい。
【0059】
第2乾燥ロールで乾燥したPVA系重合体膜を、第2乾燥ロールから剥離し、製膜装置に設けた乾燥ロールの数などに応じて、第3乾燥ロール、第4乾燥ロール、第5乾燥ロール、・・・などの複数の乾燥ロールによって順次乾燥する。
その際に、本発明では、第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する、PVA系重合体膜の揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロールの周速(S
T)の比(S
T/S
1)が0.990〜1.050になるようにして、PVA系重合体膜にかかる張力を調節しながら乾燥を行う。ここで、「PVA系重合体膜の揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロール」とは、乾燥ロール上でPVA系重合体膜の揮発分率が13質量%になった場合には当該乾燥ロールを意味し、2つの乾燥ロール間で揮発分率が13質量%になった場合には当該2つの乾燥ロールのうち、後に位置する乾燥ロールを意味する。比(S
T/S
1)を前記した範囲にすることによって、PVA系重合体膜の揮発分率が13質量%になるまでの乾燥工程において、フィルムのたるみや巻き付きなどのトラブルを発生することなく、長さ方向(MD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値[Δn(MD)
Ave]および幅方向(TD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値[Δn(TD)
Ave]が、上記の式(I)および(II)、更には上記の式(III)を満足する本発明
で用いるPVA系重合体フィルムを円滑に製造することができる。
PVA系重合体フィルムを製造する際の前記した比(S
T/S
1)は、1.000〜1.045であることが好ましい。
【0060】
本発明では、揮発分率が13質量%になったPVA系重合体膜を後続の乾燥ロールで更に乾燥してPVA系重合体フィルムを製造する。その際に、本発明では、PVA系重合体膜の揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロールの周速(S
T)に対する、最終の乾燥ロールの周速(S
L)の比(S
L/S
T)を、0.960〜0.980の範囲にしながら乾燥を行う。比(S
L/S
T)を前記した範囲にすることによって、最終的なPVA系重合体フィルムを得るまでの乾燥工程において、フィルムのたるみや巻き付きなどのトラブルを発生することなく、長さ方向(MD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値[Δn(MD)
Ave]および幅方向(TD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値[Δn(TD)
Ave]が、上記の式(I)および(II)、更には上記の式(III)を満足する本発明
で用いるPVA系重合体フィルムを円滑に製造することができる。
PVA系重合体フィルムを製造する際の前記した比(S
L/S
T)は、0.963〜0.976であることが好ましい。
【0061】
また、上記した方法でPVA系重合体フィルムを製造するに当っては、PVA系重合体フィルムの長さ方向(MD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値[Δn(MD)
Ave]および幅方向(TD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値[Δn(TD)
Ave]は、第1乾燥ロールの周速(S
1)と最終乾燥ロールの周速(S
L)の比(S
L/S
1)に応じて変動する。上記の式(I)および(II)、更には上記の式(III)を満足
するPVA系重合体フィルムを円滑に製造するために、第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する、最終乾燥ロールの周速(S
L)の比(S
L/S
1)を0.970〜1.010の範囲にすることが必要であり、0.972〜1.008の範囲にすることが好ましく、0.975〜1.006の範囲にすることがより好ましい。それによって、上記の式(I)および(II)、更には上記の式(III)を満足するPVA系重合体フィルムを、シワやたるみの発生を抑制しながら円滑に製造することができる。
【0062】
上記した
PVA系重合体フィルムの製造方法において、最終乾燥ロールまたは最終に近い乾燥ロールと最終乾燥ロールは、その表面温度を高くして熱処理ロールとして用いてもよい。乾燥ロールを熱処理ロールとして使用する場合は、ロール表面温度は90〜140℃が好ましく、100〜130℃がより好ましい。
また、乾燥ロールとは別に、熱処理装置を設けてもよい。
【0063】
第1乾燥ロールから最終乾燥ロールに至る過程でPVA系重合体膜を乾燥する際の加熱方向に特に制限はないが、PVA系重合体膜をより均一に乾燥することができることから、PVA系重合体膜の任意の部分における表面と裏面とが、第1乾燥ロールから最終乾燥ロールまでの各乾燥ロールに交互に接触するように乾燥するのが好ましい。
【0064】
上記の乾燥処理を行ったPVA系重合体フィルムは、必要に応じて、熱処理、調湿処理などを行い、最後に所定の長さでロール状に巻き取ることにより本発明
で用いるPVA系重合体フィルムを得ることができる。
上記した一連の処理によって最終的に得られるPVA系重合体フィルムの揮発分率は1〜5質量%の範囲にあることが好ましく、2〜4質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0065】
上記したPVA系重合体フィルムから偏光フィルムを製造するには、例えば、PVA系重合体フィルムを染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理、更に必要に応じて熱処理を行えばよい。染色と一軸延伸の順序は特に限定されず、一軸延伸処理の前に染色処理を行ってもよいし、一軸延伸処理と同時に染色処理を行ってもよいし、または一軸延伸処理の後に染色処理を行ってもよい。また、一軸延伸、染色などの工程は複数回繰り返してもよい。
【0066】
PVA系重合体フィルムの染色に用いる染料としては、ヨウ素または二色性有機染料(例えば、DirectBlack 17、19、154;DirectBrown 44、106、195、210、223;DirectRed 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;DirectBlue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;DirectViolet 9、12、51、98;DirectGreen 1、85;DirectYellow 8、12、44、86、87;DirectOrange 26、39、106、107などの二色性染料)などが使用できる。これらの染料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。染色は、通常、PVA系重合体フィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行うことができるが、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0067】
PVA系重合体フィルムを長さ方向(MD)に延伸する一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法により一軸延伸する場合は、ホウ酸を含む温水中で一軸延伸してもよいし、前記した染料を含有する溶液中や後記固定処理浴中で一軸延伸してもよいし、吸水後のPVA系重合体フィルムを用いて空気中で一軸延伸してもよいし、その他の方法で一軸延伸してもよい。一軸延伸処理の際の延伸温度は特に限定されないが、PVA系重合体フィルムを温水中で延伸(湿式延伸)する場合は好ましくは30〜90℃、より好ましくは40〜70℃、更に好ましくは45〜65℃の温度が採用され、乾熱延伸する場合は50〜180℃の温度が好ましく採用される。また、一軸延伸処理の延伸倍率(多段で一軸延伸を行う場合は合計の延伸倍率)は、偏光性能の点からフィルムが切断する直前までできるだけ延伸することが好ましく、具体的には4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、5.5倍以上であることが更に好ましい。延伸倍率の上限はフィルムが破断しない限り特に制限はないが、均一な延伸を行うためには8.0倍以下であることが好ましい。
延伸後のフィルム(偏光フィルム)の厚みは、5〜35μm、特に20〜30μmであることが好ましい。
【0068】
偏光フィルムの製造に当っては、一軸延伸されたフィルムへの染料の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが多い。固定処理は、ホウ酸および/またはホウ素化合物を添加した処理浴中にフィルムを浸漬する方法が一般に広く採用されている。その際に、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0069】
一軸延伸処理、または一軸延伸処理と固定処理を行ったフィルムを次いで乾燥処理(熱処理)するのが好ましい。乾燥処理(熱処理)の温度は30〜150℃、特に50〜140℃であることが好ましい。乾燥処理(熱処理)の温度が低過ぎると、得られる偏光フィルムの寸法安定性が低下し易くなり、一方、高すぎると染料の分解などに伴う偏光性能の低下が発生し易くなる。
【0070】
以上のようにして得られた偏光フィルムの両面または片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にすることができる。その場合の保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、保護膜を貼り合わせるための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などが一般に使用されており、そのうちでもPVA系接着剤が好ましく用いられる。
以上のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤を被覆した後、ガラス基板に貼り合わせて液晶ディスプレー装置の部品として使用することができる。偏光板をガラス基板に貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどを同時に貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0071】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、製膜原液の揮発分率、PVA膜またはPVAフィルムの揮発分率(水分率)、PVAフィルムの各物性、および偏光フィルムの光学性能は以下の方法により測定した。
【0072】
(1)製膜原液の揮発分率:
上記した方法にしたがって、上記の式[iii]により求めた。
(2)PVA膜またはPVAフィルムの揮発分率(水分率):
上記した方法にしたがって、上記の式[iv]により求めた。
なお、PVA膜またはPVAフィルムの揮発分率(水分率)の測定は、乾燥ロールから取り出したPVA膜またはPVAフィルムの幅方向(TD)中央部から採取したサンプルを用いて行った。
【0073】
(3)PVAフィルムのΔn(MD)
Ave:
PVAフィルムの幅方向(TD)の中央部におけるΔn(MD)
Aveを「《1》Δn(MD)
Aveの測定法」の項目において上記した方法により求め、これをPVAフィルムのΔn(MD)
Aveとした。
(4)PVAフィルムのΔn(TD)
Ave:
PVAフィルムの幅方向(TD)の中央部におけるΔn(TD)
Aveを「《2》Δn(TD)
Aveの測定法」の項目において上記した方法により求め、これをPVAフィルムのΔn(TD)
Aveとした。
【0074】
(5)PVAフィルムの質量膨潤度:
PVAフィルムを1.5gとなるようにカットし、30℃の蒸留水1000g中に30分間浸漬し、30分間浸漬後にPVAフィルムを取り出し、濾紙で表面の水を吸い取った後、その質量(W
e)を測定した。続いてそのPVAフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、その質量(W
f)を測定した。得られた質量W
eおよびW
fから、以下の式[v]によって、PVAフィルムの質量膨潤度を求めた。
質量膨潤度(%)=(W
e/W
f)×100 [v]
【0075】
(6)PVAフィルムの限界延伸倍率:
以下の実施例または比較例で得られた延伸前のPVAフィルムの幅方向(TD)の中央部から長さ方向(MD)×幅方向(TD)=10cm×5cmの試験片を採取し、当該試験片の長さ方向の両端を、延伸部分のサイズが長さ方向(MD)×幅方向(TD)=5cm×5cmとなるように延伸治具に固定し、30℃の水中に38秒間浸漬している間に12cm/分の延伸速度で元の長さの2.2倍に長さ方向(MD)に一軸延伸(1段目延伸)した後、ヨウ素を0.03質量%およびヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中に90秒間浸漬している間に12cm/分の延伸速度で元の長さの3.3倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(2段目延伸)し、次いでホウ酸を3質量%およびヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に約20秒間浸漬している間に12cm/分の延伸速度で元の長さの3.6倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(3段目延伸)し、続いてホウ酸を4質量%およびヨウ化カリウムを約5質量%の濃度で含有する温度約60℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬しながら12cm/分の延伸速度で試験片が破断するまで長さ方向(MD)に一軸延伸し、試験片が破断したときの延伸倍率(元の長さに対する破断時の長さの比)を読み取った。
同じPVAフィルムについて、上記した延伸試験を5回行って、その平均値をとってPVAフィルムの限界延伸倍率(倍)とした。
【0076】
(7)偏光フィルムの光学性能:
(i)透過率:
以下の実施例または比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの配向方向に平行に1.5cm×1.5cmの正方形のサンプルを2枚採取し、それぞれについて日立製作所製の分光光度計V−7100(積分球付属)を用いて、JIS Z8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2度視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚の偏光フィルムサンプルについて、延伸軸方向に対して45度傾けた場合の光の透過率と−45度傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値(Y
1)を求めた。
もう一枚の偏光フィルムサンプルについても、前記と同様にして45度傾けた場合の光の透過率と−45度傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値(Y
2)を求めた。
前記で求めたY
1とY
2を平均して偏光フィルムの透過率(Y)(%)とした。
(ii)偏光度:
上記(i)で採取した2枚の偏光フィルムサンプルを、その配向方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率(Y‖)、および配向方向が直交するように重ねた場合の光の透過率(Y⊥)を、上記透過率の測定方法と同様の方法にて測定し、下記の式[vi]から偏光度(V)(%)を求めた。
偏光度(V)(%)={(Y‖−Y⊥)/(Y‖+Y⊥)}
1/2×100 [vi]
(iii)透過率44.25%における偏光度:
下記の実施例および比較例に記載するように、各実施例または比較例において、2段目延伸時におけるヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中への浸漬時間を変更して製造した5枚の偏光フィルムのそれぞれについて上記した方法で透過率(Y)および偏光度(V)を求め、各実施例または比較例ごとに、透過率(Y)を横軸、偏光度(V)を縦軸として5つの点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、透過率(Y)が44.25%であるときの偏光度(V)の値を求めた。
【0077】
《実施例1》
(1)PVAフィルムの製造:
(i) ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたPVA(けん化度99.9モル%、重合度2400)100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部および水からなる揮発分率66質量%の製膜原液をTダイから第1乾燥ロール(表面温度93℃、周速(S
1)16.7m/分)上に膜状に吐出し、第1乾燥ロール上で、第1乾燥ロール非接触面の全体に90℃の熱風を5m/秒の風速で吹き付けながら水分率18質量%になるまで乾燥し、次いで第1乾燥ロールから剥離して、PVA膜の任意の部分における表面と裏面とが各乾燥ロールに交互に接触するように第2乾燥ロール以降の乾燥をロール表面温度約85℃で行い、最後に表面温度108℃の最終乾燥ロール(熱処理ロール)で熱処理を行った後、巻き取ってPVAフィルム(厚み60μm、幅3m、揮発分率3質量%)を得た。この実施例1では揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロールは第7乾燥ロールであった。
この実施例1では、(α)第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する、揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロール(第7乾燥ロール)の周速(S
T)の比(S
T/S
1)を1.000とし;(β)揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロール(第7乾燥ロール)の周速(S
T)に対する、最終乾燥ロールの周速(S
L)の比(S
L/S
T)を0.974とし;(γ)第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する、第2乾燥ロールの周速(S
2)の比(S
2/S
1)を1.030とし;(δ)揮発分率が13質量%になったときの乾燥ロール(第7乾燥ロール)の周速(S
T)に対する、次の乾燥ロール(第8乾燥ロール)の周速(S
T+1)の比(S
T/S
T+1)を0.998とし;(ε)第1乾燥ロールの周速(S
1)に対する、最終乾燥ロールの周速(S
L)の比(S
L/S
1)を0.975として、PVAフィルムを製造した。
(ii) 上記(i)で得られたPVAフィルムのΔn(MD)
Ave、Δn(TD)
Ave、質量膨潤度および限界延伸倍率を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0078】
(2)偏光フィルムの製造:
(i) 上記(1)で得られたPVAフィルムの幅方向(TD)の中央部から長さ方向(MD)×幅方向(TD)=10cm×5cmの試験片を採取し、当該試験片の長さ方向の両端を、延伸部分のサイズが長さ方向(MD)×幅方向(TD)=5cm×5cmとなるように延伸治具に固定し、温度30℃の水中に38秒間浸漬している間に12cm/分の延伸速度で元の長さの2.2倍に長さ方向(MD)に一軸延伸(1段目延伸)した後、ヨウ素を0.03質量%およびヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中に60秒間浸漬している間に12cm/分の延伸速度で元の長さの3.3倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(2段目延伸)し、次いでホウ酸を3質量%およびヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有する温度30℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に約20秒間浸漬している間に12cm/分の延伸速度で元の長さの3.6倍まで長さ方向(MD)に一軸延伸(3段目延伸)し、続いてホウ酸を4質量%およびヨウ化カリウムを約5質量%の濃度で含有する温度約60℃のホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬しながら12cm/分の延伸速度で上記で測定したPVAフィルムの限界延伸倍率の直前の延伸倍率まで長さ方向(MD)に一軸延伸(4段目延伸)した後、ヨウ化カリウムを3質量%の濃度で含有するヨウ化カリウム水溶液中に10秒間浸漬してヨウ素イオン含浸処理を行い、その後60℃の乾燥機で4分間乾燥して、偏光フィルム(厚み約21μm)を製造した。
これにより得られた偏光フィルムの透過率(Y)および偏光度(V)を上記した方法で求め、横軸を透過率(Y)および縦軸を偏光度(V)とするグラフにその点をプロットした。
【0079】
(ii) 上記(i)において、2段目延伸時の温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中への浸漬時間を60秒間から75秒間に変えたこと以外は上記(i)と同じ操作を行って[各延伸段階での延伸速度はいずれも上記(i)と同じ12cm/分]、偏光フィルム(厚み約21μm)を製造した。
これにより得られた偏光フィルムの透過率(Y)および偏光度(V)を上記した方法で求め、上記(i)のグラフにその点をプロットした。
(iii) 上記(i)において、2段目延伸時の温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中への浸漬時間を60秒間から90秒間に変えたこと以外は上記(i)と同じ操作を行って[各延伸段階での延伸速度はいずれも上記(i)と同じ12cm/分]、偏光フィルム(厚み約21μm)を製造した。
これにより得られた偏光フィルムの透過率(Y)および偏光度(V)を上記した方法で求め、上記(i)のグラフにその点をプロットした。
(iv) 上記(i)において、2段目延伸時の温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中への浸漬時間を60秒間から105秒間に変えたこと以外は上記(i)と同じ操作を行って[各延伸段階での延伸速度はいずれも上記(i)と同じ12cm/分]、偏光フィルム(厚み約21μm)を製造した。
これにより得られた偏光フィルムの透過率(Y)および偏光度(V)を上記した方法で求め、上記(i)のグラフにその点をプロットした。
(v) 上記(i)において、2段目延伸時の温度30℃のヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中への浸漬時間を60秒間から120秒間に変えたこと以外は上記(i)と同じ操作を行って[各延伸段階での延伸速度はいずれも上記(i)と同じ12cm/分]、偏光フィルム(厚み約21μm)を製造した。
これにより得られた偏光フィルムの透過率(Y)および偏光度(V)を上記した方法で求め、上記(i)のグラフにその点をプロットした。
(vi) 上記(i)〜(v)でグラフにプロットした5つの点の近似曲線をグラフ上にひいて、当該近似曲線から、透過率(Y)が44.25%であるときの偏光度(V)の値を求めたところ、下記の表1に示すように、99.98であった。
【0080】
《実施例2〜5》
(1) 実施例1において、PVAフィルムを製造する際の製膜条件を、下記の表1に記載するように変えて、実施例1の(1)と同様にしてPVAフィルムを製造した。ただし、実施例2においては、製膜原液として、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたPVA(けん化度99.9モル%、重合度2400)100質量部、グリセリン12質量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部および水からなる揮発分率73質量%の製膜原液を使用した。
これにより得られた各PVAフィルムのΔn(MD)
Ave、Δn(TD)
Ave、質量膨潤度および限界延伸倍率を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた各PVAフィルムの幅方向(TD)の中央部から採取した長さ方向(MD)×幅方向(TD)=10cm×5cmの試験片を用いて、実施例1の(2)と同じ操作を行って、各実施例ごとに5種類の偏光フィルムを製造し、それぞれの偏光フィルムの透過率(Y)および偏光度(V)を求め、横軸を透過率(Y)および縦軸を偏光度(V)とするグラフにその点をプロットし、グラフにプロットした5つの点の近似曲線をグラフ上にひいて、当該近似曲線から、透過率(Y)が44.25%であるときの偏光度(V)の値を求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0081】
《比較例1〜5》
(1) 実施例1において、PVAフィルムを製造する際の製膜条件を、下記の表2に記載するように変えて、実施例1の(1)と同様にしてPVAフィルムを製造した。
これにより得られた各PVAフィルムのΔn(MD)
Ave、Δn(TD)
Ave、質量膨潤度および限界延伸倍率を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた各PVAフィルムの幅方向(TD)の中央部から採取した長さ方向(MD)×幅方向(TD)=10cm×5cmの試験片を用いて、実施例1の(2)と同じ操作を行って、各比較例ごとに5種類の偏光フィルムを製造し、それぞれの偏光フィルムの透過率(Y)および偏光度(V)を求め、横軸を透過率(Y)および縦軸を偏光度(V)とするグラフにその点をプロットし、グラフにプロットした5つの点の近似曲線をグラフ上にひいて、当該近似曲線から、透過率(Y)が44.25%であるときの偏光度(V)の値を求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
上記の表1および表2にみるように、実施例1〜5のPVAフィルムは、Δn(MD)
Ave[PVAフィルムの長さ方向(MD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値]およびΔn(TD)
Ave[PVAフィルムの幅方向(TD)の複屈折率をフィルムの厚み方向に平均化した値]が式(I)および(II)を満たしていることにより、6.72〜6.94という高い限界延伸倍率を有しており、しかも実施例1〜5のPVAフィルムから得られた偏光フィルムは、従来の偏光フィルムと同等以上の優れた偏光性能を有している。
それに対して、比較例1〜4のPVAフィルムは式(I)を満たしておらず、そして比較例4および5のPVAフィルムは式(II)を満たしていないために、実施例1〜5のPVAフィルムに比べて、いずれも、限界延伸倍率が低い。
【0085】
PVA系重合体フィルムから偏光フィルムを製造する際には、通常、延伸時のフィルムの破断を回避するために限界延伸倍率よりも幾分低い延伸倍率で一軸延伸が行われるが、実施例1〜5のPVAフィルムの限界延伸倍率がいずれも6.72以上と高いことによって、実施例1〜5のPVAフィルムは、当該実施例の条件で偏光フィルムを製造した場合に6倍以上の高い延伸倍率で一軸延伸を行うことができ、6.5倍以上の高い延伸倍率で一軸延伸を行ってもフィルムの破断を生ずることなく、円滑に延伸することができる。
それに対して、比較例1〜5のPVAフィルムのうち、比較例4のPVAフィルムは限界延伸倍率が6よりも小さいために、当該比較例の条件で偏光フィルムを製造した場合に6倍以上の延伸倍率で一軸延伸することはできず、延伸した場合にはフィルムが破断し易く、また比較例1〜3および5のPVAフィルムも6倍以上の延伸倍率で一軸延伸するにはフィルムの破断の点で心配がある。
【0086】
また、偏光フィルム用の原反フィルムでは、1巻の長さが1000m以上のものもあるが、例えば、全長1000mのPVA系重合体フィルムでは、その限界延伸倍率が0.1ポイント(0.1倍)上昇するということは、一軸延伸して得られる延伸フィルムの長さが100m(1000m×0.1倍=100m)増すことになって、同じ長さの原反フィルムから、より多くの偏光フィルムが得られる。
このことを、実施例1〜5についてみると、実施例1〜5のPVAフィルムは、比較例1〜5のPVAフィルムに比べて、限界延伸倍率が0.10〜0.98ポイント(倍)も高いから、例えば、PVAフィルムの長さが1000mであるとすると、それを用いて上記実施例の条件で偏光フィルムを製造した場合に、偏光フィルムの長さが、比較例1〜5のPVAフィルムを用いた場合に比べて、100〜980mも長くなることになり、より多くの偏光フィルムを得ることができる。