(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
日本の伝統的調味料の一つである醤油は、本醸造方式の場合、加熱変性させた大豆等の蛋白質原料と小麦等の澱粉質原料との混合物に麹菌を接種培養して醤油麹をつくり、この醤油麹を食塩水に仕込んで醤油諸味とし、これを発酵・熟成させた後、圧搾濾過することによって製造される。このような一般的な製造方法で得られる醸造醤油のpHは4.8前後である。また、醤油はpH緩衝能が強いので、例えばpHが4.6未満の調味料に醤油を添加するとpHが4.6より高くなる場合がある。
【0003】
食品のpHは食品の味や香りに影響するほか、微生物の増殖とも深く関連しており、一般的に食品のpHを低くすると、微生物の増殖を抑制でき、食品の腐敗や劣化を防止することができる。よって、食品の微生物耐性を高めるためにpHを低くすることが考えられる。
【0004】
例えば、醤油のpHを低くする方法として、酸味料を添加する方法が用いられている。しかしながら、この方法でpHを下げた場合、酸味や酸臭を強く感じ、醤油の後味の旨味に欠け、風味の面で好ましくない。従って、酸味や酸臭が抑えられ、しかも風味の良好な低いpHの醤油が提供できれば、微生物耐性と嗜好性の両面を満足できるものとして非常に有用である。
【0005】
一方、醤油には、その芳醇な香りを形成する各種の香気成分があることが知られており、これらが複雑にからみあって醤油独特の風味を醸し出す。エチルラクテートは、醤油中の香り成分の一つとして知られているが(非特許文献1)、従来の醤油よりも低いpHであるpH4.6未満の醤油においてエチルラクテートが旨味の増強、酸味や酸臭の抑制、及び風味改善効果を有することはこれまで全く知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の低pH醤油は、pHが4.6未満であって、醤油の全窒素濃度1w/v%あたりエチルラクテートを20ppm以上含有することを特徴とする。本発明の低pH醤油のpHは、微生物の増殖抑制に有効なpH4.6未満であればよいが、醤油本来の風味保持の観点から、その下限は、4.2より大きいことが好ましく、4.4以上がより好ましい。本発明においてpHの調整方法は醸造中の微生物の発酵を制御することによる方法、酸味料などのpH調整剤の添加による方法等、特に限定されないが、例えば、酸味料の添加は、諸味(熟成前の諸味、熟成後圧搾濾過前の諸味)、諸味熟成後の圧搾濾過液、または製品後の醤油に対して行うことができる。酸味料としては、食品に使用できるものであれば特に制限されないが、例えば、乳酸、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などの有機酸、リン酸、塩酸などの無機酸が挙げられ、呈味や風味への影響が少ない点において、乳酸または酢酸が好ましい。また、これらの酸味料は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0012】
また、本発明の低pH醤油において、醤油の全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテートの濃度は、20ppm以上であればよいが、酸味と酸臭の抑制、及び醤油の旨味、特には後味の旨味の改善の観点から、20ppm〜70ppmが好ましく、20ppm〜50ppmがより好ましく、20ppm〜30ppmがさらに好ましい。醤油の全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテートの濃度が20ppm未満であると、酸味と酸臭の抑制効果、及び後味の旨味の改善効果が得られず、また、70ppmを超えるとエチルラクテート独特の鼻に抜ける香りが強くなり好ましくない。醤油の全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテートの濃度の測定は、定法に基づいて行えばよく、例えば、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0013】
本発明の低pH醤油において、醤油の全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテートの濃度は上記の範囲である限り、その調整方法は特に限定はされない。例えば、発酵の制御や市販のエチルラクテートの添加によって行ってもよく、その添加は、例えば、諸味(熟成前の諸味、熟成後圧搾濾過前の諸味)、諸味熟成後の圧搾濾過液、または製品後の醤油に対して行うことができる。
【0014】
本発明において、醤油とは、いかなる醤油であってもよく、例えば濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、再仕込醤油、白醤油等が挙げられる。また、製造途中の醤油、生醤油、生揚げ醤油等を含む。
【0015】
本発明の低pH醤油において改善される「旨味」とは、グルタミン酸などの旨味成分によって感じられる呈味であり、食品を喫食後、時間経過とともに順に感じられる先味(initial taste)及び後味(after taste)のうちの、後味の旨味である。先味、後味は、相対的な概念であって、食品の種類や呈味成分によって、時間との関係が必ずしも明確に定義はできないが、本発明において、先味は喫食後0から2秒まで、後味は喫食後5秒以降に感じる呈味をいう。
【0016】
本発明の低pH醤油は、上記のようなpHとエチルラクテート濃度の調整を行う以外は、以下のような通常の醤油の製造方法、すなわち、醤油麹の調製工程、醤油諸味の調製(醤油麹と食塩水の混和)工程、醤油諸味の発酵・熟成工程、圧搾工程を含む製造方法に従って製造することができる。
【0017】
(醤油麹の調製)
まず、通常の醤油の醸造法と同様に醤油麹を調製する。具体例を挙げれば、大豆、脱脂加工大豆、小麦グルテンなどを加熱変性して得られた蛋白質原料と、麦類(小麦、大麦、裸麦、はと麦)及び米類などを加熱変性して得られた澱粉質原料とを混和し、該混和物の水分を35〜45w/w%に調整した後、これにアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae)などの種麹菌を接種し、20〜40℃で3〜4日間培養して醤油麹を調製する(製麹)。麦類の加熱変性は炒熬割砕によって行うことが好ましく、米類の加熱変性は蒸煮または炊飯によって行うことが好ましい。
【0018】
上記蛋白質原料と澱粉質原料との配合比(蛋白質原料:澱粉質原料)は、重量比で通常100:0〜0:100であり、特に限定はされないが、例えば、濃口醤油、淡口醤油で用いられている配合比である30:70〜70:30が好ましく、40:60〜60:40がより好ましい。
【0019】
(醤油諸味の調製)
次に醤油諸味を調製する。醤油諸味は醤油麹と食塩水とを混和する(これを、仕込みという)ことによって得られる。ここで混和する食塩水は、前記醤油麹の調製に用いられた植物種子の容積(生種子換算)に対する容積比が100〜300v/v%となる量であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いられる食塩水は、醤油麹と食塩水を混和して醤油諸味となし、これを圧搾したときの食塩濃度は13.0〜20.0w/v%が好ましく、14.0〜18.0w/v%がより好ましい。季節にもよるが、食塩濃度が13.0w/v%未満では醤油諸味が腐敗する危険があるため好ましくない。一方、20.0w/v%より高い濃度では酵母の増殖が阻害されるため好ましくない。なお、発酵・熟成した最終醤油諸味を圧搾濾過して得られる醤油は製品とするために食塩濃度を調整するが、本発明の製品としての醤油の食塩濃度は12.0〜18.0w/v%、好ましくは12.0〜16.0w/v%であると、エチルラクテートによる後味の旨味の改善効果が優れているため好ましい。
【0021】
(醤油諸味の発酵・熟成)
次に、得られた醤油諸味を発酵・熟成させる。発酵・熟成は、1段階で行っても2段階で行ってよい。2段階で行う場合は、第1段発酵・熟成工程の途中で、すなわち発酵・熟成が完全に終了する前に、第1段諸味に、醤油麹(この醤油麹を特に「追加麹」と称することがある)あるいは醤油麹及び食塩水の混合物(この醤油麹と食塩水との混合物を特に「追加諸味」と称することがある)を添加し、第2段諸味を得、さらに発酵・熟成を続ける。
【0022】
醤油諸味の発酵・熟成は、アルコール発酵に加えて乳酸発酵も行われることが好ましい。一般に、醤油醸造において乳酸発酵はアルコール発酵が始まる前又はアルコール発酵と同時に行われる。乳酸発酵に使用できる乳酸菌としては、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等の耐塩性醤油乳酸菌が挙げられる。
【0023】
乳酸発酵は、醤油諸味に対し、1×10
3〜1×10
7個/g諸味となるように乳酸菌を添加し、次いで諸味品温を15〜35℃にて、pHが4.6〜5.3となるのに十分な時間、例えば30〜60日間保持することにより行う。乳酸発酵は、醤油諸味中に0.5w/v%以上の乳酸を生成させるまで行うことが好ましい。
【0024】
乳酸発酵開始時の醤油諸味は、通常pH5.8〜6.2であるが、次第に溶解(加水分解)して、原料溶出及び乳酸発酵が開始され、pHが4.6〜5.3に低下し、酵母の増殖に好適な醤油諸味となる。
【0025】
醤油酵母は、その添加時期は問わないが、早湧きを防止するため、乳酸発酵終了後、すなわち醤油諸味のpHが5.3以下に低下したときに添加することが好ましい。
【0026】
本発明においてアルコール発酵に用いられる酵母としては、10〜20w/w%の食塩高濃度の醤油諸味中でも旺盛に増殖できる耐塩性醤油酵母が好ましく、例えば、チゴサッカロマイセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、チゴサッカロマイセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailli)などのチゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属の酵母、キャンディダ・バーサチルス(Candida versatilus)、キャンディダ・エチェリシ(Candida etchellsii)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)等のキャンディダ(Candida)属の酵母が挙げられる。
【0027】
酵母は、諸味1g当たり1×10
3〜1×10
7個となるように、醤油諸味に予め培養しておいた上記酵母を添加することが好ましい。また、予め培養しておいた酵母を人為的に添加することなく、醤油諸味に空中落下又は醤油麹から自然混入した酵母、あるいは醤油諸味が仕込まれた発酵槽等に棲息する耐塩性醤油酵母(野生型酵母)を利用してもよい。
【0028】
アルコール発酵は、酵母菌を添加後、諸味品温を20〜35℃にて、アルコールが0.5〜4v/v%、好ましくは3〜4v/v%程度となるのに十分な時間、例えば30〜90日間程度保持することにより行う。諸味中のエチルアルコール濃度は、培養時間によって調整することができる。また、酵母の発酵・熟成は、間歇的又は連続的に通気培養、攪拌培養、通気攪拌培養を行うなど、好気的条件下で実施することが好ましい。
【0029】
アルコール発酵を終えた醤油諸味はさらに静置し、酵母・乳酸菌による発酵を継続し、その後、熟成の程度は問わないが通常数ヵ月程度熟成させる。
【0030】
(圧搾・火入れ)
醤油は、熟成した醤油諸味を常法により圧搾濾過して得られる。圧搾濾過は、ナイロンなどの合成繊維でできた濾布で諸味を包み、加圧する厚揚げ方式や、濾過板と圧搾板に張った濾布の中に諸味を入れ、圧縮空気等で加圧するフィルタープレス方式等の従来公知の方法を用いることができる。得られた醤油は殺菌または除菌処理される。殺菌、除菌の方法は問わないが、一般的に殺菌は「火入れ」と呼ばれる加熱処理を行ない、オリ引き(清澄処理)し、容器に充填して製品化する。火入れは公知の醤油醸造で用いられている加熱条件で行えばよく、例えば、80〜85℃で20〜60分間、または110〜120℃で5〜20秒間行う。オリ引き(清澄処理)の方法は、膜処理、珪藻土ろ過、遠心分離、凝集法、沈降法など従来公知の方法を用いることができる。
【0031】
本発明の低pH醤油は、そのまま用いてもよいが、液状のまま、あるいは常法により凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラムドライ乾燥などして、ペースト状、固形状、粉末状とした後、各種つゆ(麺つゆなど)、たれ(焼肉用たれなど)、ぽん酢、ソース、ドレッシング、スープなどの液体調味料に添加することで醤油含有調味料としても用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0033】
(参考例)成分の測定方法
以下の実施例において、試料中のエチルラクテート濃度の測定は、しょうゆ試験法(財団法人、日本醤油研究所編、1985年3月1日発行、p177〜179)の「5−5香気成分のガスクロマトグラフィーによる定量法」に従って分析した。
【0034】
(実施例1)エチルラクテートによる旨味の改善効果
市販の濃口醤油(キッコーマン食品社製、pH4.8、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度12ppm、食塩濃度16.0w/v%)に酢酸を添加してpH4.6の醤油(対照品)、pH4.5の醤油(試験品1−1)をそれぞれ調製した。試験品1−1の醤油に全窒素濃度1w/v%あたり30ppmとなるように市販エチルラクテート(東京化成工業社製)を添加し、試験品1−2の醤油を得た。
【0035】
上記試験品及び対照品の醤油について、識別能力を有する訓練された6名のパネラ−によって、喫食後5秒経過以降に感じられる「後味の旨味」に関する官能検査を行った。検査方法は、順位法によって行ない、旨味の強い順番から3点、2点、1点と配点し、その順位和で表示した。なお、順位法についてはKramerの有意差検定を用いた。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
対照品1(pH4.6)と試験品1−1(pH4.5)の結果から、pHが4.6未満の醤油では、pHの低下に伴い、後味の旨味が顕著に弱くなることがわかった。これに対し、pH4.5で、全窒素濃度1w/v%あたりエチルラクテートを30ppm含有する試験品1−2(本発明品)の醤油は、同じpH4.5で、エチルラクテート濃度を調整しない試験品1−1の醤油よりも後味の旨味が有意に強かった。また、pH4.6でエチルラクテート濃度を調整しない対照品1の醤油と比べても、試験品1−2(本発明品)の醤油は後味の旨味が強かった。以上の結果から、pH4.6未満の醤油において、醤油の全窒素濃度1w/v%あたりエチルラクテートを30ppm含有させることによって、pH4.6未満の醤油の後味の旨味を顕著に改善できることが示された。
【0038】
(実施例2)エチルラクテートによる酸味の低減効果
市販の濃口醤油(キッコーマン食品社製、pH4.8、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度12ppm、食塩濃度16.0w/v%)に酢酸または乳酸を添加し、pH4.2の醤油(試験品A−1、C−1)、pH4.4の醤油(試験品B−1、D−1)、pH4.6の醤油(対照品A〜D)をそれぞれ調製した。このうち試験品A−1、B−1、C−1、D−1の醤油に全窒素濃度1w/v%あたり30ppmとなるように市販エチルラクテート(東京化成工業社製)をそれぞれ添加し、試験品A−2、B−2、C−2、D−2の醤油を得た。また、対照品A〜D(pH4.6)は、エチルラクテートは添加せず、それぞれ同じ記号の試験品の対照として用いる。これらの試験品及び対照品の醤油について、識別能力を有する訓練されたパネラー(試験品A−1、試験品A−2、対照品Aについては10名、試験品B−1、試験品B−2、対照品Bについては7名、試験品C−1、試験品C−2、対照品Cについては8名、試験品D−1、試験品D−2、対照品Dについては6名)によって「酸味の強さ」に関する官能検査を行った。検査方法は、順位法によって行ない、酸味の強い順番から3点、2点、1点と配点し、その順位和で表示した。なお、パネラーが6名の場合はスコアが「8〜16」、パネラーが7名の場合はスコアが「10〜18」、パネラーが8名の場合はスコアが「11〜21」、パネラーが10名の場合はスコアが「15〜25」を、5%の危険率で有意差ありとした。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
酸味料添加によりpHを低下させた試験品A−1(pH4.2)、試験品B−1(pH4.4)、試験品C−1(pH4.2)、試験品D−1(pH4.4)の醤油は、それぞれの対照品A〜Dの醤油と比較して、酸味が強くなることがわかった。これに対し、pH4.4で全窒素濃度1w/v%あたりエチルラクテートを30ppm含有する試験品B−2、試験品D−2の醤油は、同じpH4.4で、エチルラクテート濃度を調整しない試験品B−1、試験品D−1の醤油よりもそれぞれ酸味の強さが有意に低減した。また、試験品B−2、試験品D−2は、pH4.6でエチルラクテート濃度を調整しない対照品B、対照品Dの醤油と比べても、酸味の強さが低減するか、または同等であった。一方、pH4.2で全窒素濃度1w/v%あたりエチルラクテートを30ppm含有する試験品A−2、試験品C−2の醤油は、同じpH4.2で、エチルラクテート濃度を調整しない試験品A−1、試験品C−1の醤油と比べて酸味の強さが同等であり、エチルラクテート添加による酸味の低減効果が得られなかった。
【0041】
以上の結果から、エチルラクテートによる醤油の酸味の低減効果を得るためのpHの下限値は4.2と4.4の間にあると判断された。
【0042】
(実施例3)エチルラクテート濃度(下限値)の検討
市販の濃口醤油(キッコーマン食品社製、pH4.8、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度12ppm、食塩濃度16.0w/v%)に酢酸を添加してpH4.5の醤油を調製し、対照品とした。市販のエチルラクテート(東京化成工業社製)を、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度が表3に示す濃度(20ppm、30ppm、40ppm、50ppm)になるように対照品の醤油に添加してエチルラクテート濃度の異なる官能検査用の試験品の醤油を調製した。
【0043】
対照品及び試験品の醤油について、識別能力を有する訓練された4名のパネラ−によって官能検査を行った。検査は、対照品と比較して試験品の「酸臭」、「後味の旨味」、「風味のバランス」について評価した。評価は下記の基準に従い、平均値を求めた。結果を表3に示す。
【0044】
<酸臭と後味の旨味の評価基準>
3:試験品が対照品と比べてかなり強い
2:試験品が対照品と比べて強い
1:試験品が対照品と比べてやや強い
0:試験品が対照品と同等
−1:試験品が対照品と比べてやや弱い
−2:試験品が対照品と比べて弱い
−3:試験品が対照品と比べてかなり弱い
【0045】
<風味のバランスの評価基準>
3:試験品が対照品と比べてかなり良い
2:試験品が対照品と比べて良い
1:試験品が対照品と比べてやや良い
0:試験品が対照品と同等
−1:試験品が対照品と比べてやや悪い
−2:試験品が対照品と比べて悪い
−3:試験品が対照品と比べてかなり悪い
【0046】
【表3】
【0047】
「酸臭」の低減効果は、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度が20ppm、30ppmで顕著であった。「後味の旨味」、「風味のバランス」についてはいずれの試験品についても改善効果が認められたが、30ppmで顕著であった。
【0048】
(実施例4)エチルラクテートの濃度(上限値)の検討
市販の濃口醤油(キッコーマン食品社製、pH4.8、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度12ppm、食塩濃度16.0w/v%)に酢酸または乳酸を添加してpH4.5の醤油を調製し、対照品とした。市販のエチルラクテート(東京化成工業社製)を、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度が表4に示す濃度(20ppm、30ppm、50ppm、70ppm、100ppm)になるように対照品の醤油に添加してエチルラクテート濃度の異なる官能検査用の試験品の醤油を調製した。
【0049】
対照品及び試験品の醤油について、識別能力を有する訓練された14名のパネラーによる官能検査を行った。検査方法は、三点識別法によって行ない、対照品と比較して試験品のエチルラクテートに独特な「鼻に抜ける香り」について評価した。三点識別法は、サンプル3個を1組にし(2個は対照品、1個の試験品)、試験品の識別が可能かどうかを調べるものであり、さらに、偶然に当たる確率の値と統計上の危険率5%による仮説検定に従い、有意差の有無を調べた。結果を表4に示す。なお、表4の「識別(人数)」はパネラー14名中「鼻に抜ける香りがある」と評価した人数を示す。
【0050】
【表4】
【0051】
全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテートの濃度が70ppmを超える試験品は、過半数のパネラーが、エチルラクテートに独特な鼻に抜ける香りがあるものとして識別され、醤油本体の香りが損なれてることがわかった。以上の結果から、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテートの濃度の上限は70ppm、好ましくは50ppmであると判断された。
【0052】
(実施例5)エチルラクテートの後味の旨味の改善効果と食塩濃度との関係の検討
市販の濃口醤油(キッコーマン食品社製、pH4.8、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度12ppm、食塩濃度16.0w/v%)をイオン交換膜を用いて脱塩処理した後、酢酸を添加してpH4.5に調整し、さらに、塩化ナトリウムを表5に示す濃度(8w/v%、12w/v%、16w/v%、18w/v%、20w/v%)になるように調整して対照品とした。この対照品の醤油に、市販のエチルラクテート(東京化成工業社製)を、全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度が30ppmになるように添加して食塩濃度の異なる官能検査用の試験品の醤油を調製した。
【0053】
対照品及び試験品の醤油について、識別能力を有する訓練された6名のパネラ−によって官能検査を行った。検査は、同じ食塩濃度の対照品と比較して試験品の「後味の旨味」について評価した。評価は下記の基準に従い、平均値を求めた。結果を表5に示す。
【0054】
<後味の旨味の評価基準>
3:試験品が対照品と比べてかなり強い
2:試験品が対照品と比べて強い
1:試験品が対照品と比べてやや強い
0:試験品が対照品と同等
−1:試験品が対照品と比べてやや弱い
−2:試験品が対照品と比べて弱い
−3:試験品が対照品と比べてかなり弱い
【0055】
【表5】
【0056】
エチルラクテートによる「後味の旨み」の改善効果は、食塩濃度が12〜18w/v%の範囲で得られた。
醤油の全窒素濃度1w/v%あたりのエチルラクテート濃度を20ppm以上に調整することで、酸味と酸臭が抑制され、かつ後味の旨味が改善されたpH4.6未満の醤油を得る。