(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジチオカルバミン酸系キレート剤との反応で不溶化する重金属を含み、ごみ焼却飛灰、電炉ダスト及びバイオマス焼却灰から選択される1種以上の廃棄物に前記ジチオカルバミン酸系キレート剤を過剰量添加し、前記重金属を不溶化するキレート剤添加工程と、
前記キレート剤添加工程の後、前記重金属と前記ジチオカルバミン酸系キレート剤との反応生成物、及び前記重金属と未反応であり、液体の未反応ジチオカルバミン酸系キレート剤を含有する固液混合試料を固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程の後、前記ジチオカルバミン酸系キレート剤添加後の試料に、緩衝域のpHが6以上7以下であるpH緩衝剤を添加するpH緩衝剤添加工程と、
前記ジチオカルバミン酸系キレート剤及び前記pH緩衝剤が添加された試料に、二価鉄、三価鉄、銅、ニッケル、カドミウム及びマグネシウムから選択される1種以上の金属の硫酸塩又は塩酸塩を添加し、前記キレート剤添加工程で前記重金属と未反応の未反応ジチオカルバミン酸系キレート剤で前記金属の硫酸塩又は塩酸塩をキレート化する金属化合物添加工程と、
前記未反応キレート剤と前記金属の硫酸塩又は塩酸塩との反応生成物であるキレート錯体の含有量を測定可能な波長で、前記キレート錯体を含有するキレート錯体含有試料の吸光度を測定する吸光度測定工程と、
前記吸光度測定工程での測定結果に基づいて、前記廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出する、キレート剤量算出工程とを含む、キレート剤添加量決定方法。
前記キレート剤量算出工程は、前記キレート錯体の濃度と、前記キレート錯体の含有量を測定可能な波長での吸光度との関係を示す検量線を用いて、前記キレート錯体含有試料の吸光度から空試験の吸光度を差し引いた吸光度から前記キレート錯体含有試料に含まれるキレート化金属の濃度を算出し、この濃度から廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出する工程を含み、
前記空試験は、前記キレート剤添加工程においてキレート剤を添加しないこと以外は、前記キレート錯体含有試料についての測定と同じ工程を経る試験である、請求項1に記載のキレート剤添加量決定方法。
【背景技術】
【0002】
廃棄物を焼却すると、重金属を含有する灰(以下、「飛灰」ともいう。)が発生する。飛灰は、廃棄物処理法により特別管理一般廃棄物に指定されており、中間処理を施したのち、埋立等により処分することが義務づけられている。
【0003】
中間処理の一手法として、キレート系重金属固定剤を飛灰に混合し、飛灰に含まれる重金属を不溶化することが知られている。キレート剤の添加量が不足すると、処理の安定性の面で課題を有し、キレート剤の添加量が過剰であると、経済性の面で課題を有することから、キレート剤の適正な添加量を決定することは、極めて重要である。
【0004】
キレート剤の適正な添加量を決定する手法として、重金属含有灰と水とのスラリーに、一定量の該キレート系重金属固定化剤を添加したときの該スラリーの酸化還元電位を経時的に測定し、該キレート系重金属固定化剤添加後の該酸化還元電位の正の変化量を求め、この正の変化量に基づいて前記必要添加量を決定することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、廃棄物からサンプルを採取し、サンプルの所定量に対して液体キレート剤を添加してサンプル中の重金属と液体キレート剤とを反応させ、液体キレート剤を添加したサンプルについて、液体キレート剤について特異的な波長における吸光度IBを求め、吸光度IBからサンプル中の未反応の液体キレート剤の量Bを求め、空試験により添加した液体キレート剤の全量に相当する上記波長における吸光度IAを求め、吸光度IAから添加した液体キレート剤の全量Aを求め、この全量Aと量Bとの差から重金属と反応した液体キレート剤の量Cを求め、この量Cとサンプルの所定量との比に基づいて廃棄物を処理するに適正な液体キレート剤の添加量を決定することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。そして、特許文献2には、キレート剤がジチオカルバミン酸系の場合、該キレート剤は、286nm、257nm、215nmで極大吸収をもつことも記載されている。
【0006】
ところで、重金属は、紫外線領域(200nm〜250nm)に吸収ピークを有している。特許文献2に記載の手法では、286nm、257nm又は215nmにおける吸光度を求めることになるため、未反応の重金属による外乱を受ける可能性がある。そこで、重金属を含有する固体廃棄物にキレート剤を過剰量添加し、反応させた後、未反応のキレート剤量を330nm以上であり、吸光度が1ABS〜3ABSのピークを有する波長の吸光度で測定し、該測定値から固体廃棄物中の重金属の不溶化に必要なキレート剤の添加量を決定することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、スラリーのpH及びスラリーに含まれる未反応の金属が酸化還元電位に影響を与え得る。そのため、測定精度を高める点で、なお改良の余地がある。
【0009】
また、飛灰は、重金属や他の金属だけでなく、特定困難な数多くの成分を含む。特許文献2及び3に記載の手法では、それらの成分が吸光度に影響を与え、必要な液体キレート剤の添加量を算出する際、真に必要な最小添加量よりも高く算出される可能性がある。そのため、特許文献2及び3に記載の手法によってもなお、測定精度を高める点で改良の余地がある。
【0010】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、ごみ焼却飛灰等の廃棄物に含まれる重金属の不溶化に必要な薬剤添加量を、よりいっそう正確に見積もる手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、廃棄物に含まれる重金属をキレート剤で不溶化した後、試料に金属化合物を加えることで、上記重金属と未反応であった未反応キレート剤と上記金属化合物との反応生成物であるキレート化金属を生成し、そのキレート化金属の含有量を測定可能な波長で試料の吸光度を測定することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0012】
(1)本発明は、廃棄物に含まれる重金属及びキレート剤の反応において未反応の未反応キレート剤と、金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の含有量を測定可能な波長で、前記キレート化金属を含有するキレート化金属含有試料の吸光度を測定する吸光度測定手段と、前記吸光度測定手段による測定結果に基づいて、前記廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出するキレート剤量算出手段とを備える、キレート剤添加量決定装置である。
【0013】
(2)また、本発明は、前記キレート化金属含有試料が前記重金属と前記キレート剤との反応生成物を実質的に含有しない試料である、(1)に記載のキレート剤添加量決定装置である。
【0014】
(3)また、本発明は、前記キレート化金属含有試料がpH緩衝剤を含有する、(1)又は(2)に記載のキレート剤添加量決定装置である。
【0015】
(4)また、本発明は、前記キレート剤がジチオカルバミン酸系キレート剤を含む、(1)から(3)のいずれかに記載のキレート剤添加量決定装置である。
【0016】
(5)また、本発明は、前記金属化合物が、二価鉄塩、三価鉄塩、銅塩、ニッケル塩、カドミウム塩及びマグネシウム塩から選択される1種以上の金属塩を含む、(1)から(4)のいずれかに記載のキレート剤添加量決定装置である。
【0017】
(6)また、本発明は、前記吸光度測定手段が、400nm以上700nm以下の波長で前記キレート化金属含有試料の吸光度を測定する、(1)から(5)のいずれか1項に記載のキレート剤添加量決定装置である。
【0018】
(7)また、本発明は、重金属を含む廃棄物にキレート剤を過剰量添加し、前記重金属を不溶化するキレート剤添加工程と、キレート剤添加後の試料に金属化合物を添加し、前記キレート剤添加工程で前記重金属と未反応の未反応キレート剤で前記金属化合物をキレート化する金属化合物添加工程と、前記未反応キレート剤と前記金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の含有量を測定可能な波長で、前記キレート化金属を含有するキレート化金属含有試料の吸光度を測定する吸光度測定工程と、前記吸光度測定工程での測定結果に基づいて、前記廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出する、キレート剤量算出工程とを含む、キレート剤添加量決定方法である。
【0019】
(8)また、本発明は、前記キレート剤添加工程の後、前記重金属と前記キレート剤との反応生成物、及び前記重金属と未反応であり、液体の未反応キレート剤を含有する固液混合試料を固液分離する固液分離工程をさらに含み、前記金属化合物添加工程は、前記固液分離工程の後に行われる工程である、(7)に記載のキレート剤添加量決定方法である。
【0020】
(9)また、本発明は、前記金属化合物添加工程よりも前に、試料にpH緩衝剤を添加するpH緩衝剤添加工程をさらに含む、(7)又は(8)に記載のキレート剤添加量決定方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、重金属と未反応の未反応キレート剤そのものの測定に好適な波長ではなく、未反応キレート剤と金属化合物との反応生成物であるキレート化金属に好適な波長で試料の吸光度法で測定する。本発明によると、飛灰に含まれる各種金属のほか、特定困難な数多くの成分が吸光度に与える影響を抑えることができ、結果として、ごみ焼却飛灰等の廃棄物に含まれる重金属の不溶化に必要な薬剤添加量を、よりいっそう正確に見積もることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これらが本発明を限定するものではない。
【0024】
<キレート剤添加量決定装置1>
図1は、本実施形態に係るキレート剤添加量決定装置1の概略構成を説明するためのブロック図である。キレート剤添加量決定装置1は、廃棄物に含まれる重金属及びキレート剤の反応において未反応の未反応キレート剤と、金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の含有量を測定可能な波長で、キレート化金属を含有するキレート化金属含有試料の吸光度を測定する吸光度測定部2と、この吸光度測定手段2による測定結果に基づいて、廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出するキレート剤量算出部3とを備える。
【0025】
〔吸光度測定部2〕
吸光度測定部2は、廃棄物に含まれる重金属及びキレート剤の反応において未反応の未反応キレート剤と、金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の含有量を測定可能な波長で、キレート化金属を含有するキレート化金属含有試料の吸光度を測定する機能を有する。
【0026】
[廃棄物]
廃棄物は、重金属を含むものであれば特に限定されない。本実施形態は、廃棄物に含まれる各種金属のほか、特定困難な数多くの成分が吸光度に与える影響を抑えられることを特徴とするため、廃棄物は、特定困難な数多くの成分を含有するもの、例えば、ごみ焼却飛灰、電炉ダスト、バイオマス焼却灰等であることが好ましい。
【0027】
廃棄物中に含まれる重金属の例として、鉛、水銀、カドミウム、6価クロム、砒素、セレン、ニッケル、モリブデン、アンチモン、銅、亜鉛、マンガン等が挙げられる。
【0028】
[キレート剤]
キレート剤の種類は特に限定されるものでないが、重金属と好適に反応し、重金属を好適に不溶化できる点で、キレート剤は、ジチオカルバミン酸系キレート剤であることが好ましく、ジチオカルバミン酸塩、ジアルキルジチオカルバミン酸塩、シクロアルキルジチオカルバミン酸塩、ピペラジンジチオカルバミン酸塩、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸塩、ポリアミンのジチオカルバミン酸塩であることがより好ましい。キレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
[未反応キレート剤]
本明細書において、「未反応キレート剤」とは、上記重金属とキレート剤との反応において未反応のキレート剤をいう。キレート剤添加後の試料は、この未反応キレート剤を含有するものであれば特に限定されるものでないが、測定精度を高めるため、試料は、重金属とキレート剤との反応生成物を実質的に含有しない試料であることが好ましい。
【0030】
重金属とキレート剤との反応によって生成される反応生成物は、水に不溶であり、試料内で析出し、沈殿する。そこで、この反応生成物を除去する手法は、固体である反応生成物と、液体である未反応キレート剤とを固液分離できるものであれば特に限定されるものでなく、沈降分離、ろ過、遠心分離、膜分離等が挙げられる。
【0031】
また、試料がアルカリ性である場合、試料に金属化合物を加える際、金属化合物中の金属イオンが水酸化物イオンと反応し、不溶性の水酸化物を形成するため、廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出する精度に影響を及ぼすことがある。そこで、キレート剤添加後の試料は、pH緩衝剤を含有するものであることが好ましい。
【0032】
pH緩衝剤は、緩衝域のpHが6以上7以下であることが好ましく、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ピペラジン−1,4−ジエタンスルホン酸又は2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸であることが挙げられる。pH緩衝剤は、ピペラジン−1,4−ジエタンスルホン酸であることがより好ましい。pH緩衝剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
[金属化合物]
未反応キレート剤と反応させる金属化合物の種類は特に限定されるものでないが、未反応キレート剤と反応し、キレート化金
属を好適に生成できる点で、金属化合物は、二価鉄塩、三価鉄塩、銅塩、ニッケル塩、カドミウム塩及びマグネシウム塩から選択される1種以上の金属塩であることが好ましい。また、金属化合物は、硫酸塩又は塩酸塩であることが好ましい。発色の度合や分析作業終了後の放流時に特段の処理が不要であることから、金属化合物は、二価鉄塩又は三価鉄塩、例えば塩化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄又は硫酸第二鉄であることがより好ましい。
【0034】
[キレート化金属含有試料の吸光度の測定]
キレート化金属を含有するキレート化金属含有試料の吸光度を測定する波長は、上記キレート化金属の含有量を測定可能な波長であれば足りる。具体的に、測定波長は、400nm以上700nm以下であることが好ましく、500nm以上700nm以下であることがより好ましい。波長がこの範囲内にあれば、溶出液に含まれるpH緩衝剤や未反応の金属化合物が吸光度に与える影響は極めて小さいといえる。
【0035】
本実施形態では、好適な測定波長が400nm以上700nm以下であるため、吸光度の測定装置は、一般に広く用いられる分光光度計で足りる。そのため、自動運転に際しても、安全性等に何ら支障がない。また、測定波長が400nm以上であると、ガラスセルによる吸収ピークが本波長よりも短波長側にあるため、高価な石英セルではなく、通常のガラスセルを用いることができ、利便性が高い。
【0036】
〔キレート剤量算出部3〕
キレート剤量算出部3は、吸光度測定部2による測定結果に基づいて、廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出する機能を有する。
【0037】
算出の手法は特に限定されるものではないが、例えば、キレート剤と金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の濃度と、測定波長での吸光度との関係を示す検量線を用いて、キレート化金属含有試料の吸光度から空試験の吸光度を差し引いた吸光度からキレート化金属含有試料に含まれるキレート化金属の濃度を算出し、この濃度から廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出することが挙げられる。
【0038】
この場合、空試験の試料は、廃棄物、キレート剤のいずれも含有しない試料ではなく、廃棄物を含有するが、キレート剤を含有しない試料であることが好ましく、特に、本試験の試料からキレート剤だけを取り除いた試料、すなわち、廃棄物、pH緩衝剤及び金属化合物を含有するが、キレート剤を含有しない試料であることがより好ましい。そうすることで、廃棄物に含まれる特定困難な数多くの成分が吸光度に与える影響を抑えることができ、廃棄物に含まれる重金属の不溶化に必要な薬剤添加量を、よりいっそう正確に見積もることができる。
【0039】
<キレート剤添加量決定方法>
図2は、本実施形態に係るキレート剤添加量決定方法を説明するためのフローチャートである。キレート剤添加量決定方法は、少なくとも、キレート剤添加工程S1と、金属化合物添加工程S4と、吸光度測定工程S5と、キレート剤量算出工程S6とを含む。また、必須ではないが、キレート剤添加量決定方法は、固液分離工程S2と、pH緩衝剤添加工程S3とをさらに含むことが好ましい。以下、本実施形態に係るキレート剤添加量決定方法について、順をおって説明する。
【0040】
〔キレート剤添加工程S1〕
キレート剤添加工程S1は、重金属を含む廃棄物にキレート剤を過剰量添加し、重金属を不溶化する工程である。
【0041】
廃棄物にキレート剤を添加し、廃棄物に含まれる重金属を不溶化する手法は特に限定されるものでなく、廃棄物及びキレート剤に少量の水を加え、これをスパーテル等で混合した廃棄物含有試料に多くの水をさらに加え、水平振とうするようにしてもよいし、廃棄物に少量の水を加え、これをスパーテル等で混合した廃棄物含有試料にキレート剤及び多くの水をさらに加え、水平振とうするようにしてもよい。また、廃棄物及びキレート剤に対して多くの水を一度に加えた後、マグネチックスターラーで撹拌するようにしてもよい。
【0042】
スパーテル等での混合前に、廃棄物に少量の水を加えるのは、混合によって、灰が飛散するのを避けるためである。したがって、水の添加量は、灰が飛散するのを抑えられる量であれば特に限定されるものではない。
【0043】
一方で、スパーテル等での混合後に、廃棄物に多くの水を加えるのは、測定対象物の濃度を適切に希釈するためであり、この希釈によって、試料の吸光度を測定する際の測定精度が高まる。ところで、測定対象物の濃度を希釈することで、水に含まれる不純物が吸光度に影響を与えるという考え方もある。そのため、測定波長を、測定対象物の極大吸収をもつ波長からあえて外し、測定対象物の濃度をあえて希釈しないという考え方もある(例えば、上記特許文献3)。しかしながら、本実施形態においては、水に含まれる不純物が吸光度に与える影響は無視できる程度であり(下記実施例2)、むしろ、測定波長を、測定対象物の極大吸収をもつ波長から外すことによる影響の方が大きい(下記実施例1)。そのため、本実施形態においては、スパーテル等での混合後に、廃棄物に水を加え、測定対象物の濃度を適切に希釈することが好ましい。
【0044】
本実施形態では、希釈の程度を表すパラメータとして、水の質量/廃棄物の質量で定義される液固比というパラメータを採用している。試料の液固比は特に限定されるものでないが、液固比は10以上1000以下であることが好ましく、50以上500以下であることがより好ましく、100以上300以下であることがさらに好ましい。液固比が小さすぎると、希釈の程度が十分でなく、試料の吸光度を測定する際、吸光度が測定機器の測定上限を超える可能性がある。また、重金属の不溶化が十分に進まない可能性があるとともに、その後の固液分離が好適に進まない可能性もある。液固比が大きすぎると、吸光度が小さすぎ、試料の吸光度の正確性に欠ける可能性がある。また、不溶化を好適に進めるために大型の装置を要することになり、非効率である。
【0045】
また、水の種類は特に限定されるものでないが、水に含まれる不純物が吸光度に与える影響を最小限に抑えるため、水は蒸留水や純水等であることが好ましい。
【0046】
本実施形態では、廃棄物に含まれる重金属及びキレート剤の反応において未反応の未反応キレート剤と、金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の含有量を測定する。そのため、重金属とキレート剤との反応において、キレート剤の添加量は、過剰量であること、すなわち、廃棄物に含まれる重金属との反応に必要な化学当量よりも多いことを要する。キレート剤の添加量が上記化学当量よりも少ないと、そもそも上記未反応キレート剤が生成されない点で好ましくない。
【0047】
重金属とキレート剤との反応時間は特に制限されないが、5分以上60分以下であることが好ましく、10分以上30分以下であることがより好ましく、10分以上20分以下であることがさらに好ましい。反応時間が短すぎると、キレート化反応が平衡に達しないことがある。反応時間が長すぎると、すでにキレート化反応が平衡に達しているにもかかわらず重金属とキレート剤との反応を続けることになり、非効率である。
【0048】
〔固液分離工程S2〕
固液分離工程S2は、キレート剤添加工程S2の後、重金属とキレート剤との反応生成物、及び重金属と未反応であり、液体の未反応キレート剤を含有する固液混合試料を固液分離する工程である。
【0049】
固液分離の手法は特に限定されるものでなく、沈降分離、ろ過、遠心分離、膜分離等が挙げられる。中でも、固体と液体との分離性に優れ、しかも簡便であることから、反応生成物を除去する手法としてろ過を採用することが好ましい。ろ過は、ガラス繊維ろ紙又はメンブレンフィルターを用いて行うことが好ましい。
【0050】
フィルターの孔径は特に限定されるものでないが、固体である反応生成物と、液体である未反応キレート剤との分離性、及びろ過時間等を考慮すると、フィルターの孔径は、0.45μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.80μm以上1μm以下であることがより好ましい。
【0051】
〔pH緩衝剤添加工程S3〕
pH緩衝剤添加工程S3は、後に説明する金属化合物添加工程S4よりも前に、試料にpH緩衝剤を添加する工程である。上述したとおり、試料がアルカリ性である場合、試料に金属化合物を加える際、金属化合物中の金属イオンが水酸化物イオンと反応し、不溶性の水酸化物を形成するため、廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出する精度に影響を及ぼすことがある。そこで、pH緩衝剤添加工程S3を行い、試料のpHを調整することが好ましい。
【0052】
〔金属化合物添加工程S4〕
金属化合物添加工程S4は、キレート剤添加後の試料に金属化合物を添加し、キレート剤添加工程S1で重金属と未反応の未反応キレート剤で金属化合物をキレート化する工程である。
【0053】
〔吸光度測定工程S5〕
吸光度測定工程S5は、未反応キレート剤と金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の含有量を測定可能な波長で、キレート化金属を含有するキレート化金属含有試料の吸光度を測定する工程である。
【0054】
〔キレート剤量算出工程S6〕
キレート剤量算出工程S6は、吸光度測定工程S5での測定結果に基づいて、廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出する工程である。算出の手法は特に限定されるものではないが、例えば、キレート剤と金属化合物との反応生成物であるキレート化金属の濃度と、測定波長での吸光度との関係を示す検量線を用いて、キレート化金属含有試料の吸光度から空試験の吸光度を差し引いた吸光度からキレート化金属含有試料に含まれるキレート化金属の濃度を算出し、この濃度から廃棄物の処理に必要なキレート剤の量を算出することが挙げられる。
【0055】
ところで、空試験は、廃棄物に含まれる特定困難な数多くの成分が吸光度に与える影響をできるだけ少なく抑え、廃棄物に含まれる重金属の不溶化に必要な薬剤添加量を、よりいっそう正確に見積もるために行う。そこで、空試験は、キレート剤を添加しないこと以外は全て同じである試料、すなわち、上述のキレート剤添加工程S1においてキレート剤を添加しないこと以外は、固液分離工程S2から吸光度測定工程S5に至るまで全て同様の工程を経ることで、吸光度を測定することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
以下の全ての実験において、廃棄物として都市ごみ焼却飛灰を用い、いずれも同一の試料を用いた。また、キレート剤はいずれもジチオカルバミン酸塩(製品名:K−8122、栗田工業株式会社製)を用いた。
【0058】
<予備実験>
はじめに、鉛の埋め立て基準値(0.3mg/L未満)を確実に満たす適正なキレート添加量を把握するために、鉛の分析下限値(0.05mg/L未満)を満たすキレート添加量を適正な添加量とし、予備実験を行った。
【0059】
飛灰50gに対し、蒸留水30重量%を加えた後、さらに、キレート剤を飛灰に対して0重量%(無添加)、1.5重量%、2.0重量%、2.5重量%加えた後、スパーテルで混合し、4種の試料を調製した。次いで、容量500mLの容器に、水の質量/飛灰の質量で定義される液固比が10となるように、試料50gと蒸留水500mlとを加え、6時間水平振とうし、溶出液を得た。その後、得られた溶出液を孔径1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、液中の鉛濃度を原子吸光法によって測定した。
【0060】
以上のようにして得られた、飛灰に対するキレート剤添加率と溶出液中の鉛濃度との関係を
図3に示す。
図3から、鉛の分析下限値(0.05mg/L未満)を満たす適正なキレート剤添加量は、飛灰に対し2.5重量%であることがわかった。
【0061】
<実験1> キレート剤添加量の測定精度の比較
【0062】
〔実施例1〕呈色試薬:キレート化金属、測定波長:525nm
[検量線の作成]
キレート剤と塩化鉄(II)四水和物との反応生成物であるキレート化金属の含有量と、波長525nmにおける吸光度との関係を直線近似し、実施例1での検量線(図示せず)とした。
【0063】
[適正添加率の算出]
容量500mLの容器に、灰2.5gを入れ、試料に含まれる測定対象物の濃度を希釈するため、液固比が200になるように蒸留水500mLを加えた後、回転子を入れマグネチックスターラーで撹拌しながら、さらにキレート剤を飛灰に対し5重量部%加え、20分間撹拌し、溶出液を得た。次いで、この溶出液を孔径1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過した。このろ液10mLに、pH緩衝剤であるピペラジン−1,4−ジエタンスルホン酸、及び金属化合物である塩化鉄(II)四水和物をそれぞれ500mg/L含む混合溶液1mLを添加し、波長525nmにおける吸光度(a)を測定した。また、キレート剤を添加しないこと以外同様の操作を行い、測定した吸光度を空試験の吸光度(b)とした。以上より求められた、キレート剤含有試料の吸光度と空試験の吸光度との差(a−b)を、キレート剤含有試料中の実際のキレート化金属の吸光度とした。
【0064】
次いで、この吸光度に対応するキレート化金属濃度を、予め作成した検量線より算出した。このようにして算出されたキレート化金属濃度が溶液中の残留キレート剤濃度に対応するものである。残留キレート剤の濃度と溶出液の固液比から、飛灰に対する残留キレート剤の添加率を求めた。続いて、キレート剤添加率と残留キレート剤の添加率の差を適正添加率とした。各測定値及び計算値は表1のとおりであった。
【0065】
〔比較例1〕呈色試薬:キレート剤、測定波長:286nm
[検量線の作成]
キレート剤の含有量と、波長286nmにおける吸光度との関係を直線近似し、比較例1での検量線(図示せず)とした。
【0066】
[適正添加率の算出]
容量500mLの容器に、飛灰2.5gを入れ、液固比が200になるように蒸留水500mLを加えたのち、回転子を入れマグネチックスターラーで攪拌しながら、さらにキレート剤を飛灰に対し5重量部%加え、20分間攪拌し、溶出液を得た。次いで、この溶出液を孔径1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過した。このろ液の波長286nmにおけるキレート剤含有試料の吸光度を測定した。また、キレート剤を添加しないこと以外同様の操作を行い、測定した吸光度を空試験の吸光度とした。以上より求められた、キレート剤含有試料の吸光度(a)と空試験の吸光度(b)との差を、キレート剤含有試料に含まれる残留キレート剤の吸光度とした。
【0067】
次いで、この吸光度に対応するキレート剤濃度を、予め作成した検量線より算出した。残留キレート剤の濃度と溶出液の固液比から、飛灰に対する残留キレート剤の添加率を求めた。続いて、キレート剤添加率と残留キレート剤の添加率の差を適正添加率とした。各測定値及び計算値は表1のとおりであった。
【0068】
〔比較例2〕呈色試薬:キレート剤、測定波長:350nm
吸光度を測定する際の波長を350nmとする以外は、比較例1と同様の操作を行い、適正添加率を算出した。各測定値及び計算値は表1のとおりであった。
【0069】
【表1】
【0070】
〔結果〕
実施例1により求められた最適添加率は2.4重量%であり、予備実験により求められたキレート添加剤の添加率、すなわち鉛の分析下限値(0.05mg/L未満)を満たす適正なキレート添加率(2.5重量%)とほぼ一致した。
【0071】
一方で、比較例1により求められた適正添加率は2.8重量%であり、予備実験により求められたキレート添加剤の添加率に比べてやや過剰であった。また、比較例2では、算出された残留キレート剤添加率がもとのキレート剤添加率を上回り、適正添加率を求めることができなかった。キレート剤そのものを呈色試薬とし、測定波長が286nm又は350nmである場合の吸光度を測定することで適正添加率を求めるとき、飛灰に含まれる特定困難な数多くの成分が吸光度に影響を与えたものと思われる。
【0072】
<実験2> pH緩衝剤、金属化合物及び溶出液中の成分が吸光度に与える影響
【0073】
〔実施例2〕呈色試薬:キレート化金属
吸光度の測定波長が200nm以上700nm以下の連続した範囲であること以外は、実施例1と同様の操作によって、吸光度(a)を測定した。結果を
図4に示す。
【0074】
〔比較例3〕呈色試薬:キレート剤
吸光度の測定波長が200nm以上700nm以下の連続した範囲であること以外は、比較例1と同様の操作によって、吸光度(a)を測定した。結果を
図4に示す。
【0075】
〔比較例4〕呈色試薬:なし、pH緩衝剤及び金属化合物:なし
キレート剤を添加しなかったこと以外、比較例3と同様の操作によって、吸光度(a)を測定した。結果を
図4に示す。
【0076】
〔比較例5〕呈色試薬:なし、pH緩衝剤及び金属化合物:あり
キレート剤を添加しなかったこと以外、実施例2と同様の操作によって、吸光度(a)を測定した。結果を
図4に示す。
【0077】
〔結果〕
図4の比較例4及び比較例5から、測定波長が400nm以上700nm以下である場合において、pH緩衝剤であるピペラジン−1,4−ジエタンスルホン酸と、金属化合物である塩化鉄(II)四水和物とが吸光度に与える影響は極めて小さいといえる。また、実施例2のように、キレート化金属を呈色試薬にすると、この測定波長の範囲で十分に高い吸光度を有するため、キレート剤の適正添加率を正確に見積もることができるといえる。
【0078】
一方で、比較例3及び比較例4から、測定波長が215nm以上350nm以下である場合において、溶出液中のキレート剤以外の成分が吸光度に与える影響は無視できないといえる。そのため、キレート剤を呈色試薬にし、215nm以上350nm以下を測定波長とすると、溶出液中のキレート剤以外の成分が吸光度に影響を与え、測定誤差を生じさせ得ると思われる。