特許第5966483号(P5966483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5966483酸化物透明導電膜及びその製造方法、それにより得られる素子、並びに太陽電池
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  • 特許5966483-酸化物透明導電膜及びその製造方法、それにより得られる素子、並びに太陽電池 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966483
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】酸化物透明導電膜及びその製造方法、それにより得られる素子、並びに太陽電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20160728BHJP
   H01L 31/04 20140101ALI20160728BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   C01G23/00 C
   H01L31/04
   H01L31/10 A
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-65398(P2012-65398)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-193947(P2013-193947A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年2月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉持 豪人
(72)【発明者】
【氏名】秋池 良
(72)【発明者】
【氏名】渋田見 哲夫
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−119491(JP,A)
【文献】 特開2011−231401(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050338(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/026455(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/001735(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0138146(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/032542(WO,A1)
【文献】 特開2012−049084(JP,A)
【文献】 特表2012−523073(JP,A)
【文献】 特開2012−049190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00−23/08
H01L31/04−31/06
H02S10/00−10/40,30/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、元素M(Mはアルミニウム及び/またはガリウム)、チタン及び酸素から構成され、その原子比が、
(M+Ti)/(Zn+M+Ti)=0.010〜0.055
M/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.025
Ti/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.048
である酸化物透明導電膜を、無機酸の水溶液で表面処理した後、アルカリ性水溶液で表面処理することを特徴とする表面の中心線平均粗さRaが30nm〜200nm、表面にサイズの異なるテクスチャを有し、そのテクスチャ幅の平均値が100nm〜10μm、当該テクスチャ内面に微細な柱状の凸部を有する酸化物透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
酸化物透明導電膜がスパッタリング法により成膜したものである請求項に記載の酸化物透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
請求項に記載の酸化物透明導電膜の製造方法において、スパッタリング法による成膜時の基材温度が100〜250℃である酸化物透明導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気素子、または光学素子として好適な表面形状を有する酸化物透明導電膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化物透明導電膜は、可視光域での高い透過率と高い導電性を有し、液晶表示素子や太陽電池等の各種受光素子の電極に利用され、また、自動車用・建築材用の熱線反射膜・帯電防止膜や、冷凍ショーケース等の防曇用透明発熱体に広範に利用されている。このような酸化物透明導電膜として、酸化亜鉛にアルミニウム、ガリウム、ホウ素等の元素を添加した酸化亜鉛系の膜が利用されている。特に酸化アルミニウムを添加した酸化亜鉛系の膜は、赤外領域の光透過率に優れるため、太陽電池等の光透過性を重要視する用途では好適に利用されている。
【0003】
近年は、素子特性を最大限に引き出すための一手法として光を散乱させる技術が極めて重要となってきており、特に太陽電池等の光透過性を重要視する用途では、全波長領域に渡って高い光散乱能が求められている。
【0004】
酸化物透明導電膜の光散乱能を高める手段として、例えば特許文献1には酸化亜鉛を主成分とし、Ti、及びGaの両元素を含有し、特定の組成としてスパッタリング法により成膜した膜において、成膜後に膜表面を弱酸でエッチングすることでヘイズ率を10%以上とした膜が開示されている。この開示によると、ヘイズ率はヘイズメーターを用い、JIS−K−7136に準拠して測定している。具体的には、光源を白色LED、バンドパスフィルタを用いて波長480〜640nmの光を透過させて測定することになるため、可視域の限られた波長域のヘイズ率を測定していることになる。実用上は、全波長領域、特に赤外域に渡って高い光散乱能が求められているが開示はない。そのため、本発明者らが実験を行ったところ、赤外域の光散乱能が十分ではなく、赤外域で一層高いヘイズ率が必要であることが判明した。
【0005】
このような成膜後の膜表面を溶液でエッチングして膜表面に凹凸を形成し、ヘイズ率を高める方法として、例えば特許文献2には、基板上に酸化亜鉛からなる透明導電膜を形成し、当該透明導電膜を酸性、またはアルカリ性水溶液でエッチングする方法が開示されている。特許文献3には、基板上に酸化亜鉛からなる透明導電膜を形成し、酸性、またはアルカリ性水溶液からなるエッチング液を用いて当該透明導電膜を少なくとも2回にわたってエッチングを施すことにより表面に凹凸を形成する方法が開示されている。しかしながら、このような酸性またはアルカリ性溶液単独でエッチング処理を行うだけでは、十分に高いヘイズ率を得ることはできていない。
【0006】
特許文献4には、酸化亜鉛を主成分とする膜表面を高分子ポリマーであるポリアクリル酸とまたはその塩と酸性成分を含有した水溶液で膜表面を処理する工程と、次いで当該膜表面をアルカリ性水溶液で処理する工程の2段階でエッチングする方法が開示されている。これによれば、アルカリ性水溶液で処理する工程を経ることにより、膜表面に吸着したポリアクリル酸及びその塩の除去と膜表面の凹凸の起伏形状の平滑化が生じ、変換効率向上に寄与することが示されている。しかしながら、この方法では膜表面へのポリアクリル酸及びその塩が高分子ポリマーであるため、吸着が生じ、アルカリ性水溶液での処理は吸着物の完全除去が必須となり、工程が長時間、かつ煩雑となりやすく、さらにはエッチングの不均一性を生じる可能性があった。
【0007】
非特許文献1、2には、Alを添加した酸化亜鉛膜を塩酸溶液で表面処理し、次いで塩酸溶液で処理した面を弗酸溶液で処理する方法が開示されている。この方法によれば、塩酸溶液あるいは弗酸溶液単独でエッチング処理を行った場合よりもヘイズ率の向上が観察されるが、波長550nmで70%程度、波長1000nmで20%程度であり、より一層高いヘイズ率、特に赤外域で一層高いヘイズ率が求められていた。
【0008】
非特許文献3には、Alを添加した酸化亜鉛膜をエッチングする表面処理において、酸性溶液と塩基性溶液でエッチングしたときにエッチングされる場所は同一であることが示され、具体的には、KOHで400秒エッチングした表面を、続いてHClで5〜20秒エッチングしたデータとしてAFMにより表面形状の測定結果が記載されているが、ヘイズ率の関しては言及されていない。
【0009】
また、特許文献5に、AlとTiを添加した酸化亜鉛膜のエッチング液として、無機酸、有機酸等の酸、アルカリ、または多種類の酸を混合したもの、多種類のアルカリを混合したものを、酸、もしくはアルカリそれぞれを単独で用いることにより、波長400〜600nmのヘイズ率の平均値が90%以上、波長600〜1000nmのヘイズ率の平均値が50%以上であるものが開示されているが、実施例で最も高いヘイズ率は、波長400〜600nmのヘイズ率の平均値が83%、波長600〜800nmのヘイズ率の平均値が55%、波長800〜1000nmのヘイズ率の平均値が42%、である。しかしながら、より一層高いヘイズ率、特に赤外域で一層高いヘイズ率が求められていることは言うまでもない。
【0010】
さらには、このような成膜された膜表面に凹凸のテクスチャ構造を付与するためのエッチング工程は生産性がより高いことが必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2010/032542
【特許文献2】特開平11−233800
【特許文献3】特開2004−119491
【特許文献4】WO2010/050338
【特許文献5】WO2011/126074
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. I. Owen et al.、 in Proceeding of the 25th European Photovoltaic Solar Energy Conference、pp.2951−2955(Valencia、Spain、2010)。
【0013】
【非特許文献2】J.I.Owen et al.、 Phys.Status Solidi A、208、pp.109−113(2011).
【非特許文献3】J.I.Owen et al.、 Materials Research Society Symposium Proceedings、 1153、 pp.117−122(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、広い波長領域に渡って、高いヘイズ率で優れた光散乱能を示す酸化物透明導電膜及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような背景に鑑み、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、酸化物透明導電膜を酸性及びアルカリ性溶液の両者を用いて特定の条件で表面処理を行うことにより、極めて高いヘイズ率を有し、広い波長領域に渡って光散乱能に優れる酸化物透明導電膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の態様は以下の通りである。
(1)表面の中心線平均粗さRaが30nm〜200nm、表面にサイズの異なるテクスチャを有し、そのテクスチャ幅の平均値が100nm〜10μmである酸化物透明導電膜において、当該テクスチャ内面に微細な柱状の凸部を有し、酸化亜鉛を主成分とすることを特徴とする酸化物透明導電膜。
(2)微細な柱状の凸部の平均径が10〜80nmであり、当該凸部の高さが80nm以下である(1)に記載の酸化物透明導電膜。
(3)酸化物透明導電膜が主として亜鉛、元素M(Mはアルミニウム及び/またはガリウム)、チタン及び酸素から構成され、その原子比が、
(M+Ti)/(Zn+M+Ti)=0.010〜0.055
M/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.025
Ti/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.048
である(1)又は(2)に記載の酸化物透明導電膜。
(4)酸化亜鉛を主成分とする酸化物透明導電膜を、無機酸の水溶液で表面処理した後、アルカリ性水溶液で表面処理することを特徴とする(1)又は(2)に記載の酸化物透明導電膜の製造方法。
(5)酸化物透明導電膜が主として亜鉛、元素M(Mはアルミニウム及び/またはガリウム)、チタン及び酸素から構成され、その原子比が、
(M+Ti)/(Zn+M+Ti)=0.010〜0.055
M/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.025
Ti/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.048
である(4)に記載の酸化物透明導電膜の製造方法。
(6)酸化物透明導電膜がスパッタリング法により成膜したものである(4)又は(5)に記載の酸化物透明導電膜の製造方法。
(7)上述の(6)に記載の酸化物透明導電膜の製造方法において、スパッタリング法による成膜時の基材温度が100〜250℃である酸化物透明導電膜の製造方法。
(8)請求項1乃至3いずれかに記載の酸化物透明導電膜と基材により構成されることを特徴とする酸化物透明導電膜付基体。
(9)上述の(8)に記載の基体を用いた電子素子または光学素子。
(10)上述の(8)に記載の基体を用いた光電変換素子。
(11)上述の(1)乃至(3)いずれかに記載の酸化物透明導電膜を用いることを特徴とする太陽電池。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の酸化物透明導電膜は、表面の中心線平均粗さRaが30nm〜200nm、表面にサイズの異なるテクスチャを有し、そのテクスチャ幅の平均値が100nm〜10μmである酸化物透明導電膜において、当該テクスチャ内面に微細な柱状の凸部を有し酸化亜鉛を主成分とするものである。
【0019】
本発明の酸化物透明導電膜の中心線平均粗さRaは30nm〜200nmである。好ましくは、40nm〜200nm、より好ましくは50nm〜200nmである。このような範囲とすることで高い光散乱能を得ることができる。
【0020】
本発明の酸化物透明導電膜はその表面にサイズの異なるテクスチャを有する。ここで、テクスチャとは、表面の微細な凹部を意味するが、その形状には特に限定はなく、凹型レンズ状、V字状のくぼみ等を挙げることができる。そのテクスチャの幅とは、1つのテクスチャを二本の平行な線ではさんだとき、二直線間の距離が最大となる値をいう。本発明において、テクスチャの幅の平均値は100nm〜10μmであり、150nm〜5μmが好ましく、150nm〜3μmがさらに好ましい。このように、表面にサイズの異なるテクスチャが形成された薄膜は、特定サイズのテクスチャが形成された薄膜と比較して高い光散乱能を示す。
【0021】
本発明の酸化物透明導電膜は、そのテクスチャ内面にさらに微細な柱状の凸部を有する。すなわち、前記したように幅の平均値が100nm〜10μmのテクスチャの内面に微細な柱状の凸部が形成されている。このような微細な柱状の凸部が形成されることにより、光散乱能を著しく高めることができる。特に、前記のテクスチャ内面に形成された微細な柱状の凸部の平均径は10〜80nmが好ましく、15〜75nmが更に好ましい。また微細な柱状の凸部の高さが80nm以下であることが好ましく、5〜50nmが更に好ましい。これにより広い波長域でヘイズ率を高めることが可能である。
【0022】
ここで微細な柱状の凸部の平均径とは、当該凸部の高さの1/2における直径の平均値である。また微細な凸部の高さとは、膜の断面を走査型顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、当該凸部の頭頂部からテクスチャ曲面への法線の長さである。また微細な柱状の凸部は、テクスチャ内面の単位面積当たり7.0×10〜1.0×1010個/cm存在することが好ましく、またその頭頂部は尖った形状を有していても平らであってもよい。
【0023】
本発明においては、前記したテクスチャ形状が凹型レンズ状であることがより好ましい。ここで、凹型レンズ状テクスチャについて詳細に説明する。凹型レンズ状テクスチャは、膜を通過する光を屈折させる小型レンズとして作用する。凹型レンズ状テクスチャの形状については特に限定はなく、深さ方向の曲面形状は円弧形であるが、必ずしも完全な円弧である必要はない。また、凹型レンズの真上から見た形状は完全円形である必要はない。凹型レンズの深さとは、1つの凹型レンズの、水平方向に対して最も低い位置にある点と最も高い位置にある点との高低差を表す。凹型レンズの幅/深さとは、凹型レンズの幅とレンズの深さとの比を意味する。凹型レンズの幅/深さの値は各レンズが有する光散乱能を決定する主要要因の一つである。凹型レンズの幅/深さの値が小さいことはレンズが深く狭く形成されていることを表し、凹型レンズの幅/深さの値が大きいことは浅く平面的なレンズが形成されていることを意味する。本発明において、凹型レンズの幅/深さは、平均値が1〜5であることがより好ましく、1〜3が一層好ましい。
【0024】
本発明の透明導電膜の表面形状および構成の一例を、図1を用いて模式的に説明する。本発明の透明導電膜は、例えば図1に示されるように、膜表面に複数の凹型レンズ状テクスチャが互いに境界を共有してランダムに配置されている。ここで、境界を共有するとは、一つのレンズ輪郭が隣接するレンズ輪郭に一点以上で接していることを意味する。また、ランダムに配置とは凹型レンズが特定の規則性を持たずに配置されていること意味する。これらの凹型レンズ状テクスチャが薄膜表面に占める割合は薄膜表面積の90%以上であることが好ましい。
【0025】
光散乱能を高めるためにこれら凹型レンズ状テクスチャは、凹型レンズ状テクスチャaの内部に凹型レンズ状テクスチャbを有していることが好ましい。かつ凹型レンズ状テクスチャaまたはbの端部が他の凹型レンズ状テクスチャaまたはbと境界を共有する構造となっているとよい。
【0026】
また、凹型レンズ状テクスチャa内部に存在する凹型レンズ状テクスチャbの幅は、凹型レンズ状テクスチャaの幅より小さく、好ましくは凹型レンズ状テクスチャaの幅の80%以下である。凹型レンズ状テクスチャbの幅がaの幅の80%を超えると、テクスチャの複雑さが低下するため光散乱能が低下する。
【0027】
膜表面に形成されたa、bの凹型レンズ幅/深さの平均値は1〜5であることが好ましい。凹型レンズ幅/深さの平均値が5を超えると光を効率的に散乱する曲率が無くなるため光散乱能が低下する。また、凹型レンズ幅/深さの平均値が1未満となると凹型レンズの曲面と基板とがなす角が大きくなり、凹型レンズ曲面での全反射を誘起するため、光の散乱能を低下させてしまう。
【0028】
また、多様なサイズの凹型レンズが互いに境界を共有してランダムに配置されて表面テクスチャを構成している方が光散乱能の向上が期待できる。
【0029】
膜表面に形成される凹型レンズ状テクスチャa、bの総数は合計で1.0×10〜5.0×10個/mmが好ましく、より好ましくは2.0×10〜4.0×10個/mmである。a、bの数の割合はaが10〜80%、bが90〜20%であることが好ましい。より好ましくはaが30〜70%、bが70〜30%である。ただし、a+b=100%である。
【0030】
凹型レンズの総数が1.0×10個/mmを下回ると表面テクスチャの形状の複雑さが低下するため光散乱能が低下する恐れがある。さらにa、bの割合が偏りすぎると表面テクスチャの形状の複雑さが低下するため光散乱能が低下することがある。
【0031】
本発明において、これら表面形状は以下に示す方法により測定することが可能である。
すなわち、膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、または透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られる観察写真より凹型レンズの幅、深さ、膜表面のテクスチャ形状を解析し、表面に形成された凹型レンズの数、凹型レンズサイズの分布、表面粗さ、表面積を求めることができる。また、テクスチャ内面に微細な柱状の凸部を観測することができる。
【0032】
本発明では、光散乱能を評価するパラメータとしてヘイズ率(H)を使用する。ヘイズ率は評価するサンプルを透過する光の中、サンプルによって散乱された光の量を表しており、この値が大きいとき、その物質の光散乱能は大きいことを意味し、一般的に光散乱を評価するパラメータとして用いられる。ここで、ヘイズ率は、サンプルの透過率(Ta)と散乱透過率(Td)を用いて以下のように定義される。
H(%)=(Td(%)/Ta(%))×100
前述のように本発明の酸化物透明導電膜において、テクスチャ内面に存在する微細な柱状の凸部の平均径が10〜80nmであり、当該凸部の高さが80nm以下であると、波長400nm〜600nmにおけるヘイズ率の平均値が90%以上、かつ波長600nm〜1000nmにおけるヘイズ率の平均値が40%以上となる。テクスチャ内面に存在する微細な柱状の凸部の平均径や高さが上記範囲を逸脱すると、広い波長域でヘイズ率を高める効果が小さくなる。
【0033】
本発明の酸化物透明導電膜は、Cuを線源とするX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される回折ピークが六方晶系ウルツ型構造に帰属される(100)面、(002)面、(101)面のみから構成されることが好ましい。このような回折パターンであることにより、広い波長域でヘイズ率が高く、抵抗の低い膜が得られる。
【0034】
本発明の酸化物透明導電膜は、主として亜鉛、元素M(Mはアルミニウム及び/またはガリウム)、チタン及び酸素から構成され、その原子比が、
(M+Ti)/(Zn+M+Ti)=0.010〜0.055
M/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.025
Ti/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.048
であることが好ましい。この範囲とすることで、低抵抗で赤外領域の光透過率と耐久性に優れた膜を得ることが可能となる。特に(M+Ti)/(Zn+M+Ti)は好ましくは0.010〜0.05である。また、M/(Zn+M+Ti)は好ましくは0.003〜0.02である。Ti/(Zn+M+Ti)は好ましくは0.003〜0.04、さらに好ましくは0.003〜0.03である。
【0035】
ここで、元素Mはアルミニウムが含まれていることがより好ましい。元素Mにアルミニウムが含まれることにより、耐久性が改善されるからであり、アルミニウム、ガリウム各元素をそれぞれAl、Gaとしたときに、Al/(Al+Ga)=0.5〜1であることが好ましく、一層好ましくは0.8〜1である。
【0036】
なお、本発明においては、不可避的な微量の不純物の混入は問わない。
【0037】
次に、本発明の透明導電膜を成膜する方法について説明する。
【0038】
本発明では、表面の中心線平均粗さRaが30nm〜200nm、表面にサイズの異なるテクスチャを有し、そのテクスチャ幅の平均値が100nm〜10μmである酸化物透明導電膜において、当該テクスチャ内面に微細な柱状の凸部を有し、酸化亜鉛を主成分とする酸化物透明導電膜が最終的に得られる成膜方法であれば、特に限定されることはないが、大面積に均一な膜厚で成膜可能で有る点で、酸化亜鉛を主成分とする酸化亜鉛系ターゲットを用いたスパッタリング法により成膜されることが好ましい。
【0039】
特に、Tiと元素Mを前述の割合で含有する酸化亜鉛系ターゲットを用いることが好ましい。このターゲットの組成は、好ましくは元素M(M=Alおよび/またはGa)およびTiがそれぞれ
(M+Ti)/(Zn+M+Ti)=0.010〜0.055
M/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.025
Ti/(Zn+M+Ti)=0.002〜0.048
である。特に(M+Ti)/(Zn+M+Ti)は好ましくは0.010〜0.05である。また、M/(Zn+M+Ti)は好ましくは0.003〜0.02である。Ti/(Zn+M+Ti)は好ましくは0.003〜0.04、さらに好ましくは0.003〜0.03である酸化亜鉛系ターゲットを用いることが好ましい。このような組成範囲とすることにより、当該酸化亜鉛系ターゲットを用いて得られる酸化物透明導電膜を、低抵抗で赤外領域の光透過率と耐久性に優れた膜とすることが可能となる。
【0040】
ここで、元素Mはアルミニウムが含まれていることがより好ましい。これは、元素Mにアルミニウムが含まれることにより、得られる酸化物透明導電膜の耐久性が改善されるからであり、アルミニウム、ガリウム各元素をそれぞれAl、Gaとしたときに、Al/(Al+Ga)=0.5〜1であることが好ましく、一層好ましくは0.8〜1である。
【0041】
このような酸化亜鉛系ターゲットは、例えば、所定の組成を有する原料粉末を混合、成形、焼結し、得られた焼結体を用いて構成することができる。
【0042】
本発明の酸化物透明導電膜の成膜方法として、スパッタリング法を用いた場合、その方法にはDCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等を適宜選択することができるが、これらの中、大面積に均一に、かつ高速成膜可能な点でDCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法が好ましい。
【0043】
スパッタリング時に用いられる基材の温度は特に限定されるものではないが、その基材の耐熱性に影響される。例えば、無アルカリガラスを基材とした場合は通常250℃以下、樹脂製のフィルムを基材とした場合は、通常150℃以下が好ましい。もちろん、石英、セラミックス、金属等の耐熱性に優れた基材を用いる場合には、それ以上の温度で成膜することも可能である。このような状況の中、スパッタリング時に用いられる基材の温度は適宜選択されるものであるが、一般的には100〜250℃で成膜されることが好ましい。
酸化亜鉛を主成分とする酸化物透明導電膜の場合、基材の温度が100℃を下回ると結晶性が低下し、光学特性が悪化することがある。基材の温度が250℃を上回ると積層膜相互での元素拡散等の問題が生じることがあり、そのための処理等が煩雑になるため、好ましくない。
【0044】
スパッタリング時の雰囲気ガスは、不活性ガス、例えばアルゴンガスを用いる。必要に応じて、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス等を用いてもよいが、通常は酸素分圧0.1%以下のアルゴン雰囲気で行う。酸素分圧が1%以上では所望のテクスチャが得られない恐れがある。
【0045】
スパッタガス圧は0.2〜0.6Paであることが好ましい。この圧力範囲において、Tiおよび元素M(Alおよび/またはGa)を添加した酸化亜鉛ターゲットを用いて成膜を行うことで所望のテクスチャとなる膜が得られやすくなる。
【0046】
スパッタ圧が1.0Paを上回ると所望の表面テクスチャを得ることが難しくなる。また、0.2Paを下回ると表面処理で形成される凹型レンズの数が著しく減少し、光散乱能が悪化することがある。
【0047】
本発明で用いられる基材については特に限定はない。例えば、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属、アルミナ、チタニア、シリコンカーバイド等のセラミックス、ガラスなどの無機基材に成膜し、基体とすることができる。さらに成膜温度を250℃以下とできるためPET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルスルホン)、COP(シクロオレフィンポリマー)、ポリイミド、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、アクリルフィルムなどの有機基材に成膜し、基体とすることができる。ここで、基体とは薄膜が成膜された基材を意味する。
【0048】
次に表面処理について説明する。酸化亜鉛を主成分とする酸化物透明導電膜に施す表面処理として、本発明においてはウェットエッチングを行う。
【0049】
このウェットエッチングには、無機酸の水溶液として、無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸など)の水溶液または複数の無機酸を混合した水溶液を用いることができ、またアルカリ性水溶液として、アルカリ(アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物など)の水溶液または複数のアルカリを混合した水溶液を用いることができ、いずれも膜表面に接触させればよい。無機酸の水溶液としては特に水素イオン濃度が0.001〜0.2mol/lであることが好ましく、酸の種類としては塩酸を用いることがさらに好ましい。それは塩酸の塩化物イオンのサイズが他の酸(硝酸、硫酸等)の陰イオンより小さいからである。
【0050】
本発明においては、無機酸の水溶液で表面処理した後、アルカリ性水溶液で表面処理することが必須である。酸、アルカリとpHの異なる溶液を用いることにより、様々な微細な凹凸を膜表面に個別に形成することが可能となり、より高い光散乱性能を得ることが可能となる。このとき、エッチングされる膜は物理的蒸着(PVD)法、中でも特にスパッタリング法により成膜されていることがより好ましい。酸化亜鉛を主成分とする酸化物透明導電膜は、物理蒸着(PVD)法によって、化学蒸着(CVD)法等と比較して結晶性に優れた膜を得やすいため、エッチングにより高い光散乱能を有する膜が得ることが容易になる。中でもスパッタリング法は大面積に均一な成膜が可能であるため、大面積のエッチング後の膜を得るためには好適である。
エッチングに用いる溶液の液温は、特に限定されるものではないが、通常、室温〜沸点未満で行う。
【0051】
さらに好ましくは、酸、アルカリそれぞれの溶液でのエッチングはそれぞれ複数回に分けて行う方が良く、短時間のエッチングを繰り返した方が高い光散乱能を得やすい。
このようにして表面処理された基体は太陽電池、フォトダイオード、光センサー、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ、光情報伝達装置などに用いる電子素子または光学素子に好適に応用される。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、特定の表面形状を有する酸化物透明導電膜を得ることが可能であり、それにより、広い波長領域において高い光散乱能を付与することができる。したがって、太陽電池、フォトダイオード、FPDのバックライト拡散体など光学素子または電子素子へ様々に応用することができる。また本発明では、基板温度200℃以下で成膜しても本発明の透明導電膜を得ることができるので、低温で成膜することが必要なフレキシブル基板へも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の酸化物透明導電膜の表面形状の一例を示す図である。
【実施例】
【0054】
本発明を実施例と比較例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、評価方法は以下の通りである。
[複合酸化物焼結体の評価]
(組成)
ICP発光分析法により定量した。
[エッチング後の酸化物透明導電膜の評価]
テクスチャの数、透過率、ヘイズ率は、各実施例を5回行い、その平均値を記した。また、凹型レンズ幅/深さの値はAFMで観測された各凹型レンズにおける値の平均値を示しており、ここで言う平均値とは、任意の25μm区画を選択し、そこに存在する全凹型レンズにおける値の平均を求めたものである。また微細な柱状の凸部の平均径及び高さは、膜の断面を走査型顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、当該凸部の頭頂部からテクスチャ曲面への法線の長さを求めた。法線の長さの1/2の位置の直径を50個測定し、その平均を平均径とし、50個の法線の長さの平均を平均高さとした。
(中心線平均粗さ)
表面性状測定装置(ミツトヨ社製、SV−3100)で評価した。
(透過率、ヘイズ率)
基板を含めた透過率を分光光度計U−4100(日立製作所社製)で波長240nmから2600nmの範囲を測定し、各波長領域の透過率、ヘイズ率の平均値を求めた。
(抵抗)
薄膜の抵抗は、HL5500(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製)を用いて測定した。
【0055】
実施例1〜13
複合酸化物焼結体の作製
表1に示す原子比となるように、各元素成分の酸化物粉末を乾式ボールミルで混合し、得られた混合粉末を直径150mmの金型を用いて、0.3ton/cmで金型成形した。次いで3.0ton/cmでCIP成形し、以下の条件で焼結した。
【0056】
(焼成条件)
・昇温速度 :50℃/時間
・焼結温度 :1200℃
・保持時間 :3時間
・焼結雰囲気:窒素
・降温速度 :100℃/時間
酸化物透明導電膜の作製
このような複合酸化物焼結体を4インチφサイズに加工し、ターゲットのスパッタリング面となる面は、平面研削盤とダイヤモンド砥石を用い、砥石の番手を変えることにより、中心線平均粗さを調整し、ターゲットを作製した。
【0057】
得られたスパッタリングターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法により下記の条件で成膜して酸化物透明導電膜を得た。
(スパッタリング成膜条件)
・装置 :DCマグネトロンスパッタ装置
・磁界強度 :1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)
・基板温度 :200℃
・到達真空度 :5×10−5Pa
・スパッタリングガス :アルゴン
・スパッタリングガス圧:0.4Pa
・DCパワー :300W
・膜厚 :1000nm
・使用基板 :無アルカリガラス(コーニング社製#1737ガラス)
厚さ0.7mm
得られた酸化物透明導電膜の生成相を、Cuを線源とするX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される回折ピークにて測定した結果、六方晶系ウルツ型構造相のみで構成されていた。
【0058】
(表面処理によるテクスチャ付与)
この膜を水素イオン濃度が0.17mol/Lに調整した塩酸水溶液(液温30℃)中に30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、乾燥させた(表面処理1)。次いで8.7mol/Lに調整した水酸化カリウム水溶液(液温30℃)に180秒浸漬し、蒸留水で洗浄した後、乾燥することにより、成膜した酸化物透明導電膜の表面にテクスチャ構造を付与した(表面処理2)。表面処理後の表面形状や光学特性を前記した方法により評価した。評価結果を表6,7に示す。
【0059】
実施例14、15
表1に示す原子比となるように各元素成分の酸化物粉末を用い、スパッタリング法での成膜条件で基板温度を180℃(実施例14)、220℃(実施例15)とした以外は実施例1と同様にして酸化物透明導電膜を成膜した。この膜を実施例1と同様にして表面処理を施し、膜の表面にテクスチャ構造を付与した。表面処理後の表面形状や光学特性を前記した方法により評価した。評価結果を表6,7に示す。
【0060】
実施例16〜19
表1に示す原子比となるように各元素成分の酸化物粉末を用いた以外は、実施例1と同様に、複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により酸化物透明導電膜を成膜した。この膜を表3に記載の酸溶液とアルカリ溶液を用いて実施例1と同様に表面処理し、膜の表面にテクスチャ構造を付与した。表面処理後の表面形状や光学特性を前記した方法により評価した。評価結果を表6,7に示す。
【0061】
実施例20〜21
表2に示した原子比となるように各元素成分の酸化物粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により酸化物透明導電膜を成膜した。この膜を実施例1と同様にして表面処理を施し、膜の表面にテクスチャ構造を付与した。表面処理後の表面形状や光学特性を前記した方法により評価した。評価結果を表6,7に示す。
【0062】
比較例1〜6
表1に示す原子比となるように各元素成分の酸化物粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により酸化物透明導電膜を成膜した。この膜を水素イオン濃度が0.17mol/Lに調整した塩酸水溶液(液温30℃)中に50秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、乾燥させることにより、膜の表面にテクスチャ構造を付与した。表面処理後の表面形状や光学特性を前記した方法により評価した。評価結果を表6,8に示す。
【0063】
比較例7〜8
表2に示した原子比となるように各元素成分の酸化物粉末を用いた以外は実施例1と同様にして、複合酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により酸化物透明導電膜を成膜した。この膜を比較例1と同様にして表面処理を施し、膜の表面にテクスチャ構造を付与した。表面処理後の表面形状や光学特性を前記した方法により評価した。評価結果を表6,8に示す。
【0064】
実施例1〜13と比較例1〜6、実施例20〜21と比較例7〜8をそれぞれ比較することにより、無機酸の水溶液でエッチングした後、アルカリ性水溶液でエッチングすることにより、テクスチャ内面に微細な柱状の凸部を有する酸化物透明導電膜が得られ、これにより、抵抗が低く、可視光域だけでなく赤外域においても光透過性に優れ、かつ耐久性に優れ、さらに光散乱能の一層優れた酸化物透明導電膜であることが分かる。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【符号の説明】
【0073】
a 凹型レンズ状テクスチャ
b aの内部に形成された凹型レンズ状テクスチャ
Wa 凹型レンズ状テクスチャaの幅
Wb 凹型レンズ状テクスチャbの幅
Ha 凹型レンズ状テクスチャaの深さ
Hb 凹型レンズ状テクスチャbの深さ
図1