(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載のものでは、電線の保持力が不十分となる場合があるという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載のものでは、特許文献1に記載のものに比べて電線の保持力は大きいが、電線ホルダの内壁部に形成された突起部が電線の絶縁被覆部に食い込むため、この食い込み部分から亀裂が生じるおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、絶縁被覆部に亀裂を生じさせる可能性のある突起を設けることなく、電線保持力を向上させることが可能な電線保持装置及びワイヤハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体部と当該導体部の外周に設けられ
ている絶縁被覆部とを有
し防水栓が挿通されており前記絶縁被覆部の外周面にオイルが付着している電線を挟んで対向する一対の保持部材を備え、前記一対の保持部材にはそれぞれ、前記電線が収容され
ている円弧状の保持溝が形成され
ており、前記一対の保持部材のぞれぞれの前記保持溝の前記電線の外周面に接触する内面には、前記電線の延伸方向1cm以上3cm以下にわたって面粗しされ
ている円弧状の面粗し部が形成され
ており、前記一対の保持部材それぞれの前記面粗し部の面粗さRaは、前記電線の前記外周面の表面粗さRaより大きく、6μm以上100μm以下であり、前記一対の保持部材は、前記面粗し部と前記電線の外周面とが接触している前記電線の延伸方向1cm以上3cm以下にわたって、前記電線をその圧縮幅が0.1mm以上となるように圧縮して保持している電線保持装置を提供する。
【0012】
また、前記一対の保持部材は、これらを互いに係止する係止機構によって結合されているとよい。
【0013】
また、前記解決手段を有した前記電線保持装置と、前記電線とを備えたワイヤハーネスを提供する。
【0014】
また、複数の前記電線を備え、当該複数の前記電線が、前記一対の保持部材のそれぞれに形成された複数の前記保持溝に収容されて一括して保持されているとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電線保持装置及びワイヤハーネスによれば、絶縁被覆部に亀裂を生じさせる可能性のある突起を設けることなく、電線保持力を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る電線ホルダ3及びワイヤハーネス1を示した正面図である。
【0018】
このワイヤハーネス1は、導体部901と絶縁被覆部902とからなる、3本の電線90を挿通させる3つの挿通孔20を有するシール保持部材としてのリテーナ2と、リテーナとは別体で、3本の電線90を保持する電線保持装置としての電線ホルダ3と、電線ホルダ3の一部を収容する収容部材としてのシールドケース4とを備えている。
【0019】
リテーナ2と電線ホルダ3とは、3本の電線90の延伸方向に対向している。また、リテーナ2の外周面2aには環状溝21が形成され、この環状溝21に外周シール部材としての外側防水栓22が保持されている。外側防水栓22には、その延伸方向に対して直交する方向に突出する突起22aが複数箇所に形成されている。リテーナ2から外部へ露出した3本の電線90の先端部には、端子91がそれぞれ設けられている。
【0020】
リテーナ2及び電線ホルダ3は、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)やPA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の電気絶縁性を有する樹脂からなり、例えば射出成形により成形される。
【0021】
シールドケース4は、例えば鉄や黄銅、あるいはアルミニウム等の導電性の金属からなり、電線ホルダ3の少なくとも一部を収容する収容部41と、シールドケース4を被取付部材に固定するための板状の固定部42とを一体に有している。
【0022】
図2は、ワイヤハーネス1の断面を示し、(a)は電線90の延伸方向に沿った断面図、(b)は
図1のA−A断面図である。
【0023】
シールドケース4の収容部41には、リテーナ2と反対側の面に3本の電線90を挿通させる開口部41aが形成されている。3本の電線90は、開口部41aからシールドケース4内に挿入され、後述する電線ホルダ3の保持孔31及びリテーナ2の挿通孔20を通過して、リテーナ2の外部に露出している。
【0024】
電線ホルダ3は、3本の電線90を挟んで対向する一対の保持部材30からなり、各々の保持部材30が互いに係止されて組み合わされている。
図2(a)では、
図2(b)における下側の保持部材30のみを示している。本実施の形態では、それぞれの保持部材30が同形状に形成されている。
【0025】
保持部材30は、本体部300に、複数の(本実施の形態では3つ)保持溝301と複数の(本実施の形態では3つ)筒部302とが形成されている。保持溝301は、3本の電線90の延伸方向に沿って円弧状に形成されている。一対の保持部材30を組み合わせることにより、各保持部材30における3つの保持溝301の内面301a同士が対向する位置に配置され、3本の電線90を収容する3つの保持孔31が構成される。そして、3本の電線90は、一対の保持部材30に一括して保持される。
【0026】
また、保持部材30には、リテーナ2に係止される2つの爪部303が本体部300と一体に形成されている。
【0027】
リテーナ2は、3本の電線90の延伸方向に沿って、電線ホルダ3に対して端子91側に配置されている。
【0028】
3つの挿通孔20における内周面と3本の電線90との間には、円筒状の内周シール部材としての内側防水栓23がそれぞれ保持されている。また、内側防水栓23と外側防水栓22との間には防水栓保持部材24が介在し、内側防水栓23及び外側防水栓22を保持している。
【0029】
また、リテーナ2において、互いに隣り合う2つの挿通孔20の間にはそれぞれ、電線ホルダ3の2つの爪部303をそれぞれ係止する2つの係止部25が形成されている。爪部303及び係止部25は、リテーナ2と電線ホルダ3との間を係止するための係止機構を構成している。爪部303は弾性を有しており、リテーナ2及び電線ホルダ3は、爪部303及び係止部25によって互いに連結された状態でも、電線90の周方向に沿って相対移動可能である。つまり、被取付部材に形成された取付孔にリテーナ2を挿入し、被取付部材の外面にシールドケース4の固定部42をボルトで締め付ける際、ボルトの回転方向に沿ってシールドケース4及び電線ホルダ3が回転しても、リテーナ2及び電線ホルダ3が相対移動することにより、取付孔内におけるリテーナ2の姿勢の変化が抑制される。
【0030】
図3は、保持部材30の構造を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【0031】
3つの保持溝301は、内面301aにシボが形成され、その表面粗さRaは3本の電線90の外周面の表面粗さRaより大きく、例えば6μm以上100μm以下である。このシボは、例えば保持部材30を成形するための金型における内面301aに対応する面を粗くしておくことにより形成することができる。
また、保持溝301の電線90の延伸方向における長さは、1〜3cm程度が望ましい。これは、当該長さが1cm未満の場合は良好な電線保持力が得られないことがあり、当該長さが3cmより長い場合は電線ホルダ3が大型化してしまう(保持溝301の電線90の延伸方向における長さが長くなってしまう)からである。
【0032】
筒部302は、その内径が3本の電線90の直径(例えば8.6mm)よりも大きな、円弧状に形成されている。したがって、電線ホルダ3は、筒部302において3本の電線90との間に隙間を有している。これにより、リテーナ2及び電線ホルダ3が相対移動する際、筒部302内における電線90のたわみが許容され、リテーナ2及び電線ホルダ3が円滑に相対移動することが可能となる。なお、
図2では、説明のためにこの隙間を誇張して示している。
【0033】
各々の保持部材30には、これらを相互に結合する係止機構としての2つの結合用フック304及び2つの係止部305が形成されている。そして、本体部300には、各々の保持部材30を相対的に位置決めするための嵌合突起306及び嵌合凹部307が形成されている。
【0034】
結合用フック304は、他方の保持部材30に形成された係止部305に係合する。また、係止部305には、他方の保持部材30に形成された結合用フック304が係合する。また、嵌合突起306は他方の保持部材30に形成された嵌合凹部307に嵌合され、嵌合凹部307には、他方の保持部材30の嵌合突起306が嵌合される。
【0035】
一対の保持部材30が結合することにより、3本の電線90が一方の保持溝301と他方の保持溝301との間に挟まれて、電線ホルダ3に保持された状態となる。
【0036】
図4(a)は、
図2(b)の一部拡大図、
図4(b)は(a)のC部を拡大して示す模式図である。
【0037】
一対の保持部材30は、保持溝301の内面301aが電線90の外周面90aを押圧して電線90を圧縮している。その圧縮幅Δdはd
2−d
1で表され、Δdは例えば0.1mm以上である。また、
図4(b)に示すように、保持溝301の内面301aには面粗しによる微細な凸部300aおよび微細な凹部300bが形成され、凹部300bにはオイル5が貯留されている。
【0038】
(ワイヤハーネスの組付け方法)
ワイヤハーネス1の組付けは、「内側防水栓23の装着」、「リテーナ2の装着」、「電線ホルダ3の装着」、「シールドケース4の装着」、及び「リテーナ2と電線ホルダ3の連結」の各工程をこの順序で行う。以下、これら各工程の一例について説明する。
【0039】
「内側防水栓23の装着」
3本の電線90のそれぞれの先端部から内側防水栓23を挿入し、3本の電線90の外周に内側防水栓23を装着する。その際、内側防水栓23の滑りを良くするため、3本の電線90の外周面90aにオイル5(例えば、シリコンオイルやグリース等)を塗布する。
【0040】
「リテーナ2の装着」
次に、3本の電線90のそれぞれがリテーナ2の挿通孔20を挿通するように、3本の電線90の先端部から、予め外側防水栓22が環状溝21に保持されたリテーナ2を装着する。リテーナ2の装着後には、3本の電線90のそれぞれの先端部に端子91が圧着される。
【0041】
「電線ホルダ3の装着」
次に、内側防水栓23をリテーナ2との間に挟むように、電線ホルダ3を装着する。電線ホルダ3の装着は、3本の電線90を間に挟んで一対の保持部材30を結合することにより行われる。
【0042】
「シールドケース4の装着」
次に、電線ホルダ3を、予め内側防水栓23の装着前に3本の電線90を開口部41aに通しておいたシールドケース4の収容部41内に圧入する。これにより、電線ホルダ3にシールドケース4が装着される。
【0043】
「リテーナ2と電線ホルダ3の連結」
次に、内側防水栓23をリテーナ2の挿通孔20に収容しながらリテーナ2と電線ホルダ3とを互いに接近させ、電線ホルダ3の爪部303をリテーナ2の係止部25に係止させる。これにより、リテーナ2と電線ホルダ3とが連結される。
【0044】
ところで、コネクタ内への水の浸入を防ぐための内側防水栓23を電線90に取り付ける際、内側防水栓23と電線90との間の滑りを良くするために、例えばシリコンオイルやグリース等のオイル等を塗布することがある。電線90にオイル等の液体が付着した際、電線90の表面が滑りやすくなるため、電線90を保持する力が低下するおそれがあるが、本実施の形態では、この保持力低下を抑制する効果も奏する。これについて、以下に説明する。
【0045】
図5は、保持溝301の内面301aを面粗し(シボ形成)したときの効果を確認するため、電線90を一定速度で引っ張った際の、電線90の変位と荷重の関係を示したグラフである。
【0046】
この実験では、電線ホルダ3のテストピースを製作し、そのテストピース内に保持された電線90を一定の速度(本実験では、100mm/分)で引っ張ったときの電線90の変位及び電線90にかかる荷重を測定した。
【0047】
このグラフにおいて、(i)は、電線90の外周面90aが脱脂され、テストピースの保持溝301の内面301aが面粗しされていない場合の実験結果を示す。(ii)は、電線90の外周面90aがオイル塗布され、テストピースの保持溝301の内面301aを面粗しした(表面粗さRa=6μm、保持溝301の電線90の延伸方向における長さ=2cm)場合の実験結果を示す。(iii)は、電線90の外周面90aがオイル塗布され、テストピースの保持溝301の内面301aが面粗しされていない場合の実験結果を示す。
【0048】
グラフ(i)のピーク値Aは1100〔N〕、グラフ(ii)のピーク値Bは780〔N〕、グラフ(iii)のピーク値Cは450〔N〕である。
【0049】
保持溝301の内面301aが面粗しされていない、グラフ(i)とグラフ(iii)とを比較したとき、電線90の外周面90aが脱脂されている場合のグラフ(i)における荷重のピーク値Aが1100〔N〕に対して、電線90の外周面90aにオイルが塗布されている場合のグラフ(iii)における荷重のピーク値Cは450〔N〕である。ピーク値C以降、荷重380〔N〕付近で変位は増加し続けている。これより、電線90の外周面90aにオイルが塗布されると電線90の保持力が低下することが分かる。
【0050】
次に、電線90の外周面90aにオイルが塗布された、グラフ(ii)とグラフ(iii)とを比較したとき、保持溝301の内面301aが面粗しされていない場合のグラフ(iii)における荷重のピーク値Cが450〔N〕に対して、保持溝301の内面301aが面粗しされている場合のグラフ(ii)における荷重のピーク値Bは780〔N〕であり、ピーク値が大きくなっていることが分かる。よって、保持溝301の内面301aが面粗しされていると荷重の低減量を抑制できる。これは、保持溝301の内面301aが電線90の外周面90aに押し付けられることにより、
図4(b)に示すように、凸部300aに付着したオイル5が凹部300bに流動し、保持溝301の内面301aにおける凸部300aと電線90の外周面90aとが直接接触するためであると考えられる。なお、表面粗さRa=6μm以上100μm以下、保持溝301の電線90の延伸方向における長さ=1cm以上3cm以下であれば、上記と同様の効果を奏する。
【0051】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、以下のような作用及び効果が得られる。
【0052】
(1)3本の電線90は、一対の保持溝301が対向することにより電線ホルダ3内に保持され、保持溝301の内面301aが面粗しされているため、絶縁被覆部に亀裂を生じさせる可能性のある突起を設けることなく、電線保持力を向上させることが可能となる。すなわち、保持溝301の内面301aにおける微細な凸部300aは、電線90の絶縁被覆部902に亀裂を生じさせる程絶縁被覆部902に食い込むことはないので、電線90が引っ張られた場合においても、凸部300aを起点として絶縁被覆部902に亀裂が生じるおそれが少ない。さらに、凸部300aによる摩擦力により、電線90を保持する力を向上させることが可能となる。
【0053】
(2)保持溝301の内面301aの表面粗さRaを電線90の外周面90aの表面粗さRaより大きくすることにより、電線90の外周面90aと保持溝301の内面301aとの間に介在するオイル5が凹部300bに貯留される。従って、凸部300aと電線90の外周面90aが直接接触し、電線90の保持力低下が抑制される。
【0054】
(3)上記実験結果に示されるように、3本の電線90がオイル塗布された場合でも、このオイル塗布による3本の電線90の保持力低下が抑制される。
【0055】
(4)保持溝301の電線90の延伸方向における長さが1cm以上であり、保持溝301の内面301aの表面粗さRaが6μm以上であると、電線90の保持力がより向上される。
【0056】
(5)電線90の圧縮幅Δdは0.1mm以上であるので、保持部材30の適切な圧縮力で電線90を圧縮し、電線90の保持力低下がさらに改善する。
【0057】
(6)一対の保持部材30には、係止機構としての結合用フック304及び係止部305が形成され、電線90の適切な圧縮を助成している。
【0058】
(7)保持溝301の内面301aの面粗し(シボ)は、保持部材30を成形するための金型における内面301aに対応する面を粗くして形成される。したがって、保持部材30の成形後に内面301aの面粗度を高めるための面粗し加工を施す必要がない。これにより、保持部材30に面粗し加工を施す場合と比較して、製造コスト及び製造時間を低減することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0060】
例えば、実施の形態において、リテーナ2と電線ホルダ3とは互いに係止されていなくてもよい。
【0061】
また、リテーナ2の内周側に内側防水栓23が保持されていなくてもよく、内側防水栓23は保持部材30の筒部302に保持されていてもよい。
【0062】
また、電線ホルダ3に保持される電線90の数にも制限はなく、1本あるいは2本でもよいし、4本以上でもよい。
【0063】
また、3本の電線90の先端部には、端子91が圧着されていなくてもよい。
【0064】
一対の保持部材30にはそれぞれ、結合用フック304及び係止部305が形成されているが、一方の保持部材30に結合用フック304が形成され、他方の保持部材30に係止部305が形成されていてもよい。
【0065】
ワイヤハーネス1が取り付けられる被取付部材について、特に制限はなく、例えば通信装置や情報処理装置のケース等にも適用可能である。