特許第5965828号(P5965828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

<>
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000009
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000010
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000011
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000012
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000013
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000014
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000015
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000016
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000017
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000018
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000019
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000020
  • 特許5965828-微粒子の製造方法 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965828
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/02 20060101AFI20160728BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20160728BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20160728BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160728BHJP
   C22C 27/04 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
   B22F9/02 A
   B01J35/02 H
   B01J37/34
   C22C19/05 Z
   B22F1/00 M
   B22F1/00 P
   !C22C27/04 102
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-273197(P2012-273197)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-118588(P2014-118588A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓巳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 みほ
(72)【発明者】
【氏名】真船 文隆
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−230699(JP,A)
【文献】 特開2003−013105(JP,A)
【文献】 特表2012−516391(JP,A)
【文献】 特開2010−065265(JP,A)
【文献】 特開2011−195931(JP,A)
【文献】 特開昭58−043239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00 − 9/30
B22F 1/00
B01J 35/02
B01J 37/34
C22C 19/05
C22C 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤が添加されていない溶媒(2)中に配置した金属又は金属酸化物のバルク(3)にレーザを照射することにより、レーザアブレーションによって上記金属又は上記金属酸化物の微粒子(1)を製造する方法であって、
上記微粒子(1)を担持する担体粒子(4)を上記溶媒(2)中に予め分散させた状態で、上記バルク(3)に上記レーザを照射することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微粒子の製造方法において、上記バルク(3)は2種類以上の金属元素を含有することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の微粒子の製造方法において、上記バルク(3)はNiを含有することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微粒子の製造方法において、上記担体粒子(4)は、酸化物の粒子であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の微粒子の製造方法において、上記溶媒(2)は水であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属又は金属酸化物の微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や金属酸化物の微粒子(以下、ナノ粒子とも記す)を製造する方法として、溶媒中に金属や金属酸化物のバルクを配置し、このバルクにレーザを照射するレーザアブレーションが知られている(下記特許文献1参照)。例えば下記特許文献1には、金のバルクを使ってレーザアブレーションを行うことにより、金ナノ粒子を製造する方法が開示されている。
【0003】
上記バルクにレーザを照射すると、バルクの表面温度が上昇し、バルクの原子が分離して、溶媒中に分散する。分散した原子は溶媒によって冷却され、集合して微粒子になる。
【0004】
レーザアブレーションによって微粒子を製造する際には、微粒子が凝集して粒径が大きくなりすぎることを防ぐべく、溶媒に界面活性剤を添加することが一般的である。界面活性剤を添加することにより、微粒子が凝集することを抑制でき、粒径が小さい微粒子を生成することが可能になる。
【0005】
微粒子を製造する際には、予め界面活性剤を添加した溶媒中にバルクを配置し、このバルクにレーザを照射して微粒子を発生させる。そして、得られた微粒子を溶媒から取り出し、微粒子に含まれる界面活性剤を洗浄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−230699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記製造方法では、上述のように、レーザアブレーションによって微粒子を生成した後、微粒子を洗浄して界面活性剤を除去する必要があるため、工程数が多くかかるという問題がある。
また、上記製造方法においては、界面活性剤の種類や濃度を、作成しようとする微粒子ごとに調整する必要があり、調整しても必ずしも安定な微粒子を作成できるとは限らない。特に、複数の元素からなる微粒子の場合は、界面活性剤の調整等をしても、微粒子に含まれる元素の組成比はターゲットとなるバルクの組成と一致するとは限らないという問題がある。そのため、作成する微粒子の種類ごとに界面活性剤の調整等をする必要がなく、汎用性が高い微粒子の製造方法が望まれている。
【0008】
また、上記微粒子の製造方法においては、微粒子の製造量(収率)があまり高くないという問題もある。そのため、微粒子の収率を高めることが望まれている。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、界面活性剤を添加する必要がなく、収率が高く、かつ汎用性が高い微粒子の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、界面活性剤が添加されていない溶媒中に配置した金属又は金属酸化物のバルクにレーザを照射することにより、レーザアブレーションによって上記金属又は上記金属酸化物の微粒子を製造する方法であって、
上記微粒子を担持する担体粒子を上記溶媒中に予め分散させた状態で、上記バルクに上記レーザを照射することを特徴とする微粒子の製造方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
上記微粒子の製造方法においては、溶媒中に予め担体粒子を分散させた状態で、バルクにレーザを照射する。そのため、レーザアブレーションによって発生した微粒子を、担体粒子の表面に担持させることができる。したがって、発生した微粒子は溶媒内を単独で運動しにくくなり、微粒子同士が衝突して凝集することを抑制することができる。そのため、溶媒に界面活性剤を添加する必要がなくなり、微粒子を生成した後、洗浄して界面活性剤を除去する工程を行わなくてもすむ。
また、界面活性剤を添加する必要がなくなれば、従来のように、微粒子の種類ごとに界面活性剤の種類や濃度を調整する必要がなくなり、製造方法の汎用性を高めることが可能になる。
【0012】
また、上記製造方法によれば、微粒子の収率を向上させることができる。これは、レーザアブレーションによってバルクから溶媒中に分散した原子が、微粒子になってすぐに担体粒子に担持されるため、原子がバルクに再吸着することを抑制できるためと考えられる。
【0013】
また、微粒子は一般に、他の物体の表面に担持させて使用することが多い。従来の微粒子の製造方法では、微粒子のみを製造するため、この微粒子を他の物体に担持させる工程を行う必要がある。これに対して上記製造方法では、微粒子を、担体粒子に担持された状態で取り出すことができるため、従来のように微粒子を他の物体に担持させる工程は必要なく、得られた粒子(担体粒子と微粒子との複合粒子)をそのまま使用することができる。
【0014】
以上のごとく、本発明によれば、界面活性剤を添加する必要がなく、収率が高く、かつ汎用性が高い微粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1〜3における、微粒子の製造方法の概念図。
図2】実施例1によって得た複合粒子のTEM写真。
図3図2の拡大写真。
図4】実施例1によって得た複合粒子のXRD分析結果。
図5】実施例2によって得た複合粒子のTEM写真。
図6図5の拡大写真。
図7】実施例2によって得た複合粒子のXRD分析結果。
図8】実施例3によって得た複合粒子のTEM写真。
図9】実施例3によって得た複合粒子のXRD分析結果。
図10】比較例1によって得た微粒子のTEM写真。
図11】比較例1によって得た微粒子の、図10とは別のTEM写真。
図12】比較例2によって得た微粒子のTEM写真。
図13】比較例2によって得た微粒子の、図12とは別のTEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記微粒子の製造方法において、上記バルクは2種類以上の金属元素を含有することが好ましい(請求項2)。
この場合には、バルクの金属元素の組成に近い組成の微粒子を得ることができる。すなわち、従来のように、レーザアブレーションを行う際に溶媒中に担体粒子を分散させない場合は、得られた微粒子の組成とバルクの組成とが、大きく異なることが多い。しかしながら、上述のように、溶媒中に担体粒子を予め分散させた状態でレーザアブレーションを行い、生成した微粒子を担体粒子に担持させれば、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を得ることができる。
これは、以下の理由によると考えられる。すなわち、レーザアブレーションによってバルクから溶媒中に分散した原子には、バルクに再吸着しやすい種類の元素と再吸着しにくい種類の元素とがある。溶媒中に予め担体粒子を分散させておくと、原子が微粒子になってすぐに担体粒子に担持されるため、特定の種類の元素だけバルクに再吸着することを抑制できる。そのため、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を得ることができると考えられる。
【0017】
また、上記バルクはNiを含有することが好ましい(請求項3)。
この場合には、Niを含有する微粒子を得ることができる。Niを含有する微粒子は、例えば、炭化水素の水蒸気改質触媒、部分酸化触媒、排ガス浄化触媒等の触媒として好適に利用することができる。
【0018】
また、上記担体粒子は、酸化物の粒子であることが好ましい(請求項4)。
酸化物は耐熱性に優れているため、酸化物からなる担体粒子に微粒子を担持させることにより、得られた粒子(担体粒子と微粒子との複合粒子)を、温度が高い場所でそのまま使用することが可能になる。例えば上記複合粒子を、温度が高い場所において、触媒として使用することができる。
【0019】
また、上記溶媒は水であることが好ましい(請求項5)。
水は、レーザによって分解する等の問題がないため、レーザアブレーションを行う際の溶媒として好適に用いることができる。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
上記微粒子の製造方法に係る実施例について、図1を用いて説明する。本例では図1に示すごとく、ビーカー10に、担体粒子4を分散させた溶媒2を入れ、この溶媒2中に金属からなるバルク3を浸漬配置する。このように、溶媒2中に担体粒子4を予め分散させた状態で、バルク3にレーザLを照射し、微粒子1を発生させる。微粒子1は、溶媒2中において担体粒子4の表面に担持され、複合粒子5になる。
【0021】
本例では、上記担体粒子として粒径10〜20nmのSiO粒子を用いた。このSiO粒子を溶媒(水)に分散させ、濃度を2.0w%にした。溶媒には、界面活性剤を添加しなかった。また、バルクとして、組成比1:1のNiMoを用いた。このバルクに、波長1064nmの近赤外線パルスレーザを照射してレーザアブレーションを行った。これにより、NiMo微粒子を生成し、この微粒子をSiO粒子に担持させた。その後、フリーズドライによって溶媒を乾燥除去し、SiO粒子にNiMo微粒子を担持させた複合粒子を得た。
その後、得られた複合粒子を、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影して微粒子が生成されていることを確認すると共に、X線回折法(XRD)を用いて、微粒子にバルク中の金属元素が含まれていることを確認した。また、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて、微粒子の組成を分析した。
【0022】
なお、バルク表面に加わるレーザのエネルギーは100mJ/puls/1mmφとした。
【0023】
(実施例2)
次に、実施例1に対してバルクの金属を変更した実施例の説明をする。本例では担体粒子として、実施例1と同様に、粒径10〜20nmのSiO粒子を用いた。このSiO粒子を溶媒(水)に分散させ、濃度を2.0w%にした。溶媒には、界面活性剤を添加しなかった。また、バルクとして、組成比2:1のNiCrを用いた。そして、実施例1と同じ条件のレーザを使ってレーザアブレーションを行った。これにより、NiCr微粒子を生成し、このNiCr微粒子をSiO粒子に担持させた。その後、フリーズドライによって溶媒を乾燥除去し、SiO粒子にNiCr微粒子を担持させた複合粒子を得た。
この複合粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、XRD及びEDXを用いて分析を行った。
【0024】
(実施例3)
次に、実施例1に対して担体粒子及びバルクを変更した実施例の説明をする。本例では、担体粒子として、Al粒子を用いた。このAl粒子を溶媒(水)に分散させ、濃度を2.0w%にした。溶媒には、界面活性剤を添加しなかった。また、バルクとして、組成比2:1のNiCrを用いた。そして、実施例1と同じ条件のレーザを使ってレーザアブレーションを行った。これにより、NiCr微粒子を生成し、このNiCr微粒子をAl粒子に担持させた。その後、フリーズドライによって溶媒を乾燥除去し、Al粒子にNiCr微粒子を担持させた複合粒子を得た。
この複合粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、XRD及びEDXを用いて分析を行った。
【0025】
(比較例1)
本例では、溶媒(水)に担体粒子を分散させなかった。また、溶媒に界面活性剤を添加した。そして、水に、組成比1:1のNiMoからなるバルクを浸漬配置し、実施例1と同じ条件のレーザを照射してレーザアブレーションを行った。これにより、NiMo微粒子を作成した。そして、微粒子を洗浄して界面活性剤を除去した後、フリーズドライによって微粒子を乾燥した。
得られたNiMo微粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、EDXによる分析を行った。
【0026】
(比較例2)
本例では、比較例1と同様に、溶媒(水)に担体粒子を分散させなかった。また、溶媒に界面活性剤を添加した。そして、水に、組成比2:1のNiCrからなるバルクを浸漬配置し、実施例1と同じ条件のレーザを照射してレーザアブレーションを行った。これにより、NiCr微粒子を作成した。そして、微粒子を洗浄して界面活性剤を除去した後、フリーズドライによって微粒子を乾燥した。
【0027】
得られたNiCr微粒子を、実施例1と同様に、3.8%水素雰囲気の下、800℃で2時間焼成して、微粒子を結晶化させた。そして、TEM写真を撮影すると共に、EDXによる分析を行った。
上記実施例1〜3と比較例1、2の条件を、下記表1にまとめる。
【0028】
【表1】
【0029】
(解析結果)
実施例1によって得られた複合粒子5のTEM写真を図2に示す。図2に撮影されている黒い粒子がNiMo微粒子であり、その他はSiOである。また、図3に、NiMo微粒子の拡大写真を示す。これらの図から分かるように、実施例1によって得られたNiMo微粒子は、その粒径が比較的小さい。すなわち、実施例1のように、レーザアブレーションを行う際に担体粒子を予め分散させておくことにより、界面活性剤を添加しなくても、微粒子の凝集を抑制できることが分かる。
【0030】
実施例1のXRD分析結果を図4に示す。同図に示すごとく、複合粒子を乾燥した直後は、微粒子が結晶化していないため、XRDのピークが現れない。この後、600℃又は800℃で2時間焼成することにより、微粒子が結晶化され、XRDのピークが現れるようになる。このピークから、微粒子にはNiMoが含まれていることを確認できる。
実施例1によって得られた複合粒子のEDX分析結果を、下記表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すごとく、微粒子に含まれるNiとMoの組成比は、平均して42.5:57.5であった。これは、バルクの組成比である1:1(50:50)と略等しい。この分析結果から、実施例1を行うことによって、バルクの組成と略同じ組成の微粒子を得ることができることが分かる。
【0033】
次に、実施例2によって得られた複合粒子のTEM写真を図5に示す。図5に撮影されている黒い粒子がNiCr微粒子であり、その他はSiOである。また、NiCr微粒子の拡大写真を図6に示す。これらの図から分かるように、実施例2によって得られたNiCr微粒子は、その粒径が比較的小さい。すなわち、実施例2のように、レーザアブレーションを行う際に担体粒子を予め分散させておくことにより、界面活性剤を添加しなくても、微粒子の凝集を抑制できることが分かる。
【0034】
実施例2のXRD分析結果を図7に示す。同図に示すごとく、複合粒子を乾燥した直後は、微粒子が結晶化していないため、XRDのピークが現れない。この後、800℃で2時間焼成することにより、微粒子が結晶化され、XRDのピークが現れるようになる。このピークから、微粒子にはNiが含まれていることを確認できる。
なお、NiCrは、NiへのCr固溶体であり、NiCrという化合物は存在しないため、NiCrのピークは現れず、Niのピークが現れる。
実施例2によって得られた複合粒子のEDX分析結果を、下記表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
表3に示すごとく、微粒子に含まれるNiとCrの組成比は、平均して72.8:27.3であった。これは、バルクの組成比である2:1(66.6:33.3)と略等しい。この分析結果から、実施例2を行うことにより、バルクの組成と略同じ組成の微粒子を得ることができることが分かる。
【0037】
次に、実施例3によって得られた複合粒子のTEM写真を図8に示す。図8に撮影されている黒い粒子がNiCr微粒子であり、その他はAlである。図8から分かるように、実施例3によって得られたNiCr微粒子は、その粒径が比較的小さい。すなわち、実施例3のように、レーザアブレーションを行う際に担体粒子を予め分散させておくことにより、界面活性剤を添加しなくても、微粒子の凝集を抑制できることが分かる。
【0038】
実施例3のXRD分析結果を図9に示す。同図において、Niのピークは明確には現れていないが、これはAlのピークにNiのピークが重なってしまうためであり、実際にはNiのピークが生じていると考えられる。
実施例3によって得られた複合粒子のEDX分析結果を、下記表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
表4に示すごとく、微粒子に含まれるNiとCrの組成比は、平均して71.8:28.3であった。これは、バルクの組成比である2:1(66.6:33.3)と略等しい。この分析結果から、実施例3を行うことにより、バルクの組成と略同じ組成の微粒子を得ることができることが分かる。
【0041】
次に、比較例1によって得られた微粒子のTEM写真を図10図11に示す。同図に撮影されている黒い粒子がNiMo微粒子である。図10図11から分かるように、比較例1によって得られたNiMo微粒子は、実施例1〜3によって得られた微粒子と比較して、その粒径が大きい。
比較例1によって得られた微粒子のEDX分析結果を、下記表5に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表5に示すごとく、微粒子に含まれるNiとMoの組成比は、平均して30.3:69.8であった。この組成比は、バルクの組成比である1:1(50:50)とは大きく異なっており、Niが減少していることが分かる。この分析結果から、比較例1を行っても、バルクの組成と略同じ組成を有する微粒子を形成できないことが分かる。
【0044】
次に、比較例2によって得られた微粒子のTEM写真を図12図13に示す。同図に撮影されている黒い粒子がNiCr微粒子である。図12図13から分かるように、比較例2によって得られたNiCr微粒子は、実施例1〜3によって得られた微粒子と比較して、その粒径が大きい。
比較例2によって得られた微粒子のEDX分析結果を、下記表6に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
表6に示すごとく、比較例2の微粒子に含まれるNiとCrの組成比は、実施例2、3(表3、表4参照)と比べて、ばらつきが大きい。そのため、比較例2では、微粒子に含まれるNiとCrの組成比の均一性が低いことが分かる。
【0047】
次に、実施例1、2および比較例1、2における、微粒子の生成量を下記表7に示す。
【0048】
【表7】
【0049】
表7に示すごとく、溶媒に予め担体粒子(SiO粒子)を添加した実施例1、2では、担体粒子を添加していない比較例1、2よりも、微粒子の収率が高いことが分かる。
【0050】
上述のごとく、実施例1〜3によって、溶媒に界面活性剤を添加しなくても微粒子を製造でき、また、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を製造できることを確認できた。
界面活性剤を添加する必要がないのは、以下の理由による。すなわち、図1に示すごとく、実施例1〜3では、溶媒2中に予め担体粒子4を分散させた状態でバルク3にレーザを照射するため、レーザアブレーションによって発生した微粒子1を担体粒子4の表面に担持させることができる。そのため、微粒子1は溶媒2内を単独で運動しにくくなり、微粒子1同士が衝突して凝集することを抑制することができる。したがって、溶媒2に界面活性剤を添加する必要がなくなり、微粒子1を生成した後、洗浄して界面活性剤を除去する工程を行わなくてもすむ。
【0051】
また、実施例1〜3では、微粒子の収率を向上させることができる。これは、レーザアブレーションによってバルクから溶媒中に分散した原子が、微粒子になってすぐに担体粒子に担持されるため、原子がバルクに再吸着することを抑制できるためと考えられる。
【0052】
また、微粒子は一般に、他の物体の表面に担持させて使用することが多い。従来の微粒子の製造方法では、微粒子のみを製造するため、この微粒子を他の物体に担持させる工程を行う必要がある。これに対して実施例1〜3では、微粒子を、担体粒子に担持された状態で取り出すことができるため、従来のように微粒子を他の物体に担持させる工程は必要なく、得られた複合粒子をそのまま使用することができる。
【0053】
実施例1〜3では、レーザアブレーションを行う際に、溶媒に予め担体粒子を分散させておくことが重要であり、上記比較例1、2において説明したように、溶媒に担体粒子を分散させない場合は、微粒子の凝集を防ぐために界面活性剤を添加する必要が生じる。そのため、比較例1、2では、微粒子を生成した後、洗浄して界面活性剤を除去する工程が必要になる。
【0054】
また、仮に、溶媒に担体粒子を分散させずにレーザアブレーションを行い、微粒子を生成した後で、溶媒に担体粒子を混合しても、本発明の効果は得られない。この場合は、担体粒子を混合する前に微粒子が凝集してしまうため、界面活性剤を添加する必要が生じる。
【0055】
また、実施例1〜3では、2種類以上の金属元素を含有するバルクを用いて、レーザアブレーションを行う。溶媒に担体粒子を分散させた状態でレーザアブレーションをする場合は、2種類以上の金属元素を含有するバルクを用いることにより、バルクの金属元素の組成に近い組成の微粒子を得ることができる(上記表2〜表4参照)。
ここで仮に、溶媒に担体粒子が分散していない状態でレーザアブレーションを行うと、得られた微粒子の組成とバルクの組成とが、大きく異なることがある(上記表5参照)。しかしながら、実施例1〜3のように、溶媒に担体粒子を分散させた状態でレーザアブレーションを行えば、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を得ることができる。
これは、以下の理由によると考えられる。すなわち、レーザアブレーションによってバルクから溶媒中に分散した原子には、バルクに再吸着しやすい種類の元素と再吸着にくい種類の元素とがある。溶媒中に予め担体粒子を分散させておくと、原子が微粒子になってすぐに担体粒子に担持されるため、特定の種類の元素だけバルクに再吸着することを抑制できる。そのため、バルクの組成と大きく変わらない組成の微粒子を得ることができると考えられる。
【0056】
また、実施例1〜3では、Niを含有するバルクを用いる。そのため、Niを含有する微粒子を得ることができる。Niを含有する微粒子は、炭化水素の水蒸気改質触媒、部分酸化触媒、排ガス浄化触媒等の触媒として好適に利用することができる。
【0057】
また、実施例1〜3では、担体粒子として、酸化物の粒子を用いる。酸化物は耐熱性に優れているため、酸化物からなる担体粒子に微粒子を担持させることにより、得られた複合粒子を、温度が高い場所でそのまま使用することが可能になる。したがって、例えば複合粒子を、温度が高い場所において、触媒として好適に使用することができる。
【0058】
なお、担体粒子としては、上記実施例で用いたSiOやAlの他に、ZrO、CeO、ゼオライト、TiO、Feの粒子を用いることができる。また、担体粒子として、硫酸バリウムの粒子を用いてもよい。
【0059】
また、実施例1〜3では、溶媒として水を使用している。水は、レーザによって分解する等の問題がないため、レーザアブレーションを行う際の溶媒として好適に用いることができる。
なお、レーザの条件やバルクの種類によっては、溶媒として有機溶媒を用いてもよい。
【0060】
以上のごとく、本例(実施例1〜3)によれば、界面活性剤を添加する必要がなく、収率が高く、かつ汎用性が高い微粒子の製造方法を提供することができる。
【0061】
なお、上記実施例では、金属からなるバルクを用いたが、金属酸化物からなるバルクを用いてもよい。この場合、レーザアブレーションを行うことにより、金属酸化物の微粒子を製造することができる。また、金属からなるバルクを用いた場合でも、金属の種類によっては、金属酸化物の微粒子を製造することもできる。例えば、Tiのバルクを用いた場合は、水中に分散したTi原子が水の酸素原子と反応するため、TiOの微粒子を得ることができる。
【0062】
また、金属や金属酸化物以外のバルクを用いることもできる。例えば、有機化合物からなるバルクを用いることができる。この場合、担体粒子を分散させた溶媒に、有機化合物からなるバルクを浸漬配置し、このバルクにレーザを照射してレーザアブレーションを起こさせることになる。そして、生成した有機化合物の微粒子を、担体粒子に担持させる。このようにすると、有機化合物の微粒子同士が凝集することを抑制でき、溶媒に界面活性剤を添加する必要がなくなる。
【符号の説明】
【0063】
1 微粒子
2 溶媒
3 バルク
4 担体粒子
5 複合粒子
L レーザ
図1
図4
図7
図9
図2
図3
図5
図6
図8
図10
図11
図12
図13