【実施例】
【0020】
(実施例1)
上記微粒子の製造方法に係る実施例について、
図1を用いて説明する。本例では
図1に示すごとく、ビーカー10に、担体粒子4を分散させた溶媒2を入れ、この溶媒2中に金属からなるバルク3を浸漬配置する。このように、溶媒2中に担体粒子4を予め分散させた状態で、バルク3にレーザLを照射し、微粒子1を発生させる。微粒子1は、溶媒2中において担体粒子4の表面に担持され、複合粒子5になる。
【0021】
本例では、上記担体粒子として粒径10〜20nmのSiO
2粒子を用いた。このSiO
2粒子を溶媒(水)に分散させ、濃度を2.0w%にした。溶媒には、界面活性剤を添加しなかった。また、バルクとして、組成比1:1のNiMoを用いた。このバルクに、波長1064nmの近赤外線パルスレーザを照射してレーザアブレーションを行った。これにより、NiMo微粒子を生成し、この微粒子をSiO
2粒子に担持させた。その後、フリーズドライによって溶媒を乾燥除去し、SiO
2粒子にNiMo微粒子を担持させた複合粒子を得た。
その後、得られた複合粒子を、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影して微粒子が生成されていることを確認すると共に、X線回折法(XRD)を用いて、微粒子にバルク中の金属元素が含まれていることを確認した。また、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、微粒子の組成を分析した。
【0022】
なお、バルク表面に加わるレーザのエネルギーは100mJ/puls/1mmφとした。
【0023】
(実施例2)
次に、実施例1に対してバルクの金属を変更した実施例の説明をする。本例では担体粒子として、実施例1と同様に、粒径10〜20nmのSiO
2粒子を用いた。このSiO
2粒子を溶媒(水)に分散させ、濃度を2.0w%にした。溶媒には、界面活性剤を添加しなかった。また、バルクとして、組成比2:1のNiCrを用いた。そして、実施例1と同じ条件のレーザを使ってレーザアブレーションを行った。これにより、NiCr微粒子を生成し、このNiCr微粒子をSiO
2粒子に担持させた。その後、フリーズドライによって溶媒を乾燥除去し、SiO
2粒子にNiCr微粒子を担持させた複合粒子を得た。
この複合粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、XRD及びEDXを用いて分析を行った。
【0024】
(実施例3)
次に、実施例1に対して担体粒子及びバルクを変更した実施例の説明をする。本例では、担体粒子として、Al
2O
3粒子を用いた。このAl
2O
3粒子を溶媒(水)に分散させ、濃度を2.0w%にした。溶媒には、界面活性剤を添加しなかった。また、バルクとして、組成比2:1のNiCrを用いた。そして、実施例1と同じ条件のレーザを使ってレーザアブレーションを行った。これにより、NiCr微粒子を生成し、このNiCr微粒子をAl
2O
3粒子に担持させた。その後、フリーズドライによって溶媒を乾燥除去し、Al
2O
3粒子にNiCr微粒子を担持させた複合粒子を得た。
この複合粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、XRD及びEDXを用いて分析を行った。
【0025】
(比較例1)
本例では、溶媒(水)に担体粒子を分散させなかった。また、溶媒に界面活性剤を添加した。そして、水に、組成比1:1のNiMoからなるバルクを浸漬配置し、実施例1と同じ条件のレーザを照射してレーザアブレーションを行った。これにより、NiMo微粒子を作成した。そして、微粒子を洗浄して界面活性剤を除去した後、フリーズドライによって微粒子を乾燥した。
得られたNiMo微粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、EDXによる分析を行った。
【0026】
(比較例2)
本例では、比較例1と同様に、溶媒(水)に担体粒子を分散させなかった。また、溶媒に界面活性剤を添加した。そして、水に、組成比2:1のNiCrからなるバルクを浸漬配置し、実施例1と同じ条件のレーザを照射してレーザアブレーションを行った。これにより、NiCr微粒子を作成した。そして、微粒子を洗浄して界面活性剤を除去した後、フリーズドライによって微粒子を乾燥した。
【0027】
得られたNiCr微粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、EDXによる分析を行った。
上記実施例1〜3と比較例1、2の条件を、下記表1にまとめる。
【0028】
【表1】
【0029】
(解析結果)
実施例1によって得られた複合粒子5のTEM写真を
図2に示す。
図2に撮影されている黒い粒子がNiMo微粒子であり、その他はSiO
2である。また、
図3に、NiMo微粒子の拡大写真を示す。これらの図から分かるように、実施例1によって得られたNiMo微粒子は、その粒径が比較的小さい。すなわち、実施例1のように、レーザアブレーションを行う際に担体粒子を予め分散させておくことにより、界面活性剤を添加しなくても、微粒子の凝集を抑制できることが分かる。
【0030】
実施例1のXRD分析結果を
図4に示す。同図に示すごとく、複合粒子を乾燥した直後は、微粒子が結晶化していないため、XRDのピークが現れない。この後、600℃又は800℃で2時間焼成することにより、微粒子が結晶化され、XRDのピークが現れるようになる。このピークから、微粒子にはNiMoが含まれていることを確認できる。
実施例1によって得られた複合粒子のEDX分析結果を、下記表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すごとく、微粒子に含まれるNiとMoの組成比は、平均して42.5:57.5であった。これは、バルクの組成比である1:1(50:50)と略等しい。この分析結果から、実施例1を行うことによって、バルクの組成と略同じ組成の微粒子を得ることができることが分かる。
【0033】
次に、実施例2によって得られた複合粒子のTEM写真を
図5に示す。
図5に撮影されている黒い粒子がNiCr微粒子であり、その他はSiO
2である。また、NiCr微粒子の拡大写真を
図6に示す。これらの図から分かるように、実施例2によって得られたNiCr微粒子は、その粒径が比較的小さい。すなわち、実施例2のように、レーザアブレーションを行う際に担体粒子を予め分散させておくことにより、界面活性剤を添加しなくても、微粒子の凝集を抑制できることが分かる。
【0034】
実施例2のXRD分析結果を
図7に示す。同図に示すごとく、複合粒子を乾燥した直後は、微粒子が結晶化していないため、XRDのピークが現れない。この後、800℃で2時間焼成することにより、微粒子が結晶化され、XRDのピークが現れるようになる。このピークから、微粒子にはNiが含まれていることを確認できる。
なお、NiCrは、NiへのCr固溶体であり、NiCrという化合物は存在しないため、NiCrのピークは現れず、Niのピークが現れる。
実施例2によって得られた複合粒子のEDX分析結果を、下記表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3に示すごとく、微粒子に含まれるNiとCrの組成比は、平均して72.8:27.3であった。これは、バルクの組成比である2:1(66.6:33.3)と略等しい。この分析結果から、実施例2を行うことにより、バルクの組成と略同じ組成の微粒子を得ることができることが分かる。
【0037】
次に、実施例3によって得られた複合粒子のTEM写真を
図8に示す。
図8に撮影されている黒い粒子がNiCr微粒子であり、その他はAl
2O
3である。
図8から分かるように、実施例3によって得られたNiCr微粒子は、その粒径が比較的小さい。すなわち、実施例3のように、レーザアブレーションを行う際に担体粒子を予め分散させておくことにより、界面活性剤を添加しなくても、微粒子の凝集を抑制できることが分かる。
【0038】
実施例3のXRD分析結果を
図9に示す。同図において、Niのピークは明確には現れていないが、これはAl
2O
3のピークにNiのピークが重なってしまうためであり、実際にはNiのピークが生じていると考えられる。
実施例3によって得られた複合粒子のEDX分析結果を、下記表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
表4に示すごとく、微粒子に含まれるNiとCrの組成比は、平均して71.8:28.3であった。これは、バルクの組成比である2:1(66.6:33.3)と略等しい。この分析結果から、実施例3を行うことにより、バルクの組成と略同じ組成の微粒子を得ることができることが分かる。
【0041】
次に、比較例1によって得られた微粒子のTEM写真を
図10、
図11に示す。同図に撮影されている黒い粒子がNiMo微粒子である。
図10、
図11から分かるように、比較例1によって得られたNiMo微粒子は、実施例1〜3によって得られた微粒子と比較して、その粒径が大きい。
比較例1によって得られた微粒子のEDX分析結果を、下記表5に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表5に示すごとく、微粒子に含まれるNiとMoの組成比は、平均して30.3:69.8であった。この組成比は、バルクの組成比である1:1(50:50)とは大きく異なっており、Niが減少していることが分かる。この分析結果から、比較例1を行っても、バルクの組成と略同じ組成を有する微粒子を形成できないことが分かる。
【0044】
次に、比較例2によって得られた微粒子のTEM写真を
図12、
図13に示す。同図に撮影されている黒い粒子がNiCr微粒子である。
図12、
図13から分かるように、比較例2によって得られたNiCr微粒子は、実施例1〜3によって得られた微粒子と比較して、その粒径が大きい。
比較例2によって得られた微粒子のEDX分析結果を、下記表6に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
表6に示すごとく、比較例2の微粒子に含まれるNiとCrの組成比は、実施例2、3(表3、表4参照)と比べて、ばらつきが大きい。そのため、比較例2では、微粒子に含まれるNiとCrの組成比の均一性が低いことが分かる。
【0047】
次に、実施例1、2および比較例1、2における、微粒子の生成量を下記表7に示す。
【0048】
【表7】
【0049】
表7に示すごとく、溶媒に予め担体粒子(SiO
2粒子)を添加した実施例1、2では、担体粒子を添加していない比較例1、2よりも、微粒子の収率が高いことが分かる。
【0050】
上述のごとく、実施例1〜3によって、溶媒に界面活性剤を添加しなくても微粒子を製造でき、また、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を製造できることを確認できた。
界面活性剤を添加する必要がないのは、以下の理由による。すなわち、
図1に示すごとく、実施例1〜3では、溶媒2中に予め担体粒子4を分散させた状態でバルク3にレーザを照射するため、レーザアブレーションによって発生した微粒子1を担体粒子4の表面に担持させることができる。そのため、微粒子1は溶媒2内を単独で運動しにくくなり、微粒子1同士が衝突して凝集することを抑制することができる。したがって、溶媒2に界面活性剤を添加する必要がなくなり、微粒子1を生成した後、洗浄して界面活性剤を除去する工程を行わなくてもすむ。
【0051】
また、実施例1〜3では、微粒子の収率を向上させることができる。これは、レーザアブレーションによってバルクから溶媒中に分散した原子が、微粒子になってすぐに担体粒子に担持されるため、原子がバルクに再吸着することを抑制できるためと考えられる。
【0052】
また、微粒子は一般に、他の物体の表面に担持させて使用することが多い。従来の微粒子の製造方法では、微粒子のみを製造するため、この微粒子を他の物体に担持させる工程を行う必要がある。これに対して実施例1〜3では、微粒子を、担体粒子に担持された状態で取り出すことができるため、従来のように微粒子を他の物体に担持させる工程は必要なく、得られた複合粒子をそのまま使用することができる。
【0053】
実施例1〜3では、レーザアブレーションを行う際に、溶媒に予め担体粒子を分散させておくことが重要であり、上記比較例1、2において説明したように、溶媒に担体粒子を分散させない場合は、微粒子の凝集を防ぐために界面活性剤を添加する必要が生じる。そのため、比較例1、2では、微粒子を生成した後、洗浄して界面活性剤を除去する工程が必要になる。
【0054】
また、仮に、溶媒に担体粒子を分散させずにレーザアブレーションを行い、微粒子を生成した後で、溶媒に担体粒子を混合しても、本発明の効果は得られない。この場合は、担体粒子を混合する前に微粒子が凝集してしまうため、界面活性剤を添加する必要が生じる。
【0055】
また、実施例1〜3では、2種類以上の金属元素を含有するバルクを用いて、レーザアブレーションを行う。溶媒に担体粒子を分散させた状態でレーザアブレーションをする場合は、2種類以上の金属元素を含有するバルクを用いることにより、バルクの金属元素の組成に近い組成の微粒子を得ることができる(上記表2〜表4参照)。
ここで仮に、溶媒に担体粒子が分散していない状態でレーザアブレーションを行うと、得られた微粒子の組成とバルクの組成とが、大きく異なることがある(上記表5参照)。しかしながら、実施例1〜3のように、溶媒に担体粒子を分散させた状態でレーザアブレーションを行えば、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を得ることができる。
これは、以下の理由によると考えられる。すなわち、レーザアブレーションによってバルクから溶媒中に分散した原子には、バルクに再吸着しやすい種類の元素と再吸着にくい種類の元素とがある。溶媒中に予め担体粒子を分散させておくと、原子が微粒子になってすぐに担体粒子に担持されるため、特定の種類の元素だけバルクに再吸着することを抑制できる。そのため、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を得ることができると考えられる。
【0056】
また、実施例1〜3では、Niを含有するバルクを用いる。そのため、Niを含有する微粒子を得ることができる。Niを含有する微粒子は、炭化水素の水蒸気改質触媒、部分酸化触媒、排ガス浄化触媒等の触媒として好適に利用することができる。
【0057】
また、実施例1〜3では、担体粒子として、酸化物の粒子を用いる。酸化物は耐熱性に優れているため、酸化物からなる担体粒子に微粒子を担持させることにより、得られた複合粒子を、温度が高い場所でそのまま使用することが可能になる。したがって、例えば複合粒子を、温度が高い場所において、触媒として好適に使用することができる。
【0058】
なお、担体粒子としては、上記実施例で用いたSiO
2やAl
2O
3の他に、ZrO
2、CeO
2、ゼオライト、TiO
2、Fe
2O
3の粒子を用いることができる。また、担体粒子として、硫酸バリウムの粒子を用いてもよい。
【0059】
また、実施例1〜3では、溶媒として水を使用している。水は、レーザによって分解する等の問題がないため、レーザアブレーションを行う際の溶媒として好適に用いることができる。
なお、レーザの条件やバルクの種類によっては、溶媒として有機溶媒を用いてもよい。
【0060】
以上のごとく、本例(実施例1〜3)によれば、界面活性剤を添加する必要がなく、収率が高く、かつ汎用性が高い微粒子の製造方法を提供することができる。
【0061】
なお、上記実施例では、金属からなるバルクを用いたが、金属酸化物からなるバルクを用いてもよい。この場合、レーザアブレーションを行うことにより、金属酸化物の微粒子を製造することができる。また、金属からなるバルクを用いた場合でも、金属の種類によっては、金属酸化物の微粒子を製造することもできる。例えば、Tiのバルクを用いた場合は、水中に分散したTi原子が水の酸素原子と反応するため、TiO
2の微粒子を得ることができる。
【0062】
また、金属や金属酸化物以外のバルクを用いることもできる。例えば、有機化合物からなるバルクを用いることができる。この場合、担体粒子を分散させた溶媒に、有機化合物からなるバルクを浸漬配置し、このバルクにレーザを照射してレーザアブレーションを起こさせることになる。そして、生成した有機化合物の微粒子を、担体粒子に担持させる。このようにすると、有機化合物の微粒子同士が凝集することを抑制でき、溶媒に界面活性剤を添加する必要がなくなる。