(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理ガスを基板に対して供給する工程は、第1のモノマーを含む第1の処理ガスを前記基板に供給するステップと、第2のモノマーを含む第2の処理ガスを前記基板に供給するステップと、両ステップの間にて前記処理容器内に置換ガスを供給して前記処理容器内の雰囲気を置換ガスにより置換するステップと、を含むサイクルを複数回行う工程であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の成膜方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスを製造する時に用いられる有機系の薄膜の一つとして、例えば二種類のモノマーの脱水縮合によって形成されるポリイミド膜が知られている。これらモノマーとしては、具体的には後述の
図2に示すように、二官能性の酸無水物例えばPMDA(C
10H
2O
6:無水ピロメリト酸)と、二官能性のアミン例えばODA(C
12H
12N
2O:4,4’―ジアミノジフェニルエーテル)とが用いられる。そして、これらモノマーを溶液中で混合して前駆体であるポリアミド酸溶液を生成させた後、この前駆体溶液を半導体ウエハなどの基板(以下「ウエハ」と言う)に塗布すると共に、このウエハを加熱することにより、ポリマーであるポリイミド膜が形成される。
【0003】
ところで、例えば携帯電話などの電子機器の小型化に伴って半導体デバイスの集積化を図るにあたり、当該半導体デバイスが各々形成されたウエハを複数枚積層すると共に、各々のデバイスにおける電極部同士を上下方向に導通させた構成が知られている。本発明者等は、このような3次元的な構成を形成するにあたり、以下の態様を検討している。
【0004】
即ち、前記デバイスをウエハの表面に形成すると共に、当該デバイスの下面側の電極部が露出するように、このウエハの裏面側からドライエッチングを行って例えばホール状の凹部を形成する。そして、凹部内に銅などの導電部を埋め込むと共に、このウエハの裏面側に、同様にデバイスの形成された別のウエハを配置して、前記導電部(詳しくはこれらウエハ間に配置したバンプなどを含む)を介してこれらデバイス同士を導通させる。こうして複数枚のウエハを順次積層することにより、デバイスの集積構造が形成される。尚、実際には既述の凹部の形成工程や導電部の埋め込み工程は、ウエハの上下を反転させて行われるが、ここでは便宜上デバイス側を表面として説明している。
【0005】
既述の凹部は、ウエハの裏面側からデバイスに到達するまでの深さ寸法(例えば50μm)に形成される一方、当該凹部に隣接する別の集積構造の導電部に干渉しないように、即ち当該集積構造をできるだけ高密度化するために、開口寸法(直径寸法)が例えば5μmもの小径に形成される。従って、この凹部は、極めて大きなアスペクト比になる。
【0006】
この時、ウエハがシリコン(Si)により構成されていることから、凹部の内壁面を介してウエハと前記導電部とが導通しないように(絶縁させるために)、凹部内に導電部を埋め込む前に、当該凹部の内壁面に沿って絶縁膜を形成する必要がある。そこで、本発明者等は、この絶縁膜として、既述のポリイミド膜を適用しようとしている。後述の実施の形態で使用する
図13は、以上述べた構成を示しており、1はポリイミド膜、10は凹部、11はデバイス、14は仮止め材、15はサポート基板である。
【0007】
しかしながら、このポリイミド膜は、比誘電率が例えば3.5程度と他の有機材料よりも高いので、前記絶縁膜として適用しにくい。特許文献1には、38℃以上75℃以下に加熱された基板に対してモノマーを蒸着して前駆体を形成し、次いでモノマーの蒸着を停止した後基板を200℃に加熱してイミド化させることにより、配向膜を形成する技術について記載されている。しかし、この手法は、既述のような凹部を良好に埋め込むことができないし、また成膜プロセスの途中で大きな温度差のある後段のプロセス温度まで昇温させる必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の成膜方法に係る実施の形態の一例について、
図1〜
図14を参照して説明する。
図1は、成膜処理の対象の被処理基板であるウエハWの表面構造を示しており、10はホールからなる凹部、11はこのウエハWの下面側に形成されたデバイス、14は例えば樹脂などからなる仮止め材、15はサポート基板である。この凹部10は、開口寸法d及び深さ寸法hが夫々1μm〜数十μm及び10μm〜数百μmとなるように形成されている。従って、凹部10のアスペクト比は、例えば5〜20程度である。尚、
図1では、凹部10のアスペクト比について小さく描いてある。本発明の成膜方法では、
図1に示す表面構造体にこれから述べるポリイミド膜1を成膜した後、所定のプロセスを経て
図14に示す構造体が得られる。
図14は、目的とする半導体デバイスの一部を示しており、W1は前記ウエハWとは別のウエハ、13は導電部、16はバンプである。そして、ポリイミド膜1は、導電部13の金属成分がウエハWに拡散することを防止するためのバリア膜をなすものである。
【0015】
この実施の形態の成膜方法は、
図1に示す構造体の表面にポリイミド膜1を成膜する方法であるが、始めにポリイミド膜1が合成されるメカニズムについて説明する。このポリイミド膜1の合成には、
図2の上段に示すように、二官能性の酸無水物からなる第1のモノマー例えばPMDAと、二官能性のアミンからなる第2のモノマー例えばHMDA(C
6H
16N
2:ヘキサメチレンジアミン)とが用いられる。このPMDAは、具体的には4つの炭素元素(C)と1つの酸素元素(O)とが環状に単結合(一重結合)により互いに接続された5員環からなる官能基を2つ備えており、前記酸素元素に隣接する炭素元素には、夫々別の酸素元素が二重結合により接続している。そして、5員環を構成する酸素元素が各々外側を向くように配置されると共に、これら2つの官能基間に、各々の官能基の2つの炭素元素を共有するベンゼンが介在していて芳香族モノマーをなしている。前記5員環は、イミド環を形成するためのものである。
【0016】
HMDAには、1つの窒素元素(N)と2つの水素元素(H)とを備えたアミノ基(−NH
2)が2つ配置されており、これら窒素元素は、複数この例では6つの炭素元素が単結合によって直鎖状に配列されたアルカンの一端側及び他端側に夫々結合している。こうしてHMDAは、非芳香族モノマーである脂肪族アミンとなっている。尚、
図2では炭素元素及び水素元素については記載を省略している。
そして、これら2種類のモノマーを互いに混合すると、
図2の中段に示す前駆体であるポリアミド酸が生成するので、この前駆体の熱処理(加熱)によって脱水縮合が起こり、
図2の下段に示すポリイミドが合成される。この時、前駆体を例えば溶液中で形成し、次いでこの前駆体溶液をウエハWの表面に塗布した後、熱処理を行ってポリイミド膜1を成膜した場合には、凹部10内にこの前駆体が埋め込まれるので、後の工程にて導電部13を形成できなくなってしまう。
これに対して本発明のシーケンス重合法では、以下に詳述するように、膜厚の均一性に優れた(凹部10の内部への埋め込み特性が優れた)ポリイミド膜1を成膜できる。始めに、このシーケンス重合法に用いる縦型熱処理装置の構成について、
図4〜
図5を参照して説明する。
【0017】
縦型熱処理装置は、
図3に示すように、ウエハWを棚状に積載するためのウエハボート31と、このウエハボート31を内部に収納して各々のウエハWに対して成膜処理を行うための反応管(処理容器)32と、を備えている。反応管32の外側には、内壁面にヒータ33の配置された加熱炉本体34が設けられている。
図3中35は、反応管32及び加熱炉本体34を下方側から支持するための支持部である。
【0018】
反応管32は、この例では外管32aと、当該外管32aの内部に収納された内管32bとの二重管構造となっており、内管32bの内部には、当該内管32bの長さ方向に沿って伸びるように形成されたガスインジェクター36が収納されている。このガスインジェクター36に対向するように、内管32bの側面には、当該内管32bの長さ方向に伸びるスリット状の開口部37が上下方向に複数箇所に形成されている。
図3中38は、外管32a及び内管32bを各々下方側から支持すると共に、外管32aの下端面と内管32bの下端面との間のリング状の領域を気密に塞ぐための概略円筒形状のフランジ部である。
【0019】
フランジ部38の側壁には、外管32aと内管32bとの間の領域に連通するように排気口39が形成されており、この排気口39から伸びる排気路40には、反応管32内で生成した固形物などを取り除くためのトラップである除去装置41及びバタフライバルブなどの圧力調整部42を介して真空ポンプ43が接続されている。
図3中44及び45は、夫々内管32bの開口端を気密に塞ぐ蓋体及び断熱体であり、
図3中46はウエハボート31及び断熱体45を鉛直軸周りに回転させるためのモータなどの回転機構である。
【0020】
ガスインジェクター36の側壁には、ウエハボート31に収納されるウエハWの各々の高さ位置に対応するように、即ち後述のサイドフロー方式で各々のウエハWに対して各ガスを供給するために、ガス吐出口47が上下方向に亘って複数箇所に形成されている。ガスインジェクター36の下方側には、第1の処理ガス及び第2の処理ガスを当該ガスインジェクター36の内部に夫々供給するためのガス供給管48a、48bが夫々気密に接続されている。具体的には、
図4に示すように、ガスインジェクター36の下端部が開口しており、この開口端に第2の処理ガスを供給するためのガス供給管48bの一端側が気密に挿入されている。また、前記開口端よりも僅かに上方位置におけるガスインジェクター36の側面には、第1の処理ガスを供給するためのガス供給管48aの一端側が接続されている。こうしてこれら処理ガスがガスインジェクター36内に独立して供給されるように構成されている。
【0021】
各々のガス供給管48a、48bの他端側は、既述のフランジ部38の側壁を気密に貫通して、バルブ49及び流量調整部50を介して第1のモノマー及び第2のモノマーが夫々貯留されたガス貯留源51a、51bに夫々接続されている。
図3中51cは、不活性ガス例えば窒素(N
2)ガスの貯留されたガス貯留源であり、ガス供給管48cを介してガス供給管48a、48bに接続されると共に、各々のモノマーのキャリアガスとして用いるために、ヒータ52の設けられたガス供給管48cを介してガス貯留源51a、51bに夫々接続されている。これらバルブ49、流量調整部50及びガス貯留源51は、ガス供給系100をなしている。尚、ガス貯留源51a、51bは、実際には固体(粒子)状あるいは液体状のモノマーが収納された図示しない収納容器内に対して、加熱された窒素ガスを供給することによりモノマーを気化(蒸発)させるように構成されているが、ここでは「ガス貯留源」の用語を用いている。
【0022】
この縦型熱処理装置には、装置全体の動作のコントロールを行うためのコンピュータからなる図示しない制御部が設けられており、この制御部のメモリ内には、反応管32内に各処理ガスを供給して既述の成膜処理を行うための図示しないプログラムが格納されている。このプログラムは、ハードディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリカード、フレキシブルディスクなどの記憶媒体である記憶部から制御部内にインストールされる。
【0023】
次に、この装置の作用と共に、既述のポリイミド膜1の成膜方法について説明する。始めに、ヒータ33によりポリイミド膜1が生成する温度例えば100℃〜250℃好ましくは150℃〜200℃に加熱された反応管32内に、多数枚のウエハWを積載したウエハボート31を搬入して、蓋体44により当該反応管32を気密に閉じる。次いで、圧力調整部42を介して反応管32内のガス圧力を凹部10内にポリイミド膜1の埋め込みが良好に行われる圧力例えば13Pa(0.1Torr)〜267Pa(2.0Torr)好ましくは26Pa(0.2Torr)〜133Pa(1.0Torr)の真空度に設定すると共に、ウエハボート31を鉛直軸周りに回転させる。
【0024】
続いて、
図5に示すように、各々のウエハWに対して、ガスインジェクター36から第1のモノマーを含む第1の処理ガスを例えばサイドフロー方式で時間t1の間に亘って(例えば2秒程度)供給する。第1のモノマーは、ウエハWの表面に沿って一方側から他方側に向かって通流して、当該表面に物理的に吸着する。そして、第1のモノマーがウエハWの表面に吸着すると、後述の実施例から分かるように、当該第1のモノマーの上層側には別の第1のモノマーがほとんどあるいは全く吸着しないので、ウエハWの露出面(表面)には、一層(一分子)の吸着層2が均一に形成される。従って、反応管32内に供給された余剰の第1のモノマーは、当該反応管32から排出されていく。この時、反応管32内の圧力を既述の範囲に設定していることから、凹部10のアスペクト比が大きくても、当該凹部10の内壁面及び底面には被覆性高く吸着層2が形成される。
【0025】
次いで、第1の処理ガスの供給を停止すると共に、例えば窒素ガスなどの不活性ガスをパージガス(置換ガス)として反応管32内に時間tpの間に亘って例えば1秒以上(1秒〜10秒程度)供給する。この置換ガスにより、
図6に示すように、反応管32内に残っていた余剰の第1のモノマーが当該反応管32内から排出されて、反応管32内の雰囲気がパージガスにより置換される。
【0026】
続いて、
図7に示すように、吸着層2の形成されたウエハWに対して、第2のモノマーを含む第2の処理ガスを例えばサイドフロー方式で時間t2の間に亘って例えば2秒程度供給する。この時、反応管32内の雰囲気を置換ガスにより置換しているので、第2のモノマーと、当該反応管32内においてウエハWの表面から離れて滞留している第1のモノマーとの接触が防止される。
【0027】
第2のモノマーは、ウエハWの一方側から他方側に向かって通流するうちに、当該ウエハW上の吸着層2と接触する。そして、ウエハWをポリイミド膜1の生成温度に設定していることから、吸着層2と第2のモノマーとが接触すると、既述の
図2に示した前駆体が速やかに生成すると共に、この前駆体から水分(H
2O)が直ぐに脱離して脱水縮合が進んでいき、イミド分子が多数重合したポリイミドからなる反応層3が形成される。こうして吸着層2からいわば反応層3が生成するので、凹部10の内壁面や底面を含むウエハWの露出面に亘って、反応層3が形成される。
【0028】
この反応層3は、既述の
図2の下段に示すように、第1のモノマーと第2のモノマーとが交互に多数配列された構成となっており、第1のモノマーに由来するベンゼン環と、第2のモノマーに由来する直鎖状の分子鎖と、が交互に並んでいる。従って、あるベンゼン環と当該ベンゼン環に隣接するベンゼン環との間には、前記直鎖状の分子鎖が介在しているので、ベンゼン環において電子が別の隣接するベンゼン環に移動しようとしても、当該直鎖状の分子鎖によって電子の移動が阻止される。そのため、この反応層3は、比誘電率が小さく抑えられて絶縁性となる。
【0029】
この時、第1のモノマーと第2のモノマーとの反応が直ぐに起こるので、ウエハWの表面に生成した反応層3には、第2のモノマーと反応する既述の5員環からなる官能基がほとんどあるいは全く残っていない。また、反応層3の表面には、後述の実施例から分かるように、第2のモノマーが物理的に吸着しない(吸着しにくい)。そのため、反応層3は、吸着層2に含まれている第1のモノマーと、当該第1のモノマーと反応できる量の第2のモノマーとにより形成されるので、これらモノマーの割合が等しくなり、従って極めて高い重合度となる。言い換えると、吸着層2に含まれる5員環からなる官能基がいわば過不足なく第2のモノマーと反応して、一層の反応層3によってウエハWの露出面が被覆される。反応管32内に供給された余剰の第2のモノマーについても、同様にこの反応管32内から排出される。
【0030】
ここで、
図2に示したポリイミド膜1の反応機構を改めて詳細に見ると、第2のモノマーは、第1のモノマーに対して電子を供与している。従って、この電子の供与元の窒素元素(アミノ基)において、電子密度が高い程、電子を放出しやすくなるので、第1のモノマーとの反応が起こりやすいと言える。従って、
図8に示すように、第2のモノマーとして芳香族モノマー(各々のアミノ基がベンゼン環に結合したモノマー)を用いた場合には、このベンゼン環が電子吸引性を示すことから、第2のモノマーにおける電子密度は、ベンゼン環よりもアミノ基の方が低くなる。そのため、第2のモノマーとして芳香族モノマーを用いると、それ程速い反応速度は得られない(反応性が低くなる)。尚、
図8では、各々のモノマーを簡略化して描画している。以降の
図9も同様である。
【0031】
一方、既述のように、第2のモノマーとして非芳香族モノマーの一つであるHMDAを用いると、この第2のモノマーにおける2つのアミノ基間の分子鎖(アルカン)が電子供与性を示すので、
図9に示すように、第2のモノマーにおける電子密度は、前記分子鎖よりもアミノ基の方が高くなる。従って、第2のモノマーとして非芳香族モノマーを用いると、第1のモノマーとの間の脱水縮合反応が速やかに進む。また、2つのアミノ基間にベンゼン環が介在している場合と比べて、これらアミノ基間に直鎖状の炭素鎖が介在している場合の方がアミノ基が動きやすく、この点からもHMDAの反応性が高くなる。しかしながら、このように反応が速やかに進む場合には、例えばモノマー同士を溶液中で混合して反応させようとすると、当該反応の制御が困難になってしまう。そこで、本発明では、このような反応を容易に制御するために、以上説明したように、これらモノマーを交互にウエハWに供給すると共に、ガスを切り替える時には雰囲気を置換することにより、ウエハWの表面において前記反応を進行させている。
【0032】
しかる後、第2の処理ガスの供給を停止すると共に、置換ガスを時間tpの間に亘って反応管32内に供給する。この置換ガスにより、
図10に示すように、反応管32内における第2のモノマーが排出されて、この反応管32内の雰囲気が置換ガスにより置換される。この時、反応層3を形成する時のウエハWの加熱温度が例えば150℃程度と比較的低い場合には、第2の処理ガスの供給を停止した時点では、反応層3の一部にはまだ前駆体が残っている場合がある。しかし、第2のモノマーを排出するために置換ガスを反応管32内に供給している間に、この前駆体の反応が進行してポリイミドの生成が終了する。従って、このような場合において第2の処理ガスを供給した後に反応管32内の雰囲気を置換する工程は、反応管32内から第2のモノマーを排出するための工程であると共に、ポリイミドの生成を完了させるための工程であると言える。
【0033】
こうして
図11に示すように各処理ガスを切り替える時には雰囲気を置換するステップを行いながら、第1の処理ガスを供給するステップと第2の処理ガスを供給するステップとを交互に行うサイクルを多数回(n回:n:2以上の整数)例えば100回程度繰り返すと、
図12に示すように、反応層3が多数層(n層)に亘って積層されて既述のポリイミド膜1が形成される。このポリイミド膜1の膜厚は、前記サイクル数に応じた寸法となり、具体的には例えば100nm〜400nm程度となる。尚、
図11において、窒素ガスは、雰囲気の置換を行うためだけでなく、各モノマーを反応管32内に供給するためのキャリアガスとしても用いているため、ポリイミド膜1の成膜開始時から成膜終了時までに亘って供給している。
【0034】
その後、
図13に示すように、フォトレジストグラフィーにより凹部10の底面(デバイス11の電極部)を露出させた後、この凹部10内に例えば銅(Cu)などからなる導電部13を埋め込むと共に、CMP(Chemical Mechanical Policing)を行う。そして、
図14に示すように、このウエハWの上方側に、同様にデバイス11が形成された別のウエハW1を配置すると共に、上下間におけるデバイス11、11同士をバンプ16によって互いに固定及び導通させて、既述の構造体が得られる。しかる後、例えば220℃程度にこの構造体を加熱することにより、仮止め材14を剥離して、当該構造体からサポート基板15を取り外す。
【0035】
上述の実施の形態によれば、ポリイミド膜1が生成する温度にウエハWを加熱すると共に、ガスを切り替える時には雰囲気の置換を行いながら、第1のモノマーを含む第1の処理ガスと第2のモノマーを含む第2の処理ガスとをウエハWに順番に供給するサイクルを複数回行うシーケンス重合法によりポリイミド膜1を成膜している。そして、第2のモノマーとして、非芳香族モノマーを用いている。そのため、電子が豊富な(リッチな)ベンゼン環を含む芳香族モノマーを第1のモノマーとして用いても、ポリイミド膜1を構成する分子鎖において、このベンゼン環(芳香族モノマー)の両側には、非芳香族モノマーに由来する絶縁性の非芳香族化合物が当該ベンゼン環を挟むように配置される。そのため、互いに隣接するベンゼン環同士の間で非芳香族化合物を介して電子が移動することを抑制できるので、各々のモノマーとして芳香族モノマーを用いてポリイミド膜1を合成した場合と比べて、低い比誘電率を持つポリイミド膜1を形成することができ、従ってこのポリイミド膜1を絶縁膜として適用できる。そして、第2のモノマーとして非芳香族モノマーを用いることにより、既述のように第1のモノマーとの反応が直ぐに起こるので、ポリイミド膜1を速やかに形成できる。
【0036】
この時用いたHMDAは、絶縁性に加えて耐熱性を持つ化合物であり、従ってこのHMDAから得られるポリイミド膜1についても、絶縁性と共に耐熱性についても良好な特性が得られる。また、脂肪族ジアミンの一つであるHMDAは、ナイロンの原料として用いられており、極めて汎用性の高い化合物であるため、絶縁性に優れたポリイミド膜1を形成するにあたって、コストアップを抑えることができる。従って、例えばフッ素をポリイミド膜1に含有させる場合と比べて、絶縁性に優れたポリイミド膜1を安価に得ることができる。
【0037】
ここで、ポリイミド膜1は、共重合により生成するため、双方のモノマーが存在しないと反応が進行しない。従って、概略的な言い方をすれば、一方のモノマーを供給した時にウエハW上の他方のモノマーが消費されてしまえば成膜が飽和するので、成膜量は供給サイクル数に依存することになる。このため、ガス流れによる成膜ムラが抑えられるし、成膜量に対するモノマーの濃度の依存度が小さくなることから、プロセス制御が容易であり、また良質(高い重合度及び高い絶縁性)且つ均一な膜厚のポリイミド膜1が得られる。実際に本発明のシーケンス重合法を用いてポリイミド膜1を成膜したところ、前記混合ガスを用いる場合と比較して、モノマーの供給精度については0〜30倍程度緩くでき、またウエハWの加熱温度の精度については10倍程度下げることができることが分かった。そして、モノマーの供給精度及びウエハWの加熱温度についてそれ程厳密に制御しなくても、成膜されるポリイミド膜1の膜厚については、混合ガスを用いる場合に比べて1桁以上もの均一性の向上が見られた。また、本発明の手法により成膜したポリイミド膜1の特性評価を行ったところ、第2のモノマーとして芳香族モノマー(ODA)を用いた場合と比べて、比誘電率が低くなっており、また耐熱性の面では熱分解温度が同程度(400℃以上)となっていることが分かった。
【0038】
更に、種別の異なるモノマー同士が雰囲気中で互いに混ざり合わないようにすることにより、蒸気圧が互いに異なるモノマー同士を重合させることができる。即ち、これらモノマーを混合した混合ガスを用いてポリイミド膜1を成膜しようとすると、ポリイミド膜1について高い重合度を得るためには、各々のモノマーの蒸気圧をできるだけ揃える必要がある。一方、既述のように成膜飽和の場合には、ウエハW上に一度吸着層2を形成し、次いで雰囲気を置換した後、反応層3を形成しているので、これらモノマーの蒸気圧を揃える必要がない。従って、用いるモノマーの種別に依らずに、高い重合度のポリイミド膜1を成膜出来る。
【0039】
更にまた、このように反応層3を積層してポリイミド膜1を形成しているので、後述の実施例から分かるように、150℃〜200℃程度といった極めて低い成膜温度でポリイミド膜1を成膜できる。そのため、220℃程度もの低温で剥離する仮止め材14を利用して既述の構造体を構成するプロセスに用いる絶縁膜として、以上説明したポリイミド膜1を適用できる。言い換えると、通常の手法でポリイミド膜を成膜しようとした場合には、当該ポリイミド膜の成膜温度(キュア温度:例えば300℃程度)に耐えられないデバイスであっても、本発明の手法ではポリイミド膜1を成膜できる。
【0040】
そして、ウエハW上においてモノマー同士の脱水縮合を行って反応層3を形成する時には、当該反応層3の下層側にはシリコン層(ウエハWの表面)が露出しているか(成膜初期)、あるいは既に別の反応層3が形成されている(成膜途中)。従って、脱水縮合がポリイミド膜1の膜厚方向に亘って一度に起こらずに、成膜処理中には最表面の反応層3にて脱水縮合が起こるので、ウエハWに応力が残ることを抑制できる。また、成膜温度が例えば150℃と低い場合において、第2のモノマーを供給した後に形成される反応層3に未反応の前駆体が残っていても、その後置換ガスを供給している間にこの反応層3の反応を進行させることができるので、絶縁性に優れたポリイミド膜1を形成できる。
【0041】
また、成膜処理を行う時の反応管32内のガス圧力について、既述の範囲内に設定しているので、アスペクト比の大きな凹部10が形成されていても、当該凹部10の内壁面に沿ってポリイミド膜1を成膜できる。従って、良好なバリア機能を持つポリイミド膜1を得ることができる。
そして、ウエハWにモノマーを真空蒸着してその後ウエハWをイミド化に必要な温度まで昇温させる手法に比べて、蒸着時の温度よりもかなり高い温度までプロセスの途中でウエハWを昇温させる必要がないので、既述のように低温で剥離する仮止め材14を利用するプロセスにポリイミド膜1を絶縁膜として適用できるし、また成膜プロセスを迅速に行うことができる。
【0042】
ポリイミド膜1を形成する縦型熱処理装置としては、既述の
図3に記載した構成以外にも、以下の
図15に示す構成であっても良い。具体的には、この装置では、各々のモノマー毎にガスインジェクター36が設けられている。第1の処理ガス(第1のモノマー)用のガスインジェクター36及び第2の処理ガス(第2のモノマー)用のガスインジェクター36に夫々「a」及び「b」の添え字を付すと、これらガスインジェクター36a、36bは、互いに隣接してウエハボート31の外周縁に沿うように横並びに配置されている。尚、
図15では、ガスインジェクター36a、36bのレイアウトを模式的に示している。また、
図15において、既述の
図3〜
図4の縦型熱処理装置と同じ部位については同じ符号を付して説明を省略する。
【0043】
ここで、既述の
図3〜
図4における装置と、
図15の装置とにおいて、
図16に示すように、ガスインジェクター36(36a、36b)が配置される部位における内管32b(反応管32)の内壁面を長さ方向に沿って外側に膨らませて、この膨らんだ部分にガスインジェクター36(36a、36b)を収納しても良い。このようにガスインジェクター36(36a、36b)を内管32bにいわば埋め込むことにより、ウエハWに対してガスインジェクター36(36a、36b)を近接させることができ、またウエハボート31の外周端と内管32bとの隙間領域から各処理ガスが排出されにくくなるので、処理の均一性を高めることができる。尚、
図16は、
図3〜
図4における内管32bを外側に膨らむように形成した例を示している。
【0044】
更に、既述の各装置ではウエハボート31の長さ方向に沿ってガスインジェクター36を配置してサイドフロー方式で処理ガスを供給したが、反応管32の下端位置から処理ガスを当該反応管32内に供給し、反応管32の上端側から排気するようにしても良い。
【0045】
更にまた、
図17は、ポリイミド膜1を成膜するための枚葉式の装置を示しており、処理容器61と、この処理容器61内においてウエハWを吸着保持するための載置台62とを備えている。処理容器61の天井面には、載置台62に対向するようにガスシャワーヘッド63が配置されており、このガスシャワーヘッド63の上面側には、第1の処理ガス及び第2の処理ガスを夫々供給するためのガス供給管48a、48bが各々接続されている。そして、ガスシャワーヘッド63の内部には、これら処理ガス同士が互いに混ざり合わずに処理容器61内に吐出されるようにガス流路63aが形成されている。
【0046】
図17中64は、ウエハWを加熱するために載置台62の内部に埋設されたヒーターであり、65は載置台62上のウエハWを下方側から持ち上げるための昇降ピンである。また、66はウエハWの搬送口である。尚、
図17では、既述の各装置と同じ構成の部位については同じ符号を付して説明を省略している。また、載置台62に設けられた静電チャックについては記載を省略している。
この装置においても、ポリイミド膜1が生成する温度に加熱されたウエハWに対して、第1の処理ガスと第2の処理ガスとが交互に供給されると共に、これら処理ガスを切り替える時には置換ガスによって処理容器61内の雰囲気が置換される。
【0047】
以上説明した非芳香族モノマーからなる第2のモノマーとしては、HMDAに代えて、
図18に示す化合物(H12MDA、H12MDAMe、H6XDA、DAD)を用いても良い。これら第2のモノマーのいずれの化合物についても、各々アミノ基が2つずつ形成されており、これらアミノ基間には非芳香族系の分子が介在していることから、絶縁性に優れている。この時、脂環族ジアミン(H12MDA、H12MDAMe、H6XDA)は、ポリウレタンの原料として用いられており、汎用性の高い化合物であるため、ポリイミド膜1を成膜するにあたって、既述のHMDAと同様にコストアップを抑えることができる。
【0048】
また、第1のモノマーとしては、以上説明したPMDAに代えて、
図19に示す化合物を用いても良い。
図19において、いずれの化合物についても既述の5員環からなる官能基が各々2つずつ形成されており、ベンゼンを含む芳香族モノマー(PMDA)と、ベンゼンを含まない非芳香族モノマー(CBDA、CPDA、CHDA、TBDA)とが挙げられる。非芳香族モノマーは、芳香族モノマーよりも比誘電率が低い(絶縁性に優れている)性質を持っている。
【0049】
ここで、以上の例では、第1のモノマーには芳香族モノマーを用いると共に、第2のモノマーには非芳香族モノマーを用いたが、第1のモノマー及び第2のモノマーとして、夫々非芳香族モノマー及び芳香族モノマーを用いても良い。この場合においても、同様に絶縁性に優れたポリイミド膜1が得られる。第1のモノマーとして非芳香族モノマーを用いる場合には、第2のモノマーとしては、
図20に示すように、4−4’−ODA、3−4’−ODA、NDA、DDSなどの芳香族モノマーを用いても良い。しかしながら、既述の電子供与(反応速度)の点からすると、第1のモノマー及び第2のモノマーとして夫々芳香族モノマー及び非芳香族モノマーを用いることが好ましい。
また、ポリイミド膜1について更に良好な絶縁性を確保するために、これら第1のモノマー及び第2のモノマーのいずれについても非芳香族モノマーを用いても良い。この場合には、第1のモノマー及び第2のモノマーの一方あるいは両方を芳香族モノマーを用いた場合と比べて、良好な絶縁性が得られる。
【0050】
以上述べた処理ガスを切り替える時に置換ガスを供給する時間tpとしては、短すぎると雰囲気の置換が不十分になるおそれがあり、一方長すぎるとスループットの低下に繋がってしまうことから、2秒〜10秒であることが好ましい。また、各処理ガスを供給する時間t1、t2としては、短すぎると処理(ポリイミド膜1の膜厚)が不均一になるおそれがあり、長すぎると処理ガスの滞留量が多くなりすぎて雰囲気を置換しにくくなることから、2秒〜5秒であることが好ましい。
【0051】
また、以上の例ではシーケンス重合法について説明したが、
図21に示すように、第1のモノマーと第2のモノマーとを互いに混合した混合ガスを用いて成膜処理を行っても良い。このような混合ガスを用いる場合には、例えば既述の
図3〜
図4の縦型熱処理装置において、ガスインジェクター36の下端部に対してガス供給管48a、48bから各々のモノマーが同時に供給され、当該ガスインジェクター36を介して混合ガスが反応管32内に吐出される。尚、混合ガスを用いた場合には、後述の実施例に示すように、均一な膜厚のポリイミド膜1を形成しにくいことから、既述のシーケンス重合法を用いる方が好ましい。
【実施例】
【0052】
(実験例1)
続いて、本発明について行った実験について説明する。始めに、シーケンス重合法によりポリイミド膜1を成膜する時における、成膜温度(ウエハ温度)と成膜レート及び膜厚の均一性との相関関係について説明する。具体的な実験としては、150℃〜200℃まで10℃刻みで成膜温度を変えると共に、各々の成膜温度にて成膜されたポリイミド膜1の成膜レート及び膜厚の均一性を測定した。その結果、
図22に示すように、150℃〜200℃までの温度範囲に亘って、既述のシーケンス重合法にてポリイミド膜1を成膜できることが分かった。
図23は、175℃及び190℃において夫々得られるポリイミド膜1の膜厚分布を示している。
【0053】
この時、180℃以下では成膜レート及び膜厚の均一性のいずれについても温度依存性がフラットとなっており、150℃もの低温でも良好にポリイミド膜1を形成できることが分かった。一方、180℃を越えるにつれて、成膜レート及び膜厚の均一性の双方について、悪化していた。この理由については、成膜温度が180℃を越えると、ウエハW上に一旦吸着したモノマーの成膜の飽和が崩れるためであると考えられる。従って、シーケンス重合法では、ポリイミド膜1を良好に得られる温度帯は150℃〜180℃であり、ポリイミド膜1の成膜可能温度範囲は150℃〜200℃であると言える。
【0054】
ここで、従来の溶液を介して成膜していた手法(室温でモノマーを塗布して、その後モノマーのイミド化に必要なキュア温度に昇温する手法)では、前記キュア温度としては300℃以上もの高温が必要となっていた。また、第1のモノマーと第2のモノマーとを気体状で混合して、この混合ガスを加熱されたウエハWに対して供給する蒸着重合法であっても、依然として成膜温度は200℃以上となっていた。そして、蒸着重合法では、成膜温度を200℃よりも低く設定すると、ポリイミドの形成率(生成したポリイミドの重量÷投入したモノマーの重量)が急激に低下し、例えば160℃では前記形成率は40%程度まで下がってしまう。一方、本発明のシーケンス重合法では200℃以下もの低温で成膜が可能であることから、既述のように、220℃以下の低温で剥離する仮止め材14を利用して複数のウエハW同士を積層するプロセスに対して、ポリイミド膜1を絶縁膜として適用出来ることが分かる。この時、シーケンス重合法では、成膜温度が150℃であっても、前記形成率が90%以上となっており、ウエハWにモノマーを一層分だけ飽和させることにより、ウエハWの表面において分子が動きやすい状態になっていると言える。
【0055】
(実験例2)
続いて、成膜温度を150℃〜170℃まで種々変えると共に、置換ガスを供給する時間tpについても各々の成膜温度において3秒、6秒及び10秒に各々設定して成膜処理を行い、その後成膜レート、被覆性、応力、リーク電流、耐薬品試験及びTDS(昇温脱離ガス分析)の測定を行った。尚、各々の処理ガスの供給時間t1、t2については各々の条件において2秒に設定した。また、「被覆性」とは、凹部10の下面におけるポリイミド膜1の膜厚を、凹部10の上面におけるポリイミド膜1の膜厚で除した割合を示しており、この値が大きい程、凹部10内に良好に成膜できていると言える。そして、TDSでは、成膜後のポリイミド膜1に含まれている水分を測定した。また、「耐薬品試験(:Chemical Resistance)」とは、ポリイミド膜1を成膜した後のウエハWを複数の薬品に暴露して、その前後における膜厚変動(((成膜後の膜厚−薬品への暴露後の膜厚)÷(成膜後の膜厚))×100(%))を示したものである。即ち、前駆体が薬品に溶解する一方、ポリイミド膜1が薬品に溶解しない(あるいは溶解しにくい)ので、この膜厚変動を評価することにより、イミド化の進行の度合いと共に薬品への耐性が分かる。
【0056】
始めに成膜レートと被覆性の相関について
図24に示すと、既述のように、いずれの条件においても、70%以上もの極めて高い被覆性となっていた。成膜レートや成膜温度と被覆性との相関関係は特に見られず、即ち置換ガスの供給時間tpを短く(3秒)しても、長く(10秒)しても、あるいは成膜温度を150℃〜170℃の範囲で変えても、被覆性への影響は確認されなかった。尚、
図24では、時間tpがある共通の条件にて得られた結果を一点鎖線で囲んでおり、「時間t1(t2)+時間tp」を併記している。
【0057】
次に、成膜レートとTDSの結果(ポリイミド膜1の含水量、純度)との相関関係を
図25に示すと、ポリイミド膜1に含まれる水の量(脱水縮合前の前駆体やモノマーの量)は、成膜温度が160℃以上の場合及び150℃において時間tpを10秒に設定した場合には極僅かとなっており、また成膜温度が高くなるにつれて、良好な結果となっていた。従って、この温度範囲内では、成膜温度が高くなる程、ポリイミド膜1の重合が進行しやすいことが分かった。また、置換ガスの供給時間tpが長くなる程、含水量が僅かに改善していた。この理由としては、後述の
図26にて説明するように、置換ガスを供給している時は、単に雰囲気の置換が行われるだけでなく、ウエハW上に前駆体がまだ残っている場合には、この前駆体からポリイミド膜1への生成が進行するためである。
【0058】
続いて、成膜レートとリーク電流との相関関係について、
図26を参照して説明する。先ず、供給時間tpが3秒の場合には、リーク電流は、成膜温度が高くなる程良好な結果となっていた。そして、供給時間tpが6秒の場合には、成膜温度が170℃の時の結果については供給時間tpが3秒の場合と同程度の結果となっていたが、成膜温度が150℃及び160℃の結果は、供給時間tpが3秒の場合よりも良好な値になっていた。従って、成膜温度が170℃の時には、供給時間tpが3秒であっても、ポリイミド膜1の形成が完了していると考えられる。一方、成膜温度が150℃及び160℃の時には、供給時間tpが3秒ではポリイミド膜1の形成が完了せず、前駆体が残っていると考えられる。また、成膜温度が150℃及び160℃の時の結果は、供給時間tpを10秒まで伸ばすと、更に改善されており、成膜温度が170℃の時の結果(供給時間tp:3秒、6秒)と同程度の値となっていた。
【0059】
以上の結果から、成膜温度が170℃の場合には、第2のモノマーを供給している間に、あるいはその後雰囲気を置換している間に、前駆体から反応層3への反応が速やかに起こるので、供給時間tpが短くてもポリイミド膜1内には水分がほとんど残らないと言える。一方、成膜温度が低くなってくると、第2のモノマーを供給している時間t2及び雰囲気を置換している供給時間tpだけでは反応が終了しにくくなる。言い換えると、成膜温度が170℃の場合には、反応層3の生成が完了するために必要な時間(以下「反応時間」と言う)は、5秒(2秒(時間t2)+3秒(供給時間tp))よりも短い。従って、成膜温度が170℃の場合には、供給時間tpが3秒と短くても、形成されるポリイミド膜1のリーク電流特性にはほとんど影響が見られない。しかし、成膜温度が低くなるにつれて、反応時間は、5秒よりも長くなっていく。そのため、良好な(低い)リーク電流値を得るためには、反応時間が長くなった分だけ、置換ガスの供給時間tpを長く取ることが好ましいと言える。
【0060】
以上説明した結果について、表1に纏めておくと、ポリイミド膜1に残る応力については、発生する応力を発散できているため、いずれの条件についても良好な値となっていた。また、耐薬品試験における膜厚変動については、成膜温度が160℃以上では良好な結果となっており、また成膜温度が150℃の場合には、160℃以上の成膜温度の結果と比べて大きな値を示していたが、時間tpが長くなる程良好な結果となっていた。
【0061】
(表1)
【0062】
(実験例3)
この実験例3では、置換ガスの供給時間tpを1秒、3秒、6秒及び10秒に夫々設定した時において、ポリイミド膜1の膜厚の均一性を各々評価しており、以下の実験条件において成膜処理を行った。尚、モノマーを混合した混合ガスを用いて成膜処理を行った場合についても、同様に参考例として評価を行った。
【0063】
(成膜条件)
モノマー:PMDA、HMDA
各処理ガスの供給量:10sccm
パージガスの供給量:100sccm
ウエハWの加熱温度:150℃
処理圧力:26.67Pa(0.2Torr)
時間t1、t2:各々2秒
ガス供給方式:サイドフロー方式
サイクル数:100回
【0064】
その結果、
図27及び表2に示すように、参考例では、ガス流れの上流側(右側)においてガスが速やかに消費されて300nm以上もの厚膜となり、一方ガス流れの下流側(左側)にはモノマーがほとんど供給されずに2nmといった極めて薄い膜となっていた。
【0065】
(表2)
【0066】
これに対して本発明のシーケンス重合法では、いずれの条件においても膜厚の均一性の高いポリイミド膜1が形成されていることが分かった。そして、供給時間tpを長くする程、即ち雰囲気中に含まれる処理ガスが少なくなる程、膜厚の均一性は向上していた。尚、
図27において、供給時間tpが6秒及び10秒の結果については、膜厚の均一性が極めて高いため、膜厚が薄い領域について、他の結果よりも拡大して(膜厚のレンジを狭くして)描画している。
【0067】
(実験例4)
続いて、各モノマーの供給量(供給速度)と、
図28に示す成膜量(膜厚)に基づいて算出した成膜レートとの相関関係を確認したところ、表3及び表4に示すように、成膜レートは、各モノマーの供給量に依らずに、ほぼ同程度の値をとることが分かった。具体的には、各々のモノマーの供給量を10sccmから15sccmに増やした場合には、この供給量の増加割合は150%となるが、成膜レートの増加割合は、7.1%あるいは11%に留まっていた。従って、本発明のシーケンス重合法では、ウエハWの表面への第1のモノマーの吸着が飽和するので、各サイクルにおいて吸着層2の膜厚がほぼ一定の値となり、またこの吸着層2の膜厚分だけ反応層3が生成するので、各サイクルにおいて反応層3の膜厚がほぼ一定の値となることが分かる。言い換えると、シーケンス重合法では、モノマーの供給量をそれ程高く制御しなくても良いことが分かる。モノマー同士を混合した混合ガスを用いて成膜処理を行った場合と比べて、ガスの供給量に対する成膜レートの変化量は、本発明のシーケンス重合法では1/10程度となっていた。尚、2つのモノマーのうち一方のモノマーの供給量を変化させる時には、他方のモノマーの供給量はある値に固定している。
【0068】
(表3)
(表4)
【0069】
(実験例5)
また、本発明のシーケンス重合法において、ウエハWの加熱温度(成膜温度)がポリイミド膜1の膜厚に及ぼす影響を確認した。ウエハWの加熱温度としては、140℃、150℃及び160℃に設定すると共に、他の成膜条件は以下のように設定した。
【0070】
(成膜条件)
モノマー:PMDA、HMDA
各処理ガスの供給量:10sccm
窒素ガスの供給量(キャリアガス及び置換ガス):100sccm
時間t1、t2:各々2秒
供給時間tp:3秒
ガス供給方式:サイドフロー方式
【0071】
その結果、
図29に示すように、ポリイミド膜1の平均膜厚は、ウエハWの加熱温度に依らずに、ほぼ一定の値となっていた。この実験で得られた膜厚の分布及び測定結果を夫々
図30及び表5に示す。尚、
図29では、横軸を温度(K)の逆数としている。
【0072】
(表5)
【0073】
また、本発明と参考例とにおいて、ウエハWの加熱温度のばらつきに対して膜厚がどの程度ばらつくかを求めた。具体的には、モノマーの種類や処理条件などを揃えて各々ポリイミド膜を成膜したところ、表6に示すように、本発明では、ウエハWの加熱温度のばらつきに対して、膜厚のばらつきは極めて小さかった。一方、混合ガスを用いた参考例(プリミックス)では、ウエハWの加熱温度のばらつきに対する膜厚の変動量が大きくなっていた。従って、本発明のシーケンス重合法では、参考例と比べて、ウエハWの加熱温度をそれ程厳密に調整しなくても均一性の高いポリイミド膜1を形成でき、そのため例えば装置構成についても簡略化できることが分かる。
(表6)