(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
陽極と陰極との間に配置された発光層を含む有機薄膜層を備えるOLEDは、当技術分野で公知である。そのような素子において、光放出は、発光層内に注入される正孔と電子との再結合によって生成される、励起子エネルギーから得られ得る。
【0003】
一般的に、OLEDは、素子を通して電圧を印加することによって、少なくとも一層が電界発光を示すことができる幾つかの有機層で構成される(例えば、非特許文献1及び非特許文献2を参照のこと)。電圧が素子を通して印加されると、陰極は、隣接する有機層を効果的に還元する(すなわち、電子を注入する)とともに、陽極は、隣接する有機層を効果的に酸化する(すなわち、正孔を注入する)。正孔及び電子は、それぞれに逆帯電した電極に向かって、素子を通して移動する。正孔及び電子が同じ分子上で出会うと、再結合が生じると言われており、励起子が形成される。発光化合物中の正孔及び電子の再結合は、放射放出を伴い、それによって、電界発光を生成する。
【0004】
正孔及び電子のスピン状態に依存して、正孔及び電子の再結合から生じる励起子は、三重項又は一重項のスピン状態を有することができる。一重項励起子からの発光によって蛍光発光が生じる一方で、三重項励起子からの発光によって燐光が生じる。統計学的に、OLEDにおいて一般的に使用される有機材料に対して、励起子の4分の1は、一重項であり、残りの4分の3は、三重項である(例えば、非特許文献3を参照のこと)。実用的な電子燐光性(electro‐phosphorescent)OLEDを製造するために使用可能な特定の燐光材料が存在するという発見(特許文献1)、及びそれに続いて、そのような電子燐光性(electro‐phosphorescent)のOLEDは、理論上の100%までの量子効率を有する(すなわち、三重項及び一重項の全てを収穫する)ことが可能であるという実証まで、最も効率的なOLEDは、蛍光発光する材料に一般的に基づいていた。燐光性発光の三重項から基底状態までの遷移は、形式的にスピン禁制工程であるため、蛍光体は、たった25%の最大理論量子効率(OLEDの量子効率は、正孔及び電子が発光するために再結合する効率をいう)で発光する。電子燐光性(electro‐phosphorescent)OLEDは、電子蛍光OLEDに比し、優れた全体的なデバイス効率を有することが示されてきた(例えば、非特許文献4及び非特許文献5を参照のこと)。
【0005】
一重項‐三重項状態混合に通じる強固なスピン軌道結合に起因して、重金属錯体は、しばしば、室温でそのような三重項から効率の良い燐光性発光を示す。従って、そのような錯体を含むOLEDは、75%より多い内部量子効率を有することが示されてきた(非特許文献6)。特定の有機金属イリジウム錯体は、強い燐光性を有するものとして報告されてきており(非特許文献7)、緑から赤のスペクトルにおいて発光する高効率OLEDは、これらの錯体で調製されてきた(非特許文献8)。燐光性重金属有機金属錯体及びそれらの個々の素子は、特許文献2及び特許文献3、特許文献4及び特許文献5、並びに、特許文献6、特許文献7、特許文献8及び特許文献9の主題であった。
【0006】
上述のように、OLEDは、一般的に、優れた発光効率、画質、電力消費及びフラットスクリーン等の薄いデザイン製品内に組み込まれる能力を提供し、それによって、陰極線装置等の従来技術に対して多くの利点を有する。
【0007】
しかしながら、例えば、より高い電力効率を有するOLEDの調製を含めた、改良されたOLEDが望まれている。この点に関して、発光が、内部量子効率を向上させるために、三重項励起子から得られる発光材料(燐光材料)が、開発されてきた。
【0008】
上述のように、そのようなOLEDは、発光層(燐光層)内にそのような燐光材料を使用することによって、理論的に100%までの内部量子効率を有することができ、得られるOLEDは、高効率及び低電力消費を有するであろう。そのような燐光材料は、そのような発光層を備えるホスト材料中のドーパントとして使用され得る。
【0009】
燐光材料等の発光材料を添加することによって形成された発光層において、励起子は、ホスト材料中に注入された電荷から効率的に生成されることができる。生成される励起子の励起子エネルギーは、ドーパントに移動され得、発光は、高効率でドーパントから得られ得る。励起子は、ホスト材料上又は直接ドーパント上に形成され得る。
【0010】
ホスト材料から高いデバイス効率を有する燐光ドーパントへの分子間エネルギー移動を達成するために、ホスト材料の励起三重項エネルギーEgHは、燐光ドーパントの励起三重項エネルギーEgDより高くなければならない。
【0011】
ホスト材料から燐光ドーパントへの分子間エネルギー移動を実行するために、ホスト材料の励起三重項エネルギーEg(T)は、燐光ドーパントの励起三重項エネルギーEg(S)より高くなければならない。
【0012】
CBP(4,4’‐ビス(N‐カルバゾリル)ビフェニル)は、効率的かつ高い励起三重項エネルギーを有する材料の代表例として知られている。例えば、特許文献8を参照されたい。CBPがホスト材料として使用されると、エネルギーは、緑色等の所定の発光波長を有する燐光ドーパントに移動されることができ、高い効率を有するOLEDが得られることができる。CBPがホスト材料として使用されると、発光効率は、燐光性発光によって顕著に向上される。しかしながら、CBPは、極めて短い寿命を有することを知られており、それ故に、OLED等のエレクトロルミネセント(EL)素子における実用に適さない。科学理論に縛られないが、これは、CBPが、分子構造の観点から、高くないその酸化安定性に起因して、正孔によって大いに劣化され得るためであると考えられている。
【0013】
特許文献10は、カルバゾール等の窒素含有環を有する縮合環誘導体等が、緑色燐光性を示す燐光性層のためのホスト材料として使用される技術を開示している。電流効率及び寿命は、上記技術によって改良されているが、実用に対するある場合において満足できるものではない。
【0014】
他方、蛍光発光を示す蛍光ドーパントのための様々なホスト材料(蛍光ホスト)が公知であり、蛍光ドーパントと組み合わせて、優れた発光効率及び寿命を示す蛍光層を形成し得る種々のホスト材料が、提案されることができる。
【0015】
蛍光ホストにおいて、励起一重項エネルギーEg(S)は、蛍光ドーパントにおけるエネルギーより高いが、そのようなホストの励起三重項エネルギーEg(T)は、必ずしも高くない。従って、蛍光ホストは、燐光性発光層を提供するためのホスト材料として、燐光ホストの代わりに単に使用されることができない。
【0016】
例えば、アントラセン誘導体は、蛍光ホストとして周知である。しかしながら、アントラセン誘導体の励起状態三重項エネルギーEg(T)は、約1.9エレクトロンボルト(eV)ほどであり得る。従って、励起状態三重項エネルギーは、そのような低三重項状態エネルギーを有するホストによって消光されるため、500ナノメートル(nm)から720ナノメートル(nm)の可視光領域における発光波長を有する燐光ドーパントへのエネルギー移動は、そのようなホストを用いて達成されることができない。従って、アントラセン誘導体は、燐光ホストとして適切ではない。
【0017】
ペリレン誘導体、ピレン誘導体及びナフタセン誘導体は、同様の理由で、燐光ホストとして好ましくない。
【0018】
燐光ホストとしての芳香族炭化水素化合物の使用は、特許文献11に開示されている。この出願は、ベンゼン骨格コア及びメタ位に結合された二つの芳香族置換基を有する燐光ホスト化合物を開示している。
【0019】
しかしながら、特許文献11に記載の芳香族炭化水素化合物は、良好な対称性を有するとともに、分子が中央のベンゼン骨格に向けて左右相称に配列されている五つの芳香環を備える剛体分子構造を想定している。そのような配列は、発光層の結晶化の尤度の欠点を有する。
【0020】
他方、種々の芳香族炭化水素化合物が使用されるOLEDは、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16及び特許文献17に開示されている。しかしながら、燐光ホストとしてのこれらの材料の効率は、開示されていない。
【0021】
また、種々のフルオレン化合物を用いることによって調製されるOLEDは、特許文献18、特許文献19及び特許文献20に開示されている。
【0022】
さらに、特許文献20は、縮合多環芳香環がフルオレン環に直接結合される炭化水素化合物を開示している。しかしながら、そのような材料と燐光材料とを組み合わせることによって調製されるOLEDの効率は、開示されておらず、本出願は、縮合多環芳香環として少ない三重項エネルギー準位を有することが知られているとともに、燐光素子のための発光層としての使用に好ましくないペリレン環及びピレン環を開示しており、燐光素子にとって効果的な材料は選択されていない。
【0023】
最近の効率的な重金属燐光体の発見及びその結果得られるOLED技術における進歩にも拘らず、さらに高温の素子安定性に対する必要性が残る。また高い効率を有するとともに延長された寿命を有する燐光材料にエネルギーを移動させることができるホスト材料に対する必要性が、依然として残る。より長い高温寿命を有する素子の製造は、新たなディスプレイ技術の発展に寄与するとともに、平面上のフルカラー電子ディスプレイに対する現在の目標を実現するのに役立つであろう。本明細書中に記載されるOLED並びにそのようなOLEDに備えられるホスト材料及び燐光発光材料は、この目的を実現するのに役立つ。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明のOLEDは、陰極と陽極との間の単一層又は複層を含む有機薄膜層を提供することによって特徴付けられ、有機薄膜層は、少なくとも一つの有機発光層を備え、少なくとも一つの発光層は、少なくとも一つのホスト材料及び少なくとも一つの燐光発光材料を備え、前記ホスト材料は、式(1)によって示されるビスカルバゾール誘導体を含み、
【0027】
【化1】
【0028】
式中、A
1は、1〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の窒素含有複素環基を示し、該窒素含有複素環基は、置換又は非置換のカルバゾリル基並びに置換又は非置換のインドリル基ではなく、
A
2は、6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基、或いは、1〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の窒素含有複素環基を示し、
X
1及びX
2は、結合性基であり、該X
1及びX
2は、それぞれ独立して、
単結合、
6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基、
6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の縮合芳香族炭化水素基、
2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族複素環基、又は、
2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の縮合芳香族炭化水素基、を示し、
Y
1〜Y
4は、独立して、
水素原子、
フッ素原子、
シアノ基、
1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のアルキル基、
1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のアルコキシ基、
1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のハロアルキル基、
1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のハロアルコキシ基、
1〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換のアルキルシリル基、
6〜30個の炭素原子を有する置換又は非置換のアリールシリル基、
6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基、
6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の縮合芳香族炭化水素基、
2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族複素環基、或いは、
2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の縮合芳香族複素環基、を示し、
Y
1〜Y
4のうち、隣接するものは、環構造を形成するために互いに結合可能であり、
p及びqは、1〜4までの範囲における整数を示すとともに、r及びsは、1〜3までの範囲における整数を示し、p及びqが、2〜4までの範囲における整数を示すとともに、r及びsが、2〜3までの範囲における整数を示す場合、Y
1〜Y
4は、互いに同様又は異なるものである。
【0029】
他の実施形態において、OLEDは、式(GH‐1)によって示される化学構造を有するホスト材料を備える。
【0030】
【化2】
【0031】
本発明の一実施形態において、燐光発光材料は、以下の式によって示される置換化学構造を有する燐光有機金属錯体を含み、
【0032】
【化3】
【0033】
式中、Mは、八面体錯体を形成する金属であり、
L、L’,L''は、各Lがsp
2混成炭素及び窒素によりMに配位された置換又は非置換のフェニルピリジン配位子を含む等価又は不等価の二座配位子であり、
L、L’及びL''の一つは、他の二つの少なくとも一つと不等価である。
【0034】
他の実施形態において、燐光発光材料は、以下の化学構造(2)によって示される置換化学構造を有する燐光有機金属化合物を含み、
【0035】
【化4】
【0036】
式中、各Rは、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、CN、CF
3、C
nF
2n+1、トリフルオロビニル、CO
2R、C(O)R、NR
2、NO
2、OR、ハロ、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換ヘテロアリール又は複素環基からなる群より選択され、Ar’,Ar’’,Ar’’’及びAr’’’’は、それぞれ独立して、フェニルピリジン配位子上の置換又は非置換のアリール或いはヘテロアリール非融合置換基を示し、
aは、0又は1であり、bは、0又は1であり、cは、0又は1であり、dは、0又は1であり、mは、1又は2であり、nは、1又は2であり、
m+nは、Mに配位されることができる配位子の最大数であり、
a,b,c及びdの少なくとも一つは、1であり、a及びbの少なくとも一つが1であるとともに、b及びcの少なくとも一つが1である場合、Ar’及びAr’’の少なくとも一つは、Ar’’’及びAr’’’’の少なくとも一つと異なる。
【0037】
他の実施形態において、燐光発光材料は、金属錯体を含み、該金属錯体は、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、金(Au)、銅(Cu)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)及び配位子から選択される金属原子を含む。さらに別の実施形態において、金属錯体は、オルト-メタル結合を有する。好ましい実施形態において、イリジウムは、金属原子である。
【0038】
他の実施形態において、燐光発光材料は、以下
の化学構造(GD‐1)によって示され
る化学構造を有する燐光有機金属錯体を含む。
【0039】
【化5】
【0040】
他の実施形態において、本発明は、以下の式(GH‐1)によって示される化学構造を有する非置換芳香族炭化水素化合物を含むホスト材料、
【0041】
【化6】
【0042】
及び以下の化学構造によって示される置換化学構造を有する燐光有機金属化合物を含む燐光発光材料を含むOLEDを備え、
【0043】
【化7】
【0044】
式中、各Rは、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、CN、CF
3、C
nF
2n+1、トリフルオロビニル、CO
2R、C(O)R、NR
2、NO
2、OR、ハロ、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換ヘテロアリール又は複素環基からなる群より選択され、
Ar’,Ar’’,Ar’’’及びAr’’’’は、それぞれ独立して、フェニルピリジン配位子上の置換又は非置換のアリール或いはヘテロアリール非融合置換基を示し、
aは、0又は1であり、bは、0又は1であり、cは、0又は1であり、dは、0又は1であり、mは、1又は2であり、nは、1又は2であり、
m+nは、Mに配位されることができる配位子の最大数であり、
a,b,c及びdの少なくとも一つは、1であり、a及びbの少なくとも一つが1であるとともに、b及びcの少なくとも一つが1である場合、Ar’及びAr’’の少なくとも一つは、Ar’’’及びAr’’’’の少なくとも一つと異なる。
【0045】
一実施形態において、本発明は、ホスト材料を含むOLEDを備え、ホスト材料の三重項エネルギーは、約2.0eV〜約2.8eVである。
【0046】
他の実施形態において、本発明は、発光層内に少なくとも一つの燐光材料を含むOLEDを備え、燐光材料は、発光波長において500ナノメートル(nm)以上720ナノメートル(nm)以下の最大値を有する。
【0047】
他の実施形態において、本発明は、改良された電圧及び耐用年数特性を提供するOLEDを備える。理論に縛られないが、本発明のOLEDの改良された特徴は、二以上の縮合多環芳香族環の一価フルオレン骨格への連続結合に起因して、及び互いに異なる縮合多環芳香族環を含む基を、共役長が延長される位置におけるフルオレン骨格に結合させることによって、達成され得ると考えられている。
【0048】
他の実施形態において、本発明は、高効率かつ長寿命を有する燐光性OLEDを含み、OLEDは、ホスト材料として、及び特に、燐光ホスト材料として一般式(GH‐1)の材料を含む。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明のOLEDは、陽極と陰極との間に配置された複数の層を含み得る。本発明に係る代表的なOLEDは、以下に記載される構成層を有する構造を含むが、これらに限定されるものではない;
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(3)陽極/発光層/電子注入・輸送層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入・輸送層/陰極
(5)陽極/有機半導体層/発光層/陰極
(6)陽極/有機半導体層/電子遮断層/発光層/陰極
(7)陽極/有機半導体層/発光層/接着改善層/陰極
(8)陽極/正孔注入・輸送層/発光層/電子注入・輸送層/陰極
(9)陽極/絶縁層/発光層/絶縁層/陰極
(10)陽極/無機半導体層/絶縁層/発光層/絶縁層/陰極
(11)陽極/有機半導体層/絶縁層/発光層/絶縁層/陰極
(12)陽極/絶縁層/正孔注入・輸送層/発光層/絶縁層/陰極、及び
(13)陽極/絶縁層/正孔注入・輸送層/発光層/電子注入・輸送層/陰極。
【0051】
上述のOLED構成素構造の中で、構成素構造番号8が、好ましい構造であるが、本発明は、これらの開示された構成素構造に限定されない。
【0052】
本発明の一実施形態におけるOLEDの一例の概略構成を、
図1に示す。本発明の代表例として、OLED1は、透明基板2と、陽極3と、陰極4と、陽極3と陰極4との間に設けられた有機薄膜層10と、を備える。
【0053】
有機薄膜層10は、燐光ホスト及び燐光ドーパントを含む燐光発光層5を含み、該燐光発光層5と陽極3との間の正孔注入・輸送層6等、及び燐光発光層5と陰極4との間の電子注入・輸送層7等を、それぞれ提供することができる。
【0054】
さらに、陽極3と燐光発光層5との間に設けられた電子遮断層、及び陰極4と燐光発光層5との間に設けられた正孔遮断層が、それぞれ提供されてもよい。これによって、燐光発光層5内の励起子の生成率を向上させるために、燐光発光層5内に電子及び正孔を含むことが可能となる。
【0055】
本明細書中、用語「蛍光ホスト」及び「燐光ホスト」は、それぞれ、蛍光ドーパントと組み合された場合に蛍光ホストとして、そして、燐光ドーパントと組み合された場合に燐光ホストとして言われ、分子構造のみに基づいたホスト材料の分類に限定されるべきではない。
【0056】
従って、本明細書中の蛍光ホストは、蛍光ドーパントを含む蛍光発光層を構成する材料を意味し、蛍光材料のホストのためのみに使用されることができる材料を意味しない。
【0057】
同様に、燐光ホストは、燐光ドーパントを含む燐光発光層を構成する材料を意味し、燐光材料のホストのためのみに使用されることができる材料を意味しない。
【0058】
本明細書中、「正孔注入・輸送層」は、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも何れか一つを意味し、「電子注入・輸送層」は、電子注入層及び電子輸送層の少なくとも何れか一つを意味する。
(
基板)
【0059】
本発明のOLEDは、基板上に調製されてもよい。この場合における基板は、OLEDを支持するための基板であり、基板は、約400〜約700nmの可視領域における光が、少なくとも約50%の透過率を有する平坦基板であるのが好ましい。
【0060】
基板は、ガラス板、高分子板等を含んでもよい。特に、ガラス板は、ソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を含んでもよい。高分子板は、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、硫化ポリエーテル、ポリスルホン等を含んでもよい。
(
陽極及び陰極)
【0061】
本発明のOLEDにおける陽極は、正孔注入層、正孔輸送層又は発光層中に正孔を注入する役割を想定している。一般的に、陽極は、4.5eV以上の仕事関数を有する。
【0062】
陽極として使用するのに適する材料の具体例として、インジウムスズ酸化物合金(ITO)、酸化スズ(NESA)、インジウム酸化亜鉛、金、銀、白金、銅等が挙げられる。
【0063】
陽極は、蒸着法、スパッタリング法等の方法によって、上述のような電極物質から薄膜を形成することによって調製されることができる。
【0064】
光が発光層から発光される場合、陽極内の可視光領域における光の透過率は、10%より高いことが好ましい。陽極のシート抵抗は、数百Ω/スクエア以下であることが好ましい。陽極の膜厚は、材料に依存して選択され、一般的には、約10nm〜約1μm、及び好ましくは、約10nm〜約200nmの範囲内である。
【0065】
陰極は、電子注入層、電子輸送層又は発光層中に電子を注入する目的で、小さい仕事関数を有する材料を備えることが好ましい。陰極として使用されるのに適した材料として、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム‐インジウム合金、マグネシウム‐アルミニウム合金、アルミニウム‐リチウム合金、アルミニウム‐スカンジウム‐リチウム合金、マグネシウム‐銀合金等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。透明又はトップエミット(top‐emitting)素子のために、特許文献21に開示されるようなTOLED陰極が好ましい。
【0066】
陰極は、陽極と同様に、蒸着法、スパッタリング法等の方法によって薄膜を形成することによって調製されることができる。さらに、発光が陰極側から得られる実施形態が、同様に利用されることができる。
(
発光層)
【0067】
OLEDにおける発光層は、以下の機能を単独で又は組み合わせて実行することが可能である;
(1)注入機能:正孔が、電界を印加する際に陽極又は正孔注入層から注入されることができるとともに、電子が、陰極又は電子注入層から注入されることができる機能。
(2)輸送機能:注入された電荷(電子及び正孔)が、電界の力によって移動され得る機能。
(3)発光機能:電子及び正孔の再結合のための領域が提供され、その結果、光の発光がもたらされる機能。
【0068】
正孔の注入の容易さと、電子の注入の容易さとの間に、差異が存在し得、正孔及び電子の運動性によって示される輸送能力における差異が存在し得る。
【0069】
例えば、蒸着、スピンコーティング、ラングミュアブロジェット法等を含む既知の方法が、発光層を調製するために使用されることができる。発光層は、分子堆積膜であることが好ましい。この点に関して、用語「分子堆積膜」は、気相から化合物を堆積させることによって形成される薄膜、及び溶液状態又は液相状態における材料化合物を凝固させることによって形成される膜を意味し、通常、上記の分子堆積膜は、凝集構造及び高次構造における差異、並びに、それに由来する機能的相違によって、ラングミュアブロジェット(LB)法によって形成される薄膜(分子累積膜)と区別されることができる。
【0070】
好ましい実施形態において、発光層の膜厚は、好ましくは、約5〜約50nmであり、より好ましくは、約7〜約50nmであり、最も好ましくは、約10〜約50nmである。膜厚が5nm未満である場合、発光層を形成するとともに、色度を制御することが難しい傾向にある。他方、膜厚が約50nmを越えると、駆動電圧が高くなる傾向にある。
(
OLED)
【0071】
本発明のOLEDにおいて、単層又は複層を含む有機薄膜層は、陰極と陽極との間に提供される。該有機薄膜層は、少なくとも一つの発光層を含む。有機薄膜層の少なくとも一つは、少なくとも一つの燐光材料及び以下に記載される少なくとも一つのホスト材料を含む。さらに、発光層の少なくとも一つは、有機エレクトロルミネセンス素子のための本発明の少なくとも一つのホスト材料及び少なくとも一つの燐光材料を含むことが好ましい。
【0072】
上述のように、高効率かつ長寿命、特に、高い作動温度における高い安定性を有する燐光発光層は、本発明の教示に従って調製されることができる。
【0073】
この点に関して、本発明のOLEDを構成する材料の励起三重項エネルギーギャップEg(T)は、その燐光発光スペクトルに基づいて規定され得、それは、エネルギーギャップが、一般的に使用されるような、以下のような方法で規定され得る本発明における一例として示されている。
【0074】
それぞれの材料は、燐光を測定するためのサンプルを調製するために、10μモル/L(μmol/L)濃度で、EPA溶媒(容積比で、ジエチルエーテル:イソペンタン:エタノール=5:5:2)中に溶解される。この燐光測定用サンプルは、石英セル中に置かれ、77Kまで冷却されて、次に、発光された燐光の波長を測定するために励起光で照射される。
【0075】
短波長側で得られる燐光発光スペクトルの増加に基づいて、接線が引かれ、上記接線と基線の交点の波長値は、エネルギー値に変換され、励起三重項エネルギーギャップEg(T)として設定される。市販の測定装置F‐4500(株式会社日立製)は、測定のために使用されることができる。
【0076】
しかしながら、三重項エネルギーギャップとして定義されることができる値は、それが、本発明の範囲から逸脱しない限り、上記手順に依存することなく使用されることができる。
【0077】
好ましいホスト材料は、以下の式(GH‐1)によって示される化学構造を有する。
【0079】
有機エレクトロルミネセンス素子のための本発明の材料は、大きな三重項エネルギーギャップEg(T)(励起三重項エネルギー)を有し、それにより、燐光は、燐光ドーパントにエネルギ―を移動することによって発光されることができる。
【0080】
本発明において、上述のホスト材料の励起三重項エネルギーは、好ましくは、約2.0eV〜約2.8eVである。約2.0eV以上の励起三重項エネルギーによって、500nm以上及び720nm以下の波長で光を発光する燐光ドーパント材料にエネルギーを移動することが可能となる。約2.8eV以下の励起三重項エネルギーによって、発光が、エネルギーギャップにおける大きな差のために緑色燐光ドーパントにおいて効率的に実行されないという問題を回避することが可能となる。ホスト材料の励起三重項エネルギーは、より好ましくは、約2.1eV〜約2.7eVである。
【0081】
以下の式(A1〜130)によって示される、本発明に係るホスト材料に適した化合物の具体例として、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
本発明のOLEDにおいて使用可能な燐光発光材料に関して、イル(2‐フェニルキノリン)及びイル(1‐フェニルイソキノリン)型の燐光材料が合成されるとともに、それらをドーパント発光材料として組み込むOLEDが、製造されてきた。そのような素子は、高電流効率、高安定性、狭い発光領域、(高溶解度及び低蒸発温度等の)高加工性、高発光効率、及び/又は高発光効率を、有利に示し得る。
【0084】
イル(3‐Meppy)
3の基底構造を用いて、異なるアルキル及びフルオロ置換パターンが、イル(2‐フェニルキノリン)及びイル(1‐フェニルイソキノリン)型の燐光材料の材料加工性(蒸発温度、蒸発安定性、溶解度等)及び素子特性に関して構造‐物性関係を確立するために研究されてきた。アルキル及びフルオロ置換は、それらが、蒸発温度、溶解度、エネルギー準位、素子効率等の観点から広範囲の維持可能性を提供するために、特に重要である。さらに、アルキル及びフルオロ置換は、適切に適用される場合、化学的官能基として及び素子動作において安定的である。
【0085】
本発明の一実施形態において、燐光発光材料は、以下の式によって示される以下
の化学構造の一つによって示され
る化学構造を有する燐光有機金属錯体を含む。
【0087】
式中、Mは、八面体錯体を形成する金属であり、L、L’,L''は、各Lがsp
2混成炭素及び窒素によりMに配位された置換又は非置換のフェニルピリジン配位子を含む等価又は不等価の二座配位子であり、L、L’及びL''の一つは、他の二つの少なくとも一つと不等価である。
【0088】
一実施形態において、燐光発光材料は、以下の化学構造によって示される置換化学構造を有する燐光有機金属化合物を含む。
【0090】
式中、各Rは、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、CN、CF
3、C
nF
2n+1、トリフルオロビニル、CO
2R、C(O)R、NR
2、NO
2、OR、ハロ、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換ヘテロアリール又は複素環基からなる群より選択され、
Ar’,Ar’’,Ar’’’及びAr’’’’は、それぞれ独立して、フェニルピリジン配位子上の置換又は非置換のアリール或いはヘテロアリール非融合置換基を示し、
aは、0又は1であり、bは、0又は1であり、cは、0又は1であり、dは、0又は1であり、mは、1又は2であり、nは、1又は2であり、
m+nは、Mに配位されることができる配位子の最大数であり、
a,b,c及びdの少なくとも一つは、1であり、a及びbの少なくとも一つが1であるとともに、b及びcの少なくとも一つが1である場合、Ar’及びAr’’の少なくとも一つは、Ar’’’及びAr’’’’の少なくとも一つと異なる。
【0091】
他の実施形態において、燐光発光材料は、金属錯体を含み、該金属錯体は、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、金(Au)、銅(Cu)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)及び配位子から選択される金属原子を含む。さらに別の実施形態において、金属錯体は、オルト-メタル結合を有する。金属原子は、好ましくは、イリジウムである。
【0092】
好ましい実施形態において、燐光発光材料は、以下
の化学構造(GD‐1)によって示され
る化学構造を有する燐光有機金属錯体を含む。
【0094】
好ましい実施形態において、本発明は、ホスト材料が式(GH‐1)によって示される化学構造を有する非置換芳香族炭化水素化合物を含むOLEDに関し、
【0096】
燐光発光材料は、以下の化学構造(2)によって示される置換化学構造を有する燐光有機金属化合物を含み、
【0098】
式中、各Rは、独立して、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、CN、CF
3、C
nF
2n+1、トリフルオロビニル、CO
2R、C(O)R、NR
2、NO
2、OR、ハロ、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換ヘテロアリール又は複素環基からなる群より選択され、
Ar’,Ar’’,Ar’’’及びAr’’’’は、それぞれ独立して、フェニルピリジン配位子上の置換又は非置換のアリール或いはヘテロアリール非融合置換基を示し、
aは、0又は1であり、bは、0又は1であり、cは、0又は1であり、dは、0又は1であり、mは、1又は2であり、nは、1又は2であり、
m+nは、Mに配位されることができる配位子の最大数であり、
a,b,c及びdの少なくとも一つは、1であり、a及びbの少なくとも一つが1であるとともに、b及びcの少なくとも一つが1である場合、Ar’及びAr’’の少なくとも一つは、Ar’’’及びAr’’’’の少なくとも一つと異なる。
【0099】
本発明のOLEDは、正孔輸送層(正孔注入層)を含んでいてもよく、該正孔輸送層(正孔注入層)は、本発明の材料を含んでいるのが好ましい。また、本発明のOLEDは、電子輸送層及び/又は正孔遮断層を含んでいてもよく、該電子輸送層及び/又は正孔遮断層は、本発明の材料を含んでいるのが好ましい。
【0100】
本発明のOLEDは、陰極と有機薄膜層との間の中間層領域内に、還元性ドーパントを含んでいてもよい。記載される構造的構成を有するそのようなOLEDは、改良された発光輝度及び延長された寿命を示し得る。
【0101】
還元性ドーパントは、アルカリ金属、アルカリ金属錯体、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属錯体、アルカリ土類金属化合物、希土類金属、希土類金属錯体、希土類金属化合物等から選択される少なくとも一つのドーパントを含む。
【0102】
適切なアルカリ金属として、ナトリウム(仕事関数:2.36eV)、カリウム(仕事関数:2.28eV)、ルビジウム(仕事関数:2.16eV)、セシウム(仕事関数:1.95eV)が挙げられる。2.9eV以下の仕事関数を有する化合物が、特に好ましい。それらの中で、カリウム、ルビジウム及びセシウムが好ましく、より好ましくは、ルビジウム又はセシウムであり、さらにより好ましくは、セシウムである。
【0103】
アルカリ土類金属として、カルシウム(仕事関数:2.9eV)、ストロンチウム(仕事関数:2.0〜2.5eV)、バリウム(仕事関数:2.52eV)等が挙げられ、2.9eV以下の仕事関数を有する化合物が、特に好ましい。
【0104】
希土類金属として、スカンジウム、イットリウム、セリウム、テルビウム、イッテルビウム等が挙げられ、2.9eV以下の仕事関数を有する化合物が、特に好ましい。
【0105】
上述の金属の中で、高い還元能力を有する金属を選択することが好ましく、電子注入領域に比較的少量の金属を添加することによって、発光輝度を向上させるとともに、OLEDの寿命を延長させることが可能となる。
【0106】
アルカリ金属化合物として、酸化リチウム(Li
2O)、酸化セシウム(Cs
2O)、酸化カリウム(K
2O)等のアルカリ金属酸化物、及びフッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カリウム(KF)等のアルカリ金属ハロゲン化物が挙げられる。好ましい化合物として、フッ化リチウム(LiF)、酸化リチウム(Li
2O)及びフッ化ナトリウム(NaF)が挙げられる。
【0107】
アルカリ土類金属化合物として、上記化合物を混合することによって得られる酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化カルシウム(CaO)、及びBa
xSr
1−xO(0<x<1)、Ba
xCa
1−xO(0<x<1)等が挙げられ、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)及び酸化カルシウム(CaO)が好ましい。
【0108】
希土類金属化合物として、フッ化イッテルビウム(YbF
3)、フッ化スカンジウム(ScF
3)、酸化スカンジウム(ScO
3)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化セリウム(Ce
2O
3)、フッ化ガドリニウム(GdF
3)、フッ化テルビウム(TbF
3)等が挙げられ、フッ化イッテルビウム(YbF
3)、フッ化スカンジウム(ScF
3)及びフッ化テルビウム(TbF
3)が好ましい。
【0109】
アルカリ金属錯体、アルカリ土類金属錯体及び希土類金属錯体は、それらがアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン及び希土類金属イオンの少なくとも一つの金属イオンを含んでいる限り、特に限定されるべきではない。配位子は、キノリノール、ベンゾキノリノール、アクリジノール、フェナントリジノール、ヒドロキシフェニルオキサゾール、ヒドロキシフェニルチアゾール、ヒドロキシジアリールオキサジアゾール、ヒドロキシジアリールチアジアゾール、ヒドロキシフェニルピリジン、ヒドロキシフェニルベンゾイミダゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ヒドロキシフルボラン、ビピリジル、フェナントロリン、フタロシアニン、ポルフィリン、シクロペンタジエン、β−ジケトン類、アゾメチン類、及びそれらの誘導体であるのが好ましい。しかしながら、適切な材料は、これら上述の化合物に限定されるものではない。
【0110】
還元性ドーパントは、界面領域において形成されてもよく、層状又は島状であるのが好ましい。形成方法は、抵抗加熱蒸着法によって還元性ドーパントを堆積させている間、界面領域を形成する発光材料及び電子注入材料に対応する有機物が、同時に堆積され、それによって、有機物内に還元性ドーパントを分散させる方法であり得る。分散濃度は、モル比で、有機物:還元性ドーパント=約100:1〜1:100、好ましくは、約5:1〜1:5の割合を有する。
【0111】
還元性ドーパントが層状に形成される場合、界面領域内の有機層である発光材料及び電子注入材料は、層状に形成され、それから、還元性ドーパントは、好ましくは、0.1〜15nmの厚みの層を形成するために、抵抗加熱蒸着法によって単独で堆積され得る。
【0112】
還元性ドーパントが島状に形成される場合、界面領域内の有機層である発光材料及び電子注入材料は、島状に形成され、それから、還元性ドーパントは、好ましくは、0.05〜1nmの厚みの島を形成するために、抵抗加熱蒸着発光法によって単独で堆積され得る。
【0113】
本発明のOLEDにおける主成分の還元性ドーパントに対するモル比は、好ましくは、モル比で、主成分:還元性ドーパント=5:1〜1:5、より好ましくは、2:1〜1:2である。
【0114】
本発明のOLEDは、好ましくは、発光層と陰極との間に電子注入層を有する。この点に関して、電子注入層は、電子輸送層として作用する層であり得る。電子注入層又は電子輸送層は、発光層中への電子の注入を補助するための層であり、大きな電子移動度を有する。電子注入層は、エネルギー準位における急変の緩和を含めてエネルギー準位を制御するために提供される。
【0115】
本発明のOLEDにおける各層の形成方法は、特に限定されるものではなく、これまでに公知であった真空蒸着法、スピンコート法等によって実行される形成方法が使用されることができる。本発明のOLEDのために使用される上記式(GH‐1)によって示されるホスト材料化合物を含む有機薄膜層は、それぞれ、溶媒中に化合物を溶解させることによって調製される溶液を用いて、真空蒸着、分子線蒸着法(MBE法)、及び浸漬、スピンコート、鋳造、バーコーティング及びロールコーティング等のコーティング法等による公知の方法によって形成されることができる。
【0116】
本発明のOLEDにおける各有機層の膜厚は、特に限定されるものではない。一般的に、膜厚が小さすぎると、ピンホール等の欠陥に関連するのに対して、膜厚が大きすぎると、高電圧の印加を必要とし、OLEDの効率を低下させ得る。従って、膜厚は、一般的に、1乃至数nmから1μmの範囲である。
【0117】
本発明の組み合わせによって、燐光ドーパントの三重項エネルギー準位及びホストの三重項エネルギー準位は、適切に制御される。その結果、高効率及び延長された寿命を有する有機エレクトロルミネセント(EL)素子が得られる。
【0118】
(有機EL素子材料)
本発明の有機EL素子材料は、以下の式(1)によって示されるビスカルバゾール誘導体ホスト材料を含み、
【0120】
式(1)中、A
1は、(置換又は非置換のカルバゾリル基並びに置換又は非置換のインドリル基を除いて)環を形成する1〜30個の炭素原子を有する置換又は非置換の窒素含有複素環基を示す。A
2は、6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基、或いは、1〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の窒素含有複素環基を示す。X
1及びX
2は、それぞれ、結合性基であり、独立して、
単結合、
6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基、
6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の融合芳香族炭化水素基、
2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族複素環基、又は、
2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の融合芳香族炭化水素基、を示す。
【0121】
Y
1〜Y
4は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、シアノ基、1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のアルキル基、1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のアルコキシ基、1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のハロアルキル基、1〜20個の炭素原子を有する置換又は非置換のハロアルコキシ基、1〜10個の炭素原子を有する置換又は非置換のアルキルシリル基、6〜30個の炭素原子を有する置換又は非置換のアリールシリル基、6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基、6〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の融合芳香族炭化水素基、2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族複素環基、或いは、2〜30個の環形成炭素原子を有する置換又は非置換の融合芳香族複素環基、を示す。Y
1〜Y
4のうち、隣接するものは、環構造を形成するために互いに結合可能である。p及びqは、それぞれ、1〜4の整数を示す。r及びsは、1〜3の整数を示す。p及びqが、それぞれ、2〜4の整数を示すとともに、r及びsが、2〜3の整数を示す場合、複数のY
1〜Y
4は、互いに同様又は異なるものである。
【0122】
式(1)によって示されるビスカルバゾール誘導体ホスト材料は、好ましくは、以下の式(3)によって示される。
【0124】
式(3)中、A
1,A
2,X
1,X
2,Y
1〜Y
4,p,q,r及びsは、式(1)中のA
1,A
2,X
1,X
2,Y
1〜Y
4,p,q,r及びsによって示されるものと同様のものを示す。
【0125】
さらに、式(3)中、A
1は、置換又は非置換のピリジン環、ピリミジン環及びトリアジン環からなる群より選択されることが好ましい、
【0126】
さらにまた、式(3)中、A
1は、好ましくは、置換又は非置換のピリミジン環であり、特に好ましくは、以下の式(4)によって示される。
【0128】
式(4)中、A
2,X
1,は、Y
1〜Y
4,p,q,r及びsは、式(1)中のA
2,X
1,は、Y
1〜Y
4,p,q,r及びsによって示されるものと同様のものを示す。Y
5は、式(1)中のY
1〜Y
4によって示されるものと同様のものを示す。tは、1〜3の整数を示す。tが2又は3の整数である場合、複数のY
5は、互いに同様又は異なるものであってもよい。
【0129】
式(1),(3)及び(4)中、X
1は、好ましくは、単結合、或いは、6〜30個の環炭素原子を有する置換又は非置換の二価の芳香族炭化水素基であり、特に好ましくは、ベンゼン環である。X
1が、式(1),(3)及び(4)中の置換又は非置換のベンゼン環である場合、A
1及びカルバゾリル基は、X
1に結合され、好ましくは、メタ位又はパラ位である。特に、X
1は、非置換のパラ‐フェニレンである。
【0130】
式(3)又は(4)中、ピリジン環、ピリミジン環及びトリアジン環は、それぞれ、以下の式によって示される。式中、Y及びY’は、置換基を示す。置換基の例として、上述のY
1〜Y
4によって示されるものと同様のものが挙げられる。その好ましい例として、6〜30個の環炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基或いは融合芳香族炭化水素基、並びに、2〜30個の環炭素原子を有する置換又は非置換の芳香族炭化水素基或いは融合芳香族複素環基が挙げられる。以下の式において、*は、X
1又はX
2への結合位置を示す。
【0132】
式(1),(3)及び(4)中、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基及びアルキルシリル基は、線形、分岐又は環状であり得る。
【0133】
式(1),(3)及び(4)中、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、s‐ブチル基、イソブチル基、t‐ブチル基、n‐ペンチル基、n‐ヘキシル基、n‐ヘプチル基、n‐オクチル基、n‐ノニル基、n‐デシル基、n‐ウンデシル基、n‐ドデシル基、n‐トリデシル基、n‐テトラデシル基、n‐ペンタデシル基、n‐ヘキサデシル基、n‐ヘプタデシル基、n‐オクタデシル基、ネオ‐ペンチル基、1‐メチルペンチル基、2‐メチルペンチル基、1‐ペンチルヘキシル基、1‐ブチルペンチル基、1‐ヘプチルオクチル基、3‐メチルペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基及び3,5‐テトラメチルシクロヘキシル基が挙げられる。
【0134】
1〜20個の炭素原子を有するアルコシル基は、好ましくは、1〜6の炭素原子を有するアルコシル基である。アルコシル基の例として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基及びヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0135】
1〜20個の炭素原子を有するハロアルキル基は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基を、一以上のハロゲン基で置換することによって提供されるハロアルキル基によって例示される。1〜20個の炭素原子を有するハロアルコキシ基は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基を、一以上のハロゲン基で置換することによって提供されるハロアルコキシ基によって例示される。
【0136】
1〜10個の炭素原子を有するアルキルシリル基の例として、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリブチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、ジメチルプロピルシリル基、ジメチルブチルシリル基、ジメチル‐t‐ブチルシリル基及びジエチルイソプロピルシリル基が挙げられる。
【0137】
6〜30個の炭素原子を有するアリールシリル基の例として、フェニルジメチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、ジフェニル‐t‐ブチルシリル基及びトリフェニルシリル基が挙げられる。
【0138】
2〜30個の環炭素原子を有する芳香族複素環基又は融合芳香族複素環基の例として、ピロリル基、ピラジニル基、ピリジニル基、インドリル基、イソインドリル基、フリル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリニル基、カルバゾリル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、フェナントロリニル基、チエニル基、及びピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、インドール環、キノリン環、アクリジン環、ピロリジン環、ジオキサン環、ピペリジン環、モルフォリン環、ピペラジン環、カルバゾール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾチアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピラン環及びジベンゾフラン環が挙げられる。
【0139】
6〜30個の環炭素原子を有する芳香族炭化水素基又は融合芳香族炭化水素基の例として、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアルテルフェニル(quarterphenyl)基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基及びフェナントレニル基が挙げられる。
【0140】
式(1),(3)及び(4)中のA
1,A
2,X
1,X
2及びY
1〜Y
5が、それぞれ、一以上の置換基を有する場合、該置換基は、1〜20個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のアルキル基、1〜20個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のアルコキシ基、1〜20個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のハロアルキル基、1〜10個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のアルキルシリル基、6〜30個の環炭素原子を有するアリールシリル基、6〜30個の環炭素原子を有する芳香族炭化水素基又は融合芳香族炭化水素基、或いは、2〜30個の環炭素原子を有する芳香族複素環基又は融合芳香族複素環基であることが好ましい。
【0141】
1〜20個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のアルキル基の例;1〜20個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のアルコキシ基、1〜20個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のハロアルキル基、1〜10個の炭素原子を有する線形、分岐又は環状のアルキルシリル基、6〜30個の環炭素原子を有するアリールシリル基、6〜30個の環炭素原子を有する芳香族炭化水素基又は融合芳香族炭化水素基、及び、2〜30個の環炭素原子を有する芳香族複素環基又は融合芳香族複素環基は、上述の基である。ハロゲン原子として、フッ素原子が挙げられる。
(合成例)
【0142】
窒素雰囲気下で、8g(43.4ミリモル)のトリクロロピリミジン、11.6g(95.4ミリモル)のフェニルボロン酸、1.83g(1.74ミリモル)のテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム、300mlのトルエン及び130mlの2M‐炭酸ナトリウム溶液を連続的に混合し、8時間還流した。
【0143】
反応溶液を室温まで冷却後、有機層を除去し、有機溶媒を、減圧下で蒸留した。得られた残渣を、シリカ‐ゲルカラムクロマトフラフィによって精製し、71%の収率で、8.2gの中間体3‐1を得た。
【0144】
次に、窒素雰囲気下で、8g(29.9ミリモル)の中間体3‐1、5.1g(32.9ミリモル)のp‐クロロフェニルボロン酸、0.63g(0.6ミリモル)のテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム、60mlのトルエン及び30mlの2M‐炭酸ナトリウム溶液を連続的に混合し、8時間還流した。
【0145】
反応溶液を室温まで冷却後、有機層を除去し、有機溶媒を、減圧下で蒸留した。得られた残渣を、シリカ‐ゲルカラムクロマトフラフィによって精製し、68%の収率で、7.0gの中間体3‐2を得た。
【0146】
アルゴンガス雰囲気下で、6.5g(18.9ミリモル)の中間体3‐2、7.7g(18.9ミリモル)の中間体1‐4、0.085g(0.38ミリモル)の酢酸パラジウム、2.72g(28.4ミリモル)のナトリウムt-ブトキシド、60mlの無水トルエン、及び0.077g(0.38ミリモル)のトリ‐t‐ブチルフォスフィンを、連続的に混合し、90℃で6時間加熱した。反応溶液を室温まで冷却後、有機層を除去し、有機溶媒を、減圧下で蒸留した。得られた残渣を、シリカ‐ゲルカラムクロマトフラフィによって精製し、58%の収率で、7.8gの化合物3を得た。
【0147】
その結果、計算上の分子量が715であるのに対して、FD‐MS分析によって、m/eが715に一致していた。
【0150】
(実施例)
本発明について、以下の実施例及び比較例を参照して、さらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の例によって限定されるものではない。
【0153】
インジウムスズ酸化物(ITO)の透明電極(ジオマテック株式会社製)を有するガラス基板(サイズ:25mm×75mm×1.1mm)を、5分間、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、30分間、UV(紫外線)/オゾン洗浄した。
【0154】
透明電極を有するガラス基板を洗浄した後、該ガラス基板を、真空蒸着装置の基板ホルダ上に実装した。透明電極線が提供されるガラス基板の表面を覆うために、40nmの厚みのHT‐1及び20nmの厚みのHT‐を蒸着することによって、正孔輸送(HT)層をまず形成した。
【0155】
緑色燐光ホストとしてGH-1及び緑色燐光ドーパントとしてGD-1を、40nmの厚みの正孔輸送層上に共堆積させることによって、緑色燐光発光層を得た。GD-1の濃度は、15重量%であった。
【0156】
陰極を得るために、40nm厚の電子輸送(ET-1)層、1nm厚のフッ化リチウム(LiF)層及び80nm厚の金属アルミニウム層を、順に形成した。LiF層は、電子注入可能電極であり、1Å(オングストローム)/秒の速度で形成した。
【0158】
緑色燐光ホストとして、GH‐1の代わりにCBP(4,4’‐ビス(N‐カルバゾリル)ビフェニル)を使用するとともに、緑色燐光ドーパントとして、GD‐1の代わりにIr(ppy)3を使用した以外、実施例1と同様に、有機EL素子を調製した。
【0160】
緑色燐光ドーパントとして、GD‐1の代わりにIr(ppy)3を使用した以外、実施例1と同様に、有機EL素子を調製した。
【0162】
緑色燐光ホストとして、GH‐1の代わりにCBPを使用した以外、実施例1と同様に、有機EL素子を調製した。
【0163】
実施例1及び比較例1〜3に係る素子の構造を、表1に示す。
【0166】
実施例1及び比較例1〜3において製造された有機EL素子を、それぞれ、1mA/cm
2の直流電流によって発光させ、発光色度、発光(L)及び電圧を測定した。測定値を用いて、電流効率(L/J)及び発光効率η(lm/W)を得た。結果を表2に示す。
【0168】
表2から明らかなように、実施例1に係る有機EL素子は、比較例1〜3に係る有機EL素子に比し、優れた発光効率及び寿命を示した。