(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966419
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】アンテナ走査装置およびそれを用いた無線装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/36 20060101AFI20160728BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
H01Q3/36
H01Q3/26 Z
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-34373(P2012-34373)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-172269(P2013-172269A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】永石 英幸
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 祐行
(72)【発明者】
【氏名】島山 裕一
【審査官】
米倉 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−093563(JP,A)
【文献】
特開2007−189596(JP,A)
【文献】
米国特許第05936588(US,A)
【文献】
米国特許第04489325(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q3/26−3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のビームポートと、複数のアンテナポートとを有し、前記アンテナポートへ入出力される信号の電力分配合成を行うロトマンレンズと、
前記アンテナポートに電波を入出力する複数のアンテナ要素と、
それぞれの前記ビームポートに入力される信号を振幅変調する可変増幅器と、
隣り合う前記ビームポートに入力される信号の相対位相差を検出する相対位相検出器と、
前記相対位相検出器で検出した相対位相差に基づいて、隣り合うビームポートに供給する信号間の相対位相差を補正する位相シフタと、
前記ビームポートに信号を供給する前記可変増幅器を選択するスイッチと、を有し、
前記位相シフタは、複数の前記ビームポートに信号を供給する複数の経路のうち、1経路おきに配置されていることを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ走査装置において、
外部からのアンテナ角度情報に基づいて前記スイッチと前記可変増幅器を独立的に制御する走査制御部を備えていることを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアンテナ走査装置において、
前記可変増幅器の振幅制御に応じて生ずる位相変動をデータ化したテーブルを前記走査制御部に記録し、当該テーブルに基づいて前記位相シフタの補正量を制御するとともに、
前記相対位相検出器で検出した隣り合うビームポートに入力される信号の相対位相差で前記補正量を修正することを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項4】
請求項2に記載のアンテナ走査装置において、
前記可変増幅器の出力側において隣り合うビームポートに入力される信号の相対位相差を検出する相対位相検出器と、前記可変増幅器の1つおきに配置した位相シフタとを備え、
前記走査制御部は、前記相対位相検出器によって検出した相対位相差に基づいて、隣り合うビームポート間の信号相対位相差を調整する制御信号を前記位相シフタに出力することを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項5】
請求項4に記載のアンテナ走査装置において、
前記相対位相検出器は、隣り合うビームポートに入力される信号の相対位相差に加えて、振幅差を検出するものであり、
前記走査制御部は、更に、検出した振幅差に基づいて、隣り合うビームポート間の信号相対振幅差を調整する制御信号を前記可変増幅器に出力することを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項6】
請求項2に記載のアンテナ走査装置において、
前記可変増幅器の出力側において、前記可変増幅器の1つおきに配置した位相シフタを備え、
前記相対位相検出器は、前記位相シフタの出力側において隣り合うビームポートに入力される信号の相対位相差を検出し、
前記走査制御部は、前記相対位相検出器によって検出した相対位相差に基づいて、隣り合うビームポート間の信号相対位相差を調整する制御信号を前記位相シフタに出力することを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項7】
請求項1に記載のアンテナ走査装置において、
前記位相シフタを配置しないビームポートに供給する信号の経路には、前記位相シフタの通過位相の変動範囲の中間の位相成分を有する伝送路を設けたことを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項8】
請求項1に記載のアンテナ走査装置において、
ビームポートに入力される信号の相対位相差を検出する相対位相検出器はI/Qミクサから構成され、隣り合う信号を混信して得られる2つのI信号:cos(位相差)とQ信号:sin(位相差)の振幅比から2つの信号の相対位相差を検出することを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項9】
請求項5に記載のアンテナ走査装置において、
ビームポートに入力される信号の相対位相差を検出する相対位相検出器は、1つのI/Qミクサと2つのシングルミクサから構成され、隣り合う信号をI/Qミクサで混信して得られる2つのI信号:cos(位相差)とQ信号:sin(位相差)の振幅比から2つの信号の相対位相差を検出し、シングルミクサで各々の信号振幅を算出して2つの信号振幅比を検出することを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項10】
請求項2に記載のアンテナ走査装置において、
前記走査制御部は、ロトマンレンズアンテナのビームポートの伝播位相データを保持することにより、前記相対位相検出器で得られた信号の位相差を修正し、位相シフタの補正量を調整することを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項11】
請求項1に記載のアンテナ走査装置において、
前記可変増幅器に代えて可変減衰器を用いたことを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項12】
複数のビームポートと、複数のアンテナポートとを有し、前記アンテナポートへ入出力される信号の電力分配合成を行うロトマンレンズと、
前記アンテナポートに電波を入出力する複数のアンテナ要素と、
それぞれの前記ビームポートから供給される信号を振幅変調する可変増幅器と、
前記可変増幅器の前後に配置され、可変増幅器の前後での隣り合う信号の相対位相差の変動を検出する相対位相検出器と、
前記相対位相検出器で検出した相対位相差の変動に基づいて、振幅制御に伴う隣り合う信号間の相対位相差の変動を補正する位相シフタと、
前記ビームポートから信号が供給される前記可変増幅器を選択するスイッチと、を有し、
前記位相シフタは、複数の前記ビームポートから供給される信号の複数の経路のうち、1経路おきに配置されていることを特徴とするアンテナ走査装置。
【請求項13】
請求項1に記載のアンテナ走査装置を用いた無線装置。
【請求項14】
請求項13に記載の無線装置において、
前記アンテナ走査装置を制御するアンテナ走査コントローラと、アンテナ走査装置から入出力されるRF信号を変復調するマイクロ波帯ミリ波帯トランシーバと、該トランシーバと信号受け渡しにおいてアナログ信号とデジタル信号変換するアナログ/デジタル変換器と、デジタル化された通信信号の信号処理を行う信号処理回路と、外部デジタル機器との接続を行う入出力端子を備え、
前記信号処理回路から得られる通信品質の評価結果から、前記アンテナ走査装置のアンテナビーム走査を実施することを特徴とする無線装置。
【請求項15】
請求項14に記載の無線装置において、
前記マイクロ波帯ミリ波帯トランシーバに、マイクロ波帯の送受信アンテナを設けたことを特徴とする無線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロトマンレンズを用いて位相合成分配を行うアンテナ装置における、アンテナビームの走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビームをスキャンすることで特定方向へ選択的に電磁波を送受する技術として、フェーズドアレイアンテナが知られている。複数のアンテナ要素から構成されるフェーズドアレイアンテナは、各々のアンテナ要素からの電磁波位相面を能動的に変化させることでビームをスキャンすることが可能となる。その実現方法として、各アンテナ要素に可変位相器を設け、所望のビーム角度となるよう独立的に制御することで実現される。また、可変位相器を用いないフェーズドアレイアンテナの実現方法として、電磁波の合成分配が可能なロトマンレンズを介して、各アンテナ要素に接続することで実現される。
【0003】
本技術分野の背景技術として、特許文献1がある。この文献には、「ロットマンレンズの二つのビームポート20−m,20−(m+1)の出力を加算する加算回路を設ける。加算することによって、二つのビームポートのそれぞれに対応するビームの指向角度の間の指向角度を得ることができる。これにより、離散的なビームの指向角度を補間することができる。」と記載されている(要約参照)。
【0004】
また、特許文献2には、「送信ビームを形成するロトマンレンズの各ビームポート(送信用ポート)BP1,BP2、及び受信ビームを形成するロトマンレンズの各ビームポート(受信用ポート)BP1,BP2のそれぞれに、可変増幅器を設け、その利得を調整することにより、送信ビームや受信ビームの指向方向を調整する。これにより、各ビームポートに対応した規定方向以外の任意方向を指向する送信ビームや受信ビームの形成を、高周波スイッチを用いることなく、簡易な構成によって実現することができる。」と記載されている(要約参照)。
【0005】
さらに、特許文献3には、「アンテナ素子に供給される送信信号をRF回路経由後に抽出するカプラと、該抽出された信号を周波数領域の信号に変換するDFT( Desecrate Fourier Transform )と、乗算器出力後の信号を時間領域の信号に変換するIDFT( Inverse Desecrate Fourier Transform )と、IDFT出力後の信号に対してRF回路経由後に抽出された信号に時間的に合わせる遅延を付加する遅延ユニットと、遅延付加後の信号を周波数領域の信号に変換するDFTと、複数のDFTからの各々の出力信号を比較して振幅差および位相差を検出するレベル・位相検出器と、この検出結果に応じて、アンテナ素子ごとの送信信号の振幅および位相を補正するレベル・位相制御器および乗算器とを備える。」と記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−152422号公報
【特許文献2】特開2010−074781号公報
【特許文献3】特開2006−287501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のロトマンレンズを用いたフェーズドアレイアンテナは、特許文献1に示されるように、多数のアンテナ要素で形成した狭角のアンテナビームから、所望の方向の通信機器のみ電磁波を送受することで、障害物からのマルチパスを避けることが可能となっている。さらに、ロトマンレンズにより生成される各ビームのピーク角度の中間にターゲットとなる通信機器が存在する場合には、加算器や乗算器を用いてロトマンレンズの隣り合う入力ポートの信号を処理することにより、所望方向へのアンテナ利得とアンテナビームの狭角化を実現する。ロトマンレンズを用いたフェーズドアレイアンテナは、電力合成にて中間ビームを生成可能であるため、ロトマンレンズの入力ポートを増やすことなく、ビーム数を増やすことが可能である。しかしながら、加算器等を用いた中間ビーム生成は、特許文献1に示されるように、受信機にのみ適応可能な技術である。
【0008】
これに対し、特許文献2では、ロトマンレンズを用いてフェーズドアレイアンテナを構成する。可変増幅器を用いて2つの入力ポートへの電力比を調整することで、各入力ポートから得られるビームの中間の範囲で、無限の刻み角度でビームを形成することが可能である。
【0009】
特許文献1および文献2によれば、送信部においてもロトマンレンズの隣合う入力ポートに電力分配して供給することにより、入力ポートに対応したビームの中間方向に指向性を向けることが可能となる。しかしながら、各々のビーム中間にビームのピークを向けるよう重ね合わせを行うには、アンテナからの電波が中間方向の位置で同相であることが条件となる。従って、各々の入力ポートから給電された電力で、送信部のロトマンレンズアンテナから照射されるビームの空間合成によって中間ビームを生成するフェィズドアレイアンテナは、入力ポートの入力位相を制御し、アンテナから放射する電波の状態を監視する必要がある。
【0010】
フェーズドアレイアンテナでビーム制御を行うには、アンテナ素子から放射される送信信号の振幅位相を制御すべきであるが、特許文献2において可変増幅器で増幅後の送信信号の相対的振幅比や位相差の比較が構造上できないため、ビーム制御部で送信信号を正しく送出できているか不確定である。可変増幅器の製造誤差や温度変化をマップ記憶部でデータ化し、それを用いてビーム制御部で調整可能であるが、アンテナ装置の検査時に作成したマップデータは可変増幅器の経年劣化には対応できず、マップデータの更新が必要である。また、アンテナ装置内の可変増幅器は製造誤差を含むため、アンテナ装置個々にマップデータを取得する必要があり、製造誤差および温度特性の検査費用が増大する問題がある。
【0011】
可変増幅器の伝播特性は増幅度に依存して位相特性も変化する。隣り合った可変増幅器間で異なる増幅度で制御した場合、ロトマンレンズの入力ポートに入力される各々の送信信号の同相性は維持されない。また、可変増幅器の前に分配器を配置するため、可変増幅器の伝播特性の変化により反射特性が変化すると、分配器の分配比や位相特性までも変化する。ロトマンレンズアンテナの入力ポートが2個の場合、出荷検査は比較的簡単である。しかしながら、入力ポートが3個以上の場合には、振幅制御によって利用しない可変増幅器からの影響を分配器に与えないよう、方向性結合器や分配器の出力ポート間伝播特性で十分なアイソレーションを必要とする。よって、ロトマンレンズアンテナの複数の入力ポートに送信信号を供給して生成する中間ビーム走査制御には、送信信号の位相補正システムが不可欠である。
【0012】
特許文献3は、複数のアンテナ素子から構成されるアレーアンテナの送信信号の振幅、位相を操作して放射パターンを制御するビーム制御技術である。アンテナ素子に接続されるRF回路の伝送特性は製造誤差や時間的な温度変化等の影響を受け、RF回路それぞれが独立して変動するため、ビーム制御技術に影響を与える。RF回路の伝送特性調整方法として、アンテナ素子に供給される送信信号を抽出し、RF回路に入力する送信信号と比較して振幅差および位相差を検出する。検出手段の検出結果を応じて、アンテナ素子の信号系統間の相対的なレベル差および位相差を求め、アンテナ素子の信号間の相対的なレベル差および位相差を所定範囲内に補正する補正係数を算出し、補正係数に応じて、乗算器にて送信信号の補正を行う。その結果、アンテナ素子から放射される送信信号は、伝播特性補正装置の乗算器により振幅位相を補正され各RF回路の伝播特性が同一となるよう調整される。(ロトマンレンズアンテナ向けに)RF回路(可変増幅器)で振幅位相を制御した場合、RF回路の信号系統間の伝播特性の同一性を維持するよう補正係数を求める特許文献3の構成ではRF回路の同一性は崩れアンテナ素子の信号系統間の相対的レベル差および位相差の整合性は保てず、誤った補正信号を生成することとなる。よって、この伝播特性調整装置ではロトマンレンズアンテナ向けの無段階中間ビーム生成に対応できず、ビーム走査は困難となる。また、特許文献3は送信信号間を直接的に比較し振幅位相差を抽出していない。RF回路の増幅度が時間軸で揺らぎがある場合、調整装置の補正係数を算出するまでの時間間隔が長くなるほど補正係数に揺らぎによる誤差が重畳する。ミリ波のように波長が短い電磁波では単位時間での位相回転量が多いため、信号系統間のRF回路の伝播特性位相差抽出は時間軸揺らぎによる誤差が増加し、補正データが不十分となる。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決するために、ロトマンレンズアンテナのビーム入力ポートでの信号同相性を維持することにより、入力ビーム数を増加させることなく、アンテナビーム角度を無段階に走査可能としたアンテナ走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、アンテナ走査装置であって、複数のビームポートと、複数のアンテナポートとを有し、前記アンテナポートへ入出力される信号の電力分配合成を行うロトマンレンズと、前記アンテナポートに電波を入出力する複数のアンテナ要素と、それぞれの前記ビームポートに入力される信号を振幅変調する可変増幅器と、隣り合う前記ビームポートに入力される信号の相対位相差を検出する相対位相検出器と、前記相対位相検出器で検出した相対位相差に基づいて、隣り合うビームポートに供給する信号間の相対位相差を補正する位相シフタと、前記可変増幅器を経由して前記ビームポートに供給する信号の経路を選択するスイッチと、を有し、前記位相シフタは、複数の前記ビームポートに信号を供給する複数の経路のうち、1経路おきに配置されているものである。
【0015】
また、他の一例を挙げるならば、アンテナ走査装置であって、複数のビームポートと、複数のアンテナポートとを有し、前記アンテナポートへ入出力される信号の電力分配合成を行うロトマンレンズと、前記アンテナポートに電波を入出力する複数のアンテナ要素と、それぞれの前記ビームポートから供給される信号を振幅変調する可変増幅器と、前記可変増幅器の前後に配置され、可変増幅器の前後での隣り合う信号の相対位相差の変動を検出する相対位相検出器と、前記相対位相検出器で検出した相対位相差の変動に基づいて、振幅制御に伴う隣り合う信号間の相対位相差の変動を補正する位相シフタと、前記可変増幅器を経由して前記ビームポートから供給される信号の経路を選択するスイッチと、を有し、前記位相シフタは、複数の前記ビームポートから供給される信号の複数の経路のうち、1経路おきに配置されているものである。
【0016】
このように構成されたアンテナ走査装置は、ロトマンレンズの多数のビーム入力ポートの中から、送信信号を送出するビーム入力ポートを1つもしくは隣り合う2つをスイッチにより選択し、送信信号の振幅制御を行う。1経路おきに配置された位相シフタは、それぞれの振幅制御により変動した送信信号間での相対位相差を補正する機能を有する。振幅制御を行った送信信号と位相シフタを経由した送信信号は、各々分配器あるいはカップラを用いて送信信号の1部を抽出され、ミクサで混信される。送信信号はスイッチにて分配された入力信号であるため周波数成分は同じであり、位相のみ異なる。特に、I/Qミクサを用いて混信させると、送信信号の相対位相差Φよってsinφとcosφに相当する2つのDC信号が生成される。これらのDC信号の振幅比は逆正接で相対位相差の角度を算出することができる。走査制御部によって、可変増幅器の振幅制御に基づいた平均的な位相差補正信号が位相シフタに予め入力されている。ミクサによって算出した相対位相差を、平均的な位相差補正信号に加算して位相シフタに入力し、相対位相差が同相となるようフィードバックすることで、ロトマンレンズアンテナの入力ビームの送信信号の同相性が維持される。走査制御部には可変増幅器の振幅制御で変動する増幅度と位相差の平均値が記録されている。可変増幅器の製造偏差と温度変化による増幅度変化においても、相対位相差をミクサにて算出し、位相補正の制御が可能であるため、可変増幅器の伝送特性や温度特性をすべてデータ化する必要はなく、検査工程の簡略化を実現する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロトマンレンズアンテナのビーム入力ポートでの信号同相性を維持することができ、入力ビーム数を増加させることなく、アンテナビーム角度を無段階に走査可能としたアンテナ走査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1のアンテナ走査装置の構成図である。
【
図2】アンテナ走査装置に用いる可変増幅器のゲイン制御電圧と通過位相の関係を示す図である。
【
図3】相対位相検出器の働きを示す等価回路図である。
【
図4】本発明の実施例2のアンテナ走査装置の構成図である。
【
図6】本発明の実施例3のアンテナ走査装置の構成図である。
【
図7】本発明の実施例4のアンテナ走査装置の構成図である。
【
図8】本発明の実施例5のアンテナ走査装置の構成図である。
【
図9】本発明の実施例6のアンテナ走査装置の構成図である。
【
図10】位相シフタの補正量制御のフローチャートである。
【
図11】本発明のアンテナ走査装置を用いた無線装置の構成図である。
【
図12】本発明のアンテナ走査装置を用いた無線装置の他の構成図である。
【
図13】無線装置のアンテナ走査のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、発明を実施するための形態を説明するための全図において、同一の機能を有する要素には同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0020】
本実施例では、ロトマンレンズを用いたアンテナ走査装置の例を説明する。
図1は、本実施例のアンテナ走査装置の構成図である。1はロトマンレンズアンテナを用いたアンテナ走査装置全体であり、2はロトマンレンズアンテナ、3は1入力多出力のスイッチ、4は可変増幅器、5は位相シフタ、6は相対位相検出器、7は走査制御部、8は伝送路、9は高周波信号端子である。ロトマンレンズアンテナ2は、ロトマンレンズ21とアンテナ要素22から構成されている。ロトマンレンズ21は、複数のビームポート24と、複数のアンテナポート23を有している。ロトマンレンズ21のアンテナポート23にはアンテナ要素22がそれぞれ接続され、各ビームポート24には振幅変調が可能な可変増幅器4の出力がそれぞれ接続されている。可変増幅器4の入力部は、位相シフタ5もしくは伝送路8が接続されており、並列に配置された可変増幅器4に対し、位相シフタ5と伝送路8を1経路おきに交互に配置する。位相シフタ5あるいは伝送路8の他方の端子には、スイッチ3が接続され、高周波信号端子9から伝播される送信信号をロトマンレンズアンテナ2へ選択的に伝播させる。
【0021】
ロトマンレンズアンテナを用いたビーム出力では、複数のビームポートの1つに電力供給するとそのビームポートに対応した所定の方向へビームが送出される。また、複数のビームポートの隣り合う2つに電力供給した場合、それぞれのビームポートに対応した各々の方向へビームが送出され、各々のビームの中間方向へ伝播するビームが空間合成にて形成される。2つのビームに位相差がある場合は、お互いに干渉して信号を打ち消しあうため、合成ビームの中間方向の電力は(1+COS(位相差))になる。従って、2つのビームを重ね合わせて最大電力となる空間合成を実現するには、2つのビームの位相は同相にする必要がある。
【0022】
ロトマンレンズアンテナの隣り合う2つのビームポートに電力供給する際、特許文献2に示されたように2つの送信信号の電力比に依存してビーム方向がシフトする。しかしながら、可変増幅器4の伝送特性は
図2に示すように、ゲイン制御電圧(Vg)に対し通過位相が変動する。よって、2つの送信信号の電力比をアンバランスに制御すると通過位相の違いにより、ビームポートに入力する送信信号に位相差が発生する。所定のビーム方向へ制御するため、本実施例では、走査制御部7のBeam Scan Control部10で、外部から入力される指定角度より、可変増幅器のゲイン、位相差補正量、スイッチの経路選択を計算する。Switch Selector13で、可変増幅器4へ送信信号を入力するためのスイッチ3を1つもしくは2つ選択接続し、PA Gain control11により経路選択された可変増幅器4の送信信号のゲイン設定を行なう。スイッチ3で2つの選択接続された場合、ゲイン設定により位相差が生じるため、Phase Control12により位相差を補正するよう位相シフタ5を制御する。位相シフタの補正量は、可変増幅器のゲイン(Vg)−通過位相(Phase)変換テーブルを用意し、2つの可変増幅器を通過した位相差を予測し算出する。伝送路8は位相シフタ5の通過位相の変動範囲の中間の位相成分を有する。位相シフタ5の位相可変範囲は、2つの送信信号間位相差補正のため可変増幅器の通過位相変動量の2倍程度の範囲で設計する。
【0023】
ロトマンレンズアンテナ2のビームポート24と可変増幅器4の間に分配器もしくはカップラを用い、送信信号の一部を抽出し相対位相検出器6に入力する。相対位相検出器6は位相シフタを経由し生成された送信信号と、隣り合う経路で生成された送信信号の相対位相差を算出する。信号成分が同一で振幅位相の異なる送信信号をミクサからなる位相検出器に入力すると、例えばI/Qミクサに入力した場合、位相差から2つのDC信号が生成される。これらの信号はsin(位相差)とcos(位相差)である。
【0024】
図3に、I/Qミクサ63を使った位相検出器の働きを示す等価回路図を示す。アンテナ走査装置に入力される送信信号をX=A・sin(wt)とし、可変増幅器4の伝達関数をG(α1,θ1)、G(α2,θ2)とする。振幅ゲインをα1,α2、位相遅延をθ1,θ2とする。可変増幅器4の出力信号をそれぞれ以下に示す。
Y1=A・α1・sin(wt−θ1)
Y2=A・α2・sin(wt−θ2)
I/Qミクサに上記Y1,Y2の送信信号で混信(乗算)させると、以下の結果が得られる。
Y1・Y2=A・α1・sin(wt−θ1)×A・α2・sin(wt−θ2)
=A
2・α1α2・sin(wt−θ1) sin(wt−θ2)
=A
2・α1α2・1/2{−cos((wt−θ1)+(wt−θ2))+cos((wt−θ1)−(wt−θ2))}
=A
2・α1α2・1/2{−cos(2wt−(θ1+θ2))− cos(θ1−θ2)}
DC成分=A
2・α1α2・1/2cos(θ1−θ2)
Y1・(Y2e
π/2)=A・α1・sin(wt−θ1)×A・α2・sin(wt−θ2+π/2)
=A
2・α1α2・sin(wt−θ1) sin(wt−θ2+π/2)
=A
2・α1α2・1/2{−cos((wt−θ1)+(wt−θ2))+cos((wt−θ1)−(wt−θ2+π/2))}
=A
2・α1α2・1/2{−cos(2wt−(θ1+θ2))− cos(θ1−θ2+π/2)}
=A
2・α1α2・1/2{−cos(2wt−(θ1+θ2))+sin(θ1−θ2)}
DC成分=A
2・α1α2・1/2sin(θ1−θ2)
それぞれのDC成分の比を計算すると sin(θ1−θ2)/cos(θ1−θ2)=tan(θ1−θ2) となり、相対位相差を算出することができる。相対位相検出器6で得られた相対位相量を走査制御部7に帰還し、加算器14で位相補正量に加算し、位相シフタ5の位相補正量を修正することで、隣り合う送信信号の位相差が同相となるようフィードバック制御される。
【0025】
本実施例では、隣り合う送信信号の位相差補正は相対位相検出器6にてフィードバック制御されるため、可変増幅器のゲイン(Vg)−通過位相(Phase)変換テーブルを用意するだけで位相制御が可能となり、位相同相性に対する温度特性検査が簡略化されることとなる。
【0026】
ロトマンレンズアンテナのビームポートに振り分ける電力分配にスイッチを用いれば、スイッチ未接続時には線路特性インピーダンスに対し反射係数の高い出力ポートとなり、分配数に反比例して送信信号が減衰することなく、所望の端子に送信信号を伝播することが可能となる。
【0027】
可変増幅器4は振幅制御により入力インピーダンスが変動する。インピーダンス比により決定される分配器を用いて高周波信号端子9から入力された送信信号を分配すると、可変増幅器の振幅制御によるマッチング変動によりインピーダンス比が変わるため、送信信号の振幅位相を制御することが困難となる。従って、送信信号の電力分配にスイッチ3を用いることで、高周波信号端子9と機能的に接続される可変増幅器4を最大2つに限定し、インピーダンス変動を抑えることで、相対位相検出器6で十分に位相補正が可能となる。
【実施例2】
【0028】
本実施例では、相対位相差補正以外に、振幅補正も行なうアンテナ走査装置の例を説明する。
図4は、実施例2のアンテナ走査装置の構成図である。1はロトマンレンズアンテナを用いたアンテナ走査装置全体であり、2はロトマンレンズアンテナ、3は1入力多出力のスイッチ、4は可変増幅器、5は位相シフタ、60は相対振幅位相検出器、7は走査制御部、8は伝送路、9は高周波信号端子である。
図4のアンテナ走査装置1のうち、既に説明した
図1に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については説明を省略する。
【0029】
相対振幅位相検出器60の回路構成を
図5に示す。相対振幅位相検出器は、位相シフタ5を通過した送信信号と隣り合うビームポートを含む3つの送信信号が入力される。
図5において、61はSignal A、Signal B、Signal Cの3つの入力端子であり、62はシングルミクサ、63はI/Qミクサにより構成されている。入力端子61のSignal AとSignal Cは相対振幅位相検出器で接続されるが、隣り合うビームポートの送信信号はスイッチ3にて経路選択されているためにどちらか一方にのみ送信信号が伝達される。位相シフタ3を通過した送信信号はSignal Bとして入力される。シングルミクサ62は同一信号を混信させることで、送信信号Signal A(α1sin(wt−θ1))の振幅情報α1、もしくは送信信号Signal C(α3sin(wt−θ3))の振幅情報α3、もう一方のシングルミクサで送信信号Signal B(α2sin(wt−θ2))の振幅情報α2の得ることができる。I/Qミクサ63では2つの送信信号の相対位相を計算するためのDC信号を得ることができる。シングルミクサ62で得られたα1
2cos(0)とα2
2cos(0)の振幅情報の比の平方根を計算すると相対振幅が計算できるため、I/Qミクサでの相対位相の結果を合わせ、送信信号A,B,Cから、相対振幅位相を算出することが可能となる。
【0030】
実施例2の構成では、相対振幅位相検出器60の算出した結果は、走査制御部7のビームスキャンコントロール部10に位相情報と振幅情報の誤差情報2つがフィードバックされる。2つの誤差情報により、各可変増幅器4と位相シフタ5の制御量を再計算することが可能となる。位相情報の誤差信号により Phase Control 12を介して位相シフタ5の位相補正量を修正する。また、振幅情報の誤差信号により PA Gain Control 11を介して可変増幅器4のゲインを修正する。よって、実施例2の構成により2つの誤差信号を得て、振幅と位相を制御するため、2つのビームポートから生成する送信ビームは、より正確にビーム角度走査を実現できる。
【実施例3】
【0031】
本実施例では、ロトマンレンズアンテナのビームポートの位相補正を行なうアンテナ走査装置の例を説明する。
図6は、実施例3のアンテナ走査装置の構成図である。1はロトマンレンズアンテナを用いたアンテナ走査装置全体であり、2はビームポートの入力間同相補正がないロトマンレンズアンテナ、3は1入力多出力のスイッチ、4は可変増幅器、5は位相シフタ、60は相対振幅位相検出器、7は走査制御部、8は伝送路、9は高周波信号端子である。
図6のアンテナ走査装置1のうち、既に説明した
図1および
図2に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については説明を省略する。ロトマンレンズアンテナのビームポート1つのみに送信信号を供給しビーム走査させる場合、ビームポート間の位相同相性の相関性はなくても動作可能である。しかしながら、2つのビームポートを使用するビーム空間合成を行なう場合には、供給する送信信号の位相を、ロトマンレンズに入力する点で合わせる必要がある。アンテナ走査装置の出荷検査の際、ビームポート間の相対位相差を測定し、テーブル (Phase Table) 15とする。その結果を、走査制御部7内で記録し、相対振幅位相検出器60の誤差情報に反映する。すなわち、テーブルの相対位相差の値に相対振幅位相検出器の位相誤差情報を合わせることにより、ビームポートの相対同相性がないアンテナ2においてもアンテナ走査制御が可能となる。よって、アンテナ走査装置を複雑化することなく、多様なアンテナに幅広く対応することが可能となる。
【実施例4】
【0032】
本実施例では、ロトマンレンズアンテナのビームポートに接続される構成要素に可変減衰器を用いたアンテナ走査装置の例を説明する。
図7は、実施例4のアンテナ走査装置の構成図である。1はロトマンレンズアンテナを用いたアンテナ走査装置全体であり、2はビームポートの入力間同相補正がないロトマンレンズアンテナ、3は1入力多出力のスイッチ、11は可変減衰器、5は位相シフタ、60は相対振幅位相検出器、7は走査制御部、8は伝送路、9は高周波信号端子である。
図7のアンテナ走査装置1のうち、既に説明した
図1乃至
図6に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については説明を省略する。高周波信号端子9から得られる送信信号が十分大きい場合、アンテナ走査装置1は可変増幅器4の換わりに可変減衰器16を用いて、ビームの走査制御が可能である。2つのビームポートを用いたビーム方向制御は、2つのビームポートに供給する送信電力の相対比である。可変減衰器16で2つの送信信号の相対比を制御できれば、増幅することなくビーム走査が可能である。また、アンテナ走査装置内部に増幅器を持たないため、振幅制御での位相変動量を抑えることができ、かつ発熱による温度特性変化も小さい。また、位相制御によるインピーダンス変動も小さいため、スイッチでの電力分配による振幅位相変動も抑えられると考える。
【実施例5】
【0033】
本実施例では、ロトマンレンズアンテナのビームポートに可変増幅器を用いたアンテナ走査装置の第2の例を説明する。
図8は、実施例5のアンテナ走査装置の構成図である。1はロトマンレンズアンテナを用いたアンテナ走査装置全体であり、2はビームポートの入力間同相補正がないロトマンレンズアンテナ、3は1入力多出力のスイッチ、4は可変増幅器、5は位相シフタ、60は相対振幅位相検出器、7は走査制御部、8は伝送路、9は高周波信号端子である。
図8のアンテナ走査装置1のうち、既に説明した
図1乃至
図7に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については説明を省略する。実施例2の
図3と異なる点として、可変増幅器4と位相シフタ5の配置である。本実施例では、位相シフタ5および伝送路8を可変増幅器4の後段に配置している。振幅制御で可変増幅器の出力インピーダンスも変動があるため、アンテナ2とのインピーダンス整合により送信信号が大きく変動する。位相シフタ5を可変増幅器4の後段に配置し方向性結合器に見立てることでマッチング改善効果を期待する。
【実施例6】
【0034】
本実施例では、ロトマンレンズを用いた受信用のアンテナ走査装置の例を説明する。
図9は、本実施例の受信用に用いるアンテナ走査装置の構成図である。1はロトマンレンズアンテナを用いたアンテナ走査装置全体であり、2はロトマンレンズアンテナ、3は1入力多出力のスイッチ、4は可変増幅器、5は位相シフタ、60は相対振幅位相検出器、7は走査制御部、8は伝送路、9は高周波信号端子である。ロトマンレンズアンテナ2は、ロトマンレンズ21とアンテナ要素22から構成されている。ロトマンレンズ21は、複数のビームポート24と、複数のアンテナポート23を有している。ロトマンレンズアンテナ2のアンテナポート23にはアンテナ要素22がそれぞれ接続され、各ビームポート24には位相シフタ5もしくは伝送路8がそれぞれ接続されている。位相シフタ5もしくは伝送路8を通過した受信信号は可変増幅器4に入力され、スイッチ3に入力される。スイッチ3にて経路選択された受信信号は電力合成され、高周波信号端子9に出力される。相対振幅位相検出器60は、アンテナ2の出力部と可変増幅器4の出力部で信号の相対度を算出する。例えば、ロトマンレンズアンテナ2の隣り合うビームポートの出力信号の位相をφ1およびφ2とし、対応する可変増幅器4の隣り合う出力信号の位相をφ1’およびφ2’とすると、前後の相対振幅位相検出器60はφ1−φ2およびφ1’−φ2’を検出する。既に説明した
図1乃至
図8に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については説明を省略する。
【0035】
受信用のアンテナ走査装置1において、ロトマンレンズアンテナ2のビームポート24に出力される受信信号は、位相情報φ1,φ2が揃っているとは限らないため、可変増幅器4と位相シフタ5、もしくは伝送路8を通過した経路の前後で相対位相差の変動{(φ1−φ2)−(φ1’−φ2’)}を観測し、それぞれの経路での前後の位相差φ1−φ2,φ1’−φ2’が同一となるように位相シフタ5にフィードバックされる。ロトマンレンズアンテナ2のビームポート間の位相差補正は、走査制御部7のPhase Table 15にて誤差信号に反映して補正信号を生成する。本実施例によれば、可変増幅器の振幅制御に伴う隣り合う信号間の相対位相差の変動を補正することができる。よって、
図9に示す本実施例の構成をとることで、アンテナビーム角度を無段階に走査可能な受信用のアンテナ走査装置が実現される。
【0036】
図10は、相対位相検出器6もしくは相対振幅位相検出器60から得た誤差信号を用いて、走査制御部7の位相シフタの補正量を修正するフローチャートである。アンテナ走査装置1の位相テーブルが反映された相対位相検出器6もしくは相対振幅位相検出器61から得た誤差信号は、走査制御部7で位相差の増減を監視する(S101)。隣り合う経路間で位相差が発生した場合(S102)、位相シフタの補正量に調整量を加算し修正する(S106)。位相差検知のサンプリング前後で位相差が増加する場合には(S104)、調整量を符号反転し補正量に加えることで位相差が極小値になるよう制御を行う(S105)。調整量は誤差信号以下とする。調整量の符号反転が繰り返される場合には調整量を小さくするため、例えば誤差信号の半分とし、補正量の変動を抑えることで、位相補正フィードバック制御による位相ゆらぎを低減する。
【実施例7】
【0037】
本実施例では、アンテナ走査装置を用いた無線装置の例を説明する。アンテナ走査装置による無線装置の実施形態を
図11に示す。100は送信用アンテナ走査装置であり、101は受信用アンテナ走査装置、102はマイクロ波帯ミリ波帯トランシーバであり、103はアナログ/デジタル変換回路であり、104は信号処理回路、105はアンテナ走査用コントローラ、106は入出力端子、110は無線装置全体である。無線通信を確立するため、アンテナ走査用コントローラ105を介して信号処理回路104にて通信プロトコルに則り、送信用データを生成する。マイクロ波ミリ波トランシーバ102は送信用データを元に変調を行い、送信用アンテナ走査装置にマイクロ波ミリ波信号を伝達する。アンテナ走査装置100、101は、アンテナ走査用コントローラからの指令により、ロトマンレンズのビームポートの選択と相対振幅位相制御を行う。ビームポートの選択では走査装置内部のスイッチ3の切り替えと可変増幅器4の増幅制御を行う。送信時には、送信用データを伝送後、目標物の通信装置からの信号を捕らえるため、受信用アンテナ走査装置101から電波を傍受し、トランシーバ102で復調後、信号処理回路104にて通信信号の有無、信号レベルの評価、データエラーバーの確率等検査し、アンテナ走査用コントローラ105に結果を伝達する。通信データが存在しない場合には、アンテナ走査用コントローラから指令を更新し、アンテナ走査装置で順に走査することにより、通信信号の探索を実施する。ミリ波信号は直進性が強く伝播減衰が大きいため、未知の通信回線の構築を高ゲイン狭角のアンテナビームによる走査で実現しようとすると、走査に手間取り、通信信号をロストする恐れがある。よって、
図12に示すように、マイクロ波帯ミリ波帯トランシーバ102にマイクロ波帯の送受信アンテナ107を設け、IEEE802.15に代表されるBluetooth(登録商標)やZigBee(登録商標)などの無線通信機構を有し、ミリ波帯の通信確立までの補助的な通信手段として活用し、無線装置間の通信確立を支援することで、通信信号のロストを低減することが出来ると考える。さらに、ミリ波信号での無用な走査を削減することが出来ると、電力効率が悪いミリ波帯トランシーバを常時動作させることなく停止することが可能であり、省電力化が可能である。
【0038】
図13は、アンテナ走査装置を操作するアンテナ走査用コントローラのフローチャートである。アンテナ走査コントローラ105は、1つのビームポートによるアンテナ走査を行い(S131)、信号処理回路104にて通信信号の存在、復調に必要な信号レベルの有無、エラーレートの評価した結果を元に通信確立に十分であるか判断する(S132)。通信の確立に十分な信号レベルに達している場合、アンテナ走査装置の制御信号を記憶し、無線装置間通信を開始する。通信を確立している間、アンテナ走査用コントローラ105は通信品質の評価結果を逐次評価し(S135)、通信品質の劣化、通信データの有無により、走査を再スタートさせる(S136)。ビームポート1個の状態で、信号劣化が観測される場合には信号のS/N比が低下していることが予想される。この場合には、アンテナ走査用コントローラ105にて、2つのビームポートによる空間合成にビーム走査に切り替え、ビームフォーミングによる走査を開始する(S133)。エラーレートの改善が見込める場合には通信を開始(確立)するが(S134)、それでも通信の確立に満たない通信品質の場合には、新たな通信パスを検索するため、スタートに戻り、フローチャートの初めから開始する。
【符号の説明】
【0039】
1 アンテナ走査装置
2 ロトマンレンズアンテナ
3 スイッチ
4 可変増幅器
5 位相器シフタ
6 相対位相検出器
60 相対振幅位相検出器
61 入力端子
62 シングルミクサ
63 I/Qミクサ
7 走査制御部
8 伝送路
9 高周波信号端子
10 Beam Scan control
11 PA Gain Control
12 Phase Control
13 Switch Selector
14 加算器
15 Phase Table
16 可変減衰器
21 ロトマンレンズ
22 アンテナ要素
23 アンテナポート
24 ビームポート
100 送信用アンテナ走査装置
101 受信用アンテナ走査装置
102 マイクロ波帯ミリ波帯トランシーバ
103 アナログ/デジタル変換器
104 信号処理回路
105 アンテナ走査用コントローラ
106 入出力端子
107 マイクロ波帯アンテナ
110 無線装置。