【実施例】
【0029】
(実施例1)
次に、圧電体薄膜の実施例及び比較例について説明する。
本例においては、炭素原子(C)の含有率が異なる複数の圧電体薄膜を製造し、これらの圧電定数の評価を行う。
図1に示すごとく、本例の圧電体薄膜1は、シリコンからなる基板2上に形成されており、スカンジウムアルミニウム窒化物からなり、微量の炭素を含有する。
【0030】
圧電体薄膜1の製造にあたっては、まず、市販のシリコンからなる基板と、市販のスカンジウムアルミニウム合金(Sc
0.45Al
0.55合金)からなる板状の合金ターゲット材を準備した。合金ターゲット材は、炭素製のるつぼを用いた高周波誘導加熱により作製されたものであり、スカンジウムとアルミニウムとの元素組成比は0.45:0.55(Sc:Al)である。なお、本例において、合金ターゲット材中のSc含有率(at%)、及び後述の圧電体薄膜中のSc含有率(at%)は、波長分散型蛍光X線分析装置(日本電子株式会社製の「JXA−8500F」)により分析した結果に基づいて算出した。
【0031】
次に、スパッタリング装置(アルバック社製の高周波マグネトロンスパッタリング装置)を用いて、窒素雰囲気下にて基板上に合金ターゲット中に含まれるScとAlとをスパッタリングすることにより、圧電体薄膜を作製した。
具体的には、
図2に示すごとく、スパッタリングチャンバ−内に基板2と合金ターゲット材10とを対向するように配置した。そして、スパッタリング圧力0.16Pa、窒素濃度43体積%、ターゲット電力密度10W/cm
2、基板温度300℃、スパッタリング時間200分という条件で、合金ターゲット材10からスカンジウム101とアルミニウム102とを基板2上にスパッタリングした。なお、スパッタリングチャンバ−は、5×10
-5Pa以下に減圧し、チャンバ-内に99.999体積%のアルゴンガス及び99.999体積%の窒素ガスを導入した。合金ターゲット材10は、蒸着前に、Arガス雰囲気で3分間スパッタリングした。
【0032】
図2に示すごとく、本例においては、合金ターゲット材10にRF電圧を印加して、合金ターゲット材10の表面にRFプラズマ11を形成させた。これにより、自己バイアス効果によってプラズマ11中の正イオン(窒素イオン及びアルゴンイオン)が、合金ターゲット材10に向かって加速され衝突する。この衝突により、
図2に示すごとく、合金ターゲット材10からスカンジウム原子101やアルミニウム原子102がはじき出され、合金ターゲット材10に対向するように配置した基板2の対向面21上にスパッタリングされる。
このようにして、基板2上に、スカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜1を作製した(
図1参照)。なお、本例においては、RF電圧を印加する例で説明したが、DC電圧を印加する場合でも同様にして圧電体薄膜1を製造することができる。
【0033】
得られた圧電体薄膜1について、CuKα線を使用した全自動X線回折装置(マックサイエンス社製の「M03X−HF」)により、X線回折強度を測定した。その結果、2θ=36〜37°に回折ピークが観察された。これにより、スカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜1が作製されていることを確認した。
また、上述の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて圧電体薄膜1の組成を調べたところ、Scの原子数とAlの原子数との総量を100at%としたときにおけるSc原子の含有率は、43at%であった。即ち、スカンジウムアルミニウム窒化物の一般式Sc
xAl
1-xNにおいて、x=0.43である。
【0034】
本例においては、合金ターゲット材として、炭素原子(C)含有率が異なる複数のスカンジウムアルミニウム合金のターゲット材を用いて、複数の圧電体薄膜(試料1〜9)を製造した。
各試料の圧電体薄膜は、合金ターゲット材の種類、即ち、C含有率(at%)の異なる合金ターゲット材を用いた点を除いては、同様にして作製したものである。
各試料の作製に用いた合金ターゲット材のC含有率(at%)、及び得られた圧電体薄膜中のC含有率(at%)を後述の表1に示す。
【0035】
なお、C含有率(at%)は、二次イオン質量分析(SIMS)により測定した。
具体的には、カメカ(CAMECA)社製のSIMS装置「IMS 7f」を用いて、一次イオン種:Cs
+、一次イオン加速エネルギー:15keV、二次イオン極性:ネガティブ、帯電補償:メタルコート/E−gunという条件で測定した。合金ターゲット材中のC含有率は、合金ターゲット中のSc原子数とAl原子数との総量100at%に対するC原子の含有率(at%)である。また、圧電体薄膜中のC含有率は、圧電体薄膜のSc原子数とAl原子数とN原子数との総量100at%に対するC原子の含有率(at%)である。
【0036】
次に、各試料の圧電体薄膜の圧電d
33定数(pC/N)を測定した。圧電d
33定数は、ピエゾメーター(ピエゾテスト社製の「PM200」)を用いて、加重0.25N、周波数110Hzという条件で測定した。その結果を表1に示す。
また、表1に基づいて、圧電体薄膜中のC含有率(at%)と圧電体薄膜の圧電d
33定数との関係を
図3に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1及び
図3より知られるごとく、スカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜の炭素原子の含有率が増加すると、圧電体薄膜の圧電d
33定数が加速的に低下することがわかる。圧電体薄膜における炭素原子の含有率を2.5at%以下にすることにより、炭素原子の含有率による圧電d
33定数の低下幅を小さくすることができ、圧電体薄膜は20pC/Nを超える高い圧電d
33定数を示すことができる(
図3参照)。より好ましくは、圧電体薄膜における炭素原子の含有率は1.5at%以下がよく、さらに好ましくは0.75at%以下がよい。
【0039】
また、圧電体薄膜における炭素原子の含有率を上述のように2.5at%以下にするためには、炭素原子の含有率が5at%以下のスカンジウムアルミニウム合金ターゲットを用いればよい(表1及び
図3参照)。さらに、炭素原子の含有率が1.5at%以下の圧電体薄膜を得るためには、炭素原子の含有率が3at%以下のスカンジウムアルミニウム合金ターゲットを用いればよく、炭素原子の含有率が0.75at%以下の圧電体薄膜を得るためには、炭素原子の含有率が1.5at%以下のスカンジウムアルミニウム合金ターゲットを用いればよい。
【0040】
(変形例1)
実施例1においては、スカンジウムアルミニウム合金からなる合金ターゲット材を用いた一元スパッタリング工程を行うことにより、圧電体薄膜を作製したが、スカンジウムからなるScターゲット材と、アルミニウムからなるAlターゲット材を用いた二元スパッタリング工程を行うことにより圧電体薄膜を製造することもできる。この場合には、Scターゲット材及びAlターゲット材からアルミニウムとスカンジウムとを基板上に同時にスパッタリングする点を除いては、実施例1と同様にして、圧電体薄膜を製造することができる。
【0041】
本例のような二元スパッタリング工程においては、Alターゲットではなく、Scターゲット材中に炭素が含まれる。この炭素は、実施例1の合金ターゲット材と同様に、Scターゲットの製造時に混入する。一方、実施例1から知られるように、圧電特性を高めるという観点から、スカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜における炭素原子含有率は2.5at%以下が好ましい。
したがって、二元スパッタリング工程において、一般式Sc
xAl
1-xN(0<x<1)で表されるスカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜を得るにあたっては、炭素原子含有率が5/x(at%)以下のScターゲット材を用いることが好ましい。また、炭素原子の含有率が1.5at%以下の圧電体薄膜を得るためには、炭素原子の含有率が3/x(at%)以下のScターゲットを用いればよく、炭素原子の含有率が0.75at%以下の圧電体薄膜を得るためには、炭素原子の含有率が1.5/x(at%)以下のScターゲットを用いればよい。なお、Scターゲット材中の炭素原子の含有率は、Scターゲット材中のSc100at%に対する炭素原子の含有率である。
【0042】
(実施例2)
本例は、合金ターゲット材の対向面に対して斜めからイオンビーム照射してスパッタリングを行うというイオン照射スパッタリング工程を行うことにより、スカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜を製造する例である。
具体的には、まず、実施例1と同様にして、スカンジウムアルミニウム合金からなる合金ターゲット材10と基板2とを対向するように配置した(
図4参照)。
基板2としては、実施例1と同様のシリコン基板を用いることができる。合金ターゲット材10としては、実施例1のように炭素含有率が例えば5at%以下のスカンジウムアルミニウム合金ターゲット材を用いることもできるが、炭素含有率が5at%を超える合金ターゲット材を用いることも可能である。
【0043】
図4に示すごとく、板状の合金ターゲット材10の面のうち、基板2に対向している面を対向面105とすると、イオンガン3を用いて、合金ターゲット材10の対向面105に対して斜めから窒素イオンを含むイオンビーム31を照射した。イオンビーム31の照射はアルゴンガス雰囲気下で行った。本例においては、イオンビーム31の照射方向と合金ターゲット材の対向面105とのなす角度θが45°となるように、イオンビーム31を照射した。これにより、合金ターゲット材10からアルミニウム101とスカンジウム102とを基板2上に同時にスパッタリングし、スカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜を得た。
【0044】
本例のように、イオンビーム31を斜めから照射すると、原子量の小さい炭素原子は、原子量の大きいスカンジウム原子やアルミニウム原子に比べてイオンビーム31の入射方向と同じ方向で逆向きへ放射される割合が多くなる。
図4においては、入射方向と逆向きへ放射される炭素原子109を図示している。同図に示すように、合金ターゲット材10中に含まれる炭素原子109の大部分は、イオンビーム31の入射方向と同じ方向でかつ逆向きへ放射され、基板2への炭素原子の放射量を非常に少なくすることができる。したがって、本例のイオン照射スパッタリング工程を行うことによっても、2.5at%以下という炭素原子含有率の低い圧電体薄膜の製造が可能になる。
【0045】
また、上述のイオン照射スパッタリング工程の例においては、Arガス雰囲気下で窒素イオンガスを含むイオンビーム31を照射して、圧電体薄膜を製造しているが、イオンビーム31は、必ずしも窒素イオンを含む必要はない。即ち、窒素ガスを含む雰囲気下で、アルゴン等のイオンビーム(Arイオンビーム)を照射することにより、スカンジウムアルミニウム窒化物からなる圧電体薄膜を製造することもできる。この場合にも、イオンビームを斜めから照射することにより、2.5at%以下という炭素原子含有率の低い圧電体薄膜の製造が可能になる。