(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、大気中に放出される窒素酸化物、硫黄酸化物などの酸性ガスに起因する酸性雨、炭酸ガスなどによる地球温暖化等の環境問題が、地球規模の課題としてクローズアップされている。その原因の一つとして自動車の排気ガスがあり、その排気ガスによる汚染を低減するため、ニッケル水素電池等の2次電池を搭載したハイブリッド自動車が注目されている。
【0003】
ニッケル水素電池は、機能的な部材として、正極、負極、電極端子、及び電解液を有し、さらに構造的部材として、電極基板、正負極の電極間に設けられるセパレータ、及びこれらを収納するケース等から構成されている。
【0004】
ハイブリッド自動車に搭載された大容量のニッケル水素電池は、使用に伴って劣化すると新品と交換され、あるいは廃車の際に取り外されて、使用済みニッケル水素電池として排出される。また、ニッケル水素電池の製造工程において発生した不良品や、電池に組み立てられずに不要となった活物質や正・負極材等の部材、さらには試作品も発生する。これらの使用済みニッケル水素電池や不良品、部材、試作品等(以下、まとめて「廃電池」と称する。)には、ニッケル、希土類元素等の多種類の稀少な有価金属を含有するため、これらの有価金属を回収し再び利用することが検討されている。
【0005】
使用済みニッケル水素電池等からニッケルやコバルトを回収する方法としては、例えば、その使用済みニッケル水素電池を炉に入れて熔解し、電池を構成する合成樹脂等は燃焼して除去し、さらに大部分の鉄はスラグ化して除去し、ニッケルを還元して鉄の一部と合金化したフェロニッケルとして回収する乾式処理方法がある。
【0006】
しかしながら、この乾式処理方法の場合には、既存の製錬所の設備をそのまま利用できて処理に手間がかからないという利点はあるものの、回収されたフェロニッケルから不純物を分離することは難しく、ステンレスの原料以外の用途には適さない。また、特に、コバルトや希土類元素は、そのほとんどがスラグ中に分配されて廃棄されるため、希少なコバルトや希土類元素の有効利用という側面では、望ましい方法とは言えない。
【0007】
また、他の方法として、例えば特許文献1に記載されているように、湿式処理によって有価金属を回収する方法が提案されている。
【0008】
特許文献1に記載の方法は、使用済みニッケル水素電池から有価金属を回収する方法において、硫酸で溶解させて金属イオンの状態に浸出させた後、その水相から希土類金属を複硫酸塩として分離するというものである。具体的に、浸出処理にて得られた浸出液には、ニッケルやコバルトの他に、ランタン、セリウム、ネオジウム等の希土類元素が含まれ、希土類元素を効率的に分離するために、その浸出液に脱希土類剤として硫酸ナトリウム等の硫酸アルカリを添加して沈殿を生成させるようにしている。
【0009】
しかしながら、希土類元素は、硫酸に対する溶解度が低く、希土類元素の低い溶解度に合わせて浸出させると、ニッケルの濃度が薄い浸出液が生成されてしまい、後の硫化工程における硫化処理の観点からは好ましくない濃度となる。また、この方法では、希土類分離に用いる硫化剤等の脱希土類剤の使用量が多くなり、薬剤コストがかかる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るニッケル水素電池に含まれる希土類元素の分離方法、並びにこの方法を適用したニッケル水素電池からの有価金属の回収方法についての具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1.ニッケル水素電池に含まれる希土類元素の分離方法
1−1.浸出工程
1−2.固液分離工程
1−3.脱希土類工程
2.ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法
【0019】
<1.ニッケル水素電池に含まれる希土類元素の分離方法>
本実施の形態に係る希土類元素の分離方法は、ニッケル水素電池の負極部品から有価金属であるニッケル及び希土類元素を回収するに際して、その負極部品に含まれる希土類元素を分離する方法である。より具体的には、負極部品を構成する例えば水素吸蔵合金等から硫酸溶液を用いて有価金属を浸出させて回収するにあたって、浸出した有価金属であるニッケルと、同じく有価金属である希土類元素とを分離して、それぞれを回収するための分離方法である。
【0020】
具体的に、この希土類元素の分離方法は、
図1にフロー図を示すように、原料であるニッケル水素電池の負極部品から硫酸溶液を用いて有価金属を浸出させる浸出工程と、浸出して得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程と、浸出液に硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)等の脱希土類剤を添加して、その浸出液中に溶解した希土類元素を分離する脱希土類工程と有する。
【0021】
そして、本実施の形態に係る希土類元素の分離方法では、上述した浸出工程において、
浸出開始時に、その負極部品中に含まれるニッケルと希土類とがいずれも硫酸塩を形成可能な量の硫酸溶液を添加し、
ニッケル
が硫酸塩溶液として
全量溶解
するとともに、希土類は部分的
に溶解する濃度
に調整した硫酸溶液を用いてニッケルを浸出させることが重要となる。
【0022】
ここで、従来では、例えば、ニッケル水素電池の負極部品から有価金属を回収する際に、硫酸溶液で溶解させて金属イオンの状態に浸出させた後に、その水相から希土類金属を複硫酸塩として分離する方法が採られていた。具体的には、その浸出処理にて得られる浸出液(水相)には、ニッケルの他に、ランタン、セリウム、ネオジウム等の希土類元素が含まれており、この希土類元素を効率的に分離するために浸出液に脱希土類剤を添加して硫酸複塩として固定分離していた。しかしながら、浸出液に溶解した上述のような希土類元素は、硫酸に対する溶解度が低く、したがってそれら希土類元素の溶解度に合わせて浸出させようとすると、ニッケルが十分に浸出されずにニッケル濃度が低い浸出液が生成されることになる。このようなニッケル濃度の低い浸出液では、後工程の回収工程で効果的にニッケルを回収することが難しくなり、有価金属を有効にリサイクルすることが困難となる。また、浸出液から希土類元素を分離回収するための脱希土類処理に用いる脱希土類剤の使用量が多くなり、薬剤コストの上昇を招くことになっていた。
【0023】
これに対して、本実施の形態に係るニッケルと希土類元素との分離方法では、浸出処理において用いる硫酸溶液の濃度を所定の範囲に制御する。具体的には、
浸出開始時に、その負極部品中に含まれるニッケルと希土類とがいずれも硫酸塩を形成可能な量の硫酸溶液を添加し、
ニッケル
が硫酸塩溶液として
全量溶解
するとともに、希土類は部分的
に溶解する濃度
に調整した硫酸溶液を用いてニッケルを浸出させるようにしている。このような方法によれば、ニッケルを高い浸出率で浸出させてニッケル濃度の高い浸出液を得ることができるとともに、浸出処理で生成する浸出残渣に希土類元素の硫酸塩を部分的に析出させることが可能となり、この段階で一部の希土類元素を浸出残渣として分離することができる。そしてこれにより、従来の方法に比べて、得られた浸出液中に溶解している希土類元素の濃度を低減させることができる。そのため、浸出液に対して脱希土類剤により希土類元素を固定分離する場合でも、その脱希土類剤の使用量を効果的に低減させることができ、浸出残渣として分離した希土類元素と併せて効率的に希土類元素を分離回収することができる。
【0024】
<1−1.浸出工程>
浸出工程では、ニッケルや希土類元素等の有価金属を含むニッケル水素電池の負極部品に対して硫酸溶液を用いた浸出処理を施す。この浸出処理は、下記の反応式(i)のように反応が進行し、反応に伴う水素の発生が無くなるまで進行させる。
Ni+2RE+4H
2SO
4 → NiSO
4+RE
2(SO
4)
3+4H
2
・・・(i)
【0025】
ニッケル水素電池の負極部品としては、特に限定されるものではなく、例えば負極部品の製造工程において発生した不良品(製造工程スクラップ)や、使用済みのニッケル水素電池を解体して取り出した負極部品を使用することができる。この負極部品は、主として、ニッケルや希土類元素を含有する水素吸蔵合金等を用いることができる。
【0026】
本実施の形態におけるニッケルと希土類元素との分離方法では、上述したように、この浸出工程において、
浸出開始時に、負極部品中に含まれるニッケルと希土類とがいずれも硫酸塩を形成可能な量の硫酸溶液を添加し、
ニッケル
が硫酸塩溶液として
全量溶解
するとともに、希土類は部分的
に溶解する濃度
に調整した硫酸溶液を用いてニッケルを浸出させる。
【0027】
ここで、ニッケル水素電池の負極部品には、希土類元素として、例えばランタン、セリウム、ネオジウム等が含まれている。また、その負極部品を構成する水素吸蔵合金の種類によっては、これら以外の希土類元素が含まれている場合がある。このように、負極部品には、複数の希土類元素が含まれており、それぞれの希土類元素の硫酸に対する溶解度は異なる。そのため、浸出に用いる硫酸溶液の濃度としては、
浸出開始時に、負極部品中に含まれるニッケルと、硫酸に対する溶解度が最も高い希土類とがいずれも硫酸塩を形成可能な量の硫酸溶液を添加し、
ニッケル
が硫酸塩溶液として
全量溶解
するとともに、硫酸に対する溶解度が最も高い希土類は部分的
に溶解するように濃度を調整することがより好ましい。
【0028】
例えば
図2は、希土類元素のランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)の硫酸に対する溶解度(25℃の理論値)を示すグラフである。この
図1のグラフに示されるように、La、Ce、Ndのうちの硫酸に対する溶解度が最も高い希土類元素はCeであることが分かる。したがって、例えば、この3種の希土類元素を含有している負極部品を用いて浸出処理を施す場合においては、
浸出開始時に、負極部品中に含まれるニッケルとCeとがいずれも硫酸塩を形成可能な量の硫酸溶液を添加し、
ニッケル
が硫酸塩溶液として
全量溶解
するとともに、Ceは部分的
に溶解するように濃度を調整する。
【0029】
すなわち、
図3に示すように、浸出に用いる硫酸溶液の濃度を、希土類元素の溶解度以上であってニッケルの溶解度以上の範囲内である図中の斜線部内に、その浸出に伴う濃度変動が生じるように調整して浸出処理を施す。この
図3に示す実験例においては、浸出処理開始時の硫酸溶液の濃度を300g/L(白抜き星印)とし、浸出に伴う硫酸の濃度変動が2つの星印(白抜き星、黒星)を結ぶ点線で示すように推移していったことを示す。
【0030】
このように、浸出に用いる硫酸溶液の濃度を、希土類元素の溶解度以上であってニッケルの溶解度以上の範囲内にその浸出に伴う変動が生じるように調整すると、上記反応式(i)に示すように、負極部品に含まれる希土類元素は、その浸出に伴って硫酸溶液中に溶解していくが、硫酸濃度を希土類元素の溶解度以上となるようにしているため、その飽和分が澱物となって析出するようになる。この澱物は、希土類元素の硫酸塩(RE
2(SO
4)
3)であり、浸出処理により生成する浸出残渣となる。一方で、硫酸溶液の濃度を上述した範囲としているため、ニッケルの浸出は効率的に進行させることができ、高い浸出率でニッケルを浸出させることができる。また、硫酸溶液の濃度の上限値としては、ニッケルの溶解度以下の範囲としているため、浸出に伴って生成する硫酸ニッケル(NiSO
4)が析出して浸出残渣となることを防止して、高い浸出率でニッケルを浸出させることが可能となる。
【0031】
なお、浸出開始時における硫酸溶液の濃度は、原料の負極部品の組成や投入量によって適宜調整することができる。例えば、浸出終了後に必要とするNi濃度から逆算してその濃度を設定することもできる。
【0032】
この浸出処理に用いる硫酸溶液のpHとしては、特に限定されるものではないが、pH0〜5の範囲に調整して行うことが好ましく、pH0〜1に調整して行うことがより好ましい。硫酸溶液のpHが0未満では、例えば後工程にて中和処理を行う場合に中和剤の使用量が増加する。一方で、硫酸溶液のpHが5を超えると、ニッケルの浸出率が低下する可能性がある。
【0033】
硫酸溶液の温度(液温)としては、特に限定されるものではないが、例えば20〜95℃程度とすることが好ましく、50〜90℃程度とすることがより好ましく、80℃程度に維持して処理を行うことが特に好ましい。なお、上述した硫酸溶液の濃度調整は、その硫酸溶液の液温に基づくニッケル及び希土類元素の溶解度に基づいて行うことが好ましい。
【0034】
また、この浸出処理においては、硫酸溶液を攪拌しながら行うことが好ましい。このように溶液を攪拌することによって、浸出反応を効率的に進行させることができ、浸出させるべき有価金属をより高い浸出率で浸出させることができる。
【0035】
また、浸出処理におけるスラリー濃度としては、特に限定されるものではないが、50〜300g/L程度に調整することが好ましい。スラリー濃度が50g/L未満では、浸出処理に伴う設備が大型化し、排水の発生量も増加する。一方で、スラリー濃度が300g/Lを超えると、攪拌にムラが生じて不均一になりやすくなる。
【0036】
<1−2.固液分離工程>
次に、固液分離工程では、上述の浸出処理にて得られた浸出スラリーに対して固液分離処理を施し、浸出液と浸出残渣とに分離する。
【0037】
上述したように、浸出工程では、希土類元素の溶解度以上となるように濃度を調整した硫酸溶液を用いて浸出処理を行っているため、負極部品に含まれていた希土類元素の沈殿物(硫酸塩(RE
2(SO
4)
3))が形成され、浸出残渣となっている。したがって、この固液分離工程において、得られた浸出スラリーから浸出残渣を分離することによって、後工程の脱希土類工程における希土類元素の分離の前に、所定量の希土類元素を有効に分離回収することができる。そして、このように浸出残渣として希土類元素を分離回収することによって、後工程の脱希土類工程において分離回収すべき希土類元素の量を減らすことができ、使用する脱希土類剤の使用量を効果的に低減させることができる。
【0038】
固液分離処理の方法としては、特に限定されるものではなく、例えば吸引濾過、加圧濾過、遠心分離等の方法を用いて分離することができる。
【0039】
<1−3.脱希土類工程>
脱希土類工程では、浸出液に脱希土類剤を添加して攪拌し、その浸出液中に溶解した希土類元素を分離して回収する。
【0040】
上述した浸出処理にて得られた浸出スラリー中の浸出液には、負極部品から浸出したニッケルが高濃度に含まれているとともに、浸出残渣とならなかった希土類元素の一部が同様にして硫酸溶液により浸出されて溶解している。具体的には、
図3中の硫酸濃度変動線(点線)における丸囲み部Xの硫酸濃度での浸出反応で溶解した希土類元素が、その浸出液中に含まれていることになる。したがって、この脱希土類工程において、浸出液中に溶解した希土類元素を分離して回収することによって、ニッケルと希土類元素を分離することができ、それぞれを高い濃度で以って回収することができる。
【0041】
具体的に、この脱希土類工程においては、例えば、下記反応式(ii)に示すような硫酸複塩生成反応が生じることにより、希土類元素を沈殿物(硫酸複塩)として分離させる。
RE
2(SO
4)
3+Na
2SO
4+xH
2O
→ RE・Na(SO
4)
2・xH
2O ・・・(ii)
【0042】
脱希土類工程における使用する脱希土類剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸アルカリを用いることができ、これらの硫酸アルカリを用いることによって、上記反応式(ii)に示すような硫酸複塩生成反応を生じさせることができる。また、脱希土類剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリを用いることもでき、これらの水酸化アルカリを用いることによって、希土類元素の水酸化物沈殿を形成させることができる。また、このような水酸化アルカリを用いると、希土類元素の分離と同時に浸出液の中和も行うことができ、例えばその後のニッケルの回収にあたっての予備処理を兼ねることができる。
【0043】
脱希土類剤の添加量としては、特に限定されるものではないが、例えば硫酸ナトリウムを用いた場合には、90g/L以上となるように添加することが好ましい。
【0044】
本実施の形態においては、上述したように、浸出処理において希土類元素の沈殿物(硫酸塩)を効果的に生じさせて浸出残渣とし、得られた浸出スラリーから浸出残渣を既に分離回収しているので、この脱希土類工程にて浸出液から分離回収するべき希土類元素の量が効果的に減少している。そのため、この脱希土類工程において使用する脱希土類剤の使用量を効果的に抑えることができ、薬剤コストを低減させることが可能となる。
【0045】
なお、脱希土類工程における反応時のpHとしては、特に限定されるものではないが、pH1〜5とすることが好ましく、pH1〜3とすることがより好ましい。反応時のpHを1〜5とすることによって、より効果的に希土類元素の沈殿物を生じさせて分離することができる。
【0046】
また、処理対象となる浸出液の液温としては、特に限定されるものではないが、50〜70℃程度とすることが好ましい。液温が50℃未満では、実用的な満足できる反応速度が得られない。一方で、水分蒸発量やエネルギー効率を考慮すると、70℃以下とすることが好ましい。
【0047】
また、スラリー濃度としては、特に限定されるものではないが、50〜300g/L程度に調整することが好ましい。
【0048】
また、処理時間としては、特に限定されるものではないが、長過ぎると沈殿物化した希土類元素が再溶解する可能性があるため、使用する脱希土類剤の濃度や液温等を考慮して、適宜調整することが好ましい。
【0049】
<2.ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法>
次に、上述したニッケル水素電池に含まれる希土類元素の分離方法を適用した、ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法について説明する。この有価金属の回収方法は、ニッケル水素電池を構成する負極部品から、有価金属であるニッケル及び希土類元素を硫酸溶液を用いて浸出させて回収する方法である。
【0050】
具体的に、このニッケル水素電池からの有価金属の回収方法は、負極部品に対し、所定の範囲に濃度を調整した硫酸溶液を添加して負極部品から有価金属を浸出させて浸出スラリーを得る浸出工程と、浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程と、浸出液に脱希土類剤を添加して浸出液中に溶解した希土類元素を分離する脱希土類工程とを含むものである。なお、以下の具体的な説明においては、負極部品の製造工程で発生した不良品(製造工程スクラップ)から有価金属を回収する場合を例に挙げて説明する。また、上述と同様の内容に関しては、その説明を適宜省略する。
【0051】
(1)浸出工程
先ず、浸出工程として、製造工程スクラップである負極部品に対して硫酸溶液を添加して、その負極部品に含まれる有価金属を浸出させる浸出処理を施す。本実施の形態においては、この浸出処理において、その濃度を、負極部品に含まれる希土類元素の溶解度以上でニッケルの溶解度以下の範囲内にその浸出に伴う濃度変動が生じるように調整した硫酸溶液を用いることが重要となる。
【0052】
このように、
浸出開始時に、浸出に用いる硫酸溶液の濃度を、負極部品中に含まれるニッケルと希土類とがいずれも硫酸塩を形成可能な量の硫酸溶液を添加し、
ニッケル
が硫酸塩溶液として
全量溶解
するとともに、希土類は部分的
に溶解するように調整することで、ニッケルを効果的に浸出させる一方で、有価金属のうちの希土類元素については、溶解度を超える飽和分が澱物となって析出するようになる。この澱物は、希土類元素の硫酸塩(RE
2(SO
4)
3)であって、浸出処理により生成する浸出残渣となるため、この浸出処理の段階で希土類元素をニッケルと分離させて回収することができる。
【0053】
使用する硫酸溶液のpHとしては、特に限定されるものではないが、pH0〜5の範囲に調整して行うことが好ましく、pH0〜1に調整して行うことがより好ましい。また、その硫酸溶液の温度としては、特に限定されるものではないが、例えば20〜95℃程度とすることが好ましく、50〜90℃程度とすることがより好ましく、80℃程度に維持して処理を行うことが特に好ましい。
【0054】
また、この浸出処理では、反応を効率的に進行させてニッケルをより高い浸出率で浸出させるために、溶液を攪拌しながら行うことが好ましい。また、必要に応じて、空気の吹込みや過酸化水素等の酸化剤を添加して酸化しながら行うようにしてもよい。
【0055】
また、スラリー濃度としては、特に限定されるものではないが、50〜300g/L程度に調整することが好ましい。スラリー濃度が50g/L未満では、浸出処理に伴う設備が大型化し、排水の発生量も増加する。一方で、スラリー濃度が300g/Lを超えると、攪拌にムラが生じて不均一になりやすくなる。
【0056】
(2)固液分離工程
次に、固液分離工程として、浸出工程にて得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに分離する。上述のように、浸出工程では、所定の濃度範囲に調整した硫酸溶液を用いて浸出処理を施すことにより、負極部品に含まれていた希土類元素の沈殿物(硫酸塩(RE
2(SO4)
3))を形成させるようにしている。形成された希土類元素の沈殿物は、浸出残渣に含まれるようになるため、得られた浸出スラリーからその浸出残渣を分離することで、後工程の脱希土類工程における希土類元素の分離の前に、所定量の希土類元素を有効に分離回収することができる。
【0057】
固液分離処理の方法としては、特に限定されるものではなく、例えば吸引濾過、加圧濾過、遠心分離等の方法を用いて分離することができる。
【0058】
なお、上述したように、固液分離して得られた浸出残渣には、希土類元素が硫酸塩の形態で含まれていることから、この浸出残渣に対して複分解処理を施すことによって希土類元素を回収する複分解工程を行うことができる。
【0059】
具体的に、この複分解工程では、固液分離工程を経て得られた浸出残渣に対してアルカリ溶液を添加して複分解処理を施し、希土類元素を含有する複分解後液と複分解沈殿物とを得る。例えば、浸出残渣中に含まれる希土類元素としてランタン(La)を例に挙げると、下記の反応式(iii)に従って複分解反応が生じ、そのLaを含有する複分解後液と複分解沈殿物とが得られる。
La
2(So
4)
3・Na
2(SO
4)+6NaOH
→ 2La
2(OH)
3+4Na
2SO
4 ・・・(iii)
【0060】
ここで、複分解処理に用いるアルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等から選ばれる少なくとも1種からなる水溶液であることが好ましい。
【0061】
また、複分解処理に際してのアルカリ溶液のpHとしては、特に限定されるものではないが、pH7〜10であることが好ましく、pH9〜10であることがより好ましい。pHが7未満では、複分解沈殿物を効率的に得ることができない。一方で、pHが10を超えても、それ以上の効果はほとんど得られない。また、スラリー濃度としては、特に限定されるものではないが、50〜300g/L程度とすることが好ましい。
【0062】
(3)脱希土類工程
続いて、脱希土類工程として、上述した固液分離工程を経て得られた浸出液に対して、硫酸アルカリ等の脱希土類剤を添加混合し、希土類元素の沈殿物生成処理を行う。上述した浸出工程にて得られた浸出液には、負極部品から浸出したニッケルが高濃度に含まれているとともに、浸出残渣とならなかった希土類元素の一部が同様にして硫酸溶液により浸出されて溶解している。そのため、この脱希土類工程にて、浸出液中に溶解している希土類元素を分離して回収する。
【0063】
具体的に、この脱希土類工程では、浸出液中に溶解した希土類元素を硫酸アルカリ等の脱希土類剤と反応させることによって、例えば希土類元素複塩(La
2(So
4)
3・Na
2(SO
4)等)からなる沈殿物と、ニッケルを含有する濾液とを得ることができる。
【0064】
この脱希土類工程にて用いる脱希土類剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸アルカリを用いることができる。また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリを用いることもできる。また、脱希土類剤の添加量としては、特に限定されないが、例えば硫酸ナトリウムを用いた場合には、90g/L以上となるように添加することが好ましい。
【0065】
上述したように、浸出工程における浸出処理において、負極部品に含まれる希土類元素を沈殿物(硫酸塩)とし浸出残渣として分離回収しているので、この脱希土類工程にて浸出液から分離回収するべき希土類元素の量を効果的に低減させている。そのため、この脱希土類工程において使用する脱希土類剤の使用量を効果的に抑えることができ、薬剤コストを低減させ、効率的な有価金属の回収処理を行うことが可能となる。
【0066】
脱希土類工程における反応時のpHとしては、特に限定されるものではないが、pH1〜5とすることが好ましく、pH1〜3とすることがより好ましい。また、処理対象となる浸出液の液温としては、特に限定されるものではないが、50〜70℃程度とすることが好ましい。さらに、スラリー濃度としては、特に限定されるものではないが、50〜300g/L程度に調整することが好ましい。
【0067】
(4)ニッケル回収工程(ニッケル硫化物としての回収を例として)
ニッケル回収工程では、上述した脱希土類工程を経て希土類元素が分離回収された後の溶液(脱希土類処理後の濾液(脱RE液))に対して硫化剤を添加して硫化処理を施し、ニッケルを硫化物として回収する。なお、ここでは、濾液に含まれるニッケルの回収方法として、硫化処理による回収方法を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、例えば溶媒抽出方法等によって濾液からニッケルを分離回収するようにしてもよい。
【0068】
具体的に、このニッケル回収工程では、希土類元素を複塩沈澱と分離して後に得られた溶液(脱RE液)に、中和剤を添加してpHを2.5〜4.5程度に維持しながら硫化剤を添加して硫化処理を施し、ニッケル硫化物の沈澱物を形成させる。そして、そのニッケル硫化物の沈殿物と硫化処理後液(貧液)とを固液分離して、沈殿物を回収する。
【0069】
この硫化処理に用いる硫化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫化水素ガス、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム等を用いることができる。また、中和剤についても、特に限定されるものではなく、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を用いることができる。
【0070】
以上詳述したように、本実施の形態に係るニッケル水素電池からの有価金属の回収方法においては、負極部品に対し、所定の範囲に濃度を調整した硫酸溶液を添加して負極部品から有価金属を浸出させて浸出スラリーを得る浸出工程と、浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離工程と、浸出液に脱希土類剤を添加して浸出液中に溶解した希土類元素を分離する脱希土類工程とを含む。特に、浸出工程において、その濃度を、負極部品に含まれる希土類元素の溶解度以上でニッケルの溶解度以下の範囲内にその浸出に伴う濃度変動が生じるように調整した硫酸溶液を用いて浸出処理を施すことを特徴とする。
【0071】
このような有価金属の回収方法によれば、負極部品からニッケルを高い浸出率で浸出させてニッケル濃度の高い浸出液を得ることができるとともに、浸出処理で生成する浸出残渣に希土類元素の硫酸塩を部分的に析出させることが可能となり、この段階で一部の希土類元素を浸出残渣として有効に分離することができる。
【0072】
また、続いて、浸出液中に溶解して希土類元素についても、浸出液に対して脱希土類処理を施して回収するようにしているため、負極部品から希土類元素を高い回収率で分離回収することができる。さらに、回収すべき希土類元素の一部が既に浸出残渣として有効に回収されているので、その脱希土類処理によって回収するべき希土類元素の量が低減されており、脱希土類処理に用いる脱希土類剤の使用量を減らすことができる。
【0073】
なお、上述の説明においては、ニッケル水素電池を構成する負極部品に関して、その製造工程において生じた負極部品の不良品(製造工程スクラップ)を用いて有価金属を回収する場合を例に挙げたが、負極部品としてはこれに限られるものではない。例えば、使用済みのニッケル水素電池から解体回収した負極部品を用いてもよい。その場合、上述した浸出工程を行うに先立ち、ニッケル水素電池を失活化させて解体する前処理工程と、解体して得られた正極材を洗浄する洗浄工程とを経るようにすることができる。
【0074】
具体的に、前処理工程としては、例えば、使用済みニッケル水素電池を不活性雰囲気下にて焙焼処理に付し、その使用済みニッケル水素電池を失活化させ、次いで解体して負極部品を取り出す処理を行う。焙焼処理としては、その使用済みのニッケル水素電池を炉内に入れて、不活性雰囲気下で500〜600℃程度の温度で焙焼する方法が用いられる。
【0075】
次に、洗浄工程としては、使用済みのニッケル水素電池から解体して得られた負極部品を、例えば純水や酸性溶液等を用いて洗浄処理に付し、その負極部品に付着した電解液成分等を除去する。この洗浄工程において、例えばpH5〜8程度の硫酸、塩酸、硝酸の水溶液を用いて行う。
【実施例】
【0076】
以下、本発明についての実施例を比較例と対比しながら説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
原料として、ニッケル水素電池の負極部品の製造工程スクラップである水素吸蔵合金564gを用いた。また、浸出始液には、濃度300g/Lの硫酸溶液3.05リットルを用いた。なお、スラリー濃度は185g/Lとなる。また、原料添加量は、上述の濃度と量の硫酸溶液に対して完全に原料が溶解した際に、その浸出液中のNi濃度が100g/Lとなるように設定した。浸出温度は80℃とした。
【0078】
この原料と硫酸溶液とを用いて、負極部品からニッケルを浸出させる浸出処理を行った。具体的には、80℃に加温したH
2SO
4溶液に、原料である負極部品の水素吸蔵合金を添加した。この浸出処理においては、溶液の酸化還元電位(ORP)を銀塩化銀電極を参照電極として測定した。なお、処理中のORPは、原料添加直後は急激に低下し、−150〜−200mVとなった。その後、浸出処理が進行するとともにORPはやや低下して−200〜−300mVの範囲を推移した。
【0079】
やがて浸出が終わると、水素の発生量が減少し、最終的には水素発生が無くなることが目視で確認された。このときのORPは、+100〜+200mVまで上昇していた。そして、この水素発生が無くなった時点を浸出が終了したと判定し、得られた浸出液を温度60℃まで低下させてから、吸引濾過して浸出液と浸出残渣とを分離した。
【0080】
濾過して得られた浸出液3.12リットルの組成をICP発光分析により分析したところ、Ni濃度が100g/Lと非常に高濃度な浸出液が得られ、99%以上の高い浸出率でニッケルを浸出させることができた。また、この浸出液には、希土類元素が、Nd:3g/L、Ce:6.8g/L、La:13g/Lの割合で溶解していた。なお、上述したニッケルの浸出率は、浸出率(%)=(浸出液中のNiの重量[g]+浸出洗浄液中のNiの重量[g])/(浸出液中のNiの重量[g]+浸出洗浄液中のNiの重量[g]+浸出残渣中のNiの重量[g])×100で計算した。
【0081】
また、得られた浸出残渣240.78g(dry)の形態をX線回折(XRD)を用いて分析した。その結果、この浸出残渣は、RE
2(SO
4)
3・9(H
2O)の形態であって、希土類元素の硫酸塩が形成されており、金属単体の形態のものは残っていないことが確認された。
【0082】
続いて、得られた浸出液3.12Lに対して、脱希土類剤として濃度400g/Lの硫酸ナトリウムを添加して希土類元素の硫酸複塩を形成させる処理(脱希土類処理)を行った。具体的には、60℃に加温した浸出液に、濃度400g/Lの硫酸ナトリウムを添加して加温しながら混合し、60℃になったところから3時間攪拌保持した。そして、3時間経過したところで、吸引濾過して脱希土類濾液(脱希土類処理後の濾液)と希土類元素の硫酸複塩からなる澱物とを分離した。この脱希土類処理において、原料100gあたりに使用した硫酸ナトリウムの使用量を計算したところ、0.58Lとなった。
【0083】
[比較例1]
実施例1と同じ電池スクラップ140gを原料に用い、浸出始液には濃度90g/Lの硫酸溶液3.49Lを用いたこと以外は、実施例1と同一の設備を用いて同様にして処理を行った。なお、原料添加量、浸出始液使用量のバランスとしては、上述の濃度と量の硫酸溶液に対して完全に希土類元素が溶解し、再析出しないように設定した。
【0084】
その結果、この浸出処理により、浸出残渣0.006g、浸出液2.54Lが得られた。また、浸出率としては、Ni:99%以上、Nd:100%、Ce:100%、La:100%となった。このように、ニッケルの浸出率としては99%以上となったものの、実施例1に比べて浸出液中のニッケル濃度が34g/Lと低くなり、またNd:1.5g/L、Ce:4.5g/L、La:11g/Lの割合で希土類元素を含有していた。
【0085】
続いて、実施例1と同様に、得られた浸出液2.54Lに対して、脱希土類剤として濃度400g/Lの硫酸ナトリウムを添加して希土類元素の硫酸塩を形成させる処理(脱希土類処理)を行った。この脱希土類処理において、原料100gあたりに使用した硫酸ナトリウムの使用量を計算したところ、1.45Lとなり、実施例1と比べて2倍の使用量となった。
【0086】
下記表1に、実施例1及び比較例1にて得られた浸出液に対する脱希土類処理において、原料100gあたりの硫酸ナトリウムの使用量についての結果をまとめて示す。
【0087】
【表1】