(54)【発明の名称】液晶性樹脂組成物、放熱材料前駆体、Bステージシート、プリプレグ、放熱材料、積層板、金属基板、プリント配線板、液晶性樹脂組成物の製造方法、放熱材料前駆体の製造方法及び放熱材料の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0032】
<液晶性樹脂組成物>
本発明の液晶性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される液晶性エポキシ樹脂と、硬化剤と、窒化アルミニウム粒子、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層、及び前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一
の被覆層以外の領域を被覆し、有機物を含む第二の被覆層を有する窒化アルミニウム複合粒子(以下、単に「複合粒子」ともいう)とを含有し、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。
【0033】
【化5】
【0034】
一般式(1)中、Xは単結合、又は、下記化学式で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つから構成される連結基を示す。Yはそれぞれ独立に、炭素数1〜8の脂肪族基、炭素数1〜8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは0〜4の整数を、kは0〜7の整数を、mは0〜8の整数を、lは0〜12の整数を示す。
【0035】
【化6】
【0036】
本発明は、電子部品を搭載し或いは電子機器の構成部材である積層板、樹脂シート、プリント配線板又は放熱シートなどの高熱伝導性放熱材料に適用できる。また、上記放熱材料の前駆体として、樹脂組成物の半硬化状態の材料並びにそれらの材料を与える液晶性樹脂組成物に適用することができる。
【0037】
窒化アルミニウム粒子表面を、前記一般式(1)で示される液晶性エポキシ樹脂が垂直配向するアルミナで被覆することにより、液晶性エポキシ樹脂の配向の乱れによる熱抵抗を低減することができる。本発明においては窒化アルミニウム粒子表面を比較的熱伝導性の良いαアルミナで被覆することにより、有機物又はαアルミナ以外の酸化アルミニウム等の無機物で被覆した場合に比べ、樹脂組成物の熱伝導率の低減を抑制できる。また、窒化アルミニウム表面をαアルミナと有機物で被覆することにより、αアルミナのみで被覆した場合に比べ、耐水性を向上することができる。
【0038】
さらに、窒化アルミニウム表面を親水基であるカルボキシ基又はアルコール性水酸基を有する有機化合物で被膜することより、炭化水素のみを有する有機物で被膜した場合に比べ、樹脂成分と窒化アルミニウム粒子の親和性を向上することができ、熱伝導率の低下を抑制できる。また、親水基の導入により、硬化物を形成した場合における前記一般式(1)で示される液晶性エポキシ樹脂の配向性を制御することができる。特に好ましくは、樹脂成分の配向性を制御し、前記一般式(1)で示される液晶性エポキシ樹脂を窒化アルミニウム粒子に対して垂直配向させることにより、複合粒子と樹脂成分の界面の熱抵抗を低減することができる。
【0039】
本発明において垂直配向とは、複合粒子表面に対して、液晶性エポキシ樹脂の分子がチルトを持って配向していることを言う。このチルト角は、本発明においては、50°〜90°であり、好ましくは、70°〜90°である。
すなわち、液晶性エポキシ樹脂は配向面を有する硬化物を形成し、この硬化物の配向面が複合粒子表面に対して、所定のチルト角を有して配向していることが好ましい。硬化物の複合粒子表面における配向状態の一例を
図3に模式的に示す。
図3に示すように複合粒子表面22において、液晶性エポキシ樹脂が有するメソゲン基20が一定の方向に配向し、液晶性エポキシ樹脂の硬化物全体として所定のチルト角を有するように複合粒子表面に配向すると考えられる。特に複合粒子の表面が親水基であるカルボキシ基又はアルコール性水酸基を有する有機化合物で被膜されている場合には、容易に
図3に示すような配向状態をとると考えられる。またこれにより優れた熱伝導性を示すと考えられる。一方、複合粒子表面24が炭化水素基のみを有する有機物で被膜された場合には、
図4に示すようにメソゲン基20の配向がやや乱れた状態になると考えられる。
【0040】
(窒化アルミニウム複合粒子)
本発明の液晶性樹脂組成物は、窒化アルミニウム粒子、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層、及び前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一
の被覆層以外の領域を被覆し、有機物を含む第二の被覆層を有する窒化アルミニウム複合粒子の少なくとも1種を含む。
前記複合粒子は、窒化アルミニウム粒子の表面が、αアルミナを含む第一の被覆層と有機物を含む第二の被覆層で被覆されていることにより、熱伝導性と耐水性に優れる。さらに第二の被覆層が有機物を含むことで、例えば樹脂との相溶性及び分散性に優れ、樹脂組成物を構成した場合に粘度の上昇が抑制され、成形性及び接着性に優れる樹脂組成物を構成することができる。
【0041】
窒化アルミニウム粒子の表面に、熱伝導性が良好なαアルミナを含む第一の被覆層を形成する際には、高温で熱処理する必要がある。そのため窒化アルミニウム粒子の表面全体を、αアルミナを含む第一の被覆層で均一に被覆することは困難であり、第一の被覆層には亀裂が生じ、窒化アルミニウムが表面に露出する領域が形成される。このような窒化アルミニウムが露出した領域に有機物を含む第二の被覆層を設けることで、優れた熱伝導性を維持しつつ、耐水性に優れる複合粒子を構成することができる。
【0042】
このような複合粒子の表面状態は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡(SEM−EDX)を用いて、αアルミナを含む第一の被覆層に対応する酸素原子(O)、有機物を含む第二の被覆層に対応する炭素原子(C)、αアルミナ及び窒化アルミニウムに対応するアルミニウム原子(Al)の分布をそれぞれ分析することで観察することができる。
【0043】
本発明において窒化アルミニウム粒子表面における第一の被覆層の存在量と第二の被覆層の存在量との比率は特に制限されないが、熱伝導性と耐水性の観点から、原子基準で、第二の被覆層/第一の被覆層として0.01〜1.0であることが好ましく、0.1〜0.5であることがより好ましい。
尚、窒化アルミニウム粒子表面における第一の被覆層の存在量及び第二の被覆層の存在量は、SEM−EDXを用いて酸素原子及び炭素原子の分布量をそれぞれ定量することで算出することができる。
【0044】
また複合粒子中に含まれる有機物の含有比率は特に制限されないが、熱伝導性と耐水性の観点から、複合粒子中に0.01質量%〜0.5質量%であることが好ましく、0.02質量%〜0.05質量%であることがより好ましい。
尚、複合粒子に含まれる有機物の含有比率は、熱重量分析を行うことで算出することができる。具体的には、複合粒子の加熱に伴う重量変化を、熱重量分析装置(TGA)を用いて、測定範囲25℃〜800℃、昇温速度10℃/min.の条件で測定し、有機物の熱分解に伴う重量の減少を測定することで算出することができる。
【0045】
複合粒子中に含まれる有機物の含有比率は、例えば、後述する有機物層形成工程における種々の条件を適宜選択することで制御することができる。具体的には例えば、第一の被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と接触させる化合物の種類や濃度、接触時間や接触温度を適宜選択することで、複合粒子中に含まれる有機物の含有比率を所望の範囲とすることができる。
【0046】
本発明において、窒化アルミニウム粒子の表面に形成されるαアルミナを含む被覆層(第一の被覆層)の層厚は特に制限されない。第一の被覆層の層厚は、熱伝導性と耐水性の観点から、1nm以上3000nm以下であることが好ましく、熱伝導性の観点から、1nm以上500nm以下であることがより好ましく、耐水性の観点から、10nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
第一の被覆層の層厚は、CuKα線によるX線回折におけるαアルミナの(100)面に対応するピーク(A)及び窒化アルミニウムの(113)面に対応するピーク(B)について、面積基準の強度比(A/B)から見積もることができる。
具体的には得られた強度比から、αアルミナを含む第一の被覆層の層厚を算出することができる。具体的には以下のようにして第一の被覆層の層厚が算出される。
第一の被覆層の層厚は、CuKα線によるX線回折におけるαアルミナの(100)面に対応するピーク(A)及び窒化アルミニウムの(113)面に対応するピーク(B)について、それぞれのピークの積分強度比(A/B)をICDD(International Centre for Diffraction Data)データに基づいて規格化し、αアルミナと窒化アルミニウムの体積比に変換する。換算したαアルミナと窒化アルミニウムの体積比と複合粒子の粒子径から第一の被覆層の層厚を算出することができる。
【0048】
またX線回折におけるαアルミナの(100)面に対応するピークの窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークに対する強度比は以下のようにして求められる。
X線回折装置としてRINT2500HL(リガク社製)、X線源としてCuKα線を用いて、X線回折スペクトル(XRD)を測定する。得られたX線回折スペクトルから、2θが42.5°〜44.5°付近のαアルミナの(100)面に対応するピークと、2θが32.5°〜33.5°付近の窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークとをそれぞれ同定し、それぞれのピークの強度をピーク面積から求める。得られたピーク強度に基づいて、αアルミナの(100)面に対応するピークの窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークに対する面積基準の強度比を算出することができる。
【0049】
本発明においては、熱伝導性と耐水性の観点から、αアルミナの(100)面に対応するピークの窒化アルミニウムの(113)面に対応するピークに対する強度比が、面積基準の1以下であることが好ましく、0.001以上1以下であることがより好ましく、0.003以上0.1以下であることがさらに好ましく、熱伝導性の観点から、0.003以上0.02以下であることが特に好ましい。
前記強度比が1以下であることで、複合粒子における窒化アルミニウムに対するαアルミナ結晶の割合が少なくなり、複合化による高熱伝導化の効果をより効果的に得ることができる。
【0050】
αアルミナを含む第一の被覆層の層厚は、例えば、後述する酸化工程及びα化工程における種々の条件を適宜選択することで制御することができる。具体的には例えば、酸化工程及びα化工程に用いる酸素量や、窒化アルミニウム表面の加水分解量等を適宜選択することで所望の層厚とすることができる。
【0051】
また複合粒子の粒子形状は、略球状、扁平状、ブロック状、板状及び鱗片状等が挙げられる。分散性と熱伝導性の観点から、略球状、扁平状であることが好ましい。
また複合粒子の粒子径は特に制限されない。例えば体積平均粒子径として、0.5μm〜300μmとすることができ、熱伝導性と樹脂への充填の観点から、1μm〜100μmであることが好ましく、10μm〜50μmであることがより好ましい。
体積平均粒子径はレーザー回折法を用いて測定される。レーザー回折法はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS230)を用いて行うことができる。
【0052】
αアルミナと有機物で被覆した複合粒子10は、例えば、
図2に示すように、(1)窒化アルミニウム粒子1を酸素含有気体雰囲気下で焼成することにより粒子表面にアルミニウムの酸化物を形成する工程、(2)表面に形成した酸化アルミニウムをα結晶化させ、微細な亀裂部3を有するαアルミナ層2を形成する工程、(3)表面にαアルミナ層2を有する窒化アルミニウム粒子1をアルコール性水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を、好ましくは合わせて2つ以上含有する化合物と炭素数1〜24の炭化水素を有する有機化合物4と窒化アルミニウムとを、αアルミナ層2の亀裂部3で反応させる工程により形成することができる。
図1はαアルミナ層を形成した窒化アルミニウム粒子の電子顕微鏡写真で、粒子の表面に太い線で示されるクラックと、図面には明確に表れていないが、微細なクラックが粒子表面全体に形成されている。
【0053】
本発明に用いることのできる窒化アルミニウム粒子は、例えば、直接窒化法、還元窒化法、気相反応法等、いずれの製造法により形成された窒化アルミニウム粒子にも適用が可能である。また、本発明に用いることのできる窒化アルミニウム粒子は窒化アルミニウムの単結晶あるいは窒化アルミニウムの結晶が多数焼結した粒子であっても良い。
【0054】
また窒化アルミニウム粒子の形状としては、略球状、扁平状、ブロック状、板状及び鱗片状等が挙げられる。分散性と熱伝導性の観点から、略球状、扁平状であることが好ましい。
また窒化アルミニウム粒子の粒子径は特に制限されない。例えば体積平均粒子径として、0.5μm〜300μmとすることができ、熱伝導性と樹脂への充填性の観点から、1μm〜100μmであることが好ましく、熱伝導性と樹脂への充填性の観点から、10μm〜50μmであることがより好ましい。
体積平均粒子径はレーザー回折法を用いて測定される。レーザー回折法はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS230)を用いて行うことができる。
【0055】
本発明で用いる複合粒子は窒化アルミニウム粒子表面に被覆層が形成された複合粒子であって、被覆層が亀裂を有するαアルミナからなり、亀裂部で窒化アルミニウムと反応して形成した有機化合物で修飾されていることを特徴とする。
すなわち前記複合粒子は、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部の領域を被覆し、αアルミナを含む第一の被覆層と、前記窒化アルミニウム粒子の表面の前記第一の被覆層以外の領域を被覆し、有機物を含む第二の被覆層とを有する複合粒子である。
【0056】
亀裂を有するαアルミナ層は窒化アルミニウム粒子を酸素含有ガス雰囲気下、結晶化が進行する程度の温度で焼成させた後、望ましくは、窒素もしくは不活性ガス雰囲気下で酸化アルミニウムをα化させることにより形成することができる。また、窒化アルミニウムを限られた酸素量の中で焼成することにより、結晶化を生じない温度で、酸化アルミニウムを形成した後、酸素の少ない、もしくはない雰囲気下で結晶化を生じさせ、αアルミナを形成することもできる。
【0057】
また、窒化アルミニウム表面を加水分解せしめた後、窒素もしくは不活性ガス雰囲気下で焼成,生成した酸化アルミニウムをα化することにより形成することもできる。
【0058】
αアルミナ層を有する窒化アルミナ粒子を形成する際に、焼成により窒化アルミニウム表面に生成した酸化アルミニウム層を酸素ガス雰囲気下で焼成し、酸化アルミニウムの結晶化を行うと、結晶化に伴い生じた亀裂の内部が更に酸化する。亀裂内部が酸化すると焼成の後に行う亀裂の有機被覆処理に際して、亀裂部分のみを有機被覆することが困難となる。従って、αアルミナ層の亀裂を除いて窒化アルミニウム粒子の全表面がαアルミナ層によって覆われていることが好ましい。
【0059】
すなわち、亀裂部分のみの有機被覆は焼成により窒化アルミニウム表面に亀裂を有するαアルミナ層を形成した後、粒子を脱水有機溶媒中、アルミナとは反応性を有さずに、窒化アルミニウムのみと反応する置換基を有する有機化合物と反応させる。反応の後、過剰の有機化合物を取り除くことにより、窒化アルミニウム粒子表面に被覆層が形成された複合粒子であって、被覆層が亀裂を有するαアルミナと、アルコール性水酸基及びカルボキシ基の少なくとも1つ並びに炭素数1〜24の炭化水素基を有する化合物が亀裂部で窒化アルミニウムと反応して形成した有機化合物と、を含む窒化アルミニウム複合粒子を形成することができる。
【0060】
よって、窒化アルミニウムの焼成は第一に結晶化を生じない温度(例えば1100℃未満)で、酸化アルミニウムを形成した後、第二に窒素又は不活性ガス雰囲気下結晶化を生じさせ、αアルミナを形成することが好ましい。
【0061】
また、窒化アルミニウムを限られた酸素量の中で焼成することにより、結晶化を生じない温度で、酸化アルミニウムを形成した後、酸素の少ない、もしくはない雰囲気下で結晶化を生じさせ、αアルミナを形成することもできる。
【0062】
また、窒化アルミニウム表面にαアルミナ層を形成せしめ、耐水性を向上させるにあたり、表面に形成するαアルミナ層に生じる亀裂を低減する形成方法が知られている。本発明においてはαアルミナに生じた亀裂部分において、アルコール性水酸基及びカルボキシ基の少なくとも1つを有する化合物を窒化アルミニウムと反応させ、亀裂部に親水性の有機物を形成することにより、窒化アルミニウム粒子表面と樹脂との親和性を向上させることができる。
【0063】
よって、公知例(特開2005−225947号公報)のように亀裂を低減してしまっては、有機化合物による窒化アルミニウム粒子表面の被覆が十分になされずに、粒子と樹脂との親和性が向上されずに、熱伝導率を向上させることが困難となる。
【0064】
αアルミナの被覆厚はX線回折におけるαアルミナの(100)面と窒化アルミニウの(113)面の強度比から求めた。また、複合粒子において、X線回折におけるαアルミナの(100)面と窒化アルミニウムの(113)面の強度比が1以下であることが望ましい。強度比が1を超えると窒化アルミニウムに対するαアルミナ結晶の割合が多く、複合化による高熱伝導化の効果を得ることは難しく、単に窒化アルミニウム上に有機被覆を施した粒子に比べ高熱伝導化の効果を充分に得ることができない。
【0065】
以下に窒化アルミニウム表面に亀裂を有するαアルミナ層を形成する方法について、より詳細に説明する。
【0066】
窒化アルミニウム粒子の表面には1100℃以上の熱処理により、αアルミナを含む被覆層が形成される。1100℃以上の温度で熱処理することにより窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層(第一の被覆層)が形成される。一方、熱処理の温度が1100℃未満の場合には、α結晶化が十分に進行せず、αアルミナを含む被覆層を形成することができない場合がある。
【0067】
窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を形成する方法は特に制限されず通常用いられる方法から適宜選択することができ、窒化アルミニウム粒子の表面にαアルミナを含む被覆層を直接形成する方法であっても、窒化アルミニウム粒子の表面にγアルミナ等のαアルミナ以外の酸化アルミニウムを形成し、これを1100℃以上で熱処理することによってα結晶化してαアルミナを含む被覆層を形成する方法であってもよい。
本発明においては、熱伝導性と膜厚制御の観点から、窒化アルミニウム粒子の表面にγアルミナ等のαアルミナ以外の酸化アルミニウムを含む被覆層を形成する酸化工程と、窒化アルミニウム粒子の表面に形成された酸化アルミニウムを1100℃以上で熱処理することによってα結晶化するα化工程とを含む方法であることが好ましい。ここで酸化工程とα化工程はそれぞれ独立に行なってもよく、また連続的に行なってもよい。
【0068】
窒化アルミニウム粒子の表面にγアルミナ等のαアルミナ以外の酸化アルミニウムを含む被覆層を形成する酸化工程として、例えば、窒化アルミニウム粒子を酸素含有ガス雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法、窒化アルミニウム粒子を限られた酸素量の雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法、窒化アルミニウム表面を加水分解せしめた後、不活性ガス雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法等を挙げることができる。
ここで不活性ガス雰囲気については後述するα化工程における不活性ガス雰囲気と同義である。
【0069】
窒化アルミニウム粒子を限られた酸素量の雰囲気下で熱処理する場合の酸素量は、窒化アルミニウム粒子の表面に形成する酸化アルミニウム被覆層の厚みに応じて適宜選択することができる。例えば、100gの質量の窒化アルミニウム粒子に対して酸素量を5ml〜50mlとすることができる。
また窒化アルミニウム表面を加水分解する方法としては、通常の大気中に窒化アルミニウム粒子を0.1時間〜1時間放置する方法、水を含む溶媒中で撹拌する方法等を挙げることができる。
【0070】
本発明においては、熱伝導性の観点から、窒化アルミニウム粒子を限られた酸素量の雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法、又は、窒化アルミニウム表面を加水分解せしめた後、不活性ガス雰囲気下で熱処理して酸化アルミニウムを形成する方法であることが好ましい。
【0071】
酸化工程における熱処理温度は、酸化アルミニウムのα結晶化が進行しない程度の温度であることが好ましく、1100℃未満であることがより好ましく、1000℃以下であることがさらに好ましい。
また酸化工程における熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択できる。熱伝導性の観点から、10分間〜200分間であることが好ましく、30分間〜120分間であることがより好ましい。
【0072】
酸化工程における熱処理は、一定の温度で行ってもよく、また、例えば室温から所定の温度まで昇温することで行なってもよい。本発明においては、熱伝導性と生産性の観点から、室温から所定の温度まで昇温することで熱処理を行うことが好ましい。
酸化工程における熱処理を、室温から所定の温度まで昇温すること行なう場合、所定の温度が1100℃であって、昇温時間が10℃/分であることが好ましく、所定の温度が1000℃であって、昇温時間が10℃/分であることがより好ましい。
【0073】
窒化アルミニウムの表面に形成されたαアルミナ以外の酸化アルミニウムを、高温で熱処理することでα結晶化することができる(α化工程)。
α化工程における熱処理温度は、熱伝導性の観点から、1100℃以上であることが好ましく、1150℃以上であることがより好ましい。
またα化工程における熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択できる。熱伝導性の観点から、0.2時間〜3時間であることが好ましく、0.5時間〜1時間であることがより好ましい。
【0074】
α化工程における熱処理は、一定の温度で行ってもよく、また、例えば酸化工程における熱処理温度から所定の温度まで昇温した後、所定の温度を維持することで行なってもよい。本発明においては、熱伝導性と生産性の観点から、酸化工程における熱処理温度から所定の温度まで昇温した後、所定の温度を維持することで熱処理を行うことが好ましい。
酸化工程における熱処理を、酸化工程における熱処理温度から所定の温度まで昇温した後、所定の温度を維持することで行なう場合、所定の温度が1100℃〜1300℃であって、所定の温度の維持時間が0.2時間〜3時間であることが好ましく、所定の温度が1150℃〜1200℃であって、維持時間が0.5時間〜2時間であることがより好ましい。
【0075】
α化工程における熱処理は、熱伝導性の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気としては酸素の含有量が0.1体積%以下であることが好ましい。また不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。
【0076】
前記複合粒子は、上記のようにして得られる表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、アルミナとは反応性を有さずに、窒化アルミニウムのみと反応する置換基を有する有機化合物(以下、「有機被覆剤」ともいう)とを接触させることで、窒化アルミニウム粒子の表面においてαアルミナを含む被覆層が形成されていない領域に有機物含む被覆層(第二の被覆層)を形成することができる。
ここでアルミナとは反応性を有さずに、窒化アルミニウムのみと反応する置換基を有する有機化合物としては、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物(以下、「特定化合物」ともいう)を挙げることができる。
【0077】
これは例えば以下のように考えることができる。
上記のようにして窒化アルミニウムの表面にαアルミナを含む被覆層を形成すると、形成されるαアルミナを含む被覆層には亀裂が生じる。これにより、窒化アルミニウム粒子の表面にはαアルミナを含む被覆層で被覆されていない領域が生じる。このような窒化アルミニウム粒子の表面のαアルミナを含む被覆層で被覆されていない領域に、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物を接触させる。特定化合物はアルミナとは反応性を有さずに、窒化アルミニウムと選択的に反応すると考えられることから、窒化アルミニウム粒子の表面のαアルミナを含む被覆層で被覆されていない領域に、特定化合物と窒化アルミニウムとの反応生成物である有機物を含む被覆層が形成されると考えることができる。
【0078】
アルミナとは反応性を有さずに、窒化アルミニウムのみと反応する置換基を有する有機化合物として、アルコール性水酸基やカルボキシ基を有する有機化合物を用いることができる。好ましくは、炭素数1〜24の炭化水素基及びアルコール性水酸基を有する化合物を用いることができ、より好ましくは、窒化アルミニウム粒子と反応した後に、表面に親水基が残るように、アルコール性水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を合わせて2以上もつ炭素数1〜24程度の炭化水素を有する有機化合物を用いることができる。
アルコール性水酸基やカルボキシ基を有する有機化合物として具体的には以下の有機化合物を挙げることができる。
【0079】
炭素数1〜24の炭化水素基及びアルコール性水酸基を有する化合物としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、オクタデシルアルコール、ベヘニルアルコール等の環状、直鎖状又は分岐鎖状の1価アルコールを挙げることができる。
【0080】
アルコール性水酸基を2基以上有する有機化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、及びジオール類、グリセリン、エリスリトール、グルシトール、マンニトール等の多価アルコール類を挙げることができる。また、アルコール性水酸基を2以上有していれば、糖類や多糖類を用いることもできる。
【0081】
炭素数1〜24の炭化水素基及びカルボキシ基を有する有機化合物としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸等のモノカルボン酸を用いることもできる。
【0082】
カルボキシ基を2基以上有する有機化合物としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等のジ及びトリカルボン酸、又は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の芳香族カルボン酸を用いることができる。
【0083】
これらの中でも、熱伝導性と耐水性の観点から、炭素数2〜20の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を有する化合物であることが好ましく、炭素数2〜20の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を1〜2有する化合物であることがより好ましく、炭素数2〜20の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を合わせて2つ以上有する化合物であることがさらに好ましい。
炭素数2〜20の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を合わせて2つ以上有する化合物で被覆層が複合粒子表面22形成されていることにより、
図3に示すように複合粒子表面22にメソゲン基20が一定の方向に配向した硬化物が容易に形成されると考えられる。
【0084】
また、熱伝導性と耐水性の観点から、炭素数1〜24の炭化水素基とカルボキシ基とを有する化合物及び炭素数1〜24の炭化水素基と水酸基とを有する化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、炭素数2〜24の炭化水素基と1〜2のカルボキシ基とを有する化合物及び炭素数2〜24の炭化水素基と1〜2の水酸基とを有する化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基と2のカルボキシ基とを有する化合物及び炭素数4〜24の炭化水素基と2の水酸基とを有する化合物から選ばれる少なくとも1種を用いることがさらに好ましい。
【0085】
また、以上に例示したアルコール性水酸基やカルボキシ基を有する有機化合物の1種、又は2種以上を混合して使用することもできる。使用するアルコール性水酸基やカルボキシ基を有する有機化合物の一部にアルコール基やカルボキシ基を多数有している化合物を用いることにより複合粒子表面の極性を制御することができ、周囲の液晶性樹脂の配向性を調整することができる。
【0086】
表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と、炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物(特定化合物)とを接触させる方法としては、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。例えば、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物又はその溶液に浸漬する方法、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物又はその溶液を塗布する方法、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物のガスと接触させる方法等を挙げることができる。本発明においては、反応性の観点から、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物又はその溶液に浸漬する方法であることが好ましい。
【0087】
表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を特定化合物の溶液に浸漬する場合、特定化合物の濃度は特に制限されないが、反応性及び分散性の観点から、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%であることがより好ましい。
また特定化合物の溶液を構成する溶媒は特に制限されないが、有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤としては例えば、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、ジクロルメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化アルキル系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、THF等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などを挙げることができる。中でも含水量及び特定化合物との相
溶性の観点から、炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭化水素系溶剤であることがより好ましい。
【0088】
また表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と特定化合物とを接触させる時間は特に制限されず、特定化合物の種類や接触温度等に応じて適宜選択することができる。例えば、10分〜12時間とすることができ、熱伝導性と耐水性の観点から、1時間〜4時間であることが好ましく、2時間〜4時間であることがより好ましい。
【0089】
さらにまた表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と特定化合物とを接触させる温度は特に制限されず、特定化合物の種類や接触時間等に応じて適宜選択することができる。例えば、25℃〜150℃とすることができ、熱伝導性と耐水性の観点から、30℃〜120℃であることが好ましく、50℃〜120℃であることがより好ましい。
【0090】
本発明における有機物層形成工程は、熱伝導性と耐水性の観点から、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子を炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物から選ばれる特定化合物中に浸漬して、温度25℃〜150℃で、1〜12時間接触させる工程であることが好ましく、表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と炭素数1〜24の炭化水素基並びに水酸基及びカルボキシ基の少なくとも一方を含む化合物から選ばれる特定化合物中に浸漬して、温度50℃〜120℃で、2〜4時間接触させる工程であることがより好ましい。
【0091】
表面にαアルミナを含む被覆層が形成された窒化アルミニウム粒子と特定化合物とを接触させて得られた複合粒子に対しては、必要に応じて洗浄や乾燥等の後処理を行ってもよい。
【0092】
液晶性樹脂組成物中における複合粒子の含有率は特に制限されないが、熱伝導性と成形性の観点から、樹脂組成物の固形分中における含有率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%〜98質量%であることがより好ましく、80質量%〜95質量%であることがさらに好ましい。
ここで、固形分とは、液晶性樹脂組成物を構成する成分のうちの不揮発性成分の総量を意味する。
【0093】
なお、液晶性樹脂組成物に含まれる複合粒子は1種単独でもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の複合粒子を組み合わせて用いる場合、2種以上の複合粒子としては、例えば、粒子径が互いに異なるもの、有機物の含有率が互いに異なる、有機物の構造が互いに異なる、αアルミナを含む被覆層の層厚が互いに異なるもの、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0094】
液晶性樹脂組成物は前記窒化アルミニウム複合粒子に加えて、他の無機粒子(フィラー)、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどを含んでいてもよい。熱伝導率向上のためには、窒化アルミニウム複合粒子の含有量は、全フィラーの20質量%以上とするのが好ましい。
【0095】
(エポキシ樹脂)
本発明の液晶性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表される液晶性エポキシ樹脂モノマーの少なくとも1種を含む。液晶性エポキシ樹脂モノマーは、いわゆるメソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーである。液晶性エポキシ樹脂モノマーを含む樹脂組成物であることで成型が容易であり、また硬化物の絶縁性に優れる。
一般式(1)中、Xは単結合又は下記化学式で表される2価の基からなる群より選ばれる少なくとも1つから構成される2価の連結基を表す。かかる特定の構造を有することで配向性を有するエポキシ樹脂硬化物が形成される。
【0096】
【化7】
【0097】
【化8】
【0098】
一般式(1)におけるXとしては、硬化物の熱伝導性の観点から、単結合、置換基を有してもよいフェニレン基、置換基を有してもよいシクロヘキセンジイル基、又は置換基を有してもよいシクロヘキサンジイル基であることが好ましく、単結合、置換基を有してもよいシクロヘキセンジイル基、又は置換基を有してもよいシクロヘキサンジイル基であることがより好ましい。
【0099】
またYはそれぞれ独立に、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示すが、硬化物の熱伝導性の観点から、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、、脂肪族アルコキシ基、又は塩素原子であることが好ましく、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。
【0100】
nは0〜4の整数を示すが、0〜3であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。kは0〜7の整数を示すが、0〜4であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。mは0〜8の整数を示すが、0〜4であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。lは0〜12の整数を示すが、0〜4であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。
【0101】
以下に本発明に用いることができる液晶性エポキシ樹脂モノマーの具体例としては、4,4’−ビフェノールグリシジルエーテル、1−{(3−メチル−4−オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン、4−(オキシラニルメトキシ)安息香酸−1,8−オクタンジイルビス(オキシ−1,4−フェニレン)エステル、2,6−ビス[4−[4−[2−(オキシラニルメトキシ)エトキシ]フェニル]フェノキシ]ピリジン等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0102】
前記液晶樹脂組成物における前記液晶エポキシ樹脂モノマーの含有比率としては特に制限はないが、熱伝導率と硬化性の観点から、液晶樹脂組成物の全質量に対して1.0質量%〜20.0質量%であることが好ましく、3.0質量%〜15.0質量%であることがより好ましい。
【0103】
前記液晶性樹脂組成物の示す液晶性は、温度変化により液晶性を示すサーモトロピック液晶の液晶性、あるいは、濃度により液晶性を示すリオトロピック液晶の液晶性でもよい。また、転移する液晶相は、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、ディスコチック液晶相等のいずれでもよい。望ましくは、配向秩序の高く熱伝導性の優れる、スメクチック液晶相やディスコチック液晶相がよい。
【0104】
前記液晶性樹脂組成物は、前記一般式(1)で表される液晶性エポキシ樹脂に加えて必要に応じて、一般式(1)で表される液晶性エポキシ樹脂とは異なるその他のエポキシ樹脂をさらに含んでいてもよい。
その他のエポキシ樹脂として具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂をはじめとするノボラック樹脂をエポキシ化したものを挙げることができる。また前記ノボラック樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及びα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂を挙げることができる。
【0105】
また、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンとフェノール類の共縮合樹脂のエポキシ化物、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を含有するフェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、テルペン変性エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂なども挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は単独で用いても2種以上を組み合わせて併用して用いてもよい。
【0106】
液晶性樹脂組成物がその他のエポキシ樹脂を含む場合、その他のエポキシ樹脂の含有率は特に制限されない。熱伝導性と成形性の観点から、樹脂組成物の固形分中における含有率が50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0107】
(硬化剤)
前記液晶性樹脂組成物は、硬化剤の少なくとも1種を含む。前記硬化剤は、エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物に通常用いられる硬化剤から目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、芳香族又は脂肪族のアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、メルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤などが挙げられる。
【0108】
これらの中でも芳香族アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、芳香族アミン系硬化剤であることがより好ましい。
【0109】
前記液晶性樹脂組成物における硬化剤の含有量は、硬化剤の種類や得られる熱伝導性エポキシ樹脂成形体の物性等を考慮して適宜設定すればよい。
具体的には、硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基1モルに対して硬化剤の化学当量が0.005当量〜5当量であることが好ましく、0.01当量〜3当量であることがより好ましく、0.5当量〜1.5当量であることがさらに好ましく、0.8当量〜1.3当量であることが特に好ましい。硬化剤の含有量がエポキシ基1モルに対して0.005当量以上であると、エポキシ樹脂を速やかに硬化することができる。一方、5当量以下であると、硬化反応が速くなりすぎることを抑制できる。なお、ここでの化学当量は、例えば硬化剤としてアミン系硬化剤を使用した際は、エポキシ基1モルに対するアミン系硬化剤が有するアミノ基の活性水素のモル数を表す。
【0110】
前記液晶性樹脂組成物の硬化物は液晶構造を示すことが望ましい。このとき示す液晶相は、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、ディスコチック液晶相等のいずれの液晶相でもよい。望ましくは、配向秩序性が高く熱伝導性の優れる、スメクチック液晶相やディスコチック液晶相が好ましい。
【0111】
本発明の樹脂組成物は上記必須成分に加えて、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては例えば、溶剤、分散剤、沈降防止剤等を挙げることができる。
前記溶剤としては樹脂組成物の硬化反応を阻害しないものであれば特に制限なく、通常用いられる有機溶剤を適宜選択して用いることができる。
【0112】
<放熱材料前駆体>
本発明の放熱材料前駆体は、前記液晶性樹脂組成物の半硬化物である。これにより取扱い性に優れ、優れた熱伝導性を有する放熱材料を構成することができる。
前記放熱材料前駆体としては、前記液晶性樹脂組成物のシート状の半硬化物であるBステージシート、及び、繊維基材と前記繊維基材に含浸された前記液晶性樹脂組成物の半硬化物とを有するプリプレグを挙げることができる。
【0113】
(Bステージシート)
前記Bステージシートは、前記液晶性樹脂組成物の半硬化物からなり、シート状の形状を有する。
Bステージシートは、例えば、前記液晶性樹脂組成物を離型フィルム上に塗布・乾燥して樹脂組成物層を形成する工程と、前記樹脂組成物層をBステージ状態まで加熱処理する工程とを含む製造方法で製造できる。
前記液晶性樹脂組成物を加熱処理して形成されることで、熱伝導率に優れ、Bステージシートとしての可とう性及び可使時間に優れる。
【0114】
前記Bステージシートとは、樹脂シートの粘度として常温(25℃)においては10
4〜10
5Pa・sであるのに対して、100℃で10
2〜10
3Pa・sに粘度が低下するものである。また、後述する硬化後の硬化樹脂(放熱材料)は加温によっても溶融することはない。尚、上記粘度は、動的粘弾性測定(周波数1ヘルツ、荷重40g、昇温速度3℃/分)によって測定される。
【0115】
具体的には例えば、PETフィルム等の離型フィルム上に、メチルエチルケトンやシクロヘキサンノン等の溶剤を添加したワニス状の液晶性樹脂組成物(以下、「樹脂ワニス」ともいう)を、塗布後、乾燥することで樹脂組成物層を形成することができる。
塗布は、公知の方法により実施することができる。塗布方法として、具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚みに樹脂組成物層を形成するための塗布方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調整した樹脂ワニスを塗布するダイコート法等を適用することができる。例えば、乾燥前の樹脂組成物層の厚みが50μm〜500μmである場合、コンマコート法を用いることが好ましい。
【0116】
塗工後の樹脂組成物層は硬化反応がほとんど進行していないため、可とう性を有するものの、シートとしての柔軟性に乏しく、支持体である前記PETフィルムを除去した状態ではシート自立性に乏しく、取り扱いが困難である。そこで後述する加熱処理により樹脂組成物層を半硬化し、Bステージ化する。
前記樹脂組成物層を加熱処理する条件は、液晶性樹脂組成物をBステージ状態にまで半硬化することができれば特に制限されず、液晶性樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。加熱処理には、熱真空プレス、熱ロールラミネート等から選択される加熱加圧処理方法が好ましい。これにより塗工の際に生じた樹脂組成物層中の空隙(ボイド)を減少させることができ、平坦なBステージシートを効率よく製造することができる。
具体的には例えば、加熱温度80℃〜130℃で、1秒〜30秒間、減圧下(例えば、1MPa)で加熱プレス処理することで樹脂組成物層をBステージ状態に半硬化することが好ましい。
【0117】
前記Bステージシートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm以上500μm以下とすることができ、熱伝導率及びシート可とう性の観点から、60μm以上300μm以下であることが好ましい。
また、Bステージシートは2層以上の樹脂フィルムを積層しながら熱プレスすることにより作製することもできる。
【0118】
(プリプレグ)
前記プリプレグは、繊維基材と、前記繊維基材に含浸された前記液晶性樹脂組成物の半硬化物とを有し、必要に応じて保護フィルム等のその他の層を有して構成される。
液晶性樹脂組成物の半硬化物が、前記複合粒子を含むことで熱伝導性に優れる。
【0119】
プリプレグを構成する繊維基材としては、金属箔張り積層板や多層プリント配線板を製造する際に用いられるものであれば特に制限されない。例えば、通常織布や不織布等の繊維基材が用いられる。ただし、目が極めて詰まった繊維だと前記複合粒子等のフィラーが詰まってしまい含浸が困難となる場合があるため、目開きは複合粒子の体積平均粒径の5倍以上とすることが好ましい。
【0120】
繊維基材の材質としては、ガラス、アルミナ、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維や、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維等及びこれらの混抄系がある。中でも特にガラス繊維の織布が好ましく用いられる。これにより屈曲性のある任意に折り曲げ可能なプリント配線板を得ることができる。さらに、製造プロセスでの温度、吸湿等に伴う基板の寸法変化を小さくすることも可能となる。
【0121】
繊維基材の厚さは特に限定されないが、より良好な可とう性を付与する観点から、30μm以下であることがより好ましく、含浸性の観点から15μm以下であることが好ましい。繊維基材の厚みの下限は特に制限されないが、通常5μm程度である。
【0122】
前記プリプレグにおいて、前記液晶性樹脂組成物の含浸量は、繊維基材及び液晶性樹脂組成物の総質量に対して50質量%〜99.9質量%であることが好ましい。
【0123】
前記プリプレグは、上記と同様に調製された樹脂ワニスを、繊維基材に含浸し、80℃〜180℃の加熱により溶剤を除去して製造することができる。プリプレグにおける溶剤残存量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることが更に好ましい。
溶剤残存量は、プリプレグを40mm角に切り出し、190℃に予熱した恒温槽中に2時間乾燥させたときの、乾燥前後の質量変化から求める。
【0124】
加熱により溶剤を除去する乾燥時間については特に制限されない。また液晶性樹脂組成物を繊維基材に含浸する方法に特に制限はなく、例えば、塗工機により塗布する方法を挙げることができる。詳細には、繊維基材を液晶性樹脂組成物にくぐらせて引き上げる縦型塗工法、及び支持フィルム上に液晶性樹脂組成物を塗工してから繊維基材を押し付けて含浸させる横型塗工法などを挙げることができ、繊維基材内での熱伝導性フィラーの偏在を抑える観点からは、横型塗工法が好適である。
【0125】
前記プリプレグにおいては、前記繊維基材に含浸された前記液晶性樹脂組成物が半硬化し、Bステージ状態となっている。プリプレグにおけるBステージ状態は、前記BステージシートにおけるBステージ状態と同様であり、Bステージ化する方法についても同様の条件を適用できる。
【0126】
また前記プリプレグは、プレスやロールラミネータなどによる加熱加圧処理により、積層又は貼付する前に予め表面を平滑化してから使用してもよい。加熱加圧処理の方法は、上記Bステージシートで挙げた方法と同様である。また、プリプレグの加熱加圧処理における加熱温度、真空度、及びプレス圧の条件についても、Bステージ樹脂シートの加熱加圧処理で挙げた条件と同様である。
【0127】
前記プリプレグの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば50μm以上500μm以下とすることができ、熱伝導率及び可とう性の観点から、60μm以上300μm以下であることが好ましい。
また、プリプレグは2以上のプリプレグを積層して熱プレスすることにより作製することもできる。
【0128】
<放熱材料>
本発明の放熱材料は、前記液晶性樹脂組成物の硬化物である。前記放熱材料として具体的には、前記液晶性樹脂組成物の硬化物を有して構成される、積層板、金属基板、プリント配線板等を挙げることができる。
【0129】
前記一般式(1)で表される液晶性エポキシ樹脂の硬化物と前記複合粒子を含むことで優れた熱伝導性を有する。
さらに、窒化アルミニウム粒子の表面が親水基であるカルボキシ基又はアルコール性水酸基を有する有機物で被膜されていることより、炭化水素基のみを有する有機物で被膜した場合に比べ、樹脂と窒化アルミニウム粒子の親和性を向上することができ、熱伝導率の低下を抑制できる。また、親水基の導入により、前記一般式(1)で示される液晶性エポキシ樹脂の配向性を制御することができる。特に好ましくは、樹脂の配向性を制御し、一般(1)で示される液晶性エポキシ樹脂を窒化アルミニウム粒子に対して垂直配向させることにより、粒子と樹脂の界面の熱抵抗を低減することができる。
【0130】
本発明において垂直配向とは、粒子表面に対して、液晶性エポキシ樹脂の分子がチルト
角を持って配向していることを言う。本願発明において、このチルト角は、50°〜90°であり、好ましくは、70°〜90°である。
すなわち、前記放熱材料においては、前記液晶性エポキシ樹脂の硬化物が配向面を有し、前記配向面が前記窒化アルミニウム複合粒子の表面に対して50°〜90°の角度を有することが好ましく、70°〜90°であることがより好ましい。
【0131】
前記放熱材料における前記液晶性エポキシ樹脂硬化物の前記複合粒子に表面に対するチルト角は以下のようにして見積もることができる。
窒化アルミニウム粒子の代わりに、窒化アルミニウム焼結基板を用いて、窒化アルミニウム複合粒子の製造方法と同様にして、表面にαアルミナと有機化合物の被覆層が形成された複合基板を得る。この複合基板上に前記液晶性エポキシ樹脂と硬化剤を含む樹脂組成物を塗布し、加熱硬化して、複合基板上に硬化樹脂層を形成する。得られた硬化樹脂層について、広角X線回折装置(リガク製RINT2500HL)を用いて、複合基板に対して垂直方向に形成される周期構造の周期長を求め、樹脂分子の周期長より、基板に対する樹脂分子のチルト角を求めることができる。
【0132】
(積層板)
本発明の積層板は、樹脂含有層の硬化層と、被着材と、を有する。前記樹脂含有層は、前記液晶性樹脂組成物で構成される樹脂層、前記Bステージシート、及び前記プリプレグから選択される少なくとも1層である。前記液晶性樹脂組成物から形成される樹脂含有層の硬化層を備えることで、熱伝導性及び絶縁性に優れた積層板となる。
【0133】
前記積層板においては、樹脂含有層の硬化層として、前記樹脂層、前記Bステージシート、又は前記プリプレグのいずれか1層を備える形態であってもよく、2層以上を備える形態であってもよい。2層以上の硬化層を備える場合には、前記樹脂層を2層以上設ける形態、前記Bステージシートを2枚以上設ける形態、又は前記プリプレグを2枚以上設ける形態であってもよい。更には、前記樹脂層、前記Bステージシート、及び前記プリプレグのいずれか2つ以上を組み合わせて備えてもよい。
【0134】
前記積層板は、例えば、被着材上に前記樹脂組成物を塗工して樹脂層を形成し、これを加熱及び加圧して、前記樹脂層を硬化させるとともに被着材に密着させることで得られる。又は、前記被着材に前記Bステージシート又は前記プリプレグを積層した積層体を準備し、この積層体を加熱及び加圧して、前記Bステージシート又は前記プリプレグを硬化させるとともに被着材に密着させことで得られる。
【0135】
前記樹脂含有層を硬化するための加熱温度は特に限定されないが、通常80℃〜250℃の範囲であり、好ましくは130℃〜230℃の範囲である。また、前記加圧の条件は特に限定されないが、通常0.5MPa〜15MPaの範囲であり、好ましくは2MPa〜10MPaの範囲である。また、加熱及び加圧には、真空プレスが好適に用いられる。
【0136】
被着材としては、金属箔や金属板などを挙げることができる。前記被着材は、前記樹脂含有層の硬化層の一方の面のみに付設しても、両面に付設してもよい。
【0137】
前記金属箔としては、金箔、銅箔、アルミニウム箔など特に制限されず、一般的には銅箔が用いられる。前記金属箔の厚みとしては、1μm〜500μmであれば特に制限されず、使用する電力によって好適な厚みを選択することができる。
【0138】
また、金属箔として、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両表面に0.5μm〜15μmの銅層と10〜μm300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔、又はアルミニウムと銅箔とを複合した2層構造複合箔を用いることもできる。
【0139】
金属板は熱伝導率が高く、熱容量が大きい金属材料からなり、銅、アルミニウム、鉄、リードフレームに使われる合金などが例示できる。板厚は用途によって自由に選択することができ、金属基板は軽量化や加工性を優先する場合はアルミニウム、放熱性を優先する場合は銅、というように目的を応じて材質を選定してもよい。
【0140】
前記積層板の厚さは、200μm以下であることが好ましく、50μm〜180μmであることがより好ましい。厚さが200μm以下、更には180μm以下の場合、可とう性に優れ、曲げ加工時にクラックが発生するのが抑えられる。また、厚さが50μm以上の場合には、作業性に優れる。
【0141】
(金属箔貼硬化物、金属基板)
前記積層板の一例として、後述のプリント配線板を作製するのに用いる金属箔貼硬化物、及び金属基板を挙げることができる。
【0142】
前記金属箔貼硬化物では、前記積層板における被着材として、2枚の金属箔を用いる。具体的には、前述の金属箔を2枚用意し、この2枚の金属箔の間に、前記樹脂含有層の硬化層を備える。
【0143】
前記金属基板では、前記積層板における被着材として、金属箔と金属基板とを用いる。具体的には、前記金属基板は、前記金属箔と前記金属基板との間に、前記樹脂含有層の硬化層を備える。
【0144】
生産性を高める観点から、金属基板を大きなサイズで作製して電子部品を実装した後に、使用するサイズに切断することが好ましい。そのため、金属基板に用いる金属板は切断加工性に優れることが望ましい。
【0145】
金属板としてアルミニウムを用いる場合、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金を材質として選定でき、その化学組成と熱処理条件により多種類のものが入手可能であるが、高く切削しやすい等の加工性が高く、かつ強度に優れた種類を選定することが好ましい。
【0146】
(プリント配線板)
本発明のプリント配線板は、配線層と、金属基板とを有し、前記配線層と前記金属基板との間に、樹脂含有層の硬化層を有する。前記樹脂含有層は、前記液晶性樹脂組成物を付与してなる樹脂層、前記Bステージシート、及び前記プリプレグから選択される少なくとも1層である。前記プリント配線板は、前述の金属箔貼硬化物又は金属基板における金属箔を回路加工することにより製造することができる。金属箔の回路加工には通常のフォトリソによる方法が適用できる。本発明の樹脂組成物を用いることで、熱伝導性及び絶縁性に優れたプリント配線板が得られる。
【0147】
前記プリント配線板の好ましい態様としては、例えば、特開2009−214525号公報の段落番号0064や、特開2009−275086号公報の段落番号0056〜0059に記載のプリント配線板と同様のものを挙げることができる。
【実施例】
【0148】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0149】
[実施例1]
(複合粒子の調製)
以下、試料1について、その作製方法と、物性値の測定方法を説明する。体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子5gを高温管状炉(35mmφ×1200mm)に入れ、Arガスを0.5L/分で流しながら、室温から1200℃まで100分で昇温させた。1200℃で2時間保持した後、1200℃から室温まで240分で降温させ、表面にαアルミナ被覆層を形成した窒化アルミニウム粒子を得た。得られた粒子を脱水トルエンに加え、有機被覆剤としてアジピン酸0.25gを加えた後、2時間、還流した。
粒子をトルエンで洗浄した後、室温で乾燥させることにより、表面にαアルミナと有機化合物の被覆層が形成された複合粒子(試料1)を得た。
【0150】
XRDにてαアルミナの(100)面と窒化アルミニウムの(113)面の強度比を測定し、αアルミナ被覆厚を算出した。
なお、XRDは、X線回折装置(リガク社製、RINT2500HL)を用い、CuKα線を線源としてX線回折スペクトルを測定して行なった。結果を表1に示す。
【0151】
耐水性は試料2gを60℃の水200mLに加え、30分後と60分後の水分散物のpHをそれぞれ測定し、加水分解により生じるアンモニアの影響を調べた。結果を表1に示す。
【0152】
(液晶性樹脂組成物の調製)
上記で得られた試料1に、液晶性エポキシ樹脂(1−(3−メチル−4−オキシラニ
ルメトキシフェニル)−4−(オキシラニ
ルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン、一般式(1)で表される液晶性エポキシ樹脂、以下、「樹脂1」ともいう)と、硬化剤(1,5−ジアミノナフタレン)とを加えて液晶性樹脂組成物を調製した。
液晶性エポキシ樹脂と硬化剤の混合比率は、エポキシ/アミン当量比で1:1となるようにし、複合粒子の混合割合は、液晶性エポキシ樹脂、硬化剤、複合粒子を含めた液晶性樹脂組成物全体に対する体積比率で、60体積%になるようにした。
【0153】
得られた液晶性樹脂組成物を、片面(上面)が粗化された銅箔(厚み70μm)を基材として、キャスティングにより所定の厚さに塗布し、加熱温度160℃、加熱時間5分で、加熱乾燥することで、放熱材料前駆体としてBステージ状態の樹脂シート(Bステージシート)を得た。
【0154】
得られた樹脂シートを、樹脂塗布面を上にして置き、片面(下面)が粗化された銅箔厚み70μm)を粗化面が樹脂組成物層に接するように積層した後、145℃、2MPaで真空加熱プレスを行い、熱硬化して接着させた。これを更に、温度205℃、2時間の加熱処理により完全硬化させ、放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を得た。
【0155】
得られた硬化物から試験片を切出し、両面の銅箔を酸エッチングにより除去し、シート状の樹脂硬化物のみを取り出した。フラッシュ法装置(NETZSCH社製Nanoflash LFA447)を用いて、樹脂硬化物の熱拡散率を測定し、これにアルキメデス法により測定した密度とDSC法により測定した比熱を乗じて、厚さ方向の熱伝導率を求めた。結果を表1に示す。
【0156】
(チルト角の評価)
窒化アルミニウム焼結粒子に替えて、厚さ1mmの窒化アルミニウム焼結基板を用いたこと以外は、複合粒子と同様に処理し、表面にαアルミナと有機化合物の被覆層が形成された複合基板を得た。
【0157】
得られた複合基板上で液晶性エポキシ樹脂と硬化剤を加熱して樹脂組成物を5μ〜20μmの薄膜状に硬化させた。広角X線回折装置(リガク製RINT2500HL)を用いて、窒化アルミニウム焼結基板に対して垂直方向に形成される周期構造の周期長を求め、液晶性エポキシ樹脂の分子長より、基板に対する樹脂分子のチルト角を求めた。結果を表1に示す。
【0158】
[実施例2〜7]
次に以下のようにして試料2〜7を作製し、試料1と同様にしてそれぞれ評価した。評価結果を表1に示す。
【0159】
試料2:体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子と窒化アルミニウム焼結基板を焼成する際の雰囲気を大気に代えて密閉状態で焼成を行い、試料1と同様にアジピン酸で処理することにより、試料2を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0160】
試料3:体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子と窒化アルミニウム焼結基板を焼成する際、乾燥空気を0.1L/分で流しながら焼成を行い、試料1と同様にアジピン酸で処理することにより、試料を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0161】
試料4:試料1で用いたアジピン酸に代えてトリメリット酸を用いて、試料1と同様の方法により試料を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0162】
試料5:試料2で用いたアジピン酸に代えてトリメリット酸を用いて、試料2と同様の方法により試料を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0163】
試料6:試料3で用いたアジピン酸に代えてトリメリット酸を用いて、試料3と同様の方法により試料を作製した。実施例1と同様の方法により放熱シートを形成した。
試料7:試料1で用いたアジピン酸に代えて1,3−ブチレングリコールを用いて、試料1と同様の方法により試料を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0164】
[実施例8〜10]
以下のようにして試料8〜10を作製し、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。但し、チルト角については、(水酸基を有しないステアリン酸により)液晶性エポキシ樹脂が垂直配向しないため評価していない。
【0165】
試料8:試料1で用いたアジピン酸に代えてステアリン酸を用いて、試料1と同様の方法により試料8を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0166】
試料9:試料2で用いたアジピン酸に代えてステアリン酸を用いて、試料2と同様の方法により試料9を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0167】
試料10:試料3で用いたアジピン酸に代えてステアリン酸を用いて、試料3と同様の方法により試料10を作製した。上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0168】
[実施例11]
実施例1において、複合粒子として試料1を用い、1−(3−メチル−4−オキシラニ
ルメトキシフェニル)−4−(オキシラニ
ルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセンに代えてビフェニル型液晶性エポキシ樹脂(三菱化学社製YL6121H、一般式(1)で表される液晶性エポキシ樹脂、以下「樹脂2」ともいう)を用いたこと以外は上記と同様にして樹脂組成物を調製し、上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
【0169】
[比較例1〜2]
以下のようにして試料11〜12を作製し、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0170】
試料11:体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子と窒化アルミニウム焼結基板を試料1と同様に焼成した後、有機被覆処理を行わずに試料11とした。
得られた試料11を用いたこと以外は上記と同様にして樹脂組成物を調製し、上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
試料11及びシート状の樹脂硬化物について、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0171】
試料12:体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子と窒化アルミニウム焼結基板に焼成を行わず、試料1と同様に有機被覆処理を行い、試料12を作製した。
得られた試料12を用いたこと以外は上記と同様にして樹脂組成物を調製し、上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
試料12及びシート状の樹脂硬化物について、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0172】
[比較例3]
体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子と窒化アルミニウム焼結基板を焼成処理及び有機被覆処理を行わずに、試料13として用いた。
得られた試料13を用いたこと以外は上記と同様にして樹脂組成物を調製し、上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
試料13及びシート状の樹脂硬化物について、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0173】
[比較例4]
実施例1において、複合粒子として試料1を用い、液晶性エポキシ樹脂に代えてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製jER828、以下、「樹脂3」ともいう)を用いたこと以外は上記と同様にして樹脂組成物を調製し、上記と同様の方法により放熱材料としてシート状の樹脂硬化物(積層板)を形成した。
シート状の樹脂硬化物について、上記と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0174】
【表1】
【0175】
液晶性エポキシ樹脂と試料1〜10のいずれかの複合粒子を用いて形成した樹脂硬化物はすべて、比較例4のビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いて形成した樹脂硬化物に比べ高い熱伝導率であった。
【0176】
また、試料1〜10のいずれの試料においても、試料11〜13に比べ高い耐水性を示した。
試料1、4、7と試料8を用いて形成した樹脂硬化物の熱伝導率を比べると、試料1、4、7を用いて形成した樹脂硬化物の方が高い熱伝導率を示した。これは、有機被膜材に水酸基又はカルボキシ基を2つ以上有する有機化合物を用いた場合、液晶性エポキシ樹脂が複合粒子表面に対して50°〜90°のチルト角を成して配向するためと考えられる。
同様に、試料2、5と試料9、試料3、6と試料10を用いて形成した樹脂硬化物の熱伝導率を比べると、試料2、5、又は試料3、6を用いて形成した樹脂硬化物の方が高い熱伝導率を示した。
【0177】
日本国特許出願2011−008482号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。