(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3のように、流量計を設置した場合、流量計の測定誤差が5%程度、及び、応答遅れが0.5秒程度あり、この測定誤差及び応答遅れに基づいて遠心ポンプの回転数を制御或いはオクルーダを制御せざるを得ない。
【0007】
また、特許文献2、3のように、遠心ポンプの回転数を調節して流量を制御する場合では、遠心ポンプの回転数が目的とする値へ上昇或いは下降するまでには相応の時間を要する。更に、回転数を所望の値に調節しても、流体の慣性の影響により、流量が安定するまで一定の時間を要することが報じられている(容偉洪ほか、ボンドグラフによる遠心ポンプ始動/停止時の過渡特性解析、日本機械学会論文集、Vol.62,No.2,p677−683,1996)。特に、回転数を目標値まで減少させる際、流量が減少するまでには相当の遅れが生じる。このことから、送血流量が不安定になりやすいという問題がある。
【0008】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、流量計を必要とせずに、良好な応答特性で送血流量を制御可能な送血流量制御装置および体外循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の観点に係る送血流量制御装置は、
生体に接続される体外循環装置に用いる送血流量制御装置において、
前記体外循環装置は、血液循環回路を介して血液を循環させる遠心ポンプを備え、
前記送血流量制御装置は、前記遠心ポンプの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記遠心ポンプの入口圧力及び出口圧力をそれぞれ検出する入口圧力検出手段及び出口圧力検出手段と、
前記血液循環回路の流路の断面積を調節して生体に送る血液の流量を調整する流量調整手段と、
前記流量調整手段を制御する制御手段と、を備え、
前記流量調整手段が前記遠心ポンプの下流に設置され、
前記制御手段が入力部、記憶部、演算部及び出力部を有し、
前記入力部に操作者から所望の目標送血流量、前記入口圧力検出手段及び前記出口圧力検出手段で検出された入口圧力検出値及び出口圧力検出値、前記回転数検出手段で検出された前記遠心ポンプの検出回転数、並びに、前記入口圧力検出値、前記出口圧力検出値及び前記検出回転数から前記血液循環回路を流れる血液の推定血液流量を算出する推定血液流量演算式が入力され、
前記記憶部が前記目標送血流量、前記入口圧力検出値、前記出口圧力検出値、前記検出回転数、前記推定血液流量演算式を記憶し、
前記演算部が、前記出口圧力検出値から前記入口圧力検出値を引いて差圧を演算し、前記差圧及び前記検出回転数から前記推定血液流量演算式を用いて前記推定血液流量を演算するとともに、前記目標送血流量から前記推定血液流量を引いた流量差を演算し、
前記出力部が、前記流量差が負の値の場合に前記流路の断面積を減少させる制御信号を前記流量調整手段へ出力し、前記流量差が正の値の場合に前記流路の断面積を増加させる制御信号を前記流量調整手段へ出力し、前記推定血液流量が負の値の場合に前記流路の断面積をゼロにする制御信号を前記流量調整手段に出力する、
ことを特徴とする。
【0010】
また、前記推定血液流量演算式が下式1で表されることが好ましい。
Qe(f)=α(f)・ΔP+β(f) …(式1)
(式1中、Qeは推定血液流量、fは遠心ポンプの検出回転数、ΔPは出口圧力検出値から入口圧力検出値を引いた差圧、α及びβはそれぞれ遠心ポンプの検出回転数における差圧ΔPを変数とする遠心ポンプの流量の一次関数の傾き及び切片を表す。)
【0011】
また、前記出力部は、前記推定血液流量が、所定の閾値流量を上回る場合、流路断面積をゼロにする制御信号を前記流量調整手段に出力してもよい。
【0012】
また、前記目標
送血流量及び前記推定血液流量を表示する表示部を有し、
前記遠心ポンプに供給される電源とは独立した電源で作動してもよい。
【0013】
本発明の第二の観点に係る体外循環装置は、
本発明の第一の観点に係る送血流量制御装置を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る送血流量制御装置では、遠心ポンプの入口圧力と出口圧力との差圧及び遠心ポンプの回転数に基づき、送血回路を流れる血液の流量を推定して、送血流量を制御している。流量計を用いず、また、遠心ポンプの回転数を制御しないことから、従来の流量計のフィードバックに基づく遠心ポンプの回転数制御方式と比較して良好な応答特性で送血流量を制御できるため、安全性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る送血流量制御装置は、遠心ポンプを用いた体外循環装置の送血流量を制御する送血流量制御装置である。既存の体外循環装置に後から接続することも可能であり、体外循環装置に組み込まれて一体となった体外循環装置として提供することもできる。
【0017】
体外循環装置とは、遠心ポンプ、ローラーポンプ等により人工的に血液を体外へ導き出し、血液の回路を通して血液の操作を行い、再び体内へ血液を戻す一連の動作を行う装置の総称であり、人工心肺装置、血液透析装置、血漿交換装置などがある。ここでは、開心術で用いられ、生体(患者)から脱血した血液を酸素化して生体に送血する人工心肺装置に、送血流量制御装置を組み込んだ場合を、一例として説明を行うが、独立した装置として既存の人工心肺装置に後から接続することも可能である。また、本実施の形態に係る送血流量制御装置は、用途を人工心肺装置に限らず、遠心ポンプを用いた体外循環装置であれば、他の体外循環装置にも利用可能である。
【0018】
図1に示す人工心肺装置1は、血液循環回路20と、貯血槽30と、遠心ポンプ40と、人工肺50と、フィルタ70と、を備える。送血流量制御装置2は、遠心ポンプ40の回転数を検出する回転数検出装置41と、遠心ポンプ40の入口圧力及び出口圧力をそれぞれ検出する入口圧力検出装置81及び出口圧力検出装置82と、血液循環回路20の流路の断面積を調節して生体10に送る血液の流量を調整する流量調整装置60と、流量調整装置60を制御する制御装置90と、を備える。
【0019】
以下に、人工心肺装置1および送血流量制御装置2の構成部品について説明する。
【0020】
血液循環回路20は、軟質の生体適合性材料を素材とする内部中空のチューブが用いられる。ここでは、生体10から人工肺50へと血液が流れる回路を脱血回路21、人工肺50から生体10へと血液が流れる回路を送血回路22として説明する。
【0021】
貯血槽30は、脱血回路21に配置され、生体10から脱血した血液が貯留され、体外循環血液量の調節と、脱血回路21に混入した気泡の除去を目的とする槽である。
【0022】
遠心ポンプ40は、血液循環回路20を介し血液を循環させるために用いられ、貯血槽30の下流側で人工肺50の上流側に配置される。遠心ポンプ40は、血液に回転力を与え、その遠心力により血液を送り出すポンプである。遠心ポンプ40は弁機構を持たないため、ローラーポンプ等に比べて血液損失が少ない等の長所を有する。
【0023】
回転数検出装置41は、赤外線センサ、ホールセンサ等、市販のセンサにより、遠心ポンプ40の回転数を検出することができる。また、遠心ポンプ40に予め備えられたセンサから出力されるパルス信号又は電圧信号によって回転数を検出可能な場合では、上記の回転数検出装置41が別途設置されなくてもよい。
【0024】
入口圧力検出装置81は、遠心ポンプ40の上流側に配置され、遠心ポンプ40の入口側の圧力を検出する。一般的に用いられている貯血槽30には、脱血圧を測定するためのサンプリングポートが備えられているので、このサンプリングポートに入口圧力検出装置81が配置されていればよい。
【0025】
また、出口圧力検出装置82は、遠心ポンプ40の下流側に配置され、遠心ポンプ40の出口側の圧力を検出する。出口圧力検出装置82は、遠心ポンプ40の下流側且つ流量調整装置60の上流側に配置される。流量を迅速且つ精度よく推定するために、出口圧力検出装置82は遠心ポンプ40の出口付近に配置されていることが好ましい。
【0026】
入口圧力検出装置81及び出口圧力検出装置82として、血液回路用圧トランスジューサや圧力カプラを介して設置される圧力センサなどが用いられ得る。
【0027】
人工肺50は、ガス交換により脱血した血液を酸素化し、静脈血を動脈血へと変化させる装置である。
【0028】
フィルタ70は、人工肺50の下流側の送血回路22に配置される。フィルタ70は、動脈フィルタとも呼ばれ、血液に混入した異物や気泡を除去する機能を有する。
【0029】
流量調整装置60は、遠心ポンプ40の下流側の血液循環回路20、好ましくは、人工肺50の下流側の送血回路22に配置されている。流量調整装置60は、制御装置90からの制御信号に基づいて送血回路22の流路断面積を変化させて流路を段階的に開放及び閉塞可能であり、生体10に送る血液の流量を調節し得るものであれば、どのような機構が用いられていてもよい。一般的に、送血オクルーダ、血管オクルーダと呼ばれる装置が用いられ得る。
【0030】
また、上記のように、送血回路22上にフィルタ70が配置される場合、フィルタ70は流量調整装置60の下流側に配置されているとよい。これにより、万が一、流量調整装置60によって血栓が生成したとしても、フィルタ70で血栓をトラップでき、安全性が向上する。
【0031】
送血回路22を段階的に圧搾し、内部断面積を調節可能な流量調整装置60の一例を
図2に示す。流量調整装置60は、回動部材60aと、固定部材60bと、接続部材60cと、駆動源60dと、回転軸60eを備えている。回動部材60a及び固定部材60bはいずれも硬質の円柱体であり、回転軸60eと平行に配置されている。回動部材60aと回転軸60eは接続部材60cにより接続されており、駆動源60dによる回転軸60eの回転に追従して、回動部材60aが回転軸60eの周りを旋回するよう構成されている。駆動源60dはステッピングモータ等、回転角度が精度よく調節可能な装置が用いられる。そして、送血回路22は、回動部材60aと固定部材60bに挟まれるよう配置される。
【0032】
続いて、流量調整装置60の動作について説明する。
図3(A)は送血回路22が回動部材60a及び固定部材60bで押し潰されておらず、内部断面積が最大の状態である。この状態から、回転軸60eが紙面上反時計回りに回転すると、
図3(B)に示すように回動部材60aの旋回により、送血回路22が回動部材60a及び固定部材60bで押し潰され内部断面積が小さくなり、送血回路22を流れる血液の流量が小さくなる。回転軸60eが更に回転すれば、
図3(C)に示すように、送血回路22は回動部材60a及び固定部材60bで更に押し潰され、送血回路22の内壁が密着し、血液の流れが停止する。なお、送血回路22は、流量調整装置60から取り外し可能になっているとよい。万が一、流量調整装置60が故障し、送血回路22が全閉状態に陥っても、操作者が送血回路22を取り外すことにより、全閉状態を速やかに解消することができるからである。
【0033】
制御装置90は、入口圧力検出装置81、遠心ポンプ40の回転数検出装置41、出口圧力検出装置82及び流量調整装置60と電気通信的に接続されている。制御装置90は、入力部、記憶部、演算部、出力部及び表示部を有している。
【0034】
入力部には、体外循環装置の操作者から所望の目標送血流量Qa、入口圧力検出装置81並びに出口圧力検出装置82で検出された入口圧力検出値Pin並びに出口圧力検出値Pout、回転数検出装置41で検出された遠心ポンプ40の検出回転数f、及び、入口圧力検出値Pin、出口圧力検出値Pout並びに検出回転数fから血液循環回路20の推定血液流量Qeを算出する推定血液流量演算式が入力される。
【0035】
記憶部は、入力部に入力された上記内容が記憶される。
【0036】
演算部は、出口圧力検出値Poutから入口圧力検出値Pinを引いて差圧ΔPを算出し、差圧ΔP及び検出回転数fから推定血液流量演算式を用いて推定血液流量Qeを算出し、目標送血流量Qaから推定血液流量Qeを引いた流量差ΔQを算出する。
【0037】
出力部は、流量差ΔQが負の値の場合に送血回路22の流路断面積を減少させる制御信号、流量差ΔQが正の値の場合に流路断面積を増加させる制御信号、或いは、推定血液流量Qeが負の値の場合に流路断面積をゼロにする制御信号を流量調整装置60に出力する。
【0038】
表示部は、入口圧力検出値Pin、出口圧力検出値Pout、差圧ΔP、検出回転数f、目標送血流量Qa、推定血液流量Qeや後述の空気混入警告、逆流警告などを表示する。また、人工心肺装置に設置されている表示部を利用可能な場合では、制御装置90に表示部が別途設置されていなくてもよい。
【0039】
送血流量制御装置2は、人工心肺装置1とは独立した装置を構成してもよい。その場合は、制御装置90が表示部を有し、送血流量制御装置2は遠心ポンプ40に供給される電源とは独立した電源で作動するようにすることが望ましい。電源には、遠心ポンプ40の電源とは別系統の電源を供給するが、具体的には、充電池等の電池を内蔵するか、又は外部電源を接続することにより実現できる。人工心肺装置1のポンプ駆動装置と、電源系、制御系を独立させることで、停電やポンプ駆動装置の故障時においても安全機構として逆流や過大送血を防止する。さらに代替となる送血手段を用いた場合(遠心ポンプを手回しする場合等)においても正確な流量制御ができる。
【0040】
続いて、
図4のフロー図を参照しつつ、送血流量制御処理について説明する。
【0041】
まず、送血流量制御装置2の電源を入れると(ステップS1)、制御装置90の初期化処理が行われる(ステップS2)。そして、制御装置90の入力部に後述する推定血液流量演算式が読み込まれ(ステップS3)、記憶部がこれらを記憶する。
【0042】
操作者により、制御装置90の入力部に目標送血流量Qaが入力され(ステップS4)、記憶部がこれを記憶する。また、目標送血流量Qa及び遠心ポンプの回転数fは、生体10の年齢、病状、性別等を考慮して操作者により任意の値に設定され、それぞれの値が制御装置90の記憶部に記憶される。
【0043】
続いて、目標送血流量Qaがゼロであるか否かを判別し(ステップS5)、目標送血流量Qaがゼロの場合(ステップS5:yes)、出力部が流量調整装置60に血液循環回路の断面積をゼロにする制御信号を出力し、流量調整装置60が送血回路22を完全に閉鎖するよう動作する(ステップS6)。そして、ステップS5へとループする。
【0044】
目標送血流量Qaがゼロでない場合(ステップS5:no)、入口圧力Pin、出口圧力Pout及び遠心ポンプ40の回転数fが検出され(ステップS7)、制御装置90の入力部に入力され、記憶部がこれらを記憶する。
【0045】
そして、制御装置90の演算部が出口圧力Poutから入口圧力Pinを引いた差圧ΔPを演算する(ステップS8)。
【0046】
そして、演算部が推定血液流量演算式を用いて、血液循環回路を流れている血液の推定血液流量Qeを演算する(ステップS9)。
【0047】
演算部は推定血液流量Qeが正の値であるか否かを判別し(ステップS10)、推定血液流量Qeが負の値であると判定した場合(ステップS10:no)、出力部が流量調整装置60に送血回路22の断面積をゼロにする制御信号を出力し、流量調整装置60が送血回路22を完全に閉鎖する(ステップS11)。そして、表示部が逆流警告を表示し(ステップS11)、ステップS5へとループする。推定血液流量Qeが負の値である場合とは、血液循環回路20内の血液が逆流している状態を意味し、例えば、遠心ポンプ40の回転数不足、出口圧力Poutの低下など、何らかの要因が生じているものと考えられる。これらの要因が解消されるまで、流量調整装置60は送血回路22を閉鎖したままとなる。
【0048】
一方、演算部は推定血液流量Qeが正の値であると判定した場合(ステップS10:yes)、推定血液流量Qeが所定の流量閾値Qthを上回っているか否かを判定する(ステップS13)。ここで、流量閾値Qthとは、検出回転数fにおいて用いる遠心ポンプ40の流量の公称値となる差圧を上回る差圧閾値ΔPthに基づいて、後述の推定血液流量演算式を用いて求められる流量の閾値である。例えば、差圧閾値Pthとして、検出回転数fにおける遠心ポンプ40の公称値となる差圧に、流量1L/minの増加に相当する差圧の増分以上を加算した値とすることができる。差圧の増分は、操作者が任意に設定し、入力部へ入力され、記憶部が記憶しておき、演算部が推定血液流量演算式を用いて流量閾値Qthを算出する。
【0049】
演算部は推定血液流量Qeが流量閾値Qthを下回っていないと判定した場合(ステップS13:no)、出力部が流量調整装置60に送血回路22の断面積をゼロにする制御信号を出力し、流量調整装置60が送血回路22を完全に閉鎖する(ステップS14)。そして、表示部が空気誤送警告を表示し(ステップS15)、ステップS5へとループする。
【0050】
演算部は推定血液流量Qeが流量閾値Qthを下回っていると判定した場合(ステップS13:yes)、目標送血流量Qaから推定血液流量Qeを引いた流量差ΔQを演算する(ステップS16)。
【0051】
そして、演算部は流量差ΔQが負の値であるか否かを判別し(ステップ17)、流量差ΔQが負の値であると判定した場合(ステップS17:yes)、出力部は送血回路22の流路断面積を減じる制御信号を流量調整装置60に出力する。流量調整装置60はこの制御信号に基づき、送血回路22の流路断面積を減少させるよう動作する(ステップS18)。そして、表示部が目標送血流量Qa、推定血液流量Qe、検出回転数fを表示し(ステップS20)、ステップS5へとループする。
【0052】
一方、演算部は流量差ΔQが正の値であると判定した場合(ステップS17:no)、出力部は送血回路22の流路断面積を増加させる制御信号を流量調整装置60に送る。流量調整装置60はこの制御信号に基づき、送血回路22の流路断面積を増加させるよう動作する(ステップS19)。そして、表示部が目標送血流量Qa、推定血液流量Qe、検出回転数fを表示し(ステップS20)、ステップS5へとループする。
【0053】
以上のようにして、送血流量制御装置は、逐次推定血液流量Qeを演算し、血液循環回路20を流れる血液の流量が目標送血流量Qaに近似するよう制御する。
【0054】
続いて、上述した推定血液流量Qeの算出について説明する。推定血液流量Qeは、下式1により算出される。
Qe(f)=α(f)・ΔP+β(f) …(式1)
ここで、Qeは推定血液流量、fは遠心ポンプの検出回転数、ΔPは出口圧力検出値Poutから入口圧力検出値Pinを引いて演算される差圧、α及びβはそれぞれ用いられる遠心ポンプの任意の回転数における第1の校正係数及び第2の校正係数である。第1の校正係数α及び第2の校正係数βは、それぞれ、用いられる遠心ポンプの任意の回転数において差圧ΔPを変数とする遠心ポンプの流量Qの一次関数の傾き及び切片を表す。
【0055】
以下、式1の導出方法について説明する。まず、
図1に示した体外循環装置を構築し、遠心ポンプの出口、貯血槽のサンプリングポートに圧力計を設置し、水を循環させて、血液循環回路を流れる水の流量を実測した。遠心ポンプとして、キャピオックス遠心ポンプ(テルモ株式会社製)を用い、遠心ポンプの回転数fを1500rpm、2000rpm、2500rpmとそれぞれ一定にした状態で、後負荷を変化させることで差圧ΔPを変化させ、流量の変化を実測した。その結果が
図5である。
【0056】
図5をみると、いずれの回転数fにおいても、流量Qと差圧ΔPとの関係はほぼ直線関係にあることから、それぞれの回転数fにおける流量Qと差圧ΔPとの特性を直線近似すると、式2〜式4が得られる。
(遠心ポンプの回転数f:1500rpm)
Q(L/min)=−0.0749・ΔP+16.056 …(式2)
(遠心ポンプの回転数f:2000rpm)
Q(L/min)=−0.0554・ΔP+21.307 …(式3)
(遠心ポンプの回転数f:2500rpm)
Q(L/min)=−0.0429・ΔP+25.647 …(式4)
【0057】
つぎに、式2〜式4のそれぞれの傾きα(f)をプロットすると、
図6が得られる。
図6を見ると、遠心ポンプの回転数fと式2〜式4の傾きα(f)との関係は、ほぼ直線関係にある。これを直線近似すると式5が得られる。
α(f)=3e
−5・f−0.1217 …(式5)
この式5より、遠心ポンプの任意の回転数fにおける傾きα(f)が求められる。
【0058】
また、式2〜式4の切片β(f)をそれぞれプロットすると、
図7が得られる。
図7を見ると、遠心ポンプの回転数fと切片β(f)は、ほぼ直線関係にある。これを直線近似することで式6が得られる。
β(f)=0.0096・f+1.8213 …(式6)
この式6より、遠心ポンプの任意の回転数における切片β(f)が求められる。
【0059】
このように、式5及び式6より、遠心ポンプの任意の回転数、即ち、設定した遠心ポンプの回転数における第1の校正係数α(f)及び第2の校正係数β(f)が求まる。設定した遠心ポンプの回転数における第1の校正係数α(f)及び第2の校正係数β(f)を式1に代入することにより、Pin及びPoutを検出して差圧ΔPを求めれば、式1から推定血液流量Qeを算出することができることがわかる。
【0060】
なお、遠心ポンプの原理上、揚程の発生に遠心力が関与している。遠心力によるエネルギーは流体の質量の影響を受け、容量が一定の場合、流体の比重の影響を受ける。更に、遠心ポンプは粘性の影響を少なからず受ける。循環させる血液の粘性等が経時変化する可能性も起こり得ることから、これらの影響を考慮することが好ましい。
【0061】
たとえば、食塩水、グリセリン水溶液及び水の3種の液体について、流量と差圧の特性を調べたところ、
図8に示すようになった。用いた食塩水、グリセリン水溶液及び水の比重及び粘度は以下の通りである。また、遠心ポンプの回転数はいずれの液体についても2500rpmである。なお、一般的な血液の粘度は、本実験で用いたグリセリン水溶液とほぼ同様である。
(食塩水)比重1.1、粘度1.1cP
(グリセリン水溶液)比重1.1、粘度2.6cP
(水)比重1.1、粘度1.0cP
【0062】
図8を見ると、粘性の相異により、多少のずれが生じており、それぞれについて直線近似すると、以下のようになる。
食塩水:Q=−0.0446ΔP+27.043 …(式7)
グリセリン水溶液:Q=−0.0429ΔP+25.647 …(式8)
水:Q=−0.0302ΔP+18.791 …(式9)
特に、流量が大きいほどズレが大きくなる傾向となっている。
【0063】
しかしながら、通常の開心術においては、送血流量は5L/min以下で行われている。この実情に鑑み、流量が5L/min以下の範囲をグラフにして
図9に示すとともに、流量が5L/min以下の範囲について、それぞれを直線近似すれば、以下のようになる。
食塩水:Q=−0.0456ΔP+27.613 …(式10)
グリセリン水溶液:Q=−0.049ΔP+28.942 …(式11)
水:Q=−0.043ΔP+25.531 …(式12)
【0064】
流量が5L/min以下の範囲では、3種の液体に大きな差はないことがわかる。この結果より、流量が5L/min以下の範囲について、上述したように所定の遠心ポンプの回転数における流量−ΔP特性を実測し、得られた近似直線(一次関数)から式5及び式6の第1の校正係数α(f)及び第2の校正係数β(f)を求め、これらを式1に代入して推定血液流量Qeを算出するようにすれば、開心術中に血液の粘性変化等が生じても適切に送血流量を制御することができる。
【0065】
以上のように、本実施の形態に係る送血流量制御装置2では、流量計を用いることなく、且つ、遠心ポンプ40の回転数を制御せず、送血回路22の流路断面積を調節することにより送血流量を制御している。遠心ポンプ40の回転数を制御しないため、遠心ポンプ40の回転数過剰による過剰送血の恐れがなく安全性に優れる。
【0066】
更に、流量調整装置60で流路断面積を迅速に変化させることができ、流量の素早い変更が可能である。具体的には、自律神経制御による血管拡張や収縮などの血管制御に関する人の生体内の応答速度は、およそ1秒前後とされており、オクルーダ等の流量調整装置60では、送血流量を減少させる場合でも1秒以内に流路断面積を変化させることが可能であるため、生体への負担が少ないという効果が期待できる。
【0067】
更に、目標送血流量Qaと推定血液流量Qeとの流量差ΔQに応じて、流量調整装置60を制御しているため、例えば、遠心ポンプ40内に空気が混入した場合には、出口圧力検出値Poutが急激に低下し差圧ΔPが急激に低下することになるので、その際、流量調整装置60は血液循環回路の流路が完全に閉鎖するよう即座に駆動される。このため、生体に空気が誤送されるおそれがない。
【0068】
更に、推定血液流量Qeが閾値流量Qthを上回る場合、流量調整装置60は送血回路22の流路が完全に閉鎖するよう即座に駆動される。遠心ポンプ40に空気が混入した場合、出口圧力が急激に低下し、これにより推定血液流量Qeが大きな値となるので、推定血液流量Qeが閾値流量Qthを上回れば空気誤送のおそれがあるとみなし、流路を閉鎖する。これにより、生体10への空気誤送の防止をより向上させている。
【0069】
更に、推定血液流量Qeが負の値である場合には、血液循環回路20に逆流が生じているものとみなし、流量調整装置60が流路断面積をゼロにするよう制御しているので、血液循環回路20の逆流のおそれがなく、安全性に優れる。
【0070】
更に、送血流量制御装置2をポンプ駆動装置とは独立した制御装置とすることで停電やポンプ駆動装置の故障時においても安全機構として逆流や過大送血を防止し、代替となる送血手段を用いた場合(遠心ポンプを手回しする場合等)においても正確な流量制御ができる。
【実施例1】
【0071】
遠心ポンプを用いた体外循環回路の送血流量制御方法として、オクルーダの開度制御による方法について有用性を検証した。
【0072】
市販の遠心ポンプと送血オクルーダを用いた体外循環回路を構築し、オクルーダ開度の変動に対する流量応答特性を検討した。使用オクルーダとして、HAS−RE(泉工医科工業製)を用いた。
【0073】
遠心ポンプの回転数を一定(2000rpm)とし、10秒間隔でオクルーダの開度を0%−100%にステップ状に変更し、流量を変化させた。
【0074】
また、比較例として、オクルーダ開度の制御をせず、遠心ポンプの回転数目標値の変動による流量応答特性についても検討した。比較例では、遠心ポンプの回転数目標値を10秒間隔で1000rpm−2000rpmにステップ状に変更し、流量を変化させた。遠心ポンプ回転数の下限値は、逆流の発生を防ぐため1000rpmとした。
【0075】
なお、いずれも遠心ポンプとしてCAPIOX SP−101(テルモ社製)、作動流体として水(粘度=約1cP)を用いた。
【0076】
その結果を
図10に示す。流量増加時には、回転数制御とオクルーダ開度制御の両者の流量応答特性に有意な差は観察されなかった。しかし流量減少時には、オクルーダ開度目標値減少後の流量下限値に要する時間が約0.9秒であったのに対し、回転数目標値減少後の流量下限値に要する時間は2.64秒と、オクルーダ制御に対して約3倍の応答遅れが発生することが明らかになった。
【0077】
この応答遅れは、流体のもつ慣性の影響によるものであり、回転数変化に対する遠心ポンプの流量変化の応答は、圧力変化に対する応答に比べて遅れる傾向がある。本実験により、オクルーダ開度制御は、遠心ポンプを用いた体外循環回路における流量制御方法として、遠心ポンプの回転数を制御する方法と比べて応答性の点で優れていることが分かった。
【0078】
また、本実験により、体外循環回路において、遠心ポンプの回転数制御による流量制御は、オクルーダ開度制御に比べ、流量目標値減少時に約2〜3秒の応答遅れが発生することが分かったが、この応答遅れは、逆流の防止を困難にする。オクルーダ開度制御は、逆流防止の観点からも、遠心ポンプの回転数を制御する方法と比べて優れていることが分かる。よって、本願では、検出に応答遅れの少ない圧力及び回転数を入力値として推定血液流量を算出すること、及び、推定血液流量に基づいてオクルーダで流路断面積を迅速に変えることができることから、流量の素早い変更が可能となり、安全性が高いと考えられる。
【実施例2】
【0079】
続いて、本発明者らが開発した体外循環訓練装置(特許3774769号、特許4284418号)を用い、送血圧を変動させ、送血流量を目標送血流量に近似させるよう制御できるか否かについて検証した。
【0080】
まず、8ビットマイクロコンピュータを用いて、推定パラメータである入口圧力、出口圧力及び遠心ポンプ回転数をリアルタイムにマイクロコンピュータに取り込み、推定血液流量演算式(式1)をもとに推定血液流量を算出してその値を表示し、並びにオクルーダの制御が可能なシステムを試作した。試作したシステムのブロックダイヤグラムを
図11に示す。
【0081】
また、
図2及び
図3に示した構造の流量調整装置(オクルーダ)を試作した。そして、試作システム及びオクルーダを、体外循環訓練装置に接続した。
【0082】
目標送血流量は、操作者によるボリュームつまみの電圧変化としてマイクロコンピュータに入力した。目標送血流量は4L/minとした。
【0083】
遠心ポンプの回転数は、遠心ポンプ駆動部のマグネットカップリングの回転に伴う磁束密度変化を遠心ポンプ上部に取り付けられた磁気センサ(ホール素子)によって測定した。使用したテルモ製CAPIOX遠心ポンプでは、一回転ごとにパルス状の磁束密度変化が3回検出されるため、周波数カウントの値を3分の1に減じた値を回転数換算に用いた。
【0084】
圧力センサは遠心ポンプ出口部と貯血槽の液面測定ポートにそれぞれ接続した。
【0085】
試作システムを接続した体外循環訓練装置を用い、体外循環訓練装置の送血流量制御弁の操作により所定のパターンで送血圧を変動させた。作動流体として水(粘度=約1cP)を用いた。
【0086】
検出した遠心ポンプの回転数、入口圧力及び出口圧力を基に算出した推定血液流量が入力した目標送血流量に近似するようオクルーダの制御を行い、送血流量を調整した。また、目標送血流量及び推定血液流量は、マイクロコンピュータに接続されたディスプレイに表示した。
【0087】
まず、所定のパターンで送血圧を変動させ、流量の制御を何ら行わなかった場合の流量変化を
図12に示す。なお、実験では、実験開始後30秒経過後から、遠心ポンプの回転数を徐々に上げていき、回転数が2000RPMに達したところで回転数を一定に保った状態で、送血圧を変動させた。
【0088】
続いて、上記と同パターンで送血圧を変動させ、臨床経験者がオクルーダを手動制御して流量を4L/minに近似させた場合の流量変化を
図13に示す。
【0089】
続いて、上記と同パターンで送血圧を変動させ、試作システムによりオクルーダを自動制御した場合の流量変化を
図14に示す。
【0090】
図14を見ると、
図13に比べて4L/minに近似していることがわかる。本結果より、試作システムでは、臨床経験者による手動制御に比べて応答性が高く、安定した流量制御が可能であることが確認された。