【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1〕『発酵温度による納豆への影響』
発酵温度を高温にした場合、納豆の性質にどのような影響を与えるかを検討した。
【0060】
(1)「納豆の製造」
乾燥大豆を水に16時間浸漬し、水切りした後、1.65kg/cm
2で30分間加圧蒸煮した。蒸煮した大豆1gあたり10
5個の納豆菌(納豆菌株:21541株)を添加し、軽く均一化した。
その後、50gずつをPSP製納豆容器に入れて蓋をし、41℃の発酵室(通常の発酵温度), 又は, 49℃の発酵室(通常よりも高い発酵温度)に静置し、表1に示す各所定時間(4, 8, 10, 12, 17時間)の発酵を行った。なお、発酵室静置時の各試料の品温は30℃以上であった。また、その後の品温は、発酵熱により表1に示す温度となっていた。
各所定時間に達した後、各試料を5℃の冷蔵室に移動して静置し、直ちに品温を5℃まで冷却した。
なお、ここで製造した納豆のうち、41℃の発酵室で17時間発酵させたもの(試料1-n5)が、通常の納豆に相当する。
【0061】
得られた各納豆について、以下の項目の官能評価を行なった。
納豆の表面における納豆菌の菌膜(白色菌膜)形成の抑制度合い(外観)について、菌膜形成が無い場合,又は, 薄い菌膜しか形成されない場合を「○」と評価した。一方、菌膜が厚く形成された場合を「×」と評価した。
また、煮豆の風味について、煮豆の風味が感じられる場合を「○」と評価した。一方、煮豆の風味が感じられない場合を「×」と評価した。
また、糸引き性について、十分に強い場合を「○」と評価した。一方、糸引きが弱い場合, 又は,糸引きが全くない場合を「×」と評価した。結果を表1に示した。
【0062】
(2)「結果」
・菌膜について
その結果、通常の発酵温度の発酵室(室温41℃)で発酵を行った場合、豆の品温は発酵熱により4時間経過時には42℃に上昇し、8時間目以降は47℃で一定となった。
当該通常の発酵条件では、10〜17時間目まで発酵を進行させると、豆表面に厚い菌膜が形成され、外観が好ましくないものとなった(試料1-n5)。
【0063】
一方、高温の発酵温度の発酵室(室温49℃)で発酵を行った場合、豆の品温は発酵熱により4時間経過時には49℃に上昇し、8〜17時間目までの間50〜52℃で一定となった。
当該高温発酵を含む発酵条件では、17時間目まで発酵を進行させた場合でも、豆表面にほとんど菌膜が形成されず、納豆としての外観が非常に好ましくなることが示された(試料1-h5)。
【0064】
これらのことから、通常の発酵温度よりも高い温度で発酵(高温発酵)を行うことによって、納豆の外観を悪くする白い菌膜の形成を防止することができることが明らかになった。
【0065】
・糸引き性, 煮豆風味について
また、上記いずれの発酵条件においても、得られた納豆に十分な糸引き性を付与するには、12時間以上の発酵が必要であることが示された(試料1-n4, 1-n5, 試料1-h4, 1-h5)。
しかし、12時間以上の発酵を行った場合、逆に、煮豆風味が失われてしまうことが示された(試料1-n4, 1-n5, 試料1-h4, 1-h5)。
【0066】
このことから、発酵温度を単に変更するだけの設計変更では、十分な糸引き性を付与すると同時に優れた煮豆風味を有する納豆、を製造することができないことが判明した。
【0067】
【表1-1】
【0068】
【表1-2】
【0069】
〔実施例2〕『冷却条件の違いによる納豆への影響』
高温発酵後の冷却条件の違いが、納豆の性質にどのような影響を与えるかを検討した。
【0070】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例1に記載の方法と同様の操作を行って各納豆を製造した。
納豆菌液を添加した蒸煮大豆を、49℃の発酵室に8時間静置した。なお、発酵室静置時の各試料の品温は30℃以上であった。この時の経時的な豆の品温は、4時間経過時で49℃、8時間経過時で52℃であり、高温発酵が行われる条件であった(実施例1の試料1-h2の条件)。その後、30分かけて品温を、47℃(通常の発酵温度帯の上限より少し上の温度)まで冷却した。
次いで、各試料を、冷却機能を備えたインキュベーター内に移動し、品温を47℃から20℃まで冷却する操作を表2に示す各所定時間を要するようにして行った。即ち、冷却速度が速い条件(試料2-1)、中程度の条件(試料2-2)、遅い条件(試料2-3)を設定した。
そして、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した。
【0071】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表2に示した。
【0072】
(2)「結果」
その結果、高温発酵を行った後、4時間20分かけて品温を47℃から20℃までの冷却を行った場合(試料2-2)、製造された納豆には、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
【0073】
一方、冷却速度を早く(2時間かけて品温を47℃から20℃まで冷却)した場合(試料2-1)、納豆に十分な糸引き性が付与されなかった。これは、冷却時での発酵を含む全発酵工程を通じて、十分な量の糸引き成分が生成されなかったためと推測された。
また、冷却速度を遅く(8時間40分かけて品温を47℃から20℃まで冷却)した場合(試料2-3)、納豆に十分な糸引き性が付与されたが、厚い菌膜が形成されてしまい、外観が好適なものとならなかった。また、煮豆の風味も失われてしまった。これは、冷却時での発酵時間が長過ぎためと推測された。
【0074】
これらのことから、上記優れた嗜好性を有する納豆を製造するためには、適切な速度での冷却が必要であることが示された。
【0075】
【表2】
【0076】
〔実施例3〕『冷却条件の検討1』
通常の発酵温度に相当する温度帯(37<〜<47℃)について、当該温度帯を通過させるための冷却条件の違いが、納豆の性質にどのような影響を与えるかを調べた。
【0077】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例2に記載の方法と同様の操作を行って各納豆を製造した。
納豆菌液を添加した蒸煮大豆について、実施例2に記載の方法と同様にして、高温発酵を含む条件での発酵を行った。なお、各試料の品温は、発酵室静置時に30℃以上であった。
その後、品温を47℃から37℃まで冷却する操作を、表3に示す各所定時間を要するようにして行った。即ち、当該温度帯を通過させるための冷却について、冷却速度の異なる5段階の条件(試料3-1〜3-5)を設定した。
次いで、各試料の品温が37℃に到達した後、37℃から20℃までの冷却を3時間かけて行った。
最後に、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した。
【0078】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表3に示した。
【0079】
(2)「結果」
その結果、品温47℃から37℃までの冷却を30分〜2時間で行った場合(試料3-1〜試料3-4)、製造された納豆には、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
一方、品温47℃から37℃までの冷却を2時間40分かけて行った場合(試料3-5)、糸引き性は十分に強くなるものの、厚い菌膜が形成され、煮豆風味が失われたものとなった。
これは、当該温度帯においては通常の発酵が促進され、菌膜形成が促進されたためと推測された。
【0080】
これらのことから、冷却処理における47〜37℃の温度帯(通常の発酵温度に相当する温度帯)の通過は、菌膜形成による外観悪化を防ぐために、2時間40分を超えない時間内で冷却を完了させることが必要であることが示された。
また、当該温度帯の冷却処理を30分で行った場合でも、好適な納豆の製造が可能なことから(試料3-1)、冷却速度の上限値は特に納豆に影響を与えないものと推測された。
【0081】
【表3】
【0082】
〔実施例4〕『冷却条件の検討2』
通常の発酵温度に相当する温度帯を通過した後の温度帯(20〜37℃)について、当該温度帯を通過させるための冷却条件の違いが、納豆の性質にどのような影響を与えるかを調べた。
【0083】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例2に記載の方法と同様の操作を行って、各納豆を製造した。
納豆菌液を添加した蒸煮大豆について、実施例2に記載の方法と同様にして、高温発酵を含む条件での発酵を行った。なお、各試料の品温は、発酵室静置時に30℃以上であった。
その後、品温を47℃から37℃まで冷却する操作を、1時間40分かけて行った(実施例3の好適条件)。
次いで、各試料の品温が37℃に到達した後、37℃から20℃までの冷却を表4に示す各所定時間を要するようにして行った。即ち、当該温度帯を通過させるための冷却について、冷却速度の異なる4段階の条件(試料4-1〜4-4)を設定した。
そして、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した。
【0084】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表4に示した。
【0085】
(2) 「結果」
その結果、品温37℃から20℃までの冷却を3〜6時間で行った場合(試料3-2〜試料3-3)、製造された納豆には、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
【0086】
一方、品温37℃から20℃までの冷却を1時間30分で(早い速度で)行った場合(試料3-1)、納豆に十分な糸引き性が付与されなかった。
また、品温37℃から20℃までの冷却を8時間で(遅い速度で)行った場合(試料3-4)、納豆に十分な糸引き性は付与されたが、厚い菌膜が形成されてしまい、外観が好適なものとならなかった。
【0087】
これらのことから、冷却処理における37〜20℃の温度帯(通常の発酵温度より低温の温度帯)の通過は、1時間30分より長い時間から8時間未満の間で完了するように、適切に冷却することが必要であることが示された。
即ち、当該温度帯は、通常の発酵とは特性の異なる発酵が起こる「低温発酵温度帯」であることが示された。具体的には、当該温度帯では、納豆菌の発酵作用が弱まり菌膜形成や煮豆風味喪失が起こりにくい温度帯であるが、糸引き成分の生成は比較的活発に行われる温度帯であると推測された。
【0088】
【表4】
【0089】
〔実施例5〕『発酵温度の検討1』
菌膜形成の抑制が可能な高温発酵の至適温度範囲について、詳細な検討を行った。
【0090】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例2に記載の方法と同様の操作を行って、各納豆を製造した。
納豆菌液を添加した蒸煮大豆を、43℃, 46℃, 49℃, 52℃, 55℃の各温度に調整した発酵室で、8時間静置した(試料5-1〜5-4)。なお、発酵室静置時の各試料の品温は30℃以上であった。この時の経時的な豆の品温は、表5に示す通りであった。
その後、各試料の品温を、47℃(高温発酵温度の下限)まで冷却した。
次いで、品温を47℃から37℃まで冷却する操作を1時間20分〜1時間40分で完了するように行い(実施例3の好適条件)、37℃から20℃までの冷却を3時間かけて行った(実施例4の好適条件)。
そして、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した。
【0091】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表5に示した。
【0092】
(2) 「結果」
その結果、発酵室の温度を46〜52℃にして8時間の高温発酵を含む条件の発酵を進行させ、その後に適切な冷却による低温発酵を行った場合、製造した納豆は、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
これらの条件での豆の品温は「47〜53℃」であったことから、当該温度範囲は、菌膜形成が抑制されつつ発酵が行われる温度帯であることが示された。
(なお、表5において、当該温度帯を外れる温度を「*」で示した。)
【0093】
一方、発酵室の温度を43℃にして発酵行った場合、厚い菌膜が形成され、外観が好適な納豆にならなかった。
この条件での豆の品温は、4時間経過時にはまだ45℃(通常の発酵温度)であり、6時間経過時以降になってからようやく47℃(高温発酵温度)に達した。
このことから、高温発酵温度に達するまでに長い時間を要した場合(即ち、通常の発酵温度に留まる時間が長かった場合)、菌膜形成を防止できないことが示された。
【0094】
また、発酵室の温度を55℃に設定して発酵行った場合、発酵自体が全く起こらなかった。この時の豆の品温は、2時間経過時で54℃に達し、その後も54℃の状態が維持されていた。
このことから、品温が54℃以上で継続発酵した場合、温度が高すぎて納豆菌の発酵自体が停止することが示された。
【0095】
【表5】
【0096】
〔実施例6〕『発酵温度の検討2』
発酵を開始した後、どの程度の時間の内に高温発酵を行う必要があるかを調べた。
【0097】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例2に記載の方法と同様の操作を行って、各納豆を製造した。
納豆菌液を添加した蒸煮大豆を、発酵室で8時間静置した。なお、発酵室静置時の各試料の品温は30℃以上であった。発酵室の温度は、40℃にて表6に示す所定時間を経過の後、49℃に上昇させる変更を行った(試料6-1〜6-4:合計時間はいずれも8時間)。この時の経時的な豆の品温は、表6に示す通りであった。
その後、各試料の品温を、47℃(高温発酵温度の下限)まで冷却した。
次いで、品温を47℃から37℃まで冷却する操作を1時間40分で完了するように行い(実施例3の好適条件)、37℃から20℃までの冷却を3時間かけて行った(実施例4の好適条件)。
そして、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した。
【0098】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表6に示した。
【0099】
(2) 「結果」
その結果、発酵室の温度を40℃で1〜3時間経過させた後に、残りの時間(7〜5時間)を49℃に変更した場合(試料6-1〜6-3)、その後に適切な冷却による低温発酵を行うことで、製造した納豆は、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
これらの条件での豆の品温は、2時間経過時にはまだ39〜46℃(通常の発酵温度)であったが、4時間経過時には47〜49℃(高温発酵温度)に達し、それ以降も50〜51℃で一定であった。
【0100】
一方、発酵室の温度を40℃で4時間経過させた後で、残りの時間(4時間)を49℃に変更した場合(試料6-4)、厚い菌膜が形成され、外観が好適な納豆にならなかった。
この条件での豆の品温は、4時間経過時にはまだ38℃(通常の発酵温度)であり、6時間経過時に48℃(高温発酵温度)に達していた。
【0101】
これらのことから、発酵開始後、豆の品温が通常の発酵温度帯に留まる時間が4時間よりも長いと、菌膜形成が厚くなることが示された。
従って、本発明においては、遅くとも発酵開始から4時間経過時までには、豆の品温が「高温発酵温度帯」(47〜53℃)に達していることが必要であると判断された。
【0102】
【表6】
【0103】
〔実施例7〕『発酵時間の検討1』
上記高温発酵温度帯での発酵が最短でどの程度必要かを検討した。
【0104】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例2に記載の方法と同様の操作を行って、各納豆を製造した。
納豆菌液を添加した蒸煮大豆を、46℃に設定した発酵室に静置し、表7に示す各所定時間(6, 7, 8時間)の発酵を行った(試料7-1〜7-3)。なお、発酵室静置時の各試料の品温は30℃以上であった。これらの試料の豆の品温は、発酵開始から4時間経過時迄には47℃(高温発酵温度)に達し、発酵終了まで48〜50℃(高温発酵温度)付近で維持されていた。
その後、各試料の品温を、47℃(高温発酵温度の下限)まで冷却した。
【0105】
次いで、品温を47℃から37℃まで冷却する操作を1時間40分で完了するように行い(実施例3の好適条件)、37℃から20℃までの冷却を3時間かけて行った(実施例4の好適条件)。
そして、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した。
【0106】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表7に示した。
【0107】
(2) 「結果」
その結果、発酵開始4時間経過時点から高温発酵完了迄の時間を、3時間で行った場合(試料7-2)、その後に適切な冷却による低温発酵を行うことで、製造した納豆は、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
一方、発酵開始4時間経過時点から高温発酵完了までを2時間で行った場合では(試料7-1)、十分な糸引き性が得られず、発酵時間が不十分であることが示された。
【0108】
このことから、高温発酵を含む条件での発酵では、発酵開始4時間から高温発酵完了迄の時間が、最低でも2時間より長い時間が必要であることが示された。
【0109】
【表7】
【0110】
〔実施例8〕『発酵時間の検討2』
上記高温発酵温度帯での発酵が、最長でどの程度まで行うことが可能かを検討した。
【0111】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例2に記載の方法と同様の操作を行って、各納豆を製造した。
納豆菌液を添加した蒸煮大豆を、51℃に設定した発酵室に静置し、表8に示す各所定時間(10, 11, 12時間)の発酵を行った(試料8-1〜8-3)。なお、発酵室静置時の各試料の品温は30℃以上であった。これらの試料の豆の品温は、短時間で47℃(高温発酵温度)に達し、発酵終了まで50〜52℃(高温発酵温度)付近で維持されていた。
その後、各試料の品温を、47℃(高温発酵温度の下限)まで冷却した。
【0112】
次いで、品温を47℃から37℃まで冷却する操作を1時間40分で完了するように行い(実施例3の好適条件)、37℃から20℃までの冷却を3時間かけて行った(実施例4の好適条件)。
そして、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した。
【0113】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表8に示した。
【0114】
(2) 「結果」
その結果、酵開始4時間経過時点から高温発酵完了迄の時間を、7時間で行った場合(試料8-2)、その後に適切な冷却による低温発酵を行うことで、製造した納豆は、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
一方、発酵開始4時間経過時点から高温発酵完了までを8時間で行った場合(試料8-3)、煮豆の風味が失われることが示された。
【0115】
このことから、高温発酵を含む条件での発酵では、発酵開始4時間から高温発酵完了までを8時間を超えない時間内に行うことが必要であることが示された。
【0116】
【表8】
【0117】
〔実施例9〕『納豆菌株への応用の検討』
上記納豆の製造方法が、他の納豆菌株でも適用可能な一般的な方法かを確認した。
【0118】
(1)「納豆の製造」
以下に記載した条件を採用した点を除いては、実施例2に記載の方法と同様の操作を行って、各納豆を製造した。
表9に示した納豆菌の菌株(蒸煮大豆1gあたり10
5個)を添加した蒸煮大豆を、49℃にした発酵室で、8時間静置した(試料5-3の好適条件)。なお、発酵室静置時の各試料の品温は30℃以上であった。これらの試料の豆の品温は、短時間で48℃(高温発酵温度)に達し、発酵終了まで50℃(高温発酵温度)付近で維持されていた。
その後、各試料の品温を、47℃(高温発酵温度の下限)まで冷却した。
次いで、品温を47℃から37℃まで冷却する操作を1時間40分で完了するように行い(実施例3の好適条件)、37℃から20℃までの冷却を3時間かけて行った(実施例4の好適条件)。
そして、各試料の品温が20℃に到達した後、5℃の冷蔵室に移動して静置し、品温を5℃まで冷却した(試料9-1〜9-6)。
【0119】
なお、対照1として、49℃の発酵室での静置を6時間(高温発酵必須期を2時間しか行わなかった条件)で行ったことを除いては同様にして、納豆を製造した(試料9-s1〜9-s6)。
また、対照2として、41℃に設定した発酵室で17時間静置(通常の発酵条件)での発酵を行い、納豆を製造した(試料9-n1〜9-n6)。
【0120】
得られた各納豆について、実施例1と同様にして、菌膜形成の抑制度合い(外観)、煮豆の風味、糸引き性、についての官能評価を行なった。結果を表9に示した。
【0121】
(2) 「結果」
その結果、実施例1〜8で検討した条件での高温発酵と低温発酵を適切に行うことによって、21541株, 宮城野菌, 高橋菌, 成瀬菌、N64株, OUV23481株のいずれの納豆菌株を用いた場合でも(試料9-1〜9-6)、製造した納豆は、菌膜形成がほとんど起こらず(外観が優れ)、煮豆風味を有し、さらに糸引き性も十分に強くなることが示された。
このことから、実施例1〜8で示された納豆の製造法は、多くの一般的な納豆菌株に適用可能な普遍性の高い方法であることが確認された。
【0122】
一方、高温発酵必須期を2時間しか行わなかった場合、いずれの菌株についても発酵が十分に進行せず、糸引き性が不十分な納豆しか製造できなかった(試料9-s1〜9-s6)。
また、通常の発酵を行った場合では、厚い菌膜が形成されてしまい、外観が好適なものとならなかった。また、煮豆の風味も失われてしまった(試料9-n1〜9-n6)。
【0123】
【表9-1】
【0124】
【表9-2】
【0125】
【表9-3】
【0126】
〔実施例10〕『菌膜形成抑制度合い定量評価』
製造された納豆の菌膜形成抑制度合いについての定量評価を行った。
【0127】
(1)「濁度の測定」
実施例4, 9で製造した各納豆100g(2パック分)に、2倍量(200ml)の水を添加し、豆を潰さないようにスパーテルにて攪拌した。当該攪拌を30分ごとに行い、常温(20℃)で3時間放置することで、水溶性成分を抽出した。
その後、メッシュで濾過して固形分を除去し、濾液(抽出液)を回収した。
【0128】
得られた各抽出液を水で10倍に希釈し、分光光度計にて波長660nmの濁度(OD660)を測定した。結果を表10に示した。なお、表中においては、測定値の高い順に試料を並べて示した。
【0129】
(2) 「結果」
その結果、菌膜形成が抑制された納豆では(試料4-3, 9-1〜9-6, 9-s1〜9-s6)、抽出液のOD660nm(濁度)が低い値を示した。一方、厚い菌膜が形成された納豆では(試料4-4, 9-n1〜9-n6)、抽出液のOD660nm(濁度)は高い値を示した。
このことから、菌膜形成の抑制度合いは、納豆抽出液のOD660nm(濁度)の値で数値化して定量できることが示された。
【0130】
なお、菌膜形成が抑制された納豆のうち、抽出液のOD660の最大値は0.430(試料4-3)であった。
当該値の10倍値は4.3であることから、水100mLあたりに納豆50gを攪拌し常温(20℃)で3時間放置して得た抽出液のOD660値(濁度)が、当該値以下を示す納豆では、菌膜形成が抑制されている(優れた外観を有する)と判断された。
【0131】
【表10】
【0132】
〔実施例11〕『糸引き性の定量評価』
製造された納豆が有する糸引き性についての定量評価を行った。
【0133】
(1)「粘度の測定」
実施例10で調製した納豆抽出液(濾液)について、B型粘度計を用いて20℃, 30rpm, 20秒の条件で粘度(mPa・s)を測定した。結果を表11に示した。なお、表中においては、測定値の高い順に試料を並べて示した。
【0134】
(2) 「結果」
その結果、糸引き性が十分である納豆では(試料9-1〜9-6)、粘度が高い値を示した。一方、糸引き性が不十分な納豆では(試料9-s1〜9-s6)では、粘度が低い値を示した。
このことから、納豆の糸引き性の強さの度合いは、納豆抽出液の粘度の値で数値化して定量できることが示された。
【0135】
なお、糸引き性が十分と判断される納豆のうち、抽出液の粘度の最小値は80mPa・s(試料9-3)であった。
このことから、水100mLあたりに納豆50gを攪拌し常温(20℃)で3時間放置して得た抽出液の粘度が、当該値以上を示す納豆では、糸引き性が十分付与されていると判断された。
【0136】
【表11】
【0137】
〔発酵条件の要約〕
以上の試験により、上記優れた嗜好性を有する納豆を製造するためには、
図1に示す温度条件と時間条件を満たす発酵工程が必須であることが示された。
【0138】
また、本発明の発酵工程における各発酵温度帯について、それぞれの発酵特性を記載した表を、表12に示した。なお、表中の符号は、「++」、「+」、「±」、「−」の順で活性が高いことを示した。
【0139】
【表12】