【課題を解決するための手段】
【0010】
ArFエキシマレーザー光の照射によるパターン寸法変動劣化は、上記Thomas Faureらの報告(非特許文献1)で明らかにされているとおり、ドライエアー雰囲気で光を照射した場合には生じにくいものであるが、ドライエアー雰囲気による制御は、付加装置を必要とする他、静電気対策等が新たに必要となるため、コストアップにつながる。そこで、本発明者らは、湿度のある常用の雰囲気による長時間の露光を可能とするべく、フォトマスクの膜材料の改良を試みた。
【0011】
ArFエキシマレーザー光を光源とするリソグラフィーに用いるフォトマスクでは、ハーフトーン位相シフトマスクにおいては遷移金属を含有するケイ素系材料が用いられ、通常、モリブデンを含有するケイ素系材料が用いられている。このケイ素系材料の主たる構成元素は、遷移金属とケイ素であり、更に、軽元素として酸素及び/又は窒素を含有するもの(例えば、特開平7−140635号公報(特許文献3)等)、更に、炭素や水素等の元素が少量加えられたもの(例えば、特開平10−171096号公報(特許文献4)等)がある。遷移金属としてはMo、Zr、Ta、W、Ti等が用いられ、特にMoが一般的に用いられる(例えば、特開平7−140635号公報(特許文献3)等)が、更に、第2の遷移金属が加えられる場合もある(特開2004−133029号公報(特許文献5))。また、遮光膜においても、遷移金属を含有するケイ素系材料が用いられ、通常、モリブデンを含有するケイ素系材料が用いられるようになってきている。
【0012】
従来のハーフトーン位相シフト膜では、上述した材料を用いて、露光光の位相を変化させつつ必要な減衰量を得ると共に、膜に高い屈折率をもたせるために、多量の窒素原子を含有させ、また、最適な光学物性や化学特性を得るために、酸素原子を必要量加える設計が好ましいとされた(例えば、特開平7−181664号公報(特許文献6))。特に、ArFエキシマレーザー光用の膜材料には、KrFエキシマレーザー光用のものよりも多量の窒素原子を含有させ、更に、必要に応じて比較的少量の酸素を添加することにより、要求される物理特性を得ている。ところが、このような材料を用いたフォトマスクに高エネルギー光を多量に照射した場合、高エネルギー光の照射によるパターン寸法変動劣化が大きく、フォトマスクの使用寿命が、要求されるものより短いことが判明した。
【0013】
そこで、本発明者らは、ハーフトーン位相シフト膜等として用いる遷移金属を含有するケイ素系材料(遷移金属ケイ素系材料)として、フォトマスクを用いた露光において通常適用される、湿度を有する管理された雰囲気下においてArFエキシマレーザー光を照射しても、遷移金属ケイ素系材料膜の変質を伴うパターン寸法変動劣化の少ない材料の開発を目指し、遷移金属ケイ素系材料の光励起を原因とする不安定化に対する仮説として、次のような仮説を立てた。即ち、遷移金属ケイ素系材料、例えばモリブデンケイ素系材料において、水分がある状態でArFエキシマレーザー光を照射し続けることによって、窒素を含むモリブデンケイ素系材料膜は窒素を乖離し、酸化物となる等の化学変化をする。このような化学変化のしやすさを考える上では、それぞれの元素の価数を考慮する必要があり、それぞれの元素の価数と含有率との積は、その物質における元素毎の相対的な結合の数を示すものであり、各元素の積と化学変化のしやすさとの間に関係があると考えられる。また、遷移金属ケイ素系材料であれば、ハーフトーン位相シフト膜のみならず、遮光膜等の他種の膜においても同様な関係があると考えられる。
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、窒素及び酸素を含有する遷移金属ケイ素系材料膜中の遷移金属及びケイ素の含有量、更には、これらの元素及び窒素の含有量、又はこれらの元素、酸素及び窒素の含有量と、ArFエキシマレーザー光を累積して照射した際の、マスクパターンの寸法変動劣化との間に相関があること、また、この相関が上述した仮説に沿ったものであることを見出した。そして、膜の遷移金属ケイ素系材料中の上記元素の含有率を、所定の関係式を満たすようにすることで、ArFエキシマレーザー光の照射によるパターン寸法変動劣化が強く抑制されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
従って、本発明は、以下の光パターン照射方法を提供する。
請求項1:
累積10kJ/cm
2以上のArFエキシマレーザー光が照射されたフォトマスクを用い、ArFエキシマレーザー光を光源として、光パターンを露光対象に照射する光パターン照射方法であって、
透明基板上に、モリブデンと、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有するモリブデンケイ素系材料のハーフトーン位相シフト膜のマスクパターンを有し、
上記ハーフトーン位相シフト膜が、下記式(1)
4×C
Si/100−6×C
M/100>1 …(1)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mはモリブデンの含有率(原子%)を示す
)
を満たすモリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の高い層と、上記式(1)を満たし、酸素を3原子%以上含有するモリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の低い層との組み合わせで2層以上積層された多層で、又は
該多層と、
該多層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成された膜であるフォトマスクを用いることを特徴とする光パターン照射方法。
請求項2:
累積10kJ/cm
2以上のArFエキシマレーザー光が照射されたフォトマスクを用い、ArFエキシマレーザー光を光源として、光パターンを露光対象に照射する光パターン照射方法であって、
透明基板上に、モリブデンと、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有するモリブデンケイ素系材料のハーフトーン位相シフト膜のマスクパターンを有し、
上記ハーフトーン位相シフト膜が、下記式(2)
4×C
Si/100−6×C
M/100−3×C
N/100>−0.1 …(2)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mはモリブデンの含有率(原子%)、C
Nは窒素の含有率(原子%)を示す
)
を満たすモリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の高い層と、上記式(2)を満たし、酸素を3原子%以上含有するモリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の低い層との組み合わせで2層以上積層された多層で、又は
該多層と、
該多層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成された膜であるフォトマスクを用いることを特徴とする光パターン照射方法。
請求項3:
累積10kJ/cm
2以上のArFエキシマレーザー光が照射されたフォトマスクを用い、ArFエキシマレーザー光を光源として、光パターンを露光対象に照射する光パターン照射方法であって、
透明基板上に、モリブデンと、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有するモリブデンケイ素系材料のハーフトーン位相シフト膜のマスクパターンを有し、
上記ハーフトーン位相シフト膜が、下記式(3)
4×C
Si/100−6×C
M/100−3×C
N/100+2×C
O/100>0
…(3)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mはモリブデンの含有率(原子%)、C
Nは窒素の含有率(原子%)、C
Oは酸素の含有率(原子%)を示す
)
を満たすモリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の高い層と、上記式(3)を満たし、酸素を3原子%以上含有するモリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の低い層との組み合わせで2層以上積層された多層で、又は
該多層と、
該多層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成された膜であるフォトマスクを用いることを特徴とする光パターン照射方法。
請求項4:
上記モリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の高い層が、酸素を3原子%以上含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光パターン照射方法。
請求項5:
上記ハーフトーン位相シフト膜の膜厚が50〜70nmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光パターン照射方法。
請求項6:
上記モリブデンケイ素系材料からなる光吸収能の高い層が、酸素を10原子%以上含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光パターン照射方法。
請求項7:
上記表面酸化層が、上記モリブデンケイ素系材料で構成された層の表面部を大気酸化又は強制酸化処理して形成された層であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光パターン照射方法。
また、本発明は、以下のフォトマスクブランク、フォトマスク、光パターン照射方法、遷移金属ケイ素系材料膜の設計方法、及びフォトマスクブランクの製造方法が関連する。
[1] 透明基板上に、遷移金属と、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有する材料からなる遷移金属ケイ素系材料膜を有するフォトマスクブランクであって、
上記遷移金属ケイ素系材料膜が、酸素を3原子%以上含有し、かつ
下記式(1)
4×C
Si/100−6×C
M/100>1 …(1)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mは遷移金属の含有率(原子%)を示す)
を満たす遷移金属ケイ素系材料からなる層、
該層が2層以上積層された多層、又は
これらの層のいずれかと、該層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成された膜であることを特徴とするフォトマスクブランク。
[2] 透明基板上に、遷移金属と、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有する材料からなる遷移金属ケイ素系材料膜を有するフォトマスクブランクであって、
上記遷移金属ケイ素系材料膜が、酸素を3原子%以上含有し、かつ
下記式(2)
4×C
Si/100−6×C
M/100−3×C
N/100>−0.1 …(2)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mは遷移金属の含有率(原子%)、C
Nは窒素の含有率(原子%)を示す)
を満たす遷移金属ケイ素系材料からなる層、
該層が2層以上積層された多層、又は
これらの層のいずれかと、該層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成された膜であることを特徴とするフォトマスクブランク。
[3] 透明基板上に、遷移金属と、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有する材料からなる遷移金属ケイ素系材料膜を有するフォトマスクブランクであって、
上記遷移金属ケイ素系材料膜が、酸素を3原子%以上含有し、かつ
下記式(3)
4×C
Si/100−6×C
M/100−3×C
N/100+2×C
O/100>0
…(3)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mは遷移金属の含有率(原子%)、C
Nは窒素の含有率(原子%)、C
Oは酸素の含有率(原子%)を示す)
を満たす遷移金属ケイ素系材料からなる層、
該層が2層以上積層された多層、又は
これらの層のいずれかと、該層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成された膜であることを特徴とするフォトマスクブランク。
[4] 上記遷移金属がモリブデンであることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
[5] 上記表面酸化層が、上記遷移金属ケイ素系材料で構成された層の表面部を大気酸化又は強制酸化処理して形成された層であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
[6] 上記遷移金属ケイ素系材料膜が、ハーフトーン位相シフト膜であることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
[7] [1]乃至[6]のいずれかに記載のフォトマスクブランクを用いて製造したことを特徴とするフォトマスク。
[8] [7]記載のフォトマスクを用い、ArFエキシマレーザー光を照射して、光パターンを露光対象に照射することを特徴とする光パターン照射方法。
[9] 累積10kJ/cm
2以上のArFエキシマレーザー光が照射されたフォトマスクを用い、光パターンを露光対象に照射することを特徴とする[8]記載の光パターン照射方法。
[10] 遷移金属と、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有する材料からなる遷移金属ケイ素系材料膜パターンが形成されたフォトマスクにおいて、上記膜パターンのArFエキシマレーザー光の照射によるパターン線幅変動劣化が抑制された遷移金属ケイ素系材料膜を設計する方法であって、
上記遷移金属ケイ素系材料膜の酸素含有率を3原子%以上とし、
上記遷移金属ケイ素系材料膜を、遷移金属ケイ素系材料からなる層、該層が2層以上積層された多層、又はこれらの層のいずれかと、該層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成し、かつ
上記遷移金属ケイ素系材料からなる層において、下記式(1)
4×C
Si/100−6×C
M/100>1 …(1)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mは遷移金属の含有率(原子%)を示す)
を満たす範囲内で、ケイ素の含有率C
Si及び遷移金属の含有率C
Mを設定することを特徴とする遷移金属ケイ素系材料膜の設計方法。
[11] 遷移金属と、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有する材料からなる遷移金属ケイ素系材料膜パターンが形成されたフォトマスクにおいて、上記膜パターンのArFエキシマレーザー光の照射によるパターン線幅変動劣化が抑制された遷移金属ケイ素系材料膜を設計する方法であって、
上記遷移金属ケイ素系材料膜の酸素含有率を3原子%以上とし、
上記遷移金属ケイ素系材料膜を、遷移金属ケイ素系材料からなる層、該層が2層以上積層された多層、又はこれらの層のいずれかと、該層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成し、かつ
上記遷移金属ケイ素系材料からなる層において、下記式(2)
4×C
Si/100−6×C
M/100−3×C
N/100>−0.1 …(2)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mは遷移金属の含有率(原子%)、C
Nは窒素の含有率(原子%)を示す)
を満たす範囲内で、ケイ素の含有率C
Si、遷移金属の含有率C
M及び窒素の含有率C
Nを設定することを特徴とする遷移金属ケイ素系材料膜の設計方法。
[12] 遷移金属と、ケイ素と、酸素及び窒素とを含有する材料からなる遷移金属ケイ素系材料膜パターンが形成されたフォトマスクにおいて、上記膜パターンのArFエキシマレーザー光の照射によるパターン線幅変動劣化が抑制された遷移金属ケイ素系材料膜を設計する方法であって、
上記遷移金属ケイ素系材料膜の酸素含有率を3原子%以上とし、
上記遷移金属ケイ素系材料膜を、遷移金属ケイ素系材料からなる層、該層が2層以上積層された多層、又はこれらの層のいずれかと、該層の透明基板から離間する側に接する層厚10nm以下の表面酸化層とで構成し、かつ
上記遷移金属ケイ素系材料からなる層において、下記式(3)
4×C
Si/100−6×C
M/100−3×C
N/100+2×C
O/100>0
…(3)
(式中、C
Siはケイ素の含有率(原子%)、C
Mは遷移金属の含有率(原子%)、C
Nは窒素の含有率(原子%)、C
Oは酸素の含有率(原子%)を示す)
を満たす範囲内で、ケイ素の含有率C
Si、遷移金属の含有率C
M、窒素の含有率C
N及び酸素の含有率C
Oを設定することを特徴とする遷移金属ケイ素系材料膜の設計方法。
[13] 上記遷移金属がモリブデンであることを特徴とする[10]乃至[12]のいずれかに記載の設計方法。
[14] 上記表面酸化層が、上記遷移金属ケイ素系材料で構成された層の表面部を大気酸化又は強制酸化処理して形成された層であることを特徴とする[10]乃至[13]のいずれかに記載の設計方法。
[15] 上記遷移金属ケイ素系材料膜が、ハーフトーン位相シフト膜であることを特徴とする[10]乃至[14]のいずれかに記載の設計方法。
[16] [10]乃至[15]のいずれかに記載の設計方法により設計した遷移金属ケイ素系材料膜を、透明基板上に成膜することを特徴とするフォトマスクブランクの製造方法。