【文献】
加熱と冷却のシミュレーション,[online],1-7頁,URL,http://myken.ise.osaka-sandai.ac.jp/~lecture/cs/simulation_text02.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
攪拌槽と、該攪拌槽の周面に外側から冷却媒体を接触させるための冷却ジャケットとを有する冷却器を備え、該攪拌槽の周面を伝熱面として熱交換により攪拌槽内を冷却する攪拌槽型晶析装置を用い、
前記攪拌槽に被処理流体を供給し、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度、冷却ジャケットの出口における冷却媒体温度、環境温度Tatmおよび装置代表温度Teを管理しつつ、前記攪拌槽内の被処理流体を冷却することによって結晶を析出させる晶析操作を行い、
前記装置代表温度Teとして、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度を用い、晶析操作中の、下記式(1)によって定義される実質冷却熱量Qrの値が一定となるように冷却条件を制御することにより、下記の測定方法で求められる結晶の液透過速度(K)を8.9m/hr以上とすることを特徴とする晶析方法。
Qr=Qa−Qatm (1)
式(1)において、Qaは下記式(3)によって算出される、冷却器における冷却熱量(単位:W)を表し、Qatmは下記式(2)で算出される環境放出熱量(単位:W)を表す。
Qa=ρ・Cp・v・t (3)
式(3)において、
ρ(単位:kg/m3)は冷却媒体密度、
Cp(単位:J/(kg・K))は冷却媒体の比熱、
v(単位:m3/s)は冷却ジャケットにおける冷却媒体の流量、
t(単位:℃)は、冷却ジャケット入口の冷却媒体温度と出口の冷却媒体温度との差を表す。
Qatm=UA・(Tatm−Te) (2)
式(2)において、
UA(単位:W/K)は放熱係数、
Tatm(単位:℃)は晶析装置の置かれた環境温度、
Te(単位:℃)は装置代表温度を表し、
放熱係数UAは、予め、攪拌槽内に流体を収容した状態で冷却媒体によって熱交換する測定テストを行い、攪拌槽内の流体の温度を経時的に測定し、得られた槽内温度変化曲線、槽内流体の量、密度、および比熱、冷却媒体の流量v、密度ρ、および比熱Cp、冷却ジャケットの入口及び出口の冷却媒体温度(温度差t)、晶析装置の置かれた環境温度Tatm、ならびに装置代表温度Teに基づいて、槽内流体の温度変化に用いられた熱量と、冷却ジャケット中の冷却媒体温度変化分の熱量との差である環境放出熱量Qatmを算出し、前記式(2)により放熱係数UA(単位:W/K)を算出して得られる値である。
[結晶の液透過速度(K)の測定方法]
(1)内径3cm程度、長さ1m程度のガラス管を垂直に立て、底部に金網をセットする。
(2)晶析装置出口から得たスラリー(結晶と母液とからなる)をガラス管の高さ50cm程度まで注ぐ。
(3)ガラス管内の結晶が沈降し、落ち着いたところで結晶層上面位置(H1)にマークする。
(4)H1から2.5cm上方の位置(H3)、及び5cm上方の位置(H2)にマークする。
(5)液面がH2からH1まで低下するのに要する時間(T)を測定する。
なお、測定中必要に応じ、ガラス管上部からスラリーの母液を追加しても構わない。
(6)測定中、液面がH1からH3の高さとなったときの結晶層上面位置(H)をマークする。
(7)得られたデータから式(4)を用いて液透過速度(K)を算出する。
K=H・Ln(H2/H1)/T・3600 …(4)
ただし、式(4)において、各パラメータは以下の内容を表す。
K[単位:m/hr]:液透過速度
H[単位:m]:結晶層高さ
H1[単位:m]:測定開始時結晶層上面高さ
H2[単位:m]:測定開始時液面高さ
H3[単位:m]:中間液面高さ
T[単位:秒]:測定時間。
なお、H、H1、H2はガラス管底部の金網からの高さとする。
【背景技術】
【0002】
晶析装置を用いて精製操作を行う場合、得られた結晶の性状、特に結晶の液透過性は、その後の固液分離性を支配するため非常に重要である。したがって晶析装置を用いた精製工程においては、結晶のより高い液透過性を常時維持できるようにすることが要求される。
【0003】
結晶の液透過性を支配する因子としては、結晶の平均粒子径および粒子径分布が挙げられる。つまり、できるだけ大きな平均粒子径を持ち、粒子径が小さい領域に粒子径分布を持たない結晶を得ることが重要である。一般的には、冷却熱量が結晶の粒子径に影響し、急激な冷却を行うと小さな粒子径の結晶が多数発生するとされている。このため晶析装置においては、この冷却熱量を管理しつつ運転条件がコントロールされる。
【0004】
冷却熱量の管理方法としては、(1)冷却される液体である被処理流体(スラリー)の装置内での温度を管理する方法と、(2)冷却器の運転状態から算出される値を管理する方法が挙げられる。(2)の方法では、例えば冷却ジャケットを備えた攪拌槽型晶析装置である場合は、冷却ジャケット入口の冷却媒体温度と出口の冷却媒体温度との差、冷却ジャケットにおける冷却媒体の流量、および冷却媒体の比熱等から算出される値が用いられる。
【0005】
下記特許文献1には、粗製(メタ)アクリル酸に、第二成分としてメタノール、エタノール、プロパノールまたはブタノールを添加した溶液から(メタ)アクリル酸を晶析させ、析出した結晶と母液を分離することによって、精製された(メタ)アクリル酸を製造する方法が記載されている。
【0006】
また下記特許文献2には、外部循環装置やジャケット装置などを備えた冷却器を用い、該冷却器の伝熱面を介して熱交換を行う冷却式晶析法によって結晶を析出させる場合に、伝熱面上に結晶(スケール)が成長して冷却能力が低下していくことを加味して、晶析器の運転条件の変更、冷却器の切り替え、または冷却器の再生処理条件の変更を行う方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、従来の方法では、一定の管理基準に基づいて晶析装置の運転条件をコントロールしているにもかかわらず、得られた結晶の液透過性が大きく低下することがあった。特にイソブチレン、第三級ブチルアルコール、メタクロレイン又はイソブチルアルデヒドを、分子状酸素と一段または二段で反応させる接触気相酸化に付して得られる生成物に、抽出や蒸留等の通常の精製手段を施して得られる粗製メタクリル酸から、アルデヒド類等の不純物を除去することを目的に行われる晶析工程においてはこの問題が顕著であった。
【0008】
従来の晶析装置における冷却熱量を管理する際、上記特許文献1の方法では、単に槽内の被処理流体(スラリー)の温度を管理しているだけで、槽内側の伝熱面の表面温度、特に該伝熱面上に結晶(スケール)が生成した場合のスケール表面温度は基本的にわからないため、実質的な冷却熱量の程度を把握することは難しかった。また上記特許文献2の方法では、冷却器が行った仕事量が把握できるのみであり、実際に被処理流体(スラリー)から除去された熱量は把握できていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、良好な液透過性を有する結晶を安定的に得ることができる晶析装置およびその運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、晶析装置の冷却熱量を管理するに当たり、晶析装置から環境中に放出される熱量を勘案して、被処理流体(スラリー)から実際に除去される熱量の値を算出し、この値を管理しつつ晶析操作を制御することにより、良好な液透過性を有する結晶が安定的に得られることを見出して本発明に至った。
【0012】
本発明は、攪拌槽と、該攪拌槽の周面に外側から冷却媒体を接触させるための冷却ジャケットとを有する冷却器を備え、該攪拌槽の周面を伝熱面として熱交換により攪拌槽内を冷却する攪拌槽型晶析装置を用い、
前記攪拌槽に被処理流体を供給し、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度、冷却ジャケットの出口における冷却媒体温度、環境温度T
atmおよび装置代表温度Teを管理しつつ、前記攪拌槽内の被処理流体を冷却することによって結晶を析出させる晶析操作を行い、
前記装置代表温度T
eとして、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度を用い、晶析操作中の、下記式(1)によって定義される実質冷却熱量Q
rの値が一定となるように冷却条件を制御することにより、下記の測定方法で求められる結晶の液透過速度(K)を8.9m/hr以上とすることを特徴とする晶析方法を提供する。
Q
r=Q
a−Q
atm (1)
式(1)において、Q
aは下記式(3)によって算出される、冷却器における冷却熱量(単位:W)を表し、Q
atmは下記式(2)で算出される環境放出熱量(単位:W)を表す。
Q
a=ρ・C
p・v・t (3)
式(3)において、
ρ(単位:kg/m
3)は冷却媒体密度、
C
p(単位:J/(kg・K))は冷却媒体の比熱、
v(単位:m
3/s)は冷却ジャケットにおける冷却媒体の流量、
t(単位:℃)は、冷却ジャケット入口の冷却媒体温度と出口の冷却媒体温度との差を表す。
Q
atm=UA・(T
atm−T
e) (2)
式(2)において、
UA(単位:W/K)は放熱係数、
T
atm(単位:℃)は晶析装置の置かれた環境温度、
T
e(単位:℃)は装置代表温度を表し、
放熱係数UAは、予め、攪拌槽内に流体を収容した状態で冷却媒体によって熱交換する測定テストを行い、攪拌槽内の流体の温度を経時的に測定し、得られた槽内温度変化曲線、槽内流体の量、密度、および比熱、冷却媒体の流量v、密度ρ、および比熱C
p、冷却ジャケットの入口及び出口の冷却媒体温度(温度差t)、晶析装置の置かれた環境温度T
atm、ならびに装置代表温度T
eに基づいて、槽内流体の温度変化に用いられた熱量と、冷却ジャケット中の冷却媒体温度変化分の熱量との差である環境放出熱量Q
atmを算出し、前記式(2)により放熱係数UA(単位:W/K)を算出して得られる値である。
[結晶の液透過速度(K)の測定方法]
(1)内径3cm程度、長さ1m程度のガラス管を垂直に立て、底部に金網をセットする。
(2)晶析装置出口から得たスラリー(結晶と母液とからなる)をガラス管の高さ50cm程度まで注ぐ。
(3)ガラス管内の結晶が沈降し、落ち着いたところで結晶層上面位置(H1)にマークする。
(4)H1から2.5cm上方の位置(H3)、及び5cm上方の位置(H2)にマークする。
(5)液面がH2からH1まで低下するのに要する時間(T)を測定する。
なお、測定中必要に応じ、ガラス管上部からスラリーの母液を追加しても構わない。
(6)測定中、液面がH1からH3の高さとなったときの結晶層上面位置(H)をマークする。
(7)得られたデータから式(4)を用いて液透過速度(K)を算出する。
K=H・Ln(H2/H1)/T・3600 …(4)
ただし、式(4)において、各パラメータは以下の内容を表す。
K[単位:m/hr]:液透過速度
H[単位:m]:結晶層高さ
H1[単位:m]:測定開始時結晶層上面高さ
H2[単位:m]:測定開始時液面高さ
H3[単位:m]:中間液面高さ
T[単位:秒]:測定時間。
なお、H、H1、H2はガラス管底部の金網からの高さとする。
【0013】
また本発明は、本発明の晶析方法に用いられる晶析装置であって、攪拌槽と、該攪拌槽の周面に外側から冷却媒体を接触させるための冷却ジャケットとを有する冷却器を備え、該攪拌槽の周面を伝熱面として熱交換により攪拌槽内を冷却する攪拌槽型晶析装置であり、
冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度、冷却ジャケットの出口における冷却媒体温度、環境温度T
atmおよび装置代表温度T
eを管理する手段と、下記式(1)によって定義される実質冷却熱量Q
rの値が一定となるように冷却条件を制御する手段とを有し、
前記装置代表温度T
eが、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度であることを特徴とする晶析装置。
Q
r=Q
a−Q
atm (1)
式(1)において、Q
aは下記式(3)によって算出される、冷却器における冷却熱量(単位:W)を表し、Q
atmは下記式(2)で算出される環境放出熱量(単位:W)を表す。
Q
a=ρ・C
p・v・t (3)
式(3)において、
ρ(単位:kg/m
3)は冷却媒体密度、
C
p(単位:J/(kg・K))は冷却媒体の比熱、
v(単位:m
3/s)は冷却ジャケットにおける冷却媒体の流量、
t(単位:℃)は、冷却ジャケット入口の冷却媒体温度と出口の冷却媒体温度との差を表す。
Q
atm=UA・(T
atm−T
e) (2)
式(2)において、
UA(単位:W/K)は放熱係数、
T
atm(単位:℃)は晶析装置の置かれた環境温度、
T
e(単位:℃)は装置代表温度を表し、
放熱係数UAは、予め、攪拌槽内に流体を収容した状態で冷却媒体によって熱交換する測定テストを行い、攪拌槽内の流体の温度を経時的に測定し、得られた槽内温度変化曲線、槽内流体の量、密度、および比熱、冷却媒体の流量v、密度ρ、および比熱C
p、冷却ジャケットの入口及び出口の冷却媒体温度(温度差t)、晶析装置の置かれた環境温度T
atm、ならびに装置代表温度T
eに基づいて、槽内流体の温度変化に用いられた熱量と、冷却ジャケット中の冷却媒体温度変化分の熱量との差である環境放出熱量Q
atmを算出し、前記式(2)により放熱係数UA(単位:W/K)を算出して得られる値である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の晶析装置の運転方法によれば、液透過速度が8.9m/hr以上の良好な液透過性を有する結晶を安定的に得ることができる。また、本発明の晶析装置によれば、液透過速度が8.9m/hr以上の良好な液透過性を有する結晶を安定的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における晶析装置は、伝熱面を介して熱交換を行う冷却器を備え、該冷却器に供給された被処理流体を所望の温度に冷却できるものであればよく、公知の晶析装置を適宜用いることができる。例えば「化学工学便覧 改訂第六版」丸善株式会社発行、1999年、505〜520頁に記載されている装置を使用できる。特に、攪拌槽と、該攪拌槽の周面に外側から冷却媒体を接触させるための冷却ジャケットとを有する冷却器を備え、該攪拌槽の周面を伝熱面として熱交換により攪拌槽内を冷却する攪拌槽型晶析装置(以下、冷却ジャケットを有する攪拌槽型晶析装置という。)が好適である。
【0016】
本発明における被処理流体は、晶析操作により精製しようとする化合物を含む流体であれば特に制限されない。例えば本発明は、被処理流体が粗製(メタ)アクリル酸であり、これに晶析操作を施して(メタ)アクリル酸の精製品を得る工程に好適である。本明細書において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸および/またはメタクリル酸を言い、粗製(メタ)アクリル酸とは、粗製メタクリル酸および/または粗製アクリル酸を言うものとする。
【0017】
本発明における被処理流体として、ACH法で副生するメタクリル酸を抽出や蒸留により分離して得られる粗製メタクリル酸を好適に用いることができる。
また本発明における被処理流体として、イソブチレン、第三級ブチルアルコール、メタクロレイン又はイソブチルアルデヒドを、一段または二段で分子状酸素と反応させる接触気相酸化に付して得られる反応ガスを、水に吸収させて得られた水溶液から、有機溶剤を用いてメタクリル酸を抽出し、蒸留により有機溶剤及び不揮発分を除去して得られる粗製メタクリル酸を用い、該粗製メタクリル酸からアルデヒド類等の不純物を除去する晶析操作に本発明を適用することが好ましい。
【0018】
本発明の方法により晶析操作を行うには、まず、晶析装置の冷却器に被処理流体を供給する。該供給手段は特に限定されず、公知の供給手段を適宜用いることができる。
【0019】
次に冷却器に供給された被処理流体を熱交換することにより結晶を析出させる晶析操作を行う。晶析操作は回分式でも連続式でもよいが、本発明の方法によれば、被処理溶液から結晶を連続的に晶出させる操作を安定して行うことができるため、特に連続式に好適である。
【0020】
冷却器において被処理流体を熱交換する冷却温度は、被処理流体中に目的とする化合物の結晶が析出し始める温度である結晶析出温度以下であればよい。例えば被処理流体が粗製(メタ)アクリル酸である場合は、操作性の点から冷却温度を−10〜10℃の範囲内で設定することが好ましい。
【0021】
必要に応じて被処理流体に結晶析出温度を調整するための成分を添加してもよい。例えば被処理流体として粗製(メタ)アクリル酸を用いる場合、第二成分として(メタ)アクリル酸と固溶体を形成しない極性有機物質を添加することにより、結晶析出温度を低下させることができる。極性有機物質の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。該第二成分の添加量は1〜35質量%の範囲内が好ましい。例えば被処理流体として粗製メタクリル酸を用いる場合、メタクリル酸の融点が15℃であるのに対して、結晶析出温度が−10〜10℃となるように、第二の成分の添加量を設定することが好ましい。
【0022】
晶析操作を行う際、冷却器において被処理流体から除去される熱量を表す実質冷却熱量Q
rの値を、冷却器から環境中に放出される熱量(環境放出熱量Q
atm)を加味して求め、該実質冷却熱量Q
rの値を一定に管理しつつ、被処理流体の冷却条件を制御する。
【0023】
本発明において実質冷却熱量Q
rの値は、下記式(1)によって算出される値である。
Q
r=Q
a−Q
atm …(1)
(Q
rは実質冷却熱量(単位:W)、Q
aは見かけ冷却熱量(単位:W)、Q
atmは下記式(2)で算出される環境放出熱量(単位:W)を示す。)
Q
atm=UA(T
atm−T
e) …(2)
(UAは放熱係数(単位:W/K)、T
atmは環境温度(単位:℃)、T
eは装置代表温度(単位:℃)を示す。)
【0024】
式(1)における見かけ冷却熱量Q
aは、晶析操作中に冷却器で消費されるエネルギー量を表す値であり、冷却器の運転状態から算出される。例えば冷却ジャケットを有する攪拌槽型晶析装置の場合は、冷却ジャケット入口の冷却媒体温度と出口の冷却媒体温度との差をt(単位:℃)、冷却媒体密度をρ(単位:kg/m
3)、冷却ジャケットにおける冷却媒体の流量をv(単位:m
3/s)、冷却媒体の比熱をC
p(単位:J/(kg・K))とすると、下記式(3)によって見かけ冷却熱量Q
a(単位:W)が算出される。
Q
a= ρ・C
p・v・t …(3)
【0025】
式(2)における放熱係数UAは装置固有の値であり、晶析装置の運転記録、もしくは別途行う測定テストによって容易に得られる。測定テストは、例えば冷却ジャケットを有する攪拌槽型晶析装置の場合、攪拌槽内に水等の流体を一定量収容した状態で冷却媒体によって熱交換を行い、槽内の流体の温度を経時的に測定する。そして得られた槽内温度変化曲線、槽内流体の量と密度、比熱、冷却媒体の循環量と密度、比熱、冷却ジャケットの入口及び出口の冷却媒体温度、晶析装置の置かれた環境温度、装置代表温度から、放熱係数UA(単位:W/K)が得られる。具体的には、槽内流体の温度変化に用いられた熱量と、冷却ジャケット中の冷却媒体温度変化分の熱量差から環境放出熱量Q
atmを算出し、式(2)からUAを算出することができる。
【0026】
式(2)における環境温度(T
atm)は、晶析装置が置かれている環境の温度を表す。具体的には晶析装置付近で測定した温度(単位:℃)を用い、晶析装置にできるだけ近い位置での測定温度が望ましい。
【0027】
式(2)における装置代表温度(T
e)は、環境温度(T
atm)との差に基づいて環境放出熱量Q
atmを算出する際の基準となる温度である。厳密には冷却器とその外側の環境との界面における冷却器の温度が好ましいが、これと連動して変化する温度であればよく、使用する晶析装置によって装置代表温度(T
e)の測定点を適宜選択することができる。例えば被処理流体の温度、冷却器内を流通する冷却媒体の温度、冷却器の表面温度等を用いることができる。
【0028】
式(1)では、見かけ冷却熱量Q
aから環境放出熱量Q
atmを差し引くことによって、冷却器から環境中に放出される熱量を加味して補正された実質冷却熱量Q
rが得られる。環境温度(T
atm)が装置代表温度(T
e)よりも高い場合は、晶析装置の冷却器へ熱が流入するため、Q
rはQ
aよりも小さく補正される。逆に環境温度(T
atm)が装置代表温度(T
e)よりも低い場合は、晶析装置の冷却器から熱が流出するため、Q
rはQ
aよりも大きく補正される。
【0029】
このように補正された実質冷却熱量Q
rは、被処理流体(スラリー)において、実際に被処理流体から除去される熱量、すなわち実際に結晶を析出させるために使われる熱量に相当する。したがって、この実質冷却熱量Q
rが一定の範囲内に保たれるように冷却条件を制御しつつ晶析装置の運転を行うことにより、被処理流体の冷却状態が安定に保たれる。これにより、結晶の析出状態が安定化され、良好な液透過性を持つ結晶を安定的に得ることができる。
【0030】
具体的に、晶析操作中における実質冷却熱量Q
rの変動幅は、実質冷却熱量Q
rの運転目標値に対して−15%〜+15%の範囲内となるように一定に管理されることが好ましく、−10%〜+10%がより好ましく、−5%〜+5%がさらに好ましい。
【0031】
実質冷却熱量Q
rの運転目標値は、所望の平均粒子径および粒子径分布を有する結晶が得られる状態における実質冷却熱量Q
rに設定することが好ましい。
実質冷却熱量Q
rの値の制御に用いられる冷却条件は、晶析装置の運転条件のうち、該Q
rの値に影響を与えるパラメータであればよく、対象となる系に最も適したものを適宜選択すればよい。好ましいパラメータとしては、冷却媒体の入口温度、出口温度、入口と出口の算術平均もしくは対数平均温度等が挙げられる。
【0032】
本発明の晶析装置において、実質冷却熱量(Q
r)の値を求める手段、および該実質冷却熱量(Q
r)の値を管理しつつ冷却条件を制御する手段は特に制限されない。例えば晶析装置の運転状態から電卓等を用いてQ
rを算出した後、手動にて晶析装置の運転条件を変更してもよいし、DCS(Distributed Control System)やコンピュータを用いてQ
rを自動で計算し、表示させた後、手動もしくはPIDコントロール等の自動制御により、晶析装置の運転条件を変更してもよい。
【0033】
例えば、実質冷却熱量Q
rが運転目標値に対して大きい場合は、冷却器内において被処理流体が過冷却の傾向にあると判断できる。この場合には、例えば冷却媒体の入口温度を上げる、冷却媒体の循環量を減じる、晶析槽への原料フィード量を増やす等の運転条件変更を行うことにより、実質冷却熱量Q
rの値を低減させることができる。
【0034】
実質冷却熱量Q
rが設定値に対して小さい場合は、冷却器内において被処理流体が冷却不足の傾向にあると判断でき、運転条件を上記と逆に変更することにより、実質冷却熱量Q
rの値を増大させることができる。
【0035】
こうして晶析操作を経た被処理液は、晶析装置から抜き出された後、結晶と母液とに固液分離される。これにより精製された結晶を得ることができる。例えば被処理液として粗製(メタ)アクリル酸を用いた場合には、精製された(メタ)アクリル酸の結晶が得られ、母液には、被処理液に任意に添加された第二成分と、濃縮された不純物と、析出しなかった(メタ)アクリル酸が含まれる。
【0036】
結晶と母液とを分離する方法は、固体と液体とを分離できる方法であれば特に制限はなく、例えば、ろ過法、遠心分離法等の公知の固液分離方法を用いることができる。
【0037】
分離を行う装置の具体例としては、たとえば「クレハ連続結晶精製装置による有機化合物の精製」清水忠造著、ケミカルエンジニアリング発行、第27巻,第3号(1982年)、第49頁に掲載されているKCP装置等が挙げられる。分離操作の形式は回分式または連続式のいずれでもよい。
【0038】
本発明によれば、冷却器から環境中に放出される熱量を加味した実質冷却熱量Q
rの値を管理しつつ晶析操作を行うため、運転中に環境温度が大きく変化しても、良好な液透過性を持つ結晶を安定して得ることができる。また長期にわたる連続運転においても品質が安定化される。
【0039】
本発明は、特に環境温度の影響を受け易い粗製(メタ)アクリル酸の晶析操作に好適である。すなわち、アクリル酸の融点は12℃、メタクリル酸の融点は15℃であり、上述したように、粗製(メタ)アクリル酸に上記第二成分を添加した後の結晶析出温度は−10〜10℃が好ましい。このように融点および結晶析出温度が環境温度と近いと、晶析操作が環境温度の影響を非常に受けやすい。例えば結晶析出温度が8℃であるときに、環境温度が20℃の場合は見かけの冷却熱量Q
aよりも実質冷却熱量Q
rは小さくなるため冷却不足になりやすく、環境温度が0℃の場合は、見かけの冷却熱量Q
aよりも実質冷却熱量Q
rが大きくなるため過冷却になりやすい。このように、特に環境温度によって冷却不足から過冷却まで冷却状態が大きく変化しやすい場合には、本発明の方法により冷却器から環境中に放出される熱量を加味して運転条件をコントロールすることによる、品質安定化の効果が大きい。
【実施例】
【0040】
次に本発明の実施例を説明するが、以下の例は本発明の範囲をなんら制限するものではない。
下記の実施例および比較例において、晶析装置としては冷却ジャケットを有する攪拌槽型晶析装置を用いた。冷却媒体としては40質量%エチレングリコール水溶液(比熱:1.1)を用いた。この晶析装置における放熱係数(UA)を、予め測定テストを行って算出したところ490W/Kであった。見かけ冷却熱量(Q
a)は、冷却ジャケットへの冷却媒体の供給量、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度と出口における冷却媒体温度との差、および冷却媒体の比熱から算出した。環境温度(T
atm)度は、装置近辺に熱電対を設置して測定した。装置代表温度(T
e)は冷却ジャケット入口における冷却媒体温度とした。
【0041】
得られた結晶の性状は、以下の方法で得られる液透過速度(K、単位:m/hr)によって評価した。
(液透過速度算出方法)
(1)内径3cm程度、長さ1m程度のガラス管を垂直に立て、底部に金網をセットする。
(2)晶析装置出口から得たスラリー(結晶と母液とからなる)をガラス管の高さ50cm程度まで注ぐ。
(3)ガラス管内の結晶が沈降し、落ち着いたところで結晶層上面位置(H1)にマークする。
(4)H1から2.5cm上方の位置(H3)、及び5cm上方の位置(H2)にマークする。
(5)液面がH2からH1まで低下するのに要する時間(T)を測定する。
なお、測定中必要に応じ、ガラス管上部からスラリーの母液を追加しても構わない。
(6)測定中、液面がH1からH3の高さとなったときの結晶層上面位置(H)をマークする。
(7)得られたデータから式(4)を用いて液透過速度(K)を算出する。
K=H・Ln(H2/H1)/T・3600 …(4)
ただし、式(4)において、各パラメータは以下の内容を表す。
K[単位:m/hr]:液透過速度
H[単位:m]:結晶層高さ
H1[単位:m]:測定開始時結晶層上面高さ
H2[単位:m]:測定開始時液面高さ
H3[単位:m]:中間液面高さ
T[単位:秒]:測定時間
なお、H、H1、H2はガラス管底部の金網からの高さとする。
【0042】
(調製例1)
メタクロレインを分子状酸素で接触気相酸化し、得られた反応生成ガスを凝縮し、抽出した後、蒸留することにより粗製メタクリル酸Aを得た。得られた粗製メタクリル酸Aについてガスクロマトグラフィーにより成分分析を行ったところ、表1に示される不純物が含まれていた。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例1)
晶析装置に、上記調製例1で得られた粗製メタクリル酸Aを供給速度1800kg/hrで供給するとともに、メタノールを供給速度90kg/hrで供給し、攪拌槽内でこれらの混合溶液を冷却しつつ攪拌することによって結晶を析出させ、該結晶を含むスラリーを攪拌槽から排出した。この運転を180日間連続的に行った。
運転中、晶析装置の実質冷却熱量(Q
r)が29kWとなるように、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度を調節した。なお、冷却媒体温度の調整、各パラメータの測定・算出はDCSを用い3秒毎に連続して行った。液透過速度(K)については、環境温度が比較的高い場合(No.1)と、低い場合(No.2)について測定を実施した。この結果をその他の運転条件と共に、表2に示す。液透過速度以外のパラメータの値は、液透過速度測定の前後3時間(計6時間)の平均値である(以下、同様)。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の結果より、No.1、2ともに液透過速度(K)は良好であり、運転中に環境温度が大きく変化しても、良好な液透過性を持つ結晶が安定して得られることが認められた。また、No.1とNo.2とを比べると、温度が低下したことによる実質冷却熱量(Q
r)の変動幅も、運転目標値(29.0kW)に対して、+2.8%と小さく抑えられており、問題なくコントロールされていることが認められた。
【0047】
(比較例1)
実施例1において実質冷却熱量(Q
r)の管理は行わず、攪拌槽内の温度が5.3℃に保たれるように、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度を調節した。その他は実施例1とそれぞれ同様にして晶析装置の長期連続運転を行った。得られた結晶の液透過速度(K)を、その他の運転条件と共に表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3の結果より、環境温度が下がったNo.4では結晶の液透過性が悪化した。No.4における実質冷却熱量(Q
r)の変動幅は、液透過性が良好であったNo.3の実質冷却熱量(Q
r)に対して、+18.3%であり、槽内が過冷却状態となっていたと推定される。
【0050】
(比較例2)
実施例1において実質冷却熱量(Q
r)の管理は行わず、見かけ冷却熱量(Q
a)が42kWに保たれるように、冷却ジャケットの入口における冷却媒体温度を調節した。その他は、No.1、2とそれぞれ同様にして晶析装置の長期連続運転を行った。得られた結晶の液透過速度(K)を、その他の運転条件と共に表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4の結果より、環境温度が下がったNo.6では結晶の液透過性が悪化した。No.6における実質冷却熱量(Q
r)の変動幅は、液透過性が良好であったNo.5の実質冷却熱量(Q
r)に対して、+37.5%であり、槽内が過冷却状態となっていたと推定される。
【0053】
(製造例:スラリーの固液分離)
実施例1において、攪拌槽から排出されるスラリーを、固液分離装置であるKCP装置(製品名、呉羽エンジニアリング社製)に連続的に導入して、精製メタクリル酸と母液(メタノールを含むメタクリル酸溶液)に分離した。得られた精製メタクリル酸についてガスクロマトグラフィーにより成分分析を行ったところ、不純物の含有量は表5に示すとおりであり、純度が高い結晶であること認められた。
【0054】
【表5】