(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一態様を説明する自動合焦装置10は、
図1に示すように、チャート用表示パネル11、第1部分透過ミラー12、結像レンズ13、フィールドレンズ14、空間フィルタ15、第2部分透過ミラー16、観察用表示パネル17、接眼レンズ18、撮像センサ19、焦点検出部20、第1可変焦点部21、及び第2可変焦点部22等で構成されている。観察眼23は、観察用表示パネル17に表示される観察画像を接眼レンズ18で拡大した虚像30を観察する。なお、この例では、観察画像は、奥行きを有する3D画像になっている。
【0010】
チャート用表示パネル11は、網膜に投影するために小さなドット光を2次元状に配したパターン画像(以下、「パターン」と称す。)を表示するものである。ここで、ドット光の輪郭形状は、円形に限らず、例えば三角形や矩形、多角形、及び二重円等の形状としてもよい。
パターンは、第1部分透過ミラー12、結像レンズ13、フィールドレンズ14、空間フィルタ15、第2部分透過ミラー16、接眼レンズ18、及び観察眼23のレンズ24からなる投影光学系を介して網膜Reに投影される。ここで、チャート用表示パネル11と投影光学系とがパターン投影手段を構成する。
尚、人間の目に入射した光は、角膜と水晶体により屈折されるが、ここでは、原理説明のために眼のレンズを単純化して、単レンズとして描いてある。
【0011】
網膜Reからの戻り光は、観察眼23のレンズ24、接眼レンズ18、第2部分透過ミラー16、空間フィルタ15、フィールドレンズ14、結像レンズ13、及び第1部分透過ミラー12等の焦点検出用光学系を介して撮像センサ19の撮像面19aにパターン像を結像する。撮像センサ19は、そのパターン像を撮像する。
観察眼23は、観察用表示パネル17、第2部分透過ミラー16、接眼レンズ18、及び観察眼23のレンズ24で構成される観察光学系により観察用表示パネル17で表示した観察画像を拡大した虚像30を観察する。第1可変焦点部21は、結像レンズ13の焦点距離を可変する。第2可変焦点部22は、接眼レンズ18の焦点距離を可変する。
【0012】
焦点検出部20は、観察画像の中のうち観察眼23が注視する注視点を検出する注視点検出回路25と、注視点に観察眼23のピントを合わせる合焦回路26とを備える。注視点検出回路25は、撮像センサ19で取得したパターン画像の対称性を解析して観察眼23の注視点、すなわち視差方向に一致する眼軸上の網膜中心Foの位置を検出する。合焦回路26は、網膜中心Foの位置、若しくはその近傍に写るドット画像を解析し、前記ドット画像が鮮明、かつ最小の像になるように結像レンズ13と接眼レンズ18との焦点距離を個別に調節する。
【0013】
チャート用表示パネル11がパターンを表示することによりその光束の一部は、第1部分透過ミラー12で反射して、結像レンズ13によりフィールドレンズ14上に結像して、前記パターンの第1の実像を形成する。なお、第1部分透過ミラー12をハーフミラーとしてもよい。また、前記一部の光束は、フィールドレンズ14で進行方向を変えられた後、空間フィルタ15を透過して第2部分透過ミラー16で反射され、接眼レンズ18と観察眼23のレンズ24により綱膜Re近傍に前記パターンの第2の実像、すなわちパターン像を形成する。なお、フィールドレンズ14は、前記一部の光束の進行方向を変えるだけで結像には影響を与えない。また、第2部分透過ミラー16をハーフミラーとしてもよい。ここで、チャート用表示パネル11、第1部分透過ミラー12、結像レンズ13、フィールドレンズ14、空間フィルタ15、撮像センサ19、焦点検出部20、及び第1・第2可変焦点部21,22が焦点検出ユニット27を構成する。
【0014】
網膜Re近傍に形成されたパターンの第2の実像から正反射や散乱により発生する光束が再び観察眼23のレンズ24を透過して、接眼レンズ18により屈折された後、第2部分透過ミラー16で反射され、空間フィルタ15近傍に第3の実像を形成する。さらに、空間フィルタ15を透過した第3の実像を形成する光束は、フィールドレンズ14で進行方向を変えられた後、光束の一部が結像レンズ13の働きと第1部分透過ミラー12を透過することにより撮像センサ19の撮像面19aに、第4の実像、すなわちパターン画像の像を形成する。
なお、空間フィルタ15と観察用表示パネル17の表示面17aとは、接眼レンズ18から光学的に等距離に配置されている。また、チャート用表示パネル11の表示面11aと撮像センサ19の撮像面19aは結像レンズ13から光学的に等距離に配置されている。
【0015】
前記チャート用表示パネル11は、
図2に示すように、微小な円形のドット光31をマトリックス状に複数配列したパターン画像(以下、「パターン」と称す)32を表示面11aに表示する。また、パターン32は、背景を暗い色でドット光を明るい色で表示してもよいし、背景を明るい色でドット光を暗い色で表示してもよい。
【0016】
空間フィルタ15は、フィールドレンズ14のうち第2部分透過ミラー16側に密着、或いは近接して配されており、
図3に示すように、マスク板34に多数の開口35を形成したものである。開口35は、ドット31よりも大きい大きさの相似形状で形成されており、その配列はパターンの第1の実像の配列と同じに揃えてある。空間フィルタ15は、網膜Reとほぼ共役関係にある位置に配置されている。網膜Reからの戻り光は、非常に弱い。このため、角膜等からの散乱により迷光が生じる。迷光は、空間フィルタ15とは共役関係にない場所から発生するため、大半の迷光は空間フィルタ15上で阻止されてしまい、空間フィルタ15の開口35を通過できない。これにより、空間フィルタ15は、角膜等での散乱による迷光を除去することができる。
【0017】
観察眼23は、接眼レンズ18の光軸18aからずれた位置、つまり観察範囲の中心からずれた位置を注視する場合、光軸18aに対して回転が生じている。このため、第2の実像は、観察眼23の網膜Re上に偏芯して形成されている。眼23の綱膜Reの形状は、眼23の角膜と水晶体中心(不図示)とを通る眼軸36(
図1参照)周りにほぼ軸対称であり、球面状になっているので、網膜Re上の部位により眼23のレンズ24からの距離が異なる。このため、第4の実像に対しても、眼軸36が網膜Reと交わる点(網膜中心)Foを中心として同心円状にボケによる類似の変形が生じることになる。また、眼23のレンズ24が、コマ収差、像面湾曲、歪曲収差等の種々の収差を有する場合は、それらの収差により同心円状の類似の変形も加わる。
【0018】
例えば、
図2で説明したパターンを構成するドット31が円形とすると、
図4に示すように、第4の実像では、小さな円形ドットの実像が変形した像37になる。さらに、眼23に乱視、つまり非点収差がある場合は、変形の度合いに、網膜中心Foに対して中心対称な成分だけではなく、網膜中心Foを通る第1軸Axとこれに直交する第2軸Ayに対する軸対称の成分も加わる。そこで、注視点検出回路25は、多数のドット37の変形の対称性を画像解析することにより、第1軸Axと第2軸Ayを求め、求めた第1及び第2軸Ax,Ayの交点から網膜中心Foを特定する。
【0019】
合焦回路26は以下のようにして観察眼23のピント位置を検出する。
図5に示すように、観察眼のピントがピント面Mfに合っているとすると、ピント面Mfと綱膜中心Foは互いに共役関係を満たしていることになる。この状態で、撮像センサ19から取得する画像を解析して、網膜中心Fo近傍にあるドット光37aが鮮明かつ最小の像になるように、接眼レンズ18の焦点距離fを調節することで、撮像面19aが網膜中心Foと共役になる。更に、撮像面19aと空間フィルタ15が共役で、且つ、空間フィルタ15と観察用表示パネル17の表示面17aが、接眼レンズ18から光学的に等距離に配置されていることより、表示面17aも網膜中心Foと共役になる。また、観察用表示パネル17の表示面Miはピント面Mfとも共役となる。つまり、表示面17a上に表示される絵の虚像がピント面Mfに形成される。したがって、表示面Miから接眼レンズ18までの距離Liと接眼レンズ18の焦点距離fを知ることができれば、接眼レンズ18から観察眼23のピント面Mfまでの距離Lfを[数1]に記載の式により求めることができる。
【0020】
[数1]
Lf=(f×Li)/(f−Li)
【0021】
なお、
図5に示す実施形態では、空間フィルタ15をフィールドレンズ14の直後に配置しているが、代わりに撮像面19aの直前に配置してもよい。フィールドレンズ14の直後に配置した面は、表示面17aと共役関係になっているとともに、撮像面19aの直前の面と共役な面になっている。
【0022】
接眼レンズ18は、印加される電圧に基づいて曲率を変える電気式可変焦点レンズになっている。第2可変焦点部22は、接眼レンズ18に与える電流値を制御することで接眼レンズ18の焦点距離fを調節する。この場合、距離Liが一定であり、接眼レンズ18の焦点距離fは電流値から知ることができる。これにより、合焦回路26は、距離Lfを簡単に求めることができる。なお、可変焦点レンズとしては、電気式可変焦点レンズの代わりに、ダイナモルフレンズ等の液体可変焦点レンズを用いてもよい。
【0023】
以下、焦点検出部20が網膜中心Foに対応するドット37aが鮮明かつ最小の像になるように制御する方法について詳しく説明する。接眼レンズ18は、前述したように、電気式可変焦点レンズになっている。そして、結像レンズ13も電気式可変焦点レンズになっており、第1可変焦点部21が結像レンズ13に与える電流値を制御することで結像レンズ13の焦点距離を調節する。ここで、結像レンズ13の焦点距離を「f’」とすると、結像レンズ13の焦点距離f’は、[数2]に示す式で表される。
【0024】
[数2]
f’=f’o+Δf’×sinω×t (Δf’≪f’o)
但し、「f’o」は定数、「Δf’」は振幅(定数)、「ω」は角周波数、「t」は時間である。
【0025】
[数2]の式に示すように、結像レンズ13の焦点距離f‘を中心として振幅Δf’だけ振る、つまり結像レンズ13の焦点距離f’を一定量「Δf’」だけ増減させることを考える。なお、結像レンズ13の焦点距離f’の変化は、接眼レンズ18の焦点距離fの変化に比べて十分に速いものとする。
【0026】
焦点検出部20は、
図6に示すように、第1可変焦点部21を制御して結像レンズ13の焦点距離f’を「f’o−Δf」に可変し(S−1)、次に前記可変した時に撮像した画像を取得し(S−2)、前述したように取得した画像に基づいて網膜中心Foを検出し(S−3)、網膜中心Foの近傍に写るドット像37aの大きさSAを計測する(S−4)。
【0027】
次に、焦点検出部20は、第1可変焦点部21を制御して結像レンズ13の焦点距離f’を「f’o+Δf」に可変し(S−5)、次に、前記可変した時に撮像した画像を取得し(S−6)、取得した画像に基づいて網膜中心Foを検出し(S−7)、網膜中心Foの近傍に写るドット像37aの大きさSBを計測する(S−8)。そして、「f’=f’o−Δf’」の時に計測した大きさSAと、「f’=f’o+Δf」の時に計測した大きさSBとを比較する(S−9、S−10)。
【0028】
ここで、
図7に示すように、「f=fo」、且つ「f’=f’o」の時に、網膜中心Foと撮像センサ19の撮像面19aが共役関係を満たす。この時には、網膜中心Foの近傍に形成されるドット像37aの大きさSは最小の大きさS1になる。このため、接眼レンズ18の焦点距離fを変化させると、同図(A)〜(C)に示すように、大きさSが変化する。なお、ここではf
−<fo<f
+とする。
【0029】
前記比較した結果が、仮にSA>SBの関係、つまりf’=f’o−Δf’となる時のドット像37aの大きさS2が、f’=f’o+Δf’となる時のドット像37aの大きさS3よりも大きい場合には、同図(A)に示す接眼レンズ13の焦点距離fがf=f
−の状態にある。このとき、合焦回路26は、第2可変焦点部22を制御して、接眼レンズ18の焦点距離fがその時点の焦点距離よりも長くなるように変化させる(S−11)。
【0030】
今度は、同図(C)に示すように、f=f
+の状態にあったと仮定すると、f’=f’+Δf’となる時のドット像37aの大きさS4は、f’=f’−Δf’となる時のドット像37aの大きさS5よりも大きくなる。このとき、合焦回路26は、第2可変焦点部22を制御して、接眼レンズ18の焦点距離fがその時点の焦点距離よりも短くなるように変化させる(S−12)。その後、前述した手順を繰り返して、ドット像37aの大きさSAと、大きさSBとを比較していく。なお、大きさSAとSBとを比較した結果に基づいて接眼レンズ18の焦点距離fを変化させる時の変化量は、大きさSAと大きさSBの差に応じて変化させるとよい。例えば、大きさSAと大きさSBの差に比例して焦点距離fを変化させることが考えられる。
【0031】
このように、結像レンズ13の焦点距離f’を減じた時の大きさSAと、増やした時の大きさSBとを比較した結果に基づいて、接眼レンズ18の焦点距離fを変えていくことで、最終的には、同図(B)に示す状態、つまり接眼レンズ18の焦点距離fがf=foに落ち着くことになる(S−9の「Y」側)。
よって、網膜中心Foと撮像センサ19の撮像面19aとを共役関係にすることができ、結果的に、表示面Miとピント面Mfとが共役になる。
また、[数1]に示す式において、f=foとすることにより、距離Lfを求めることができる。
【0032】
[結像レンズを可変焦点レンズ+接眼レンズを単焦点レンズにした例]
上記実施形態では、結像レンズ13と接眼レンズ18との両方を可変焦点レンズとして説明しているが、本発明ではこれに限らず、接眼レンズ18を単焦点レンズ(焦点距離f)とし、観察用表示パネル17の表示面17aからの距離Liが変わるように接眼レンズ18を光軸18a方向に移動させてもよい。この場合、第2可変焦点部の代わりに、
図8に示すように、レンズ移動部81を設ける。レンズ移動部81は、合焦回路26からの駆動信号に基づいて接眼レンズ18を光軸18a方向に移動させる。
なお、結像レンズ13の焦点距離f’の変化は、接眼レンズ18の移動に比べて十分に速いものとする。また、この例では、接眼レンズ18の光軸18a方向への移動量を検出するレンズ移動量検出手段を設け、接眼レンズ18の光軸18a方向への位置に基づいて前述した[数1]に示す式を用いて距離Lfを算出することができる。
【0033】
結像レンズ13の焦点距離f‘を中心として振幅Δf’だけ振る、つまり結像レンズ13の焦点距離f’を一定量「Δf’」だけ増減させる。その後、接眼レンズ18を光軸18a方向に移動させて表示面Miから接眼レンズ18までの距離Liを変化させると、
図9(A)〜(C)に示すように、撮像した画像のうち網膜中心Foの近傍に写るドット像37aの大きさSが変化する。ここで、Li
+>Li
−とする。同図(A)に示すように、Li=Li
+の状態にあると仮定すると、結像レンズ13の焦点距離f’が「f’=f’o−Δf」’となる時に得られるドット像37aの大きさSAは、「f’=f’o+Δf」となる時に得られるドット像37aの大きさSBよりも大きくなる。このとき、焦点検出部20は、表示面Miから接眼レンズ18までの距離Liがその時点の距離Liよりも短くなる方向に接眼レンズを所定量移動させるようにレンズ駆動部81を制御する。
【0034】
逆に、同図(C)に示すように、Li=Li
−の状態にあったと仮定すると、結像レンズ13の焦点距離f’が「f’=f’o+Δf」となる時に得られるドット像37aの大きさSBは、「f’=f’o−Δf’」となる時に得られるドット像37aの大きさSAよりも大きくなる。このとき、焦点検出部20は、距離Liがその時点の距離Liよりも長くなる方向に接眼レンズ18を移動させるようにレンズ駆動部81を制御する。この例でも大きさSA=SBになるまで前述した手順を繰り返し行う。なお、大きさSAとSBとを比較した結果に基づいて、接眼レンズ18を移動させる量は、大きさSAと大きさSBの差に応じて変化させるとよい。例えば、大きさSAと大きさSBの差に比例して焦点距離fを変化させることが考えられる。
【0035】
このように、結像レンズ13の焦点距離f’を減じた時の大きさSAと、増やした時の大きさSBとを比較した結果に基づいて、接眼レンズ18を光軸18a方向に移動して焦点距離fを変えていくことで、最終的には、同図(B)に示すように、表示面Miと接眼レンズとの距離LiがLi=Lioの状態に落ち着くことになる。
よって、網膜中心Foと撮像センサ19の撮像面19aとの位置を共役関係にすることができ、結果的に、表示面Miとピント面Mfとが共役になる。
また、[数1]に示す式において、Li=Lioとすることにより、距離Lfを求めることができる。
【0036】
[結像レンズを単焦点レンズにして固定配置+接眼レンズを可変焦点レンズにした例]
図10に示す例は、結像レンズ13を単焦点レンズ(焦点距離f’)とし、接眼レンズ18を可変焦点レンズにした例である。この場合、
図5で説明した例と比べて、第1可変焦点部21を省略し、接眼レンズ18の焦点距離fを可変する可変焦点部83を設けている。結像レンズ13は、単焦点レンズになっており、第2のパターン像をフィールドレンズ14の近傍に結像させる位置に固定して配されている。
【0037】
また、この実施形態で用いる空間フィルタ155は、
図11及び
図12に示すように、マスク板34のうちの第2部分透過ミラー16側の面に透明板85を張り付けている。透明板85は、屈折率を変える屈折率変更手段を構成するものであり、マスク板34にマトリックス状に設けた開口35に対して、斜め45°方向に1列置きに貼り付けられている。こうすることで、接眼レンズ18による綱膜Reとの共役位置を空間フィルタ155の位置から僅かにフィールドレンズ14側にずらすことができる。よって、チャート用表示パネル11の表示面11aと綱膜Reを共役関係にするためには、透明板85が無い場合に比べて、接眼レンズ18の焦点距離fを少し短くする必要がある。
【0038】
そこで、
図13に示すように、撮像センサ19の撮像面19a上に形成された第4の実像Imより、網膜中心Foの近傍の左右上下の何れかの隣合う同士の2つのドット像37a,37bを抽出して、それぞれ大きさを計測する(S−16)。2つのドット像37a,37bのうち、いずれか一方のドット像(ここではドット像37bとする)が透明板85を透過して形成されていることになるため、透明板85を通らずに撮像面19a上に形成されるドット像37aの大きさSnと、透明板85を通って撮像面19a上に形成されるドット像37bの大きさSpとを比較する(S−17、S−18)。
【0039】
図14(A)〜(C)に示すように、接眼レンズ18の焦点距離fの変化に応じて、大きさSnと大きさSpの関係が変化する。そして、f
+>fo>f
−として、f=foの時に、大きさSnとSpとが等しくなるように調整されているものとする。こうすることにより、逆に、両者の大きさSn,Spが等しくなるように接眼レンズ18の焦点距離fを変えるように制御することで、網膜中心Foと撮像面19aとを共役関係にすることができる。例えば、大きさSnが大きさSpよりも大きい場合には、接眼レンズ18の焦点距離fがその時点の焦点距離よりも長くなるよう焦点距離を可変する(S−19)。逆に、大きさSnが大きさSpよりも小さい場合には、接眼レンズ18の焦点距離fがその時点の焦点距離よりも短くなるよう焦点距離を可変する(S−20)。
【0040】
このように、接眼レンズ18の焦点距離fを可変してドット像37a,37bの大きさSnとSpとを比較する手順を繰り返すことで、大きさSnとSpとサイズが同じになる焦点距離foに落ち着く(S−17の「Y」側)。
また、[数1]に示す式において、f=foとすることにより、距離Lfを求めることができる。
なお、この例においても接眼レンズ18の焦点距離fの可変量を大きさSnと大きさSpの差に応じて変化させるとよい。また、この例においても、網膜Reとほぼ共役関係にある位置に空間フィルタ15を配置しているため、迷光を除去することができる。
【0041】
[結像レンズを単焦点レンズにして固定配置+接眼レンズを単焦点レンズにして光軸方向に可動に配した例]
この例は、
図15に示すように、結像レンズ13を単焦点レンズにして固定して配置し、接眼レンズ18を単焦点レンズにして光軸18a方向に可動自在に配置した例であり、レンズ駆動部91により接眼レンズ18を移動させることで距離Liを変化させる。また、透明板85を有する空間フィルタ155を用いている。ここで、Li
+>Lio>Li
−として、Li=Lioの時に、透明板85を通らずに撮像面19a上に形成されるドット像37aの大きさSnと、透明板85を通って撮像面19a上に形成されるドット像37bの大きさSpとが等しくなるように調整されているものとする。
【0042】
この時、接眼レンズ18の距離Liを変化させると、
図16(A)〜(C)に示すように大きさSnとSpとの関係が変化する。仮に
図16(A)に示すように、Li=Li
+の状態にあったと仮定すると、大きさSnの方が大きさSpよりも大きくなる。すると、焦点検出部20は、表示面Miから接眼レンズ18までの距離Liが短くなる方向に接眼レンズ18を移動させる。逆に、同図(C)に示すように、Li=Li
−の状態にあったと仮定すると、大きさSnの方が大きさSpよりも小さくなる。この場合には、焦点検出部20は、距離Liが長くなる方向に接眼レンズ18を移動させる。
このように接眼レンズ18を移動させて大きさSnとSpとを比較する手順を繰り返すことで、大きさSnとSpとが同じになる距離Li、つまり距離Li=距離Lioに落ち着く。
よって、網膜中心Foと撮像面19aとを共役関係にすることができる。
また、[数1]に示す式において、Li=Lioとすることにより、距離Lfを求めることができる。
【0043】
[パターン投影光に赤外光を用いる例]
ところで、観察眼23は、接眼レンズ18により観察用表示パネル17に表示される画像を拡大した虚像を面Mfの位置に見ているが、パターン画像が可視光であれば虚像と重なって見えてしまう。
そこで、チャート用表示パネル11は、不可視光、例えば赤外光でパターン画像を表示すればよい。さらに、
図1及び
図5で説明した、観察用表示パネル17と接眼レンズ18との間に配した第2部分透過ミラー16の代わりに、ダイクロイックミラーを設け、ダイクロイックミラーで観察用表示パネル17からの可視光を透過させ、チャート用表示パネル11からの赤外光を反射させればよい。チャート用表示パネル11としては、液晶表示パネルを用いることができる。この場合には、バックライトを赤外線LEDで構成してもよいし、赤外線を光源とした導光板で構成してもよい。
【0044】
[パターン光生成手段の他の例]
また、チャート用表示パネル11で、眼23が感知しない程の短時間の表示を可視光で繰り返し表示してもよい。この場合は、第2部分透過ミラー16を入射光の一部を透過と反射に振分ける部分透過ミラー、或いは、偏光プリズムとすればよい。偏光プリズムを用いる場合は、観察用表示パネル17からの入射光の成分のうちP偏光成分を透過させ、チャート用表示パネル11からの入射光の成分のうちS偏光成分を反射させれば良い。
【0045】
また、チャート表示用パネル11は、複数のドットを同時に表示しているが、時系列的に表示してもよい。この場合、一つのドットを横に連続して変化させた静止画を高速に切り替え続けることで、あたかも複数のドットをマトリックス状に同時に表示されているかのようにしてパターン画像を生成するパターン光生成手段としてもよい。
【0046】
さらに、パターン光生成手段としては、点光源とガルバノミラーを有するガルバノスキャナーとを設けて、点光源を時系列的にスキャンしてマトリック状に配列したパターンを生成してもよい。
また、パターン光生成手段が生成するパターン光としては、各ドット光がマトリックス状に整列されてない状態、すなわち2次元状にバラバラに配されている状態のパターン光でもよい。この場合には、空間フィルタを通過するドット光の群が撮像センサにより撮像される。焦点検出部は、ドット像の群単位に対称性を調べて網膜中心を検出すればよい。
【0047】
[本発明を顕微鏡に適用した例]
本発明を顕微鏡に適用した例を
図17に示す。顕微鏡170は、試料171の実像を、対物光学系を構成する対物レンズ172により実像面(所定面)Mi付近に形成し、更にそれを接眼レンズ173で拡大した虚像を観察眼(以下、「眼」と称す)174で観察する。この場合、
図5で説明した表示パネル17は省略され、面Miが表示パネル17の表示面17aに相当する。試料171の縦横方向の寸法をγ倍した理想的な像(実際には、縦倍率は横倍率の二乗倍となるが、ここでは観察者に知覚させたい像)を像175とする。眼174は、像175上の注視点Pwを注視しようとしている。注視点Pwのある面を面Mwとする。眼174のピントが合っている面をピント面Mfとする。つまり、ピント面Mfと眼174の網膜Reは、共役関係になっている。また、試料171側の面moと実像面Miは互いに共役関係であり、実像面Mi上に最も良好に結像するように設計されている。
【0048】
試料171は、ステージ160に載置されている。ステージ160は、ステージ移動部179により対物レンズ172の光軸O方向に移動される。ステージ移動部179は、焦点検出ユニット176から送出される制御信号に基づいてステージ160を移動させる。焦点検出ユニット176は、
図1で説明した焦点検出ユニット27と同じ構成になっており、眼174のピント面Mfを常時検出し、ピント面Mfが実像面Miと共役関係になるように、接眼レンズ173を光軸方向に移動させるか、或いは接眼レンズ173の焦点距離を電気的に変えるかを行う。
【0049】
以上のように、眼174の網膜Reとピント面Mf、ピント面Mfと実像面Mi、実像面Miと面moの間で互いに共役関係が成立するように、接眼レンズ173の光軸方向での位置、又は焦点距離が制御される。さて、
図17(A)に示す状態において、注視点Pwに対応する試料171上の注視点pwに着目すると、注視点pwは、面moから距離d1だけ離れているので、実像面Mi上には、注視点pwのボケた実像が形成される。このため、眼174には、注視点pwが距離d1に応じてボケて見える。同図(A)〜(D)では、仮に、眼174のピント面Mfが前方向(図中左方向)にDだけ動いたとすると、試料171を載置するステージは、d=D/γだけ対物レンズ172に寄る後方向(図中右方向)に動くようにステージ移動部179を介して焦点検出ユニット176により制御される。同図(A)〜(D)は、ピント面Mfの変化に応じて、面moに対する試料171の位置が変化する様子を表している。
【0050】
さて、同図(B)は、初期状態を示しており、ピント面Mfが、面Ms上にあるものと仮定した図である。その後、眼174と顕微鏡170の動作について説明する。同図(B)の状態では、眼174が注視している試料171上の注視点pwは、面moからずれており、少しボケて見えている。このため、眼174は、注視点pwがもっと鮮明に見えるようにピント調整を行う。ここでは、単眼で像を見ていると仮定する場合、ピント面Mfを光軸O方向のいずれに動かして良いかの判断が難しい。仮に、同図(A)のようにピント面Mfを光軸Oに沿う前方向(図中右方向)にD1だけ動かすと仮定する。この変化に応じて、試料171の位置がd1=D1/γだけ変化するので、注視点pwは、面moからもっと遠ざかり、注視点pwには、より大きなボケが生じる。
【0051】
一方、同図(C)に示すように、ピント面Mfを光軸Oに沿う後方向(図中左方向)にD2だけ動かす場合、注視点pwは、面moに近づき、注視点pwのボケは減少する。しかし、同図(D)に示すように、さらにピント面Mfを光軸O方向に沿う後方向に動かした場合は、注視点pwのボケは再び増加する。
【0052】
以上の動作を繰り返すことにより、最終的には、眼174が注視点pwの像を鮮明に見ることができる状態、すなわち同図(C)のような状態に落ち着くことになる。さらに、初期の同図(B)の状態から試料171がd2だけ動くのに対して、ピント面MfはD2=γ・d2だけ動いている。このため、試料171を縦横どちらの方向にもγ倍した像を見ることと等価になり、眼174は、試料171を縦横方向にγ倍した像が存在しているかのように観察される。しかし、顕微鏡170の場合、焦点深度が非常に浅く、通常初期的には大きくピントがずれている。また、上記の動作だけでは、ピント面Mfの基準位置が定まらない。そこで、例えば、初期的に以下のような動作を加えれば良い。
【0053】
実像面Miと面Msが光学的に共役となるように、接眼レンズ173の光軸O上での位置と焦点距離を所望の値に設定する。この時、眼174は、試料171上の中心Psを注視するようにする。次に、試料171の中心Psが鮮明に見えるようにピント調整を行う。このピント調整を手動で行う場合は、ハンドルを回してステージを移動させる。これでピント面Mfが面Msに一致する。しかし、ピント調整を白動的に行う場合は、試料171の中心Psの鮮明な実像が面Ms上に形成されるが、ピント面Mfが面Msに一致していることにはならない。そこで、さらに、焦点検出ユニット176の制御により眼174のピント面Mfが面Msと一致することを確認した後、眼174の注視点移動による自動ピント合わせを開始すればよい。
なお、ステージ160を移動させているが、代わりに対物レンズ172を光軸O方向に移動してもよい。また、ステージ160と対物レンズ172との両方を移動してもよい。すなわち、ステージ160と対物レンズ172との間隔を変えるようにすればよい。
【0054】
[本発明を電子的観察システム(電子カメラ等)に適用した例]
図18に示す実施例は、
図17で説明した顕微鏡の例と以下の点で異なる。顕微鏡の例では、試料171の実像が対物レンズ172により実像面Mi付近に形成されており、それをさらに接眼レンズ173で拡大した虚像を眼174が観察している。一方、
図18に示す実施例では、カメラ部188と表示パネル190とを備える電子的観察システム180の例を示す。試料(被写体)181をカメラ部188で撮像しており、対物レンズ(撮影レンズ)182により撮像素子189の撮像面に実像を形成する。その実像は、表示パネル190に表示される。また、表示パネル190の表示面190aに表示された像を接眼レンズ183で拡大して、ピント面Mf上に虚像を形成し、その虚像を眼184が観察している。なお、表示面190aが、本発明の「所定面上に形成される像を離れて表示する表示面」に相当する。表示面190aは、対物光学系を構成する対物レンズ182の光軸上とは異なる位置に設けられている。
【0055】
ピント面Mfの位置は、焦点検出ユニット186により常時検出されており、レンズ移動部191により焦点検出ユニット186からの指令に従って接眼レンズ183を光軸方向に移動して、表示面190aとピント面Mfが常に共役になるように制御されている。なお、前述したように、可変焦点部を設け、接眼レンズ183の焦点距離fを変えても良い。
【0056】
カメラ部188のピント面は、面Mc上にあるものとする。また、眼184は、試料181の横倍率がほぼγ倍の虚像を観察している時、対物レンズ182から面Mcまでの距離が、眼184のレンズ187からピント面Mfまでの距離の1/γ倍に等しくなるように制御されているものとする。面Mcの移動は、対物レンズ172の焦点距離を変えるか、或いは、対物レンズ172の光軸方向での位置を変えて行えばよい。なお、
図18〜
図21では、ほぼγ=1の場合で記載してある。
【0057】
図19に示すように、眼184が試料181の理想的な像(ここでは観察者に知覚させたい像)185上の注視点Pwを注視しており、注視点Pwは、試料181上の注視点pwに対応する。この時、カメラ部188のピント面Mcから注視点pwまでは距離
S1だけ離れているので、s
1に応じてボケた像を表示面190aに表示することになる。
図18〜
図21には、ピント面Mcから注視点pwまでの距離が変化した場合の様子を示している。また、それらに対応する注視点Pwの見え具合は、それぞれ
図17で説明した(A)〜(D)の見え具合に対応している。
【0058】
眼184のピント面Mfが変位した場合、それに同期してカメラ部188のピント面Mcを変位するように制御すれば、最終的には、
図20の状態で安定する。つまり眼184は、試料181の理想的な像185上の注視点Pwを鮮明に見ることができる。眼184が試料181上で奥行きがzだけ異なる位置にある点を交互に見た場合、眼184のピント位置はz×γだけ変位し、且つ、横倍率もγ倍であるため、あたかも、試料181が3次元的にγ倍に拡大されたように認識することになる。しかし、厳密には、カメラ部188のピント面が変化することにより、眼184が見る像の横倍率も変化する。これを解消するためには、カメラ部188のピント面Mcの変化に同期して表示面190aに表示される像の大きさを変えればよい。
【0059】
具体的にどの程度変えればよいかを
図22に示す例で説明する。
図22(A)では、眼184が接眼レンズ183で拡大された表示パネル190に表示された像の虚像192を観察している。また、
図22(B)では、対物レンズ182により被写体181の実像が撮像素子189の撮像面に形成されている。この実像が
図22(A)の表示面190a上にα倍に拡大されて表示される。この関係は[数3]に記載の式で表される。
【0060】
[数3]
he/hc=α
【0061】
ここで、眼184が観察する虚像192が被写体181を横方向にγ倍に拡大し、且つ、γ倍離れた位置に形成される条件式を[数4]及び[数5]に示す。
【0062】
[数4]
He/Hc=γ
【0063】
[数5]
Le+U=γLc
【0064】
[数4]及び[数5]に記載した両式を常に満足するためには、被写体181の位置により前記αを変化させなければならない。なお、ここで、眼184は、接眼レンズ183から距離Uだけ離れたアイポイント付近から観察するものとする。
【0065】
虚像192の位置調整は、接眼レンズ183の焦点距離fを変えるか、或いは、表示パネル190の位置を光軸方向に移動することにより行われる。ここで、原理的には、前述したように接眼レンズ183の位置を変えることもできるが、収差的には、表示パネル190を移動させる方が望ましい。このため、αを両者の場合について別々に考えることにする。
【0066】
(1)接眼レンズ183の焦点距離fを変えて調節する場合
この場合、
図22(A)で中の距離leが固定で、焦点距離fが変化する。この時のアイポイントをU=leとなる位置とする。[数3]〜[数5]に記載の式に加えて、結像の基本式を考慮すると、接眼レンズ183の焦点距離fが[数6]に記載の式を満たし、且つ、αが[数7]に記載の式を満たすように制御されなければならない。なお、ここでは、焦点検出ユニット186の制御により距離Leが求まるため、[数6]及び[数7]に記載の式をLeの関数として表してある。
【0067】
[数6]
f=(Le×le)/(Le−le)
【0068】
[数7]
α=(le/lc)×(1+le/Le)
【0069】
(2)表示パネル190の位置を変えて調整する場合
この場合、接眼レンズ183の焦点距離fが固定である。この時のアイポイントをU=leとなる位置とする。[数3]〜「数5」に記載の式に加えて、結像の基本式を考慮すると、接眼レンズ183から表示面190aまでの距離leが[数8]に記載の式を満たし、且つ、αが[数9]に記載の式を満たすように制御されなければならない。
【0070】
[数8]
le=(Le×f)/(Le+f)
【0071】
[数9]
α=(le/lc)×(1+le/Le)
【0072】
結局、[数7]と[数9]との式は等しくなり、上記(1)と(2)とのどちらの場合でも、αは同じ式に基づき制御すればよい。
【0073】
[本発明を一眼レフカメラに適した例]
一眼レフカメラ220は、
図23に示すように、跳ね上げミラー224を備えている。跳ね上げミラー224は、撮影レンズ223の光軸上に挿入されるミラーダウン位置と、前記光軸上から脱するミラーアップ位置との間で回転自在であり、ミラーダウン位置の時に、奥行きのある被写体222の実像を撮影レンズ223により焦点板225上に生成する。さらに、焦点板225上に実像を形成する光束は、フィールドレンズ226により進行方向を変えられた後、ペンタブリズム227の内部で反射して接眼レンズ230により前記実像の虚像が生成される。この虚像を眼240が観察している。
【0074】
そして、跳ね上げミラー224は、シャッタレリーズに応答してミラーアップ位置に回転する。跳ね上げミラー224が跳ね上がると、被写体222の実像が撮影レンズ223により撮像素子228の撮像面に生成される。ペンタプリズム227には、焦点板225上に実像を形成する光束を眼240に向けて反射する第2反射面に三角プリズム229が組み合わされ、これらの間にダイクロイック面Mpが形成されている。また、ペンタプリズム227には、三角プリズム229に対向する位置、すなわち接眼レンズ230とは逆側に、眼240のピント面を常時検出する焦点検出ユニット260が設けられている。
【0075】
焦点検出ユニット260から射出された不可視の光束Biは、三角プリズム229を通りダイクロイック面Mpを透過して接眼レンズ230を通って眼240に入射する。また眼240の網膜で反射された光束Boは、接眼レンズ230を通りダイクロイック面Mpを再び透過して焦点検出ユニット260に入射する。
【0076】
ここで、ペンタブリズム227は、平面の反射面のみからなるので、
図23の光学系からペンタブリズム227を取り除いて、光学系の原理を単純化して構成を
図24に示す。
図23に示す装置は、
図17で説明した顕微鏡の装置と対比すると、
図17で説明した試料171が被写体222に、対物レンズ172が撮影レンズ223に、実像面Miが焦点板225にそれぞれ相当する。また、跳ね上げミラー224は、単に光路を直角に曲げるだけであり、原理的には無視しても構わない。さらに、フィールドレンズ226も、結像にはほとんど寄与しないため、原理的には無視しても構わない。
以上のように考えると、
図24の光学系は、
図17の光学系と原理的に等価とみなせるが、
図17で説明した顕微鏡の装置では、対物レンズ172を固定したのに対して、この例では撮影レンズ223のピント面mfが調節可能になっている点で異なる。
【0077】
次に、
図23で説明した一眼レフカメラの作用を簡単に説明する。眼240は、被写体222の虚像222’上の注視点Pwを注視している。この注視点Pwは、被写体222の注視点pwに対応している。眼240のピント面Mfの位置は、焦点検出ユニット260により常時計測され、そこからの指令によりカメラ部の撮影レンズ223のピント面mfの位置がピント面Mfと共役になるように制御される。
【0078】
眼240が被写体222を注視し始める初期状態で、注視点Pwが眼240のピント面Mf上にないものとすると、眼240には、注視点Pwがボケて見えるので、眼240は、ピント面Mfの位置を調整しようとする。これに同期して撮影レンズ223のピント面mfも位置が変化する。こうして最終的には、注視点Pwがピント面Mfと一致し、注視点pwもピント面mfと一致する。したがって、被写体222上で眼240が注視している箇所に常にピントを合わせることが可能になる。
【0079】
[本発明の従来技術との差異点]
本発明の他の効果を説明する。従来、所定面上に結像された被写体像を、主に可視光のみを反射若しくは透過させ赤外光束を遮光するダイクロイックな特性を有する光学部材を介して観察する撮影者の眼球に、光源からの赤外光束を前記光学部材を介して導光し、前記撮影者の眼球の屈折力状態を屈折力検出手段により検出し、該屈折力検出手段からの信号に基づいて、前記被写体像の結像状態を調整する調整手段を駆動する為の信号を形成するようにした自動合焦装置が提案されている(特開昭63−40112号公報)。
従来の自動合焦装置では、撮影範囲の中心を注視した時に光軸が眼軸に一致するように、光学部材を固定している。このため、光学部材の光軸に一致する眼軸上の網膜中心に結像する像に対して撮影レンズのピントを正確に合わせることができる。
【0080】
しかしながら、人間は、眼球を動かして常に網膜の中心部(中心窩)でものを見ている。このため、撮影範囲の中心からずれた位置を注視すると、必ず眼球が回転する。眼球が回転すると眼軸が視軸方向に回転する。このため、眼軸上の網膜中心上の点と光学部材の光軸が交差する網膜点とがずれることになり、網膜が球状であることを考慮すると、眼のレンズから両点までの距離には差が生じる。上記装置では、網膜点に結像する像に対して、カメラの撮影レンズを合焦させているため、上記距離の差に対応して撮影レンズのピントがずれることになる。このずれが大きくて、上記装置は実用的ではないことが判明した。
【0081】
誤差について検討する。説明を簡単にするために、
図25に示すように、眼を単レンズとして仮定し、視線方向を前記光軸から上方にずらし、従来の自動合焦装置から投光される検出光2が眼軸に対して斜め方向から入射している場合を考える。ここで眼軸は、角膜と水晶体との中心を通る軸であり、視線方向に一致する。この時、検出光2が網膜4上の点pに到達するものとすると、点pを通り眼軸6に垂直な面は、網膜中心5を通り眼軸6に垂直な面7に対して眼軸6方向にdだけのずれを生じる。ずれ量dは、幾何学的な計算により近似的に[数10]に示す式で見積もることができる。
【0082】
[数10]
d≡2r×sin
2θ
但し、rは眼球の半径、θは眼軸に対する検出光の入射角度。
【0083】
ここで例として、r=12mm、θ=30°と仮定し、[数10]に代入すると、ずれ量dは「6mm」となる。一方、眼のピント面までの距離が、仮に300mm〜無限大で変化するとした場合、眼のレンズの焦点距離fは、22.2〜24mmの範囲で変化しなければならない。この焦点距離fの変化量に対して「6mm」というずれ量dの値は、とても無視できるものではない。前述した説明は、単純化したモデルでの見積りではあるが、従来の自動合焦装置では、斜め方向から検出光が入射する場合、眼のピント面に対して正しく光学系の焦点を合わせることは出来ないものと考えられる。このように、本発明は、視線方向に対応する眼軸上の網膜中心を検出し、網膜中心に形成される像に対して確実にピントを合わせることができる。
【0084】
また、網膜の反射率は、低く、検出器に戻ってくる光量は僅かになる。これに対して、角膜などからも散乱光が発生し、それが迷光となり受光部に到達する信号光のS/Nを大きく低下させるおそれがある。本発明では、空間フィルタを用いて散乱光の除去を十分に行っているため、信号光のS/Nの低下を低く抑えられる。
また、
図2に示すマトリックス状に複数配列されたパターン画像を全て同時に表示せず、幾つかのブロックに分けて順に表示するようにして、信号を検出しても良い。このようにすれば、信号に比べてノイズの割合が低下するので更にS/Nが向上する。
【0085】
本発明によれば、観察者が注視している立体像の部位を特定することなく、注視位置と観察眼のピント位置を一致させ、かつ、ピント面からずれた面上の部位に対しては、そのずれ量に応じたボケを生じさせることが可能である。したがって、本発明を、
図17で説明した顕微鏡に適用すれば、試料面上の常に注視している箇所に白動的にピントを合わせられるので、手動による焦点調節を行う必要がなくなり、手が開放される。また、観察眼に対して、等価的に試料を横方向の倍率と同じだけ光軸方向にも拡大して表示することができるため、単眼でも試料を立体的に認識することができる。さらに、本発明による2台のシステムを、視差を有するように配置すると、輻輳と焦点調節が白動的に一致するような立体顕微鏡を構築することも可能である。このような立体顕微鏡では立体的に拡大された自然な像を観察することができるので、眼の疲労も生じ難い。
【0086】
図18で説明したように、試料をカメラ部で撮像して、撮像素子上に実像を形成し、その虚像を観察する方式は、ミラーレスカメラやビデオカメラに有効であり、常に注視した被写体を見つめるだけで、そこにピントを白動的に合わせることが可能になる。
また、カメラと撮像素子は大きく離れていても良く、遠隔操作で試料を観察するような用途にも適している。さらに、
図17で説明したと同様に、本発明による2台のシステムを、視差を有するように配置すると、輻輳と焦点調節が自動的に一致するような立体ディスプレイを構築することも可能である。このような立体ディスプレイでは、自然に立体像を観察することが出来るので、眼の疲労も生じ難い。
【0087】
図23で説明した一眼レフカメラに本発明を適用する場合も、常に被写体上の特定の箇所を注視するだけで、そこにピントを自動的に合わせることが可能になる。例えば、被写体が複数の人物である場合でも、撮影者が注視するだけで特定の人物にカメラのピントを合わせること等が可能になる。本発明によれば、観察者が注視している立体像の部位を特定することなく、観察者自らが注視している箇所のボケ具合を判断するので、何れの実施例においても、局所的に奥行きが大きく異なる箇所に対しても正しくピント合せを行うことが可能である。例えば、針の先端部にピントを合わせたり、格子を通して遠くの景色を覗いたりする場合等である。
【0088】
上記各実施形態では、自動合焦装置として説明しているが、本発明では、被写体像を所定面上に形成する対物光学系と、前記所定面上に形成される被写体像を、接眼レンズを通して虚像として観察眼に観察させる観察光学系と、2次元状のドット光からなるパターンの像を前記観察眼に投影するパターン投影手段と、前記観察眼の網膜からの戻り光となるパターン像を撮像する撮像部と、前記撮像したパターン像を構成する各ドット像の変形の度合いから上下左右の対称性を調べて対称中心を前記網膜中心として検出する注視点検出手段と、前記網膜中心近傍に対するドット像の大きさに基づいて前記網膜中心に対するピント位置を検出する合焦手段と、を備えた焦点検出装置の発明としてもよい。