特許第5963309号(P5963309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963309
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】末梢血単球由来多能性幹細胞作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20160721BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20160721BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/0786
   C12N15/00 AZNA
【請求項の数】5
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2012-542929(P2012-542929)
(86)(22)【出願日】2011年11月8日
(86)【国際出願番号】JP2011075715
(87)【国際公開番号】WO2012063817
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2014年6月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-250993(P2010-250993)
(32)【優先日】2010年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】500535301
【氏名又は名称】一般社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】中西 真人
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】佐野 将之
(72)【発明者】
【氏名】大高 真奈美
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−325531(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/069666(WO,A1)
【文献】 特許第5633075(JP,B2)
【文献】 生化学,2008年,4T26-7
【文献】 生化学,2008年,2P-1429
【文献】 薬事日報,2008年 8月 1日
【文献】 J. Biol. Chem.,2007年,282,27383-91
【文献】 Cell Stem Cell,2010年 7月 2日,7,11-4
【文献】 Cell Stem Cell,2010年 7月 2日,7,15-9
【文献】 Nat. Methods,2010年 1月,7,53-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NP、P/C、M、F、HNおよびLの各遺伝子からなるセンダイウイルス遺伝子のうち、M遺伝子、F遺伝子及びHN遺伝子の各機能をすべて欠損し、かつ、L遺伝子が持続的遺伝子発現を可能とする変異を有するセンダイウイルス遺伝子と、初期化遺伝子Oct3/4、Sox2、Klf4及びc-Mycとが同一のゲノム上に存在することを特徴とする初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを、末梢血由来単球に感染させ、該細胞の初期化を行い、次いで該細胞から初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターをsiRNA及び/又はマイクロRNAにより除去することを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターが発現するLタンパク質の1618番目のアミノ酸残基がバリンであり、上記siRNAは上記センダイウイルスのL遺伝子、NP遺伝子及びP遺伝子のうちの少なくとも一つを標的とし、上記マイクロRNAの標的配列が上記センダイウイルスのL遺伝子、NP遺伝子及びP遺伝子のうちの少なくとも一つの非コード領域に付加されており、上記センダイウイルスのF、M、HN遺伝子がすべてC1.151株由来である前記方法
【請求項2】
請求項1に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記siRNAが配列番号29のセンス鎖及び配列番号30のアンチセンス鎖から構成される、誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターの遺伝子が多能性幹細胞で発現しているマイクロRNAの標的配列を有することを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項4】
請求項に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記多能性幹細胞で発現しているマイクロRNAがmir-302aであることを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、末梢血由来単球がヒト由来である、誘導多能性幹細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢血単球由来多能性幹細胞作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の急速な展開に伴い、組織変性や障害を原因とする疾患が急激に増加している。該疾患として、例えば、メタボリック症候群に起因して加齢と共に発症頻度が高くなる脳梗塞・心筋梗塞・腎不全や、加齢に伴う組織の変性に起因するアルツハイマー病・パーキンソン病・骨粗鬆症などが挙げられる。また、I型糖尿病・多発性硬化症・慢性関節リューマチや、外傷による熱傷や脊椎損傷、さらには先天的な遺伝情報の異常が原因である遺伝子病も、組織の変性や障害によって引き起こされる疾患である。これらの疾患を治療するための手段として、現在、さまざまな再生医療が開発されている。
再生医療は、患者の組織に存在する組織幹細胞をさまざまな方法で賦活化する再生誘導の方法と、幹細胞や幹細胞から誘導した体細胞や組織を移植する細胞補充療法に大別される。しかし、多くの場合、組織幹細胞の再生能力には限界があり、再生医療の実用化には細胞補充療法の開発が不可欠である。また遺伝子病の場合は体外で遺伝子の修復や補充を行った細胞を使って細胞補充療法を実施することが考えられる。
【0003】
組織の変性や障害によって引き起こされる疾患を細胞補充療法で治療するためには、大量の幹細胞あるいは幹細胞から誘導される体細胞を必要とする。そのため、自己複製可能で、かつさまざまな組織に分化可能な多能性幹細胞が、細胞補充療法の開発には不可欠である。この条件を満たす細胞として、初期胚に由来する胚性幹細胞(ES細胞)や始原生殖細胞に由来するEG細胞などの多能性幹細胞が報告されている。しかし、患者と同一のゲノム情報を持たない細胞に対しては移植拒絶が起こるので、これらの多能性幹細胞から作製した組織細胞は、そのままでは細胞補充療法に使うことができない。このため、細胞補充療法を安全かつ効率的に実施するためには、移植時の免疫拒絶を回避することができる患者と同一のゲノム情報を持つ多能性幹細胞が必要となる。
【0004】
該多能性幹細胞は、患者の組織細胞から、何らかの方法でその性質を変化させて作成することが考えられる。例えば、ヒト正常組織細胞に数種類の遺伝子を導入し、これら遺伝子を強制発現することでヒトES細胞に極めて類似したヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)を作成する技術が知られており、皮膚由来ヒト正常線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4遺伝子をレトロウイルスベクターやレンチウイルスで導入して発現させヒトiPS細胞を作成する方法(非特許文献1)や、皮膚由来ヒト正常線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Nanog、LIN28の4遺伝子をレンチウイルスベクターで導入して発現させヒトiPS細胞を作成する方法(非特許文献2)が報告されている。また、これらの外来遺伝子を用いることにより、皮膚由来線維芽細胞(非特許文献1及び2)・毛根由来角化細胞(非特許文献3)・骨髄由来間葉系幹細胞(非特許文献4)・神経幹細胞(非特許文献5)・脂肪組織由来間葉系幹細胞(非特許文献6)・腸間膜細胞(非特許文献7)・歯髄細胞(非特許文献8)・歯根細胞(非特許文献9)・末梢血由来単核細胞(非特許文献10および11)・末梢血由来T細胞(非特許文献10-12)・造血前駆細胞(非特許文献13)といった組織細胞からのヒトiPS細胞の作製が報告されている。
【0005】
ヒトiPS細胞の素材としての生体ヒト組織細胞は、人体に強い侵襲を与えず、かつ微生物(細菌・ウイルス)による汚染のリスクが無い方法で採取できることが望ましい。前述したヒト組織細胞のうち、皮膚由来線維芽細胞・骨髄由来間葉系幹細胞・神経幹細胞・脂肪組織由来間葉系幹細胞・腸間膜細胞・歯髄細胞・歯根細胞は、それぞれ皮膚の切開・骨髄穿孔・開頭・脂肪吸引・手術・抜歯・歯肉の切除といった強い侵襲を与える方法で採取する必要があるため、ヒトiPS細胞の素材として望ましくない。また、造血前駆細胞は骨髄穿孔で採取する他、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与する等の前処置をすることにより末梢血からも回収できるが、このような前処置は造血幹細胞を強制的に増殖させるため白血病のリスクを高める可能性があり、安全性を考えると望ましくない。さらに、皮膚・毛根・歯根は直接に外気に触れており、これら組織由来の細胞は環境中の微生物によって汚染している可能性が高いため、ヒトiPS細胞の素材として望ましくない。
【0006】
また、ヒトiPS細胞の素材としての生体ヒト組織細胞は、ゲノム情報に損傷が加わって生じる変異が可能な限り低いことが望ましい。これは特に医療用に使用する場合に、発ガンの危険性を回避するために必要な条件である。前述したヒト組織細胞のうち、皮膚由来線維芽細胞と毛根由来角化細胞は紫外線によるゲノムの損傷と修復を繰り返していることが知られており(非特許文献14)、変異の危険性は他の組織細胞より高いと考えられるので、ヒトiPS細胞の素材として望ましくない。
【0007】
以上の条件を勘案すると、ヒトiPS細胞の素材としての生体ヒト組織細胞は、強い侵襲を伴う採取方法やリスクを伴う前処置を必要とせず、臨床現場で通常行われる10mL程度の採血により容易に採取できる末梢血に含まれる細胞であることが望ましい。正常な成人の末梢血に含まれる細胞としては、リンパ球(T細胞・B細胞・NK細胞)、顆粒球(好中球・好塩基球・好酸球)、単球、赤血球及び血小板がある。
【0008】
ヒトiPS細胞の素材としての生体ヒト組織細胞は、iPS細胞の維持に必要な遺伝情報(核内の遺伝子とミトコンドリアの遺伝子)と細胞小器官(ミトコンドリア・小胞体など)を持つ細胞でなければならない。このため、[0007]で例示した細胞のうち、核を欠損している赤血球および血小板と、ミトコンドリアや小胞体・ゴルジ体をほとんど欠損している顆粒球(好中球・好塩基球・好酸球)はヒトiPS細胞の素材として不適当である。
【0009】
また、ヒトiPS細胞の素材としての生体ヒト組織細胞は、完全な多能性を担保するために、受精卵と同じ完全なゲノム情報を持ち、細胞分化に伴うゲノム情報の不可逆な組換え・変異・遺伝子欠失を持たない細胞が望ましい。ゲノム情報に不可逆な組換え・変異・遺伝子欠失を持つ細胞の例としては、T細胞受容体遺伝子に不可逆的な組換えが起こっている末梢血由来T細胞や、抗体遺伝子に不可逆的な組換えが起こっている末梢血由来B細胞が挙げられる。すなわち、末梢血由来T細胞やB細胞から作製したiPS細胞からは、原理的に1種類のT細胞受容体や抗体しか作ることができず、多様なT細胞やB細胞を作り出す能力が必要な造血幹細胞へと分化することはできない。このため、[0007]で例示した細胞のうち、末梢血由来T細胞と末梢血由来B細胞は、ヒトiPS細胞の素材として望ましくない。
【0010】
また、ヒトiPS細胞はマウス又は非自己ヒト由来のフィーダー細胞上で作製されるため、ヒトiPS細胞の素材としての生体ヒト組織細胞は、異種及び同種非自己細胞に対する細胞障害性を持たないことが望ましい。このため、[0007]で例示した細胞のうち、自己以外の細胞を認識して非特異的な細胞障害活性を示すNK細胞は、ヒトiPS細胞の素材として望ましくない。
【0011】
一方、[0007]で例示した末梢血に含まれる細胞のうち、単球は、完全な核とミトコンドリア・細胞小器官を持ち、組換え・欠失等の不可逆な変化を受けていない完全なゲノム情報を保持している。また単球は、比重の違いによって血球細胞を分画するFicoll遠心法と抗CD14抗体磁気ビーズによる精製法が確立しており、この両者を組み合わせることにより、純度98%以上の非常に純度の高い細胞集団を短時間にかつ無菌的に回収できる。すなわち、単球は、優れたヒトiPS細胞の素材として、[0005]から[0010]で述べたすべての条件を満たす唯一のヒト組織細胞である。そのため、単球を素材としたヒトiPS細胞の作製法を確立することは、該多能性幹細胞の実用化を図る上で大きな意義を持つ。
【0012】
一方、現時点でヒトiPS細胞を作製するための素材として使われている細胞は、いずれも実験室での培養条件下で細胞分裂を起こし増殖する細胞ばかりであり、細胞分裂を起こして増殖する能力はヒトiPS細胞の作製に必要だと考えられている(非特許文献15)。一方、単球は、造血幹細胞から最終分化した細胞で細胞増殖能を持たず、試験管内で細胞分裂を起こす条件は知られていない。このため、現時点では、単球からのiPS細胞の作製は容易では無いと考えられている。
【0013】
末梢血をFicoll遠心法で部分精製した末梢血由来単核細胞は、約80%がリンパ球、約20%が単球から構成されている。そのため、非特許文献10および非特許文献11に記された方法で、末梢血単核細胞を材料として作製したヒトiPS細胞には、単球由来の細胞が含まれている可能性がある。事実、非特許文献10および非特許文献11で報告されたヒトiPS細胞にはT細胞受容体や抗体遺伝子のDNA組換えが起こっていないiPS細胞が含まれており、これらの細胞はT細胞やB細胞以外の単核細胞由来であることが示唆されている。しかし、非T細胞と考えられるiPS細胞がどのような細胞に由来するのかは不明であり、精製した単球を用いてヒトiPS細胞が作製できたという報告は無い。
【0014】
一方、細胞補充療法に使用する自己由来のヒトiPS細胞の性質及び安全性は、その作製法に大きく影響されることが知られている。非特許文献1及び非特許文献2で報告されているレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを使って遺伝子発現を行う方法では、ヒトiPS細胞の作製に使われた遺伝子は染色体上に挿入されて残る。つまり、これらの手法で作成されたヒトiPS細胞は細胞補充療法で必要とされる「患者と同一のゲノム情報を持つ多能性幹細胞」の条件を満たしていない。また、非特許文献10および非特許文献11に記されたレンチウイルスベクターを用いた方法で末梢血単核細胞から作製されたヒトiPS細胞でも、ヒトiPS細胞の作製に使われた遺伝子は染色体上に挿入されて残るため、作製されたヒトiPS細胞は細胞補充療法で必要とされる「患者と同一のゲノム情報を持つ多能性幹細胞」の条件を満たしていない。
【0015】
また、この遺伝子挿入現象は、細胞補充療法の安全性確保において以下の問題点を惹起する。すなわち、外部から導入された遺伝子が染色体の不特定位置に挿入されると、挿入部位近傍の遺伝子を異常に活性化して細胞のガン化等の副作用を引き起こす可能性がある。例えば、長期にわたり自己複製能を維持しているヒト骨髄幹細胞の染色体の不特定位置にレトロウイルスベクターを使って遺伝子を挿入すると、挿入された外来遺伝子の影響により正常細胞では転写が抑制されている発ガン遺伝子が異常に活性化されて、高頻度に細胞のガン化が起こることが知られている(非特許文献16)。
【0016】
さらに、この遺伝子挿入現象は、細胞補充療法の安全性確保において以下の問題点を惹起する。すなわち、染色体に外来遺伝子を挿入して作製したiPS細胞では、未分化状態が維持されている間は該外来遺伝子の発現は抑制されているが、組織細胞への分化に伴ってその発現が誘導され、該細胞がガン化する可能性がある。例えば、皮膚由来正常線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4遺伝子をレトロウイルスベクターで導入して作成したマウスiPS細胞由来のマウス個体は、外部から導入したc-Myc遺伝子の再活性化により高頻度でガンを発症することが知られている(非特許文献17参照)。また、c-Myc以外にもKlf4やOct3/4遺伝子の発現も同様に細胞のガン化につながる可能性が指摘されている(非特許文献18)。
【0017】
以上のような染色体への遺伝子挿入に起因する諸問題を解決するには、外来遺伝子を染色体に残さない方法で該ヒトiPS細胞を作製する必要がある。このような技術の例として、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4遺伝子を染色体にランダムに挿入してヒトiPS細胞を作製後、Cre recombinaseを導入することにより挿入した遺伝子を除去できることが報告されている(非特許文献19)。この技術は、非特許文献11における末梢血単核細胞からのiPS細胞の作製にも使われている(ただし、非特許文献11では初期化遺伝子の除去は報告されていない)。しかし、この技術では、初期化遺伝子を発現させるために必要なプロモーター領域は染色体上に残るため、作製されたiPS細胞のゲノム情報は正常細胞のゲノム情報と完全に同一では無く、さらには挿入変異が生じる可能性は否定できない。
【0018】
また、Yuらは、Epstein-Barrウイルス(EBV)の複製起点とEBNA1遺伝子を持ち染色体外で複製可能な環状DNAベクター(EBVベクター)を使って、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog、LIN28、SV40・T抗原の7つの遺伝子をヒト正常線維芽細胞で同時に発現させた後、ベクターの自然脱落を利用して外来遺伝子を全く含まないヒトiPS細胞を作成できたことを報告している(非特許文献20参照)。また最近、房木らは、外来遺伝子を染色体に挿入することなく発現できるセンダイウイルスをベクターとして使ってOct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc遺伝子をヒト皮膚由来線維芽細胞や末梢血由来T細胞で発現し、多能性幹細胞を作製する方法を報告している(非特許文献21,非特許文献12、特許文献1)。この方法では、4つの初期化遺伝子を別々のベクターに搭載して混合感染し、最高1%の効率で多能性幹細胞が作製できたとされている。さらに、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycタンパク質をコードしている合成mRNAをヒト線維芽細胞細胞に導入することによって、最高2%の効率で外来遺伝子を全く含まないヒトiPS細胞を作製する方法が報告されている(非特許文献22)。しかし、いずれの方法も、単球からヒトiPS細胞を作製できることは知られていない。
【0019】
従って、細胞補充療法等に要求されるヒト多能性幹細胞の作製法であって、1)完全なゲノム情報を保持しているとともに、侵襲や微生物による汚染の危険性が少ない採血によって採取できるヒト末梢血由来単球を材料とし、2)安全性を担保するために外部から導入した初期化遺伝子が残されていないヒト多能性幹細胞を作製できる技術である、という2つの条件を満たす方法は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】PCT/JP2009/062911
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Takahashi, et al., Cell, 131, 861-872, 2007
【非特許文献2】Yu, et al., Science, 318, 1917-1920, 2007
【非特許文献3】Aasen, et al., Nature Biotechnology, 26, 1276-1284, 2008
【非特許文献4】Park, et al., Cell, 134, 877-886, 2008
【非特許文献5】Kim, et al., Nature, 461, 649-653, 2009
【非特許文献6】Sun, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106 15720-15725, 2009
【非特許文献7】Li, et al., Cell Reprogram., 12 237-247, 2010
【非特許文献8】Oda, et al., J. Biol. Chem., 285, 29270-29278, 2010
【非特許文献9】Egusa, et al., PLos One, 5, e12743, 2010
【非特許文献10】Loh, et al, Cell Stem Cell, 7, 15-19, 2010
【非特許文献11】Staerk, et al., Cell Stem Cell, 7, 20-24, 2010
【非特許文献12】Seki, et al., Cell Stem Cell, 7, 11-14, 2010
【非特許文献13】Loh, et al., Blood, 113 5476-5479, 2009
【非特許文献14】Ikehata, Environ. Mol. Mutagen., 41, 280-292, 2003
【非特許文献15】Hanna, et al., Nature, 462, 595-601, 2009
【非特許文献16】Hacein-Bey-Abina, et al., Science, 302, 415-419, 2003
【非特許文献17】Takahashi and Yamanaka, Cell, 126, 663-676, 2006
【非特許文献18】Jaenishi and Young, Cell, 132, 567-582, 2008
【非特許文献19】Woltjen, et al., Nature, 458, 766-770, 2009
【非特許文献20】Yu, et al., Science, 324, 797-801, 2009
【非特許文献21】Fusaki, et al., Proc. Jpn. Acad. Ser. B85, 348-362, 2009
【非特許文献22】Warren, et al., Cell Stem Cell, 7, 1-13, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って、本発明が解決しようとする課題は、患者のゲノム情報と同一のゲノム情報を持ち、かつES細胞と近似した性質を有する誘導多能性幹細胞(以下、iPS細胞という場合がある。)を、iPS細胞の作製に用いた遺伝子を細胞内に残すことなく、ヒト末梢血単球から作製することである。この課題が達成されれば、最小限の侵襲により実施できる一般的な医療行為である採血により採取した細胞材料から、移植細胞の免疫拒絶や、染色体への外来遺伝子の挿入・遺伝子損傷による腫瘍化の可能性を回避できる多能性幹細胞を作製することができる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
該課題は、組換え・挿入・修復等の相互作用によりヒトゲノムを改変する活性を持たず、かつ単球に適用可能な遺伝子発現系を用いることで、解決できる。本発明者らは、持続発現型センダイウイルスベクター(特許第4478788号、及びPCT/JP2008/057212)に初期化遺伝子である、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの各ヒト遺伝子産物をコードする遺伝子を搭載して、ヒト末梢血から高度に精製した単球に導入することにより、効率的にES/iPS細胞のマーカーが発現することを見いだした。上記初期化遺伝子搭載ベクターは、外来遺伝子を染色体に組み込むことなく、しかも、該ベクターは初期化後siRNAにより容易かつ速やかに除去でき、これを精製した単球に適用することによって、安全性の高い、該単球の提供個体と同一のゲノム情報を持つ誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を作製できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0024】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)NP、P/C、M、F、HNおよびLの各遺伝子からなるセンダイウイルス遺伝子のうち、M遺伝子、F遺伝子及びHN遺伝子の各機能をすべて欠損し、かつ、L遺伝子が持続的遺伝子発現を可能とする変異を有するセンダイウイルス遺伝子と、初期化遺伝子とが同一のゲノム上に存在することを特徴とする初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを、末梢血由来単核細胞に感染させ、該細胞の初期化を行い、次いで該細胞から初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを人為的に除去することを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法。
(2)上記(1)に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記末梢血由来単核細胞が単球であることを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法。
(3)上記(1)に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターが発現するLタンパク質の1618番目のアミノ酸残基がバリンであることを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法。
(4)上記(1)に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターをsiRNAにより除去することを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法。
(5)上記(1)に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、上記初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターの遺伝子が多能性幹細胞で発現しているマイクロRNAの標的配列を有することを特徴とする、誘導多能性幹細胞の製造方法。
(6)上記(1)に記載の誘導多能性幹細胞の製造方法であって、末梢血由来単核細胞がヒト由来である、誘導多能性幹細胞の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法により製造された誘導多能性幹細胞。
【発明の効果】
【0025】
本発明で用いるセンダイウイルスベクターは、複数の初期化遺伝子を一つのベクターに搭載して同一細胞で一度に発現できるため、分化細胞を初期化するための操作が極めて簡便、かつ効率的であり、再現性が高い。これは複数の初期化遺伝子を別々に搭載したベクターを混合して使用する方法には見られない大きな特徴である。また、本発明で用いる初期化遺伝子を搭載したセンダイウイルスベクターは、細胞質に持続安定的に保持されて初期化遺伝子を発現するため、染色体に外来遺伝子を挿入する恐れがなく、このため細胞をガン化することなく極めて安全である。上記のベクターを使用すれば、患者のゲノム情報と同一のゲノム情報を持ちかつES細胞と近似した多能性を有する誘導多能性幹細胞(以下、iPS細胞という場合がある。)を、最小限の侵襲で採取できる104個以下のヒト単球から作製可能である。
【0026】
また、初期化遺伝子を搭載したセンダイウイルスベクターは、細胞質において持続的に初期化遺伝子を発現して組織細胞を多能性幹細胞に変化させた後、siRNAを使用することにより極めて容易に細胞から除去することができる。また、除去をより容易にするために内在性のマイクロRNAの機能を利用して細胞から除去することができる。その結果、安全性がさらに高まるとともに、分化細胞提供個体と全く同一のゲノム情報を有するiPS細胞が得られる。これらの点からヒトに対しても適用が大いに期待できる。
【0027】
また、センダイウイルスの幅広い種特異性・細胞特異性を活かして、ヒト以外の動物由来の細胞や、線維芽細胞・単球以外のヒト組織細胞から多能性幹細胞を作製することができる。その結果、ヒト以外の動物を使って多能性幹細胞の機能を検証することが可能である。
【0028】
したがって、本発明によれば、完全なゲノム情報を持ちかつ外来の初期化遺伝子を含まないため安全性の高いヒトiPS細胞を、微生物による汚染の可能性が低くかつ侵襲の少ない採血によって得られたヒト末梢血単球から、極めて効率的かつ簡便に再現性良く作製することができる。これは、従来、iPS細胞作成に用いられているアデノウイルスベクター・EBVベクターその他のDNAベクターや従来型センダイウイルスベクターを使用する方法では実現できなかった大きな進歩である。これにより、ヒトiPS細胞は一般の医療機関でも末梢血から容易に作製することができるようになり、再生医療(特に細胞補充療法や遺伝子治療)、さまざまな遺伝的背景を持った患者由来のiPS細胞を使った創薬研究、ヒト細胞を使ったバイオ医薬品製造、ガンや難治疾患の原因の解明や治療法の開発など、幅広い技術分野の発展に大いに貢献するものである。
【0029】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2010‐250993の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1作製用の鋳型cDNAの作成法の概要を示す図。
図2】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2作製用の鋳型cDNAの作成法の概要を示す図。
図3】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3作製用の鋳型cDNAの作成法の概要を示す図。
図4】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 4作製用の鋳型cDNAの作成法の概要を示す図。
図5】siRNAによる持続発現型センダイウイルスベクターの細胞からの除去の経時変化を定量的に測定した図。
図6】2個の外来遺伝子を、同一の持続発現型センダイウイルスベクターに搭載した場合と、別々の持続発現型センダイウイルスベクターに搭載した場合の遺伝子発現の比較を示す写真と図。
図7】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを感染させたヒト胎児線維芽細胞におけるアルカリフォスファターゼ発現の経時的観察結果を示す写真。
図8】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクター感染後14日目のヒト胎児線維芽細胞における内在性ヒトNanog遺伝子発現の検出結果を示す写真。
図9】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクター感染後25日目のヒト胎児線維芽細胞におけるSSEA-4タンパク質発現の観察結果を示す写真。
図10】siRNAによって持続発現用センダイウイルスベクターを除去したヒトiPSマーカー発現細胞におけるセンダイウイルスNP遺伝子と内在性ヒトNanog遺伝子発現の検出結果を示す写真。
図11】siRNAによって持続発現用センダイウイルスベクターを除去したヒトiPSマーカー発現細胞におけるSSEA-4タンパク質と内在性ヒトOct4タンパク質発現の観察結果を示す写真。
図12】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを除去したヒトiPSマーカー発現細胞に由来するテラトーマの組織切片を観察した結果を示す写真。
図13】4個の初期化遺伝子を、同一の持続発現型センダイウイルスベクターに搭載した場合と、別々の持続発現型センダイウイルスベクターに搭載した場合の、マウスiPSマーカー発現細胞の出現頻度を示す図。
図14】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3を使ったヒトiPSマーカー発現細胞の樹立を示す図。
図15】成人末梢血細胞からhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒトiPSマーカー発現細胞の写真。
図16】精製したヒト末梢血由来単球の純度を示す図
図17】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを感染させたヒト末梢血由来単球における、感染8日後のヒトiPS/ES細胞マーカーの発現を示す図。
図18】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使ってヒト末梢血由来単球から作製したヒトiPS細胞の位相差顕微鏡写真。
図19】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使ってヒト末梢血由来単球から作製したヒトiPS細胞における、ヒトiPS/ES細胞マーカーの発現を示す図。
図20】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使ってヒト末梢血由来単球から作製したヒトiPS細胞のゲノムDNAのT細胞レセプター遺伝子の解析を示す図。
図21】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを除去したヒト末梢血単球由来iPS細胞に由来するテラトーマの組織切片を観察した結果を示す写真。
図22】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを除去したヒト末梢血単球由来iPS細胞の血液細胞への再分化能を解析した図。
図23】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞の遺伝子発現をヒト線維芽細胞由来iPS細胞やヒトES細胞と比較した図。
図24】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞ゲノムのT細胞レセプター・β鎖(TCRB)遺伝子の再構成を調べた図。
図25】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞ゲノムのT細胞レセプター・γ鎖(TCRG)遺伝子の再構成を調べた図。
図26】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞ゲノムのT細胞レセプター・δ鎖(TCRD)遺伝子の再構成を調べた図。
図27】hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞ゲノムの免疫グロブリン・H鎖(IGH)遺伝子の再構成を調べた図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明における、誘導多能性幹細胞を製造するために使用する初期化遺伝子を搭載するベクターは、センダイウイルス由来のNP遺伝子、P/C遺伝子およびL遺伝子を有し、同ウイルスのF、M、HN遺伝子機能をすべて欠損させたセンダイウイルス粒子(以下、センダイウイルスベクターという。)である。
なお、本願明細書において、遺伝子あるいは遺伝子材料というとき、マイナス鎖RNAまたはcDNA、及びこれと相補のプラス鎖RNAまたはcDNAを含む。すなわち転写あるいは逆転写により、上記いずれかの遺伝子あるいは遺伝子材料を合成しうるものは本発明に含まれる。
【0032】
また、本明細書において誘導多能性幹細胞(iPS細胞)というとき、胚性幹細胞(ES細胞)と類似した形態と胚性幹細胞特異的なマーカーを発現していて、試験管内での自己複製能を有する細胞を意味する。該細胞は、動物生体内あるいは試験管内での三胚葉への分化能を有することが知られている。また、マーカーとしてはNanog、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、Oct4等が知られている。
【0033】
〔センダイウイルスベクターの構成材料〕
センダイウイルスベクターは、センダイウイルスのゲノムに任意の遺伝子を挿入するか、センダイウイルスの遺伝子を任意の遺伝子と置き換えることによって、該遺伝子を発現させることができる遺伝子導入・発現ベクターである。センダイウイルスはNP、P/C、F、M、HN及びLの各遺伝子を有し、同ウイルスのNP、P/CおよびL遺伝子はセンダイウイルスの転写、複製に関与する遺伝子であり、一方、F、M、NH遺伝子は、ウイルス粒子形成に関与する遺伝子である。したがって、F、M、NH遺伝子の機能をすべて欠損させたセンダイウイルスベクターは、細胞に感染した後に単独では新規のウイルス粒子を形成できず、非伝播性となる。
【0034】
本発明で用いるベクターを構成するL遺伝子としては、L遺伝子がコードするLタンパク質の1618番目がバリンである遺伝子が用いられる。この変異は、センダイウイルスCl.151株由来のLタンパク質のアミノ酸配列から見いだされたものである。センダイウイルスCl.151株は温度感受性の増殖をすることが知られており、38℃でウイルス粒子をほとんど産生せず、32℃では複製サイクルが働き、ウイルス粒子を産生する。このようなセンダイウイルスCl.151株は、吉田哲也博士らによって1979年に報告されているものである(Yoshida, et al. (1979) Virology, 92, 139-154)。
【0035】
上記Lタンパク質の1618番目がバリンである遺伝子を有するセンダイウイルスCl.151株は、インターフェロン誘導能が低下するため、細胞傷害性がなく、持続感染能を有し、外来遺伝子を担持させれば、細胞内で長期間該遺伝子の発現が維持される。このL遺伝子としては、例えば非持続感染株であるセンダイウイルス名古屋株のLタンパク質の1618番目のロイシンをバリンになるように変異させた変異L遺伝子を用いてもよい。以下、Lタンパク質の1618番目がバリンであるLタンパク質を変異Lタンパク質、変異Lタンパク質をコードする遺伝子を変異L遺伝子という場合がある。
【0036】
したがって、本発明で用いるセンダイウイルスベクターの構成遺伝子であるNP、C/PおよびL遺伝子は、L遺伝子が上記変異を有する限り、センダイウイルスCl.151株の塩基配列に限らず、例えば、センダイウイルス名古屋株あるいはZ株等の細胞傷害性を有し持続感染能を有しない株の塩基配列を有していてもよい。
【0037】
また、leader RNAの3’末端に、人工的にセンダイウイルスの転写終結配列を挿入させれば、アンチゲノムRNAのコピー数を低下させ、インターフェロン誘導能をさらに、減弱させることもできる。
【0038】
さらに、センダイウイルスが動物細胞で持続感染するためには、上記変異L遺伝子を持つことに加えて、F、M、HN遺伝子がすべてCl.151株由来でなければならない。そのため、上記変異L遺伝子とCl.151株由来のF、M、NH遺伝子を同時に持つセンダイウイルスベクターは細胞傷害性がなく、持続感染能を有し、外来遺伝子を担持させれば、細胞内で長期間該遺伝子の発現が維持される。またこのCl.151株を基に作成したセンダイウイルスベクターでは、ベクターに搭載した遺伝子を長期持続発現する能力を損なうこと無く、Cl.151株由来のF、M、NH遺伝子の機能をすべて欠損させることが可能である。また、これら遺伝子の機能はその一つの欠損でもベクターの伝播性を顕著に抑制することが可能ではあるが、完全に抑制するためにはF、M、NH遺伝子の各機能の全てを欠損させることが好ましい。F、M、NH遺伝子機能をすべて欠損させる方法としては、単純にこれら各遺伝子を欠失させても良いし、任意の外来遺伝子の挿入あるいは置換によってもよい。
上記センダイウイルスCl.151株の全長遺伝子cDNAは、GenBankに登録済みである(Accession Number AB275416)。
【0039】
〔初期化遺伝子〕
一方、初期化遺伝子は、本願発明のセンダイウイルスベクターに挿入するが、初期化遺伝子としては、ヒト・マウスあるいは任意の哺乳動物のOct3/4、Sox2、Klf4の各遺伝子の組み合わせ、及びさらにc-Myc遺伝子を加えた組み合わせ、あるいはNanog、Lin28、Esrrb、UTF1、TERT(テロメラーゼ触媒サブユニット)、SV40のT抗原の各遺伝子を加えた組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0040】
〔初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクター作成用鋳型ベクター〕
本発明においては、センダイウイルスベクターの構成材料である上記NP、P/C、変異Lの各遺伝子を、上記初期化遺伝子とともにファージ等のクローニングベクターに挿入する。このとき初期化遺伝子は、必要とする複数の遺伝子の全てを挿入することが可能である。これにより、後述する初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターは、初期化に必要な遺伝子を全て含み、従来のように各初期化遺伝子をそれぞれ別のベクターに導入する必要がなく、極めて効率的に初期化が行える。
【0041】
このようにして得られた組み換えベクターは、本発明で用いる初期化遺伝子を搭載したセンダイウイルスベクター、すなわち初期化遺伝子を担持したセンダイウイルス粒子を作成するための鋳型となる。以下この組み換えベクターを鋳型ベクターという。
【0042】
この鋳型ベクターにおいて、NP、P/C、変異Lの各遺伝子及び初期化遺伝子は、NP−P/C―初期化遺伝子(あるいは、さらに、マーカー遺伝子を導入してもよい。)―変異L遺伝子の順でファージ等のベクターに組み込まれる。
この初期化遺伝子あるいはマーカー遺伝子は、センダイウイルスベクターにおけるF、M、NHの各遺伝子に挿入あるいは該遺伝子の配列と置換させて、これらF、M、NHの各遺伝子の機能を欠損させることに用いることもできる。
また、この鋳型ベクターにおいては、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子も挿入することができ、これにより鋳型ベクターあるいはセンダイウイルスベクターが挿入された標的細胞のスクリーニングが容易に行える。
【0043】
具体的には、センダイウイルスベクターの上記各遺伝子からなる構成材料及び上記初期化遺伝子cDNAあるいはさらにマーカー遺伝子cDNAを、上記順序で、細胞内で(+)鎖のゲノムRNAが形成されるように結合して、鋳型ベクターを作成する。例えば、上記構成材料cDNAをλDASHII等のクローニングベクターに組み込むとともに、組み込まれた全長cDNAの上流(ゲノムRNAにおける3’末端側)にT7プロモーター配列、3個のグアニジン残基をこの順で配置し、同全長cDNAの下流(ゲノムRNAにおける5’末端側)にタバコリングスポットウイルスのヘアピンリボザイム配列、T7 RNA polymerase終止配列をこの順で配置する。
【0044】
なお、T7プロモーター配列はT7 RNA polymeraseによってゲノムRNAにおける3’末端側から(+)鎖ゲノムRNAが生合成されるように、3個のグアニジン残基はT7 RNA polymeraseによるRNA転写効率を上昇させるように(S. Leyrer et al. (1998) J. Virol. Methods 75; 47-58)、タバコリングスポットウイルスのヘアピンリボザイム配列は転写された(+)鎖ゲノムRNAが末端で正確に切断されるように、T7 RNA polymerase終止配列はT7 RNA polymeraseによるRNA転写を正確に終結させるために付加するものである。
【0045】
〔初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターの作成〕
このように作成された初期化遺伝子を有する鋳型ベクターは、ウイルスベクター産生用細胞に導入して、初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを作成することができる。
ウイルスベクター産生用細胞には、鋳型ベクターから(+)鎖のアンチゲノムRNAを転写するためにT7 RNA polymeraseを供給する必要があり、ウイルスベクター産生用細胞として、例えば、T7 RNA polymerase発現ワクシニアウイルスを感染させた細胞を用いることもできるし、T7 RNA polymeraseを恒常的に発現するようにクローニングした細胞株を用いることもできる。
【0046】
ヒト型T7 RNA polymeraseを恒常的に発現する細胞株(BHK/T7細胞)では従来のバクテリア型のT7 RNA polymeraseを発現する細胞株(BSR-T7-5細胞)と比較して、顕著にT7 RNA polymerase発現量が増加しており、この細胞を用いて組換えウイルスの産生を行った結果、効率良く組換えウイルスが回収された。すなわち、効率良く組換えウイルスを産生するためにT7 RNA polymerase発現量を増強させた細胞株を用いることが有効である。
上記鋳型ベクターが導入されたウイルスベクター産生細胞においては、鋳型ベクターDNAはT7 RNA polymeraseによってT7プロモーター以降がRNAに転写されるが、その際、産生するRNA分子はヘアピンリボザイム配列によって、それ以降の配列が切断されて削除され、鋳型ベクター中のNP遺伝子−P/C遺伝子−初期化遺伝子―変異L遺伝子をこの順で含むDNA部分、あるいはさらにマーカー遺伝子を含むDNA部分に対応する(+)鎖のアンチゲノムRNA分子ができる。
【0047】
また、T7 RNA polymeraseにより鋳型ベクターから転写された(+)鎖のアンチゲノムRNAを持つウイルスベクター産生用細胞に、さらにNP、P及びL遺伝子産物を産生するための発現ベクターを導入すると、上記(+)鎖アンチゲノムRNAにNP、P、L遺伝子産物が結合してRNP複合体(ヌクレオカプシド)が形成される。次にこのRNP複合体を鋳型として、ウイルス産生細胞中のRNAポリメラーゼにより(+)鎖アンチゲノムRNAから(−)鎖ゲノムRNAが転写される。(−)鎖ゲノムRNAは、ウイルスベクター産生用細胞内のNP、P及び変異L遺伝子産物と結合して(−)鎖ゲノムRNAを含むRNP複合体を形成する。
【0048】
上記使用した鋳型ベクターにおいては、非伝播性にするために、Cl.151株由来のM,F及びHN遺伝子機能をすべて欠損させているため、これに基づき形成された上記RNP複合体は、組織細胞に感染させるために必要なウイルス粒子の形成が抑制されている。そこで、このようにして形成された(−)鎖ゲノムRNAを含むRNP複合体(ヌクレオカプシド)を持つウイルスベクター産生用細胞に、F、M、及びHNタンパク質を発現することができる発現ベクターを導入し、ウイルス粒子産生温度である32℃で培養する。
【0049】
これにより、(−)鎖ゲノムRNAを含むRNP複合体がウイルスベクター粒子に取り込まれ、初期化遺伝子を搭載したセンダイウイルス粒子が再構成される。上記したように、本発明においては、ウイルス粒子形成のために不足するF、M、NH遺伝子を搭載した発現ベクターを別途ウイルス産生用細胞に導入しているため、ベクター産生細胞の培養上清からウイルス粒子を回収することが可能になる。不足するM、F及びHN遺伝子産物の発現系として、不足する遺伝子をそれぞれ導入した複数のベクターを使用してもよいし、またこれら不足する遺伝子を複数導入したベクターを使用しても良い。
【0050】
また、このウイルス粒子の産生プロセスにおいては、ウイルスタンパク質の形成を補い、ウイルス粒子を効率的に産生させるために、上記欠損遺伝子に加え、さらに、NP遺伝子、P/C遺伝子、L遺伝子を有する発現ベクターを上記細胞に導入するのが好ましい。
【0051】
なお、目的のウイルス産生細胞は、上記のように例えば薬剤耐性遺伝子を挿入することによって、薬剤導入培地で培養することにより選択が可能となるし、それ以外にも、EGFP遺伝子などのマーカー遺伝子を指標にして分取することも可能である。
【0052】
以上のようにして得られた初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターはウイルス粒子の形態であり、分化細胞に持続感染可能である。しかし、該ベクターはF、M、NHの各遺伝子機能をすべて欠損しており、感染後において、感染のために必要なウイルス粒子の形成が抑制されているため、非伝播性である。また、該ベクターのL遺伝子はLタンパク質の1618番目のロイシンがバリンになるよう変異させた遺伝子であり、インターフェロン誘導能を有しておらず、持続感染可能であり、長期間該、細胞に保持され、初期化遺伝子の持続発現が可能となる。
【0053】
〔分化細胞の初期化〕
上記で得られたウイルス粒子形態の初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを、初期化の対象となる分化細胞に感染させる。この初期化の対象となる分化細胞としては、後述の実施例ではヒト末梢血由来単球を使用したが、特にヒト細胞に限定されるものではなく、センダイウイルスが感染できることが知られているマウス・ラット・ハムスター・モルモット・ウサギ・イヌ・ネコ・サル・ウシ・ブタ・ヒツジ・ヤギ・ニワトリ等の動物の単球であっても良い。これは、センダイウイルスが非常に幅広い動物種に由来するさまざまな細胞に感染できる能力を持っているためで、センダイウイルスが感染できない細胞としては、ウマ由来の細胞及びさまざまな動物種のBリンパ球が知られているにすぎない(Nakanishi, et al., J. Cont. Rel., 54, 61-68, 1998)。この特徴は、現在までに誘導多能性幹細胞(iPS細胞)の作成に使われているレトロウイルスベクター・レンチウイルスベクター・アデノウイルスベクターのように宿主域が狭いウイルスベクターや、EBVベクターのようにヒト細胞でしか使えない遺伝子発現系、さらに物理的な遺伝子導入法と組み合わせる必要があるため導入できる細胞種が限られるプラスミドベクターやトランスポゾン・EBVベクターとは大きく異なる利点である。
【0054】
本発明で用いる初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターは、インターフェロン誘導活性を持たない変異L遺伝子を持ち、かつ野生型センダイウイルスのM、F、HN遺伝子を欠損しているため、細胞傷害性を持たず持続感染性を示し、分化細胞に感染後、該細胞の細胞質において、染色体と独立して安定的に存在し、細胞分裂後も維持される。これは変異L遺伝子を持たない、あるいは野生型センダイウイルスのM、F、HN遺伝子のいずれかを持つ他のセンダイウイルスベクターには見られない特徴である。したがって、本発明で用いるセンダイウイルスベクターを使えば、10日から20日とされている初期化に必要な期間にわたって初期化遺伝子の発現を維持できるため、一度の遺伝子導入で初期化を行うことができる。これは一過性の遺伝子発現しかできないアデノウイルスベクターやプラスミドベクターでは得られない利点である。例えば、本発明で用いる初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターにOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Mycを搭載した場合、ベクターを一度細胞に感染させるだけで、7日目〜14日目にかけて、胚性多能性細胞(ES細胞)のマーカーであるSSEA-4やTRA-1-60を持続的に発現する細胞が出現する。
【0055】
さらに、本発明で用いるセンダイウイルスベクターを使えば、導入した遺伝子あるいはその一部が染色体の不特定部位に挿入されることは無い。このため、得られたiPS細胞はガン化を引き起こす恐れがなく、極めて安全である。これはレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクター・トランスポゾンのように染色体の不特定部位に遺伝子を挿入する系に比べて大きな利点である。さらに、染色体への遺伝子挿入を否定することが難しいアデノウイルスベクターやプラスミドベクター(EBVベクターを含む)を使用する場合に比べても大きな利点である。例えば、初期化遺伝子の中にはc-Myc、Oct4、Lin28は単独で細胞ガン化や異形性を引き起こすことが知られているが、本発明で用いるセンダイウイルスベクターを使用すれば、これら遺伝子も安全に使用できる。
【0056】
また、細胞の初期化に使うベクター系に求められる性質として、均一な性質を持った多能性幹細胞が再現性良く作製できることが挙げられる。そのためには、複数(例えば4個)の初期化遺伝子を同一の細胞に一度に導入できるだけでなく、これらが常に一定の割合で発現することが求められる。複数の遺伝子をセンダイウイルスベクターで細胞に導入する場合、本発明の実施例で示したようにすべてを同一のベクターに搭載する方法と、非特許文献12、非特許文献21及び特許文献1に例示されているように個々の遺伝子を別々のベクターに搭載し、混合した上で細胞に感染させる方法の2つが考えられる。この2つの方法における遺伝子発現の違いを、Enhanced Green Fluorescent Protein (EGFP)遺伝子とKusabira-Orange (KO)遺伝子を、同一のベクターに搭載した場合と、別々のベクターに搭載して混合した場合を比較して検証した。その結果、一定の比で再現性良く外来遺伝子を発現させるためには、複数の遺伝子を同一のベクター上に搭載する必要があることが明らかになった(実施例7)。さらに線維芽細胞から高い効率でiPSマーカー発現細胞を誘導するためには、初期化遺伝子がすべて同一のベクター上に搭載されている必要があることも確認できた(実施例11)。以上のことから、4個の初期化遺伝子を同一のベクター上に搭載している本発明で用いる初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを使えば、常に再現性良く、また非常に高い効率で、性質が均一な多能性幹細胞を作製できることが明らかになった。
【0057】
〔初期化遺伝子の除去〕
本発明で用いる初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターは、分化細胞に感染導入され、該細胞の細胞質内において初期化遺伝子は持続発現して該細胞を初期化する。初期化された後の細胞の遺伝情報を初期化前の細胞の遺伝情報と同一にするためには、不要となった初期化遺伝子を除去する必要があるが、本発明においてはsiRNAを使用して初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクター全体を除去する。使用するsiRNAとしては、センダイウイルスベクターのL遺伝子を標的にして行う。本発明者の実験によれば、NP遺伝子やP遺伝子を標的にしてもある程度の除去は可能であるが、L遺伝子を標的にすれば完全に初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを除去できる。L遺伝子中のターゲット部位としては、例えば、Lタンパク質の527番目あるいは1913番目のヌクレオチド残基をコードする部分を含む領域が挙げられるが、特にこれらに限定されるわけではなく他の領域であっても良い。siRNAは、初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを分化細胞に感染させた後、5日間から20日間後に該細胞に導入する。
【0058】
また、siRNAのかわりに細胞内に存在するmicroRNA(miRNA)を利用することも考えられる。miRNAは動物細胞のゲノムから転写される小さなRNAであって、DNA、mRNA、タンパク質と相互作用してその機能を調節している。mRNAとの相互作用では、mRNA上の標的配列に結合して、その分解を誘導もしくは翻訳を抑制することで遺伝子の発現を抑制する機構が存在している。この機構を利用して、ある遺伝子から転写されるmRNAのタンパク質非コード領域に特定のmiRNAの標的配列を人工的に挿入することにより、そのmiRNAが発現している細胞中で該遺伝子の発現を抑制できることが知られている。この機構を利用すれば、初期化された細胞でのみ出現するmiRNAの標的配列をセンダイウイルスベクターのL遺伝子、NP遺伝子あるいはP遺伝子の非コード領域に付加することにより、siRNAの場合と同様にL遺伝子、NP遺伝子あるいはP遺伝子の発現を抑制することによって初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを除去することができる。
【0059】
この目的で使用するmiRNAとしては、例えばヒトやマウスのES細胞で特異的に発現しているmir-302aが挙げられるが、このmiRNAに限定されるわけではない。miRNAを利用した初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターの除去法の利点としては、外部からsiRNAを導入する必要が無く、センダイウイルスベクターの除去が自動化できることが挙げられる。
【0060】
このようにL遺伝子をターゲットにしたsiRNAや、miRNA標的配列をL遺伝子、NP遺伝子あるいはP遺伝子の非コード領域に付加したセンダイウイルスベクターを使用して、初期化遺伝子搭載センダイウイルスベクターを除去することにより、得られるiPS細胞は染色体に挿入された外来遺伝子を有せず、分化細胞の提供個体と全く同一のゲノム情報を有し。試験管内で長期の自己複製能を有する。
【0061】
以下に、本発明の実施例を示す。但し本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
実施例1.
持続発現型センダイウイルスベクター再構成用細胞の作製
動物細胞での発現効率を向上させるためにコドンを最適化したT7 RNA polymeraseをコードするcDNA(配列表・配列番号1)をレトロウイルスベクター作成用プラスミドpCX4SRalpha-neoベクター(Akagi, et al., PNAS, 100 13567-13572, 2003)にクローニングした。またセンダイウイルスCl151株Mタンパク質をコードするcDNA(Nishimura, et al., JBC, 282, 27383-27391, 2007)をレトロウイルスベクター作成用プラスミドpCX4SRalpha-puroベクター(Akagi, et al., PNAS, 100 13567-13572, 2003)にクローニングした。PLAT-Eパッケージング細胞(Morita, et al., Gene Therapy, 7, 1063-1066, 2000)にLipofectamine 2000(Life Technologies)を用いてそれぞれ上記プラスミドDNAを導入し、培養上清にレトロウイルス(T7 RNA polymerase組み換えレトロウイルス、151M組み換えレトロウイルス)を得た。BHK-21細胞にT7 RNA polymerase組み換えレトロウイルスを感染させ、G418 800 μg/mlと10% ウシ胎児血清(FCS)を含むDulbecco’s Modified Minimal Essential Medium (DMEM)に移しT7 RNA polymeraseを安定に発現するG418耐性細胞 (BHK/T7(SE)) を単離した。続いてBHK/T7(SE)細胞に151M組み換えレトロウイルスを感染させ、G418 800 μg/ml、puromycin 15 μg/ml、10%FCSを含むDMEM培地に移し、T7 RNA polymeraseとMタンパク質を安定に発現するG418+puromycin耐性細胞 (BHK/T7/151M(SE))を単離した。
【0063】
実施例2.
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1の作製
ベクターcDNAの作製 Avr II認識配列-ヒトOct4 ORF-センダイウイルス(SeV)ゲノムcDNA(6617-6666塩基)-ヒトSox2 ORF-Age I認識配列をこの順序で含む二本鎖DNA(配列表・配列番号2)を合成し 、プラスミドベクターpUC57にクローニングした(GenScript社に委託)(pUC57-OctSox)。pUC57-OctSoxからAvr II、Age Iで切断したDNA配列をプラスミドpMO078(pBluescript II SK(+)(Agilent Technologies, Inc.)にCla I認識配列-SeV Cl.151株ゲノムcDNA(2871-3650塩基)-NotI認識配列-ブラストサイジンS耐性遺伝子-Mlu I認識配列-SeV Cl.151株ゲノムcDNA(4728-4828塩基)-AvrII認識配列-ヒト化クサビラオレンジ遺伝子-SeV Cl.151株ゲノムcDNA(6617-6666塩基)-gp91phox遺伝子-Age I認識配列-SeV Cl.151株ゲノムcDNA(8442-10479塩基)をこの順序で挿入したプラスミドベクター:配列表・配列番号3)のAvr II-Age I間に挿入することによってプラスミドpMO084を得た(図1)。
【0064】
Nhe I認識配列-ヒトKlf4 ORF-センダイウイルス転写終結配列-センダイウイルス転写開始配列-Not I認識配列をこの順序で含む二本鎖DNA(配列表・配列番号4)を合成し 、プラスミドベクターpUC57にクローニングした(GenScript社に委託)(pUC57-KLF4)。hKlf4遺伝子増幅用プライマーとして、
5’-ACTAGCTAGCAGTCTGACATGGCTGTCAGCGACGCGCT-3’( 配列表・配列番号5(N末端側))、5’-GGTCCACGCGTTTAAAAATGCCTCTTCATGTG-3’( 配列表・配列番号6(C末端側))の2本のプライマーを用いてpUC57-KLF4上からヒトKlf4遺伝子をPCR法によって増幅し、得られた二本鎖DNAの末端をNhe I、Mlu Iで切断し、pMO026(pBluescript II SK(+)にCla I認識配列-SeV Cl.151株ゲノムcDNA(2871-3650塩基)-NotI認識配列-Nhe I認識配列-ブラストサイジンS耐性遺伝子-Mlu I認識配列-SeV Cl.151株ゲノムcDNA(4728-5335塩基)をこの順番で挿入したプラスミドベクター)(配列表・配列番号7)のNhe I-Mlu I間に挿入することによって、pMO097を得た。さらにpMO097のCla I-Mlu I断片とpMO084のCla I-Mlu Iを結合することによりpMO099を得た(図1)。
【0065】
pUC57-KLF4からNhe I、Not Iで切断したDNA配列をpNK214(pBluescript II SK(+)(Agilent Technologies, Inc.)にSeV Nagoya株ゲノムcDNA(1-43塩基)-センダイウイルス転写終結配列-SeV Nagoya株ゲノムcDNA(56-2870塩基)-SeV Cl.151株ゲノムcDNA(2871-3656塩基)-NheI認識配列-Not I認識配列をこの順序で挿入したプラスミドベクター)(配列表・配列番号8)のNhe I-Not I間に挿入することによってプラスミドpMO094(配列表・配列番号9)を得た(図1)。hc-Myc遺伝子増幅用プライマーとして、5’-ACTAGCTAGCTTAGACGCTGGATTTTTTTCGGGTAGTGG-3’( 配列表・配列番号10(N末端側))、5’-GTCCGACGTCCTTACGCACAAGAGTTCCGT-3’( 配列表・配列番号11(C末端側))の2本のプライマーを用いてヒトc-Myc cDNA全長を含むプラスミドpJL1上からヒトc-Myc遺伝子をPCR法で増幅し、得られた二本鎖DNAの末端をNhe I、Aat IIで切断し、pMO094のNhe I-Aat II間に挿入することによって、pMO103を得た(図1)。
【0066】
以上によって得られた各プラスミドのうち、pMO103からT7プロモーター配列〜SeV: 1-3655を、pMO099からSeV: 3655-10480を切り出し、λ/151(Nishimura, et al., JBC, 282, 27383-27391, 2007)をEcoR I切断することによって得た、SeV: 10480-1538+λDASHII right armのDNA断片と合わせてクローニングし、λ/SeVp (Mp+myc, ΔM::Klf4, ΔF::Oct4, ΔHN::Sox2)を作製した(図1
)(h-cMyc, hOct4, hSox2, hKlf4持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1ゲノム全長に相補的なcDNAは配列表・配列番号12)。
【0067】
(2)hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1の調製
BHK/T7/151M(SE)細胞を5 × 105 cells / wellで6-wellプレートに播種し、24時間培養した後に洗浄した。λ/SeVp (Mp+myc, ΔM::Klf4, ΔF::Oct4, ΔHN::Sox2)ファージDNA、NPタンパク質発現プラスミドpGEM/NP、Pタンパク質発現プラスミドpGEM/P、Lタンパク質発現プラスミドpGEM/L(pGEM/NP、pGEM/P、pGEM/Lは、Garcin, et al., EMBO J., 14, 6087-6094, 1995)、Fタンパク質発現プラスミドpSRD-FZmut、HNタンパク質発現プラスミドpMKIT-NaHN(pSRD-FZmut、pMKIT-NaHNはTaira, et al., Arch. Virol., 140, 187-194, 1995)をそれぞれ2 μg、1 μg、1 μg、1 μg、1 μg、1 μgの量比でOptiMEM 300 μLに懸濁し、10 μLのLipofectamine 2000を含む300 μLのOptiMEM(Life Technologies)と混合して20分間室温放置した培地を、細胞に添加して4時間培養した。細胞を再度洗浄後、10%FCS含有DMEM培地を加えてさらに32℃で3日間培養した。さらに37℃で3日間培養後、センダイウイルスNPタンパク質に対する抗体、及び、hOct4, hSox2, hKlf4遺伝子産物に対する抗体を用いて蛍光抗体法で染色することにより、トランスフェクションした細胞中でベクターゲノムの再構成が起こったことを確認し、この細胞集団をこれ以上のクローニングせずにhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1産生細胞として用いた。
【0068】
5.0 x 105 個の hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1産生細胞に、欠損遺伝子発現プラスミドであるpMKIT-151M(Taira, et al., Arch. Virol., 140, 187-194, 1995)、pSRD-ZFmut、pMKIT/NaHN各2μgをLipofectamine 2000を用いて導入し、4時間後に細胞を洗浄した後、10%FCS含有DMEM培地を加えてさらに32℃で4-9日間培養した。その後、 hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを含む培養上清を回収し、0.45μmのフィルターで濾過後、必要ならば超遠心法によりベクターを濃縮した。ベクター懸濁液は液体窒素にて急速冷凍し、-80℃にて保存した。
【0069】
実施例3.
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2の作製
(1)ベクターcDNAの作製 hc-Myc遺伝子増幅用プライマーとして、5’- ACTAGCTAGCTTAGACGCTGGATTTTTTTCGGGTAGTGG-3’( 配列表・配列番号13(N末端側))、5’- GTCCACCGGTCTTACGCACAAGAGTTCCGT-3’( 配列表・配列番号14(C末端側))の2本のプライマーを用いてヒトc-Myc cDNA全長を含むプラスミドpJL1上からヒトc-Myc遺伝子をPCR法で増幅し、得られた二本鎖DNAの末端をNhe I、AgeIで切断し、実施例2で作製したpMO084のNheI-Age I間に挿入することによってプラスミドpMO118を得た(図2)。
hSox2遺伝子増幅用プライマーとして、
5’- AGTACCTAGGCGCATGTACAACATGATGGAGACGG-3’( 配列表・配列番号15(N末端側))、5’- GTCCGACGTCCTCACATGTGTGAGAGGGGCAGT-3’( 配列表・配列番号16(C末端側))の2本のプライマーを用いてpUC57-Sox2上からヒトSox2遺伝子をPCR法によって増幅し、得られた二本鎖DNAの末端をAvr II、Aat IIで切断し、pMO118のAvr II-Aat II間に挿入することによって、pMO119を得た(図2)。
【0070】
hOct4遺伝子増幅用プライマーとして、
5’- ACTAGCTAGCGGTTCCCCATGGCGGGACACCTGGCTTCGG-3’( 配列表・配列番17(N末端側))、5’- GGTCCACGCGTTCAGTTTGAATGCATGGGAGAGCC-3’( 配列表・配列番号18(C末端側))の2本のプライマーを用いてpUC57-Oct4上からヒトOct4遺伝子をPCR法によって増幅し、得られた二本鎖DNAの末端をNhe I、Mlu Iで切断し、pMO097のNhe I-Mlu I間に挿入することによって、pMO116を得た。次に、pMO116のCla I-Cla Iフラグメントの向きを入れ替えてpMO120を得た。さらにpMO119のSal I-Mlu I断片とpMO120のSal I-Mlu Iを結合することによりpMO122を得た(図2)。
【0071】
以上によって得られた各プラスミドのうち、pMO094(実施例2,図1)からT7プロモーター配列〜SeV: 1-3655を、pMO122からSeV: 3655-10480を切り出し、λ/151をEcoR I切断することによって得たSeV: 10480-1538+λDASHII right armのDNA断片と合わせてクローニングし、λ/SeVp (Mp+Klf4, ΔM::Oct4, ΔF::Sox2, ΔHN::c-Myc)を作製した(図2)(hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2ゲノム全長に相補的なcDNAは配列表・配列番号19)。
【0072】
(2)hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2の調製
上記hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2ゲノム全長に相補的なcDNAから、実施例2(2)に記載の方法に従って、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2を調製した。
【0073】
実施例4.
iPS細胞から自動除去されるhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3の作製
(1)ベクターcDNAの作製
ES細胞特異的miRNAであるmir-302aの標的配列を4つつなげた配列をクローニングするために、5’- CCGGTTATCACCAAAACATGGAAGCACTTACGATTCACCAAAACATGGAAGCA CTTAGGTACC-3’( 配列表・配列番号20)と
5’-TAAGTGCTTCCATGTTTTGGTGAATCGTAAGTGCTTCCATGTTTTGGTGATAA-3’
( 配列表・配列番号21)、
5’- TCACCAAAACATGGAAGCACTTACGATTCACCAAAACATGGAAGCACTTAA-3’( 配列表・配列番号22)と
5’-CCGGTTAAGTGCTTCCATGTTTTGGTGAATCGTAAGTGCTTCCATGTTTTGGTGAGGTACC-3’( 配列表・配列番号23)、の2組のオリゴDNAをアニーリングさせた後にライゲーションし、Age Iで切断したpGL4.12(Promega Corp.)にクローニングしてpNK300を得た(図3)。
【0074】
pNK15 (pBluescript II SK(+)(Agilent Technologies, Inc.)にSeV Cl.151株ゲノムcDNA(9014-15384塩基)-タバコリングスポットウイルスのヘアピンリボザイム配列-T7 RNA polymerase終止配列をこの順序で挿入したプラスミドベクター:配列表・配列番号24)に対してXma I認識配列挿入部位作製用プライマーとして、5’- GACAGCTCGTAATCCCGGGTCCCTATCGTGC -3’(配列表・配列番号25(センス鎖))5’- GCACGATAGGGACCCGGGATTACGAGCTGTC -3’(配列表・配列番号26(アンチセンス鎖))を用いて、Quikchange Site-directed Mutagenesis II kit (Agilent Technologies, Inc.) によってXma I認識配列をSeV: 15244の後ろに挿入してpNK287を得た。pNK300をAgeIで切断した断片を、pNK287のXma I部位に挿入することによってプラスミドpNK309を得た(図3)。
【0075】
実施例2で作製したpMO103からT7プロモーター配列〜SeV: 1-3655を、pMO099からSeV: 3655-10480を切り出し、pNK309からSeV: 9014-15384-ヘアピンリボザイム配列-T7 RNA polymerase終止配列を切り出し、λDASHII right arm、left armのDNA断片と合わせてクローニングし、λ/SeVp (Mp+myc,ΔM::Klf4,ΔF::Oct4,ΔHN::Sox2, L+mir302T4)を作製した(図3)(hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3ゲノム全長に相補的なcDNAは配列表・配列番号27)。
【0076】
(2)hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3の調製
上記hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3ゲノム全長に相補的なcDNAから、実施例2(2)に記載の方法でhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3を調製した。
【0077】
実施例5.
iPS細胞から自動除去されるhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 4の作製
(1)ベクターcDNAの作製
実施例3で作製したpMO094からT7プロモーター配列〜SeV: 1-3655を、pMO122からSeV: 3655-10480を切り出し、実施例4で作製したpNK309からSeV: 9014-15384-ヘアピンリボザイム配列-T7 RNA polymerase終止配列を切り出し、λDASHII right arm、left armのDNA断片と合わせてクローニングし、λ/SeVp (Mp+Klf4, ΔM::Oct4, ΔF::Sox2, ΔHN::c-Myc, L+mir302T4)を作製した(図4)(hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 4ゲノム全長に相補的なcDNAは配列表・配列番号28)。
【0078】
(2)hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 4の調製
上記hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 4ゲノム全長に相補的なcDNAから、実施例2(2)に記載の方法でhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 4を調製した。
【0079】
実施例6
持続発現型センダイウイルスベクターのRNAゲノムの、siRNAを用いた細胞からの除去についての経時的検討
実施例2から実施例5で示した持続発現型センダイウイルスベクターのRNAゲノムは、細胞内で安定に維持され、発現した初期化遺伝子産物によって細胞の初期化が起こることが期待される。一方、最終的にiPS細胞を完成するためには、外来の初期化遺伝子を搭載した持続発現型センダイウイルスベクターを細胞から除去する必要がある。そこで、持続発現型センダイウイルスベクターを安定に保持している細胞からsiRNAを用いてベクターゲノムを除去する方法について、マーカー遺伝子を搭載した持続発現型センダイウイルスベクターを使って除去の経時変化を定量的に解析すると共に、siRNA処理を行った細胞にベクターゲノムが存在しないことを確認した。
持続発現型センダイウイルスベクターによる遺伝子発現のマーカーとして、不安定型ホタル・ルシフェラーゼ遺伝子(Luc2CP, Promega Corp.)と大腸菌ハイグロマイシンB耐性遺伝子(HygBpapertrou)を使用した。ルシフェラーゼ活性はゲノムRNAのコピー数を反映し、ハイグロマイシンB耐性細胞の数は持続発現型センダイウイルスベクターを保持している細胞の数を反映する。
【0080】
Luc2CP遺伝子とHygB遺伝子を搭載したKO/HygB/EGFP/Luc2CP搭載持続発現型センダイウイルスベクターは、実施例2で示したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1の作製と同じ手法を用い、hc-Myc遺伝子をKusabira Orange(KO)遺伝子(Medical & Biological Laboratories, Co.Ltd.)で、hKlf4遺伝子をHygB遺伝子で、hOct4遺伝子をEnhanced Green Fluorescent Protein(EGFP)遺伝子で、hSox2遺伝子をLuc2CP遺伝子でそれぞれ置換して作製した。L遺伝子の発現は、short interfering RNA(siRNA)(#1:センス鎖 5’-GGUUCAGCAUCAAAUAUGAAG-3’( 配列表・配列番号29)、アンチセンス鎖 5’-UCAUAUUUGAUGCUGAACCAU-3’ (配列表・配列番号30)を使って抑制した。陰性対照siRNAは使用したセンダイウイルスベクターゲノムの塩基配列と相同性が無いウミボタル・ルシフェラーゼ遺伝子(Promega Corp., Rluc)と相補性を持つsiRNAを用いた。
【0081】
該siRNAによるベクターゲノム除去効果を調べるため、Luc2CP遺伝子とHygB遺伝子を搭載した持続発現型センダイウイルスベクターのゲノムを安定に保持しているHeLa細胞を、3x104個/0.4 mL培地(MEM, 10%ウシ胎児血清)/wellの濃度で24-wellプレートに播種した。siRNAは最終濃度40 nMになるようにOpti-MEMで希釈してLipofectamine RNAiMAX(Life Technologies, Inc.)1 μLを加えて室温20分反応後、上記細胞に加えた。以後、細胞を経時的に回収し、3日目と6日目に細胞を上記の条件で継代すると同時に、siRNAを上記の条件で細胞に導入した。その結果、細胞内のベクターの量の指標となるルシフェラーゼの活性は経時的に低下し、8日目以降はルシフェラーゼ活性が検出限界となった(図5A)。
【0082】
さらにsiRNAを3回導入した細胞を、siRNA非存在下で4週間培養し、次に104個の細胞を200 μg/mLのハイグロマイシンBを含む選択培地中に移してさらに1週間培養した。その結果、ハイグロマイシンB耐性クローンは出現せず、HygB遺伝子を搭載した持続発現型センダイウイルスベクターのゲノムを持つ細胞が存在しないことが示された(図5B)。
【0083】
実施例7
持続発現型センダイウイルスベクターに搭載した2つの外来遺伝子の遺伝子発現様式の検討
iPS細胞の作製には4つの初期化遺伝子が同時に一つの細胞で発現する必要がある。また、4つの初期化遺伝子の発現の強さのバランスを変えることにより初期化効率が変化する(参考文献:Papapetrou, et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 106, 12759-12764, 2009)だけでなく、iPS細胞に形態が似ていても多分化能を持たない質の低い細胞株が出現する可能性が指摘されている(参考文献:Chan, et al., Nat. Biotech., 27, 1034-1037, 2009)。そのため、iPS細胞を高効率でかつ再現性良く作製する方法は、1)4つの初期化遺伝子が同時に1個の細胞に導入されること、2)これら4つの遺伝子がすべての細胞で同じバランスで発現すること、の2点を満たす必要がある。センダイウイルスベクターを使って4個の初期化遺伝子を細胞に導入する場合、本発明で例示しているようにすべての初期化遺伝子を1つのベクターに搭載して遺伝子導入する方法と、特許文献1・非特許文献12・非特許文献21で示されているように1〜3種類の初期化遺伝子を搭載したベクターを別々に作製してから混合して遺伝子導入する方法が考えられる。そこで、Kusabira Orange(KO)遺伝子とEnhanced Green Fluorescent Protein(EGFP)遺伝子の2つの遺伝子の発現を指標にして、上記の2つの方法における外来遺伝子の発現様式に違いがあるかどうかを検討した。
【0084】
KO遺伝子とEGFP遺伝子を同時に搭載したベクターとしては、実施例6に記載されたKO/HygB/EGFP/Luc2CP搭載持続発現型センダイウイルスベクターを用いた。また、KO遺伝子を搭載したベクターとしては、実施例2で記述したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1からhc-Myc遺伝子を除去し、Klf4遺伝子をゼオシン耐性(Zeo)遺伝子で、Oct4遺伝子をKO遺伝子で、Sox2遺伝子を分泌型ルシフェラーゼ(CLuc)遺伝子で置換したZeo/KO/CLuc搭載持続発現型センダイウイルスベクターを用いた。またEGFP遺伝子を搭載したベクターとしては、実施例2で記述したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1からhc-Myc遺伝子を除去し、Klf4遺伝子をBsr遺伝子で、Oct4遺伝子をEGFP遺伝子で、Sox2遺伝子を慢性肉芽種症原因遺伝子(gp91phox)で置換したBsr/EGFP/gp91phox搭載持続発現型センダイウイルスベクターを用いた。
【0085】
サルLLCMK2細胞に、KO/HygB/EGFP/Luc2CP搭載ベクターを細胞あたり5ベクター粒子の条件で感染させ、ハイグロマイシンBで選択して、KO/HygB/EGFP/Luc2CP搭載ベクターを保持する細胞プールLLCMK2(SeVdp/ KO/HygB/EGFP/Luc2)を樹立した。また、同様にZeo/KO/CLuc搭載ベクターとBsr/EGFP/gp91phox搭載ベクターをベクター粒子比1:1で混合し、それぞれ細胞当たり5ベクター粒子の条件でLLCMK2細胞に感染させた後、ブラストサイジンSとゼオシンで同時に選択して、この2つのベクターゲノムを同一の細胞中に持つ細胞プールLLCMK2(SeVdp/Zeo/KO/CLuc + SeVdp/Bsr/EGFP/gp91phox)を樹立した。
この2つの細胞株を蛍光顕微鏡(Zeiss)で観察し、KOが発する蛍光に赤色の疑似カラーを、EGFPが発する蛍光に緑色の疑似カラーを割り当てて画像を重ねたところ、LLCMK2(SeVdp/KO/HygB/EGFP/Luc2)はすべてKOとEGFPが同時に発現していることを示す黄色の画像となったのに対し、LLCMK2(SeVdp/Zeo/KO/CLuc + SeVdp/Bsr/EGFP/gp91phox)は赤色・黄色・緑色の細胞が混在しており、KOとEGFPの発現のバランスが細胞によって非常に異なっていることが示された(図6A
【0086】
さらにKOとEGFPの発現のバランスを定量的に解析するため、これらの細胞を蛍光細胞解析装置(Fluorescent-activated Cell Analyzer)(BD FACSCalibur、Becton, Dickinson and Company)で解析した。104個のLLCMK2(SeVdp/ KO/HygB/EGFP/Luc2)およびLLCMK2(SeVdp/Zeo/KO/CLuc + SeVdp/Bsr/EGFP/gp91phox)をそれぞれ2mLの生理的緩衝液に懸濁し、EGFPの蛍光強度(FL1)とKOの蛍光強度(FL2)を測定した。その結果、LLCMK2(SeVdp/ KO/HygB/EGFP/Luc2)ではEGFPの蛍光強度とKOの蛍光強度の比が常に一定であるのに対し、LLCMK2(SeVdp/Zeo/KO/CLuc + SeVdp/Bsr/EGFP/gp91phox)ではその比が非常に分散していることが示された(図6B)。またFL1とFL2の比を解析すると、LLCMK2(SeVdp/ KO/HygB/EGFP/Luc2)では50%以上の細胞が単一の比を示すのに対し、LLCMK2(SeVdp/Zeo/KO/CLuc + SeVdp/Bsr/EGFP/gp91phox)では0%から100%の間に広く分布していた(図6C)。
【0087】
以上の結果から、2つ以上の遺伝子を細胞に同時に導入して同じ比率で発現させることは、本発明で実施する4つの初期化遺伝子を同一のセンダイウイルスベクター上に搭載する方法では可能であるが、特許文献1・非特許文献12・非特許文献21で示されているような4つの初期化遺伝子を2つ以上のセンダイウイルスベクターに分けて別々に搭載する方法では不可能であることが示された。
【0088】
実施例8
ヒト胎児由来線維芽細胞からのヒトiPSマーカー発現細胞の誘導
(1)ヒトiPSマーカー発現細胞の誘導
ヒト胎児由来線維芽細胞であるTIG3細胞を12 well plateに1.0 x 105 cells/wellで播種し、翌日に実施例2で作製したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1、及び実施例3で作製したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2をそれぞれ培地中に加え、室温で2時間放置した後に37 ℃で一晩培養することによって感染させた。マイトマイシンC処理をしたMEFをフィーダー細胞として、ゼラチンコートしたディッシュ上に準備し、上記ベクター感染細胞をその上に蒔いて、hES medium(DMEM/F12, 20% KnockOut Serum Replacement (KSR), 0.1 mM nonessential amino acids, 0.55 mM 2-ME, 10 ng/ml bFGF)もしくは霊長類ES細胞用培地(ReproCELL)中で培養する。
【0089】
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1感染10日後ほどからヒトES細胞様のコロニーの形成が確認され、アルカリフォスファターゼ活性(後記(b))が確認された(図7)。また、RT-PCR法(後記(c)により、ヒトiPS細胞のマーカーであるヒトNanogが、これらのコロニーを形成する細胞において誘導されていることを確認した。(図8)。また、蛍光抗体法(後記(a))により、ヒトiPS細胞のマーカーであるSSEA-4が、これらのコロニーを形成する細胞において誘導されていることを確認した(図9)。また、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2を用いても同様の結果が得られた。
【0090】
(2)ヒトiPSマーカー発現細胞の誘導効率の検定
持続発現型センダイウイルスベクターで遺伝子導入した細胞のベクターゲノムRNA保持率を感染2日目にNPタンパク質に対する蛍光抗体法によって定量し、アルカリフォスファターゼ活性陽性コロニー数をベクター保持率で補正することによって、ヒトiPSマーカー発現細胞の誘導効率を算出した。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示される結果から、これまで報告されているレトロウイルスベクターによってhOct4, hSox2, hKlf4, h-c-Mycの4遺伝子を導入したiPS細胞作製の報告よりも有意に高い効率でヒトiPSマーカー発現細胞が誘導できることが明らかになった。また、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2を用いても同様の結果が得られた。
【0093】
実施例9
持続発現型センダイウイルスベクターのRNAゲノムの除去によるヒトiPS細胞の作製
実施例8で得たヒトiPSマーカー発現細胞を実施例6で示したようにL遺伝子に対するsiRNAで処理し、その後継続して培養することによって、ベクター感染約1ヶ月後には、センダイウイルスNPタンパク質に対する蛍光抗体染色(後記(a))でベクターのRNAゲノムが細胞中に残存していないコロニーの存在が確認された。さらにそのコロニーをクローニングし、NP遺伝子由来メッセンジャーRNA(mRNA)を検出するRT-PCR法(後記(c))によって確認し、ベクターゲノムが残存していないヒトiPS細胞クローンを得た(図10A)。また、ベクターRNAを除去した後もiPS細胞マーカーであるヒトNanogの発現が持続的に維持されていることをRT-PCR法(後記(c))により確認した(図10B)。また、蛍光抗体法(後記(a))により、ベクターRNAを除去した後もiPS細胞マーカーであるヒトSSEA-4とOct4の発現が持続的に維持されていることを確認した(図11)。
【0094】
実施例10
ヒトiPS細胞からのテラトーマ形成
実施例9で得られたヒトiPS細胞を1.0 x 106 cells/40 μL Hepes Buffered生理食塩水(HBSS)/匹になるように調製する。ネンブタール、イソフルラン麻酔下でマウス(C.B17/Icr-scidJcl)の精巣を露出させ、調製したiPS細胞を注入した後に縫合した。接種後約8週間で、肉眼で確認可能な奇形種が形成され、移植60日後に奇形種を摘出した。ブアン固定液(75%飽和ピクリン酸、12%ホルマリン、3%酢酸)によって固定した後、70%エタノール(1時間)、90%エタノール(1時間)、100%エタノール(1時間、2回)、50%エタノール:50%2-ブタノール(1時間)、100%2-ブタノール(30分を2回)の処理で脱水した。サンプルをパラフィン固定後、ミクロトームで厚さ6μmの切片を作製した。切片を脱パラフィン後、HE染色により観察した結果、三胚葉すべてへの分化が確認された(図12)。
【0095】
実施例11
初期化遺伝子を別々に搭載した持続発現型センダイウイルスベクターを用いたiPS細胞誘導
本発明で実施している4つの初期化遺伝子を同一のベクター上に搭載してiPS細胞を作製する方法と、特許文献1・非特許文献12・非特許文献21で示されているような4つの初期化遺伝子を2つ以上のベクター上に分けて搭載してiPS細胞を作製する方法について、iPS細胞の作製効率の比較を行った。4つの初期化遺伝子を同一のベクター上に搭載したベクターとして、実施例2で示したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1を用いた。また、4つの初期化遺伝子を2つ以上のベクター上に分けて搭載したベクターとして、実施例2で示したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1からhc-Myc遺伝子を除いたhOct4, hSox2, hKlf4持続発現用センダイウイルスベクターと、初期化遺伝子としてc-Mycだけを搭載したZeo/KO/hc-Myc持続発現型センダイウイルスベクターを用いた。Zeo/KO/hc-Myc持続発現型センダイウイルスベクターは、実施例3で作製したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 2からKlf4遺伝子を除き、Oct4遺伝子をZeo遺伝子で、Sox2遺伝子をKO遺伝子でそれぞれ置換して作製した。
【0096】
マウス胎児由来線維芽細胞に、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクター単独、もしくはhOct4, hSox2, hKlf4持続発現用センダイウイルスベクターとZeo/KO/hc-Myc持続発現型センダイウイルスベクターをベクター粒子比1:1で混合したものを実施例8に従って感染させ、iPS細胞コロニーの出現をアルカリフォスファターゼ陽性の細胞コロニーの出現を指標に検定した。その結果、本発明で実施している4つの初期化遺伝子を同一のベクター上に搭載してiPS細胞を作製する方法は、特許文献1・非特許文献12・非特許文献21で示されているような4つの初期化遺伝子を2つのベクター上に分けて搭載してiPS細胞を作製する方法に比較してはるかにiPS細胞作製効率が高いことが示された(図13
【0097】
実施例12
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3を用いたiPS細胞誘導
TIG3細胞を12 well plateに1.0 x 105 cells/wellで播種し、翌日に実施例3で作製したhOct4, hSox2, hKlf4, h-c-Myc持続発現用センダイウイルスベクターもしくは実施例4で作製したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3を培地中に加え、実施例8に従ってヒトiPS細胞を誘導した。
出現したコロニーをsiRNAの非存在下で2回植え継いだ後の感染24日後に、コロニーに対してNPタンパクに対する抗体を用いて蛍光染色したところ、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3を用いた場合、多くのコロニーでベクターの除去が確認された(図14)。それに対し、hOct4, hSox2, hKlf4, h-c-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 1を用いた場合はベクターがまだ残存していた。
【0098】
以上の結果から、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 3を用いてヒトiPS細胞を誘導した場合、誘導されたiPS細胞で発現するmir-302aの働きによって自動的にベクターが除去されることが明らかになった。また、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターVersion 4でも同様の効果があった。
【0099】
実施例13
ヒト末梢血単核細胞からのiPS細胞の樹立
成人の末梢血20mLをPBS(-) 20mLで希釈し、Lymphoprep 6mLに重層して1,800回転30分の遠心で、血小板を含む上層、単核細胞を含む中間層、赤血球を含む下層に分離した。中間層をPBS(-)で洗浄してヒト末梢血単核細胞とした。この細胞を使い、実施例8の方法に従ってhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを感染させ培養したところ、アルカリフォスファターゼ陽性でヒトES細胞と同様の形態を持ったiPS細胞が出現した(図15)。ベクターを感染させなかった陰性対照からは、このような細胞コロニーは出現しなかった。
【0100】
実施例14
ヒト末梢血からの単球の精製
成人(54歳、男性)の末梢血38mLをPBS(-) 42mLで希釈し、全体量を80mLとした。希釈した末梢血8mLを、7mLのFicoli-Paque PREMIUM 1.073 (GE Healthcare)に重層し、1800回転30分の遠心分離を行った。Ficoll層と上層の中間層から単球を含む単核細胞を回収した。この分画2.5mLに12mLのPBS(-), 2%ウシ胎児血清、1mM EDTAを加え、1000回転10分の遠心分離を行い、血小板を除いて単核細胞を沈渣として回収した。この単核細胞からさらに、抗CD14抗体結合磁気ビーズ(Miltenyi Biotec)を使って磁力により単球特異的抗原であるCD14陽性の細胞を精製した。精製した細胞は、抗CD14-FITC(DAKO)で染色し、フローサイトメーターで純度を検定した。Ficoli-Paqueによる精製後の純度は31%(図16A)、さらに抗CD14抗体結合磁気ビーズによる精製を行うと純度は98%以上となった(図16B)。最終精製細胞をライト染色で観察したところ、ほぼすべてが典型的な単球の形状を保持していた(図16C)。以上の試験を経て、計6 x 106個の純度98%以上の単球が回収された。
【0101】
実施例15
ヒト末梢血由来単球からのiPSマーカー発現細胞の誘導
(1)ヒトiPSマーカー発現細胞の誘導
実施例14で単離したヒト単球3 x 105個に、実施例2から5で作製したhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクター(Version 1、2、3及び4)を加えて200μLとし、室温で2時間感染させた。比較対照としては、初期化遺伝子を搭載していない持続発現型センダイウイルスベクターを使用した。感染後、培地(RPMI1640, 10%ウシ血清)500μLを加えて低速遠心し、ベクターを除去した。感染した単球はヒトES細胞用培地(ReproCELL)に懸濁し、フィーダー細胞(マイトマイシンCで前処理したマウス胎児由来線維芽細胞)を1.8 x 105個細胞/wellの密度で培養した12-wellプレートに、1 x 105細胞/well/500 μLで播種した後、37℃、5%炭酸ガス存在下で培養した。培養液は隔日で交換した。
【0102】
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを感染させたヒト単球では、培養5日目から8日目に、細胞が凝集して増殖するコロニーが観察された(図17A)。比較対照とした初期化遺伝子を搭載していない持続発現型センダイウイルスベクターを感染させた単球からはこのような細胞塊は出現しなかった。これらの細胞塊を構成する細胞は、ヒトiPS細胞のマーカーであるSSEA-4抗原及びTRA-1-60-抗原を発現していた(図17B、図17C)。
【0103】
(2)ヒト末梢血由来単球からのコロニー誘導効率の検定
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクター(Version 1、2、3及び4)感染後8日目において、[0091]図17Aで示した形状を持つコロニーの数を測定し、播種した細胞数(1 x 105細胞)で割って、コロニー誘導効率を算出した。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示された結果から、使用したベクターによって若干の差はあるが、およそ0.1%から0.6%の細胞が将来iPS細胞になる可能性を持つコロニーを形成していると考えられた。
【0106】
実施例16
持続発現型センダイウイルスベクターのRNAゲノムの除去によるヒトiPS細胞の作製
実施例15で出現したヒトiPSマーカー発現細胞をトリプシンで解離し、同じ培養条件で継代した。同時に、実施例6で示した方法により、培地に抗L遺伝子siRNAを合計で3回加え、センダイウイルスベクターを除去した。感染15日目に、ヒトES細胞用解離液を使って継代し、さらに2回siRNAで処理した。感染31日目には、典型的なヒトES/iPS細胞と同様に平板な形状を持つ細胞のコロニーが出現した(図18A、B)。出現したコロニーは、ヒトiPS細胞のマーカーであるNanog(図19A、B),Oct4(図19C、D)、SSEA-4抗原(図19E、F)、TRA-1-60抗原(図19G、H)、TRA-1-81抗原(図19I、J)を発現していたが、センダイウイルスのNP抗原は発現しておらず(図19K、L)、センダイウイルスベクターを含まないヒトiPS細胞であることが確認された。
【0107】
実施例17
ヒト単球由来iPS細胞におけるT細胞レセプター遺伝子のリアレンジメント解析
実施例14から16で示したヒト末梢血単球由来のiPS細胞の作製において、作製に使った単球の純度は98%以上であるため、実施例16で示したiPS細胞は単球由来である可能性が極めて高い。しかし、抗CD14抗体結合磁気ビーズによる精製前の単核細胞にはリンパ球(T細胞及びB細胞)が含まれている。特に、T細胞からはiPS細胞が作製できることが既に知られている(非特許文献10-12)ため、実施例16で示したiPS細胞が、使用した細胞材料に2%以下の確率で含まれるT細胞あるいはB細胞に由来する可能性を検討した。
【0108】
まず、ヒト末梢血B細胞はセンダイウイルスに感染できないことが知られている(Nakanishi, et al., J. Cont. Rel., 54, 61-68, 1998)ので、実施例16で示したiPS細胞がB細胞由来である可能性は否定される。一方、実施例16で示したiPS細胞がT細胞由来であるかどうかを検討するため、T細胞レセプター遺伝子のリアレンジメントを検討した。この手法は、白血病細胞がT細胞由来であるかどうかを診断する方法として臨床分野で確立している。
【0109】
ヒトiPS細胞のゲノムDNAは、DNeasy Blood & Tissue kit(QIAGEN社)を使って精製し、40ng(図20A)または20ng(図20B)を解析に使用した。T細胞レセプター・ベータ鎖遺伝子のリアレンジメントは、van Dongen, et al., Leukemia, 17, 2257-2317, 2003に記された方法によりPCR法で解析した。また、T細胞レセプター・ガンマ鎖遺伝子のリアレンジメントは、Benhattar, et al, Diagn. Mol. Pathol., 4, 108-112, 1995に記された方法によりPCR法で解析した。その結果を図20に示す。
【0110】
T細胞レセプター・ベータ鎖遺伝子にリアレンジメントが起こっている場合は、約300bpまたは約180bpのところに明確なDNAのバンドが検出される。比較対照として用いたT細胞由来iPS細胞のゲノムDNAではリアレンジメントが起こっており、明瞭なバンドが検出されるが、実施例16で示したiPS細胞2検体のゲノムDNAでは相当するバンドは検出されなかった(図20A)。同様に、
T細胞レセプター・ガンマ鎖遺伝子にリアレンジメントが起こっている場合は、約200bpのところに明確なDNAのバンドが検出される。比較対照として用いたT細胞由来iPS細胞のゲノムDNAではリアレンジメントが起こっており、明瞭なバンドが検出されるが、実施例16で示したiPS細胞2検体のゲノムDNAでは相当するバンドは検出されなかった(図20B)。
以上により、実施例16で示したiPS細胞はT細胞あるいはB細胞に由来するものではなく、単球に由来することが示された。
【0111】
上記実施例8〜16で用いた確認手段は以下のとおりである。
(a)間接蛍光抗体法による遺伝子発現の確認
各細胞におけるヒトOct4,ヒトSSEA-4, センダイウイルス NP遺伝子の発現を、それぞれの遺伝子産物に対する抗体を用いて蛍光抗体法で確認した。用いた一次抗体と希釈率は以下の通りである。ヒトOct4: rabbit anti-Oct4 polyclonal antibody (Abcam) [x400]; SSEA-4: マウスanti-SSEA-4 monoclonal antibody (Millipore) [x200];TRA-1-60: マウスanti-TRA-1-60 monoclonal antibody (Millipore) [x200];TRA-1-81: マウスanti-TRA-1-81 monoclonal antibody (Millipore) [x200];ヒトNanog: ウサギanti-Nanog polyclonal antibody (Abcam) [x1000];センダイウイルスNP: mouse anti-NP monoclonal antibody [x1000]もしくはrabbit anti-NP polyclonal antibody [x1000]
【0112】
(b)アルカリフォスファターゼ染色
培地を除去し、PBSで一回洗浄後、Vector Red Alkaline Phosphatase Substrate Kit I (Vector社)を加えて室温で20〜30分反応させた。アルカリフォスファターゼ活性を有する細胞は赤色に染色された。
【0113】
(c)逆転写Polymerase Chain Reaction法(RT-PCR法)によるヒトNanog, センダイウイルスNP遺伝子発現の確認
細胞からISOGEN(Nippon Gene)を用いてtotal RNAを抽出した。抽出したRNAを鋳型に用い、ランダムプライマーとSuperScript III First strand synthesis system(Life Technologies)を用いてcDNAを合成した後、以下に示したプライマーを用いて標的となるcDNAをPCR法で増幅し、発現の確認を行った。;ヒトNanog: 5’-AGCATCCGACTGTAAAGAAT-3’( 配列表・配列番号31(センス鎖))、5’-CCTCTCCACAGTTATAGAAG-3’( 配列表・配列番号32(アンチセンス鎖));SeV NP: 5’-AGACCCTAAGAGGACGAAGA-3’( 配列表・配列番号33(センス鎖))、5’-ACTCCCATGGCGTAACTCCATAGTG-3’( 配列表・配列番号34(アンチセンス鎖))。
【0114】
実施例18
ヒト末梢血単球由来iPS細胞からのテラトーマ形成
実施例16で得られたヒト末梢血単球由来iPS細胞を1.0 x 106 cells/40 μL Hepes Buffered生理食塩水(HBSS)/匹になるように調製する。ネンブタール、イソフルラン麻酔下でマウス(C.B17/Icr-scidJcl)の精巣を露出させ、調製したiPS細胞を注入した後に縫合した。接種後約8週間で、肉眼で確認可能な奇形種が形成され、移植60日後に奇形種を摘出した。ブアン固定液(75%飽和ピクリン酸、12%ホルマリン、3%酢酸)によって固定した後、70%エタノール(1時間)、90%エタノール(1時間)、100%エタノール(1時間、2回)、50%エタノール:50%2-ブタノール(1時間)、100%2-ブタノール(30分を2回)の処理で脱水した。サンプルをパラフィン固定後、ミクロトームで厚さ6μmの切片を作製した。切片を脱パラフィン後、HE染色により観察した結果、三胚葉すべてへの分化が確認され、ヒト末梢血単球由来iPS細胞が多能性を持っていることが確認された(図21)。
【0115】
実施例19
ヒト末梢血単球由来iPS細胞の血球細胞への再分化能の検討
ヒトiPS細胞は、しばしば作製に使った体細胞のエピジェネティックな性質を残しているため、元の体細胞と同じ組織の細胞に再分化しやすい傾向があることが知られている。もし、ヒト末梢血単球由来iPS細胞が完全なゲノムを持った造血前駆細胞に再分化しやすい傾向を持っていれば、再生医療や試験管内での血小板の製造などに極めて有用である。そこでES細胞を試験管内で血液細胞に分化させる系(Takayama, et al., Blood, 111, 5298-5306 (2008))を用いて、ヒト末梢血単球由来iPS細胞とヒト線維芽細胞由来iPS細胞の血液細胞への分化傾向を比較した。
【0116】
実施例16で得られたヒト末梢血単球由来iPS細胞および実施例9で得られたヒト線維芽細胞由来iPS細胞を、高山・中内らの方法(Takayama, et al., Blood, 111, 5298-5306 (2008))に従い、血球細胞へ再分化させた。使用直前に50Gyのガンマ線を照射して増殖能を失わせたマウス間葉系幹細胞株C3H10T1/2(理化学研究所バイオリソースセンターより入手)(100mmディッシュ1枚)の上に、100細胞程度の小塊にしたiPS細胞を重層して、分化培地(Iscove modified DMEM, 10 μg/mL human insulin, 5.5 μg/mL human transferring, 5 ng/mL sodium selenite, 2 mM L-glutamine, 0.45 mM monothioglycerol, 50 μg/mL ascorbic acid, 15% FCS, VEGF 20 ng/mL)にて2週間培養する。2週間後に、iPS-sacと呼ばれる袋状の構造を単離し、その中に含まれるCD34/CD43陽性の造血前駆細胞マーカー陽性の細胞数をフローサイトメーターで計測した(図22A)。結果は、ヒトiPS細胞105個あたりに出現するCD34/CD43陽性細胞の数で表した。
【0117】
ヒト末梢血単球由来iPS細胞4株のうち3株は、ヒト線維芽細胞由来iPS細胞に比べて造血前駆細胞への分化能が有意に高く、1株は同程度であった。このことから、同じようにhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って作製しても、ヒト末梢血単球由来iPS細胞はヒト線維芽細胞由来iPS細胞に比べてヒト造血前駆細胞に再分化しやすいことが示された。
【0118】
また、iPS-sac内に含まれる細胞2 x 104個を、ガンマ線照射済みC3H10T1/2細胞(6-well plate)の上にまき直し、サイトカイン・カクテル(human IL-6, IL-11, SCFを含む。Pharmacia & Upjohn社製)を含む分化培地で3種間培養した。培地は3日に一回交換し、3週間後に出現した血液細胞のコロニーをその形状で判定して数を定量した(図22B)。結果は、ヒトiPS細胞105個あたりに出現する顆粒球・マクロファージ・コロニー形成ユニット(CFU-GM)、赤芽球コロニー形成ユニット(CFU-E)、赤芽球バースト形成ユニット(BFU-E)、混合コロニー形成ユニット(CFU-Mix)の数とその総和で表した。ヒト末梢血単球由来iPS細胞4株のうち3株は、ヒト線維芽細胞由来iPS細胞に比べて、分化した血液細胞コロニーを作る活性が高く、1株は同程度であった。このことから、ヒト末梢血単球由来iPS細胞に由来するヒト造血前駆細胞は、マクロファージ・顆粒球・赤芽球への正常な分化能を持っていることが確認された。
【0119】
実施例20
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞と、ヒト線維芽細胞由来iPS細胞やヒトES細胞との遺伝子発現の比較
(1)解析用RNAサンプルの用意
実施例16で得られたヒト末梢血単球由来iPS細胞、及び実施例9で得られたヒト線維芽細胞由来iPS細胞を、フィーダー細胞を使わずに、MEF conditioned medium中でマトリゲル(Becton, Dickinson and Company)上に培養し、1.0 x 106細胞ずつ回収した。回収した細胞から、ISOGEN(Nippon Gene Co. Ltd.)を用いて全細胞RNAを抽出した。比較対象としては、ヒト正常線維芽細胞、ヒトES細胞およびレトロウイルスベクターでhOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc遺伝子を導入して作製した標準ヒトiPS細胞株201B7(京都大学・山中伸弥博士より供与された)を、同様に培養してRNAを抽出した。
【0120】
(2)遺伝子発現の解析
0.5 μgの全細胞RNAをQuick Amp Labelng Kit(Agilent Technologies, Inc.)を用いてCy3で標識する。標識したRNAはGene Expression Hybridization Kit(Agilent Technologies, Inc.)を用いて、Whole Human Genome (4x44k) DNA array(Agilent Technologies, Inc.)にハイブリダイゼーションさせ、Agilent DNAマイクロアレイスキャナを用いてシグナルを取得する。取得したシグナルはGeneSpringGX10ソフトウェア(Agilent Technologies, Inc.)を用いて解析し、各細胞クローン間の遺伝子発現を、発現の強度を赤から緑へのグラジエントで示すHeat Mapという表示方法で解析した(図23)。その結果、hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞は、同じ方法を用いて作製したヒト線維芽細胞由来iPS細胞や、標準ヒトiPS細胞株201B7、ヒトES細胞とほぼ同等の遺伝子発現パターンを示した。
【0121】
実施例21
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞のゲノムDNAにおけるT細胞レセプター遺伝子の再構成の解析
実施例16で得られたヒト末梢血単球由来iPS細胞が、使用した単球分画に少量混入しているTリンパ球由来ではないことを確認するために、T細胞レセプター遺伝子の再構成を検討した。分化したT細胞では必ずT細胞レセプター遺伝子の再構成が起こっており、α/β鎖からなるT細胞レセプターか、γ/δ鎖からなるT細胞レセプターのいずれかを持っている。このうちα/β鎖からなるT細胞レセプター持つ細胞では必ずβ鎖遺伝子の再構成が先に起こるため、この遺伝子を解析した。γ/δ鎖からなるT細胞レセプターを持つ細胞ではγ鎖とδ鎖の遺伝子が再構成しているので、両方の遺伝子を解析した。
【0122】
ヒトiPS細胞のゲノムDNAは、DNeasy Blood & Tissue kit(QIAGEN社)を使って精製し、0.5 μgを解析に使用した。陽性対象としては解析キットに付属している末梢血全T細胞由来のゲノムDNAと、各T細胞レセプター遺伝子に再構成が起こっていることが確認されているT細胞由来細胞株由来のゲノムDNAを使用した。また、陰性対照としては、線維芽細胞由来ヒトiPS細胞のゲノムDNAとマウス・フィーダー細胞のゲノムDNAを使用した。β鎖遺伝子とγ鎖遺伝子の再構成はTCRB+TCRG T-Cell Clonality Assay for ABI Fluorescence Detection (InvivoScribe Technologies社)を、δ鎖遺伝子の再構成はTCRD Clonality Assay for ABI Fluorescence Detection (InvivoScribe Technologies社)をそれぞれ用いて検出し、PCR産物のサイズを3130 Genetic Analyzer (Applied Biosystem社)で解析した。いずれの場合も、ゲノムDNAに含まれるT細胞レセプター遺伝子に再構成が起こっていれば特異的なPCR産物が検出できる。β鎖遺伝子の再構成の結果を図24に、γ鎖遺伝子の再構成の結果を図25に、δ鎖遺伝子の再構成の結果を図26に、それぞれ示す。いずれの場合も、ヒト末梢血単球由来iPS細胞のゲノムDNAではT細胞レセプター遺伝子の再構成に特異的なPCR産物は認められず、これらのiPS細胞が、その作製に使用した単球分画に少量混入しているTリンパ球由来ではないことが確認された。
【0123】
実施例22
hOct4, hSox2, hKlf4, hc-Myc持続発現用センダイウイルスベクターを使って樹立したヒト末梢血単球由来iPS細胞のゲノムDNAにおける免疫グロブリンH鎖遺伝子の再構成の解析
実施例16で得られたヒト末梢血単球由来iPS細胞が、使用した単球分画に少量混入しているBリンパ球由来ではないことを確認するために、分化しているB細胞では必ず起こっている免疫グロブリンH鎖遺伝子の再構成があるかどうかを検討した。
ヒトiPS細胞のゲノムDNAは、DNeasy Blood & Tissue kit(QIAGEN社)を使って精製し、0.5 μgを解析に使用した。陽性対象としては解析キットに付属している末梢血全B細胞由来のゲノムDNAと、再構成が起こっていることが確認されているB細胞由来細胞株由来のゲノムDNAを使用した。また、陰性対照としては、線維芽細胞由来ヒトiPS細胞のゲノムDNAとマウス・フィーダー細胞のゲノムDNAを使用した。免疫グロブリンH鎖遺伝子の再構成はIGH Gene Rearrangement Assay for ABI Fluorescence Detection (InvivoScribe Technologies社)を用いて検出し、PCR産物のサイズを3130 Genetic Analyzer (Applied Biosystem社)で解析した。いずれの場合も、ゲノムDNAに含まれる免疫グロブリンH鎖遺伝子に再構成が起こっていれば特異的なPCR産物が検出できる。解析結果を図27に示す。ヒト末梢血単球由来iPS細胞のゲノムDNAではいずれも免疫グロブリンH鎖遺伝子の再構成に特異的なPCR産物は認められず、これらのiPS細胞が、その作製に使用した単球分画に少量混入しているBリンパ球由来ではないことが確認された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、再生医療及び創薬支援技術への利用が可能である。
図24
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図25
図26
図27
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]