(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基体と前記無機粒子層との間に反射層を有し、前記反射層は、前記第1の波長の光及び前記第2の波長の光に対する反射率が、前記基体の反射率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の波長変換用無機成形体。
前記波長変換部材は、硫化物系蛍光体、ハロゲンケイ酸塩系蛍光体、窒化物蛍光体、及び酸窒化物蛍光体から構成される群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の波長変換用無機成形体。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明における色変換用無機成形体(以下、「無機成形体」と略す)、この無機成形体の製造方法、この無機成形体を用いた発光装置について説明する。
【0058】
<第1実施形態>
[無機成形体の構成]
本発明の第1実施形態に係る無機成形体の構造を、
図1を参照して説明する。
図1(a)に示すように、第1実施形態に係る無機成形体1は、基板2の上面及び側面に、蛍光体層(無機粒子層)3が設けられている。また、蛍光体層3は、粒状の無機蛍光体(
波長変換部材)31と、無機蛍光体31を被覆する被覆層32とから形成されている。更に詳細には、
図1(b)に示すように、蛍光体層3の内部には、空隙33が形成されている。
【0059】
本実施形態に係る無機成形体1は、基板2として金属材料を用いており、基板2の上面及び側面は、上方ないし側方から照射された光を反射する反射面として機能する。従って、本実施形態に係る無機成形体1は、上方ないし側方から入射した光の一部又は全部を蛍光体層3の無機蛍光体31によって吸収し、入射光とは異なる色の光に変換して反射する、反射型の色変換用成形部材として用いられるものである。
以下、無機成形体1の各部の構成について詳細に説明する。
【0060】
(基板(基体))
基板2は、蛍光体層3を支持するための、金属からなる板状の支持部材である。基板2としては、例えば、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Ag(銀)など、後記する被覆層形成工程における温度で固体である金属、これらの金属を含む合金、又はこれらの金属若しくは合金の積層体を用いることができる。また、本実施形態では、蛍光体層3が設けられる基板2の上面及び側面は、反射面として機能するため、蛍光体層3に入射する光、及び蛍光体層3で色変換された光に対して反射率の高いものが好ましい。
【0061】
また、基板2の上面及び側面は、鏡面加工や高反射光学薄膜加工を施して、高反射面及び/又は高光沢面とすることが好ましい。
また、基板2は、全部を金属で形成せずに、例えば、ガラス、無機化合物、高熱伝導のカーボンやダイヤモンドの基板上に金属層を設けて構成することもできる。
更にまた、基板2は、蛍光体層3で色変換された光のストークスロスによる発熱を、基板2を介して効率よく放熱できるように、熱伝導度が高い材料を用いることが好ましい。具体的には、基板2に用いる材料の熱伝導度が5W/m・K以上であることが好ましく、より好ましくは50W/m・K以上、更に好ましくは200W/m・K以上である。このような材料としては、前記したAl、Cu、Ag、Auのような金属及びこれらの合金の他に、カーボン、カーボンナノチューブ、AlN、SiCなどを挙げることができる。
【0062】
また、基板2に、複合材料を用いてもよい。例えば、金属上に、当該金属よりも高反射率を有する反射層を形成した後に、光の取り出し効率を向上するための誘電体層、続いて、電気沈着法による無機蛍光体31の粒子層の形成に用いる電極として導電体層を設けるようにしてもよい。
また、金属上にカーボンナノチューブ層やダイヤモンドライクカーボン層を形成し、更に反射層を形成することで、金属のみからなる基板よりも、高い熱伝導性を持たせることができ、放熱性の優れた無機成形体1を形成することができる。
また、SPS(スパークプラズマシンタリング)を用いて形成される金属−セラミックスの複合体からなる複合基板を用いてもよい。この複合基板を用いて、基板2の線膨張係数と、基板2上に設けられる蛍光体層3の線膨張係数とを合わせることで、蛍光体層3におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0063】
また、基板2に立体的な加工を施すようにしてもよい。このような加工により、基板2が無機成形体1を備えた発光装置の機構部品として、この発光装置の構造を保持するように機能させたたり、光の照射面に、例えば凹凸形状を形成し、反射光の集光をより制御しやすい構造としたりすることもできる。
【0064】
このように、本発明においては、基板2の材料や形状の選択性を格段に広げることができる。すなわち、目的や用途に応じて、高反射性、高熱伝導性、光制御性などを考慮して種々の材料や形状を選択することができる。
【0065】
なお、本明細書において「透光性を有する」とは、無機成形体1に入射する光(第1の色の光)及び無機成形体1によって色変換された光(第2の色の光)に対して透光性を有することをいう。
【0066】
(蛍光体層(無機粒子層))
蛍光体層3は、無機蛍光体31の粒子の凝集体を、無機材料からなる被覆層32で被覆した無機粒子層である。本実施形態では、蛍光体層3は、基板2の上面及び側面を被覆するように設けられている。蛍光体層3は、上方及び側方から入射する光の一部又は全部を吸収し、入射した光とは異なる色の光を発光する色変換機能を有する層である。
【0067】
図1(b)に示したように、蛍光体層3は、粒状の無機蛍光体31の粒子が、無機材料からなる被覆層32によって被覆されていると共に、この被覆層32によって無機蛍光体31の粒子及び基板2、並びに粒子同士が固着され、粒状の無機蛍光体31が一体化した成形体を構成している。また、蛍光体層3の表面は、無機蛍光体31の粒径に起因した凹凸が形成されている。更に、蛍光体層3の内部において、無機蛍光体31の粒子間に空隙33が形成されている。
【0068】
蛍光体層3に入射した光は、この空隙33によって散乱され、蛍光体層3に含有される無機蛍光体31に効率的に吸収されるため、空隙33を有さない場合に比べて高い色変換効率を得ることができる。このため、同じ色変換率を得るためには、空隙33を有さない場合よりも蛍光体層3の厚さを薄くすることができる。
【0069】
また、蛍光体層3の表面に、無機蛍光体31の粒径に起因する凹凸を有するため、界面での全反射を低減して蛍光体層3から効率的に光を取り出すことができる。このため、この無機成形体1を色変換用成形部材として用いて発光装置を構成すると、高い発光効率を得ることができる。
【0070】
また、蛍光体層3は、透光性のアルカリ土類金属塩からなる無機結着材(不図示)が含まれていてもよい。無機結着材は、無機蛍光体31と基板2との間、及び/又は無機蛍光体31同士を結着するものである。この無機結着材は、無機蛍光体31を基板2上に積層する製造工程において添加されたものであり、無機材料からなる被覆層32によって、無機蛍光体31の粒子と基板2との間、及び無機蛍光体31の粒子同士を被覆する強固の結着する被覆層32が形成されるまで、無機蛍光体31の粒子が散逸しないように結着させる結着材である。
【0071】
また、蛍光体層3は、無機フィラー、金属粉などの導電体粒子などが含まれるようにしてもよい。例えば、無機フィラーの添加によって、蛍光体層3に入射した光を散乱、拡散させたり、前記したストークスロスによる発熱を効率的に基板2に伝導することで、放熱性を向上させたりすることができる。また、無機フィラーの添加によって、蛍光体層3における無機蛍光体31の含有率を調整することができる。また、添加する無機フィラーの粒径や形状によって、空隙33の形状、空隙率、蛍光体層3の表面の凹凸形状を調整することができる。
また、導電体粒子の添加によって、前記したストークスロスによる発熱を効率的に基板2に伝導することで、放熱性を向上させることができる。
【0072】
無機フィラーとしては、例えば、窒化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、銀、シリカ(ヒュームシリカ、沈降性シリカ等)、チタン酸カリウム、ケイ酸バリウム、ガラスファイバー、カーボン、ダイヤモンド等及びこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
また、酸化タンタル、酸化ニオブ、希土類酸化物など、主に光吸収の少ない透光性材料や、特定の波長の光を反射又は吸収する無機化合物を用いることができる。
なお、無機フィラーは、後記する無機蛍光体31の粒径と同程度のものを用いることができる。
【0073】
また、蛍光体層3は、無機蛍光体31の粒子の凝集体を被覆層32で連続的に被覆して一体化した層であるが、保護層や反射防止層などを更に積層するようにしてもよい。この場合、基板2の上面から、保護層や反射層などを含めた蛍光体層3の上面までの膜厚である蛍光体層3の総膜厚は、10〜300μm程度とすることが好ましい。
【0074】
また、蛍光体層3は、無機蛍光体31の粒子の凝集体であるため、それらの粒径によって膜厚は影響されるが、実質的に色変換に寄与する蛍光体層3の厚さが、1〜150μm程度のものを用いることができ、5〜70μmとすることが好ましく、10〜50μmとすることがより好ましい。なお、「実質的に色変換に寄与する蛍光体層」とは、前記した保護層や反射層を除き、無機蛍光体31の粒子の凝集体を被覆層32で連続的に被覆して一体化した層を指す。
この蛍光体層3の厚さ(実質的に色変換に寄与する蛍光体層の厚さ及び総膜厚)は、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0075】
また、従来の焼結セラミックスなどからなる蛍光体の成形体に比べ、蛍光体層3における無機蛍光体31の含有率を高くして、また空隙33の存在によって、同じ色変換率を得るための蛍光体層3の膜厚を薄くすることができる。このため、蛍光体層3に含有される無機蛍光体31で生じたストークス発熱を、放熱機能を持つ基板2へ迅速に伝導することができる。すなわち、放熱性の優れれた無機成形体1とすることができる。
【0076】
(無機蛍光体(
波長変換部材))
無機蛍光体31は、蛍光体層3に入射した光を吸収し、入射光の色とは異なる色の光を発光する無機材料からなる蛍光体である。
無機蛍光体31として使用される蛍光体材料は、励起光である入射光を吸収して、異なる色(波長)の光に色変換(波長変換)するものであればよい。特に、無機蛍光体31が、紫外光ないし青色光を吸収して、青色光ないし赤色光を放出する材料であることが好ましい。
【0077】
また、無機蛍光体31の粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.1〜100μm程度のものを用いることができ、取り扱いやすさの観点から、好ましくは1〜50μm、より好ましくは2〜30μmのものを用いることができる。
なお、平均粒径の値は、空気透過法又はF.S.S.S.No(Fisher−SubSieve−Sizers−No.)によるものとする(いわゆるDバー(Dの上にバー)で表される値)。
【0078】
また、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所製のSALDシリーズなど)又は電気抵抗式粒度分布装置(例えば、コールター(BECKMAN COULTER)社製のコールターカウンターなど)で測定される中心粒径Dm(Median Diameter)と前記した平均粒径Dバーとの比である(Dm/Dバー)を、無機蛍光体31の粒子の分散性を示す指標とした場合に、この指標値が1に近いほど好ましい。すなわち、指標値が1に近いほど粒子の分散性が高く(粒子が凝集せず)、応力の少ない蛍光体層3を形成することができる。これによって、蛍光体層3におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0079】
また、無機蛍光体31は、1種類だけでなく、複数種類の無機蛍光体31の粒子を混合して用いてもよい。また、複数種類の無機蛍光体31の粒子層を順次積層するようにしてもよい。
【0080】
無機蛍光体31として用いる具体例としては、以下のものを挙げることができる。
例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体・サイアロン系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ハロゲンホウ酸塩蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩蛍光体、アルカリ土類硫化物蛍光体、アルカリ土類チオガレート蛍光体、チオケイ酸塩蛍光体、アルカリ土類窒化ケイ素蛍光体、ゲルマン酸塩蛍光体、アルカリ金属ハロゲンケイ酸塩蛍光体、アルカリ金属ゲルマン酸塩蛍光体、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される希土類アルミン酸塩蛍光体、希土類ケイ酸塩蛍光体等から選ばれる少なくともいずれか1以上であることが好ましい。具体例として、下記の蛍光体を使用することができるが、これに限定されない。
【0081】
Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体は、M
2Si
5N
8:Eu、MAlSiN
3:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。)などがある。また、M
2Si
5N
8:EuのほかMSi
7N
10:Eu、M
1.8Si
5O
0.2N
8:Eu、M
0.9Si
7O
0.1N
10:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。)などもある。
【0082】
Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される酸窒化物系蛍光体は、MSi
2O
2N
2:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。)などがある。
【0083】
Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活されるサイアロン系蛍光体は、M
p/2Si
12−p−qAl
p+qO
qN
16−p:Ce、M−Al−Si−O−N(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。qは0〜2.5、pは1.5〜3である。)などがある。
【0084】
Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に賦活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体には、M
5(PO
4)
3X:R(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。Xは、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種以上である。Rは、Eu、Mn、EuとMn、のいずれかである。)などがある。
【0085】
アルカリ土類金属ハロゲンホウ酸塩蛍光体には、M
2B
5O
9X:R(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。Xは、F、Cl、Br、Iから選ばれる少なくとも1種以上である。Rは、Eu、Mn、EuとMn、のいずれかである。)などがある。
【0086】
アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体には、SrAl
2O
4:R、Sr
4Al
14O
25:R、CaAl
2O
4:R、BaMg
2Al
16O
27:R、BaMg
2Al
16O
12:R、BaMgAl
10O
17:R(Rは、Eu、Mn、EuとMn、のいずれかである。)などがある。
【0087】
アルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体には、M
2SiO
4:Eu(Mは、Ca、Sr、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。)などがある。
【0088】
アルカリ土類硫化物蛍光体には、La
2O
2S:Eu、Y
2O
2S:Eu、Gd
2O
2S:Euなどがある。
【0089】
アルカリ金属ハロゲンケイ酸塩蛍光体には、MSiX
6:Mn(Mは、Li、Na、Kから選ばれる1種以上であり、Xは、F、Cl、Br、Iから選ばれる1種以上であり、またSiの一部をGeで置換することができる)、Li
2SiF
6:Mn、K
2(SiGe)F
6:Mnの組成式で表される蛍光体がある。
【0090】
Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される希土類アルミン酸塩蛍光体には、Y
3Al
5O
12:Ce、(Y
0.8Gd
0.2)
3Al
5O
12:Ce、Y
3(Al
0.8Ga
0.2)
5O
12:Ce、(Y,Gd)
3(Al,Ga)
5O
12:Ceの組成式で表されるYAG系蛍光体などがある。また、Yの一部若しくは全部をTb、Lu等で置換したTb
3Al
5O
12:Ce、Lu
3Al
5O
12:Ceなどもある。
【0091】
その他の蛍光体には、MS:Eu、Zn
2GeO
4:Mn、0.5MgF
2・3.5MgO・GeO
2、MGa
2S
4:Eu(Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Znから選ばれる少なくとも1種以上である。)などがある。これらの蛍光体は、所望に応じてEuに代えて、又は、Euに加えてTb、Cu、Ag、Au、Cr、Nd、Dy、Co、Ni、Tiから選択される1種以上を含有させることもできる。
【0092】
また、前記した蛍光体以外の蛍光体であって、同様の性能、効果を有する蛍光体も使用することができる。
【0093】
これらの蛍光体は発光素子からの励起光により、黄色、赤色、緑色、青色に発光スペクトルを有するものを使用することができるほか、これらの中間色である黄色、青緑色、橙色などに発光スペクトルを有するものも使用することができる。これらの蛍光体を種々組み合わせて使用することにより、種々の発光色を有する発光装置を製造することができる。
【0094】
例えば、光源として青色に発光するGaN系又はInGaN系化合物半導体発光素子を用いて、Y
3Al
5O
12:Ce若しくは(Y
0.8Gd
0.2)
3Al
5O
12:Ceの蛍光体に照射し、色変換を行うようにし、発光素子からの光と、蛍光体からの光との混合色により白色に発光する発光装置を提供することができる。
【0095】
例えば、緑色から黄色に発光するCaSi
2O
2N
2:Eu又はSrSi
2O
2N
2:Euと、青色に発光する(Sr,Ca)
5(PO
4)
3Cl:Eu、赤色に発光するCa
2Si
5N
8:Eu又はCaAlSiN
3:Euと、からなる3種の蛍光体を使用することによって、演色性に優れた白色に発光する発光装置を提供することができる。これは、光の三原色である赤・青・緑を使用しているため、蛍光体の配合比を変えることのみで、所望の白色光を実現することができる。
【0096】
なお、無機蛍光体31の具体例として前記した蛍光体中には、例えば、非酸化物系の蛍光体である硫化物系蛍光体、ハロゲンケイ酸塩系蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体等のように、熱により母体が分解したり賦活剤が失活したりしやすいものがある。また、フッ化物蛍光体のように、水分により潮解するなど、雰囲気により劣化するものがある。
【0097】
本発明では、無機成形体1を形成する際に、焼結やガラス封止による成形のような高温となることがないため、熱により劣化しやすい、例えば、非酸化物系の蛍光体であるCASNやSCASNのような窒化物蛍光体を用いることができる。
また、本発明では、無機蛍光体31は、好ましくは後記する原子層堆積法により形成される被覆層32によって緻密に被覆されるため、水分により潮解しやすい、例えば、LiSiF
4:Mnのようなフッ化物蛍光体を用いることができる。
【0098】
(被覆層)
被覆層32は、粒状の無機蛍光体31の粒子を被覆すると共に、当該粒子及び基板2、並びに粒子同士を固着させる透光性の被膜である。すなわち、被覆層32は、無機蛍光体31の保護層としての機能と、バインダーとしての機能と、熱伝導経路としての機能とを有するものである。
【0099】
被覆層32としては、Al
2O
3、SiO
2、ZrO
2、HfO
2、TiO
2、ZnO、Ta
2O
5、Nb
2O
5、In
2O
3、SnO
2、TiN、AlNなどから構成される群から選ばれる少なくとも1種の化合物を好適に用いることができる。また、被覆層32は、ALD(Atomic Layer Deposition;原子層堆積)法やMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属化学的気相成長)法、PECVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition;プラズマCVD)法、大気圧プラズマ成膜法などによって形成することができる。
【0100】
特に、ALD法は、形成される被膜が緻密であり、段差(凹凸)を有する形状の被覆性が高く、均一な厚さの被膜を形成することができるため好ましい。また、ALD法により形成される被覆層32は、膜厚が薄くても、無機蛍光体31の粒子を良好に被覆するとともに、無機蛍光体31の粒子の凝集体を一体化することができ、蛍光体層3の膜厚を更に薄く形成することができる。このため、無機蛍光体31の粒子で生じたストークス発熱を、薄い被覆層32を介して放熱機能を持つ基板2へ迅速に伝導することができる。これによって、放熱性の優れた無機成形体1を形成することができる。なお、良好な放熱性を得るために、蛍光体層3の膜厚を前記した範囲とすることが好ましく、また、被覆層32の膜厚を後記する範囲とすることが好ましい。
【0101】
また、ALD法により形成される被覆層32の原料には常温から300℃以下に蒸気圧を持つ有機金属材料、金属ハロゲン化物等が用いられる。特に、ALD法で形成したAl
2O
3からなる被膜は、水分などの雰囲気に対するバリア性が高く、好ましい。Al
2O
3膜を形成するための原料には、TMA(トリメチルアルミニウム)と水とが用いられる。
【0102】
また、被覆層32の膜厚は、平均厚さで10nm〜50μmとすることができ、好ましくは50nm〜30μm、より好ましくは100nm〜10μmとすることができる。
なお、被覆層32の膜厚は、無機蛍光体31の粒子(無機フィラーなどを添加している場合は、無機蛍光体31及び無機フィラーなどの粒子)を均一に被覆している部分の厚さを指す。
【0103】
なお、被覆層32は、前記した化合物による単一層として形成することも、異種材料による多層膜として形成することもできる。多層膜で形成する場合には、例えば、第1層(無機蛍光体31に接する層)としてALD法による緻密な層を形成し、次いで第2層として、PECVD法や大気圧プラズマ成膜法などの成膜速度の速い手法で成膜することもできる。
【0104】
(空隙)
空隙33は、基板2上に積層された無機蛍光体31の粒子間の隙間として形成されるものである。すなわち、空隙33は、基板2と無機蛍光体31と被覆層32との何れかによって取り囲まれた空間である。なお、蛍光体層3に、無機フィラーや導電性粒子などの、無機蛍光体31以外の粒子が含まれる場合は、空隙33は、無機蛍光体31を含めたこれらの粒子間の隙間として形成される。
【0105】
空隙33は、蛍光体層3に入射した光を散乱させ、入射光を効率的に無機蛍光体31に吸収させることができる。空隙率は、1〜50%程度とすることが好ましく、より好ましくは5〜30%である。空隙率の最適値は、無機蛍光体31の粒径と被覆層32の膜厚とに依存するが、空隙率を1%以上とすることで、効果的に入射光を散乱させることができ、50%以下とすることで、蛍光体層3を薄肉化した場合でも、色変換に十分な無機蛍光体31の含有量とすることができる。
【0106】
また、前記した空隙率の範囲で空隙33を設けることにより、基板2と蛍光体層3との間の線膨張係数の差が大きい場合でも、製造工程や製造後の使用時における温度上昇によって成形体に掛かる歪を吸収し、クラックの発生を防止することができる。
【0107】
なお、蛍光体層3における空隙率は、無機蛍光体31の平均粒径と、被覆層32の膜厚とを、それぞれ前記した範囲で調整することにより制御することができる。すなわち、無機蛍光体31の平均粒径に応じて、被覆層32の膜厚を定めることで、所望の空隙率となる空隙33を形成することができる。また、蛍光体層3に無機フィラーを添加する場合は、無機蛍光体31の粒子と無機フィラーの粒子とを合わせた平均粒径と、被覆層3の膜厚とによって空隙率を制御することができる。また、空隙率の制御には、更に粒子の形状及び粒子の分散性を考慮することが好ましい。
【0108】
(空隙の充填物)
また、空隙33を充填物で埋めるようにしてもよい。充填物としては、空気層(N
2、O
2、CO
2等の混合気体)などの気体が好ましい。但し、これに限定されず、無機化合物(例えば、AlOOH、SiOx等)、無機原料(例えば、ポリシラザン等)、ガラスやナノ無機粒子等の固体が、充填物の一部もしくは全部を占めるようにしてもよい。このような固体の充填物の原料として、液体ガラス材料、ゾルゲル材料などの、無機化合物を含有する液体を挙げることができる。また、前記したような無機化合物を含有する液体の溶媒として、水、有機溶媒、更にはシリコーンやフッ素樹脂などの無機物を主体とする樹脂を用いることもできる。
【0109】
なお、空隙33に設けられるこれらの固体の充填物は、被覆層32を構成する材料と同じ材料を含むようにしてもよい。この場合には、被覆層32と空隙33の充填物とで、互いに屈折率や透過率などの物性が異なるようにすることが好ましい。このために、例えば、被覆層32がALD法で形成されたAl
2O
3とし、空隙33の充填物がゾルゲル法で形成されたAl
2O
3とすることができる。このように形成方法が異なることにより、結晶性や密度が異なり、前記した物性を異なるようにすることができる。
このように空隙33を、被覆層32とは物性の異なる材料で充填することにより、蛍光体層3に入射した光の拡散や取り出しを制御することができる。
【0110】
[無機成形体の製造方法]
次に、本発明の第1実施形態に係る無機成形体の製造方法について、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、第1実施形態に係る無機成形体の製造方法は、マスキング工程S10と、蛍光体層形成工程S11と、被覆層形成工程S12と、マスキング除去工程S13と、を含み、この順で行われる。
以下、
図3を参照(適宜
図1及び
図2参照)して、各工程について詳細に説明する。
【0111】
(マスキング工程)
まず、マスキング工程S10において、
図3(a)に示すように、基板2において、蛍光体層3を形成する場所以外を、マスキング部材20を貼付することで被覆する。本実施形態では、基板2の下面を被覆している。
【0112】
マスキング部材20としては、例えば、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィンなどの樹脂製の粘着テープや粘着シートを用いることができる。また、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂やエポキシ系樹脂などの樹脂材料を塗布してマスキングすることもできる。更にまた、樹脂系のマスキング部材20を、フォトレジストを用いてパターン形成するようにしてもよい。フォトリソグラフィ技術を用いたマスキングは、微細な形状に被覆する場合に有用である。これらのマスキング材料や工法は、使用する温度、雰囲気、目的に応じて選択することができる。
【0113】
なお、本実施形態においては、蛍光体層3を、基板2の上面及び側面に設けるため、基板2の下面をマスキング部材20で被覆したが、マスキング部材20で被覆する領域を変えることで、任意の領域に蛍光体層3を設けるようにすることができる。
【0114】
(蛍光体層形成工程(無機粒子層形成工程))
次に、蛍光体層形成工程S11において、
図3(b)に示すように、基板2の上面及び側面に無機蛍光体31の粒子の凝集体である粒子層34を形成する。本実施形態では、電気沈着(電着)法により無機蛍光体31の粒子層34を形成する
なお、蛍光体層3に無機フィラーや導電性粒子などの無機粒子を添加する場合は、粒子層34は、無機蛍光体31の粒子と、これらの粒子との凝集体となる。
【0115】
電気沈着法によれば、室温下で、粒状の無機蛍光体31を懸濁させた溶液を入れた電着槽に、一方の電極となる基板2と、他方の電極となる対電極とを浸漬させ、電極間に電圧を印加する。なお、基板2側には、無機蛍光体31が帯電する極性と異なる極性の電圧を印加する。これによって、無機蛍光体31の粒子が電気泳動して基板2に付着する。無機蛍光体31の粒子層34の厚さは、電極間に通電する電流及び時間で定められるクーロン量を調整することで制御することができる。
この電気沈着法に用いる溶媒は、特に限定されないが、IPA(イソプロピルアルコール)などのアルコール系溶媒を好適に用いることができる。
【0116】
また、無機蛍光体31の粒子及び基板2、並びに無機蛍光体31の粒子同士を結着させるための無機結着材を溶液中に添加することが好ましい。無機結着材は、電気沈着法によって積層した無機蛍光体31の粒子を、後工程である被覆層形成工程S12で被覆層32が形成されるまで、散逸させないようにするためのものである。無機結着材としては、例えば、Mgイオン、Caイオン、Srイオンなどのアルカリ土類金属イオンを用いることができる。添加したアルカリ土類金属イオンは、水酸化物や炭酸塩として析出して結着力を発揮する。これらの水酸化物や炭酸塩は、無色透明であるため、製造後の蛍光体層3中に残存しても色変換効率を低下することがない。また、無機物であるため、経時変化により色変換効率を低下させることもない。
【0117】
また、無機蛍光体31の電気泳動を効率的に行わせるために、溶液中に金属塩などの帯電制御剤を添加することが好ましい。また、帯電制御剤は、溶液中に添加せず、無機蛍光体31の粒子にコーティングするようにしてもよい。
【0118】
なお、本実施形態では、蛍光体層形成工程S11において、電気沈着法により無機蛍光体31の粒子層34を形成するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、基板2を一方の電極として、静電塗装法を用いることもできる。また、蛍光体層3を上面に形成する場合は、遠心沈降法を用いることもできる。その他に、パルススプレー法を用いることもできる。また、前記した方法を組み合わせて用いることもできる。
【0119】
(被覆層形成工程)
次に、被覆層形成工程S12において、
図3(c)に示すように、蛍光体層形成工程S11で形成した無機蛍光体31の粒子層34を被覆し、粒子同士を固着させる被覆層32を形成する。被覆層形成工程S12において、被覆層32は、ALD法やMOCVD法などによって形成することができる。
【0120】
(マスキング除去工程)
最後に、マスキング除去工程S13において、
図3(d)に示すように、マスキング部材20を除去する。これによって、基板2の上面及び側面に蛍光体層3が形成された無機成形体1が得られる。
【0121】
また、被覆層形成工程S12を行った後で、更に、蛍光体層3の表面にSiO
2膜などの無機材料からなる層を、保護層や無反射コーティング層として形成するようにしてもよい。この層は、例えば、スパッタリング法、CVD法、ALD法、大気圧プラズマ法などによって形成することができる。
【0122】
また、空隙33に、空気層以外の充填物として固体を設ける場合は、被覆層形成工程S12の後に続いて、以下に説明するようにして行うことができる。なお、被覆層形成工程S12を行った後の空隙33には、空気が充填されている。
【0123】
固体の充填物は、溶媒中に固体を分散させた溶液(固体含有液体)を空隙33内に充填し、溶媒を揮発させた後に、低温過熱して固体化することで設けることができる。例えば、液体ガラス、ゾルゲル材料などの固体含有液体を、蛍光体層3上に滴下又は塗布等によって設け、真空にする。これにより、空隙33内を充填している空気を空隙33から除去するとともに、入れ替わりに固体含有液体を空隙33内に充填することができる。その後、固体含有液体の溶媒が揮発する温度とすることで、空隙33内に固体の充填物を設けることができる。なお、溶媒を揮発させるために加熱する温度は、300℃程度以下の比較的低温であることが好ましい。
【0124】
(ALD法による被覆層形成工程)
ここで、
図4を参照して、ALD法を用いた場合の被覆層形成工程S12について詳細に説明する。
図4に示すように、本実施形態における被覆層形成工程S12は、プリベーク工程S121と、試料設置工程S122と、成膜前保管工程S123と、第1原料供給工程S124と、第1排気工程S125と、第2原料供給工程S126と、第2排気工程S127と、を含み、第1原料供給工程S124から第2排気工程S127は、所定回数繰り返し行われる。
【0125】
(プリベーク工程)
まず、プリベーク工程S121において、基板2の上面及び側面に無機蛍光体31の粒子層34が形成された試料を、オーブンを用いて加熱するベーキング処理を行う。
本実施形態では、H
2O(水)を第1原料、TMA(トリメチルアルミニウム)を第2原料とし、Al
2O
3膜を被覆層32として形成する。このため、良好に成膜を行うために、成膜前の試料に含まれる水分などを蒸発させることで可能な限り除去することが好ましい。
ベーキング処理は、例えば、試料を120℃のオーブンで2時間程度加熱することで行うことができる。
【0126】
(試料設置工程)
次に、試料設置工程S122において、被覆層32の成膜を行うために、試料を反応容器(不図示)に投入する。この反応容器は、第1原料供給ライン、第2原料供給ライン、窒素ガス供給ライン及び真空ライン(何れも不図示)などに接続されている。
【0127】
(成膜前保管工程)
次に、成膜前保管工程S123において、試料を保管した反応容器内を、例えばロータリーポンプが接続された真空ラインを介して低圧状態にし、反応容器内の状態を安定化させる。また、このときに、反応容器内に窒素ガスを導入し、空気などの不要物を反応容器から排気する。
【0128】
反応容器内の圧力は、例えば、0.1〜10torr(133〜13332Pa)程度、窒素ガスの流量は20sccm(33×10
−3Pa・m
3/s)程度、安定化のためにこの状態を維持する時間は10分間程度とすることができる。
また、反応容器内の温度は、例えば、100℃程度とすることができるが、成膜温度は50〜500℃の範囲内で自由に設定することができる。以降の成膜中は、この温度を維持するのが一般的であるが、これに限定されず、途中で温度を変更するようにしてもよい。
【0129】
なお、成膜中の温度は、適宜に設定することができるが、用いる無機蛍光体31の耐熱性を考慮して50〜500℃程度の範囲で設定することが好ましく、100〜200℃とすることが更に好ましい。ALD法による成膜は、焼結法による成形や、MOCVD法による成膜と比較しても低温で行うことができる。このため、特に耐熱性の低いCASN、SCASNなどの赤色に発光する無機蛍光体31を用いた無機成形体1を作製することができる。
【0130】
(第1原料供給工程)
次に、第1原料供給工程S124において、第1原料であるH
2Oを反応容器に導入する。H
2Oは、常温の蒸気として導入する。H
2Oを導入後、導入したH
2Oが試料の全面に行き渡るまで所定の時間待機して、試料の全面で反応させる。なお、H
2Oの導入は、第1原料供給工程S124の所要時間に対して、H
2Oの蒸気を、例えば0.001〜1秒などの短時間に反応容器に導入する。
但し、原料の導入時間は試料の表面積、装置の体積、単位時間当たりの原料供給量に応じて決めることができる。原料であるH
2Oを導入後は、試料の全面の反応に必要な十分な時間をかける。
【0131】
(第1排気工程)
次に、第1排気工程S125において、反応容器に真空ラインを接続すると共に、窒素ガスを導入し、反応に寄与しなかった過剰のH
2O及び副生成物を反応容器から排気する。なお、本工程における副生成物とは、メタンガスである。
【0132】
(第2原料供給工程)
次に、第2原料供給工程S126において、第2原料であるTMAを反応容器に導入する。TMAは、常温の蒸気として導入する。TMAを導入後、導入したTMAが試料の全面に行き渡るまで、所定の時間待機する。なお、TMAの導入は、前記したH
2Oの導入と同様に行うことができる。
但し、原料の導入時間は試料の表面積、装置の体積、単位時間当たりの原料供給量に応じて決めることができる。原料であるTMAを導入後は、試料の全面の反応に必要な十分な時間をかける。
【0133】
(第2排気工程)
次に、第2排気工程S127において、反応容器に真空ラインを接続すると共に、窒素ガスを導入し、反応に寄与しなかった過剰のTMA及び副生成物を反応容器から排気する。
【0134】
本実施形態における成膜工程は、第1原料供給工程S124から第2排気工程S127を成膜の基本サイクルとして、所定の回数のサイクルを繰り返すものである。そのために、第2排気工程S127終了後に、このサイクルを所定回数行ったか判定し(ステップS128)、所定回数終了していない場合は(ステップS128でNo)、第1原料供給工程S124に戻り、前記したサイクルを繰り返す。一方、所定回数終了した場合は(ステップS128でYes)、被覆層形成工程を終了する。
【0135】
ALD法によれば、成膜の基本サイクルを1回行うことで、被覆層32が原子層レベルを単位として積層される。このため、実行するサイクル数に応じて、被覆層32の厚さを自在に制御することができる。
また、被覆層32は、原子層レベルを単位として積層されるため、凹凸形状などの段差の被覆性が高く、また、ピンホールの極めて少ない緻密で、かつ均一な厚さの膜を形成することができる。
また、適度な厚さの被覆層32を形成することで、無機蛍光体31の粒子間の隙間を完全に埋めることなく、蛍光体層3に空隙33(
図1(b)参照)として残すことができる。
また、ALD法によれば、無機蛍光体31の粒子を緻密かつ均一に被覆するため、水分により劣化しやすいフッ化物蛍光体などを用いることができる。
【0136】
なお、フッ化物蛍光体のように、水分により劣化しやすい蛍光体を無機成形体1に加工する場合は、次のようにすることが好ましい。まず、予め種々のコーティング法により無機蛍光体31の粒子の表面を耐水コートしておく。次に、耐水コートを施した無機蛍光体31を用いて短時間の内に、基板2の表面に電気沈着法や静電塗装法などにより、粒子層34を形成する。そして、ALD法により、被覆層32を形成することで、基板2及び粒子層34を一体化してバルク体に成形加工する。これによって、製造工程における水分の影響を防止しつつ無機成形体1を作製することができる。また、製造後において、被覆層32により水分などの雰囲気から保護された、劣化しにくい無機成形体1とすることができる。
【0137】
<第1実施形態の変形例>
次に、
図5を参照して、第1実施形態の変形例に係る無機成形体の構成について説明する。
図1に示した第1実施形態に係る無機成形体1は、平板状の基板2上に蛍光体層3を設けたものである。本発明では、蛍光体層3は、粒状の無機蛍光体31を基板2に付着させ、被覆層32によって固着させて成形するため、基板2の形状に大きな制約がない。
【0138】
例えば、
図5(a)に示す無機成形体1A
1は、ドーム状(半球状)の基板2の表面に蛍光体層3を設けたものである。また、
図5(b)に示す無機成形体1A
2は、チューブ状の基板2の表面に蛍光体層3を設けたものである。また、
図5(c)に示す無機成形体1A
3は、凸レンズ形の基板2の凸面上に蛍光体層3を設けたものである。基板2の形状は、これらの例に限定されるものではなく、更に複雑な形状の基板2を用いることもできる。なお、
図5に示した例では、空隙33の記載は省略している。
その他、針金状や網状の基板(基体)に蛍光体層3を形成することもできる。
【0139】
また、本変形例に係る無機成形体1A
1〜1A
3は、基板2の形状が異なること以外は、第1実施形態に係る無機成形体1と同様にして製造することができるため、製造方法については説明を省略する。
【0140】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る無機成形体について説明する。
[無機成形体の構成]
まず、
図6を参照して、第2実施形態に係る無機成形体の構成について説明する。
図6に示すように、第2実施形態に係る無機成形体1Bは、基板2の上面に反射層4を有し、反射層4を介して基板2の上面に蛍光体層3が設けられている。反射層4が設けられていることと、蛍光体層3が上面にのみ設けられていること以外は、
図1に示した第1実施形態に係る無機成形体1と同様である。同様の構成要素については、同じ符号を付して説明は適宜省略する。なお、
図6において、空隙33の記載は省略している。
【0141】
(反射層)
本実施形態では、基板2の上面に、基板2を構成する材料よりも、色変換のために蛍光体層3に入射される色の光及び蛍光体層3で色変換された色の光に対する反射率が高い金属層を反射層4として設ける。特に可視光領域での反射率が高い金属として、Al,Ag、もしくはこれらの金属を含有する合金を好適に用いることができる。なお、基板2は、第1実施形態に係る無機成形体1と同様に金属を用いることができる。
【0142】
また、例えば、基板2として熱伝導率が高いCuを用い、反射層4として反射率の高いAlやAgを用いることで、放熱性及び色変換効率を共に向上させることができる。更にまた、反射層4は、単一層に限らず、多層構造としてもよい。また、基板2と反射層4との間に中間層を設け、基板2と反射層4との間の接合性を向上させるようにしてもよい。
【0143】
また、本実施形態に係る無機成形体1Bは、
図6において、上方から入射した光を蛍光体層3で色変換し、反射層4で上方に反射して色変換した光を出射する反射型の色変換用成形部材として用いることができる。
なお、本実施形態では、反射層4を設けるため、基板2は金属に限定されず、ガラスや樹脂などの透光性の材料用いても、反射型の色変換用成形部材として使用する無機成形体1Bを形成することができる。
【0144】
蛍光体層3は、第1実施形態に係る無機成形体1における蛍光体層3と同様であるから、詳細な説明は省略する。
なお、本実施形態では、蛍光体層3を、反射層4を介して基板2の上面にのみ設けるようにしたが、これに限定されるものではない。反射層4を介して、上面及び側面にもうけるようにしてもよいし、下面に設けてもよく、また、上面の一部にのみ設けるようにしてもよい。更にまた、基板2の形状は、平板状に限定されず、
図5に示したように、任意の形状の基板を用いることができる。
【0145】
[無機成形体の製造方法]
次に、
図7を参照(適宜
図6参照)して、第2実施形態に係る無機成形体1Bの製造方法について説明する。
図7に示すように、第2実施形態に係る無機成形体1Bの製造方法は、反射層形成工程S14と、マスキング工程S10と、蛍光体層形成工程S11と、被覆層形成工程S12と、マスキング除去工程S13と、を含み、この順で行われる。
第2実施形態に係る無機成形体1Bの製造方法は、最初の工程として反射層形成工程S14を行うこと以外は、
図2に示した第1実施形態に係る無機成形体1の製造方法と同様であるから、同様の工程については同じ符号を付して、説明は適宜省略する。
【0146】
(反射層形成工程)
まず、反射層形成工程S14において、基板2上に反射層4を形成する。反射層4は、AlやAg、もしくはこれらの金属を含有する合金などの反射層4となる金属材料を、スパッタリング法や蒸着法などにより、基板2上に積層することで形成することができる。また、基板2上に反射層4を形成した後、反射率を向上するため、鏡面加工を施してもよい。
【0147】
(蛍光体層形成工程)
蛍光体層形成工程S11においては、反射層4を電極として、電気沈着法や静電塗装法により反射層4上に無機蛍光体31の粒子層34を形成する。
なお、基板2が絶縁体であっても、導電体である金属を反射層4として用いることで、反射層4を電極として、電気沈着法や静電塗装法により無機蛍光体31の粒子層34を形成することができる。
【0148】
マスキング工程S10、被覆層形成工程S12及びマスキング除去工程S13は、第1実施形態に係る無機成形体1の製造方法と同様であるから説明は省略する。
【0149】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る無機成形体について説明する。
[無機成形体の構成]
まず、
図8を参照して、第3実施形態に係る無機成形体の構成について説明する。
図8に示すように、第3実施形態に係る無機成形体1Cは、基板2の上面に反射層4と誘電体層7と透光性層5とがこの順で積層され、反射層4、誘電体層7及び透光性層5を介して基板2の上面に蛍光体層3が設けられている。反射層4と蛍光体層3との間に誘電体層7及び透光性層5が設けられていること以外は、
図6に示した第2実施形態に係る無機成形体1Bと同様である。同様の構成要素については、同じ符号を付して説明は適宜省略する。なお、
図8において、空隙33の記載は省略している。
【0150】
(誘電体層)
誘電体層7は、透光性層5を介して、反射層4と蛍光体層3との間に設けられている。誘電体層3を配置することにより、蛍光体層3で拡散された光が、より効率的に反射層4で反射される。これによって、無機成形体1Cからの光の取り出し効率を向上することができる。
また、誘電体層7は、単層に限定されず、多層膜とすることもできる。屈折率の異なる2種以上の誘電体膜を積層することで、反射層として機能させることができる。誘電体多層膜で反射される光の波長域は、多層膜を構成する誘電体膜の屈折率及び膜厚の組合せに応じて、350〜800nmの間で、任意に設定することができる。また、このような誘電体多層膜の層数は2〜100層程度、総膜厚は0.1〜20μm程度に設定することができる。
また、反射層4のみでは十分に反射することができない波長域の光を、誘電体層7で反射させるように誘電体層7の反射帯域を設定することで、更に光の取り出し効率を向上させることができる。
【0151】
誘電体層7としては、SiO
2、Al
2O
3、Nb
2O
5、ZrO
2、AlN、TiO
2、SiON、SiNから選択される1以上の材料を用いることが好ましい。また、誘電体層7を多層膜とする場合は、これらの材料から選択した屈折率が大きく異なる2種類の材料からなる膜を交互に積層して配置する。屈折率が大きく異なる材料の好適な組合せとしては、例えば、SiO
2とZrO
2、SiO
2とNb
2O
5、を挙げることができる。また、誘電体層7で反射させる波長域は、白色光を反射させるためには、400〜800nmとすることが好ましい。また、放熱性と反射率とを考慮して、多層膜の層数は6〜50層、総膜厚は1〜5μmとすることが好ましい。
【0152】
(透光性層)
透光性層5は、後記する蛍光体層形成工程S11(
図9参照)において、基板2上に電気沈着法又は静電塗装法により、無機蛍光体31の粒子層34を形成するための電極として用いるために形成された導電体層6(
図10(d)参照)を透明化したもの、もしくは透明導電体層である。従って、透光性層5は、前記した製造工程において導電性を有し、その後に透明化が可能な材料か、導電性を有する透光性の材料を用いることができる。
【0153】
導電性を有し、後に透明化が可能な材料としては、Al、Si、Zn、Sn、Mg、Inから選択された少なくとも一種を含む金属材料を挙げることができる。例えば、Alは、90℃程度の熱水に晒すことで酸化でき、透光性のAl
2O
3に変化させることができる。また、このようにAlは比較的低温で酸化させて、透明化することができるため好ましい。この場合は、Al
2O
3膜が透光性層5として形成される。更にまた、被覆層32としてAl
2O
3膜を形成する場合は、同じ材料であるため、被覆層32と透光性層5とが良好に密着する。このため、無機蛍光体31を水分などの雰囲気から良好に保護すると共に、蛍光体層3の基板2Cからの剥離が防止される。Al以外の材料についても、透光性層5と被覆層32とが同じ材料となるようにすることで、透光性層5と被覆層32との間の良好な密着性が得られるため好ましい。
【0154】
また、導電体層6を透光性層5に変換する他の方法として、アンモニア水による処理を用いることができる。例えば、導電体層6の材料としてAl又はZnを用いた場合は、アンモニア水で処理することにより、それぞれ透光性のAl(OH)
3(水酸化アルミニウム)、Zn(OH)
2(水酸化亜鉛)に変換することができる。また、これらはゲル状の物質として生成するため、無機蛍光体31の粒子同士の結着材としての効果も期待できる。
【0155】
また、導電性を有する透光性の材料としては、例えば、Zn(亜鉛)、In(インジウム)、Sn(スズ)、Ga(ガリウム)及びMg(マグネシウム)からなる群から選択された少なくとも1種の元素を含む導電性金属酸化物が挙げられる。具体的には、ZnO、AZO(AlドープZnO)、IZO(InドープZnO)、GZO(GaドープZnO)、In
2O
3、ITO(SnドープIn
2O
3)、IFO(FドープIn
2O
3)、SnO
2、ATO(SbドープSnO
2)、FTO(FドープSnO
2)、CTO(CdドープSnO
2)、MgOなどの導電性金属酸化物がある。
なお、導電性を有する透光性の材料を用いた場合は、後記する製造方法において、導電体層透明化工程S17(
図9参照)を省略することができる。
【0156】
なお、本実施形態では、蛍光体層3を、反射層4、誘電体層7及び透光性層5を介して基板2の上面にのみ設けるようにしたが、これに限定されるものではない。反射層4、誘電体層7及び透光性層5を介して、上面及び側面にもうけるようにしてもよいし、下面に設けてもよく、また、上面の一部にのみ設けるようにしてもよい。更にまた、基板2の形状は、平板状に限定されず、
図5に示したように、任意の形状の基板を用いることができる。
【0157】
また、基板2と反射層4との間に、更にカーボンナノチューブ層やダイヤモンドライクカーボン層のような高熱伝導性の層を設けるようにしてもよい。また、基板2が反射性を有する場合は、反射層4を設けずに、基板2上に直接に誘電体層7を設けるようにしてもよい。
【0158】
[無機成形体の製造方法]
次に、本発明の第3実施形態に係る無機成形体の製造方法について、
図9を参照して説明する。
図9に示すように、第3実施形態に係る無機成形体の製造方法は、反射層形成工程S14と、誘電体層形成工程S15と、マスキング工程S10と、導電体層形成工程S16と、蛍光体層形成工程S11と、導電体層透明化工程S17と、被覆層形成工程S12と、マスキング除去工程S13と、を含み、この順で行われる。
以下、
図10及び
図11を参照(適宜
図8及び
図9参照)して、各工程について詳細に説明する。
【0159】
(反射層形成工程)
まず、反射層形成工程S14において、
図10(a)に示すように、基板2上に反射層4を形成する。本実施形態における反射層形成工程S14は、第2実施形態における反射層形成工程S14と同様であるから、詳細な説明は省略する。
【0160】
(誘電体層形成工程)
次に、誘電体層形成工程S15において、
図10(b)に示すように、反射層4上に誘電体層7を形成する。誘電体層7は、SiO
2、Al
2O
3、Nb
2O
5、ZrO
2、AlN、TiO
2、SiON、SiNなどの透光性の誘電体材料を、スパッタリング法や蒸着法などにより、反射層4上に積層することで形成できる。また、誘電体層7を誘電体多層膜の構成とする場合は、前記した誘電体材料から屈折率が大きく異なる材料を組み合わせて(例えば、SiO
2とZrO
2との組み合わせ、SiO
2とNb
2O
5との組み合わせなど)、交互に積層することで形成することができる。
【0161】
(マスキング工程)
次に、マスキング工程S10において、
図10(c)に示すように、蛍光体層3を設ける領域である誘電体層7の上面以外は、テープやフォトレジストなどのマスキング部材20を用いてマスキングを施す。本実施形態におけるマスキング工程S10は、マスキングする部位が異なること以外は、第1実施形態におけるマスキング工程S10と同様であるから、詳細な説明は省略する、
【0162】
(導電体層形成工程)
次に、導電体層形成工程S16において、
図10(d)に示すように、誘電体層7上に、導電体材料をからなる導電体層6を形成する。導電体層6としては、後工程である導電体層透明化工程S17で透明化できる材料として、例えば、Alを用いることができる。導電体層6は、例えば、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法などにより形成することができる。
【0163】
また、導電体材料として、ITO、ZnOなどの前記した透光性を有する材料を用いて、導電体層6を、例えば、スパッタリング法や蒸着法などの物理的方法、あるいはスプレー法やCVD(化学気相成長)法などの化学的方法などにより形成することができる。なお、導電体層6を、透光性材料を用いて形成した場合は、導電体層透明化工程S17を省略することができる。
【0164】
(蛍光体層形成工程)
次に、蛍光体層形成工程S11において、
図11(a)に示すように、導電体層6を電極として、電気沈着法又は静電塗装法により、基板2の上面に、反射層4、誘電体層7及び導電体層6を介して無機蛍光体31の粒子層34を形成する。本実施形態における蛍光体層形成工程S11は、第1実施形態における蛍光体層形成工程S11と同様であるから、詳細な説明は省略する。
【0165】
なお、遠心沈降法又はパルススプレー法を用いて無機蛍光体31の粒子層34を形成する場合は、導電体層6の形成は不要である。この場合は、導電体層形成工程S16及び導電体層透明化工程S17は省略することができる。この場合は、
図8に示した無機成形体1Cにおいて、透光性層5を有さずに、誘電体層7上に蛍光体層3が直接に設けられた構成の無機成形体が形成される。
【0166】
(導電体層透明化工程)
次に、導電体層透明化工程S17において、
図11(b)に示すように、導電体層6を透明化して、透光性層5に変化させる。導電体層6をAl膜で形成した場合は、例えば、90℃程度の熱水に晒すことでAlを酸化し、透光性のAl
2O
3膜に変化させることができる。
また、導電体層6をAl膜で生成した場合は、アンモニア水で処理して、Alを透光性のAl(OH)
3に変化させることもできる。
【0167】
また、導電体層6を形成する金属を溶解させ、除去するようにしてもよい。すなわち、導電体層透明化工程S17に代えて、導電体層除去工程を行うようにしてもよい。導電体層6を除去する方法としては、酸による溶解反応を用いることができる。酸としては、例えば、HCl(塩酸)、H
2SO
4(硫酸)、HNO
3(硝酸)、その他の無機酸又は有機酸の水溶液を用いることができる。例えば、導電体層6の材料としてAlを用いた場合は、酸水溶液に浸漬させることで、Al
3+となり酸水溶液に溶解して除去される。
【0168】
更に、導電体層6の材料としてAl、Zn又はSnなどの両性金属を用いた場合は、導電体層6を除去する方法として、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)又はその他のアルカリ水溶液による溶解反応を用いることができる。例えば、導電体層6の材料としてAl、Zn又はSnを用いた場合は、水酸化ナトリウム水溶液と反応させることで、それぞれNa[Al(OH)
4]、Na
2[Zn(OH)
4]]、Na
2[Sn(OH)
4]などの錯イオンを生成してアルカリ水溶液に溶解して除去される。
【0169】
なお、導電体層6を除去する場合は、
図8に示した第3実施形態に係る無機成形体1Cにおいて、透光性層5を有さずに、誘電体層7上に蛍光体層3が直接に設けられた構成の無機成形体が形成される。
【0170】
(被覆層形成工程)
次に、被覆層形成工程S12において、
図11(c)に示すように、例えば、ALD法によって、無機蛍光体31の粒子を被覆する被覆層32を形成する。無機蛍光体31の粒子は被覆層32によって被覆されると共に、無機蛍光体31の粒子及び透光性層5、並びに無機蛍光体31の粒子同士が固着して、一体化した無機成形体1Cが得られる。
【0171】
また、透光性層5と被覆層32とを同じ材料で形成した場合は、蛍光体層3と透光性層5との密着性がよく、透光性層5に接する無機蛍光体31の水分などの雰囲気に対する良好なバリア性が得られると共に、蛍光体層3が無機成形体1Cから剥離しにくくすることができる。
なお、本実施形態における被覆層形成工程S12は、第1実施形態における被覆層形成工程S12と同様であるから、詳細な説明は省略する。
【0172】
(マスキング除去工程)
最後に、マスキング除去工程S13において、
図11(d)に示すように、マスキング部材20を除去する。これによって、基板2の上面に反射層4、誘電体層7、透光性層5及び蛍光体層3が積層して形成された無機成形体1Cが得られる。
【0173】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る発光装置について説明する。
第4実施形態に係る発光装置は、第1実施形態に係る無機成形体1を色変換用成形部材として用いた発光装置である。
【0174】
[発光装置の構成]
まず、
図12(a)を参照(適宜
図1参照)して、発光装置10の構成について説明する。
図12(a)に示すように、発光装置10は、光源11と、色変換用成形部材12とを備えて構成されている。発光装置10は、反射型の色変換用成形部材12として、第1実施形態に係る無機成形体1を用いて構成したものである。
【0175】
図12(a)に示した発光装置10は、光源11が発光した光を色変換用成形部材12に入射し、入射光L1を蛍光体層3によって色変換して、入射光とは異なる色の光を反射光L2として出力する。
【0176】
(光源)
光源11は、例えば、半導体発光素子であるLD(レーザダイオード)やLED(発光ダイオード)を用いることができる。半導体発光素子に用いる半導体材料や素子構造は特に限定されるものではないが、窒化ガリウム系などの窒化物半導体を用いた半導体発光素子は、紫外光から青色光にかけての波長領域で高輝度に発光する素子が得られるため、好適に用いることができる。
【0177】
また、光源11は、LDやLEDなどの発光素子の他に、発光素子が発光した光を適宜に集光、拡散、あるいは反射する光学系を含んで構成してもよい。また、高圧水銀ランプやキセノンランプなどの、他の方式の光源を用いることもできる。
【0178】
(色変換用成形部材(
波長変換用無機成形体))
色変換用成形部材12は、光源11からの入射光L1を、入射光L1とは異なる色の光に色変換した反射光L2を出射する反射型の色変換用無機成形体である。本実施形態では、
図1に示した第1実施形態に係る無機成形体1を用いるものである。
なお、色変換用成形部材12に設けられる蛍光体層3は、光源11からの入射光L1が照射される領域に設けられていればよく、
図1(a)に示した無機成形体1において、基板2の上面のみに蛍光体層3を設けたものであってもよい。
【0179】
[発光装置の動作]
次に、引き続き
図12(a)を参照(適宜
図1参照)して、発光装置10の動作について説明する。
なお、本実施形態では、光源11として、青色光を発光する半導体発光素子を用いた場合について説明する。また、色変換用成形部材12として、青色光を黄色光に変換する無機蛍光体31を有する無機成形体1を用いるものとする。
【0180】
光源11は、青色光を色変換用成形部材12(無機成形体1)の蛍光体層3が設けられた面に入射光L1を入射する。青色の入射光L1は、蛍光体層3の空隙33(
図1(b)参照)によって散乱されつつ蛍光体層3内を伝搬し、反射面である基板2の上面(
図12(a)において右側の面)で反射される。そして、入射光L1が入射した面と同じ面側から反射光L2が出射される。この反射光L2が発光装置10からの出力光となる。
【0181】
蛍光体層3の入射した青色光は、反射面で反射され、蛍光体層3から出射されるまでの間に、一部が無機蛍光体31によって吸収される。無機蛍光体31は、吸収した青色光によって励起され、黄色光を放出(発光)する。すなわち、無機蛍光体31は、青色光を黄色光に色変換する。
【0182】
無機蛍光体31から発光する黄色光、及び無機蛍光体31に吸収されずに蛍光体層3を往復で透過した青色光は、蛍光体層3が設けられた面側から出射される。このとき、出射される反射光L2には、蛍光体層3で色変換された黄色光と、色変換されなかった青色光とが含まれ、反射光L2は、これらの光が混色した色となる。青色光と黄色光とが適宜な割合となるように蛍光体層3における無機蛍光体31の膜厚や、空隙33の割合を調整することで、発光装置10の出力光を白色光とすることができる。
【0183】
なお、本発明は、白色光に限定されるものではなく、入射光L1の全部を黄色光に色変換し、黄色光として出力するように構成することもできる。また、例えば緑色光や赤色光などに色変換する無機蛍光体31を用いるように構成してもよい。また、複数種類の無機蛍光体31を積層、あるいは混合して蛍光体層3を形成することで、様々な色に色変換して出力するように構成することもできる。
【0184】
なお、
図12(a)に示した発光装置10において、色変換用成形部材12として、無機成形体1に代えて、
図6に示した第2実施形態に係る無機成形体1B又は
図8に示した第3実施形態に係る無機成形体1Cを用いるように構成することもできる。第2実施形態に係る無機成形体1Bは、基板2よりも高反射率の反射層4を設け、第3実施形態に係る無機成形体1Cは、反射層4に加えて誘電体層7を設けているため、発光効率の良好な発光装置10とすることができる。
【0185】
<第5実施形態>
次に、第5実施形態に係る発光装置について説明する。
第5実施形態に係る発光装置は、互いに変換する色が異なる複数種類の反射型の色変換用成形部材を用いた発光装置である。
【0186】
[発光装置の構成]
まず、
図12(b)を参照(適宜
図1参照)して、発光装置10Aの構成について説明する。
図12(b)に示すように、発光装置10Aは、光源11と、カラーホイール13とを備えて構成されている。また、カラーホイール13は、2種類の色変換用成形部材12A
R、12A
Gと、反射部材14
Bとを有している。
【0187】
本実施形態に係る発光装置10Aは、カラーホイール13の回転に伴って、光源11からの入射光L1を、互いに異なる3色の反射光L2を順次に出力光として出力する。この発光装置10Aは、例えば、プロジェクタの光源装置として用いられるものである。
【0188】
(光源)
光源11は、
図12(a)に示した第4実施形態における光源11と同様に、半導体発光素子であるLDやLED、又は高圧水銀ランプやキセノンランプなどの他の方式の光源を用いることができるから、詳細な説明は省略する。
なお、本実施形態では、光源11は、青色光を出射するものとする。
【0189】
(カラーホイール)
カラーホイール13は、円盤状をしており、回転軸13aを中心として回転し、光源11からの入射光L1が、所定の方向から照射されるように構成されている。また、カラーホイール13は、回転軸13aを中心として、3分割された扇形の色変換用成形部材12A
R,12A
G及び反射部材14
Bから構成されている。そして、回転軸13aを中心として回転することで、入射光L1が順次に色変換用成形部材12A
R,12A
G及び反射部材14
Bに照射され、反射光L2が発光装置10Aから出力される。なお、3分割される領域の中心角は等角度であってもよいし、それぞれ異なる角度であってもよい。
【0190】
(色変換用成形部材(
波長変換用無機成形体))
色変換用成形部材12A
R及び色変換用成形部材12A
Gは、光源11からの入射光L1を、入射光L1とは異なる色の反射光L2として出射する、反射型の色変換用成形部材である。本実施形態では、色変換用成形部材12A
R及び色変換用成形部材12A
Gには、第1実施形態に係る無機成形体1が適用される。また、色変換用成形部材12A
R及び色変換用成形部材12A
Gは、青色光を、それぞれ赤色光及び緑色光に色変換する無機蛍光体31を含有する蛍光体層3を有している。
また、色変換用成形部材12A
R及び色変換用成形部材12A
Gに、第2実施形態に係る無機成形体1B又は第3実施形態に係る無機成形体1Cを適用することもできる。
【0191】
なお、蛍光体層3は、少なくとも入射光L1が照射される領域に設けられていればよい。従って、カラーホイール13の中心付近の内周部には蛍光体層3を設けず、外周部に円環状に設けるようにしてもよい。
【0192】
(反射部材)
反射部材14
Bは、第1実施形態に係る無機成形体1において、蛍光体層3に代えて、無機蛍光体31を含有せず、代わりに無色の無機フィラーを含有した無機粒子の層が形成された、色変換を行わない無機成形体である。
【0193】
[発光装置の動作]
次に、引き続き
図12(b)を参照(適宜
図1参照)して、発光装置10Aの動作について説明する。
【0194】
光源11からの入射光L1が、カラーホイール13の色変換用成形部材12A
Rが設けられた領域に入射される期間は、青色の入射光L1は、色変換用成形部材12A
Rの蛍光体層3によって、赤色光に色変換され、赤色の反射光L2が発光装置10Aから出力される。
【0195】
カラーホイール13が矢印の方向に回転し、光源11からの入射光L1が、カラーホイール13の色変換用成形部材12A
Gが設けられた領域に入射される期間は、青色の入射光L1は、色変換用成形部材12A
Gの蛍光体層3によって、緑色光に色変換され、緑色の反射光L2が発光装置10Aから出力される。
【0196】
カラーホイール13が矢印の方向に更に回転し、光源11からの入射光L1が、カラーホイール13の反射部材14
Bが設けられた領域に入射される期間は、青色の入射光L1は、反射部材14
Bによって、色変換されることなく反射され、青色の反射光L2が発光装置10Aから出力される。
すなわち、発光装置10Aは、カラーホイール13の回転に伴って、赤色光、緑色光及び青色光を周期的に出力する。
【0197】
なお、本実施形態では、光源11からの入射光L1を青色光としたが、これに限定されるものではない。例えば、光源11からの入射光L1を紫外光とし、無機成形体である色変換用成形部材12A
R,12A
G及び反射部材14
Bに、第1実施形態に係る無機成形体1を適用し、色変換用成形部材12A
Rには紫外光を赤色光に、色変換用成形部材12A
Gには紫外光を緑色光に、反射部材14
Bには紫外光を青色光に、それぞれ色変換する無機蛍光体31を含有させた蛍光体層3を設けるように構成することもできる。
その他、入射光L1の色と、反射光L2の色の組み合わせを自由に設定することもでき、2色又は4色以上の反射光L2を順次出力するように構成することもできる。
【0198】
また、本実施形態では、色変換用成形部材12A
R及び色変換用成形部材12A
Gは、それぞれ青色の入射光L1の全部を吸収し、それぞれ赤色光及び緑色光に変換して出力することとしたが、入射光L1の一部を吸収して色変換し、元の青色光と混色させて出力するように構成することもできる。
【実施例】
【0199】
次に、本発明の実施例について説明する。
<実施例1>
実施例1として、
図6に示した第2実施形態に係る無機成形体1Bの作製例について説明する。
(反射層形成工程)
まず、銅製の板状の基板を鏡面加工し、その上にAgをメッキして反射層を形成する。
【0200】
(マスキング工程)
次に、基板の下面及び側面を、ポリイミドテープを用いて被覆する。すなわち、無機蛍光体の粒子を積層する上面を除いてマスキングを施し、上面のみ露出させる。
【0201】
(蛍光体層形成工程)
次に、マスキングされた基板を、無機蛍光体としてF.S.S.S.No法による平均粒径が7μmのCASNの粒子を分散させた約25℃の電着槽に対極と共に浸漬させ、電気泳動法により無機蛍光体を基板の露出部に電着させる。電着槽には無機結着材としてMgイオンが添加されており、これが水酸化マグネシウム及び/又は炭酸マグネシウムとして析出することで結着力が得られる。なお、無機蛍光体の粒子層の厚さは、電極間に通電するクーロン量を制御することで30μmの厚さに制御する。
洗浄・乾燥後、無機蛍光体の粒子層が積層された金属板を得る。
【0202】
(被覆層形成工程)
次に、この金属板上に積層された無機蛍光体の粒子層を被覆する被覆層として、ALD法によりAl
2O
3層を形成する。
【0203】
CASN蛍光体の粒子層が積層された金属板を、ALD法による成膜装置であるALD装置の反応容器に挿入する。
約150℃の温度条件で、原料であるH
2OとTMAとを、真空パージを挟んで、交互に反応容器に導入する。原料を交互に導入する成膜工程の基本サイクルを繰り返して、Al
2O
3層を単分子ずつ堆積させ、Al
2O
3層を約1μmの厚さに形成する。
なお、被覆層形成工程の詳細については後記する。
【0204】
(マスキング除去工程)
最後にマスキングテープを除去し、Al
2O
3層で均一コーティングされた無機蛍光体の粒子層が積層された無機成形体を得る。
【0205】
この無機成形体は、蛍光体層の空隙が24.0%あり、金属基板と蛍光体層の線膨張係数に差があるがクラック等が発生することが防止されている。
この金属板付きの無機成形体は、LD光源により励起される、プロジェクタや自動車用のヘッドライトの光源に使用することができる。
【0206】
本実施例で作製された無機成形体は、プロセス中の最高温度が150℃であり、無機蛍光体として窒化物蛍光体であるCASN蛍光体を用いても、CASN蛍光体は劣化していない。また、蛍光体層が、通常の焼結型セラミックスでは加工が困難な100μm以下の厚さである30μmで形成され、かつ直接金属と接している。このため、蛍光体の励起により発生するストークスロスによる発熱を効率よく放熱でき、温度上昇による蛍光体の色変換効率の低下が抑制される。
また、蛍光体層の表面は無機蛍光体の粒子の粒径に起因する凹凸が形成され、無機成形体の内部には適度に空隙が形成される。また、ALD法により緻密な膜が形成される。
【0207】
[被覆層形成工程]
実施例1のALD法による被覆層形成工程について、更に詳細に説明する。
なお、本実施例におけるALD装置の反応容器の内径はφ300mmであり、試料の厚さは6mmである。
【0208】
(プリベーク工程)
まず、反射層を有する基板上に無機蛍光体の粒子層が形成された試料をオーブンに入れ、120℃で2時間加熱し、試料中の水分を蒸発させる。
(試料設置工程)
次に、ALD装置の反応容器内に試料を設置し、反応容器の蓋を閉める。
【0209】
(成膜前保管工程)
次に、ロータリーポンプを用いて、反応容器内を低圧状態にする。反応容器内の圧力設定は、10torr(13332Pa)とする。また、反応容器内に窒素ガス流を導入する。窒素ガスの流量は20sccm(33×10
−3Pa・m
3/s)とし、安定化及び最終的な水分除去のためにこの状態を約60分間維持する。
また、反応容器の温度は、150℃とし、以降の成膜中は、この温度を維持する。
【0210】
(第1原料供給工程)
反応容器内に、第1原料として、H
2Oを0.015秒間導入する。
試料とH
2Oとを反応させるため、反応容器と真空ラインとを接続するバルブであるストップバルブを閉じ、試料をH
2Oに15秒間暴露させる。
(第1排気工程)
ストップバルブを開け、窒素ガス流で反応容器内から未反応のH
2O及び副生成物を60秒間排気する。
【0211】
(第2原料供給工程)
反応容器内に、第2原料として、TMAを0.015秒間導入する。
試料とTMAとを反応させるため、反応容器のストップバルブを閉じ、試料をTMAに15秒間暴露させる。
(第2排気工程)
ストップバルブを開け、窒素ガス流で反応容器内から未反応のTMA及び副生成物を60秒間排気する。
【0212】
前記した第1原料供給工程から第2排気工程までを1サイクルとして、所望の厚さのAl
2O
3膜となるように、このサイクルを繰り返す。本実施例では、6000サイクルで、厚さ約1μmのAl
2O
3膜が形成される。
【0213】
成膜完了後に、ストップバルブを閉じ、窒素ガス流を流量100sccm(169×10
−3Pa・m
3/s)とし、反応容器内の圧力を常圧にしてから試料を取り出す。
以上の手順により、被覆層としてAl
2O
3膜が形成される。
【0214】
<実施例2>
実施例2として、YAG系の無機蛍光体を用い、被覆層としてALD法によりAl
2O
3層を形成することで作製した無機成形体について、蛍光体層の断面を撮影した写真画像から、画像解析手法により蛍光体層の空隙率を測定した。以下、空隙率を測定する手順について説明する。
【0215】
なお、本実施例で用いた無機蛍光体の平均粒径は、F.S.S.S.No法による測定で3.6μmであった。また、コールターカウンターを用いて測定した粒度分布から求めた体積分布による中心粒径は6.2μmであった。
【0216】
まず、
図13に示すように、作製した無機成形体を分割して、蛍光体層の断面を走査型電子顕微鏡で撮影する。
図13において、粒状の塊の薄い灰色部分が無機蛍光体31であり、粒状の塊の外縁部の濃い灰色部分が被覆層32である。
なお、
図13の右下部に表示されている目盛りは、1目盛りが1μmを示し、被覆層32の膜厚は、約300nmである。
【0217】
次に、
図13に示した写真画像から測定対象とする領域Aを切出し、
図14に示すように、被覆層32の部分を黒く塗りつぶす。
次に、粒子解析ソフトを用いて、黒く塗りつぶした被覆層32に囲まれた領域を、
図15に示すように黒く塗りつぶし、この黒く塗りつぶした領域を、被覆層32を含む無機蛍光体の領域(31+32)とする。ここで、黒く塗りつぶした領域以外を空隙33とする。そして、黒く塗りつぶした領域の面積(画素数)を、領域Aの面積(画素数)で除することで、被覆層32を含む無機蛍光体(31+32)の含有率が求められ、その残余の部分として空隙率が求められる。
【0218】
本実施例では、無機蛍光体の含有率が75.4%であった。従って、空隙率は24.6%であった。
【0219】
<実施例3>
実施例3として、
図8に示した第3実施形態に係る無機成形体1Cの作製例について説明する。
Cu製の板状の基板を鏡面加工し、その上にAgをメッキして反射層を形成する。なお、基板であるCuと反射層であるAgとの間には、これらの金属間の密着性を向上させるための密着層としてNiメッキを施してある。次に、スパッタリング法により、SiO
2層とNb
2O
5層とを交互に積層した誘電体多層膜を成膜する。次に、電気沈着法の電極となる導電体層として、Al膜を成膜する。
その後、実施例1と同様に、電気沈着法により、導電体層を介してSCASN蛍光体を主体とする無機粒子層を形成する。その後、熱水処理を施して、導電体層であるAl膜を透明化する。そして、ALD法により、被覆層を形成する。
【0220】
以上の工程により、基板上に、Agからなる反射層と、層数40層で層厚3.5μmの無機材料からなる誘電体層と、膜厚40μmの無機蛍光体層とを有する反射型の無機成形体を得る。
作製された無機成形体は、Agの反射層による反射率の向上だけでなく、誘電体層による光取り出し効率及び反射率が向上するため、誘電体層がない構成の無機成形体と比較して、光の利用効率を5%高くすることが可能となる。