(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体ウェーハ等の被加工物を分割加工するダイシング装置等の精密切削装置においては、高速回転するスピンドルの先端に装着された切削ブレードを被加工物に切り込ませて切削加工する構成となっている。この種の切削装置には、周縁が摩耗する切削ブレードの下端の刃先位置を検出して切り込み高さ位置の基準点を調整するための非接触式の切削ブレード検出手段を備えるものがある(特許文献1)。この非接触式の切削ブレード検出手段は光学式であって、発光部と受光部との間に切削ブレードの周縁部を配置して切削ブレードの下端位置を検出するようになっている。
【0003】
ところで、切削ブレードで被加工物を切削することによって発生した切削屑は切削液に取り込まれ、切削ブレードの周囲に飛散する。この切削屑を含んだ汚れた切削液が非接触セットアップセンサの発光部や受光部に付着してこれらの発光・受光面が汚れると、発光量や受光量が低下するため、切削ブレードの下端の刃先の正確な高さ位置を検出しにくくなる。そこで、切削ブレード検出手段を開閉自在な保護カバーで覆い、汚れた切削液が発光部や受光部に付着することを防ぐ技術が提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、切削中の切削ブレードは例えば30000rpm程度の速度で高速回転しているため、切削ブレードに供給される切削液、あるいは切削屑を取り込み切削ブレードの回転に伴って連れ回る切削液の一部は、ミスト状となる。このミスト状となった切削屑を含む切削液は、上記特許請求に記載されるような保護カバーによって発光部や受光部を覆っていても、隙間を通って保護カバー内に入り込み、発光・受光面に付着してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な技術的課題は、切削ブレード検出手段の発光部や受光部の発光量および/または受光量の低下を防止して切削ブレードの高さ位置を正確に検出し得る切削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切削装置は、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段で保持された被加工物を切削する切削ブレードを有した切削手段と、互いに対面した発光面を含む発光部と該発光面からの発光を受光する受光面を含む受光部とを有し、前記切削ブレードが該発光部と該受光部との間に位置付けられることで該切削ブレードの先端位置を検出する切削ブレード検出手段と、を備え、該切削ブレード検出手段は、前記発光部と前記受光部とを覆う被覆位置と該発光部と該受光部とを露出する露出位置とに選択的に位置付けられる保護カバー部と、該保護カバー部の内壁に配設され、該保護カバー部が前記被覆位置に位置付けられることで前記発光部と前記受光部との間に挿入され前記発光面と前記受光面とに密着するとともに該発光面と該受光面とを覆うことで異物の付着を防止する異物付着防止部材と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明では、保護カバー部が発光部と受光部とを覆う被覆位置に位置付けられた際に、発光部の発光面と受光部の受光面との間に、保護カバー部の内壁に配設された異物付着防止部材が、発光部と受光部との間に挿入されて発光面と受光面とに密着する。したがって、切削中においては保護カバー部を被覆位置に位置付けておくことで、ミスト状の切削屑を含んだ切削液が発生しても、発光部の発光面および受光部の受光面に付着するおそれが低減する。また、例え保護カバー部が露出位置に位置付けられた際に発光面および受光面にミスト状の切削屑を含んだ切削液が付着しても、保護カバー部を被覆位置と露出位置とに位置付ける動作を行うことで、異物付着防止部材が発光面および受光面に対し密着しながら移動するため、発光面および受光面が異物付着防止部材で払拭され、切削屑を含んだ切削液を発光面および受光面から除去することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブレード検出手段の発光部や受光部の発光量および/または受光量の低下を防止して切削ブレードの高さ位置を正確に検出し得る切削装置が提供されるといった効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
[1]切削装置の構成
図1は、一実施形態に係る切削装置10の全体斜視図である。この切削装置10は、例えば半導体ウェーハ等の円板状の被加工物1を多数のチップに分割する装置として好適なものである。この場合、被加工物1は、粘着テープ4を介して環状のフレーム5の内側に表面側が露出する状態に支持され、この状態で、カセット50内に複数段に重ねて収納される。被加工物1は、切削装置10内においてフレーム5を保持することで搬送される。
【0012】
図1に示すように、フレーム5に支持された複数の被加工物1が収納されたカセット50は、基台11に設けられたカセット台12に着脱可能に設置される。カセット台12は昇降するエレベータ式であって、カセット台12が上昇することで、被加工物1は基台11上の所定高さの搬入出位置に位置付けられる。その搬入出位置に位置付けられた被加工物1は、搬入出手段13によって搬出され、仮置き領域14に載置される。そして仮置き領域14において所定の搬送開始位置に位置決めされてから、旋回動作する第1搬送手段15Aによって、搬入出位置に位置付けられている(
図1はその状態)円板状の保持手段16に搬入される。保持手段16に搬入された被加工物1は、保持手段16上に負圧吸引作用により粘着テープ4を介して表面側が露出した状態で吸引保持される。
【0013】
保持手段16は、図示せぬ移動機構によってX方向に移動させられる移動台17上に回転可能に支持されている。保持手段16は図示せぬ回転機構によって回転駆動され、被加工物1は保持手段16の回転によって自転させられる。保持手段16上に被加工物1が保持されると、保持手段16がX1方向に移動し、撮像手段を備えたアライメント手段18の直下の加工位置に位置付けられる。この加工位置では、アライメント手段18によりパターンマッチング等の処理がなされて、分割するチップの分割予定ラインが検出される。
【0014】
加工位置の上方には、切削手段20の切削ブレード21が配設されている。
図2に示すように、切削手段20はスピンドル22を備えている。スピンドル22の軸方向は
図1においてY方向と平行に延びており、その先端に、フランジ状の装着部23を介して切削ブレード21が着脱可能に装着されている。切削手段20は図示せぬ切削液供給手段を有しており、該切削液供給手段から切削ブレード21による加工部位に切削液が供給されるようになっている。
【0015】
切削手段20は、Y方向に割り出し送りされ、かつ、モータ等の駆動装置によってZ方向に昇降可能となっている。また、切削手段20のY方向やZ方向の移動量はリニアスケール等によって精密に読み取られ、その駆動が精密に制御されるようになっている。アライメント手段18によって分割予定ラインが検出されると、切削ブレード21と、検出された分割予定ラインとのY方向の位置合わせが、割り出し送りによってなされる。
【0016】
切削ブレード21と分割予定ラインとのY方向の位置合わせがなされたら、切削手段20を下降させて切削ブレード21の下端である刃先を被加工物1に対する所定の切り込み高さ位置(Z方向位置)に定め、移動台17をX方向に移動させて被加工物1を加工送りする。これにより、1本の分割予定ラインに沿って切削ブレード21が相対的に移動しながら切り込んでいき、分割予定ラインが切断される。次いで、分割予定ライン間の間隔に応じて切削手段20をY方向に送る割り出し送りと被加工物1のX方向への加工送り(X1,X2方向の往復移動)を繰り返して、X方向に延びる全ての分割予定ラインが切断される。
【0017】
続いて、保持手段16を90°回転させて、切断済みの分割予定ラインに直交する未切断側の分割予定ラインをX方向と平行に設定し、この後、上記と同様にして分割予定ラインを切削して切断する。これにより全ての分割予定ラインが切断され、被加工物1は多数のチップに分割される。多数のチップは粘着テープ4に貼り付いたままであり、円板状の被加工物1の形態は保たれている。
【0018】
以上のようにして被加工物1が多数のチップに分割されたら、移動台17がX2方向に移動して保持手段16が搬入出位置に戻り、次いで保持手段16による被加工物1の保持が解除される。続いて、第2搬送手段15Bによって被加工物1は洗浄手段19に搬入され、洗浄手段19で水洗された後、乾燥処理される。この後、被加工物1は第1搬送手段15Aによって仮置き領域14に載置されてから、搬入出手段13によってカセット50内に戻される。
【0019】
以上が1枚の被加工物1に対する切削処理のサイクルであり、このサイクルが、カセット50内の全ての被加工物1に対してなされる。そして、以下に説明するセットアップセンサとも呼ばれる切削ブレード検出手段60により、例えば1サイクル毎や1枚の被加工物1を切削中に切削ブレード21の刃先の高さ位置すなわちZ方向位置を検出し、切削ブレード21の摩耗に対応してその切り込み高さ位置が調整される。
【0020】
[2]切削ブレード検出手段の構成
切削ブレード検出手段60は、この場合、
図1に示すように移動台17上において保持手段16の周囲近傍の所定箇所に配置されている。
図3および
図4に示すように、切削ブレード検出手段60は直方体状の検出台61を有しており、この検出台61の上面には、検出板62が固定されている。検出板62のX方向一端側には、X方向(
図1のX方向と共通の方向)に貫通する溝621が形成されている。そして溝621の両側の壁部622の互いの対向面には、光学センサの発光部63と受光部64が、それらの光軸を一致させて取り付けられている。
【0021】
検出板62の上面には、発光部63の発光面631と受光部64の受光面641に洗浄水をそれぞれ供給する洗浄水供給ノズル651,652と、発光面631と受光面641にエアーをそれぞれ供給するエアー供給ノズル661,662とが、それぞれ立設されている。洗浄水供給ノズル651,652からは、切削ブレード21による切削時に常に洗浄水が発光面631および受光面641に供給される。一方、エアー供給ノズル661,662からは、切削が終了して洗浄水供給ノズル651,652からの洗浄水の供給が停止された後に、エアーが発光面631および受光面641に供給される。
【0022】
検出台61の、前記溝621が形成された側とは反対側のX方向他端部には、Y方向に延びるヒンジ軸671を介して、保護カバー部67が回動自在に取り付けられている。ヒンジ軸671は、検出台61に形成された軸受部611に回転自在に装着されている。保護カバー部67は、ヒンジ軸671を支点として
図4の矢印A−B方向に回動し、B方向に回動して開くと、
図3および
図4の(a)に示すように検出台61が露出する露出位置に保持される。また、A方向に回動すると、
図3および
図4の(b)に示すように検出台61を覆う被覆位置に保持される。保護カバー部67は、検出台61に近接配置された
図3に示す駆動部69によりヒンジ軸671が回転駆動されることで、露出位置と被覆位置の間を開閉させられる。
【0023】
保護カバー部67はこのように被覆位置と露出位置とに選択的に位置付けられ、保護カバー部67が閉じて被覆位置にあるとき、保護カバー部67の開口周縁672は検出台61の上面に当接し、発光部63と受光部64、洗浄水供給ノズル651,652およびエアー供給ノズル661,662が、保護カバー部67で覆われる。
【0024】
保護カバー部67の内壁の、被覆位置において上面部には、保護カバー部67が被覆位置に位置付けられることで発光部63と受光部64との間に挿入され、かつ、発光面631と受光面641の双方に密着する異物付着防止部材68が配設されている。この異物付着防止部材68は、例えば樹脂製スポンジ、不織布、フェルト、毛織物、ブラシ等の材料によって直方体状に形成されたものであり、あるいは基材の少なくとも発光面631と受光面641に密着する表面が、これら材料で被覆された形態のものが用いられる。
【0025】
図4(b)および
図5に示すように、保護カバー部67が閉じて被覆位置に位置付けられたときには、異物付着防止部材68の側面が発光面631と受光面641に密着するとともに、発光面631と受光面641とを覆うことで、異物付着防止部材68により発光面631と受光面641への異物の付着が防止されるようになっている。
【0026】
[3]切削ブレード検出手段による非接触セットアップ作業
切削装置10は図示せぬ制御手段を有し、該制御手段は、上記構成の切削ブレード検出手段60の受光部64が受光する光の受光量に基づき、以下のようにして切削ブレード21の上下方向(Z方向)の位置を調整する。
【0027】
すなわち、
図6に示すように、切削ブレード検出手段60の上方に位置付けた切削ブレード21を徐々に下降させることで切削ブレード21の刃先を溝621に入り込ませ、発光部63と受光部64の間に進入させる。発光部63からの発光が切削ブレード21の刃先で遮られることで受光量が落ちるので、刃先が発光部63と受光部64の間に進入したことを検出し、このときの切削ブレード21のZ方向位置をリニアスケールで読み取る。そして、この切削ブレード21のZ方向位置を、切削ブレード21の切り込み深さを管理する基準位置とする(この作業を非接触セットアップ作業と呼ぶ)。
【0028】
新品の切削ブレード21をスピンドル22に装着したときに上記非接触セットアップ作業を実施しておき、切削ブレード21のZ方向位置を記憶しておく。その後、切削ブレード21が摩耗した後に再度非接触セットアップ作業を実施して切削ブレード21のZ方向位置を検出することで、摩耗量が検出できるとともに新たに検出した切削ブレード21のZ方向位置に基づき、切削ブレード21の切り込み高さ位置(Z方向位置)を制御する。
【0029】
[4]切削ブレード検出手段の作用およびそれに伴う効果
本実施形態の切削ブレード検出手段60は、切削液を供給しながら被加工物1を切削している最中においては、保護カバー部67を閉じて被覆位置に位置付けておく。切削中には、切削屑を含んだ汚れた切削液が発生するが、この汚れた切削液は、保護カバー部67によって保護カバー部67内への浸入が遮断され、発光部63および受光部64には到達せず、発光面631および受光面641に付着することが防がれる。
【0030】
また、汚れた切削液はミスト状となって切削ブレード検出手段60の周囲を流れ、保護カバー部67と検出台61との間の隙間を通って保護カバー部67内に浸入するおそれがある。しかし本実施形態では、保護カバー部67内に汚れた切削液のミストが浸入しても、発光面631および受光面641には異物付着防止部材68が密着しているため、ミストが付着するおそれが低減する。
【0031】
また、切削を中断した状態で保護カバー部67を被覆位置と露出位置とに位置付ける開閉動作を行い、異物付着防止部材68が発光面631および受光面641に対し密着と離反を繰り返すようにすると、発光面631および受光面641に汚れた切削液のミストが付着したとしても、そのようなミストを異物付着防止部材68で払拭することができ、発光面631および受光面641から汚れた切削液を除去することができる。したがって切削ブレード検出手段60による非接触セットアップ作業を行う前に、このように保護カバー部67を開閉させ、異物付着防止部材68で発光面631および受光面641を払拭するとよい。なお、払拭によるミストの除去作用を確保するため、異物付着防止部材68は、溝621に入り込むと弾性変形して圧縮し、その反作用によりある程度の圧力で発光面631および受光面641に接触するものがよい。
【0032】
以上により、切削ブレード検出手段60の発光部63や受光部64の発光量および/または受光量の低下が防止され、非接触セットアップ作業を行った際には、切削ブレード21の高さ位置を正確に検出することができるものとなる。