(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光通信では、一本の光ファイバに波長の異なる複数の光信号を通して大容量の情報を伝達する、いわゆる波長多重伝送が実用化され、この技術によって昨今の爆発的な情報の増加に対処している。さらに、波長多重伝送の高度化の形態として、伝送路の途中のノードに、特定の波長を分岐するための波長フィルタを設置することにより、送信する光信号の波長を変化させて予め行先のノードを選択するというネットワークがさらなる大容量化技術として期待されている。
【0003】
光通信で用いる光源としては、半導体レーザが一般的である。また、光信号の波長を変化させるには、半導体レーザの温度を変化させる方法が一般的である。例えば、長距離光通信で用いられる波長1550nmの分布帰還形半導体レーザ(DFBレーザ)の場合、DFBレーザの温度を1℃上昇させると、波長が約0.1nm増加する。この特徴を利用して、波長可変レーザが実用化されている。非特許文献1には、それぞれ波長の異なるDFBレーザを複数並べた半導体レーザアレイにおいて、それぞれのDFBレーザの温度を変化させることにより、複数のDFBレーザ全体で30nm以上の広い波長範囲の中で任意の波長を生成する技術が開示されている。
【0004】
現在の光通信では、光信号の波長を長期間固定することにより、特定のノード間に波長パスを形成して長期間固定的に通信を行う、いわゆる波長パス方式がとられている。波長パス方式では、光通信ネットワークの故障時の波長パスの再構築や突発的な通信量の増大に対応した波長パスの追加などが必要になった場合には、光信号の波長を変えてこれに対応している。
【0005】
半導体レーザの温度を変えるには、数百マイクロメートル四方の半導体チップ全体の温度を変化させるため少なくとも数十秒の時間がかかる。そのため、波長パスの変更は少なくとも数十秒の時間をかけて行っている。波長パス方式では、波長パスを長期間固定するため、波長パスの変更に数十秒かかったとしても長期的に見た通信量のスループットへの影響はほとんど無視できる。
【0006】
一方、将来の通信方式の一つとして、波長を数十秒で順次切り替えていく光バースト方式が有望視されている。光バースト方式では、通信する情報を数十秒程度の長さの細かい光バーストに分割し、それぞれの光バーストには行先ごとに異なる波長を割り当てる。この方式では、ノードに対して光信号を行先ごとに振り分ける機能を持たせることができるため、消費電力の大きな電気処理が不要となるという利点がある。従って、波長を数十秒ごとに切り替える必要があるため、光バースト方式においては、数秒以下の時間内で波長が変化する半導体レーザが求められる。
【0007】
半導体レーザのレーザ波長を数秒以下で変化させる1つの方法として、半導体レーザに注入する電流を変化させる方法がある。半導体レーザは、数マイクロメートルの幅のストライプ状の導波路に電流を注入して半導体内の電子を増加させて発光させるものであり、注入電流を増加させると光強度が増加するが、導波路部分の局所的な温度も上昇して波長が増加する。例えば、長距離光通信で用いられる波長1550nmのDFBレーザの場合、DFBレーザの注入電流を1mA増加させると、波長が約0.1nm増加する。温度変化が起こる局所領域の熱容量が小さいため、局所的な温度変化は数秒以下の短時間で起こる。
【0008】
非特許文献2には、それぞれ波長の異なるDFBレーザを複数並べ、それぞれのDFBレーザの注入電流を変化させることにより、複数のDFBレーザ全体で30nm以上の広い波長範囲の中で、短時間でかつ任意の波長を生成する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、注入電流を増加させることにより、半導体レーザが劣化し、寿命(故障と判定されるまでの時間)が短くなることが理論的にも実験的にも明らかになっている。従って、半導体レーザへの注入電流を変化させて波長を変化させる従来の方式では、注入電流量を多くする時間が一定の割合存在するため、その時間内で劣化が進行し、結果的に寿命が短くなり、運用中に故障する確率が高くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、数秒以内の短時間で波長変化が可能で、かつ劣化の進行が遅く寿命の長い波長可変レーザシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項
1に記載の波長可変レーザシステムは、半導体レーザと、前記半導体レーザを所望の設定温度に制御するための温度情報を送出し、前記半導体レーザへの注入電流量を所望の設定値に制御するための注入電流情報を送出する協調制御装置と、前記温度情報に従って前記半導体レーザの温度を制御する温度制御装置と、前記注入電流情報に従って前記半導体レーザへの注入電流を制御する注入電流制御装置とを備えた波長可変レーザシステムであって、前記協調制御装置は、前記半導体レーザのレーザ波長を長波長側から短波長側に変化させる場合、第1の時刻から当該波長変化を開始する第2の時刻まで前記長波長側の
レーザ波長を維持しながら、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記半導体レーザの温度を徐々に減少させて前記半導体レーザの温度を前記第2の時刻で所定の温度にするとともに、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記注入電流値を徐々に増加させて前記注入電流値を前記第2の時刻で所定の電流値にし、前記第2の時刻に前記注入電流値を瞬時に減少させて前記波長変化後に前記半導体レーザのレーザ波長が前記短波長側の
レーザ波長となるように、前記注入電流情報及び前記温度情報を送出
し、前記半導体レーザは、前記注入電流値の増加及び前記半導体レーザの温度の上昇に伴い、前記半導体レーザのレーザ波長が長波長化する特性を有することを特徴とする。
【0015】
請求項
2に記載の波長可変レーザシステムは
、少なくとも第1の半導体レーザ部と第2の半導体レーザ部から構成され
た半導体レーザと、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部を所望の設定温度に制御するための温度情報を送出し、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部への注入電流量を所望の設定値に制御するための注入電流情報を送出する協調制御装置と、前記温度情報に従って前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度を制御する温度制御装置と、前記注入電流情報に従って前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部への注入電流をそれぞれ制御する注入電流制御装置とを備えた波長可変レーザシステムであって、前記協調制御装置は、
前記半導体レーザのレーザ波長を長波長側から短波長側に変化させる場合、第1の時刻から当該波長変化を開始する第2の時刻まで前記長波長側のレーザ波長を維持しながら、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度を徐々に減少させて前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度を前記第2の時刻で所定の温度にするとともに、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記第1の半導体レーザ部の前記注入電流値を徐々に増加させながら前記第1の半導体レーザ部の前記注入電流値を前記第2の時刻で所定の電流値にし、
前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記第2の半導体レーザ部の前記注入電流値をゼロとすることにより、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記長波長側のレーザ波長を前記第1の半導体レーザ部を用いて実現し、前記第2の時刻に前記第1の半導体レーザ部
の前記注入電流値を瞬時にゼロにする
と同時に前記第2の半導体レーザ部の前記注入電流値を
ゼロから瞬時に増加させ
ることにより、前記波長変化後の前記短波長側のレーザ波長を前記第2の半導体レーザ部を用いて実現するように、前記注入電流情報及び前記温度情報を送出
し、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部はそれぞれ、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の前記注入電流値の増加並びに前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度の上昇に伴い、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部のレーザ波長が長波長化する特性を有することを特徴とする。
【0018】
請求項
3に記載の制御方法は、半導体レーザと、前記半導体レーザを所望の設定温度に制御するための温度情報を送出し、前記半導体レーザへの注入電流量を所望の設定値に制御するための注入電流情報を送出する協調制御装置と、前記温度情報に従って前記半導体レーザの温度を制御する温度制御装置と、前記注入電流情報に従って前記半導体レーザへの注入電流を制御する注入電流制御装置とを備えた波長可変レーザシステムの制御方法であって、前記半導体レーザのレーザ波長を長波長側から短波長側に変化させる場合、前記協調制御装置が、第1の時刻から当該波長変化を開始する第2の時刻まで前記長波長側の
レーザ波長を維持しながら、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記半導体レーザの温度を徐々に減少させて前記半導体レーザの温度を前記第2の時刻で所定の温度にするとともに、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記注入電流値を徐々に増加させて前記注入電流値を前記第2の時刻で所定の電流値にする前記注入電流情報及び前記温度情報を送出す
るステップと、前記協調制御装置が、前記波長変化後に前記半導体レーザのレーザ波長が前記短波長側の
レーザ波長となるように前記第2の時刻に前記注入電流値を瞬時に減少させる前記注入電流情報及び前記温度情報を送出す
るステップとを備
え、前記半導体レーザは、前記注入電流値の増加及び前記半導体レーザの温度の上昇に伴い、前記半導体レーザのレーザ波長が長波長化する特性を有することを特徴とする。
【0019】
請求項
4に記載の制御方法は
、少なくとも第1の半導体レーザ部と第2の半導体レーザ部から構成され
た半導体レーザと、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部を所望の設定温度に制御するための温度情報を送出し、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部への注入電流量を所望の設定値に制御するための注入電流情報を送出する協調制御装置と、前記温度情報に従って前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度を制御する温度制御装置と、前記注入電流情報に従って前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部への注入電流をそれぞれ制御する注入電流制御装置とを備えた波長可変レーザシステムの制御方法であって、
前記半導体レーザのレーザ波長を長波長側から短波長側に変化させる場合、前記協調制御装置が、
第1の時刻から当該波長変化を開始する第2の時刻まで前記長波長側のレーザ波長を維持しながら、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度を徐々に減少させて前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度を前記第2の時刻で所定の温度にするとともに、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記第1の半導体レーザ部の前記注入電流値を徐々に増加させて前記第1の半導体レーザ部の前記注入電流値を前記第2の時刻で前記所定の電流値に
し、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記第2の半導体レーザ部の前記注入電流値をゼロとすることにより、前記第1の時刻から前記第2の時刻まで前記長波長側のレーザ波長を前記第1の半導体レーザ部を用いて実現するように、前記注入電流情報
及び前記温度情報を送出するステップ
と、
前記協調制御装置が、前記第2の時刻に前記第1の半導体レーザ部への前記注入電流値を瞬時にゼロにすると同時に前記第2の半導体レーザ部の前記注入電流値を
ゼロから瞬時に増加させる
ことにより、前記波長変化後の前記短波長側のレーザ波長を前記第2の半導体レーザ部を用いて実現するように、前記注入電流情報
及び前記温度情報を送出するステップ
と、を含
み、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部はそれぞれ、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の前記注入電流値の増加並びに前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部の温度の上昇に伴い、前記第1の半導体レーザ部及び前記第2の半導体レーザ部のレーザ波長が長波長化する特性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の波長可変レーザシステムによれば、半導体レーザのレーザ波長を変化する際に、数秒以内の時間内で注入電流変化を行うことにより数秒以内での波長変化を行い、波長変化の前または後の数秒以上の時間内に、波長を一定に保ちながら注入電流と温度の両方を変化させることにより、結果的に注入電流量が多くなる時間の割合を減少させることで、数秒以内の短時間で波長変化が可能で、かつ劣化の進行が遅く寿命の長い波長可変レーザシステムを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の各実施形態に係る波長可変レーザシステムについて説明する。
【0023】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る波長可変レーザシステム100について、
図1ないし
図3を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る波長可変レーザシステム100の構成を示す図である。
図1には、協調制御装置101と、温度制御装置102と、注入電流制御装置103と、半導体レーザ104とを備えた波長可変レーザシステム100が示されている。
【0025】
図1に示されるように、協調制御装置101は、半導体レーザ104を所望の設定温度に制御するための温度情報を温度制御装置102に送出し、半導体レーザ104への注入電流量を所望の設定値に制御するための注入電流情報を注入電流制御装置103へ送出する。温度制御装置102は、受け取った温度情報に従って半導体レーザ104が所望の設定温度になるように半導体レーザ104の温度を制御し、注入電流制御装置103は受け取った注入電流情報に従って半導体レーザ104の注入電流が所望の設定値になるように半導体レーザ104を制御する。
【0026】
図2は、波長可変レーザシステム100において波長を長波長側に変化する場合における、注入電流情報の設定値と温度情報の設定温度と半導体レーザのレーザ波長との時間変化の関係を示す。
図2(a)は時間に対する注入電流変化を示し、
図2(b)は時間に対する温度変化を示し、
図2(c)は時間に対する波長変化を示す。協調制御装置101は、温度情報および注入電流情報を協調制御して、注入電流値、温度及び波長が
図2で示されるような値となるように、温度制御装置102および注入電流装置103へそれぞれ温度情報および注入電流情報を送出している。以下に示す
図3についても同様である。
【0027】
波長変化を開始する時刻をt1とする。
図2(a)乃至(c)に示すように、時刻t1以前では、注入電流値Iは低位側電流値I
L1であり、温度Tは低位側温度T
Lであり、半導体レーザ104の波長は短波長側の波長である。
図2(a)に示すように時刻t1において注入電流値Iを低位側電流値I
L1から高位側電流値I
H1に瞬時に増加させると、
図2(c)に示すように注入電流の増加に伴い数秒以内の短時間Δtで波長は長波長側へ変化する。ここで、高位側電流値I
H1は、波長変化を開始する時刻t1のときの半導体レーザの低位側電流値I
L1に基づいて、半導体レーザのレーザ波長が波長変化後に所望の値となるように設定することができる。
【0028】
その後、
図2(a)乃至(c)に示すように、時刻t1から時刻t2の間、波長が長波長側の一定の値を維持するように温度Tと注入電流値Iとの関係を保ちながら、かつ注入電流値Iが時刻t2以降において高位側電流値I
H1以下の所定の低位側電流値I
L2となるように徐々に注入電流値Iを減少させ、また時刻t2で高位側温度T
H1となるように温度Tを徐々に上昇させる。ここで、高位側温度T
H1は、時刻t2のときの低位側電流値I
L2に基づいて半導体レーザ104の波長が所望の値となるように設定することができる。また、上記の波長が長波長側の一定の値を維持するような温度Tと注入電流値Iとの関係は、予め予備実験により波長が長波長側の一定の値を維持するような温度Tと注入電流値Iとの関係を求めておき、その関係を多項式で近似するなどの方法をとることにより求めることができる。
【0029】
その結果、時刻t2以降、半導体レーザ104は波長が所望の長波長側へ変化した状態を維持しつつ、注入電流値Iは高位側電流値I
H1以下の所望の低位側電流値I
L2とすることができる。すなわち、時刻t1において数秒以内の短時間Δtで瞬時に長波長側への波長変化を起こさせながら、時刻t1以降の数秒以上の時間で注入電流値Iが高位側電流値I
H1以下になる。そのため、本発明においては、従来の注入電流変化のみによって波長を制御する場合のように波長を長波長側に維持するために波長変化以降で注入電流を常に高い状態に維持する必要がないため、注入電流量が多くなる時間の割合を減少させることができ、それにより半導体レーザ104の劣化の進行が遅くなり寿命が長く、その結果故障確率を低くすることが可能となる。
【0030】
図3は、波長可変レーザシステム100において波長を短波長側に変化する場合における、注入電流情報の設定値と温度情報の設定温度と半導体レーザのレーザ波長との時間変化の関係を示す。
図3(a)は時間に対する注入電流変化を示し、
図3(b)は時間に対する温度変化を示し、
図3(c)は時間に対する波長変化を示す。
【0031】
波長変化を開始する時刻をt4とする。
図3(a)乃至(c)に示すように、時刻t3以前では、注入電流値Iは低位側電流値I
L3であり、温度Tは高位側温度T
H2であり、半導体レーザ104の波長は長波長側の波長である。時刻t3から時刻t4の間、半導体レーザ104の波長が時刻t4以前の長波長側の一定の値を維持するように温度Tと注入電流値Iとの関係を保ちながら、かつ注入電流値Iが波長変化前の時刻t4で高位側電流値I
H2となるように徐々に注入電流値Iを増加させ、また時刻t4で低位側温度T
L2となるように温度Tを徐々に減少させる。ここで、高位側電流値I
H2は、時刻t4のときの半導体レーザ104の低位側温度T
L2に基づいて半導体レーザ104の波長が波長変化前の長波長側の値となるように設定することができる。また、低位側温度T
L2は、時刻t4以降のときの低位側電流値I
L4に基づいて半導体レーザ104の波長が波長変化後の所望の短波長側の値となるに設定することができる。
【0032】
その後、
図3(a)に示すように、時刻t4において、注入電流値Iを高位側電流値I
H2から所望の低位側電流値I
L4に瞬時に減少させると、
図3(c)に示すように注入電流の減少に伴い数秒以内の短時間Δtで波長が短波長側へ変化する。
【0033】
その結果、時刻t3から時刻t4の間は、半導体レーザ104は短波長側への波長変化前の長波長側の波長状態を維持しつつ、注入電流値Iは高位側電流値I
H2以下の値となる。すなわち、時刻t4において数秒以内の短時間Δtで瞬時に短波長側への波長変化を起こさせながら、時刻t4以前は注入電流値Iが高位側電流値I
H2以下になる。そのため、本発明においては、従来の注入電流変化のみによって波長を制御する場合のように波長を長波長側に維持するために波長変化以前で注入電流を常に高い状態に維持する必要がないため、注入電流量が多くなる時間の割合を減少させることができ、半導体レーザ104の劣化の進行が遅くなり寿命が長く、その結果故障確率を低くすることが可能となる。
【0034】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態に係る波長可変レーザシステムについて、
図4乃至
図6を参照して説明する。
【0035】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る波長可変レーザシステム200の構成を示す図である。
図4には、協調制御装置201と、温度制御装置202と、注入電流制御装置203と、半導体レーザアレイ基板204とを備えた波長可変レーザシステム200が示されている。半導体レーザアレイ基板204は、第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206を備えている。
【0036】
図4に示されるように、協調制御装置201は、半導体レーザアレイ基板204を所望の設定温度に制御するための温度情報を温度制御装置202に送出し、第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206への注入電流量を所望の設定値に制御するための注入電流情報を注入電流制御装置203へ送出する。温度制御装置202は、受け取った温度情報に従って半導体レーザアレイ基板204が所望の設定温度になるように半導体レーザ204の温度を制御し、注入電流制御装置203は受け取った注入電流情報に従って第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206の注入電流がそれぞれ所望の設定値となるように第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206をそれぞれ制御する。
【0037】
ここで、第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206は互いに近接して半導体レーザアレイ基板204上にアレイ状に配置されている。したがって、温度制御装置202によって半導体レーザアレイ基板204が温度制御されることにより、注入電流によりそれぞれ温度が変化することを除いて、第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206も同様に温度制御される。
【0038】
図5は、第2の実施形態に係る波長可変レーザシステム200において、半導体レーザアレイ基板の温度を増加させながら電流注入する半導体レーザを切り替える場合における、注入電流情報の設定値と温度情報の設定温度と半導体レーザのレーザ波長との時間変化の関係を示す。
図5(a)乃至
図5(c)は、第1の半導体レーザ205における時間に対する注入電流変化、温度変化及び波長変化をそれぞれ示し、
図5(d)乃至
図5(f)は、第2の半導体レーザ206における時間に対する注入電流変化、温度変化及び波長変化をそれぞれ示す。協調制御装置201は、温度情報および注入電流情報を協調制御して、注入電流値、温度及び波長が
図5で示されるような値となるように、温度制御装置202および注入電流装置203へそれぞれ温度情報および注入電流情報を送出している。以下に示す
図6についても同様である。
【0039】
図5(a)及び
図5(d)に示すように、波長変化を開始する時刻t1において、第1の半導体レーザ205の注入電流をゼロにし、同時に第2の半導体レーザ206に電流注入して、第1の半導体レーザ205から第2の半導体レーザ206に電流注入を切り替える。切り替えの時刻t1では、
図5(e)に示すように、第2の半導体レーザ206の温度は、所望の波長を得るための所定の高位側温度T
H1よりも低くなっている。そこで、所定の温度よりも低くても所望の波長が得られるように第2の半導体レーザ206への注入電流値を高位側電流値I
H1にする。
【0040】
その後、
図5(d)乃至
図5(f)に示すように、時刻t1から時刻t2の間、第2の半導体レーザ206の波長が一定となるように、第2の半導体レーザ206の温度Tと注入電流値Iとの関係を保ちながら、かつ注入電流値Iが時刻t2以降において高位側電流値I
H1以下の所定の低位側電流値I
L2となるように徐々に注入電流値Iを減少させ、また時刻t2で高位側温度T
H1となるように温度Tを徐々に上昇させる。
【0041】
その結果、時刻t2以降、第2の半導体レーザ206は波長が所望の長波長側へ変化した状態を維持しつつ、注入電流値Iは高位側電流値I
H1以下の所望の低位側電流値I
L2とすることができる。すなわち、時刻t1において第1の半導体レーザ205から第2の半導体レーザ206へ注入電流を切り替えて数秒以内の短時間Δtで瞬時に長波長側への波長変化を起こさせながら、時刻t1以降の数秒以上の時間で注入電流値Iが高位側電流値I
H1以下になる。そのため、本発明においては、注入電流量が多くなる時間の割合を減少させることができ、それにより第2の半導体レーザ206の劣化の進行が遅くなり寿命が長く、その結果故障確率を低くすることが可能となる。
【0042】
図6は、第2の実施形態に係る波長可変レーザシステム200において、半導体レーザアレイ基板の温度を減少させながら電流注入する半導体レーザを切り替える場合における、注入電流情報の設定値と温度情報の設定温度と半導体レーザのレーザ波長との時間変化の関係を示す。
図6(a)乃至
図6(c)は、第1の半導体レーザ205における時間に対する注入電流変化、温度変化及び波長変化をそれぞれ示し、
図6(d)乃至
図6(f)は、第2の半導体レーザ206における時間に対する注入電流変化、温度変化及び波長変化をそれぞれ示す。
【0043】
図6(a)及び
図6(d)に示すように、波長変化を開始する時刻t4において、第1の半導体レーザ205の注入電流をゼロにし、同時に第2の半導体レーザ206に電流注入して、第1の半導体レーザ205から第2の半導体レーザ206に電流注入を切り替える。切り替えの時刻t4では、
図6(e)に示すように、第2の半導体レーザ206から短波長側の所望の波長を得るためには、第2の半導体レーザ206の温度は時刻t3以前の高位側温度T
H2よりも低く設定されていなければならない。
【0044】
そこで、時刻t3から時刻t4の間、第1の半導体レーザ205の波長が時刻t4以前の長波長側の一定の値を維持するように温度Tと注入電流値Iとの関係を保ちながら、かつ第1の半導体レーザ205への注入電流値Iが波長変化前の時刻t4で高位側電流値I
H2となるように徐々に注入電流値Iを増加させ、また時刻t4で第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206の温度Tが低位側温度T
L2となるように温度Tを徐々に減少させる。
【0045】
その結果、時刻t3から時刻t4の間は、第1の半導体レーザ205は短波長側への波長変化前の長波長側の波長状態を維持しつつ、注入電流値Iは高位側電流値I
H2以下の値となる。すなわち、時刻t4において第1の半導体レーザ205から第2の半導体レーザ206へ注入電流を切り替えて数秒以内で瞬時に短波長側への波長変化を起こさせながら、時刻t4以前は注入電流値Iが高位側電流値I
H2以下になる。そのため、注入電流量が多くなる時間の割合を減少させることができ、第2の半導体レーザ206の劣化の進行が遅くなり寿命が長く、その結果故障確率を低くすることが可能となる。
【0046】
このように、波長可変レーザシステムにおいて、半導体レーザのレーザ波長を変化する際に、数秒以内の時間内で注入電流変化を行うことにより数秒以内での波長変化を行い、波長変化の前または後の数秒以上の時間内に、波長を一定に保ちながら注入電流と温度の両方を変化させることにより、結果的に注入電流量が多くなる時間の割合を減少させることで、数秒以内の短時間で波長変化が可能で、かつ劣化の進行が遅く寿命の長い波長可変レーザシステムを構築することが可能となる。
【0047】
なお、第2の実施形態に係る波長可変レーザシステム200では、2つの第1の半導体レーザ205及び第2の半導体レーザ206を備えた構成としたが、これに限定されることなく、半導体レーザアレイ基板に複数の半導体レーザを設けるように構成してもよい。
【0048】
以上、本発明に係る波長可変レーザシステムの各実施形態について詳述してきたが、具体的な構成は各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更なども含まれる。