(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明による振動発電素子を説明する。
最初に、
図1を参照して、本発明による振動発電素子10の全体構成を説明する。振動発電素子10は、支持部材12と、支持部材12に支持されている板状の圧電振動体14と、交流直流変換回路(以下、AC/DC変換回路と記載する。)16とを備える。
【0015】
支持部材12は、外部エネルギを付与したときに圧電振動体14が振動することを許容するように圧電振動体14を支持している。
図1に示されている実施形態のように、圧電振動体14の一端が支持部材12に固定されると共に圧電振動体14の他端が自由端となって振動できるように、圧電振動体14が支持部材12に片持ち支持されていることが好ましい。しかしながら、外部エネルギが付与されたときに圧電振動体14の振動を許容するようになっていれば、支持部材12に対する圧電振動体14の支持機構は限定されるものではなく、圧電振動体の少なくとも一端部が支持部材によって支持されていればよい。例えば、外部エネルギを付与したときに圧電振動体14の振動を許容するようになっていれば、圧電振動体14の両端が支持部材12に固定されていてもよい。
【0016】
圧電振動体14は、変形すると圧電効果で起電力を生じる圧電材料によって形成された圧電部材を含んでおり、圧電振動体14が振動すると、振動に伴う変形に応じて交流電圧を生じさせる。
図1に示されている実施形態では、圧電振動体14は、
図2に詳細に示されているように、一端部を支持部材に固定され且つ他端部が自由端になっている、すなわち支持部材12によって片持ち支持されている振動部材18と、振動部材18上に設けられた膜状の圧電部材20と、これを挟むように膜状の圧電部材20の両表面に接続された上側電極22aと下側電極22bとからなる一対の電極22とによって構成されている。しかしながら、圧電振動体14の構成は、外部エネルギが付与されたときに生じる振動に伴う変形に応じて交流電圧を生じさせるようになっていれば、特に限定されるものではない。例えば、
図3に示されているように、板状の圧電部材24と、これを挟むように接続された上側電極26aと下側電極26bとからなる一対の電極26とによって圧電振動体14を構成し、このように構成された圧電振動体14を支持部材12によって支持するようにしてもよい。また、
図1に示されている実施形態では、支持部材12によって支持されている振動部材18の上側表面のみに、一対の電極22に挟まれた膜状圧電部材20が設けられているが、振動部材18の下側表面にも同様に一対の電極に挟まれた膜状圧電部材を設けてもよい。
【0017】
圧電振動体14は、
図1から
図3に示されているように、外部エネルギを付与されたときに生じる圧電振動体14の振動の振幅を大きくするために、錘部材28をさらに備えていることが好ましい。
図1に示されている実施形態では、一端部を支持部材12によって片持ち支持されている圧電振動体14の他端部に錘部材28が設けられている。圧電振動体14が支持部材12によって両端部を支持されている場合には、圧電振動体14の長さ方向の中央部付近に錘部材28を設ければよい。錘部材28は、圧電振動体14が支持部材12によって支持されている部分以外の場所であれば圧電振動体14上の任意の場所に設けることができる。
【0018】
AC/DC変換回路16は、圧電振動体14の振動により生じた交流電圧をセンサ等における使用に適した直流電圧に変換するために設けられている。その典型的な例として、二つのダイオードと二つのコンデンサを用いた構成が
図1に示されているが、交流電圧を直流電圧に変換することができれば、他の構成によってAC/DC
変換回路
16を実現してもよいことはもちろんである。
【0019】
振動発電素子10では、さらに、
図1に示されているように、圧電振動体14の圧電部材20
と上側電極22a及び下側電極22bとが、その幅方向(圧電振動体14の支持端と自由端とを結ぶ方向と垂直な方向
、すなわち平面が長方形状の圧電部材20の長手方向に直交する方向)に複数
(図1では3つ)の部分に均等に分割されて
いる。分割された複数の圧電部材部分(以下、圧電部材分割体と記載する。
)は、互いに同期して振動するように連結されていると共に分割された複数の電極部分(以下、電極分割体と記載する。
)は、後述するように配線によって電気的に直列に接続されている。圧電部材20及び一対の電
極(上側電極22a及び下側電極22b)の分割数は特に限定されるものではない。例えば、
図4に示されている分割されていない圧電部材
20、上側電極22a及び下側電極22bを、
図5に示されているように
それぞれニ分割して圧電部材分割体20’、上側電極分割体22a’、下側電極分割体22b’としてもよく、
図6に示されているように
それぞれ三分割して圧電部材分割体201〜203、上側電極分割体22a1〜22a3、下側電極分割体22b1〜22b3としてもよい。
【0020】
なお、圧電部材20をその幅方向に分割するのは、圧電部材20の長さ方向(支持端と自由端とを結ぶ方向)に分割すると、各圧電部材分割
体の変形量が互いに異なることになって絶縁体のように作用してしまうことを防止するためである。また、圧電部材20を幅方向に分割することによって、各圧電部材分割
体の振動を互いに同期させやすくなり、効率的に電力を取り出すことができるようになる。
【0021】
複数の圧電部材分割
体は、絶縁材料で形成された連結部材によって連結されることによって、互いに同期して振動するようになっている。
図1及び図6に示されている実施形態では、分割されていない一つの振動部材18上に一対の電極分割
体(上側電極分割体22a1〜22a3及び下側電極分割体22b1〜22b3)に挟まれた圧電部材分割体が
3組設けられており、振動部材18が連結部材の機能を果たすことにより、
3組の圧電部材分割体が互いに同期して振動するようになっている。
図3に示されているように、板状の圧電部材24と、これを挟むように接続された上側電極26a及び下側電極26bからなる一対の電極26とによって
構成される圧電振動体14
が、複数に分割されている場合には、例えば、支持部材12によって片持ち支持される複数の圧電振動体14の自由端部に、共有するように一つの錘部材28を接続し、錘部材28を連結部材として機能させることによって、分割された複数の圧電部材24を互いに同期して振動させることができる。
【0022】
複数の圧電部材分割
体を直列に接続する形態は特に限定されないが、例えば
図1を詳細に示す図6に示されているように、第1の圧電部材分割体
201の上面に形成された上側電極
分割体22a1と
それに隣接する第2の圧電部材分割体
202の下面に形成された下側電極
分割体22b2とを配線で接続し、第2の圧電部材分割体
202の上面に形成された上側電極
分割体22a2とそれに隣接する第3の圧電部材分割体
203の下面に形成された下側電極
分割体22b3とを配線で接続し、第1の圧電部材分割体
201の下面に形成された下側電極
分割体22b1と第3の圧電部材分割体
203の上面に形成された上側電極
分割体22a3とをAC/DC変換回路16の入力側両端子に接続すればよい。
【0023】
次に、
図1を参照して、本発明による振動発電素子10の動作を説明する。振動発電素子10に外部エネルギが付与されると、片持ち支持された圧電振動体14に力が作用して圧電振動体14(詳細にはその自由端部)が振動する。圧電振動体14が振動すると、これに伴って圧電振動体14の圧電部材20が変形して圧電効果によって電荷が発生する。この結果、圧電部材20の両表面(
図1における上側表面と下側表面)の間に電位差が生じ、振動する圧電部材20の両表面に接続された一対の電極22を通して交流電圧が出力される。一対の電極22を通して取り出された交流電圧は、AC/DC変換回路16によって直流電圧に変換されて出力される。
【0024】
ここで、面積及び厚さが同じ圧電部材20について分割しない場合と複数個の圧電部材分割
体に分割して直列に接続した場合の発電量を比較する。分割していない圧電部材20の起電力の値をV、内部抵抗の値をrとすると、これが抵抗値Rの負荷抵抗に接続した場合の発電量の最大値P1は以下の
式(1)により求められる。
P1=V
2/(4r) (1)
一方、上記圧電部材20をn個の圧電部材分割
体に均等に分割する
と、n個の圧電部材分割
体の一つ当りの起電力の値はVで変化しないが、内部抵抗の値はn倍すなわちnrとなる。したがって、直列に接続されたn個の圧電部材分割体の全体では、起電力及び内部抵抗がn倍となって、起電力の値がnV、内部抵抗の値がn
2rとなり、発電量の最大値Pnは以下の式(2)により求められる。
Pn=(nV)
2/4(n
2r)=V
2/(4r) (2)
すなわち、全体でみると発電量は変わらない。
【0025】
しかしながら、圧電振動体14から取り出されるのは、交流電圧であり、センサなどの電源として用いる場合には、
図1に示されているように圧電振動体14から出力される交流電圧をAC/DC変換回路16を通して直流電圧に変換して使用する。そこで、AC/DC変換回路に用いられるダイオードの電圧−電流特性を見てみると、
図7に示されているように、ダイオードの閾値電圧に近い場合、例えば起電力が2倍になると、流れる電流は2倍以上になり、AC/DC変換回路16における損失が減少する。したがって、
図1に示される振動発電素子10のように圧電部材20をn個の圧電部材分割体20aに均等に分割して、これらを直列に接続した場合、起電力が分割していない場合と比較してn倍になる一方、AC/DC変換回路16における損失が減少して、出力電力が増加する。
【0026】
図8は、振動発電素子10における振動周波数−交流出力電圧特性を示している。
【0027】
各振動発電素子10は、
図1及び図2に示したように、枠状の支持部材12に一端部
が固定
され且つ他端部に一つの錘部材28を備えた振動部材18の上側表面に、一対の電極22に挟まれた圧電部材20を固定したものを、MEMS微細加工技術によって作製したものであ
る。比較例として、
図4に
示したような分割していない圧電部材20を備えた場合(
図8中の▽:IPZT)が示されていると共に、本発明に従った例として、
図5に示されているように圧電部材20を二つの圧電部材分割
体20’に分割した場合(
図8中の◎:2PZTs)と
図6に示されているように圧電部材20を三つの圧電部材分割
体201〜203に分割した場合(
図8中の▲:3PZTs)が示されている。交流出力電圧は、作製した振動発電素子10を加振器にセットして5m/s
2の加速度で振動させ、加える振動の周波数を共振周波数付近で変化させた場合の交流出力電圧を
図1に「AC電圧」30と示されている区間、すなわちAC/DC変換回路16の前段の位置で測定した。
図8を参照すると、圧電部材20を分割していない場合と比較して、圧電部材20を分割してこれを電気的に直列に接続することで、交流出力電圧が増加することが分かる。また、圧電部材20の分割数を増やすほど交流出力電圧も増加することが分かる。なお、
図8に見られる共振周波数のばらつきは振動発電素子10の作製プロセスに起因するものであり、本発明に本質的な関わりはない。
【0028】
図9は、振動発電素子10における負荷抵抗−直流出力電力特性を示している。
【0029】
各振動発電素子10は、図
8の場合と同様に作製したものであり、比較例として、分割していない圧電部材20を備えた場合(
図9中の▽:IPZT)が示されていると共に、本発明に従った例として、圧電部材20を
図5に示したように二つの圧電部材分割
体20’に分割した場合(
図9中の◎:2PZTs)と圧電部材20を
図6に示したように三つの圧電部材分割
体201〜203に分割した場合(
図9中の▲:3PZTs)が示されている。直流出力電力は、作製した振動発電素子10を加振器にセットして振動させ、
図1に
示した負荷抵抗34を変化させた場合の直流出力電圧を
図1に「DC電圧」32と示されている区間、すなわちAC/DC変換回路16の後段の位置で測定することによって求めた。
図9を参照すると、圧電部材20を分割していない場合と比較して、圧電部材20を分割してこれを電気的に直列に接続することで、直流出力電力が増加していることが分かる。また、圧電部材20の分割数を増やすほど直流出力電力も増加することが分かる。
【0030】
このように、
本実施形態によれば、圧電部材の上下両面に上側電極と下側電極とがそれぞれ形成された振動発電素子10の積層構造体を複数に分割し、その分割した複数の分割
体のうち、隣接する2つの分割体の間で一方の分割体の上側電極を他方の分割体の下側電極に配線により接続することにより、複数の分割体の各上側電極及び下側電極が配線により互いに電気的に直列に接続した構成とすることで
振動発電素子10の起電力を増加させた結果、同じ面積且つ同じ厚さの分割していない圧電部材20を用いる場合と比較して、
振動発電素子10の交流出力電圧が供給されるAC/DC変換回路16における損失が小さくなり、圧電部材20を分割しない場合よりも大きな直流出力電力が得ら
れる。したがって、圧電部材20を複数の圧電部材分割
体に分割し、これらを電気的に直列に接続することによって、AC/DC変換回路16を通した出力
直流電力が分割しない場合よりも増加する効果を奏することが可能となる。
【0031】
以上、図示される実施形態を参照して、本発明による振動発電素子10を説明したが、図示される実施形態は例示に過ぎず、本発明による振動発電素子10の構造は実施形態に限定されるものではない。例えば、図示される実施形態では、圧電振動体14が支持部材12によって片持ち支持されているが、圧電部材20が複数の圧電部材分割体20aに分割されていれば支持部材12による圧電振動体14の支持構造に制限はなく、一例として、圧電振動体14の両端部を支持部材12によって支持し、圧電振動体14の中央部に錘部材28を設けるようにしてもよい。