(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1〜3に開示された従来の製造方法により製造されたε−Fe
2O
3もしくはFeを一部置換したεタイプの鉄系酸化物は、優れた磁気特性を有するものであるが、製造条件によっては、保磁力分布にバラツキが観察される場合があった。本発明者等が鋭意研究を行ったところ、従来法により製造されたε−Fe
2O
3もしくはFeを一部置換したεタイプの鉄系酸化物は粒度分布が広く、その平均粒径と比較して非常に微細な粒子を多量に含むものであり、この微細粒子は保磁力が小さく、磁気記録媒体に使用した場合、記録密度を高めることに寄与しないものであることが判明した。
【0007】
具体的には、従来法により得られた磁性粉について測定した磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)を数値微分して得られる曲線(以下、微分B−H曲線と呼ぶ。)には、二つのピークが観察される。これらのピークのうち、印加磁場が高い位置に現れるピーク、すなわち高Hc成分に対応する磁性粉は磁気記録に寄与するが、印加磁場が低い位置に現れるピーク、すなわち低Hc成分に対応する磁性粉は磁気記録に寄与しないものであると考えられる。本発明者等の検討により、前記の微細粒子の含有量が減少すると、微分B−H曲線の低Hc成分のピークが低下することが確認されている。
【0008】
この微細粒子のHcが低い理由については、現在のところ不明であるが、αタイプの鉄系酸化物やγタイプの鉄系酸化物等の様な、εタイプの鉄系酸化物にとっての異相を含むためか、粒子径が小さいため超常磁性を示すためか、いずれかであろうと推定される。
いずれにしても、前記の微細粒子は鉄系酸化物磁性粒子粉の磁気特性向上に寄与しないものなので、その含有量を減少させる必要があることが判明した。すなわち、本発明において解決すべき技術課題とは、粒度分布が狭く、特に前記低Hc成分となる微細粒子の含有量が少なく、その結果として保磁力分布が狭く、磁気記録媒体の高記録密度化に適した鉄系酸化物磁性粒子粉および鉄系酸化物磁性粒子粉の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したように、特許文献1〜3には、ε−Fe
2O
3もしくはFeを一部置換したεタイプの鉄系酸化物の前駆体であるオキシ水酸化鉄(一部置換体を含む)の製造方法として、有機溶媒を用いる方法と水のみを反応溶媒とする方法が開示されているが、経済的な観点からは、高価な有機溶媒を使用せず、水溶液系で前駆体を合成することが好ましい。Fe
3+イオンを出発物質として水溶液中で酸化鉄、オキシ水酸化鉄を合成する場合、例えば「共沈法によるシュベルトマナイトと各種陰イオン置換体の合成−FeOOH鉱物の生成における陰イオンの役割−」,井上厚行,八田珠郎,粘土科学,第45巻,第4号,250−265(2006)に記載されているように、共存するアニオン種によりその結晶系が変化することが知られている。
【0010】
ε−Fe
2O
3もしくはFeを一部置換したεタイプの鉄系酸化物の製造方法において、前駆体のオキシ水酸化鉄(一部置換体を含む)をシリカで被覆して熱処理するのは、前駆体を一種の拘束状態に置き、熱処理時の結晶格子の自由変形を妨げることにより、熱力学的な不安定相を作り出すものである。したがって、最終的に得られるε−Fe
2O
3粒子の結晶構造は、前駆体粒子の結晶構造の影響を受けるものと考えられる。
その考えに基づき、発明者等が検討を行ったところ、前駆体生成に際して、一度Fe
3+の水酸化物コロイドの状態を経由すると、前駆体粒子の粒度分布が狭くなり、その効果は水酸化物コロイドを安定化するヒドロキシカルボン酸の存在により強められることが判明した。また、前駆体としてフェリハイドライト(ferrihydrite、Fe
5O
7(OH)・4H
2O)と同じ結晶構造を有するオキシ水酸化鉄、または、そのFe元素の一部置換体を含んでいると、最終的に得られる鉄系酸化物磁性粒子粉の保磁力分布が狭くなることも判明した。
以上の知見を基に、本発明者等は、以下に述べる本発明を完成させた。
なお、上記括弧中に示したフェリハイドライトの組成は理想的なもので、実際にはある程度の組成の揺らぎを持っている。
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明においては、
透過電子顕微鏡で測定した平均粒子径が10nm以上30nm以下であるε−Fe
2O
3のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した鉄系酸化物磁性粒子粉であって、下記の定義に従うI
LおよびI
Hを用いて算出されるI
L/I
Hの値が0.7以下、好ましくは0.53以下である鉄系酸化物磁性粒子粉が提供される。
ここでI
Hは、印加磁界1035kA/m(13kOe)、M測定レンジ0.005A・m
2(5emu)、ステップビット80bit、時定数0.03sec、ウエイトタイム0.1secの条件下で測定して得られたB−H曲線を数値微分して得られる微分B−H曲線において高磁場側に現れるピークの強度である。またI
Lは、前記微分B−H曲線のゼロ磁場における縦軸の切片の強度である。
【0012】
この鉄系酸化物は、ε−A
xB
yC
zFe
2-x-y-zO
3(ただし、AはCo、Ni、Mn、Znから選択される1種以上の2価の金属元素、BはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素で、0<x、y、z<1)であることが好ましい。
また、この鉄系酸化物は、ε−B
yC
zFe
2-y-zO
3(ただし、BはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素で、0<y、z<1)であっても良い。
また、この鉄系酸化物は、ε−C
zFe
2-zO
3(ただし、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素で、0<z<1)であっても良い。
これらの鉄系酸化物において、0≦x、y≦0.2、0.15≦z≦0.60であることがさらに好ましい。ここでxおよびyの両方が0の場合はFeサイトを置換する金属元素が一種類の一元素置換タイプ、xのみ0の場合は二元素置換タイプ、x、yおよびzがいずれも0ではない場合は三元素置換タイプを意味する。
【0013】
本発明においてはまた、透過電子顕微鏡で測定した平均粒子径が10nm以上30nm以下であるε−Fe
2O
3のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した鉄系酸化物、好ましくは前記のI
L/I
Hの値が0.7以下、好ましくは0.53以下である鉄系酸化物磁性粒子粉の製造方法であって、出発物質として3価の鉄イオンと前記Feサイトを一部置換する金属のイオンを含む水溶液を用い、その水溶液にアルカリを加えてpHをpH1.5以上2.5以下まで中和した後、水溶液にヒドロキシカルボン酸、好ましくは酒石酸、クエン酸およびリンゴ酸の1種または2種、を添加し、さらにアルカリを添加してpHをpH8.0以上9.0以下まで中和し、生成した置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄の析出物を水洗した後、当該置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄にシリコン酸化物を被覆して加熱することにより、シリコン酸化物を被覆した置換金属元素を含む酸化鉄を得る鉄系酸化物磁性粒子粉の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明においては、前記の水洗後の置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄に120℃以上180℃以下で水熱処理を施す製造方法が提供される。
また、上述の製造方法により得られた置換金属元素を含む酸化鉄を被覆しているシリコン酸化物を除去した後に分級すると、粒度分布および保磁力分布が狭くなるため、得られる鉄系酸化物磁性粒子粉の磁気記録特性がより向上する。
【0015】
本発明により製造される鉄系酸化物磁性粒子粉としては、磁性粒子としてε−A
xB
yC
zFe
2-x-y-zO
3(ただし、AはCo、Ni、Mn、Znから選択される1種以上の2価の金属元素、BはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素で、0<x、y、z<1、もしくは0≦x≦0.04、0≦y≦0.10、0.15≦z≦0.60)を含むものであっても構わない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法を用いることにより、粒度分布が狭く、特に磁気記録特性向上に寄与しない微細粒子の含有量が少なく、その結果として保磁力分布が狭く、磁気記録媒体の高記録密度化に適した鉄系酸化物磁性粒子粉を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[鉄系酸化物磁性粒子]
本発明の製造方法は、ε−Fe
2O
3のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した鉄系酸化物磁性粒子粉を製造するためのものであり、当該磁性粒子以外に、その製造上不可避的な異相が混在する場合を含む。
ε−Fe
2O
3のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した一部置換体がε構造を有するかどうかについては、X線回折法(XRD)、高速電子回折法(HEED)等を用いて確認することが可能である。
【0019】
本発明の製造方法により製造が可能な一部置換体については、以下が挙げられる。
一般式ε−C
zFe
2-zO
3(ここでCはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素)で表されるもの。
一般式ε−A
xB
yFe
2-x-yO
3(ここでAはCo、Ni、Mn、Znから選択される1種以上の2価の金属元素、BはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素)で表されるもの。
一般式ε−A
xC
zFe
2-x-zO
3(ここでAはCo、Ni、Mn、Znから選択される1種以上の2価の金属元素、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素)で表されるもの。
一般式ε−B
yC
zFe
2-y-zO
3(ここでBはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素)で表されるもの。
一般式ε−A
xB
yC
zFe
2-x-y-zO
3(ここでAはCo、Ni、Mn、Znから選択される1種以上の2価の金属元素、BはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素)で表されるもの。
【0020】
ここでC元素のみで置換したタイプは、磁性粒子の保磁力を任意に制御出来ることに加え、ε−Fe
2O
3と同じ空間群を得易いという利点を有するが、熱的安定性にやや劣るので、AまたはB元素で同時に置換することが好ましい。
AおよびBの2元素で置換したタイプは、熱的安定性に優れ、磁性粒子の常温における保磁力を高く維持出来るが、ε−Fe
2O
3と同じ空間群の単一相がやや得にくい。
A、BおよびCの三元素置換タイプは、上述の特性のバランスが最も良く取れたもので、耐熱性、単一相の得易さ、保磁力の制御性に優れるものである。本発明の製造方法は、上述したように、いずれの置換タイプの鉄系酸化物磁性粒子についても適用可能である。
【0021】
C元素のみを置換する場合には0<z<1の値を取ることが可能であるが、既存、および近い将来の磁気ヘッドの書き込み能力を考えると、保磁力の調整が必要となり0.15≦z≦0.60とすることが好ましい。
C元素とともにAまたはB元素を置換する場合には、現時点で機構は不明であるが、B元素を同時に置換した方がI
L/I
Hの値が低くなり好ましい。その場合、0<y、z<1の値を取ることが可能であるが、上述と同じ理由によりzについては0.15≦z≦0.60とすることが好ましく、yについては高い飽和磁化σsを維持するために0<y≦0.1とすることが好ましく、0.001≦y≦0.1とすることがより好ましい。
さらに、C元素、B元素に加え、A元素を加えた三元素置換体においては、I
L/I
Hを悪化させない程度にA元素を加えることで、飽和磁化σsをより改善することが可能となり好ましい。
【0022】
三元素置換体の置換量x、yおよびzの好適な範囲は、以下の通りである。
xおよびyは、0<x、y<1の任意の範囲を取ることが可能であるが、磁気記録用途を考えると、三元素置換体の磁性粒子の保磁力を無置換のε−Fe
2O
3のそれとはある程度変化させる必要があるので、0.01≦x、y≦0.2とすることが好ましい。zも、x、yと同様に0<z<1の範囲であれば良いが、保磁力制御および単一相の得易さの観点から、0<z≦0.5の範囲とすることが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法により得られるFeサイトの一部を置換した磁性粒子は、yまたはxおよびyの値を適度に調整することにより常温で高い保磁力を維持することが可能であり、さらに、x、yおよびzを調整することにより保磁力を所望の値に制御することが可能である。
【0024】
[平均粒子径]
本発明の製造方法により得られる磁性粒子は、各粒子が単磁区構造となる程度に微細であることが好ましい。その透過電子顕微鏡で測定した平均粒子径が30nm以下であることが好ましく、より好ましくは20nm以下である。しかし、平均粒子径が小さくなり過ぎると、上述した磁気特性向上に寄与しない微細粒子の存在割合が増大し、磁性粒子粉単位重量当たりの磁気特性が劣化するので、10nm以上であることが好ましい。
【0025】
[出発物質および前駆体]
本発明の製造方法においては、鉄系酸化物磁性粒子粉の出発物質として3価の鉄イオンと最終的にFeサイトを置換する金属元素の金属イオンを含む酸性の水溶液(以下、原料溶液と言う。)を用いる。これらの鉄イオンもしくは置換元素の金属イオンの供給源としては、入手の容易さおよび価格の面から、硝酸塩、硫酸塩、塩化物の様な水溶性の無機酸塩を用いることが好ましい。これらの金属塩を水に溶解すると、金属イオンが解離し、水溶液は酸性を呈する。この金属イオンを含む酸性水溶液にアルカリを添加して中和すると、オキシ水酸化鉄と置換元素の水酸化物の混合物、もしくは、Feサイトの一部を他の金属元素で置換されたオキシ水酸化鉄が得られる。本発明の製造方法においては、これらのオキシ水酸化鉄と置換元素の水酸化物の混合物を鉄系酸化物磁性粒子粉の前駆体として用いる。
【0026】
原料溶液中の全金属イオン濃度は、本発明では特に規定するものではないが、0.01mol/L以上0.5mol/L以下が好ましい。0.01mol/L未満では1回の反応で得られる鉄系酸化物磁性粒子粉の量が少なく、経済的に好ましくない。全金属イオン濃度が0.5mol/Lを超えると、急速な水酸化物の沈澱発生により、反応溶液がゲル化しやすくなるので好ましくない。
【0027】
一般に、液相法により生成するオキシ水酸化鉄の結晶構造は、水溶液中で共存するアニオン種および中和条件により変化することが知られている。本発明者等の検討によると、鉄系酸化物磁性粒子粉の前駆体のオキシ水酸化鉄として、フェリハイドライト構造のものを含むと、最終的にεタイプの鉄系酸化物が得易いことが判明した。
【0028】
フェリハイドライト構造のオキシ水酸化物を経由するとεタイプの鉄系酸化物が得易い理由は現在のところ不明であるが、フェリハイドライトは、O
2-とOH
-の六方最密充填配列と立方最密充填配列をなす層が不規則に積層し、Fe八面体の一部が欠落した欠陥の多い構造であり、これにシリコン酸化物を被覆して拘束条件下で熱処理した際に、εタイプの鉄系酸化物に変化し易いものと推定される。さらに、ε−Fe
2O
3のFeサイトの一部を他の金属元素で置換するために、Fe以外の他元素を加えた際にも、Feと共沈し易くフェリハイドライト以外の異相が生成し難く、組成均一性、粒子均一性という観点からも好ましいと推定される。
【0029】
なお、フェリハイドライトには、6Line(6L)および2Line(2L)と呼ばれる二つの構造があり、2L構造のフェリハイドライトの方が6L構造のものよりもεタイプの鉄系酸化物に変化し易い。
【0030】
[第一の中和工程]
本発明の製造方法においては、原料溶液にアルカリを添加し、そのpHが1.5以上2.5以下になるまで中和する。中和に用いるアルカリとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類の水酸化物、アンモニア水、炭酸水素アンモニウムなどのアンモニウム塩のいずれであっても良いが、最終的に熱処理してεタイプの鉄系酸化物とした時に不純物が残りにくいアンモニア水や炭酸水素アンモニウムを用いることが好ましい。これらのアルカリは、出発物質の水溶液に固体で添加しても構わないが、反応の均一性を確保する観点からは、水溶液の状態で添加することが好ましい。
【0031】
原料溶液にアルカリを添加してpHを前記の領域まで上昇させると、3価の鉄の水酸化物の沈澱が析出するので、中和処理中は反応溶液を公知の機械的手段により撹拌する。この沈澱生成は一種のオーバーシュート状態なので、反応溶液を撹拌しながらそのpHで保持していると沈澱は解膠し、反応溶液は清澄になる。この保持に必要な時間は、原料溶液の金属イオン濃度や、アルカリの添加速度に依存して変化するが、反応溶液が清澄な状態になるまで保持する。この状態では、反応溶液中の鉄の一部は水酸化物コロイドを形成し、残りは可溶性の鉄イオンとして溶解しており、この鉄の水酸化物コロイドが、第二の中和工程における前駆体生成の核になるものと推定される。
【0032】
なお、本発明の製造方法において、平均粒子径の分布の狭い鉄系酸化物磁性粒子粉が得られるのは、本工程において生成した鉄の水酸化物コロイドの分散性が、解膠以前の水酸化物の沈澱のそれよりも良好であることに起因するものと考えられる。
【0033】
本工程において、中和後のpHが1.5未満では、鉄の水酸化物コロイドがさらに可溶性の鉄イオンとして溶解してしまうので好ましくない。中和後のpHが2.5を超えると、鉄の水酸化物の沈澱が残存し易くなるので、やはり好ましくない。
【0034】
本発明の製造方法においては、中和処理時の反応温度は特に規定するものではないが、0℃以上60℃以下とすることが好ましい。反応温度が0℃未満では水酸化物沈澱の再溶解に要する時間が長くなるので好ましくない。60℃を超えるとフェリハイドライト6Lが生成し、異相(α相)が生成し易いので好ましくない。より好ましくは、10℃以上40℃以下である。
【0035】
本明細書に記載のpHの値は、JIS Z8802に基づき、ガラス電極を用いて測定した。pH標準液は、測定するpH領域に応じた適切な緩衝液を用いて校正したpH計により測定した値をいう。また、本明細書に記載のpHは、温度補償電極により補償されたpH計の示す測定値を、反応温度条件下で直接読み取った値である。
【0036】
[ヒドロキシカルボン酸添加工程]
本発明の製造方法においては、前述した、原料溶液を中和した後保持することにより清澄となった反応溶液に、引き続きヒドロキシカルボン酸を添加する。ヒドロキシカルボン酸とは、分子内にOH基を有するカルボン酸であり、鉄イオンの錯化剤として作用する。ここで、ヒドロキシカルボン酸は、反応溶液中に溶解している3価の鉄イオンと錯体を形成し、次工程で第二の中和処理を行った際の鉄の水酸化物形成反応を遅延させ、結果として生成するオキシ水酸化鉄前駆体微粒子の平均粒子径の分布を狭くする効果を有すると考えられる。
【0037】
ヒドロキシカルボン酸には、グリコール酸、乳酸、各種のヒドロキシ酪酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メバロン酸等、多種類のものが存在するが、錯化能力の観点から多価の脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましく、価格および入手の容易さから酒石酸、クエン酸またはリンゴ酸がより好ましい。
【0038】
ヒドロキシカルボン酸の添加量としては、反応溶液に含まれる3価の鉄イオンの量に対するモル比で0.01以上0.5以下が好ましい。モル比が0.01未満であると、ヒドロキシカルボン酸添加の効果が得られず、モル比が0.5を超えると前述の水酸化物形成反応を遅延させる効果が過大になるので好ましくない。また、ヒドロキシカルボン酸は、反応溶液中の鉄の水酸化物コロイドの表面に吸着し、水酸化物コロイドの分散を安定化させる作用も有するものと推定される。
【0039】
ヒドロキシカルボン酸は、前工程である第一の中和工程の反応温度を特に変化することなく、機械的撹拌の状態で添加すればよい。反応溶液に固体で添加しても構わないが、反応の均一性を確保する観点からは、水溶液の状態で添加することが好ましい。
【0040】
[第二の中和工程]
本発明の製造方法においては、前記のヒドロキシカルボン酸添加後の反応溶液にアルカリをさらに添加し、そのpHが8.0以上9.0以下になるまで中和する。添加するアルカリについては、前記の第一の中和工程と同一である。本工程により、第一の中和工程にて生成したεタイプの鉄系酸化物の前駆体であるオキシ水酸化鉄の核が成長し最終的な前駆体結晶ができる。
【0041】
本工程においては、アルカリの添加により、反応溶液中に存在する3価の鉄イオンがOH
-イオンと反応し、オキシ水酸化鉄が生成するが、その際、分散性に優れた鉄の水酸化物コロイドを析出の核とするため、反応の起こる場所による置換元素を含むオキシ水酸化鉄の不均一な成長が起こらず、平均粒子径の分布の狭い前駆体が得られるものと考えられる。また、反応溶液中に存在する3価の鉄イオンがヒドロキシカルボン酸と錯体を形成しているため、3価の鉄イオンとOH
-イオンとの反応が緩やかに起こるため、結晶成長する個々の置換元素を含むオキシ水酸化鉄微粒子間でもサイズ的に不均一な成長になりにくいものと推定される。
【0042】
本発明の製造工程により、前駆体の置換元素を含むオキシ水酸化鉄としてフェリハイドライトが生成し易い理由については、現在のところ明確になっていないが、水酸化鉄コロイドを生成核とすることと、3価の鉄イオンに配位したヒドロキシカルボン酸がOH
-イオンと置換する反応を経由することの双方が寄与しているものと考えられる。
【0043】
本工程において、中和後のpHが7.5未満では、第一の中和工程にて完全に中和されなかったCoがそのままイオンとして溶液に残留し組成ずれが発生してしまい、また、Coが無駄になってしまうため経済性でも好ましくない。中和後のpHが9.0を超えると、中和の効果が飽和するので、それぞれ好ましくない。
本工程における中和処理時の反応温度も特に規定するものではないが、0℃以上60℃以下とすることが好ましい。反応温度が0℃未満では工業的に厳しくなるので好ましくない。60℃を超えるとフェリハイドライト6Lが生成し易いので好ましくない。より好ましくは、10℃以上40℃以下である。
反応時間はオキシ水酸化鉄の成長速度と経済性の兼ね合いを考慮し、60分以上480分以下程度になる様に反応条件を調整するのが好ましい。
【0044】
[水洗工程]
本発明の製造方法においては、前記までの工程で生成した前駆体のオキシ水酸化鉄は、ヒドロキシカルボン酸添加工程、第二の中和工程を経るに従い、溶液中のイオン強度が高くなり、凝集系となってしまうため好ましくない。そのため、前記工程より得られたスラリーを水洗することにより溶液中のイオン強度を下げ、再び分散状態にする。水洗の方法については、特に規定しないが、本工程での粒子分散性の維持、洗浄均一性、前後工程との繋がり、ハンドリング性などを考慮すると、スラリー状態のまま水洗処理する方法が好ましい。このようなことを考慮すると限外濾過膜、イオン交換膜による水洗が好ましい。限外濾過膜による洗浄の場合、膜は粒子が濾液側に抜けない分画分子量のものを使用し、洗浄終了は濾液の電気伝導率において50mS/m以下、より好ましくは10mS/m以下まで実施することが好ましい。残留イオンが多い場合は異相が生成し易いといった問題がある。
なお、上述した3価の鉄イオン量に対するヒドロキシカルボン酸のモル比が増大すると、上記のスラリーの分散状態が改善する傾向になる。
【0045】
[水熱処理工程]
本発明の製造方法においては、水洗後の置換元素を含むオキシ水酸化鉄に水熱処理を施しても良い。水熱処理を施すと、最終的に得られる鉄系酸化物磁性粒子粉のI
L/I
Hの値と後述するSFD(Switching Field Distribution)が減少し改善する。これは、水熱処理の際に、オストワルド熟成と類似の現象、すなわち置換元素を含むオキシ水酸化鉄結晶の溶解と再析出が生起し、前駆体の結晶性が良好になったことに加え、より組成の均一化が図られたためと推定される。
【0046】
水熱処理は120℃以上180℃以下の温度で、オートクレーブ等の密閉容器を用いて行う。水熱処理温度が120℃未満では、処理の効果が少なく、180℃を超えるとεタイプの酸化鉄とならない前駆体の生成が起きてしまうため、それぞれ好ましくない。水熱処理に用いる溶液は、何も添加しない水洗工程後のスラリーのまま、純水で構わないが、アルカリを添加して常温におけるpHが9以下に調整した水溶液を用いることができる。本発明の製造方法において、水熱処理の時間は特に規定するものではないが、1.0〜6.0時間程度行えば十分な効果が得られる。
【0047】
[シリコン酸化物による被覆工程]
本発明の製造方法においては、前記までの工程で生成した前駆体の置換元素を含むオキシ水酸化鉄は、そのままの状態で熱処理を施してもεタイプの鉄系酸化物に相変化しにくいので、熱処理に先立って置換元素を含むオキシ水酸化鉄結晶にシリコン酸化物被覆を施す。シリコン酸化物の被覆法としては、ゾル−ゲル法を適用することが好ましい。なお、ここでシリコン酸化物とは、化学量論組成のものだけではなく、後述するシラノール誘導体等の非量論組成のものも含む。
【0048】
ゾル−ゲル法の場合、水洗により分散した置換元素を含むオキシ水酸化鉄結晶の水溶液に、加水分解基を持つシリコン化合物、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)や、各種のシランカップリング剤等のシラン化合物を添加して撹拌下で加水分解反応を生起させ、生成したシラノール誘導体によりオキシ水酸化鉄結晶表面を被覆する。また、酸触媒、アルカリ触媒を添加しても構わない。処理時間を考慮すると添加することが好ましい。代表的な例として酸触媒では塩酸、アルカリ触媒ではアンモニアとなる。酸触媒を使用する場合は、置換元素を含むオキシ水酸化鉄粒子が溶解しない量の添加に留める必要がある。その他、無機のシリコン化合物珪酸ソーダ(水ガラス)を使用することも可能である。
【0049】
なお、シリコン酸化物の被覆についての具体的手法は、公知プロセスにおけるゾル−ゲル法と同様とすることができる。例えば、ゾル−ゲル法によるシリコン酸化物被覆の反応温度としては20℃以上60℃以下、反応時間としては1時間以上20時間以下程度である。シリコン酸化物による被覆処理の後、固液分離、乾燥処理を行い、加熱工程前試料となる。ここで、固液分離時には、凝集剤を添加し固液分離しても構わない。
【0050】
[加熱工程]
本発明の製造方法においては、前記のシリコン酸化物で被覆した前駆体の置換元素を含むオキシ水酸化鉄を加熱処理してεタイプの鉄系酸化物を得る。加熱処理前に、洗浄、乾燥の工程を設けても良い。加熱処理は酸化雰囲気中で行われるが、酸化雰囲気としては大気雰囲気で構わない。加熱は概ね700℃以上1300℃以下の範囲で行うことができるが、加熱温度が高いと熱力学安定相であるα−Fe
2O
3(ε−Fe
2O
3からすると不純物である)が生成し易くなるので、好ましくは900℃以上1200℃以下、より好ましくは950℃以上1150℃以下で加熱処理を行う。熱処理時間は0.5時間以上10時間以下程度の範囲で調整可能であるが、2時間以上5時間以下の範囲で良好な結果が得られやすい。なお、粒子を覆うシリコン含有物質の存在がαタイプの鉄系酸化物への相変化ではなくεタイプの鉄系酸化物への相変化を引き起こす上で有利に作用するものと考えられる。またシリコン酸化物被覆は、置換元素を含むオキシ水酸化鉄結晶同士の加熱処理時の焼結を防止する作用を有する。
【0051】
以上の工程により、原料溶液が金属イオンとして3価の鉄イオンと鉄サイトを置換するための金属元素を含む場合には一部置換型のε−Fe
2O
3結晶がシリコン酸化物を被覆した状態で得られる。加熱処理後に得られる粉末には、εタイプの鉄系酸化物結晶以外に、不純物としてαタイプの鉄系酸化物、γタイプの鉄系酸化物、Fe
3O
4結晶が存在する場合もあるが、それらを含めて鉄系酸化物磁性粒子粉と呼ぶ。
【0052】
本発明の製造方法により得られる鉄系酸化物磁性粒子粉は、シリコン酸化物を被覆した状態で用いることも可能であるが、用途によっては表面を被覆しているシリコン酸化物を後述の工程により除去した状態で用いることも可能である。
【0053】
[シリコン酸化物被覆除去工程]
鉄系酸化物磁性粒子粉がシリコン酸化物による被覆を必要としない場合、または、鉄系酸化物磁性粒子粉の磁気記録特性向上のために分級を行う場合はそれに先立って、ε−Fe
2O
3結晶を被覆しているシリコン酸化物を除去する。塗布型磁気記録媒体用途においては、テープに塗布された磁性粒子に磁場配向処理を行う必要があること、また、シリコン酸化物を被覆した状態では、非磁性成分であるシリコン酸化物が増えてしまうためテープ単位面積当たりの磁化量が落ちてしまうため(テープからの信号が弱くなってしまう。)、被覆しているシリコン酸化物を後述の工程により除去した状態にすることが好ましい。具体的な方法としては、シリコン酸化物は、アルカリ性の水溶液に可溶なので、加熱処理後の粉末をNaOHやKOHなどの強アルカリを溶解させた水溶液中に浸漬し、撹拌することにより溶解・除去できる。溶解速度を上げる場合は、アルカリ水溶液を加温するとよい。代表的には、NaOHなどのアルカリをシリコン酸化物に対して3倍モル以上添加し、水溶液温度が60℃以上70℃以下の状態で、粉末を撹拌すると、シリコン酸化物を良好に溶解することができる。シリコン酸化物被覆除去の程度は、目的に応じて適宜調整する。
除去後は、次工程における良好な分散性を確保するため、濾液の電気伝導率が≦50mS/mになるまで不要イオンを水洗する必要がある。
【0054】
[分級工程]
本発明の製造方法においては、分級工程なしでも塗布型磁気記録媒体用途に適した鉄系酸化物磁性粒子粉が得られるが、分級処理を実施することでより高記録密度化に適した鉄系酸化物磁性粒子粉を得ることができる。分級を実施しない工程により得られた粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真を見ると、耐環境安定性(熱安定性)に劣り、また磁化が弱いと思われる微粒子や、磁気ヘッドの飽和磁束密度以上の保磁力を有していると思われる粗粒等、磁気記録に寄与していない粒子が僅かではあるが存在していることが観察される。
【0055】
具体的な方法として、まず分散処理を行う。シリコン酸化物被覆除去工程が終了したスラリーは凝集系にあるため、このまま分級を実施した場合には分級効率が悪く、微粒子と一緒に粗粒子が除去され、粗粒子と一緒に微粒子が処理されてしまう。また、収率も低くなってしまい経済的でない。分散処理方法としては、pH調整と分散機の組合せによる処理であり、アルカリを添加して分散液のpHを10以上11以下に調整した後、超音波分散機などで分散処理を実施することで濁っていた凝集スラリーが、透明感のある分散スラリーへと変化する。
次に分散スラリーに公知の分級処理を施す。遠心分離による分級の場合には、ねらいとする分級点を回転数、時間などで調整し、磁気記録に寄与しない粒子を除去する。
こうして得られた鉄系酸化物磁性粒子粉では、磁気記録に寄与する粒子割合が増え、より高記録密度化に適した鉄系酸化物磁性粒子粉となる。
【0056】
[透過電子顕微鏡(TEM)観察]
本発明の製造法により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉のTEM観察は、以下の条件で行った。
TEM観察には日本電子株式会社製JEM−1011を使用した。粒子観察については、倍率10,000倍、倍率100,000倍で撮影した後、現像時に3倍引き伸ばしたTEM写真を用いた。(シリコン酸化物被覆を除去後のものを使用)。
平均粒子径、粒度分布評価(変動係数(%))にはデジタイズを使用し、1つの粒子の最も距離の離れた2点間の距離を計測した。個数については300個以上を測定した。
【0057】
[X線回折(XRD)パターンの測定]
得られた試料を粉末X線回折(XRD:リガク社製RINT2000、線源CoKα線、電圧40kV、電流30mA、2θ=10°以上80°以下)に供した。本測定により、前駆体相確認、ε相生成確認、異相確認を行った。
【0058】
[高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)による組成分析]
アジレントテクノロジー製ICP−720ESにより組成分析を行った。測定波長(nm)についてはFe;259.940nm、Ga;294.363nm、Co;230.786nm、Ti;336.122nm、Si;288.158nmにて行った。
【0059】
[磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)の測定]
振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製VSM−5)を用い、印加磁場1035kA/m(13kOe)、M測定レンジ0.005A・m
2(5emu)、ステップビット80bit、時定数0.03sec、ウエイトタイム0.1secで磁気特性を測定した。B−H曲線により、保磁力Hc、飽和磁化σs、SFDについて評価を行い、微分B−H曲線により、磁気記録に寄与しない低Hc成分評価を実施した。また、本測定、評価には東英工業社製付属ソフト(Ver.2.1)を使用した。
本明細書においては、通常の磁気特性以外に、前記の微分B−H曲線の算出を行い、得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の磁気特性をさらに詳細に解析した。具体的な解析方法を、以下に説明する(後述の
図3参照)。
【0060】
液相法により生成したε−Fe
2O
3の一部置換体を含む鉄系酸化物磁性粒子粉についてB−H曲線を測定する際、減磁を終了して外部磁場を増加させて行くと、ゼロ磁場付近にて磁束密度の増加曲線に小さなショルダー(凹み)が存在する。そのため、このB−H曲線を数値微分して得られる微分B−H曲線には、二つのピークが観察される。このことは、鉄系酸化物磁性粒子粉について測定されたB−H曲線が、保磁力Hcの異なる二つのB−H曲線の合成されたものであり、鉄系酸化物磁性粒子粉が磁気特性の異なる二つの成分を含有していることを意味する。
ここで低Hc側の成分は、鉄系酸化物磁性粒子粉を磁気記録媒体に使用した際に、記録密度を高めることに寄与しない成分である。製造条件を変更や分級等の手段により、鉄系酸化物磁性粒子粉中に含まれる平均粒径よりも非常に微細な粒子の存在割合を減少させると、微分B−H曲線の低Hc側のピークの高さが減少することが観察されることから、その微細粒子が低Hc成分であることが判る。
【0061】
今、鉄系酸化物磁性粒子粉を磁気記録媒体に使用することを考えると、微分B−H曲線の0磁場における縦軸の切片をI
L、高Hc側のピーク高さをI
Hとした時、ピーク高さの比I
L/I
Hの値が低いほど、磁気記録に寄与しない粒子が減り、記録密度が増大することになる。本発明の製造方法を用いると、I
L/I
Hの値が0.7以下、好ましくは0.53以下の鉄系酸化物磁性粒子粉が得られる。
【0062】
また、高Hc側のピークの半値幅をHcで割った値は、SFD(Switching Field Distribution)に対応する値であり、半値幅が小さくなる程、鉄系酸化物磁性粒子粉の保磁力分布が狭くなる。本発明の製造方法を用いると、従来の製造方法と比較して、高Hc側のピークの半値幅の小さく、SFDが1.3以下の鉄系酸化物磁性粒子粉が得られる。
【0063】
[磁性塗料の調整]
試料粉末(鉄系酸化物磁性粒子粉)0.31gを秤量し、これをステンレスポット(内径45mm、深さ13mm)に入れる。フタを開けた状態で10分間放置する。次にビヒクル[アセチルアセトン0.25gと、ステアリン酸n−ブチル0.25g、シクロヘキサン97.9mLとの混合溶媒へ、ウレタン樹脂(東洋紡社製UR−8200)34.9gと、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン社製MR−555)15.8gとを溶解したもの]をマイクロピペットで1.11mL採取し、これを前記のポットに添加する。その後直ちにスチールボール(2mm径)30g、ナイロンボール(8mm径)10個をポットに加え、蓋を閉じ10分間静置する。その後、このポットを遠心式ボールミル(FRITSCH P−6)にセットし、5秒間でディスク回転数を600rpmに上昇させた後に、ディスク回転数600rpmで、60分間分散処理を行う。遠心式ボールミルが停止した後、ポットを取り出し、マイクロピペットを使用し、あらかじめ、MEKとトルエンを1:1で混合しておいた調整液を0.70mL添加する。再度遠心式ボールミルにこのポットをセットし、ディスク回転数600rpmで5分間分散処理することにより、塗料を調製する。
【0064】
[磁気シートの作成]
前記の分散を終了した後に、ポットの蓋を開け、ナイロンボールを取り除き、調製された塗料をスチールボールごとアプリケーター(隙間250μm)に入れ、支持フィルム(東レ株式会社製ポリエチレンフィルム:商品名ルミラー)対して塗布を行う。塗布後5秒以内に、磁束密度0.55Tの配向器のコイルの中心に置き、磁場配向させ、そのまま放置し乾燥させる。
【0065】
[磁気ヒステリシス曲線(シートB−H曲線)の測定]
フィルムの磁場配向方向がわかるようにプラスチック板を貼り付けて、ポンチなどで打ち抜いた10mm角の測定ピースを、配向方向と印加磁場方向を合わせてセットし、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−P7−15)を使用して、外部磁場795.8kA/m(10kOe)で、磁性層表面に平行な磁場配向方向の保磁力Hcx(Oe、kA/m)、保磁力分布SFDx、最大エネルギー積BHmax、飽和磁束密度Bs(Gauss)、残留磁束密度Br(Gauss)を測定し、磁場配向方向のSQx(=Br/Bs)を求めた。
塗布型磁気記録媒体の分野では、記録するシステムに適した媒体という観点から、テープ特性として磁場配向方向(x方向と呼ぶ)の角形比(SQx)が大きいことが要求される。その角形比(SQx=Br/Bs)は,磁場配向方向に磁場を印加した際のテープの飽和磁束密度Bsに対するテープの残留磁束密度Brの比であり,配向性の指標として用いられる数値である。このSQxが高いと出力が向上するので、高性能な塗布型記録媒体を作るためには、SQxが高くなるような分散性、配向性の良い磁性粉が求められている。
さらに、SFD(switching field distribution)が小さい場合も出力が向上し好ましい。SFDxも同様である。
本発明の鉄系酸化物磁性粒子粉を塗料化し、媒体化するとSQxが大幅に改善し、さらに、SFDxも改善しており、優れた特性を示す磁気シート(磁気記録媒体)を得ることが可能である。また、Hcxは磁気記録媒体として好ましい値の範囲に入っている。
本製法でできた粉は、表面等は従来のものと変わりないため記録媒体への製法も従来の範囲で可能である。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
30L反応槽にて、純水31368.68gに、純度99.5%硝酸第二鉄(III)9水和物2910.27g、Ga濃度10.3%の硝酸Ga(III)溶液786.25g、純度97%硝酸コバルト(II)6水和物65.76g、Ti濃度15.2%の硫酸チタン(IV)69.04gを大気雰囲気中、40℃の条件下で、撹拌羽根により機械的に撹拌しながら溶解する。この仕込み溶液中の金属イオンのモル比は、Fe:Ga:Co:Ti=1.635:0.265:0.050:0.050である。なお、試薬名の後の括弧内の数字は、金属元素の価数を表している。
【0067】
大気雰囲気中、40℃で、撹拌羽根により機械的に撹拌しながら、22.09%のアンモニア溶液を1595.91g一挙添加し、2時間撹拌を続ける。添加初期は茶色で濁った液であったが、2時間後には透明感のある茶色の反応液となり、そのpHは1.67であった。
次にクエン酸濃度10mass%のクエン酸溶液1684.38gを、40℃の条件下で、1時間かけて連続添加した後、10mass%のアンモニア溶液を2000g一挙添加し、pHを8.51にした後、温度40℃の条件下、1時間撹拌しながら保持し、中間生成物である前駆体の置換元素を含むオキシ水酸化鉄の結晶を生成した(手順1)。なお、本実施例における3価の鉄イオン量に対するクエン酸のモル比は0.122である。
【0068】
図1に、本実施例において得られた置換元素を含むオキシ水酸化鉄結晶のX線回折パターンを示す。X線回折パターンは、オキシ水酸化鉄がフェリハイドライト構造であることを示す。
【0069】
手順1で得られたスラリーを回収し、限外ろ過膜、UF分画分子量50,000の膜にて、濾液の電気伝導率が50mS/m以下になるまで洗浄した。また、洗浄スラリーの導電率は105mS/mであった。(手順2)。
【0070】
5L反応槽に、手順2で得られた洗浄スラリー液3162.89g(ε−Fe
2O
3 (一部置換体) 60g含有)を分取し、液量が4000mLになるように純水を加えた後、大気中、30℃で、撹拌しながら、アンモニアについてはε−Fe
2O
3に対して0.8重量%、テトラエトキシシランについてはε−Fe
2O
3に対して7.0重量%添加した。22.09mass%のアンモニア溶液212.46gを添加した後、当該スラリー液にテトラエトキシシラン428.95gを35分で添加する。約1日そのまま撹拌し続け、加水分解により生成したシラノール誘導体で被覆した。その後、純水300gに硫酸アンモニウム202.6gを溶解した溶液を添加し、得られた溶液を洗浄・固液分離し、ケーキとして回収する(手順3)。
【0071】
手順3で得られた沈殿物(ゲル状SiO
2コートされた前駆体)を乾燥した後、その乾燥粉に対し、大気雰囲気の炉内で、1066℃以上1079℃以下で4時間の熱処理を施し、シリコン酸化物で被覆された鉄系酸化物磁性粒子粉を得た。なお、前記のシラノール誘導体は、大気雰囲気で熱処理した際に、酸化物に変化する(手順4)。
【0072】
手順4で得られた熱処理粉を20mass%NaOH水溶液中で約70℃、24時間撹拌し、粒子表面の珪素酸化物の除去処理を行う。次いで、限外ろ過膜、UF分画分子量50,000の膜にて、洗浄スラリーの導電率が1.476mS/mまで洗浄し、乾燥した後に、組成の化学分析、XRD測定、TEM観察、および磁気特性の測定等に供した。
得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の化学組成は、仕込み時の組成とほぼ同一であった。XRD測定の結果は図示しないが、ε−Fe
2O
3と同一の結晶構造を示した。
【0073】
図2に、本実施例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉のTEM写真を示し、金属イオンの仕込み比と平均粒径等の測定結果を表1に示す。なお、TEM写真の左側に示す白いバーの長さが50nmを示す(以下のTEM写真で同じ)。
図3に、本実施例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉についての(a)B−H曲線および(b)微分B−H曲線を示し、保磁力等の測定結果を表1に併せて示す。なお、
図3(b)は参考例を除き、高Hc側のピークが同一の高さになるように規格化しており、縦軸(dB/dH)は任意強度である。
【0074】
本実施例により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径は16.3nm、変動係数(CV値)は39.6%、粒子径8nm以下の微細粒子の個数%は9.2%であった。微分B−H曲線には2本のピークが明瞭に観察され、低Hc成分の比率は0.65であり、高Hc成分のピークの半値幅より求めたSFDは1.19であった。これらの値はいずれも、後述する比較例1により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉についてのそれよりも優れたものである。
【0075】
[実施例2]
実施例1と同じ手順で得られたシリコン酸化物で被覆された鉄系酸化物磁性粒子粉のシリコン酸化物被覆を、前記の除去方法により除去した後、限外ろ過膜、UF分画分子量50,000の膜にて、導電率≦1.476mS/mまで洗浄した。
得られた磁性粉体含有スラリーに純水を加え、NaOH水溶液をpH11.0になるように添加した後、超音波洗浄機(ブランソン(ヤマト科学)社製、Yamato 5510)にて1時間、超音波分散処理を行った後、遠心分離機(日立工機株式会社製、himac 21G2)のR10A3ローターにて、8000rpm×30分、遠心分離処理を施す。粗粒を含む沈殿物を除去した後、同様の操作を2回実施し、粗粒除去されたスラリー溶液を得た。
続いて得られたスラリー溶液の微粒子除去処理を行う。上記で得られた磁性粉体含有スラリーに純水を加え、NaOH水溶液をpH11.0になるように添加した後、超音波ホモジナイザー(US−600TCVP)にて2時間、超音波分散処理を行った後、遠心分離機(himac 21G2)、R10A3ローターにて、8000rpm×30分、遠心分離処理を施し、微粒子を含む上澄みを除去した。
さらに得られた沈殿物に純水を加え、NaOH水溶液をpH11.0になるように添加した後、超音波洗浄機(Yamato 5510)にて1時間、超音波分散処理を行った後、遠心分離機(himac 21G2)、R10A3ローターにて、8000rpm×30分、遠心分離処理を施す。微粒子を含む上澄みを除去した後、同様の操作をもう一度実施し、微粒子除去された沈殿物をメンブレン濾過し、ケーキ回収した後、乾燥した。得られた粒子については、組成の化学分析、XRD測定、TEM観察、および磁気特性の測定等に供した。
【0076】
図4に、本実施例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉のTEM写真を示し、金属イオンの仕込み比と平均粒径等の測定結果を表1に併せて示す。
図3に、本実施例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉についてのB−H曲線および微分B−H曲線を併せて示し、保磁力等の測定結果を表1に併せて示す。
【0077】
本実施例により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径は21.3nm、変動係数(CV値)は35.0%、平均粒子径8nm以下の微細粒子の個数%は2.2%となり、分級することにより微細粒子が除去されたことが判る。それに伴い、低Hc成分の比率は0.34に、高Hc成分のピークの半値幅より求めたSFDは0.77にそれぞれ減少し、鉄系酸化物磁性粒子粉の保磁力分布が狭くなった。
【0078】
[比較例1]
反応槽にて、純水18972.98gに、純度99.2%硝酸第二鉄(III)9水和物3076.76g、Ga濃度11.05%の硝酸Ga(III)溶液772.47g、純度97%硝酸コバルト(II)6水和物69.32g、Ti濃度15.2%の硫酸チタン(IV)72.77gを大気雰囲気中、30℃の条件下で、撹拌羽根により機械的に撹拌しながら溶解する。この仕込み溶液中の金属イオンのモル比は、Fe:Ga:Co:Ti=1.635:0.265:0.050:0.050である。
この原料溶液に、温度30℃の条件下、濃度22.35mass%のアンモニア水2582.23gを添加し、pHが8.0以上9.0以下になった段階で30分間撹拌した。この場合、中和は1段階で行い、クエン酸は添加しなかった。この場合、中間体のオキシ水酸化鉄としてフェリハイドライトと同一の結晶形態をもつ結晶が析出した。引き続き、生成したオキシ水酸化鉄結晶を水洗することなく、反応溶液に直接テトラエトキシシラン5269.74gを添加し、添加後、約1日撹拌を継続し、オキシ水酸化鉄結晶表面をテトラエトキシシランの加水分解により生成したシラノール誘導体で被覆した。焼成温度を1061℃以上1063℃以下とした以外のそれ以降の手順は、実施例1と同じである。なお、この手順は、特許文献1に記載されたものに準ずるものである。
【0079】
図5に、本比較例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉のTEM写真を示し、平均粒径等の測定結果を表1に併せて示す。
図3に、本比較例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉についてのB−H曲線および微分B−H曲線を併せて示し、保磁力等の測定結果を表1に併せて示す。
【0080】
本比較例により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径は16.1nm、変動係数(CV値)は48.4%、平均粒子径8nm以下の微細粒子の個数%は13.3%であった。中和処理を1段階で行い、クエン酸を添加しなかった本比較例の場合、本発明の実施例と比較して、微細粒子の存在割合が大きいことが判る。
本比較例の場合、微分B−H曲線から求めた低Hc成分の比率は0.83であり、TEMの平均粒径の観察結果と一致しないことから、本比較例の製造方法により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の保磁力が、単純に平均粒径により支配されているのではないことが示唆される。本比較例で得られた鉄系酸化物磁性粒子粉について、高Hc成分のピークの半値幅より求めたSFDは1.51であり、本発明の実施例で得られた鉄系酸化物磁性粒子粉よりも保磁力分布が広く、磁気記録性能の劣ったものであった。
【0081】
[実施例3〜9]
実施例3〜9で、金属イオンの仕込み比を変化させ、実施例1と同様の手順で鉄系酸化物磁性粒子粉を得た。なお、本実施例における3価の鉄イオン量に対するヒドロキシカルボン酸のモル比は、実施例3が0.119、実施例4、5、6が0.122、実施例7が0.118、実施例8が0.111、実施例9が0.138である。これらの実施例では、仕込み組成により中和に要するアルカリ水溶液の量が多少異なるが、第一段階および第二段階の到達pHは、実施例1とほぼ等しい値にした。これらの実施例のうち、実施例9は一元素置換タイプ、実施例6は二元素置換タイプの実施例である。
図7に実施例3により、
図8に実施例5によりそれぞれ得られた鉄系酸化物磁性粒子粉のTEM写真を、
図9に実施例3および実施例5により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉についての(a)B−H曲線および(b)微分B−H曲線をそれぞれ示す。また、これらの実施例における金属イオンの仕込み比と、得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径等の測定結果を表1に併せて示す。いずれの実施例においても、I
L/I
Hの値が0.7以下である鉄系酸化物磁性粒子粉が得ら、特に、実施例3〜7では、I
L/I
Hの値が0.53以下のものが得られている。また、SFDはいずれも1.30以下であり、比較例のそれよりも保磁力分布に優れていることが判る。
【0082】
[実施例10〜13]
実施例10として、Feを塩化鉄(III)六水和物、Coを塩化コバルト(II)六水和物の形で添加した以外は実施例1と同様の手順で鉄系酸化物磁性粒子粉を得た。なお、実施例10で生成した前駆体は、フェリハイドライト相にβ−FeOOHを一部含むものであった。また、ヒドロキシカルボン酸として実施例11では酒石酸を、実施例12ではリンゴ酸を用い、実施例1と同様の手順によりそれぞれ鉄系酸化物磁性粒子粉を得た。なお、本実施例における3価の鉄イオン量に対するヒドロキシカルボン酸のモル比は0.122である。また、実施例13では置換元素としてGaの代りにAlを硝酸アルミニウム(9水和物)の形で添加し、実施例1と同様の手順により鉄系酸化物磁性粒子粉を得た。これらの実施例における金属イオンの仕込み比と、得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径等の測定結果を表1に併せて示す。いずれの実施例においても、I
L/I
Hの値が0.7以下である鉄系酸化物磁性粒子粉が得られ、特に、実施例10、11、13では、I
L/I
Hの値が0.53以下のものが得られている。また、SFDはいずれも1.30以下であり、比較例のそれよりも保磁力分布に優れていることが判る。
【0083】
[実施例14〜16]
実施例14〜16として、実施例1同様の条件下、手順2と手順3の中間において、何も添加しない水洗工程後のスラリーのまま、純水を溶媒として140℃(実施例14)、160℃(実施例15)および180℃(実施例16)で6時間前駆体に水熱処理を施した。
図10に実施例15の水熱処理後の前駆体のX線回折パターンを示す。
図1と比較し、回折ピークがシャープになっており、水熱処理により前駆体の結晶性が向上したことが判る。実施例15により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉のTEM写真を
図11に示し、
図9に実施例15により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉についての(a)B−H曲線および(b)微分B−H曲線を併せて示す。また、これらの実施例における金属イオンの仕込み比と、得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径等の測定結果を表1に併せて示す。水熱処理を行うことにより、I
L/I
Hの値が0.7以下である鉄系酸化物磁性粒子粉が得られ、水熱処理を施すことでI
L/I
Hの値およびSFDが減少し改善することが判る。
【0084】
[実施例17〜19]
実施例17〜19として、3価の鉄イオン量に対するクエン酸のモル比を0.183(実施例17)、0.245(実施例18)および0.367(実施例19)に変更したこと、およびゲル状SiO
2コートされた前駆体の焼成温度を1065℃で行った以外は実施例1と同様の手順で鉄系酸化物磁性粒子粉を得た。これらの実施例における金属イオンの仕込み比と、得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径等の測定結果を表1に併せて示す。いずれの実施例においても、I
L/I
Hの値が0.7以下である鉄系酸化物磁性粒子粉が得られ、SFDはいずれも1.30以下であり、比較例のそれよりも保磁力分布に優れていることが判る。
【0085】
実施例1、実施例5、実施例15および、比較例1で得られた鉄系酸化物磁性粒子粉を、上述した手順で磁気テープを作成し、テープの磁気特性を測定した。なお、テープ作成時の分散時間は60分で、配向磁場5.5kOe(438kA/m)で磁場中乾燥した。測定結果を表2に示す。
塗料化し、媒体化すると、磁気テープ特性において出力向上となるSQx、SFDxは優れた特性を示し、磁気記録媒体の高記録密度化が可能であることが判る。Hcxは磁気記録媒体として好ましい値の範囲に入っている。
粉の改善に伴い、媒体特性も改善することがわかる。
【0086】
[参考例]
市販のβオキシ水酸化鉄微細結晶のゾル(多木化学株式会社製パイラールFe−C10)を用い、ゾル溶液にテトラエトキシシランを添加した以降は実施例1および比較例1と同一の手順で鉄系酸化物磁性粒子粉を得た。
図6に、本参考例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉のTEM写真を示し、平均粒径等の測定結果を表1に併せて示す。
図3に、本参考例において得られた鉄系酸化物磁性粒子粉についてのB−H曲線および微分B−H曲線を併せて示し、保磁力等の測定結果を表1に併せて示す。
本参考例により得られた鉄系酸化物磁性粒子粉の平均粒径は12.0nm、変動係数(CV値)は36.6%、平均粒子径8nm以下の微細粒子の個数%は16.8%であった。前駆体としてフェリハイドライト相が生成した比較例1と、出発物質としてβオキシ水酸化鉄を用いた本参考例の場合、TEMの観察結果には著しい差は見られない。
しかし、本参考例の場合、微分B−H曲線には高Hc成分に基づく明瞭なピークは現れず、前駆体としてフェリハイドライト相を経由することにより良好な保磁力分布を有するε−Fe
2O
3結晶が得られ易いことが理解できる。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【課題】粒度分布が狭く、かつ、磁気記録特性に寄与しない微細粒子の含有量が少なく、その結果として保磁力分布が狭く、磁気記録媒体の高記録密度化に適した鉄系酸化物磁性粒子粉およびその製造方法を提供する。
【解決手段】3価の鉄イオンとFeサイトを一部置換する金属のイオンを含む水溶液にアルカリを加えてpHをpH1.5以上2.5以下まで中和した後、ヒドロキシカルボン酸を添加し、さらにアルカリを添加してpHをpH8.0以上9.0以下まで中和し、生成した置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄の析出物を水洗した後、当該置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄にシリコン酸化物を被覆して加熱することにより、置換金属元素を含むεタイプの鉄系酸化物磁性粒子粉が得られる。