【実施例】
【0159】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
【0160】
なお参考実験として下記に電解液の実験を行った結果をまず説明する。
【0161】
(電解液E1)
本発明で用いる電解液を以下のとおり製造した。
【0162】
有機溶媒である1,2−ジメトキシエタン約5mLを、撹拌子及び温度計を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中の1,2−ジメトキシエタンに対し、リチウム塩である(CF
3SO
2)
2NLiを溶液温度が40℃以下を保つように徐々に加え、溶解させた。約13gの(CF
3SO
2)
2NLiを加えた時点で(CF
3SO
2)
2NLiの溶解が一時停滞したので、上記フラスコを恒温槽に投入し、フラスコ内の溶液温度が50℃となるよう加温し、(CF
3SO
2)
2NLiを溶解させた。約15gの(CF
3SO
2)
2NLiを加えた時点で(CF
3SO
2)
2NLiの溶解が再び停滞したので、1,2−ジメトキシエタンをピペットで1滴加えたところ、(CF
3SO
2)
2NLiは溶解した。さらに(CF
3SO
2)
2NLiを徐々に加え、所定の(CF
3SO
2)
2NLiを全量加えた。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまで1,2−ジメトキシエタンを加えた。これを電解液E1とした。得られた電解液は容積20mLであり、この電解液に含まれる(CF
3SO
2)
2NLiは18.38gであった。電解液E1における(CF
3SO
2)
2NLiの濃度は3.2mol/Lであった。電解液E1においては、(CF
3SO
2)
2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.6分子が含まれている。
【0163】
なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0164】
(電解液E2)
16.08gの(CF
3SO
2)
2NLiを用い、電解液E1と同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が2.8mol/Lである電解液E2を製造した。電解液E2においては、(CF
3SO
2)
2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン2.1分子が含まれている。
【0165】
(電解液E3)
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(CF
3SO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。(CF
3SO
2)
2NLiを全量で19.52g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。これを電解液E3とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。電解液E3においては、(CF
3SO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
【0166】
(電解液E4)
24.11gの(CF
3SO
2)
2NLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E4を製造した。電解液E4においては、(CF
3SO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル1.9分子が含まれている。
【0167】
(電解液E5)
リチウム塩として13.47gの(FSO
2)
2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が3.6mol/Lである電解液E5を製造した。電解液E5においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.9分子が含まれている。
【0168】
(電解液E6)
14.97gの(FSO
2)
2NLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が4.0mol/Lである電解液E6を製造した。電解液E6においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン1.5分子が含まれている。
【0169】
(電解液E7)
リチウム塩として15.72gの(FSO
2)
2NLiを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が4.2mol/Lである電解液E7を製造した。電解液E7においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル3分子が含まれている。
【0170】
(電解液E8)
16.83gの(FSO
2)
2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が4.5mol/Lである電解液E8を製造した。電解液E8においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル2.4分子が含まれている。
【0171】
(電解液E9)
20.21gの(FSO
2)
2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が5.4mol/Lである電解液E9を製造した。電解液E9においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル2分子が含まれている。
【0172】
(電解液E10)
有機溶媒であるジメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO
2)
2NLiを全量で14.64g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジメチルカーボネートを加えた。これを電解液E10とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0173】
電解液E10における(FSO
2)
2NLiの濃度は3.9mol/Lであった。電解液E10においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジメチルカーボネート2分子が含まれている。
【0174】
(電解液E11)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が3.4mol/Lの電解液E11とした。電解液E11においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
【0175】
(電解液E12)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E12とした。電解液E12においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジメチルカーボネート3分子が含まれている。
【0176】
(電解液E13)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E13とした。電解液E13においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
【0177】
(電解液E14)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E14とした。電解液E14においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジメチルカーボネート5分子が含まれている。
【0178】
(電解液E15)
有機溶媒であるエチルメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のエチルメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO
2)
2NLiを全量で12.81g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでエチルメチルカーボネートを加えた。これを電解液E15とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0179】
電解液E15における(FSO
2)
2NLiの濃度は3.4mol/Lであった。電解液E15においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2分子が含まれている。
【0180】
(電解液E16)
電解液E15にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.9mol/Lの電解液E16とした。電解液E16においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート2.5分子が含まれている。
【0181】
(電解液E17)
電解液E15にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.2mol/Lの電解液E17とした。電解液E17においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート3.5分子が含まれている。
【0182】
(電解液E18)
有機溶媒であるジエチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジエチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO
2)
2NLiを全量で11.37g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジエチルカーボネートを加えた。これを電解液E18とした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0183】
電解液E18における(FSO
2)
2NLiの濃度は3.0mol/Lであった。電解液E18においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジエチルカーボネート2分子が含まれている。
【0184】
(電解液E19)
電解液E18にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.6mol/Lの電解液E19とした。電解液E19においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジエチルカーボネート2.5分子が含まれている。
【0185】
(電解液E20)
電解液E18にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.0mol/Lの電解液E20とした。電解液E20においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジエチルカーボネート3.5分子が含まれている。
【0186】
(電解液E21)
18.71gの(FSO
2)
2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が5.0mol/Lである電解液E21を製造した。電解液E21においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル2.1分子が含まれている。
【0187】
(電解液C1)
5.74gの(CF
3SO
2)
2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C1を製造した。電解液C1においては、(CF
3SO
2)
2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.3分子が含まれている。
【0188】
(電解液C2)
5.74gの(CF
3SO
2)
2NLiを用い、電解液E3と同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C2を製造した。電解液C2においては、(CF
3SO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル16分子が含まれている。
【0189】
(電解液C3)
3.74gの(FSO
2)
2NLiを用い、電解液E5と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C3を製造した。電解液C3においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対し1,2−ジメトキシエタン8.8分子が含まれている。
【0190】
(電解液C4)
3.74gの(FSO
2)
2NLiを用い、電解液E7と同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が1.0mol/Lである電解液C4を製造した。電解液C4においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しアセトニトリル17分子が含まれている。
【0191】
(電解液C5)
有機溶媒としてエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比3:7、以下、「EC/DEC」ということがある。)を用い、リチウム塩として3.04gのLiPF
6を用いた以外は、電解液E3と同様の方法で、LiPF
6の濃度が1.0mol/Lである電解液C5を製造した。
【0192】
(電解液C6)
電解液E10にジメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C6とした。電解液C6においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジメチルカーボネート10分子が含まれている。
【0193】
(電解液C7)
電解液E15にエチルメチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C7とした。電解液C7においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しエチルメチルカーボネート8分子が含まれている。
【0194】
(電解液C8)
電解液E18にジエチルカーボネートを加えて希釈し、(FSO
2)
2NLiの濃度が1.1mol/Lの電解液C8とした。電解液C8においては、(FSO
2)
2NLi1分子に対しジエチルカーボネート7分子が含まれている。
【0195】
表3に電解液E1〜E21及び電解液C1〜C8の一覧を示す。
【0196】
【表3】
【0197】
(評価例1:IR測定)
電解液E3、電解液E4、電解液E7、電解液E8、電解液E9、電解液C2、電解液C4、並びに、アセトニトリル、(CF
3SO
2)
2NLi、(FSO
2)
2NLiにつき、以下の条件でIR測定を行った。2100cm
−1〜2400cm
−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ
図1〜
図10に示す。さらに、電解液E10〜E20、電解液C6〜C8、並びに、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートにつき、以下の条件でIR測定を行った。1900〜1600cm
−1の範囲のIRスペクトルをそれぞれ
図11〜
図27に示す。また、(FSO
2)
2NLiにつき、1900〜1600cm
−1の範囲のIRスペクトルを
図28に示す。図の横軸は波数(cm
−1)であり、縦軸は吸光度(反射吸光度)である。
【0198】
IR測定条件
装置:FT−IR(ブルカーオプティクス社製)
測定条件:ATR法(ダイヤモンド使用)
測定雰囲気:不活性ガス雰囲気下
【0199】
図8で示されるアセトニトリルのIRスペクトルの2250cm
−1付近には、アセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、
図9で示される(CF
3SO
2)
2NLiのIRスペクトル及び
図10で示される(FSO
2)
2NLiのIRスペクトルの2250cm
−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
【0200】
図1で示される電解液E3のIRスペクトルには、2250cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00699)観察された。さらに
図1のIRスペクトルには、2250cm
−1付近から高波数側にシフトした2280cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05828で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。
【0201】
図2で示される電解液E4のIRスペクトルには、2250cm
−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm
−1付近から高波数側にシフトした2280cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.05234で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
【0202】
図3で示される電解液E7のIRスペクトルには、2250cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.00997)観察された。さらに
図3のIRスペクトルには、2250cm
−1付近から高波数側にシフトした2280cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.08288で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=8×Ioであった。
図4で示される電解液E8のIRスペクトルについても、
図3のIRチャートと同様の強度のピークが同様の波数に観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=11×Ioであった。
【0203】
図5で示される電解液E9のIRスペクトルには、2250cm
−1付近にアセトニトリル由来のピークが観察されず、2250cm
−1付近から高波数側にシフトした2280cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.07350で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであった。
【0204】
図6で示される電解液C2のIRスペクトルには、
図8と同じく、2250cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04441で観察された。さらに
図6のIRスペクトルには、2250cm
−1付近から高波数側にシフトした2280cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03018で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
【0205】
図7で示される電解液C4のIRスペクトルには、
図8と同じく、2250cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Io=0.04975で観察された。さらに
図7のIRスペクトルには、2250cm
−1付近から高波数側にシフトした2280cm
−1付近にアセトニトリルのC及びN間の三重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.03804で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
【0206】
図17で示されるジメチルカーボネートのIRスペクトルの1750cm
−1付近には、ジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。なお、
図28で示される(FSO
2)
2NLiのIRスペクトルの1750cm
−1付近には、特段のピークが観察されなかった。
【0207】
図11で示される電解液E10のIRスペクトルには、1750cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.16628)観察された。さらに
図11のIRスペクトルには、1750cm
−1付近から低波数側にシフトした1717cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48032で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.89×Ioであった。
【0208】
図12で示される電解液E11のIRスペクトルには、1750cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.18129)観察された。さらに
図12のIRスペクトルには、1750cm
−1付近から低波数側にシフトした1717cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.52005で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.87×Ioであった。
【0209】
図13で示される電解液E12のIRスペクトルには、1750cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20293)観察された。さらに
図13のIRスペクトルには、1750cm
−1付近から低波数側にシフトした1717cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53091で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.62×Ioであった。
【0210】
図14で示される電解液E13のIRスペクトルには、1750cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.23891)観察された。さらに
図14のIRスペクトルには、1750cm
−1付近から低波数側にシフトした1717cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.53098で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.22×Ioであった。
【0211】
図15で示される電解液E14のIRスペクトルには、1750cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.30514)観察された。さらに
図15のIRスペクトルには、1750cm
−1付近から低波数側にシフトした1717cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.50223で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=1.65×Ioであった。
【0212】
図16で示される電解液C6のIRスペクトルには、1750cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.48204)観察された。さらに
図16のIRスペクトルには、1750cm
−1付近から低波数側にシフトした1717cm
−1付近にジメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.39244で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
【0213】
図22で示されるエチルメチルカーボネートのIRスペクトルの1745cm
−1付近には、エチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
【0214】
図18で示される電解液E15のIRスペクトルには、1745cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.13582)観察された。さらに
図18のIRスペクトルには、1745cm
−1付近から低波数側にシフトした1711cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45888で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.38×Ioであった。
【0215】
図19で示される電解液E16のIRスペクトルには、1745cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15151)観察された。さらに
図19のIRスペクトルには、1745cm
−1付近から低波数側にシフトした1711cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48779で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.22×Ioであった。
【0216】
図20で示される電解液E17のIRスペクトルには、1745cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20191)観察された。さらに
図20のIRスペクトルには、1745cm
−1付近から低波数側にシフトした1711cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.48407で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.40×Ioであった。
【0217】
図21で示される電解液C7のIRスペクトルには、1745cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.41907)観察された。さらに
図21のIRスペクトルには、1745cm
−1付近から低波数側にシフトした1711cm
−1付近にエチルメチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.33929で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
【0218】
図27で示されるジエチルカーボネートのIRスペクトルの1742cm
−1付近には、ジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが観察された。
【0219】
図23で示される電解液E18のIRスペクトルには、1742cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.11202)観察された。さらに
図23のIRスペクトルには、1742cm
−1付近から低波数側にシフトした1706cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.42925で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.83×Ioであった。
【0220】
図24で示される電解液E19のIRスペクトルには、1742cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.15231)観察された。さらに
図24のIRスペクトルには、1742cm
−1付近から低波数側にシフトした1706cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.45679で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=3.00×Ioであった。
【0221】
図25で示される電解液E20のIRスペクトルには、1742cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがわずかに(Io=0.20337)観察された。さらに
図25のIRスペクトルには、1742cm
−1付近から低波数側にシフトした1706cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.43841で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs>Ioであり、Is=2.16×Ioであった。
【0222】
図26で示される電解液C8のIRスペクトルには、1742cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークが(Io=0.39636)観察された。さらに
図26のIRスペクトルには、1742cm
−1付近から低波数側にシフトした1709cm
−1付近にジエチルカーボネートのC及びO間の二重結合の伸縮振動に由来する特徴的なピークがピーク強度Is=0.31129で観察された。IsとIoのピーク強度の関係はIs<Ioであった。
【0223】
(評価例2:イオン伝導度)
電解液E1、電解液E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E12、電解液E15、電解液E18、電解液E21のイオン伝導度を以下の条件で測定した。結果を表4に示す。
【0224】
イオン伝導度測定条件
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
【0225】
【表4】
【0226】
電解液E1、電解液E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E12、電解液E15、電解液E18、電解液E21は、いずれもイオン伝導性を示した。よって、本発明の電解液は、いずれも各種の電池の電解液として機能し得ると理解できる。
【0227】
(評価例3:粘度)
電解液E1、電解液E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E12、電解液E15、電解液E18、電解液E21、並びに電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度を以下の条件で測定した。結果を表5に示す。
【0228】
粘度測定条件
落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、30℃の条件下で粘度を測定した。
【0229】
【表5】
【0230】
電解液E1、電解液E2、電解液E4〜E6、電解液E8、電解液E10、電解液E12、電解液E15、電解液E18、電解液E21の粘度は、電解液C1〜C4、電解液C6〜C8の粘度と比較して、著しく高かった。よって、本発明の電解液を用いた電池であれば、仮に電池が破損したとしても、電解液漏れが抑制される。
【0231】
(評価例4:揮発性)
電解液E2、E4、E8、E10、E12、C1、C2、C4、C6の揮発性を以下の方法で測定した。
【0232】
約10mgの電解液をアルミニウム製のパンに入れ、熱重量測定装置(TAインスツルメント社製、SDT600)に配置し、室温での電解液の重量変化を測定した。重量変化(質量%)を時間で微分することで揮発速度を算出した。揮発速度のうち最大のものを選択し、表6に示した。
【0233】
【表6】
【0234】
電解液E2、E4、E8、E10、E12の最大揮発速度は、電解液C1、C2、C4、C6の最大揮発速度と比較して、著しく小さかった。よって、本発明の電解液を用いた電池は、仮に損傷したとしても、電解液の揮発速度が小さいため、電池外への有機溶媒の急速な揮発が抑制される。
【0235】
(評価例5:燃焼性)
電解液E4、電解液C2の燃焼性を以下の方法で試験した。
【0236】
電解液をガラスフィルターにピペットで3滴滴下し、電解液をガラスフィルターに保持させた。当該ガラスフィルターをピンセットで把持し、そして、当該ガラスフィルターに接炎させた。
【0237】
電解液E4は15秒間接炎させても引火しなかった。他方、電解液C2は5秒余りで燃え尽きた。
【0238】
本発明の電解液は燃焼しにくいことが裏付けられた。
【0239】
(評価例6:レート特性)
(参考例1−1)
電解液E8を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
【0240】
活物質である平均粒径10μmの黒鉛90質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN−メチル−2−ピロリドンを除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、活物質層が形成された銅箔を得た。これを作用極とした。
【0241】
対極は金属Liとした。
【0242】
作用極、対極、両者の間に挟装した厚さ400μmのセパレータ(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製Whatmanガラス繊維ろ紙)及び電解液E8を電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容し、ハーフセルを構成した。これを参考例1−1のハーフセルとした。
【0243】
(参考例2−1)
電解液として電解液C5を用いた以外は、参考例1−1と同様の方法で、参考例2−1のハーフセルを製造した。
【0244】
参考例1−1、参考例2−1のハーフセルのレート特性を以下の方法で試験した。
【0245】
ハーフセルに対し、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2Cレート(1Cとは一定電流において1時間で電池を完全充電または放電させるために要する電流値を意味する。)で充電を行った後に放電を行い、それぞれの速度における作用極の容量(放電容量)を測定した。なお、ここでの記述は、対極を負極、作用極を正極とみなしている。0.1Cレートでの作用極の容量に対する他のレートにおける容量の割合(レート特性)を算出した。結果を表7に示す。
【0246】
【表7】
【0247】
参考例1−1のハーフセルは、0.2C、0.5C、1C、2Cのいずれのレートにおいても、参考例2−1のハーフセルと比較して、容量の低下が抑制されており、優れたレート特性を示した。本発明の電解液を使用した二次電池は、優れたレート特性を示すことが裏付けられた。
【0248】
(評価例7:急速充放電の繰り返しに対する応答性)
参考例1−1、参考例2−1のハーフセルに対し、1Cレートで充放電を3回繰り返した際の、容量と電圧の変化を観察した。結果を
図29に示す。
【0249】
参考例2−1のハーフセルは充放電を繰り返すに伴い、1Cレートで電流を流した場合の分極が大きくなる傾向があり、2Vから0.01Vに到達するまでに得られる容量が急速に低下した。他方、参考例1−1のハーフセルは充放電を繰り返しても、
図29において3本の曲線が重なっている様からも確認できるように分極の増減がほとんどなく、好適に容量を維持した。参考例2−1のハーフセルにおいて分極が増加した理由として、急速に充放電を繰り返した際の電解液中に生じたLi濃度ムラに因り、電極との反応界面に十分な量のLiを電解液が供給できなくなったこと、つまり、電解液のLi濃度の偏在が考えられる。参考例1−1のハーフセルでは、Li濃度が高い本発明の電解液を用いたことで、電解液のLi濃度の偏在を抑制できたものと考えられる。本発明の電解液を使用した二次電池は、急速充放電に対し、優れた応答性を示すことが裏付けられた。
【0250】
(評価例8:Li輸率)
電解液E2、電解液E8、電解液C4及び電解液C5のLi輸率を以下の条件で測定した。結果を表8Aに示す。
【0251】
<Li輸率測定条件>
電解液E2、電解液E8、電解液C4又は電解液C5を入れたNMR管をPFG−NMR装置(ECA−500、日本電子)に供し、
7Li、
19Fを対象として、室温30℃において、スピンエコー法を用い、磁場パルス幅を変化させながら、各電解液中のLiイオン及びアニオンの拡散係数を測定した。Li輸率は以下の式で算出した。
Li輸率=(Liイオン拡散係数)/(Liイオン拡散係数+アニオン拡散係数)
【0252】
【表8A】
【0253】
電解液E2、電解液E8のLi輸率は、電解液C4及び電解液C5のLi輸率と比較して、著しく高かった。ここで、電解液のLiイオン伝導度は、電解液に含まれるイオン伝導度(全イオン電導度)にLi輸率を乗じて算出することができる。そうすると、本発明の電解液は、同程度のイオン伝導度を示す従来の電解液と比較して、リチウムイオン(カチオン)の輸送速度が高いといえる。
【0254】
また電解液E8の測定温度を変化させてLi輸率を測定した。測定温度は30℃、10℃、−10℃、−30℃とした。結果を表8Bに示す。
【0255】
【表8B】
【0256】
表8Bの結果から、本発明の電解液は、温度に因らず、好適なLi輸率を保つことがわかる。本発明の電解液は、低温でも液体状態を保っているといえる。
【0257】
(評価例9:低温試験)
電解液E10、電解液E12、電解液E15、電解液E18をそれぞれ容器に入れ、不活性ガスを充填して密閉した。これらを−30℃の冷凍庫に2日間保管した。保管後に各電解液を観察した。いずれの電解液も固化せず液体状態を維持しており、塩の析出も観察されなかった。
【0258】
(評価例10:セパレータの保水倍率評価)
セパレータA〜Hを準備した。セパレータAは、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製、型番1825−055 Whatmanガラス繊維ろ紙 厚み400μmであり、セパレータBは、東洋濾紙株式会社製、型番:定性ろ紙NO.2、厚み260μmであり、セパレータCは、セルロース不織布、厚み20μmであり、セパレータDは、メルク株式会社製、型番:JAWP−047−00、親水性ポリテトラフルオロエチレン(親水性PTFE)製微多孔膜、厚み85μmであり、セパレータEは、ポリエチレン(PE)製不織布、厚み20μmであり、セパレータFは、ポリプロピレン(PP)製微多孔膜、厚み25μmであり、セパレータGは、東洋濾紙株式会社製、型番:T010A047A、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製微多孔膜、厚み80μmであり、セパレータHは、東洋濾紙株式会社製、型番:T050A047A、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製微多孔膜、厚み80μmである。各セパレータの材質、形態を以下の表9にまとめて示す。
【0259】
(電解液の浸透性試験)
黒色の板の上に各セパレータを固定し、電解液E8を200μl滴下した。10秒後にセパレータの表面を観察し、電解液がしみこんでセパレータの下に設置した板の黒色が透けて見えた時に電解液が浸透したと判断した。電解液が浸透したものを○、浸透しなかったものを×と判定した。
【0260】
(保水倍率評価)
各セパレータの切り出したサンプルの乾燥質量Wdを測定した。
【0261】
各セパレータを超純水に10分間浸漬し、その後余剰の液をウエスで拭い、セパレータの湿潤質量Whを測定した。
【0262】
保水量Weを以下の式(1)によって算出した。
保水量We=(Wh−Wd)・・・式(1)
【0263】
次に、セパレータの基準保水量Wtを式(2)、式(3)及び式(4)に従い計算した。
材料体積Vm=Wd/D・・・式(2)(式(2)におけるDはセパレータの材料の密度である)
【0264】
セパレータの体積Vsをセパレータの縦、横及び厚みを実測して算出し、式(3)より理論空隙率Pを算出した。
セパレータ体積Vs=(Wd/D)×(100/(100−P))・・・式(3)
【0265】
理論空隙率Pを下記式(4)に代入して、基準保水量Wtを算出した。
基準保水量Wt=空隙の体積=(Wd/D)×(P/(100−P))・・・式(4)
【0266】
次に保水倍率を式(5)より算出した。保水倍率=We/Wt・・・式(5)
【0267】
例えば、セパレータAの保水倍率の算出は以下のようであった。
切り出したサンプルの乾燥重量Wdは8.41mgであった。10分間水に浸漬したあとの湿潤重量Whは62.0mgであった。保水量は式(1)より53.59mgであった。次に基準保水量Wtを計算した。材料密度Dはガラスの場合2.2g/cm
3であるから、材料体積は0.0038cm
3となった。このセパレータAの秤量値と厚みから計算される空隙率は92%であるので、基準保水量Wtは式(4)より43.27mgとなる。よって、保水倍率は式(5)より 53.59/43.27=1.23と計算された。他のセパレータも同様に計算を行った。結果を表9にまとめた。なお、計算には材料密度Dとして、セルロースは、1.5g/cm
3、親水化PTFE及びPTFEは、2.2g/cm
3、PEは、0.94g/cm
3、PPは0.90g/cm
3を使用した。
【0268】
【表9】
【0269】
上記の結果から、保水倍率が0.1より小さいものは本発明の電解液が浸透しないことがわかった。従って保水倍率は0.1以上であることが必要であり、保水倍率は0.4以上であることが好ましい。
【0270】
セパレータA、B、Cの保水倍率は1.0以上と著しく保水性が高く、電解液の浸透性も高かった。これは、セパレータA、B、Cの材料が親水性の高いガラスやセルロースであり、かつセパレータの形態がすべての空隙が連続してつながっていると考えられる不織布であったからと考えられる。
【0271】
セパレータDは、形態は微多孔膜であるが、親水性の高い親水化PTFEを用いることによって保水倍率は0.95と高く、本発明の電解液の浸透性も高かった。
【0272】
セパレータEは、材料は親水性が小さいポリエチレンであるが、形態が不織布である。不織布の形態をとるセパレータはその材料の親水性が小さくても保水倍率が高くなり、電解液が浸透することがわかった。
【0273】
セパレータF、G、Hの保水倍率が0.1より小さく、電解液の浸透性がなかった。この理由は以下の理由が考えられる。セパレータF、G、Hは、セパレータの材料の親水性が低く、水を寄せ付けなかったと考えられる。またセパレータF、G、Hは、その形態が微多孔膜であるため、セパレータには他とつながらない空隙が形成されていることが推測される。そのため空隙がセパレータに多数含まれていても、本発明の電解液の浸透性には、寄与しなかったと推測される。
【0274】
(評価例11:熱安定性)
(実施例1のリチウムイオン二次電池)
電解液E8を用いた実施例1のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
【0275】
正極活物質であるLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2で表される層状岩塩構造のリチウム含有金属酸化物94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極用集電体として厚み20μmのアルミニウム箔(JIS A1000番系)を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。この時の正極の目付は、11mg/cm
2であった。
【0276】
負極活物質である天然黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極用集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。この時の負極の目付は、8mg/cm
2であった。
【0277】
セパレータとして、上記セパレータBを準備した。
【0278】
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液E8を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例1のリチウムイオン二次電池とした。
【0279】
(比較例1のリチウムイオン二次電池)
電解液E8に代えて電解液C5を用いた以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0280】
実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の熱安定性を以下の方法で評価した。
【0281】
リチウムイオン二次電池に対し、電位差4.2V、定電流定電圧条件で満充電した。満充電後のリチウムイオン二次電池を解体し、正極を取り出した。当該正極3mg及び電解液1.8μLをステンレス製のパンに入れ、該パンを密閉した。密閉パンを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/min.の条件で示差走査熱量分析を行い、DSC曲線を観察した。実施例1のリチウムイオン二次電池のDSCチャートを
図30に、比較例1のリチウムイオン二次電池のDSCチャートを
図31にそれぞれ示す。
【0282】
図30及び
図31の結果から明らかなように、実施例1のリチウムイオン二次電池における充電状態の正極と電解液を共存させた場合のDSC曲線はほとんど吸発熱ピークが観察されなかったのに対し、比較例1のリチウムイオン二次電池の充電状態の正極と電解液を共存させた場合のDSC曲線においては300℃付近に発熱ピークが観察された。この発熱ピークは、正極活物質と電解液とが反応した結果、生じたものと推定される。
【0283】
これらの結果から、本発明の電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、従来の電解液を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、正極活物質と電解液との反応性が低く、熱安定性に優れていることがわかった。
【0284】
(評価例12:リチウムイオン二次電池の充放電試験)
(比較例2のリチウムイオン二次電池)
セパレータとして上記セパレータGを用いた以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同様にして比較例2のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0285】
実施例1のリチウムイオン二次電池と比較例2のリチウムイオン二次電池を用いて充放電試験を行った。充放電条件は、0.1CでCC充放電とした。実施例1のリチウムイオン二次電池と比較例2のリチウムイオン二次電池の時間に対する電圧の変化をグラフにし、
図32及び
図33に示した。
図32は、実施例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を示すグラフであり、
図33は、比較例2のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を示すグラフである。
【0286】
実施例1のリチウムイオン二次電池は充放電を良好に行うことができたが、比較例2のリチウムイオン二次電池はほとんど充放電できなかった。実施例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池で用いた電解液の粘度は、上記したように23.8(mPa・s)と大変高いものであった。使用した電解液の粘度が高いため、比較例2のリチウムイオン二次電池では、用いたセパレータGを介して、電解液が通り抜けられず、充放電できなかったと推測される。
【0287】
この充放電曲線から、各リチウムイオン二次電池の正極活物質の質量あたりの放電容量を計算すると、実施例1のリチウムイオン二次電池の正極活物質質量あたりの放電容量は158mAh/gであり、比較例2のリチウムイオン二次電池の正極活物質質量あたりの放電容量は0.58mAh/gであった。なお、実施例1のリチウムイオン二次電池の放電容量は、正極と負極は同じものを使用し、EC系の一般電解液を用い、一般的なセパレータを用いたリチウムイオン二次電池の放電容量と同等であった。
【0288】
(評価例13:リチウムイオン二次電池の入出力特性)
(実施例2のリチウムイオン二次電池)
セパレータとして、上記セパレータCを用いた以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同様にして実施例2のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0289】
(実施例3のリチウムイオン二次電池)
負極を以下のように作製したものを用いた以外は実施例2のリチウムイオン二次電池と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0290】
負極活物質である天然黒鉛90質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。
【0291】
(比較例3のリチウムイオン二次電池)
電解液E8に代えて電解液C5を用いた以外は、実施例2のリチウムイオン二次電池と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0292】
(比較例4のリチウムイオン二次電池)
電解液E8に代えて電解液C5を用いた以外は、実施例3のリチウムイオン二次電池と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0293】
実施例2、3、比較例3、4のリチウムイオン二次電池の出力特性を以下の条件で評価した。
【0294】
(1)0℃又は25℃、SOC80%での入力特性評価
評価条件は、充電状態(SOC)80%、0℃又は25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhとした。入力特性の評価は、2秒入力と5秒入力について電池毎にそれぞれ3回行った。
【0295】
また、各電池の体積に基づき、25℃、2秒入力における電池出力密度(W/L)を算出した。
【0296】
入力特性の評価結果を表10に示す。表10の中の「2秒入力」は、充電開始から2秒後での入力を意味し、「5秒入力」は充電開始から5秒後での入力を意味している。
【0297】
表10に示すように、温度の違いに関わらず、実施例2のリチウムイオン二次電池の入力は、比較例3のリチウムイオン二次電池の入力に比べて、著しく高かった。同様に、実施例3のリチウムイオン二次電池の入力は、比較例4のリチウムイオン二次電池の入力に比べて、著しく高かった。
【0298】
また、実施例2のリチウムイオン二次電池の電池入力密度は、比較例3のリチウムイオン二次電池の電池入力密度に比べて、著しく高かった。同様に、実施例3のリチウムイオン二次電池の電池入力密度は、比較例4のリチウムイオン二次電池の電池入力密度に比べて、著しく高かった。
【0299】
(2)0℃又は25℃、SOC20%での出力特性評価
評価条件は、充電状態(SOC)20%、0℃又は25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAhとした。SOC20%、0℃は、例えば、冷蔵室などで使用する場合のように出力特性が出にくい領域である。出力特性の評価は、2秒出力と5秒出力について電池毎にそれぞれ3回行った。
【0300】
また、各電池の体積に基づき、25℃、2秒出力における電池出力密度(W/L)を算出した。
【0301】
出力特性の評価結果を表10に示す。表10の中の「2秒出力」は、放電開始から2秒後での出力を意味し、「5秒出力」は放電開始から5秒後での出力を意味している。
【0302】
表10に示すように、温度の違いに関わらず、実施例2のリチウムイオン二次電池の出力は、比較例3のリチウムイオン二次電池の出力に比べて、著しく高かった。同様に、実施例3のリチウムイオン二次電池の出力は、比較例4のリチウムイオン二次電池の出力に比べて、著しく高かった。
【0303】
また、実施例2のリチウムイオン二次電池の電池出力密度は、比較例3のリチウムイオン二次電池の電池出力密度に比べて、著しく高かった。同様に、実施例3のリチウムイオン二次電池の電池出力密度は、比較例4のリチウムイオン二次電池の電池出力密度に比べて、著しく高かった。
【0304】
【表10】
【0305】
以上の結果から、本発明の電解液と、保水倍率が0.1以上のセパレータと、を有するリチウムイオン二次電池は、良好に充放電することがわかった。
【0306】
なお、実施例ではリチウムイオン二次電池の形態で評価を行ったが、同様に電気二重層キャパシタ及びリチウムイオンキャパシタの形態を用いても、上記電解液と上記セパレータの組みあわせによれば、電気二重層キャパシタ及びリチウムイオンキャパシタは良好に作動すると考えられる。
【0307】
(評価例14:充放電特性)
(参考例1−2)
電解液E8を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
【0308】
活物質である平均粒径10μmの黒鉛90質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥してN−メチル−2−ピロリドンを除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、活物質層が形成された銅箔を得た。これを作用極とした。
【0309】
対極は金属Liとした。
【0310】
作用極、対極、両者の間に挟装した厚さ400μmのセパレータ(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製Whatmanガラス繊維ろ紙)及び電解液E8を電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容し、ハーフセルを構成した。これを参考例1−2のハーフセルとした。
【0311】
(参考例2−2)
電解液として電解液C5を用いた以外は、参考例1−2と同様の方法で、参考例2−2のハーフセルを製造した。
【0312】
(参考例3)
電解液として電解液E10を用いた以外は、参考例1−2と同様の方法で、参考例3のハーフセルを製造した。
【0313】
(参考例4)
電解液として電解液E15を用いた以外は、参考例1−2と同様の方法で、参考例4のハーフセルを製造した。
【0314】
(参考例5)
電解液として電解液E18を用いた以外は、参考例1−2と同様の方法で、参考例5のハーフセルを製造した。
【0315】
<試験・評価>
参考例1−2、2−2、3〜5のハーフセルのそれぞれに対して、下記の条件で充放電試験を3回行った。充放電試験条件:CC充電:0.01V、0.1C、CC放電:2.0V、0.1C、温度:25℃。その時の充放電曲線を
図34〜
図38に示す。
【0316】
本発明の電解液を用いた参考例1−2、3、4、5のハーフセルは、従来の電解液を用いた参考例2−2のハーフセルと同様に、可逆的に充放電反応していることがわかった。
【0317】
(評価例15:レート特性)
参考例1−2、2−2、3〜5のハーフセルのレート特性を以下の方法で試験した。各ハーフセルに対し、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2Cレート(1Cとは一定電流において1時間で電池を完全充電または放電させるために要する電流値を意味する。)で充電を行った後に放電を行い、それぞれの速度における作用極の容量(放電容量)を測定した。なお、ここでの記述は、対極を負極、作用極を正極とみなしている。0.1Cレートでの作用極の容量に対する他のレートにおける容量の割合(レート特性)を算出した。結果を表11に示す。
【0318】
【表11】
【0319】
参考例1−2、3、4、5のハーフセルは0.2C、0.5C、1Cのレートにおいて、さらに、参考例1−2、3は2Cのレートにおいても参考例2−2のハーフセルと比較して、容量低下が抑制されており、優れたレート特性を示すことが裏付けられた。
【0320】
(評価例16:容量維持率)
参考例1−2、2−2、3〜5のハーフセルの容量維持率を以下の方法で試験した。各ハーフセルに対し、25℃、電圧2.0VまでCC充電(定電流充電)し、電圧0.01VまでCC放電(定電流放電)を行う2.0V−0.01Vの充放電サイクルを、充放電レート0.1Cで3サイクル行い、その後、0.2C、0.5C、1C、2C、5C、10Cの順で各充放電レートにつき3サイクルずつ充放電を行い、最後に0.1Cで3サイクル充放電を行った。各ハーフセルの容量維持率(%)は以下の式で求めた。
容量維持率(%)=B/A×100
A:最初の0.1C充放電サイクルにおける2回目の作用極の放電容量
B:最後の0.1Cの充放電サイクルにおける2回目の作用極の放電容量
【0321】
結果を表12に示す。なお、ここでの記述は、対極を負極、作用極を正極とみなしている。
【0322】
【表12】
【0323】
いずれのハーフセルも、良好に充放電反応を行い、好適な容量維持率を示した。特に、参考例3、4、5のハーフセルの容量維持率は著しく優れていた。
【0324】
(評価例17:サイクル試験後の放電容量維持率及び抵抗値測定)
(実施例4のリチウムイオン二次電池)
電解液を電解液E8に代えて電解液E10を用いたこと以外は実施例2のリチウムイオン二次電池と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0325】
(実施例2のリチウムイオン二次電池)
前述した実施例2のリチウムイオン二次電池を用いた。
【0326】
(比較例3のリチウムイオン二次電池)
前述した比較例3のリチウムイオン二次電池を用いた。
【0327】
<試験・評価>
実施例2、4及び比較例3のリチウムイオン二次電池を用い、それぞれ温度25℃、1CのCC充電の条件下において4.1Vまで充電し、1分間休止した後、1CのCC放電で3.0Vまで放電し、1分間休止するサイクルを500サイクル繰り返すサイクル試験を行った。
【0328】
500サイクル目における放電容量維持率を測定し、結果を表11に示す。放電容量維持率は、500サイクル目の放電容量を初回の放電容量で除した値の百分率((500サイクル目の放電容量)/(初回の放電容量)×100)で求められる値である。
【0329】
また初期及び200サイクル目において温度25℃、0.5CのCCCVで電圧3.5Vに調整した後、3Cで10秒のCC放電をした際の電圧変化量(放電前電圧と放電10秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により直流抵抗を測定した。それぞれの結果と、初期に対する200サイクル時の直流抵抗値の比を表13に示す。
【0330】
【表13】
【0331】
実施例2、4のリチウム二次電池は、サイクル後においても抵抗が小さいことがわかる。また実施例4のリチウム二次電池は、容量維持率が特に高く、サイクル試験後に抵抗が大きく減少していることから、特に劣化しにくいと云える。
【0332】
(評価例18:リチウムイオン二次電池の60℃保存容量測定)
(実施例5のリチウムイオン二次電池)
負極活物質である天然黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合したことに代えて、天然黒鉛90質量部、ポリアクリル酸(PAA)10質量部を用いたこと以外は実施例4と同様にして負極を作成し、その負極を用いたこと以外は実施例4と同様にして実施例5のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0333】
<試験・評価>
実施例4、5及び比較例3のリチウムイオン二次電池を用い、60℃で1週間貯蔵する高温貯蔵試験を行った。高温貯蔵試験開始前に3.0VからCC−CVで4.1Vにした際の充電容量を基準(SOC100)とし、基準に対し20%分をCC放電(SOC80に調整)した後、高温貯蔵試験を開始した。高温貯蔵試験後に1Cで3.0VまでCC−CVし、この時の放電容量と貯蔵前のSOC80容量の比から、次式のように保存容量を算出した。結果を表14に示す。
保存容量(%)=100×(貯蔵後のCC−CV放電容量)/(貯蔵前のSOC80容量)
【0334】
【表14】
【0335】
実施例4、5のリチウムイオン二次電池のように、親水基を有するポリマーからなるバインダと本発明の電解液とを組み合わせることで、高温貯蔵後の保存容量の減少を抑制できることがわかった。
【0336】
(評価例19:Alの溶出確認I)
(参考例6)
電解液E8を用いたハーフセルを以下のとおり製造した。
【0337】
厚み20μmのアルミニウム箔(JIS A1000番系)を作用極とし、対極は金属Liとした。セパレータは、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製、厚み400μm、品番1825−055のWhatmanガラス繊維ろ紙とした。
【0338】
作用極、対極、セパレータ及び電解液E8を電池ケース(宝泉株式会社製 CR2032型コインセルケース)に収容しハーフセルを構成した。これを参考例6のハーフセルとした。
【0339】
参考例6のハーフセルに対して、1mV/sの速度で3.1V〜4.6V(vs.Li基準)の範囲でリニアスイープボルタンメトリー(略称LSV)測定を10回繰り返した際の、電流と電極電位の変化を観察した。参考例6のハーフセルの充放電1回目、2回目、3回目の電流と電極電位との関係を示すグラフを
図39に示す。
【0340】
図39から、作用極をAlとした参考例6のハーフセルでは、4.0Vでは電流が殆ど確認されず、4.3Vで一旦僅かに電流が増大するが、その後4.6Vまで大幅な増大は見られなかった。また、充放電の繰返しによって電流量は減少し定常化に向った。
【0341】
以上の結果から、本発明の電解液を使用するとともにアルミニウム集電体を用いた蓄電装置は、高電位でもAlの溶出が起こり難いと考えられる。Alの溶出が起こり難いとされる理由は明確ではないが、本発明の電解液は、従来の電解液とは金属塩と有機溶媒の種類、存在環境及び金属塩濃度が異なり、従来の電解液に比べて、本発明の電解液に対するAlの溶解性が低いのではないかと推測する。
【0342】
(評価例20:作用極Alでのサイクリックボルタンメトリー評価)
(参考例7)
電解液E8に代えて電解液E10を用いた以外は、参考例6のハーフセルと同様にして、参考例7のハーフセルを作成した。
【0343】
(参考例8)
電解液E8に代えて電解液E15を用いた以外は、参考例6のハーフセルと同様にして、参考例8のハーフセルを作成した。
【0344】
(参考例9)
電解液E8に代えて電解液E18を用いた以外は、参考例6のハーフセルと同様にして、参考例9のハーフセルを作成した。
【0345】
(参考例10)
電解液E8に代えて電解液E12を用いた以外は、参考例6のハーフセルと同様にして、参考例10のハーフセルを作成した。
【0346】
(参考例11)
電解液E8に代えて電解液C5を用いた以外は、参考例6のハーフセルと同様にして、参考例11のハーフセルを作成した。
【0347】
(参考例12)
電解液E8に代えて電解液C6を用いた以外は、参考例6のハーフセルと同様にして、参考例12のハーフセルを作成した。
【0348】
参考例6〜参考例9、参考例11のハーフセルに対して、3.1V〜4.6V、1mV/sの条件で、5サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行い、その後、参考例6〜参考例9、参考例11のハーフセルに対して、3.1V〜5.1V、1mV/sの条件で、5サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行った。
【0349】
また、参考例7、参考例10及び参考例12のハーフセルに対して、3.0V〜4.5V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行い、その後、3.0V〜5.0V、1mV/sの条件で、10サイクルのサイクリックボルタンメトリー評価を行った。
【0350】
参考例6〜参考例9、参考例11のハーフセルに対する電位と応答電流との関係を示すグラフを
図40〜
図48に示す。また、参考例7、参考例10及び参考例12のハーフセルに対する電位と応答電流との関係を示すグラフを
図49〜
図54に示す。
【0351】
図48から、参考例11のハーフセルでは、2サイクル以降も3.1Vから4.6Vにかけて電流が流れ、高電位になるに従い電流が増大しているのがわかる。また、
図53及び
図54から、参考例12のハーフセルにおいても同様に、2サイクル以降も3.0Vから4.5Vにかけて電流が流れ、高電位になるに従い電流が増大している。この電流は、作用極のアルミニウムが腐食したことによるAlの酸化電流と推定される。
【0352】
他方、
図40〜
図47から、参考例6〜9のハーフセルでは、2サイクル以降は3.1Vから4.6Vにかけてほとんど電流が流れていないことがわかる。4.3V以上では電位上昇に伴いわずかに電流の増大が観察されるものの、サイクルを繰り返すに従い、電流の量は減少し、定常状態に向かった。特に、参考例7〜9のハーフセルは、高電位である5.1Vまで電流の顕著な増大が観察されず、しかも、サイクルの繰り返しに伴い電流量の減少が観察された。
【0353】
また、
図49〜
図52から、参考例7及び参考例10のハーフセルにおいても同様に、2サイクル以降は3.0Vから4.5Vにかけてほとんど電流が流れていないことがわかる。特に3サイクル目以降では4.5Vに至るまで電流の増大はほぼない。そして、参考例10のハーフセルでは高電位となる4.5V以降に電流の増大がみられるが、これは参考例12のハーフセルにおける4.5V以降の電流値に比べると遙かに小さい値である。参考例7のハーフセルについては、4.5V以降も5.0Vに至るまで電流の増大はほぼなく、サイクルの繰り返しに伴い電流量の減少が観察された。
【0354】
サイクリックボルタンメトリー評価の結果から、5Vを超える高電位条件でも、電解液E8、電解液E10、電解液E12、電解液E15及び電解液E18のアルミニウムに対する腐食性は低いといえる。すなわち、電解液E8、電解液E10、電解液E12、電解液E15及び電解液E18は、集電体などにアルミニウムを用いた電池に対し、好適な電解液といえる。
【0355】
(評価例21:Alの溶出確認II)
(実施例6のリチウムイオン二次電池)
電解液を電解液E8に代えて電解液E4を用いたこと以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0356】
実施例1、実施例6及び比較例1のリチウムイオン二次電池を、使用電圧範囲3V〜4.2Vとし、レート1Cで充放電を100回繰り返し、充放電100回後に解体し、負極を取り出した。正極から電解液に溶出し、負極の表面へ沈着したAlの量をICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置で測定した。測定結果を表15に示す。表15のAl量(%)は負極活物質層1gあたりのAlの質量を%で示したものであり、Al量(μg/枚)は、負極活物質層1枚あたりのAlの質量(μg)を表し、Al量(%)÷100×各負極活物質層一枚の質量=Al量(μg/枚)の計算式により算出した。
【0357】
【表15】
【0358】
実施例1及び実施例6のリチウムイオン二次電池では、比較例1のリチウムイオン二次電池よりも、負極表面に沈着しているAlの量が大幅に少なかった。このことから、本発明の電解液を用いた実施例1及び実施例6のリチウムイオン二次電池では、従来の電解液を用いた比較例1のリチウムイオン二次電池よりも正極の集電体からのAlの溶出が抑制されたことがわかった。
【0359】
(評価例22:Al集電体の表面分析)
実施例1及び実施例6のリチウムイオン二次電池を、使用電圧範囲3V〜4.2Vとし、レート1Cで充放電を100回繰り返し、充放電100回後に解体し、正極用集電体であるアルミニウム箔を各々取り出し、アルミニウム箔の表面をジメチルカーボネートで洗浄した。
【0360】
洗浄後の実施例1及び実施例6のリチウムイオン二次電池のアルミニウム箔の表面を、ArスパッタでエッチングしながらX線光電子分光法(XPS)にて表面分析を行った。実施例1及び実施例6のリチウムイオン二次電池の充放電後のアルミニウム箔の表面分析結果を
図55及び
図56に示す。
【0361】
図55及び
図56を比べると、実施例1及び実施例6のリチウムイオン二次電池の充放電後の正極用集電体であるアルミニウム箔の表面分析結果は両者ともほぼ同じであり、以下のことがいえる。アルミニウム箔の表面において、最表面のAlの化学状態はAlF
3であった。深さ方向にエッチングしていくと、Al、O、Fのピークが検出され、表面から1回〜3回エッチングしていった箇所はAl−F結合及びAl−O結合の複合状態であることがわかった。さらにエッチングしていくと4回エッチング(SiO
2換算で深さ約25nm)したところからO、Fのピークが消失し、Alのみのピークが観察された。なお、XPS測定データにおいて、AlF
3は、Alピーク位置76.3eVに観察され、純Alは、Alピーク位置73eVに観察され、Al−F結合及びAl−O結合の複合状態では、Alピーク位置74eV〜76.3eVに観察される。
図55及び
図56に示す破線は、AlF
3、Al、Al
2O
3それぞれの代表的なピーク位置を示す。
【0362】
以上の結果から、本発明の充放電後のリチウムイオン二次電池のアルミニウム箔の表面には、深さ方向に約25nmの厚みで、Al−F結合(AlF
3と推測される)の層と、Al−F結合(AlF
3と推測される)及びAl−O結合(Al
2O
3と推測される)の混在する層とが形成されていることが確認できた。
【0363】
つまり、本発明のリチウムイオン二次電池において、本発明の電解液を用いても充放電後にはアルミニウム箔の最表面にはAl−F結合(AlF
3と推測される)からなる不動態膜が形成されることがわかった。
【0364】
評価例19〜22の結果から、本発明の電解液と、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる正極用集電体とを組み合わせるリチウムイオン二次電池では、充放電により正極用集電体の表面には不動態膜が形成され、なおかつ、高電位状態においても正極用集電体からのAlの溶出が抑制されることがわかった。
【0365】
(評価例23:リチウムイオン二次電池出力特性評価)
(低目付けの検討)
(実施例7)
正極の目付けを5.5mg/cm
2、負極の目付けを4mg/cm
2とした以外は実施例2のリチウムイオン二次電池と同様にして実施例7のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0366】
(比較例5)
正極の目付けを5.5mg/cm
2、負極の目付けを4mg/cm
2とした以外は比較例3のリチウムイオン二次電池と同様にして比較例5のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0367】
実施例7、比較例5のリチウムイオン二次電池の入出力特性を以下の条件で評価した。
【0368】
(25℃SOC80%、−10℃SOC30%、−30℃SOC30%での入出力特性評価)
評価条件は、充電状態(SOC)80%、25℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAh、5秒入力と、充電状態(SOC)30%、−10℃又は−30℃、使用電圧範囲3V―4.2V、容量13.5mAh、2秒出力とした。ここで−10℃、−30℃は、低温環境で使用する場合のように出力特性が出にくい領域である。
【0369】
入出力特性の評価結果を表16に示す。表16の中の「5秒入力」は充電開始から5秒後での入力を意味し、「2秒出力」は、放電開始から2秒後での出力を意味している。
【0370】
表16に示すように、温度の違いに関わらず、低目付けのリチウムイオン二次電池においても、実施例7のリチウムイオン二次電池の入出力は、比較例5のリチウムイオン二次電池の入出力に比べて、著しく高かった。
【0371】
【表16】
【0372】
(評価例24:ラマンスペクトル測定)
電解液E8、電解液E21、電解液C4、並びに、電解液E10、電解液E12、電解液E14、電解液C6につき、以下の条件でラマンスペクトル測定を行った。各電解液の金属塩のアニオン部分に由来するピークが観察されたラマンスペクトルをそれぞれ
図57〜
図63に示す。図の横軸は波数(cm
−1)であり、縦軸は散乱強度である。
【0373】
ラマンスペクトル測定条件
装置:レーザーラマン分光光度計(日本分光株式会社NRSシリーズ)
レーザー波長:532nm
【0374】
不活性ガス雰囲気下で電解液を石英セルに密閉し、測定に供した。
【0375】
図57〜59で示される電解液E8、電解液E21、電解液C4のラマンスペクトルの700〜800cm
−1には、アセトニトリルに溶解したLiFSAの(FSO
2)
2Nに由来する特徴的なピークが観察された。ここで、
図57〜59から、LiFSAの濃度の増加に伴い、上記ピークが高波数側にシフトするのがわかる。電解液が高濃度化するに従い、塩のアニオンに該当する(FSO
2)
2Nが、Liと相互作用する状態になる、換言すると、濃度が低い場合はLiとアニオンはSSIP(Solvent−separated ion pairs)状態を主に形成しており、高濃度化に伴いCIP(Contact ion pairs)状態やAGG(aggregate)状態を主に形成していると推察される。そして、かかる状態の変化がラマンスペクトルのピークシフトとして観察されたと考察できる。
【0376】
図60〜63で示される電解液E10、電解液E12、電解液E14、電解液C6のラマンスペクトルの700〜800cm
−1には、ジメチルカーボネートに溶解したLiFSAの(FSO
2)
2Nに由来する特徴的なピークが観察された。ここで、
図60〜63から、LiFSAの濃度の増加に伴い、上記ピークが高波数側にシフトするのがわかる。この現象は、前段落で考察したのと同様に、電解液が高濃度化するに従い、塩のアニオンに該当する(FSO
2)
2NがLiと相互作用する状態になり、そして、かかる状態の変化がラマンスペクトルのピークシフトとして観察されたと考察できる。
【0377】
(評価例25:容量維持率測定)
(実施例8)
リチウムイオン二次電池の電解液として、電解液E10を用いた以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様にして実施例8のリチウムイオン二次電池を作成した。
【0378】
実施例8のリチウムイオン二次電池及び比較例1のリチウム二次電池を用い、それぞれ温度25℃、1CのCC充電の条件下において4.1Vまで充電し、1分間休止した後、1CのCC放電で3.0Vまで放電し、1分間休止するサイクルを500サイクル繰り返すサイクル試験を行った。各サイクルにおける放電容量維持率を測定し、結果を
図64に示した。500サイクル目における放電容量維持率を表17に示した。放電容量維持率は、各サイクルの放電容量を初回の放電容量で除した値の百分率((各サイクルの放電容量)/(初回の放電容量)×100)で求められる値である。
【0379】
表17及び
図64に示すように、実施例8のリチウムイオン二次電池は比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、サイクル寿命が向上した
。
【0380】
【表17】
【0381】
(評価例26:Ni、Mn、Coの溶出確認)
評価例25で容量維持率を測定したサイクル試験後の実施例8及び比較例1のリチウムイオン二次電池を解体し、負極を取り出した。負極の表面へ沈着したNi、Mn、Coの量をICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置で測定した。測定結果を表18に示す。表18のNi、Mn、Co量(%)は負極活物質層1gあたりのNi、Mn、Coの質量を%で示したものであり、Ni、Mn、Co量(μg/枚)は、負極活物質層1枚あたりのNi、Mn、Coの質量(μg)を表し、Ni、Mn、Co量(%)÷100×各負極活物質層一枚の質量=Ni、Mn、Co量(μg/枚)の計算式により算出した。
【0382】
【表18】
【0383】
表18において、「<」は定量下限値以下であることを示す。
【0384】
負極の表面に沈着したNi、Co、Mnは、正極から電解液に溶出し、負極に沈着したものと推測される。表18の結果から、実施例8のリチウムイオン二次電池は500回のサイクル試験後においても金属溶出が少ないことがわかった。
【0385】
(評価例27:低温でのレート特性)
(参考例13)
電解液として電解液E21を用いた以外は参考例1−2のハーフセルと同様にして参考例13のハーフセルを得た。
【0386】
(参考例14)
電解液として電解液C5を用いた以外は、参考例13のハーフセルと同様の方法で、参考例14のハーフセルを得た。
【0387】
参考例13と参考例14のハーフセルを用い、−20℃でのレート特性を以下のとおり評価した。結果を
図65及び
図66に示す。
【0388】
(1) 負極(評価極)へのリチウム吸蔵が進行する向きに電流を流す。
(2) 電圧範囲:2V→0.01V(v.s.Li/Li
+)
(3) レート:0.02C、0.05C、0.1C、0.2C、0.5C (0.01V到達後に電流を停止)
なお、1Cは、一定電流において1時間で電池を完全充電、又は放電させるために要する電流値を示す。
【0389】
図65及び
図66から、各電流レートにおける参考例13のハーフセルの電圧カーブは、参考例14のハーフセルの電圧カーブと比較して、高い電圧を示しているのがわかる。本発明の電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、低温環境においても優れたレート特性を示すことが裏付けられた。
【0390】
(評価例28:電池の内部抵抗)
(実施例9)
電解液E8を用いた実施例9のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
【0391】
正極活物質であるLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2で表される層状岩塩構造のリチウム含有金属酸化物90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック8質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。
【0392】
負極活物質である天然黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。
【0393】
セパレータとして、厚さ20μmのセルロース製不織布を準備した。
【0394】
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液E8を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例9のリチウムイオン二次電池とした。
【0395】
(実施例10)
電解液として電解液E10を用いた以外は、実施例9と同様の方法で、実施例10のリチウムイオン二次電池を得た。
【0396】
(実施例11)
電解液として電解液E12を用いた以外は、実施例9と同様の方法で、実施例11のリチウムイオン二次電池を得た。
【0397】
(比較例6)
電解液として電解液C5を用いた以外は、実施例9と同様の方法で、比較例6のリチウムイオン二次電池を得た。
【0398】
実施例9〜11及び比較例6のリチウムイオン二次電池を準備し、電池の内部抵抗を評価した。
【0399】
各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電、つまり定電流充放電を繰り返した。そして、初回充放電後の交流インピーダンス、及び、100サイクル経過後の交流インピーダンスを測定した。得られた複素インピーダンス平面プロットを基に、電解液、負極及び正極の反応抵抗を各々解析した。
図67に示すように、複素インピーダンス平面プロットには、二つの円弧がみられた。図中左側(つまり複素インピーダンスの実部が小さい側)の円弧を第1円弧と呼ぶ。図中右側の円弧を第2円弧と呼ぶ。第1円弧の大きさを基に負極の反応抵抗を解析し、第2円弧の大きさを基に正極の反応抵抗を解析した。第1円弧に連続する
図67中最左側のプロットを基に電解液の抵抗を解析した。解析結果を表19及び表20に示す。なお、表19は、初回充放電後の電解液の抵抗(所謂溶液抵抗)、負極の反応抵抗、正極の反応抵抗を示し、表20は100サイクル経過後の各抵抗を示す。
【0400】
【表19】
【0401】
【表20】
【0402】
表19及び表20に示すように、各リチウムイオン二次電池において、100サイクル経過後の負極反応抵抗及び正極反応抵抗は、初回充放電後の各抵抗に比べて低下する傾向にある。そして、表20に示す100サイクル経過後では、実施例9〜11のリチウムイオン二次電池の負極反応抵抗及び正極反応抵抗は、比較例6のリチウムイオン二次電池の負極反応抵抗及び正極反応抵抗に比べて低い。
【0403】
なお、実施例9、11及び比較例6のリチウムイオン二次電池における電解液の溶液抵抗はほぼ同じであり、実施例10のリチウムイオン二次電池における電解液の溶液抵抗は、実施例9、11及び比較例6に比べて高い。また、各リチウムイオン二次電池における各電解液の溶液抵抗は初回充放電後も100サイクル経過後も同等である。このため、各電解液の耐久劣化は生じていないと考えられ、上記した比較例及び実施例において生じた負極反応抵抗及び正極反応抵抗の差は、電解液の耐久劣化に関係するものでなく電極自体に生じているものであると考えられる。
【0404】
リチウムイオン二次電池の内部抵抗は、電解液の溶液抵抗、負極の反応抵抗及び正極の反応抵抗から総合的に判断できる。表19及び表20の結果を基にすると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗増大を抑制する観点からは、実施例10、11のリチウムイオン二次電池が最も耐久性に優れ、次いで実施例9のリチウムイオン二次電池が耐久性に優れていると言える。
【0405】
(評価例29:電池のサイクル耐久性)
実施例9〜11及び比較例6のリチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.1V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電を繰り返し、初回充放電時の放電容量、100サイクル時の放電容量、及び500サイクル時の放電容量を測定した。そして、初回充放電時の各リチウムイオン二次電池の容量を100%とし、100サイクル時及び500サイクル時の各リチウムイオン二次電池の容量維持率(%)を算出した。結果を表21に示す。
【0406】
【表21】
【0407】
表21に示すように、実施例9〜11のリチウムイオン二次電池は、SEIの材料となるECを含まないにも拘わらず、ECを含む比較例6のリチウムイオン二次電池と同等の100サイクル時の容量維持率を示した。これは、実施例9〜11のリチウムイオン二次電池における正極及び負極には、本発明の電解液に由来する皮膜が存在するためだと考えられる。そして、実施例10のリチウムイオン二次電池については、500サイクル経過時にも極めて高い容量維持率を示し、特に耐久性に優れていた。この結果から、電解液の有機溶媒としてDMCを選択する場合には、ANを選択する場合に比べて、より耐久性が向上するといえる。 本発明の電解液として、以下の電解液を具体的に挙げる。なお、以下の電解液には、既述のものも含まれている。
【0408】
(電解液A)
本発明の電解液を以下のとおり製造した。
【0409】
有機溶媒である1,2−ジメトキシエタン約5mLを、撹拌子及び温度計を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中の1,2−ジメトキシエタンに対し、リチウム塩である(CF
3SO
2)
2NLiを溶液温度が40℃以下を保つように徐々に加え、溶解させた。約13gの(CF
3SO
2)
2NLiを加えた時点で(CF
3SO
2)
2NLiの溶解が一時停滞したので、上記フラスコを恒温槽に投入し、フラスコ内の溶液温度が50℃となるよう加温し、(CF
3SO
2)
2NLiを溶解させた。約15gの(CF
3SO
2)
2NLiを加えた時点で(CF
3SO
2)
2NLiの溶解が再び停滞したので、1,2−ジメトキシエタンをピペットで1滴加えたところ、(CF
3SO
2)
2NLiは溶解した。さらに(CF
3SO
2)
2NLiを徐々に加え、所定の(CF
3SO
2)
2NLiを全量加えた。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまで1,2−ジメトキシエタンを加えた。得られた電解液は容積20mLであり、この電解液に含まれる(CF
3SO
2)
2NLiは18.38gであった。これを電解液Aとした。電解液Aにおける(CF
3SO
2)
2NLiの濃度は3.2mol/Lであり、密度は1.39g/cm
3であった。密度は20℃で測定した。
【0410】
なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0411】
(電解液B)
電解液Aと同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が2.8mol/Lであり、密度が1.36g/cm
3である、電解液Bを製造した。
【0412】
(電解液C)
有機溶媒であるアセトニトリル約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のアセトニトリルに対し、リチウム塩である(CF
3SO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。所定の(CF
3SO
2)
2NLiを加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでアセトニトリルを加えた。これを電解液Cとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0413】
電解液Cは、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が4.2mol/Lであり、密度が1.52g/cm
3であった。
【0414】
(電解液D)
電解液Cと同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が3.0mol/Lであり、密度が1.31g/cm
3である、電解液Dを製造した。
【0415】
(電解液E)
有機溶媒としてスルホランを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が3.0mol/Lであり、密度が1.57g/cm
3である、電解液Eを製造した。
【0416】
(電解液F)
有機溶媒としてジメチルスルホキシドを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(CF
3SO
2)
2NLiの濃度が3.2mol/Lであり、密度が1.49g/cm
3である、電解液Fを製造した。
【0417】
(電解液G)
リチウム塩として(FSO
2)
2NLiを用い、有機溶媒として1,2−ジメトキシエタンを用いた以外は、電解液Cと同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が4.0mol/Lであり、密度が1.33g/cm
3である、電解液Gを製造した。
【0418】
(電解液H)
電解液Gと同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が3.6mol/Lであり、密度が1.29g/cm
3である、電解液Hを製造した。
【0419】
(電解液I)
電解液Gと同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.4mol/Lであり、密度が1.18g/cm
3である、電解液Iを製造した。
【0420】
(電解液J)
有機溶媒としてアセトニトリルを用いた以外は、電解液Gと同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が5.0mol/Lであり、密度が1.40g/cm
3である、電解液Jを製造した。
【0421】
(電解液K)
電解液Jと同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が4.5mol/Lであり、密度が1.34g/cm
3である、電解液Kを製造した。
【0422】
(電解液L)
有機溶媒であるジメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO
2)
2NLiを全量で14.64g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジメチルカーボネートを加えた。これを電解液Lとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0423】
電解液Lにおける(FSO
2)
2NLiの濃度は3.9mol/Lであり、電解液Lの密度は1.44g/cm
3であった。
【0424】
(電解液M)
電解液Lと同様の方法で、(FSO
2)
2NLiの濃度が2.9mol/Lであり、密度が1.36g/cm
3である、電解液Mを製造した。
【0425】
(電解液N)
有機溶媒であるエチルメチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のエチルメチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO
2)
2NLiを全量で12.81g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでエチルメチルカーボネートを加えた。これを電解液Nとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0426】
電解液Nにおける(FSO
2)
2NLiの濃度は3.4mol/Lであり、電解液Nの密度は1.35g/cm
3であった。
【0427】
(電解液O)
有機溶媒であるジエチルカーボネート約5mLを、撹拌子を備えたフラスコに入れた。撹拌条件下にて、上記フラスコ中のジエチルカーボネートに対し、リチウム塩である(FSO
2)
2NLiを徐々に加え、溶解させた。(FSO
2)
2NLiを全量で11.37g加えたところで一晩撹拌した。得られた電解液を20mLメスフラスコに移し、容積が20mLとなるまでジエチルカーボネートを加えた。これを電解液Oとした。なお、上記製造は不活性ガス雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0428】
電解液Oにおける(FSO
2)
2NLiの濃度は3.0mol/Lであり、電解液Oの密度は1.29g/cm
3であった。
【0429】
表22に上記電解液の一覧を示す。
【0430】
【表22】