特許第5964588号(P5964588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5964588ラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964588
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20160721BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20160721BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   A23C9/123
   A23C9/13
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-529889(P2011-529889)
(86)(22)【出願日】2010年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2010064569
(87)【国際公開番号】WO2011027719
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年5月16日
【審判番号】不服2015-4549(P2015-4549/J1)
【審判請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2009-203157(P2009-203157)
(32)【優先日】2009年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERMBP-6999
【微生物の受託番号】NPMD  NITEBP-224
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】伊 澤 佳久平
(72)【発明者】
【氏名】大 友 英 生
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 三原 健治
【審判官】 長井 啓子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−103794(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069498(WO,A1)
【文献】 Anim.Sci.J.,2008,Vol.79,p.634−640
【文献】 食品と開発,1999,Vol.34,No.8,p.44−46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
Thomson Innovation
CAplus/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
κ-カゼイノグリコマクロペプチドを有効成分として含む、組成物中におけるラクトバチルス属乳酸菌の生残性向上剤であって、
ラクトバチルス属乳酸菌がラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)種である、ラクトバチルス属乳酸菌の生残性向上剤(但し、プロピオン酸菌発酵物を除く)
【請求項2】
ラクトバチルス属乳酸菌が、Lactobacillus gasseri OLL2716株、及びLactobacillus gasseri OLL2959株から選択される1種以上のものである、請求項1に記載のラクトバチルス属乳酸菌の生残性向上剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラクトバチルス属乳酸菌の生残性向上剤を、ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物に添加することを特徴とする、ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物においてラクトバチルス属乳酸菌の生残性を向上させる方法。
【請求項4】
前記の乳酸菌含有組成物の発酵前に、前記の乳酸菌の生残性向上剤を、前記の乳酸菌含有組成物に添加することを含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物において、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)種であるラクトバチルス属乳酸菌の生残性を向上させるための、κ-カゼイノグリコマクロペプチドの使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国特許出願である特願2009−203157号(出願日:2009年9月2日)に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体は参照することによりここに組み込まれる。
【発明の背景】
【0002】
技術分野
本発明は、κ-カゼイノグリコマクロペプチド含有物を有効成分とする、ラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤に関する。
【0003】
関連技術
消化管内の細菌叢を改善するなど、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物は、プロバイオティクスと称され注目を集めている。このような有用な微生物の一つとして、乳酸菌がある。最近では、乳酸菌の機能性研究が盛んになってきており、その乳酸菌を利用して、新規な機能性を盛り込んだ商品の開発も進んでいる。そのような乳酸菌として、ラクトバチルス(Lactobacillus)属乳酸菌等が挙げられる。
【0004】
乳酸菌の経口的な摂取方法として、各種の食品形態が存在する。発酵乳等を代表とする発酵食品では、低pH環境となっており、乳酸菌の増殖及び生存には適さないことも多い。食品中で乳酸菌を増殖促進又は生残性向上させることは、乳酸菌が前記のようなプロバイオティクスの機能性を有する場合には、予防医学にとって絶大な貢献となる。
【0005】
食品中で乳酸菌を増殖促進及び/又は生残性向上させることに関し、いくつかの方法が提案されている。文献(R.I.デイブ等(R.I.Dave and N.P.Shah),“Ingredient Supplementation Effects on Viability of Probiotic Bacteria in Yogurt",J. Dairy Sci 81, 2804-2816 (1998))には、システイン、ホエイ粉末、WPC、カゼイン水和物、又はトリプトンを添加することで、ビフィズス菌やアシドフィラス菌を含むヨーグルトの保存中に、それら菌数の維持が改善されたことが報告されている。
【0006】
また、文献(R.I.デイブ等(Rajiv I.Dave and Negendra P.Shah),“Effectiveness of Ascorbic Acid as an Oxygen Scavenger in Improving Viability of Probiotic bacteria in Yoghurts Made with Commercial Starter Cultures",Int. Dairy Journal 7, 435-443 (1997))には、活性酸素除去剤として、アスコルビン酸を添加することで、プロバイオティクス菌(アシドフィラス菌)の菌数の消長が改善されたことが報告されている。
【0007】
一方、特許第3447358号公報には、「乳酸菌生残性向上剤」として、乳又は乳素材(例えば、バターセーラム、バターミルク)に特定の処理を施すことによって得られる、特定量の脂質を含有するものが開示されている。具体的には、この向上剤を乳酸菌の培地に添加して用いることが開示されている。
【0008】
また、特開2007−097447号公報には、プロピオン酸菌及び/又はナフトキノン環を有する化合物産生菌の培養物、溶媒抽出物及び/又は、その処理物を使用することを特徴とする、ビフィズス菌の生残性改善方法が開示されている。具体的には、プロピオン酸菌がビフィズス菌の増殖促進物質を産生することが開示されている。
【0009】
従来技術では、乳タンパク質や活性酸素除去剤などを添加することで、微生物の生残性を改良しようとしていた。しかしながら、これらの物質では、ヨーグルトの風味や物性への影響が大きく、その使用には限界があった。特に抗酸化剤である活性酸素除去剤では、自己酸化により効果を発揮することから、相当量を使用しないと、その効果の持続性を期待できなかった。また、乳又は乳素材では、特定の処理が必要となるため、その調製に手間がかかり、ひいてはコストアップにもつながっていた。
【0010】
κ-カゼイノグリコマクロペプチドがビフィズス菌の増殖促進効果を有することは既知であるが、その作用機構は、未だ解明されていない。まして、κ-カゼイノグリコマクロペプチドが乳酸菌の増殖促進効果や生残性向上効果を有することは、本発明者らの知る限り、これまで全く知られていなかった。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは今般、ラクトバチルス属乳酸菌を含む食品組成物の風味や物性に影響を与えずに、該食品組成物に含まれている該乳酸菌の増殖を促進し、かつ、その生残性を向上する方法を実験的に検討した。その結果、乳由来の素材であるκ-カゼイノグリコマクロペプチドを使用することで、ラクトバチルス属乳酸菌を含む食品組成物の風味や物性へ影響を与えることなく、該乳酸菌の増殖を促進し、かつその生残性を向上することに成功した。さらにこの場合、効果の持続性が高くて優れており、食品組成物の保存中においてもその品質を維持できることがわかった。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0012】
従来の抗酸化剤等の生残性向上剤では、自己酸化により効果を発揮することから、効果の持続性が乏しかった。また、風味や物性への好ましくない影響があった。本発明では、従来技術にある抗酸化剤などの添加による、乳酸菌の生残性や活力の向上方法とは全く異なり、新しい視点に立ったものを提供する。
【0013】
よって本発明によれば、ラクトバチルス属乳酸菌を含む食品組成物の風味や物性へ影響を与えることなく、該乳酸菌の増殖を促進し、かつその生残性を向上することができ、かつ効果の持続性に優れ、食品保存中での品質維持にも貢献し得る、ラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤の提供をその目的とする。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] κ-カゼイノグリコマクロペプチドを有効成分として含む、ラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤、
[2] ラクトバチルス属乳酸菌がラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)種である、前記[1]に記載のラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤、
[3] ラクトバチルス属乳酸菌が、Lactobacillus gasseri OLL2716株、及びLactobacillus gasseri OLL2959株から選択される1種以上のものである、前記[1]または[2]に記載のラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤、
[4] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤を、ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物に添加することを特徴とする、ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物においてラクトバチルス属乳酸菌を増殖促進及び/又は生残性向上させる方法、
[5] 前記の乳酸菌含有組成物の発酵前に、前記の乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤を、前記の乳酸菌含有組成物に添加することを含んでなる、前記[4]に記載の方法、
[6] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤と、ラクトバチルス属乳酸菌とを含んでなる、食品組成物、
[7] ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物において、ラクトバチルス属乳酸菌を増殖促進及び/又は生残性向上させるための、κ-カゼイノグリコマクロペプチドの使用。
【0015】
本発明のラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤によれば、κ-カゼイノグリコマクロペプチドを使用することで、食品や食品組成物などのラクトバチルス属乳酸菌含有組成物において、ラクトバチルス属乳酸菌の増殖を促進させ、及び/又は生残性を向上させることができる。また、本発明によれば、κ-カゼイノグリコマクロペプチドを使用することで、発酵乳等を代表とする低pH環境の発酵食品において、ラクトバチルス属乳酸菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上でき、さらに生体内への摂取後に、ラクトバチルス属乳酸菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上させることができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、κ-カゼイノグリコマクロペプチドを使用することで、ラクトバチルス属乳酸菌を含む食品や食品組成物の風味や物性に影響を与えることなく、該乳酸菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上させることができる。特に、本発明によれば、近年、その優れた効能が解明されつつあるラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)種の乳酸菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上させることができる。従って、本発明によれば、食品や食品組成物において、本来有する風味や物性を損なうことなく、長期保存後にも、プロバイオティクスとして高い機能性を付与した状態を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実験例1における、Lactobacillus gasseri OLL2716株の菌数の生残率(保存日数後の生菌数/保存開始時の生菌数(%))を示すグラフである。
図2】実験例2における、Lactobacillus gasseri OLL2959株の菌数の生残率(保存日数後の生菌数/保存開始時の生菌数(%))を示すグラフである。
図3】実験例3における、Lactobacillus gasseri OLL2716株の菌数(cfu/g)を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0018】
乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤
本発明による乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤は、κ-カゼイノグリコマクロペプチドを有効成分として含むものである。すなわち、本発明は、κ-カゼイノグリコマクロペプチドを使用することで、ヨーグルトなどに含まれるラクトバチルス属乳酸菌などのプロバイオティクス菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上させるものである。
ここで、「乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤」とは、乳酸菌の増殖促進及び生残性向上の両方の性能を含む薬剤に加えて、乳酸菌の増殖促進、乳酸菌の生残性向上の一方のみの性能を奏する薬剤を包含する意味で使用される。ただし、これらの意味を包含する表現として、「乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤」は、乳酸菌の増殖促進及び生残性向上剤、又は乳酸菌の増殖促進及び生残性向上用組成物、又は乳酸菌の増殖促進及び生残性向上用添加剤と言い換えることもできる。
【0019】
ここで、乳酸菌の「増殖促進」とは、乳酸菌が、乳酸菌の成長又は維持に適した環境下にあるときに、乳酸菌に作用して乳酸菌の増殖の促進を図り、菌数の増大等が図れることを言う。本発明では好ましくは、乳酸菌を含有する組成物中において、その所定の保存環境下にて、乳酸菌の増殖が促進されることを言う。
【0020】
ここで、乳酸菌の「生残性向上」とは、乳酸菌の成長又は維持に適した環境下にあるときに、乳酸菌に作用して乳酸菌の死滅を抑え、生存して残っている乳酸菌の数を維持、向上させることを言う。本発明では、好ましくは、乳酸菌を含有する組成物中において、その所定の保存環境下にて、乳酸菌の生存残留数が向上されることを言う。
【0021】
ここで、κ-カゼイノグリコマクロペプチド(CGMP)は、乳タンパク質の一つであるκ-カゼインの断片であり、κ-カゼインの糖ペプチドを含むC末端ペプチドである。κ-カゼイノグリコマクロペプチドは、通常ではカゼインミセルの一部となっており、ミセルの外縁部に位置している。κ-カゼイノグリコマクロペプチドは、通常、κ-カゼイノグリコマクロペプチド含有物の形態で入手できる。
κ-カゼイノグリコマクロペプチド含有物は、種々の方法で分離して調製できる。例えば、乳タンパク質にキモシンを作用させることで取り出して調製できる。また、例えば、κ-カゼインにペプシンを作用させてから酸を加えて、パラκ-カゼイン画分を沈殿させて得られた上清部を透析して脱塩した後に、必要に応じて凍結乾燥などすることで調製できる。さらに、例えば、レンネットやペプシンあるいは両者を酸カゼインに作用させて凝乳処理し、レンネットカゼインカードを形成させて、その際に生成するホエイを利用することで調製できる。具体的には、該ホエイでは、リン酸カルシウムを含んでおり、pHと温度を調整して(例えば、pHを8〜9とし、温度を50〜60℃に調整して)、リン酸カルシウムを沈殿させて除去して得られる上清部を中性領域に戻して調整してから、逆浸透膜で濃縮して脱塩した後に、必要に応じて噴霧乾燥などすることで調製できる。
あるいは、κ-カゼイノグリコマクロペプチドは、市販品があればそれを利用してもよい。
【0022】
本発明のラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤には、上記のκ-カゼイノグリコマクロペプチド含有物やその処理物をそのまま、あるいは溶媒で希釈した可溶画分や不溶画分として得、これをそのまま使用することができる。該溶媒としては、水や通常で用いられる溶媒、例えば、アルコール類、炭化水素類、有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基、超臨界流体等を単独あるいは複数を組合せて用いることができる。また、本発明のラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤は、前記のκ-カゼイノグリコマクロペプチドそれ自体やその処理物に、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等の食品組成物を組合せて得ることもできる。
【0023】
本発明の乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤を、κ-カゼイノグリコマクロペプチドの濃度に換算して、好ましくは0.05〜0.6重量%、より好ましくは0.1〜0.4重量%、さらに好ましくは0.2〜0.3重量%含むように、前記の乳酸菌含有組成物に加えることができる。このとき、前記の乳酸菌含有組成物は、ラクトバチルス属乳酸菌を、好ましくは10CFU/g以上、より好ましくは10〜10CFU/gの範囲、さらに好ましくは、10〜10CFU/gの範囲で含むことができる。
【0024】
本発明者らが検討したところによれば、本発明によるラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤は、低pH環境において、該乳酸菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上する機能を発揮できるものであった。発酵乳等を代表とする乳酸菌を含有する食品や食品組成物では、一般的に低pH環境となっており、乳酸菌の増殖及び/又は生存には適さないことも多い。本発明の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤は、低pH環境においても、乳酸菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上する機能を発揮できるので、発酵乳等を代表とする乳酸菌を含有する食品や食品組成物における乳酸菌の増殖を促進及び/又は生残性を向上する上で有用である。本発明の乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤は、乳酸菌を含有する食品や食品組成物のpH等を考慮した上で、従来技術と差別化した低pH環境において、より効果的に機能を発揮できる。このとき、該低pH環境として、好ましくはpHで2.5〜6.5、より好ましくはpHで3.0〜5.5、さらに好ましくはpHで3.5〜5.0、最も好ましくはpHで3.8〜4.8である。
【0025】
本発明によるラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤は、ラクトバチルス属乳酸菌として特に、その優れた効能が解明されつつあるラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)種に適用することが好ましい。そして、ラクトバチルス・ガセリ種は、例えば、ラクトバチルス・ガセリOLL2716(Lactobacillus gasseri OLL2716:FERM BP−6999)株、ラクトバチルス・ガセリOLL2959株(Lactobacillus gasseri OLL2959:NITE BP−224)である。
なお、後述するように、本発明においては、本発明の乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤の効果をこれら菌株において実験的に確認している。
【0026】
ここで、これら乳酸菌の寄託に関する情報は、以下の通りである。
Lactobacillus gasseri OLL2716株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている。該寄託を特定する内容を下記する。
(1)寄託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(2)連絡先:〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番1 中央第6
(3)受託番号:FERM BP−6999
(4)識別のための表示: Lactobacillus gasseri OLL2716
(5)原寄託日:平成11年5月24日
(6)ブタペスト条約に基づく寄託への移管日:平成12年1月14日
上記のLactobacillus gasseri OLL2716は、ヒト糞便より分離された。グラム陽性桿菌であり、グルコースよりガスを産生せず、カタラーゼ陰性を示す。グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、セロビオース、ラクトース、トレハロース、スターチ、デキストリンを資化して酸を生成する。
【0027】
一方、Lactobacillus gasseri OLL2959株は独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている。該寄託を特定する内容を下記する。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
(3)受託番号:NITE BP−224
(4)識別のための表示:Lactobacillus gasseri OLL2959
(5)原寄託日:2006年3月31日
(6)ブタペスト条約に基づく寄託への移管日:2007年11月21日
上記のLactobacillus gasseri OLL2959株は、ヒト糞便より分離された。グラム陽性桿菌であり、グルコースよりガスを産生しない。グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、シュークロース、セロビオースを資化する。
【0028】
本発明のラクトバチルス属乳酸菌を増殖促進及び/又は生残性向上させる方法は、前記のκ-カゼイノグリコマクロペプチド含有物を有効成分とするラクトバチルス属乳酸菌の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤を、ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物に添加することによって行われる。該添加の時期として、ラクトバチルス属乳酸菌含有組成物の発酵前、発酵中、発酵後のいずれでも構わないが、製品全体で効果や作用などを均一に管理しやすいことから、好ましくは該乳酸菌含有組成物の発酵前であり、κ-カゼイノグリコマクロペプチド含有物を衛生的に管理しやすいことから、より好ましくは該乳酸菌含有組成物の殺菌前である。
【0029】
本発明によれば、さらに、本発明の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤を食品や食品組成物に用いても良い。すなわち、本発明の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤は、前記の乳酸菌を含む食品や食品組成物に用いることができる。該食品や食品組成物として、例えば、各種の飲食品(清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト等)が挙げられる。
【0030】
本発明の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤と前記の乳酸菌とを含む食品や食品組成物は、そのまま使用したり、他の食品や食品成分と混合したりするなどで、通常の食品組成物における常法に従って用いることができる。また、その性状についても通常で用いられる飲食品の状態や形態、例えば、固体状(粉末、顆粒状、その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでも良い。
【0031】
その他の成分についても特に限定されないが、前記の食品や食品組成物には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を成分として用いることができる。これらの成分は、2種以上を組合せて用いることができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品や食品組成物を用いても良い。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。なお、本明細書において、%の表示は明示しない場合、重量%を示すものとする。
【0033】
ヨーグルトのプロバイオティクス株であるLactobacillus gasseri OLL2716株(FERM BP−6999)と、同菌種のプロバイオティクス株であるLactobacillus gasseri OLL2959株(NITE BP−244)のヨーグルト中での生残性に対するκ-カゼイノグリコマクロペプチド(CGMP)の影響を検討した。なお、CGMPには、アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社のCGMP−10を用いた。
【0034】
実験例1
CGMPを0.2%で添加したヨーグルトミックスへ、スターター(Lactobacillus bulgaricusとStreptococcus thermophilusの混合培養物)を2%と、Lactobacillus gasseri OLL2716株の濃縮菌液(4×1011 CFU/g)を0.025%で同時に添加して発酵し、ヨーグルトを調製した。一方、CGMPを添加しないこと以外は全く同様に、ヨーグルトを調製し、コントロールとした。
【0035】
これらのヨーグルトを5℃にて、賞味期限である16日間で保存した。該保存の期間において、CGMPの添加の有無により、風味、物性、乳酸酸度及びpHに差はなかった。さらに、保存の開始時(調製直後)、8日後及び16日後に、Lactobacillus gasseri OLL2716株の菌数を測定した。この菌数及び生残率(保存日数後の生菌数/保存開始時の生菌数(%))を表1に示した。また、Lactobacillus gasseri OLL2716株の菌数の生残率(保存日数後の生菌数/保存開始時の生菌数(%))を図1に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
実験例2
CGMPを0.2%で添加したヨーグルトミックスへ、スターター(Lactobacillus bulgaricusとStreptococcus thermophilusの混合培養物)を2%と、Lactobacillus gasseri OLL2959株の濃縮菌液(2×1011 CFU/g)を0.04%で同時に添加して発酵し、ヨーグルトを調製した。一方、CGMPを添加しないこと以外は全く同様に、ヨーグルトを調製し、コントロールとした。
【0038】
これらのヨーグルトを5℃にて、賞味期限である16日間で保存した。該保存の期間において、CGMPの添加の有無により、風味、物性、乳酸酸度及びpHに差はなかった。さらに、保存の開始時(調製直後)、8日後及び16日後に、Lactobacillus gasseri OLL2959株の菌数を測定した。この菌数及び生残率(保存日数後の生菌数/保存開始時の生菌数(%))を表2に示した。また、Lactobacillus gasseri OLL2959株の菌数の生残率(保存日数後の生菌数/保存開始時の生菌数(%))を図2に示した。
【0039】
【表2】
【0040】
その結果、ヨーグルトを16日間で保存した後に、Lactobacillus gasseri OLL2716株の生残率は、保存の開始時(調製直後)を100%として、CGMPを無添加の場合には22.1%、CGMPを添加の場合には42.8%であった。また、ヨーグルトを16日間で保存した後に、Lactobacillus gasseri OLL2959株の生残率は、保存の開始時(調製直後)を100%として、CGMPを無添加の場合には20.6%、CGMPを添加の場合には41.9%であった。これら乳酸菌の生残率は、製品の品質を確保する上で非常に重要であり、本発明では、その要素を格段に向上できたこととなる。ここでは、乳酸菌の生残性向上効果を確認できた。
【0041】
ヨーグルトのプロバイオティクス株であるLactobacillus gasseri OLL2716株(FERM BP−6999)を用いて、増殖促進に対するκ-カゼイノグリコマクロペプチド(CGMP)の影響を検討した。
【0042】
実験例3
CGMPを0.2%で添加したMRS培地(Difco Lactobacilli MRS Broth (Becton, Dickinson and Company))に、Lactobacillus gasseri OLL2716株の濃縮菌液(4×1011 CFU/g)を10倍に希釈してから1%で接種し、40℃で培養した。一方、CGMPを添加する代わりに同量の脱脂粉乳を添加した培地を調製して同様の試験をし、コントロールとした。
それぞれ経時的に、それらの菌数を測定した。結果は表3と図3に示されるとおりであった。
【0043】
【表3】
【0044】
その結果、CGMPを添加した場合には、CGMPを添加しない場合に比べて、乳酸菌数が10cfu/gに達する時間が約1時間短縮された。ここでは、乳酸菌の増殖促進効果を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に基づくκ-カゼイノグリコマクロペプチド含有物を用いることにより、食品組成物の風味や物性への影響がなく、さらに効果の持続性が高くて優れた、乳酸菌等の増殖促進剤及び/又は生残性向上剤を提供することができる。
図1
図2
図3