(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965297
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】薄力小麦粉
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20160721BHJP
A21D 13/08 20060101ALN20160721BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
!A21D13/08
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-257068(P2012-257068)
(22)【出願日】2012年11月26日
(65)【公開番号】特開2014-103860(P2014-103860A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 育之
(72)【発明者】
【氏名】榊原 通宏
【審査官】
小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−000098(JP,A)
【文献】
今井徹 今井徹 Tooru IMAI Tooru IMAI,小麦粉の粒度分布による用途分類 Classification of Various Wheat Flour with Granule Size Distribution,日本食品科学工学会誌 Vol.47 No.1,露木 英男 社団法人日本食品科学工学会,2000年,第47巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径45μm未満の粉を15質量%以上40質量%未満、粒径45〜75μmの粉を10〜35質量%、および粒径45〜150μmの粉を60〜85質量%含有し、かつ粒径150μmを超える粉の含有量が5質量%以下である、薄力小麦粉。
【請求項2】
50%累積粒径が60〜80μmである、請求項1記載の薄力小麦粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種食品の製造に使用することができる新規な薄力小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
薄力小麦粉(以下、薄力粉ということがある)は、軟質系小麦の小麦粒の胚乳部分を挽いたもので、粗蛋白質含量が9%程度であり、ケーキやクッキー等の製菓用、天ぷらやフライ等の揚げ物用の衣材、小麦粉をこねたドウの付着防止用の打ち粉、ルーやソースの材料等に用いられている。薄力粉の粒子径は、製粉方法によっても異なるが、一般的には、0〜17μmが7質量%、17〜35μmが45質量%、35μm以上が48質量%程度、150μm以上のものが10質量%未満とされている(特許文献1)。
【0003】
小麦粉の粒子径を調整することにより食品の品質を向上させる試みが、従来行われている。例えば、特許文献2には、色相、食感、食味に優れた麺を得るための、国内産軟質小麦由来の小麦粉を70重量%以上含み、粒径16.0μm以下の積算体積と粒径80.6μm以上の積算体積の合計が20%未満である麺用小麦粉が提案されている。また特許文献3には、パン類や麺類の製造に好適な小麦粉として、原料を軟質小麦とし、粒径が45〜150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45〜100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉が提案されている。
【0004】
他方、従来の薄力粉には、飛散しやすく、粉塵となって調理場周辺を汚しやすいという問題があった。また従来の薄力粉には、保管中や取扱い中に粒子同士が固まってダマになりやすく、そのため計量しにくくなったり、または水に溶解しにくくなるという問題があった。従って、従来の薄力粉を調理に使用する場合には、ダマを除去するため、予め篩にかけたり、またはダマをつぶしたりしておくことが好ましいが、しかし一方で、このような篩やダマをつぶす作業を行うと、さらに粉の飛散が拡大するという悪循環に陥る。
【0005】
作業中における粉の飛散やダマの生成が少ない薄力小麦粉として、特許文献4には、粒径150μ以下が90%以上であり、かつ20μ以下の粒子を20積算%以下とした薄力小麦粉が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−084858号公報
【特許文献2】特開平6−121649号公報
【特許文献3】特開2005−328789号公報
【特許文献4】特開2001−000098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、飛散やダマの生成がより少ない薄力小麦粉、特に、振出容器に入れて保存しても、ダマができにくく且つ粉が容器に付着したり振出口に詰まることがなく、容器から直接振出して使用することができ、しかも振出しても粉塵が飛散しにくい薄力小麦粉が求められている。そこで本発明者等は、飛散やダマの生成が少なく取扱い性に優れた薄力小麦粉の提供を課題として、鋭意検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その結果、本発明者等は、薄力小麦粉中の小粒径の粉の含量を減少させつつ、特定の粒径の粉の含量を所定の範囲に保つことにより、飛散が抑えられ且つダマの生成の少ない薄力小麦粉を得ることができ、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、粒径45μm未満の粉を15質量%以上40質量%未満、粒径45〜75μmの粉を10〜35質量%、および粒径45〜150μmの粉を60〜85質量%含有する薄力小麦粉を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薄力小麦粉は、ダマの生成や作業中における粉の飛散が少なく、取扱い性に優れている。特に、本発明の薄力小麦粉は、振出容器に入れて保存した場合でも、ダマができにくく且つ粉が容器に付着したり振出口に詰まることがないため、容器から直接振出して使用することができ、しかも振出しても粉塵が飛散することが少ないという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の薄力小麦粉は、粒径が45μm未満の粉を15質量%以上40質量%未満、粒径45〜75μmの粉を10〜35質量%、および粒径45〜150μmの粉を60〜85質量%含有する。好ましくは、本発明の薄力小麦粉は、粒径が45μm未満の粉を15質量%以上35質量%未満、粒径45〜75μmの粉を20〜30質量%、および粒径45〜150μmの粉を65〜85質量%含有する。本発明の薄力小麦粉において、粒径が150μmを超える粉の含有量は、好ましくは5質量%以下である。また好ましくは、本発明の薄力小麦粉の50%累積粒径は、60〜80μmである。
【0012】
本明細書において、小麦粉の粒径とは、マイクロトラックMT3000II(日機装株式会社)を用いたレーザー回折・散乱法により測定したときに算出される粒子径をいい、また50%累積粒径とは、上記算出された粒径の、体積の積算値50%での値をいう。
【0013】
本発明の薄力小麦粉の原料小麦としては、ソフトレッドウィートおよびソフトホワイトウィート等の軟質小麦が挙げられ、ソフトレッドウィートの例としては日本産の普通小麦、米国産のソフトレッドウインター(SRW)等があり、ソフトホワイトウィートの例としては米国産のホワイトウィート(WW)、オーストラリア産のオーストラリアスタンダードウィート(ASW)等がある。これらの軟質小麦としては、同一の品種を一種以上使用しても、異なる品種を各一種以上併用してもよい。これらを通常の方法で製粉することにより、本発明の薄力小麦粉の原料となる薄力小麦粉を得ることができる。
【0014】
当該原料薄力小麦粉を、必要に応じてさらに粉砕した後、分級して上述した所定の粒子径分布にすることによって、本発明の薄力小麦粉を調製することができる。分級は、公知の方法を採用することができ、例えば、篩、気流式分級機、およびこれらの組合せによる分級方法などを採用することができる。
【0015】
本発明の薄力小麦粉は、用いる用途に応じて、その他の粉体と混合された小麦粉組成物として提供されてもよい。当該その他の粉体としては、強力粉、準強力粉、中力粉、他の薄力粉、デュラムセモリナ等の通常の小麦粉;ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、豆粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等の澱粉類、およびこれらのα化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、アセチル化澱粉、架橋処理澱粉等の加工澱粉類;卵粉、卵白粉;増粘剤;油脂類;乳化剤;賦形剤;流動化剤;調味料、香辛料等;活性グルテン;酵素剤等が挙げられる。上記小麦粉組成物中における本発明の薄力小麦粉の配合量は、20〜90質量%、好ましくは30〜80質量%である。
【0016】
本発明の薄力小麦粉は、調理材料として好適である。例えば、本発明の薄力小麦粉は、ケーキやクッキー等の製菓用、天ぷらやフライ等の揚げ物の衣材の製造用、ベーカリー生地や麺生地の付着防止用の打ち粉、ルーやソースの材料、料理のとろみ付け材などとして、使用することができる。
【0017】
また本発明の薄力小麦粉は、好ましくは、振出容器に充填されて提供され、当該振出容器から振出して使用される。振出容器としては、例えば粉チーズ容器や香辛料容器のような、1つまたは複数の粉振出し用の小孔を有する容器であればよい。本発明の薄力小麦粉は、振出容器に入れて保存した場合でもダマができにくく且つ粉が容器に付着したり振出口に詰まることがない。したがって、当該振出容器に充填された本発明の薄力小麦粉は、容易に計量容器に振出して所要量を計量することができ、また容易に容器から直接他の食材に振りかけることができる。また本発明の薄力小麦粉は、飛散しにくいため、容器から振出しても粉塵が生じることなく、調理場を汚さない。
【実施例】
【0018】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を掲げるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
(製造例1)
市販の薄力小麦粉を、気流式分級機により段階的に分取し、粒径45μm未満を約32質量%、粒径45〜75μmを約26質量%、粒径45〜150μmを約67質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は66.6μmであった。
【0020】
(製造例2)
製造例1と同様の手順にて、粒径45μm未満を約24質量%、粒径45〜75μmを約26質量%、粒径45〜150μmを約74質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は74.6μmであった。
【0021】
(製造例3)
製造例1と同様の手順にて、粒径45μm未満を約17質量%、粒径45〜75μmを約20質量%、粒径45〜150μmを約82質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は78.1μmであった。
【0022】
(製造例4)
製造例1と同様の手順にて、粒径45μm未満を約38質量%、粒径45〜75μmを約23質量%、粒径45〜150μmを約60質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は54.6μmであった。
【0023】
(製造例5)
製造例1と同様の手順にて、粒径45μm未満を約9質量%、粒径45〜75μmを約12質量%、粒径45〜150μmを約82質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は100.2μmであった。
【0024】
(製造例6)
製造例1と同様の手順にて、粒径45μm未満を約31質量%、粒径45〜75μmを約21質量%、45〜150μmを約58質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は58.8μmであった。
【0025】
(製造例7)
製造例1と同様の手順にて、粒径45μm未満を約38質量%、粒径45〜75μmを約8%、粒径45〜150μmを約61質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は77.7μmであった。
【0026】
(製造例8)
製造例1と同様の手順にて、粒径45μm未満を約10質量%、粒径45〜75μmを約33質量%、粒径45〜150μmを約80質量%含有する薄力小麦粉を得た。この薄力小麦粉の50%累積粒径は79.3μmであった。
【0027】
(試験例1)飛散試験
製造例1〜8の各薄力小麦粉を、それぞれ市販の粉チーズ用容器に120g毎充填し、水平に設置した平滑な平面の上に振出しを行った。振出しは、平面中央に設けた目印の直上30cmから行い、粉の残量が100gになるまで続けた。次いで、再度同じ容器に120gまで粉を充填し、別の平面に振出しを行った。このように各小麦粉について振出しを計10回行った。その後、振出された小麦粉の平面上での飛散範囲を計測し、前記目印から最も離れた小麦粉までの距離を求めた。10回の計測結果の平均値を表1に示す。なお、参考例として市販の薄力小麦粉(フラワー;日清製粉)での結果を示す。
【0028】
(試験例2)ダマ試験
製造例1〜8の各薄力小麦粉を200gずつ、10個のポリエチレン製のチャック付き袋に充填し、できるだけ空気を押し出した後に密閉した。各袋を室温で5日保存後、開封して22メッシュの篩を通し、篩上に残った重量をダマとした。10サンプルの平均値を表1に示す。なお、参考例として市販の薄力小麦粉(フラワー;日清製粉)での結果を示す。
【0029】
(試験例3)溶解性試験
製造例1〜8の各薄力小麦粉を10gずつ、10個のボウルにはった25℃の水道水100mL中に投入し、ホイッパー(60rpm)で攪拌し、ほぼ均一に分散するまでの時間を計測した。10サンプルの平均値を表1に示す。なお、参考例として市販の薄力小麦粉(フラワー;日清製粉)での結果を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
(試験例4)ハンドリング試験
製造例2の薄力小麦粉を市販の粉チーズ容器に充填した。この容器を片手で持ち上げて、振出し用の小孔から粉を鮭の切り身の上に振出した。その結果、粉が小孔に詰まることなく、また粉が周辺に飛散することなく、切り身の両面に薄く均一に粉を付着させることができた。