(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記材料(11)により前記イオン性液体(10)と前記水(9a)とを隔てた状態となるように、前記イオン性液体(10)と前記水(9a)とを同一または異なる容器(7、9、14、15、16、17)に収容し、
前記イオン性液体(10)に接するように作用電極(3)を設けるとともに、前記水(9a)に接するように対電極(2)を設け、
前記作用電極(3)と前記対電極(2)との間に所定電位を印加することにより、前記材料(11)で隔てた前記イオン性液体(10)と前記水(9a)との間に所定電位を印加することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のアンモニア製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニアはHaber-Bosch 法により工業レベルで広く製造されている。Haber-Bosch 法は窒素ガスと水素ガスからアンモニアを得る方法であり、鉄触媒の表面で窒素分子の結合を開裂させて窒素原子を生成し、同様に開裂した水素原子と反応させてアンモニアを得ている。窒素分子は非常に安定で、反応性に乏しいため、600〜800 K、300〜500 atm程度の高温、高圧を必要とする。そのために多くのエネルギーを消費している。また原料としている水素ガスは、メタンの水蒸気改質により生産されているため、地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素の排出も問題となっている。省エネルギーかつ環境に優しいプロセスの構築がもとめられており、穏和な条件で窒素分子を窒素化合物へ変換する新規触媒の開発が求められている。
【0003】
水素ガス以外に水素源として、アルコールなどのプロトン性有機溶媒や水が考えられる。特に無尽蔵に存在する水から水素を手に入れることが望ましい。また、Haber-Bosch 法などで利用されるような無機材料では穏和な条件での還元を行うのは困難であり、異なる触媒を選択する必要がある。
【0004】
安価に合成されるメタロセン錯体は古くから窒素分子を固定化することが知られており、同様に有機溶媒中において電気化学的に窒素分子をアンモニアへと変換することが報告されている。非特許文献1ではチタノセンジクロリドを用いてアンモニアの合成に成功している。しかし、アンモニアの収率は低く、電気量に対して0.28 %である。
【0005】
また、非特許文献2、3には、次の反応について記載されている。メタロセン錯体である、チタノセンジクロリド(Cp
2TiCl
2)は系中に一定の電位(-0.93 V vs Fc/Fc
+in THF)が印加されると次式で示されるような反応を起こす。
【0006】
【化1】
【0007】
さらに負の電位(-2.22 V vs Fc/Fc
+ in THF)が印加されると次式で示されるような反応を起こす。
【0008】
【化2】
【0009】
前式で生成した[Cp
2Ti]は不安定であり、複数の反応性を有するが、次式で示されるように窒素分子と反応し、窒素錯体を形成後、水由来のプロトンと、電子が供給されることにより、アンモニアへと変換される。
【0010】
【化3】
【0011】
また、非特許文献4には、イオン性液体の一例である1−メチルピロリジウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの合成方法が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1の反応効率の低さの原因として、プロトン源は水やメタノールなどの溶媒であるが、これら溶媒自身の還元が優先されるためではないかと考えられる。
【0014】
これに対して、本発明者らは、メタロセン錯体を触媒として用いて電気化学的に窒素分子をアンモニアに変換する際に、イオン性液体をメタロセン錯体の溶媒として用いることで、非特許文献1に記載の従来の方法よりも反応効率を向上できる発明について、特許出願している(特願2011−47955号公報参照)。
【0015】
ここで、この発明に用いられるアンモニア製造装置の一例を
図5に示す。この製造装置はガラス反応容器J9内の下方に配置され、メタロセン錯体を溶解したイオン性液体が表面上に固定化された作用電極J3と、反応容器J9の内部に配置された参照電極J1および対電極J2とを備える。作用電極J3は、メタロセン錯体に電位を印加するための電極である。それぞれの電極J1、J2、J3は電源となる、CV測定装置J4へ接続されている。また、反応容器J9内は水(水溶液)J9aで満たされ、窒素ガスボンベJ8から窒素ガスがガラス管より適宜提供されることにより、反応容器J9内は窒素ガス雰囲気下となる。
【0016】
上記の作用電極J3の一例を
図6に示す。ガラス板20の上に金電極21が形成されており、その上にメタロセン錯体を溶解したイオン性液体22が固定化されている。アルミホイル23はイオン性液体22との接触を避け、金電極21と導通がとれるように、中心部分が切り取られて開口部23aが形成されており、この開口部23aにイオン性液体22が配置される。そして、反応容器J9の底部に設けられた開口部J91にイオン性液体22が位置するように、反応容器J9の底部とこの作用電極J3が固定される。
【0017】
そして、このような製造装置において、作用電極J3と対電極J2との間に水を介して所定電位を印加することにより、イオン性液体に溶解しているメタロセン錯体が還元されることで、窒素分子と反応及び窒素分子の活性化を引き起こし、水由来のプロトンと反応することでアンモニアを生成することができる。
【0018】
これによれば、作用電極J3(金電極21)と水J9aとの間にイオン性液体22が介在しているので、イオン性液体によって作用電極と水分子との接触を防ぐことができ、水自体の還元を防ぐことができる。この結果、窒素分子を電気量に対して高い効率で変換することができる。
【0019】
しかしながら、このような製造装置を用いて、アンモニアを製造したところ、反応効率の向上はみられたものの、メタロセン錯体の分解が起きており、触媒の耐久性が低いことがわかった。
【0020】
これは、作用電極と水分子との接触はイオン性液体により防がれているが、イオン性液体と水との接触界面において、メタロセン錯体が水と接触しているために、徐々にメタロセン錯体の分解(加水分解)が進行したものと考えられる。この分解を防ぐことができれば、反応効率および触媒耐久性の飛躍的な向上が期待できる。
【0021】
そこで、本発明では、従来の方法よりも反応効率を向上できるとともに、触媒耐久性の高いアンモニア製造方法およびアンモニア製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、イオン性液体に溶解させたメタロセン錯体が、完全に水と接触することがないように、陽イオン交換膜等によってイオン性液体と水とを隔てることで、イオン性液体に溶解させたメタロセン錯体の水との接触による分解が抑えられることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
すなわち、請求項1に記載の発明は、1種類以上のメタロセン錯体を溶かしたイオン性液体を用いて、電気化学的に窒素ガスと水から、常温常圧下でアンモニアを合成する方法であって、水分子を透過せず、水素イオン(プロトン)を透過する材料(11)によって、イオン性液体(10)と水(9a)とを隔てた状態で、イオン性液体(10)中で窒素ガスバブリングを行いながら、イオン性液体(10)と水(9a)との間に所定電位を印加することで、電気化学的にアンモニアを得ることを特徴とする。
【0024】
本発明で利用するイオン性液体は室温で溶液であり、不揮発性である。また、支持電解質を加えずに電流を流すことができ、また電位窓は広く、上記のメタロセン錯体を還元する電位においても電気化学的に安定である。
【0025】
また、水分子を透過せず、水素イオンを透過する材料としては、例えば、請求項5に記載のように、陽イオン交換膜(11)を用いることができる。イオン交換膜は、イオン交換樹脂を膜状に成形したものであり、イオンは異符号のイオンおよび水分子の透過を阻止し、同符号のイオンのみを透過させる性質をもつ。
【0026】
よって、本発明のように、水分子を透過せず、水素イオンを透過する材料によって、メタロセン錯体を溶かしたイオン性液体とプロトン源として用いる水とを隔てることにより、水とメタロセン錯体の接触を防ぎつつ、アンモニア製造(合成)に必要なプロトンのみをメタロセン錯体に供給することができる。
【0027】
つまり、本発明のアンモニア製造方法は、任意の電位を印加することにより、イオン性液体に溶解しているメタロセン錯体を還元させて、窒素分子と反応及び窒素分子の活性化を引き起こすとともに、水由来のプロトンをメタロセン錯体に移動させる。これにより、窒素分子と水由来のプロトンとを反応させることでアンモニアを生成するものである。
【0028】
このとき、本発明によれば、イオン性液体を用いるとともに、水分子を透過せず、水素イオンを透過する材料を用いることによって、メタロセン錯体に電位を印加するための作用電極と水との接触を回避できるため、水素発生を避けることができ、さらに、メタロセン錯体と水との接触を回避できるため、メタロセン錯体の分解を防ぐことができる。そのため、水素源として溶媒(水)のプロトンを利用した場合にも高い反応効率を達成することが可能となる。
【0029】
具体的には、請求項2に記載のように、イオン性液体(10)として、一般式(I)としてC
+A
-(C
+は陽イオン、A
-は陰イオン)で表されるとともに、100℃未満で液体状態の塩であり、
前記C
+は一般式(II)、(III)、(IV)、(V)および(VI)から選択されるものを用いることができる。
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、R
1、R
2、R
3、およびR
4はそれぞれ同一または異なり、水素原子および炭素数1〜30の炭化水素基から選択されるいずれかであり得る。また、炭化水素基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよく、炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。加えて、各式中のRのそれぞれが互いに直接結合し、環状構造を有していてもよい。)
また、請求項3に記載のように、例えば、一般式(I)のA
-を、Cl
-、Br
-、I
-、BF
4-、BF
3C
2F
5-、PF
6-、NO
3-、CF
3CO
2-、CF
3SO
3-、(CF
3SO
2)
2N
-、(FSO
2)
2N
-、(CN)
2N
-、(CF
3SO
2)
3C
-、(C
2F
5SO
2)
2N
-、AlCl
4-、およびAl
2Cl
7-から選択されるものとすることができる。
【0032】
また、請求項4に記載のように、メタロセン錯体として、一般式(VII)で表されものを用いることができる。
【0033】
【化5】
【0034】
(式中、MはTi(IV)、Zr(IV)、またはHf(IV)の金属イオンであり、X
1およびX
2は同一または異なり、配位性を有する陰イオンである。)
また、請求項6に記載のように、陽イオン交換膜(11)として、一般式(VIII)で表されものを用いることができる。
【0035】
【化6】
【0036】
(式中、x、y、zおよびnは、任意の値である。)
また、請求項1に記載の発明においては、例えば、請求項7に記載の発明のように、
前記材料(11)によりイオン性液体(10)と水(9a)とを隔てた状態となるように、イオン性液体(10)と水(9a)とを同一または異なる容器(7、9、14、15、16、17)に収容し、イオン性液体(10)に接するように作用電極(3)を設けるとともに、水(9a)に接するように対電極(2)を設け、作用電極(3)と対電極(2)との間に所定電位を印加することにより、前記材料(11)で隔てたイオン性液体(10)と水(9a)との間に所定電位を印加する方法を採用できる。
【0037】
上記した発明のアンモニア製造方法によれば、作用電極の形状を
図6のような形状とする必要が無く、任意の形状の作用電極を用いることができる。すなわち、作用電極の形状の設計自由度を高められる。
【0038】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載のアンモニア製造方法の実施に用いられるアンモニア製造装置であり、
水分子を透過せず、水素イオンを透過する材料(11)と、材料(11)によりイオン性液体(10)と水(9a)とを隔てた状態として、イオン性液体(10)と水(9a)とを収容する同一または異なる容器(7、9、14、15、16、17)と、
イオン性液体(10)中に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段(6、8)と、
イオン性液体(10)に接する作用電極(3)と、
水(9a)に接する対電極(2)とを備え、
作用電極(3)と対電極(2)との間に所定電位を印加できる構成であることを特徴とする。
【0039】
これによれば、上述のアンモニア製造方法の発明を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0042】
ここに開示されるアンモニア製造方法は、1種類以上のメタロセン錯体を溶かしたイオン性液体を触媒として用いて、電気化学的に窒素ガスと水から、常温常圧下でアンモニアを製造する方法であって、陽イオン交換膜によって、イオン性液体と水とを隔てた状態で、イオン性液体中で窒素ガスバブリングを行いながら、イオン性液体と水との間に所定電位を印加することで、電気化学的にアンモニアを得るものである。なお、所定電位とは、メタロセン錯体を還元できる電位である。
【0043】
イオン性液体は、一般式(I)としてC
+A
-で表される(C
+は陽イオンであり、A
-は陰イオン)ものであって、100℃未満で液体状態の塩である。イオン性液体としては、特に、室温で液体状態にあるものを用いることが好ましい。
【0044】
陽イオンC
+としては、一般式(II)で表される第4級アンモニウムを用いることができる。
【0046】
式中のR
1、R
2、R
3、およびR
4は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R
1、R
2、R
3、およびR
4としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。また、R
1、R
2、R
3、およびR
4のそれぞれが互いに直接結合し、環状構造を有してもよい。例えばピロリジニウム、ピペリジニウム等をあげることができる。
【0047】
また、陽イオンC
+としては、一般式(III)で表される第4級ホスホニウムを用いることができる。
【0049】
式中のR
1、R
2、R
3、およびR
4は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R
1、R
2、R
3、およびR
4としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。また、R
1、R
2、R
3、およびR
4のそれぞれが互いに直接結合し、環状構造を有してもよい。例えばホスホラニウム、ホスフィナニウム等をあげることができる。
【0050】
また、陽イオンC
+としては、一般式(IV)で表される第3級スルホニウムを用いることができる。
【0052】
式中のR
1、R
2、およびR
3は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R
1、R
2、およびR
3としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。また、R
1、R
2およびR
3のそれぞれが互いに直接結合し、環状構造を有してもよい。例えばテトラヒドロチオフェニウム、ヘキサヒドロチオピリジニウム等をあげることができる。
【0053】
また、陽イオンC
+としては、一般式(V)で表されるイミダゾリウムを用いることができる。
【0055】
式中のR
1、R
2、およびR
3は同一または異なり、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R
1、R
2、およびR
3としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。また、R
1、R
2およびR
3のそれぞれが互いに直接結合し、環状構造を有してもよい。
【0056】
また、陽イオンC
+としては、一般式(VI)で表されるピリジニウムを用いることができる。
【0058】
式中のR
1は、水素または1〜30個の炭化水素基を有する。R
1としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基を挙げることができる。また、これらアルキル基の水素原子は任意の数だけ置換されていてもよい。例えばトリフルオロメチル基等を挙げることができる。炭化水素は任意の数だけ酸素原子や硫黄原子に置換されていてもよい。例えば2-メトキシエチル基等を挙げることができる。
【0059】
また、陰イオンA
-としては、例えば、Cl
-、Br
-、I
-、BF
4-、BF
3C
2F
5-、PF
6-、NO
3-、CF
3CO
2-、CF
3SO
3-、(CF
3SO
2)
2N
-、(FSO
2)
2N
-、(CN)
2N
-、(CF
3SO
2)
3C
-、(C
2F
5SO
2)
2N
-、AlCl
4-、およびAl
2Cl
7-から選択されるものを用いることができる。
【0060】
メタロセン錯体は一般式(VII)で表されものである。
【0062】
式中のMは4価の金属イオンであり、Ti(IV)、Zr(IV)、またはHf(IV)のいずれかであり、式中のX
1およびX
2は同一または異なり、配位性を有する陰イオンである。陰イオンは、Cl
-、Br
-、I
-、CH
3-、またはOH
-であることが好ましく、Cl
-であることがより好ましい。
【0063】
また、メタロセン錯体は、1種類または2種類以上用いることができる。2種類以上のメタロセン錯体としては、例えば、Cp
2TiX
1X
2とCp
2ZrX
1X
2の組み合わせが好ましい。これは、上述の化1〜化3に示す反応過程において生成した活性窒素は他の種々メタロセン錯体Cp
2MX
1X
2と反応し、チタノセン錯体よりも穏和な条件で還元されることが知られており、そのチタノセン錯体のみでなく、複数の金属を用いることで相乗効果が見込まれるからである。
【0064】
なお、本発明の効果が得られれば、メタロセン錯体は一般式(VII)で表されるものに限らない。
【0065】
陽イオン交換膜は一般式(VIII)で表されものである。
【0067】
式中のx、y、zおよびnは任意の値である。
【0068】
なお、本発明の効果が得られれば、陽イオン交換膜は一般式(VIII)で表されるものに限らない。
【0069】
ここに開示される技術を適応したアンモニア製造装置の一実施形態を
図1に示す。この製造装置はガラス反応容器9内に配置され、メタロセン錯体を溶解したイオン性液体10および作用電極3を有する作用電極セル7と、反応容器9の内部に配置された参照電極1および対電極2とを備える。それぞれの電極1、2、3は電源となる、CV測定装置4へ適当に接続されている。反応容器9内は水(水溶液)9aで満たされており、作用電極セル7の底部が水9aに浸漬される。参照電極1および対電極2は、水9aに浸漬されることにより、水9aに接している。作用電極3は、イオン性液体10に浸漬されることにより、イオン性液体10に接している。
【0070】
また、窒素ガスボンベ8から窒素ガスが金属管6よりイオン性液体10中に適宜提供されることにより(窒素ガスバブリング)、作用電極セル7内は窒素ガス雰囲気下となる。なお、窒素ガスボンベ8および金属管6が窒素ガス供給手段に相当する。
【0071】
上記の作用電極セル7の一実施形態を
図2に示す。イオン交換膜11が円筒形である作用電極セル7の底部を覆うように配置されている。作用電極セル7の外部にイオン性液体10が流出しないように、陽イオン交換膜11がシールテープ12で覆われて固定され、さらに、これらがOリング13により固定されている。陽イオン交換膜11としては、例えば、Nafion(登録商標)
NR-212が採用可能である。
なお、作用電極セル7の上部は、窒素ガス以外のガスの流入を防止するために、ゴム製キャップ5により塞がれている。
【0072】
このような作用電極セル7を用いて、作用電極3と対電極2との間に所定電位を印加することにより、陽イオン交換膜11で隔てたイオン性液体10と水9aとの間に所定電位を印加することができる。
【0073】
ここで、本実施形態において参照電極1、対電極2および作用電極3に用いる電極は、通電する材料である限り、特に限定されない。当該電極の材料および厚さについては、当業者が最適な条件を適宜選択することが可能である。主な例として、ガラス状炭素、白金を例示できる。
【0074】
また、特に制限するものではないが、上記の金属錯体はイオン性液体に十分溶解していることが望ましい。
(他の実施形態)
(1)上述の実施形態では、反応容器9と作用電極セル7という異なる容器を用意し、一方の容器である反応容器9に水9aを収容し、他方の容器である作用電極セル7にイオン性液体を収容するとともに、作用電極セル7の底部を陽イオン交換膜11で構成し、作用電極セル7の底部を水9aに浸漬させた。
【0075】
これに対して、
図3に示すように、一方の容器14に水9aを収容し、他方の容器15にイオン性液体10を収容し、一方の容器14と他方の容器15とを連通する連通部16を設け、この連通部16の内部に陽イオン交換膜11を設けても良い。このように、陽イオン交換膜によってイオン性液体と水とを隔てた状態で、イオン性液体と水とを異なる容器に収容することもできる。
【0076】
また、陽イオン交換膜11によって内部が2つの槽に隔てられた1つの容器17を用意し、それぞれの槽に水9aとイオン性液体10とを収容しても良い。このように、陽イオン交換膜によってイオン性液体と水とを隔てた状態であれば、イオン性液体と水とを同一容器に収容しても良い。
【0077】
(2)
図5に示すアンモニア製造装置に対しても、本発明の適用が可能である。例えば、
図6に示す作用電極J3において、イオン性液体22の表面上に陽イオン交換膜が位置するように、反応容器J9の底部に設けられた開口部J91を陽イオン交換膜で覆うことで、イオン性液体22と水J9aとを隔てることができる。
【0078】
(3)上述の実施形態では、陽イオン交換膜を用いていたが、膜よりも厚い形状の陽イオン交換樹脂を用いても良い。さらに、陽イオン交換樹脂に限らず、水分子を透過せず、水素イオンを透過する材料であれば、他の材料を用いても良い。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
以下、本発明を具体的に説明するか、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下の例において、全ての試薬及び溶媒は、和光純薬工業、東京化成工業、シグマアルドリッチから購入したものをそのまままたは蒸留した後使用した。ミリQ水はMillipore Milli-Q biocel Aにより得た。
【0080】
測定条件
[
1H-NMR測定]
測定はVarian社製Mercury 300 MHzフーリエ変換核磁気共鳴装置を使用した。ケミカルシフトの基準物質にはTMSを用いた。測定には内径5 mmのサンプルチューブを用い、チューブ内に任意の重溶媒の試料溶液を入れて行った。
[IRスペクトル測定]
測定装置はJASCO社製フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-410を使用した。測定領域は波数 400-4000 cm
-1に設定した。測定には、サンプルをメノウ乳鉢上でKBrに対して1.5-2.0 % wtになるように混合粉砕した後、円筒型金属製セルに3 mg程度充填したものをプレス機で作成した薄膜を用いた。ベースライン測定には同様に準備したKBr薄膜を用いた。
[イオン性液体の合成]
本実施例では下記式(X)で表されるイオン性液体を合成した。
【0081】
まず、以下の操作により、下記式(IX)で表される1−ブチル、1−メチルピロリジニウムヨージド(P
14I)を合成した。
【0082】
以下の操作は窒素雰囲気下および遮光条件下で行った。100 mLの三ツ口フラスコを用いて、アセトニトリル 9.00 mLに1−メチルピロリジン 6.00 mL (56.4 mmol)および1−ヨードブタン 8.00 mL (70.4 mmol)を加え、70 °Cで一晩撹拌すると透明な琥珀色の溶液が得られた。この溶液を濃縮したところ、白色と褐色と淡黄色の固体が析出した。得られた固体を、ジエチルエーテルを用いて2回洗浄することでオレンジ色の固体に少量の琥珀色の固体混ざった化合物が得られた。その後、6時間真空乾燥すると黄色の粉末が15.5 g が得られた。この黄色の粉末 8.20 gを2−プロパノール/酢酸エチル(1:3)の混合溶媒で再結晶を行うことで白色の粉末6.63 gを得た。
1H-NMR (D
2O,
300 MHz): δ 0.88 (t, 3H, J = 7.43 Hz, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 1.32 (sextuplet, 2H, J = 7.43 Hz , CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 1.71 (m, 2H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4), 2.15 (m, 4H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 2.97 (s, 3H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 3.25 (m, 2H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 3.43 (m, 4H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4)
【0083】
【化14】
【0084】
続いて、以下の操作により、下記式(X)で表される1−ブチル、1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(P
14NTf
2)を合成した。
【0085】
以下の操作は窒素雰囲気下で行った。100 mLのナスフラスコを用いて、水 10 mLにリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド
7.10 g (24.5 mmol) 溶かして無色の水溶液を得た。その後、1-ブチル、1-メチルピロリジニウムヨージド 6.58 g (24.5 mmol) を溶かした水 10 mLを加えて撹拌すると白濁した水相と薄い黄色の有機相に分かれた。3時間撹拌した後パスツールピペットを用いて水で2回抽出し、6時間真空乾燥することで薄い黄色の溶液9.02 gを得た。
1H-NMR (δ/ppm vs. TMS in CDCl
3 from 300 MHz): δ 0.99 (t, 3H, J = 7.43 Hz, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 1.42 (sextuplet, 2H, J = 7.43 Hz, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 1.75 (m, 2H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4), 2.26 (m, 4H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 3.05 (s, 3H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 3.32 (m, 2H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4), 3.45 (m, 4H, CH
3CH
2CH
2CH
2N
+(CH
3)C
2H
4C
2H
4),
FT-IR(KBr, cm
-1) : ν = 2963, 2935, 2874 (Alkyl C-H), δ = 1462 (Alkyl C-C), ν = 1359, 1133 (-SO
3), ν= 1181, 1053 (C-F), ν = 1007 (C-N),
【0086】
【化15】
【0087】
[定電位測定]
測定装置にはBAS社製Electrochemical Analyzer Model 600Cを使用した。測定は三電極計で行い、作用電極3にはガラス状炭素、参照電極1にはAg/AgCl (3 M NaCl)電極を、対電極2にはガラス状炭素を用いた。測定前に約10分間N
2バブリングを行うことで溶存酸素を除去した。
【0088】
図1に示す作用電極セル7を用いて、0.1 M LiClO
4水溶液中において任意の時間、定電位測定を行った。測定中は窒素ガスを電極に泡が直接触れないようにイオン性液体中に直接バブリングした。生成したアンモニアは0.5 M H
2SO
4水溶液でトラップした。
[アンモニア定量方法]
生成したアンモニアの定量はインドフェノール法を用いて行った。インドフェノール法の操作を以下に示す。サンプル液を100倍に希釈した後、10 mlに呈色液A(フェノール5 gおよびNa
2[Fe(CN)
5(NO)]2H
2O 25 mgをミリQ水に加えて500 mlとしたもの)を20 ml加えて軽く混ぜた後、呈色液B(NaOH 2.5 gおよびNaClO 4.2 mlをミリQ水に加えて500 mlとしたもの)を20 ml加えて混ぜた。室温で30分以上静置したあと、その溶液の635 nmでの吸光度を測定した。その吸光度でもってアンモニアの定量を行った。なお、吸光度の測定はJASCO社製紫外吸光分析計V-530またはV-570を用いて行った。
[アンモニア生成実験]
図1に示すアンモニア製造装置を用いて、アンモニアを生成した。このとき、陽イオン交換膜11として、Nafion(登録商標)
NR-212を用いた。また、Cp
2TiCl
25.8 mg (2.2 × 10
-5 mol)をP
14NTF
25.5 g (1.3 × 10
-2 mol)に溶かしたイオン性液体溶液(5.4 mM)および、0.1 M LiClO
4水溶液を用いて、-2.8 Vで1日間定電位測定を行った。反応後、得られたアンモニア溶液を用いて含有アンモニア量をインドフェノール法によって定量した。その結果、含有アンモニア量は2.1 × 10
-4 molであったことから、合計2.1 × 10
-6 molのアンモニアが生成したことになる。この結果から、本実施例の電気量の変換効率は0.97 %であり、上述の非特許文献1の電気量の変換効率は0.28%であったことから、アンモニアへの変換効率は飛躍的に向上させることができた。
【0089】
なお、本実施例では、陽イオン交換膜によって、メタロセン錯体と水との接触を回避しているので、評価結果を示すまでもなく、触媒耐久性は向上していると言える。
(比較例1)
メタロセン錯体溶解していないイオン性液体P
14NTf
2を用いて、上記実施例1と同様にアンモニア生成実験を行った。その結果、含有アンモニア量は1.0 × 10
-7 mol程度であったことから、電気量の変換効率は0.1 %程度であった。
【0090】
このように、実施例1と異なり、メタロセン錯体が溶解していないイオン性液体を用いたところ、アンモニアをほとんど検出することができなかった。メタロセン錯体がアンモニアの生成に重要な役割を果たしていると考えられる。