特許第5965743号(P5965743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5965743ICP装置及び分光分析装置並びに質量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965743
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】ICP装置及び分光分析装置並びに質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/73 20060101AFI20160728BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   G01N21/73
   G01N27/62 G
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-144604(P2012-144604)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-9961(P2014-9961A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】松澤 修
(72)【発明者】
【氏名】赤松 憲一
(72)【発明者】
【氏名】中野 信男
(72)【発明者】
【氏名】一宮 豊
(72)【発明者】
【氏名】田邉 英規
(72)【発明者】
【氏名】夏井 克巳
【審査官】 奥田 雄介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05642190(US,A)
【文献】 特開2003−194723(JP,A)
【文献】 特開平05−135896(JP,A)
【文献】 実開昭58−004062(JP,U)
【文献】 特開平11−111491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICP装置において、
試料を導入する試料導入部と、
キャリヤーガス用のインナーチューブ、補助ガス用のミドルチューブ及びプラズマガス用のアウターチューブからなる同心の三重管構造であり、一端部にこれらのガス導入部を備えた端部が開口状態になっているプラズマトーチと、
前記プラズマトーチとは分離しており、生成したプラズマ炎の先端部まで十分に取り囲む高さを有し、所定の距離だけ離間して前記プラズマトーチに外嵌するように配置した円筒形状のボンネットと、
前記プラズマ炎が生成する前記プラズマトーチ開口端隣部のプラズマ生成領域を取り囲むように前記ボンネットに外嵌して配置した誘導コイルと、
前記キャリヤーガス、前記補助ガス及び前記プラズマガスを制御するガス制御部と、
前記ボンネットの内面と前記アウターチューブの外面とで形成する間隙部に前記プラズマガスの流路修正用の修正ガスを導入する修正ガス導入機構と、を備えることを特徴とするICP装置。
【請求項2】
前記ボンネットが、それを支持固定するベース部に支持される開口端部の円周上の一部にその円筒の内外部を連通するスリットを備え、
前記ベース部が、前記ボンネットの固定側の円筒端部が接する線上の一部に配置時の基準となる前記スリットと勘合可能な凸部を備えた、請求項に記載のICP装置。
【請求項3】
前記修正ガス導入機構が、前記修正ガスを噴き出すキャピラリを備え、
当該キャピラリの噴き出し側端部を前記ボンネットの固定側端部の前記間隙部に向くように配置した請求項に記載のICP装置。
【請求項4】
前記キャピラリの噴き出し側端部が、前記ボンネットの固定側の端部側面から前記スリットに向けられたものである請求項3に記載のICP装置。
【請求項5】
前記修正ガス導入機構が、前記修正ガス用の流路を備え、
当該流路が前記プラズマトーチのガス導入部側の前記間隙部の一部又は全部に沿って配置され、当該間隙部に沿った部分の一部又は全部が開口している請求項1に記載のICP装置。
【請求項6】
前記キャピラリが、前記プラズマガスの増減に連動して前記修正ガスが増減するように、前記修正ガスを導入する側の端部を、前記ガス制御部の前記アウターチューブに接続するガス流路の途中から分岐するガス流路に接続した請求項3または4に記載のICP装置。
【請求項7】
前記流路が、前記プラズマガスの増減に連動して前記修正ガスが増減するように、前記修正ガスを導入する側の端部を、前記ガス制御部の前記アウターチューブに接続するガス流路の途中から分岐するガス流路に接続した請求項5に記載のICP装置。
【請求項8】
前記キャピラリが、前記プラズマガスとは異なるガス制御部を備え、前記修正ガスを前記プラズマガスとは異なるガスとした請求項3または4に記載のICP装置。
【請求項9】
前記流路が、前記プラズマガスとは異なるガス制御部を備え、前記修正ガスを前記プラズマガスとは異なるガスとした請求項5に記載のICP装置。
【請求項10】
前記ボンネットが、前記ベース部への固定側と反対側の端部またはその近傍に測光用のスリット又は穴を、一つ又は複数備えるものである請求項乃至4、6および8のいずれかに記載のICP装置。
【請求項11】
前記修正ガス導入機構が、前記修正ガスを噴き出すキャピラリを備え、
当該キャピラリの噴き出し側端部を前記ボンネットの固定側端部の前記間隙部に向くように配置した請求項1に記載のICP装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載のICP装置を備えた分光分析装置。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかに記載のICP装置を備えた質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に励起源あるいはイオン源として用いられる誘導結合プラズマ(以下、ICPと称する)装置に関し、特にプラズマガスの使用量を大幅に低減したICP装置に係る。
【背景技術】
【0002】
ICP装置は、発光分光分析の励起源あるいはプラズマ中に発生したイオンを対象とした質量分析装置のイオン源として用いられる。このICP装置は、従来、石英ガラスあるいはセラミックス製の多重管構造よりなるプラズマトーチを備えている。
【0003】
図7は、ICP発光分光分析(ICP−OES)装置を示し、従来のICP装置の用途の一例を示す。プラズマトーチ32は、同心の三重管構造であり、中央が試料導入管321(試料をキャリヤーガスと共にプラズマ内に導入する)と、その試料導入管の外周に備わる補助ガス管322(プラズマを補助ガス管端部より浮かせる)と、その補助ガス管の外周に備わるプラズマガス管323とから構成される。また、試料導入管321の上部でプラズマガス管323で囲まれた領域は、プラズマを生成させるプラズマ室と呼ばれる部分となる。また誘導コイル312とプラズマ用ガス管323の間にボンネット30が介在される。このボンネット30は、誘導コイル312とプラズマガスの間で起こる放電を防止するために用いるものである。従って、通常ボンネットは、誘導コイル312がプラズマトーチを巻回する領域に介在するように備えるものである。
【0004】
一方、ICP装置は、プラズマガスとして一般的には高価なアルゴンやヘリウムを用いる。従来、プラズマガスの消費量は、プラズマ炎を安定的に得るために、毎分15〜20リットル程度必要とする。このため、ICP装置のランニングコストの要因であるプラズマガスの多量な消費を抑えるための検討がなされている。
【0005】
例えば、プラズマトーチにおいて、プラズマガスの噴き出し領域を狭くし、プラズマガス管の外側間壁をキャリヤーガス用ガス管よりも長くして大気からのシールドを形成したものや、更に、その三重管のプラズマガス管の外側に冷却ガス用の筒体を同心状に囲わせて、冷却ガスを回転するように流入させることでプラズマガス筒体が溶融しないように冷却しつつ、プラズマ炎を長く形成させるようにして感度を高めることがなされている(特許文献1)。また、質量分析に使用するICP装置においても、前記のシールドを形成し、プラズマガスの噴き出しの領域を狭めてプラズマガスの流量を減ずることで、プラズマガスの消費量を抑えるようにしている。この場合は、同心の三重管のうちプラズマガス管と補助ガス管とで形成される噴出し幅を半減することで流量を約半量としている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-194723号公報(図8
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】分析化学 vol.52,No.8,pp.559-568,2003年,日本分析化学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、第一に、プラズマ用ガス管を長くしてシールド効果を持たせてプラズマ炎の大気の巻き込みを無くした場合、プラズマ炎と相対する内面への析出物の付着により測光ができなくなった際、又、熱の影響で当該プラズマ用ガス管の一部に割れが生じた際は、プラズマトーチごとの交換を要し、作業の煩雑さと共にプラズマトーチの高価さによる不経済性が問題となった。
【0009】
第二に、上記の問題を解決するために、プラズマ炎をとり囲う程度の長さを有するプラズマトーチと独立した円筒型のボンネットを採用するも、プラズマの点灯時に異常放電を起す新たな問題が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の第一及び第二の問題を同時に解決するために、本発明のICP装置は、試料を導入する試料導入部と、キャリヤーガス用のインナーチューブ、補助ガス用のミドルチューブ及びプラズマガス用のアウターチューブからなる同心の三重管構造であり、一端部にこれらのガス導入部を備えた端部が開口状態になっているプラズマトーチと、このプラズマトーチとは分離しており、生成したプラズマ炎の先端部まで十分に取り囲む高さを有し、前記プラズマトーチに外嵌して配置した円筒形状のボンネットと、プラズマ炎が生成するプラズマトーチ開口端隣部のプラズマ生成領域を取り囲むようにボンネットに外嵌して配置した誘導コイルと、キャリヤーガス、補助ガス及びプラズマガスを制御するガス制御部と、ボンネットの内面とアウターチューブの外面とで形成する間隙部にプラズマガスの流路修正用の修正ガスを導入する修正ガス導入機構と、を備えることを特徴とした。
【0011】
また、本発明のICP装置は、前記修正ガス導入機構が修正ガスを噴き出すキャピラリを備え、このキャピラリの噴き出し側端部をボンネットの固定側端部の間隙部に向くように配置するようにした。あるいは、前記修正ガス導入機構が修正ガス用の流路を備え、この流路がプラズマトーチのガス導入部側の間隙部の一部又は全部に沿って配置され、当該隙間部に沿った部分の一部又は全部が開口しているようにした。
【0012】
また、本発明のICP装置は、前記キャピラリ又は前記流路が、プラズマガスの増減に連動して修正ガスが増減するように、修正ガスを導入する側の端部を、ガス制御部のアウターチューブに接続するガス流路の途中から分岐するガス流路に接続するようにした。
また、ボンネットが、測光用のスリット又は穴を、一つ又は複数備えるものであることを特徴とした。
また、本発明のICP装置は、分光分析装置あるいは質量分析装置に利用した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、個別のシールド(ボンネット)を用いてプラズマ発光装置に係わるプラズマ炎への大気の巻き込みを解消すると共に、独自のプラズマガスの修正機構を採用することでプラズマの点灯性をも改善し、感度及び精度を損なうことなくプラズマガスの消費量を半減することができる。従って、高い経済性を備えたプラズマ発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る第1実施例のICP装置の全体概略図である。
図2】本発明に係る第1実施例のICP装置の要部の概略図である。
図3】本発明に係る第2実施例のICP装置の全体概略図である。
図4】(a)本発明に係る第2実施例のICP装置の要部の概略図である。(b)(a)のb方向から見た修正ガス導入機構の概容図である。(c)(a)のB−B‘断面図である。
図5】(a)本発明に係るICP装置のボンネットの概略図である。(b)本発明に係るICP装置のボンネットの別途の概略図である。
図6】(a)本発明に係るガス経路の例を示す図である。(b)本発明に係る別途のガス経路を示す図である。
図7】従来のICP装置を用いたICP分光発光装置の全体概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るプラズマ発光装置について図を参照しながら説明する。
図1及び図3は、本発明に係る第1実施例のICP装置の全体概略図である。
本実施形態のICP装置は、大別するとプラズマ生成部11、試料導入部13、プラズマトーチ12、ボンネット10A、プラズマトーチ支持部材14及び修正ガス導入部15Aから構成されており、JIS K 0116(発光分光分析通則)に規定されるICP装置を基本としている。
【0016】
プラズマ生成部11は、アルゴンなどのプラズマガスPと霧滴化してキャリヤーガスCAに乗せた試料134をプラズマトーチ12に流し、ボンネット10Aの外側に備えた誘導コイル112に高周波電圧をかけることでプラズマを生成させる。
試料導入部13は、試料を吸引するネブライザ132と吸引用のチューブ133、並びに、スプレーチャンバ131を備えており、アルゴンなどのキャリヤーガスCAと共に試料用ガス管121を通して試料134を生成したプラズマ内部に導入する。
【0017】
プラズマトーチ12は、同心の三重管構造であり、その中心にアルゴン(Ar)ガスなどのキャリヤーガスCAと共に導入される試料134のための試料導入管(インナーチューブ)121が位置し、その外側にプラズマの上下位置を制御するための補助ガス管(ミドルチューブ)122が、さらにその外側にプラズマ用のガスを流すためのプラズマガス管(アウターチューブ)123が取り囲む構造である。
【0018】
更に、ボンネット10Aは、プラズマ用ガス管122の外側にそれを外嵌して備える。試料用ガス管121上部にプラズマを点灯させるに当り、外側からの大気を巻き込むことによるプラズマ炎の不安定化や、大気由来の発光による測定感度の低下を防止する目的を有する。これには、円筒状の石英ガラス管が使用でき、プラズマ用ガス管123に対して所定の間隙dを形成するように構成する。
プラズマトーチ支持部材14は、ベース部141と留め部142とで構成される。留め部142は、ベース部141と分離あるいは一部を連結した形でプラズマトーチを開放・固定する。
【0019】
修正ガス導入部15Aは、特にプラズマガスPの流量が少ない時にプラズマ点灯時の異常放電の原因となるボンネット10Aとプラズマガス管123の開口端部の間隙dでのプラズマガスの滞留を防ぐために、プラズマガスPの流方向と同じ方向への噴出し気流を発生させるために設けるものである。これにより、少ないプラズマガスPによるプラズマの点灯が可能となる。
【0020】
(実施例1)
以下、図1のICP装置に関して詳細に説明する。
プラズマトーチ12は、石英ガラス製であり、試料導入管(インナーチューブ)121、補助ガス管(ミドルチューブ)122及びプラズマガス管(アウターチューブ)123が、それぞれの開口端部の外径が7mm、17mm及び20mmの同心の三重管構造である。また、その壁厚は、各部位いずれも約1.0mmであって、試料導入管の開口径は2mmφ以下に絞っている。また、各ガス管の開口端部の位置は、立てた場合に外側の方が高くなるように階段上にずれている。
【0021】
このプラズマトーチ12の固定は、プラズマトーチ支持部材14のベース部141と着脱用の留め具142により挟持しておこなう。この場合、留め具142は、プラズマトーチ12の外側の円形状に沿ってベース部14に押圧して固定するとよく、その左右のいずれかを蝶番状として片開きにて開閉するようにしてもよい。そしてプラズマガスPは、プラズマ用ガス管123の内側をその下部より螺旋流を形成して開口端部より流出するように導入される。
【0022】
更に、プラズマガスPは、消費を抑えるために流量を低減することにより、開口端部からの噴出し速度も低減する。そのため、プラズマ用ガス管123の内面との補助ガス管122の外面とで形成されるプラズマガスPの通路の出口に当る間隙端部については、その幅を狭くするように調整してもよい。このようにすることで、プラズマガスの流量を抑えた場合であっても流速が低減しないように調整可能であり、所定の高さのプラズマ炎を安定して得ることができる。なお、プラズマガスPは、本実施例ではアルゴンガスを用いた。
【0023】
次に、本発明のICP装置に用いるボンネットについて説明する。当該ボンネット10Aは、プラズマトーチ12に外嵌した円筒状の石英ガラス(内径21mm、壁厚1.3mm)である。従って、間隙dはプラズマトーチ12の寸法との関係にて決定され、約0.5mmとなる。
【0024】
このボンネット10Aは、図7に示す従来のボンネット30と比べて、単純円筒形状のプラズマトーチとは独立したものとした点及び誘導コイル112にかかる領域の上部に突出させた点に特徴を有する。通常は、プラズマ用ガス管であるアウターチューブの開口端部と、プラズマ生成部11の領域にかかるように誘導コイルの端部とを揃えて配置することから、それら端部の上方十数mm程度をボンネットで囲うようにした。この囲いの長さは、プラズマ炎が大気を巻き込まずに安定する範囲とし、本実施例では20mm程度とした。また、プラズマトーチと独立にすることは、後述するように、ボンネットのみの交換を容易な着脱性にて可能とする効果を奏する。
【0025】
なお、このボンネット10Aの固定は、ベース部14の上部に備えた、後述する修正ガス導入機構15Aを構成するキャピラリ支持部材151aの一端部に、プラズマトーチの外側の円形に沿うように形成した延伸部を設け、その上のガイドに嵌合させて固定した。この場合、ボンネット10Aの固定端側円周上に、スリット101を設けて、キャピラリ支持部材151a上に設けた凸部154aと合わせるようにしてもよい。このようにすることで、ボンネット10Aの円周位置の位置合わせを容易にすることができる。
【0026】
このボンネット10Aの主たる効果は、プラズマガスPの流量を低減(例えば毎分10L以下)した際に生じるプラズマトーチ12の開口端部において、プラズマガスPの噴き出し流速の低下に起因した開口周囲の大気の巻き込みを防止することである。従って、プラズマ炎の高さに相当する領域をボンネット10Aにて囲うことでより効果的となり、プラズマガスPの消費量を低減でき経済的な測定を実現する。更に、前述のように、ボンネット10Aとプラズマトーチ12は、相互に独立しており、従ってそれぞれ個別に交換可能である。特に、ボンネットのプラズマ炎と相対する内面では、析出物による白濁化や熱等による割れが生じる場合があるところ、その場合でも安価なボンネットの交換のみで対応可能という効果を有する。
なお、誘導コイル112は、前述のようにプラズマ生成部11の領域にかかるように、アウターチューブの開口端部に位置を合わせてボンネット10Aに外嵌して配置した。
【0027】
次に、本発明に係るICP装置に備わる修正ガス導入機構15Aについて説明する。
修正ガスCは、プラズマを点灯させる際に、ボンネット10Aとプラズマトーチ12の開口端部の間隙dにおいてプラズマガスPの一部が巻き込んで滞留するのを防止すると共に、滞留したガスをプラズマガスの本来の流路に戻し修正する役割を果たすものである。このプラズマガスの滞留は、プラズマの点灯時に異常放電を引き起こし、安定したプラズマ炎を得るための妨げとなる。また、その状況は、プラズマガスPの流量調整のみでは解消されなかった。発明者らは、ボンネット10Aを利用した構成において安定したプラズマ炎を得るため鋭意研究を重ねて、当該修正ガス導入機構15Aを採用するに至ったものである。修正ガスCは、前述のボンネット10Aの内面とプラズマトーチ12の外面との間に形成される間隙dを、固定端(下)側から他端(上)側に向けて導入される。
【0028】
この機構は、図1に示すように、ベース部14の上部に固定したキャピラリ支持部材151a、修正ガスCを導入するためのキャピラリ152a及びキャピラリを押える留め具153aより構成される。図2には、ボンネット10Aと修正ガス導入機構15Aの配置に関する斜視図を示す。キャピラリは、内径が0.75mmのものを用いた。また、キャピラリは、前述したボンネット101Aの固定端側の円周上に設けたスリット101を利用して、その先端が当該スリット101に向くように固定した。この方向は、スリット101より間隙d内に修正ガスが入り込む方向であればよく、流量を調整することで方向の不具合はある程度許容可能である。効率よく修正ガスを導入するためには、プラズマガスの流方向に沿うようにする方がよりよい。また、螺旋流を形成するように、間隙dに沿ってキャピラリ先端の向きを調整してもよい。また、キャピラリは、取り扱い上フレキシブルなものが都合よく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などが利用できる。図1では、キャピラリがベース部14の平面方向に対して45度で上向くように配置している。
【0029】
本発明のICP装置に用いるガスは、プラズマトー12チに係る、キャリヤーガスCA、補助ガスA、プラズマガスP及び修正ガスCである。それらのガスには、アルゴンガスを用いた。また、修正ガスCは、間隙dの開口端部でのガスの滞留を修正すればよく、プラズマガスPの増減に伴い同様に増減するようにしてもよい。従って、図6(a)に示すように、ガスの導入経路は、従来通りキャリヤーガスCA、補助ガスA及びプラズマガスPを一つのガス制御系で導入すると共に、修正ガスCをプラズマガスPの枝管として導入する構造を採用した。このようにすることで、修正ガスCをプラズマガスPの増減に連動させることができる。なお、修正ガスCの流量は、枝管の内径あるいは簡易な手動のフローメーター等で予め調整することができる。
【0030】
また、修正ガスCの流量を個別に制御することを要せず、装置上も制御部やバルブなどの付帯設備を要しない。よって、簡素かつ安価に効率的な装置構成を提供することができる。
なお、図6(b)に示すように修正ガスCを別系統で制御してもよい。この場合は、先に述べた効果は有さないが、修正ガスCとして高価なアルゴン以外の安価なガスを利用可能となる点において有意である。例えば、エアポンプにより空気を送風してもよい。
また、図示しないが、プラズマの点灯時には、上記したガス経路以外に一旦使用するガスで系内を置換するためのチャンバーガス経路を導入してもよい。
【0031】
図6(a)のガス経路を採用した本発明に係わるICP装置において、誘導コイル112に周波数27.12MHz、出力1.2kWの条件で高周波エネルギーを発生させ、アルゴンガスを先のプラズマ点灯開始時の条件で数十秒間流した後、イグナイターにより種火を形成させ、それからキャリヤーガスCAを導入してプラズマがドーナツ状になったのを確認し、その後数秒間プラズマが安定するのを待って、定常運転時のプラズマガス流量に切り替えた。この場合、プラズマ点灯開始時のアルゴンガス流量は、プラズマガスPが毎分20Lの設定に対して、この枝管である修正ガスCはキャピラリ152aより毎分0.3L以下であった。また、定常運転時のプラズマガスP及び修正ガスCの流量は、それぞれ、毎分8L及び0.1L以下であった。その結果、試料導入管121の上部に測光高さ十数mmのプラズマが形成され、点灯時から測定の間も一貫して安定なプラズマ炎を得ることができた。この際のプラズマガス流量は、上記の条件であり、従来のICP装置におけるプラズマガス流量である毎分15〜20Lに比して、同等以上の感度を保持したまま略半減することができた。従って、高い経済性を備えることを確認した。
【0032】
(実施例2)
次に、実施例1とは異なる修正ガス導入機構15Bについて説明する。なお、実施例1とは、修正ガス導入機構以外は共通するため、符号は同様とした。
【0033】
図3は、本発明に係るICP装置として、修正ガスCの導入を実施例1の修正ガス導入機構15Aに係るキャピラリに替えて、流路部材151bのボンネット10Bの固定端(下)側に間隙dの円周に沿うように設けた修正ガスCの噴き出し152bを備えたものを示す。図4(a)には噴き出し152bの経路を斜視図により示した。図4(b)は、(a)のb方向(真上)から見た場合のガス経路を示す。図4(c)は、(a)のB−B’断面のプラズマガス管123の外周面とボンネット10Bの内周面とで形成される間隙dと噴き出し152bの位置関係を示す。ここでは、ボンネット10Bの円周のうち半周分に噴出しを設けたが、全周に設けることや、その円周に沿って間欠するように複数の穴を配置してもよい。また、ガス流路は、ベース部14に貫通孔を作製してもよいし、噴き出し152bを形成可能であればキャピラリを改造して使用してもよい。また、ボンネット10Bの位置決めを容易にするために、実施例1と同様にボンネット10Bの固定端側にスリット101を設けてもよい。
【0034】
この構造により、プラズマトーチ12の開口端部でのガスは、滞留することが無く実施例1と同様の結果を得ることができ、同様の効果を示した。
本発明のICP装置は、ICP発光分光分析(ICP−OES)装置あるいはICP質量分析装置(ICP−MS)に利用できる。また、それ以外のプラズマ発光を利用した装置に利用可能である。
【0035】
また、プラズマの横方向から測光する際は、ボンネット10A及び10Bにおいて、測光部付近にスリット102−L及び102−Rの少なくとも一方を備えることができる。このようにすることで、ボンネットの内面が白濁した場合であっても、測光の妨げとならない。この測光用のスリットは、穴であってもよいし、プラズマ炎への大気の影響を防ぐことができる範囲であればその形状は問わない。
また、プラズマガスは、アルゴンに限定されず、窒素、ヘリウム等が利用できる。
【0036】
また、本発明のICP装置は、その要部となる本発明に係るボンネット及び修正ガス導入機構を従来のICP装置に対して組み込むことにより提供することができる。このことは、既存の装置を廃する必要がなく、本発明の効果を享受することができるため、この点においても経済性に優れるものとなる。
【0037】
以上のように、本発明のICP装置は、プラズマガスの消費量を低減した際の副作用(プラズマの大気の巻き込みによるプラズマ炎の不安定化)を円筒管状の長いボンネットにより解消すると共に、当該ボンネットを用いた際の副作用(プラズマトーチとボンネットによるプラズマガスの一部の停滞に起因するプラズマ点灯時の異常放電)をも解消し、結果として長時間運転時のプラズマガスの消費量を大幅に低減することを可能とした。
【0038】
従って、従来に比して、極めて経済性に優れるICP装置を提供することができる。
なお、本発明の実施形態は、上記の記載内容に限られるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲において適宜、改良や変更を加えることが可能である
【符号の説明】
【0039】
10A,10B,30 ボンネット
11,31 プラズマ生成部
12,32 プラズマトーチ
13,33 試料導入部
14 プラズマトーチ支持部材
15A,15B 修正ガス導入部
図2
図4
図5
図6
図7
図1
図3