(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964121
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれを使用した垂直磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
G11B 5/738 20060101AFI20160721BHJP
G11B 5/851 20060101ALI20160721BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
G11B5/738
G11B5/851
C23C14/34 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-94409(P2012-94409)
(22)【出願日】2012年4月18日
(65)【公開番号】特開2013-222488(P2013-222488A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074790
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 彊
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【審査官】
中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−273000(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/128372(WO,A1)
【文献】
特開2012−033253(JP,A)
【文献】
特開2004−039196(JP,A)
【文献】
特開平09−293227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/738
C23C 14/34
G11B 5/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CrTi系合金において、原子比における組成式が(Cr,Mo,W)X (Ti,Ta,Zr)100-X 、40≦X≦70で表され、かつCr元素に対してMo,Wの1種または2種をMo+W:10〜X/2at%、Ti元素に対してTa,Zrの1種または2種をTa+Zr≦20at%(0%を含む)の範囲で置換することを特徴とする磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金を用いたスパッタリングターゲット材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金を使用した垂直磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金およびスパッタリング用ターゲット材並びにそれを使用した垂直磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められており、従来普及していた面内磁気記録媒体より更に高記録密度が実現できる、垂直磁気記録方式が実用化されている。更に、垂直磁気記録方式を応用し、熱やマイクロ波により記録をアシストする方法も検討されている。ここで垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜中の媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、高記録密度に適した方法である。
【0003】
垂直磁気記録方式では、軟磁性裏打ち層および垂直磁気記録層を組み合わせた二層垂直磁気記録媒体と単磁極型ヘッドとの組み合わせが高記録密度を実現する上で有効である。しかし、軟磁性裏打ち層の膜厚は数十nm〜数百nmと厚いため、表面平坦性が低下し、垂直磁気記録層の形成およびヘッドの浮上性に悪影響を及ぼしたり、さらには、膜応力が大きいために、ガラス基板との密着性が低下する可能性がある。
【0004】
こうした問題を解決する手段として、例えば特開2006−114162号公報(特許文献1)に開示されているように、ガラス基板と軟磁性裏打ち層との間に、密着性を上げるための密着層を形成した磁気記録媒体が用いられている。この密着層に用いられる合金は、表面の平坦性を確保するためにアモルファスであること。基板および磁性層との密着性の良いことが必要である。
【0005】
そこで、このような密着層材料として、例えば特開2008−10088号公報(特許文献2)に開示されているように、密着性の高いCrにTiやTaなどを添加してアモルファス化したCrTi、CrTaなどや、特開2010−92567号公報(特許文献3)に開示されているように、NiにTaを添加してアモルファス化したNiTa合金が提案されている。
【特許文献1】特開2006−114162号公報
【特許文献2】特開2008−10088号公報
【特許文献3】特開2010−92567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した材料を用いる場合、膜の固有抵抗が高いために、スパッタプロセス中に膜表面に蓄積する電荷を放電するために、ある程度(5nm)以上の膜厚が必要であり、このように膜厚を厚くして用いる場合、長時間使用していると徐々に密着層中にパーティクルが増加していき、磁気記録媒体の欠陥発生を増加させるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、膜厚を薄くしても、スパッタプロセス中に問題が発生しない密着層を使用し、欠陥発生の少ない垂直磁気記録媒体を提供することを目的とするものである。すなわち、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、密着層の固有抵抗を下げる、つまり電気伝導度を上げることができ、膜厚を薄くしても、スパッタプロセス中に問題が発生しない合金として、CrTi系合金においてCrをMo,Wの高融点金属を10at%以上置換し、電気伝導性を向上させ、さらに、TiをZr,Taの高融点金属で置換することにより電気伝導性をより向上させた磁気記録媒体用スパッタリングターゲット材並びにそれを使用した垂直磁気記録媒体にある。
【0008】
その要旨とするところは、
(1)CrTi系合金において、原子比における組成式が(Cr,Mo,W)
X (Ti,Ta,Zr)
100-X 、40≦X≦70で表され、かつCr元素に対してMo,Wの1種または2種をMo+W:10〜X/2at%、Ti元素に対してTa,Zrの1種または2種をTa+Zr≦20at%(0%を含む)の範囲で置換することを特徴とする磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金。
【0009】
(2)前記(1)に記載の磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金を用いたスパッタリングターゲット材。
(3)前記(1)または(2)に記載の磁気記録媒体に用いる密着膜層用CrTi系合金を使用した垂直磁気記録媒体にある。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明は、高い電気伝導度を有するアモルファス合金であり、磁気記録媒体においてガラス基板と軟磁性裏打ち膜の間に成膜される密着層の膜厚を薄くすることができるスパッタリングターゲット材を提供することにある。すなわち、密着層を薄くすることで、密着層中のパーティクルを低減し、欠陥発生の少ない垂直磁気記録媒体を提供できる。このように、本用途の密着層用合金に電気伝導度を高めて密着層厚みを低減する効果を奏するものである。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
密着層の膜厚を低減するために、従来の密着層の特性であるアモルファスを維持しつつ、その電気伝導率を上げることができる組成について検討したところ、CrをMo,Wに置換することで、電気伝導率を向上させることができること。また、Cr,Mo,Wを適切な範囲にしつつ、3種類以上の元素を含むことで、従来組成と同等のアモルファス性を保つことができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の限定理由を説明する。
Mo+W:10〜X/2at%
本発明合金において、Crはガラス基板、軟磁性裏打ち膜との密着性を向上させる元素であるが、それと周期律表で同族のMo,Wは、近い特性を示し、かつCrよりも電気伝導度が高い元素である。Crをこれらの元素に置換することで、高い電気伝導率が得られるが、10at%未満では、顕著な効果が見られないため、10at%以上の範囲とした。好ましくは15at%以上が必要である。上限については、基本元素のCr含有量との関係からX/2at%とした。
【0013】
(Cr,Mo,W)
X (Ti,Ta,Zr)
100-X 、40≦X≦70
Cr系合金(Cr,Mo,W)の比率および合金に含まれる元素の種類は合金のアモルファス性に影響を及ぼす。(Cr,Mo,W)の比率が40%未満、または70%超の場合は密着膜として必要なアモルファス性が低下する。また、(Cr,Mo,W)の比率は、望ましくは45〜65%である。また、アモルファス性は元素種が多いほど高まるため、3種以上の元素を含ませることで、アモルファス性を向上させることができる。
【0014】
Ta+Zr≦20at%(0を含む)
また、Ta,Zrは、TiをZr,Taの高融点金属で置換することにより電気伝導性を向上させた元素であり、しかも、Tiと周期律表で同族のZr、またはTaは近い特性を示し、TiにTa,Zr元素を置換することで、電気伝導性をより向上させることができるが20at%を超える添加はその効果が飽和することから、その上限を20%とした。
【実施例】
【0015】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に示す組成で純金属(純度3N以上)なる原料粉末を混合し、HIP成形(熱間等方圧プレス)の原料粉末として用いた。混合は、V型混合機を使用した。HIP成形用ビレットは、直径200mm、長さ10mmの炭素鋼製缶に原料粉末を充填したのち、真空脱気、封入し作製した。この粉末充填ビレットを温度1050℃、圧力120MPa、保持時間2時間の条件でHIP成形した。その後、成形体から直径95mm、厚さ2mmの軟磁性合金スパッタリングターゲット材を作製した。このスパタリングターゲット材を用い密着層薄膜をガラス基板上に作製した。
【0016】
チャンバー内を1×10
-4Pa以下に真空排気し、純度99.99%のArガスを0.6Pa投入しスパッタを行った。まず、洗浄したガラス基板上に20nmの密着層を成膜し、その上に酸化防止用に純Ta膜を5nm成膜した。純Ta膜は市販の純Taターゲットを使用して成膜した。
【0017】
このようにして作製した単層膜を試料とし、アモルファス性はX線回折、電気伝導度は、4端子法により求めた固有抵抗の逆数で評価した。結晶構造については、非晶質を○、非晶質の中に一部微結晶が見られるものを×とした。電気伝導度については、比較例No.8のCr50Tiの値を1とした場合に、1〜1.1未満までを×、1.1〜1.3未満までを△、1.3〜1.5未満までを○、1.5以上を◎とした。これらの結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
表1に示すNo.1〜9は本発明例であり、No.10〜14は比較例である。
【0019】
表1に示すように、比較例No.10は、CrとTiとの2種元素であり、そのために電気伝導性が悪い。比較例No.11は、Cr,Mo,Wの合計含有量が70%以上と高く、Ti含有量が低いために、アモルファス性が悪い。比較例No.12は、Cr,Mo,Wの合計含有量が35%と低く、かつMo,Wのいずれも含有していないために、アモルファス性が悪い。
【0020】
比較例No.13は、Mo,Wが含有しないために、電気伝導度が劣る。比較例No.14は、比較例No.13と同様にMo,Wが含有しないために、電気伝導度が悪い。これに対して、本発明例であるNo.1〜9は、いずれも本発明条件を満たしていることから、電気伝導度、およびアモルファス性のいずれにおいても優れていることが分かる。
【0021】
以上述べたように、本発明により、密着層の固有抵抗を下げる。つまり電気伝導度を上げることができ、膜厚を薄くしても、スパッタプロセス中に問題が発生しない合金として、CrTi系合金において、CrをMo,Wの高融点金属を10at%以上置換し、電気伝導性を向上させ、さらにTiをZr,Taの高融点金属で置換することにより電気伝導性をより向上させた磁気記録媒体用スパッタリングターゲット材並びにそれを使用した垂直磁気記録媒体を提供することにある。
特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊