(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JIS規格 K6854−3に準拠し、剥離用テープとして3M社のScotchクリアテープを用いて剥離速度が100mm/分で測定される、前記積層多孔質フィルムの片面に積層された前記耐熱層の剥離強度が23N/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層多孔質フィルム。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
【0003】
これらのリチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、電池の破損あるいは電池を用いている機器の破損等により内部短絡・外部短絡が生じた場合には、大電流が流れて激しく発熱する。そのため、非水電解液二次電池には一定以上の発熱を防止し、高い安全性を確保することが求められている。
かかる安全性の確保手段として、異常発熱の際に、セパレータにより、正−負極間のイオンの通過を遮断して、さらなる発熱を防止するシャットダウン機能を付与する方法が一般的である。シャットダウン機能をセパレータに付与する方法としては、異常発熱時に溶融する材質からなる多孔質フィルムをセパレータとして用いる方法が挙げられる。すなわち、該セパレータを用いた電池は、異常発熱時に多孔質フィルムが溶融・無孔化し、イオンの通過を遮断し、さらなる発熱を抑制することができる
【0004】
このようなシャットダウン機能を有するセパレータとしては例えば、ポリオレフィン製の多孔質フィルムが用いられる。該ポリオレフィン製の多孔質フィルムからなるセパレータは、電池の異常発熱時には、約80〜180℃で溶融・無孔化することでイオンの通過を遮断(シャットダウン)することにより、さらなる発熱を抑制する。しかしながら、発熱が激しい場合などには、前記多孔質フィルムからなるセパレータは、収縮や破膜等により、正極と負極が直接接触して、短絡を起こすおそれがある。このように、ポリオレフィン製の多孔質フィルムからなるセパレータは、形状安定性が不十分であり、短絡による異常発熱を抑制できない場合があった。
【0005】
高温での形状安定性に優れた非水電解液二次電池用セパレータがいくつか提案されている。その一つの手段として、微粒子のフィラーを含む耐熱層と、基材としてのポリオレフィンを主体とする多孔質フィルム(以下、「基材多孔質フィルム」と称す場合がある。)が積層されてなる積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータが提案されている(例えば、特許文献1)。
また、最近では、セパレータとしての使用場面の多様化や、高機能化を図るために、基材多孔質フィルムとして、表面粗さの異なる複数のフィルムを積層した積層多孔質フィルムや、表裏の加工条件を変化させた単層の多孔質フィルムなど表面粗さの異なる基材多孔質フィルムも使用されている。
【0006】
かかるセパレータにおいては積層多孔質フィルム表面からのフィラーの脱落、いわゆる「粉落ち」の抑制が課題の一つである。セパレータから粉落ちがおこると、期待されるセパレータとしての物性が発現しないことや、電池に組み立てる際に落ちた粉(フィラー)により装置が汚染されるなどの不具合が生じるという問題がある。
【0007】
粉落ちを抑制する方法として、フィラーに表面処理を施す方法(例えば、特許文献2)、バインダー樹脂の化学構造に特徴を持たせフィラーを結着させる方法(例えば、特許文献3)およびフィラーを固定する繊維の平均繊維径とフィラーの粒径とを所定の関係に制御する方法(例えば、特許文献4)が提案されている。
しかしながら、これらの方法による粉落ちの抑制は、十分とは言い難く、更なる改善が求められている。
また、表面粗さの異なる基材多孔質フィルムの場合、表面粗さが同一の基材多孔質フィルムと比較して、粉落ちが起こりやすい傾向にあり、さらには、製造ロットによって、粉落ち量にばらつきが生ずることがあった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の積層多孔質フィルムの製造方法の第1の態様は、表裏で表面粗さの異なるポリオレフィン基材多孔質フィルムの片面に、無機フィラー及びバインダーを含む耐熱層が積層された積層多孔質フィルムの製造方法であって、無機フィラー、バインダー及び溶媒を含む塗工液を、前記ポリオレフィン基材多孔質フィルムにおける表面粗さの小さい面に塗工した後に、溶媒を留去して耐熱層を形成することを特徴とする。
【0014】
本発明の積層多孔質フィルムの製造方法の第2の態様は、表裏で表面粗さの異なるポリオレフィン基材多孔質フィルムの両面に、無機フィラー及びバインダーを含む耐熱層が積層された積層多孔質フィルムの製造方法であって、無機フィラー、バインダー及び溶媒を含む塗工液を、前記ポリオレフィン基材多孔質フィルムにおける表面粗さの小さい面に塗工し、溶媒を留去して第1の耐熱層を形成した後、前記塗工液を、前記ポリオレフィン基材多孔質フィルムにおける表面粗さの大きい面に塗工し、溶媒を留去して第2の耐熱層を形成することを特徴とする。
なお、以下の説明において「ポリオレフィン基材多孔質フィルム」を、「基材多孔質フィルム」と略して記載する場合がある。
【0015】
以下、本発明の積層多孔質フィルムの製造方法について、積層多孔質フィルムの構成要素、製造方法等を詳細に説明する。
なお、以下において、基材多孔質フィルム「A層」、無機フィラー、バインダー及び溶媒を含む塗工液を「B液」、該塗工液から形成さえる耐熱層を「B層」と称す場合がある。
【0016】
<基材多孔質フィルム(A層)>
A層は、ポリオレフィン樹脂からなり、その内部に連結した細孔を有す構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能な多孔質フィルムである。
A層は、高温になると溶融して無孔化する性質があるため、本発明の製造方法で得られるA層と耐熱層(B層)を積層した積層多孔質フィルムをセパレータとして使用したときには、電池の事故発生時の異常発熱時に、溶融して無孔化することにより、積層多孔質フィルムにシャットダウンの機能を付与する。
【0017】
なお、B層は、無機フィラーとバインダー樹脂とを溶媒を主成分として含むB液がA層に塗工された後、乾燥されることにより形成され、その主骨格が無機フィラーとバインダー樹脂により形成され、A層が無孔化する温度において形状が変化しない耐熱層であることから、積層多孔質フィルムに形状維持性の機能を付与する。
【0018】
A層を構成する基材多孔質フィルムについて説明する。
A層は、ポリオレフィン樹脂からなる多孔質フィルムであり、その表裏で表面粗さが異なる。より具体的には、異なる表面粗さを有する多孔質フィルムを複数枚積層させた積層フィルムや、成形時のTダイ設計やロール温度などの加工条件を異にしてその表裏で表面粗さが異なるように成形された単層フィルムが挙げられる。何れの形態でも、基材多孔質フィルムは、その内部に連結した細孔を有する構造を持ち、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能である。
また、例えば、基材多孔質フィルムに高い突き刺し強度や、低温域でのシャットダウン機能を持たせるために、異なる性質を有する多孔質フィルムを複数枚積層させた積層フィルムをA層として用いることがあるが、A層がこのような積層フィルムである場合、必然的に表面粗さが表裏で異なるため、本発明の製造方法が好適に適用できる。
【0019】
本発明において表面粗さとは、自乗平均を基準とした値(以下、rms値と呼ぶことがある)であり、rms値が低いほど表面が平滑であることを表している。rms値は、具体的には、共焦点顕微鏡を用いて、255μm×185μmの範囲における自乗平均値を測定して算出することができる。
ここで、本発明において、A層を構成する「表裏で表面粗さの異なるポリオレフィン基材多孔質フィルム」とは、その表裏のrms値において、表面粗さの大きい面のrms値が表面粗さの小さい面の1.05倍以上であるフィルムを指す。
【0020】
本発明において、表面粗さの小さい表面のrms値が700nm以下、好ましくは500nm以下であるA層を用いることにより、均一性に優れた耐熱層(B層)を形成することができる。
【0021】
本発明において、ポリオレフィン基材多孔質フィルムにおけるポリオレフィン成分の割合は、A層全体の50体積%以上であり、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。
【0022】
該ポリオレフィン成分には、重量平均分子量が5×10
5〜15×10
6の高分子量成分が含まれていることが好ましく、殊に、重量平均分子量100万以上のポリオレフィン成分を含有させることにより、A層、延いてはA層を含む積層多孔質フィルム全体の強度の向上を図ることができる。
【0023】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどを重合した高分子量の単独重合体又は共重合体が挙げられる。これらの中でもエチレンを主体とする重量平均分子量100万以上の高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0024】
A層の孔径は、イオン透過性および電池のセパレータとした際の正極や負極への粒子が入り込みを防止できる点で、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0025】
A層の膜厚は、4〜40μmが好ましく、7〜30μmがより好ましい。なお、A層が複数種のポリオレフィン多孔質フィルムの積層体である場合には、これらの値は、積層体の合計厚みを指す。
【0026】
A層の空隙率は20〜80体積%が好ましく、さらに好ましくは30〜70体積%である。なお、A層が複数種のポリオレフィン多孔質フィルムの積層体である場合には、これらの値はそれぞれのフィルムの空隙率の平均値である。
A層の空隙率が、上記範囲であると、イオン透過性に優れ、非水電解液二次電池用セパレータとして用いた際に、優れた特性を示す。該空隙率が20体積%未満では電解液の保持量が少なくなる場合があり、80体積%を超えるとシャットダウンが生じる高温における無孔化が不十分となる、すなわち事故により電池が発熱したときに電流が遮断できなくなるおそれがある。
【0027】
A層の目付としては、積層多孔質フィルムの強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、電池のセパレータとして用いた場合の電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる点で、通常、4〜15g/m
2であり、5〜12g/m
2が好ましい。なお、A層が複数種のポリオレフィン多孔質フィルムの積層体である場合には、これらの値はそれぞれのフィルムの目付の合計値である。
【0028】
本発明において、A層が複数種のポリオレフィン多孔質フィルムの積層体である場合の基材多孔質フィルムの製法は、特に限定されるものではなく、例えば、ドロー比、製膜温度など、製膜条件を変化させて調製した複数枚のフィルムを張り合わせることにより得られる。
【0029】
かかる個々のフィルムは、例えば、特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法が挙げられる。例えば、基材多孔質フィルムが、超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、製造コストの観点から、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
すなわち、(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填材を除去する工程
(4)工程(3)で得られたシートを延伸してA層を得る工程
を含む方法により得ることができる。
また、市販のフィルムを用いることもできる。
【0030】
<塗工液(B液)>
以下、本発明に係る塗工液につき、詳細に説明する。
【0031】
B液に含まれる無機フィラーとしては、充填材と一般的に呼ばれるフィラーを用いることができる。具体的には炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス等のフィラーが挙げられる。なお、これらのフィラーは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
無機フィラーとしては、これらの中でも耐熱性および化学的安定性の観点から、無機酸化物がより好ましく、アルミナが特に好ましい。
アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でも、α−アルミナが熱的・化学的安定性が特に高いため、最も好ましい。
これらの無機フィラーの材料は、それぞれ単独で用いることができる。2種以上の材料を混合して用いることもできる。
【0033】
無機フィラーは、無機フィラー材料の製造方法やB液作製の際の分散条件によって、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状や、特定の形状を有さない不定形など、様々なものが存在するが、いずれも使用できる。
【0034】
B液に含まれるバインダー樹脂としては、無機フィラー同士、無機フィラーと基材多孔質フィルムを結着させる性能を持ち、電池の電解液に対して不溶であり、またその電池の使用範囲で電気化学的に安定である樹脂が好ましい。
例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルなどの融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等のバインダー樹脂が挙げられる。
上記バインダー樹脂の中でも、水溶性高分子は、溶媒として水を主体とした溶媒を用いることができることから、プロセスや環境負荷の点で好ましい。水溶性高分子の中でも、カルボキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特にセルロースエーテルが好ましく用いられる。
セルロースエーテルとして具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられ、化学的な安定性に優れたCMC、HECが特に好ましく、特にCMCが好ましい。
【0035】
B液に使用される溶媒は、無機フィラーやバインダー樹脂を溶解又は分散させる溶媒乃至分散媒であり、無機フィラーやバインダー樹脂が均一かつ安定に溶解又は分散させることができる溶媒あればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどを単独、または相溶する範囲で複数混合することが挙げられる。
溶媒は、水のみとすることもできるが、乾燥除去速度が速くなり、バインダー樹脂として上述の水溶性ポリマーに対する十分な溶解性を有する点で、水と有機極性溶媒との混合溶媒であることが好ましい。なお、有機溶媒のみの場合には、乾燥速度が速くなりすぎてレベリングが不足したり、バインダー樹脂に水溶性ポリマーを使用した場合には溶解性が不足したりするおそれがある。
混合溶媒に用いられる有機極性溶媒としては、水と任意の割合で相溶し、適度な極性を有するアルコールが好適であり、その中でもメタノール、エタノールが用いられる。水と極性溶媒の割合は、上記接触角範囲が達成される範囲で、レベリング性や使用するバインダー樹脂の種類を考慮して選択され、通常、水を50重量%以上含む。
【0036】
また、該B液には、必要に応じて無機フィラーとバインダー樹脂以外の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。そのような成分として、例えば、分散剤、可塑剤、pH調製剤などが挙げられる。
【0037】
上記無機フィラーやバインダー樹脂を溶解又は分散させてB液を得る方法としては、均質なB液を得るに必要な方法であれば、特に限定されない。
例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを挙げることができるが、均一に分散させることが容易であるという点で、高圧分散法が好ましい。
混合順序も、沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り、無機フィラーやバインダー樹脂やその他の成分を一度に溶媒に添加して混合してもよいし、それぞれを溶媒に溶解又は分散した後に混合するなど任意である。
【0038】
B液を基材多孔質フィルムに塗布する方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、キャピラリーコート法、スピンコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法、グラビアコーター法、ダイコーター法などを採用することができる。形成される耐熱層の厚さは塗布量、バインダー樹脂のB液中の濃度、フィラーのバインダー樹脂に対する比を調節することによって制御することができる。
【0039】
B液を基材多孔質フィルム上に塗布前に、あらかじめ基材多孔質フィルムに親水化処理を行うことが好ましい。B液は、基材多孔質フィルムに直接塗布することも可能であるが、基材多孔質フィルムを親水化処理することにより、より塗布性が向上し、より均質な耐熱層を得ることができる。この親水化処理は、特に溶媒中の水の濃度が高いときに有効である。
基材多孔質フィルムの親水化処理は、いかなる方法でもよく、具体的には基材多孔質フィルムを酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
ここで、コロナ処理では、比較的短時間で基材多孔質フィルムを親水化できることに加え、コロナ放電によるポリオレフィン樹脂の改質が、膜の表面近傍のみに限られ、基材多孔質フィルム内部の性質を変化させることなく、高い塗工性を確保できるという利点を発揮する。
【0040】
B液をA層に塗工する場合において、A層の片面にのみB層を形成させる場合は、表面粗さが低い面(平滑面)に塗工することにより、表面粗さが高い面(粗い面)への塗工時に比し、より粉落ちしにくい積層多孔質フィルムが得ることができる。
また、A層の両面にB層を形成させる場合は、表面粗さが低い面(平滑面)を塗工第一面とし、表面粗さが高い面(粗い面)を塗工第二面として塗工することにより、逆順での塗工時に比し、より粉落ちしにくい積層多孔質フィルムを得ることが出来る。
【0041】
基材多孔質フィルム上に塗布したB液からの媒体の除去は、乾燥による方法が一般的である。
なお、B液を基材多孔質フィルムの上に塗布した場合、媒体の乾燥温度は、基材多孔質フィルムの透気度を低下させない温度、即ち、シャットダウンが生じる温度以下であることが好ましい。
【0042】
B液を塗工後に乾燥して得られる耐熱層としてのB層の厚みは、通常0.1μm以上10μm以下であり、好ましくは2μm以上6μm以下の範囲である。B層の厚みが厚すぎると、非水電解液二次電池を製造した場合に、該電池の負荷特性が低下するおそれがあり、薄すぎると、事故等により該電池の発熱が生じたときにポリオレフィン多孔膜の熱収縮に抗しきれずセパレータが収縮するおそれがある。
なお、B層がA層の両面に形成される場合には、B層の厚みは両面の合計厚みとする。
【0043】
B層は無機フィラーがバインダーで連結した多孔質の膜であり、無機フィラーの隙間に形成される細孔が連結し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能である。該細孔の孔径は、細孔を球形に近似したときの球の直径の平均値として3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。孔径の平均の大きさが3μmを超える場合には、正極や負極の主成分である炭素粉やその小片が脱落したときに、短絡しやすいなどの問題が生じるおそれがある。
また、B層の空隙率は30〜90体積%が好ましく、より好ましくは40〜85体積%である。
【0044】
本発明の積層多孔質フィルム全体(A層+B層)の厚みは、通常、5〜80μmであり、好ましくは、5〜50μmであり、特に好ましくは6〜35μmである。積層多孔質フィルム全体の厚みが5μm未満では破膜しやすくなる。また、厚みが厚すぎると、非水二次電池のセパレータとして用いたときに電池の電気容量が小さくなる傾向にある。
【0045】
なお、本発明の積層多孔質フィルムには、基材多孔質フィルムと耐熱層以外のもの、例えば、接着膜、保護膜等の多孔膜が本発明の目的を損なわない範囲で含まれていてもよい。
【0046】
このようにして調製される本発明の積層多孔質フィルムは、粉落ち量が少ない。なお、ここでいう粉落ち量が少ないとは、テープを用いたT型ピール試験での剥離強度(以下、ピール強度と呼ぶことがある)が高いことを指す。
T型ピール試験は、主にA層と耐熱層の界面接着力を評価する方法である。特に積層多孔質フィルムを非水電解質二次電池用セパレータとして用いる場合には、該フィルムを電池形状に合わせてカットする工程などにおいて、A層からの耐熱層剥れ落ちが生じ易く、ピール強度が高いことは、かかるセパレータの具備すべき性質として重要となる。
【0047】
積層多孔質フィルムのT型ピール強度は高いほど電池製造ライン上で該フィルムの粉落ちの影響が少なくなり、扱いが容易になり好ましい。
【0048】
<非水電解質二次電池>
本発明の積層多孔質フィルムは、電池、特にはリチウム二次電池などの非水電解液二次電池のセパレータとして好適に使用することができる。
本発明の積層多孔質フィルムの好適な使用例として、リチウム電池などの非水電解液二次電池に対して使用する場合を例として、非水電解液二次電池について説明するが、該積層多孔質フィルムの使用方法はこれらに限定されるものではない。
【0049】
本発明の非水電解液二次電池は、セパレータとして、上述の本発明の積層多孔質フィルムを含み、その他の構成部材として、負極電極シート、セパレータ、正極電極シートが積層されてなる電極群と非水電解液を含む。
【0050】
本発明の積層多孔質フィルムをセパレータとして用いて非水電解液二次電池を製造すると、高い負荷特性を有し、しかも事故により電池が激しく発熱した場合でもセパレータはシャットダウン機能を発揮し、セパレータの収縮による正極と負極の接触が避けられ、安全性の高い非水電解液二次電池となる。
【0051】
なお、本発明の非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、ペーパー型、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型などのいずれであってもよい。
【0052】
正極電極シートは、通常、正極活物質、導電材および結着剤を含む合剤を集電体上に担持したものを用いる。具体的には、該正極活物質として、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を含み、導電材として炭素質材料を含み、結着剤として熱可塑性樹脂などを含むものを用いることができる。該リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、V、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が挙げられる。中でも好ましくは、平均放電電位が高いという点で、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどのα−NaFeO
2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0053】
該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでもよく、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記の少なくとも1種の金属元素が0.1〜20モル%であるように該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル性が向上するので好ましい。
【0054】
該結着剤としては、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0055】
該導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素質材料が挙げられる。導電材として、それぞれ単独で用いてもよいし、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いてもよい。
【0056】
負極電極シートとしては、通常、負極活物質、導電材および結着剤を含む合剤を集電体上に担持したものを用いる。負極活物質として、例えばリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金などを用いることができる。
リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素質材料、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられる。
炭素質材料として、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いため正極と組み合わせた場合大きなエネルギー密度が得られるという点で、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料が好ましい。
【0057】
負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、特にリチウム二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工しやすいという点でCuが好ましい。該負極集電体に負極活物質を含む合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または溶媒などを用いてペースト化し集電体上に塗布乾燥後プレスするなどして圧着する方法が挙げられる。
【0058】
非水電解液としては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiC(SO
2CF
3)
3、Li
2B
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのうち1種または2種以上の混合物が挙げられる。リチウム塩として、これらの中でもフッ素を含むLiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、およびLiC(CF
3SO
2)
3からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0059】
より具体的には、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、Y−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物または前記の物質にフッ素基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの2種以上を混合して用いる。
【0060】
これらの中でもカーボネート類を含むものが好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合物がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合物としては、作動温度範囲が広く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合物が好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
なお、実施例及び比較例において積層多孔質フィルムの物性等は以下の方法で測定した。
(1)厚み測定(単位:μm):
積層多孔質フィルムの厚みは、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機で測定した。
(2)目付(単位:g/m
2):
積層多孔質フィルムを一辺の長さ10cmの正方形に切り、重量W(g)を測定した。
目付(g/m
2)=W/(0.1×0.1)で算出した。耐熱層の目付は、積層多孔質フィルムの目付から基材多孔質フィルム(A層)の目付を差し引いた上で算出した。
(4)表面粗さ測定:
共焦点顕微鏡PLμ2300を用いて測定した。凹凸の指標である自乗平均面粗さ(rms値)をもって、表面平滑性を表した。
(5)剥離強度試験
JIS規格 K6854−3に準拠し、剥離用テープとして3M社のScotchクリアテープを用いて剥離速度を100mm/分で測定した。
【0063】
<基材多孔質フィルム(A層)>
超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞株式会社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。
さらに、同様にして圧延時のドロー比を変えたシートを作成し、これらの2枚のシートを130℃で熱圧着させ積層シートとした。
この積層シートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で6倍に延伸してポリエチレン製多孔質膜からなる基材多孔質フィルムAを得た。該フィルムについて、rms値を算出した結果を表1に示す。なお、当該基材多孔質フィルムAにおいて、rms値が小さい面を平滑面とし、また、rms値が大きい面を凹凸面と記す。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1
(1)B液の調製
実施例1のB液を以下の手順で作製した。
まず、媒体として、純水:エタノールの比が70:30である水溶液にカルボキシメチルセルロース(CMC、第一工業製薬株式会社製セロゲン3H)を溶解させて1%濃度のCMC溶液を得た。
次いで、CMC100重量部に対して、アルミナ(住友化学製:AKP3000)を3500重量部添加し、添加、混合して、ゴーリンホモジナイザーを用いた高圧分散条件(60MPa)にて3回処理することにより、B液を調製した。
(2)積層多孔質フィルムの製造
グラビア塗工機を用いて、表裏でrms値の異なる基材PE多孔質フィルムの平滑面にB液を塗布乾燥して積層多孔質フィルム1を作製した。表2に得られた積層多孔質フィルム1の物性を示す。
【0066】
比較例1
塗工面を凹凸面とした以外は実施例1と同様の操作で積層多孔質フィルム2を得た。表2に物性を示す。
【0067】
実施例2
グラビア塗工機を用いて、積層多孔質フィルム1の未塗工面である凹凸面に、B液を塗布乾燥して積層多孔質フィルム3を得た。表2に物性を示す。
【0068】
比較例2
グラビア塗工機を用いて、積層多孔質フィルム2の未塗工面である平滑面に、B液を塗布乾燥して積層多孔質フィルム4を得た。表2に物性を示す。
【0069】
【表2】