【文献】
Autoreactivity of Serum Immunoglobulin to Periodontal Tissue Components: A Pilot Study,Journal of Periodontology,2009年,Vol. 80, No. 4,Pages 625-633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列からなるペプチド群の各ペプチドに対する抗体、および表3〜6に示される該ペプチド群の各ペプチドのオルソログもしくはパラログに対する抗体からなる群より選ばれる1以上の抗体、ならびに/あるいは
(b)該ペプチド群の各ペプチド、および表3〜6に示されるそのオルソログもしくはパラログより選ばれる1以上のペプチド
を用いることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
ELISA法、RIA法、比濁法およびSPR法から選ばれる方法により前記ペプチドおよび/または前記自己抗体を測定することを特徴とする、請求項5または9記載の方法。
口腔内に歯周病菌を有する哺乳動物における、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列からなるペプチド群、および表3〜6に示される該ペプチド群の各ペプチドのオルソログもしくはパラログより選ばれるペプチドに対する自己免疫応答の抑制物質のスクリーニング方法であって、
(1) 該哺乳動物より単離した、該ペプチドに対する自己抗体と被検物質とを接触させる工程、
(2) 両者の結合度を測定する工程、および
(3) 該自己抗体に結合した被検物質を該自己免疫応答の抑制物質の候補として選択する工程、を含む方法。
配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列からなるペプチド群、および表3〜6に示される該ペプチド群の各ペプチドのオルソログもしくはパラログより選ばれる1以上のペプチドに対する抗体を含有してなる、口腔内に歯周病菌を有する哺乳動物におけるRANKL発現抑制剤。
配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列からなるペプチド群、および表3〜6に示される該ペプチド群の各ペプチドのオルソログもしくはパラログより選ばれるペプチドで、非ヒト哺乳動物を免疫することを特徴とする、歯周病モデル動物の作製方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、歯周病の診断マーカーとなり得るペプチド、特に歯周病菌酵素分解産物であるペプチド、並びにそれを利用した歯周病の有効な診断方法を提供することである。本発明の別の目的は、前記ペプチドの中から歯周病の治療標的となり得るペプチドを同定し、その親タンパク質の分解抑制および/または該ペプチドの除去を治療コンセプトとする、新規歯周病治療薬を提供することである。本発明のさらに別の目的は、歯周病菌酵素の基質特異性を利用した該酵素およびその基質タンパク質の新規用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、まず、歯周病におけるジンジパインの標的タンパク質を同定することを試みた。具体的には、ラット歯肉上皮細胞(「GEC」ともいう)を、3種のジンジパイン(HRgpA、RgpB、Kgp)のいずれかでそれぞれ処理し、質量分析により得られた分解物のピークを測定した。その結果、Kgp処理したGECにおいて、無処理および他のジンジパイン処理と比較して顕著に上昇している分子量約2215および約2230のペプチド(それぞれ「ペプチド1」、「ペプチド2」という)を見出した。同様に、RgpB処理したGECにおいて、無処理および他のジンジパイン処理と比較して顕著に上昇している分子量約2277および約2293のペプチド(それぞれ「ペプチド3」、「ペプチド4」という)を見出した。さらに、RgpBまたはHRgpAで処理したGECにおいて、無処理およびKgp処理と比較して顕著に上昇している分子量約2638のペプチド(ペプチド5)を見出した。
【0013】
ペプチド1-5についてアミノ酸配列を分析した結果、これらのペプチドはいずれもケラチンに分類される4種のタンパク質の部分アミノ酸配列からなるペプチドであることが判明した(ペプチド4はペプチド3の酸化物であった)。ホモロジー検索により、対応するヒトのケラチンタンパク質を調べた結果、ペプチド1はkeratin 6、ペプチド2はkeratin 5、ペプチド3および4はkeratin 14、ペプチド5はKeratin 17の部分アミノ酸配列とそれぞれ一致した。そこで、ヒトKeratin 6をKgpで、ヒトKeratin 17をRgpBでそれぞれ消化し、質量分析にて検出された酵素分解産物のピークについてアミノ酸配列を分析した結果、Keratin 6のKgp分解産物として2つのペプチド(ペプチド6: 分子量約2216、ペプチド7: 分子量約2544)が、またKeratin 17のRgpB分解産物として5つのペプチド(ペプチド8: 分子量約1222、ペプチド9: 分子量約1411、ペプチド10: 分子量約1659、ペプチド11: 分子量約1887、ペプチド12: 分子量約2176)が、新たに同定された。ペプチド6および7に対応する部分アミノ酸配列はKeratin 5にも見出され、また、ペプチド8、9、11および12に対応する部分アミノ酸配列はKeratin 14にも見出された。
【0014】
次に、本発明者らは、in vitro実験で得られた上記ペプチドが実際に歯周病で特異的に発現していることを確かめるため、ヒト歯周病患者と健常者の歯間液から歯垢を採取し、該ペプチドの存在を質量分析により調べた結果、歯周病患者のみでこれらのペプチドの明瞭なピークが検出された。さらに、これらのペプチドを血中バイオマーカーとして利用できるか否かを検討した結果、ペプチド1をはじめとしていくつかのペプチドが、歯周病患者の血清中で検出された(もしくは有意に増加していた)。以上のことから、種々のケラチンのジンジパイン分解産物が、歯周病の口腔および血中バイオマーカーとなることが確認された。
【0015】
歯肉上皮組織を構成するケラチンの分解産物が血中で検出されたことから、本発明者らは、該分解産物が歯周病はもとより、歯周病に伴う全身性の合併症にも重要な役割を果たしている可能性があると予測し、まず該分解産物に対する自己免疫応答が生じているかどうかを調べた。薬剤誘発性リンパ球幼若化試験(DLST)の結果、keratin 6およびその分解産物に対して陽性を示す(即ち、T細胞の増殖が誘導された)検体が認められた。さらに、歯肉炎および歯周炎患者の血清の免疫学的分析の結果から、症状の進行とともに該分解産物およびそれに対する自己抗体の血清レベルが上昇していることが明らかとなった。
【0016】
本発明者らはまた、歯周炎患者のリンパ球細胞表面において、Keratin 6もしくはその分解産物で刺激した後に、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化を促進する細胞表面受容体Receptor Activator of NFκB(RANK)のリガンドとして知られるRANKLの発現が顕著に上昇し、リンパ芽球形成が起こること、並びに抗Keratin 6フラグメント抗体によりRANKL mRNAの発現が顕著に抑制されることを見出した。さらに、ラットをKeratin 6もしくはその分解産物で免疫したところ、末梢血単核球においてRANKL発現T細胞が増殖し、顕著な歯槽骨吸収が認められた。また、Keratin 6分解産物で刺激した歯肉線維芽細胞において、RANK/RANKLのシグナル伝達により破骨細胞分化を促進するMAPKシグナルが活性化され、破骨細胞前駆細胞の遊走/破骨細胞分化/骨吸収/炎症と関連する各種サイトカイン/ケモカインの発現が上昇することが明らかとなった。
以上の結果から、歯周病菌酵素が歯肉上皮組織のケラチンを消化し、ケラチンおよびその分解産物が血液中に移行してT細胞の増殖を刺激し、それらに対する自己免疫応答を誘発することと、ケラチンおよびその分解産物がT細胞におけるRANKLの発現を誘導し、この活性化T細胞が破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化を誘導して骨吸収を促進することによる歯槽骨破壊や炎症の惹起/増悪が、歯周病の発症および進展、並びに全身性の合併症の発症に深く関与していることが示された。従って、これらのケラチン分解産物の生成を抑制するとともに、生成した該分解産物を口腔から速やかに除去してその血中への移行を阻止し、初期感作および/またはブースター効果を防いで、活性化T細胞によるRANKLを介した破骨細胞の分化と自己抗体の産生を抑制し、さらに、該分解産物に対する自己抗体を口腔から除去して歯肉上皮組織への攻撃を阻止し、炎症を抑制することで、歯周病の発症予防および進展抑制、全身性の合併症の発症予防が可能となる。
【0017】
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]配列番号1〜10のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
[2]歯周病診断マーカーである上記[1]記載のペプチド。
[3]上記[1]記載のペプチドを特異的に認識する抗体。
[4]上記[3]記載の抗体を含有してなる歯周病診断剤。
[5]被験動物より採取した生体試料中の、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド群より選ばれる1以上のペプチド、および/または該ペプチド群の各ペプチドに対する自己抗体からなる群より選ばれる1以上の自己抗体の量を測定することを特徴とする、該被験動物における歯周病の診断のための検査方法。
[6]生体試料が体液である、上記[5]記載の方法。
[7]体液が血液、血漿、血清、歯間液、尿および唾液からなる群より選択される、上記[6]記載の方法。
[8]生体試料を質量分析にかけることを含む、上記[5]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなる各ペプチドに対する抗体からなる群より選ばれる1以上の抗体、および/または配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド群より選ばれる1以上のペプチドを用いることを特徴とする、上記[5]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[10]ELISA法、RIA法、比濁法およびSPR法から選ばれる方法により前記ペプチドおよび/または前記自己抗体を測定することを特徴とする、上記[5]または[9]記載の方法。
[11]患者から時系列で生体試料を採取し、該試料における、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド群より選ばれる1以上のペプチド、および/または該ペプチド群の各ペプチドに対する自己抗体からなる群より選ばれる1以上の自己抗体の量の経時変化を調べることを特徴とする、上記[5]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12]歯周病患者における治療効果の評価方法であって、治療が施される前後に該患者から採取した生体試料における、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド群より選ばれる1以上のペプチド、および/または該ペプチド群の各ペプチドに対する自己抗体からなる群より選ばれる1以上の自己抗体の量の変化を調べることを特徴とする方法。
[13]歯肉上皮に存在するケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物に親和性を有する物質および/または該ケラチンもしくはその分解産物に対する自己抗体に親和性を有する物質を含有してなる、口腔内に歯周病菌を有する哺乳動物における該ケラチンもしくはその分解産物に対する自己免疫応答の抑制剤。
[14]歯周病および/またはその合併症の予防および/または治療用である、上記[13]記載の抑制剤。
[15]前記ケラチンもしくはその分解産物に親和性を有する物質が、該ケラチンもしくはその分解産物に対する抗体である、上記[13]または[14]記載の抑制剤。
[16]前記ケラチンもしくはその分解産物に対する自己抗体に親和性を有する物質が、該ケラチンもしくはその分解産物またはそのアミノ酸配列の全部もしくは一部を含むペプチドである、上記[13]または[14]記載の抑制剤。
[17]ケラチンがKeratin 5、Keratin 6、Keratin 14またはKeratin 17である、上記[13]〜[16]のいずれかに記載の抑制剤。
[18]前記分解産物が、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド群より選ばれる1以上のペプチドである、上記[13]〜[17]のいずれかに記載の抑制剤。
[19]歯周病菌酵素阻害剤と組み合わせてなる、上記[13]〜[18]のいずれかに記載の抑制剤。
[20]口腔用組成物である、上記[13]〜[19]のいずれかに記載の抑制剤。
[21]口腔内に歯周病菌を有する哺乳動物における、歯肉上皮に存在するケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物に対する自己免疫応答の抑制物質のスクリーニング方法であって、
(1) 該ケラチンもしくはその分解産物に対する自己抗体と被検物質とを接触させる工程、
(2) 両者の結合度を測定する工程、および
(3) 該自己抗体に結合した被検物質を該自己免疫応答の抑制物質の候補として選択する工程、を含む方法。
[22]歯肉上皮に存在するケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物に親和性を有する物質を含有してなる、口腔内に歯周病菌を有する哺乳動物におけるRANKL発現抑制剤。
[23]歯周病および/またはその合併症の予防および/または治療用である、上記[22]記載の抑制剤。
[24]前記ケラチンもしくはその分解産物に親和性を有する物質が、該ケラチンもしくはその分解産物に対する抗体である、上記[22]または[23]記載の抑制剤。
[25]ケラチンがKeratin 5、Keratin 6、Keratin 14またはKeratin 17である、上記[22]〜[24]のいずれかに記載の抑制剤。
[26]前記分解産物が、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド群より選ばれる1以上のペプチドである、上記[22]〜[25]のいずれかに記載の抑制剤。
[27]口腔内に歯周病菌を有する哺乳動物におけるRANKL発現の抑制物質のスクリーニング方法であって、
(1) 歯肉上皮に存在するケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物と被検物質とを接触させる工程、
(2) 両者の結合度を測定する工程、および
(3) 該ケラチンもしくはその分解産物に結合した被検物質をRANKL発現の抑制物質の候補として選択する工程、を含む方法。
[28]口腔内に歯周病菌を有する哺乳動物におけるRANKL発現の抑制物質のスクリーニング方法であって、
(1) 被検物質の存在下および非存在下で、歯肉上皮に存在するケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物で感作した非ヒト哺乳動物由来のT細胞と、該ケラチンもしくはその分解産物とを接触させる工程、
(2) 被検物質の存在下および非存在下における
a) T細胞への該ケラチンもしくはその分解産物の結合度、
b) T細胞の増殖度、および
c) T細胞におけるRANKLの発現レベル
からなる群より選択される1以上を、測定する工程、および
(3) 上記a)〜c)のいずれかを低下させた被検物質をRANKL発現の抑制物質の候補として選択する工程、を含む方法。
[29]歯肉上皮に存在するケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物で、非ヒト哺乳動物を免疫することを特徴とする、歯周病モデル動物の作製方法。
【0019】
さらに、本発明により以下のものが提供される。
[30]歯周病菌酵素を含有してなるケラチン分解促進剤。
[31]爪、毛髪または皮膚に適用される、上記[30]記載の促進剤。
[32]被験菌体、その分泌物もしくはその処理物をケラチンに接触させ、ケラチンの分解を評価することを特徴とする、歯周病菌活性の検出方法。
[33]被検物質の存在下および非存在下に、歯周病菌、その分泌物もしくはその処理物をケラチンに接触させ、両条件下におけるケラチンの分解を比較することを特徴とする、歯周病抑制物質または促進物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0020】
自己抗原となるケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物を口腔内から除去することで、該ケラチンもしくはその分解産物の血液中への移行が抑制され、自己抗体の産生を抑制することができる。また、産生された自己抗体を口腔内から除去することにより、自己抗体による歯肉上皮の攻撃を阻止することができ、歯周病の治療のみならず、歯周病に伴う全身性の合併症の発症を予防することができる。さらに、該ケラチンもしくはその分解産物によるT細胞の活性化(増殖およびRANKL発現上昇)を阻害することで、破骨細胞の分化による歯槽骨破壊、炎症性サイトカイン誘導による歯周炎の惹起・増悪を抑制し、歯周病を予防・治療することができる。
また、ケラチンの歯周病菌酵素分解産物を検出することにより、歯周病を迅速・簡便かつ的確に判定できるので、該疾患の早期発見、早期治療が可能となる。
さらに、歯周病菌酵素はそのケラチン分解作用により、角質除去、くせ毛防止、ムダ毛除去、薬剤の皮膚透過性の亢進、巻き爪などの爪の変形・変色、爪白癬をはじめとする白癬菌感染症の治療などに使用することができる。
さらにまた、ケラチンの分解を指標として、新規歯周病菌の同定、歯周病治療薬のスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(I)歯肉上皮に存在するケラチンの歯周病菌酵素分解産物(本発明のペプチド)
本発明は、歯周病のバイオマーカーかつ治療標的となり得る新規なペプチド群を提供する。これらのペプチド(以下、「本発明のペプチド」という場合がある)は、いずれも歯肉上皮組織に存在するケラチンを親タンパク質とし、歯周病菌酵素による該タンパク質の分解により生成する。
【0023】
ケラチン(サイトケラチン)は、上皮細胞の細胞骨格を形成する中間径(直径8〜11nm程度)フィラメントを構成する、分子量40〜68kDa程度のタンパク質の総称であり、分子量や生化学的特徴によって20〜30種類程度に分類され、分子量の小さいtype I(酸性ケラチン;Keratin 10-20)と大きいtype II(中性/塩基性ケラチン;Keratin 1-9)に大別され、この両者が組み合わさったヘテロ二量体で網状のフィラメントを構成している。
本発明のペプチドの親タンパク質であるケラチンは、歯肉上皮組織に存在するケラチンに分類されるタンパク質であれば特に制限されず、例えばKeratin 1〜20等、好ましくはKeratin 1、2、4、5、6、8、10、11、13、14、15、16、17、18、19等、より好ましくはKeratin 5、6、14および17が挙げられる。これらのケラチンタンパク質には多くのサブタイプの存在が知られているが、歯肉上皮組織に存在する限りいずれのサブタイプも包含される。
【0024】
歯周病菌酵素としては、好ましくは、P.ジンジバリスが産生するジンジパイン、例えばKgp、RgpBおよびHRgpAが挙げられる。
本発明のペプチドとしては、上記のいずれかのケラチンが、例えばジンジパイン(例、Kgp、RgpB、HRgpA)等の歯周病菌酵素により部分消化されて生成するペプチド断片であって、歯周病菌に感染した哺乳動物の血液中に移行した場合にそれに対する自己抗体が産生されるペプチドであれば特に制限されないが、血中移行性を考慮すると、例えば分子量約1万以下、好ましくは約5000以下のペプチドであり、免疫原性を有することを考慮すると、例えば分子量約500以上、好ましくは約1000以上のペプチドである。そのようなペプチドは、例えば、精製したケラチンタンパク質を1種以上の歯周病菌酵素、好ましくはジンジパインで処理し、得られる酵素反応液に含まれるケラチンの分解産物を、例えばプロトセラ社のブロットチップ(登録商標)技術や、通常の2次元ゲル電気泳動と質量分析を組み合わせた方法、LC-MS、LC-MS/MS等の自体公知の手法を用いて解析することにより、容易に同定することができる。
【0025】
本発明のペプチドの好ましい具体例としては、例えば、Keratin 6のKgp分解産物として、ヒトkeratin 6B(UniprotKBデータベースにaccession No. P04259として登録されている;配列番号11)の360-378位の部分アミノ酸配列(配列番号1)からなるペプチド(ペプチド1)、260-271位の部分アミノ酸配列(配列番号4)からなるぺプチド(ペプチド6)、339-359位の部分アミノ酸配列(配列番号5)からなるペプチド(ペプチド7)等が挙げられる。ペプチド1、6および7には、ヒトKeratin 6Bのパラログ(例、ヒトKeratin 6A(UniprotKB/Swiss-prot P02538)、ヒトKeratin 6C(UniprotKB/Swiss-prot P48668)、ヒトKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot P13647)等)およびそれらのオーソログ(例、ラットKeratin 6A(UniprotKB/Swiss-prot Q4FZU2)、マウスKeratin 6A(UniprotKB/Swiss-prot P50446)、マウスKeratin 6B(UniprotKB/Swiss-prot Q9Z331)、ラットKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot Q6P6Q2)、マウスKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot Q922U2)、チンパンジーKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot A5A6M8)、ウシKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot Q5XQN5)等)において、それぞれに対応する部分アミノ酸配列からなるペプチド(表3−1〜3−3および表4参照)や、天然に存在するそれらの変異体または多型(1〜2アミノ酸の置換、欠失、挿入;例、ペプチド1において365位のIleがValに置換された多型(NCBI SNPデータベースにrs437014として登録されている))も含まれる。
また、歯周病菌酵素による切断部位は必ずしも厳密でない場合があり得るので、ペプチド1、6および7のN末端および/またはC末端が、上記部分アミノ酸配列から1〜3残基程度、親タンパク質のN末端側もしくはC末端側にずれているものも、ペプチド1、6および7にそれぞれ包含される。
【0026】
本発明のペプチドの別の好ましい具体例としては、例えば、Keratin 5のKgp分解産物として、ヒトKeratin 5(UniprotKBデータベースにaccession No. P13647として登録されている;配列番号12)の365-383位の部分アミノ酸配列(配列番号15)からなるペプチド(ペプチド2)、265-276位の部分アミノ酸配列からなるペプチド、344-364位の部分アミノ酸配列からなるペプチド等が挙げられる。これらのペプチドには、ヒトKeratin 5のパラログ(例、ヒトKeratin 6A(UniprotKB/Swiss-prot P02538)、ヒトkeratin 6B(UniprotKB/Swiss-prot P04259)、ヒトKeratin 6C(UniprotKB/Swiss-prot P48668)等)およびそれらのオーソログ(例、ラットKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot Q6P6Q2)、マウスKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot Q922U2)、チンパンジーKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot A5A6M8)、ウシKeratin 5(UniprotKB/Swiss-prot Q5XQN5)、ラットKeratin 6A(UniprotKB/Swiss-prot Q4FZU2)、マウスKeratin 6A(UniprotKB/Swiss-prot P50446)、マウスKeratin 6B(UniprotKB/Swiss-prot Q9Z331)等)において、それぞれに対応する部分アミノ酸配列からなるペプチド(表3−1〜3−3および表4参照)や、天然に存在するそれらの変異体または多型(1〜2アミノ酸の置換、欠失、挿入;例、ヒトKeratin 5の352位のArgがSerに置換された多型(Br. J. Dermatol. 155:313-317(2006))も含まれる。Keratin 5はKeratin 6のパラログであるので、ペプチド2は、本発明における広義の「ペプチド1」に包含される。同様に、Keratin 5の265-276位の部分アミノ酸配列からなるペプチド、および344-364位の部分アミノ酸配列からなるペプチドは、それぞれ広義のペプチド6および7に包含される。
また、歯周病菌酵素による切断部位は必ずしも厳密でない場合があり得るので、ペプチドのN末端および/またはC末端が、上記部分アミノ酸配列から1〜3残基程度、親タンパク質のN末端側もしくはC末端側にずれているものも、これらのペプチドに包含される。さらに、N末端のアセチル化、C末端のアミド化、N末端グルタミン酸のピログルタミル化、Ser、The、Tyr、AspもしくはHisのリン酸化、Asn、Asp、ProもしくはLysのヒドロキシル化、LysもしくはArgのメチル化、Tyrの硫酸化、Metの酸化などの可能なアミノ酸修飾を受けたものも包含される。
【0027】
本発明のペプチドの別の好ましい具体例としては、例えば、Keratin 14のRgp分解産物として、ヒトkeratin 14(UniprotKBデータベースにaccession No. P02533として登録されている;配列番号13)の450-469位の部分アミノ酸配列(配列番号2)からなるペプチド(ペプチド3および4)、7-30位の部分アミノ酸配列からなるぺプチド、202-211位の部分アミノ酸配列からなるペプチド、289-299位の部分アミノ酸配列からなるペプチド、316-335位の部分アミノ酸配列からなるペプチド等が挙げられる。これらのペプチドには、ヒトKeratin 14のパラログ(例、ヒトKeratin 17(UniprotKB/Swiss-prot Q04695)、ヒトKeratin 16(UniprotKB/Swiss-prot P08779)等)およびそれらのオーソログ(例、ラットKeratin 14(UniprotKB/Swiss-prot Q6IFV1)、マウスKeratin 14(Q61781)、ラットKeratin 17(Q6IFU8)、マウスKeratin 17(Q9QWL7)、チンパンジーKeratin 17(A5A6M0)、ウシKeratin 17(A1L595)等)において、それぞれに対応する部分アミノ酸配列からなるペプチド(表5および表6参照)や、天然に存在するそれらの変異体または多型(1〜2アミノ酸の置換、欠失、挿入;例、ヒトKeratin 14において211位のArgがProに置換された多型(Hum. Mutat. 27:719-720(2006)))も含まれる。Keratin 14はKeratin 17のパラログであるので、Keratin 14の7-30位の部分アミノ酸配列からなるぺプチド、202-211位の部分アミノ酸配列からなるペプチド、289-299位の部分アミノ酸配列からなるペプチドおよび316-335位の部分アミノ酸配列からなるペプチドは、それぞれ広義のペプチド8、9、11および12に包含される。
また、歯周病菌酵素による切断部位は必ずしも厳密でない場合があり得るので、ペプチドのN末端および/またはC末端が、上記部分アミノ酸配列から1〜3残基程度、親タンパク質のN末端側もしくはC末端側にずれているものも、これらのペプチドに包含される。さらに、N末端のアセチル化、C末端のアミド化、N末端グルタミン酸のピログルタミル化、Ser、The、Tyr、AspもしくはHisのリン酸化、Asn、Asp、ProもしくはLysのヒドロキシル化、LysもしくはArgのメチル化、Tyrの硫酸化、Metの酸化などの可能なアミノ酸修飾を受けたものも包含される。
【0028】
本発明のペプチドの別の好ましい具体例としては、例えば、Keratin 17のRgp分解産物として、ヒトkeratin 17(UniprotKBデータベースにaccession No. Q04695として登録されている;配列番号14)の410-432位の部分アミノ酸配列(配列番号3)からなるペプチド(ペプチド5)、171-180位の部分アミノ酸配列(配列番号6)からなるペプチド(ペプチド8)、258-268位の部分アミノ酸配列(配列番号7)からなるペプチド(ペプチド9)、410-424位の部分アミノ酸配列(配列番号8)からなるペプチド(ペプチド10)、7-26位の部分アミノ酸配列(配列番号9)からなるぺプチド(ペプチド11)、285-304位の部分アミノ酸配列(配列番号10)からなるペプチド(ペプチド12)等が挙げられる。ペプチド5および8〜12には、ヒトKeratin 17のパラログ(例、ヒトKeratin 14(UniprotKB/Swiss-prot P02533)、ヒトKeratin 16(UniprotKB/Swiss-prot P08779)等)およびそれらのオーソログ(例、ラットKeratin 17(Q6IFU8)、マウスKeratin 17(Q9QWL7)、チンパンジーKeratin 17(A5A6M0)、ウシKeratin 17(A1L595)、ラットKeratin 14(UniprotKB/Swiss-prot Q6IFV1)、マウスKeratin 14(Q61781)等)において、それぞれに対応する部分アミノ酸配列からなるペプチド(表5および表6参照)や、天然に存在するそれらの変異体または多型(1〜2アミノ酸の置換、欠失、挿入等)も含まれる。
また、歯周病菌酵素による切断部位は必ずしも厳密でない場合があり得るので、ペプチド5および8〜12のN末端および/またはC末端が、上記部分アミノ酸配列から1〜3残基程度、親タンパク質のN末端側もしくはC末端側にずれているものも、ペプチド5および8〜12にそれぞれ包含される。さらに、N末端のアセチル化、C末端のアミド化、N末端グルタミン酸のピログルタミル化、Ser、The、Tyr、AspもしくはHisのリン酸化、Asn、Asp、ProもしくはLysのヒドロキシル化、LysもしくはArgのメチル化、Tyrの硫酸化、Metの酸化などの可能なアミノ酸修飾を受けたものも包含される。
【0029】
(II)ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質/ケラチンもしくは該ペプチドに対する自己抗体に親和性を有する物質
上述のように、歯周病菌酵素が歯肉上皮組織のケラチンを消化して生成する本発明のペプチドもしくはケラチン自体が、血液中に移行してT細胞の増殖およびRANKL発現を刺激し、該ペプチドに対する自己免疫応答および破骨細胞の分化を誘発することが、歯周病の発症および進展、並びに全身性の合併症の発症に深く関与している。従って、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質や、ケラチンもしくは該ペプチドに対する自己抗体(以下、「本発明の自己抗体」ともいう)に親和性を有する物質を用いて、ケラチンもしくは該ペプチドおよび/または該自己抗体を捕捉し、口腔から除去することにより、ケラチンもしくは該ペプチドを抗原とする自己免疫応答を抑制して、歯周病並びにその全身性の合併症の発症を予防、あるいはそれらの進展を抑制することができる。
【0030】
ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質としては、例えば、ケラチンもしくは該ペプチドに対する抗体(以下、「治療抗体」ともいう)が挙げられる。一方、本発明の自己抗体に親和性を有する物質としては、例えば、該自己抗体が認識するエピトープのアミノ酸配列を含むペプチド(以下、「治療ペプチド」ともいう)、即ち、本発明のペプチドのアミノ酸配列の全部もしくは一部を含むペプチドが挙げられる。
【0031】
(II-1)治療ペプチド
本発明の治療ペプチドは、C末端がカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステルの何れであってもよい。また、該ペプチドがC末端以外にカルボキシル基 (またはカルボキシレート) を有している場合、該カルボキシル基がアミド化またはエステル化されていてもよい。さらに、該ペプチドは、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が、例えばホルミル基、アセチル基などで置換されているもの、N末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基 (例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など) が他の置換基 (例えば、ホルミル基、アセチル基など) で置換されたものであってもよい。
また、本発明の治療ペプチドは酸又は塩基との塩であってもよく、特に酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸 (例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸) との塩、あるいは有機酸 (例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸) との塩などが用いられる。
【0032】
本発明のペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドとしては、該ペプチド自体か、あるいは該アミノ酸配列のN末端および/またはC末端に1以上のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ本発明の自己抗体への結合能を保持するペプチドが挙げられる。後者の好ましい例としては、本発明のペプチドの親タンパク質であるケラチンの全長もしくは該ペプチドのアミノ酸配列を含むその断片が挙げられるが、それらに限定されない。
【0033】
本発明のペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドは、上記した本発明のペプチドのアミノ酸配列情報に基づいて化学的に合成することもできるし、あるいは本発明のペプチドの親タンパク質であるケラチンを、必要に応じて適当なタンパク質分解酵素(例、ジンジパインなどの歯周病菌酵素など)で消化し、得られる酵素分解産物から、自体公知の手法を用いて目的のペプチド断片を単離することによっても取得することができる。ケラチンタンパク質は、それを産生する細胞・組織(例、歯肉上皮)から自体公知のタンパク質分離技術を用いて単離することもできるし、公知のデータベースに登録されている遺伝子配列情報に基づいてcDNAを単離し、組換え生産することもできる。
【0034】
一方、本発明のペプチドのアミノ酸配列の一部を含むペプチドは、本発明の自己抗体により認識される限り特に制限はないが、例えば、本発明のペプチドのアミノ酸配列中の3個以上、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上、いっそう好ましくは6個以上の連続するアミノ酸残基を含むものが挙げられる。あるいは、本発明のペプチドのアミノ酸配列の一部を含むペプチドとしては、例えば、本発明のペプチドのアミノ酸配列中の20個以下、好ましくは18個以下、より好ましくは15個以下、いっそう好ましくは12個以下の連続するアミノ酸残基からなるものが挙げられる。
本発明のペプチドのアミノ酸配列の一部を含むペプチドは、好ましくは、上記した本発明のペプチドのアミノ酸配列情報に基づいて化学的に合成される。ペプチドの合成法としては、例えば固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。すなわち、該ペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の1) または2) に記載された方法等が挙げられる。
1) M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
2) SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド (The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせて該ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られるペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0035】
上述のように、本発明において、歯肉上皮に存在するケラチンの歯周病菌酵素分解産物は、好ましくはKeratin 5、Keratin 6、Keratin 14またはKeratin 17あるいはその類似体(例えばパラログ)の該酵素(例、ジンジパイン)分解産物であり、より好ましくは、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドである。ここで「実質的に同一のアミノ酸配列」としては、各配列番号に示されるペプチドの親タンパク質の他の哺乳動物におけるオルソログや、ヒトもしくは他の哺乳動物におけるパラログであるタンパク質、あるいはそれらの天然のアレル変異体や多型における、該配列番号で示されるアミノ酸配列に対応する部分のアミノ酸配列、さらには、該アミノ酸配列のN末端および/またはC末端が親タンパク質のN末端側もしくはC末端側に1〜3アミノ酸程度ずれたものが挙げられる(例えば、配列番号15に示されるヒトKeratin 5のKgp分解産物のアミノ酸配列は、パラログであるヒトKeratin 6BのKgp分解産物のアミノ酸配列(配列番号1)と実質的に同一のアミノ酸配列である)。したがって、本発明の治療ペプチドは、好ましくは、Keratin 5、Keratin 6、Keratin 14またはKeratin 17あるいはその類似体(例えばパラログ)の該酵素(例、ジンジパイン)分解産物に対する自己抗体により認識され、結合するペプチド、より好ましくは、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドに対する自己抗体により認識され、結合するペプチドである。即ち、本発明の治療ペプチドは、好ましくは、Keratin 5、Keratin 6、Keratin 14またはKeratin 17あるいはその類似体(例えばパラログ)の該酵素(例、ジンジパイン)分解産物のアミノ酸配列の全部もしくは一部を含むペプチドであり、より好ましくは、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列の全部もしくは一部を含むペプチドである。
【0036】
(II-2)治療抗体
本発明の治療抗体は、ケラチンもしくは上記(I)のいずれかの本発明のペプチドを特異的に認識するものである限り特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab'、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール (PEG) 等のタンパク質安定化作用を有する分子などで修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
【0037】
本発明の抗体がモノクローナル抗体である場合、例えば、以下の方法によって調製することができる。
上記(II-1)に記載のいずれかの方法によりケラチンもしくは本発明のペプチドまたはそのフラグメントを調製する。該ペプチドは、免疫原性を有していれば不溶化したものを直接免疫することもできるが、低分子量の抗原を用いる場合には、これらの抗原ペプチドは通常、免疫原性の低いハプテン分子なので、適当な担体 (キャリア) に結合または吸着させた複合体として免疫することができる。担体としては天然もしくは合成の高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えばウシ、ウサギ、ヒトなどの哺乳動物の血清アルブミンや例えばウシ、ウサギなどの哺乳動物のサイログロブリン、例えばニワトリのオボアルブミン、例えばウシ、ウサギ、ヒト、ヒツジなどの哺乳動物のヘモグロビン、キーホールリンペットヘモシアニン (KLH) などが用いられる。合成高分子としては、例えばポリアミノ酸類、ポリスチレン類、ポリアクリル類、ポリビニル類、ポリプロピレン類などの重合物または共重合物などの各種ラテックスなどが挙げられる。該キャリアとハプテンとの混合比は、担体に結合あるいは吸着させた抗原に対する抗体が効率よく産生されれば、どのようなものをどのような比率で結合あるいは吸着させてもよく、通常ハプテンに対する抗体の作製にあたり常用されている上記の天然もしくは合成の高分子キャリアーを、重量比でハプテン1に対し0.1〜100の割合で結合あるいは吸着させたものを使用することができる。
【0038】
ハプテンとキャリアタンパク質のカップリングには、種々の縮合剤を用いることができる。例えば、チロシン、ヒスチジン、トリプトファンを架橋するビスジアゾ化ベンジジンなどのジアゾニウム化合物、アミノ基同士を架橋するグルタルアルデビトなどのジアルデヒド化合物、トルエン-2,4-ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物、チオール基同士を架橋するN,N'-o-フェニレンジマレイミドなどのジマレイミド化合物、アミノ基とチオール基を架橋するマレイミド活性エステル化合物、アミノ基とカルボキシル基とを架橋するカルボジイミド化合物などが好都合に用いられる。また、アミノ基同士を架橋する際にも、一方のアミノ基にジチオピリジル基を有する活性エステル試薬 (例えば、SPDPなど) を反応させた後還元することによりチオール基を導入し、他方のアミノ基にマレイミド活性エステル試薬によりマレイミド基を導入後、両者を反応させることもできる。またハプテン(ペプチド)のN末端またはC末端にシステイン残基を付与し、キャリアタンパク質のアミノ基にマレイミド活性エステル試薬によりマレイミド基を導入後、両者を反応させることもできる。
【0039】
抗原ペプチドは、温血動物に対して、例えば腹腔内注入、静脈注入,皮下注射、皮内注射などの投与方法によって、抗体産生が可能な部位にそれ自体単独であるいは担体、希釈剤と共に投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常1〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。温血動物としては、例えばウサギ、ヤギ、ウシ、ニワトリ、マウス、ラット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウマ、ラクダ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなどが挙げられるが、モノクローナル抗体作製には一般にマウス、ラット、ウサギ等が好ましく用いられる。
モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原を免疫された温血動物、例えば、マウスから血清抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓又はリンパ節を摘出し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、固相化した抗原ペプチドと抗血清とを反応させた後、固相に結合した抗原ペプチド特異的抗体を、放射性物質や酵素で標識した免疫動物種の抗体に対する抗体により検出することにより行なうことができる。融合操作は既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー (Nature), 256巻, 495頁 (1975年)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール (PEG) やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
骨髄腫細胞としては、例えば、NS-1、P3U1、SP2/0などが挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞 (脾臓細胞) 数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり、PEG (好ましくは、PEG1000〜PEG6000) が10〜80%程度の濃度で添加され、約20〜40℃、好ましくは約30〜37℃で約1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0040】
融合細胞(ハイブリドーマ)の選別は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT (ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン) を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別及び育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%の牛胎児血清を含むGIT培地 (和光純薬工業(株)) 又はハイブリドーマ培養用無血清培地 (SFM-101、日水製薬(株)) などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば、抗原ペプチドを直接あるいは担体とともに吸着させた固相 (例、マイクロプレート) にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体 (細胞融合に用いられる抗体産生細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる) 又はプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体又はプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識した抗原ペプチド等を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。
【0041】
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体 (例、DEAE) による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相又はプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って行なうことができる。
【0042】
抗体医薬がヒトを投与対象とする場合、該抗体は通常、ヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、非ヒト−ヒトキメラ抗体などであることが望ましい。本発明においても、所望により、これらのヒト化された抗体を使用することができる。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、自体公知の方法に従って遺伝子工学的に作製することができる。また、完全ヒト抗体は、ヒト−ヒト(もしくはヒト−マウス)ハイブリドーマより製造することも可能であるが、ヒト抗体産生動物(例:マウス、ウシ)またはファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
しかしながら、本発明の自己免疫応答抑制剤においては、治療抗体は口腔内に存在する本発明のペプチドと結合し、これを捕捉した後、直ちに体外に除去されることから、非ヒト動物由来の抗体であっても、該抗体に対するヒト抗体の産生による悪影響が生じる蓋然性が低い。したがって、製造コストの高いヒト化されたモノクローナル抗体を用いなくとも、非ヒト温血動物から大量に産生され得るポリクローナル抗体を使用することが可能である。
【0043】
本発明のポリクローナル抗体は、それ自体公知あるいはそれに準じる方法にしたがって製造することができる。例えば、ケラチン、または上記(I)の本発明のペプチドもしくはそのフラグメントとキャリアタンパク質との複合体を、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に温血動物に免疫し、該免疫動物から該抗原に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。
温血動物を免疫するために用いられるハプテンとキャリアタンパク質との複合体に関し、キャリアタンパク質の種類及びキャリアとハプテンとの混合比は、キャリアに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、KLH等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合で結合させる方法が用いられる。
又、ハプテンとキャリアタンパク質のカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なうことができる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された温血動物の血液、腹水、母乳、卵などから採取することができる。
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0044】
上述のように、本発明において、歯肉上皮に存在するケラチンの歯周病菌酵素分解産物は、好ましくはKeratin 5、Keratin 6、Keratin 14またはKeratin 17あるいはその類似体(例えばパラログ)の該酵素(例、ジンジパイン)分解産物であり、より好ましくは、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドである。ここで「実質的に同一のアミノ酸配列」とは、上記(II-1)と同義である。したがって、本発明の治療抗体は、好ましくは、Keratin 5、Keratin 6、Keratin 14またはKeratin 17あるいはその類似体(例えばパラログ)の該酵素(例、ジンジパイン)分解産物を特異的に認識し、結合し得る抗体、より好ましくは、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチドを認識し、結合し得るペプチドである。
【0045】
(II-3)ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する他の物質/ケラチンもしくは該ペプチドに対する自己抗体に親和性を有する他の物質
ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する他の物質としては、例えば、ケラチンもしくは該ペプチドに対するアプタマーなどが、また、本発明の自己抗体に親和性を有する他の物質としては、例えば、該抗体に対する二次抗体やアプタマーなどが挙げられる。ケラチンもしくは本発明のペプチドに対するアプタマー/本発明の自己抗体に対するアプタマーは、自体公知のSELEX技術により取得することができる。一方、本発明の自己抗体に対する二次抗体は、該自己抗体またはそのフラグメント(例、F(ab’)2、Fab)を免疫原として、上記(II-2)に記載の方法に従って取得することができる。尚、SELEX法や動物の免疫に供する本発明の自己抗体は、歯周病患者由来の歯間液、血清、血漿などから、本発明のペプチドに対するアフィニティーを利用して単離することができる。得られる自己抗体をペプシンやパパインで消化することにより、所望のフラグメントを得ることができる。
【0046】
(III)自己免疫応答抑制剤の調製
上記のようにして得られるケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質および/または本発明の自己抗体に親和性を有する物質は、それ自体を単独で、または適当な組成物として、自己免疫応答抑制剤に製剤化することができる。該組成物としては、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質および/または本発明の自己抗体に親和性を有する物質と、薬理学的に許容され得る添加剤とを含むものが挙げられる。好ましくは、該組成物は口腔内投与に適した組成物(口腔用組成物)である。口腔用組成物は、その形態に応じて種々の添加剤を配合し、練歯磨、液体歯磨、洗口剤、口腔用ゲル剤等として提供することができる。
【0047】
本発明の自己免疫応答抑制剤中に配合される、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質および本発明の自己抗体に親和性を有する物質の量は、口腔内に存在するケラチン、本発明のペプチドおよび本発明の自己抗体を吸着除去するのに十分な量であれば特に制限されないが、例えば、組成物全体に対して50〜0.01重量%、好ましくは5〜0.1重量%の範囲で適宜選択することができる。ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質、本発明の自己抗体に親和性を有する物質は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、歯間液中のケラチンもしくは本発明のペプチドおよび/または本発明の自己抗体の存在の有無を、後述の歯周病診断のための検査方法を用いて試験し、存在が確認されたケラチンもしくはペプチドおよび/または自己抗体に親和性を有する物質から選ばれる1種以上の物質を配合させることが好ましい。
【0048】
口腔用組成物に用いられる添加剤としては、例えば殺菌剤、界面活性剤、研磨剤、湿潤剤、1価アルコール、粘結剤、香料、甘味剤、pH調整剤、防腐剤、色素等が挙げられ、それぞれ本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
殺菌剤としては、第4級アンモニウム塩、ビスビグアニド系、フェノール系、非カチオン性殺菌剤が例示できる。第4級アンモニウム塩としては、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルピリジニウム等が挙げられる。ビスビグアニド系殺菌剤としては、ビスビグアニドヘキサン類、ビスビグアニドプロピルエーテル類、ビスビグアニドキシレン類、ビスビグアニドデカン類、ビスビグアニドドデカン類及びそれらの化学的に許容される塩などが挙げられ、ビスビグアニドヘキサン類として、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンなどのクロルヘキシジン塩類が例示される。フェノール系殺菌剤としては、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオールが挙げられる。非カチオン性殺菌剤としてはトリクロサンが挙げられる。
【0049】
界面活性剤として、ノニオン性、カチオン性、両性界面活性剤を単独または2種以上を組合わせて配合することができる。ノニオン性界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステルやマルトース脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートやポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリン酸ジエタノールアミドのような脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンブロックコポリマーなどが挙げられる。両性界面活性剤としてはアミノ酸型、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、スルホベタイン型、イミダゾリン型等であり、好ましくは2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインまたはヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインなどが挙げられる。
【0050】
研磨剤として、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、酸化チタン、非晶質シリカ、結晶質シリカ、アルミノシリケート、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、レジンなどを、単独または2種以上を組合わせて配合することができる。
【0051】
湿潤剤としては、例えば、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリトール、マルチトール、ラクチトールなどの多価アルコールを、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0052】
1価アルコールとしては、例えば、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどが挙げられ、特にエタノールが好ましい。これら1価アルコールは単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0053】
粘結剤としては、例えば、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム等のアルカリ金属アルギネート、キサンタンガム、トラガカントガム、アラビアガム等のガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成粘結剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム等の無機粘結剤などが挙げられる。
【0054】
香味剤としては、例えば、アネトール、メントール、ペパーミント油、スペアミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、カルボン、シンナミックアルデヒド、シネオール、メントン、リモネン、サリチル酸メチルなどを本発明の効果を損なわない範囲で、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0055】
甘味剤としては、例えば、パラチニット、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒドなどが挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0056】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウムなどが挙げられ、これらは、組成物のpHが5〜9の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0057】
さらに、本発明の口腔用組成物には、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロールなどのビタミンE類、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)などの酵素、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸の抗プラスミン剤、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルリチン塩類、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、水溶性無機リン酸化合物、フッ化物としてフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、フッ化銅、フッ化亜鉛、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化ジルコニウム、フッ化スズ、フッ化水素酸、モノフルオルリン酸ナトリウム、モノフルオルリン酸カリウム、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン、フッ化ジアンミン銀などを、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。本発明の口腔用組成物は、これらの成分を混合し、通常の方法に従って製造することができる。
【0058】
さらに、口腔内粘膜滞留性を向上させるため、ゼラチン、コラーゲン、コンニャクマンナン、プルラン、キトサン、デンプンなどの天然高分子、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマーなどの合成高分子、デキストラン、ポリアクリルデキストランなどの多糖類、大豆レシチン、卵黄レシチンなどのレシチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルブミン、シクロデキストリン等から、単独または2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0059】
ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質、本発明の自己抗体に親和性を有する物質は、口腔用組成物中に遊離した状態で配合されていてもよいし、別の好ましい態様においては、例えば、マイクロビーズのような不溶性担体上に固相化して配合させることもできる。
【0060】
ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質および/または本発明の自己抗体に親和性を有する物質を含有する口腔用組成物は、例えば、一回量として1〜30g程度を、1日1〜5回程度適用することができる。
【0061】
歯周病における自己免疫応答は、歯肉上皮に存在するケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物に対する自己抗体の産生によって惹起される。したがって、歯周病菌酵素阻害剤を本発明の自己免疫応答抑制剤と併用することにより、自己免疫応答の抑制効果をさらに向上させることができ、歯周病およびその合併症の予防・治療などに有効である。そのような歯周病菌酵素阻害剤としては、例えば、上記の特許文献1〜4や非特許文献4〜7に記載のものが挙げられるほか、後述のスクリーニング方法により選択される新規な歯周病菌酵素阻害剤も含まれる。該阻害剤は、本発明の自己免疫応答抑制剤中に配合して用いてもよいし、あるいは別個に製剤化してもよい。本発明の自己免疫応答抑制剤と歯周病菌酵素阻害剤とをそれぞれ別個に適用する場合、両者は同時に口腔内に投与されてもよいし、時間をおいて投与されてもよい。
【0062】
別の実施態様においては、本発明の自己免疫応答抑制剤を免疫吸着療法として知られる、自己抗体除去法に適用することもできる。本法は、例えば、糖尿病や動脈硬化やアルツハイマー病の基礎疾患を有していたり、低体重児早産の危険のある妊婦で、歯周病における自己免疫応答が重篤な患者のように、致死的な合併症の危険の高い患者に対して適用され得る。例えば、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質および/または本発明の自己抗体に親和性を有する物質を適当な不溶性担体に結合させた吸着カラムを作製し、これを、人工透析などに使用される自体公知の血漿分離器の血漿成分の流路に挿入することにより、血漿中に存在するケラチンもしくは本発明のペプチドおよび/または本発明の自己抗体を吸着除去することができる。さらに血球成分と該吸着カラムとを接触させることにより、ケラチンのフラグメントまたは本発明のペプチドもしくはそのフラグメントを抗原提示する細胞や自己抗体産生細胞を吸着除去することも可能である。
【0063】
(IV)ケラチンもしくはその分解産物に対する自己免疫応答の抑制物質のスクリーニング 上述のケラチンもしくは本発明のペプチド、本発明の自己抗体に対する二次抗体などのペプチド性物質、あるいは本発明の自己抗体に対するアプタマーなどの核酸性物質以外の物質であっても、本発明の自己抗体に親和性を有する限り、本発明の自己免疫応答抑制剤の有効成分として利用することができる。したがって、本発明はまた、本発明の自己抗体に親和性を有する物質を選択することによる、ケラチンもしくは本発明のペプチドに対する自己免疫応答の抑制物質のスクリーニング方法を提供する。当該方法は以下の工程を含む。
(1) 本発明の自己抗体と被検物質とを接触させる工程
(2) 両者の結合度を測定する工程
(3) 該自己抗体に結合した被検物質を該自己免疫応答の抑制物質の候補として選択する工程
本発明の自己抗体は上述の方法により、歯周病患者の歯間液、血清、血漿などから取得することができる。
被検物質としては、例えば、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
本発明の自己抗体と被検物質との結合度は、自体公知の各種方法を適宜組み合わせて測定することができる。例えば、被検物質を固相上に固定化し、該固相と本発明の自己抗体とを接触させ(例えば、該自己抗体溶液を固相に添加する等)、未反応の抗体を除去した後、該抗体に対する標識した二次抗体を該固相と接触させ、固相に結合した標識量を測定することにより行うことができる。あるいは、本発明の自己抗体を固相上に固定化し、被検物質の存在下および非存在下で、該抗体の抗原である、標識したケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物を該固相と反応させ、固相に結合する標識量を測定・比較することにより行うこともできる。さらには、本発明の自己抗体と被検物質とのいずれか一方をセンサーチップ上に固定化し、他方を該センサーチップに接触させた後、表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて、両者の結合度を測定することもできる。
【0064】
(V)RANKL発現抑制剤
歯肉組織から血液中に移行したケラチンもしくは本発明のペプチドは、T細胞の増殖を刺激し、それらに対する自己免疫応答を誘発するだけでなく、T細胞におけるRANKLの発現を誘導する。この活性化T細胞は、マクロファージを刺激してTNF-α、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインを誘導し、歯周炎を惹起・増悪させるとともに、骨芽細胞や骨髄ストローマ細胞におけるRANKLの発現を誘導する。これらのRANKL発現細胞が、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化を誘導して骨吸収を促進することにより、歯槽骨の破壊をもたらすと考えられる。したがって、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質は、ケラチンもしくは該ペプチドがT細胞等に作用するのを遮断することができるので、T細胞等におけるRANKLの発現を阻害して、歯槽骨破壊や歯周炎の惹起・増悪を抑制することができる。即ち、本発明はまた、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質を含有してなるRANKL発現阻害剤、歯周病およびその合併症の予防・治療剤を提供する。
【0065】
ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質としては、例えば、上述のケラチンもしくは本発明のペプチドに対する抗体、ケラチンもしくは本発明のペプチドに対するアプタマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってもよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
【0066】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤、鼻腔内投与剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質を、通常注射剤に用いられる無菌の水性液または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
【0067】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していてもよい。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0068】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質は、投薬単位剤形当たり通常0.1〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mg含有されていることが好ましい。
【0069】
ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質を1回量として、通常0.0001〜20mg/kg体重程度、低分子化合物であれば1日1〜5回程度、経口または非経口で、抗体や核酸等であれば1日〜数ヶ月に1回、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0070】
(VI)RANKL発現の抑制物質のスクリーニング(1)
上述のケラチンもしくは本発明のペプチドに対する抗体やアプタマーなどのペプチド性もしくは核酸性物質以外の物質であっても、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する限り、本発明のRANKL発現抑制剤の有効成分として利用することができる。したがって、本発明はまた、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質を選択することによる、RANKL発現抑制物質のスクリーニング方法を提供する。当該方法は以下の工程を含む。
(1) ケラチンもしくは本発明のペプチドと被検物質とを接触させる工程
(2) 両者の結合度を測定する工程
(3) ケラチンもしくは該ペプチドに結合した被検物質をRANKL発現の抑制物質の候補として選択する工程
ケラチンもしくは本発明のペプチドは上述の方法により取得することができる。
被検物質としては、例えば、タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
ケラチンもしくは本発明のペプチドと被検物質との結合度は、自体公知の各種方法を適宜組み合わせて測定することができる。例えば、被検物質を固相上に固定化し、該固相とケラチンもしくは本発明のペプチドとを接触させ、未反応のケラチンもしくは該ペプチドを除去した後、ケラチンもしくは該ペプチドに対する標識した抗体を該固相と接触させ、固相に結合した標識量を測定することにより行うことができる。あるいは、ケラチンもしくは本発明のペプチドを固相上に固定化し、被検物質の存在下および非存在下で、ケラチンもしくは該ペプチドに対する標識した抗体を該固相と反応させ、固相に結合する標識量を測定・比較することにより行うこともできる。さらには、ケラチンもしくは本発明のペプチドと被検物質とのいずれか一方をセンサーチップ上に固定化し、他方を該センサーチップに接触させた後、表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて、両者の結合度を測定することもできる。
【0071】
(VII)RANKL発現の抑制物質のスクリーニング(2)
歯肉組織から血液中に移行したケラチンもしくは本発明のペプチドは、T細胞表面上の受容体を介して該細胞におけるRANKL発現を誘導するものと考えられる。したがって、該受容体に対してアンタゴニスト活性(即ち、リガンドであるケラチンもしくは本発明のペプチドと競合的に該受容体に結合して該リガンドによるRANKL発現誘導を遮断する作用)を示す物質は、ケラチンもしくは本発明のペプチドに親和性を有する物質と同様に、RANKL発現の抑制物質として有用である。即ち、本発明はまた、ケラチンもしくは本発明のペプチドの受容体に対してアンタゴニスト活性を示す物質を選択することによる、RANKL発現の抑制物質のスクリーニング方法を提供する。当該方法は以下の工程を含む。
(1) 被検物質の存在下および非存在下で、ケラチンもしくは本発明のペプチドで感作した非ヒト哺乳動物由来のT細胞と、該ケラチンもしくは該ペプチドとを接触させる工程
(2) 被検物質の存在下および非存在下における
a) T細胞への該ケラチンもしくは該ペプチドの結合度、
b) T細胞の増殖度、および
c) T細胞におけるRANKLの発現レベル
からなる群より選択される1以上を、測定する工程
(3) 上記a)〜c)のいずれかを低下させた被検物質をRANKL発現の抑制物質の候補として選択する工程
非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギなど)をケラチンもしくは本発明のペプチドで感作する方法としては、例えば、ケラチンもしくは本発明のペプチドに対する抗体を作製する際に、動物を免疫するのと同様の方法を用いることができる。該動物由来のT細胞は、例えば該動物から採血して、例えばCD3陽性細胞を、FACSを用いて分離回収することにより採取することができるが、これに限定されない。ケラチンもしくは本発明のペプチドは上述の方法により取得することができる。
被検物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
T細胞へのケラチンもしくは本発明のペプチドの結合度は、例えば、T細胞をプレート上に固定し、これにケラチンもしくは本発明のペプチドを接触させ、未反応の該ケラチンもしくは該ペプチドを除去した後、該ケラチンもしくは該ペプチドに対する標識した抗体を該細胞と接触させ、該細胞に結合した標識量を測定することにより行うことができる。T細胞の増殖度は、例えば、薬剤誘発性リンパ球幼若化試験(DLST)を用いて調べることができる。T細胞におけるRANKLの発現は、定量的RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、ノーザンブロッティングなどによりRNAレベルで、あるいは抗RANKL抗体を用いたELISA、RIA、免疫組織染色、ウェスタンブロッティングなどによりタンパク質レベルで測定することができる。
上記測定の結果、被検物質の非存在下と比較して、T細胞へのケラチンもしくは本発明のペプチドの結合度、T細胞の増殖度、またはT細胞におけるRANKLの発現レベルを20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上低下させた被検物質を、RANKL発現抑制物質の候補として選択することができる。
【0072】
(VIII)ケラチンもしくは本発明のペプチドの受容体のスクリーニング
T細胞表面におけるケラチンもしくは本発明のペプチドの受容体が単離されれば、該受容体と被検物質との結合度や、該受容体を強制発現させたT細胞の増殖や該細胞におけるRANKLの発現レベルを指標として、RANKL発現抑制物質をより効率的にスクリーニングすることができる。ケラチンもしくは本発明のペプチドの受容体は、該ケラチンもしくは該ペプチドに対する親和性を指標として、例えば、SPR法、二面偏波式干渉(DPI)法、two-hybrid法、WO 02/056026に記載される膜タンパク質ライブラリー(MPL)と質量分析とを組み合わせた方法などにより単離することができる。two-hybrid法を用いれば、ケラチンもしくは本発明のペプチドの受容体をコードするDNAを直接取得できるので、該受容体を強制発現させたT細胞を迅速に作製することができる。
【0073】
(IX)歯周病診断
本発明のペプチドや本発明の自己抗体は、歯周病菌患者において特異的に検出されるので、歯周病診断用マーカーとして利用することができる。即ち、本発明は、被験動物より採取した生体試料中の、配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列からなるペプチド群より選ばれる1以上のペプチド、および/または該ペプチド群の各ペプチドに対する自己抗体からなる群より選ばれる1以上の自己抗体の量を測定することを特徴とする、該被験動物における歯周病の診断のための検査方法を提供する。ここで「実質的に同一のアミノ酸配列」とは上記(II-1)と同義である。また、「診断のための検査」とは、該ペプチドおよび/または該自己抗体の量の測定、並びに必要に応じて対照サンプルにおける測定値との比較を意味する。被験動物としては、歯周病に罹患していることが疑われる哺乳動物(例、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、マウス、ラット等)が挙げられる。
【0074】
被験試料となる被験動物由来の生体試料は特に限定されないが、動物への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血漿、血清、歯間液、尿、唾液などの生体から容易に採取できるものが挙げられる。血清や血漿を用いる場合、常法に従って被験動物から採血し、液性成分を分離することにより調製することができる。歯間液を用いる場合、例えば、後述の実施例に記載される方法等により調製することができる。
【0075】
検出対象が本発明のペプチドである場合、必要に応じて、スピンカラムなどを用いて、予め高分子量のタンパク質画分などを分離除去しておくこともできる。一方、検出対象が本発明の自己抗体である場合は、予め低分子量のペプチド画分などを分離除去しておくこともできる。
【0076】
(IX-1)本発明のペプチドの検出(1)
生体試料中の、本発明のペプチドの検出は、例えば、生体試料を各種の分子量測定法、例えば、ゲル電気泳動や、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計など)を組み合わせる方法等に供し、該ペプチドの分子量と一致するバンドもしくはスポット、あるいはピークを検出することにより行うことができるが、これらに限定されない。本発明のペプチドはアミノ酸配列が既知であるので、該アミノ酸配列を認識する抗体を作製して、ウェスタンブロッティングや各種イムノアッセイにより該ペプチドを検出する方法が、より好ましく用いられ得る。さらに上記方法のハイブリッド型検出法も有効である。
【0077】
配列番号1〜10に示される各アミノ酸配列からなるペプチドは、それぞれ2215.10、2277.18(Metが酸化されている場合、2293.18)、2638.37、1377.73、2543.20、1221.64、1410.66、1658.88、1885.91および2175.10の分子量(計算値)を有するが、用いられる測定方法・測定機器に応じて、実測値は若干変動し得ることはいうまでもない。例えば、質量分析計を用いる方法による場合は、計算値±0.5%(好ましくは±0.3%、より好ましくは±0.1%)の位置に出現するピーク強度を測定することが好ましい。
【0078】
本発明の検査方法における特に好ましい測定法の1つは、飛行時間型質量分析に使用するプレートの表面に被験試料を接触させ、該プレート表面に捕捉された成分の質量を飛行時間型質量分析計で測定する方法が挙げられる。
飛行時間型質量分析計に適合可能なプレートは、検出対象である本発明のペプチドを効率よく吸着し得る表面構造を有している限り、いかなるものであってもよい。そのような表面構造としては、例えば、官能基付加ガラス、Si、Ge、GaAs、GaP、SiO
2、SiN
4、改質シリコン、広範囲のゲル又はポリマー(例えば、(ポリ)テトラフルオロエチレン、(ポリ)ビニリデンジフロリド、ポリスチレン、ポリカーボネート、又はこれらの組合せなど)によるコーティングが挙げられる。複数のモノマー又はポリマー配列を有する表面構造としては、例えば、核酸の直鎖状及び環状ポリマー、ポリサッカライド、脂質、α-、β-又はω-アミノ酸を有するペプチド、クロマトグラフィーで使用されるゲル表面の担体(陰イオン性/陽イオン性化合物、炭素鎖1〜18からなる疎水性化合物、親水性化合物(例えば、シリカ、ニトロセルロース、セルロースアセテート、アガロース等)と架橋した担体など)、人工ホモポリマー(例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアセテート等)、上記化合物のいずれかに既知の薬物又は天然化合物が結合(共有及び非共有結合)したヘテロポリマー等によるコーティングが挙げられる。
【0079】
好ましい実施態様においては、質量分析用プレートとして用いられる支持体は、ポリビニリデンジフロリド(PVDF)、ニトロセルロースまたはシリカゲル、特に好ましくはPVDFで薄層コーティングされた基材[通常、質量分析用プレートにおいて使用されているものであれば、特に限定されず、例えば、絶縁体(ガラス、セラミクス、プラスチック・樹脂等)、金属(アルミニウム、ステンレス・スチール等)、導電性ポリマー、それらの複合体などが挙げられるが、好ましくはアルミニウムプレートが用いられる]である(WO 2004/031759を参照)。支持体の形状は、使用する質量分析装置の、特に試料導入口に適合するような形状に適宜考案され得るが、それらに限定されない。かかるPVDFで薄層コーティングされた質量分析用プレートとして、好ましくはプロトセラ社のブロットチップ(登録商標)などが挙げられる。
【0080】
好ましくは、コーティングは、メンブレンのように予め成型された構造体を支持体上に重層するのではなく、コーティング分子が分散した状態で支持体上に堆積されて形成される薄層をいう。コーティング分子が堆積される態様は特に制限されないが、後述の質量分析用プレートの調製方法において例示される手段が好ましく用いられる。
薄層の厚さは、組織もしくは細胞に含まれる分子の転写効率および質量分析の測定感度等に好ましくない影響を与えない範囲で適宜選択することができるが、例えば、約0.001〜約100 μm、好ましくは約0.01〜約30 μmである。
【0081】
質量分析用プレート(支持体)は自体公知の方法により調製することができるが、例えば、上記の好ましい質量分析用プレートは、PVDF等のコーティング分子で支持体表面を薄層コーティングすることにより調製される。コーティングの手段としては、塗布、噴霧、蒸着、浸漬、印刷(プリント)、スパッタリングなどが好ましく例示される。
「塗布」する場合、コーティング分子を、適当な溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(dimethyl formamide;DMF)などの有機溶媒に適当な濃度(例えば、約1〜約100 mg/mL程度)で溶解したもの(コーティング分子含有溶液)を、刷毛などの適当な道具を用いて基材に塗布することができる。
「噴霧」する場合、上記と同様にして調製したコーティング分子含有溶液を噴霧器に入れ、基材上に均一にPVDFが堆積されるように噴霧すればよい。
「蒸着」する場合、通常の有機薄膜作製用真空蒸着装置を用い、基材を入れた真空槽中でコーティング分子(固体でも溶液でもよい)を加熱・気化させることにより、基材表面上に該分子の薄層を形成させることができる。
「浸漬」させる場合、上記と同様にして調製したコーティング分子含有溶液中に基材を浸漬させればよい。
「印刷(プリント)」する場合は、基材の材質に応じて通常使用され得る各種印刷技術を適宜選択して利用することができ、例えば、スクリーン印刷などが好ましく用いられる。
「スパッタリング」する場合は、例えば、真空中に不活性ガス(例、Arガス等)を導入しながら基材とコーティング分子間に直流高電圧を印加し、イオン化したガスを該分子に衝突させて、はじき飛ばされたコーティング分子を基材上に堆積させて薄層を形成させることができる。
コーティングは基材全面に施してもよいし、質量分析に供される面(画分)のみに施してもよい。
【0082】
コーティング分子は、コーティング手段に応じて適宜好ましい形態で使用することができ、例えば、コーティング分子含有溶液、コーティング分子含有蒸気、固体コーティング分子などの形態で基材にアプライされ得るが、コーティング分子含有溶液の形態でアプライすることが好ましい。「アプライする」とは、接触後にコーティング分子が支持体上に残留・堆積されるように支持体に接触させることをいう。アプライ量は特に制限はないが、コーティング分子の量として、例えば、約10〜約100,000 μg/cm
2、好ましくは約50〜約5,000 μg/cm
2が挙げられる。アプライ後に溶媒は自然乾燥、真空乾燥などにより除去する。
【0083】
質量分析用プレートにおける基材は、コーティング分子でコーティングする前に予め適当な物理的、化学的手法により、その表面を修飾(加工)しておいてもよい。具体的には、プレート表面を磨く、傷を付ける、酸処理、アルカリ処理、ガラス処理(テトラメトキシシランなど)等の手法が例示される。
【0084】
被験試料の質量分析用プレート(支持体)への移行は、被験試料となる患者由来の生体試料を未処理のままで、あるいは抗体カラムその他の方法で高分子タンパク質を除去、濃縮した後に、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動もしくは等電点電気泳動に付し、泳動後ゲルをプレートと接触させて転写(ブロッティング)することにより行われる。転写装置としては公知のものを用いることができる。転写の方法自体は公知である。好ましくは電気転写が用いられる。泳動後ゲルに展開された試料は、種々の方法(拡散、電気力その他)によって質量分析用プレートに移行される。電気転写時に使用する緩衝液としては、pH 7〜9、低塩濃度のものを用いることが好ましい。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液などが例示される。トリス緩衝液としては、トリス/グリシン/メタノール緩衝液、SDS-トリス−トリシン緩衝液など、リン酸緩衝液としては、ACN/NaCl/等張リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム/ACNなど、ホウ酸緩衝液としては、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液、トリス−ホウ酸塩/EDTA、ホウ酸塩/ACNなど、酢酸緩衝液としては、トリス−酢酸塩/EDTAなどが挙げられる。好ましくは、トリス/グリシン/メタノール緩衝液、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液である。トリス/グリシン/メタノール緩衝液の組成としては、トリス10〜15 mM、グリシン70〜120 mM、メタノール7〜13%程度が例示される。ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液の組成としては、ホウ酸ナトリウム5〜20 mM程度が例示される。
【0085】
これにより、標的分子を含めて、被験試料中に存在する分子は支持体表面上に効率よく捕捉される。プレートを乾燥させた後、後の質量分析(MALDI法による場合)に有利なように、レーザー光を吸収し、エネルギー移動を通じて分析対象物分子のイオン化を促進するためにマトリックスと呼ばれる試薬を添加することもできる。当該マトリックスとしては、質量分析において公知のものを用いることができる。例えば、シナピン酸(sinapinic acid;SPA (=3,5-dimethoxy-4-hydoroxycinnamic acid))、インドールアクリル酸(Indoleacrylic acid;IAA)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-dihydroxybenzoic acid;DHB)、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid;CHCA)等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、DHBまたはCHCAである。
【0086】
上記の方法により支持体表面上に捕捉された被験試料中の分子を質量分析することにより、分子量に関する情報から、標的分子である本発明のペプチドの存在および量を同定することができる。
質量分析装置は、ガス状の試料をイオン化した後、その分子や分子断片を電磁場に投入し、その移動状況から質量数/電荷数によって分離、物質のスペクトルを求めることにより、物質の分子量を測定・検出する装置である。試料とレーザー光を吸収するマトリックスを混合、乾燥させて結晶化し、マトリックスからのエネルギー移動によるイオン化とレーザー照射による瞬間加熱により、イオン化した分析対象物を真空中に導くマトリックス支援レーザー脱イオン化(MALDI)と、初期加速による試料分子イオンの飛行時間差で質量数を分析する飛行時間型質量分析(TOFMS)とをあわせて用いるMALDI-TOFMS法、1分析対象物を1液滴にのせて液体から直接電気的にイオン化する方法、試料溶液を電気的に大気中にスプレーして、個々の分析対象物多価イオンをunfoldの状態で気相に導くナノエレクトロスプレー質量分析(nano-ESMS)法等の原理に基づく質量分析装置を使用することができる。
質量分析用プレート上の分子を質量分析する方法自体は公知である。例えば、WO 2004/031759に記載の方法を、必要に応じて適宜改変して使用することができる。
【0087】
質量分析の結果から、標的分子の分子量情報に基づいて、被験試料中の標的分子の有無およびその量が同定され得る。この工程において、質量分析装置からの情報を、任意のプログラムを用いて、健常者由来の生体試料における質量分析データと比較して、示差的な(differential)情報として出力させることも可能である。そのようなプログラムは周知であり、また、当業者は、公知の情報処理技術を用いて、容易にそのようなプログラムを構築もしくは改変することができることが理解されよう。
【0088】
特に好ましい態様においては、質量分析用プレートとしてプロトセラ社のブロットチップを用いて、上記の各工程を実施し、MALDI型質量分析装置で本発明のペプチドを定量比較(ディファレンシャル解析)する。さらに、必要に応じて、同一チップに残存する該ペプチドを同定することもできる。あるいは、被験試料の定量比較(ディファレンシャル解析)までをプロトセラ社のブロットチップシステムを用いて実施し、該ペプチドの同定を、高速液体クロマトグラフィーとイオンスプレイ型質量分析装置の組み合わせ装置(LC-MS/MS)で実施することも可能である。
【0089】
(IX-2)本発明のペプチドの検出(2)
本発明の検査方法における本発明のペプチドの測定は、それに対する抗体を用いて行うこともできる。かかる方法は、最適化されたイムノアッセイ系を構築してこれをキット化すれば、上記質量分析装置のような特殊な装置を使用することなく、高感度かつ高精度に該ペプチドを検出することができる点で、特に有用である。
【0090】
本発明のペプチドに対する抗体としては、上記(II-2)の治療抗体と同じものを利用することができる。該抗体を用いる本発明の検査方法は、特に制限されるべきものではなく、被験試料中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法、サンドイッチ法、ウェスタンブロッティング、SPR、比濁法等が好適に用いられる。
【0091】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔
125I〕、〔
131I〕、〔
3H〕、〔
14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0092】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
【0093】
サンドイッチ法においては、不溶化した抗体に被験試料を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、被験試料中の本発明のペプチド量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。
【0094】
本発明のペプチドに対するモノクローナル抗体を、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることもできる。
競合法では、被験試料中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被験試料中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被験試料の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被験試料中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被験試料中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被験試料中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0095】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のペプチドの測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies)) (以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0096】
本発明のペプチドはタンパク質分解産物からなるため、通常の「サンドイッチELISAシステム」では、未分解のタンパク質や、切断部位が共通の類似ペプチド等様々な分子が測定値に影響を与える可能性がある。そこで、第1工程において、生体試料を抗体により免疫アフィニティ精製し、抗体に結合したフラクションを、第2工程において質量分析に付し、精緻な分子量を基準に同定、定量する、いわゆる免疫質量分析法を利用することができる(例えば、Rapid Commun. Mass Spectrom. 2007, 21: 352-358を参照)。例えば、生体試料として血液試料を用いる場合、該試料をそのままMALDI型質量分析計で測定しても、バイオマーカーのピークは観察されないが、免疫質量分析法によれば、未分解のタンパク質も類似ペプチドも、質量分析計で完全に分離され、バイオマーカーの正確な分子量を基準に高い特異性と感度で定量が可能となる。
【0097】
あるいは、本発明の抗体を用いる別の本発明の検査方法として、該抗体を上記したような質量分析計に適合し得るプローブの表面上に固定化し、該プローブ上の該抗体に被検試料を接触させ、該抗体に捕捉された生体試料成分を質量分析にかけ、該抗体が認識するマーカーペプチドの分子量に相当するピークを検出する方法が挙げられる。
【0098】
(IX-3)本発明の自己抗体の検出
本発明の検査方法における本発明の自己抗体の測定は、該自己抗体が認識するペプチド、該自己抗体に対する二次抗体、該自己抗体が認識するペプチドを認識する抗体などを用いて行うことができる。本発明の自己抗体が認識するペプチドとしては、上記(II-1)の治療ペプチドと同じものを利用することができる。本発明の自己抗体に対する二次抗体としては、上記(II-3)に記載の治療用二次抗体と同じものを利用することができる。本発明の自己抗体が認識するペプチドを認識する抗体としては、上記(II-2)の治療抗体と同じものを利用することができる。本発明の検査方法は、特に制限されるべきものではなく、被験試料中の自己抗体量に対応した抗原、抗体もしくは抗原−抗体複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗体を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法、サンドイッチ法、ウェスタンブロッティング等が好適に用いられる。
【0099】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤、抗原あるいは抗体の不溶化方法などは、上記(IX-2)で例示したものを同様に使用することができる。
【0100】
好ましい一実施態様においては、自己抗体が認識する不溶化したペプチドに被験試料を反応させ(1次反応)、さらに該自己抗体に対する標識二次抗体もしくは標識抗原を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、被験試料中の本発明の自己抗体量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。
【0101】
競合法では、被験試料中の自己抗体と、同じ抗原を認識する標識抗体とを抗原ペプチドに対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗体(F)と、抗原と結合した標識抗体(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被験試料中の自己抗体量を定量する。
イムノメトリック法では、被験試料の自己抗体と、同じ抗原を認識する固相化抗体とを一定量の標識化抗原に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被験試料中の自己抗体と過剰量の標識化抗原とを反応させ、次に固相化抗体を加え未反応の標識化抗原を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被験試料中の自己抗体量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被験試料中の自己抗体量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0102】
あるいは、表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて、市販のセンサーチップ(例、Biacore製)の表面上に、常法に従って自己抗体が認識するペプチドを固定化し、これに被験試料を接触させた後、該センサーチップに特定の波長の光を特定の角度から照射し、共鳴角度の変化を指標にして、固定化したペプチドへの自己抗体の結合の有無を判定することができる。あるいはまた、自己抗体が認識するペプチドを上記したような質量分析計に適合し得るプローブの表面上に固定化し、該プローブ上の該ペプチドに被験試料を接触させ、該ペプチドに捕捉された生体試料成分を質量分析にかけ、該ペプチドを認識する自己抗体の分子量に相当するピークを検出する方法などによっても、本発明の自己抗体の測定が可能である。
【0103】
上記のいずれかの方法により測定された被験動物由来の試料中の本発明のペプチドおよび/または本発明の自己抗体のレベルが、正常動物由来の対照試料中の該マーカーのレベルに比べて有意に上昇している場合、該被験動物は歯周病に罹患している可能性が高いと診断することができる。
【0104】
本発明の検査方法は、患者(患畜)から時系列で生体試料を採取し、各試料における本発明のペプチドおよび/または本発明の自己抗体の発現の経時変化を調べることにより行うことが好ましい。生体試料の採取間隔は特に限定されないが、患者(患畜)のQOLを損なわない範囲でできるだけ頻繁にサンプリングすることが望ましい。これらのマーカーのレベルが経時的に減少した場合には、該患者(患畜)における歯周病の病態が改善されている可能性が高いと判定することができる。
【0105】
さらに、上記時系列的なサンプリングによる歯周病の検査方法は、前回サンプリングと当回サンプリングとの間に、被験者である患者(患畜)に対して該疾患の治療措置が講じられた場合に、当該措置による治療効果を評価するのに用いることができる。即ち、治療の前後にサンプリングした試料について、治療後の状態が治療前の状態と比較して病態の改善が認められると判定された場合に、当該治療の効果があったと評価することができる。一方、治療後の状態が治療前の状態と比較して病態の改善が認められない、あるいはさらに悪化していると判定された場合には、当該治療の効果がなかったと評価することができる。
【0106】
(X)歯周病モデル動物の作製方法
後述の実施例に示されるとおり、非ヒト哺乳動物をケラチンもしくは本発明のペプチドで免疫すると、該動物において歯槽骨破壊を生じる。したがって、本発明はまた、非ヒト哺乳動物をケラチンもしくは本発明のペプチドで免疫することによる、歯周病モデル動物の作製方法を提供する。動物をケラチンもしくは本発明のペプチドで免疫する方法としては、上記した方法が同様に利用可能である。該ケラチンもしくは該ペプチドを歯肉内投与して刺激することにより、歯周病の症状をより顕著に再現させることができる。
【0107】
(XI)ケラチン分解促進剤
ジンジパインなどの歯周病菌酵素がケラチン分解作用を有することは、本発明により初めて明らかとなった。したがって、本発明はまた、歯周病菌酵素を含有してなるケラチン分解促進剤を提供する。ケラチン分解促進剤は、例えば、手指、踵、膝、肘、踝などの皮膚角質化の改善、くせ毛の改善、巻き爪等の爪の変形・変色の治療、爪白癬などの爪の感染症の治療、軟膏、クリーム等の薬剤の皮膚透過性の亢進などに利用することができる。
【0108】
歯周病菌酵素としては、好ましくは、P.ジンジバリスが産生するジンジパイン、例えばKgp、RgpBおよびHRgpAが挙げられる。これらの酵素は、例えば、Curr Protoc Protein Sci. 2007 Aug; Chapter 21: Unit 21.20に記載の方法に従って、該歯周病菌から単離精製することができる。また、NCBIデータベースにRefseq No. NC_010729.1として登録されているP.ジンジバリス ATCC33277株の全ゲノム配列中、GeneIDs: 6330196(kgp)、6330928(rgpB)および6330747(rgpA)で示される配列情報に基づいて、これらの酵素遺伝子を常法によりクローニングし、適当な宿主細胞に導入して得られる形質転換体を培養し、培養液から組換え酵素タンパク質を回収することによっても取得することができる。
【0109】
上記のようにして得られる歯周病菌酵素は、それ自体を単独で、または適当な組成物として、医薬部外品を含む化粧料、医薬品等に製剤化することができる。該組成物としては、歯周病菌酵素と薬理学的に許容され得る添加剤とを含むものが挙げられる。好ましくは、該組成物は、水性液剤、軟膏、クリーム、パウダー、ジェル、オイル、スプレー、ワックス、パック、貼付剤等の皮膚、毛髪、爪などへの外用組成物である。
該外用組成物中に配合される歯周病菌酵素の量は特に限定されないが、例えば、組成物全体に対して0.1〜99.9重量%、好ましくは1〜99重量%の範囲で適宜選択することができる。歯周病菌酵素は1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
外用組成物に用いられる添加剤としては、例えば油分、界面活性剤、粉末、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、活性酸素消去剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、pH調整剤、中和剤等が挙げられ、それぞれ本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0111】
歯周病菌酵素を含有する外用組成物は、例えば、一回量として1〜10g程度を、1日1〜5回程度、皮膚、毛髪、爪などの局所に適用することができる。
【0112】
(XII)歯周病菌活性の評価
本発明はまた、微生物のケラチン分解作用を指標として、該微生物の歯周病菌活性(歯周病の原因菌となり得るか否か、あるいはその病原性の程度)を評価する方法を提供する。具体的には、被験菌体やその分泌物(例、培養上清)もしくはその処理物(例、濃縮液、精製画分)をケラチンに接触させ、一定時間インキュベートした後、ケラチンの分解の有無やその程度を評価する。基質となるケラチンとしては、上記(I)の歯肉上皮に存在するケラチン(サイトケラチン)の他、該ケラチンと高い配列類似性を有する硬質ケラチンなども使用することができる。インキュベーションは、例えば、20〜40℃、好ましくは30〜40℃で、0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間行うことができる。ケラチンの分解は、例えば、ゲル電気泳動、ウェスタンブロッティング、質量分析等を用いて、ケラチンタンパク質量の減少、低分子量の分解産物の生成を検出することにより行うことができる。
【0113】
上記の方法により、被験菌体、その分泌物もしくはその処理物の存在下でケラチンの分解が認められた場合、該微生物は歯周病菌活性を有する、即ち哺乳動物の口腔内に感染した場合に歯周病を引き起こす可能性があると判定することができる。
【0114】
(XIII)歯周病制御物質のスクリーニング
歯周病菌によるケラチン分解の抑制もしくは促進作用を指標として、歯周病を抑制する物質または促進する物質をスクリーニングすることができる。当該スクリーニングは、例えば、上記(XII)の歯周病菌活性の評価方法において、被験菌体の代わりに既知の歯周病菌(例、P. ジンジバリス)やその分泌物もしくはその処理物(例、精製ジンジパイン)を用い、ケラチンとの接触の際に被検物質を共存させることにより実施することができる。
被検物質としては、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。特に歯周病促進物質のスクリーニングにあたっては、各種の食物成分、食品添加物等が挙げられる。
インキュベーション終了後、ケラチンの分解を同様に測定し、被検物質の非存在下でインキュベーションしたときと比較して、被検物質の存在下でインキュベーションしたときに有意にケラチンの分解が減少した場合、該被検物質を歯周病抑制物質の候補として選択することができる。一方、被検物質の非存在下でインキュベーションしたときと比較して、被検物質の存在下でインキュベーションしたときに有意にケラチンの分解が増大した場合、該被検物質を歯周病促進物質の候補として選択することができる。
このようにして選択された歯周病抑制物質は、新規歯周病治療薬の候補物質としてさらなる研究開発に供され得る。一方、例えば、ある食品添加物が歯周病促進物質であると判定された場合、当該物質に代替し得るケラチン分解促進作用のない添加物を用いた、歯周病予防に適した食品を開発する上で、有用な情報が提供され得る。
【0115】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0116】
実施例1 ラット歯肉上皮細胞(GEC)由来の歯周病菌酵素分解物の解析
ラットから掻き取った初代歯肉上皮細胞(GEC;6.4×10
6細胞)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回リンスした後、細胞を4群(無処理、Kgp処理、RgpB処理、HRgpA処理)に分け、3種の精製ジンジパインをそれぞれ添加して37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション終了後、各処理液1.5μLを電気泳動用サンプル処理液(NuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer 4x ;Invitrogen)4.5μLと混合し70℃で10分間、加熱処理した後、4-12%グラジェントポリアクリルアミドゲル(Invitorigen)にアプライし電気泳動を行った。電気泳動終了後、ゲルを切り出しBLOTCHIP(登録商標)(Protosera, Inc.)に積層し電気転写用バッファー(BLOTBuffer
TM;Protosera, Inc.)中で90mA,120分間転写した。転写終了後、チップの表面を超純水でリンスし、チップ全体にマトリックス(α-Cyano-4-hydroxy cinnamic acid)を塗布後、matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight (MALDI-TOF) mass spectrometer (Bruker Daltnics社製Ultra-FlexII)で質量分析を行った。測定パラメータは、Detector voltage 1685V, Supression1000, Laser Intensity は28〜35のFuzzyモードで、1チップあたり415点、1点あたり500回のレーザー照射で、総計207,500回レーザー照射を行った。得られたスペクトル中の各ピーク強度をM/z 毎に積算し、1個の積算スペクトルに変換した。積算スペクトルをClinProTools (Bruker Daltonik GmbH) を用いて、各処理液間でディファレンシャルプロファイリング解析を行った。さらにこうして得られた解析結果を実際の積算スペクトル中のピークと照合した。
その結果、Kgp処理したGECにおいて、無処理および他のジンジパイン処理と比較して顕著に上昇している分子量約2215および約2230のペプチド(peak 1およびpeak 2)、RgpB処理したGECにおいて、無処理および他のジンジパイン処理と比較して顕著に上昇している分子量約2277および約2293のペプチド(peak 3およびpeak 4)、並びにRgpBまたはHRgpAで処理したGECにおいて、無処理およびKgp処理と比較して顕著に上昇している分子量約2638のペプチド(peak 5)が見出された(
図1、表1〜2)。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
実施例2 GEC由来の歯周病菌酵素分解物の同定
同定にはmatrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight (MALDI-TOF) mass spectrometer (Bruker Daltnics社製UltraFlexII)を使用し、Bradykinin, AngiotensinII, AngiotensinI, SubstanceP, Bombesin,Renin Substrate, ACTH Clip{1-17}, ACTH Clip{18-39}, Somatostatinを用いて質量校正を行った。その後、リフレクトロン測定モードでプロファイリングをとり、選択したペプチドピークとそのフラグメントイオンからBiotools(Bruker Daltonik GmbH)に組み込まれているMASCOT検索エンジンを通して、NCBInr及び、SwissProtデータベースと合わせ、MS/MS解析による同定を行った。
その結果、peak No. 1、2、3および5のペプチド(それぞれペプチド1、2、3および5という)は、それぞれ配列番号1、15、2および3に示される各アミノ酸配列からなるペプチドであると同定された。尚、peak No. 4のペプチド(ペプチド4という)はペプチド3のMet残基が酸化されたものであった。ホモロジー検索の結果、ペプチド1はKeratin 6A、ペプチド2はKeratin 5、ペプチド3および4はKeratin 14、ペプチド5はKeratin 17のフラグメントであることが明らかとなった。さらに、ヒトを含む他の哺乳動物のオルソログやパラログに対するホモロジー検索を実施した結果を表3〜6に示す。ペプチド1〜5に相当する領域のアミノ酸配列は、哺乳動物間でよく保存されていた。
【0120】
【表3-1】
【0121】
【表3-2】
【0122】
【表3-3】
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
実施例3 ケラチンの歯周病菌酵素分解物のon spotプロファイリングと同定
ケラチン由来のさらなる歯周病菌酵素分解物を同定すべく、on spotプロファイリングを実施した。ヒトKeratin 6およびKeratin 17を、実施例1と同様に精製ジンジパイン(Keratin 6についてはKgp、Keratin 17についてはRgpB)で処理した後、実施例1と同様にして質量分析により該酵素分解物のプロファイリングを行った。結果を
図2に示す。実施例2で同定されたペプチド1(Keratin 6のKgp分解物)やペプチド5(Keratin 17のRgpB/HRgpAの分解物)以外に複数の分解物のピークが検出された。
次に、実施例2と同様にして、検出されたピークの同定を行った。その結果、ヒトKeratin 6のKgp分解物として新たに配列番号4および5に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド6および7)が、ヒトKeratin 17のRgpB分解物として新たに配列番号6〜10に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド8〜12)が同定された(
図3)。さらに、他の哺乳動物のオルソログやパラログに対するホモロジー検索を実施した結果を表3〜6に示す。ペプチド6〜12に相当する領域のアミノ酸配列は、哺乳動物間でよく保存されていた。
【0127】
実施例4 歯周病患者の歯間液中におけるバイオマーカーの存在の確認
歯周炎患者および健常者の歯肉溝に無菌ペーパーポイントに5分間挿入し、この処置を3回繰り返して歯間液を採取した。これらのペーパーポイントを生理食塩水中で浸漬して、歯間液試料を調製した。これらの歯間液試料について、実施例1と同様にしてディファレンシャルプロファイリングを実施した。結果を
図4に示す。ペプチド1、3および5に相当する明瞭なピークが歯周炎患者で検出されたが、健常者では検出されなかった。本実施例により、実際に歯周病患者で歯周病菌酵素によるケラチン分解が起こっていること、従って、これらのケラチン分解物が歯周病のバイオマーカーとして有用であることが示された。
【0128】
実施例5 歯周病患者の血清中におけるバイオマーカーの存在の確認
症状の異なる歯周病患者(軽度、中軽度、重度各3人)および健常者(10人)から採取した血清サンプルについて、実施例1と同様にしてディファレンシャルプロファイリングを実施し、ケラチン分解物の血中における存在を検証した。その結果、ペプチド3が、症状の程度を問わず、歯周病患者の血清中から健常者と比較して有意に高いレベルで検出された(
図5)。また、症状の重い患者で若干血中レベルが高くなる傾向が認められた。以上の結果から、ケラチン分解物は歯間液(歯垢)のみならず、歯周病の血中バイオマーカーとしても有用であることが示された。
【0129】
実施例6 ELISAによる歯周病患者の血漿中におけるバイオマーカーの存在の確認
ペプチド1(Keratin 6のKgp分解産物)に対するモノクローナル抗体を常法に従って作製し、ELISA法により歯周炎患者および健常者の血漿中における該ペプチドの存在を調べた。結果を
図6に示す。健常者由来血漿では、ペプチド1は検出限界以下であったのに対し、歯周炎患者由来の血漿では、該ペプチドが検出された。即ち、歯周病菌酵素によりケラチンが分解されて患者の歯肉上皮組織が破壊され、生成したケラチン分解物が歯肉溝から血中に侵入することが示された。
【0130】
実施例7 全長ケラチンおよびそのフラグメントによるT細胞刺激
歯周炎患者および健常者から採取したリンパ球に関し、全長ヒトKeratin 6およびそのフラグメントであるペプチド1について、薬剤誘発性リンパ球幼若化試験(DLST)を実施した(歯周炎患者:N=22、健常者:N=5)。その結果、全長ヒトKeratin 6およびペプチド1は、歯周炎患者において健常者と比較して顕著なT細胞増殖誘導能を示した(表7)。このことから、血中に侵入したケラチン分解物に対する自己免疫応答の歯周病への関与が示唆された。
【0131】
【表7】
【0132】
実施例8 歯周病患者血清中のKeratin 6分解物および抗ヒトKeratin 6自己抗体の存在の確認
ケラチン分解物に対する自己免疫応答の歯周病への関与を実証すべく、歯肉炎および歯周炎患者の血清中の、Keratin 6のフラグメントであるペプチド1およびそれに対する自己抗体の存在を調べた。ペプチド1の検出はそれに抗ヒトペプチド1モノクローナル抗体を用いたELISA法により、また、抗ヒトKeratin 6自己抗体の検出は全長ヒトKeratin 6タンパク質を用いたウェスタンブロッティングにより行った。結果を
図7に示す。いずれの健常者血清からもペプチド1および抗ヒトKeratin 6自己抗体は検出されなかったのに対し、歯肉炎および歯周炎患者由来の全ての血清において、ペプチド1および抗ヒトKeratin 6自己抗体が検出された。また、ペプチドおよび自己抗体の血中レベルは、重症度の高い歯周炎患者でより高い傾向にあった。
【0133】
実施例9 歯周病患者のリンパ球におけるRANKLの発現上昇
進行性(未治療)、治療中および治療後の歯周炎患者から採血してリンパ球を採取し、全長ヒトKeratin 6(K6;2または4μg/ml)もしくはペプチド1(K6F;60または30μg/ml)で刺激した後に、抗RANKL抗体を用いたウェスタンブロット解析により、リンパ球におけるRANKLの発現を調べた。その結果、健常者(Non-PD)や治療後の歯周炎患者(Maintainance Phase)のリンパ球ではRANKLは発現していないのに対し、未治療および治療中の歯周炎患者のリンパ球では、RANKLの発現上昇が認められた(
図8A)。また、歯周炎患者のリンパ球由来RNAのRT-PCRの結果、全長ヒトKeratin 6(FLK6)もしくはペプチド1(K6F)の刺激によりRANKL mRNAの発現が上昇傾向を示すこと、並びに、抗ペプチド1抗体の共存下(K6F+K6F Ab)ではRANKL mRNAの発現が顕著に抑制されることが示された(
図8B)。蛍光染色により、全長ヒトKeratin 6もしくはペプチド1の刺激によるリンパ芽球形成誘導を調べたところ、RANKL mRNAの発現とよく相関していた(
図8C)。
重症歯周炎患者由来の末梢血単核細胞を全長ヒトKeratin 6(FL)もしくはペプチド1(K6F)で刺激し、抗RANKL抗体および抗CD3抗体を用いて免疫染色を行った。その結果、FLもしくはK6F刺激により、RANKLを発現するCD陽性細胞(T細胞)が顕著に増加した(
図8D)。スクランブルペプチドで刺激しても、RANKL発現T細胞の増加は認められなかった。
【0134】
実施例10 ケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物の刺激による歯周病患者血清中の破骨細胞の分化誘導
歯周病患者および健常者から採血して採取したT細胞を全長ヒトKeratin 6(FL)もしくはペプチド1(K6F)で刺激し、組織染色により多核巨細胞への分化を観察した。その結果、歯周病患者において、FLもしくはK6F刺激により顕著な多核巨細胞への分化が認められた。RANKL阻害剤であるOPG-Fcの添加により、多核巨細胞への分化は顕著に抑制された(
図9A)。また、ピットフォーメーションアッセイの結果、FLもしくはK6F刺激により、象牙質切片に顕著な骨吸収窩の形成が認められた(
図9B)。以上の結果は、FLもしくはK6F刺激によるRANKLの発現誘導が、RANKL/RANKシグナルを介した破骨細胞様の多核巨細胞への分化を誘導し、骨吸収を促進することを強く示唆している。
【0135】
実施例11 ラットにおけるケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物の免疫感作の効果
ラットの左下顎に、PBS、全長ヒトKeratin 6(FLK6)もしくはペプチド1(K6F)を歯肉内注射により投与した。FLK6もしくはK6Fを注射したラットでは下顎リンパ節(Lt)の腫脹が見られたが、PBSを注射したラットでは変化は認められなかった。いずれのラットも、注射していない右側の下顎リンパ節(Rt)の腫脹は観察されなかった(
図10)。次に、これらのラットから採取したリンパ球をFLK6もしくはK6Fで刺激して培養したところ、FLK6もしくはK6Fを注射したラットのリンパ球ではリンパ芽球形成がみられ、FLK6もしくはK6Fで刺激することでさらにリンパ芽球形成が促進された(
図11)。また、これらのラットから末梢血単核白血球を採取し、K6Fまたはスクランブルペプチド(Sc)で刺激した後、FACS分析によりRANKLおよびCD3の発現を調べた。その結果、FL6もしくはK6Fを注射したラットでは、K6F刺激によりRANKLおよびCD3の発現が上昇したが、Sc刺激によってはそれらの発現は誘導されなかった(
図12)さらに、これらのラットにおける歯槽骨破壊を調べたところ、FLK6もしくはK6Fを注射したラットの下顎では、歯槽骨破壊が認められた(
図13)。
【0136】
実施例12 歯肉線維芽細胞へのケラチン歯周病菌酵素分解産物の結合
種々の細胞をFITC標識したペプチド1(K6F、P-1)で刺激して、共焦点顕微鏡下で観察し、K6Fの結合度合をコントロール細胞より何%多いかで示した(
図14)。その結果、歯肉線維芽細胞(GF)は他の細胞と比較してはるかにK6Fとの結合度が高いことが示された。
【0137】
実施例13 ケラチン歯周病菌酵素分解産物の刺激による歯肉線維芽細胞における各種サイトカインの発現誘導およびMAPK経路の活性化
歯肉線維芽細胞をペプチド1(K6F)、組換えKeratin 6(RK6、Rec-K6)もしくはスクランブルペプチド(Sc)で2-24時間刺激した後、MMP-2、MMP-3、MCP-1、IL-6、IL-8の発現量をウェスタンブロット分析により測定した。その結果、これらのサイトカインおよびケモカインは、K6F刺激により顕著に発現が上昇し、活性化されることが示された(
図15A〜D)。次に、歯肉線維芽細胞(GF)および歯肉上皮細胞(GEC)を、それぞれペプチド1(K6F)もしくはスクランブルペプチド(Sc)で15分-2時間刺激した後、GFにおけるp38のリン酸化、並びにIκB-αの発現およびp65 NFκBのリン酸化と、GECにおける代表的なセリン/スレオニンキナーゼの活性化を調べた。その結果、K6FはGFにおけるp38 MAPKの活性化を誘導したが、IκBの分解およびp65 NFκBの活性化は誘導しなかった(
図16A)。また、K6FはGECにおけるERKおよびAktの活性化を誘導した(
図16B)。
以上の結果より、ケラチンもしくはその歯周病菌酵素分解産物は、歯肉組織局所において各種サイトカインおよびケモカインの発現を誘導して炎症を惹起するとともに、骨芽細胞等におけるRANKLの発現を誘導し、一方、血液中に移行した該ケラチンもしくはその分解産物は、T細胞の増殖を刺激するとともに該細胞表面におけるRANKLの発現を誘導し、これらのRANKL発現細胞が破骨細胞前駆細胞のRANKに作用して破骨細胞への分化を誘導し、骨吸収を促進することにより、歯槽骨破壊をもたらし、歯周病を発症および増悪させ、全
身性の合併症を引き起こすことが強く示唆された。