【0008】
混合ガスを、微小孔フィルターを介して真空容器に導入する。フィルター上流の圧力がある閾値以下(例えば10kPa)になると、混合ガスが分子流を保ったまま真空容器に導入される。分子流では、気体同士の相互作用を無くなり、流量が気体の質量数の1/2乗に比例する。従って、元の混合ガスの組成比や圧力から、真空容器に導入される混合気体の流量や流量比を求めることができる。そこで、混合ガスが微小孔フィルターを介して分子流を保ったまま真空容器に導入されることを、標準混合ガスリークということにする。
微小孔フィルターの一例を、
図3に示す。
図3に示した例では、混合ガスがフィルター面に接する前に、中間流の影響を受けないように、フィルター面が前に突き出た形状になっている。
微小孔フィルターの校正とは、以下の2点を測定することである。
(1)分子流が実現される微小孔フィルター上流の圧力範囲
(2)微小孔フィルターの分子流コンダクタンス
コンダクタンスは、ユーザーの装置への適合性を判断する指標となり、また、微小孔フィルター上流圧力と温度を測定することにより、流量の絶対値を求めることができるようになる。
【実施例】
【0009】
本発明の校正は、
図1に一実施例として示したような本発明の校正装置を用いて行う。図に示すように、微小孔フィルターの上流にガス導入系、容積輸送式真空ポンプ、隔膜真空計を配置する。容積輸送式真空ポンプと隔膜真空計は、原理的にガス種依存性が無いので、混合ガスの組成を変化せず、混合ガスの測定に問題もない。また、微小孔フィルターの下流に、真空容器、ターボ分子ポンプなどの高真空ポンプ、校正された全圧真空計(電離真空計、スピニングローター真空計など)と分圧真空計(質量分析計)を配置する。微小孔フィルターを介して、真空容器に気体を導入した際、真空容器内部の圧力が、全圧真空計、分圧真空計の動作圧力範囲内にあるように、高真空ポンプの排気速度を選択する。排気速度を調整するため、排気用高真空ポンプの前にオリフィスを設置する場合もある。
【0010】
微小孔フィルターの上流圧力をP
u、下流圧力をP
d(真空容器内の圧力)、微小孔フィルターのコンダクタンスをC
F、高真空ポンプの排気速度をC
Pとした時、流量が保存されることから、微小孔フィルターを通って真空容器内に導入される気体流量は高真空ポンプで排気される気体流量に等しいので以下の関係が成り立つ。
C
F(P
u−P
d)=C
PP
d
ここで、P
u>>P
dであるから、C
FP
u=C
PP
dとみなすことができ、よって、
C
F=C
PP
d/P
u ・・・(1)
と表すことができる。
分子流が成立していると、C
Fは圧力に依存せずに一定となる。高真空ポンプの排気速度C
Pは予め見積もっておく。例えば、ターボ分子ポンプを使用すれば、C
Pは10
-2Pa以下の圧力に対して一定値となるので便利である。
【0011】
(1)純ガスを使った校正方法
図4のように、微小孔フィルター上流に純ガスを導入し、上流圧力P
uを隔膜真空計で、下流圧力P
dを全圧真空計で測定する。(1)式を使ってC
Fを求める。さらに、
図4のように上流圧力P
uを変えながらC
Fを求め、C
Fが一定となる圧力領域で分子流が実現しているので、その圧力範囲を求める。また、ガス種を変えてC
Fを測定し、その比が気体の質量数の1/2乗になっていることからも、分子流が成立していることを示すことが出来る。
【0012】
(2)標準混合ガスを使った校正方法
図5のように、微小孔フィルター上流に標準混合ガスを導入し、上流圧力P
uを隔膜真空計で、下流圧力P
dを分圧真空計、または全圧真空計で測定する。
この時、標準混合ガス中のガス種iの流量Q
iは、P
uiを上流のガス種iの分圧、m
iを標準混合ガスにおけるガス種iの濃度、P
diを下流のガス種iの分圧、C
Piを高真空ポンプのガス種iの排気速度とすると、以下の式で表される。
<微小孔フィルターの上流から真空容器>
Q
i=C
FiP
ui=C
Fi・P
u・m
i (∵P
u>>P
d)・・・(2)
<真空容器から排気>
Q
i=C
Pi・P
di ・・・(3)
(i)分圧真空計を使った校正
図5のように上流の全圧P
uを変化させながら、分圧真空計で真空容器内の分圧P
diを測定し、P
di/P
u比が一定となる圧力領域で、分子流が実現しているので、その圧力範囲を求める。さらに、(3)式を使ってQ
iを求め、この値と、C
Fiが質量数の1/2乗に比例しているとして(2)式を使って求めた値を比較し、両者が等しくなることからも、分子流が実現していることを示すことが出来る。
(ii)全圧真空計を使った校正
真空容器内の圧力P
dは、各ガス種の分圧の和になる。
よって、(2)式を使って、各ガス種のP
uiとC
Fiから、C
Fiが質量数の1/2乗に比例しているとして、各ガス種の流量Q
iを計算し、さらに(3)式を使って各ガス種の分圧P
diを求め、(4)式を使って和を取ることによりP
dを求める。この求めた値と、全圧真空計の測定値とを比較し、両者が等しくなることからも、分子流が実現していることを示すことが出来る。
【0013】
上記した3種類の校正方法の長所と短所を、以下にまとめた。ユーザーの要求精度に応じて、これらの校正を組み合わせる。
<Iの校正方法>
使用ガス:純ガス
計測器:全圧真空計
長所:測定の再現性が良く、不確かさが小さい。コンダクタンスを精度良く測定できる。
短所:混合ガスの挙動を測定していない。
<IIの校正方法>
使用ガス:標準混合ガス
計測器:分圧真空計
長所:混合ガスそれぞれの気体の挙動を直接測定できる。
短所:測定のバラツキが大きく、再現性が悪い。不確かさが大きい。
<IIIの校正方法>
使用ガス:標準混合ガス
計測器:全圧真空計
長所:測定の再現性が良く、不確かさが小さい。
短所:混合ガスの挙動を間接的に測定しているものの、気体それぞれの挙動まではわからない。
【0014】
なお、校正は、具体的には例えば
図2に示すように、微小孔フィルターに真空用クロス配管を接続し、隔膜真空計を付属した状態で校正し、校正証明書を付属して頒布する。
【0015】
また、本発明の校正方法及び校正装置により校正された微小孔フィルターの使用例として、四重極質量分析計の標準混合ガスによる校正に使用する場合について説明する。
四重極質量分析計の構成手順
(1)ユーザーが保有する真空装置の排気速度や希望する圧力範囲といった条件から、微小孔フィルターを選択し、装置に接続する。
(2)任意の標準混合ガスを、微小孔フィルター上流に導入し、微小孔フィルター上流の圧力を、分子流が実現する圧力範囲内に設定する。
(3)<a:流量比、または分圧比に対して校正する場合>
ガス種Aの流量、標準混合ガスの濃度、質量数をQ
A、m
A、M
A、ガス種Bの流量、標準混合ガスの濃度、質量数をQ
B、m
B、M
Bとすると、ガス種AとBの流量比は
【0016】
【数1】
【0017】
と表される。
このとき、四重極質量分析計でガス種Aとガス種Bの信号強度の比I
A/I
Bを測定し、数式1の値と比較して四重極質量分析計の信号強度の比を流量比に対して校正する。また、ガス種AとBの排気速度の比S
A/S
Bが既知であれば、
【0018】
【数2】
【0019】
ガス種AとBの分圧の比P
A/P
Bは、数式2で表される。このとき、四重極質量分析計でガス種Aとガス種Bの信号強度の比I
A/I
Bを測定し、数式2の値と比較することで、信号強度の比を分圧比に対して校正する。
【0020】
<b:流量、または分圧(絶対値)を校正する場合>
微小孔フィルターの校正証明書に窒素(M=28)のコンダクタンスC
N2が記載されている場合、校正時の温度をT
Cとすると、任意の気体iのコンダクタンスC
iは、
【0021】
【数3】
【0022】
となる。ここで、M
iは任意の気体iの質量数、Tはユーザーが使用する時の温度である。
任意の気体iの流量Q
iは、微小孔フィルター上流圧力P
Uを測定することにより、任意の気体iの濃度m
iとコンダクタンスC
iから、以下のように求められる。
【0023】
【数4】
【0024】
数式4で得られたQ
iと、四重極質量分析計の信号I
iを比較して、四重極質量分析計を流量に対して校正する。また、任意の気体iの排気速度S
iが既知であれば、
【0025】
【数5】
【0026】
任意の気体iの分圧P
iは、数式5で表されるから、このときの、四重極質量分析計の信号強度のP
iを測定し、数式5の値と比較して四重極質量分析計を分圧に対して校正する。