特許第5965004号(P5965004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5965004太陽電池用PID対策フィルム及びそれを用いたPID対策太陽電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965004
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】太陽電池用PID対策フィルム及びそれを用いたPID対策太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/048 20140101AFI20160721BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160721BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160721BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   H01L31/04 560
   C08J5/18CES
   B32B27/00 A
   B32B27/28 101
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-28550(P2015-28550)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-173262(P2015-173262A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2015年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-32616(P2014-32616)
(32)【優先日】2014年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24〜25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/次世代長寿命太陽電池モジュールの研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】709002303
【氏名又は名称】日清紡メカトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】仲濱 秀斉
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 肇
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/129869(WO,A1)
【文献】 特開2006−198922(JP,A)
【文献】 特開2014−22473(JP,A)
【文献】 特開平8−306948(JP,A)
【文献】 特開2000−106450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/20
C08J 5/00− 5/24
C08L 23/00−23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュール内における太陽電池発電素子とカバーガラスとの中間に積層してなるPID対策フィルムであって、幅が80cm以上でガラス転移温度が75℃以上、95℃以下である環状オレフィン系樹脂フィルムで、
前記環状オレフィン系樹脂が、エチレンと、環状オレフィンとからなる共重合体であって、前記共重合体はガラス転移温度が75℃以上の共重合体のみであり、
かつ、フィルム厚みが60μm以上100μm以下であることを特徴とするPID対策フィルム。
【請求項2】
前記PID対策フィルムは、EVA封止フィルムが一体となった請求項1に記載のPID対策フィルム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のPID対策フィルムが、封止フィルムとカバーガラスとの間に設けたことを特徴とするPID対策太陽電池モジュール。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のPID対策フィルムが、結晶系セル面積の少なくとも80%以上を覆っていることを特徴とするPID対策太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子をカバーガラスから放出されるアルカリ金属からの劣化を防ぎ、PID対策フィルム及びそのフィルムを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールの代表的な構成として、太陽電池素子をその両面側から一対の接着フィルムで狭み、さらに太陽光受光側の接着フィルムにはガラス等の透明基材を固着し、背面側の接着フィルムには保護材(バックシート)を固着した所謂スパーストレート構造が知られている。あるいは、モジュールの両面をカバーガラスで挟み込んだ、所謂、ガラス/ガラス構造のモジュールがある。モジュール変換効率を向上させるため、両面発電セルを適用する場合がある。このような構成において、接着フィルムや発電素子保護フィルムは、接着性、耐候性などの諸特性が要求され、特に太陽光の受光側は、高い透明性が要求され、これらの要求を満足する接着フィルムが例えば、特許文献1〜特許文献3などで公知となっている 。
【0003】
これらの特性に加え、半年から数年でシステム発電量が数十パーセント低下する、所謂PID(Potential Induced degradation)現象発生による発電劣化対策が必要となっている。特許文献1には、セルとカバーガラスの間にフッ素系フィルムなどによる高絶縁フィルムを積層する技術が紹介されている。あるいは、特許文献2には、ガラスから放出されるアルカリ金属の影響を軽減するため、ガラス表面をシランカップリング剤で表面処理技術が紹介されている。また特許文献3には、環状オレフィン系樹脂からなる層と、エチレン− 酢酸ビニル共重合体からなる層とを有し、少なくとも1層の前記エチレン− 酢酸ビニル共重合体からなる層が、前記環状オレフィン系樹脂からなる層を基準として太陽電池セルから遠い側に配置した太陽電池モジュールが開示されている。
【0004】
しかしながら、PID現象発生メカニズムを明らかにしないまま、独自に組み上げたPID試験方法で、発電劣化率の低減が観られたとしている。認証試験が、20年間を保証するものとして85℃・85RH%・1000時間となっているにもかかわらず、高電圧下にさらされる発電所で使用されることを想定した条件は少なくとも1000時間であるが、これらの試験は、100時間であり、本来の目的の試験となっていない。フィールドで、20年間に対応するラボ試験条件下で、発電劣化しないかどうか、の結果を示す発明はこれまでなかった。
【0005】
発明者は、PID現象となったモジュールの破壊分析結果より、PID現象の発生メカニズムを鋭意検討した結果以下のことが判明した。広く使用されているP型シリコン半導体において、白板ガラス側のシリコンセルの全表面積の15%程度をナトリウムイオンが堆積して覆うと、金属ナトリウム層を形成し、pn構造のn層がP化し、その結果、量子力学的にpn接合により発現していた、半導体の性質を失い、光電効果が発揮されず、発電しなくなることが、実フィールドでPID現象を発症したモジュールの破壊分析により明らかにした。また、発電劣化は、シリコンセルの半導体としての劣化以外に、表面電極とインターコネクターの電子の集電能力の低下によっても引き起こされることが分かった。集電能力の低下とは、EVA封止材が劣化することによって放出される酢酸が、はんだ成分を溶かし、また表面電極とセルとの接着剤として、添加してあるガラス成分が溶けることによって引き起こされることが分かった。21年間稼働の国内太陽電池モジュールの下部の角部(角部のシリコンセルのモジュール角部側のエッジ部の受光面側)の酢酸量は120μg/gであることが分かった。ラボで、20cm角の同一の構造のモジュールで、三井化学社製EVAを用いた、セルのエッジ部の酢酸量は、85℃・85RH%のダンプヒート試験で、2500hに対応することが分かった。
【0006】
よって、PID試験条件は、現在規格化で検討されている、60℃、85RH%・96h・−1000Vのような条件ではなく、ダンプヒート試験で、85%、85RH%、2500hで、−1000V印加の条件が20年に相当する試験条件であることが分かった。
【0007】
特許文献3に記載の太陽電池モジュール用の保護フィルムは、環状オレフィン系樹脂を使用しそのガラス転移温度は80℃〜250℃と広範囲であり、またフィルムの厚みも5μm〜200μmと広範囲である。このような公開公報に記載されている範囲では、フィルムとして成形性が悪く、また成形できてもひび割れするものが殆どで実用に供することは不可能であった。また太陽電池モジュールは大型化する傾向にあり、そのサイズは2m×4m(縦×横)以上の大きさとなっている。特許文献3に記載の太陽電池モジュ−ル用の保護フィルムは、このようなサイズの太陽電池モジュール用のフィルムとして成形は不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2013―502051
【特許文献2】特開2008―273783
【特許文献3】特開2006―198922
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を解決した太陽電池モジュールのカバーガラスから放出されるアルカリ金属イオンのバリア性に優れ、かつ耐熱性、耐光性に優れる太陽電池用PID対策フィルム及びそれを用いたPID対策太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<1>第1発明
上記課題を解決するための第1発明のPID対策フィルムは、太陽電池モジュール内における太陽電池発電素子とカバーガラスとの中間に積層してなるPID対策フィルムであって、幅が80cm以上でガラス転移温度が75℃以上、95℃以下である環状オレフィン系樹脂フィルムで、前記環状オレフィン系樹脂が、エチレンと、環状オレフィンとからなる共重合体であって、前記共重合体はガラス転移温度が75℃以上の共重合体のみであり、かつ、フィルム厚みが60μm以上100μm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の環状オレフィン系樹脂フィルム(以下、「PID対策フィルム」と略称する)は、太陽電池モジュール内における太陽電池発電素子とカバーガラスとの中間に設けられている。本発明のPID対策フィルムは、ガラス転移温度が75 ℃ 以上、95℃以下である、好ましくは、80℃以上90度以下である。ガラス転移温度が75℃未満では、太陽電池の架橋反応工程であるラミネート工程の成型熱によってフィルムが部分的に流動化し、モジュールの受光面側に丸い皺からなる痘痕が形成されるので好ましくない。95℃を超えると、フィルムをロール状に巻く際に、側面部から割れが発生し、フィルムを巻き取ることができない。更に、太陽電池モジュール成型後、一週間程度後から、太陽電池モジュール内に無数のマイクロクラックが発生し、外観不具合となり、好ましくない。
【0012】
また本発明のPID対策フィルムは、その厚みが40μm以上200μm以下であり、好ましくは60μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは、70μ以上90μ以下である。フィルム厚みが40μmを下回ると、フィルム強度が著しく低下し、フィルムの巻き取り工程で加えるテンションで破断することがあるため好ましくない。また、厚みが200μmを超えると、フィルム巻の支管径に近い部分に割れが生じるため、好ましくない。また、厚みが200μmを超える厚いフィルムを用いると、フィルムを成形して24h後に、太陽電池モジュール成型体の受光面側に無数のマイクロクラックが発生し、製品外観不具合となるので好ましくない。
【0013】
また本発明のPID対策フィルムは、そのサイズが2m×4m(縦×横)以上と大型化した太陽電池モジュールに対して使用可能なサイズ(幅80cm以上)のものを製造可能である。このように大きなサイズのPID対策フィルムでも割れ等はまったくなく提供することができる。またこのような大きなサイズのPID対策フィルムは、従来の技術では実現できなかったものである。
【0014】
本発明のPID対策フィルムは、太陽電池モジュールのカバーガラスから放出されるナトリウムイオンやカリウムイオンが太陽電池モジュール内の発電素子(結晶系セル、太陽電池セル等)の表面に移動することを防御することから、メガソーラー発電所で頻発している、PIDによる発電劣化を完全に防止することができる。また本発明のPID対策は、太陽電池モジュール用接着フィルムとして求められる、耐候性、耐熱性、透明性、防水性、防湿性に優れている。従って太陽電池モジュールの長寿命化を実現することができる。さらに太陽電池モジュール内の太陽電池セルとカバーガラス間の封止部分に割れ等がまったく無い外観良好な太陽電池モジュールを提供することができる。
【0015】
本発明のPID対策フィルムは、割れ易い傾向にあり、ポリエチレン素材のような伸縮性と強度を兼ね備えた保護フィルムを貼り付けした状態で、フィルム巻を行うことができる。あるいはシリカ等の微粒子のパウダーを使用してフィルムロールの巻皺を防止することも可能である。
【0016】
発明のPID対策フィルムは、状オレフィン系樹脂が、エチレンおよび/またはα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体であることを特徴とする。
【0017】
状オレフィン系樹脂が、エチレンおよび/またはα−オレフィンと、環状オレフィンとの共重合体であるPID対策フィルムであり、エチレンおよび/またはα−オレフィンのうち、エチレンの単独使用であることが最も好ましい。
【0018】
発明によれば、環状オレフィン系樹脂は、エチレン、環状オレフィンとの共重合体となっている。環状オレフィン系共重合体を使用することによりPID対策シートの耐候性を向上させることが更に可能となる、PIDを完全に防止するという効果以外に、フィルムの寿命が向上するいう効果が発現する。従ってこのフィルムを使用した太陽電池モジュールの寿命が更に向上する。
【0019】
>第発明
発明のPID対策フィルムは、第1発明おいて、前記PID対策フィルムが封止用フィルムと一体となったことを特徴とする。
【0020】
発明のPID対策フィルムは、封止用フィルムと一体化している。その封止用フィルムとしては、EVA樹脂フィルム、PVB樹脂フィルム、アイオノマーフィルム等の太陽電池モジュールに使用される封止用のフィルムとすることができる。
【0021】
発明によれば、PID対策フィルムと封止フィルムが一体化しているので、太陽電池モジュールを製造する工程において、太陽電池セルに各部材を積層する工程を簡単にすることができる。
【0022】
>第発明
発明の太陽電池モジュールは、第1発明または発明おいて、前記のPID対策フィルムが、EVA封止フィルムとカバーガラスと間に設けたことを特徴とする。
【0023】
本発明の陽電池モジュールは、カバーガラスと既存太陽電池用封止フィルムイの間に第1発明または発明のPID対策フィルムを設けた構成としている。本発明のPID対策フィルムを使用した太陽電池モジュールは、カバーガラス、既存封止フィルム、本発明のフィルム、既存封止フィルム、太陽電池セル、既存封止フィルム、裏面材の順にこれら部材を積層する。積層後、130℃以上の熱でプレス成型することによって、それぞれの界面が接着することによって、PID対策用の太陽電池モジュールとなる。既存封止フィルムとしては、一般にはEVA封止材を用いるのが好ましい。カバーガラスは、ナトリウムイオンを放出する白板ガラスであっても良いし、ガラス表面をカリウムイオンで置換した、化学強化ガラスであってもよい。化学強化ガラスは強度が高いので薄肉化が可能であり、軽量化太陽電池モジュールを容易に製造できる。
【0024】
この本発明の構成によって得られた太陽電池モジュールは、PIDはまったく発生することが無く、製品としての防水性が高まり、また、超長期間に亘り、耐候性が担保されたものとなり、太陽電池モジュールの長寿命化が可能となる。
【0025】
>第発明
発明の太陽電池モジュールは、第1発明または発明PID対策フィルムが、結晶系セル面積の少なくとも85%以上を覆っていることを特徴とする。
【0026】
上記のように本発明のフィルムは、少なくとも、太陽電池セルの上部に積層されていればよく、しかも結晶系セル面積の少なくとも85%以上が覆われていれば良い。本発明のPID対策フィルムで結晶系セルの面積を覆う面積がその85%未満となるとカバーガラスに含まれるナトリウムイオンやカリウムイオンが太陽電池セルに付着しPIDが発生してしまう。
【0027】
本発明のPID対策フィルムを使用し太陽電池モジュールの結晶系セルの表面積の85%以上を覆うことにより太陽電池モジュールのPIDを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の太陽電池モジュールの構成例1を示す模式断面図である。
図2】本発明の太陽電池モジュールの構成例2を示す模式断面図である。
図3】本発明の太陽電池モジュールと従来の太陽電池の劣化の度合い説明図。
図4】従来の太陽電池モジュールの構成を示す模式断面図である。
図5】実施例5の太陽電池モジュールの構成の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下図1から図3を使用し、本発明のPID対策フィルム及びそのフィルムを用いた太陽電池モジュールの実施形態について説明する。
【0030】
<1>太陽電池用PID対策フィルム
本発明の太陽電池用PID対策フィルムは、太陽電池モジュール内における太陽電池発電素子にアルカリ金属を移動させない防御する接着フィルムであって、非晶性の環状オレフィン系共重合体をフィルム状に成形してなることを特徴としている。以下に本発明に係る太陽電池用PID対策フィルムについて詳述する。
【0031】
<1−1>環状オレフィン系樹脂
環状オレフィン系樹脂とは、ガラス転移温度が75 ℃ 以上95℃以下のものであって、環状オレフィンに由来する構造単位を主鎖に含む重合体又は共重合体であれば、特に限定されない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとエチレンおよび/またはα−オレフィンとの付加共重合体、又はその水素添加物等を挙げることができる。環状オレフィン系樹脂は、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。また、本発明に使用する環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、JISK7121「プラスチックの転移熱測定方法」に従って、昇温速度10℃/分の条件でDSCで測定を行った。
【0032】
環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンに由来する構造単位を主鎖に含む上記重合体又は上記共重合体においてさらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/ 又は共重合したものを含む。
【0033】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0034】
本発明に係る環状オレフィン系樹脂としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(TOPAS Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、さらに環状オレフィン成分を出発原料にしてメタセシス触媒で開環重合し、水素添加して製造され市販されている環状オレフィン系ポリマーとしては、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0035】
本発明に係る環状オレフィン系樹脂は、特に環状オレフィン系共重合体が好ましく用いられる。環状オレフィンの開環重合体又はその水素添加物では残存する二重結合により加熱環境下で変色する可能性がある。また、環状オレフィン系共重合体は、EVAとの加硫接着において、環状オレフィンの開環重合体又はその水素添加物よりも親和性がよく接着性が優れる。
環状オレフィン系共重合体は、エチレンおよび/またはα−オレフィンと、下記一般式(I)で示される環状オレフィンに由来する構造単位と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】
(式中、R1〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R9とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
R9又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R5〜R8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
α−オレフィンとしては、特に制限はないが炭素数2〜20のα−オレフィンが好ましい。例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等を挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。
エチレンおよび/またはα−オレフィンの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
一般式(I)で示される環状オレフィンについて、R1〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。一般式(I)で示される環状オレフィンの具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
また、環状オレフィンは、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0036】
用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により得ることができる。本発明に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物は、メタロセン系触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0037】
本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂の製造方法は既に公知であり、例えば、特開平3−45612、特開昭60−168708、特開昭62−252406に環状オレフィンの付加重合体の製造方法が、特開昭63−145324、特開昭63−264626、特開平1−240517に環状オレフィンの開環重合とその水添物の製造方法が報告されている。これらの製造方法に従い、適宜、条件を選択することにより製造することができる。
【0038】
例えば、エチレンとノルボルネンからなる環状オレフィン共重合体においては、ノルボルネン含有量を変更することによって、様々なガラス転移温度(Tg)の環状オレフィン系共重合体を合成することができる。ノルボルネン含有量を減少させ、エチレンを増加すると、それに応じてTg が低下する。
【0039】
各組成のガラス転移温度(Tg)を有するポリマーは、上述の重合によっても得られるが、市販のグレードの溶融ブレンドにより、得ることができる。一般に、ガラス転移温度(Tg)の異なる樹脂のブレンドによって、相容する系においては、ブレンド比率によって加成性が成り立つ。本発明の環状オレフィン樹脂を得るに当たり、上述の重合による方法に加え、押出し機による既存グレードの溶融ブレンドでも準備可能であって、発明の効果は全く変わらない。
【0040】
<1−3>他の成分
本発明のPID対策フィルムには、耐候性向上の目的で、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系安定剤、耐光安定剤など、長期熱安定性向上の目的で、酸化防止剤など、フィルムの成形性を改善する目的で、滑剤などを配合してもよい。
【0041】
<2> 太陽電池モジュール
本発明の太陽電池モジュールは、上述の本発明の太陽電池用のPID対策フィルムを備えたことを特徴としている。
【0042】
図1は、本発明の太陽電池モジュールの一例を示す模式断面図である。図1に示す太陽電池モジュール100は、受光側の表面基板である透明ガラス板11から順に、既存の封止フィルム18、本発明のPID対策フィルム14、既存の封止フィルム18、太陽電池素子15、既存の封止フィルム18、及びバックシート12を有してなる。バックシートの部分がカバーガラスでもよい。その場合は、図2のような太陽電池モジュール200である。すなわち太陽電池素子15に対して上下対称な構成となっている。以上の図1及び図2に示した太陽電池モジュールの構成は一例であり、本発明の太陽電池モジュールはその構成に限定されることはない。
【0043】
本発明の太陽電池モジュールに使用する太陽電池素子としては、特に限定はなく、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、III−V族やII−VI族化合物(ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレン、銅−インジウム−ガリウム−セレン、カドミウム−テルルなど)などの化合物半導体系等の各種太陽電池素子を用いることができる。
【0044】
また、本発明の太陽電池モジュールにおいて、太陽光受光側の表面基板としては、透明基材としてガラスを使用する場合は、ナトリウムイオンを放出する白板ガラスであっても良いし、ガラス表面をカリウムイオンで置換した、化学強化ガラスであっても良い。ガラスから放出される金属イオンは本発明のPID対策フィルムにより防御され太陽電池セルは保護されPIDは発生しない。
【0045】
尚、本発明のPID対策フィルムを太陽電池モジュールの透明基板としてアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素含有樹脂などを用いた太陽電池モジュールに使用することができる。
【0046】
また、反対側のバックシートとしては、樹脂フィルムや金属フィルムなどの単層もしくは多層のフィルムが挙げられ、例えば、樹脂フィルムとしては、フッ素樹脂フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂フィルム、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂フィルム等が挙げられ、金属フィルムとしては、アルミ、ステンレススチールなどのフィルムが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
以下の実施例にて使用される環状オレフィン系樹脂としては、TOPAS Advanced Polymers社製TOPAS8007S−04(ガラス転移温度78℃)及びTOPAS6013M−07(ガラス転移温度130℃)の2種類をあるブレンド比率で混合した混合物内に、微量の紫外線防止剤と耐光安定剤を配合し、所要のガラス転移温度(Tg)と厚さを有するPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し、以下の方法により図1の構成の太陽電池モジュール100を作製した。尚太陽電池モジュールを製造する際にはラミネート装置により行なうため、ラミネート装置の熱板には図1の上下を逆にして各部材を積層する。
【0049】
[実施例1]
環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部に、紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ4−n−オクトキシベンゾフェノン0.4重量部、耐光安定剤としてビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート0 .2重量部を、日本製鋼所製、二軸押出機TE X−30αを用いて溶融樹脂温度200℃ で混練し、環状オレフィン系樹脂組成物ペレットを得た。次いでこのペレットを300mm幅T−ダイを備えた単軸押出し成形機に投入し、T−ダイ部での樹脂温度140℃としガラス転移温度が78℃で厚さ60μmのPID対策フィルム(環状オレフィン系樹脂フィルム)を作製した。得られたPID対策フィルムを使用し、以下の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0050】
太陽電池モジュール100は、カバーガラス11上に封止フィルム18として三井化学社製450μmのファーストキュアタイプ(EVA−1)を用意した。その上に順次、本実施例で作成したPID対策フィルム(環状オレフィン系樹脂フィルム)14を積層し、その上に封止フィルム18(EVA−1)、太陽電池結晶系セル、封止フィルム18(EVA−1)、裏面材(バックシート)12として東洋アルミ社製PET系バックシートを積層する。その積層体を真空ラミネーター(日清紡メカトロニクス株式会社製、製品名:PVL1537N)を用いて、熱板温度:150℃、加工時間22分(内訳、真空引き:5分、プレス:2分、圧力保持:15分)にて、プレス加工を行った。端子ボックスと接続させる配線部分は、裏面材に予め切れ目を入れた部分から引出し、はんだで固定し、シリコーンポッティング材でダイオードが隠れるまで満たし、蓋をした。ポッティング材は、Dow−Corning社製、PV−7311を使用した。ガラスエッジ部には、エッジシールは適用せず、三井化学社製TPV:ミラストマー材を用いたガスケットで、アルミフレームとの隙間を埋めた。
【0051】
[実施例2]
実施例2は、実施例1の環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部を、TOPAS8007S−04を90重量部とTOPAS6013M−07を10重量部に変更した以外は、実施例1と同様とし、ガラス転移温度が80℃で厚さ75μmのPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0052】
[実施例3]
実施例3は、実施例1の環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部を、TOPAS8007S−04を72重量部とTOPAS6013M−07を28重量部に変更した以外は、実施例1と同様とし、ガラス転移温度が90℃で厚さ100μmのPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0053】
[実施例4]
実施例4は、実施例1の環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部を、TOPAS8007S−04を67重量部とTOPAS6013M−07を33重量部に変更した以外は、実施例1と同様とし、ガラス転移温度が93℃で厚さ125μmのPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0054】
[実施例5]
実施例5は、実施例1の環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部を、TOPAS8007S−04を72重量部とTOPAS6013M−07を28重量部に変更した以外は、実施例1と同様とし、ガラス転移温度が90℃で厚さ75μmのPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。尚この時、PID対策フィルムを図5にし示すように太陽電池セルを複数枚接続したストリングW上(カバーガラス側)のみに配置して太陽電池モジュールを製造した。従ってカバーガラス側のストリングWの列間にはPID対策フィルムは設けていない構成である。
【0055】
[比較例1]
比較例1は、実施例1の環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部を、TOPAS8007S−04を59重量部とTOPAS6013M−07を41重量部に変更した以外は、実施例1と同様とし、ガラス転移温度が98℃で厚さ200μmのPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0056】
[比較例2]
比較例2は、実施例1の環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部を、TOPAS6013M−07を100重量部に変更した以外は、実施例1と同様とし、ガラス転移温度が142℃で厚さ100μmのPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0057】
[比較例3]
比較例3は、実施例1の環状オレフィン系樹脂として、TOPAS8007S−04ガラス転移温度が78℃で厚さ30μmのPID対策フィルムの作製を試みた。フィルムの巻き取りができず、PID対策フィルムが得られなかった。
【0058】
[比較例4]
比較例4は、実施例1の環状オレフィン系樹脂としてTOPAS8007S−04の100重量部を、TOPAS6013M−07を100重量部に変更した以外は、実施例1と同様とし、ガラス転移温度が142℃で厚さ250μmのPID対策フィルムを作製した。得られたPID対策フィルムを使用し実施例1と同様の方法で太陽電池モジュールを作製した。
【0059】
[比較例5]
比較例5は、本実施例の環状オレフィン系樹脂を使用したPID対策フィルムを使用していない従来の太陽電池モジュール900である。図4に示す従来型の太陽電池モジュールであり、使用している部材は実施例1と同様であり、図1のPID対策フィルム14が無い構成である。
【0060】
[PID対策フィルムの成形性]
実施例1から実施例5、及び比較例1から比較例4で作成したPID対策フィルムのフィルム成型性を3インチ支干の最後尾から10mの面積(幅1m)についてマイクロクラックと皺について以下の指標で評価した。その評価結果を表1に示す。
<マイクロクラック>
評価点 3点:マイクロクラックが全くない。
評価点 2点:モジュール面積トータルの20%以下の面積にマイクロクラックが有る。
評価点 1点:60%以上の面積にマイクロクラックが有る。
シートマイクロクラックとは、ガラスをハンマーなどで割った際にガラス内部に形成される無数の割れと同じ状態のものを指す。
<皺の存在箇所数>
皺の存在箇所数は、100m巻のPID対策フィルムの外観を観察した。/皺とは肉眼で容易に認められる大きさで、幅1mm以上、長さ30mm以上とした。
評価点 3点:皺なく、平滑。
評価点 2点:皺が1箇所有る。
評価点 1点:皺が2箇所以上有る。
【0061】
[PID対策フィルムのモジュール成形性]
実施例1から実施例5、及び比較例1から比較例4で作成したPID対策フィルムを使用した太陽電池モジュールの成型性を48直太陽電池モジュールを受光面側からの観察しマイクロクラックと痘痕について以下の指標で評価した。その評価結果を表1に示す。
<マイクロクラック>
評価点 3点:マイクロクラックが全くない。
評価点 2点:全面積の5%以下にマイクロクラックが有る。
評価点 1点:全面積の10%以上にマイクロクラックが有る。
<痘痕の数>
痘痕とは、PID対策フィルムに円形状の皺で、半径500μm以上のものとした。
評価点 3点:痘痕は全く無い。
評価点 2点:痘痕は5個以下。
評価点 1点:痘痕は6個以上。
【0062】
[PID試験]
実施例1から実施例5、及び比較例1から比較例5で作製した太陽電池モジュールについて以下の様にPID試験を以下のとおり実施した。
【0063】
予め作製した太陽電池モジュールの出力をソーラーシミュレータにより測定した。その後、エスペック社製PID試験装置にて、85℃、85%湿度のチャンバー中に入れて、−1000Vの電圧を2500時間印加した後、太陽電池モジュールを取り出し、再度出力をソーラーシミュレータにより測定した。太陽電池モジュールの発電劣化度を以下の式にて算出した。
発電劣化度(%)=[(オリジナル最高出力−PID試験後の最高出力)/(オリジナル最高出力)]×100
【0064】
尚、PID試験中に太陽電池モジュールのカバーガラス上にアルミ板を配置し、アルミ板と太陽電池モジュールの出力端子との間に発生する漏れ電流を測定した。表1には、PID試験結果として各実施例及び比較例のPID試験開始1000時間後の漏れ電流の測定結果を記載した。
【0065】
実施例1から実施例5、及び比較例1から比較例5で作製した太陽電池モジュールの上記PID試験の結果を表1に示す。表1から分かるように、本発明のPID対策フィルムを使用した実施例1から実施例5の太陽電池モジュールは、まったくPIDによる発電劣化が無いことが分かる、これを発電劣化が時間経過と共にどのように変化するかを示したものが図3である。図3の横軸はOID試験時間であり、縦軸は発電能力保持率(%)を示している。この発電能力保持率とは、100%から発電劣化度(%)を指し引いた数値であり、100%であればまったく発電劣化が発生していないことを表している。比較例5のPID対策フィルムを使用していない太陽電池モジュールは、短期間で出力ゼロになっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、少なくともフィールド20年間は太陽電池の発電所において、PID現象による発電劣化を防げるため、火力発電所や水力発電所と同様の寿命を有する発電所として、発電することができる。
【符号の説明】
【0067】
100:太陽電池モジュール
200:太陽電池モジュール
11:カバーガラス
12:裏面材(バックシート)
14:PID対策フィルム(環状オレフィン系樹脂フィルム)
15:結晶系セル(太陽電池セル)
18:封止フィルム(EVA等)
900:従来型の太陽電池モジュール
【0068】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5