【文献】
KIM, M.C. et al.,"Building a better cell trap: Applying Lagrangian modeling to the design of microfluidic devices for cell biology.",JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2008年 2月15日,Vol.103, No.4,044701(P.1-6)
【文献】
LUTZ, B.R. et al.,"Hydrodynamic tweezers: 1. Noncontact trapping of single cells using steady streaming microeddies.",ANALYTICAL CHEMISTRY,2006年 8月 1日,Vol.78, No.15,P.5429-5435
【文献】
NILSSON, J. et al.,"Review of cell and particle trapping in microfluidic systems.",ANALYTICA CHIMICA ACTA,2009年 9月 7日,Vol.649, No.2,P.141-157
【文献】
LAWRENZ, A. et al.,"Geometrical effects in microfluidic-based microarrays for rapid, efficient single-cell capture of mammalian stem cells and plant cells.",BIOMICROFLUIDICS,2012年 4月17日,Vol.6, No.2,024112(p.1-17)
【文献】
FALEY, S.L. et al.,"Cell chip array for microfluidic proteomics enabling rapid in situ assessment of intracellular protein phosphorylation.",BIOMICROFLUIDICS,2011年 6月,Vol.5, No.2,024106(P.1-7)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
細胞や細菌などの生体関連物質の解析は、培養法で生体関連物質を増殖してから多数の生体関連物質の平均値を求める手法で行うのが一般的である。これに対して、近年単一の生体関連物質を解析する方法が提案されており、細胞応答や抑制のメカニズム、細胞−細胞相互作用、幹細胞分化の研究が行われている。その結果、多数の生体関連物質の平均化された振る舞いと、単一の生体関連物質の振る舞いが大きく異なることが明らかとなっている。本方法では1個の生体関連物質を解析できることから、培養法で増殖が困難な生体関連物質や数の少ない生体関連物質を解析できるだけではなく、培養可能な生体関連物質を増殖させる工程を省いて早期に解析することもできる。このことにより現状培養困難と言われる99.9%の細菌や、幹細胞など数の少ない患者由来の細胞や細菌を早期に解析できることが期待されるため、単一の生体関連物質の解析はますます重要となっている。近年では血液中に存在するがん細胞であるCTC(Circulating Tumor Cell)や細菌の同定も行われている。
【0003】
単一の生体関連物質を解析するためには、複数の生体関連物質を、単一かつ独立した位置に配置する必要がある。ここで、独立した位置とは、単一の生体関連物質を分析する装置において、それらが識別できる位置にあることを意味する。生体関連物質を単一かつ独立した位置に配置する方法は、非特許文献1のレビュー論文に記載されているように、流体力学を利用した方法、電気、光、磁気、超音波などの外力を利用する方法、表面処理や化学結合を利用する方法に大別できる。ここで注意すべき点は、生体関連物質を配置する際に、生体関連物質の表現形が変わらないようにすることである。例えば表面処理や化学結合により生体関連物質を配置する場合には、生体関連物質が化学変化や構造変化を起こす可能性があり、実際とは異なる生体関連物質の振る舞いを分析してしまう可能性がある。また外力を用いた方法は制御が難しいため、流体力学のみに基づく生体関連物質の配置方法が最も望ましいと考えられる。従って以下流体力学に基づく生体関連物質の配置方法の報告について、概要と課題を説明する。
【0004】
単一の生体関連物質を解析する最も一般的な方法は、スライドガラスとカバーガラスの間に生体関連物質を含む溶液を封入して観察する方法である。アガロースゲルやブロッキング剤(BSA、Caseinなど)を塗布したスライドガラスを用いることで、生体関連物質の変性や非特異吸着を防ぐ方法があるほか、生体関連物質を含む溶液をマイクロチップの流路へ送液してから静止状態で観察する方法もある。いずれの方法も、生体関連物質を含む溶液の濃度を調製することで、生体関連物質を単一かつ独立した位置に配置できる。例えば、スライドガラスとカバーガラス(20mm×20mm)との間の隙間(0.025mm)の部分に10μlの生体関連物質を含む溶液を封入した場合を考える。生体関連物質を平均1mm間隔で配置したい場合には4×10
4個/ml(40個/μl)、平均0.1mm間隔で配置したい場合には4×10
6個/ml(4000個/μl)にそれぞれ生体関連物質を含む溶液を調製すればよい。但し上述の方法では、生体関連物質がスライドガラスやカバーガラスなどへ非特異吸着した場合を除いて、生体関連物質の位置はブラウン運動や生体関連物質自体の運動性などにより不規則に変化する。従って生体関連物質が観察視野から外れると再び同一の生体関連物質を特定することが困難であること、生体関連物質同士の間隔はあくまで平均値であるために、生体関連物質は常に独立した位置に存在するわけではなく別の生体関連物質と隣接する場合があること(この場合、分析装置では生体関連物質同士が隣接していることは識別できない)、生体関連物質の動きを追従することが困難であることが課題である。また生体関連物質を含む微量な溶液(この場合は10μl)しか解析に用いることができない。
【0005】
また別の方法として、マイクロタイタープレートを用いた方法がある。これはfL(10
-15L)からpL(10
-12L)の大きさのマイクロウエルが多数作製されたマイクロタイタープレートに、濃度を調整した生体関連物質を含む溶液を分注して、確率的に1つの細菌が1つのマイクロウエルに入るようにしたものである。更にマイクロウエルの大きさを配置したい生体関連物質の大きさより少しだけ大きく設計することで、複数の生体関連物質が同じマイクロウエルへ入らないようにできる。この方法を用いて80−90%のマイクロウエルに単一の細胞(数十μm)を導入した例が報告されている。但し例えば細菌のように大きさが数μmと小さい場合、形状が球状ではなく棒状の場合、それ自体が運動性を有する場合には適用がより困難となる。またマイクロウエルとカバーガラスの隙間が液体で満たされている場合、運動性を有する細菌などが流出する可能性がある。またマイクロウエル内の溶液を交換するためには、置換効率が悪いために多くの液量と時間を要するほか、生体関連物質の回収が困難な課題がある。また生体関連物質を含む微量な溶液しか解析に用いることができない。
【0006】
生体関連物質を含む微量な溶液しか解析できない課題を解決する方法として、マイクロチップの流路内に生体関連物質を捕捉するための構造体を設けておき、生体関連物質を含む溶液を流しながら捕捉する方法がある。生体関連物質を必要な量だけ送液できるため、生体関連物質を含む溶液の濃度を調製する必要が無く、非常に希薄な溶液でも使用することができる。以下本方法に基づく生体関連物質の配置方法の報告について、概要と課題を説明する。
【0007】
非特許文献2では、約10μmのCD34細胞を捕捉するための構造体として、細胞より小さい数μmのスリットを3箇所設けた籠形状の捕捉構造体を用いている。生体関連物質を含む溶液を送液することで、上記スリット部を溶液が通過して、籠形状の捕捉構造体に溶液が導入される。なお籠形状の捕捉構造体がスリットを有さない場合には、溶液を送液する前に存在する空気(気泡)を追い出すことが困難となるため、実用的ではない。上記スリット部から生体関連物質を含む溶液が排出される分だけ、生体関連物質を含む溶液を籠形状の捕捉構造体に導入できる。その際に生体関連物質が導入されるとスリットを通過できないために、籠形状の捕捉構造体に捕捉される。籠形状の捕捉構造体は、CD34細胞と類似した大きさであるため、複数のCD34細胞が同一の捕捉構造体に入る確率を下げ、大部分の捕捉構造体に単一のCD34細胞を捕捉することができる。捕捉構造体のスリットの幅や数を変えることで、捕捉構造体に導入できる生体関連物質を含む溶液の割合が変わるため、結果として生体関連物質を捕捉する捕捉率が変化する。この場合には以下4つの課題がある。一つ目は、大きさ既知の生体関連物質であればスリット幅をそれ未満に設定することで、生体関連物質を捕捉できるが、生体関連物質の大きさが小さくなるほど狭い幅のスリットを作製する必要がある。例えばCD34細胞は約10μmだが、細菌の短軸は約0.5〜1.0μmである。スリット幅の設計値にスリットの最大加工誤差を加えた値が、生体関連物質の大きさ未満でなければならないため、0.1μm単位の高い加工精度が要求される。従って製造コストが高くなる。また狭い幅のスリットを用いることで生体関連物質の捕捉率は低くなる。二つ目は、捕捉構造体を生体関連物質の大きさと類似させることで、複数の生体関連物質が同一の捕捉構造体に捕捉される確率を下げ、大部分の捕捉構造体に単一の生体関連物質を捕捉しているが、生体関連物質の大きさや形状に広がりがある場合には、1つの捕捉構造体に複数の生体関連物質が捕捉されてしまう。例えば細菌の長さは、短軸(約0.2〜1.0μm)と長軸(約1〜10μm)であり、広い範囲に亘る。三つ目は、全ての生体関連物質を捕捉構造体に捕捉できておらず、捕捉された生体関連物質のみを解析対象としているため、重要な情報を見逃す恐れがあることや生体関連物質の個数を定量できない課題がある。四つ目は、生体関連物質がスリット部に引き込まれる力を受け続けることで、生体関連物質にストレスが発生して表現形が変わる可能性があることである。特許文献1では、一見スリットを有さない捕捉構造体に見えるが、Z方向に2μmの隙間があり、非特許文献2のスリットと同様の機能を有している。
【0008】
非特許文献3では、約0.8μmのスリットを有する捕捉構造体を用いて、単一の大腸菌を異なる捕捉構造体位置に捕捉している。非特許文献2や特許文献1とは異なり、捕捉構造体を生体関連物質の大きさより十分大きくし、かつ生体関連物質が捕捉される確率を下げることで、結果的に同一の捕捉構造体に単一の生体関連物質を捕捉している。但し以下の課題を抱えている。一つ目は、0.8μm以下の大腸菌は捕捉されないことである。更に大腸菌は、条件によって自身の短軸の半分の流路でも通過できることが非特許文献4で報告されている。この場合1.6μmの大腸菌でも条件によっては通過することになる。二つ目は、全ての生体関連物質を捕捉構造体に捕捉できておらず、またその条件も検討されていないことである。三つ目は、生体関連物質がスリット部に引き込まれる力を受け続けることで、生体関連物質にストレスが発生して表現形が変わる可能性があることである。四つ目は、非特許文献3で述べられているが、高速で送液した場合に、細菌が溶解する可能性があることである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明は、複数の生体関連物質を単一かつ独立した位置に配置して、分析を行う方式の分析装置一般に適用可能である。ここでは、本発明を細菌分析に適用した場合の例について説明する。
【0019】
図1は、本発明による捕捉構造体の一例を示す概略図である。捕捉構造体1は、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bが一対である構造体であり、複数配置されている。スリットを有する構造体1aは、スリットを有する構造体の左側1a
Lとスリットを有する構造体の右側1a
Rから構成され、その間にはスリット2が存在する。
図1の上側にある注入口(
図14ご参照)から図示しない生体関連物質4を含む溶液を注入し、流路3を通して送液され、
図1の下側にある排出口(
図14ご参照)から排出される。捕捉構造体1の高さは流路の高さと等しいとする。この過程において、図示しない生体関連物質4を含む溶液は、ある確率で、スリットを有する構造体1aに流入し、スリット2を通過して、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間から流出する。この際に、ある確率で、生体関連物質4は死水域5で捕捉される。死水域5は、流れのない場所あるいは流れがあっても渦状の場所で流量の疎通に関係のない領域である。スリット2を通過した生体関連物質4は、拡散、慣性力、またはその運動性により、ある確率で死水域5に捕捉される。死水域5は、急拡大部、急縮小部、湾曲部などの領域に形成される。スリットを有さない構造体1bの死水域に近い場所にくぼみをつけるなど構造を最適化することで、死水域5の領域を広げることも可能である。死水域5に捕捉された生体関連物質4は、流体の力を殆ど受けない。従って生体関連物質4にストレスは発生せず、溶解することもない。また死水域5の下流側は、スリットを有さない構造体1bが存在する。従って生体関連物質4が小さくても、死水域5から下流側へ流れることはない。スリットを有する構造体1aは、スリット2を通して、スリットを有さない構造体1bの流路下流側から生体関連物質4を含む溶液を流路上流側へ満たす作用があるため、気泡が除去しやすい。スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bは、楕円弧の一部から構成されているが、これ以外にも円弧の一部や三角形の一部から構成することもできる。構造体形状の違いにより、流れの違いが発生し、結果として生体関連物質4の捕捉率の違いとなる。
【0020】
図2Aは、幅1mmの流路の中央部に前記捕捉構造体を置き、左側から右側へ1mm/sの流速で送液した時の流体シミュレーション結果である。前記スリットの幅は5μmである。また
図2Bは、前記捕捉構造体の領域を拡大した図であり、溶液が流れる方向を矢印で示している。これより、前記スリットを通過した溶液は、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間へ向かって、分岐して流出される。従って分岐する領域において、前記死水域が形成される。
【0021】
一方
図3Aは、幅1mmの流路の中央部からずらした部分に前記捕捉構造体を置き、左側から右側へ1mm/sの流速で送液した時の流体シミュレーション結果である。前記スリットの幅は5μmである。また
図3Bは、前記捕捉構造体の領域を拡大した図であり、溶液が流れる方向を矢印で示している。これより、前記スリットを通過した溶液は、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間のうち1箇所へ向かって流出される。また一方の隙間から他方の隙間へ向かう流れが形成されている。従って
図2とは異なり、分岐する領域が無いため、前記死水域は形成されない。
【0022】
また
図4Aは、幅1mmの流路の中央部からずらした部分に前記捕捉構造体を置き、左側から右側へ1mm/sの流速で送液した時の流体シミュレーション結果である。前記スリットの幅が30μmである以外は、
図3と同じ条件である。また
図4Bは、前記捕捉構造体の領域を拡大した図であり、溶液が流れる方向を矢印で示している。これより、前記スリットを通過した溶液は、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間へ向かって、分岐して流出される。従って
図3の場合と異なり、分岐する領域において、前記死水域が形成される。ゆえに、前記スリットを有する構造体は、前記スリットの幅などのパラメータを調整することで、死水域を形成できる利点がある。
【0023】
次に全ての前記生体関連物質を捕捉する条件について説明する。まず前記捕捉構造体への前記生体関連物質の捕捉率(/1捕捉構造体)は、[α:(前記捕捉構造体へ流入する流量)/(全流量)]×[β:前記捕捉構造体における前記生体関連物質の捕捉率]で計算される。βは0〜1の範囲であるが、前記パラメータを調整することでβ=1(前記捕捉構造体に流入した前記生体関連物質が全て捕捉)になるとすると、捕捉率(/1捕捉構造体)はαで近似できる。もちろんαに安全係数を乗じてもよい。従って捕捉率(/1捕捉構造体)は、[(前記スリットの幅)×(前記スリットにおける平均流速)]/[(前記流路の幅)/(前記流路の平均流速)]で計算できる。
図3の例では、捕捉率(/1捕捉構造体)は、[(0.005mm)/(0.0004mm/s)]/[(1mm)/(1mm/s)]で0.000002と計算される。これは、100万個の前記生体関連物質のうち2個を前記捕捉構造体へ捕捉できる確率である。同様に
図3の5μmからスリット幅のみを30μmに変えた
図4の例では、捕捉率(/1捕捉構造体)は、[(0.03mm)/(0.0016mm/s)]/[(1mm)/(1mm/s)]で0.00005と約25倍となる。ゆえに、前記スリットを有する構造体は、前記捕捉構造体同士の間隔、前記スリットの幅、前記流路の幅、流速などのパラメータを調整することで、捕捉率(/1捕捉構造体)を調整できる利点がある。例えば
図4の流路の幅1mmを0.36mmに変えるだけで、捕捉率(/1捕捉構造体)は、0.001と大きくなる。但し
図2〜
図4に示すように、前記生体関連物質を含む溶液は、前記捕捉構造体に流入する直前に流れ方向が変わるが、前記生体関連物質には慣性力が働くため、急激には方向を変えることができず、前記捕捉構造体へ流入しやすくなる。従って実際の捕捉率(/1捕捉構造体)は、流量比の計算結果より高くなる。従って流速が速いほど、慣性力は強く働くため、実際の捕捉率(/1捕捉構造体)は高くなる。
【0024】
図5は、全ての細菌を捕捉する条件を計算するためのパラメータである。1個の捕捉構造体での捕捉率がわかれば、全ての前記生体関連物質を捕捉する条件を計算することができる。#Bacteriaは、前記捕捉構造体へ送液する前の細菌数であり、#Non-trapped Bacteriaは前記捕捉構造体へ送液した後の細菌数である。送液方向はFlow directionの矢印で示された方向である。Trap rateは、細菌が前記捕捉構造体へ捕捉される割合であり、[(#Bacteria)−(#Non-trapped Bacteria)]/(#Bacteria)で計算される。前記捕捉構造体は、半円の弧で簡略化して示しており、隣接する前記捕捉構造体の間隔を、Trap interval (x)とTrap interval (y)とした。ここでx方向は送液方向と平行な向きで、y方向はそれと垂直な向きとする。また#Trap Object (Column)は、y方向に並べられた捕捉構造体数であり、#Trap Object (Row)は、x方向に並べられた捕捉構造体数である。Channel lengthは送液方向(x方向)の捕捉構造体が形成された流路の長さであり、Trap interval (x)×#Trap Object (Row)で計算される。同様にChannel widthはy方向の捕捉構造体が形成された流路の長さであり、Trap interval (y)×#Trap Object (Column)で計算される。Trap rate (/width)は、y方向に配置された捕捉構造体1列を通過した時の捕捉率を示す。#Trapped bacteria (1st column)は、1列目の捕捉構造体において捕捉される細菌数であり、[Trap rate (/width)]×(#Bacteria)で計算される。#Trapped bacteria (1st column)は、通過する捕捉構造体の列が増えるにつれて小さくなる。Trap rate (/width)は、
図2〜
図4において、流路の幅がTrap interval (y)とした時の捕捉率(/1捕捉構造体)と等しい。なぜならば、Trap interval (y)あたりの捕捉構造体の捕捉率と、それを複数個並列に並べた場合の捕捉率は同じになるためである。
【0025】
図6は、Trap rate (/width)を0.0001から0.1まで振った時のTrap rateと#Trap object (Row)との関係である。Trap rate (/width)が0.01の時、95%捕捉するには300列、99%捕捉するには470列、99.9%捕捉するには700列の捕捉構造体を送液方向(x方向)に配置する必要がある。またTrap rate (/width)が0.001の時、95%捕捉するには3000列、99%捕捉するには4700列、99.9%捕捉するには7000列の捕捉構造体を送液方向(x方向)に配置する必要がある。
【0026】
図7は、Trap interval (x)を10から1000μmまで振った時の#Trap object (Row)とChannel length (mm)との関係である。Trap interval (x)が100μmの時、Trap rate (/width)が0.01で99.9%捕捉する700列の捕捉構造体を配置する場合には70mm、Trap rate (/width)が0.001で99.9%捕捉する7000列の捕捉構造体を配置する場合には700mmのChannel lengthが必要となる。一般的なマイクロチップが、ユーザーが扱いやすい大きさで、ハガキ程度の大きさ(100mm×150mm)が上限であると考えると、700mmのChannel lengthを実現させるためには、蛇行流路などで実現する必要がある。最大の#Trap object (Row)を見積もるためには、細菌を捕捉するための最小の捕捉構造体の大きさを求めて、最小のTrap interval (x)を求めておく。また蛇行流路などを含めたChannel lengthの最大値を求めておき、最小のTrap interval (x)で割り算をして算出できる。
【0027】
次に全ての細菌を単一で独立した位置に配置するための条件を説明する。#Trapped bacteria (1st column)が1以下であれば、全ての細菌を単一で独立した位置に配置できる。#Trapped bacteria (1st column)は、[Trap rate (/width)]×(#Bacteria)であることから、Trap rate (/width)を1/#Bacteria以下にすればよい。例えば、#Bacteriaが1000個であれば、Trap rate (/width)を0.001以下にすることで、全ての細菌を単一で独立した位置に配置できる。#Bacteriaがわからない場合には、#Trapped bacteria (1st column)が1より大きくなる可能性があるため、同一の捕捉構造体に複数の細菌が捕捉される場合がある。この場合、#Bacteriaを含む溶液を分割することで#Trapped bacteria (1st column)を小さくすることや、Trap rate (/width)が十分小さくなるように設計しておくことで、#Trapped bacteria (1st column)を1以下にできる可能性はある。下表は#Trapped bacteria (1st column)が10で、#Trap object (Column)が100の時に、各捕捉状態の確率を計算したものである。捕捉例の欄の半円は捕捉構造体を、黒丸(●)は捕捉された細菌を示す。
【0029】
図8は、#Trapped bacteria (1st column)を1から28まで振った時の#Trap object (Column)と少なくとも2個以上の細菌が同一の捕捉構造体に捕捉される確率との関係である。これより#Trapped bacteria (1st column)が10で、#Trap object (Column)が100の時に、0.37(37%)の確率で、少なくとも2個以上の細菌が同一の捕捉構造体に捕捉される。
【0030】
図9は#Trapped bacteria (1st column)を1から28まで振った時の#Trap object (Column)と2細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される確率との関係である。これより#Trapped bacteria (1st column)が10で、#Trap object (Column)が100の時に、0.75(75%)の確率で、2細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される。複数で捕捉される確率が0.37であることから、0.20(=0.37×0.75)の確率で2細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される。この場合、残りの8細菌は単一で捕捉構造体に捕捉される。
【0031】
図10は#Trapped bacteria (1st column)を1から28まで振った時の#Trap object (Column)と3細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される確率との関係である。これより#Trapped bacteria (1st column)が10で、#Trap object (Column)が100の時に、0.055(5.5%)の確率で、3細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される。複数で捕捉される確率が0.37であることから、0.02(=0.37×0.055)の確率で3細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される。この場合、残りの7細菌は単一で捕捉構造体に捕捉される。以上より、#Trapped bacteria (1st column)が10で、#Trap object (Column)が100の時に、2個以上の細菌が同一の捕捉構造体に捕捉される確率が0.37、そのうち2細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される確率が0.20、3細菌のみが同一の捕捉構造体に捕捉される確率が0.02であることから、4細菌以上が同一の捕捉構造体に捕捉される確率は、0.15[=0.37−(0.20+0.02)]となる。また#Trapped bacteria (1st column)が大きく、#Trap object (Column)の数が少ないほど、同一の捕捉構造体に複数の細菌が捕捉される確率は大きくなる。
【0033】
1.細菌を含む溶液の濃度を調製しなければならない。
マイクロチップの流路内に細菌を捕捉するための構造体を設けておき、細菌を含む溶液を流しながら捕捉する。細菌を含む溶液を必要な量だけ送液できるため、細菌を含む溶液の濃度を調製する必要が無く、非常に希薄な溶液でも使用できる。
【0034】
2.細菌が小さいほど狭い幅のスリットを作製しなければならない。
スリットで細菌を捕捉する原理ではないため、狭い幅のスリットを作製する必要はない。
【0035】
3.全ての細菌を捕捉できない。
1個あたりの捕捉構造体の捕捉率を計算することで、全ての細菌を捕捉する捕捉構造体数を算出できる。
【0036】
4.細菌をスリットで捕捉するため、外力が加わりストレスが発生する。
スリットで細菌を捕捉するのではなく、死水域で捕捉するため、外力は加わらない。
【0037】
5.1つの捕捉構造体に複数の細菌が捕捉される。
#Trapped bacteria (1st column)を1以下にすることで、1つの捕捉構造体に複数の細菌が捕捉されるのを回避できる。
【0038】
6.高速で送液したときに、細菌が溶解する可能性がある。
細菌を死水域で捕捉するため、流体からの外力は加わらない。
【0039】
また本発明は、スリットを有する構造体とスリットを有さない構造体が一対である構造体とすることで、以下3つの利点がある。
1.スリットを有する構造体は、スリットを通して、スリットを有さない構造体の流路下流側から流路上流側へ溶液を満たせるため、気泡が除去しやすい。
2.スリットを有する構造体は、スリットの幅などのパラメータを調整することで、死水域を形成できる。
3.スリットを有する構造体は、捕捉構造体同士の間隔、スリットの幅、流速などのパラメータを調整することで、捕捉率を変えることができる。捕捉率を大きくすることで、全ての生体関連物質を捕捉することができる。
図1に示したスリット2は1箇所であるが、非特許文献2のように、スリットを複数個設けてもよい。
【0040】
捕捉構造体への生体関連物質の捕捉率(/1捕捉構造体)は、[α:(捕捉構造体へ流入する流量)/(全流量)]×[β:捕捉構造体における生体関連物質の捕捉率]で計算され、αで近似できることを説明した。αが大きいほど必要な捕捉構造体数が少なくなるため、スリットの幅や流路の幅を変えることでαが0.001まで大きくできることを説明した。
【0041】
図11は、αを1にするための配置の一例を示す概略図である。全ての生体関連物質4を含む溶液は、捕捉構造体のスリットを通過するため、
図1の捕捉構造体同士の間隔を0にした形状とみなせる。
図11の上側にある図示しない注入口から図示しない生体関連物質4を含む溶液を注入し、流路3を通して送液され、
図11の下側にある図示しない排出口から排出される。この過程において、図示しない生体関連物質4を含む溶液は、スリット2aを通過して、スリット2bまたは2b′から流出する。この際に、ある確率で、生体関連物質4は死水域5で捕捉される。死水域5は、流れのない場所あるいは流れがあっても渦状の場所で流量の疎通に関係のない領域である。スリット2を通過した生体関連物質4は、拡散、慣性力、またはその運動性により、ある確率で死水域5に捕捉される。従って、フィルタのように、生体関連物質4より小さい大きさのスリット(孔)で捕捉するわけではない。また死水域に捕捉した生体関連物質4を回収することも可能である。これは、死水域に捕捉した生体関連物質4は、送液を停止すると、自身の拡散や運動性により死水域5の領域から逸脱する。次に逆方向へ送液する。つまり
図11の下側にある図示しない注入口から回収液を注入し、流路3を通してスリット2bまたは2b′を通過して、スリット2aから流出することで、
図11の上側にある図示しない排出口から生体関連物質4とともに回収液が排出される。
図11は上下対称の形状であるため、
図11の下側にある図示しない注入口から回収液を注入した場合、当初存在した死水域5は無くなり、代わりにスリット2bと2b′の図上側に死水域が形成される。従って逆方向へ送液した場合でも図示しない排出口へ到達する前に捕捉される可能性がある。その場合には、再び送液を停止することで、生体関連物質4の拡散や運動性により死水域の領域から逸脱させ、その後送液するという手順を繰り返すことで、最終的に生体関連物質4を回収できる。あるいは送液方向は変えずに、送液と送液停止のみを繰り返すことで、排出口から生体関連物質を回収することもできる。生体関連物質4を回収できれば、その核酸を抽出して、PCRなどの遺伝子解析などの解析を行うこともできる。
【0042】
図12は、本発明による分析装置(細菌分析装置)の一例を示す概略図であり、
図12(a)は平面模式図、
図12(b)はその正面模式図である。図のようにXYZ軸を設定して説明する。
【0043】
本実施例の分析装置は、複数の試薬容器11を保持する試薬ラック12を載置する試薬ラック台13、1個又は複数個のフローセル30を保持して移動可能なフローセルステージ31、先端から液体を吸引・吐出することのできるサンプリングノズル20、サンプリングノズル20を所望の3次元位置に駆動するノズル駆動機構、サンプリングノズル20を洗浄する洗浄槽68、試薬注入によってフローセル30内に捕捉された生体関連物質との反応や生体関連物質自体を分析するための検出ユニット40を備える。サンプリングノズル20による試薬の吸引・吐出、洗浄などは、図示しない送液システムによって実行される。送液システムについては、
図13を用いて詳述する。
【0044】
分析装置の各部は制御・演算部50の制御下にあり、制御・演算部50は、入力部51を介して制御・演算部50に設定されたプログラムに従って分析装置を制御して連続運転する。制御・演算部50のメモリには、分析の手順、試薬ラック12に配置されている複数の試薬容器11や洗浄槽68の座標位置、各試薬容器に入っている試薬の種類、フローセル30に試薬や洗浄液を注入する注入ポートの座標位置、検出ユニット40による検出結果の処理手順等の情報が格納されている。制御・演算部50は、メモリに格納された情報を参照しながら、分析プログラムに従って装置各部を制御し、分析を実行する。
【0045】
サンプリングノズル20は、一例として、先端部が外径1mm、内径0.5mm、長さ150mm程度の金属材料、例えばSUSでできた中空ノズルであり、後述する送液システムに接続されて、先端部に試薬ラック12に配置された所望の試薬容器11から所要量の試薬を吸引し、フローセル30等に吐出することができる。また、サンプリングノズル20は、液面検知に適した材質と構造を有する。液面検知は、例えば、金属製のサンプリングノズル20の先端が液面などの導電性領域に接触したときの静電容量変化から液面検知を行う既知の方式を用いて制御・演算部50に設けられた液面検知部53で実行される。液面検知部53から出力される液面検知信号は、その後の装置制御に利用される。
【0046】
ノズル駆動機構は、ガイドレール21、ガイドレール21に沿ってX軸方向に直線移動する直線移動ユニット22、直線移動ユニット22に設けられた回転軸23の回りに回動可能なアーム24を有する。アーム24の回転軸23と反対側の部分にサンプリングノズル20が固定されている。直線移動ユニット22は、例えば、ガイドレール21に設けられたラックと噛み合うピニオンを有し、ピニオンをステッピングモータによって回転駆動することによって、X軸方向の所望位置に移動することができる。また、回転軸23は、同様にステッピングモータによってXY平面内に回転すると共に、Z軸方向に上下動してサンプリングノズル20の先端を所望のZ軸方向位置に位置付けることができる。サンプリングノズル20は、ノズル駆動機構によるX軸方向の直線移動、回転軸23の回りの回転移動、Z軸方向の上下移動を組み合わせることにより、試薬ラック12に配置された任意の位置の試薬容器11、洗浄槽68、後述するフローセルの注入ポートにアクセスすることができる。
【0047】
検出ユニット40は、フローセルを照射する光源41、及び光源からの光照射によってフローセル30内に存在する生体関連物質から発生されたラマン光を分散させる回折格子、ミラー、フィルタ、スリット、共焦点検出用のホールなどの光学部品を通して、CCD等の撮像装置42で検出される。検出ユニット40は、光学系を選択することで、明視野、暗視野、位相差、微分干渉、蛍光、発光なども可能であり、ラマン観察に限定されるものではない。
【0048】
フローセル30は、フローセルステージ31によってXY軸方向に移動可能である。フローセル30は、サンプリングノズル20を介した試薬注入や洗浄等の操作を受ける際には、図示するように検出ユニット40の下方から外れた場所に位置し、検出ユニット40を用いた検出を行う際には、フローセルステージ31によって検出ユニット40の下方位置に移動される。入力部51から入力された入力情報、検出ユニット40による撮像画像などの分析過程の情報、現在の装置状態や装置パラメータなどの情報、分析の全工程中での終了済み工程に関する情報、分析結果などの情報は表示部52に表示される。
【0049】
また一般的な生物顕微鏡の配置のように、検出ユニット40をフローセル30の下側に配置することも可能である。この配置では、フローセル30の上側からサンプリングノズル20から試薬を吐出しながら、検出ユニット40で検出することが可能である。同様にフローセル30は、
図12の水平配置だけではなく、傾斜配置や垂直配置も可能である。例えばフローセル30を垂直配置して、送液しながら垂直に配置された検出ユニット40で検出することもできる。垂直配置されたフローセル30の下側から上側へ送液することで、フローセル30内の気泡を除去しやすくなる。また細菌の比重が試薬の比重より軽い場合には浮力を、重い場合には重力を利用して捕捉させることもできる。
【0050】
図13は、本実施例の分析装置に組み込まれている送液システムの一例を示す概略図である。サンプリングノズル20先端からの試薬の吸引・吐出、及びサンプリングノズル20の洗浄が、この送液システムによって行われる。本実施例の送液システムは、サンプリングノズル20の先端から試薬を秤量して吸引・吐出するためのマイクロシリンジ60と、洗浄液をサンプリングノズル20及び洗浄槽68にそれぞれ供給する第1流路62及び第2流路63を有する。本実施例では、洗浄液タンク64に貯留された洗浄液は、連続運転されているポンプ65によって吸い上げられ、洗浄液循環流路66を通して再び洗浄液タンク64に戻される。すなわち、洗浄液はポンプ65によって洗浄液循環流路66を矢印方向に常時循環されている。第1電磁弁71を介して一端が洗浄液循環流路66と接続された第1流路62は、他端が、マイクロシリンジ60を介してサンプリングノズル20の内部に連通している。同様に第2電磁弁72を介して一端が洗浄液循環流路66と接続された第2流路63は、他端が、洗浄槽68の側壁に開口している。洗浄液としては、例えば純水が使用される。
【0051】
ノズル駆動機構によってサンプリングノズル20の先端部を洗浄槽68内に移動させ、その状態で、第1電磁弁71のみを開状態にすると、ポンプ65から圧送された洗浄液がサンプリングノズル20を通して洗浄槽68内に噴出され、それによってサンプリングノズル20の内側を洗浄することができる。洗浄中、マイクロシリンジ60のプランジャ61は動かしても、動かさなくても良い。また、第2電磁弁72のみを開状態にすると、洗浄槽68の内壁から洗浄液が噴出し、それによってサンプリングノズル20の外側を洗浄することができる。更に、第1電磁弁71及び第2電磁弁72を同時に開状態にすると、洗浄槽68内でサンプリングノズル20の内側と外側を同時に洗浄することができる。第1電磁弁71及び第2電磁弁72の開閉制御は、制御・演算部50によって行われる。
【0052】
第1流路62を介してサンプリングノズル20へ供給する洗浄液と第2流路63を介して洗浄槽68へ供給する洗浄液の割合は、第2流路63の洗浄槽68に近い箇所に設けられた流量調節絞り67により設定される。サンプリングノズル20を洗浄した洗浄液は廃液タンク69に貯留される。図示しない廃液排出ポンプを用いて、洗浄槽68に貯留された洗浄液を廃液タンク69に貯留することができる。洗浄槽68を封止して第2電磁弁72を開放して、廃液排出ポンプで引くことで、洗浄液タンク64から洗浄液を送液することもできる。また洗浄液タンク64を空にして同様の操作を行い、更に第1電磁弁71を開放することで、第1流路62、第2流路63、洗浄液循環流路66の液体を除くこともできる。またポンプ65、第2電磁弁72、配管が正しく接続されていない場合には、洗浄槽68から洗浄液が出ないため、サンプリングノズル20を洗浄できない。この場合、ノズルの液面検知機能が働かないため、故障を検知することができる。また、洗浄動作を行うことで洗浄液タンク64内の洗浄液は消費される。洗浄液タンク64には液面センサが設置され、洗浄液タンク64内の洗浄液が少なくなったときは、別途設置した図示しない洗浄液補充タンクから洗浄液タンク64に洗浄液が補充される。このように、本実施例の送液システムによると、ポンプによって短時間に多量の洗浄液をサンプリングノズルの内側や外側、あるいは内側と外側の両方に供給することができ、使用後にサンプリングノズルに付着している試薬を短時間で十分に洗浄することができる。従って、試薬のコンタミネーションを回避して分析精度を向上することができる。また、洗浄時間を短縮して分析のスループットを向上することができる。
【0053】
試薬ラック12には温度センサとペルチェ素子等の温度調節ユニットが設けられ、試薬容器11に保持された試薬を一定温度に維持している。例えば、試薬ラックの第1領域12aに保持されている試薬群は室温に維持され、第2領域12bに保持されている試薬群は4℃に維持されている。試薬ラック12の温度制御も、制御・演算部50から行うことができる。また、試薬の種類によっては、使用直前に複数の試薬を混合してからフローセルに供給することが望ましいものがある。そのため、試薬ラック12には、混合試薬の調製に使用するための予混合容器14が設けられている。混合試薬の使用に当たっては、別々の試薬容器11からサンプリングノズル20によって吸引したそれぞれの試薬を一旦、予混合容器14内に吐出し、予混合容器14内で混合して調製された混合試薬を再びサンプリングノズル20で吸引してフローセル30に供給する。
【0054】
図14は、フローセルの一例を示す概略図である。
図14(a)はフローセルの斜視図、
図14(b)は
図14(a)のX−X′断面図である。この例のフローセルは、注入ポート32と排出ポート33、及び液が流れる流路34を有する。上部基板36と下部基板37との間に流路34が形成されており、フローセル30は、
図1に示す捕捉構造体1が生体関連物質4を捕捉するように設計されている。流路34は、細菌分析のための試薬や洗浄液が供給される流路として機能するとともに、反応が起こる反応チャンバとしても機能する。例えばフローセル30に捕捉した細菌に対して、グラム染色反応を行うことにより、グラム陽性菌であれば紫色に、グラム陰性菌であればピンク色に染色されるのを検出ユニット40で観察できる。また、流路34のための空間を確保するために、上部基板36と下部基板37の間にはスペーサ38が配置されている。スペーサ38は、上部基板36または下部基板37と一体であることで、
図1または
図11の捕捉構造体を有するフローセル30を作製することができる。試薬は、注入ポート32より注入されて、排出ポート33より排出される。一例として、スペーサの厚さは50〜100μm、流路の幅は1〜30mm、流路の長さは75〜100mmとすることができるが、これらの数値に限定されるものではない。検出ユニット40に対向する側の上部基板36は、励起光及び蛍光を透過することのできるガラス、石英、サファイア、PDMS、あるいはアクリル樹脂やシクロオレフィンポリマー等の樹脂からなる。
図14には、流路が3つ形成されたフローセル30の例を示すが、流路の数は3つに限定されない。流路の数が多い場合、一度に多数の反応を行うことができ、高スループットの分析が可能である。ラマン分析中、フローセル30は、フローセルステージ31が備える温度制御ユニットによって所定の温度に制御される。
【0055】
次に、分析装置の試薬ラック台13に試薬ラック12を設置し、フローセルステージ31にフローセル30を設置した状態から、試薬をフローセルに供給して分析を行う手順について説明する。
【0056】
(1)サンプリングノズル洗浄
まず、サンプリングノズル20の洗浄を行う。このときの制御・演算部50による制御の手順を
図15に示す。制御・演算部50は、最初にノズル駆動機構を制御して、サンプリングノズル20を洗浄槽68に移動する(S11)。次に、制御・演算部50は、ポンプ65によって洗浄液が循環している洗浄液循環流路66に接続されている第1電磁弁71を制御して開状態にする(S12)。マイクロシリンジ60のプランジャ61は、洗浄中であれば動かしても動かさなくてもよい。この状態では、ポンプ65から圧送された洗浄液が、第1電磁弁71、第1流路62を通ってマイクロシリンジ60に入り、そのままサンプリングノズル20を通ってノズル先端から洗浄槽68内に噴出される。この状態で、ノズル内側の洗浄が行われる。洗浄液としては純水を使用した。
【0057】
次に、制御・演算部50は、洗浄液循環流路66に接続している第2電磁弁72を制御して開状態にする(S13)。すると、ポンプ65から圧送された洗浄液が、第2電磁弁72、第2流路63を通って洗浄槽68の内壁から洗浄槽内に噴出し、洗浄槽68内に位置しているサンプリングノズル20の外側が洗浄される。こうして、
図5に示すように、サンプリングノズル20の内側と外側の洗浄が行われる。洗浄が終了したら、制御・演算部50は、第1電磁弁71及び第2電磁弁72を閉じる(S14)。
【0058】
なお、最初に第1電磁弁71を開いて、次に第2電磁弁72を開く代わりに、第1電磁弁71と第2電磁弁72を同時に開いてもよい。この場合には、サンプリングノズルの内側と外側の洗浄が同時に行われることになる。また、洗浄の順序を、最初にノズルの外側とし、次にノズルの内側としてもよい。
【0059】
いずれの場合でも、サンプリングノズル内側の洗浄が終了し、第1電磁弁71を閉じた時点で、洗浄液循環流路66に接続されている第1流路62から、マイクロシリンジ60、及びサンプリングノズル20の先端までが、洗浄液で満たされた状態になる。
【0060】
本実施例の洗浄方法は、短時間に多量の洗浄液をサンプリングノズルの内側や外側、あるいは内側と外側の両方に供給することができ、洗浄時間を短縮して分析のスループットを向上することができる。
【0061】
(2)フローセル洗浄
次に、フローセル30の内部を洗浄する。このときの制御・演算部50による制御の手順を
図16のフローチャートに示す。
【0062】
制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御して、サンプリングノズル20をフローセル30の注入ポート32の上方位置に移動させる(S21)。次に、サンプリングノズルを下降させ、ノズル先端を注入ポートに挿入させる(S22)。次に、制御・演算部は、第1電磁弁71を開く(S23)。このとき、マイクロシリンジ60のプランジャ61は固定しておいてもよいし、動かしてもよい。すると、ポンプ65から圧送された洗浄液が、第1電磁弁71、第1流路62を通ってマイクロシリンジ60に入り、更にサンプリングノズル20の先端から注入ポート32を通ってフローセル30の流路34に流れ込み、フローセルの洗浄が行われる。フローセルの流路を洗浄した洗浄液は、廃液タンク69に溜められる。予め設定された時間の間、第1電磁弁71を開いてフローセルの洗浄が終了したら、制御・演算部50は、第1電磁弁71を閉じる(S24)。その後、制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズル20を上昇させ、注入ポート32から離す(S25)。このとき、制御・演算部50は、第1電磁弁71を閉じて直ちにノズル駆動機構にサンプリングノズルの上昇を指令するのではなく、フローセル内における洗浄液の圧力が安定するまでの時間として予め定められた時間だけ待ってからサンプリングノズルの上昇を指令する。これについては、フローセルへの試薬注入の個所で更に詳述する。
【0063】
(3)試薬容器からの試薬吸引
図17のフローチャートを参照して、試薬ラック12中の所定位置の試薬容器11からサンプリングノズル20によって試薬を吸引する手順について説明する。ここで試薬は、細菌を含む溶液として説明する。
【0064】
制御・演算部50は、予めプログラムされている手順に従って、吸引すべき試薬の種類及び吸引量を決定し、次に、メモリに格納されている試薬容器の位置と試薬の種類との対応関係の情報を参照してサンプリングノズルの移動位置を決定する。次に、制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御して、サンプリングノズル20を目的の試薬が入っている試薬容器の上方位置に移動させる(S31)。続いて、サンプリングノズルを下降させてノズル先端を試薬容器内に挿入していく(S32)。このとき、液面検知部53による液面検知機能を利用して試薬容器内の試薬液面を検知する。試薬液面を検知したら、そこから更に一定距離だけサンプリングノズルを下降させ、ノズル先端が所定深さだけ試薬溶液内に挿入した状態で、サンプリングノズルを停止させる(S33)。次に、制御・演算部50は、マイクロシリンジ60のプランジャ61を吸引側に所定量だけ駆動し、サンプリングノズル20に充填されている洗浄液の先に、決められた量の試薬を吸引して保持する(S34)。
【0065】
次に、制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズルを上方に駆動してノズル先端を試薬容器から出し、更にサンプリングノズルを洗浄槽68に移動させる(S35)。その後、制御・演算部50は、第2電磁弁72を開く。すると、洗浄槽68の内壁面から洗浄液が噴出し、サンプリングノズル20の外側に付着した試薬を洗い流す(S36)。サンプリングノズルに吸引した試薬は、洗浄されずにそのままノズル内に保持される。サンプリングノズル外側の洗浄が終わると、制御・演算部50は、第2電磁弁72を閉じ、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズル20を上方に移動させる。
【0066】
液面検知機能を利用してサンプリングノズル20の先端は試薬中に必要最小限の深さだけ挿入されているため、サンプリングノズル20の外側に付着し、洗浄槽68で洗い流される試薬の量を常に最小限度に抑制することができる。また、試薬の液面検知を行うことの別の利点として、試薬容器の形状と液面高さの情報から試薬残量を知ることができる。これにより解析できる残り塩基数を計算したり、ユーザーに試薬交換の時期を知らせたりすることが可能になる。
【0067】
(4)フローセルへの試薬注入
図18のフローチャートを参照して、サンプリングノズル20の先端に吸引・保持している試薬をフローセル30に注入する手順について説明する。
【0068】
最初に、制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズル20をフローセル30の注入ポート32の上方位置に移動させる。次に、サンプリングノズル20を下降させ、ノズル先端を注入ポート32に挿入させる(S41)。続いて、制御・演算部50は、マイクロシリンジ60のプランジャ61を吐出方向に駆動し、サンプリングノズル20に充填されている洗浄液の先に吸引した試薬を、注入ポート32を通してフローセル30に注入する(S42)。フローセル30には
図1に示す捕捉構造体1が多数並べられており、試薬に含まれる細菌は送液されることにより、捕捉構造体で捕捉される。制御・演算部50は、プランジャ61の駆動が完了した後、フローセル30内の圧力が安定するまで待って(S43)、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズルを上方に引き上げる(S44)。
【0069】
図19は、注入ポートへのサンプリングノズルの挿入・離脱、及びマイクロシリンジのプランジャの駆動のタイミングと、フローセル内の圧力変化の関係を示す模式図である。横軸は時間である。
図19は、サンプリングノズル20が時刻t0にフローセルの注入ポート32に挿入され、時刻t4に注入ポート32から上方に引き上げられることを示している。また、マイクロシリンジ60のプランジャ61は時刻t1〜t2に亘って、試薬吐出のために駆動されている。
【0070】
試薬は、マイクロシリンジ60のプランジャ61を駆動してコンダクタンスの小さなフローセルの流路に加圧注入されている。そのため、プランジャ61の駆動停止直後(時刻t2)にはフローセル30内の圧力が高く、サンプリングノズル20をすぐに注入ポート32から引き離すと、試薬が逆流して注入ポート32からあふれ出すことがある。本実施例では、試薬注入動作終了時刻t2から、フローセル30内の圧力が安定するまでの時間待った後、サンプリングノズル20を注入ポート32から離して上方に引き上げる。すなわち、サンプリングノズル20を注入ポート32から引き上げる時刻t4を、t4>t3に設定する。フローセル内の圧力が安定するまでの待ち時間(t3−t2)は、注入する試薬の粘性、注入速度、フローセルの流路抵抗などに依存して決まるが、典型的には0.5秒から1秒程度待てばよい。
【0071】
フローセルへの試薬注入後、制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズル20を洗浄槽68に移動する。そして、「(1)サンプリングノズル洗浄」に示した手順にてサンプリングノズルの内側及び外側を洗浄し、次の動作に備える。
【0072】
なお、本実施例に示した試薬吸引及び試薬注入の手順に従うと、サンプリングプローブからフローセルに注入すべき試薬の量は、フローセルの容積に、フローセルの注入ポート32の個所で生じるデッドスペース分の容積を余分に付加した量で十分である。デッドスペースの容積は、5μL以下と見積もられる。従って、フローセル30に注入すべき試薬の量、すなわち試薬容器11からサンプリングノズル20に吸引すべき試薬の量は、少なくともフローセルの容積分が必要ではあるが、フローセルの容積分にせいぜい5μLから10μL程度を付加した量で十分である。従って、本実施例によると、フローセルに注入するために試薬容器から吸引する試薬量が少なく、サンプリングノズル20の外側に付着して洗い流される試薬量が少ない。つまり、使用試薬の量が少なく、試薬の無駄も少ない。こうして、本実施例によると、高価な試薬を有効に活用することが可能になる。
【0073】
更に、本実施例ではサンプリングノズルで試薬吸引とフローセルへの送液を実現しており、チューブと切り替えバルブを用いた方式に比べて送液時間を短縮することが可能である。また試薬キャリーオーバが非常に少なく、より純粋な試薬をフローセルに供給できる。
【0074】
(5)検出
次に、検出の手順について、
図20のフローチャートを参照して説明する。
【0075】
フローセル内に試薬を注入して細菌を捕捉した後、フローセル30の温度を最適温度に制御する(S51)。必要に応じて、制御・演算部50は、上記「(2)フローセル洗浄」に説明した処理、又は試薬ラック12に置かれた洗浄液(試薬)に対して「(3)試薬容器からの試薬吸引と(4)フローセルへの試薬注入」に説明した処理を実行し、セル内を洗浄することができる(S52)。次に、制御・演算部50は、フローセルステージ31を駆動制御し、フローセル30を検出ユニット40の下方位置に移動させる(S53)。
【0076】
細胞や細菌などの透明な生体関連物質を確認する場合、一般的に位相差顕微鏡が用いられる。位相差顕微鏡で細菌を観察した場合、細菌の周りにハローと呼ばれる比較的強い光が発生する。細菌の大きさは数ミクロンと小さいが、ハローの大きさは顕微鏡の焦点から外れているほど大きく、数十ミクロンある場合もある。従って細菌の捕捉されている捕捉構造体を見つけるために、ハローを見つけることで、ハロー中心に細菌が存在し、更にハローの大きさで顕微鏡の焦点からのずれがわかるため、それを補正できる。次に、制御・演算部50は、検出ユニット40から光照射し、フローセル30内の細菌から発せられるラマン光を検出する(S54)。ラマン光を分析することにより、原子・分子の振動や回転運動に関する知見を得ることができるため、細菌種のグラム判定、菌種同定、菌株判定に応用できる。また一例として、グラム判定試薬や薬剤感受性試験用の試薬を、フローセル中に捕捉された細菌へ送液することで、細菌のグラム判定や薬剤感受性判定が可能である。
【0077】
(6)回収
次に、分析した細菌の回収手順について、
図21のフローチャートを参照して説明する。
【0078】
細菌の回収は、フローセル内での(5)の検出が終了した段階で実行する。制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズル20を反応が終了したフローセル30の注入ポート32に挿入する(S91)。次に、マイクロシリンジ60のプランジャ61を吸引側に駆動し、フローセル30内の細菌を吸引する(S92)。またはフローセルの排出側に図示しないポンプを用いて、サンプリングノズル20の方向へ送液しながら、マイクロシリンジ60のプランジャ61を同じ送液スピードで吸引してもよい。次に、制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズル20を試薬ラック12に用意されている回収試薬用の容器に移動させ(S93)、その容器内に吸引した細菌を吐出して回収する(S94)。当然ながら、回収細菌用の容器は、サンプルごとに別々に用意する。あるいは送液方向は変えずに、送液と送液停止のみを繰り返すことで、排出口から生体関連物質を回収することもできる。細菌の回収が終わったら、制御・演算部50は、ノズル駆動機構を制御してサンプリングノズル20を洗浄槽68に移動し、サンプリングノズル20の内側及び外側の洗浄を行い、次の動作に備える。回収試薬用の容器に回収した試薬は、通常の試薬容器の試薬と同様に使用することができる。回収した細菌は、一例として、核酸を抽出してPCRなどの核酸増幅法により細菌同定を行うなどの分析に利用することができる。
【0079】
上記実施例の送液システムは、ポンプ65を備える洗浄液循環流路66を有し、洗浄液は洗浄液循環流路66から電磁弁71、72を介して第1流路62あるいは第2流路63に供給する構成をとったが、洗浄液循環流路は必ずしも必須ではない。
【0080】
以上、本発明を細菌分析に適用した実施例について説明した。しかし、本発明の適用は細菌分析だけに限られるものではなく、細胞または細菌などの生体関連物質を含む溶液をデバイスへ送液して、それらを単一かつ独立した位置に配置して、分析する方法一般に適用できる。生体関連物質とは、小分子、タンパク質、抗原抗体、ホルモン、細菌、細胞などの物質、またはそれらと微粒子などの人工物との結合物を指す。生体関連物質を捕捉したデバイスさえあれば、そのデバイスを手で持ち運んでラマン顕微鏡などに設置して分析できるほか、本発明で開示したような送液システムを用いて自動で解析することもできる。
【0081】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0082】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部や全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0083】
以下に様々な変形例について、その一例を説明する。まず
図6と比較して、より少ない列の捕捉構造体数で同じ捕捉率を達成する方法について開示する。
図6では、Trap rate (/width)が0.001の時、95%捕捉するには3000列、99%捕捉するには4700列、99.9%捕捉するには7000列の捕捉構造体を送液方向(x方向)に配置する必要があるとした。各列での捕捉率が等しいため、Trap rateは1-[1-{Traprate(/width)}]
#Trap(x)(/Channellength)で計算している。この場合、捕捉構造体へ送液される前の細菌数である#Bacteriaが1000個、Trap rate (/width)が0.001とすると、1列目の捕捉構造体で捕捉される細菌数#Trapped bacteria (1st column)は1個(=1000×{1−(1−0.001)^1})、2列目の捕捉構造体で捕捉される細菌数#Trapped bacteria (2nd column)は0.999個[=1000×{1−(1−0.001)^2}]、3列目の捕捉構造体で捕捉される細菌数#Trapped bacteria (3rd column)は0.998001個[=1000×{1−(1−0.001)^3}]と減っていく。計算を続けていくと、捕捉される細菌数#Trapped bacteriaは、100列目で0.90569個、250列目で0.779個、500列目で0.60698個、1000列目で0.36806個、2000列目で0.135335個、3000列目で0.049762個、4000列目で0.018297個、5000列目で0.00672個、6000列目で0.002473個、7000列目で0.0009個と減っていく。ゆえに1000列ごとに捕捉される細菌数は、1〜1000列で632個、1000〜2000列で233個、2000〜3000列で85個、3000〜4000列で11個、5000〜6000列で4個、6000〜7000列で2個と少なくなっていく。7000列より少ない列の捕捉構造体数で同じ捕捉率(99.9%)を達成できれば、検出領域が狭くなるため、検出時間が短縮する。そのためには各列で同じ数の細菌を捕捉すればよく、これは各列での捕捉率を変えることによって達成される。各列で捕捉する細菌数は、
図7に説明した通り、複数の細菌が同じ捕捉構造体に捕捉されない1個以下の個数であることが望ましい。従って以下各列で1個の細菌を捕捉する場合について説明する。捕捉構造体へ送液される前の細菌数である#Bacteriaが1000個、Trap rate (/width)が0.001とすると、1列目の捕捉構造体で捕捉される細菌数#Trapped bacteria (1st column)は1個(=1000×{1−(1−0.001)^1})、2列目の捕捉構造体で捕捉される細菌数#Trapped bacteria (2nd column)は0.999個[=1000×{1−(1−0.001)^2}]と減っていく。2列目の捕捉構造体で捕捉される細菌数#Trapped bacteria (2nd column)を1列目同様に1個にするためには、2列目のTrap rate (/width)を0.001から0.001001001[=1/(1000−(2−1))]に上げればよい。同様に3列目は0.001002004[=1/(1000−(3−1))]、100列目は0.001109878[=1/(1000−(100−1))]、250列目は0.001331558[=1/(1000−(250−1))]、500列目は0.001996008[=1/(1000−(500−1))]、750列目は0.0038984064[=1/(1000−(750−1))]、900列目は0.00990099[=1/(1000−(900−1))]、990列目は0.0909090[=1/(1000−(990−1))]、999列目は0.5[=1/(1000−(999−1))]、1000列目は1[=1/(1000−(1000−1))]とすればよい。99.9%の捕捉率でいい場合には、1000列目のTrap rate (/width)が1の捕捉構造体は不要となる。捕捉構造体へ送液される前の細菌数である#Bacteriaが1000個で、各列で1個の細菌を捕捉するため、1000列あれば全ての細菌を捕捉できる。これはTrap rate (/width)が全ての列で0.001である場合(7000列で99.9%の捕捉率)と比較して、1/7の列数である。従って
図7に示すChannel lengthも1/7で済むほか、検出時間も短縮できる。以上が
図6と比較してより少ない列の捕捉構造体数で同じ捕捉率を達成する原理である。ここでTrap rate (/width)が変えられることは、
図2〜
図4で説明した通りであり、前記スリットの幅、前記流路の幅、流速などのパラメータを流体シミュレーション等により調整することで達成できる。その一例を
図22に示す。
図22は、流路3の下流側になるほど捕捉構造体1を大きくすることで、捕捉構造体同志の間を抜ける液量を下げることにより、Trap rate (/width)を大きくしている。最終的にTrap rate (/width)を1にする場合、
図11に開示した構造体のように捕捉構造体同志の間を抜ける流量を0とすることも可能である。各列での捕捉構造体数を変えずに配置できるため、構造体中心の間隔を等しくできる。但しTrap rate (/width)が1の場合は、全ての細菌を捕捉できるため、この限りではない。捕捉構造体を大きくする場合、
図22は全ての捕捉構造体1の寸法を拡大しているが、捕捉構造体1の厚さなどある特定の寸法のみを変えてもよい。
図23は、流路3の下流側になるほどスリット2の幅を大きくすることで、Trap rate (/width)を大きくしている。各列での捕捉構造体数を変えずに配置できるため、構造体中心の間隔と外形を等しくできる。スリット2の幅に制約はないが、1〜50μmとすることが好ましい。最終的にTrap rate (/width)を1にしたい場合、スリット2幅を大きくするだけでは限界がある。その場合には、
図11に開示した構造体のように捕捉構造体同志の間を抜ける流量を0とする構造体と組み合わせることで実現できる。
図24は、流路3の下流側になるほど捕捉構造体1の数を増やすことで、Trap rate (/width)を大きくしている。最終的にTrap rate (/width)を1にする場合、
図11に開示した構造体のように捕捉構造体同志の間を抜ける流量を0とすることも可能である。この場合、捕捉構造体1の外形は等しくできるが、各列での捕捉構造体数と構造体中心の間隔が変わる。
図22〜
図24の構成の一部を他の構成に置き換えること、またある構成に他の構成を加えること、またある構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能であることは言うまでもない。
【0084】
次に
図25は、生体関連物質4の大きさがスリット2の幅より小さいが、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間より大きい場合について記載した。この条件が成立する場合、生体関連物質4はスリット2を通過できるが、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間は通過できない。従って生体関連物質4は捕捉構造体1に確実に捕捉される。一旦生体関連物質4が捕捉構造体1に捕捉されると、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間が部分的に塞がれるため、Trap rate (/width)は生体関連物質4を捕捉する前と比較して小さくなる。従って複数の生体関連物質4が同一の捕捉構造体1に捕捉される確率が小さくなる。ゆえに多くの捕捉構造体1で単一の生体関連物質4を捕捉できる。本方法は生体関連物質4の短軸が好ましくは5μm以上ある場合に有効と考えられるため、細胞一般に適用可能である。特に血球細胞と比較して変形が小さいCTC(Circulating Tumor Cell)などの血液中のがん細胞や、幹細胞(iPS、ES細胞)などに適用することができる。更には捕捉されると捕捉率が大きく低下する。一方
図1では、生体関連物質4の大きさがスリット2の幅より小さく、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間より小さいため、生体関連物質4は全てではなく、ある確率で死水域5に捕捉される。
【0085】
また
図26は、死水域5の領域を広げるために、スリットを有さない構造体1bにくぼみを設けたものである。これによりスリットを通過した生体関連物質の捕捉率を向上できる。
【0086】
また
図27は、捕捉構造体の変形例である。
図27(a)は、スリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの頂点の一部を滑らかにするために、丸みをつけたものである。丸みをつけることで、流体流れの剥離を無くするなどの効果がある。流体シミュレーションなどを活用して、流れを安定させる形状を実現できるため、
図27(a)のスリット部も流線形にすることも可能である。
図27(b)は、スリットを有する構造体1aが三角形の一部から構成されている捕捉構造体である。このようにスリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの形状は、円弧、楕円弧、三角形の一部から構成することができる。また必要に応じて双曲線など他の形状を取り入れてもよい。
図27(c)は、スリットを有する構造体1aに半円形状を2つ加えた構造体とすることで生体関連物質4を回収できるようにしたものである。半円形状を加えることで、スリットを有さない構造体1bからスリットを有する構造体1aの方向に送液した時に、死水域5からスリットを有する構造体1aの方向に送液できるため、生体関連物質4を回収できる。一方半円形状が無い場合には、死水域5からスリットを有する構造体1aの方向に送液できないため、生体関連物質4の回収は困難となる。
図27(d)は、スリットを有する構造体1aが2つのスリットを持つ場合である。この場合も死水域5に生体関連物質4を捕捉することができる。スリット2の位置はスリットを有する構造体1aに対して線対称な位置であるが、
図27(e)に示すように線対称ではない位置に配置することもできる。これはスリットを有する構造体1aとスリットを有さない構造体1bの2箇所の隙間の流量が異なる場合などに有効である。