(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記式(1)で表わされる希土類酸化物を主成分として含む透光性セラミックス又は下記式(1)で表わされる希土類酸化物の単結晶からなることを特徴とするシンチレータ材料。
(TbxR1-x-yCey)2O3 (1)
(式中、xは0.2以上0.6以下の範囲、yは0.00001以上0.01以下の範囲、Rはイットリウム、ルテチウム、ガドリニウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ツリウム、ユーロピウム、ディスプロシウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である(ただし、ガドリニウム単独である場合を除く)。)
【背景技術】
【0002】
X線やガンマ線などの放射線エネルギー(高エネルギー電磁フォトン)によって励起されると、可視及び/又は近可視域の光エネルギーを放出する固体のシンチレータ材料は、光信号を電気信号に変換する光電変換回路と組み合わせた放射線検出器として、従来から資源探索用、セキュリティー用、荷物や食品の検査用、高エネルギーの研究用などの様々な用途に用いられてきた。その中でも、前記放射線エネルギーを可視及び/又は近可視域の光エネルギーに変換する固体のシンチレータ材料と、光エネルギーを電気信号に変換する光電変換回路、並びに出力された電気信号をデジタル化して計算処理して画像化するコンピューティドトモグラフィ(CT)システムと組み合わせた、X線CT装置やガンマ線PET(Positron Emission Tomography)装置は、近年の高齢化社会の進展に伴って、医療機関を中心として急速に普及が進んでいる。
【0003】
X線CT装置とガンマ線PET装置とは、放出される放射線の波長も、得られる光信号並びにそれを処理するシステムも大きく異なり、それぞれ一長一短がある。但し、一般的にX線CT装置はガンマ線PET装置に比べて何倍も安い装置であり、普及台数も桁違いに多い。そのため、今後の高齢化社会に対応した放射線医療機器の益々の普及促進のためには、X線CT装置の改善、特に被曝線量低減化に寄与する新たなシンチレータ材料の開発が求められる。
【0004】
X線CT装置用のシンチレータ材料としては、過半量のイットリア(Y
2O
3)、約50モル%までのガドリニア(Gd
2O
3)及び小活性量(典型的には約0.02モル%〜12モル%、好ましくは約1モル%〜6モル%、最も好ましくは約3モル%)の希土類活性剤酸化物であるユーロピウムを含んだ立方晶構造の透光性酸化物焼結体シンチレータが昔から知られている(米国特許第4,421,671号(特許文献1))。このユーロピウム活性型のシンチレータは発光効率が高く、残光レベルが低く、また他の好ましい特性を有するため、従来から商用利用がなされていた。
【0005】
その他のX線CT装置用のシンチレータ材料としては、例えば特公平7−97139号公報(特許文献2)に放射線により発光する粉末シンチレータであり、一般式
(Ln
1-x-yPr
xCe
y)
2O
2S:(X)
(但し、LnはGd、La及びYからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を表し、XはF及びClからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を表し、xは3×10
-6≦x≦0.2の範囲の値、yは1×10
-6≦x≦5×10
-3の範囲の値、Xの量は2乃至1000ppmの範囲である)で表わされる粉末に焼結助剤を加えて、金属製の容器に詰めて真空封止して、熱間静水圧加圧し、更にアニールしてなる透光性焼結体シンチレータと、該シンチレータの発光を検知する光検出器とからなることを特徴とする放射線検出器が開示されており、発光効率の高いシンチレータ材料が得られている。
【0006】
また、この系統の材料も、以前からX線CT装置用のシンチレータ材料として広く商用利用がなされており、例えば特許第3741302号公報(特許文献3)のように継続的に改良発明が提案されている。
【0007】
更に、他のX線CT装置用のシンチレータ材料として、特開2007−169647号公報(特許文献4)には、
「[請求項1]
焼鈍の前に、式A
3B
2C
3O
12を有するガーネットを備えた焼結及び焼鈍を施したシンチレータ組成物であって、式中、AはTb、Ce及びLuからなる群の少なくとも一つの要素又はこれらの組み合わせを有する位置であり、Bは八面体位(Al)であり、Cは四面体位(やはりAl)であり、前記ガーネットは、
(1)前記式において、前記八面体位Bの0.05原子〜2原子までのAlをScで置き換えたもの、
(2)前記式において、0.005原子〜2原子までの酸素をフッ素で置き換え、且つ前記A位において同数のCa原子を置き換えたもの、
(3)前記式において、B位の0.005原子〜2原子をMgで置き換え、且つ同数の酸素原子をフッ素で置き換えたもの、
(4)前記式において、B位の0.005原子〜2原子までをMg/Si、Mg/Zr、Mg/Ti及びMg/Hfからなる群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、
(5)前記式において、B位の0.005原子〜2原子までをLi/Nb、Li/Taからなる群から選択される少なくとも一つの組み合わせの原子で置き換えたもの、並びに
(6)前記式において、前記A位の0.005原子〜2原子までをCaで置き換え、且つ等しい数のB位又はC位をケイ素で置き換えたもの、
から成る群から選択される少なくとも一つの置換を有する、
シンチレータ組成物。」
が開示されており、公知のシンチレータ組成物よりも短い減衰時間と高エネルギー線での曝射時の損傷を低減することができるとされている。
【0008】
この系統のガーネット構造を持つシンチレータ材料は、新しく発明されたもので、最近盛んに類似の発明が提案されている(例えば、特開2012−72331号公報(特許文献5)、特開2012−184397号公報(特許文献6)など)。
最新のX線CT装置のフラッグシップ機種で、こうしたシンチレータ材料の搭載が進んでいる模様である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている(Y
過半量Gd
≦0.5)
2O
3:Eu系のシンチレータ材料は、減衰時間が長い点及び密度が6.0g/cm
3未満と小さく、厚膜化して使用しなければならない点が問題となっていた。
また、前記特許文献2、3に開示されている(Gd
1-x-yPr
xCe
y)
2O
2S系のシンチレータ材料は、単斜晶のためシンチレート光の透過率が30%程度と低い点、及び高エネルギー線での曝射時の損傷が比較的大きい点が問題となっていた。
他方、前記特許文献4、5、6に開示されている(Tb
1-x-yLu
xCe
y)
3(Al
1-zSc
z)
2Al
3O
12系のシンチレータ材料は、減衰時間も短く、立方晶のためシンチレート光の透過率も80%以上と高く、高エネルギー線での曝射時の損傷も非常に小さい特徴を持ち、X線CT装置用のシンチレータ材料としては極めて好適な物質である。但し、非常に複雑な組成の複合酸化物を高温で処理・作製しなくてはならないため、極めて高価になるという問題があった。あるいは、組成によっては、焼結処理温度を下げられる実施例も開示されているが、構成元素の種類が多いため、所望の組成で製造しようとすると、かなり歩留りが下がるという問題もあった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、シンチレート光の透過率が高く、Siフォトダイオードで光電変換可能な発光波長を有し、減衰時間もユーロピウム活性型シンチレータ材料に比べてはるかに短く、密度も十分高く、比較的単純な組成の複合酸化物を比較的低温の熱処理で製造可能で製造コストも高すぎないシンチレータ材料、放射線検出器及び放射線検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するため、下記のシンチレータ材料、放射線検出器及び放射線検査装置を提供する。
〔1〕 下記式(1)で表わされる希土類酸化物を主成分として含む透光性セラミックス又は下記式(1)で表わされる希土類酸化物の単結晶からなることを特徴とするシンチレータ材料。
(Tb
xR
1-x-yCe
y)
2O
3 (1)
(式中、xは0.2以上0.6以下の範囲、yは0.00001以上0.01以下の範囲、Rはイットリウム、ルテチウム、ガドリニウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ツリウム、ユーロピウム、ディスプロシウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である(ただし、ガドリニウム単独である場合を除く)。)
〔2〕 密度が6.7g/cm
3以上であることを特徴とする〔1〕記載のシンチレータ材料。
〔3〕 X線で励起した場合に、530〜570nmの波長範囲に最強の発光ピークを有する〔1〕又は〔2〕記載のシンチレータ材料。
〔4〕 厚み1mmでの波長633nmの光の透過率が70%以上であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシンチレータ材料。
〔5〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のシンチレータ材料を搭載したことを特徴とする放射線検出器。
〔6〕 〔5〕記載の放射線検出器を搭載したことを特徴とする放射線検査装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テルビウムを含有し、セリウム活性型であって、ガーネット相とは別の立方晶希土類酸化物を主成分としたシンチレータ材料とすることにより、X線励起によるシンチレート光がSiフォトダイオードで光電変換可能な発光波長を有すると共に、該シンチレート光の透過率が高く、その減衰時間もユーロピウム活性型に比べてはるかに短く、密度も十分高く、比較的低温で製造可能であるため製造コストも過大とはならずに新規のシンチレータ材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[シンチレータ材料]
以下、本発明に係るシンチレータ材料について説明する。
本発明に係るシンチレータ材料は、下記式(1)で表わされる希土類酸化物を主成分として含む透光性セラミックス又は下記式(1)で表わされる希土類酸化物の単結晶からなる。
(Tb
xR
1-x-yCe
y)
2O
3 (1)
(式中、xは0.2以上0.6以下の範囲、yは0.00001以上0.01以下の範囲、Rはイットリウム、ルテチウム、ガドリニウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ツリウム、ユーロピウム、ディスプロシウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である(ただし、ガドリニウム単独である場合を除く)。)
【0016】
上記式(1)において、テルビウムは、X線照射により効率よく励起される骨格材料であり、且つ、該励起エネルギーが、賦活材であるセリウムイオンに効率良くエネルギートランスファーさせられる励起準位を持っており、更に該エネルギートランスファーされたセリウムの励起エネルギーが、Siフォトダイオードで光電変換可能な波長の光で発光することのできる準位に調整できる元素であり、本発明においては必須の元素である。賦活材であるセリウムイオンに効率良くエネルギーをトランスファーできると発光強度が上がるため好ましい。また、Siフォトダイオードで光電変換ができると、光電子増倍管で受光するよりも遥かに低コストで放射線検出器が製造できるため好ましい。
【0017】
セリウムは、テルビウム及び更に別の1つ以上の希土類元素が吸収したX線エネルギーを速やかに受け取って励起状態となり、速やかに低エネルギー状態に遷移する元素であり、本発明においては必須の別の元素である。セリウムを活性剤に利用すると、ユーロピウムに比べ、減衰時間が桁違いに短くなり好ましい。
【0018】
Rは、希土類酸化物全体の結晶構造を立方晶に規定しつつ、材料の密度を上げてX線エネルギーの吸収断面積を向上させる作用を持つ元素であり、更に酸素の6配位サイトをテルビウムと共有することで結晶場の局所歪みを生じさせ、d軌道の分裂を誘起して発光波長をSiフォトダイオードで光電変換可能な長波長側にシフトさせるためにも利用する元素である。
【0019】
そのような元素としては、イットリウム、ルテチウム、ガドリニウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ツリウム、ユーロピウム、ディスプロシウムが好適に利用できる。
【0020】
ここで、希土類酸化物全体の結晶構造を立方晶に規定するためには、イオン半径の比較的小さな、イットリウム、ルテチウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ツリウム、ディスプロシウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素を選択することが好ましい。
【0021】
しかし、例えばガドリニウムはX線エネルギーの吸収断面積を向上させる作用を持つ元素であり、これを加えることも好ましい他の一例である。そこで、例えばガドリニウムのような比較的イオン半径の大きな希土類元素を選択する場合には、前記のイオン半径の比較的小さな希土類元素の群からも希土類元素を選択し、複合酸化物を形成させることが好ましい。従って、本発明では式(1)のRがガドリニウム単独である場合を除く。
【0022】
上記式(1)中、Rとしてはイットリウム、ルテチウム、ガドリニウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ツリウム、ユーロピウム、ディスプロシウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素を含むものであればガドリニウム単独である場合を除き特に限定されず、その他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、プラセオジムが例示できる。
その他の元素の含有量は、Rの全量を100としたとき、10以下であることが好ましく、0.1以下であることが更に好ましく、0.001以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0023】
式(1)中、xは0.2以上0.6以下であることが好ましい。式(1)中、xが0.2未満であると、X線で励起した場合の最強のピーク波長がSiフォトダイオードで光電変換可能な波長より短くなる場合があり好ましくない。逆に、xが0.2以上0.6以下であると、X線で励起した場合の最強のピーク波長がSiフォトダイオードで光電変換可能な波長範囲に入るため好ましい。特にxが0.6以下であると、希土類酸化物全体の結晶構造を立方晶に規定できるため、波長633nmにおける、厚み1mmでの光透過率が70%以上となり好ましい。また、xが0.6超であると、光透過率が70%未満となる。
【0024】
式(1)中、yは0.00001以上0.01以下であり、0.001以上0.01以下であることがより好ましい。yが0.00001未満であると、吸収したX線エネルギーを速やかに受け取って励起状態となり、速やかに低エネルギー状態に遷移する活性剤の濃度が低すぎるため、発光強度が低下し、減衰時間が長くなるため好ましくない。また、yが0.01超であると、再び発光強度が低下し始めるため好ましくない。
【0025】
本発明のシンチレータ材料は、上記式(1)で表わされる希土類複合酸化物を主成分として含有する。即ち、本発明のシンチレータ材料は、上記式(1)で表わされる希土類複合酸化物を主成分として含有していればよく、その他の成分を副成分として含有していてもよい。
【0026】
ここで、主成分として含有するとは、上記式(1)で表わされる希土類酸化物を50質量%以上含有することを意味する。式(1)で表わされる希土類酸化物の含有量は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることが特に好ましい。
一般的に例示される、その他の副成分としては、単結晶育成の際にドープされるドーパント、フラックス、セラミック製造の際に添加される焼結助剤等がある。
【0027】
本発明のシンチレータ材料の製法としては、フローティングゾーン法、マイクロ引下げ法などの単結晶製造方法、並びにセラミックス製造法があり、いずれの製法を用いても構わない。ただし、一般に単結晶製造方法では固溶体の濃度比の設計に一定程度の制約があり、セラミック製造法の方が本発明ではより好ましい。
【0028】
以下、本発明のシンチレータ材料の製造方法の例としてセラミックス製造法について更に詳述するが、本発明の技術的思想を踏襲した単結晶製造方法を排除するものではない。
【0029】
《セラミックス製造法》
[原料]
本発明で用いる原料としては、テルビウム及びセリウム、並びに希土類元素R(Rはイットリウム、ルテチウム、ガドリニウム、ホルミウム、スカンジウム、イッテルビウム、ツリウム、ユーロピウム、ディスプロシウムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である(ただし、ガドリニウム単独である場合を除く))からなる本発明のシンチレータ材料の構成元素となる希土類金属粉末、ないしは硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、あるいは上記希土類元素の酸化物粉末等が好適に利用できる。特に、上記希土類元素の酸化物粉末は安定で安全なため取扱いが容易となるため好ましい。なお、これら原料の純度は99.9質量%以上が好ましい。
【0030】
また、前記原料の粉末形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また、二次凝集している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された顆粒状粉末であっても好適に利用できる。更に、これらの原料粉末の調整工程については特に限定されない。共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。また、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0031】
本発明で用いる希土類酸化物粉末原料中には、適宜焼結抑制助剤を添加してもよい。特に高い透光性を得るためには、しばしばホスト材料に見合った好適な焼結抑制助剤を添加することが好ましい。ただし、その純度は99.9質量%以上が好ましい。なお、焼結抑制助剤を添加しない場合には、使用する原料粉末についてその一次粒子の粒径がナノサイズであって焼結活性が極めて高いものを選定するとよい。こうした選択は適宜なされてよい。
【0032】
更に製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。
【0033】
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも92%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP)処理を行うことが好ましい。
【0034】
(プレス成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧するプレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧するCIP(Cold Isostatic Press)工程が利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。
【0035】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できる。脱脂温度も特に制限はないが、もしも有機添加剤が混合されている原料を用いる場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
【0036】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気は特に制限されないが、不活性ガス、酸素、水素、真空等が好適に利用できる。
【0037】
本発明の焼結工程における焼結温度は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には選択された出発原料を用いて、製造しようとする希土類酸化物焼結体の融点よりも数10℃から100℃乃至は200℃程度低温側の温度が好適に選定される。また、選定される温度の近傍に立方晶以外の相に相変化する温度帯が存在する希土類酸化物焼結体を製造しようとする際には、厳密にその温度以下となるように管理して焼結すると、立方晶から非立方晶への相転移が事実上発生しないため、材料中に光学歪やクラックなどが発生し難いというメリットがある。
【0038】
本発明の焼結工程における焼結保持時間は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には数時間程度で十分な場合が多い。ただし、焼結工程後の希土類酸化物焼結体の相対密度は最低でも92%以上に緻密化されていなければならない。
【0039】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Press))処理を行う工程を設けることができる。
【0040】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr−O
2、Ar−SO
2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透光性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透光性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0041】
また、その際の処理温度(所定保持温度)は材料の種類及び/又は焼結状態により適宜設定すればよく、例えば1000〜2000℃、好ましくは1400〜1700℃の範囲で設定される。このとき、焼結工程の場合と同様に焼結体を構成する希土類酸化物の融点以下及び/又は相転移点以下とすることが必須であり、熱処理温度が2000℃超では本発明で想定している希土類酸化物焼結体が融点を超えるか相転移点を超えてしまい、適正なHIP処理を行うことが困難となる。また、熱処理温度が1000℃未満では焼結体の透光性改善効果が得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、焼結体を構成する希土類酸化物の特性を見極めながら適宜調整するとよい。
【0042】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン(Mo)が好適に利用できる。
【0043】
(光学研磨)
本発明の製造方法においては、上記一連の製造工程を経た透光性希土類酸化物焼結体(透光性セラミックス)について、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/4以下が好ましく、λ/8以下が特に好ましい。なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学損失をさらに低減させることも可能である。
【0044】
[放射線検出器]
本発明のシンチレータ材料は、X線CT装置用途に好適であり、該装置内にアレイ状に多数配置されて、X線照射により励起される放射線検出器用として好適である。なお、本発明で想定しているX線としては、例えばタングステン又はタングステン合金(Re−W合金)からなる電子線照射面を有するターゲットを用いたX線管で発生するX線が挙げられる。
【0045】
本発明の放射線検出器は、本発明のシンチレータ材料からなるプレートと、その後段のSiフォトダイオードとからなる。その構成例を
図1に示す。本発明の放射線検出器10は、本発明のシンチレータ材料からなるシンチレータプレート11が反射材12で仕切られて縦6行、横6列の36素子に配置され、更に各シンチレータプレート11の後段にSiフォトダイオード13を配置して容器14に収納したものである。この放射線検出器10は、前方から入射してきたX線によってシンチレータプレート11が励起され、該シンチレータプレート11から出力される発光エネルギーをSiフォトダイオード13によって電気信号に変換し、増幅して出力する構成となっている。
【0046】
このようにアレイ状に配置された本発明の放射線検出器10と、放射線検出器10から出力される電気信号をデジタル化して計算処理して画像化するコンピューティドトモグラフィ(CT)システムとを組み合わせて、X線CT装置等の放射線検査装置が作製される。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、原料粉の一次粒径は、レーザ光回折法による重量平均値として求めた。
【0048】
[実施例1、比較例1]
テルビウムとセリウム以外の希土類元素としてイットリウム、ルテチウム、イッテルビウムを主骨格材的に利用した例、並びに前記希土類元素に、更にガドリニウム、スカンジウムを合せて選定した例、また更に、ツリウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ユーロピウムを少量添加した例についてまとめて説明する。
【0049】
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化ルテチウム粉末、酸化イッテルビウム、酸化ガドリニウム粉末、並びに酸化ツリウム、酸化ディスプロシウム、酸化ホルミウム、及び酸化ユーロピウム粉末を入手した。また、和光純薬工業(株)製の酸化スカンジウム粉末も入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。更に焼結助剤として、第一稀元素化学工業(株)製酸化ジルコニウム(ZrO
2)粉末も入手した。こちらについても純度は99.9質量%以上であった。
【0050】
上記原料を用いて、表1のような最終組成となる混合比率の各混合原料を秤量し混合して用意した。更に有機分散剤と有機結合剤を加えた後、エタノール中でジルコニア製ボールミル分散・混合処理した。処理時間は24時間であった。その後、スプレードライ処理を行って平均粒径が20μmの顆粒原料(出発原料)を作製した。
【0051】
【表1】
【0052】
次に、得られた出発原料を直径40mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ6mmのロッド状に仮成形した後、198MPaの圧力で、静水圧プレスしてCIP成形体を得た。続いて得られたCIP成形体をマッフル炉に入れ、大気中800℃で3時間熱処理して脱脂した。
次いで、得られた脱脂済み成形体を真空加熱炉に仕込み、100℃/hの昇温レートで1500℃〜1700℃まで昇温し、3時間保持してから600℃/hの降温レートで冷却して焼結体を得た。この際、サンプルの焼結相対密度が92%以上となるよう焼結温度や保持時間を調整した。
更に、上記焼結体について、加圧媒体としてArガスを用いて、HIP熱処理温度1500℃〜1700℃、圧力190MPaで保持時間3時間のHIP処理を行った。
【0053】
こうして得られた各セラミック焼結体につき、それぞれ外形寸法及び重量を測定し、その測定値から密度を求めた。続いて、縦横2mm×2mm、厚み1mmになるように切断、研削及び研磨処理してシンチレータプレートとした。次いで、シンチレータプレート同士の間に反射材(シリコーンペースト中に分散させた酸化マグネシウム粉末からなり、乾燥により接着させたもの)を設けて縦6行、横6列の36素子に仕切った後、このサンプルの光学両端面を光学面精度λ/4(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨した。
得られた各シンチレータプレートについてHeNeレーザ(波長633nm)を用いて以下の要領で透過率を測定した。この際、レーザがシンチレータプレートとシンチレータプレートとの間の反射材に当らないよう注意した。
【0054】
(透過率の測定方法)
透過率は、波長633nmの光を透過させたときの光の強度により測定され、以下の式に基づいて求めた。
透過率=I/Io×100
(式中、Iは透過光強度(厚み1mmのサンプルを透過した光の強度)、Ioは入射光強度を示す。)
【0055】
その後、各シンチレータプレート11をSiフォトダイオード13上に配置して
図1の放射線検出器10を作製した。ついで、タングステンターゲットのX線管を用いて、管電圧120kVでシンチレータプレート11にX線照射し、Siフォトダイオード13に流れる電流値を光出力として求めた。このとき、以下のようにシンチレータプレート11発光波長と光強度を求めた。
【0056】
(発光波長の測定方法)
前記X線照射評価系で光出力を評価する前に、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス(株)製)でフォトルミネッセンス(PL)測定し、その結果から発光波長を求めた。即ち、励起波長280nmの光で励起して、出てきた蛍光をグレーティングによる分光を経て、CCDカメラで蛍光波長スペクトルを検出し、蛍光出力が最大となった波長をX線照射時の発光波長とみなした。なお、励起波長280nmの光は、蛍光寿命測定装置で入射可能な最短波長の、つまり最大のエネルギーを持つ紫外線であり、X線照射時のような骨格材の振動を起こさないが、シンチレータプレートを励起させた場合に順次緩和してきた励起エネルギーが最後に発光する波長を確認するには十分な励起波長であり、X線照射時の発光波長の測定のためのX線の代用の励起光として用いることができる。
(光出力の測定方法)
ここでは、比較を容易にする目的で、別途入手したCdWO
4単結晶シンチレータをシンチレータプレート11の代わりに配置し、前記評価法によりこの場合の光出力を求め、その値を「1」とした場合のサンプルの光出力の比率(対CWO比)を各サンプルの光出力の値として示した。
(減衰時間の測定方法)
各サンプルの光出力が安定した状態を100%とし、次いでX線照射を停止し、停止してから各サンプルの光出力強度が安定状態の5%に減衰するまでの時間を測定した。
以上の一連の評価結果をまとめて表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
上記結果より、実施例の群からなる希土類酸化物を主成分とするシンチレータ材料は、密度が5.6g/cm
3以上、特に実施例1−2〜1−21は6.7g/cm
3以上と高く、そのため薄い材料でも使用できる。また、いずれの実施例も波長633nmにおける厚み1mmでの光透過率が70%以上と透明であるため、無駄な散乱損失もなく、且つまた、X線で励起した場合の最強の発光ピーク波長が530〜570nmにあるため、Siフォトダイオードで光電変換が問題なく行え、更にまた、光出力も従来材料と比べて遜色がなく、その上、残光出力5%時の減衰時間が5ms以下と非常に短く、これにより、X線CT装置などの放射線検査装置として利用した場合に、スイッチングサイクルが高速化できるため、短時間、低被曝線量の操作性、安全性に優れた放射線検査装置に仕上げることが可能となる。
なお、比較例1−1の組成では、波長633nmにおける厚み1mmでの光透過率が低下してしまうため、光出力も低下し、低被曝線量の放射線検査装置に仕上げることが困難となる。比較例1−2の組成では、X線で励起した場合の最強の発光ピーク波長が短波長側にシフトしてしまうため、Siフォトダイオードで光電変換効率が低下してしまう。比較例3の組成では、活性剤であるセリウムの濃度が高すぎるため、濃度消光現象が起こってしまっている。比較例4の組成では、結晶系が斜方晶となり、波長633nmにおける厚み1mmでの光透過率が落ちてしまうため、光出力も低下し、低被曝線量の放射線検査装置に仕上げることが困難となる。
【0059】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。