【実施例1】
【0015】
図1に本発明における液体クロマトグラフ装置のシステム構成を示す。この図に示す液体クロマトラフ装置は、試料の分離・分析が行われる液体クロマトグラフ部101と、液体クロマトグラフ部101に係る各装置を所定のメソッドに基づいて制御するための制御装置である制御部110を備えている。
【0016】
液体クロマトグラフ部101は、制御部110からの指令に基づいて溶離液を送るポンプ(送液部)102と、ポンプ102からの溶離液に対して、制御部110の指令に基づいて試料を注入するオートサンプラ(試料注入部)103と、制御部110からの指令に基づいて分析カラム207(
図2参照)の温度を保持するカラムオーブン(分離部)104と、分析カラム207から溶出した成分を検出して電気信号に変換して制御部110に出力する検出器(検出部)105を備えている。
【0017】
制御部110は、液体クロマトグラフ部101に係る各装置との指令及びデータのやりとりを実行するデータ処理装置106と、測定メソッドを含む各種データや、オペレータからの指示等が入力される入力装置(例えば、ポインティングデバイス、キーボード、タブレット等)108と、入力装置108を介して入力された測定メソッドを変換する処理(システム変換処理)を実行するシステム変換処理装置107と、検出器105による検出結果や、液体クロマトグラフ部101及び制御部110の各種操作に係るグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等が表示される出力装置109を備えている。検出器105によって検出された各成分の測定値はデータ処理装置106に取込まれ、試料の分析結果が出力装置109に送信・表示される。
【0018】
測定メソッドには、ポンプ102への制御指令値(送液態様の目標値)の時系列であって、ポンプ102による溶離液の送液態様の時間変化を予め定めたデータ列(以下、「タイムテーブル」や、「送液タイムテーブル」と称することがある)が含まれる。送液態様としては、溶離液の流量および圧力、溶離液が複数ある場合には所定の流量における各溶離液の割合等が含まれる。ポンプ102のタイムテーブルの具体例は後述する。本実施の形態では、ポンプ102のタイムテーブルを変換することで他の液体クロマトグラフ装置での測定を再現する場合を例に挙げてシステム変換を説明する。後述するように、エミュレーション処理装置107は、同じタイムテーブルを他の液体クロマトグラフ装置で使用したときの「送液態様」が本実施の形態に係るものに実際に表れるように、各液体クロマトグラフ装置の送液特性の差に基づいてタイムテーブルの変換(システム変換)を行う。
【0019】
送液特性とは、所定の指令値(指令値の具体例については後述)をポンプ102に入力したときに得られる各液体クロマトグラフ装置の実際の送液態様のことである。例えば、複数の液体クロマトグラフ装置に同じ指令値を入力した場合には、当該複数の装置における各種仕様の違い(例えば、配管径、ポンプのデッドボリューム、ミキサの液体混合性能、サンプラのデッドボリューム、カラム外試料拡散容量、及び検出器等の違い)に起因して、実際の送液態様に違いが生じる。すなわち、送液特性は、各液体クロマトグラフ装置に固有の値となる。
【0020】
実際の送液特性(送液態様)を測定する方法としては、所定の指令値に基づいてポンプ102が送りだした溶離液の吸光度を測定するものがある。溶離液の吸光度の測定手段としては、液体クロマトグラフ部101に備え付けられた検出器105の利用が可能である。
【0021】
なお、送液特性を取得する際に各液体クロマトグラフ装置のポンプに入力する指令値は、原則同じものが好ましいが、最終的に検出器105による検出結果が同じものになれば、指令値同士の完全な一致までは問わない。
【0022】
図2に本発明における液体クロマトグラフ装置のシステム流路を示す。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付し、説明は省略することがある(後の図も同様)。この図に示した液体クロマトグラフ部101は、ポンプ102(溶離液201Aを送液するポンプ102Aと、溶離液102Bを送液するポンプ102B)と、ミキサ203と、オートサンプラ103と、カラムオーブン104と、検出器105とを備えている。
【0023】
ポンプ102A及びポンプ102Bは、データ処理装置106に記憶されたタイムテーブルの内容に基づいて、溶離液201A及び溶離液201Bをそれぞれ汲み上げる。ポンプ102A及びポンプ102Bから送られる溶離液は、ミキサ203によって混合された後に、オートサンプラ103を介してカラムオーブン104に送液される。一方、試料はオートサンプラ103から注入され、分析カラム207に送液される。検出器105は分析カラム207を通過した試料成分を検出し、検出結果は制御部110のデータ処理装置106の記憶装置に記憶される。
【0024】
図4は、本発明のデータ処理装置106とシステム変換処理装置107のシステム構成図の一部である。なお、ここでは図示していないが、データ処理装置106とシステム変換処理装置107は、それぞれ、各種プログラムを実行するための演算手段としての演算処理装置(例えば、CPU)と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置(例えば、ROM、RAMおよびフラッシュメモリ等の半導体メモリや、ハードディスク等の磁気記憶装置)と、各装置101、106、107、108、109へのデータ及び指示等の入出力制御を行うための入出力演算処理装置を備えているものとする。
【0025】
図4において、データ処理装置106は、タイムテーブル入力部405と、タイムテーブル記憶部406と、ポンプ制御部407を備えている。
タイムテーブル入力部405は、ポンプ102(ポンプ102A、ポンプ102B)の制御に係るタイムテーブルが外部から入力される部分である。タイムテーブルの入力方法としては、例えば、入力装置108による入力のほかに、タイムテーブルが記憶された記憶メディアを介した入力や他のコンピュータとネットワークを介した通信によるものがある。
【0026】
タイムテーブル記憶部406は、タイムテーブル入力部405を介して入力されたタイムテーブルと、後述するシステム変換処理装置107における変換タイムテーブル計算部404で変換されたタイムテーブルとが記憶される部分である。
【0027】
ポンプ制御部407は、タイムテーブル記憶部406に記憶されたタイムテーブルに基づいて液体クロマトグラフ部101のポンプ102(ポンプ102A、ポンプ102B)の制御を行う部分である。ここで利用するタイムテーブルとして、変換タイムテーブル計算部404が変換したデータが選択された場合には、ポンプ制御部407は当該タイムテーブルに基づいてポンプ102(ポンプ102A、ポンプ102B)の制御を行う。
【0028】
図4において、システム変換処理装置107は、送液特性入力部401と、送液特性記憶部402と、再計算部403と、変換タイムテーブル記憶部404を備えている。
【0029】
送液特性入力部401は、液体クロマトグラフ部101を含めて複数の液体クロマトグラフ装置の送液特性が入力される部分である。入力部401への送液特性の入力方法としては、例えば、入力装置108による入力のほかに、送液特性が記憶された記憶メディアを介した入力、送液特性が記憶された他のコンピュータとネットワークを介した通信によるもの等がある。
【0030】
送液特性記憶部402は、送液特性401を介して入力された複数の液体クロマトグラフ装置(液体クロマトグラフ部101を含む)の送液特性が記憶される部分である。
【0031】
差異計算部403は、液体クロマトグラフ部101と他の液体クロマトグラフ装置の送液特性の差異(trans(t))を演算する部分である。演算の内容については後述する。
【0032】
変換タイムテーブル計算部404では、差異計算部403で求められた送液特性の差異に基づいて、タイムテーブル記憶部406に記憶されたタイムテーブルであって試料分析に用いるものを記憶する部分である。変換タイムテーブル計算部404でタイムテーブルが変換される場合としては、例えば、ある装置(装置A)で所定のタイムテーブルを利用して得た測定結果を他の装置(装置B)で再現する場合がある。具体的な変換プロセスは、
図3を用いて上述した通りである。
【0033】
図3は、本発明におけるシステム変換プログラムの処理方法を示すフローチャートである。この図を用いて、システム変換を利用したポンプ102の制御方法を説明する。
【0034】
ここでは、2つの異なる液体クロマトグラフ装置A、Bと、各装置A、Bのポンプ制御に係る共通のタイムテーブルが存在するときを想定し、装置Bで当該タイムテーブルに基づいてポンプを制御したときの測定結果が、装置Aで当該タイムテーブルに基づいてポンプを制御したときに得られる測定結果に近づくように、装置Bのシステム変換を行う場合について説明する。ここでは、装置Bが、
図1、2に示した液体クロマトグラフ装置に対応するものとし、装置Aも少なくとも
図2に示したものと同様の構成を備えるものとする。
【0035】
図3において、システム変換処理装置107は、まず、液体クロマトグラフ装置A及び液体クロマトグラフ装置Bの送液特性を、送液特性入力部401(
図4参照)を介して取得し、送液特性記憶部402に記憶する(S301)。装置A及び装置Bの送液特性は、それぞれの配管系、ポンプ102A、102Bのデッドボリューム、カラム外試料拡散容量、検出器105等に由来する。ここでは、装置Aの送液特性をRA(t)、装置Bの送液特性をRB(t)とする。
【0036】
送液特性RA(t)、RB(t)は、装置A、Bにおけるポンプ102A、102Bに対して同じ指令値を入力したときの各装置A、Bでの実際の送液態様を測定することで得られる。各装置A、Bに係る送液特性(実際の送液特性)は、例えば、ポンプ102A、102B及びミキサ203を介して送られてくる溶離液の吸光度を各装置A、Bの検出器105で測定することで取得できる。このように取得された送液特性RA(t)、RB(t)を入力装置108等を介して送液特性記憶部402に記憶する。
【0037】
このとき、必要に応じて送液特性のS/Nを上げる処理(S302)、及び送液特性間でデータサンプリング間隔を同じにする処理を行う(S303)。
【0038】
実測定により得られた送液特性のS/Nを上げる処理については、移動平均法、Savitzky−Golay法、Kawata−Minami法、周波数領域法のいずれか、またはこれらの組合せにより平滑化処理をすることで可能である。
【0039】
また、送液特性間でデータサンプリング間隔を同じにする方法として、線形補完、スプライン補完、多項式補完、連分数補完、三角関数による補完等を使用することができる。
【0040】
液体クロマトグラフ装置に対し、例えば
図7に示されるような送液タイムテーブル(すなわち、溶離液201Aと溶離液201Bの混合比の時間変化に関する指令値)に基づいてポンプ102A、102Bを制御したときの測定結果(溶離液の実際の送液態様)は送液特性RA(t)、RB(t)を利用して下記数式(1)及び(2)のように示される。
なお、溶離液の実際の送液態様は、送液特性と同様に、検出器105で溶離液の吸光度を測定することで取得可能である。ここで、「*」はコンボリューション演算を示すものとする。
【0041】
【数1】
【0042】
【数2】
【0043】
上記式(1)及び(2)から明らかなように、各装置A、Bに対して同一のタイムテーブル(Time Table)を入力した場合には、各装置A、Bの送液特性RA(t)、RB(t)の違いが測定結果の違いとなる。
【0044】
そこで次に、システム変換処理装置107は、装置A、Bの送液特性RA(t)、RB(t)の差異(Trans(t))を差異計算部403で求める(S304)。
【0045】
【数3】
【0046】
ここで、装置Aと装置Bの送液特性の差異(Trans(t))は、上記式(3)のデコンボリューション演算により算出する。装置Bで装置Aと同様の測定結果を得るためのタイムテーブル(Time TableB(t))は、元のタイムテーブル(Time TableA(t))とTrans(t)を使って次式(4)で算出される。そこで、システム変換処理装置107の変換タイムテーブル計算部404は、変換対象のタイムテーブル(Time TableA(t))をタイムテーブル記憶部406から読み出しつつ、装置A、Bの送液特性RA(t)、RB(t)の差異を考慮したタイムテーブル(Time TableB(t))を式(4)に基づいて算出する(S305)。
【0047】
【数4】
【0048】
変換タイムテーブル計算部404は、S305で算出したタイムテーブル(変換後のタイムテーブル:Time TableB(t))をデータ処理装置106のタイムテーブル記憶部406に出力する(S306)。データ処理装置106のポンプ制御部407は、当該タイムテーブル(Time TableB(t))に基づいてポンプ102A、102Bを制御する(S307)。 このように、装置Aと同様の測定結果を装置Bで得るために必要なタイムテーブル(Time TableB(t))は、装置A、B間の送液特性の差異(Trans(t))と既存のタイムテーブル(Time TableA(t))のコンボリューションで表すことができるので、送液特性の差異(Trans(t))さえ算出すれば、既存のタイムテーブル(Time TableA(t))を利用して装置Aと同様の測定結果を装置Bで得ることができる。
【0049】
また、本実施例において、送液特性を取得する際のハードウェア構成としては、通常分析カラム207が接続されているオートサンプラ103のアウトレットに対して、検出器105を直接接続するものがある。送液特性は、ポンプ102A、ポンプ102Bから送られる溶離液の吸光度を検出器105で測定することで取得できる。このような構成とすることにより、ポンプ、およびオートサンプラに起因する送液特性を得られる。また、通常と同じくオートサンプラ103のアウトレットに、分析カラム207を介して検出器105を接続してもよい。後者の場合には、分析カラム207に代えて抵抗配管をオートサンプラ103のアウトレットに接続し、当該抵抗配管に検出器105を接続して送液特性を取得しても良い。なお、送液特性を取得する観点からは、抵抗配管またはカラムの影響を抑制するため、前記抵抗配管またはカラムは低容量のものが好ましい。また、ここでは試料注入部がオートサンプラ103の場合について説明したが、マニュアルインジェクタでも良い。
【0050】
図5は本発明のシステム変換の設定を行う際の出力装置109の表示画面を示す。
【0051】
この図に示した表示画面に送液特性カーブ表示部506と、グラジエントテーブル表示部510と、グラジエントカーブ表示部512と、装置選択ボタン501と、計算実行ボタン502と、条件設定ボタン503と、保存ボタン504と、キャンセルボタン505と、メッセージ表示部511が設けられている。
【0052】
送液特性カーブ表示部506は、送液特性の測定に利用した指令値507と、自機(装置B)の送液特性508と、測定結果を再現する他の装置(装置A)の送液特性509が表示される部分である。図示した例では、指令値507は階段状のものであり、装置Bの方(送液特性508)が装置A(送液特性509)よりも応答が速いことがわかる。指令値507の具体例については後述する。
【0053】
グラジエントタイムテーブル表示部510は、試料測定に用いるタイムテーブル(変換前のタイムテーブル)が表示される部分である。図示した例では、
図7に示したタイムテーブルと同じものが利用・表示されている。測定に用いるタイムテーブルは、入力装置108を介して出力装置109の表示画面上のテーブルに入力することで新たに設定してもよいし、既存のタイムテーブルをタイムテーブル記憶部406から読み出してもよい。
【0054】
グラジエントカーブ表示部512は、グラジエントテーブル表示部510に表示されているタイムテーブルのグラフ形状513と、当該タイムテーブルに基づいて自機(装置B)を制御したときの実際の送液態様(実際のグラジエントカーブ)514と、当該タイムテーブル及び送液特性の差異に基づいて他の装置(装置A)の測定結果を自機で再現したときの実際の送液態様(実際のグラジエントカーブ)515が表示される部分である。
【0055】
装置選択ボタン501は、測定結果を再現する際の他の装置を選択するためのボタンである。装置選択の具体的方法としては、例えば、ポインティングデバイス等の入力装置108で装置選択ボタン501を押下すると、送液特性記憶部402に送液特性が記憶されている複数の装置名が画面上に表示され、オペレータによってその中の装置の1つが入力装置108により選択される。
【0056】
計算実行ボタン502は、装置選択ボタン501を介して選択された装置(装置A)と自機(装置B)との送液特性の差異を求めるための処理(S304)と、当該差異を考慮したタイムテーブルを取得する処理(S305)とをシステム変換処理装置107で実行するためのボタンである。
【0057】
条件設定ボタン503は、計算実行ボタン502を押下することで算出されたタイムテーブル(変換後のタイムテーブル)をデータ処理装置106に出力し(S306)、当該タイムテーブルをポンプ102の制御に利用することを設定するためのボタンである。
【0058】
ここで、保存ボタン504をクリックすると、上記条件によるシステム変換の結果をデータ処理装置における記憶部(図示せず)に記憶することもできる。
【0059】
また、キャンセルボタン505をクリックすることにより、これまでの演算処理をキャンセルし、システム変換処理前の状態に戻ることもできる。
【0060】
メッセージ表示部511は、液体クロマトグラフ装置の操作及び処理に関するメッセージ等が適宜表示される部分である。
【0061】
図6は、各液体クロマトグラフ装置の送液特性の取得するため為に入力する送液タイムテーブル(指令値)の例を示す。指令値は、数ミリ秒〜数秒間のオーダーの微小時間におけるポンプ102の制御を規定するものである。
図6(A)〜(F)では、それぞれ移動相における溶離液の混合比を切り換えるタイミングが異なっている。
図6における「B%」は移動相中における溶離液201Bの組成割合を示す。以下に、本図を用いて送液特性を取得する際にポンプ102に入力する指令値の具体例について説明する。
【0062】
まず、指令値の一例として、例えば
図6(A)に示す階段関数のように、2種類の溶離液(201A、201B)の合計流量を一定に保持しつつ、その割合を変化させたものがある。この場合の送液特性の算出法としては、測定されるグラジエントのカーブにおいて溶液を切り換える前の観測値が定常状態の観測値と、切り換えた後の観測値が定常状態となったときの観測値との差を1として規格化し、グラジエントカーブを微分または差分することで求められる。
【0063】
また、指令値の一例としては、上記例のうち
図6(B)、すなわち下記式(5)のH1(t)のように溶液を切り換えるものがある。グラジエントグラジエントカーブで溶液を切り換える前の観測値が定常状態の観測値と、切り換えた後の観測値が定常状態となったときの観測値との差を1として規格化する。送液特性はグラジエントカーブを微分または差分することで求められる。
【0064】
【数5】
【0065】
ここで、A11、A12は定数でA12はA11よりも大きいとする。t
1、t
2は、t
1=t
2の関係ではないとする。t
2とt
1との差は、ミリ秒から秒程度が望ましい。
【0066】
また、H1(t)は、境界条件としてt=t
1、t
2で連続となるようにする。つまりt=t
1でJ1(t
1)=A11、t=t
2でJ1(t
2)=A12となることを特徴とする。
【0067】
J1(t)は単調増加関数であり、たとえばJ1(t)としては多項式、指数関数またこれらを組合せた関数でもよい。
【0068】
また、指令値の一例としては、上記例のうち
図6(C)に示す矩形関数のように溶液を切り換えたものがある。グラジエントカーブを測定後、ピークの面積を算出し、該ピークの面積が1となるようにグラジエントカーブを規格化する。
【0069】
また、指令値の一例としては、上記例のうち
図6(D)、すなわち下記式(6)H2(t)のように溶液を切換えたものがある。
【0070】
【数6】
【0071】
ここで、A2は定数である。また、t
1、t
2、t
3は、t
1=t
2でなく、かつt
2=t
3でないものとする。t
1とt
2の差、及びt
2とt
3との差については、ミリ秒から秒程度が望ましい。
【0072】
式(6)のH2(t)は、境界条件としてt=t
1、t
2、t
3で連続となるようにする。つまりt=t
1でJ21(t
1)=A2、t=t
2でJ21(t
2)=J22(t
2)、t=t
3でJ22(t
3)=A2となる。数式5のJ21(t)は単調増加関数であり、たとえばJ21(t)としては単調増加な多項式でも、単調増加な指数関数でもよく、またこれらを組合せた関数でもよい。式(6)のJ22(t)は単調減少関数であり、単調減少な多項式でもよいし、単調減少な指数関数でもよいし、またこれらを組合せた関数でもよい。
【0073】
その他の例として、例えば
図6(E)すなわち、下記式(7)のH3(t)のように溶液を切り換えたものがある。グラジエントカーブで溶液を切り換えた後、グラジエントカーブを二階微分し、ピークの面積を1に規格化する。
【0074】
【数7】
【0075】
ここで式(7)のA31、A32、A33は定数とする。また式(7)のt
1、t
2はt
1=t
2でないとする。t
2とt
1との差は、ミリ秒から秒程度が望ましい。
【0076】
式(7)のH3(t)は、境界条件としてt=t
1、t
2で連続となるようにする。つまりt=t
1でJ3(t
1)=A31、t=t
2でJ3(t
2)= A32・t
2+A33となることを特徴とする。数(7)のJ3(t)としては単調増加関数であることを特徴とする。たとえば式(7)のJ3(t)としては多項式、指数関数またこれらを組合せた関数でもよい。
【0077】
また、指令値の例として例えば
図6(F)すなわち、式(8)のH4(t)のように溶液を切り換えたものがある。タイムテーブルを入力し、グラジエントのカーブを測定することで送液特性を求めることもできる。例えば、グラジエントカーブで溶液を切り換えた後、二階微分し、ピークの面積を1に規格化する。
【0078】
【数8】
【0079】
ここで、A41、A42、A43は定数でA42はA41よりも大きいものとする。
【0080】
式(8)のH4(t)は、境界条件としてt=t
1で連続となるようにする。つまりt=t
1でH4(t
1)=A42・t
1+A43となることを特徴とする。
【0081】
上記の通り、送液特性を決定する方法は複数通りある。数1において液体クロマトグラフ装置Aの送液特性の決定方法と液体クロマトグラフ装置Bの送液特性の決定方法は同じ方法とすることが望ましいが、別々の決定方法でもよい。
【0082】
このように、多様なグラジエントの送液特性に対応して、液体クロマトグラフ装置の送液特性を求めることができる。
【実施例2】
【0083】
図7は、システム変換前の送液タイムテーブルを示す。この場合において、一般的には、トータルの所要時間のうち、複数の区間に分割して開始時間と終了時間とを設定し、各区間の開始時間と終了時間でそれぞれ溶離液の組成比を変化させるプログラムを指示し、データをポンプに送信する。そして、取得された直線または初等関数のデータを接続することにより、
図8に示されるようなグラフが作成される。
【0084】
ここで、上述の方法によってシステム変換を行った場合、一方の液体クロマトグラフ装置が、他方の装置と同様の測定結果を得るように処理がなされるため、両装置の送液特性の差異を考慮した送液タイムテーブルは
図9に示すように直線または初等関数では表現できない複雑な曲線を有する形状となり、情報量が膨大となる。従って、このようなデータをポンプに送信する場合には、長時間を要し、データを送信している間のポンプの正確な制御ができなくなる可能性がある。さらに、メモリ容量の確保のためのコストがかかるといった課題も生じる。
【0085】
そこで、本実施例では、実施例1にて記載したシステム変換処理を行ってポンプ102にデータを送信する際における、データ処理方法について説明する。
【0086】
図10は、本発明の実施例2に係る本発明のデータ処理装置106とシステム変換処理装置107のシステム構成図の一部である。本図では、データ処理装置106に近似計算部1001、近似計算データ記憶部1002を備えている点において
図4に示した構成図と異なる。
【0087】
液体クロマトグラフ装置間のシステム変換後の送液タイムテーブルを、
図10中のシステム変換処理装置107における変換タイムテーブル計算部404にて計算し、データ処理装置106のタイムテーブル記憶部406に記憶する。
【0088】
近似計算部1001では、タイムテーブル記憶部406に記憶された送液タイムテーブルに対して、設定した近似区間についての近似曲線を計算し、その結果を近似計算データ記憶部1002に記憶する。近似計算データ記憶部1003では、記憶された近似区間と、作成した近似曲線に関するデータをポンプ制御部407に送信する。
【0089】
次に、近似計算部1001における具体的な計算方法について説明する。
【0090】
図11は、本発明における近似計算処理の基本処理を示すフローチャートである。本実施例では、送液タイムテーブルを近似の許容誤差内において、送信データ量および計算時間を少なくするように複数の区間に分割し、各区間ごとに初等関数等で近似する。
【0091】
まず、許容誤差の値、近似計算を行う区間の開始点及び終点、当該区間の通し番号を設定する(S1101)。このとき、設定する区間としては所望の近似計算が可能な最小の範囲とする。例えば、3次の多項式近似を行う場合にあっては、サンプリング区間として最小である4点を含むように区間を決定する。
次に、設定した区間内において、送液タイムテーブルを多項式で近似計算し(S1102)、近似誤差を求める(S1103)。求めた近似誤差と、S1101において予め設定した許容誤差の値を比較し(S1104)、許容誤差を超えた場合には、計算結果の記録を行う(S1107)。ここでは、開始点、終了点、多項式の係数、区間番号等の記録を行う。
【0092】
このとき、近似計算が初回(1回目)の場合には、1回目の結果を記録し、2回目以降の場合には、前回(当該計算の1つ前)の結果を記録する(S1107)。
【0093】
記録後、計算した区間が最終であるか否かによって、送液部転送データの終了判定を行う(S1108)。最終区間の場合には、計算結果を送液部へ出力し、終了する(S1110)。一方、最終区間でない場合には、次の近似計算を行う区間番号へ更新し(S1109)、再びS1101へ戻る。
【0094】
また、近似誤差が許容誤差を超えない場合には、区間の延長を行うか否かの判断がなされる(S1105)。ここで、近似区間は送液部に送液する情報量を減らすために、なるべく長くなるように定める。しかし一方で、この区間を長くし過ぎると近似曲線を求めるために時間がかかるので、区間の長さ、すなわち開始点から終点までのサンプリングの点数に上限値を定め、これに基づいて区間の延長が可能か否かを判断する。
【0095】
区間延長が可能な場合には、サンプリング点数を増やしていく(S1106)。このとき、精度向上のために1点ずつ増やしていくことが望ましい。そして、新たに設定した区間にて上記の近似計算を再び行う(S1102)。
【0096】
図12は、上記近似計算後の送液タイムテーブルを示すグラフである。本図に示されるように、システム変換処理後の送液タイムテーブルに対して、最も適した近似区間に分割される。
【0097】
ここで、上述の通り、近似計算において近似する区間が長くなると、計算処理に長時間を要することとなる。近似計算の時間はデータ個数に指数関数的に増加する。近似計算の時間Tとデータ個数nの関係を数式8に示す。このとき、近似区間の長さの上限値Jとして、数式9により求められる値とすることもできる。
【0098】
【数9】
【0099】
【数10】
【0100】
本実施例において、設定した近似区間で送液タイムテーブルを初等関数にて近似する方法としては、上述の通り多項式による近似を行うことができる。この場合、近似計算ではMoore−Penroseの疑似逆行列を用いてもよい。
【0101】
本実施例において、近似曲線と送液タイムテーブルを比較し、近似誤差を算する方法として、数式9ように送液タイムテーブルYiとその近似値yjとの差の絶対値を近似区間の全範囲で計算しその最大値としてもよい。
【0102】
【数11】
【0103】
本実施の形態において、近似曲線として数式11に示す3次の多項式とした場合を例に、近似曲線結果記憶部に記憶されるデータについて説明する。
図13は、近似計算結果の表を示す図である。本図に示されるように、例えば各近似区間の通し番号、各近似区間の開始時間、各近似区間の終了時間、各近似区間の多項式の定数項の係数a
0、tの係数a
1、t
2の係数a
2、t
3の係数a
3が記録されている。
【0104】
【数12】